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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】制御装置および変速システム
(51)【国際特許分類】
   B62M 9/123 20100101AFI20220913BHJP
   B62M 9/133 20100101ALI20220913BHJP
   B62M 9/122 20100101ALI20220913BHJP
   B62M 9/132 20100101ALI20220913BHJP
   F16H 59/66 20060101ALI20220913BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
B62M9/123
B62M9/133
B62M9/122
B62M9/132
F16H59/66
F16H61/02
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2018188241
(22)【出願日】2018-10-03
(65)【公開番号】P2020055463
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】高山 仁志
【審査官】塩澤 正和
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0031368(KR,A)
【文献】特開2018-052346(JP,A)
【文献】特開2000-108982(JP,A)
【文献】特開2017-007644(JP,A)
【文献】特開2016-101761(JP,A)
【文献】特開2005-021391(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0329589(US,A1)
【文献】特開2017-013624(JP,A)
【文献】特開2015-107789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 9/123
B62M 9/133
B62M 9/122
B62M 9/132
F16H 59/66
F16H 61/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人力駆動車の変速装置を変速条件に応じて制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記人力駆動車の上り坂における傾斜角度と前記傾斜角度の変化量とに応じて、前記変速条件を変更し、
前記変速条件は、前記人力駆動車における変速比を変更するための前記人力駆動車の走行状態を示すパラメータに関する閾値を含み、
前記閾値は、上限閾値および下限閾値を含み、
前記制御部は、
前記パラメータが前記上限閾値以上になると前記変速比を大きくするように前記変速装置を制御する第1制御、および、前記パラメータが前記下限閾値以下になると前記変速比を小さくするように前記変速装置を制御する第2制御を実行し、
前記傾斜角度の変化量に応じて、前記上限閾値および前記下限閾値の少なくとも一方を変更し、
前記パラメータは、前記人力駆動車のクランクの回転速度を含む、制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記傾斜角度と前記傾斜角度の変化量とを軸に持つ演算用テーブルに応じて、前記変速条件を変更する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
人力駆動車の変速装置を変速条件に応じて制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記人力駆動車の傾斜角度と前記傾斜角度の変化量とに応じて、前記変速条件を変更し、
前記傾斜角度と前記傾斜角度の変化量とを軸に持ち、前記傾斜角度と前記傾斜角度の変化量とに応じた前記変速条件が予め設定される演算用テーブルに応じて、前記変速条件を変更し、
前記変速条件は、前記傾斜角度の変化量が増加するほど、前記変速装置が下段に変速しやすく、上段に変速しにくくなり、前記傾斜角度の変化量が減少するほど、前記変速装置が下段に変速しにくく、上段に変速しやすくなるように変更される、制御装置。
【請求項4】
前記変速条件は、前記人力駆動車における変速比を変更するための前記人力駆動車の走行状態を示すパラメータに関する閾値を含み、
前記閾値は、上限閾値および下限閾値を含み、
前記制御部は、
前記パラメータが前記上限閾値以上になると前記変速比を大きくするように前記変速装置を制御する第1制御、および、前記パラメータが前記下限閾値以下になると前記変速比を小さくするように前記変速装置を制御する第2制御を実行し、
前記傾斜角度の変化量に応じて、前記上限閾値および前記下限閾値の少なくとも一方を変更する、請求項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記パラメータは、前記人力駆動車のクランクの回転速度を含む、請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、上り坂において前記傾斜角度の変化量が増加する場合の前記上限閾値を、上り坂において前記傾斜角度の変化量が増加しない場合の前記上限閾値よりも大きくする、請求項1、2、4、5のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項7】
人力駆動車の変速装置を変速条件に応じて制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記人力駆動車の傾斜角度と前記傾斜角度の変化量とに応じて、前記変速条件を変更し、
前記変速条件は、前記人力駆動車における変速比を変更するための前記人力駆動車の走行状態を示すパラメータに関する閾値を含み、
前記閾値は、上限閾値および下限閾値を含み、
前記制御部は、
前記パラメータが前記上限閾値以上になると前記変速比を大きくするように前記変速装置を制御する第1制御、および、前記パラメータが前記下限閾値以下になると前記変速比を小さくするように前記変速装置を制御する第2制御を実行し、
前記傾斜角度の変化量に応じて、前記上限閾値および前記下限閾値の少なくとも一方を変更し、
上り坂において前記傾斜角度の変化量が増加する場合の前記上限閾値を、上り坂において前記傾斜角度の変化量が増加しない場合の前記上限閾値よりも大きくする、制御装置。
【請求項8】
前記パラメータは、前記人力駆動車のクランクの回転速度を含む、請求項7に記載の制御装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記傾斜角度の変化量が増加する場合、前記傾斜角度の増加量が大きくなるにつれて前記上限閾値を大きくする、請求項6~8のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項10】
前記制御部は、上り坂において前記傾斜角度の変化量が減少する場合の前記上限閾値を、上り坂において前記傾斜角度の変化量が減少しない場合の前記上限閾値よりも小さくする、請求項1、2、4~9のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項11】
人力駆動車の変速装置を変速条件に応じて制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記人力駆動車の傾斜角度と前記傾斜角度の変化量とに応じて、前記変速条件を変更し、
前記変速条件は、前記人力駆動車における変速比を変更するための前記人力駆動車の走行状態を示すパラメータに関する閾値を含み、
前記閾値は、上限閾値および下限閾値を含み、
前記制御部は、
前記パラメータが前記上限閾値以上になると前記変速比を大きくするように前記変速装置を制御する第1制御、および、前記パラメータが前記下限閾値以下になると前記変速比を小さくするように前記変速装置を制御する第2制御を実行し、
前記傾斜角度の変化量に応じて、前記上限閾値および前記下限閾値の少なくとも一方を変更し、
上り坂において前記傾斜角度の変化量が減少する場合の前記上限閾値を、上り坂において前記傾斜角度の変化量が減少しない場合の前記上限閾値よりも小さくする、制御装置。
【請求項12】
前記パラメータは、前記人力駆動車のクランクの回転速度を含む、請求項11に記載の制御装置。
【請求項13】
前記制御部は、前記傾斜角度の変化量が減少する場合、前記傾斜角度の減少量が大きくなるにつれて前記上限閾値を小さくする、請求項10~12のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項14】
前記制御部は、前記傾斜角度の変化量が増加する場合の前記下限閾値を、前記傾斜角度の変化量が増加しない場合の前記下限閾値よりも大きくする、請求項1、2、4~13のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項15】
前記制御部は、前記傾斜角度の変化量が増加する場合、前記傾斜角度の増加量が大きくなるにつれて前記下限閾値を大きくする、請求項14に記載の制御装置。
【請求項16】
前記制御部は、前記傾斜角度の変化量が減少する場合の前記下限閾値を、前記傾斜角度の変化量が減少しない場合の前記下限閾値よりも小さくする、請求項1、2、4~15のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項17】
前記制御部は、前記傾斜角度の変化量が減少する場合、前記傾斜角度の減少量が大きくなるにつれて前記下限閾値を小さくする、請求項16に記載の制御装置。
【請求項18】
前記制御部は、前記傾斜角度と前記傾斜角度の変化量とに応じて、前記上限閾値および前記下限閾値の少なくとも一方を変更する、請求項1、2、4~17のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項19】
前記制御部は、前記傾斜角度の変化量が同じ条件下において、前記傾斜角度が所定角度以上の場合の前記下限閾値を、前記傾斜角度が前記所定角度未満の場合の前記下限閾値よりも大きくする、請求項18に記載の制御装置。
【請求項20】
前記制御部は、前記傾斜角度の変化量が同じ条件下において、前記傾斜角度が所定角度以上の場合の前記上限閾値を、前記傾斜角度が前記所定角度未満の場合の前記上限閾値よりも大きくする、請求項18または19に記載の制御装置。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載の制御装置と、
前記変速装置と、を備える変速システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置および変速システムに関する。
【背景技術】
【0002】
変速機の変速比を変更するためのケイデンスの上限閾値および下限閾値を人力駆動車の傾斜角に応じて変更したうえで、人力駆動車の変速比を自動的に制御する変速装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-7610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人力駆動車で坂道を快適に走行するために、坂道の斜度と斜度の変化度合とに応じて人力駆動車の変速比の変更態様を変更することが好ましい。
本開示の目的の1つは、坂道の斜度と斜度の変化度合とに応じて人力駆動車の変速比の変更態様を変更できる制御装置および変速システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1側面に従う制御装置は、人力駆動車の変速装置を変速条件に応じて制御する制御部を備え、前記制御部は、前記人力駆動車の傾斜角度と前記傾斜角度の変化量とに応じて、前記変速条件を変更する。
上記第1側面の制御装置によれば、人力駆動車の傾斜角度の変化量と坂道の斜度の変化度合とは相関するため、人力駆動車の傾斜角度と傾斜角度の変化量とに応じて変速装置の変速条件を変更することによって坂道の斜度と斜度の変化度合とに応じて変速装置の変更態様を変更できる。したがって、坂道の斜度と斜度の変化度合とに応じて人力駆動車の変速比の変更態様を変更できる。
【0006】
前記第1側面に従う第2側面の制御装置において、前記制御部は、前記傾斜角度と前記傾斜角度の変化量とを軸に持つ演算用テーブルに応じて、前記変速条件を変更する。
上記第2側面の制御装置によれば、変速条件を容易に変更できる。
【0007】
前記第1または第2側面に従う第3側面の制御装置において、前記変速条件は、前記人力駆動車における変速比を変更するための前記人力駆動車の走行状態を示すパラメータに関する閾値を含み、前記閾値は、上限閾値および下限閾値を含み、前記制御部は、前記パラメータが前記上限閾値以上になると前記変速比を大きくするように前記変速装置を制御する第1制御、および、前記パラメータが前記下限閾値以下になると前記変速比を小さくするように前記変速装置を制御する第2制御を実行し、前記傾斜角度の変化量に応じて、前記上限閾値および前記下限閾値の少なくとも一方を変更する。
上記第3側面の制御装置によれば、人力駆動車の傾斜角度の変化量に応じてパラメータの上限閾値および下限閾値の少なくとも一方を変更することによって坂道の斜度の変化度合に応じて変速装置の変更態様を変更できる。したがって、坂道の斜度の変化度合に応じて人力駆動車の変速比の変更態様を変更できる。
【0008】
前記第3側面に従う第4側面の制御装置において、前記制御部は、前記傾斜角度の変化量が増加する場合の前記下限閾値を、前記傾斜角度の変化量が増加しない場合の前記下限閾値よりも大きくする。
上記第4側面の制御装置によれば、傾斜角度の変化量が増加すると、変速装置が人力駆動車の変速比を小さくしやすくなる。したがって、坂道により適した人力駆動車の変速比に変更できる。
【0009】
前記第4側面に従う第5側面の制御装置において、前記制御部は、前記傾斜角度の変化量が増加する場合、前記傾斜角度の増加量が大きくなるにつれて前記下限閾値を大きくする。
上記第5側面の制御装置によれば、傾斜角度の変化量が増加するにつれて変速装置が人力駆動車の変速比をより小さくしやすくなる。したがって、坂道により適した人力駆動車の変速比に変更できる。
【0010】
前記第3~第5側面のいずれか一つに従う第6側面の制御装置において、前記制御部は、前記傾斜角度の変化量が増加する場合の前記上限閾値を、前記傾斜角度の変化量が増加しない場合の前記上限閾値よりも大きくする。
上記第6側面の制御装置によれば、傾斜角度の変化量が増加すると、変速装置が人力駆動車の変速比を大きくしにくくなる。したがって、坂道により適した人力駆動車の変速比に変更できる。
【0011】
前記第6側面に従う第7側面の制御装置において、前記制御部は、前記傾斜角度の変化量が増加する場合、前記傾斜角度の増加量が大きくなるにつれて前記上限閾値を大きくする。
上記第7側面の制御装置によれば、傾斜角度の変化量が増加するにつれて変速装置が人力駆動車の変速比をより大きくしにくくなる。したがって、坂道により適した人力駆動車の変速比に変更できる。
【0012】
前記第3~第7側面のいずれか一つに従う第8側面の制御装置において、前記制御部は、前記傾斜角度の変化量が減少する場合の前記下限閾値を、前記傾斜角度の変化量が減少しない場合の前記下限閾値よりも小さくする。
上記第8側面の制御装置によれば、傾斜角度の変化量が減少すると、変速装置が人力駆動車の変速比を小さくしにくくなる。したがって、坂道により適した人力駆動車の変速比に変更できる。
【0013】
前記第8側面に従う第9側面の制御装置において、前記制御部は、前記傾斜角度の変化量が減少する場合、前記傾斜角度の減少量が大きくなるにつれて前記下限閾値を小さくする。
上記第9側面の制御装置によれば、傾斜角度の変化量が減少するにつれて変速装置が人力駆動車の変速比をより小さくしにくくなる。したがって、坂道により適した人力駆動車の変速比に変更できる。
【0014】
前記第3~第9側面のいずれか一つに従う第10側面の制御装置において、前記制御部は、前記傾斜角度の変化量が減少する場合の前記上限閾値を、前記傾斜角度の変化量が減少しない場合の前記上限閾値よりも小さくする。
上記第10側面の制御装置によれば、傾斜角度の変化量が減少すると、変速装置が人力駆動車の変速比を大きくしやすくなる。したがって、坂道により適した人力駆動車の変速比に変更できる。
【0015】
前記第10側面に従う第11側面の制御装置において、前記制御部は、前記傾斜角度の変化量が減少する場合、前記傾斜角度の減少量が大きくなるにつれて前記上限閾値を小さくする。
上記第11側面の制御装置によれば、傾斜角度の変化量が減少するにつれて、変速装置が人力駆動車の変速比をより大きくしやすくなる。したがって、坂道により適した人力駆動車の変速比に変更できる。
【0016】
前記第3~第11側面のいずれか一つに従う第12側面の制御装置において、前記制御部は、前記傾斜角度と前記傾斜角度の変化量とに応じて、前記上限閾値および前記下限閾値の少なくとも一方を変更する。
上記第12側面の制御装置によれば、坂道の斜度と斜度の変化度合とに応じて人力駆動車の変速比の変速態様を変更できる。
【0017】
前記第12側面に従う第13側面の制御装置において、前記制御部は、前記傾斜角度の変化量が同じ条件下において、前記傾斜角度が所定角度以上の場合の前記下限閾値を、前記傾斜角度が前記所定角度未満の場合の前記下限閾値よりも大きくする。
上記第13側面の制御装置によれば、傾斜角度が大きくなると、変速装置が人力駆動車の変速比を小さくしやすくなる。したがって、坂道により適した人力駆動車の変速比に変更できる。
【0018】
前記第12または第13側面に従う第14側面の制御装置において、前記制御部は、前記傾斜角度の変化量が同じ条件下において、前記傾斜角度が所定角度以上の場合の前記上限閾値を、前記傾斜角度が前記所定角度未満の場合の前記上限閾値よりも大きくする。
上記第14側面の制御装置によれば、傾斜角度が大きくなるにつれて、変速装置が人力駆動車の変速比をより大きくしにくくなる。したがって、坂道により適した人力駆動車の変速比に変更できる。
【0019】
前記第3~第14側面のいずれか一つに従う第15側面の制御装置において、前記パラメータは、前記人力駆動車のクランクの回転速度を含む。
上記第15側面の制御装置によれば、クランクの回転速度に応じて人力駆動車の変速比を変更できる。
【0020】
本開示の第16側面に従う変速システムは、第1~第15側面のいずれか一つに従う制御装置と、前記変速装置と、を備える。
上記第16側面の変速システムによれば、坂道により適した人力駆動車の変速比の変更態様に変更できる。
【発明の効果】
【0021】
本開示の制御装置および変速システムによれば、坂道の斜度と斜度の変化度合とに応じて人力駆動車の変速比の変更態様を変更できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態の制御装置および変速システムを含む人力駆動車の側面図。
図2】変速システムの電気的な構成を示すブロック図。
図3】制御装置の制御部が実行する制御の処理手順の一例を示すフローチャート。
図4】制御部が実行する制御の処理手順の一例を示すフローチャート。
図5】(a)は傾斜角度および傾斜角度の変化量と上限閾値との関係の一例を示す演算用テーブル、(b)は傾斜角度および傾斜角度の変化量と下限閾値との関係の一例を示す演算用テーブル。
図6】変形例の制御装置および変速システムについて、制御装置の制御部が実行する制御の処理手順の一例を示すフローチャート。
図7】傾斜角度の増加量と上限閾値および下限閾値の増加量との関係を示すマップ。
図8】傾斜角度の減少量と上限閾値および下限閾値の減少量との関係を示すマップ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(実施形態)
図1を参照して、変速システム10を含む人力駆動車Aについて説明する。
ここで、人力駆動車は、走行のための原動力に関して、少なくとも部分的に人力を用いる車両を意味し、電動で人力を補助する車両を含む。人力以外の原動力のみを用いる車両は、人力駆動車に含まれない。特に、内燃機関のみを原動力に用いる車両は、人力駆動車には含まれない。通常、人力駆動車には、小型軽車両が想定され、公道での運転に免許を要しない車両が想定される。図示される人力駆動車Aは、電気エネルギーを用いて人力駆動車Aの推進を補助する電動補助ユニットEを含む自転車(e-bike)である。具体的には、図示される人力駆動車Aは、トレッキングバイクである。人力駆動車Aは、フレームA1、フロントフォークA2、前輪WF、後輪WR、ハンドルH、および、ドライブトレインBをさらに含む。
【0024】
ドライブトレインBは、チェーンドライブタイプに構成される。ドライブトレインBは、クランクC、フロントスプロケットD1、リアスプロケットD2、および、チェーンD3を含む。クランクCは、フレームA1に回転可能に支持されるクランク軸C1、および、クランク軸C1の両端部のそれぞれに設けられる一対のクランクアームC2を含む。各クランクアームC2の先端には、ペダルPDが回転可能に取り付けられる。なお、ドライブトレインBは、任意のタイプから選択でき、ベルトドライブタイプ、または、シャフトドライブタイプであってもよい。
【0025】
フロントスプロケットD1は、クランク軸C1と一体に回転するようにクランクCに設けられる。リアスプロケットD2は、後輪WRのハブHRに設けられる。チェーンD3は、フロントスプロケットD1およびリアスプロケットD2に巻き掛けられる。人力駆動車Aに搭乗するユーザによってペダルPDに加えられる駆動力は、フロントスプロケットD1、チェーンD3、および、リアスプロケットD2を介して後輪WRに伝達される。
【0026】
人力駆動車Aは、1または複数のコンポーネントCOをさらに含む。コンポーネントCOは、変速装置T、制動装置BD、サスペンションSU、アジャスタブルシートポストASP、および、電動補助ユニットEの少なくとも1つを含む。制動装置BD、サスペンションSU、および、アジャスタブルシートポストASPは、対応する操作装置の操作に応じて機械的に駆動されてもよく、対応する操作装置の操作に応じて電気的に駆動されてもよい。コンポーネントCOのうちの電気的に駆動される要素は、例えば人力駆動車Aに搭載されるバッテリBTから供給される電力、または、個々のコンポーネントCOに搭載される専用の電源(図示略)から供給される電力によって動作する。
【0027】
変速装置Tは、フロント変速装置TFおよびリア変速装置TRの少なくとも一方を含む。フロント変速装置TFは、例えばフロントスプロケットD1付近に設けられるフロントディレーラである。フロント変速装置TFの駆動に伴って、チェーンD3が巻き掛けられるフロントスプロケットD1が変更され、人力駆動車Aの変速比が変更される。リア変速装置TRは、例えばフレームA1のリアエンドA3に設けられるリアディレーラである。リア変速装置TRの駆動に伴って、チェーンD3が巻き掛けられるリアスプロケットD2が変更され、人力駆動車Aの変速比が変更される。なお、変速装置Tは、内装変速ハブ等の内装タイプに構成されてもよい。また、変速装置Tは、無段変速機であってもよい。
【0028】
変速装置Tは、複数の変速段を有する。フロント変速装置TFは、1または複数の変速段を有する。フロント変速装置TFが有する変速段の数は、フロントスプロケットD1の枚数に準ずる。リア変速装置TRは、1または複数の変速段を有する。リア変速装置TRが有する変速段の数は、リアスプロケットD2の枚数に準ずる。変速装置Tが有する変速段の数は、フロント変速装置TFが有する変速段の数と、リア変速装置TRが有する変速段の数との積によって決められる。フロント変速装置TFの変速段に応じた歯数と、リア変速装置TRの変速段に応じた歯数との関係によって、フロントスプロケットD1の回転速度に対するリアスプロケットD2の回転速度の比である人力駆動車Aの変速比が決められる。なお、変速装置Tが、無段変速機の場合には、入力回転速度に対する出力回転速度の比を人力駆動車Aの変速比としてもよい。
【0029】
変速装置Tは、操作装置SLの操作に応じて電気的に駆動される。操作装置SLは、ハンドルHの右側、および、ハンドルHの左側にそれぞれ設けられる。一例では、一方の操作装置SLの操作に応じてフロント変速装置TFが電気的に駆動され、他方の操作装置SLの操作に応じてリア変速装置TRが電気的に駆動される。操作装置SLは、シフトアップ変速のための第1シフトレバーSL1、および、シフトダウン変速のための第2シフトレバーSL2を含む。第1シフトレバーSL1が操作される場合、例えば現在の変速段よりも1段または複数段上の変速段となるように変速装置Tが駆動される。第2シフトレバーSL2が操作される場合、例えば現在の変速段よりも1段または複数段下の変速段となるように変速装置Tが駆動される。
【0030】
制動装置BDは、車輪の数に対応する制動装置BDを含む。本実施形態では、前輪WFに対応する制動装置BD、および、後輪WRに対応する制動装置BDが人力駆動車Aに設けられる。2つの制動装置BDは、互いに同じ構成を有する。制動装置BDは、例えば人力駆動車AのリムRを制動するリムブレーキ装置である。一例では、ブレーキレバーBL(操作装置)の操作に応じて、対応する制動装置BDが機械的または電気的に駆動される。なお、制動装置BDは、人力駆動車Aに搭載されるディスクブレーキロータ(図示略)を始動するディスクブレーキ装置であってもよい。
【0031】
サスペンションSUは、フロントサスペンションSFおよびリアサスペンション(図示略)の少なくとも一方を含む。フロントサスペンションSFは、前輪WFが地面から受ける衝撃が緩和されるように動作する。リアサスペンションは、後輪WRが地面から受ける衝撃が緩和されるように動作する。アジャスタブルシートポストASPは、フレームA1に対するサドルSDの高さが変更されるように動作する。電動補助ユニットEは、人力駆動車Aの推進力がアシストされるように動作する。電動補助ユニットEは、例えばペダルPDに加えられる駆動力に応じて動作する。電動補助ユニットEは、電気モータE1を含む。
【0032】
図2を参照して、変速システム10の構成について説明する。
変速システム10は、制御装置12と、変速装置Tとを備える。変速システム10は、例えばバッテリBTから供給される電力によって動作する。制御装置12は、人力駆動車Aの変速装置Tを変速条件に応じて制御する制御部14を備える。変速条件は、人力駆動車Aにおける変速比を変更するための人力駆動車Aの走行状態を示すパラメータPMに関する閾値を含む。一例では、パラメータPMは、人力駆動車AのクランクCの回転速度を含む。閾値は、上限閾値XUおよび下限閾値XLを含む。制御部14は、CPU(Central Processing Unit)またはMPU(Micro Processing Unit)である。制御部14は、変速装置Tに加えて、電気的に駆動される各種のコンポーネントCOを制御してもよい。
【0033】
制御装置12は、情報を記憶する記憶部16をさらに備える。記憶部16は、不揮発性メモリおよび揮発性メモリを含む。記憶部16は、例えば制御のための各種プログラム、および、予め設定される情報等を記憶する。一例では、記憶部16は、複数の制御態様に関する情報等を記憶する。
【0034】
人力駆動車Aは、各種の情報を検出する検出装置18をさらに含む。検出装置18は、第1検出部18Aおよび第2検出部18Bを含む。第1検出部18Aは、例えばクランクCの回転速度(ケイデンス)を検出するセンサを含む。第2検出部18Bは、例えば人力駆動車Aの傾斜角度AIを検出するセンサを含む。本実施形態では、人力駆動車Aの傾斜角度AIは、例えば人力駆動車Aの前後方向の傾斜角度であるピッチ角度である。第1検出部18Aのセンサおよび第2検出部18Bのセンサはそれぞれ既存のセンサを用いることができる。第1検出部18Aは、所定のサンプリング周期でクランクCの回転速度を検出する。第2検出部18Bは、所定のサンプリング周期で人力駆動車Aの傾斜角度AIを検出する。第1検出部18Aのサンプリング周期と第2検出部18Bのサンプリング周期とは互いに等しくてもよいし、異なってもよい。検出装置18は、第1検出部18Aおよび第2検出部18B以外のセンサをさらに含んでもよい。一例では、センサは、人力駆動車Aの走行速度である車速を検出するセンサ、および、人力駆動車Aの加速度を検出するセンサの少なくとも一方を含む。
【0035】
次に、制御部14による変速装置Tの制御の詳細な内容について説明する。
変速装置Tの制御として、制御部14は、パラメータPMが上限閾値XU以上になると変速比を大きくするように変速装置Tを制御する第1制御、および、パラメータPMが下限閾値XL以下になると変速比を小さくするように変速装置Tを制御する第2制御を実行する。制御部14は、パラメータPMであるクランクCの回転速度が下限閾値XLよりも大きくかつ上限閾値XU未満の回転速度範囲となるように人力駆動車Aの変速比を変更する。すなわち制御部14は、クランクCの回転速度が回転速度範囲の上限閾値XU以上になると、人力駆動車Aの変速比を大きくする。その結果、クランクCの回転速度が減少しやすくなる。制御部14は、クランクCの回転速度が回転速度範囲の下限閾値XL以下になると、人力駆動車Aの変速比を小さくする。その結果、クランクCの回転速度が増加しやすくなる。以下に、変速装置Tの制御の処理手順の一例について説明する。
【0036】
図3に示されるように、制御部14は、ステップS11においてクランクCの回転速度を取得し、ステップS12に移行する。制御部14は、例えば第1検出部18Aの検出結果からクランクCの回転速度を取得する。
【0037】
制御部14は、ステップS12においてクランクCの回転速度が上限閾値XU以上か否かを判定する。制御部14は、ステップS12においてクランクCの回転速度が上限閾値XU以上であると判定する場合、ステップS13において人力駆動車Aの変速比を大きくして処理を一旦終了する。制御部14は、ステップS12においてクランクCの回転速度が上限閾値XU未満であると判定する場合、ステップS14に移行する。
【0038】
制御部14は、ステップS14においてクランクCの回転速度が下限閾値XL以下か否かを判定する。制御部14は、ステップS14においてクランクCの回転速度が下限閾値XL以下であると判定する場合、ステップS15において人力駆動車Aの変速比を小さくして処理を一旦終了する。制御部14は、ステップS14においてクランクCの回転速度が下限閾値XLよりも大きいと判定する場合、処理を一旦終了する。この場合、制御部14は、人力駆動車Aの変速比を変更しない。すなわち制御部14は、クランクCの回転速度が下限閾値XLよりも大きくかつ上限閾値XU未満の範囲内である場合、人力駆動車Aの変速比を変更しない。
【0039】
変速装置Tの制御において、制御部14は、傾斜角度AIと傾斜角度の変化量AVとに応じて、変速条件を変更する。一例では、制御部14は、傾斜角度AIと傾斜角度の変化量AVとを軸に持つ演算用テーブルに応じて、変速条件を変更する。変更条件の変更の一例として、制御部14は、傾斜角度AIと傾斜角度の変化量AVとに応じて、上限閾値XUおよび下限閾値XLの少なくとも一方を変更する。制御部14は、傾斜角度AIと傾斜角度の変化量AVとに応じて、上限閾値XUおよび下限閾値XLをそれぞれ変更する。
【0040】
傾斜角度の変化量AVは、単位時間当たりの傾斜角度AIの変化量、または、単位距離当たりの傾斜角度AIの変化量である。一例では、傾斜角度の変化量AVは、N回目(N>2)にサンプリングした傾斜角度AIと、N-1回目にサンプリングした傾斜角度AIとの差である。N回目のサンプリングした傾斜角度AIは、現時点において最新の傾斜角度AIである。傾斜角度の変化量AVは、連続した2回のサンプリングの傾斜角度AIの差に限られない。一例では、傾斜角度の変化量AVは、N回目にサンプリングした傾斜角度AIと、N-M回目(Mは2以上)にサンプリングした傾斜角度AIとの差であってもよい。また一例では、傾斜角度の変化量AVは、所定時間当たりの傾斜角度AIの変化量で規定されてもよいし、人力駆動車Aの所定走行距離当たりの傾斜角度AIの変化量で規定されてもよい。所定時間および所定走行距離は、予め設定されるサンプリング数で規定される。具体的には、傾斜角度の変化量AVは、K回目(K≧1)にサンプリングした傾斜角度AIと、N回目にサンプリングした時刻から所定時間経過した時刻に相当するL回目(L>K)にサンプリングした傾斜角度AIとの差で規定される。また、傾斜角度の変化量AVは、K回目にサンプリングした傾斜角度AIと、K回目にサンプリングしたときから人力駆動車Aが所定走行距離にわたり走行したときに相当するL回目にサンプリングした傾斜角度AIとの差で規定される。
【0041】
所定時間または単位時間は、例えば制御部14に設けられるカウンタのカウント数に応じて検出してもよい。制御部14は、K回目にサンプリングした傾斜角度AIを取得し、K回目にサンプリングした時刻からカウントを開始する。制御部14は、カウントが所定時間または単位時間に相当するカウント数に達するときに再びサンプリングして傾斜角度AIを取得する。制御部14は、K回目にサンプリングした傾斜角度AIと、所定時間経過時または単位時間経過時にサンプリングする傾斜角度AIとの差から傾斜角度の変化量AVを算出する。
【0042】
人力駆動車Aの走行距離は、車速センサの検出結果に応じて算出される。この場合、人力駆動車Aの前輪WFまたは後輪WRの半径が記憶部16に記憶されている。制御部14は、K回目にサンプリングした傾斜角度AIを取得し、K回目にサンプリングする時点からの走行距離を監視する。制御部14は、K回目にサンプリングする時点からの走行距離が所定走行距離または単位距離に達するときに再びサンプリングして傾斜角度AIを取得する。制御部14は、K回目にサンプリングした傾斜角度AIと、所定走行距離を走行時または単位距離を走行時にサンプリングする傾斜角度AIとの差から傾斜角度の変化量AVを算出する。
【0043】
制御部14は、傾斜角度の変化量AVが増加する場合の下限閾値XLを、傾斜角度の変化量AVが増加しない場合の下限閾値XLよりも大きくする。制御部14は、傾斜角度の変化量AVが増加する場合の上限閾値XUを、傾斜角度の変化量AVが増加しない場合の上限閾値XUよりも大きくする。制御部14は、傾斜角度の変化量AVが減少する場合の下限閾値XLを、傾斜角度の変化量AVが減少しない場合の下限閾値XLよりも小さくする。制御部14は、傾斜角度の変化量AVが減少する場合の上限閾値XUを、傾斜角度の変化量AVが減少しない場合の上限閾値XUよりも小さくする。
【0044】
制御部14は、傾斜角度の変化量AVが同じ条件下において、傾斜角度AIが所定角度以上の場合の下限閾値XLを、傾斜角度AIが所定角度未満の場合の下限閾値XLよりも大きくする。制御部14は、傾斜角度の変化量AVが同じ条件下において、傾斜角度AIが所定角度以上の場合の上限閾値XUを、傾斜角度AIが所定角度未満の場合の上限閾値XUよりも大きくする。以下に変速条件を変更する制御の処理手順の一例について説明する。
【0045】
図4に示されるように、制御部14は、ステップS21において傾斜角度AIを取得し、ステップS22に移行する。傾斜角度AIは、第2検出部18Bの検出結果から取得できる。制御部14は、ステップS22において傾斜角度の変化量AVを取得し、ステップS23に移行する。一例では、制御部14は、N回目にサンプリングした傾斜角度AIと、N-1回目にサンプリングした傾斜角度AIとの差から傾斜角度の変化量AVを算出する。
【0046】
制御部14は、ステップS23において傾斜角度AIと傾斜角度の変化量AVとに応じて上限閾値XUおよび下限閾値XLを変更し、処理を一旦終了する。一例では、制御部14は、上限閾値XUについて傾斜角度AIと傾斜角度の変化量AVとを軸に持つ演算用テーブルおよび下限閾値XLについて傾斜角度AIと傾斜角度の変化量AVとを軸に持つ演算用テーブルを用いて、上限閾値XUおよび下限閾値XLを変更する。
【0047】
上限閾値XUについての演算用テーブルは、傾斜角度AIおよび傾斜角度の変化量AVに対する上限閾値XUの関係を示す。下限閾値XLの演算用テーブルは、傾斜角度AIおよび傾斜角度の変化量AVに対する下限閾値XLの関係を示す。図5(a)は、上限閾値XUについての演算用テーブルの一例を示す。図5(b)は、下限閾値XLについての演算用テーブルの一例を示す。図5(a)(b)では、傾斜角度AIを傾斜度合(%)で示しているが、傾斜角度AIを角度(°)で示してもよい。傾斜度合(%)は、例えば100×垂直距離(mm)/水平距離(mm)によって規定される。
【0048】
図5(a)に示される上限閾値XUの演算用テーブルでは、傾斜角度AIが6個に区分され、傾斜角度の変化量AVが7個に区分されたテーブルのそれぞれに上限閾値XUが設定される。傾斜角度AIは、例えば0%以上50%以下の範囲において、0%、0%<AI≦5%、5%<AI≦10%、10%<AI≦15%、15%<AI≦20%、および、20%<AI≦50%に区分される。傾斜角度の変化量AVは、例えば閾値-X3,-X2,-X1,0,X1,X2,X3に区分される。
【0049】
上限閾値XUについての演算用テーブルは、傾斜角度AIが「0%」かつ傾斜角度の変化量AVが「0」の場合を基準閾値CUSとし、基準閾値CUSよりも大きい閾値を「CUI」とし、基準閾値CUSよりも小さい閾値を「CUD」とする。上限閾値XUについての演算用テーブルは、基準閾値CUSよりも大きい閾値CUI1~CUI8を含む。閾値CUI1から閾値CUI8に向けて順に閾値が大きくなる(CUI1<CUI2<CUI3<CUI4<CUI5<CUI6<CUI7<CUI8)。上限閾値XUについての演算用テーブルは、基準閾値CUSよりも小さい閾値CUDとして、閾値CUD1,CUD2を含む。閾値CUD2は閾値CUD1よりも小さい(CUD1>CUD2)。CUI1~CUI8,CUS,CUD1,CUD2は予め設定されている。CUI1~CUI8,CUS,CUD1,CUD2はユーザによって変更可能である。
【0050】
上限閾値XUについての演算用テーブルでは、傾斜角度AIが大きくなるにつれて上限閾値XUが大きくなり、傾斜角度AIの増加量が大きくなると上限閾値XUが大きくなり、傾斜角度AIの減少量が大きくなると上限閾値XUが小さくなる。このため、傾斜角度AIが大きくなるにつれて変速装置Tが上段に変速しにくくなる。傾斜角度AIの増加量が大きくなる場合、すなわち上り坂の傾斜角度が急になっていく場合、変速装置Tが上段に変速しにくくなり、傾斜角度AIの減少量が大きくなる場合、すなわち上り坂の傾斜角度が緩やかになっていく場合、変速装置Tが上段に変速しやすくなる。
【0051】
図5(b)に示される下限閾値XLの演算用テーブルでは、傾斜角度AIが6個に区分され、傾斜角度の変化量AVが7個に区分されたテーブルのそれぞれに下限閾値XLが設定される。傾斜角度AIは、例えば0%以上50%以下の範囲において、0%、0%<AI≦5%、5%<AI≦10%、10%<AI≦15%、15%<AI≦20%、および、20%<AI≦50%に区分される。傾斜角度の変化量AVは、例えば閾値-X3,-X2,-X1,0,X1,X2,X3に区分される。
【0052】
下限閾値XLについての演算用テーブルは、傾斜角度AIが「0%」かつ傾斜角度の変化量AVが「0」の場合を基準閾値CLSとし、基準閾値CLSよりも大きい閾値を「CLI」とし、基準閾値CLSよりも小さい閾値を「CLD」とする。下限閾値XLについての演算用テーブルは、基準閾値CLSよりも大きい閾値CLI1~CLI8を含む。閾値CLI1から閾値CLI8に向けて順に閾値が大きくなる(CLI1<CLI2<CLI3<CLI4<CLI5<CLI6<CLI7<CLI8)。下限閾値XLについての演算用テーブルは、基準閾値CLSよりも小さい閾値CLDとして、閾値CLD1,CLD2を含む。閾値CLD2は閾値CLD1よりも小さい(CLD1>CLD2)。CLI1~CLI8,CLS,CLD1,CLD2は予め設定されている。CLI1~CLI8,CLS,CLD1,CLD2はユーザによって変更可能である。
【0053】
下限閾値XLについての演算用テーブルでは、傾斜角度AIが大きくなるにつれて下限閾値XLが大きくなり、傾斜角度AIの増加量が大きくなると下限閾値XLが大きくなり、傾斜角度AIの減少量が大きくなると下限閾値XLが小さくなる。このため、傾斜角度AIが大きくなるにつれて変速装置Tが下段に変速しやすくなる。傾斜角度AIの増加量が大きくなる場合、すなわち上り坂の傾斜角度が急になっていく場合、変速装置Tが下段に変速しやすくなり、傾斜角度AIの減少量が大きくなる場合、すなわち上り坂の傾斜角度が緩やかになっていく場合、変速装置Tが下段に変速しにくくなる。
【0054】
上限閾値XUの演算用テーブルおよび下限閾値XLの演算用テーブルはそれぞれ、傾斜角度AIの角度範囲は0%以上50%以下の範囲に限られず、種々の変更が可能である。傾斜角度AIの角度範囲が負の範囲、すなわち下り坂の場合についての上限閾値XUの演算用テーブルおよび下限閾値XLの演算用テーブルを含んでもよい。傾斜角度AIの角度範囲の区分の仕方は任意に変更可能である。傾斜角度AIの角度範囲において5%刻みで区分される部分は、3%刻み、10%刻み等の5%とは異なる範囲で区分されてもよい。20%<AI≦50%の角度範囲について、さらに細かく区分してもよい。
【0055】
上限閾値XUの演算用テーブルおよび下限閾値XLの演算用テーブルのそれぞれについて、傾斜角度の変化量AVは、閾値-X3,-X2,-X1,0,X1,X2,X3の7個の区分に限られず、区分数は任意に変更可能である。傾斜角度の変化量AVの区分数は、3個以上であればよい。
【0056】
例えば上り坂では、上り始めにおいて坂道の勾配が大きくなっていき、上り終わりにおいて坂道の勾配が小さくなっていく。このため、坂道の上り始めでは、人力駆動車Aの変速比が小さくなりやすいことが好ましく、上り坂の上り終わりでは、人力駆動車Aの変速比が大きくなりやすいことが好ましい。この点に鑑みて、制御部14は、傾斜角度AIおよび傾斜角度の変化量AVに応じて上限閾値XUおよび下限閾値XLを変更する。傾斜角度の変化量AVは坂道の勾配の変化に相関があるため、制御部14は、上り坂の上り始めでは、傾斜角度の変化量AVが増加することによって、上限閾値XUおよび下限閾値XLがともに大きくなり、変速装置Tが下段に変速しやすく、上段に変速しにくくなる。制御部14は、上り坂の上り終わりでは、傾斜角度の変化量AVが減少することによって、上限閾値XUおよび下限閾値XLがともに小さくなり、変速装置Tが下段に変速しにくく、上段に変速しやすくなる。
【0057】
(変形例)
上記実施形態に関する説明は、本開示に従う制御装置および変速システムが取り得る形態の例示であり、その形態を制限することを意図していない。本開示に従う制御装置および変速システムは、例えば以下に示される上記実施形態の変形例、および、相互に矛盾しない少なくとも2つの変形例が組み合わせられた形態を取り得る。以下の変形例において、実施形態の形態と共通する部分については、実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0058】
・実施形態において、傾斜角度AIに応じた上限閾値XUおよび下限閾値XLを取得した後、傾斜角度の変化量AVに応じて上限閾値XUおよび下限閾値XLを補正してもよい。
【0059】
一例では、図6に示すように、制御部14は、ステップS41において傾斜角度AIを取得し、ステップS42において傾斜角度AIに応じた上限閾値XUおよび下限閾値XLを取得し、ステップS43に移行する。制御部14は、例えば記憶部16に記憶された傾斜角度AIと上限閾値XUおよび下限閾値XLとの関係を示すマップまたはテーブルから上限閾値XUおよび下限閾値XLを取得する。制御部14は、ステップS43において傾斜角度の変化量AVを取得し、ステップS44に移行する。
【0060】
制御部14は、ステップS44において傾斜角度の変化量AVが増加したか否かを判定する。傾斜角度の変化量AVが増加するとは、例えばN回目にサンプリングした傾斜角度AIがN-1回目にサンプリングした傾斜角度AIよりも大きいことを示す。制御部14は、傾斜角度の変化量AVが増加する場合、ステップS45に移行する。制御部14は、ステップS45においてステップS42の上限閾値XUおよび下限閾値XLを大きくし、処理を一旦終了する。制御部14は、ステップS45における上限閾値XUおよび下限閾値XLの補正を、例えば図7のマップを用いて行う。図7のマップは、傾斜角度AIの増加量と上限閾値XUおよび下限閾値XLの増加量との関係を示している。図7のマップでは、傾斜角度AIの増加量が大きくなるにつれて上限閾値XUおよび下限閾値XLの増加量が大きくなる。制御部14は、傾斜角度AIの増加量から上限閾値XUおよび下限閾値XLの増加量を取得し、ステップS42における上限閾値XUおよび下限閾値XLに、上限閾値XUおよび下限閾値XLの増加量を加算して、補正した上限閾値XUおよび下限閾値XLを算出する。すなわち制御部14は、傾斜角度の変化量AVが増加する場合、傾斜角度AIの増加量が大きくなるにつれて上限閾値XUを大きくする。制御部14は、傾斜角度の変化量AVが増加する場合、傾斜角度AIの増加量が大きくなるにつれて下限閾値XLを大きくする。
【0061】
制御部14は、傾斜角度の変化量AVが増加しない場合、ステップS46に移行する。制御部14は、ステップS46において傾斜角度の変化量AVが減少するか否かを判定する。傾斜角度の変化量AVが減少するとは、例えばN回目にサンプリングした傾斜角度AIがN-1回目にサンプリングした傾斜角度AIよりも小さいことを示す。制御部14は、傾斜角度の変化量AVが減少する場合、ステップS47に移行する。制御部14は、ステップS47においてステップS42の上限閾値XUおよび下限閾値XLを小さくし、処理を一旦終了する。制御部14は、傾斜角度の変化量AVが減少しない場合、処理を一旦終了する。この場合、制御部14は、上限閾値XUおよび下限閾値XLを補正しない。
【0062】
制御部14は、ステップS47における上限閾値XUおよび下限閾値XLの補正を、例えば図8のマップを用いて行う。図8のマップは、傾斜角度AIの減少量と上限閾値XUおよび下限閾値XLの減少量との関係を示している。図8のマップでは、傾斜角度AIの減少量が大きくなるにつれて、上限閾値XUおよび下限閾値XLの減少量が大きくなる。制御部14は、傾斜角度AIの減少量から上限閾値XUおよび下限閾値XLの減少量を取得し、ステップS42における上限閾値XUおよび下限閾値XLに、上限閾値XUおよび下限閾値XLの減少量を加算して、補正した上限閾値XUおよび下限閾値XLを算出する。すなわち制御部14は、傾斜角度の変化量AVが減少する場合、傾斜角度AIの減少量が大きくなるにつれて上限閾値XUを小さくする。制御部14は、傾斜角度の変化量AVが減少する場合、傾斜角度AIの減少量が大きくなるにつれて下限閾値XLを小さくする。
【0063】
・実施形態および変形例において、制御部14は、傾斜角度AIおよび傾斜角度の変化量AVに応じて上限閾値XUおよび下限閾値XLの一方のみを変更してもよい。
【符号の説明】
【0064】
10…変速システム、12…制御装置、14…制御部、A…人力駆動車、C…クランク、T…変速装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8