(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】熱プレス用クッション材および熱プレス用クッション材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 43/32 20060101AFI20220913BHJP
B29C 70/68 20060101ALI20220913BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20220913BHJP
B30B 15/02 20060101ALI20220913BHJP
B29C 70/30 20060101ALI20220913BHJP
B30B 15/34 20060101ALN20220913BHJP
【FI】
B29C43/32
B29C70/68
B32B27/12
B30B15/02 E
B29C70/30
B30B15/34 A
(21)【出願番号】P 2018190649
(22)【出願日】2018-10-09
【審査請求日】2021-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000114710
【氏名又は名称】ヤマウチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 晃
(72)【発明者】
【氏名】河野 秀平
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-211472(JP,A)
【文献】特開2016-010945(JP,A)
【文献】特開2017-185706(JP,A)
【文献】特開2016-168845(JP,A)
【文献】特開2013-132889(JP,A)
【文献】特開平08-090577(JP,A)
【文献】特開2004-167727(JP,A)
【文献】特開2004-243728(JP,A)
【文献】特開2013-001110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00 - 43/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状形態のクッション材本体と、
前記クッション材本体の表面および裏面に設けられる表面材とを備え、
前記表面材は、不織構造の耐熱繊維材料から形成されるコア層と、前記コア層の表面全体を覆う表面樹脂層とを含み、
前記コア層は、通気度が5cm
3・cm
-2・s
-1以下であり、嵩密度が0.8g/cm
3以上である、熱プレス用クッション材。
【請求項2】
前記コア層は、有機繊維からなる、請求項1に記載の熱プレス用クッション材。
【請求項3】
前記表面樹脂層は、前記耐熱繊維材料の繊維の凹凸が表れる程度の薄膜とされている、請求項1または2に記載の熱プレス用クッション材。
【請求項4】
前記表面材は、前記コア層の裏面全体を覆う裏面ゴム層をさらに含み、
前記クッション材本体と前記表面材は、前記裏面ゴム層を介して接着されている、請求項1~3のいずれかに記載の熱プレス用クッション材。
【請求項5】
前記表面樹脂層は、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、PTFEおよびPEEKからなる群から選択された少なくとも1つの樹脂を含む、請求項1~4のいずれかに記載の熱プレス用クッション材。
【請求項6】
前記表面樹脂層には、導電性充填剤を含む、請求項1~5のいずれかに記載の熱プレス用クッション材。
【請求項7】
板状形態のクッション材本体と、
前記クッション材本体の表面および裏面に設けられた表面材とを備えた熱プレス用クッション材の製造方法において、
前記表面材の製造工程は、不織構造の耐熱繊維材料から形成されるコア層を、通気度が5cm
3・cm
-2・s
-1以下、嵩密度が0.8g/cm
3以上となるように加熱加圧処理する工程と、
前記コア層の前記耐熱繊維材料の繊維の凹凸が表れる程度の薄膜となるように、表面樹脂層で前記コア層の表面全体を覆う工程とを備え、
熱プレス用クッション材の製造工程は、前記表面材を前記クッション材本体に貼り付ける工程を備える、熱プレス用クッション材の製造方法。
【請求項8】
前記表面材を加熱加圧処理する工程は、カレンダー処理または熱プレス処理である、請求項7に記載の熱プレス用クッション材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱プレス用クッション材に関する。さらに詳しくは、この発明は、銅張積層板、フレキシブルプリント基板、多層板等のプリント基板や、ICカード、液晶表示板、セラミックス積層板などの精密機器部品(以下、本発明において「積層板」と称する)を製造する工程で、対象製品をプレス成形や熱圧着する際に使用される熱プレス用クッション材および熱プレス用クッション材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント基板等の積層板の製造において、プレス成形や熱圧着の工程では、
図16に示すようにプレス対象製品である積層板52を、加熱・加圧手段としての熱盤51の間に挟み込み、一定の圧力と熱をかける方法が用いられる。精度の良い成形品を得るためには、熱プレスにおいて、積層板52に加えられる熱と圧力を全面に亘って均一化する必要がある。このような目的で、熱盤51と積層板52との間に平板状のクッション材1を介在させた状態で熱プレスが行なわれる。なお、積層板52とクッション材1との間には、鏡面板53が介在している。
【0003】
ここで、クッション材1に要求される一般特性としては、熱盤51や積層板52の持つ凹凸を吸収するクッション性、プレス面内全体に亘って熱盤51から積層板52に温度と圧力とを均一に伝達するための面内均一性、熱盤51から積層板52に効率良く熱を伝達するための熱伝達性、プレス温度に耐えうる耐熱性等が挙げられる。
【0004】
一般的に、熱プレス用クッション材は、繊維を含む板状形態のクッション材本体と、クッション材本体の上下の最表面に位置する表層とを備える。このような技術が特許文献1(特開2014-87999号公報)に開示されている。特許文献1には、表層は、熱プレス用クッション材に主として離型性を付与するために設けられ、表層の材料として、合成樹脂フィルムや、離型性樹脂塗膜などが使用されていることが開示されている。
【0005】
特許文献2(特開2004-344962号公報)および特許文献3(特開2011-116034号公報)には、熱プレス用クッション材の表層材が開示されている。特許文献2には、シート状のクッション材本体と、クッション材本体上に形成された離型性塗膜とを備えた表層材が開示されている。表層材の基材は、具体的にはガラスクロスが用いられている。特許文献3には、表層材の一方面を覆う樹脂層と、表層材の他方面を覆うゴム層と、樹脂層およびゴム層の間に配置される嵩高糸を用いた織布層とを備え、織布層の樹脂層側は、織布の一部に樹脂層を構成する樹脂が含侵した織布-樹脂複合層とされ、織布層のゴム層側は、織布の一部にゴム層を構成するゴムが含侵した織布-ゴム複合層とされ、織布層の内部に空隙が設けられた表層材が開示されている。
【0006】
その他に、アラミド繊維からなる織布や紙が表層材として用いられることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-87999号公報
【文献】特開2004-344962号公報
【文献】特開2011-116034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の表層では、取り扱い中に冶具との接触や衝撃を受け、また繰り返し使用することで、表層の表面から毛羽が発生したり、表層の一部が破損したりする場合がある。また、表層材として合成樹脂フィルムを用いた場合、表面の平滑性が高いため、熱盤や鏡面板とクッション材が密着してしまい、作業効率が低下する。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、表層材からの毛羽の発生や破損を防止することができ、熱盤や鏡面板との密着を防止することができる熱プレス用クッション材および熱プレス用クッション材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る熱プレス用クッション材は、板状形態のクッション材本体と、クッション材本体の表面および裏面に設けられる表面材とを備え、表面材は、不織構造の耐熱繊維材料から形成されるコア層と、コア層の表面全体を覆う表面樹脂層とを含み、コア層は、通気度が5cm3・cm-2・s-1以下であり、嵩密度が0.8g/cm3以上である。
【0011】
好ましくは、コア層は、有機繊維からなる。
【0012】
また、表面樹脂層の厚みが厚すぎると、プレス対象製品に対して密着し、作業効率が低下する。さらに、表面樹脂層の厚みが厚すぎると、表面樹脂層が割れて脱落するおそれがある。
【0013】
すなわち、表面樹脂層は、耐熱繊維材料の繊維の凹凸が表れる程度の薄膜とされることが好ましい。
【0014】
好ましくは、表面樹脂層は、コア層の裏面全体を覆う裏面ゴム層をさらに含み、クッション材本体と表面材は、裏面ゴム層を介して接着されている。
【0015】
好ましくは、表面樹脂層は、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、PTFEおよびPEEKからなる群から選択された少なくとも1つの樹脂を含む。
【0016】
好ましくは、表面樹脂層には、導電性充填剤を含む。
【0017】
本発明に係る熱プレス用クッション材の製造方法は、板状形態のクッション材本体と、クッション材本体の表面および裏面に設けられた表面材とを備えた熱プレス用クッション材の製造方法である。表面材の製造工程は、不織構造の耐熱繊維材料から形成されるコア層を、通気度が5cm3・cm-2・s-1以下、嵩密度が0.8g/cm3以上となるように加熱加圧処理する工程と、コア層の耐熱繊維材料の繊維の凹凸が表れる程度の薄膜となるように、表面樹脂層でコア層の表面全体を覆う工程とを備える。熱プレス用クッション材の製造工程は、上記工程で製造された表面材をクッション材本体に貼り付ける工程を備える。
【0018】
好ましくは、表面材を加熱加圧処理する工程は、カレンダー処理または熱プレス処理である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の熱プレス用クッション材および熱プレス用クッション材の製造方法によれば、表層材からの毛羽の発生や破損を防止することができ、熱盤や鏡面板との密着を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る熱プレス用クッション材を示す図解的断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る熱プレス用クッション材の製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】表面材の製造方法を示すフローチャートである。
【
図8】通気度と嵩密度との関係を示すグラフである。
【
図9】クッション材の表面を示す写真であり、(a)は本発明例1の写真、(b)は本発明例2の写真、(c)は比較例1の写真、(d)は比較例2の写真、(e)は比較例3の写真、(f)は比較例4の写真、(g)は比較例5の写真である。
【
図10】本発明例1を示す写真であり、(a)は
図9(a)を拡大した写真、(b)はクッション材の縦断面の写真である。
【
図11】クッション材の表面部分を含む縦断面の部分写真であり、(a)は比較例1の写真、(b)は比較例3の写真である。
【
図12】衝撃試験を行った後のクッション材の表面を示す写真であり、(a)は本発明例1の写真、(b)は本発明例2の写真、(c)は比較例1の写真、(d)は比較例2の写真、(e)は比較例3の写真、(f)は比較例4の写真、(g)は比較例5の写真である。
【
図13】衝撃試験を行った後の本発明例1の表面部分を含む縦断面の部分写真である。
【
図14】衝撃試験を行った後の比較例2の表面部分を含む縦断面の部分写真である。
【
図15】衝撃試験を行った後の比較例3の表面部分を含む縦断面の部分写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0022】
以下に、本発明の実施形態を説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る熱プレス用クッション材1を示している。
図1に示すように、熱プレス用クッション材1は、板状形態のクッション材本体2と、クッション材本体2の表面および裏面に設けられる表面材3とを備える。
【0024】
クッション材本体2は、たとえば、織布と、この織布に含浸したゴムとからなる繊維-ゴム複合材料の層である。織布を構成する経糸および緯糸のうちの少なくともいずれか一方に、ガラス繊維からなる嵩高糸(バルキーヤーン)を用いる。この繊維-ゴム複合材料の層は、内部に空隙を有する。繊維-ゴム複合材料層の厚みは0.5mm~5mm程度であり、シート状である。
【0025】
好ましくは、織布の構成繊維に対するゴムの体積比率が5~50%となるように、織布全体の隙間にゴムを含浸させる。より好ましいゴムの体積比率は5~35%である。また、繊維-ゴム複合材料層中においては、織布の隙間がゴムで完全には塞がれておらず、ある程度の空隙性を持っている。繊維-ゴム複合材料層の空隙率は、好ましくは20~65%、より好ましくは25~65%である。
【0026】
クッション材本体2を織布-ゴム複合材料の層とする場合、織布に含浸するゴムとしては、好ましくは、フッ素ゴム、EPM、EPDM、水素化二トリルゴム、シリコーンゴム、アクリルゴムおよびブチルゴムからなる群から選択された1種または2種以上の材料である。なお、クッション材本体2は、必ずしも織布-ゴム複合材料の層である必要はなく、従来、クッション材本体として用いられている構造とすることができる。すなわち、クッション材本体2は、織布、不織布、ゴムおよび合成樹脂の何れかの単体または2種以上の複合体の、単層構造あるいは同種または異種の層の積層構造とすることができる。
【0027】
図2は、表面材3を示している。表面材3は、熱プレス用クッション材1に主として離型性を付与するために設けられるものである。
図2に示すように、表面材3は、コア層31と、コア層31の表面全体を覆う表面樹脂層32と、コア層31の裏面全体を覆う裏面ゴム層33とを含む。
【0028】
コア層31は、不織構造の耐熱繊維材料から形成される。なお、本発明で不織構造とは、不織布および紙(ペーパー)を含む意味で用いている。具体的には、コア層31は、有機繊維からなる。有機繊維は、たとえばポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール(ビニロン)、芳香族ポリアミド(アラミド)などの材質の繊維を用いることができる。
【0029】
コア層31は、不織構造の耐熱繊維材料を加熱加圧処理することにより形成される。加熱加圧処理は、加熱しながら加圧することであり、具体的には、カレンダー処理または熱プレス処理である。カレンダー処理は、たとえば200℃以上に加熱した熱ロールと樹脂ロールとの間のニップ部分に不織構造の繊維材料を通過させて、加熱温度、ニップ圧により、処理後の不織構造物の厚み、平滑性などを制御することができる処理である。熱プレス処理は、たとえば200℃以上に加熱しながら加圧する処理である。
【0030】
加熱加圧処理を行うことにより、コア層31は、通気度が5cm3・cm-2・s-1以下、嵩密度が0.8g/cm3以上にとすることができる。コア層31の通気度が5cm3・cm-2・s-1を超え、嵩密度が0.8g/cm3未満であると、表面に塗布した樹脂がコア層31の内部に浸透してしまい、コア層31の表面全体を表面樹脂層32でカバーできないため、コア層31の毛羽立ちを防止することができない。また、コア層31の毛羽は、加熱加圧処理することで、面方向にフラットになる。
【0031】
表面樹脂層32は、コア層31の繊維の凹凸が表れる程度の薄膜とする。具体的には、表面樹脂層32の厚みは、0.5μm~200μmであり、好ましくは1μm~50μmである。表面樹脂層32にコア層31の繊維の凹凸が表れているため、熱プレス用クッション材1が熱盤51や鏡面板53に密着しない。表面樹脂層32が薄すぎると、十分に繊維をカバーできないため、毛羽が発生するおそれがあり、また、表面樹脂層32に導電性充填剤を混入した場合でも静電気が発生するおそれがある。表面樹脂層32が厚すぎると、表面樹脂層32上にコア層31の繊維の凹凸が表れないため、熱盤51や鏡面板53と密着し、作業効率が低下する。表面樹脂層32は、コア層31の表面部分に染み込んで、繊維間の空隙に入り込んでいる。
【0032】
表面樹脂層32は、たとえばフッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、PTFEおよびPEEKからなる群から選択された少なくとも1つの樹脂を含む。また、表面樹脂層32は、導電性充填剤を含むのが好ましい。導電性充填剤は、たとえば導電性酸化亜鉛、導電性酸化チタン、カーボンブラック、カーボン樹脂、カーボンナノチューブなどである。表面樹脂層32に導電性充填剤を混合することで、静電気の発生を抑制することができる。
【0033】
裏面ゴム層33は、クッション材本体2と表面材3とを接着する役割を果たす。裏面ゴム層33は、たとえばフッ素ゴムの接着剤である。ゴムはフッ素ゴム、EPM、EPDM、水素化ニトリルゴム、シリコーンゴム、アクリルゴムおよびブチルゴムからなる群から選ばれる1種類のゴムまたは2種類以上のゴムの混合物である。裏面ゴム層33は、コア層31の裏面部分に染み込んで、繊維間の空隙に入り込んでいる。
【0034】
続いて、
図3,
図4を参照して、本実施の形態の熱プレス用クッション材の製造方法について説明する。
【0035】
まず、板状形態のクッション材本体2を準備する(ステップS1)。クッション材本体2として繊維-ゴム複合材料層を用いる場合、この工程(ステップS1)では、ゴム溶液を織布に含浸させ、乾燥させることで溶液を除去する。織布に含侵したゴムの加硫処理は、この段階で行うことができるが、この段階では行わずに後述するステップS3の工程で行うこともできる。
【0036】
次に、クッション材本体2の表面および裏面に設けられる表面材3を準備する(ステップS2)。この工程(ステップS2)では、
図2に示す表面材3を製造すべく、コア層31になる不織構造の耐熱繊維材料と、表面樹脂層32になる樹脂と、裏面ゴム層33になる接着剤とを準備する。
【0037】
図4に示すように、準備したコア層31を加熱加圧処理する(ステップS21)。具体的には、コア層31の耐熱繊維材料の繊維を、カレンダー処理または熱プレス処理する。これにより、通気度が5cm
3・cm
-2・s
-1以下、嵩密度が0.8g/cm
3以上となる。
【0038】
次に、コア層31の表面全体を表面樹脂層32で覆う工程を行う(ステップS22)。具体的には、コア層31の繊維の凹凸が表れる程度の薄膜となるように、コア層31の表面全体に樹脂を塗布して表面樹脂層32を形成する。また、コア層31の裏面全体に裏面ゴム層33になる接着剤を塗布する。
【0039】
最後に、
図3に示すように、クッション材本体2の表面および裏面に表面材3を貼り付ける工程を行う(ステップS3)。具体的には、表面材3の裏面ゴム層33側がクッション材本体2と接するようにクッション材本体2と表面材3とを積層し、加熱加圧処理することにより、裏面ゴム層33の加硫とともにクッション材本体2と表面材3を一体化させる。なお、クッション材本体2に含侵したゴムの加硫は、ステップS1の工程で行っていない場合は、クッション材本体2と表面材3とを接着一体化する際の加熱加圧処理で、裏面ゴム層33の加硫と同時に行うことができる。
【0040】
本実施の形態の熱プレス用クッション材およびその製造方法によれば、コア層31を加熱加圧処理する工程(ステップS21)によって、通気度が5cm3・cm-2・s-1以下、嵩密度が0.8g/cm3以上となり、表面樹脂層32がコア層31の表面全体を覆う工程(ステップS22)によって、表面材3の毛羽立ちを防止することができる。さらに、表面樹脂層32がコア層31の耐熱繊維材料の繊維の凹凸が表れる程度の薄膜となるため、熱プレス用クッション材1が熱盤51や鏡面板53に密着せず、作業効率が向上する。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
表1は、本発明例1,2および比較例1~5について行った実験の評価結果を示す。
【0043】
まず、クッション材本体を準備した(ステップS1)。クッション材本体は、バルキーヤーンを用いたガラス織布「T860」(ユニチカ株式会社製)を用いた。この織布は、緯糸がEガラス繊維(繊維径6μm)3200本よりなる番手305texの合撚糸を嵩高加工したバルキーヤーンであり、経糸がEガラス繊維(繊維径6μm)1600本よりなる番手135texの嵩高加工していない合撚糸であり、緯糸と経糸とを2重織りに製織したものである。この織布は、重量が850g/m2、厚みが1.02mm、空隙率が67%である。一方、酢酸ブチルとメチルケトンとを質量比1:1の割合で混合した溶剤に、未加硫フッ素ゴムを所定の濃度で溶解してなる未加硫フッ素ゴム溶液を用意した。ガラス織布を各未加硫フッ素ゴム溶液に浸漬した後、それぞれ2本のロールで絞った。次いで、未加硫フッ素ゴム溶液が浸透した各ガラス織布を十分に乾燥させて溶剤を除去した。このようにしてクッション材本体を2枚作成した。
【0044】
次に、表面材を準備した(ステップS2)。具体的には、コア層として製造過程でカレンダー処理が施されたアラミド紙「ノーメックスペーパー タイプ410(5mil)」(デュポン帝人アドバンスドペーパー社製)を用いた。表面樹脂層として導電性酸化チタンを混入したポリイミド樹脂ワニスを、繊維の凹凸が表れる程度の薄膜としてコア層の表面に塗布した。これにより、ポリイミド樹脂からなる表面樹脂層を形成した。表面樹脂層の厚さは1~10μmであった。次いで、コア層の裏面側に未加硫フッ素ゴム溶液を塗布し、乾燥させて接着層としての裏面ゴム層を形成した。このようにして、表面材を2つ作成した。上述した2層のクッション材本体を、接着材を間に挟んで積層し、さらにその表面および裏面に、表面材を、裏面ゴム層がクッション材本体に当接するように積層した。この積層物に対して熱プレスを行い、クッション材本体に含侵した未加硫フッ素ゴム及び表面材の裏面に塗布した未加硫フッ素ゴムを加硫し、全体を接着一体化した。これを本発明例1とした。
【0045】
以下に示す本発明例2および比較例1~5のクッション材の製造方法は、基本的に本発明例1と同様であったが、表面材の構成が下記表1に示すように異なっていた。
【0046】
表面材のコア層として熱プレス処理を行ったPPS(ポリフェニレンサルファイド)紙「PPSペーパー」(廣瀬製紙株式会社製)を用いたものを本発明例2とした。
【0047】
表面樹脂層を設けないものを比較例1とした。
【0048】
表面材のコア層として熱プレス処理を行っていないPPS(ポリフェニレンサルファイド)紙「PPSペーパー」(廣瀬製紙株式会社製)を用いたものを比較例2とした。比較例2の表層材3Aの図解的断面図を
図5に示す。比較例2の表面材3Aは、コア層31aに熱プレス処理を行っていないため、本発明例1と比較して通気度が高く、嵩密度低い。そのため、コア層31aの内部まで表面樹脂層32aとなる樹脂が染み込み、表面樹脂層32aは、コア層31aの表面を完全にカバーできず、毛羽立ちがみられる。
【0049】
表面材のコア層としてアラミド繊維(帝人株式会社製「コーネックス」)のニードルパンチ不織布に熱プレス処理を行ったものを比較例3とした。比較例3の表層材3Bの図解的断面図を
図6に示す。比較例3の表面材3Bは、コア層31bに熱プレス処理を行っているものの、本発明例1と比較して通気度が高く、嵩密度低かった。そのため、コア層31bの内部にも表面樹脂層32bとなる樹脂が染み込み、表面樹脂層32bは、コア層31bの表面を完全にカバーできず、毛羽立ちがみられる。
【0050】
表面材のコア層としてガラスクロスを用いたものを比較例4とした。なお、比較例4は、特開2004-344962号公報(特許文献2)に詳細に開示されている。
【0051】
表面樹脂層の厚さを300μmとしたものを比較例5とした。比較例5の表面樹脂層は、コア層の繊維の凹凸を埋め尽くしていた。
【0052】
(評価方法)
本発明例1,2、比較例1~5について、表面状態の確認、プレス圧縮試験および衝撃試験を行った。
【0053】
表面状態の確認:目視にて表面状態を確認した。
【0054】
プレス圧縮試験:SUSプレートからなる鏡面板とクッション材とを重ね、プレス機にて厚み方向に4MPaの圧力で加圧した状態で、230℃で60分間加熱し、次いで10分間冷却し、その後プレスを解除した。プレスを解放したときの鏡面板との密着状態を確認した。
【0055】
衝撃試験:
図7に示すように、加圧試験機の治具41にSUSで作成した直径10mm、高さ2mmの球状端子42を取り付けたハンマ40を使用した。クッション材の外縁端面に速度300mm/minの速さでハンマ40を当て、荷重5kgfの衝撃を加えるテストを10回繰り返した。
【0056】
本発明例1,2、比較例1~5のクッション材について、上述の条件で、表面状態の確認し、プレス圧縮試験および耐衝撃試験行った。その結果を表1に示す。
【0057】
表1の表面状態において、「〇」は凹凸が確認できたこと、または、毛羽立ちが確認できなかったことを示しており、「×」は凹凸が確認できなかったこと、または、毛羽立ちが確認できたことを示している。また、表1のプレス圧縮試験において、「〇」は静電気が発生しなかったこと、または、鏡面板と密着しなかったことを示しており、「×」は静電気が発生したこと、または、鏡面板と密着したことを示している。さらに、表1の衝撃試験において、「〇」は毛羽立ちや破損が発生しなかったことを示しており、「×」は毛羽立ちや破損が発生したことを示している。
【0058】
【0059】
図8は、本発明例1,2および比較例1~3,5で用いたコア層の通気度および嵩密度を示すグラフである。
図8のAは、本発明例1、比較例1および比較例5で用いたカレンダー処理を行ったアラミド紙であり、通気度が0cm
3・cm
-2・s
-1、嵩密度が0.9g/cm
3であった。
図8のBは、本発明例2で用いた熱プレス処理を行ったPPS紙であり、通気度が4.8cm
3・cm
-2・s
-1、嵩密度が0.88g/cm
3であった。
図8のCは、比較例2で用いた熱プレス処理を行っていないPPS紙であり、通気度が29.5cm
3・cm
-2・s
-1、嵩密度が0.43g/cm
3であった。
図8のDは、比較例3で用いた熱プレス処理を行ったアラミド不織布であり、通気度が2.8cm
3・cm
-2・s
-1、嵩密度が0.68g/cm
3であった。
【0060】
(評価結果)
図9~
図11は、本発明例1,2および比較例1~5の表面状態を示す写真である。まず、表面状態について確認すると、本発明例1(
図9(a)、
図10(a)、
図10(b))は、表面に凹凸が存在し、毛羽立ちの発生は見られなかった。本発明例2(
図9(b))も同様であった。
【0061】
一方で、比較例1(
図9(c)、
図11(a))は、表面に凹凸が存在するものの、毛羽立ちの発生が見られた。これは、表面樹脂層を設けていないためである。
【0062】
比較例2(
図5、
図9(d))は、表面に凹凸が存在するものの、毛羽立ちの発生が見られた。これは、比較例2は、熱プレス処理を行っていないため、本発明例2と比較して通気度が高く、嵩密度が低い。そのため、比較例2では、コア層の表面を表面樹脂層で十分に被覆できず、コア層の毛羽立ちが発生してしまうからである。
【0063】
比較例3(
図6、
図9(e)、
図11(b))は、表面に凹凸が存在するものの、毛羽立ちの発生が見られた。これは、比較例3は、熱プレス処理を行っているものの、コア層の通気度が高く、嵩密度が低い。そのため、比較例3では、コア層の表面を表面樹脂層で十分に被覆できなかったためである。
【0064】
比較例4(
図9(f))は、表面に凹凸が存在し、毛羽立ちの発生も見られなかった。比較例5(
図9(g))は、表面に凹凸が存在せず、毛羽立ちの発生が見られなかった。これは、表面樹脂層の塗布をコア層の繊維の凹凸を埋め尽くすように多量にしたからである。
【0065】
次に、プレス圧縮試験について確認すると、表1に示すように、本発明例1,2および比較例2,3,4は、静電気が発生せず、鏡面板に対して密着しなかった。一方で、比較例1は、静電気が発生し、プレス機に対して密着した。比較例1は、表面樹脂層が設けられていなかったからである。比較例5は、静電気は発生しなかったが鏡面板に密着した。これは、表面樹脂層が厚く、コア層の繊維の凹凸を埋め尽くしていたためである。
【0066】
図12~
図15は、本発明例1,2および比較例1~5に衝撃試験を行った後のクッション材の表面を示す写真である。
【0067】
衝撃試験では、本発明の本発明例1(
図12(a))および本発明例2(
図12(b))は、全く問題はなかった。すなわち、表面からの毛羽立ちや破損は見られなかった。一方で、比較例1~4(
図12(c)~(f))は、繊維のほつれや繊維毛羽の脱落等が見られた。特に、コア層を表面樹脂層で覆っていない比較例1、および、コア層の表面全体を表面樹脂層で覆うことができていない比較例2(
図14)および比較例3(
図15)は、衝撃を加えると、表面から破損が見られた。コア層がガラスクロスである比較例4(
図12(f))は、衝撃により表面材の破損が見られた。
【0068】
衝撃試験の結果より、本発明例1,2および比較例5のクッション材は、比較例1~4のクッション材よりも衝撃に対して耐久性を有することが明らかとなった。
【0069】
以上の結果より、本発明例1,2は、毛羽立ちが防止でき、熱盤や鏡面板との密着も起こらず、衝撃にも強いということがわかる。
【0070】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
1 熱プレス用クッション材、2 クッション材本体、3,3A,3B 表面材、31,31a,31b コア層、32,32a,32b 表面樹脂層、33 裏面ゴム層、40 ハンマ、41 加圧試験機の治具、42 球状端子、51 熱盤、52 積層板、53 鏡面板。