(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】ガラス基板の製造方法、及びガラス基板製造装置
(51)【国際特許分類】
C03B 5/225 20060101AFI20220913BHJP
【FI】
C03B5/225
(21)【出願番号】P 2018133116
(22)【出願日】2018-07-13
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508271425
【氏名又は名称】安瀚視特股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】AvanStrate Taiwan Inc.
【住所又は居所原語表記】NO.8,Industry III Road,Annan,Tainan,709 Taiwan,Province of China
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 諒
【審査官】大塚 晴彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-050149(JP,A)
【文献】国際公開第2009/107801(WO,A1)
【文献】特開2014-047124(JP,A)
【文献】特開2016-190753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/16 ー 5/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の製造方法であって、
ガラス原料を熔解して熔融ガラスをつくる熔解工程と、
清澄槽内で前記熔融ガラスの清澄を行う清澄工程と、を備え、
前記清澄槽は、前記熔融ガラスの液面の上方に形成される気相空間と接し、白金族金属を含む材料から構成された壁部を備える清澄管を有し、
前記壁部には、前記気相空間と前記清澄管の外部とを連通する開口部が設けられ、
前記開口部には、前記開口部を通過した前記気相空間内の気体の流路を形成する流路形成部材が接続され、
前記流路は、前記開口部を通過した前記気体が流れる第1の空間と、前記第1の空間の下流側に位置し、前記第1の空間を流れた前記気体が流れる第2の空間と、を有し、
水平方向に沿った前記第1の空間の出口の位置は、前記開口部の側の前記第1の空間の底部の水平方向の範囲と重なっておらず、
前記清澄工程を行うとき、前記壁部から揮発した白金族金属を含む、前記気相空間内の気体の一部が前記開口部を通過して前記第1の空間内に流れ、前記第1の空間内の雰囲気温度を前記揮発した白金族金属の凝集を抑制する温度以上にする、ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記清澄工程を行うとき、前記第2の空間内の雰囲気温度を、前記第1の空間内の雰囲気温度より低くする、請求項1に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記清澄工程を行うとき、前記第1の空間を囲む前記流路形成部材の第1の部分の温度を1500℃以上にし、前記第2の空間を囲む前記流路形成部材の第2の部分の温度を1400℃~1500℃未満にし、前記揮発した白金族金属を前記第2の空間内で凝集させる、請求項2に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記流路は、前記第1の空間内を気体が流れる方向と、前記第2の空間内を気体が流れる方向とが異なるよう屈曲している、請求項1から3のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項5】
ガラス基板製造装置であって、
ガラス原料を熔解して熔融ガラスをつくる熔解槽と、
前記熔融ガラスの清澄を行う清澄槽と、を備え、
前記清澄槽は、
熔融ガラスの液面の上方に形成される気相空間と接し、白金族金属を含む材料から構成された壁部を備え
る清澄管であって、前記壁部に、前記気相空間と前記清澄管の外部とを連通する開口部が設けられた清澄管と、
前記開口部と接続され、前記開口部を通過した前記気相空間内の気体の流路を形成する流路形成部材と、を有し、
前記流路は、前記開口部を通過した前記気体が流れる第1の空間と、前記第1の空間の下流側に位置し、前記第1の空間を流れた前記気体が流れる第2の空間と、を有し、
水平方向に沿った前記第1の空間の出口の位置は、前記開口部の側の前記第1の空間の底部の水平方向の範囲と重なっておらず、
前記清澄が行われるとき、前記壁部から揮発した白金族金属を含む、前記気相空間内の気体の一部が前記開口部を通過して前記第1の空間内に流れ、前記第1の空間内の雰囲気温度を前記揮発した白金族金属の凝集を抑制する温度以上にする、ことを特徴とするガラス基板製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の製造方法、及びガラス基板製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
清澄剤を用いて熔融ガラスを清澄するために、従来より、清澄槽の清澄管内の熔融ガラスを加熱し、熔融ガラスに含まれる清澄剤の脱泡作用を促進させることにより、熔融ガラス内で気泡を浮上させ、清澄管内の気相空間に気泡内のガスを放出させることが行われている。気相空間は、気相空間は、清澄管の内壁と清澄管内の熔融ガラスの液面とで囲まれた空間である。清澄管の構成材料としては、例えば、耐熱性に優れた白金族金属が用いられていることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
清澄管の内壁のうち気相空間に接する部分は、熔融ガラスに接する部分と比べ、温度が高くなりやすい。さらに、気相空間は酸素を含んでいるため、気相空間に接する清澄管の部分に含まれる白金族金属は、酸化されて、清澄管の内壁から揮発し、蒸気として気相空間内に分散しやすいことが知られている。従来、気相空間と接する清澄管の壁部に、通気管が設けられている場合がある。通気管を用いて、熔融ガラスから気相空間に放出された酸素や、気相空間内に分散した白金族金属の揮発成分、さらには、気相空間内に導入された不活性なガス、の一部を排出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通気管は、清澄管の外に突出した形状を有しているため、清澄管と比べ温度が低くなりやすい。このため、通気管内を流れる白金族金属の揮発成分は、通気管内で過飽和状態となって凝集し、通気管の内壁に析出する場合がある。析出した白金族金属の凝集物は、時間の経過とともに成長し、自重により通気管の内壁から剥がれ、清澄管内の熔融ガラスに落下するおそれがある。白金族金属の凝集物(白金異物)が熔融ガラスに混入することで、ガラス基板の品質が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、白金族金属を含む材料から構成された壁部を備える清澄槽を用いて熔融ガラスの清澄を行う際に、壁部から揮発し、通気管内で凝集した白金族金属の凝集物が熔融ガラスに混入することを抑制できるガラス基板の製造方法、及びガラス基板製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、ガラス基板の製造方法であって、
ガラス原料を熔解して熔融ガラスをつくる熔解工程と、
清澄槽内で前記熔融ガラスの清澄を行う清澄工程と、を備え、
前記清澄槽は、前記熔融ガラスの液面の上方に形成される気相空間と接し、白金族金属を含む材料から構成された壁部を備える清澄管を有し、
前記壁部には、前記気相空間と前記清澄管の外部とを連通する開口部が設けられ、
前記開口部には、前記開口部を通過した前記気相空間内の気体の流路を形成する流路形成部材が接続され、
前記流路は、前記開口部を通過した前記気体が流れる第1の空間と、前記第1の空間の下流側に位置し、前記第1の空間を流れた前記気体が流れる第2の空間と、を有し、
水平方向に沿った前記第1の空間の出口の位置は、前記開口部の側の前記第1の空間の底部の水平方向の範囲と重なっておらず、
前記清澄工程を行うとき、前記壁部から揮発した白金族金属を含む、前記気相空間内の気体の一部が前記開口部を通過して前記第1の空間内に流れ、前記第1の空間内の雰囲気温度を前記揮発した白金族金属の凝集を抑制する温度以上にする、ことを特徴とする。
【0008】
前記清澄工程を行うとき、前記第2の空間内の雰囲気温度を、前記第1の空間内の雰囲気温度より低くすることが好ましい。
【0009】
前記清澄工程を行うとき、前記第1の空間を囲む前記流路形成部材の第1の部分の温度を1500℃以上にし、前記第2の空間を囲む前記流路形成部材の第2の部分の温度を1400℃~1500℃未満にし、前記揮発した白金族金属を前記第2の空間内で凝集させることが好ましい。
【0010】
前記流路は、前記第1の空間内を気体が流れる方向と、前記第2の空間内を気体が流れる方向とが異なるよう屈曲していることが好ましい。
【0011】
本発明の別の一態様は、ガラス基板製造装置であって、
ガラス原料を熔解して熔融ガラスをつくる熔解槽と、
前記熔融ガラスの清澄を行う清澄槽と、を備え、
前記清澄槽は、
熔融ガラスの液面の上方に形成される気相空間と接し、白金族金属を含む材料から構成された壁部を備える清澄管であって、前記壁部に、前記気相空間と前記清澄管の外部とを連通する開口部が設けられた清澄管と、
前記開口部と接続され、前記開口部を通過した前記気相空間内の気体の流路を形成する流路形成部材と、を有し、
前記流路は、前記開口部を通過した前記気体が流れる第1の空間と、前記第1の空間の下流側に位置し、前記第1の空間を流れた前記気体が流れる第2の空間と、を有し、
水平方向に沿った前記第1の空間の出口の位置は、前記開口部の側の前記第1の空間の底部の水平方向の範囲と重なっておらず、
前記清澄が行われるとき、前記壁部から揮発した白金族金属を含む、前記気相空間内の気体の一部が前記開口部を通過して前記第1の空間内に流れ、前記第1の空間内の雰囲気温度を前記揮発した白金族金属の凝集を抑制する温度以上にする、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、白金族金属を含む材料から構成された壁部を備える清澄槽を用いて熔融ガラスの清澄を行う際に、壁部から揮発し、通気管内で凝集した白金族金属の凝集物が熔融ガラスに混入することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態であるガラス基板の製造方法のフローを示す図である。
【
図2】本実施形態の熔解工程から切断工程までの各工程を行う装置を模式的に示す図である。
【
図4】気体の流れ方向に沿った流路形成部材の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のガラス基板の製造方法、及びガラス基板製造装置について説明する。
【0015】
(ガラス基板の製造方法の全体概要)
以下、本実施形態のガラス基板の製造方法、ガラス基板製造装置及び熔融ガラスの清澄槽について説明する。本実施形態には、後述する種々の実施形態が含まれる。
図1は、本実施形態のガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
以降で説明する白金または白金合金等は、白金族金属であり、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、及びイリジウムのいずれか1種、あるいは、これらのうちの2種以上の合金、である。
【0016】
ガラス基板の製造方法は、熔解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、成形工程(ST4)と、徐冷工程(ST5)と、切断工程(ST6)と、を主に有する。この他に、研削工程、研磨工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程等を有し、梱包工程で積層された複数のガラス基板は、納入先の業者に搬送される。
【0017】
熔解工程(ST1)は熔解槽で行われる。熔解工程(ST1)では、ガラス原料を熔解して熔融ガラスを作る。なお、ガラス原料には清澄剤が添加されることが好ましい。清澄剤については、環境負荷低減の点から、酸化錫が好適に用いられる。
【0018】
清澄工程(ST2)は、清澄槽内で熔融ガラスの清澄を行う。熔融ガラスは、少なくとも気相空間(後述)と接する壁部が白金族金属で構成された清澄槽内に供給される。清澄工程(ST2)では、清澄槽内の熔融ガラスが昇温される。この過程で、清澄剤は、還元反応により酸素を放出し、後に還元剤として作用する物質となる。熔融ガラス中に含まれるO2、CO2あるいはSO2を含んだ泡は、清澄剤の還元反応により生じたO2と合体して体積が大きくなり、熔融ガラスの液面に浮上して破泡し消滅する。このようにして清澄剤の酸化還元反応による脱泡が行われる。なお、清澄工程(ST2)で行う脱泡には、清澄槽内の気相空間を減圧状態にして脱泡を行う減圧脱泡は除かれる。減圧脱泡は、気相空間の圧力を500~35000Paに減圧して行う脱泡をいい、例えば、清澄管の温度は1200~1550℃にして行われる。
【0019】
その後、清澄工程(ST2)では、熔融ガラスの温度を低下させる。この過程で、清澄剤の還元反応により得られた還元剤が酸化反応をする。これにより、熔融ガラスに残存する泡中のO2等のガス成分が熔融ガラス中に溶け込むことで、泡が消滅する。清澄工程(ST2)については後で詳細に説明する。
【0020】
均質化工程(ST3)では、清澄槽から延びる配管を通って供給された攪拌槽内の熔融ガラスを、スターラを用いて攪拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。
【0021】
成形装置では、成形工程(ST4)及び徐冷工程(ST5)が行われる。
成形工程(ST4)では、熔融ガラスをシートガラスに成形し、シートガラスの流れを作る。成形には、オーバーフローダウンドロー法あるいはフロート法を用いることができる。後で参照する
図2には、オーバーフローダウンドロー法を用いて成形を行う成形装置が示されている。
徐冷工程(ST5)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように冷却される。
【0022】
切断工程(ST6)では、切断装置において、成形装置から供給されたシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス板を得る。切断されたガラス板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。
【0023】
熔解工程(ST1)から切断工程(ST6)までの各工程は、例えば、
図2に示す装置によって行われる。
図2は、本実施形態の製造方法を行う装置を模式的に示す図である。当該装置は、主に、熔解装置100と、成形装置200と、切断装置300とを有する。熔解装置100は、熔解槽101と、清澄槽102と、攪拌槽103と、ガラス供給管104、105、106と、を有する。成形装置200は、熔融ガラスをオーバーフローさせて板状に成形するための成形体201を備えている。
【0024】
(清澄工程および清澄槽)
次に、清澄工程(ST2)および清澄槽102について、より詳細に説明する。
図3に、清澄槽102の外観斜視図を示す。清澄槽102は、清澄槽102の本体である清澄管102aと、流路形成部材210と、を有している。
【0025】
清澄管102aは、例えば、白金族金属からなる円筒状の容器であり、長手方向(
図3の左右方向)の両端のそれぞれにガラス供給管104,105が接続されている。清澄工程(ST2)では、ガラス供給管104から清澄管102a内に供給された熔融ガラスGは、清澄管102a内を流れながら清澄が行われ、ガラス供給管105から攪拌槽103に移送される。このとき、清澄管102aには、熔融ガラスGの液面に対して上方の位置に、熔融ガラスGを除いた空間である気相空間Sが形成される。気相空間Sには、熔融ガラスG内に生じた気泡Bが浮上して液面で破泡することで、気泡B内のガスが放出される。
気相空間Sと接する清澄管102aの壁部には、気相空間Sと清澄管102aの外部とを連通する開口部102bが設けられている。開口部102bには流路形成部材210が接続されている。気相空間Sに放出されたガスの一部は、開口部102bを通過し、さらに、流路形成部材210を通って清澄管102aの外に排出される。
【0026】
清澄管102aの長手方向の両端のそれぞれには、清澄管102aの表面から外周側に突出した円板状のフランジ102e,102fが設けられている。フランジ102e,102fには、それぞれ、図示されない電極が取り付けられており、電極からの電流を清澄管102aの周上に均一に拡散する。清澄工程(ST2)において、フランジ102e,102fに取り付けられた2つの電極の間で通電されることで、清澄管102aが発熱し、清澄管102a内の熔融ガラスGが加熱される(直接通電加熱)。なお、フランジ102e,102fは、電極に直接接続され、過熱しやすいため、水または空気で冷却される。また、フランジが設けられる位置は、清澄管102aの長手方向の両端でなくてもよく、一方又は両方が清澄管102aの両端以外の部分に設けられてもよく、特に限定されない。フランジの数は、2つに限定されるものではなく、3つ以上設けられてもよい。
【0027】
図4に、気体の流れ方向に沿った流路形成部材210の断面を示す。
流路形成部材210は、開口部102bを通過した気相空間S内の気体の流路を形成する部材である。流路形成部材210は、白金族金属からなる材料、耐火レンガ、および、これらの組み合わせ、のいずれかにより構成される。
図4に示す例の流路形成部材210は、白金族金属からなる材料から構成された通気管211と、後述する耐火レンガ222aから構成された壁部材と、を有している。
【0028】
通気管211は、流路形成部材210の入り口を形成する。通気管211は、例えば、清澄管102aの頂部に設けられている。通気管211の形状は、清澄管102aから真っすぐ延びた煙突状の形状である。なお、通気管211の揮発を防止するために、通気管211の内表面及び外表面の少なくともいずれかに溶射膜を設けることが好ましい。
【0029】
通気管211が設けられる清澄管102aの位置は、例えば、清澄管102aの長手方向中央位置である。通気管211は、1つだけ設けられてもよく、2つ以上設けられてもよい。なお、上記フランジが3つ以上設けられる場合は、通気管211は、例えば、長手方向に隣り合って配された2つのフランジの間に1つ設けられる。
【0030】
流路形成部材210の壁部材は、清澄管102aの周りに清澄管102aを囲むように配置されたレンガ層を構成する複数の耐火レンガのうちの一部の耐火レンガ222aである。すなわち、流路形成部材210の壁部材は、レンガ層の一部をなしている。なお、レンガ層は、清澄管102a内の熔融ガラスを保温するための構造体であり、複数の耐火レンガからなる。レンガ層は、例えば、耐火レンガが
図4の上下方向に積み重ねられ、複数の層を有する。
図4には、流路形成部材210とともに、レンガ層の一部が図示されている。
【0031】
耐火レンガ222aは、
図4に示す例において、通気管211を外側から囲むよう配置される。また、耐火レンガ222aは、開口部102bを通過した気体が流れる第1の空間220と、第1の空間220の下流側に位置し、第1の空間220を流れた気体が流れる第2の空間221と、を有する流路が形成されるよう配置されている。本実施形態において、第1の空間220内の雰囲気温度は、白金族金属の揮発成分の凝集を抑制する温度以上にされる。このため、気相空間Sから流路形成部材210内に流れた白金族金属の揮発成分は、第1の空間220内で凝集することが抑制される。なお、白金族金属の揮発成分の凝集を抑制する温度とは、具体的に、第1の空間220内の雰囲気中の揮発成分の蒸気圧が飽和蒸気圧未満となる温度をいう。
そして、本実施形態において、水平方向に沿った第1の空間220の出口220bの位置は、
図4に示すように、開口部202bの側の第1の空間220の底部220aの水平方向の範囲Rと重なっていない。このため、第1の空間220の下流側に流れた揮発成分が、仮に、流路形成部材210(第2の空間221)内で凝集し、流路形成部材210(第2の空間221)内で落下したとしても、第1の空間220内に入り込んで第1の空間220の底部220aに落下することは阻止される。このため、白金族金属の凝集物が熔融ガラスに混入することを抑制でき、ガラス基板の品質が低下することを抑制できる。
【0032】
第1の空間220及び第2の空間221内の雰囲気温度は、流路形成部材210の温度を制御することで調整される。流路形成部材210の温度は、例えば、
図4に示すヒータ224と、ヒータ224に接続された図示されない制御装置と、を用いて制御することができる。
ヒータ224には、ハロゲンヒータ、電熱コイル等、公知の加熱要素が用いられる。ヒータ224は、
図4に示す例では、耐火レンガ222a同士の間の隙間の複数の位置に配置される。一方で、ヒータ224は、耐火レンガ222aの外側の複数の位置に配置されていてもよい。第1の空間は、上方に位置する部分であるほど温度が低下しやすいため、第1の空間220の周りのヒータ224の設定温度に関して、上方(気相空間から離れる側)に配置されたヒータ224は、下方に配置されたヒータ224より高いことが好ましく、上方に配置されたヒータ224であるほど設定温度が高いことが好ましい。また、第1の空間220の周りのヒータ224は、下方より上方に多く設けられることが好ましい。
制御装置は、CPU、メモリ等を含むコンピュータである。制御装置は、流路形成部材210に設けられた温度測定素子(図示せず)に接続されている。制御装置は、温度測定素子が計測した温度に基づいて、流路形成部材210の温度が目標となる温度範囲に保たれるよう、ヒータ224に向けて制御信号を出力する。
このように、第1の空間220及び第2の空間221内の雰囲気温度を、ヒータ224によって直接的に調整するのではなく、流路形成部材210を介して間接的に調整することで、空間220,221の容積が大きい場合でも、空間220,221内の温度分布のムラをなくして、所定の温度に近づけることができる。
【0033】
なお、
図4に示す例のレンガ層は、流路形成部材210の壁部材を構成する耐火レンガ222aと、流路形成部材210の周りに、流路形成部材210を囲むよう配置された耐火レンガ222bと、を有している。このうち、耐火レンガ222aの熱伝導率は、上述した温度調整が容易に行えるよう、例えば2~30W/(m・K)である。一方、耐火レンガ222bの熱伝導率は、高い保温効果が得られるよう、例えば0.05~15W/(m・K)である。
【0034】
一実施形態によれば、清澄工程(ST2)を行うとき、第2の空間221内の雰囲気温度を、第1の空間220内の雰囲気温度より低くすることが好ましい。上述したように、清澄工程(ST2)において、第1の空間220内の雰囲気温度は、白金族金属の揮発成分の凝集を抑制する温度以上にされるとともに、水平方向に沿った第1の空間220の出口220bの位置は、第1の空間220の底部220aの水平方向の範囲Rと重なっていないことにより、第1の空間220内で白金族金属の揮発成分が凝集することが抑制されるとともに、仮に流路形成部材210(第2の空間221)内で析出した白金族金属の凝集物が落下することあがっても、第1の空間220内に入り込んで熔融ガラス内に落下することが抑制されている。
【0035】
一実施形態によれば、清澄工程(ST2)を行うとき、第1の空間220を囲む流路形成部材210の第1の部分210a(
図4参照)の温度を1500℃以上にし、第2の空間221を囲む流路形成部材210の第2の部分210b(
図4参照)の温度を1400℃~1500℃未満にし、白金族金属の揮発成分を第2の空間221内で凝集させることが好ましい。この実施形態では、流路形成部材210の第1の部分210a及び第2の部分210bをそれぞれ上記温度範囲に調整することにより、第1の空間220内では白金族金属の揮発成分の凝集を抑制できるとともに、第2の空間221内では白金族金属の揮発成分が凝集するという知見に基づき、流路形成部材210の第1の部分210a及び第2の部分210bをそれぞれ上記温度範囲に調整している。なお、第2の部分210bの温度が1400℃未満であると、隣接する第1の部分210aとの温度差が大きくなり、第1の部分210aの温度を調整し難くなる場合がある。このため、第1の部分210aの最低温度と第1の部分210aの最高温度との差が、好ましくは100℃以下であり、より好ましくは60℃以下であり、さらに好ましくは40℃以下である。
【0036】
一実施形態によれば、流路形成部材210内の気体の流路は、
図4に示す例のように、第1の空間220内を気体が流れる方向(
図4の上下方向)と、第2の空間221内を気体が流れる方向(
図4の左右方向)とが異なるよう屈曲していることが好ましい。これにより、第2の空間221内で白金族金属の揮発成分を凝集させた場合であっても、凝集物が第1の空間220内に入り込むのを阻止できる。第1の空間220及び第2の空間221内を気体が流れる方向の屈曲角は、好ましくは30~150度であり、例えば90度である。
この実施形態では、さらに、
図4に示す例のように、第2の空間221内を気体が流れる方向が水平方向であることが好ましい。
図4に示す例において、第2の部分210bは、レンガ層の表層をなすよう形成されている。これにより、第2の空間221内に析出した白金族金属の凝集物Pの除去を、下記説明するように容易に行うことができる。
図4において、凝集物Pは概念的に示される。凝集物Pの除去は、例えば、第2の空間221の出口221aから、第2の空間221内に器具を挿入し、器具を用いて耐火レンガ222aの表面から削り取ることで行われる。その際、第2の部分210bを構成する耐火レンガ222aの一部を取り去って出口221aを広げることができる。削り取った凝集物Pは、図示されない吸引装置を用いて第2の空間221の出口221aから吸い取ることができる。このような第2の空間221内で白金族金属の凝集物Pを凝集させることにより、定期的に、凝集物Pを流路形成部材210内から除去でき、流路形成部材210内に凝集物Pが溜まることを防止できる。また、削り取った凝集物Pを出口221a側に集めて出口221aから取り除きやすくするために、第2の空間221を形成する耐火レンガ222aのうち第2の空間221の底面側(
図4において第2の空間221の下側)の耐火レンガ222aを、第1の空間220の出口220bから第2の空間221の出口221aに向かうに連れ下方に位置するように、第2の空間221と接する耐火レンガ222aの表面(上面)を水平方向に対し傾斜させて設置することもできる。
なお、第2の空間221の上方に位置する第2の部分210bをなす耐火レンガ222aの厚さ(
図4の上下方向に沿った長さ)が薄すぎると、第2の部分210bの温度を適切に調整し難くなる。このため、上記厚さは、第1の部分210aをなす耐火レンガより厚いことが好ましい。
【0037】
一実施形態によれば、流路形成部材210は、
図4に示す例のように、第1の空間220と第2の空間221との間で障壁Bが設けられることが好ましい。これにより、第2の空間221内で析出させた白金族金属の凝集物Pが第1の空間220内に入り込むことを確実に阻止できる。
図4に示す例では、第1の空間220と第2の空間221との間の流路が狭まるように、障壁Bが配置されている。第1の空間220と第2の空間221との間の流路を狭めることで、第1の空間220の第2の空間221に対する温度の影響、及び、第2の空間221の第1の空間220に対する温度の影響を抑制でき、各空間220,221の温度制御が容易になる。
【0038】
なお、
図4に示す例において、第1の空間220は、通気管211の流路断面よりも広い流路断面を有している。また、
図4に示す例において、第2の空間221の容積は、第1の空間220の容積より小さい。
【0039】
流路形成部材210の形態は、上記説明した形態に制限されることなく、種々、採用しうる。
図5に、本実施形態の流路形成部材210の変形例を示す。
図5に示す変形例では、流路形成部材210は、白金族金属からなる材料で構成された通気管212で構成されている。通気管212は、第1の部分212aと、第2の部分212bと、を有している。通気管212は、ヒータ224等の加熱要素を用いて温度調整される。通気管212は、図示されないレンガ層で囲まれていることが好ましい。
通気管212は、
図5に示す例において、第1の空間220内を気体が流れる方向と、第2の空間221内を気体が流れる方向とが屈曲しているが、屈曲していなくてもよい。例えば、鉛直方向に対して傾斜した方向に直線状に延びるよう、配置されたものであってもよい。
【0040】
本実施形態によれば、上述したように、第1の空間220内の雰囲気温度は、白金族金属の揮発成分の凝集を抑制する温度以上にされるとともに、水平方向に沿った第1の空間220の出口230bの位置は、第1の空間220の底部220aの水平方向の範囲Rと重なっていない。このため、第1の空間220内で白金族金属の揮発成分が凝集することが抑制されるとともに、仮に流路形成部材210内で析出した白金族金属の凝集物が落下することあがっても、第1の空間220内に入り込んで熔融ガラス内に落下することが抑制される。
【0041】
(ガラス組成)
このようなガラス基板として、以下のガラス組成のガラス基板が例示される。したがって、以下のガラス組成をガラス基板が有するようにガラス原料は用いられる。
SiO2:55~75モル%、
Al2O3:5~20モル%、
B2O3:0~15モル%、
RO:5~20モル%
(RはMg、Ca、Sr及びBaのうち、ガラス基板に含まれる全元素)、
R’2O:0~0.8モル%(R’はLi、K、及びNaのうち、ガラス基板に含まれる全元素)。
このガラス組成において、SiO2、Al2O3、B2O3、及びRO(Rは、Mg、Ca、Sr及びBaのうち前記ガラス基板に含有される全元素)の少なくともいずれかを含み、モル比((2×SiO2)+Al2O3)/((2×B2O3)+RO)は4.0以上であってもよい。
【0042】
本実施形態で製造されるガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板を含むディスプレイ用ガラス基板に用いられる。
また、本実施形態で製造されるガラス基板は、IGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素)等の酸化物半導体を使用した酸化物半導体ディスプレイ用ガラス基板及びLTPS(低温度ポリシリコン)半導体を使用したLTPSディスプレイ用ガラス基板に用いられる。
また、本実施形態で製造されるガラス基板は、アルカリ金属酸化物の含有量が極めて少ないことが求められる液晶ディスプレイ用ガラス基板、あるいは、有機ELディスプレイ用ガラス基板に用いられる。
また、本実施形態で製造されるガラス基板は、カバーガラス、磁気ディスク用ガラス、太陽電池用ガラス基板などにも用いられる。
【0043】
ガラス基板の歪点は650℃以上であってもよく、690℃以上であることがより好ましく、730℃以上であることが特に好ましい。
【0044】
以上、本発明のガラス基板の製造方法及びガラス基板製造装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0045】
101 熔解炉
102 清澄槽
102a 清澄管
102b 開口部
210 流路形成部材
210a 第1の部分
210b 第2の部分
211,212 通気管
220 第1の空間
220a 底部
220b 出口
221 第2の空間
222 レンガ層
222a 耐火レンガ
224 ヒータ