(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】石英ガラス成型体の製造方法および石英ガラス成型体の製造装置
(51)【国際特許分類】
C03B 20/00 20060101AFI20220913BHJP
C03B 17/04 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
C03B20/00 A
C03B17/04 A
(21)【出願番号】P 2018222950
(22)【出願日】2018-11-29
【審査請求日】2021-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390005083
【氏名又は名称】東ソ-・エスジ-エム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】河野 賢治
(72)【発明者】
【氏名】小田 敏博
(72)【発明者】
【氏名】江頭 英孝
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-097031(JP,A)
【文献】特表2007-533579(JP,A)
【文献】特開2001-342026(JP,A)
【文献】特開2007-031207(JP,A)
【文献】特開2002-068753(JP,A)
【文献】特開2003-002673(JP,A)
【文献】特開平10-287435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
C03B 1/00-17/06
19/00-35/26
40/00-40/04
C03C 1/00-14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラスの原料粉を酸水素火炎で溶融させて、溶融したガラスを溶融部内に堆積させる溶融過程、但し、溶融部内に堆積させた溶融ガラスの一部は溶融部内の側壁と接触し、側壁近傍の溶融ガラスは
、溶融部内の側壁近傍以外の溶融ガラスに比べて流動性が低いか、または流動性を有さない
、と、
溶融部内の側壁近傍以外の溶融ガラスを予備成型部内で流下させて、予備成型部の下流の成型部での流出に適した粘度の溶融ガラスを得る粘度調整過程
、但し、予備成型部での溶融ガラスの流下は外気と遮断した状態で、かつ加熱下で自重により行う
、と、
粘度調整された溶融ガラスを成型部内で流下させ、かつ成型口から流出させる成型過程と
、
流出した石英ガラスの成型部材を冷却部で冷却する冷却過程と、
冷却された石英ガラスの成型部材を切断部で切断して成型体を得る切断過程とを有する、石英ガラス成型体の製造方法
(但し、成型過程において用いられる成型部が成型口内に溶融ガラスの流出方向に突出した変位体が配置されたものである場合を除く)。
【請求項2】
溶融部内の側壁は、外部から加熱されない、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
予備成型部入口近傍の溶融部内の溶融ガラスは、自重により予備成型部に流下する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
予備成型部における溶融ガラスの滞留時間は、溶融ガラスの気泡が消滅するに十分な時間とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
石英ガラス成型体は管状であり、
予備成型部の溶融ガラスが流下する部分は円筒形であり、成型部の水平断面形状はリング状であり、
予備成型部の溶融ガラスの流下する円筒形部分の水平断面形状はリング状であり、
予備成型部のリング状水平断面の内径は、成型部のリング状水平断面の内径より小さく、
予備成型部のリング状水平断面の外径は、成型部のリング状水平断面の外径より大きい、請求項1~
4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
石英ガラス成型体は棒状であり、
予備成型部の溶融ガラスが流下する部分は円筒形であり、成型部の溶融ガラスが流下する部分も円筒形であり、
予備成型部の溶融ガラスが流下する部分の水平断面の径は成型部の水平断面の径より大きい、請求項1~
4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
成型部から流出させた、成型された石英ガラスは、成型形状を維持できる粘度を有する請求項1~
6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
冷却して得た成型体は、冷却部の下流で所定長さ毎に切断して、成型体製品を得る、請求項1~
7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
上部に石英ガラスの原料粉の供給口及び酸水素火炎用バーナーを有し、酸水素火炎で溶融した石英ガラスを堆積させる溶融部内と、
縦方向に溶融ガラスを流下させるための空洞を有し、加熱機能を有する予備成型部と、
溶融ガラスを流下させ、成型するための成型口を有する成型部と、
成型した溶融ガラスを冷却するための冷却部を具備し、
溶融部内の側壁は耐火レンガ製であり、
溶融部内底部と予備成型部頂部とに溶融ガラスを流下させるための連結口を有し、
予備成型部底部と成型部頂部とに溶融ガラスを流下させるための連結口を有する、石英ガラス成型体の製造装置
(但し、成型部が成型口内に溶融ガラスの流出方向に突出した変位体が配置されたものである場合を除く)。
【請求項10】
前記冷却部の下流に冷却した溶融ガラスを切断するための切断部をさらに具備する、請求項
9に記載の製造装置。
【請求項11】
前記溶融部の酸水素火炎と接触し得る面に耐火レンガを敷設した、請求項
9または10に記載の製造装置。
【請求項12】
前記成型部にヒーターを配設し、成型過程における石英ガラスの温度を調節して成型体の形状を制御する、請求項
9~11のいずれか1項に記載の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラス成型体の製造方法および石英ガラス成型体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石英ガラスは、シリカガラスなどともよばれ、古くから活用されてきたガラス素材である。一方、近年の半導体製造技術や光通信技術、さらには画像表示・撮像技術の急激な進展を受け、光学特性や熱的特性、耐薬品性を高い次元で実現する石英ガラスにますます注目が集まっている。これに対して、製造技術の観点からは、高品位の石英ガラス製品を供給することはもとより、より安価で、多品種の生産にも好適に対応することができる技術の開発が望まれている。
【0003】
特許文献1は、るつぼ内部に供給された原料を加熱して溶融ガラスとする第1の加熱手段と、上記第1の加熱手段により形成された溶融ガラスを第1の加熱手段よりも高い温度で加熱する第2の加熱手段と、上記るつぼ内部に設けられた抵抗体(バッフル)と、上記第1、第2の加熱手段による溶融ガラスの加熱温度および滞留時間を制御する制御手段とを具備する石英ガラスの成型装置を開示する。本文献では、これにより、るつぼ内部の温度差を適宜の値に調整可能となり、抵抗体(バッフル)がるつぼ内部に設けられたことにより、上記るつぼ内部での溶融ガラスの滞留時間を延長させることができるとされている。
【0004】
特許文献2では、シリカを所望の形状へと融解するための炉であって、当該炉は融解域と引抜き域とを有する本体を含んでおり、融解域は、非反応性遮断材の実質的に気密な内側ライニングを有する耐火材壁からなる、炉が開示されている。融解域を実質的に気密のレニウム、イリジウム、白金及び/又はオスミウムで内張りした炉は、融液中の耐火金属の含量が格段に低い製品を製造できる等の利点を有するとされている。
【0005】
特許文献3では、特定の構造を有する、石英ガラスシリンダを引き抜くための装置が開示されている。これにより、石英ガラスシリンダの側方の寸法が、汎用の溶融るつぼの内径のサイズオーダにある場合にも、より均質な石英ガラスシリンダを簡単に製造することができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3,637,178号公報
【文献】特表2004-514634号公報
【文献】特許第5,460,707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1および特許文献2のるつぼないし炉(るつぼ等)の加熱は、誘導加熱方式のヒーターによるものである。特許文献3のるつぼの加熱は抵抗加熱方式のヒーターによるものである。このように、従来、石英ガラスの溶融はヒーターでるつぼ等を加熱することにより行われている。石英ガラスの溶融温度は2000℃を超える。そのため、ヒーターによる場合、るつぼ等をその温度あるいはそれ以上の温度に加熱しなければならない。これに耐えうる材料として、るつぼ等に耐火金属が通常用いられる。一方、耐火金属性のるつぼ等を用いるときには、これが劣化することを防ぐために、装置内を水素雰囲気とすることが必要である。耐火金属はそれ自体モリブデンやタングステン等のレアメタルが用いられ安価なものではなく、さらに水素雰囲気下での運転を余儀なくされ、石英ガラスの製造コストを高める大きな要因となっていた。
【0008】
そこで本発明は、石英ガラスの溶融部に耐火金属を用いる必要がなく、そのための水素雰囲気によらずに石英ガラスを溶融して成型することができる石英ガラス成型体の製造方法およびその製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題は以下の手段によって解決することができる。
<1>石英ガラスの原料粉を酸水素火炎で溶融させて、溶融したガラスを溶融部内に堆積させる溶融過程(但し、溶融部内に堆積させた溶融ガラスの一部は溶融部内の側壁と接触し、側壁近傍の溶融ガラスは流動性が低いか、または流動性を有さない)と、
溶融部内の側壁近傍以外の溶融ガラスを予備成型部内で流下させて、予備成型部の下流の成型部での流出に適した粘度の溶融ガラスを得る粘度調整過程(但し、予備成型部での溶融ガラスの流下は外気と遮断した状態で、かつ加熱下で自重により行う)と、
粘度調整された溶融ガラスを成型部内で流下させ、かつ成型口から流出させる成型過程と、次いで、
流出した石英ガラスの成型部材を冷却部で冷却する冷却過程と、
冷却された石英ガラスの成型部材を切断部で切断して成型体を得る切断過程とを有する、石英ガラス成型体の製造方法。
<2>溶融部内の側壁は、外部から加熱されない、<1>に記載の製造方法。
<3>予備成型部入口近傍の溶融部内の溶融ガラスは、自重により予備成型部に流下する、<1>または<2>に記載の製造方法。
<4>予備成型部における溶融ガラスの滞留時間は、溶融ガラスの気泡が消滅するに十分な時間とする、<1>~<3>のいずれか1つに記載の製造方法。
<5>酸水素火炎用の酸素ガス及び水素ガスは高純度品を用いる、<1>~<4>のいずれか1つに記載の製造方法。
<6>石英ガラス成型体は管状であり、
予備成型部の溶融ガラスが流下する部分は円筒形であり、成型部の水平断面形状はリング状であり、
予備成型部の溶融ガラスの流下する円筒形部分の水平断面形状はリング状であり、
予備成型部のリング状水平断面の内径は、成型部のリング状水平断面の内径より小さく、
予備成型部のリング状水平断面の外径は、成型部のリング状水平断面の外径より大きい、<1>~<5>のいずれか1つに記載の製造方法。
<7>石英ガラス成型体は棒状であり、
予備成型部の溶融ガラスが流下する部分は円筒形であり、成型部の溶融ガラスが流下する部分も円筒形であり、
予備成型部の溶融ガラスが流下する部分の水平断面の径は成型部の水平断面の径より大きい、<1>~<5>のいずれか1つに記載の製造方法。
<8>成型部から流出させた、成型された石英ガラスは、成型形状を維持できる粘度を有する<1>~<7>のいずれか1つに記載の製造方法。
<9>冷却して得た成型体は、冷却部の下流で所定長さ毎に切断して、成型体を得る、<1>~<8>のいずれか1つに記載の製造方法。
<10>上部に石英ガラスの原料粉の供給口及び酸水素火炎用バーナーを有し、酸水素火炎で溶融した石英ガラスを堆積させる溶融部と、
縦方向に溶融ガラスを流下させるための空洞を有し、加熱機能を有する予備成型部と、
溶融ガラスを流下させ、成型するための成型口を有する成型部と、
成型した溶融ガラスを冷却するための冷却部を具備し、
溶融部内の側壁は耐火レンガ製であり、
溶融部底部と予備成型部頂部とに溶融ガラスを流下させるための連結口を有し、
予備成型部底部と成型部頂部とに溶融ガラスを流下させるための連結口を有する、石英ガラス成型体の製造装置。
<11>前記冷却部の下流に冷却した溶融ガラスを切断するための切断部をさらに具備する、<10>に記載の製造装置。
<12>前記溶融部の酸水素火炎と接触し得る面に耐火レンガを敷設した、<10>または<11>に記載の製造装置。
<13>前記成型部にヒーターを配設し、成型過程における石英ガラスの温度を調節して成型体の形状を制御する、<10>~<12>のいずれか1つに記載の製造装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、石英ガラスの溶融部に耐火金属を用いる必要がなく、またそのための水素雰囲気によらずに石英ガラスを溶融して成型することができる。さらには、上記の製造工程の改善により、石英ガラスの成型体の製造コストの低減に資する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の好ましい実施形態に係る石英ガラス成型体の製造装置を模式的に示す側断面図である。
【
図2-1】
図1の石英ガラス成型体の製造装置における成形部の周辺を拡大して模式的に示した側断面図である。
【
図2-2】
図2-1のI-I線の矢視断面図である。
【
図2-3】
図2-1のII-II線の矢視断面図である。
【
図3-1】本発明の別の好ましい実施形態に係る石英ガラス成型体の製造装置の成形部周辺を拡大して模式的に示す側断面図である。
【
図3-2】
図3-1のIII-III線の矢視断面図である。
【
図3-3】
図3-1のIV-IV線の矢視断面図である。
【
図4】従来の石英ガラス成型体の製造装置を模式的に示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施形態は図示したものを含めて本発明の例示であって、本発明はこの実施形態に限定される意図ではない。
【0013】
本発明の好ましい実施形態に係る石英ガラス成型体の製造方法は、(1)石英ガラスの原料粉50を酸水素火炎で溶融させて、溶融したガラスを溶融部内10A内に堆積させる溶融過程(但し、溶融部内に堆積させた溶融ガラスの一部51aは溶融部内の側壁と接触し、側壁近傍の溶融ガラス51aは流動性が低いか、または流動性を有さない)と、(2)溶融部内10A内の側壁11近傍以外の溶融ガラス51を予備成型部20内を流下させて、予備成型部20の下流の成型部30での流出に適した粘度の溶融ガラス52を得る粘度調整過程(但し、予備成型部20での溶融ガラス52の流下は外気と遮断した状態で、かつ加熱下で自重により行う)と、(3)粘度調整された溶融ガラス52を成型部30内を流下させ、かつ成型口3から流出させる成型過程と、次いで、(4)流出した石英ガラス54の成型部材を冷却部で冷却する成型過程と、(5)冷却された石英ガラスの成型部材54を切断部で切断して成型体を得る切断過程とを有する。
【0014】
また、本発明の好ましい実施形態に係るガラス成型体の製造装置は、上部に石英ガラスの原料粉50の供給口1a及び酸水素火炎用バーナー1を有し、酸水素火炎で溶融した石英ガラス51を堆積させる溶融部内10Aと、縦方向に溶融ガラス52を流下させるための空洞21を有し、加熱機能を有する予備成型部20と、溶融ガラスを流下させ、成型するための成型口3を有する成型部30と、成型した溶融ガラスを冷却するための冷却部40を具備し、溶融部内10Aの側壁11は耐火レンガ製であり、溶融部内10A底部と予備成型部20頂部とに溶融ガラス52を流下させるための連結口14,24を有し、予備成型部20底部と成型部30頂部とに溶融ガラス52を流下させるための連結口(図中の符号は付していない)を有する。
【0015】
以下、これらの製造過程について、本発明に好適に利用することができる製造装置を模式的に示した図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0016】
(溶融過程-溶融部)
本発明の好ましい実施形態に係る石英ガラスの成型体の製造装置を
図1に示す。
【0017】
本実施形態の溶融過程では石英ガラスの原料粉50を酸素と水素の気流に乗せて供給し、該原料粉を酸水素火炎Fで包むようにして接触させ溶融する。採用することができる石英ガラス材料は特に限定されず、この種の石英ガラスに適用しうるものを適宜採用することができる。天然原料としては、水晶片やけい石の精製粉が挙げられる。例えば、水晶片ラスカを用いることができるが、コストの観点からは石英の微結晶の集合体であるけい石を用いることが好ましい。けい石は十分に選鉱し化学処理することによって精製することが好ましい。鉄やアルカリ金属の濃度は0.1ppm以下とすることが、高品質の石英ガラス成型体とする観点で好ましい。アルミニウムについては、数ppmで含有されていることが一般的である。
【0018】
石英ガラスの原料としては、合成原料を用いることもできる。例えば、シリコンアルコキシドをゾル・ゲル法でガラス粉末とした合成原料が石英ガラス原料として実用化されている。その他にも、水ガラス(ケイ酸アルカリ)をゲル化させ純化した材料や、シリコンを溶融し、噴霧・直接酸化する方法で得た材料などを用いてもよい。
【0019】
本発明においては、石英ガラスの原料粉50に酸水素火炎Fを接触させて加熱溶融し、溶融部10に溶融した石英ガラスを堆積させる(
図1、堆積した石英ガラス51)。このとき本実施形態においては、石英ガラスの原料粉50を水素ガス(H
2)と酸素ガス(O
2)とともにバーナーに供給する。石英ガラスの原料粉50は、原料供給装置70から、原料粉ライン71を通じて送られる。本実施形態において、バーナー1は溶融部10において溶融部内10Aの上部に設けられている。バーナー1の火炎吹き出し口1aからは酸水素火炎Fが吹き付けられる。この火炎吹き出し口1aは原料粉50の供給口も兼ねており、石英ガラスの原料粉50は火炎Fに包み込まれるようにして溶融部の溶融室V内に送られる。
【0020】
酸水素火炎Fを発生させる方法は特に限定されず、常法を用いることができる。酸水素ガスとしては、酸素と水素との体積比率が1:2となるように混合して供給することが好ましい。酸水素火炎F用の酸素ガス及び水素ガスは高純度品を用いることが好ましい。
【0021】
火炎温度は必要以上に高くする必要はなく、後述する耐火レンガの保全性を考慮すると、溶融に必要な程度で低めに設定することが好ましい。かかる観点から、溶融温度は2000℃未満とすることが好ましく、1800~1900℃とすることがより好ましい。
【0022】
本実施形態においては、溶融部10の酸水素火炎Fと接触し得る面に耐火レンガを敷設している。具体的に本実施形態においては、溶融部本体(溶融部内)10Aの内壁11が耐火性のレンガで構成されている。これにより、図示したもののように溶融部の材料として耐火レンガで対応することができ、例えば従来求められていた耐火金属の使用が必須とはならない(ただし、本発明において溶融部における耐火金属の使用を妨げるものではない)。具体的には、2000℃以下の設定で耐火物の材料を選定することができ、けい石レンガ、アルミナ(α,β-アルミナ、β-アルミナ)レンガ、焼成AZS(アルミナージルコニアーシリカ)レンガ、ジルコニアレンガ、AZSC等のクロム含有レンガ、ムライトレンガ、スピネルレンガ、塩基性レンガ等が挙げられる。これらの材料は、コストと耐久性のバランスの観点から選定されることが好ましい。
【0023】
本実施形態の製造方法においては、溶融部内10A内に堆積させた溶融ガラス51の一部51aは溶融部内の側壁11と接触している。これにより、側壁11近傍の溶融ガラス51aは流動性が低いか、または流動性を有さないようにされている。換言すると、溶融部内10Aの側壁11の部分は加熱されていない。このように、溶融された石英ガラスの一部が加熱されていないことが本発明の好ましい実施形態に係る特徴である。つまり、側壁11近傍の溶融ガラス51aが流動性を失うことで、溶融して堆積した石英ガラス51に対して、そのガラス自体が堰となり側壁からの異物の混入を防ぐ効果がある。また、側壁からの加熱を必須としない点は、製造コストの点でも利点につながる。
【0024】
溶融部の基部・外壁12は内壁11ほどは耐熱性を高める必要はなく、よりコストや強度、施工性を重視した材料の耐火物を選定することができる。例えば、高アルミナ材料や一般的な粘土系のレンガ、あるいは耐火モルタル材料(マグネシウム・クロム質モルタル、高アルミナモルタル、粘土質モルタル、アルミナ―ジルコニアモルタル、ジルコン質モルタル、けい石質モルタル等)を選定してもよい。なお、必要により、内壁のレンガを上述したモルタルで結合してもよい。
【0025】
本発明によれば上述のように溶融部に耐火金属を用いることが必須ではなくなるため、耐火金属の酸化を防ぐために溶融部を水素雰囲気下におくことも必要がなくなる。ただし、本発明において溶融部を水素雰囲気とすることを妨げるものではない。
【0026】
本実施形態の装置においては、バーナー1はバーナーステージ15に設置され、溶融室V内に火炎吹き出し口1aを向け、火炎Fを原料粉50とともに同室内に吹き付けることができるようにされている。バーナーステージ15の材料は特に限定されないが、この部分は内壁11ほどは加熱を受けないため、基部・外壁12と同様の材料を適用してもよい。
【0027】
本実施形態の装置では、バーナー1を鉛直方向直上に1機設ける態様として示したが、本発明はこれに限定して解釈されるものではない。例えば、2機以上を面状に配置する態様であってもよい。あるいは、バーナー1を溶融部の側面に複数設けて火炎と原料粉を吹き付ける態様であってもよい。また、本実施形態では酸水素火炎Fと原料粉50とを共通の吹き出し口1aから供給する態様を示したが、これらを別々の供給口から供給しつつ原料粉50が酸水素火炎F中に包まれる態様としてもよい。
【0028】
本実施形態の製造装置において溶融部の溶融部内10Aはその底部に、予備成型部20頂部に溶融ガラスを流下させるための連結口14を有する。他方、予備成型部20は、その頂部に、上記溶融部の連結口14に対応する位置と形で溶融ガラスを流下させるための連結口24を有する。これらの連結口の大きさや形の組合せを好適な条件にすることで、溶融部10から予備成型部20に自重により流入する石英ガラスの量を調節することができる。このように予備成型部20に流通する溶融したガラス52の量を適宜調節することは、製品である成型体の製造品質の管理において重要な点となる。
【0029】
(粘度調整過程-予備成型部)
本実施形態の製造装置においては、溶融部で溶融された溶融ガラスを成型体とする前に、均質化し粘度を調整する目的で予備成型部20を設け流動処理を行っている。予備成型部20で溶融ガラス52を導く部材および機構としては任意のものを用いることができる。例えば一般的な電気炉の構造および材料を適用することができる。
【0030】
予備成型部20での溶融ガラスの流下は外気を遮断した状態で、かつ加熱下で自重により流下させることが好ましい。このようにすることで、還元ガス等を反応器に流通させなくても、石英ガラスの酸化による品質劣化を抑えることができる。上述のとおり、本実施形態においては、予備成型部20入口近傍の溶融部内の溶融ガラスは、自重により予備成型部20に流下するようにされている。予備成型部20における溶融ガラスの滞留時間は、溶融ガラスの気泡が消滅するのに十分な時間とすることが好ましい。本実施形態においては、酸水素火炎Fを用い、これで石英ガラスの粉末50を包み込むようにして溶融させるので、水素の微小な気泡が溶融ガラス52に混入することがある。均質な石英ガラス成型体を得るには、それを予備成型部で消滅させることが好ましい。
【0031】
このような観点から、予備成型部は加熱されることが好ましい。予備成型部における加熱温度は石英ガラスの軟化点約1700℃以上であることが好ましく、1800℃以上であることがより好ましい。上限値としては、設備の制約などから1900℃以下が実際的である。
【0032】
(成型過程-成型部)
図2-1は、
図1に示した製造装置における成型部の周辺を拡大して模式的に示した側断面図である。
図2-2が
図2-1のI-I線の矢視断面図であり、
図2-3が
図2-1のII―II線の矢視断面図である。本実施形態においては、同図に示されたように、予備成型部20と成型部30とが、外側を構成する外壁22,32と内壁23,33とで区画されている。その間には空間21,31が形成され、溶融した石英ガラスが流通する空洞を形成している。予備成型部20の空間21を上記で溶融した石英ガラス52が流通する。その後、溶融された石英ガラス52はその下部にある成型部30の空間31を経由して成型口3に到達し、その形にそって賦形される。これは、換言すると、予備成型部底部と成型部頂部とに溶融ガラスを流下させるための連結口を有する構造といえる。ただし、図示した態様においては特に連結口を符号を付して示してはいないが、予備成型部と成型部とが連続した構造として示している。
【0033】
本実施形態において、予備成型部20の溶融ガラスが流下する空間(空洞)21は外壁22により円筒形とされ、成型部30に行くにつれて、内壁23により、より幅の狭いリング状になるようにされている。具体的な形状と寸法についていうと、予備成型部20の溶融ガラスの流下する円筒形部分の水平断面形状はリング状とされ、その円筒形部分のリング状水平断面の空間内径D3は、成型部のリング状水平断面の空間内径D1より小さくされている。さらに本実施形態においては、予備成型部20の円筒形部分のリング状水平断面の空間外径D4は、成型部のリング状水平断面の空間外径D2より大きい。予備成型部と本成型部とをこのような寸法の関係にすることにより、ガラス管を安定かつ均質に製造しやすく好ましい。
【0034】
図3は、本発明の別の好ましい実施形態として、棒状の成型体を製造する製造装置の成形部の周辺を拡大して模式的に示す側断面図である。
図3-2が
図3-1の予備成型部のIII-III線矢視の断面を模式的に示した断面図であり、
図3-2が
図3-1の成型部のIV-IV線矢視の断面を模式的に示した断面図である。本実施形態においては、予備成型部20の溶融ガラスが流下する部分(空洞)の水平断面の空間径D5は成形部の空間径D6より大きくなるようにされている。このような形態とすることにより、石英ガラスの棒状成型体を安定かつ均質に製造することができる。
【0035】
(冷却過程-冷却部)
本実施形態においては、成形部30を通過した石英ガラスは冷却部40に送られ、そこで冷却される。成型部から流出した石英ガラスの部材は、ここで成型形状を維持できる粘度を有することが好ましい。このようにすることで、安定な生産性を維持しながら所望の形状にした良好な品質の石英ガラス成型部材54を得ることができる。
【0036】
上述のように、成型部30では、予備成型部20の底面に設けられた成型口3から溶融ガラスの部材(成型部材)が自重によって引き出される。引き出された溶融ガラスの成型部材54はシリンダー材8の管の形状とされている。このとき、溶融ガラスの自重のみに頼るのではなく、必要により、ローラー等を設置して引き出すようにしてもよい。すなわち、本発明において自重により流動するとは、自重のみで流動することのほか、外部からの引き出し力や押し出し力を組み合わせて流動することを含む意味である。
【0037】
本実施形態では、冷却部40に送られた成型部材54はその断面形状が成型口3の断面と一致する円形であるが、この部分で円錐台形にすぼまった形態等となってもよいし、棒状のものであってもよい。
【0038】
本実施形態の装置においては、鉛直方向に向けて自重により溶融したガラス管を引き出す態様として示したが、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。例えば、成型部等にヒーターを設置して、成型過程における石英ガラスの管材ないし棒材の温度を調節して中間製品である成型部材や完成品である成型体の形状を制御することが好ましい。棒状のガラス成型体も、上記の加熱による成型体の形状制御の好ましい例として挙げることができる。あるいは、鉛直方向ではなく、これに対して斜めに向けて管材または棒材を引き出す態様としてもよい。鉛直方向または斜めに引き出したのちに、所定の位置で曲げて、例えば水平方向にローラー等で送るようにしてもよい。
【0039】
(製品化過程-切断部)
本実施形態においては、冷却して得た成型部材54が冷却部40の下流の切断部で所定長さ毎に切断され、成型体(製品)を得ることができる。成型部材の切断は公知の方法で実施できる。
【0040】
(従来の製造装置の一例)
図4は従来の製造装置90を模式的に示した断面図である。この従来の装置90では加熱ヒーター92をるつぼ91の周囲に配置し、るつぼ91のほぼ全体が石英ガラスの軟化温度まで上昇するようにされている。そのため、るつぼ91は耐火金属で構成されており、雰囲気ガスとして水素が供給され続けている。石英ガラスの原料粉50はヒーターによる加熱で融解し溶融ガラス52がるつぼ内に満たされている。るつぼの下部にモールド93とマンドレル94の空隙があり、そこを介して管状の溶融ガラス54が自重により引き出されている。これが徐冷され管材となり、切断されてガラス管となる。この方法では水素ガスを供給し続けなければならない。それでも耐火金属の腐食や損傷は避けられず製造コストを上昇させる要因となる。また、成型部(モールド)と溶融部(るつぼ)は分離が容易ではなく、製造設備のメンテナンスは難しくなる。
【符号の説明】
【0041】
10 溶融部
10A 溶融部本体
1 バーナー
1a 火炎吹き出し口兼原料供給口
11 内壁(耐火レンガ)
12 基部・外壁
14 溶融部側連結口
15 バーナーステージ
20 予備成型部
21 予備成型部流動部(空洞)
22 予備成型部の流動部外壁
23 予備成型部の流動部内壁
24 予備成型部側連結口
30 成型部
3 成型口
31 成型部流動部(空洞)
32 成型部の流動部外壁
33 成型部の流動部内壁
40 冷却部
50 石英ガラスの原料粉
51 堆積した石英ガラス
52 溶融して流動する石英ガラス(溶融ガラス)
54 冷却過程における石英ガラス
59 石英ガラスの成型体
70 原料供給装置
71 原料粉ライン
8 シリンダー材
90 従来の装置
91 るつぼ
92 ヒーター
93 モールド
94 マンドレル
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は石英ガラスの成型体(特に管材または棒材)に関連する分野で有用である。石英ガラスの管材や棒材は、各種の半導体デバイスの製造プロセスや光学機器、通信機器等の材料として産業上利用可能である。