(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】触媒燃焼のための組成物、方法、及び装置
(51)【国際特許分類】
B01J 23/62 20060101AFI20220913BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20220913BHJP
F23D 14/18 20060101ALI20220913BHJP
F23C 13/04 20060101ALI20220913BHJP
F23C 13/08 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
B01J23/62 M ZAB
B01J37/02 301N
F23D14/18 E
F23C13/04
F23C13/08
(21)【出願番号】P 2020511498
(86)(22)【出願日】2018-08-22
(86)【国際出願番号】 AU2018050895
(87)【国際公開番号】W WO2019036762
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-06-08
(32)【優先日】2017-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517403352
【氏名又は名称】スター サイエンティフィック リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100116872
【氏名又は名称】藤田 和子
(72)【発明者】
【氏名】ヒートン スティーヴン ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】カーク サミュエル ジェームズ
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-025151(JP,A)
【文献】特開2015-180602(JP,A)
【文献】国際公開第2014/037300(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0082128(US,A1)
【文献】特表2007-510278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
F23D 14/18
F23C 13/04
F23C 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素酸化触媒(HOC)と、
酸素還元触媒(ORC)と、を含む触媒組成物であって、
前記触媒組成物が水素燃焼反応の低温活性化に適しており、
前記HOCの表面積対前記ORCの表面積の比
が9:1
~4:1であ
り、
前記HOCが貴金属であり、
前記ORCが鉄、亜鉛、銀、銅、スズ、これらの酸化物、またはこれらの組み合わせである、
前記触媒組成物。
【請求項2】
前記HOCの表面積対前記ORCの表面積の比
が20:3である、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項3】
前記HOC及び前記ORCが電着によって形成される、請求項1または2に記載の触媒組成物。
【請求項4】
前記触媒組成物
が140℃未満の温度で水素燃焼を活性化するように適合される、請求項1~3のいずれか1項に記載の触媒組成物。
【請求項5】
前記触媒組成物が20℃未満の温度で水素燃焼を活性化するように適合される、請求項4に記載の触媒組成物。
【請求項6】
前記HOCが白金またはパラジウムである、請求項
5に記載の触媒組成物。
【請求項7】
前記HOCがパラジウムである、請求項
6に記載の触媒組成物。
【請求項8】
前記ORCが酸化第一スズである、請求項
7に記載の触媒組成物。
【請求項9】
基材を準備すること、
前記基材に触媒組成物を付着させて触媒表面を形成すること、
を含む、触媒組成物を付着させる方法であって、
前記触媒組成物が水素酸化触媒(HOC)と酸素還元触媒(ORC)を含み、
前記触媒表面が水素燃焼反応の低温活性化に適しており、
前記触媒表面が
、表面積で9:1
~4:1の比を有するHOC領域とORC領域を含
み、
前記HOCが貴金属であり、
前記ORCが鉄、亜鉛、銀、銅、スズ、これらの酸化物、またはこれらの組み合わせである、
前記方法。
【請求項10】
前記HOC領域対前記ORC領域の比
が20:3である、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記触媒組成物を付着させることが前記HOCを付着させること及び前記ORCを付着させることを含む、請求項
9または
10に記載の方法。
【請求項12】
前記HOCを付着させた後にORCを付着させる、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記触媒組成物を付着させることが、前記HOC、前記ORC、またはその両方を前記基材に電気めっきすることを含む、請求項
9~
12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記触媒組成物を付着させることが、前記HOCを前記基材に電気めっきすることを含む、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記触媒組成物を付着させることが、前記HOCが付着した基材に前記ORCを電気めっきすることを含む、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
前記触媒組成物を付着させる前に前駆体を前記基材に付着させることを更に含み、前記前駆体が前記基材への前記触媒組成物の付着性を高める、請求項
9~
15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記前駆体がニッケルまたは銅である、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
前記前駆体を付着させることが、前記前駆体を前記基材に電気めっきすることを含む、請求項
16または
17に記載の方法。
【請求項19】
前記触媒組成物が付着した基材を加熱処理することを更に含む、請求項
9~
18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
複数のプレートを含む加熱要素であって、燃料を触媒燃焼するための触媒組成物が上に付着した触媒表面を各プレートが含み、前記触媒組成物が水素酸化触媒(HOC)と酸素還元触媒(ORC)を含む、前記加熱要素と、
前記複数のプレートと接触する導管であって、
熱交換媒体を受け入れるための入口、及び出口とを含む前記導管と、
前記燃料及び酸化剤を受け入れるための1つ以上の入口を有する、前記導管と前記加熱要素とを囲むシェルと、を含む反応器装置であって、
前記触媒表面が、表面積で9:1~4:1の比を有するHOC領域とORC領域を含み、
前記HOCが貴金属であり、
前記ORCが鉄、亜鉛、銀、銅、スズ、これらの酸化物、またはこれらの組み合わせであり、
前記燃料の前記触媒燃焼により放出されるエネルギーが前記熱交換媒体に伝達され、
前記燃料の前記触媒燃焼の活性化エネルギーを低下させることで反応が低温で起こるように前記触媒組成物が適合される、
前記反応器装置。
【請求項21】
前記複数のプレートが積み重ねられる、請求項
20に記載の反応器装置。
【請求項22】
前記複数のプレートのうちの1枚以上が波形である、請求項
21に記載の反応器装置。
【請求項23】
前記導管が2枚の隣接するプレートの間に配置される、請求項
20~
22のいずれか1項に記載の反応器装置。
【請求項24】
前記導管が2枚の隣接するプレートの間を縫うように通っている、請求項
23に記載の反応器装置。
【請求項25】
2枚の隣接するプレート間の接触地点に内孔または溝を更に含み、前記内孔または溝が前記導管を受け入れるためのものである、請求項
20~
24のいずれか1項に記載の反応器装置。
【請求項26】
隣接するプレートが、ジョイント部材によって間隔を空けられている、請求項
20~
24のいずれか1項に記載の反応器装置。
【請求項27】
前記ジョイント部材が前記導管を受け入れるための内孔または溝を有する、請求項
26に記載の反応器装置。
【請求項28】
2枚の隣接するプレートの間に燃焼キャビティを含む、請求項
20~
27のいずれか1項に記載の反応器装置。
【請求項29】
前記燃料及び前記酸化剤を前記複数のプレートに近接している前記燃焼キャビティに分配するための1つ以上の分配器を更に含む、請求項
28に記載の反応器装置。
【請求項30】
前記1つ以上の分配器が、前記燃料を分配するための第1の分配器と、前記酸化剤を分配するための第2の分配器を含む、請求項
29に記載の反応器装置。
【請求項31】
前記燃料と前記酸化剤との混合が前記燃焼キャビティ内で生じる、請求項
30に記載の反応器装置。
【請求項32】
前記HOC領域対前記ORC領域の比
が20:3である、請求項
31に記載の反応器装置。
【請求項33】
前記熱交換媒体または燃料混合物を予熱するための、前記反応器装置の上流にありこれと熱的に接触する予熱器を更に含む、請求項
20~
32のいずれか1項に記載の反応器装置。
【請求項34】
前記熱交換媒体が水を含む、請求項
20~
33のいずれか1項に記載の反応器装置。
【請求項35】
前記水への前記エネルギーの伝達が、蒸発を生じさせて蒸気を生成する、請求項
34に記載の反応器装置。
【請求項36】
前記加熱要素がモジュール式である、請求項
20~
35のいずれか1項に記載の反応器装置。
【請求項37】
水素酸化触媒(HOC)と酸素還元触媒(ORC)とを有する触媒表面を含む触媒加熱要素を有する触媒反応器に燃料と酸化剤を供給することであって、燃料混合物の燃焼の活性化エネルギーを低下させることで、低温で前記燃焼を生じさせるように触媒表面が適合されることである、前記供給することと、
前記触媒表面で前記燃料混合物を触媒燃焼させることと、
前記触媒燃焼により発生した熱を熱交換媒体に伝達することと、
を含
み、
前記HOCと前記ORCが、表面積で9:1~4:1の比で前記触媒表面に存在し、
前記HOCが貴金属であり、
前記ORCが鉄、亜鉛、銀、銅、スズ、これらの酸化物、またはこれらの組み合わせである、
熱交換媒体の加熱方法。
【請求項38】
前記HOCと前記ORCが、表面積
で20:3の比で前記触媒表面に存在する、請求項
37に記載の方法。
【請求項39】
前記燃料が水素であり、前記酸化剤が酸素である、請求項
37または38に記載の方法。
【請求項40】
前記触媒燃焼が大気圧未満の圧力で生じる、請求項
37~
39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の触媒組成物を含む触媒表面または請求項
9~
19のいずれか1項に記載の方法により調製された触媒表面を含む、触媒燃焼器。
【請求項42】
請求項
41に記載の触媒燃焼器または請求項
20~
36のいずれか1項に記載の反応器装置に燃料及び酸化剤を供給することと、
前記触媒表面上で燃料混合物を触媒燃焼させることと、
を含む、燃料混合物を触媒燃焼させる方法。
【請求項43】
請求項
20~
36のいずれか1項に記載の1つ以上の反応器装置を含む触媒燃焼システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料混合物の触媒燃焼に関する。特に、本発明は、クリーンな燃料混合物の触媒燃焼に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーを利用するために様々な燃料が使用されてきた。伝統的に、燃料の大部分は化石燃料由来である。しかしながら、化石燃料を使用すると、二酸化炭素やその他の温室効果ガスの排出が生じる場合がある。これらの排出が人為的な気候の変化及び全体としての大気質の低下に寄与する可能性があるという証拠が集まってきている。
【0003】
これらの知見に応えて、エネルギー源を化石燃料からよりクリーンな原料由来の燃料に移行する努力がなされてきた。例えば、排出量を削減して大気質を改善するために、多くの国で石炭を燃料とする設備が停止された。この設備は、例えば発電プラントや地域暖房プラントにおいて見ることができる。これらのプラントには、蒸気設備及び/またはタービンなどの他の設備が含まれている場合があり、これらは電気または暖房を生じさせるための他の燃料を用いて使用するために改造することができる。
【0004】
クリーンエネルギーの1つの潜在的な供給源は水素である。水素は、水蒸気改質や電気分解などの様々な方法で生成され得る。電気分解のための電気が、原子力、風力、潮力、または太陽光などのクリーンな供給源由来の場合、生成した水素は炭素の排出を発生させない。水素は酸素と反応して水を生成し、エネルギーを放出する。
【0005】
この反応は、直接電気を生成するために燃料電池で使用されてきた。しかしながら、膜の劣化や燃料電池の複雑な製造プロセスなどの要因のため、燃料としての水素の採用が妨げられてきた。水素は、内燃機関における燃料としても使用されてきた。しかしながら、これらのシステムは複雑な場合があり、そのようなシステムの安全な取り扱いには課題が存在する。
【0006】
触媒燃焼システムが使用されてきたが、そのようなシステムは、多くの場合、予熱システムなどの自立反応を開始するための複雑なまたは高価なシステムを必要とする。自立反応が開始される場合であっても、これらのシステムは、触媒材料のアブレーション及びバルク燃料の発火に関する懸念のため、使用可能な温度によりしばしば制限される。
【0007】
クリーンなエネルギー源を利用するための改善されたシステム及び方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
一態様では、水素酸化触媒(HOC)と酸素還元触媒(ORC)とを含む触媒組成物が提供される。触媒は、水素燃焼反応の低温活性化に適している。
【0009】
いくつかの実施形態では、HOCの表面積対ORCの表面積の比は、約9:1~約4:1である。いくつかの実施形態では、HOCの表面積対ORCの表面積の比は約20:3である。いくつかの実施形態では、HOC及びORCは電着によって形成される。いくつかの実施形態では、触媒は、約140℃未満の温度で水素燃焼を活性化するように構成される。いくつかの実施形態では、触媒は、20℃未満の温度で水素燃焼を活性化するように構成される。いくつかの実施形態では、HOCは貴金属である。いくつかの実施形態では、HOCは白金またはパラジウムである。いくつかの実施形態では、HOCはパラジウムである。いくつかの実施形態では、ORCは酸化第一スズである。
【0010】
一態様では、基材を準備すること;基材に触媒組成物を付着させて触媒表面を形成すること;を含む触媒組成物を付着させる方法が提供される。付着させる触媒組成物は、水素酸化触媒(HOC)及び酸素還元触媒(ORC)を含む。触媒表面は、水素燃焼反応の低温活性化に適している。
【0011】
いくつかの実施形態では、触媒表面は、約9:1~約4:1の比を有するHOC領域とORC領域を含む。いくつかの実施形態では、HOC領域対ORC領域の比は約20:3である。いくつかの実施形態では、触媒組成物を付着させることは、HOCを付着させることとORCを付着させることを含む。いくつかの実施形態では、HOCを付着させた後にORCを付着させる。いくつかの実施形態では、触媒組成物を付着させることは、HOC、ORC、またはその両方を基材に電気めっきすることを含む。いくつかの実施形態では、触媒組成物を付着させることは、HOCを基材に電気めっきすることを含む。いくつかの実施形態では、触媒組成物を付着させることは、HOCが付着した基材にORCを電気めっきすることを含む。いくつかの実施形態では、触媒組成物を付着させる前に前駆体が基材に付着させられ、この前駆体は、基材への触媒組成物の付着性を高める。いくつかの実施形態では、前駆体はニッケルまたは銅である。いくつかの実施形態では、前駆体を付着させることは、前駆体を基材に電気めっきすることを含む。いくつかの実施形態では、触媒が付着した基材を加熱処理するプロセスが提供される。
【0012】
一態様では、反応装置が提供される。装置は、第1の流体材料を受け入れるための入口と出口とを有する導管;燃料混合物を触媒燃焼させるための触媒組成物が上に付着した、触媒表面を含む導管に結合された加熱要素であって、触媒組成物が水素酸化触媒(HOC)と酸素還元触媒(ORC)とを含む加熱要素;並びに第2の流体材料を受け入れるための入口と出口とを有する、導管を囲むシェル;を含む。第1の流体材料と第2の流体材料のうちの一方は燃料混合物を含み、第1の流体材料と第2の流体材料のうちの他方は熱交換媒体を含む。燃料混合物の触媒燃焼により放出されるエネルギーは、熱交換媒体に伝達される。触媒組成物は、反応が低温下で生じるように、燃料混合物の燃焼の活性化エネルギーを下げるように適合される。
【0013】
いくつかの実施形態では、燃料混合物は水素と酸素を含む。いくつかの実施形態では、燃料混合物は水素と酸素とからなる。いくつかの実施形態では、加熱要素に近接している、燃料混合物を分配するための分配器が設けられる。いくつかの実施形態では、加熱要素は少なくとも1つのフィンを更に含み、触媒表面の少なくとも一部は少なくとも1つのフィン上に存在する。
【0014】
一態様では、熱交換媒体の加熱方法が提供される。燃料と酸化剤とを含む燃料混合物は、触媒加熱要素を有する触媒反応器に供給される。触媒加熱要素は、水素酸化触媒(HOC)と酸素還元触媒(ORC)とを有する触媒表面を含み、これは燃料混合物の燃焼の活性化エネルギーを下げることで燃焼が低温で生じるように構成される。燃料混合物は、触媒表面で触媒燃焼される。触媒燃焼によって発生した熱は、熱交換媒体に伝達される。
【0015】
一態様では、触媒燃焼器が提供される。燃焼器は、本明細書に記載の触媒組成物を有するか、本明細書に記載の方法により調製された触媒表面を含む。
【0016】
一態様では、燃料混合物を触媒燃焼する方法が提供される。本明細書に記載の触媒燃焼器または反応器への燃料と酸化剤とを含む燃料混合物は、触媒燃焼器または反応器の触媒表面で触媒燃焼される。
【0017】
いくつかの実施形態では、HOC及びORCは、表面積で約9:1~約4:1の比で触媒表面上に存在する。いくつかの実施形態では、HOC及びORCは、表面積で約20:3の比で触媒表面に存在する。いくつかの実施形態では、燃料は水素であり、酸化剤は酸素である。いくつかの実施形態では、触媒燃焼は大気圧より低い圧力で生じる。
【0018】
一態様では、複数のプレートを含む加熱要素であって、燃料を触媒燃焼するための触媒組成物が上に付着した触媒表面を各プレートが含み、触媒組成物が水素酸化触媒(HOC)と酸素還元触媒(ORC)を含む、加熱要素;並びに複数のプレートと接触する導管であって、熱交換媒体を受け入れるための入口と出口とを含む導管;並びに燃料及び酸化剤を受け入れるための1つ以上の入り口を有する、導管と加熱要素とを囲むシェル;を含む反応器装置であって、燃料の触媒燃焼により放出されるエネルギーが熱交換媒体に伝達され、燃料の燃焼の活性化エネルギーを低下させることで反応が低温で起こるように触媒組成物が適合されている、反応器装置が提供される。
【0019】
いくつかの実施形態では、複数のプレートは積み重ねられる。いくつかの実施形態では、複数のプレートは波形である。いくつかの実施形態では、導管は、2枚の隣接するプレートの間に配置される。いくつかの実施形態では、導管は、2枚の隣接するプレートの間を縫うように通っている。いくつかの実施形態では、2枚の隣接するプレート間の接触地点に内孔または溝が設けられ、内孔または溝は導管を受け入れるためのものである。いくつかの実施形態では、隣接するプレートは、ジョイント部材によって間隔を空けられている。いくつかの実施形態では、ジョイント部材は、導管を受け入れるための内孔または溝を有する。いくつかの実施形態では、2枚の隣接するプレートの間に燃焼キャビティが設けられる。いくつかの実施形態では、複数のプレートに近接している、燃料及び酸化剤を燃焼キャビティに分配するための1つ以上の分配器が設けられる。いくつかの実施形態では、1つ以上の分配器は、燃料を分配するための第1の分配器と、酸化剤を分配するための第2の分配器を含む。いくつかの実施形態では、燃料と酸化剤の混合は燃焼キャビティ内で生じる。触媒表面が、約9:1~約4:1の比を有するHOC領域とORC領域とを含む、請求項23~39のいずれか1項に記載の反応器。いくつかの実施形態では、HOC領域対ORC領域の比は約20:3である。いくつかの実施形態では、熱交換媒体または燃料混合物を予熱するために、反応器の上流にありこれと熱的に接触する予熱器が設けられる。いくつかの実施形態では、熱交換媒体は水を含む。いくつかの実施形態では、水へのエネルギーの伝達は、蒸発を生じさせて蒸気を生成する。いくつかの実施形態では、加熱要素はモジュール式である。
【0020】
一態様では、本明細書に記載の1つ以上の反応器または触媒燃焼器を含む触媒燃焼システムが提供される。
【0021】
以降で本発明の態様を以下の添付の図面と共に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】水素酸化触媒を含む連続相及び酸素還元触媒を含む不連続相を示す触媒表面を示す概略図である。
【
図1B】水素酸化触媒を含む連続相及び酸素還元触媒を含む不連続相を示す触媒表面を示す概略図であり、不連続相の総面積は
図1Aに示す面積と同じであるが、より大きな界面周囲長を有する。
【
図2】本発明の実施形態による触媒組成物を付着させるプロセスを示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態による熱交換器断面の斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態による熱交換媒体を加熱するプロセスを示すブロック図である。
【
図5A】基材上に噴霧された触媒粒子を示す概略図である。
【
図5B】本発明の実施形態に従って基材上に電気めっきされた触媒を示す概略図である。
【
図6A】本発明の実施形態に従ってコーティングされた基材上のパラジウム及びスズの存在を示すSEM画像である。
【
図6B】本発明の実施形態に従ってコーティングされた基材上のパラジウムの存在を示すSEM画像である。
【
図6C】本発明の実施形態に従ってコーティングされた基材上のパラジウム及びスズの存在を示すSEM画像である。
【
図7】本発明の実施形態による方法に従って運転されたシステムの温度を示すプロットである。
【
図8】本発明の実施形態による熱交換器断面の斜視図である。一組の燃料と酸化剤の入口が示されている。
【
図9】
図8に示されている熱交換器の実施形態の加熱要素の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の説明全体を通じて、当業者がより完全に理解するために、具体的な詳細な事項が示される。しかしながら、本開示が不必要に不明瞭になることを避けるために、周知の要素が示されていない場合や詳細に説明されていない場合がある。したがって、説明及び図面は、制限的な意味ではなく、例示的な意味であるとみなされるべきである。
【0024】
触媒組成物
一態様では、水素酸化触媒(HOC)と酸素還元触媒(ORC)とを含む触媒組成物が提供される。この触媒組成物は、水素燃焼反応の低温活性化に適している。
【0025】
いくつかの実施形態では、HOCは、その表面分子水素が水素ラジカルへと解離する材料である。いくつかの実施形態では、HOCは貴金属である。いくつかの実施形態では、貴金属はパラジウムまたは白金である。いくつかの実施形態では、貴金属はパラジウムである。
【0026】
いくつかの実施形態では、ORCは、その表面分子酸素が酸素ラジカルへと解離する材料である。いくつかの実施形態では、ORCは、鉄、亜鉛、銀、銅、スズ、これらの酸化物、またはこれらの任意の組み合わせである。いくつかの実施形態では、ORCはSnO2である。
【0027】
いくつかの実施形態では、分子水素及び分子酸素を触媒組成物に導入すると、HOCは分子水素を水素ラジカルへと解離させ、ORCは分子酸素を酸素ラジカルへと解離させる。触媒表面で2つの水素ラジカルが1つの酸素ラジカルへと輸送されると、水の形成が生じる。全体としての反応は発熱的であり、水素の触媒燃焼とみなすことができる。触媒水素燃焼によって放出されるエネルギーは、他の目的のために利用することができる。いくつかの実施形態では、反応により放出されるエネルギーは、熱交換媒体を加熱するために使用される。別の実施形態では、反応により放出されるエネルギーは仕事へと変換される。
【0028】
いくつかの実施形態では、触媒組成物は、低温で反応が起こるように水素燃焼反応の活性化エネルギーを低下させる。例えば、反応の活性化エネルギーは、反応が140℃未満、100℃未満、50℃未満、30℃未満、20℃未満、15℃未満、更には10℃未満の温度で起こるように下げることができる。いくつかの実施形態では、触媒表面で生じる水素燃焼反応は、バルク分子状水素を発火させない。そのような実施形態では、触媒燃焼は無炎触媒燃焼である。
【0029】
いくつかの実施形態では、HOCとORCは、大きい界面周囲長を有するように構成される。いくつかの実施形態では、HOCの表面積対ORCの表面積の比は、9:1~4:1である。いくつかの実施形態では、HOCの表面積対ORCの表面積の比は約20:3である。いくつかの実施形態では、これらのHOCとORCの表面積比は、水素燃焼反応がより低い温度で進行できるように、活性化反応を低下させるのに十分な触媒材料の界面周囲長及び量を与える。
【0030】
いくつかの実施形態では、
図1A及び1Bを参照すると、触媒100の表面上で、HOCは連続表面領域110を形成し、ORCは不連続表面領域120を形成する。いくつかの実施形態では、HOCとORCは、連続した表面領域と不連続な表面領域との間の総界面周囲長を増加させるように構成される。例えば、各不連続表面領域120’の大きさを小さくする一方で不連続表面領域の数を増やすと、結果として同じ不連続表面領域全体の総界面周囲長が増加する。
【0031】
触媒水素燃焼反応の活性化エネルギーが低下して反応が低温で、例えば室温で起こる場合、反応は、予熱または他の開始工程を必要とせずに水素と酸素を触媒組成物に単に導入することによって開始することができる。予熱をなくすことにより、触媒水素燃焼システムの複雑さとコストを減らすことができる。更に、予熱は、意図しない早すぎる水素燃焼の潜在的なリスクをもたらし、これは効率の低下または安全性の懸念をもたらす可能性がある。
【0032】
触媒の調製
いくつかの実施形態では、触媒組成物は、以下に記載される方法に従って調製される。いくつかの実施形態では、触媒組成物は電気めっきにより形成される。
【0033】
一態様では、触媒組成物を調製する方法200が提供される。
図2を参照すると、この方法は、202で基材を準備することを含む。208では、触媒組成物を基材に付着させることで触媒表面が形成される。触媒組成物は、水素酸化触媒(HOC)と酸素還元触媒(ORC)を含む。触媒表面は、水素燃焼反応の低温活性化に適している。
【0034】
いくつかの実施形態では、触媒組成物は、HOC領域とORC領域を含む。いくつかの実施形態では、触媒表面は、約9:1~約4:1の比で存在するHOC領域とORC領域を含む。いくつかの実施形態では、HOC領域対ORC領域の比は約20:3である。
【0035】
いくつかの実施形態では、基材は水素脆化に耐性を有する。いくつかの実施形態では、基材は、グラファイト、セラミック、オーステナイト系ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、または銅合金である。いくつかの実施形態では、基材は、グラファイト、セラミック、オーステナイト系ステンレス鋼、または銅合金である。いくつかの実施形態では、基材はグラファイトまたはオーステナイト系ステンレス鋼である。いくつかの実施形態では、基材はグラファイトである。いくつかの実施形態では、基材は316ステンレス鋼である。いくつかの実施形態では、基材は熱伝導体である。基材を横断する熱の伝導により、反応部位での熱の蓄積を減少させ、それによりホットスポットの形成を減少させることができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、触媒組成物を付着させることは、208AでHOCを付着させること、及び208BでORCを付着させることを含む。いくつかの実施形態では、HOCはORCを付着させる前に付着させられる。いくつかの実施形態では、ORCはHOCを付着させる前に付着させられる。いくつかの実施形態では、HOCとORCは単一の工程で付着させられる。いくつかの実施形態では、触媒組成物を付着させることは、基材をHOC、ORC、またはその両方でコーティングすることを含む。いくつかの実施形態では、コーティングは、電気めっきすることまたは溶融した触媒材料を基材に付着させることを含む。いくつかの実施形態では、コーティングは電気めっきすることを含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、触媒組成物を付着させると、結果として保護表面が形成される。例えば、いくつかの実施形態では、触媒組成物は基材の酸化を阻害する。そのため、いくつかでは、触媒を付着させることでより多様な基材の材料の使用を可能にすることができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、触媒組成物を付着させることは、前駆体またはストライクを付着させることを含む。一実施形態では、前駆体を付着させることは、触媒組成物を付着させる前にベース層を付着させることを含む。いくつかの実施形態では、ベース層はストライクである。本明細書で使用される用語「ストライク」は、基材への触媒の結合または付着を促進するために基材と触媒との間に設けられる層を指す。一実施形態では、ストライクはニッケルである。別の実施形態では、ストライクは銅、亜鉛、または銅である。ストライクが付着させられるこのような実施形態では、方法は、熱処理を含む1つ以上の仕上げ工程を含む。
【0039】
いくつかの実施形態では、基材はテクスチャー加工された表面を有する。テクスチャー加工された表面は、基材への触媒材料の改善された付着性を付与することができる。表面テクスチャーは、基材への触媒材料の付着性と、熱伝導性及び構造の要件とのバランスをとる。いくつかの実施形態では、基材表面は約12.5μmの粗さ値RaまたはN10のISO粗さ等級を有する。
【0040】
いくつかの実施形態では、任意の触媒材料を付着させる前に、望みのテクスチャリングを付与するために基材が204で粗面化される。いくつかの実施形態では、基材は、研磨、サンドブラスト、やすりかけ、スクライビングスクラッチ、及びローレット加工などの機械的なプロセスを使用して粗面化される。
【0041】
いくつかの実施形態では、任意の触媒材料を付着させる前またはその最中に206で基材が洗浄される。洗浄は、基材から表面の不純物を除去して触媒材料の付着性を改善する。いくつかの実施形態では、表面不純物には、グリース、機械的粗面化処理由来の残留物、またはその両方が含まれる。いくつかの実施形態では、洗浄には、電解洗浄、溶媒での洗浄、またはその両方が含まれる。いくつかの実施形態では、洗浄には、化学洗浄、超音波洗浄、またはその両方が含まれる。
【0042】
好ましい一実施形態では、触媒組成物を付着させる208の前にベース層が基材に付着させられる207。いくつかの実施形態では、ベース層はニッケルベースのコーティングである。一実施形態では、ニッケルベースのコーティングは、ホウ酸の溶媒中のNiCl塩を使用して、3~10Vの電圧及び2~5Aの電流で、100~500ミクロンの深さまで電解により付着させられる。基材の被覆率は、走査型電子顕微鏡(SEM)/エネルギー分散型X線(EDX)を使用して検査される。好ましくは、基材の80%超、基材の90%超、基材の95%超、基材の99%超、または基材の100%の被覆率を有する、ベース層の滑らかで連続的なコーティングが基材に付着させられる。ニッケルベース層は、基材への触媒の結合を促進する。一実施形態では、ニッケルベース層はステンレス鋼基材とHOCの両方に対して強い親和性または結合性を有するため、ニッケルベース層はステンレス鋼基材へのHOCの付着性を改善する。いくつかの実施形態では、ニッケルベース層は、反応器の加熱要素プレートへの触媒の付着を大幅に改善し、材料の寿命を延ばす。
【0043】
別の実施形態では、HOCを付着させること208Aは、基材を触媒で直接コーティングすることを含む。いくつかの実施形態では、コーティングは、基材をHOCで電気めっきすることを含む。いくつかの実施形態では、電気めっきは、HOCの塩と溶媒とを含むHOC電気めっき溶液に浸漬された基材に電流を印加することを含む。
【0044】
いくつかの実施形態では、HOCを付着させることは、ベース層コーティングを有する基材をコーティングすることを含む。一実施形態では、ベース層はニッケルである。いくつかの実施形態では、コーティングは、ベース層でコーティングされた基材をHOCで電気めっきすることを含む。いくつかの実施形態では、電気めっきは、HOCの塩と溶媒とを含むHOC電気めっき溶液に浸漬された、ベース層でコーティングされた基材に、電流を印加することを含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、HOCの塩はアンモニウム塩または塩化物塩である。いくつかの実施形態では、HOCの塩は塩化アンモニウムパラジウムまたは塩化パラジウムである。いくつかの実施形態では、塩は塩化パラジウムである。いくつかの実施形態では、HOCの塩は、約5mM~約15mMの濃度で存在する。いくつかの実施形態では、HOCの塩は、約7mM~約10mMの濃度で存在する。いくつかの実施形態では、HOCの塩は約8.8mMの濃度で存在する。
【0046】
いくつかの実施形態では、溶媒はアンモニア水を含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、HOC電気めっき溶液は導電剤を含む。いくつかの実施形態では、導電剤はNaClを含む。
【0048】
いくつかの実施形態では、電気めっきは、約5V~約32Vの電圧を印加することを含む。いくつかの実施形態では、電気めっきは、約0.3A~約3Aの電流を印加することを含む。いくつかの実施形態では、電気めっきは約15分間行われる。
【0049】
いくつかの実施形態では、基材に付着させられるHOCの厚さは約100μm~約1000μmである。いくつかの実施形態では、基材に付着させられるHOCの厚さは約250μmである。
【0050】
いくつかの実施形態では、HOCを電気めっきした後、HOCを安定化させるために基材が処理される。いくつかの実施形態では、安定化処理は、上にHOCが電着された基材を加熱することを含む。いくつかの実施形態では、加熱は約100℃の温度で行われる。
【0051】
いくつかの実施形態では、ORCを付着させること208Bは、基材をコーティングすることを含む。いくつかの実施形態では、ORCを付着させることは、ORCを基材に直接付着させることを含む。別の実施形態では、ORCを付着させることは、HOCで被覆された基材にORCを付着させることを含む。いくつかの実施形態では、コーティングは、基材をORCで電気めっきすることを含む。いくつかの実施形態では、電気めっきは、ORCの塩と溶媒とを含むORC電気めっき溶液に浸漬された基材に電流を印加することを含む。
【0052】
いくつかの実施形態では、ORCの塩は塩化物塩である。いくつかの実施形態では、ORCの塩は塩化第一スズである。いくつかの実施形態では、ORCの塩は、約5mM~約10mMの濃度で存在する。いくつかの実施形態では、ORCの塩は約6.6mMの濃度で存在する。
【0053】
いくつかの実施形態では、塩は、溶媒にORC塩前駆体を溶解させることにより生成される。いくつかの実施形態では、ORC塩前駆体は酸化物である。いくつかの実施形態では、酸化物はSnO2である。
【0054】
いくつかの実施形態では、溶媒は塩酸を含む。いくつかの実施形態では、ORC電気めっき溶液は、SnO2をHClに溶解することにより調製される。いくつかの実施形態では、ORC電気めっき溶液は、1gのSnO2を800mLの32%HClに溶解させることによって調製される。
【0055】
いくつかの実施形態では、電気めっきは、約5V~約32Vの電圧を印加することを含む。いくつかの実施形態では、電気めっきは、約0.3A~約3Aの電流を印加することを含む。いくつかの実施形態では、電気めっきは約7分間行われる。
【0056】
いくつかの実施形態では、基材に付着させられるORCの厚さは約100μm~約1000μmである。いくつかの実施形態では、基材に付着させられるORCの厚さは約250μmである。
【0057】
いくつかの実施形態では、HOCまたはORCの被覆率を確認するために、HOCまたはORCを付着させた後に基材が検査される。いくつかの実施形態では、基材はSEM/EDXを使用して検査される。いくつかの実施形態では、不十分な被覆率が得られる場合、HOCまたはORCの2回目の付着が行われる。いくつかの実施形態では、熱処理(以下に記載)すると、HOCに対するORCの被覆率が減少する。例えば、付着させた後に基材の表面の最大40%がORCで被覆され得る(すなわち、HOC領域対ORC領域が6:4の比)一方で、熱処理後に表面の30%のみがORCで被覆され得る。ORCの熱処理前の被覆率がORCの熱処理後の望ましい被覆率を得るのに十分か否かを決定するために、熱処理前の検査を使用することができる。そのため、いくつかの実施形態では、ORCとHOCとの間の目標被覆率の比は、熱処理後よりも触媒材料を付着させた後のほうが大きい。
【0058】
HOC、ORC、またはそれらの組み合わせで表面コーティングまたは電気めっきされた表面は、その触媒の顆粒または粒子が上に付着した表面と比較して、触媒燃焼を受ける際のホットスポットの形成を少ししか示さない場合がある。理論に拘束されることを望むものではないが、
図5A及び
図5Bを参照すると、その顆粒または粒子状触媒510を付着させると、下にある基材520との接触面積が相対的に小さくなると考えられる。対照的に、触媒材料を電気めっきすると、HOC層上に付着する薄いHOC層530とORC540が形成されることになり、ここで熱がより容易に基材に伝達される。燃料と酸化剤とを含む燃料混合物が触媒表面に導入されると、燃料は燃焼プロセスを受け、それにより熱が放出される。熱が触媒から伝達されない場合、局所的な「ホットスポット」が形成される場合があり、これは表面から触媒がアブレーションしたり、火炎や爆発を引き起こす可能性のある燃料混合物の発火が生じたりする可能性がある。触媒と下にある基材との間の接触面積を増やすことにより、触媒から熱をより効率的に伝達させ、ホットスポットの形成を減らすことができる。熱の更に均一な分布により、より高い運転温度の使用を可能にすることができる。
【0059】
いくつかの実施形態では、HOC及びORCが上に付着した基材に対して、210で1つ以上の仕上げ工程が行われる。いくつかの実施形態では、1つ以上の仕上げ工程は熱処理を含む。いくつかの実施形態では、熱処理は空気またはN2下で行われる。いくつかの実施形態では、熱処理は空気下で行われる。いくつかの実施形態では、基材へHOCを付着させた後、基材へORCを付着させた後、またはその両方の後に、熱処理が行われる。いくつかの実施形態では、熱処理には、HOCの熱処理とORCの熱処理が含まれる。
【0060】
いくつかの実施形態では、HOCの熱処理は、安定化処理の後に行われる。いくつかの実施形態では、HOCの熱処理は、約800℃~約1200℃の温度で行われる。いくつかの実施形態では、HOCの熱処理は約900℃の温度で行われる。いくつかの実施形態では、熱処理は、約30分~約4時間行われる。いくつかの実施形態では、熱処理は約1時間行われる。いくつかの実施形態では、熱処理によって、基材に付着させられたHOCのアニーリングが生じる。いくつかの実施形態では、熱処理によって、ベース層へのHOCのアニーリングが生じる。
【0061】
いくつかの実施形態では、ORCの熱処理は、安定化処理の後に行われる。いくつかの実施形態では、ORCの熱処理は、約200℃~約600℃の温度で行われる。いくつかの実施形態では、ORCの熱処理は、約400℃の温度で行われる。いくつかの実施形態では、熱処理は、約30分~約4時間行われる。いくつかの実施形態では、熱処理は約1時間行われる。
【0062】
いくつかの実施形態では、熱処理は、HOC、ORC、またはその両方の触媒活性を活性化または増加させる。いくつかの実施形態では、熱処理はORCの活性を活性化または増加させる。いくつかの実施形態では、熱処理は、HOC、ORC、またはその両方の焼成を生じさせる。いくつかの実施形態では、ORC前駆体が付着させられ、熱処理が、ORC前駆体をORCに変換することなどにより、ORCの形成を生じさせる。
【0063】
いくつかの実施形態では、スズが基材に付着させられ、熱処理によって酸化第一スズが形成される。
【0064】
反応器
図3を参照すると、一態様では、反応器300が提供される。一実施形態では、反応器は熱交換器である。反応器300は、第1の流体材料を受け入れるための入口312と出口314とを有する導管310;及び第2の流体材料を受け入れるための入口332と出口334とを有する導管310を囲むシェル330;を含む。第1の流体材料と第2の流体材料のうちの一方は燃料混合物である。第1の流体材料と第2の流体材料のうちの他方は熱交換媒体である。導管310は、水素酸化触媒(HOC)と酸素還元触媒(ORC)とを含む触媒組成物が上に配置された加熱要素316を含む。加熱要素316は、燃料混合物の触媒燃焼を生じさせ、触媒燃焼により放出されたエネルギーを熱交換媒体に伝達するように構成される。いくつかの実施形態では、触媒組成物は、触媒燃焼が低温で生じるように触媒燃焼の活性化エネルギーを低下させる。
【0065】
いくつかの実施形態では、触媒組成物は上述した触媒組成物である。いくつかの実施形態では、加熱要素316は、HOCとORCとが上に付着した基材を含む。いくつかの実施形態では、HOC及びORCは、上述した方法を使用して基材に付着させられる。いくつかの実施形態では、HOC対ORCの比は、表面積で約9:1~約4:1である。いくつかの実施形態では、HOC対ORCの比は、表面積で約20:3である。
【0066】
いくつかの実施形態では、燃料混合物は、燃料と酸化剤を含む。いくつかの実施形態では、燃料は、水素、炭化水素系材料、またはそれらの混合物を含む。いくつかの実施形態では、炭化水素系材料は、バイオディーゼル、バイオガス、または藻類燃料などの再生可能な炭化水素系材料である。いくつかの実施形態では、燃料は水素である。いくつかの実施形態では、酸化剤は、酸素、酸素富化空気、または空気を含む。いくつかの実施形態では、酸化剤は酸素である。
【0067】
いくつかの実施形態では、燃料混合物を受け入れる入口は、燃料入口と酸化剤入口を含む。この方式では、燃料混合物を予備混合する必要がない。燃料混合物の成分を反応器で導入することにより、燃料混合物の組成をよりよく制御することができる。移送の遅延が最小限に抑えられることから、反応器に導入される燃料混合物の組成のあらゆる変更がより迅速に行われる。更に、燃料と一緒に酸化剤が存在せずに燃料と酸化剤を別々に移送することは、燃料混合物を移送するよりも相対的に安全である場合がある。
【0068】
いくつかの実施形態では、熱交換媒体は水またはヘリウムを含む。いくつかの実施形態では、熱交換媒体は水を含むか水である。そのような実施形態では、燃料混合物の触媒燃焼は水を加熱する。いくつかの実施形態では、蒸気を生成するために水が加熱される。熱交換器300によって生成された蒸気は、様々な目的に使用することができる。例えば、蒸気は、タービンを駆動して発電するために、地域暖房用途におけるエネルギーを供給するために、または蒸気を必要とする他の用途において使用することができる。
【0069】
いくつかの実施形態では、加熱要素316の少なくとも一部は導管310の表面と一体である。いくつかの実施形態では、加熱要素316の少なくとも一部は導管310の表面に結合される。
【0070】
いくつかの実施形態では、加熱要素316は複数のフィン318を含む。フィンを追加すると、触媒水素燃焼が起こり得る表面積を増加させることができる。いくつかの実施形態では、1つ以上のフィンは、表面積を更に増加させるために、波形または蛇腹形状を有する。いくつかの実施形態では、複数のフィン318は導管310に結合される。フィンの結合は、例えば伝導を介して、フィン318から導管310へ及びそれに接触する任意の材料への熱伝達を促進する。例えば、燃料混合物の触媒燃焼がフィン318の表面で生じる場合、反応により放出される熱は、導管310を介して熱交換媒体に伝達することができる。
【0071】
いくつかの実施形態では、反応器300は、加熱要素316に近接している、燃料混合物を分配するための分配器320を含む。加熱要素316へ燃料混合物を分配すると、未燃焼水素を加熱要素316の表面によりよく導入することができる。いくつかの実施形態では、分配器320は、燃料混合物を受け入れる入口(312または332)に流体的に結合される。いくつかの実施形態では、分配器320は、加熱要素316に燃料混合物を送るためのオリフィスをそれぞれ画定する複数のフック形状の配管を含む。いくつかの実施形態では、分配器320は、個々に合わせた燃料混合物が各ゾーンに供給されるように、加熱要素316の異なるゾーンに運ばれる燃料混合物の組成を変える。例えば、複数の配管のそれぞれが独立した燃料混合物を運んでもよい。
【0072】
いくつかの実施形態では、導管310は複数のチューブ322を含む。この方式では、表面積対体積の比を最大にすることにより、熱交換媒体への熱伝達率が増加する。いくつかの実施形態では、チューブ322は、シングルパス配置で配置され、それにより、導管310の一端で受け入れられた流体が他方の端部に導かれる。いくつかの実施形態では、チューブはマルチパス配置で配置され、それにより、導管の一端で受け入れられた流体が他方の端部に導かれてから最初の端部に戻され、任意選択的により多くのパスが行われる。
【0073】
いくつかの実施形態では、導管310は熱交換媒体を受け入れ、シェル330は燃料混合物を受け入れる。そのような実施形態では、加熱要素316は、導管310の外側に配置され、シェル330の内部容積に曝される。燃料混合物の触媒燃焼により生じる熱は、導管310内に配置される熱交換媒体に伝達される。
【0074】
いくつかの実施形態では、燃料混合物の触媒燃焼により、シェル330が加熱される。いくつかの実施形態では、シェル330の外表面と接触する予熱器340が、燃料混合物の触媒燃焼により放出される熱を、これが導管310またはシェル330の中に入る前に、燃料混合物または熱交換媒体に伝達する。いくつかの実施形態では、予熱器340は導管310の上流に配置され、熱交換媒体が上流の導管310へ入る前にこれを予熱する。いくつかの実施形態では、熱交換媒体は、入口に入る前に約90℃の温度に加熱される。
【0075】
いくつかの実施形態では、燃料混合物中の未反応燃料は、熱交換器の中に再循環される。燃料のリサイクルにより、処理または保管しなければならない未燃焼燃料の量が減少する。いくつかの実施形態では、下流の凝縮器(図示せず)が燃焼生成物から水を除去する。燃焼生成物から水を除去することにより、リサイクルされた燃料が熱希釈剤をより少なく含むようにすることができる。熱希釈剤は、運転温度の低下または触媒表面での凝縮の形成の増加を引き起こす可能性があり、これが燃焼を低下または阻害する場合がある。
【0076】
燃料が水素であるこれらの実施形態のいくつかでは、これと接触するように構成された構成要素は、水素脆化に耐性のある材料から製造される。例えば、水素脆化に耐性を有する材料としては、オーステナイト系ステンレス鋼、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、及びセラミックが挙げられる。
【0077】
シェル330が燃料混合物を受け入れるこれらの実施形態のいくつかでは、シェルの内部は、放射熱損失を低減するか最小化するための反射材料でコーティングされる。いくつかの実施形態では、熱交換器は、シェルを囲む断熱材を含む。いくつかの実施形態では、断熱材はグラスウールである。
【0078】
図8を参照すると、伝導性熱伝達が改善された反応器800の別の実施形態が示されている。いくつかの実施形態では、加熱要素と第1及び第2の流体材料の導管とが互いを縫うようにして通ることにより、より大きな熱の伝達だけでなく、より大きな体積の流体材料及び燃料を用いたスケールアップが可能になる。
【0079】
反応器800は、第1の流体材料を受け入れるための入口812と出口814とを有する導管810を含む。導管810は、水素酸化触媒(HOC)と酸素還元触媒(ORC)とを含む触媒組成物が上に配置された加熱要素816と接続される。加熱要素816は、燃料混合物の触媒燃焼を生じさせ、触媒燃焼により放出されたエネルギーを熱交換媒体に伝達するように構成される。いくつかの実施形態では、触媒組成物は、触媒燃焼が低温で生じるように触媒燃焼の活性化エネルギーを低下させる。導管810及び加熱要素816は、シェル830によって囲まれた反応キャビティ内に配置される。シェル830は、第2の流体材料を受け入れるための1つ以上の入口を有する。一実施形態では、第1の流体材料は熱交換媒体であり、第2の流体材料は燃料及び酸化剤である。いくつかの実施形態では、第2の流体材料は燃料と酸化剤との混合物である。好ましい実施形態では、燃料と酸化剤は別々に受け入れられ、予備混合されない。いくつかの実施形態では、燃料は、1つ以上の異なる種類の燃料の混合物である。
【0080】
一実施形態では、シェルは、燃料混合物を反応キャビティ内に受け入れるための一組の入口832a、832bを有する。いくつかの実施形態では、第2の流体材料は燃料と酸化剤を含む。入口832a、832bのうちの一方は燃料を受け入れるためのものであり、他方は酸化剤を受け入れるためのものである。いくつかの実施形態では、燃料は上述した燃料である。いくつかの実施形態では、熱交換媒体は上述した熱交換媒体である。
【0081】
いくつかの実施形態では、触媒組成物は、上述した触媒組成物である。
図9を参照すると、いくつかの実施形態では、加熱要素816は、HOC及びORCが上に付着した複数の水平なプレート950a、950b、950cを含む。いくつかの実施形態では、HOC及びORCは、上述した方法を使用してプレートに付着させられる。いくつかの実施形態では、HOC対ORCの比は、表面積で約9:1~約4:1である。いくつかの実施形態では、HOC対ORCの比は、表面積で約20:3である。
【0082】
いくつかの実施形態では、加熱要素816は、波形プレートを含む複数のプレートを含む。いくつかの実施形態では、複数のプレートのいくつかは波形である。いくつかの実施形態では、複数の波形プレートは積み重ねられる。いくつかの実施形態では、導管810は、1枚のプレートがもう1枚のプレートと接触する場所に隣接して配置される。
【0083】
いくつかの実施形態では、各プレートは、交互の隆起部952と溝部954とを含む断面形状を有する。断面形状の例としては、限定するものではないが、正弦波、ジグザグ、屈曲、スカラップ形状、及び鋸歯状が挙げられる。好ましい実施形態では、各プレートは、1つ以上のジョイント956によって隣接するプレートに取り付けられる。いくつかの実施形態では、1つ以上のジョイントは、隣接するプレートを互いに間隔を開けた状態で保つ。一実施形態では、ジョイントの第1の側面は1枚のプレートの隆起部の上面に取り付けられ、ジョイントの第2の側面は別のプレートの溝部の底面に取り付けられる。いくつかの実施形態では、各ジョイントは、プレートの幅まで延び、導管810を受け入れるための内孔958を含む。一実施形態では、ジョイントは、一方は1枚のプレートに溶接され、他方は隣接するプレートに溶接されている細長い開放流路をそれぞれ有する2つのジョイント部材から形成される。2つのプレートが積み重ねられると、2つの細長い開放流路が組み合わされて、導管810を受け入れるための連続内孔958が形成される。別の実施形態では、ジョイントは導管810を受け入れるための溝を有する。
【0084】
いくつかの実施形態では、複数の水平なプレートは、例えばクランプまたはボルトによって加えられる圧縮力を加えることによって積み重ねられ、一体に保持される。いくつかの実施形態では、複数の水平なプレートとジョイントは、例えばクランプまたはボルトによって加えられる圧縮力を加えることによって全て一体に保持される。別の実施形態では、複数の水平なプレートとジョイントは、全て一体に溶接または接合される。更に別の実施形態では、複数のプレートは、ジョイントを使用せずに直接一体に溶接または接合され、隣接するプレートが導管を受け入れるために接触するか接合される細長い内孔を含む。
【0085】
いくつかの実施形態では、複数のプレートは、一体に積み重ねられた際に、例えば、格子状、ハニカム状、またはダマスク状のパターンである全体としての断面形状を有する。
【0086】
一実施形態では、加熱要素は、一体に積み重ねられた複数のプレートを有し、各プレートは約30mm×400mmである。別の実施形態では、加熱要素は、一体に積み重ねられた6枚のプレートを有し、各プレートは約100mm×200mmである。
【0087】
いくつかの実施形態では、導管810は、ジョイントの内孔の中を縫うように通っており、導管が1つの内孔から出て次の内孔を通って延びる際にループ860を形成する。いくつかの実施形態では、ループ860は、複数のプレートの幅を超えて延びる。いくつかの実施形態では、導管は、内孔を通るシングルパス配置で配置され、それにより、内孔の一端で受け入れられた流体が内孔の他方の端部に導かれる。いくつかの実施形態では、導管810は、内孔を通るマルチパス配置で配置され、それにより、内孔の一端で受け入れられた流体が他方の端部に導かれてから最初の端部に戻され、任意選択的により多くのパスが行われる。
【0088】
いくつかの実施形態では、複数のプレートは平坦であり、各プレートは、プレートの幅まで延びておりプレートを離間した状態に保つ複数の細長いジョイントによって隣接する場所に接合される。この実施形態では、ジョイントは、中を導管810が縫うように通る内孔を含む。
【0089】
いくつかの実施形態では、内孔を通って延びる導管の各セグメント910は、距離「w」だけ次のセグメントから離され、wは少なくとも10mm、少なくとも20mm、少なくとも30mm、好ましくは少なくとも40mmである。一実施形態では、wは少なくとも42mmである。いくつかの実施形態では、一組のプレートの間を縫うように通る導管の各列は、距離「h」だけ次の列から離れており、hは少なくとも10mm、少なくとも15mm、少なくとも20mm、好ましくは少なくとも25mmである。一実施形態では、hは少なくとも26mmである。
【0090】
いくつかの実施形態では、複数のプレートは、導管810の表面と一体である。いくつかの実施形態では、複数のプレートの少なくとも一部は、導管810の表面に接合される。
【0091】
いくつかの実施形態では、反応器800は、プレートに近接している、燃料及び酸化剤を分配するための分配器820を含む。燃料と酸化剤をプレートに分配すると、未燃焼水素をプレートの表面によりよく導入することができる。いくつかの実施形態では、分配器820は、燃料と酸化剤を受け入れる1つ以上の入口に流体的に結合される。分配器は、1枚のプレートの隆起部と別のプレートの溝部とによって画定されるキャビティ970を通ってプレートの幅まで延びている。いくつかの実施形態では、分配器820は、プレート間に形成されたキャビティ970に燃料混合物を送るためのオリフィスを含む。いくつかの実施形態では、分配器820は、プレートの幅まで延びる分配器の長さに沿ってサイズが等しいか異なる複数のオリフィスを有する。いくつかの実施形態では、分配器の長さに沿ったオリフィスのサイズは、ある程度の流量のバランスをとることを可能にするために変更される。例えば、分配器の入口端に近いオリフィスは、入口から最も遠い分配器の端部のオリフィスよりも小さい。他のサイズも可能であり、当業者に公知である。
【0092】
いくつかの実施形態では、1対の分配器920a、920bが、燃料及び酸化剤をそれぞれ受け入れる入口832a、832bのそれぞれの対に流体的に結合される。1対の分配器の両方は、1枚のプレートの隆起部と別のプレートの溝部によって画定されるキャビティ970を通って延び、それにより燃料と酸化剤の両方がキャビティ970に送られる。いくつかの実施形態では、一対の分配器は、隆起部972によって画定されるキャビティの部分に近接しているか、実質的にその中に位置しており、一対の分配器の他方は、溝部974によって画定されるキャビティの部分に近接しているか、実質的にその中に位置している。いくつかの実施形態では、一対の分配器920a、920bは、それぞれ、プレートの幅まで延びる分配器の長さに沿って、等しいか異なるサイズの複数のオリフィスを有する。一対の分配器の一方に沿ったオリフィスは、一対の分配器の他方の対応するオリフィスと長手方向の位置が一致しており、これに対向している。燃料と酸化剤ガスは、反対側の分配器供給配管から来て互いに出会うと乱流混合し、燃料-酸化剤混合物を形成し、これによりその後、プレートの周りの触媒表面と接触する。燃料と酸化剤を別々に導入し、これらを反応器内でできるだけ遅く混合することの1つの利点は、廃棄物の排出を最小限に抑え、燃料を最大限に燃焼させながら、より効率的な燃焼を可能にすることである。
【0093】
いくつかの実施形態では、分配器は、3~10mm、5~8mm、6~7mm、好ましくは6.35mmの直径を有する。いくつかの実施形態では、オリフィスは、0.1~2mm、0.5~1.5mm、好ましくは1mmのサイズ範囲を有する。他の寸法も可能である。
【0094】
いくつかの実施形態では、反応器は、プレート間に形成された様々なキャビティに燃料と酸化剤を分配するための分配器のネットワークまたは複数の分配器の対を含む。好ましい実施形態では、各キャビティは、それ自体のそれぞれの入口の対に流体的に結合されている一組の分配器を受け入れる。そのような実施形態では、入口に複数の対が存在し、対応する複数の分配器の対が存在する。いくつかの実施形態では、分配器は、燃料混合物を受け入れるための入口に流体的に結合された開放端と閉鎖端を有する。この方式では、入口から注入された燃料混合物は、その後出口として機能するオリフィスから出る。いくつかの実施形態では、一対の分配器が、それぞれ開放端と閉鎖端、及びオリフィスを有しており、オリフィスを通って燃料と酸化剤が出ることで、これらがプレートの表面に接触する前に燃料と酸化剤の高度の混合が可能になる。別の実施形態では、分配器または一対の分配器は、プレート間に形成された様々なキャビティを縫うように通っている。
【0095】
いくつかの実施形態では、反応器は、それ自体のシェル、加熱要素、熱交換媒体用の導管、及び燃料入口を有するモジュールユニットである。一実施形態では、触媒燃焼システムは複数のモジュール式反応器を含む。一実施形態では、各反応器モジュールユニットは、直径400mm厚さ約1mmの30枚の加熱プレートを備えた加熱要素を有する。いくつかの実施形態では、触媒燃焼システムは、3個より多い、5個より多い、10個より多い、または20個より多いモジュール式反応器を有する。一実施形態では、触媒燃焼システムは、4~6個の反応器モジュールユニットを有する。一実施形態では、反応器モジュールユニットは積み重ねて組み立てられる。反応器をモジュールとして提供することは、メンテナンスや修理のために1つのモジュールを他のモジュールから独立して交換できるなどの、多くの利点を有している。
【0096】
触媒燃焼システムのいくつかの実施形態では、導管は各反応器モジュールユニット専用の導管である。いくつかの実施形態では、触媒燃焼システムは、熱交換媒体を各反応器モジュールユニットに送るために並列または直列に配置された導管ネットワークを有する。積み重ねで組み立てられた反応器モジュールユニットを触媒燃焼システムが含むいくつかの実施形態では、導管は、熱交換媒体がモジュール式反応器の底部に位置する導管入口から導入され、モジュール式反応器の上部に位置する導管出口から出るように構成される。第1の積み重ねられたモジュール式反応器の導管出口は、第2の積み重ねられたモジュール式反応器の導管入口と流体接続している。この方式では、触媒燃焼システム内の反応器モジュールユニットの数は、最も上の反応器モジュールユニットからの熱交換媒体の望まれる出力に基づいて変更することができる。
【0097】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の反応器は、それぞれが複数のプレートを有する複数の加熱要素を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の反応器は、モジュール式の加熱要素を含み、各モジュールユニットは複数のプレートを有する。
【0098】
熱交換
公知の熱交換器では、高温媒体は、典型的には、導管内に供給され、高温媒体から低温媒体に熱を伝達するために低温媒体に囲まれる。燃料の燃焼を最大にすると同時に熱伝達を最大にするために、本明細書に記載の通りに改良された反応器及び触媒表面が開発され、これらは、高温媒体(すなわち触媒組成物でコーティングされた加熱要素)に囲まれた導管内に低温媒体(すなわち熱交換媒体)が供給される場合に、より効率的である。
【0099】
更に、熱交換器を最初に始動させる際に、熱交換媒体への熱の伝導伝達に起因する早期の熱損失は、その上に触媒組成物が付着している加熱要素の有効性を燃焼開始から低下させる可能性がある。大幅な遅延または遅い初期温度上昇を回避するために、本明細書に記載の反応器は、導管を、プレート間を縫うようにして通し、ループ部分がプレートに接触しないようにプレートの幅を超えて導管をループさせることにより、始動中のこの早期の熱損失をより効果的に管理するという利点も有している。
【0100】
一態様では、
図4に示される熱交換媒体を加熱する方法400が提供される。402では、触媒表面は、水素酸化触媒(HOC)と酸素還元触媒(ORC)を含む。触媒表面は、低温で燃焼が起こるように、燃料と酸化剤とを含む燃料混合物の燃焼の活性化エネルギーを下げるように構成される。404では、燃料混合物が触媒表面に供給される。406では、燃料混合物が触媒表面で燃焼する。408では、触媒燃焼により発生した熱が熱交換媒体に伝達される。
【0101】
いくつかの態様では、HOCとORCは、表面積で約9:1~約4:1の比で存在する。いくつかの実施形態では、HOCとORCは約20:3の比で存在する。
【0102】
いくつかの実施形態では、燃料混合物は、燃料と酸化剤を含む。いくつかの実施形態では、燃料は、水素、炭化水素系材料、またはそれらの混合物を含む。いくつかの実施形態では、炭化水素系材料は、バイオディーゼル、バイオガス、または藻類燃料などの再生可能な炭化水素系材料である。いくつかの実施形態では、燃料は水素である。いくつかの実施形態では、酸化剤は、酸素、酸素富化空気、または空気を含む。いくつかの実施形態では、酸化剤は酸素である。
【0103】
いくつかの実施形態では、触媒燃焼の燃焼生成物は水を含む。触媒表面に水が蓄積すると、燃料混合物の燃焼を触媒するために利用できる表面が減少する。いくつかの実施形態では、触媒燃焼は低圧で生じる。圧力を下げると、水の沸点を下げることができる。沸点が下がると、水の蒸発速度が増加することにより、触媒表面に蓄積する液体の水を減少させることができる。
【0104】
いくつかの実施形態では、燃料混合物の供給は、燃料混合物の組成を調節することを含む。いくつかの実施形態では、燃料混合物の供給は、始動段階404A、運転段階404B、または両方を含む。
【0105】
始動段階404Aの間、触媒表面は初期温度におかれる。いくつかの実施形態では、触媒表面の初期温度は、100℃未満、50℃未満、30℃未満、20℃未満、15℃未満、更には10℃未満である。いくつかの実施形態では、始動段階404Aの間に供給される燃料混合物の組成は、相対的に酸素を多く含む。相対的に酸素を多く含む燃料混合物は、燃料を多く含む混合物よりも低い温度で触媒燃焼することができる。いくつかの実施形態では、始動段階中に供給される燃料混合物の酸素対燃料の比は、約1:2~約1:1である。いくつかの実施形態では、始動段階中に供給される燃料混合物の酸素対燃料の比は約11:14である。触媒燃焼は、触媒表面を加熱する。いくつかの実施形態では、始動段階は最大で1時間、45分間、30分間、更には20分間継続する。
【0106】
図7を参照すると、本発明の特定の実施形態では、燃料混合物は反応器に供給された。初期温度は周囲温度(約25℃)であった。温度は約35℃に達するまで約10秒間ゆっくりと上昇し、その時点でより急速に温度が上昇し始めた。理論に拘束されることを望むものではないが、初期温度では、エネルギーは反応を活性化するのには十分であるが、比較的低い反応速度であると考えられる。反応が進むにつれて、発熱的な触媒燃焼反応によってエネルギーが放出された。この結果、温度の上昇が観察され、追加のエネルギーが供給され、これにより反応速度が増加し、温度がより速く上昇した。対照的に、同じ燃料混合物を供給したがパラジウムが同様の加熱要素中の唯一の触媒材料であったシステムでは、1時間より長い期間の後であっても周囲温度を超える温度の上昇は観察されなかった。
【0107】
いくつかの実施形態では、触媒表面の温度が約140℃を超えると、プロセスは運転段階404Bに入る。いくつかの実施形態では、燃料混合物の組成は相対的に燃料を多く含む。いくつかの実施形態では、相対的に燃料を多く含む燃料混合物を用いて触媒燃焼すると、熱希釈剤として機能する過剰な酸化剤が存在しないため、触媒燃焼をより高い運転温度で生じさせることができる。いくつかの実施形態では、運転段階中に供給される燃料混合物の酸素対燃料の比は、約2:5~約2:3である。いくつかの実施形態では、運転段階中に供給される燃料混合物の酸素対燃料の比は約3:4である。いくつかの実施形態では、運転段階中の触媒燃焼は、300℃超、400℃超、500℃超、更には600℃超の運転温度を有する触媒表面で生じる。いくつかの実施形態では、運転温度は600℃よりも高い。触媒表面温度が高いほど、熱交換媒体との熱勾配が大きくなり、そのため熱交換媒体に伝達される熱量が増加する。
【0108】
いくつかの実施形態では、燃料混合物は、熱希釈剤をわずかのみ有するか、有さない。例えば、空気は、窒素と、酸素と、二酸化炭素とを含むガスの混合物である。空気中の非酸素ガスは、限定的な反応性しか有しておらず、これが触媒燃焼によって放出される熱の一部を吸収する熱希釈剤として機能する場合があり、その結果燃料混合物の触媒燃焼によって達成し得る温度が熱希釈剤をわずかのみ含むか含まない場合よりも低くなる場合がある。更に、高い運転温度では、窒素の存在により、望ましくないNOxが形成される可能性がある。そのため、いくつかの実施形態では、酸化剤は、酸素富化空気であるか酸素である。いくつかの実施形態では、酸化剤は酸素である。
【0109】
いくつかの実施形態では、触媒燃焼は大気圧よりも低い圧力で行われる。いくつかの実施形態では、触媒燃焼は、100kPa未満、90kPa未満、80kPa未満、70kPa未満、60kPa未満、更には50kPa未満の圧力で行われる。大気圧よりも低い圧力では、水の沸点が低下し、それにより触媒表面に液体の水が蓄積する可能性が低下する。更に、より低い圧力では、バルク燃料混合物の可燃性を低下させることができ、その結果より安全にすることができる。
【0110】
いくつかの実施形態では、熱交換媒体は、水、対流によって冷却されたヘリウムループ、sCO2(過熱二酸化炭素)である。いくつかの実施形態では、水への熱の伝達によって、蒸気が形成される。蒸気は、例えば、タービンの駆動、地域暖房システムへのエネルギー供給、または脱塩作業において使用することができる。
【0111】
いくつかの実施形態では、触媒表面は、上述した熱交換器の加熱要素の表面の少なくとも一部である。いくつかの実施形態では、触媒表面は上述した方法に従って調製される。いくつかの実施形態では、触媒表面は上述した触媒組成物を含む。
【0112】
一態様では、触媒燃焼器が提供される。触媒燃焼器は触媒表面を含む。触媒表面は、上述した触媒組成物を含むか、上述した方法により調製される。
【0113】
いくつかの実施形態では、触媒燃焼器の運転によって生成する熱は、動作するための熱源として使用される。いくつかの実施形態では、触媒燃焼器の運転によって生成する熱は、スターリングエンジン、タービン、空調用の相変化操作、地域暖房システム、または脱塩システムを運転するために使用される。例えば、いくつかの実施形態では、触媒燃焼器は、反応器300に組み込まれた加熱要素である。別の実施形態では、触媒燃焼器は、スターリングエンジンの膨張シリンダーを受け入れるように適合された穴を有するグラファイトブロックである。いくつかの実施形態では、触媒燃焼器の運転により生成する熱は、蒸気を生じさせるために使用される。例えば、触媒燃焼器は、上述した反応器の中に組み込まれていてもよい。
【0114】
一態様では、燃料混合物を触媒燃焼させる方法が提供される。燃料と酸化剤とを含む燃料混合物は、上述した触媒燃焼器に供給され、触媒燃焼器の触媒表面で触媒燃焼される。いくつかの実施形態では、触媒燃焼は、熱が必ずしも熱交換媒体に伝達される必要がないことを除いては、上述した熱交換媒体の加熱と同様に行われる。
【実施例】
【0115】
実施例1-触媒組成物の調製
厚さ0.8mmの316ステンレス鋼シートからディスクを切り取った。ディスクにドリルで取り付け穴を開けた。30から800まで次第に細かくなる粗さを有するカーボランダム紙を使用して、ディスクの表面をISO粗さグレードN10まで機械的に粗面化した。
【0116】
HOC電気めっき溶液は、1gのPdClを800mLの30%アンモニアに溶解させることによって調製した。ディスク及び同様の面積のパラジウム電極を溶液中に機械的に懸濁させ、30Vで1Aの電流を15分間印加した。目的は、厚さ約250μmのパラジウムの均一な被覆を得ることであった。
【0117】
めっきが完了した後、ディスクを取り出し、蒸留水ですすぎ、繊細なタスクワイパーで優しくたたくようにして余分な残りの液体を除去した。その後、ディスクを工業用炉で、100℃で約15分間焼成することで、残留電気めっき溶液を除去した。
【0118】
表面の目視検査を行って、均一なコーティングが付着して基材が見えないことを確認した。被覆がわずかな場合には、マルチポイントSEM/EDX検査を行った。必要に応じて電気めっきプロセスを繰り返した。
【0119】
被覆を確認した後、ディスクを900℃で1時間アニールし、次いで室温まで放冷した。
【0120】
ORC電気めっき溶液は、1gのSnO2を800mLの32%HClに溶解させることによって調製した。
【0121】
冷却されたディスクを、ORC電気めっき溶液の中に機械的に懸濁させ、3Aで10Vの電流を、ディスク及び同様の寸法のパラジウム電極に7分間印加した。
【0122】
ORC電気めっきが完了した後、ディスクを取り外し、蒸留水ですすいだ。検査プロセスを繰り返して、電気めっきによって表面の少なくとも30%にスズが堆積したか否かを確認した。
【0123】
被覆が確認されたら、ディスクを400℃で1時間アニールした。
【0124】
基材に付着した触媒組成物を示すSEM/EDX画像を
図6A~Cに示す。画像を得るために使用した設定は次の通りであった:
Acc.電圧:15.0kV
解像度:512×512ピクセル
表示解像度:50%
プロセス回数:5
画像幅:1.567mm
混合マップ:パラジウムLa1(赤)、スズLa1(緑)。
【0125】
実施例2-触媒組成物を用いた触媒燃焼
図3に示されているような、その中に配置されているヒーターに触媒組成物が付着している反応器を使用した。システムは、導管が水を受け入れ、シェルが燃料混合物を受け入れるように実行した。
【0126】
水が開放バルブを通って蒸気/水の出口から流出するまで、ポンプを使用してシステムにタンクからの水を入れた。その後、水のサブシステムの出口バルブを閉じた。シェルの内部環境の圧力を下げて、約2kPa(a)の真空を得た。その後、調整弁を通して内部キャビティに水素と酸素を導入し、マスフローコントローラーで制御した。流量は、最初に約14:11の比で水素と酸素を供給するように設定した。一連の熱電対を使用して、内部温度と外部温度を監視した。
【0127】
図7を参照すると、内部温度は最初約25℃であった。約10秒間、比較的遅い初期温度上昇があった。約40℃~60℃の温度では、温度上昇の速度が大幅に加速した。温度は約350℃~400℃で横ばいになった。
【0128】
水をサブシステムの中に循環させ、出力バルブを開けることによって蒸気圧を制御することで、800kPa未満の蒸気圧を維持した。
【0129】
その後、燃料混合物の流量を調整して、送られるH2の量を増やし、次いで真空システムが約100kPa(a)未満の内圧をより長く維持できるまで、送られるO2の量を増加させた。
【0130】
温度は約600℃まで上昇し、高品質の蒸気が生成した。
【0131】
実施例3-波形加熱プレート上に付着させた触媒組成物を用いた触媒燃焼
図8に示されているように、その中に配置されている複数の波型プレートに触媒組成物が付着している反応器を使用した。システムは、導管が水を受け入れ、シェルが2つの別々の入口を介して水素と酸素を受け入れるように実行した。システムに水を入れ、上述した実施例2に記載したものと同様の方法で内部キャビティに水素と酸素を導入した。
【0132】
内部温度は、最初は約11℃であり(データ提示なし)、システムは
図7に示したものと同様の温度上昇プロファイルまたは傾向を示し、高品質の蒸気を生成した。
【0133】
多数の例示的な態様及び実施形態が上で説明されてきたが、当業者であれば、それらの特定の修正、置換、追加、及びサブコンビネーションが可能であることを認識するであろう。上の説明では、説明の目的で、本開示を完全に理解するための多数の詳細な事項が示されている。しかしながら、本開示を実施するためにこれらの具体的な詳細事項が必要とされないことは当業者には明らかであろう。開示された例示的な実施形態を実施するために特定の寸法及び材料が記載されているものの、他の適切な寸法及び/または材料が本開示の範囲内で使用されてもよい。技術における全ての適切な現在及び将来の変更を含むそのような全ての修正及び変形は、本開示の領域及び範囲内にあると考えられる。言及された全ての参照文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。