(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】芳香族カルボン酸を含む導体被覆用ポリイミドワニスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 179/08 20060101AFI20220913BHJP
C08J 3/215 20060101ALI20220913BHJP
C08K 5/092 20060101ALI20220913BHJP
C08K 5/523 20060101ALI20220913BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20220913BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20220913BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20220913BHJP
C09D 5/25 20060101ALI20220913BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220913BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20220913BHJP
H01B 3/30 20060101ALI20220913BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
C09D179/08 A
C08J3/215 CFG
C08K5/092
C08K5/523
C08K5/54
C08L79/08 A
C08L83/04
C09D5/25
C09D7/63
C09D7/65
H01B3/30 G
H01B7/02 A
(21)【出願番号】P 2021509793
(86)(22)【出願日】2018-11-13
(86)【国際出願番号】 KR2018013804
(87)【国際公開番号】W WO2020040356
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-02-19
(31)【優先権主張番号】10-2018-0097929
(32)【優先日】2018-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0128186
(32)【優先日】2018-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520160738
【氏名又は名称】ピーアイ・アドバンスド・マテリアルズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イン・ファン・ファン
(72)【発明者】
【氏名】イク・サン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ユル・チェ
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/136807(WO,A1)
【文献】特表2011-514266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00,101/00-201/10
C08L 79/08
C08L 83/04
H01B 3/30,7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体被覆用ポリイミドワニスであって、
1種以上のジアンヒドリド単量体と1種以上のジアミン単量体が有機溶媒中で重合されて製造されるポリアミック酸溶液;
4個以上のカルボキシル基を有する芳香族カルボン酸;
アルコキシシランカップリング剤;
シリコーン系添加物;および
酸化防止剤を含み、
ポリイミドワニスの全体重量を基準として固形分の含量が15~38重量%であり、
23℃での粘度が500~9,000cPであり、
前記ポリイミドワニスから製造される被覆物の耐軟化度が520℃以上であり、絶縁破壊電圧(BDV)が8kV/mm以上であ
り、
前記アルコキシシランカップリング剤の量が、ポリイミドワニスの固形分100重量部に対して0.01~0.05重量部であり、
前記シリコーン系添加物の量が、ポリイミドワニスの固形分100重量部に対して0.01~0.05重量部であり、
前記酸化防止剤の量が、ポリイミドワニスの固形分100重量部に対して0.1~2重量部である、ポリイミドワニス。
【請求項2】
前記芳香族カルボン酸が、ピロメリト酸(pyromellitic acid,PMA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸(3,3’,4,4’-biphenyltetracarboxylic acid,BPTA)、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸(1,2,3,4-benzenetetracarboxylic acid)、ベンゾフェノン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸(benzophenone-3,3’,4,4’-tetracarboxylic acid)、ピラジンテトラカルボン酸(pyrazinetetracarboxylic acid)、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸(2,3,6,7-naphthalenetetracarboxylic acid)およびナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸(naphthalene-1,4,5,8-tetracarboxylic acid)よりなる群から選ばれた1種以上を含む、請求項1に記載のポリイミドワニス。
【請求項3】
前記ジアミン単量体100モル%を基準として、前記ジアンヒドリド単量体の投入量が80~99.9モル%であり、前記芳香族カルボン酸の投入量が0.1~20モル%である、請求項1に記載のポリイミドワニス。
【請求項4】
前記アルコキシシランカップリング剤は、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、2-アミノフェニルトリメトキシシラン、および3-アミノフェニルトリメトキシシランよりなる群から選ばれた1種以上を含む、請求項
1に記載のポリイミドワニス。
【請求項5】
前記シリコーン系添加物は、ジメチルポリシロキサン(dimethylpolysiloxane)、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(Polyether modified polydimethysiloxane)、ポリメチルアルキルシロキサン(Polymethylalkylsiloxane)、およびヒドロキシル基(-OH)および炭素-炭素二重結合構造(C=C)を含むシリコーン系化合物よりなる群から選ばれた1種以上を含む、請求項
1に記載のポリイミドワニス。
【請求項6】
前記酸化防止剤は、5重量%分解温度が380℃以上である、請求項1に記載のポリイミドワニス。
【請求項7】
前記酸化防止剤は、5重量%分解温度が400℃以上である、請求項1に記載のポリイミドワニス。
【請求項8】
前記酸化防止剤が、下記化学式1で表される化合物を含む、請求項1に記載のポリイミドワニス:
【化1】
前記化学式1で、R
1~R
6は、それぞれ独立して、C1-C3のアルキル基、アリール基、カルボン酸基、ヒドロキシ基、フルオロアルキル基およびスルホン酸基よりなる群から選ばれることができ、
nは、1~4の整数であり、
R
1~R
6が複数である場合、互いに同一でも異なっていてもよく、
m1~m6は、それぞれ独立して、0~3の整数である。
【請求項9】
前記化学式1で、nが1であり、m1~m6が0である、請求項
8に記載のポリイミドワニス。
【請求項10】
請求項1に記載のポリイミドワニスを製造する方法であって、
(a)1種以上のジアンヒドリド単量体および1種以上のジアミン単量体を有機溶媒中で重合してポリアミック酸溶液を製造する過程;
(b)前記ポリアミック酸溶液にアルコキシシランカップリング剤および酸化防止剤を混合して混合物を製造する過程;および
(c)前記混合物と4個以上のカルボキシル基を有する芳香族カルボン酸を混合する過程を含む、ポリイミドワニスの製造方法。
【請求項11】
前記過程(a)は、30~80℃で行われ、
前記ポリアミック酸溶液は、23℃での粘度が500~9,000cPの範囲であり、
前記過程(b)は、ポリアミック酸溶液にシリコーン系添加物をさらに混合し、40~90℃で行われ、
前記過程(c)は、40~90℃で行われる、請求項
10に記載のポリイミドワニスの製造方法。
【請求項12】
(1)請求項1に記載のポリイミドワニスを導体の表面にコーティングする過程;および
(2)前記導体の表面にコーティングされたポリイミドワニスをイミド化する過程を含み、
前記過程(1)および(2)を連続的に4~20回繰り返し行う、ポリイミド被覆物の製造方法。
【請求項13】
前記過程(1)および(2)の繰り返し行う1回当たり前記ポリイミドワニスがコーティングされる厚さは、2~6μmであり、
前記過程(2)は、300~750℃で行われ、
前記導体の被覆速度は、2~30m/分である、請求項
12に記載のポリイミド被覆物の製造方法。
【請求項14】
前記導体は、直径0.1~5mmの電線である、請求項
12に記載のポリイミド被覆物の製造方法。
【請求項15】
請求項
12に記載のポリイミド被覆物の製造方法で製造されたポリイミド被覆物。
【請求項16】
前記ポリイミド被覆物の厚さが16~50μmの範囲であり、
tanδが250℃以上である、請求項
15に記載のポリイミド被覆物。
【請求項17】
請求項1に記載のポリイミドワニスを電線の表面にコーティングし、イミド化して製造されたポリイミド被覆物を含む電線。
【請求項18】
請求項
17に記載の電線を含む電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族カルボン酸を含む導体被覆用ポリイミドワニスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導体を被覆する絶縁層(絶縁被覆)には、優れた絶縁性、導体に対する密着性、耐熱性、機械的強度等が要求されている。
【0003】
また、適用電圧が高い電気機器、例えば高電圧で使用されるモーター等では、電気機器を構成する絶縁電線に高電圧が印加されて、その絶縁被覆の表面で部分放電(コロナ放電)が発生しやすい。
【0004】
コロナ放電の発生により局部的な温度上昇やオゾンまたはイオンの発生が引き起こされることがあり、その結果、絶縁電線の絶縁被覆に劣化が生じることによって、早期に絶縁破壊を起こし、電気機器の寿命が短くなり得る。
【0005】
高電圧に使用される絶縁電線には、上記の理由によりコロナ放電開始電圧の向上が要求されており、このためには、絶縁層の誘電率を低減することが有効であると知られている。
【0006】
絶縁層に使用可能な樹脂は、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂等を挙げることができる。
【0007】
これらのうち、特にポリイミド樹脂は、耐熱性および絶縁性に優れた材料であって、導体の被覆用物質に使用するのに優れた性質を有している。
【0008】
ポリイミド樹脂は、芳香族ジアンヒドリドと芳香族ジアミンまたは芳香族ジイソシアネートを溶液重合してポリアミック酸誘導体を製造した後、高温で閉環脱水させてイミド化して製造される高耐熱樹脂を称する。
【0009】
ポリイミド樹脂を絶縁被覆用物質に使用するために、耐熱性、絶縁性および機械的物性をさらに向上させることが必要であり、このためには、ポリイミド樹脂の分子量を増加させる方法を考慮することができる。
【0010】
分子内にイミド基が多いほどポリイミド樹脂の耐熱性、絶縁性および機械的物性を向上させることができ、高分子鎖が長くなるほどイミド基の割合が増加するので、高い分子量のポリイミドを製造することが物性の確保に有利であるためである。
【0011】
高い分子量のポリイミドを製造するためには、その前駆体であるポリアミック酸を高分子量で製造した後、熱処理を通じてイミド化することが一般的である。
【0012】
しかしながら、ポリアミック酸の分子量が高いほどポリアミック酸が溶媒に溶解した状態であるワニスの粘度が上昇して、導体の表面にワニスを均一にコ―ティグすることが容易でなく、製造される被覆の厚さが過度に厚くなる問題が発生することができる。
【0013】
ポリアミック酸の分子量を維持しつつ、ワニスの粘度を低減するためには、固形分の含量を低減し、溶媒の含量を増加させる方法を考慮できるが、この場合、硬化過程で多量の溶媒を除去しなければならないので、製造費用と工程時間が増加する問題が発生することができる。
【0014】
なお、一般的にポリイミド樹脂は、酸素の存在下に光、熱、圧力、せん断力等によって化学的変化、すなわち酸化反応を起こす。このような酸化反応は、ポリイミド樹脂内の分子鎖の切断、架橋等で物性の変化を発生させて製造されるポリイミド樹脂の耐熱性および機械的物性を低下させる問題を引き起こす。
【0015】
このような問題を解決するために、酸化防止剤等の添加剤を少量投入する方法が使用されており、前記酸化防止剤は、例えば、既に酸化したポリイミド樹脂の酸素原子を除去してポリイミド樹脂を安定化させる役割をするものであって、ホスフェート(phosphate)化合物と硫黄化合物が代表的に使用されている。
【0016】
しかしながら、一般的に使用される酸化防止剤の場合、高温で分解する性質を有しており、特にポリイミド樹脂の製造時には、イミド化のための高温熱処理が随伴されることが一般的であるから、この際、酸化防止剤が分解して酸化防止効果が低減したり、場合によっては、このような効果を全く発揮しない問題がある。
【0017】
なお、ポリイミド樹脂を使用して絶縁被覆を形成する方法としては、例えば、導体からなる電線の周囲にポリイミド樹脂の前駆体であるポリイミドワニスを塗布し、その後、所定の温度で熱処理が可能な硬化炉内で前記ポリイミドワニスをイミド化させる方法を使用することができる。
【0018】
しかしながら、一般的なポリイミド樹脂は、優れた物性にもかかわらず、導体との接着力に優れていないので、絶縁被覆を形成するとき、外観不良が発生する問題が発生することができる。
【0019】
したがって、ワニスの固形分の含量が高くても、粘度を低く維持し、これから製造されたポリイミドの耐熱性、絶縁性および機械的物性を同時に満たすと共に、導体との接着力に優れた導体被覆用ポリイミドワニスの必要性が高いのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、4個以上のカルボキシル基を有する芳香族カルボン酸を含む導体被覆用ポリイミドワニスおよびその製造方法を提供することにある。
【0021】
本発明の一態様によれば、4個以上のカルボキシル基を有する芳香族カルボン酸が、優れた耐熱性、絶縁性、柔軟性および基材(導体)との接着性を有するポリイミド被覆物の具現に必須の因子として開示される。
【0022】
ポリイミドワニスを構成する前記芳香族カルボン酸は、イミド化のための熱処理時に、ポリアミック酸鎖またはポリイミド鎖の末端アミン基と反応して高分子鎖の長さが増加し、これを通じて製造されるポリイミド被覆物の耐熱性、絶縁性、柔軟性および基材との接着性を向上させることができる。
【0023】
本発明に係るポリイミド被覆物は、イミド化のための熱処理時にポリイミドの分子量が上昇するので、その前駆体であるポリイミドワニスの固形分の含量が高くても、粘度を低く維持でき、これによって、工程取り扱い性を顕著に向上させることができる。
【0024】
本発明のさらに他の一態様によれば、5重量%分解温度が380℃以上の酸化防止剤が、優れた耐熱性および機械的物性を有するポリイミド被覆物の具現に必須の因子として開示される。
【0025】
ポリイミドワニスを構成する酸化防止剤は、低い揮発性と優れた熱安定性を有するので、ポリイミド被覆物の製造工程中で分解したり揮発することなく維持されて、ポリイミドワニス内のアミド基またはポリイミド被覆物のイミド基の酸化を防止することができる。それによって、前記酸化防止剤は、ポリイミド被覆物の物性変化を最小化することができる。
【0026】
本発明のさらに他の一態様によれば、シリコーン系添加物およびアルコキシシランカップリング剤が、前記ポリイミドワニスから製造されるポリイミド被覆物と導体間の接着増進剤として活用されて、接着力を増加させることができる。
【0027】
これより、本発明は、その具体的実施例を提供することに実質的な目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、導体被覆用ポリイミドワニスであって、
1種以上のジアンヒドリド単量体と1種以上のジアミン単量体が有機溶媒中で重合されて製造されるポリアミック酸溶液;
4個以上のカルボキシル基を有する芳香族カルボン酸;
アルコキシシランカップリング剤;および
酸化防止剤を含み、
ポリイミドワニスの全体重量を基準として固形分の含量が15~38重量%であり、
23℃での粘度が500~9,000cPであり、
前記ポリイミドワニスから製造される被覆物の耐軟化度が520℃以上であり、絶縁破壊電圧(BDV)が8kV/mm以上であるポリイミドワニスを提供する。
【0029】
前記ポリイミドワニスを利用する場合、固形分の含量が高くて、かつ相対的に低い粘度によって工程取り扱い性が向上して、ポリイミド被覆物を製造時に導体に均一にコ―ティグすることができることはもちろん、被覆物の厚さを容易に調節することができる。
【0030】
また、これから製造されるポリイミド被覆物は、優れた耐熱性および絶縁性を有し、被覆の柔軟性および基材との密着性が向上することを知見した。
【0031】
したがって、その具現のための具体的な内容を本明細書で説明する。
【0032】
これに先立って、本明細書および請求範囲に使用された用語や単語は、通常的または辞書的な意味に限定して解釈すべきものではなく、発明者は、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に基づいて本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解釈されなければならない。
【0033】
したがって、本明細書に記載された実施例の構成は、本発明の最も好ましい1つの実施例に過ぎないものであり、本発明の技術的思想を全部代弁するものではないので、本出願時点においてこれらを代替できる多様な均等物と変形例が存在し得ることを理解しなければならない。
【0034】
本明細書で単数の表現は、文脈上明白に相異に意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書で、「含む」、「具備する」または「有する」等の用語は、実施された特徴、数字、段階、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、1つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものの存在または付加可能性をあらかじめ排除しないものと理解されなければならない。
【0035】
本明細書で「ジアンヒドリド(二無水物;dianhydride)」は、その前駆体または誘導体を含むものと意図されるが、これらは、技術的にはジアンヒドリドではないことがあるが、それにもかかわらず、ジアミンと反応してポリアミック酸を形成するのであり、このポリアミック酸は、さらにポリイミドに変換され得る。
【0036】
本明細書で「ジアミン」は、その前駆体または誘導体を含むものと意図されるが、これらは、技術的にはジアミンではないことがあるが、それにもかかわらず、ジアンヒドリドと反応してポリアミック酸を形成するのであり、このポリアミック酸は、さらにポリイミドに変換され得る。
【0037】
本明細書で量、濃度、または他の値またはパラメーターが範囲、好ましい範囲または好ましい上限値および好ましい下限値の列挙として与えられる場合、範囲が別途開示されるかに関係なく、任意の一対の任意の上側範囲の限界値または好ましい値および任意の下側範囲の限界値または好ましい値で形成されたすべての範囲を具体的に開示するものと理解されなければならない。
【0038】
数値の範囲が本明細書で言及される場合、別途記述されないと、その範囲は、その終点およびその範囲内のすべての整数と分数を含むものと意図される。
【0039】
本発明の範疇は、範囲を定義するときに言及される特定値に限定されないものと意図される。
【0040】
第1様態:ポリイミドワニス
本発明に係るポリイミドワニスは、導体被覆用ポリイミドワニスであって、
1種以上のジアンヒドリド単量体と1種以上のジアミン単量体が有機溶媒中で重合されて製造されるポリアミック酸溶液;
4個以上のカルボキシル基を有する芳香族カルボン酸;
アルコキシシランカップリング剤;および
酸化防止剤を含み、
ポリイミドワニスの全体重量を基準として固形分の含量が15~38重量%であり、
23℃での粘度が500~9,000cPであり、
前記ポリイミドワニスから製造される被覆物の耐軟化度が520℃以上であり、絶縁破壊電圧(BDV)が8kV/mm以上であることを特徴とする。
【0041】
詳細には、前記ポリイミドワニスは、ポリイミドワニスの全体重量を基準として固形分の含量が18~38重量%であり、23℃での粘度が500~8,000cPの範囲、より詳細には、500~5,000cPの範囲でありうる。
【0042】
一具体例において、前記ポリイミドワニスから製造される被覆物の耐軟化度は、520℃以上~900℃以下とすることができ、絶縁破壊電圧(BDV)は、8kV/mm以上~16kV/mm以下とすることができる。
【0043】
前記ポリイミドワニスの固形分の含量が前記範囲を上回る場合には、ポリイミドワニスの粘度が上昇することは避けられないので好ましくない。
【0044】
反対に、前記ポリイミドワニスの固形分の含量が前記範囲を下回する場合には、硬化過程で多量の溶媒を除去しなければならないので、製造費用と工程時間が増加する問題が発生することができる。
【0045】
また、前記粘度を有するポリイミドワニスは、流動性の観点から取り扱いが容易であるという利点があり、導体の表面にコーティングする工程にも有利になり得る。
【0046】
詳細には、前記ポリイミドワニスの粘度が前記範囲を上回る場合には、ポリイミドの製造工程中にポリイミドワニスをパイプを通じて移動させるとき、パイプとの摩擦によりさらに高い圧力を印加しなければならないので、工程費用が増加し、取り扱い性が低下しうる。
【0047】
また、ポリイミド被覆物を製造時に導体に均一にコ―ティグしにくいことがある。
【0048】
他方で、前記ポリイミドワニスの粘度が前記範囲を下回する場合には、硬化過程で多量の溶媒を除去しなければならないので、製造費用と工程時間が増加する問題が発生することができる。
【0049】
なお、前記芳香族カルボン酸が、ピロメリト酸(pyromellitic acid,PMA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸(3,3’,4,4’-biphenyltetracarboxylic acid,BPTA)、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸(1,2,3,4-benzenetetracarboxylic acid)、ベンゾフェノン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸(benzophenone-3,3’,4,4’-tetracarboxylic acid)、ピラジンテトラカルボン酸(pyrazinetetracarboxylic acid)、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸(2,3,6,7-naphthalenetetracarboxylic acid)およびナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸(naphthalene-1,4,5,8-tetracarboxylic acid)よりなる群から選ばれた1種以上を含むことができる。
【0050】
本発明において4個以上のカルボキシル基を有する芳香族カルボン酸は、ポリアミック酸溶液を重合するか、またはポリイミドワニスを製造する過程での温度、例えば、40~90℃の温度では、ポリアミック酸に重合されないが、その後、イミド化のための熱処理時に閉環脱水反応を起こして、カルボキシル基がジアンヒドリド基を形成することができる。
【0051】
前記芳香族カルボキシル基がジアンヒドリド基を形成すると、ポリアミック酸鎖またはポリイミド鎖の末端アミン基と前記ジアンヒドリド基が反応してアミック酸基を形成することで高分子鎖の長さを増加させることができる。
【0052】
このように生成されたアミック酸基は、高温でイミド化してポリイミド鎖の長さが増加することができる。
【0053】
このように前記芳香族カルボン酸を含むポリイミドワニスは、粘度を低く維持できるので、工程取り扱い性を顕著に向上させることができる。また、イミド化のための熱処理時に、高分子鎖の長さを増加させて、類似した分子量のポリアミック酸を使用して製造されたポリイミドに比べて耐熱性、絶縁性、柔軟性および基材との接着性が顕著に向上することができる。
【0054】
前記ジアミン単量体100モル%を基準として、前記ジアンヒドリド単量体の投入量が80~99.9モル%であり、前記芳香族カルボン酸の投入量が0.1~20モル%でありうる。
【0055】
前記芳香族カルボン酸の投入量が前記範囲を上回る場合には、ポリイミド被覆物の耐熱性が低くなり得、柔軟性が低下して被覆物の外観に不良が発生することができ、前記範囲を下回する場合には、所望する水準の低い粘度を達成できないので好ましくない。
【0056】
なお、前記ポリイミドワニスの固形分100重量部に対して0.01~0.05重量部のアルコキシシランカップリング剤を含むことができる。
【0057】
このようなアルコキシシランカップリング剤の含量が前記範囲を上回る場合には、機械的物性が低下することができ、イミド化のための熱処理時に前記アルコキシシランカップリング剤が高温で分解してポリイミド被覆物と導体間の接着力をかえって低下させることができるので好ましくない。
【0058】
他方で、前記アルコキシシランカップリング剤の含量が前記範囲を下回する場合には、ポリイミド被覆物と導体間の接着力向上効果を十分に発揮できないので好ましくない。
【0059】
前記アルコキシシランカップリング剤は、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、2-アミノフェニルトリメトキシシラン、および3-アミノフェニルトリメトキシシランよりなる群から選ばれた1種以上を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0060】
なお、前記酸化防止剤は、5重量%分解温度が380℃以上、詳細には、5重量%分解温度が400℃以上でありうる。
【0061】
具体的に、前記酸化防止剤が下記化学式1で表される化合物を含むことができる。
【0062】
【0063】
前記化学式1で、R1~R6は、それぞれ独立して、C1-C3のアルキル基、アリール基、カルボン酸基、ヒドロキシ基、フルオロアルキル基およびスルホン酸基よりなる群で選ばれることができ、
nは、1~4の整数であり、
R1~R6が複数である場合、互いに同一でも異なっていてもよく、
m1~m6は、それぞれ独立して、0~3の整数である。
【0064】
前記化学式1でベンゼン環の置換基が特に指定されない場合には、水素を意味する。
【0065】
一具体例において、前記化学式1でnが1であり、m1~m6が0であり得、より詳細には、前記酸化防止剤は、下記化学式1-1の化合物でありうる。
【0066】
【0067】
このような酸化防止剤は、低い揮発性と優れた熱安定性を有するので、ポリイミド被覆物の製造工程中で分解したり揮発したりしないところ、ポリイミドワニス内のアミド基またはポリイミド被覆物のイミド基の酸化を防止する効果を発揮することができる。
【0068】
反対に、5重量%分解温度が380℃以下である酸化防止剤の場合、ポリイミド被覆物の製造工程中で高温により分解して、上記のような酸化防止剤の投入による効果を発揮できない。
【0069】
前記酸化防止剤は、ポリイミドワニスの固形分100重量部に対して0.1~2重量部の範囲で含むことができる。
【0070】
このような酸化防止剤の含量が前記範囲を上回る場合には、ポリイミド被覆物内に沈積またはブルーミング(blooming)現象が発生して、機械的物性をかえって低下させることができ、被覆物の外観に不良が発生することができるので好ましくない。
【0071】
反対に、前記酸化防止剤の含量が前記範囲を下回する場合には、酸化防止効果を十分に発揮できないので好ましくない。
【0072】
本発明は、また、前記ポリイミドワニスがシリコーン系添加物をさらに含むことができる。
【0073】
具体的に、前記ポリイミドワニスの固形分100重量部に対して0.01~0.05重量部のシリコーン系添加物を含むことができる。
【0074】
このようなシリコーン系添加物の含量が前記範囲を上回る場合には、製造されるポリイミド被覆物の機械的物性が低下する可能性があり、イミド化のための熱処理時に前記シリコーン系添加物が高温で分解してポリイミド被覆物と導体間の接着力をかえって低下させ得るので好ましくない。
【0075】
他方で、前記シリコーン系添加物の含量が前記範囲を下回する場合には、製造されるポリイミド被覆物と導体間の接着力改善効果を十分な効果を発揮できないので好ましくない。
【0076】
前記シリコーン系添加物は、例えば、ジメチルポリシロキサン(dimethylpolysiloxane)、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(Polyether modified polydimethysiloxane)、ポリメチルアルキルシロキサン(Polymethylalkylsiloxane)、ヒドロキシル基(-OH)および二重結合構造(C=C)を含むシリコーン添加剤よりなる群から選ばれた1種以上を含むことができるが、これに限定されるのではない。
【0077】
なお、上記で説明したように、前記ポリアミック酸溶液は、1種以上のジアンヒドリド単量体および1種以上のジアミン単量体の重合反応により生成され得る。
【0078】
本発明のポリアミック酸の製造に使用され得るジアンヒドリド単量体は、芳香族テトラカルボキシリックジアンヒドリドでありうる。
【0079】
前記芳香族テトラカルボキシリックジアンヒドリドは、ピロメリチックジアンヒドリド(またはPMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンヒドリド(またはBPDA)、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンヒドリド(またはa-BPDA)、オキシジフタリックジアンヒドリド(またはODPA)、ジフェニルスルホン-3,4,3’,4’-テトラカルボキシリックジアンヒドリド(またはDSDA)、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルフィドジアンヒドリド、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンジアンヒドリド、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンヒドリド、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンヒドリド(またはBTDA)、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタンジアンヒドリド、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパンジアンヒドリド、p-フェニレンビス(トリメリチックモノエステル酸アンヒドリド)、p-ビフェニレンビス(トリメリチックモノエステル酸アンヒドリド)、m-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボキシリックジアンヒドリド、p-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボキシリックジアンヒドリド、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼンジアンヒドリド、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼンジアンヒドリド、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ビフェニルジアンヒドリド、2,92-ビス〔(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパンジアンヒドリド(BPADA)、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボキシリックジアンヒドリド、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボキシリックジアンヒドリド、4,4’-(2,2-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸ジアンヒドリド等を挙げることができる。これらは、所望により単独または2種以上を組み合わせて利用することができる。
【0080】
これらは、所望により単独または2種以上を組み合わせて利用できるが、本発明において特に好ましく利用され得るジアンヒドリド単量体は、ピロメリチックジアンヒドリド(PMDA,pyromellitic dianhydride)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンヒドリド(3,3’,4,4’-benzophenonetetracarboxylic dianhydride,BTDA)、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンヒドリド(2,3,3’,4’-biphenyltetracarboxylic dianhydride)、1H、3H-ナフト[2,3-c:6,7-c’]ジフラン-1,3,6,8-テトロン2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボキシリックジアンヒドリド(1H、3H-naphtho[2,3-c:6,7-c’]difuran-1,3,6,8-tetrone 2,3,6,7-naphthalenetetracarboxylic dianhydride)、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボキシリックジアンヒドリド(1,4,5,8-naphthalenetetracarboxylic dianhydride)、4,4’-オキシジフタリックアンヒドリド(4,4’-oxydiphthalic anhydride)、4,4’-オキシビス(2-ベンゾフラン-1,3-ジオン)(4,4’-oxybis(2-benzofurane-1,3-dione))、4-[(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロ-2-ベンゾフラン-5-イル)オキシ]-2-ベンゾフラン-1,3-ジオン(4-[(1,3-dioxo-1,3-dihydro-2-benzofuran-5-yl)oxy]-2-benzofuran-1,3-dione)および5,5’-スルホニルビス-1,3-イソベンゾフランジオン(5,5’-sulfonylbis-1,3-isobenzofurandione)よりなる群から選ばれた1種以上をさらに含むことができる。
【0081】
本発明のポリアミック酸溶液の製造に使用され得るジアミン単量体は、芳香族ジアミンであって、以下のように分類して挙げることができる。
【0082】
1)1,4-ジアミノベンゼン(またはパラフェニレンジアミン、PDA)、1,3-ジアミノベンゼン、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、3,5-ジアミノ安息香酸(またはDABA)等のように、構造上ベンゼン核1個を有するジアミンであって、相対的に剛直な構造のジアミン;
2)4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(またはオキシジアニリン、ODA)、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル等のジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン(メチレンジアミン)、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジカルボキシ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス(4-アミノフェニル)スルフィド、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,3’-ジクロロベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン(またはo-トリジン)、2,2’-ジメチルベンジジン(またはm-トリジン)、3,3’-ジメトキシベンジジン、2,2’-ジメトキシベンジジン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジクロロベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド等のように、構造上ベンゼン核2個を有するジアミン;
3)1,3-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(またはTPE-Q)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(またはTPE-Q)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)-4-トリフルオロメチルベンゼン、3,3’-ジアミノ-4-(4-フェニル)フェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジ(4-フェニルフェノキシ)ベンゾフェノン、1,3-ビス(3-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3-ビス〔2-(4-アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4-ビス〔2-(3-アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4-ビス〔2-(4-アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン等のように、構造上ベンゼン核3個を有するジアミン;
4)3,3’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン等のように、構造上ベンゼン核4個を有するジアミン。
【0083】
これらは、所望により単独または2種以上を組み合わせて利用できるが、本発明において特に好ましく利用され得るジアミン単量体は、パラ-フェニレンジアミン(p-PDA,para-phenylene diamine)、ジアミノフェニルエーテル、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,6-ジアミノ-ピリジン(2,6-diamino-pyridine)、4,4-ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-diaminodiphenylsulphone)、2-(4-アミノフェニル)-1H-ベンゾオキサゾール-5-アミン(2-(4-aminophenyl)-1H-benzoxazole-5-amine)、2-(4-アミノフェニル)-5-アミノベンズイミダゾール(2-(4-aminophenyl)-5-aminobenzimidazole)、6-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール(6-amino-2-(p-aminophenyl)benzoxazole)および4,4’’-ジアミノ-p-ターフェニル(4,4’’-diamino-p-terphenyl)よりなる群から選ばれる1種以上でありうる。
【0084】
第2様態:ポリイミドワニスの製造方法
本発明に係るポリイミドワニスの製造方法は、
(a)1種以上のジアンヒドリド単量体および1種以上のジアミン単量体を有機溶媒中で重合してポリアミック酸溶液を製造する過程;
(b)前記ポリアミック酸溶液にアルコキシシランカップリング剤および酸化防止剤を混合して混合物を製造する過程;および
(c)前記混合物と4個以上のカルボキシル基を有する芳香族カルボン酸を混合する過程を含むことができる。
【0085】
本発明でポリアミック酸溶液の製造は、例えば、
(1)ジアミン単量体の全量を溶媒中に入れ、その後、ジアンヒドリド単量体をジアミン単量体と略等モルになるように添加して重合する方法;
(2)ジアンヒドリド単量体の全量を溶媒中に入れ、その後、ジアミン単量体をジアンヒドリド単量体と略等モルになるように添加して重合する方法;
(3)ジアミン単量体のうち一部の成分を溶媒中に入れた後、反応成分に対してジアンヒドリド単量体のうち一部の成分を約80~120モル%の割合で混合した後、残りのジアミン単量体成分を添加し、これに続いて残りのジアンヒドリド単量体成分を添加して、ジアミン単量体およびジアンヒドリド単量体が略等モルになるようにして重合する方法;
(4)ジアンヒドリド単量体を溶媒中に入れた後、反応成分に対してジアミン化合物のうち一部の成分を90~110モル%の割合で混合した後、他のジアンヒドリド単量体成分を添加し、これに続いて残りのジアミン単量体成分を添加して、ジアミン単量体およびジアンヒドリド単量体が略等モルになるようにして重合する方法;
(5)溶媒中で一部のジアミン単量体成分と一部のジアンヒドリド単量体成分をいずれか一つが過量になるように反応させて、第1組成物を形成し、さらに他の溶媒中で一部のジアミン単量体成分と一部のジアンヒドリド単量体成分をいずれか一つが過量になるように反応させて第2組成物を形成した後、第1、第2組成物を混合し、重合を完結する方法であって、この際、第1組成物を形成するとき、ジアミン単量体成分が過剰の場合、第2組成物では、ジアンヒドリド単量体成分を過量とし、第1組成物においてジアンヒドリド単量体成分が過剰の場合、第2組成物では、ジアミン単量体成分を過量として、第1、第2組成物を混合して、これらの反応に使用される全体ジアミン単量体成分とジアンヒドリド単量体成分が略等モルになるようにして重合する方法等を挙げることができる。
【0086】
前記有機溶媒は、ポリアミック酸が溶解することができる溶媒なら、特に限定されないが、一例として、非プロトン性極性溶媒(aprotic polar solvent)でありうる。
【0087】
前記非プロトン性極性溶媒の非制限的な例として、N,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)等のアミド系溶媒、p-クロロフェノール、o-クロロフェノール等のフェノール系溶媒、N-メチル-ピロリドン(NMP)、ガンマブチロラクトン(GBL)およびジグリム(Diglyme)等を挙げることができ、これらは、単独でまたは2種以上組み合わせて使用され得る。
【0088】
場合によっては、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、水等の補助的溶媒を使用して、ポリアミック酸の溶解度を調節することもできる。
【0089】
一例において、本発明のポリイミドワニスの製造に特に好ましく使用され得る有機溶媒は、アミド系溶媒であるN,N’-ジメチルホルムアミドおよびN,N’-ジメチルアセトアミドでありうる。
【0090】
前記重合方法が以上の例に限定されるものではなく、公知されたいずれの方法を使用できることはもちろんである。
【0091】
前記ジアンヒドリド単量体は、上記で説明した例示から適切に選ばれることができ、詳細には、ピロメリチックジアンヒドリド(PMDA,pyromellitic dianhydride)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンヒドリド(3,3’,4,4’-benzophenonetetracarboxylic dianhydride,BTDA)、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンヒドリド(2,3,3’,4’-biphenyltetracarboxylic dianhydride)、1H、3H-ナフト[2,3-c:6,7-c’]ジフラン-1,3,6,8-テトロン2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボキシリックジアンヒドリド(1H、3H-naphtho[2,3-c:6,7-c’]difuran-1,3,6,8-tetrone 2,3,6,7-naphthalenetetracarboxylic dianhydride)、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボキシリックジアンヒドリド(1,4,5,8-naphthalenetetracarboxylic dianhydride)、4,4’-オキシジフタリックアンヒドリド(4,4’-oxydiphthalic anhydride)、4,4’-オキシビス(2-ベンゾフラン-1,3-ジオン)(4,4’-oxybis(2-benzofurane-1,3-dione))、4-[(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロ-2-ベンゾフラン-5-イル)オキシ]-2-ベンゾフラン-1,3-ジオン(4-[(1,3-dioxo-1,3-dihydro-2-benzofuran-5-yl)oxy]-2-benzofuran-1,3-dione)および5,5’-スルホニルビス-1,3-イソベンゾフランジオン(5,5’-sulfonylbis-1,3-isobenzofurandione)よりなる群から選ばれる1種以上をさらに含むことができる。
【0092】
前記ジアミン単量体は、上記で説明した例示から適切に選ばれることができ、詳細には、パラ-フェニレンジアミン(p-PDA,para-phenylene diamine)、ジアミノフェニルエーテル、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,6-ジアミノ-ピリジン(2,6-diamino-pyridine)、4,4-ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-diaminodiphenylsulphone)、2-(4-アミノフェニル)-1H-ベンゾオキサゾール-5-アミン(2-(4-aminophenyl)-1H-benzoxazole-5-amine)、2-(4-アミノフェニル)-5-アミノベンズイミダゾール(2-(4-aminophenyl)-5-aminobenzimidazole)、6-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール(6-amino-2-(p-aminophenyl)benzoxazole)および4,4’’-ジアミノ-p-ターフェニル(4,4’’-diamino-p-terphenyl)よりなる群から選ばれる1種以上が好ましく利用され得る。
【0093】
前記過程(a)は、30~80℃で行われ、前記ポリアミック酸溶液は、23℃での粘度が500~9,000cPの範囲でありうる。
【0094】
また、前記過程(b)は、ポリアミック酸溶液にシリコーン系添加物をさらに混合し、40~90℃で行われ得る。
【0095】
上記で説明した通り、前記ポリイミドワニスに含まれた芳香族カルボン酸は、ワニス状態ではポリアミック酸に重合されないが、その後、イミド化のための熱処理時にポリイミド鎖の長さを増加させることによって、前記ポリイミドワニスをコーティングする過程では、低い粘度によって工程取り扱い性が良く、コ―ティグされた後に硬化過程で高分子鎖の長さが増加するので、さらに高い分子量を有するポリアミック酸から製造されるポリイミド被覆物と類似した水準の耐熱性、絶縁性、柔軟性および基材との接着性を確保することができる。
【0096】
また、前記ポリイミドワニスに含まれた酸化防止剤は、ポリイミド被覆物の物性変化を最小化することができ、前記ポリイミドワニスに含まれたアルコキシシランカップリング剤およびシリコーン系添加物は、ポリイミド被覆物と導体間の接着力を向上させることができる。
【0097】
第3様態:ポリイミド被覆物の製造方法およびポリイミド被覆物
本発明に係るポリイミド被覆物の製造方法は、
(1)ポリイミドワニスを導体の表面にコーティングする過程;および
(2)前記導体の表面にコーティングされたポリイミドワニスをイミド化する過程を含み、
前記過程(1)および(2)を連続的に4~20回繰り返し行うことを特徴とする。
【0098】
前記過程(1)および(2)の繰り返し行う1回当たり前記ポリイミドワニスがコーティングされる厚さは、2~6μmであり、
前記過程(2)は、300~750℃で行われ得る。
【0099】
また、前記導体の被覆速度は、2~30m/分でありうる。
【0100】
前記導体は、銅または銅合金からなる銅線でありうるが、銀線等の他の金属材料からなる導体や、アルミニウム、スズメッキ導線等の各種金属メッキ線も、導体に含まれ得る。
【0101】
導体の断面形状としては、環線、平角線、六角線等でありうるが、これに制限されるものではない。
【0102】
本発明の製造方法においてポリイミド被覆物は、熱イミド化法を通じて製造され得る。
【0103】
前記熱イミド化法とは、化学的触媒を排除し、熱風や赤外線乾燥器等の熱源でイミド化反応を誘導する方法である。
【0104】
前記熱イミド化法は、ポリイミドワニスを100~750℃の範囲の可変的な温度で熱処理してポリイミドワニスに存在するアミック酸基をイミド化することができ、詳細には、300~750℃、より詳細には、500~700℃で熱処理してポリイミドワニスに存在するアミック酸基をイミド化することができる。
【0105】
特に、本発明に係るポリイミドワニスは、ポリアミック酸の分子量が高いので、上記のような高温で熱処理時にも、ポリイミド被覆物の表面に欠陥が発生したり、ポリイミド樹脂が炭化する問題が発生したりせず、高いイミド化率を達成することができる。
【0106】
以上のような製造方法によって製造された本発明のポリイミド被覆物は、厚さが16~50μmの範囲であり、tanδが250℃以上でありうる。
【0107】
本発明は、また、前記ポリイミドワニスを電線の表面にコーティングし、イミド化して製造されたポリイミド被覆物を含む電線を提供することができ、前記電線を含む電子装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0108】
以下、発明の具体的な実施例を通じて、発明の作用および効果をさらに詳述することとする。ただし、このような実施例は、発明の例示として提示されたものに過ぎず、これによって発明の権利範囲が定められるものではない。
【0109】
以下、実施例および比較例において使用した略語の化合物名は次の通りである。
-ピロメリト酸二無水物:PMDA
-ピロメリト酸:PMA
-オキシジアニリン:ODA
-N-メチルピロリドン:NMP
【0110】
<実施例1>
製造例1:ポリアミック酸溶液の製造
撹拌機および窒素注入・排出管を具備した500ml反応器に窒素を注入させながら364.6gのNMPを投入し、反応器の温度を30℃に設定した後、61.4gのODAおよび63.5gのPMDAを投入して、完全に溶解したことを確認する。
【0111】
窒素雰囲気下に50℃に温度を上げて加熱しつつ、120分間撹拌を継続した後、23℃での粘度が10,000cPを示すポリアミック酸溶液を製造した。
【0112】
製造例2:ポリイミドワニスの製造
反応器の温度を50℃に設定した後、前記製造例1のポリアミック酸溶液にアルコキシシランカップリング剤としてOFS-6011、酸化防止剤として5重量%分解温度が約402℃である下記化学式1-1の化合物、シリコーン系添加物としてBYK-378を1:50:1の重量比で投入し、30分間徐々に撹拌して、アルコキシシランカップリング剤、酸化防止剤およびシリコーン系添加物を含む混合液を製造した。
【0113】
【0114】
引き続いて、反応器の温度を50℃に設定した後、ODA100モルに対して5モルのPMAを投入した。反応が完了するまで十分に撹拌して、総固形分の含量が約25重量%、粘度が約3,000cPになるようにNMPを投入し、ジアミン単量体、ジアンヒドリド単量体および芳香族カルボン酸のモル比が100:95:5であり、固形分100重量部に対してアルコキシシランカップリング剤を0.01重量部、酸化防止剤を0.5重量部、シリコーン系添加物を0.01重量部含むポリイミドワニスを製造した。
【0115】
製造例3:ポリイミド被覆物の製造
コーティング硬化炉内で前記製造例2のポリイミドワニスを導体径1mmの銅線に1回当たりコーティング厚さを2~6μmの間に調節し、コーティング硬化炉の最高温度を500℃に調節し、銅線の被覆速度を12m/分に調節した状態で、総7回コーティング、乾燥および硬化する過程を繰り返して被覆厚さが35μmのポリイミド被覆物を含む電線を製造した。
【0116】
<実施例2~10および比較例1~12>
実施例1において、単量体、添加物、硬化炉最高温度、ポリイミドワニスの固形分の含量および粘度をそれぞれ下記表1のように変更したことを除いて、実施例1と同じ方法で電線を製造した。
【0117】
<比較例13>
実施例1において、酸化防止剤として化学式1-1の化合物の代わりに5重量%分解温度が約377℃である下記化学式Aの化合物を投入したことを除いて、実施例1と同じ方法で電線を製造した。
【0118】
【0119】
<比較例14>
実施例1において、酸化防止剤として化学式1-1の化合物の代わりに5重量%分解温度が約338℃である下記化学式Bの化合物を投入したことを除いて、実施例1と同じ方法で電線を製造した。
【0120】
【0121】
【0122】
<実験例1:外観不良評価>
実施例1~10、比較例1~14で製造された電線のポリイミド被覆物の外観を肉眼で観察して、不良有無を判断し、その結果を下記表2に示した。
【0123】
例えば、良品の被覆物であるとき、「O」で示し、ピンホールまたはポリイミド樹脂が炭化する等の外観不良が発見されたとき、「X」で示した。
【0124】
<実験例2:耐熱衝撃評価>
実施例1~10、比較例1~14で製造された電線のポリイミド被覆物に対して耐熱衝撃を評価した。耐熱衝撃は、電線が拡張された状態またはマンドリルの周辺に巻かれたり曲がった状態で温度露出に耐えることができるかを示す指標である。
【0125】
具体的に、耐熱衝撃を評価するために、実施例1~10、比較例1~14で製造された電線のポリイミド被覆物を200℃の温度で30分間加熱し、オーブンから取り出した後、試験片を室温に冷却させた後、20%伸長時のポリイミド被覆物のクラック発生個数を判断し、その結果を下記表2に示した。
【0126】
【0127】
表2の結果から、本発明の範囲を外れるようにPMAを使用した比較例1~4、固形分の含量が本発明の範囲を下回する比較例5、酸化防止剤、シリコーン系添加物およびアルコキシシランカップリング剤のうち少なくとも1つが本発明の範囲を外れるように含まれる比較例6~12の場合、ポリイミド被覆物のコーティングが均一でないか、部分的に炭化が発生し、耐熱衝撃に脆弱であることが分かる。
【0128】
<実験例3:物性評価>
実施例1~10、比較例1~14で製造された電線のポリイミド被覆物の物性を下記方式を利用して測定し、その結果を下記表3に示した。
【0129】
(1)tanδ値
DSE社TD300 Tan Delta Testerを使用してポリイミド被覆物のtanδ値を測定した。
【0130】
具体的に、導体を1つの電極とし、黒鉛コーティングを他の電極として試験片をブリッジに接続し、組立体の温度は、周囲温度で明確に定義された曲線を提供する温度で一定の割合で増加させる。温度は、試料と接触する検出器を通じて取り、その結果は、温度に対する線形軸とtanδに対するログまたは線形軸のグラフで描かれ、その値を通じてポリイミド被覆物のtanδ値を計算した。
【0131】
(2)耐軟化度
耐軟化度は、絶縁体の分解温度を示すものであり、規定された負荷が交差点に加えられた状態で直角に互いに交差する2個の電線の間で短絡が発生する温度を測定して決定する。
【0132】
具体的に、電線を直角で交差するように重なって平板上に配置し、重なった部分に1000gの荷重を加えた状態で、交流電圧100Vを加え、その状態で約2℃/minの割合で温度を上昇させて、短絡する温度を測定した。
【0133】
(3)絶縁破壊電圧(BDV)
試験片を4時間の間150℃のオーブンで前処理した後、圧力容器に配置する。圧力容器を1400gの冷媒で満たし、圧力容器を72時間の間加熱した後、圧力容器を冷却させ、試験片を150℃オーブンに移して、10分間維持し、室温に冷却させる。電線の両末端を連結し、電線導体の間に試験電圧(60Hz)公称周波数の交流電圧を0から一定の速度で増加させて、BDVを測定した。
【0134】
(4)ピンホール試験
電線のポリイミド被覆物に対して絶縁体の欠陥が存在するか否かを確認するためにピンホール試験を実施した。具体的に、約1.5mの長さの電線試験片を取って、空気循環オーブン(125℃)で10分間放置し、その後、どんな屈曲や伸長なく常温で冷却させた。冷却された電線試験片を、直流試験電圧を有する電気回路に接続された状態でフェノールフタレインアルコールが添加された塩化ナトリウム電解液に浸漬した後、取り出して、肉眼でピンホールの個数を確認した。
【0135】
<実験例4:引張試験>
実施例1~10、比較例1~14で製造された電線のポリイミド被覆物に対して、導体と被覆物間の接着力を確認するために、引張試験を実施し、その結果を下記表3に示した。
【0136】
具体的に、200~250mmの自由測定長さを有するストレートな電線試験片を破壊点または当該標準に与えられた伸長(20%)まで速やかに伸ばす。伸長後、明示された倍率(1~6倍)で試験片に接着力の損失や亀裂が発生したかを検査する。破壊された電線の終端の長さ2mmは無視されなければならない。
【0137】
3個の試験片をテストする。電線に亀裂および/または接着力の損失が現れると、これを記録する。
【0138】
【0139】
表3を参照すると、本発明に係るPMA、酸化防止剤、シリコーン系添加物およびアルコキシシランカップリング剤を含むポリイミドワニスから製造された実施例1~10のポリイミド被覆物は、tanδが250℃以上であり、耐軟化度が520℃以上であって、耐熱性に優れ、絶縁破壊電圧が8kV/mm以上であって、絶縁性に優れ、引張試験を通じて導体と被覆物間の接着力に優れていることを確認することができる。
【0140】
他方で、PMA、酸化防止剤、シリコーン系添加物、アルコキシシランカップリング剤、および固形分の含量、粘度、および硬化炉の最高温度において実施例と差異を有する比較例1~14の場合、実施例に比べてtanδ、耐軟化度または絶縁破壊電圧のうち少なくとも1つ以上が低下し、ピンホール試験によるピンホール個数、すなわち絶縁体の欠陥が相対的に多数存在することを確認することができる。
【0141】
また、一部の比較例、特に、シリコーン系添加物またはアルコキシシランカップリング剤が本発明の範囲を外れるように含まれる比較例6~9の場合、引張試験でポリイミド被覆物の外面にクラックが多数観察されて、導体と被覆物間の接着力が低下したことを確認することができる。
【0142】
また、酸化防止剤を投入しないか、5重量%分解温度が380℃以下の酸化防止剤を投入したポリイミドワニスから製造された比較例12~14のポリイミド被覆物の場合、tanδ、耐軟化度または絶縁破壊電圧のうち少なくとも1つ以上が低下したところ、ポリイミド被覆物の製造工程中に、高温で前記酸化防止剤が分解した結果であることを予測することができる。
【0143】
以上、本発明の実施例を参照して説明したが、本発明の属する分野における通常の知識を有する者なら、上記の内容に基づく本発明の範疇内で多様な応用および変形を行うことが可能だろう。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明に係るポリイミドワニスは、4個以上のカルボキシル基を有する芳香族カルボン酸を含むことによって、ポリイミドワニスをコーティングする過程では、低い粘度に起因して工程取り扱い性が良く、コーティングされた後に硬化過程で高分子鎖の長さが増加するので、さらに高い分子量を有するポリアミック酸から製造されるポリイミド被覆物と類似した水準の耐熱性、絶縁性、柔軟性および基材との接着性を確保することができる。
【0145】
また、ポリイミドワニスに含まれるアルコキシシランカップリング剤およびシリコーン系添加物は、ポリイミド被覆物と導体間の接着力を向上させて生産収率を向上させることができる。
【0146】
また、ポリイミドワニスに含まれる5重量%分解温度が380℃以上の酸化防止剤は、低い揮発性と優れた熱安定性を有するので、ポリイミド被覆物の製造工程中で分解することも揮発することなく、ポリイミドワニス内のアミド基またはポリイミド被覆物のイミド基の酸化を防止することができ、それによってポリイミド被覆物の物性変化を最小化することができる。
【0147】
このようなポリイミド被覆物は、電子装置に要求される耐熱性、絶縁性および柔軟性を満たすという利点がある。