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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】凍結乾燥即席スープ類
(51)【国際特許分類】
   A23L 23/10 20160101AFI20220913BHJP
   A23L 29/269 20160101ALI20220913BHJP
   A23L 29/10 20160101ALI20220913BHJP
   A23L 3/44 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
A23L23/10
A23L29/269
A23L29/10
A23L3/44
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018230664
(22)【出願日】2018-12-10
(65)【公開番号】P2020092606
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】715011078
【氏名又は名称】アサヒグループ食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(74)【代理人】
【識別番号】100121474
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 俊之
(72)【発明者】
【氏名】落合 隆晃
(72)【発明者】
【氏名】畝川 和美
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-19733(JP,A)
【文献】特開平9-266778(JP,A)
【文献】特開昭56-32972(JP,A)
【文献】特開2016-131508(JP,A)
【文献】特表2016-527888(JP,A)
【文献】特開2018-170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳タンパク及び澱粉を含有した凍結乾燥即席スープ類であって、
さらにスクシノグリカン及び乳化剤を含有しており、
復元時に100mPa・s以上の粘度を有する凍結乾燥即席スープ類。
【請求項2】
請求項1に記載の凍結乾燥即席スープ類において、
スクシノグリカンの含有量が固形分換算で1.0~5.0重量%である凍結乾燥即席スープ類。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の凍結乾燥即席スープ類において、
乳化剤の含有量が固形分換算でスクシノグリカンの1/3量~3倍量である凍結乾燥即席スープ類。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の凍結乾燥即席スープ類において、
乳化剤のHLB値が4~15である凍結乾燥即席スープ類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結乾燥即席スープ類に関し、詳しくは、乳タンパク及び澱粉を含有し、とろみを有するクリームシチューやポタージュ等の凍結乾燥即席スープ類に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高粘度のスープ類を凍結乾燥させて即席スープ類に加工する場合、お湯で復元させた後の粘度付与のために澱粉や多糖類を配合して元のスープ類が有するようなとろみを付けていた(特許文献1、「特許請求の範囲」等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平07-147943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、澱粉や多糖類を多く配合すると、予備凍結工程における凍結濃縮に伴う凝集作用が原因となって、熱湯での復元時にダマなどの溶け残り(凝集物)が発生し、容易に復元しないという問題があった。
【0005】
特に、クリームシチューやポタージュのようにそれ自体に乳タンパクや澱粉を有しているスープ類にさらに澱粉や多糖類を追加すると、復元時の溶け残りがさらに多くなるため、従来技術の方法によって復元後のとろみ付けを行うことは困難であった。このため、付与できる粘度に限界があり、これがクリームシチューやポタージュ等を凍結乾燥させてインスタント食品化するための障害となっていた。
【0006】
なぜ乳タンパクや澱粉を有していると復元時の溶け残りが多くなるのかについては詳細は不明であるが、乳タンパクについてはその凝集のし易さが、澱粉については予備凍結時におけるβ化が関連していると推測される。
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、乳タンパク及び澱粉を含有し、高粘度でありながら、復元時にダマなどの溶け残りが生じにくく復元性の良好な凍結乾燥即席スープ類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、スクシノグリカンと乳化剤とを配合して凍結乾燥させたものをお湯で復元させると、高粘度でありながら、ダマなどの溶け残り(凝集物)が少なく復元性の良好な凍結乾燥即席スープ類が得られることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものであり、以下の構成を有することを特徴とする。
【0009】
すなわち、本発明の凍結乾燥即席スープ類は、乳タンパク及び澱粉を含有した凍結乾燥即席スープ類であって、さらにスクシノグリカン及び乳化剤を含有しており、復元時に100mPa・s以上の粘度を有する凍結乾燥即席スープ類である。
【0010】
本明細書及び特許請求の範囲において、「スープ類」とは、乳タンパク及び澱粉を含有するスープ類であればよく、クリームシチュー、ポタージュ、チャウダー等が含まれる。
【0011】
本明細書及び特許請求の範囲において、「粘度」とは、B型粘度計を用いて、約60℃、回転速度12rpmで測定したときの粘度をいう。但し、12rpmでは正確な数値を測定できないときはそれ以外の適当な回転速度で測定するものとする。
【0012】
ここで、スクシノグリカンとは、別名アグロバクテリウムスクシノグリカンともいい、微生物アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)が産生する菌体外多糖類であり、それを回収・精製して生産される分子量100万程度の多糖類である。スクシノグリカンは、主鎖に4糖、側鎖に4糖の繰り返しユニットから構成されており、側鎖にコハク酸とピルビン酸を含む。その構成比率は、グルコース:ガラクトース:コハク酸:ピルビン酸が約7:1:1:1である。
【0013】
本発明の好適な実施態様の一つとして、スクシノグリカンの含有量は固形分換算で1.0~5.0重量%であることが好ましい。これにより、乳タンパク及び澱粉を含有した凍結乾燥即席スープ類について、復元時の粘度が100mPa・s以上でありながら、溶け残りの少ない凍結乾燥即席スープ類を容易に得ることができる。
【0014】
また、本発明の好適な実施態様の一つとして、乳化剤の含有量は固形分換算でスクシノグリカンの1/3量~3倍量であることが好ましい。これにより、乳タンパク及び澱粉を含有した凍結乾燥即席スープ類について、復元時の粘度が100mPa・s以上でありながら、溶け残りの少ない凍結乾燥即席スープ類をさらに容易に得ることができる。
【0015】
さらに、本発明の好適な実施態様の一つとして、乳化剤のHLB値が4~15であることが好ましい。これにより、乳タンパク及び澱粉を含有した凍結乾燥即席スープ類について、復元時の粘度が100mPa・s以上でありながら、溶け残りの少ない凍結乾燥即席スープ類をさらに容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、乳タンパク及び澱粉を含有し、高粘度でありながら、復元時にダマなどの溶け残りが生じにくく、復元性の良好な凍結乾燥即席スープ類を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】試験1の結果をグラフに表したものである。
図2】試験2の結果をグラフに表したものである。
図3】試験3の結果をグラフに表したものである。
図4】試験4の結果をグラフに表したものである。
図5】試験5の結果をグラフに表したものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
本発明に係る「スープ類」は、前述のとおり、乳タンパク及び澱粉を含有するスープ類であればよく、具体的には、クリームシチュー、ポタージュ、チャウダー等を例示することができる。本発明の課題に照らせば、とろみを有する高粘度のスープ類であることが好ましい。具材の有無については問わない。
【0020】
乳タンパクは、通常、牛乳や生クリーム等の乳製品を原材料に使用することで配合される。また、澱粉は、小麦粉や馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、片栗粉、タピオカ澱粉等を原材料に使用することで配合される。このような乳タンパク及び澱粉を含有するスープ類の典型例の一つがクリームシチューである。
【0021】
本発明が適用されるスープ類は、常法によって製造すればよい。重要な点は、凍結乾燥工程(具体的にはその前の予備凍結工程)に移行する前のいずれかの段階でスクシノグリカンと乳化剤とをスープ類に配合する点である。スクシノグリカンと乳化剤とを配合する時点及び手順は特に限定されない。常に両者を同時に配合する必要はなく、別々に添加してもよい。
【0022】
配合したスクシノグリカン及び乳化剤はスープベース中に均一に溶解分散させる。スクシノグリカン及び乳化剤を予め油中に分散させておいたり、他の粉末原料と予め混合しておくと均一に分散させやすい。スクシノグリカンを完全に水和させるには、スープベースを80℃以上に加熱することが好ましい。
【0023】
スクシノグリカンの配合割合は、固形分換算で1.0~5.0重量%となるようにすることが好ましく、より好ましくは1.0~3.0重量%、さらに好ましくは1.0~2.0重量%である。スクシノグリカンの配合割合が上記範囲にある場合は、高粘度でありながら復元時の溶け残りが少ない凍結乾燥即席スープ類を容易に得ることができる。
【0024】
乳化剤の配合割合は、固形分換算でスクシノグリカンの1/3量~3倍量とすることが好ましく、より好ましくは半量~2倍量である(いずれもスクシノグリカンに対する重量比)。乳化剤の配合割合が上記範囲にある場合は、高粘度でありながら復元時の溶け残りが少ない凍結乾燥即席スープ類を容易に得ることができる。
【0025】
乳化剤としては、食品添加物として許認可されたものであれば適宜のものを使用することができる。例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル(シュガーエステル)、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ダイズや卵黄等のレシチン、サポニン、カゼインナトリウム等である。
【0026】
乳化剤のHLB値は4~15が好ましく、より好ましくは5~12である。乳化剤のHLB値が上記範囲にあると、本発明の目的をより容易に達成することができる。
【0027】
スクシノグリカン及び乳化剤を添加したスープベースは、凍結乾燥前に予備凍結工程にて完全に凍結させる。そして、完全に凍結させたスープベースを常法により減圧(真空)下で水分(氷)を昇華させて凍結乾燥させる。なお、予備凍結させるに当たっては、予めスープベースを一食分のトレーに分注し、それを予備凍結させると、凍結乾燥後の製品を一食分のサイズに製造することができる。凍結乾燥後の製品はブロック状の塊をなしている。
【0028】
以上のようにして得られた凍結乾燥即席スープ類は、お湯をかけて復元させると、十分なとろみがあり、また、ダマなどの溶け残りも少ないため、復元性も良好である。このため、高粘度のスープ類を手軽に得ることができ、利便性が高い。
【0029】
後述するとおり、本発明によれば、復元時の粘度が100mPa・s以上の凍結乾燥即席スープ類が得られる。また、復元時の粘度が200mPa・s以上のものや300mPa・s以上のもの、或は500mPa・s以上のもの、さらには1000mPa・s以上のものや2000~2500mPa・sといった高粘度の凍結乾燥即席スープ類を得ることができる。
【実施例
【0030】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、以下の実施例はあくまで一例であり、本発明は以下のものに限定されるものではない。
なお、以下においては、特に断らない限り、%は重量%を表す。また、表関係は明細書の末尾に纏めて記載する。
【0031】
《試験1》
試験1では、スクシノグリカンの含有量と復元後の粘度及び残渣量(溶け残り量)との関係を調べた。以下、試験1について説明する。
【0032】
(1-1)各試験例の製造
試験1に用いた試験例は、試験例1-1A~1-7A及び試験例1-1B~1-7Bである。
このうち、試験例1-1A~1-7Aは、表1に記載の基本配合にさらにスクシノグリカンを配合した凍結乾燥即席クリームシチューである。各試験例へのスクシノグリカンの配合割合は表2に記載のとおりである。
他方、試験例1-1B~1-7Bは、表1に記載の基本配合にさらにスクシノグリカン及び乳化剤を配合した凍結乾燥即席クリームシチューである。ここでは、乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステル(太陽化学株式会社製 サンソフトQ-175S HLB値4.5)を使用した。各試験例へのスクシノグリカン及び乳化剤の配合割合は表2に記載のとおりである。
【0033】
なお、表1に記載の各原材料の配合割合は、凍結乾燥前のスープベースについて重量部で表したものであり、表2に記載のスクシノグリカン及び乳化剤の配合割合は固形分換算した値(重量%)である。
以下では、スクシノグリカン又は乳化剤の配合割合を「(スクシノグリカン又は乳化剤の)濃度」ともいう。
【0034】
試験例1-1A~1-7A及び試験例1-1B~1-7Bの具体的な製造工程は以下のとおりである。
まず、ニーダーにバターを投入し、50℃以下の温度でバターが完全に溶けるまで加熱撹拌した。
次いで、小麦粉を投入するとともに、スクシノグリカン及び乳化剤(試験例1-1A~1-7Aについてはスクシノグリカンのみ)を加えて、50℃以下の温度で各原材料が均一になるように加熱撹拌した。
次いで、牛乳を投入し、80℃以下の温度で加熱撹拌した。
牛乳投入後、70℃程度になったら、顆粒コンソメ、白コショウ粉末、オニオンエキスパウダー、酸化防止剤(ビタミンE)を配合し、さらに加熱撹拌しつつ、85℃に達温した段階で加熱を停止した。
【0035】
以上のようにして得られたスープベースを個食用トレーに分注し(一食当たり110g)、それをトレーごと冷凍庫に入れて予備凍結させた。
全体が完全に固まったら、凍結乾燥釜に入れて常法により凍結乾燥させた。
以上のようにして、試験例1-1A~1-7A及び試験例1-1B~1-7Bを製造した。
【0036】
なお、以下では、試験例1-1A~1-7Aを「A区」、試験例1-1B~1-7Bを「B区」ともいう。A区はスクシノグリカンのみを配合したもの、B区はスクシノグリカン及び乳化剤を配合したものである。
【0037】
(1-2)各試験例の復元後の「粘度」及び「残渣量」
以上のようにして得られた試験例1-1A~1-7A及び試験例1-1B~1-7Bについて、復元後の「粘度」及び「残渣量」を測定した。
【0038】
ここで、「粘度」は、B型粘度計(BROOKFIELD社製 本体:DV-Eデジタル粘度計 スピンドル:標準スピンドルセットLV用)を用いて、約60℃、回転速度12rpmで測定した。但し、12rpmでは正確な数値を測定できないときはそれ以外の適当な回転速度で測定した。具体的には、試験例1-5A~1-7A及び試験例1-5B~1-7Bについては100rpm、試験例1-1Bについては50rpmで測定した。
【0039】
具体的な粘度の測定方法は以下のとおりである。
各試験例をお湯で復元し、スターラーで3分間撹拌してから、18メッシュの篩で篩過し(18メッシュパス)、篩過した液体200mlをトールビーカーに集めて、5分後にその粘度を測定した(単位mPa・s)。
【0040】
また、復元後の「残渣量」については、上記のようにして粘度を測定した際に18メッシュの篩の上に残ったもの(18メッシュオン)の重量で示した(単位g)。
【0041】
(1-3)結果
試験例1-1A~1-7A及び試験例1-1B~1-7Bの復元後の「粘度」及び「残渣量」の測定結果は表2のとおりである。
また、表2に示された測定結果をグラフに表すと、図1のとおりである。
なお、表2の「回転速度」欄に記載されている「s62」はB型粘度計のスピンドルの種類を表す(以下、同様)。
【0042】
表2及び図1に示すとおり、スクシノグリカンの含有割合が固形分換算で1.0~5.0重量%の範囲にある場合は、スクシノグリカンのみを含有したA区よりも、スクシノグリカン及び乳化剤を含有したB区の方が高粘度であった。
また、復元後の残渣量についても、スクシノグリカンの含有割合が固形分換算で1.0~5.0重量%の範囲にある場合は、スクシノグリカンのみを含有したA区よりも、スクシノグリカン及び乳化剤を含有したB区の方が少なかった。
【0043】
さらに、スクシノグリカン及び乳化剤を含有し、かつ、スクシノグリカンの含有割合が固形分換算で1.0~5.0重量%の範囲にある場合は、復元後に約500~2200mPa・sという高粘度を実現することができた。
【0044】
なお、試験例1-1Bの粘度が極端に小さいのは、スクシノグリカンの増粘効果が強過ぎてゲル状の大きな凝集物が形成され、それと液体の部分とが分離して液体の部分の粘度が却って低下したためである。
【0045】
《試験2》
次に、試験2では、配合する乳化剤のHLB値が復元後の粘度及び残渣量にどのように影響するかを調べた。以下、試験2について説明する。
【0046】
(2-1)各試験例の製造
試験2に用いた試験例2-1~2-10は、表1に記載の基本配合にさらにスクシノグリカン及び乳化剤を配合した凍結乾燥即席クリームシチューである。各試験例に配合した乳化剤の製品名、乳化剤の種類及びHLB値については表3に記載のとおりである。
ここで、製品名S-370、S-570、S-1170、S-1570及びP-1670はいずれも三菱ケミカルフーズ株式会社製のシュガーエステルであり、製品名サンソフトQ-1710S、サンソフトQ-175S、サンソフトQ-18D及びサンソフトQ-12Sはいずれも太陽化学株式会社製のポリグリセリン脂肪酸エステルである。また、製品名サンソフトNo.623Mは太陽化学株式会社製の有機酸モノグリセリドである。
なお、試験例2-1~2-10におけるスクシノグリカン及び乳化剤の配合割合はいずれも固形分換算で2.0重量%である。
【0047】
試験例2-1~2-10の製造工程は試験1と同様である。
【0048】
(2-2)各試験例の復元後の「粘度」及び「残渣量」
以上のようにして得られた試験例2-1~2-10について、復元後の「粘度」及び「残渣量」を測定した。「粘度」の意味及び測定方法、並びに「残渣量」の測定方法は試験1と同様である。
【0049】
(2-3)結果
試験例2-1~2-10の復元後の「粘度」及び「残渣量」の測定結果は表3に示すとおりである。
また、表3に示された測定結果をグラフに表すと、図2のとおりである。
なお、図2中、「ポリグリエステル」とはポリグリセリン脂肪酸エステルを意味する(以下、同様)。
【0050】
表3及び図2に示すとおり、復元後の粘度はHLB値が高くなると僅かに低下した。但し、いずれの場合も700mPa・s以上という高粘度であった。
【0051】
他方、復元後の残渣量については、乳化剤のHLB値が4~15の範囲にあれば残渣量が比較的少なく、特に5~15の範囲にある場合が少なく、とりわけ5~12の範囲にある場合が少なかった。
【0052】
《試験3》
次に、試験3では、乳化剤の含有量が復元後の粘度及び残渣量にどのように影響するかを調べた。以下、試験3について説明する。
【0053】
(3-1)各試験例の製造
試験3に用いた試験例3-1~3-17(並びに試験例1-3A及び試験例2-5)は、表1に記載の基本配合にさらにスクシノグリカン及び乳化剤を配合した凍結乾燥即席クリームシチューである。各試験例における乳化剤の配合割合、乳化剤の種類及びHLB値は表4に記載のとおりである。また、各試験例におけるスクシノグリカンの配合割合は固形分換算で2.0重量%である。
【0054】
各試験例で使用した乳化剤の製品名は以下のとおりである。
・試験例3-1~3-8及び試験例1-3Aで使用したポリグリセリン脂肪酸エステル
太陽化学株式会社製 サンソフトQ-175S
・試験例3-9~3-15で使用したシュガーエステル
三菱ケミカルフーズ株式会社製 リョートーシュガーエステルS-570
・試験例3-16,3-17及び試験例2-5で使用したポリグリセリン脂肪酸エステル
太陽化学株式会社製 サンソフトQ-18D
【0055】
試験例3-1~3-17の製造工程は試験1と同様である。
【0056】
(3-2)各試験例の復元後の「粘度」及び「残渣量」
各試験例について、復元後の「粘度」及び「残渣量」を測定した。「粘度」の意味及び測定方法、並びに「残渣量」の測定方法は試験1と同様である。
【0057】
(3-3)結果
各試験例の復元後の「粘度」及び「残渣量」の測定結果は表4のとおりである。
また、表4に示された測定結果をグラフに表すと、図3のとおりである。
【0058】
表4及び図3に示すとおり、乳化剤の含有量が固形分換算でスクシノグリカンの含有量(2.0重量%)の1/3量~3倍量に相当する0.67~6.0重量%の範囲にある場合は残渣量が比較的少なく、また粘度も高く、とりわけ乳化剤の含有量が固形分換算でスクシノグリカンの含有量の半量~2倍量に相当する1.0~4.0重量%の範囲にある場合が残渣量も少なく、粘度も高かった。
【0059】
《試験4》
次に、試験4では、スクシノグリカンを使用した場合の効果と、それに代わる別の増粘多糖類としてキサンタンガムを使用した場合の効果とを比較した。ここでは、スクシノグリカン又はキサンタンガムをそれぞれ使用した凍結乾燥即席クリームシチューを作成し、それらの復元後の粘度及び残渣量を調べた。
【0060】
具体的には、表1の基本配合をベースに、(1)スクシノグリカンのみを配合したもの(乳化剤なし)、(2)スクシノグリカン及びシュガーエステルを配合したもの、(3)スクシノグリカン及びポリグリセリン脂肪酸エステル(ポリグリエステル)を配合したものを作成し、他方で、スクシノグリカンに代えてキサンタンガムを使用したもの、つまり、(1’)キサンタンガムのみを配合したもの(乳化剤なし)、(2’)キサンタンガム及びシュガーエステルを配合したもの、(3’)キサンタンガム及びポリグリセリン脂肪酸エステル(ポリグリエステル)を配合したものを作成して比較した。
上記いずれの場合においても、スクシノグリカン及びキサンタンガムの配合量は固形分換算で1.3重量%、乳化剤の配合量は固形分換算で1.4重量%である。
【0061】
各試験例の製造工程は試験1と同様である。また、「粘度」の意味及び測定方法、並びに「残渣量」の測定方法についても試験1と同様である。
【0062】
各試験例の復元後の「粘度」及び「残渣量」の測定結果は図4に示すとおりである。
同じ配合量の場合、スクシノグリカンを配合したものの方がキサンタンガムを配合したものよりも粘度が高かった。
他方、復元後の残渣量については、乳化剤を配合しない場合を除いて、乳化剤を配合したものについては、スクシノグリカンとキサンタンガムとで格別大きな差はなかった。
【0063】
したがって、同じ配合量であれば、スクシノグリカンの方がキサンタンガムよりも同程度の残渣量で高粘度を達成できるといえる。
逆にいえば、スクシノグリカンを配合したものと同程度の粘度を達成するべくキサンタンガムの配合量を増やすと、復元後の残渣量が増えることになると考えられる。
このため、同程度の粘度を得たい場合は、キサンタンガムよりもスクシノグリカンの方が残渣(溶け残り)が少ない点で好ましいといえる。
【0064】
《試験5》
試験5では、クリームシチューに代えて、乳タンパク及び澱粉を含有したマッシュルームスープについて、スクシノグリカン、キサンタンガム及び乳化剤を配合した場合の効果について試験した。
【0065】
試験5で使用したマッシュルームスープの基本配合及び試験例5-0~5-5の概要は表5及び6に記載のとおりである。
なお、表5に記載の各原材料の配合割合は、凍結乾燥前のスープベースについて重量部で表したものであり、表6に記載のスクシノグリカン、キサンタンガム及び乳化剤の各配合割合(2.60%)は固形分換算した値(重量%)である。
また、表5中、下の3つの原材料(馬鈴薯澱粉1重量部、加工澱粉0.5重量部、水4部)は、それら以外の原材料を加熱混合した後、投入するものであり、表6中の「後添加の澱粉類」とは、このうちの「馬鈴薯澱粉1重量部」及び「加工澱粉0.5重量部」を指している。
【0066】
試験例5-0~5-5の復元後の「粘度」及び「残渣量」は表7に示すとおりであり、図5はそれをグラフに表したものである(表7及び図5では、試験例5-0と5-5、試験例5-1と5-2、試験例5-3と5-4とをそれぞれ対比しやすいように並べ替えている点に注意されたい)。
なお、「粘度」の意味及び測定方法並びに「残渣量」の測定方法については試験1と同様である。また、表7の「回転速度」欄に記載されている「s61」はB型粘度計のスピンドルの種類を表す。
【0067】
試験結果について予め注意しておきたい点は、本試験で使用したマッシュルームスープにはもともと原材料としてマッシュルームダイスが含まれているため、これが残渣測定の際の目開き18メッシュの篩上に残るということである。
【0068】
この点に留意しつつ試験結果をみると、試験5-0では、目視確認する限り、篩に残るもののほとんどがマッシュルームダイスであり、その意味では、残渣(澱粉や乳タンパク等に由来する溶け残りという意味での残渣)がほとんど生じない配合であった。但し、試験5-0においても、上記の意味での残渣が全く生じないというわけではなく、黒色のマッシュルームダイスのほかに澱粉等の溶け残りと思しき白色の凝集物が少し生じていた。
【0069】
しかし、試験5-0は粘度が低いため(37.5mPa・s)、これを高粘度化するために増粘多糖類(スクシノグリカン又はキサンタンガム)を配合すると、上記の意味での残渣が多く生じることになった(試験5-1~5-4)。この点は目視によっても確認することができ、黒色のマッシュルームダイスのほかに澱粉等の溶け残りと思しき白色の凝集物の量が明らかに増えていた。
【0070】
しかし、その場合でも、乳化剤を配合することにより残渣量が低減することが確認できた(試験5-2及び試験5-4)。
また、増粘多糖類を使用する場合は併せて乳化剤を使用する方が粘度が高くなり、特にスクシノグリカン及び乳化剤を配合した試験例5-2では顕著に粘度が高かった(300mPa・s以上)。
【0071】
そして、このような効果はキサンタンガム及び乳化剤によっては得られないものであった。この点でも、スクシノグリカン及び乳化剤を配合することによって得られる効果は他の増粘剤や増粘多糖類によっては得られないものであることが分かる。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
【表6】
【0078】
【表7】
図1
図2
図3
図4
図5