IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

特許7140608車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置
<>
  • 特許-車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置 図1
  • 特許-車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置 図2
  • 特許-車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置 図3
  • 特許-車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置 図4
  • 特許-車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置 図5
  • 特許-車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置 図6
  • 特許-車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置 図7
  • 特許-車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置 図8
  • 特許-車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置 図9
  • 特許-車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置 図10
  • 特許-車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置 図11
  • 特許-車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置 図12
  • 特許-車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置 図13
  • 特許-車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置 図14
  • 特許-車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/16 20060101AFI20220913BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20220913BHJP
   B60K 7/00 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
H02K5/16 A
F16C19/18
B60K7/00 ZHV
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018165590
(22)【出願日】2018-09-05
(65)【公開番号】P2019075976
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2017200780
(32)【優先日】2017-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】藪田 浩希
(72)【発明者】
【氏名】西川 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】川村 光生
(72)【発明者】
【氏名】藤田 康之
(72)【発明者】
【氏名】矢田 雄司
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-162923(JP,A)
【文献】特開2007-016846(JP,A)
【文献】特開2007-153266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/16
F16C 19/18
B60K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定輪、およびハブフランジを有し前記固定輪に転動体を介して回転自在に支持されて前記ハブフランジに車両の車輪およびブレーキロータが取付けられる回転輪を有する車輪用軸受と、
この車輪用軸受の固定輪に取付けられたステータ、および前記車輪用軸受の回転輪に取付けられたロータを有する電動機と、を備えた車両用動力装置において、
前記ステータおよび前記ロータの一部または全部が、前記ブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、且つ、前記電動機におけるハブフランジへの取付部を除く全体が、前記ハブフランジと、前記車両における足回りフレーム部品のアウトボード側面との間の軸方向範囲に位置し、
前記固定輪と前記ステータとの間に絶縁層を介在させ、前記固定輪と前記ステータとの間に、前記固定輪を前記足回りフレーム部品に固定する中間部材を備え、この中間部材と前記固定輪との間、および前記中間部材と前記ステータとの間のいずれか一方または両方に前記絶縁層を備えた車両用動力装置。
【請求項2】
固定輪、およびハブフランジを有し前記固定輪に転動体を介して回転自在に支持されて前記ハブフランジに車両の車輪およびブレーキロータが取付けられる回転輪を有する車輪用軸受と、
この車輪用軸受の固定輪に取付けられたステータ、および前記車輪用軸受の回転輪に取付けられたロータを有する電動機と、を備えた車両用動力装置において、
前記ステータおよび前記ロータの一部または全部が、前記ブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、且つ、前記電動機におけるハブフランジへの取付部を除く全体が、前記ハブフランジと、前記車両における足回りフレーム部品のアウトボード側面との間の軸方向範囲に位置し、
前記固定輪と前記ステータとの間に絶縁層を介在させ、前記固定輪と前記ステータとの間に、前記固定輪を前記足回りフレーム部品に固定する中間部材を備え、この中間部材が絶縁材料で構成されている車両用動力装置。
【請求項3】
固定輪、およびハブフランジを有し前記固定輪に転動体を介して回転自在に支持されて前記ハブフランジに車両の車輪およびブレーキロータが取付けられる回転輪を有する車輪用軸受と、
この車輪用軸受の固定輪に取付けられたステータ、および前記車輪用軸受の回転輪に取付けられたロータを有する電動機と、を備えた車両用動力装置において、
前記ステータおよび前記ロータの一部または全部が、前記ブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、且つ、前記電動機におけるハブフランジへの取付部を除く全体が、前記ハブフランジと、前記車両における足回りフレーム部品のアウトボード側面との間の軸方向範囲に位置し、
前記固定輪と前記ステータとの間に絶縁層を介在させ、前記ロータと前記回転輪との間に絶縁材を備えた車両用動力装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車両用動力装置において、前記電動機は、前記ステータが前記車輪用軸受の外周に位置し、前記ロータが前記ステータの半径方向外方に位置するアウターロータ型である車両用動力装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車両用動力装置において、前記電動機は、前記車輪を回転駆動可能な電動発電機である車両用動力装置。
【請求項6】
請求項に記載の車両用動力装置において、前記電動機の回転駆動用の駆動電圧または回生電圧が60V以下である車両用動力装置。
【請求項7】
固定輪、およびハブフランジを有し前記固定輪に転動体を介して回転自在に支持されて前記ハブフランジに車両の車輪およびブレーキロータが取付けられる回転輪を有する車輪用軸受と、
この車輪用軸受の固定輪に取付けられたステータ、および前記車輪用軸受の回転輪に取付けられたロータを有する発電機と、を備えた発電機付き車輪用軸受装置において、
前記ステータおよび前記ロータの一部または全部が、前記ブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、且つ、前記発電機におけるハブフランジへの取付部を除く全体が、前記ハブフランジと、前記車両における足回りフレーム部品のアウトボード側面との間の軸方向範囲に位置し、
前記固定輪と前記ステータとの間に絶縁層を介在させ、前記ロータと前記回転輪との間に絶縁材を備えた発電機付き車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪用軸受と発電機とを備えた車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置に関し、発電機を搭載することにより生じる軸受内外輪の電位差を無くすことにより、軸受内での電食を防止することができる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
モータとステータが構成された車輪用軸受において、固定輪とハブフランジの電位差によって転動体と軸受軌道面の間でスパークが発生すると、このスパークによって軸受転動体および転動面が溶融し、なし地状または波板状の電食が生じる。電食すると軸受から異音が鳴り、また軸受短寿命の原因となる。
【0003】
モータを駆動源とする車輪駆動装置において、転がり軸受部の電食を防止する技術が提案されている(特許文献1)。この技術では、インナーロータ型のモータを駆動源とする車輪駆動装置において、ロータとステータを電気的に通電するために、ステータと電気的に接続した円錐面もしくは球面の接触体を、ロータへ押圧することで車輪用軸受の転がり軸受部の電食を防止する。
【0004】
図15に示すように、本件出願人は、車輪用軸受とブレーキロータの間に構成されたアウターロータ型のモータを備える車輪構造において、車輪用軸受の固定輪とハブフランジとの間に通電ブラシBrを取り付けた技術を提案している(特願2017-113246)。車輪用軸受の内外輪で発生する電位差を通電ブラシBrで通電させることで、ロータとステータ間の電位差を無くし、転動体60を通じてハブフランジと固定輪の間で通電を防ぎ、軸受機能の電食を防ぐ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5402619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された構成では、インナーロータ型のモータを駆動源とする車両駆動装置でしか対応していない。また接触体をロータへ押圧する電食防止ユニットの部品点数が多く、構造が複雑で製造コストが高くなる。
そこで、図15の構成では、車輪用軸受の固定輪とハブフランジの間に通電ブラシBrを設けることで、アウターロータ型のモータを駆動源とする車両駆動装置に対応している。この場合、車輪用軸受の内外輪で発生する電位差を、通電ブラシBrに通電させることで、電位差を無くし、転動体60のスパークによる電食を防ぐ。
しかし、前記円錐面または球面の接触体あるいは通電ブラシBrは、車輪用軸受が回転中に摺動し続けるため、摩耗により通電能力が低下し、定期的な交換が必要となる。
【0007】
この発明の目的は、車輪用軸受の電食を防ぐことができると共に、絶縁の機能に関してメンテナンスフリーとなる車両用動力装置および発電機付き車輪用軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明における第1の発明の車両用動力装置は、固定輪、およびハブフランジを有し前記固定輪に転動体を介して回転自在に支持されて前記ハブフランジに車両の車輪およびブレーキロータが取付けられる回転輪を有する車輪用軸受と、
この車輪用軸受の固定輪に取付けられたステータ、および前記車輪用軸受の回転輪に取付けられたロータを有する電動機と、を備えた車両用動力装置において、
前記ステータおよび前記ロータの一部または全部が、前記ブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、且つ、前記電動機におけるハブフランジへの取付部を除く全体が、前記ハブフランジと、前記車両における足回りフレーム部品のアウトボード側面との間の軸方向範囲に位置し、
前記固定輪と前記ステータとの間に絶縁層を介在させた。
【0009】
この構成によると、電動機のロータが、車輪用軸受の回転輪に取付けられたダイレクトドライブ形式であるため、車両用動力装置全体の部品点数が少なく構成が簡易で省スペースで済み、車両重量の増加も抑えられる。
【0010】
ステータおよびロータの一部または全部が、ブレーキロータの外周部よりも小径であり、且つ、電動機におけるハブフランジへの取付部を除く全体が、ハブフランジと、足回りフレーム部品のアウトボード側面との間の軸方向範囲に位置する。このため、ブレーキロータ内に電動機を設置するスペースを確保してこの電動機をコンパクトに収めることができる。
【0011】
ところで従来構造の電食防止ユニット等では部品点数が多いため、ブレーキロータ内に全ての構成部品が収まる車両用動力装置に対し、前記電食防止ユニットを設置するスペースを確保することが困難である。前記のブレーキロータ内に全ての構成部品が収まる車両用動力装置だからこそ、通常のインホイールモータよりもコンパクトな絶縁構造が必要であるところ、この構成によれば、固定輪とステータとの間の僅かな環状空間を利用して同環状空間に絶縁層を介在させることで、車両用動力装置全体を大径化することなく(換言すれば、ブレーキロータ内に車両用動力装置の構成部品が収まることを阻害されずに)前記絶縁層により転動体への通電を遮断することができる。
また、電食対策として、通電ブラシを用いた構成に比べて以下の利点が挙げられる。
(1)電食対策の確認をする際の点検が容易である。
上記理由として車両用動力装置を組み立てた状態において、通電ブラシによる手法では、軸受内外輪間の電気抵抗の測定だけで、通電ブラシによって軸受内外輪間で導通しているか確認できない。
一方、固定輪とステータとの間に絶縁層を介在させた本発明の構成では、ステータと固定輪間もしくはステータと回転輪間での電気抵抗の測定により絶縁されていれば、電食は生じ得ない。
(2)絶縁層は通電ブラシのように摩耗しないので取り換える必要がなくコストが抑えられる。
上記理由として、絶縁層は摺動しないため、運転時間による劣化が生じない。
【0012】
前述のように、固定輪とステータとの間に絶縁層を介在させたため、この絶縁層により転動体への通電を遮断することにより、車輪用軸受の電食を防ぐことができる。車輪用軸受の電食を防ぐことによって、車輪用軸受の転動体および転動面の異常を防ぎ、車輪用軸受の長寿命化が期待できるうえ、車輪用軸受からの異音を未然に防止し得る。前記絶縁層は、通電ブラシ等のように摩耗することなく交換する必要がないため、絶縁の機能に関してメンテナンスフリーとなる。したがって、通電ブラシ等を用いる従来例よりもコスト低減を図れる。
【0013】
前記電動機は、前記ステータが前記車輪用軸受の外周に位置し、前記ロータが前記ステータの半径方向外方に位置するアウターロータ型であってもよい。この場合、インナーロータ型よりもロータとステータとが対向する面積を増やすことができる。これにより、限られた空間内で出力トルクを最大化することが可能となる。
【0014】
前記電動機は、前記車輪を回転駆動可能な電動発電機であってもよい。従来の内燃機関等を搭載した車両に、前記電動発電機を備えた車両用動力装置を搭載する場合、電動発電機による動力アシストにより燃費低減することができる。
従来例の減速機構を搭載した構成では、車輪用軸受周辺に電動発電機を設置する必要がなく、軸受内外輪に電位差が生じない構成とすることができる。軸受内外輪間で電動発電機のステータとロータを構成する場合に、軸受内外輪間に電位差が発生する。そのため、本発明は、車輪用軸受にダイレクトドライブ形式の電動発電機を搭載した構成に限るものとする。
【0015】
前記電動機の回転駆動用の駆動電圧または回生電圧が60V以下であってもよい。この場合、いわゆるストロングハイブリッド車等に用いられる100V以上の高電圧バッテリーよりも低電圧で、かつ作業時に感電による人体の影響が問題とならない程度のいわゆる中電圧バッテリーを車両に搭載することができる。これにより、例えば、内燃機関のみの車両においても、車両の大幅な改造をすることなく、マイルドハイブリッド車両にすることができる。
【0016】
前記固定輪と前記ステータとの間に、前記固定輪を前記足回りフレーム部品に固定する中間部材を備え、この中間部材と前記固定輪との間、および前記中間部材と前記ステータとの間のいずれか一方または両方に前記絶縁層を備えてもよい。
中間部材とステータとの間に絶縁層を備える場合、この絶縁層を例えば樹脂材料またはゴム材料等の軟材料とすることができる。中間部材とステータの間に作用する力は、発電機により発生する力のみで、それ程大きな強度を必要としないからである。
中間部材と固定輪の間に絶縁層を備える場合、中間部材と固定輪の間には、この絶縁層は剛性のある絶縁材料を必要とする。中間部材と固定輪の間には、車重と車両の運動により発生する力が作用するためである。
【0017】
前記固定輪と前記ステータとの間に、前記固定輪を前記足回りフレーム部品に固定する中間部材を備え、この中間部材が絶縁材料で構成されていてもよい。この場合、中間部材の他に絶縁材料から成る部材を設けるよりも、部品点数を低減でき、構造化を簡素化することができる。
【0018】
この発明における第2の発明の車両用動力装置は、固定輪、およびハブフランジを有し前記固定輪に転動体を介して回転自在に支持されて前記ハブフランジに車両の車輪およびブレーキロータが取付けられる回転輪を有する車輪用軸受と、
この車輪用軸受の固定輪に取付けられたステータ、および前記車輪用軸受の回転輪に取付けられたロータを有する電動機と、を備えた車両用動力装置において、
前記ステータおよび前記ロータの一部または全部が、前記ブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、且つ、前記電動機におけるハブフランジへの取付部を除く全体が、前記ハブフランジと、前記車両における足回りフレーム部品のアウトボード側面との間の軸方向範囲に位置し、
前記転動体が絶縁材で構成されている。
【0019】
この構成によると、転動体が絶縁材料で構成されているため、転動体への通電を遮断することで車輪用軸受の電食を防ぐことができる。車輪用軸受の電食を防ぐことによって、車輪用軸受の転動体および転動面の異常を防ぎ、車輪用軸受の長寿命化が期待できる。前記絶縁材料で構成された転動体は、通電ブラシ等のように摩耗することなく交換する必要がないため、絶縁の機能に関してメンテナンスフリーとなる。したがって、通電ブラシ等を用いる従来例よりもコスト低減を図れる。
【0020】
第1の発明において、前記ロータと前記回転輪との間に絶縁材を備えてもよい。
前述の軸受内外輪間の電位差による転動体への通電に加え、電動機のロータ、ステータ間で微量な渦電流の発生により、ロータから回転輪を通って転動体に通電するおそれがある。
この構成によれば、固定輪とステータとの間に絶縁層を介在させる構成に加え、ロータと回転輪との間に絶縁材を備えることで、ロータと回転輪間で絶縁され、転動体の電食をより確実に防ぐことができる。
【0021】
この発明における発電機付き車輪用軸受装置は、固定輪、およびハブフランジを有し前記固定輪に転動体を介して回転自在に支持されて前記ハブフランジに車両の車輪およびブレーキロータが取付けられる回転輪を有する車輪用軸受と、
この車輪用軸受の固定輪に取付けられたステータ、および前記車輪用軸受の回転輪に取付けられたロータを有する発電機と、を備えた発電機付き車輪用軸受装置において、
前記ステータおよび前記ロータの一部または全部が、前記ブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、且つ、前記発電機におけるハブフランジへの取付部を除く全体が、前記ハブフランジと、前記車両における足回りフレーム部品のアウトボード側面との間の軸方向範囲に位置し、
前記固定輪と前記ステータとの間に絶縁層を介在させた。
【0022】
この構成によれば、固定輪とステータとの間の僅かな環状空間を利用して同環状空間に絶縁層を介在させることで、発電機付き車輪用軸受装置全体を大径化することなく(換言すれば、ブレーキロータ内に発電機付き車輪用軸受装置の構成部品が収まることを阻害されずに)前記絶縁層により転動体への通電を遮断することができる。これにより車輪用軸受の電食を防ぐことができる。その他第1の発明の車両用動力装置と同様の作用効果を奏する。
【0023】
前記ロータと前記回転輪との間に絶縁材を備えてもよい。前述の軸受内外輪間の電位差による転動体への通電に加え、発電機のロータ、ステータ間で微量な渦電流の発生により、ロータから回転輪を通って転動体に通電するおそれがある。
この構成によれば、固定輪とステータとの間に絶縁層を介在させる構成に加え、ロータと回転輪との間に絶縁材を備えることで、ロータと回転輪間で絶縁され、転動体の電食をより確実に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明の第1の発明における車両用動力装置は、固定輪、およびハブフランジを有し前記固定輪に転動体を介して回転自在に支持されて前記ハブフランジに車両の車輪およびブレーキロータが取付けられる回転輪を有する車輪用軸受と、この車輪用軸受の固定輪に取付けられたステータ、および前記車輪用軸受の回転輪に取付けられたロータを有する電動機と、を備えた車両用動力装置において、前記ステータおよび前記ロータの一部または全部が、前記ブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、且つ、前記電動機におけるハブフランジへの取付部を除く全体が、前記ハブフランジと、前記車両における足回りフレーム部品のアウトボード側面との間の軸方向範囲に位置し、前記固定輪と前記ステータとの間に絶縁層を介在させた。このため、車輪用軸受の電食を防ぐことができると共に、絶縁の機能に関してメンテナンスフリーとなる。
【0025】
この発明の第2の発明における車両用動力装置は、固定輪、およびハブフランジを有し前記固定輪に転動体を介して回転自在に支持されて前記ハブフランジに車両の車輪およびブレーキロータが取付けられる回転輪を有する車輪用軸受と、この車輪用軸受の固定輪に取付けられたステータ、および前記車輪用軸受の回転輪に取付けられたロータを有する電動機と、を備えた車両用動力装置において、前記ステータおよび前記ロータの一部または全部が、前記ブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、且つ、前記電動機におけるハブフランジへの取付部を除く全体が、前記ハブフランジと、前記車両における足回りフレーム部品のアウトボード側面との間の軸方向範囲に位置し、前記転動体が絶縁材料で構成されている。このため、車輪用軸受の電食を防ぐことができると共に、絶縁の機能に関してメンテナンスフリーとなる。
【0026】
この発明の発電機付き車輪用軸受装置は、固定輪、およびハブフランジを有し前記固定輪に転動体を介して回転自在に支持されて前記ハブフランジに車両の車輪およびブレーキロータが取付けられる回転輪を有する車輪用軸受と、この車輪用軸受の固定輪に取付けられたステータ、および前記車輪用軸受の回転輪に取付けられたロータを有する発電機と、を備えた発電機付き車輪用軸受装置において、前記ステータおよび前記ロータの一部または全部が、前記ブレーキロータにおける、ブレーキキャリパが押し付けられる部分となる外周部よりも小径であり、且つ、前記発電機におけるハブフランジへの取付部を除く全体が、前記ハブフランジと、前記車両における足回りフレーム部品のアウトボード側面との間の軸方向範囲に位置し、前記固定輪と前記ステータとの間に絶縁層を介在させた。このため、車輪用軸受の電食を防ぐことができると共に、絶縁の機能に関してメンテナンスフリーとなる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】この発明の実施形態に係る車両用動力装置(発電機付き車輪用軸受装置)の断面図である。
図2】同車両用動力装置の側面図である。
図3】同車両用動力装置の正面図である。
図4図1のIV-IV線断面図である。
図5】同車両用動力装置の中間部材をナックル面から見た斜視図である。
図6】この発明の他の実施形態に係る車両用動力装置の断面図である。
図7】この発明のさらに他の実施形態に係る車両用動力装置の断面図である。
図8】この発明のさらに他の実施形態に係る車両用動力装置の断面図である。
図9】この発明のさらに他の実施形態に係る車両用動力装置の断面図である。
図10図9のX-X線断面図である。
図11】同車両用動力装置における絶縁材の固定方法を概略示す断面図である。
図12】この発明のさらに他の実施形態に係る車両用動力装置の断面図である。
図13】いずれかの車両用動力装置を備えた車両の車両用システムの概念構成を示すブロック図である。
図14】同車両用システムを搭載した車両の一例となる電源系統図である。
図15】従来例の車両用動力装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
この発明の実施形態に係る車両用動力装置を図1ないし図5と共に説明する。図1に示すように、この車両用動力装置1は、車輪用軸受2と、電動機を兼用する発電機である電動発電機3とを備える。電動機を兼用しない発電機である場合、この電動機を兼用しない発電機3と、車輪用軸受2とを備える発電機付き車輪用軸受装置となる。この発電機付き車輪用軸受装置は、車両用動力装置1に対し、電動機を兼用する電動発電機3を除き同一構成である。
【0029】
<車輪用軸受2について>
車輪用軸受2は、固定輪である外輪4と、複列の転動体6と、回転輪である内輪5とを有する。外輪4に複列の転動体6を介して内輪5が回転自在に支持されている。外輪4と内輪5との間の軸受空間には、グリースが封入されている。内輪5は、ハブ輪5aと、このハブ輪5aのインボード側の外周面に嵌合された部分内輪5bとを有する。ハブ輪5aは、外輪4よりも軸方向のアウトボード側に突出した箇所にハブフランジ7を有する。
【0030】
ハブフランジ7のアウトボード側の側面には、車輪のリム(図示せず)とブレーキロータ12とケース底部11(後述する)とが軸方向に重なった状態で、ハブボルト13により取り付けられている。前記リムの外周に図示外のタイヤが取付けられている。
なおこの明細書において、車両用動力装置が車両に搭載された状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の車幅方向の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0031】
<ブレーキについて>
図2および図3に示すように、ブレーキは、ディスク式のブレーキロータ12と、ブレーキキャリパKpとを備える摩擦ブレーキである。図1は、図3のI-I線断面図である。
図1に示すように、ブレーキロータ12は、平板状部12aと、外周部12bとを有する。平板状部12aは、ハブフランジ7にケース底部11を介して重なる環状で且つ平板状の部材である。外周部12bは、平板状部12aから外輪4の外周側へ延びる。外周部12bは、平板状部12aの外周縁部からインボード側に円筒状に延びる円筒状部12baと、この円筒状部12baのインボード側端から外径側に平板状に延びる平板部12bbとを有する。
【0032】
ブレーキキャリパKpは、ブレーキロータ12の平板部12bbを挟み付ける摩擦パッドを有する。ブレーキキャリパKpは、車両における足回りフレーム部品であるナックル8に取付けられている。ブレーキキャリパKpは、油圧式および機械式のいずれであってもよく、また電動モータ式であってもよい。
【0033】
<電動発電機3について>
この例の電動発電機3は、車輪の回転で発電を行い、給電されることによって車輪を回転駆動可能な走行補助用の電動発電機(電動機)である。以後、電動発電機3を電動機3と言う場合がある。電動発電機3は、回転ケース15と、ステータ18と、ロータ19とを有する。回転ケース15は、ハブフランジ7に取付けられ、ロータ19およびステータ18を覆う。電動発電機3は、ロータ19がステータ18の半径方向外方に位置するアウターロータ型である。また、電動発電機3のロータ19が、車輪用軸受2の回転輪である内輪5に取付けられたダイレクトドライブ形式である。
【0034】
この電動発電機3は、ステータ18およびロータ19の全部がブレーキロータ12の外周部12bよりも小径である。さらに電動発電機3におけるハブフランジ7への取付部を除く全体が、ハブフランジ7と、ナックル8のアウトボード側面8aとの間の軸方向範囲L1に位置する。
電動発電機3は、アウターロータ型のIPM(Interior Permanent Magnet)同期モー
タ(もしくはIPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)と標記)であ
る。もしくはSPM同期モータでもよい。その他、電動発電機3は、スイッチトリラクタン
スモータ(Switched reluctance motor;略称:SRモータ)、インダクションモータ(Induction Motor;略称:IM)等各種形式が採用できる。各モータ形式において、ステータ18の巻き線形式として分布巻、集中巻の各形式が採用できる。
【0035】
回転ケース15は、有底円筒状のケース本体16から成り、ケース本体16は、ケース底部11と、ケース円筒状部25とを有する。これらケース底部11と、ケース円筒状部25とは一体もしくは別体で形成されている。ケース底部11は、ブレーキロータ12の平板状部12aと、ハブフランジ7との間に挟まれる平板状で且つ環状の部材である。このケース底部11の外周縁部からインボード側にケース円筒状部25が円筒状に延びる。
【0036】
ケース円筒状部25の内周面には、アウトボード側からインボード側に順次、小径部、中径部および大径部が設けられている。図4に示すように、ロータ19は、ケース円筒状部25の前記中径部に圧入などにより設けられる磁性体19aと、この磁性体19aに内蔵される複数の永久磁石19bとを備える。
図1に示すように、ケース円筒状部25のうち、前記小径部と前記中径部とを繋ぐ段差部に、ロータ19のアウトボード側端が当接することで、回転ケース15に対しロータ19が軸方向に位置決めされる。
【0037】
ステータ18は、外輪4の外周面に、絶縁層9、および、中間部材であるステータ保持部材24を介して取付けられている。
図1および図4に示すように、ステータ18は、コア18aと、このコア18aの各ティースに巻回されたコイル18bとを有する。コイル18bは配線17(図1)に接続されている。
【0038】
図1に示すように、ステータ保持部材24は、ステータ18の内周面およびアウトボード側端面に接してこのステータ18を保持する。ステータ18は、例えば、ステータ保持部材24に対し、圧入またはボルト締結などにより回転方向および径方向に固定されている。さらにステータ保持部材24は、外輪4の外周面に、絶縁層9を介して圧入などにより固定されている。
【0039】
ステータ保持部材24とナックル8はボルト20により締結される。ステータ保持部材24のインボード側端面とナックル8のアウトボード側面との間に、ユニットカバー22のカバー立板部22aと介在されている。
図5に示すように、中間部材であるステータ保持部材24のうち、インボード側(ナックル面側)の端面には、コイル18b(図1)の結線を、このステータ保持部材24の外径側から内径側へ通す連通孔24cが円周方向に複数(この例では六つ)設けられている。例えば、ステータ保持部材24におけるインボード側の端面に、円周等配の切欠きを設けることで、複数の連通孔24cが形成される。なお複数の連通孔24cは、円周等配である必要なく、また一般的にU相,V相,W相の三線から成る配線17(図1)を通す連通孔であればよい。図1に示すように、ナックル8には、ユニットカバー22における円筒部22bの外周面の挿入を許す貫通孔8bが形成され、この貫通孔8bの周囲に、複数のボルト20の挿通孔(図示せず)が形成されている。
【0040】
図1および図5に示すように、ステータ保持部材24には、軸方向に延びる雌ねじ24dが円周等配に複数形成されている。カバー立板部22aには、前記各雌ねじ24dと同位相の貫通孔(図示せず)が形成されている。各ボルト20は、ナックル8のインボード側から同ナックル8の前記挿通孔に挿通され、カバー立板部22aの貫通孔を通して、ステータ保持部材24の各雌ねじ24dに螺合されている。
【0041】
<絶縁層9について>
図1に示すように、ステータ保持部材24の内周面に、半径方向外方に凹む環状凹み24aが形成されている。この環状凹み24aに、円筒状で所望の剛性を有する絶縁材料から成る絶縁層9が挿入されている。絶縁層9の材質として、例えば、樹脂材料またはゴム材料などの絶縁性を有する軟材料、あるいはセラミックスなどの絶縁材料が挙げられる。中間部材であるステータ保持部材24と外輪4の間には、車重と車両の運動により発生する力が作用するため、剛性を有する絶縁材料から成る絶縁層9が好ましい。
【0042】
絶縁層9の軸方向長さすなわち幅寸法は、外輪4の外周面の幅寸法と略同一で外輪4の外周面を全て覆うように形成され、絶縁層9の径方向の厚みは、この電動発電機3の駆動電圧に応じて適宜に設定されている。このような絶縁層9により、転動体6への通電を遮断することにより、車輪用軸受2の電食を防止し得る。なお、例えば、ステータ保持部材24の内周面および外輪4の外周面のいずれか一方または両方に、絶縁材料を塗布または溶射により絶縁層9を形成してもよい。
【0043】
<シール構造について>
回転ケース15とナックル8のアウトボード側面との間には、電動発電機3および車輪用軸受2内部への水および異物の侵入を防ぐシール部材23が配置されている。シール部材23は、互いに対向する環状のシール板および弾性シール部材を有する。回転ケース15のケース円筒状部25における前記大径部およびこの端面に、環状のロータ端リング部材26がボルトにより固定されている。ロータ端リング部材26と、ナックル8のアウトボード側面8aとの間には、アキシアルすきまが形成されている。
【0044】
なおロータ端リング部材26の外周面に環状溝が形成され、この環状溝にOリングが設けられている。このOリングにより、回転ケース15の端部内周面とロータ端リング部材26との接触面を密封している。このロータ端リング部材26は、磁性体19a(図4)に内蔵される永久磁石19b(図4)の軸方向についての位置決め部材を兼ねる。
【0045】
<回転検出器等について>
この車両用動力装置1には、回転検出器27が設けられている。この回転検出器27は、ステータ18の中空内部に位置する。この回転検出器27は、走行補助用の電動発電機3の回転を制御するために、外輪4に対する内輪5の回転角度あるいは回転速度を検出する。回転検出器27は、被検出部保持部材28等に取付けられた被検出部27aと、ステータ保持部材24の内周面に取付けられて前記被検出部27aを検出するセンサ部27bとを有する。この回転検出器27として例えばレゾルバが適用される。なお回転検出器27としては、レゾルバに限定されるものではなく、例えば、エンコーダ、パルサーリングあるいはホールセンサなど形式を問わず採用可能である。
【0046】
<配線類等>
ユニットカバー22の円筒部22bのインボード側端には、このインボード側端を覆うコネクタカバー66が複数のボルトにより着脱自在に取付けられている。このコネクタカバー66に、いわゆるパネルマウント型のパワー線用コネクタ67を介して、この電動発電機3の配線17が支持されている。コネクタカバー66には、パネルマウント型のセンサコネクタ64も支持されている。
【0047】
<作用効果>
以上説明した車両用動力装置1によれば、電動発電機3のロータ19が、車輪用軸受2の回転輪である内輪5に取付けられたダイレクトドライブ形式であるため、減速機構等を備える構成よりも車両用動力装置全体の部品点数が少なく構成が簡易で省スペースで済み、車両重量の増加も抑えられる。
従来例の減速機構を搭載した構成では、車輪用軸受周辺に電動機を設置する必要がなく、軸受内外輪に電位差が生じない構成とすることができる。軸受内外輪間で電動機のステータとロータを構成する場合に、軸受内外輪間に電位差が発生する。そのため、本発明の実施形態は、車輪用軸受にダイレクトドライブ形式の電動発電機を搭載した構成に限るものとする。
【0048】
ステータ18およびロータ19の全部がブレーキロータ12の外周部12bよりも小径で、且つ、電動発電機3におけるハブフランジ7への取付部を除く全体が、ハブフランジ7と、ナックル8のアウトボード側面8aとの間の軸方向範囲L1に位置する。このため、ブレーキロータ12内に電動発電機3を設置するスペースを確保してこの電動発電機3をコンパクトに収めることができる。
【0049】
ところで従来構造の電食防止ユニット等では部品点数が多いため、ブレーキロータ内に全ての構成部品が収まる車両用動力装置に対し、前記電食防止ユニットを設置するスペースを確保することが困難である。前記のブレーキロータ内に全ての構成部品が収まる車両用動力装置だからこそ、通常のインホイールモータよりもコンパクトな絶縁構造が必要であるところ、この構成によれば、外輪4とステータ18との間の僅かな環状空間を利用して同環状空間に絶縁層9を介在させることで、車両用動力装置1全体を大径化することなく(換言すれば、ブレーキロータ12内に車両用動力装置1の構成部品が収まることを阻害されずに)絶縁層9により転動体6への通電を遮断することができる
また、電食対策として、通電ブラシを用いた構成に比べて以下の利点が挙げられる。
(1)電食対策の確認をする際の点検が容易である。
上記理由として車両用動力装置を組み立てた状態において、通電ブラシによる手法では、軸受内外輪間の電気抵抗の測定だけで、通電ブラシによって軸受内外輪間で導通しているか確認できない。
一方、固定輪である外輪4とステータ18との間に絶縁層9を介在させた本実施形態の構成では、ステータ18と外輪4間もしくはステータ18と内輪5間での電気抵抗の測定により絶縁されていれば、電食は生じ得ない。
(2)絶縁層9は通電ブラシのように摩耗しないので取り換える必要がなくコストが抑えられる。
上記理由として、絶縁層9は摺動しないため、運転時間による劣化が生じない。
【0050】
前述のように、固定輪である外輪4とステータ18との間に絶縁層9を介在させたため、この絶縁層9により転動体6への通電を遮断することにより、車輪用軸受2の電食を防ぐことができる。車輪用軸受2の電食を防ぐことによって、車輪用軸受2の転動体6および転動面の異常を防ぎ、車輪用軸受2の長寿命化が期待できるうえ、車輪用軸受2からの異音を未然に防止し得る。前記絶縁層9は、通電ブラシ等のように摩耗することなく交換する必要がないため、絶縁の機能に関してメンテナンスフリーとなる。したがって、通電ブラシ等を用いる従来例よりもコスト低減を図れる。
【0051】
電動発電機3はロータ19がステータ18の半径方向外方に位置するアウターロータ型であるため、インナーロータ型よりもロータ19とステータ18とが対向する面積を増やすことができる。これにより、限られた空間内で出力トルクを最大化することが可能となる。
【0052】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施の形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0053】
図6に示すように、ステータ保持部材24とステータ18との間に絶縁層9Aを備えてもよい。円筒状の絶縁層9Aの内周面がステータ保持部材24の外周面に固定されている。ステータ保持部材24におけるアウトボード側の外周面には、半径方向外方に所定小距離突出するフランジ部24bが形成されている。このフランジ部24bに、絶縁層9Aのアウトボード側端面が接して軸方向に位置決めされている。
【0054】
絶縁層9Aの幅寸法は、ステータ18の幅寸法と略同一でステータ保持部材24の外周面を絶縁層9Aで覆うように形成されている。この絶縁層9Aの材質として、例えば、樹脂材料またはゴム材料などの絶縁性を有する軟材料が適用される。ステータ保持部材24とステータ18の間に作用する力は、電動発電機3により発生する力のみで、それ程大きな強度を必要としないからである。この構成によれば、前述のセラミックスなどの絶縁材料を用いるものよりコスト低減を図れる。その他前述の実施形態と同様の作用効果を奏する。なおステータ保持部材24とステータ18との間の絶縁層9Aの材質として、セラミックスなどの絶縁材料を用いることも可能である。
【0055】
図7に示すように、中間部材であるステータ保持部材24が絶縁材料で構成されていてもよい。この場合、ステータ保持部材24の他に絶縁材料から成る部材を設けるよりも、部品点数を低減でき、構造化を簡素化することができる。これによりコスト低減を図れる。
その他、中間部材であるステータ保持部材24と外輪4とが、別部材ではなく同一材料から成る一体の構成でもよい。この場合、外輪4の外周面にステータ18の内周面が嵌合された形態となる。この構成によると、中間部材と車輪用軸受2の剛性を高くすることができ、部品点数を削減することができる。
【0056】
図8に示すように、転動体6が絶縁材料で構成されていてもよい。この絶縁材料としてセラミックス等を適用し得る。この場合、転動体6が絶縁材料で構成されているため、転動体6への通電を遮断することで車輪用軸受2の電食を防ぐことができる。
【0057】
この例の電動発電機3は、ステータ18およびロータ19の全部がブレーキロータ12の外周部12bよりも小径であるが、この例に限定されるものではない。例えば、ステータ18およびロータ19の一部がブレーキロータ12の外周部12bよりも小径であってもよい。
図示しないが、電動発電機は、ロータがステータの半径方向内方に位置するインナーロータ型であってもよい。
【0058】
図9図11に示すように、外輪4とステータ18との間に絶縁層9を介在させた構成(図1参照)に加えて、ロータ19と内輪(回転輪)5との間に絶縁材31を備えてもよい。図9および図10に示すように、回転ケース15のうち、ケース円筒状部25におけるアウトボード側の基端部と、ケース底部11との間にリング状の絶縁材31が取付けられている。この絶縁材31は内輪5と同軸である。この例の回転ケース15では、ケース底部11とケース円筒状部25とは、別体で構成され、後述するボルトにより絶縁材31を介在させて固定されている。
【0059】
図11に示すように、ケース円筒状部25のアウトボード側の基端部には、円周方向所定間隔おきに複数の雌ねじが形成され、絶縁材31およびケース底部11には、前記複数の雌ねじに同位相のボルト孔、座繰り孔が形成されている。ボルト29が回転ケース15のアウトボード側から各ボルト孔にそれぞれ挿通され各雌ねじに締結されている。絶縁材31およびボルト29の材質として、樹脂材料またはセラミックスなどの剛性のある絶縁部材が好ましい。
【0060】
前述の軸受内外輪間の電位差による転動体6への通電に加え、電動発電機3のロータ19、ステータ18間で微量な渦電流の発生により、ロータ19から内輪5を通って転動体6に通電するおそれがある。
この構成によれば、外輪4とステータ18との間に絶縁層9を介在させる構成に加え、ロータ19と内輪5との間に絶縁材31を備えることで、ロータ19と内輪5間で絶縁され、転動体6の電食をより確実に防ぐことができる。
この構成の変形例として、図示しないが、回転ケース15全体に絶縁材料を塗布もしくは溶射し、または回転ケース15の材質を樹脂またはセラミックスにしてもよい。この変形例によれば、前記構成と同様の効果を得ることができる。この場合、前記絶縁材料、前記回転ケース15の材質を樹脂またはセラミックスにしたものが、それぞれ請求項8でいう「絶縁材」に相当する。図9の構成と、回転ケース15全体に絶縁材料を塗布もしくは溶射した変形例とを備えた構成としてもよい。
【0061】
図12に示すように、ステータ保持部材24とステータ18との間に絶縁層9Aを備えた構成(図6参照)に加えて、ロータ19と内輪5との間に絶縁材31を備えてもよい。この例の回転ケース15においても、ケース底部11とケース円筒状部25とは別体で構成され、前記ボルトにより絶縁材31を介在させて固定されている。
この構成によれば、ロータ19と内輪5との間に絶縁材31を備えることで、ロータ19と内輪5間で絶縁され、転動体6の電食をより確実に防ぐことができる。
【0062】
<車両用システムについて>
図13は、いずれかの実施形態に係る車両用動力装置1を用いた車両用システムの概念構成を示すブロック図である。この車両用システムにおいて、車両用動力装置1は、主駆動源と機械的に非連結である従動輪10を持つ車両において、従動輪10に対して搭載される。車両用動力装置1における車輪用軸受2(図1図6図8図9図12)は、従動輪10を支持する軸受である。
【0063】
主駆動源35は、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジン等の内燃機関、または電動発電機(電動モータ)、または両者を組み合わせたハイブリッド型の駆動源である。前記「電動発電機」は、回転付与による発電が可能な電動モータを称す。図示の例では、車両30は、前輪が駆動輪10、後輪が従動輪10となる前輪駆動車であって、主駆動源35が内燃機関35aと駆動輪側の電動発電機35bとを有するハイブッリド車(以下、「HEV」と称することがある)である。
【0064】
具体的には、駆動輪側の電動発電機35bが48V等の中電圧で駆動されるマイルドハイブリッド形式である。ハイブリッドはストロングハイブリッドとマイルドハイブリッドとに大別されるが、マイルドハイブリッドは、主要駆動源が内燃機関であって、発進時や加速時等にモータで走行の補助を主に行う形式を言い、EV(電気自動車)モードでは通常の走行を暫くは行えても長時間行うことができないことでストロングハイブリッドと区別される。同図の例の内燃機関35aは、クラッチ36および変速機37を介して駆動輪10のドライブシャフトに接続され、変速機37に駆動輪側の電動発電機35bが接続されている。
【0065】
この車両用システムは、従動輪10の回転駆動を行う走行補助用の発電機である電動機3と、この電動機3の制御を行う個別制御手段39と、上位ECU40に設けられて前記個別制御手段39に駆動および回生の制御を行わせる指令を出力する個別電動発電機指令手段45とを備える。電動機3は、蓄電手段に接続されている。この蓄電手段は、バッテリー(蓄電池)またはキャパシタ、コンデンサ等を用いることができ、その形式や車両30への搭載位置は問わないが、この実施形態では、車両30に搭載された低電圧バッテリー50および中電圧バッテリー49のうちの中電圧バッテリー49とされている。
【0066】
従動輪用の電動機3は、変速機を用いないダイレクトドライブモータである。電動機3は、電力を供給することで電動機として作用し、また車両30の運動エネルギーを電力に変換する発電機としても作用する。
電動機3は、内輪5(図1)にロータ19(図1)が取付けられているため、電動機3に電流を印加し、車両の進行方向にトルクを発生させると内輪5(図1)が回転駆動され、逆方向にトルクを発生させることで回生電力が得られる。この電動機3の回転駆動用の駆動電圧または回生電圧が60V以下である。
【0067】
<車両30の制御系について>
上位ECU40は、車両30の統合制御を行う手段であり、トルク指令生成手段43を備える。このトルク指令生成手段43は、アクセルペダル等のアクセル操作手段56およびブレーキペダル等のブレーキ操作手段57からそれぞれ入力される操作量の信号に従ってトルク指令を生成する。この車両30は、主駆動源35として内燃機関35aおよび駆動輪側の電動発電機35bを備え、また二つの従動輪10,10をそれぞれ駆動する二つの電動機3,3を備えるため、前記トルク指令を各駆動源35a,35b,3,3に定められた規則によって分配するトルク指令分配手段44が上位ECU40に設けられている。
【0068】
内燃機関35aに対するトルク指令は内燃機関制御手段47に伝達され、内燃機関制御手段47によるバルブ開度制御等に用いられる。駆動輪側の発電電動機35bに対するトルク指令は、駆動輪側電動発電機制御手段48に伝達されて実行される。従動輪側の電動機3,3に対するトルク指令は、個別制御手段39,39に伝達される。前記トルク指令分配手段44のうち、個別制御手段39,39へ出力する部分を個別電動発電機指令手段45と称している。この個別電動発電機指令手段45は、ブレーキ操作手段57の操作量の信号に対して、電動機3が回生制動により制動を分担する制動力の指令となるトルク指令を個別制御手段39へ与える機能も備える。
【0069】
個別制御手段39はインバータ装置であり、中電圧バッテリー49の直流電力を三相の交流電圧に変換するインバータ41と、前記トルク指令等によりインバータ41の出力をPWM制御等で制御する制御部42とを有する。インバータ41は、半導体スイッチング素子等によるブリッジ回路(図示せず)等を備える。
【0070】
制御部42は、例えば、個別電動発電機指令手段45より与えられるトルク指令に対して、発生するトルクが一致するように電動機3を追従制御する。すなわち制御部42は、指令トルクと、回転検出器27(図1)で検出される回転速度(回転角度センサの場合、容易に算出可能)と、試験結果から電動機3に印加する電流を算出する。さらに算出した電流と回転角度と図示外の電流センサの値から電動機3に印加する電圧を算出する。算出した電圧を電動機3に印加し、指令トルクと一致するトルクを発生する。なお個別制御手段39は、二つの電動機3,3に対して個別に設けられるが、一つの筐体内に収められ、制御部42を両個別制御手段39,39で共有する構成であってもよい。
【0071】
図14は、図13に示した車両用システムを搭載した車両の一例となる電源系統図である。同図の例では、バッテリーとして低電圧バッテリー50と中電力バッテリー49とが設けられ、両バッテリー49,50は、DC/DCコンバータ51を介して接続されている。電動機3は二つあるが、代表して一つで図示している。図13の駆動輪側の電動発電機35bは、図14では図示を省略しているが、従動輪側の電動機3と並列に中電力系統に接続されている。低電圧系統には低電圧負荷52が接続され、中電圧系統には中電圧負荷53が接続される。低電圧負荷52および中電圧負荷53は、それぞれ複数あるが、代表して一つで示している。
【0072】
低電圧バッテリー50は、制御系等の電源として各種の自動車一般に用いられているバッテリーであり、例えば12Vまたは24Vとされる。低電圧負荷52としては、内燃機関35aのスタータモータ、灯火類、上位ECU40およびその他のECU(図示せず)等の基幹部品がある。低電圧バッテリー50は電装補機類用補助バッテリーと称し、中電圧バッテリー49は電動システム用補助バッテリー等と称しても良い。
【0073】
中電圧バッテリー49は、低電圧バッテリー50よりも電圧が高く、かつストロングハイブリッド車等に用いられる高圧バッテリー(100V以上、例えば200~400V程度)よりも低く、かつ作業時に感電による人体への影響が問題とならない程度の電圧であり、近年マイルドハイブリッドに用いられている48Vバッテリーが好ましい。48Vバッテリー等の中電圧バッテリー49は、従来の内燃機関を搭載した車両に比較的容易に搭載することができ、マイルドハイブリッドとして電力による動力アシストや回生により、燃費低減することができる。
【0074】
前記48V系統の中電圧負荷53は前記アクセサリー部品であり、前記駆動輪側の電動発電機35bである動力アシストモータ、電動ポンプ、電動パワーステアリング、スーパーチャージャ、およびエアーコンプレッサなどである。アクセサリーによる負荷を48V系統で構成することで、高電圧(100V以上のストロングハイブリッド車など)よりも動力アシストの出力が低くなるものの、乗員やメンテナンス作業者への感電の危険性を低くすることができる。電線の絶縁被膜を薄くすることができるので、電線の重量や体積を減らすことができる。また、12Vよりも小さな電流量で大きな電力量を入出力することができるため、電動機または発電機の体積を小さくすることができる。これらのことから、車両の燃費低減効果に寄与する。
【0075】
この車両用システムは、こうしたマイルドハイブリッド車のアクセサリー部品に好適であり、動力アシストおよび電力回生部品として適用される。なお、従来よりマイルドハイブリッド車において、CMG、GMG、ベルト駆動式スタータモータ(いずれも図示せず)などが採用されることがあるが、これらはいずれも、内燃機関または動力装置に対して動力アシストまたは回生するため、伝達装置および減速機などの効率の影響を受ける。
【0076】
これに対してこの実施形態の車両用システムは従動輪10に対して搭載されるため、内燃機関35aおよび電動モータ(図示せず)等の主駆動源とは切り離されており、電力回生の際には車体の運動エネルギーを直接利用することができる。また、CMG、GMG、ベルト駆動式スタータモータなどを搭載する際には、車両30の設計段階から考慮して組み込む必要があり、後付けすることが難しい。
【0077】
これに対して、従動輪10内に収まるこの車両用システムの電動機3は、完成車であっても部品交換と同等の工数で取り付けることができ、内燃機関35aのみの完成車に対しても48Vのシステムを構成することができる。内燃機関35aのみ備えた既存の車両に、いずれかの実施形態に係る車両用動力装置1と、電動発電機用のバッテリーとして、この電動機の回転駆動用の駆動電圧または回生電圧が60V以下の前記中電圧バッテリー49とを搭載することで、車両の大幅な改造をすることなく、マイルドハイブリッド車両にすることができる。この実施形態の車両用システムを搭載した車両に、図13の例のように別の補助駆動用の電動発電機35bが搭載されていても構わない。その際は車両30に対する動力アシスト量や回生電力量を増加させることができ、さらに燃費低減に寄与する。
【0078】
図示しないが、いずれかの実施形態に係る車両用動力装置を駆動輪に適用してもよい。車両用動力装置を駆動輪および従動輪にそれぞれ適用することも可能である。
【0079】
図13に示す車両用システムは、発電を行う機能を有するが、給電による回転駆動をしないシステムとしてもよい。この車両用システムには、電動機を兼用しない発電機3と、車輪用軸受2とを備える発電機付き車輪用軸受装置が搭載される。この発電機付き車輪用軸受装置は、いずれかの実施形態の車両用動力装置に対し、電動機を兼用する電動発電機を除き同一構成である。この場合、発電機3が発電した回生電力を中電圧バッテリー49に蓄えることにより、制動力を発生させることができる。機械式のブレーキ操作手段57と併用や使い分けで、制動性能も向上させることができる。このように発電を行う機能に限定した場合、個別制御手段39はインバータ装置ではなく、AC/DCコンバータ装
置(図示せず)として構成することができる。前記AC/DCコンバータ装置は、3相交流電
圧を直流電圧に変換することで、発電機3の回生電力を中電圧バッテリー49に充電する機能を備え、インバータと比較すると制御方法が容易であり、小型化が可能となる。
【0080】
加えて、本願における車両用動力装置1は、回転輪として、一つの部分内輪が嵌合されたハブ輪を備え、固定輪である外輪と、ハブ輪および部分内輪の嵌合体で構成された第3世代構造としているが、これに限定するものではない。
ハブフランジを有するハブと、転動体の軌道面を有する部材とを合わせた構造体が請求項でいう回転輪となる。例えば、主に固定輪である外輪と、ハブフランジを有するハブの外周面に嵌合された内輪とを備えた第1世代構造であってもよい。固定輪である外輪と、ハブフランジを有するハブの外周面に嵌合された内輪とを備えた内輪回転形式の第2世代構造であってもよい。これらの例では、前記ハブと前記内輪とが組み合わさったものが請求項でいう「回転輪」に相当する。ハブフランジを有する回転輪である外輪と、固定輪である内輪とを備えた外輪回転形式の第2世代構造であってもよい。
【0081】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0082】
1…車両用動力装置
2…車輪用軸受
3…電動発電機(電動機、発電機)
4…外輪(固定輪)
5…内輪(回転輪)
7…ハブフランジ
8…ナックル(足回りフレーム部品)
9,9A…絶縁層
12…ブレーキロータ
18…ステータ
19…ロータ
24…ステータ保持部材(中間部材)
31…絶縁材
Kp…ブレーキキャリパ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15