IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニック株式会社の特許一覧

特許7140648フッ化物イオン伝導体およびフッ化物イオン二次電池
<>
  • 特許-フッ化物イオン伝導体およびフッ化物イオン二次電池 図1
  • 特許-フッ化物イオン伝導体およびフッ化物イオン二次電池 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】フッ化物イオン伝導体およびフッ化物イオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20220913BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220913BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220913BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220913BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20220913BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/36 C
H01M10/0566
H01B1/06 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018217725
(22)【出願日】2018-11-20
(65)【公開番号】P2019121596
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2021-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2017254477
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】小森 知行
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-041673(JP,A)
【文献】特開昭55-091569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-0587
H01M 4/02-62
H01M 6/18
H01B 1/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルビジウムと、
マグネシウムと、
フッ素とを含有するフッ化物イオン伝導体であって、
式Rb 1-x Mg x 1+x により示される組成を有し、
前記式において、xが0.1≦x≦0.3を満たす、
フッ化物イオン伝導体。
【請求項2】
前記ルビジウムと前記マグネシウムと前記フッ素とを含有する化合物の相を含む、
請求項1に記載のフッ化物イオン伝導体。
【請求項3】
前記ルビジウムと前記マグネシウムと前記フッ素とを含有する混合物の相をさらに含む、
請求項2に記載のフッ化物イオン伝導体。
【請求項4】
正極と、
負極と、
前記正極及び前記負極の間に配置された、フッ化物イオン伝導性を有する電解質とを備え、
前記正極、前記負極、及び前記電解質の少なくとも1つが、請求項1からのいずれか一項に記載のフッ化物イオン伝導体を含む、
フッ化物イオン二次電池。
【請求項5】
前記負極が前記フッ化物イオン伝導体を含む、
請求項に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項6】
前記負極が、負極活物質と、前記負極活物質を被覆する被覆材とを含み、
前記被覆材が前記フッ化物イオン伝導体を含有する、
請求項に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項7】
前記正極が前記フッ化物イオン伝導体を含む、
請求項からのいずれか一項に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項8】
前記正極が、正極活物質と、前記正極活物質を被覆する被覆材とを含み、
前記被覆材が前記フッ化物イオン伝導体を含有する、
請求項に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項9】
前記電解質が、液体電解質である、
請求項からのいずれか一項に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項10】
前記電解質が前記フッ化物イオン伝導体を含む、
請求項からのいずれか一項に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項11】
前記正極が、Co、Cu、Bi、Sn、Pb、Fe、Zn、Ga、およびCからなる群より選択される少なくとも1種を含有する正極活物質を含む、
請求項から10のいずれか一項に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項12】
前記負極が、Ti、Zr、Al、Sc、Rb、Ge、Cs、Mg、K、Na、La、Ca、Ba、およびSrからなる群より選択される少なくとも1種を含有する負極活物質を含む、
請求項から11のいずれか一項に記載のフッ化物イオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フッ化物イオン伝導体およびフッ化物イオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の一種に、シャトルコック型電池がある。シャトルコック型電池では、正極と負極との間を電解質を介してイオンが移動することにより、充放電が行われる。移動するイオンにリチウムイオンを用いたリチウムイオン二次電池が、シャトルコック型電池として広く普及している。近年、リチウムイオンの代わりにフッ化物イオンを用いたフッ化物イオン二次電池が報告されている。
【0003】
特許文献1には、フッ化物ソリッドステート二次電池に使用可能な固体電解質が開示されている。特許文献1に開示されている固体電解質の例は、LaまたはCeのフッ化物をベースとし、アルカリ土類金属の1つまたは複数のフッ化物(CaF2、SrF2、BaF2)、および/またはアルカリ金属フッ化物(LiF、KF、NaF)および/またはアルカリ金属塩化物(LiCl、KCl、NaCl)を含有する複合フッ化物である。
【0004】
特許文献2には、電子絶縁非晶質イオン伝導体組成物であって、ガラス網目修飾剤をさらに含む組成物が開示されている。特許文献2に開示のガラス網目修飾剤は、LaF3、BiF3、PbF2、KF、CaF2、BaF2、SnF2、SrF2または希土類金属フッ化物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2008-537312号公報
【文献】特表2013-510409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、例えばフッ化物イオン二次電池に使用可能である、新規なフッ化物イオン伝導体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係るフッ化物イオン伝導体は、ルビジウムと、マグネシウムと、フッ素とを含有する。前記フッ化物イオン伝導体の平均組成において、前記ルビジウムと前記マグネシウムとの総モル数に対する前記マグネシウムのモル数の比率が0.4未満である。
【発明の効果】
【0008】
本開示のフッ化物イオン伝導体は、新規なフッ化物イオン伝導体である。本開示のフッ化物イオン伝導体は、例えば、フッ化物イオン二次電池に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の実施形態のフッ化物イオン二次電池を模式的に示す断面図である。
図2図2は、実施例で作製したフッ化物イオン伝導材料のイオン伝導度を評価するためのセルを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
フッ化物イオン二次電池は、シャトルコック型二次電池としての効果を得ることができる。当該効果は、例えば、高い安定性、高いエネルギー密度、高い出力密度である。しかし、フッ化物イオン二次電池は、未だ研究開発の途上にある。高いフッ化物イオン伝導性を示す電解質材料を見出すことができれば、フッ化物イオン二次電池の性能向上を図ることができる。本発明者らは、鋭意検討の結果、高いフッ化物イオン伝導性を示しうる本開示の材料を見出した。本開示によれば、例えば、高い性能を有するフッ化物イオン二次電池が実現する。
【0011】
(本開示に係る種々の態様の概要)
本開示の第1の態様に係るフッ化物イオン伝導体は、ルビジウムと、マグネシウムと、フッ素とを含有する。前記フッ化物イオン伝導体の平均組成において、前記ルビジウムと前記マグネシウムとの総モル数MRb+MMgに対する前記マグネシウムのモル数MMgの比率MMg/(MRb+MMg)が0.4未満である。
【0012】
フッ化物イオン伝導体が化合物相の単相構造である場合には、「平均組成」は、当該化合物の組成を表す。あるいは、フッ化物イオン伝導体が化合物相と混合物相の複相構造である場合には、「平均組成」は、フッ化物イオン伝導体に対して各相の区別を考慮せずに元素分析を行なうことによって得られる組成を表す。「各相の区別を考慮せず」とは、典型的には、フッ化物イオン伝導体の原料粉のサイズよりも大きな試料を用いて元素分析を行なうことによって得られる組成を意味する。
【0013】
平均組成は、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析及びイオンクロマトグラフィーの組み合わせにより同定することができる。例えば、フッ化物イオン伝導体に含有される金属がICP発光分光分析を用いて分析され、フッ素がイオンクロマトグラフィーを用いて分析される。
【0014】
本開示の第2の態様において、上記第1の態様に係る前記フッ化物イオン伝導体が、前記ルビジウムと前記マグネシウムと前記フッ素とを含有する化合物の相を含んでもよい。
【0015】
化合物の相が結晶相である場合、その組成および構造は、X線回折法によって同定することができる。
【0016】
本開示の第3の態様において、上記第2の態様に係る前記フッ化物イオン伝導体が、前記ルビジウムと前記マグネシウムと前記フッ素とを含有する混合物の相をさらに含んでもよい。
【0017】
混合物は、例えば、ルビジウムと、マグネシウムと、フッ素とが混合されたものであってもよい。あるいは、混合物は、例えば、ルビジウムのフッ化物とマグネシウムのフッ化物とが混合されたものであってもよい。混合物の相が複数の結晶相を含む場合、それらの相の組成および構造は、X線回折法によって同定することができる。
【0018】
本開示の第4の態様において、上記第1から第3の態様のいずれか1つに係る前記比率が、0.1以上、かつ、0.3以下であってもよい。
【0019】
本開示の第5の態様において、上記第1から第4の態様のいずれか1つに係る前記フッ化物イオン伝導体が、前記ルビジウムと前記マグネシウムと前記フッ素とからなっていてもよい。
【0020】
なお、本開示において、「Xからなる(consist of X)」は、原料中または製造工程で不可避的に混入する不純物が含有されたフッ化物イオン伝導体を除外(disclaim)するものではない。ここで、不可避的に混入する不純物は、フッ化物イオン伝導体中に例えば0.05モル%未満で含有される不純物を意味する。
【0021】
本開示の第6の態様に係るフッ化物イオン二次電池は、正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された、フッ化物イオン伝導性を有する電解質とを備える。前記正極、前記負極、及び前記電解質の少なくとも1つが、上記第1から第5の態様のいずれか1つに記載のフッ化物イオン伝導体を含む。
【0022】
本開示の第7の態様において、上記第6の態様に係る前記負極が前記フッ化物イオン伝導体を含んでもよい。
【0023】
本開示の第8の態様において、上記第7の態様に係る前記負極が、負極活物質と、前記負極活物質を被覆する被覆材とを含んでもよく、前記被覆材が前記フッ化物イオン伝導体を含有してもよい。この場合、被覆材が負極活物質と電解質との反応を抑制し、これにより、例えば電解質の分解を抑制することができる。
【0024】
本開示の第9の態様において、上記第6から第8の態様のいずれか1つに係る前記正極が前記フッ化物イオン伝導体を含んでもよい。
【0025】
本開示の第10の態様において、上記第9の態様に係る前記正極が、正極活物質と、前記正極活物質を被覆する被覆材とを含んでもよく、前記被覆材が前記フッ化物イオン伝導体を含有してもよい。この場合、被覆材が正極活物質と電解質との反応を抑制し、これにより、例えば電解質の分解を抑制することができる。
【0026】
本開示の第11の態様において、上記第6から第10の態様のいずれか1つに係る前記電解質が、液体電解質であってもよい。例えば、液体電解質は、溶媒にフッ化物塩を溶解させた溶液であってもよい。
【0027】
本開示の第12の態様において、上記第6から第10の態様のいずれか1つに係る前記電解質が前記フッ化物イオン伝導体を含んでもよい。
【0028】
本開示の第13の態様において、上記第6から第12の態様のいずれか1つに係る前記正極が、Co、Cu、Bi、Sn、Pb、Fe、Zn、Ga、およびCからなる群より選択される少なくとも1種を含有する正極活物質を含んでもよい。
【0029】
本開示の第14の態様において、上記第6から第13の態様のいずれか1つに係る前記負極が、Ti、Zr、Al、Sc、Rb、Ge、Cs、Mg、K、Na、La、Ca、Ba、およびSrからなる群より選択される少なくとも1種を含有する負極活物質を含んでもよい。
【0030】
(本開示の実施形態)
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下で説明する実施形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、プロセス条件、ステップ、ステップの順序などは一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。なお、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。
【0031】
(実施形態1)
[フッ化物イオン伝導材料]
本実施形態のフッ化物イオン伝導材料は、式Rb1-xMgx1+xにより示される組成を有する。上記式のxはx<0.4を満たす。このxは、さらに、0.1≦x≦0.3を満たしてもよい。
【0032】
本実施形態のフッ化物イオン伝導材料は、フッ化ルビジウムと、フッ化マグネシウムと、を含有する。当該材料に含まれるルビジウム(Rb)とマグネシウム(Mg)とのモル比は、Rb:Mgにより表示して、例えば、90:10~70:30である。
【0033】
本実施形態のフッ化物イオン伝導材料において、フッ素の一部が欠損していてもよい。
【0034】
本実施形態のフッ化物イオン伝導材料の結晶状態は限定されず、単結晶、多結晶、非晶、およびこれらが混在する状態をとりうる。
【0035】
本実施形態のフッ化物イオン伝導材料の形状は限定されない。当該材料は、例えば、粒子、フィルム、シート、ディスク、バルク、圧粉体といった任意の形状を有しうる。当該材料は、例えば、後述するフッ化物イオン二次電池の筐体内に収容可能な形状をとりうる。当該材料は、例えば、後述するフッ化物イオン二次電池の正極層および負極層と積層可能な形状をとりうる。本実施形態のイオン伝導材料は、固体のフッ化物イオン伝導材料でありうる。
【0036】
本実施形態のフッ化物イオン伝導材料が示すフッ化物イオン伝導度は、例えば、5.3×10-5(S/cm)以上であり、1.0×10-4(S/cm)以上、5.0×10-4(S/cm)以上、さらには1.0×10-3(S/cm)以上でありうる。これらのイオン伝導度は、140℃での値でありうる。フッ化物イオン伝導性は、例えば、粒子状の当該材料をプレスしてディスク状とし、所望の温度に保持した当該ディスクの双方の主面をインピーダンスアナライザに接続して、複素インピーダンス法により評価できる。本実施形態のフッ化物イオン伝導材料は、200℃以下の比較的低温、さらには150℃以下、にて、高いフッ化物イオンの伝導性を示しうる。
【0037】
本実施形態のフッ化物イオン伝導材料の用途は限定されない。用途は、例えば、固体のフッ化物イオン伝導材料である。用途のより具体的な例は、フッ化物イオンを伝導する固体電解質である。本実施形態のイオン伝導材料は、例えば、フッ化物イオン二次電池に使用できる。フッ化物イオン二次電池は、充放電可能な二次電池である。フッ化物イオン二次電池では、正極と負極との間を電解質を介してフッ化物イオンが移動することにより、充放電が行われる。当該電池の正極層、負極層および電解質層から選ばれる少なくとも1つの層が含む電解質として、本実施形態のフッ化物イオン伝導材料を使用可能である。より具体的に、当該電池の電解質層、特に固体電解質層、が含む電解質として、本実施形態のフッ化物イオン伝導材料を使用可能である。また、正極層に含まれる正極活物質との組み合わせによっては、フッ化物イオン二次電池の負極層に含まれる負極活物質としても、本実施形態のフッ化物イオン伝導材料を使用可能である。
【0038】
本実施形態のフッ化物イオン伝導材料を使用したフッ化物イオン二次電池は、全固体二次電池でありうる。全固体二次電池は、安全性が高く、かつ正極層、電解質層および負極層の構成によっては高いエネルギー密度を有しうる。
【0039】
本実施形態のフッ化物イオン伝導材料をフッ化物イオン二次電池の電解質および/または負極活物質に使用することにより、例えば200℃以下、さらには150℃以下で動作可能なフッ化物イオン二次電池を構築できる。
【0040】
本実施形態のフッ化物イオン伝導材料の製造方法は限定されない。例えば、フッ化ルビジウムとフッ化マグネシウムとを、混合後のRbとMgとの含有モル比が望む値となるように混合して製造できる。混合をボールミル、ロッドミル等の粉砕機または粒子混合装置を用いて実施した場合、イオン伝導材料の組成がより均一となる。フッ化ルビジウムは、例えば、RbFである。フッ化マグネシウムは、例えば、MgF2である。混合後のイオン伝導材料は、成形により所定の形状に加工することができる。成形には、例えば、プレス、焼結を利用できる。
【0041】
(実施形態2)
[フッ化物イオン二次電池]
図1は、本実施形態のフッ化物イオン二次電池の構成を模式的に示す断面図である。図1に示されるフッ化物イオン二次電池1は、正極層2と、負極層4と、電解質層3とを備える。電解質層3は、正極層2と負極層4との間に配置されている。正極層2、電解質層3および負極層4は互いに接している。
【0042】
正極層2、電解質層3および負極層4は、いずれも固体である。電池1は、全固体二次電池である。
【0043】
正極層2は、例えば、正極活物質と、フッ化物イオン伝導性を有する固体電解質とを含む。電解質層3は、フッ化物イオン伝導性を有する固体電解質を含む。負極層4は、例えば、負極活物質と、フッ化物イオン伝導性を有する固体電解質とを含む。電池1では、正極層2、電解質層3および負極層4から選ばれる少なくとも1つの層に含まれる電解質が、実施形態1のフッ化物イオン伝導材料である。
【0044】
電池1は、電解質層3および/または負極層4に含まれる電解質として、実施形態1のフッ化物イオン伝導材料を含みうる。
【0045】
電池1は、電解質層3に含まれる電解質として、実施形態1のフッ化物イオン伝導材料を含みうる。このとき、電解質層3は実施形態1のフッ化物イオン伝導材料から構成されうる。
【0046】
正極層2が含む正極活物質との組み合わせによっては、電池1は、負極層4に含まれる負極活物質として、実施形態1のフッ化物イオン伝導材料を含みうる。
【0047】
電池1は、実施形態1のフッ化物イオン伝導材料の使用により、例えば200℃以下、さらには150℃以下の比較的低温で動作可能である。また、実施形態1のフッ化物イオン伝導材料の使用、とりわけ電解質層3への使用により、高い出力特性を有する電池1を構築できる。
【0048】
電解質層3は、厚さ方向、すなわち正極層2および負極層4の積層方向、にフッ化物イオン伝導性を有する層である。電解質層3は、典型的には、厚さ方向に電子伝導性を有さない。電解質層3の厚さは、例えば、1~1000μmである。電解質層3の厚さは、200~800μm、さらには300~700μmでありうる。電解質層3の厚さがこれらの範囲にある場合、正極層2と負極層4との電気的な短絡が阻止されるとともに、フッ化物イオンの伝導性をより確実に確保できる。フッ化物イオンの伝導性をより確実に確保できることにより、より高い出力特性を有する電池1を構築することができる。
【0049】
電解質層3の具体的な構成は限定されない。電解質層3は、例えば、フッ化物イオン伝導材料を含む薄膜である。電解質層3は、フッ化物イオン伝導材料の粒子の凝集体でありうる。これらのフッ化物イオン伝導材料は、実施形態1のフッ化物イオン伝導材料でありうる。
【0050】
電池1がフッ化物イオン二次電池として機能する限り、電解質層3は、フッ化物イオン伝導材料以外の材料を含みうる。
【0051】
例えば、図1において参照符号「3」で示される領域は、液体電解質であってもよい。液体電解質は、例えば、セパレータを浸潤していてもよい。
【0052】
セパレータの材料の例としては、多孔膜、織布、不織布が挙げられる。
【0053】
液体電解質は、溶媒と、溶媒に溶解したフッ化物塩と、を含み、フッ化物イオン伝導性を有する。溶媒は、例えば、非水溶媒であってもよい。
【0054】
非水溶媒の例としては、アルコール、環状エーテル、鎖状エーテル、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、及び鎖状カルボン酸エステルが挙げられる。
【0055】
アルコールの例としては、エタノール、エチレングリコール、及び、プロピレングリコールが挙げられる。
【0056】
環状エーテルの例としては、4-メチル-1,3-ジオキソラン、2-メチルテトラヒドロフラン、及びクラウンエーテルが挙げられる。鎖状エーテルの例としては、1,2-ジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、及びテトラエチレングリコールジメチルエーテルが挙げられる。環状炭酸エステルの例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、及び4,5-ジフルオロエチレンカーボネートが挙げられる。鎖状炭酸エステルの例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネートが挙げられる。環状カルボン酸エステルの例としては、γ-ブチロラクトンが挙げられる。鎖状カルボン酸エステルの例としては、エチルアセテート、プロピルアセテート、及びブチルアセテートが挙げられる。
【0057】
例えば、非水溶媒はイオン液体であってもよい。
【0058】
イオン液体のカチオンの例としては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-エチルピリジニウムカチオン、1-メトキシエチル-1-メチルピロリジニウムカチオン、N-メチル-N-プロピルピペリジニウムカチオン、トリメチルブチルアンモニウムカチオン、N,N-ジエチル-N-メチルメトキシエチルアンモニウムカチオン、テトラブチルホスホニウムカチオン、トリエチル-(2-メトキシエチル)ホスホニウムカチオン、トリエチルスルホニウムカチオン、及びジエチル-(2-メトキシエチル)スルホニウムカチオンが挙げられる。
【0059】
イオン液体のアニオンの例としては、ビス(フルオロスルホニル)アミドアニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、トリ(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェートアニオン、トリフルオロメタンスルホネートアニオン、及びテトラフルオロボレートアニオンが挙げられる。
【0060】
電解質は、1種類のみの溶媒を含有してもよく、2種類以上の溶媒を含有してもよい。
【0061】
フッ化物塩の例としては、無機フッ化物塩、有機フッ化物塩、及びイオン液体を挙げることができる。
【0062】
無機フッ化物塩の例としては、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウム、及びフッ化アンモニウムが挙げられる。
【0063】
有機フッ化物塩の例としては、テトラメチルアンモニウムフルオライド、ネオペンチルトリメチルアンモニウムフルオライド、トリネオペンチルメチルアンモニウムフルオライド、テトラネオペンチルアンモニウムフルオライド、1,3,3,6,6-ヘキサメチルピペリジニウムフルオライド、1-メチル-1-プロピルピペリジニウムフルオライド、テトラメチルホスホニウムフルオライド、テトラフェニルホスホニウムフルオライド、及び、トリメチルスルホニウムフルオライドが挙げられる。
【0064】
電解質は、1種類のみのフッ化物塩を含有してもよく、2種類以上のフッ化物塩を含有してもよい。
【0065】
正極層2は、正極活物質を含む層である。正極層2は、正極活物質と、フッ化物イオン伝導性を有する電解質とを含む正極合剤層であってもよい。
【0066】
正極活物質は、電池の充放電に伴ってフッ化物イオンを吸蔵および放出できる材料である。吸蔵および放出には、フッ化物イオンとの化学反応を伴う形態、およびインターカレーション等の化学反応を伴わない形態の双方が含まれる。化学反応には、化合物を形成する反応と、合金および固溶体等の化合物ではない複合体を形成する反応とが含まれる。
【0067】
正極活物質は、電池1において組み合わされる負極層4の負極活物質に比べて、標準電極電位で表示して貴の電位を示す物質でありうる。
【0068】
正極活物質は、例えば、Co、Cu、Bi、Sn、Pb、Fe、Zn、Ga、およびCからなる群より選択される少なくとも1種を含む。正極活物質は、当該少なくとも1種の元素の単体、当該少なくとも1種の元素を含む合金および固溶体等の複合体、ならびに当該少なくとも1種の元素を含む化合物でありうる。化合物は、例えば、フッ化物である。C(炭素)は、例えば、黒鉛、およびハードカーボンまたはコークスといった非黒鉛系炭素である。正極活物質に炭素を用いた場合、電池1の製造コストを低減できるとともに、平均放電電圧を高めることができる。
【0069】
正極層2の厚さは、例えば、1~500μmである。正極層2の厚さは、1~400μm、さらには50~200μmでありうる。正極層2の厚さがこれらの範囲にある場合、電池1のエネルギー密度をより向上できるとともに、高出力でのより安定した動作が可能となる。
【0070】
正極層2の具体的な構成は限定されない。正極層2は、例えば、正極活物質およびフッ化物イオン伝導材料を含む薄膜である。正極層2は、正極活物質の粒子およびフッ化物イオン伝導材料の粒子を含みうる。当該フッ化物イオン伝導材料は、実施形態1のフッ化物イオン伝導材料でありうる。
【0071】
電池1がフッ化物イオン二次電池として機能する限り、正極層2は、上述した以外の材料を含みうる。
【0072】
負極層4は、負極活物質を含む層である。負極層4は、負極活物質と、フッ化物イオン伝導性を有する電解質とを含む負極合剤層であってもよい。
【0073】
負極活物質は、電池の充放電に伴ってフッ化物イオンを吸蔵および放出できる材料である。吸蔵および放出には、フッ化物イオンとの化学反応を伴う形態、およびインターカレーション等の化学反応を伴わない形態の双方が含まれる。化学反応には、化合物を形成する反応と、合金および固溶体等の化合物ではない複合体を形成する反応とが含まれる。
【0074】
負極活物質は、電池1において組み合わされる正極層2の正極活物質に比べて、標準電極電位で表示して卑の電位を示す物質でありうる。
【0075】
負極活物質は、例えば、Ti、Zr、Al、Sc、Rb、Ge、Cs、Mg、K、Na、La、Ca、Ba、およびSrからなる群より選択される少なくとも1種を含む。負極活物質は、当該少なくとも1種の元素の単体、当該少なくとも1種の元素を含む合金および固溶体等の複合体、ならびに当該少なくとも1種の元素を含む化合物でありうる。化合物は、例えば、フッ化物である。
【0076】
負極層4の厚さは、例えば、1~500μmである。負極層4の厚さは、1~400μm、さらには50~200μmでありうる。負極層4の厚さがこれらの範囲にある場合、電池1のエネルギー密度をより向上できるとともに、高出力でのより安定した動作が可能となる。
【0077】
負極層4の具体的な構成は限定されない。負極層4は、例えば、負極活物質およびフッ化物イオン伝導材料を含む薄膜である。負極層4は、負極活物質の粒子およびフッ化物イオン伝導材料の粒子を含みうる。当該フッ化物イオン伝導材料は、実施形態1のフッ化物イオン伝導材料でありうる。
【0078】
電池1がフッ化物イオン二次電池として機能する限り、負極層4は、上述した以外の材料を含みうる。
【0079】
正極層2および負極層4は、導電助剤を含みうる。導電助剤を含む場合、当該層の電極抵抗を低減できる。
【0080】
導電助剤は、電子伝導性を有する限り限定されない。導電助剤は、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛等のグラファイト類;アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック類;炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維類;フッ化カーボン、アルミニウム等の金属粉末類;酸化亜鉛、チタン酸カリウム等の導電性ウィスカー類;酸化チタン等の導電性金属酸化物;およびポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子化合物である。グラファイト類およびカーボンブラック類といった炭素系導電助剤の使用により、電池1の低コスト化を図ることができる。
【0081】
正極層2および負極層4における電極活物質、電解質および導電助剤の含有割合は限定されない。
【0082】
正極層2および負極層4は、電極活物質、電解質および導電助剤から選ばれる少なくとも1つを、粒子の状態で含みうる。
【0083】
粒子状の材料を含む層は、当該粒子を互いに結着する結着剤をさらに含みうる。結着剤により、層内における粒子間の結着性を向上できる。また、結着剤により、隣接する層との接合性(密着強度)を向上できる。結着剤により、例えば、正極層2または負極層4と、当該層に隣接する集電体層5または6との接合性を向上できる。これら接合性の向上は、各層の薄膜化に寄与する。例えば正極層2および負極層4では、電極活物質同士をより確実に接触させることができるためである。電解質層3では、電解質同士をより確実に接触させることができる。各層の薄膜化によって、電池1のエネルギー密度のさらなる向上が可能となる。
【0084】
結着剤の種類は限定されない。結着剤は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロエチレン共重合体、テフロンバインダー(「テフロン」は登録商標)、ポリ(フッ化ビニリデン)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等のフッ素系樹脂から構成されるバインダー;カルボキシメチルセルロース、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメタクリル酸およびその金属塩、ポリアクリル酸およびその金属塩、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンイミン、ポリメタクリロニトリル、ポリビニルアセテート、ポリイミド、ポリアミック酸、ポリアミドイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー、ポリ酢酸ビニル、ニトロセルロース、エチレン-アクリル酸共重合体およびそのNa+イオン架橋体、エチレン-メタクリル酸共重合体およびそのNa+イオン架橋体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体およびそのNa+イオン架橋体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体およびそのNa+イオン架橋体、ポリエステル樹脂、モノアルキルトリアルコキシシラン重合体、モノアルキルトリアルコキシシラン重合体とテトラアルコキシシランモノマーとを共重合させた高分子等の高分子化合物;スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-イソプレン共重合体、イソブチレン-イソプレン共重合体(ブチルゴム)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(NBR)、水素化SBR、水素化NBR、エチレン-プロピレン-ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM等のゴム質重合体である。
【0085】
結着剤がフッ化物イオンおよび/または電子を伝導しない絶縁性の物質である場合、各層における結着剤の含有率が過度に大きくなると、電池の充放電特性が低下したり、エネルギー密度が却って低下することがある。この観点から、上記絶縁性の物質である結着剤を含む層における結着剤の含有率は、例えば20重量%以下であり、5重量%以下でありうる。
【0086】
電池1では、正極層2、電解質層3および負極層4の全ての層が結着剤を含んでいてもよい。また、正極層2、電解質層3および負極層4から選ばれる少なくとも1つの層が、結着剤を含まない構成を有しうる。
【0087】
図1に例示する電池1は、正極集電体5および負極集電体6をさらに備える。正極集電体5は、正極層2に接している。負極集電体6は、負極層4に接している。正極集電体5および負極集電体6は、正極層2、電解質層3および負極層4の積層体を挟持している。
【0088】
正極集電体5および負極集電体6は、電子伝導性を有する。正極集電体5および負極集電体6は、電子伝導性を有し、かつ電池1の充放電環境下において腐食し難い材料から構成されうる。
【0089】
正極集電体5は、例えば、アルミニウム、金、白金、およびこれらの合金等の金属材料から構成される。正極集電体5の形状は限定されず、例えば、シートまたはフィルムである。正極集電体5は、多孔または無孔のシートまたはフィルムでありうる。シートおよびフィルムには、箔およびメッシュが含まれる。アルミニウムおよびその合金は、安価であるとともに、薄膜化し易い。正極集電体5は、カーボンコーティングされたアルミニウムから構成されうる。正極集電体5の厚さは、例えば、1~30μmである。正極集電体5の厚さがこの範囲にある場合、集電体の強度をより確実に確保でき、例えば集電体の割れおよび破れが抑制されるとともに、電池1のエネルギー密度をより確実に確保できる。
【0090】
正極集電体5は、正極端子を有しうる。
【0091】
負極集電体6は、例えば、金、白金、アルミニウム、およびこれらの合金等の金属材料から構成される。負極集電体6の形状は限定されず、例えば、シートまたはフィルムである。負極集電体6は、多孔または無孔のシートまたはフィルムでありうる。シートおよびフィルムには、箔およびメッシュが含まれる。アルミニウムおよびその合金は、安価であるとともに、薄膜化し易い。負極集電体6は、カーボンコーティングされたアルミニウムから構成されうる。負極集電体6の厚さは、例えば、1~30μmである。負極集電体6の厚さがこの範囲にある場合、集電体の強度をより確実に確保でき、例えば集電体の割れおよび破れが抑制されるとともに、電池1のエネルギー密度をより確実に確保できる。
【0092】
負極集電体6は、負極端子を有しうる。
【0093】
本実施形態のフッ化物イオン二次電池は、充放電が可能であり、二次電池として使用できる限り、上述した以外の任意の部材および構成を有しうる。
【0094】
本実施形態のフッ化物イオン二次電池の形状は限定されない。当該形状は、公知の二次電池が有する形状でありうる。形状の例は、矩形、円形、楕円形、六角形である。本実施形態のフッ化物イオン二次電池は、図1に例示した電池(単電池)をさらにスタックした構成、あるいは折りたたんだ構成を有していてもよい。この場合、本実施形態のフッ化物イオン二次電池は、円筒型、角型、ボタン型、コイン型、扁平型等の各種の電池形状を有しうる。
【0095】
本実施形態のフッ化物イオン二次電池の製造方法は限定されない。本実施形態のフッ化物イオン二次電池は、電解質として実施形態1のフッ化物イオン伝導材料を使用する以外、公知の二次電池、典型的には全固体型二次電池、の製造方法を応用して製造できる。
【0096】
本実施形態のフッ化物イオン二次電池を構成する各層の形成には、公知の薄膜形成手法を採用できる。薄膜形成手法は、例えば、化学堆積法および物理堆積法である。物理堆積法の具体的な例は、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、パルスレーザをターゲットに照射して堆積を行うPLD法である。化学堆積法は、例えば、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVDなどの化学気相蒸着法(CVD法);電界メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキなどの湿式メッキ法といった液相成膜法;ゾルゲル法;MOD法;スプレイ熱分解法;微粒子分散液を用いたドクターブレイド法、スピンコート法、インクジェット法、スクリーンプリンティング法などの印刷技術;である。薄膜形成手法は、これらの例に限定されない。
【実施例
【0097】
以下、実施例に基づき、本開示のフッ化物イオン伝導材料について、より具体的に説明する。本開示のフッ化物イオン伝導材料は、以下の実施例に示す材料に限定されない。
【0098】
(サンプル1)
RbFの粒子(高純度化学研究所製)を、遊星型ボールミルを用いて6時間ミリング処理した。次に、ミリング処理後の粒子の結晶化温度を、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した。次に、ミリング処理後の粒子を、不活性ガスの雰囲気下にて、上記測定した結晶化温度より20℃高い温度で1時間熱処理した。これにより、式RbFにより示される組成を有する材料を作製した。
【0099】
(サンプル2)
RbFおよびMgF2の粒子(いずれの粒子も高純度化学研究所製)を、モル比RbF:MgF2=90:10で混合した。次に、混合物を、遊星型ボールミルを用いて6時間ミリング処理した。次に、ミリング処理後の混合物の結晶化温度を、DSCを用いて測定した。次に、ミリング処理後の混合物を、不活性ガスの雰囲気下にて、上記測定した結晶化温度より20℃高い温度で1時間熱処理した。これにより、式Rb0.9Mg0.11.1により示される組成を有するフッ化物イオン伝導材料を得た。
【0100】
(サンプル3)
RbFおよびMgF2の粒子の混合比をモル比でRbF:MgF2=80:20とした以外はサンプル2と同様にして、式Rb0.8Mg0.21.2により示される組成を有するフッ化物イオン伝導材料を得た。
【0101】
(サンプル4)
RbFおよびMgF2の粒子の混合比をモル比でRbF:MgF2=70:30とした以外はサンプル2と同様にして、式Rb0.7Mg0.31.3により示される組成を有するフッ化物イオン伝導材料を得た。
【0102】
(サンプル5)
RbFおよびMgF2の粒子の混合比をモル比でRbF:MgF2=60:40とした以外はサンプル2と同様にして、式Rb0.6Mg0.41.4により示される組成を有するフッ化物イオン伝導材料を得た。
【0103】
(サンプル6)
RbFおよびMgF2の粒子の混合比をモル比でRbF:MgF2=50:50とした以外はサンプル2と同様にして、式Rb0.5Mg0.51.5により示される組成を有するフッ化物イオン伝導材料を得た。
【0104】
(サンプル7)
RbFおよびMgF2の粒子の混合比をモル比でRbF:MgF2=40:60とした以外はサンプル2と同様にして、式Rb0.4Mg0.61.6により示される組成を有するフッ化物イオン伝導材料を得た。
【0105】
(サンプル8)
RbFおよびMgF2の粒子の混合比をモル比でRbF:MgF2=30:70とした以外はサンプル2と同様にして、式Rb0.3Mg0.71.7により示される組成を有するフッ化物イオン伝導材料を得た。
【0106】
(サンプル9)
RbFおよびMgF2の粒子の混合比をモル比でRbF:MgF2=20:80とした以外はサンプル2と同様にして、式Rb0.2Mg0.81.8により示される組成を有するフッ化物イオン伝導材料を得た。
【0107】
(サンプル10)
RbFおよびMgF2の粒子の混合比をモル比でRbF:MgF2=10:90とした以外はサンプル2と同様にして、式Rb0.1Mg0.91.9により示される組成を有するフッ化物イオン伝導材料を得た。
【0108】
(サンプル11)
RbFの粒子の代わりにMgF2の粒子を用いた以外はサンプル1と同様にして、式MgF2により示される組成を有する材料を作製した。
【0109】
(フッ化物イオン伝導度の評価)
フッ化物イオン伝導材料の各サンプルにおけるフッ化物イオン伝導度を、以下のように評価した。
【0110】
作製した粒子状のイオン伝導材料から0.20gを秤量した。秤量した材料を、直径10mmの金属製の筒に収容して温度25℃、圧力10MPaで1分間、予備プレスして、円板状(直径10mm)の電解質層52(図2参照)を形成した。次に、形成した電解質層52の双方の主面に、直径10mm、厚さ20μmの金箔53を配置した。次に、金箔53を配置した後の電解質層52を、温度25℃、圧力40MPaで1分間、プレスして、イオン伝導度評価用のセル51を作製した。次に、作製したセル51の双方の金箔53にインピーダンスアナライザを接続し、セル51を140℃に保持した状態で、そのイオン伝導度を測定した。イオン伝導度の測定には、複素インピーダンス法を用いた。
【0111】
表1は、各サンプルのフッ化物イオン伝導度を示す。なお、表1の「平均組成」は、原料配合比から見積もられた組成を示している。
【0112】
【表1】
【0113】
表1に示されるように、ルビジウムとマグネシウムとを含有する複合フッ化物のサンプル2~10のうち、サンプル2~5の伝導度は、RbFのサンプル1およびMgF2のサンプル11のいずれの伝導度よりも、高かった。この結果は、サンプル2~5が、RbF及びMgF2とは異なる組成で表される化合物の相を有していることを示唆している。特に、サンプル2~4の伝導度は、RbFのサンプル1の伝導度の250倍以上であった。
【0114】
(フッ化物イオン伝導材料のXRD分析)
XRD法を用いて、サンプル2~5の相組成を分析した。サンプル2~5のXRDスペクトルは、RbFの標準試料の回折パターンが示すピーク位置および/またはMgF2の標準試料の回折パターンが示すピーク位置に加えて、Rb6Mg618の標準試料の回折パターンが示すピーク位置にも、ピークを示した。この結果は、サンプル2~5が、RbFとMgF2の混合物とは異なる相、具体的には、Rb6Mg618、あるいは、それに類似する結晶構造を有するRb-Mg複合フッ化物の相を含んでいることを示している。
【0115】
本開示のフッ化物イオン伝導材料およびフッ化物イオン二次電池は、上述した各実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形、変更が可能である。例えば、発明を実施するための形態に記載した実施形態に示された技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するため、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本開示のフッ化物イオン伝導体の用途は限定されない。本開示のフッ化物イオン伝導体は、例えば、フッ化物イオン二次電池の電解質に使用できる。本開示のフッ化物イオン二次電池は、充放電可能な二次電池として、種々の用途への応用が期待される。
【符号の説明】
【0117】
1 フッ化物イオン二次電池
2 正極層
3 電解質層
4 負極層
5 正極集電体
6 負極集電体
51 セル
52 電解質層
53 金箔
図1
図2