(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】魚肉加工食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 17/00 20160101AFI20220913BHJP
【FI】
A23L17/00 101D
(21)【出願番号】P 2018082720
(22)【出願日】2018-04-24
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】日本水産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大庭 貴弘
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-262375(JP,A)
【文献】特開昭59-082053(JP,A)
【文献】特開平01-265872(JP,A)
【文献】特開2005-034028(JP,A)
【文献】岡 弘康,減圧油ちょうによる新タイプの乾燥食品の開発技術に関する研究,北海道大学 学位論文内容及び審査の要旨,1995年,p.243-248,論文博士(水産学)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細断された
白身魚の魚肉すり身又は落し身が油ちょうされている、比重が0.5g/cm
3以下であり、食塩含有量が2重量%以下(乾燥物換算)であることを特徴とする魚肉すり身又は落し身の加工食品。
【請求項2】
タンパク質含量が40重量%以上である請求項1の加工食品。
【請求項3】
油ちょう後の水分量が10重量%以下である請求項1又は2の加工食品。
【請求項4】
厚みが3cm以下である請求項1ないし3いずれかの加工食品。
【請求項5】
白身魚の冷凍魚肉すり身又は落し身を凍結したままで細断し、真空油ちょうすることを特徴とする魚肉加工食品の製造方法。
【請求項6】
油ちょう後の魚肉加工食品の比重が0.5g/cm
3以下である請求項5の方法。
【請求項7】
油ちょう後の魚肉加工食品の食塩含有量が2重量%以下(乾燥物換算)である請求項5又は6の方法。
【請求項8】
油ちょう後の魚肉加工食品のタンパク質含量が40重量%以上である請求項5ないし7いずれかの方法。
【請求項9】
油ちょう後の魚肉加工食品の水分量が10重量%以下である請求項5ないし8いずれかの方法。
【請求項10】
冷凍魚肉すり身又は落し身を凍結したままで細断する際の厚みが3cm以下である請求項5ないし9いずれかの方法。
【請求項11】
冷凍魚肉すり身又は落し身が、魚肉以外に塩類、糖類、食物繊維類のいずれか1種以上
を含有するものであることを特徴とする請求項5ないし10いずれかの方法。
【請求項12】
真空油ちょうが圧力0.03MPa以下、温度60~120℃で行うものである請求項5ないし
11いずれかの方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚肉すり身又は落し身の加工食品に関する。詳細には、魚肉すり身又は落し身を原料とする、スナック等として簡便に食することができる加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
魚肉の冷凍すり身は保存性があり、練製品の原料として広く用いられている。すり身を原料とする練製品は、カマボコ、竹輪に代表されるような水分含量の高い食品である。それら製品の保存性を高めるには、魚肉ソーセージやレトルト処理したカマボコのように、レトルト処理することにより、保存期間を長くする工夫がされている。
【0003】
特許文献1~5には、魚肉すり身を原料とした乾燥タイプの練製品が開示されている。
特許文献1には、「粘稠状に錬成した魚肉を表面温度30~50℃の加熱ロール上に連続して帯状に供給しながらその表面を輻射加熱してゲル化した後加熱ロールから剥離し、次いで更に連続的に移送しながら順次高温加熱処理及び乾燥処理を施すことを特徴とする乾燥ねり製品の製造法。」が開示されている。
特許文献2には、「魚介類の微細肉に食塩を添加し、混練して練肉となし、この練肉を成型した後緩慢凍結し、ついで得られる凍結物を解凍することなく加熱した後乾燥することを特徴とする乾燥加工食品の製造方法。」が開示されている。
特許文献3には、「発酵性糖質を0~2重量%となし、糖アルコールを3~15重量%添加してなる魚肉すり身を主材料としたものを圧延及び乾燥加工してなる魚肉シートと、チーズ材とを重合して固着した後、所定の形状に裁断し、包装体に、その内部を脱酸素状態にして封入し、魚肉シート及びチーズ材の水分活性を0.85~0.94に維持することを特徴とする嗜好食品の製造方法。」が開示されている。
特許文献4には、「魚肉のすり身に対して、加熱時の膨張剤としての3~20質量%の米粉と、1~10質量%の保水性を有するタピオカでん粉を混練したものを成形するステップと、成形したものを中心温度が85℃以上になるように蒸気で蒸す又は焙焼するステップと、次に冷却後に50~70℃にて3~5時間乾燥するステップと、次に加熱又は油で揚げるステップとを有することを特徴とする乾燥魚肉食品の製造方法。」が開示されている。
特許文献5には、「魚肉のすり身、膨張剤および乳化剤を含む原材料を用いて製造された乾燥かまぼこであって、複数の細孔を有し、水銀ポロシメーターによる水銀圧入法で測定した細孔分布において、65~150μmの範囲にピーク細孔径を有する乾燥かまぼこ」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭50-39139号
【文献】特開昭60-78533号
【文献】特許第3142174号
【文献】特許第5235929号
【文献】特開2015-84668号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
魚肉タンパク質は良質なタンパク質であり、日本では広く摂取されてきたが、残念ながらその消費量は減少傾向にある。単なる栄養素としての蛋白源であるだけでなく、魚肉タンパク質特有の生理機能についての研究も進んでおり、魚肉タンパク質の活用が望まれる。
本発明は、良質なタンパク質である魚肉タンパク質の含有量が高く、簡便に摂取できる魚肉加工食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、通常、解凍して混錬した練り肉にしてから使用される冷凍魚肉すり身を凍結したままでカットし、そのまま真空油ちょうすることにより、思いがけず、スナック等に適する好ましい食感の食品が得られることを見出し、完成されたものである。
本発明は(1)~(7)の魚肉加工食品の製造方法、及び(8)~(11)の魚肉加工食品を要旨とする。
(1)細断された魚肉すり身又は落し身が油ちょうされている、比重が0.5g/cm3以下であり、食塩含有量が2重量%以下(乾燥物換算)であることを特徴とする魚肉すり身又は落し身の加工食品。
(2)タンパク質含量が40重量%以上である(1)の加工食品。
(3)油ちょう後の水分量が10重量%以下である(1)又は(2)の加工食品。
(4)厚みが3cm以下である(1)ないし(3)いずれかの加工食品。
【0007】
(5)冷凍魚肉すり身又は落し身を凍結したままで細断し、真空油ちょうすることを特徴とする魚肉加工食品の製造方法。
(6)油ちょう後の魚肉加工食品の比重が0.5g/cm3以下である(5)の方法。
(7)油ちょう後の魚肉加工食品の食塩含有量が2重量%以下(乾燥物換算)である(5)又は(6)の方法。
(8)油ちょう後の魚肉加工食品のタンパク質含量が40重量%以上である(5)ないし(7)いずれかの方法。
(9)油ちょう後の魚肉加工食品の水分量が10重量%以下である(5)ないし(8)いずれかの方法。
(10)冷凍魚肉すり身又は落し身を凍結したままで細断する際の厚みが3cm以下である(5)ないし(9)いずれかの方法。
(11)冷凍魚肉すり身又は落し身が、魚肉以外に塩類、糖類、食物繊維類のいずれか1種以上を含有するものであることを特徴とする(5)ないし(10)いずれかの方法。
(12)魚肉が白身魚または鮭鱒類の魚肉である(5)ないし(11)いずれかの方法。
(13)真空油ちょうが圧力0.03MPa以下、温度60~120℃で行うものである(5)ないし(12)いずれかの方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法を採用することにより、冷凍魚肉すり身又は落し身を原料として、高蛋白質であり、手軽に摂取することができるスナックのような魚肉加工食品を製造することができる。本刃具名の魚肉加工食品は水分含有量を低くできるので常温保存することができる。また、食塩を添加して練り肉とする従来の製品と異なり、食塩を添加した練り工程が無いので、最終食品の食塩含有量を低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明品(実施例1)のサンプルの写真である。
【
図2】本発明品(実施例2)のサンプルの写真である。
【
図3】本発明品(実施例3)のサンプルの写真である。
【
図4】本発明品(実施例4)のサンプルの写真である。
【
図5】本発明品(実施例5)のサンプルの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は冷凍魚肉すり身又は落し身(以下、「すり身等」ともいう)を原料とする魚肉加工食品の製造方法に関する。
本発明で用いる魚肉はどんな魚肉でもよいが、筋肉がしっかりした魚種が好ましい。具体的には、ナマズ目(アメリカナマズ・パンガシウス等)、サケ目(ギンザケ・ベニザケ等)、タラ目(スケトウダラ・ホキ・メルルーサ等)、ニシン目(カタクチイワシ・マイワシ等)、ダツ目(サンマ・トビウオ等)、キンメダイ目、タウナギ目(マゴチ・ギンダラ等)、スズキ目(マグロ・ブリ・ヒメジ・ナイルティラピア・スギ・アジ・タチウオ・ゴマサバ・カツオ・マダイ・イヨヨリダイ・グチ等)、カレイ目(ヒラメ・オヒョウ・カラスガレイ等)などが例示される。
これらの魚肉をすり身又は落し身としたものを原料とする。
【0011】
広く汎用されている魚肉すり身は白身魚の冷凍すり身である。癖が少なく汎用性が高いので本発明の原料に適している。タラ目タラ科に属するスケトウダラ、ミナミダラ、タラ目マクルロヌス科に属するホキなどのタラ類やヒメ目エソ科に属するエソなどのエソ類、グチ、イトヨリ、キンメダイ、ヒメジ、ヘイク、サケ・マス、タチウオ等の魚肉を採肉後、水晒しし、脱水後、凍結されたものであり、多くは、塩類、糖類などの冷凍変性防止剤を添加したうえで、凍結流通されている。落し身は水晒しをしない点を除いてすり身と同様に製造される。
実施例で比較例として用いたフィッシュブロックは、生の魚の凍結ブロックであり、通常、頭、内臓、皮、骨などを除去したフィレなどの魚肉を凍結パンなどに詰めて、ブロック状に凍結したものである。
【0012】
本発明では、冷凍魚肉すり身又は落し身を凍結したままで細断する。凍結したままで目的とする形状、大きさに細断することにより、その形状、大きさが保持される。通常冷凍すり身等は-20℃以下で保存されている。-20℃以下では細断するには硬すぎるので、細断方法によるが、-5~-10℃程度に昇温すると容易に細断できる。
細断方法は、目的とする形状によって、適宜既存の方法を使用できる。具体的には、バンドソーやフローズンカッターなどが例示される。
【0013】
細断された冷凍すり身等は真空油ちょうされる。真空油ちょうは、圧力0.03MPa以下、温度60~120℃、好ましくは、圧力0.01MPa以下、温度70~100℃で、油ちょうすることができる装置を用いる。具体的には、真空フライヤー、減圧フライヤー、バキュームフライヤーなどとして販売されている装置を使うことができる。真空フライヤーは、最高真空-0.09MPa以下というような規格で市販されており、それらを用いることができる。油ちょう時間は、製品の大きさによって、適宜調節する。厚みが大きいほど、水分が蒸発するのに時間がかかる。魚肉すり身は水分を70~90重量%程度含む。それらを10重量%以下、好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下になる程度まで、油ちょうする。水分を適切に除去させるためには、製品の厚みを3cm以下程度に細断するのが好ましい。ここで製品の厚みとは縦横高さのうち、最も短いものを意味する。
油ちょうに用いる油脂は、食用に用いることができる油脂であれば何でもよい。好ましくは植物油である。具体的には、大豆油、菜種油、べに花油、コーン油、綿実油、ごま油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、ひまわり油、米油、グレープシードオイルなどが例示される。油ちょう後のカリカリした食感のためには、パーム油などのような融点が30~40℃程度の植物油を用いるのが好ましい。
【0014】
油ちょう後の製品は、そのまま最終製品として食することができる。表面に適宜味付けをすることもできる。粉末の調味料をそのまま表面に散布することもできるし、液体調味料であっても表面に一定量散布することもできる。
原料のすり身の製造時に各種調味料を添加しておき、それを原料として用いることもできる。通常、冷凍すり身等には、冷凍変性防止のために糖類、塩類が添加されていることが多い。それらに加えて、他の調味料を添加して用いることができる。食物繊維類、具体的には、でんぷん等の多糖類などを添加しておくことによって、食感を調整することができる。
【0015】
上記の方法によって、油ちょう後の比重が0.5g/cm3以下であり、水分量を3重量%以下程度に真空油ちょうした魚肉加工食品は、カリカリした食感を有し、そのままスナック、おつまみとして食することができる。練製品のように食塩を添加して練ることを行わないので、すり身等由来の食塩のみを含むものであるから、食塩濃度は2重量%以下(乾燥物換算)とすることができる。
従来の魚肉すり身を原料とするおつまみ類は、魚肉に食塩を添加して混錬した練り肉とするものであり、魚肉すり身のゲル形成能を利用したものである。一方、本願発明の魚肉加工食品は、冷凍すり身をそのまま細断して、真空油ちょうしたものである。練る工程がないので、従来のおつまみ等とは明らかに物性が異なる。魚肉練り製品の原料として用いられることがもっぱらであった冷凍すり身を原料として新しいタイプの加工食品を提供することができる。
【0016】
本発明の魚肉加工食品は、乾燥おつまみとしてそのまま食することができる。乾燥おつまみとは水分量10重量%以下(好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下)で、常温保存可能なおつまみである。おつまみとは、お酒の肴やおやつなどに適する、そのまま食することができる軽い食品である。
すり身をそのまま真空油ちょうした本発明の食品は、他の市販されている魚肉を含むおつまみ系の食品と比較して優位に白身魚のたんぱく質を多く(40重量%以上、好ましくは45重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上)含有し、効率良くたんぱく質を摂取できる食品である。
おつまみ以外には、スープ具材、サラダのトッピング、料理の付け合わせのように利用することができる。
【0017】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
<実施例1~5、比較例1>
冷凍すり身(日本水産株式会社、スケトウダラA級すり身)を凍結したままで、各種形状に細断した。ミンチ状に細断する場合、-20℃以下に凍結された冷凍すり身を-10~-5℃に昇温し、フィードスクリュー、プレート及びプレートナイフを有するタイプの肉挽き機を用いてミンチ状にした。ミンチ状魚肉は-20℃以下に冷却し、バラ状に粉砕して用いた。スティック状に細断する場合、フローズンカッター等で冷凍のまま裁断する。ダイス状に細断する場合、バンドソーで角切りすることもできるが、これもフローズンカッターでダイス状に加工することができる。
各種形状に細断した冷凍すり身を凍結したままで、真空油ちょう機(真空フライヤー)を用いて油ちょうした。用いた真空フライヤーは、最高真空がゲージ圧で-0.097MPaの装置であり、油ちょう温度は約90℃とした。油ちょう時間と歩留まりは表1のとおりであった。
比較例1として、冷凍すり身の代わりに凍結フィッシュブロックをミンチ状に細断し同様に油ちょうした。
【0019】
表1に示すとおり、いずれの実施例も真空油ちょうすることにより、水分が飛び、カリカリとしたスナックらしい食感であった。油ちょうにより、過度な褐変が見られることもなかった。フィッシュブロックを原料として用いた比較例1では、真空油ちょう中に崩壊が見られ、形状を維持できず、歩留りが測定できなかった。
【0020】
【0021】
実施例1及び2の成分分析の結果を表2に示す。真空油ちょうにより、水分量が低いレベルに低下していることがわかる。
【0022】
【0023】
<比較例2~4>
実施例2と同様に細断したスティック状の冷凍すり身を常圧油ちょうした。油ちょうの条件は、90℃で45分間、180℃で5分間、及び、90℃で15分間+180℃で5分間の3通りとした。
それぞれの成分分析の結果を表3に示した。常圧での油ちょうでは、真空油ちょうのように水分を低下させることはできず、食感も異なるものであった。比較例2は、真空油ちょうと比較して、カリカリ感はなく、くにゃくにゃとした練り製品のような食感であった。比較例3は、強い褐変(焦げ)が発生し、カリカリとした食感には至らなかった。比較例4は、カリッとしたスナック様の食感にはならず、ひきのある食感となった。
【0024】
【0025】
実施例2と比較例4のサンプルの比重を測定した。測定方法は、一定量の水を張った容器にそれぞれのサンプルを一定重量入れ、こぼれ落ちた水の量を測定し、それをサンプルの体積とし比重を計算した。実施例2のサンプルの比重は0.38g/cm3、比較例4のサンプルの比重は0.87g/cm3であった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
良質なタンパク質である魚肉タンパク質の含有量が高く、簡便に摂取できる魚肉加工食品を提供することができる。