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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 5/00 20060101AFI20220913BHJP
   B60C 19/12 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
B60C5/00 F
B60C19/12 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018235704
(22)【出願日】2018-12-17
(65)【公開番号】P2020097289
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】石原 大雅
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-043643(JP,A)
【文献】特開2018-158714(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025853(WO,A1)
【文献】特開2017-154543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/00
B60C 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ内面に、吸音材がシーラント層を介して配置され、
前記吸音材は、不織布からなる2層以上の吸音層が積層されてなり、
前記吸音材は、10μm~2mmの厚さを有する前記吸音層が、10~200層積層されてなり、
前記吸音材は、該吸音材の幅方向に延びる、1つ以上の切り込みを有し、
前記1つ以上の切り込みは、前記吸音材の内面からタイヤ外面側に向かって延びることを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記タイヤは、トレッド部を有し、
前記吸音材は、少なくとも一部が、前記トレッド部のタイヤ径方向内側に配置されてなる、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記1つ以上の切り込みは、前記吸音材の内面からタイヤ外面側に向かって延び、前記吸音材内で終端する、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記吸音材は、該吸音材の内面に、該吸音材の幅方向に延びる1つ以上のくせ付け部を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記吸音材は、前記吸音層内の面内の結合量に比して、前記吸音層の層間の結合量が小さい、請求項1~4のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤでは、走行時に発生する騒音を低減して静粛性を向上させるために、空気入りタイヤの内面に吸音材を配置することが行われている。また、空気入りタイヤの内面には、パンク時に空気入りタイヤの裂傷に流し込んで裂傷を封止するために、適度な流動性を有するシーラント層を配置することも行われている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-20479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の空気入りタイヤでは、シール性能が所期するよりも十分に発揮されない場合があった。
【0005】
そこで、本発明は、走行時の静粛性を向上させつつ、シーラント層によるパンク時のシール性能を向上させた、空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨構成は、以下の通りである。
本発明の空気入りタイヤは、
タイヤ内面に、吸音材がシーラント層を介して配置され、
前記吸音材は、不織布からなる2層以上の吸音層が積層されてなることを特徴とする。
本発明の空気入りタイヤによれば、走行時の静粛性を向上させつつ、シーラント層によるパンク時のシール性能を向上させることができる。
【0007】
本発明の空気入りタイヤでは、
前記タイヤは、トレッド部を有し、
前記吸音材は、少なくとも一部が、前記トレッド部のタイヤ径方向内側に配置されてなることが好ましい。
この構成によれば、走行時の静粛性をより向上させることができる。
【0008】
本発明の空気入りタイヤでは、前記吸音材は、10μm~2mmの厚さを有する前記吸音層が、10~200層積層されてなることが好ましい。
上記の範囲とすることにより、タイヤの過度の重量増を招くことなく、走行時の静粛性をさらに向上させることができる。
ここで、吸音層の厚さは、空気入りタイヤを適用リムから取り外して、吸音層の積層方向に測定した厚さとする。
【0009】
本発明の空気入りタイヤでは、
前記吸音材は、該吸音材の幅方向に延びる、1つ以上の切り込みを有し、
前記1つ以上の切り込みは、前記吸音材の内面からタイヤ外面側に向かって延びることが好ましい。
この構成によれば、吸音材にしわが発生するのを抑制することができる。
【0010】
本発明の空気入りタイヤでは、
前記1つ以上の切り込みは、前記吸音材の内面からタイヤ外面側に向かって延び、前記吸音材内で終端することが好ましい。
この構成によれば、吸音材にしわが発生するのを有効に抑制することができる。
【0011】
本発明の空気入りタイヤでは、
前記吸音材は、該吸音材の内側の表面に、該吸音材の幅方向に延びる1つ以上のくせ付け部を有することも好ましい。
この構成によっても、吸音材にしわが発生するのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、走行時の静粛性を向上させつつ、シーラント層によるパンク時のシール性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態にかかる空気入りタイヤのタイヤ幅方向断面図である。
図2】本発明の空気入りタイヤの不織布に好適に用いられる繊維の断面図である。
図3A】従来の1層の不織布からなる吸音材を示す模式平面図である。
図3B】本発明の一実施形態にかかる空気入りタイヤに用いられる、不織布からなる2層以上の吸音層が積層された吸音材を示す模式断面図である。
図4A】本発明に用いる切り込みを有する吸音材の例を、タイヤ内腔側から見た平面図である。
図4B】本発明に用いる切り込みを有する吸音材の例を、タイヤ内腔側から見た平面図である。
図4C】本発明に用いる切り込みを有する吸音材の例を、タイヤ内腔側から見た平面図である。
図4D】本発明に用いる切り込みを有する吸音材の例を、タイヤ内腔側から見た平面図である。
図4E】本発明に用いる切り込みを有する吸音材の例を、タイヤ内腔側から見た平面図である。
図4F】本発明に用いる切り込みを有する吸音材の例を、タイヤ内腔側から見た平面図である。
図4G】本発明に用いる切り込みを有する吸音材の例を、タイヤ内腔側から見た平面図である。
図5A】本発明に用いる切り込みを有する吸音材の例を示す断面図である。
図5B】本発明に用いる切り込みを有する吸音材の例を示す断面図である。
図5C】本発明に用いる切り込みを有する吸音材の例を示す断面図である。
図5D】本発明に用いる切り込みを有する吸音材の例を示す断面図である。
図5E】本発明に用いる切り込みを有する吸音材の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に例示説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態にかかる空気入りタイヤのタイヤ幅方向断面図である。
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤ(以下、単にタイヤとも称する)1は、一対のビード部2と、該ビード部に連なる一対のサイドウォール部と、該サイドウォール部に連なるトレッド部5とを有している。また、タイヤ1は、一対のビード部2に埋設されたビードコア2aにトロイダル状に跨るカーカス3のクラウン部のタイヤ径方向外側に、ベルト4とトレッドゴムとを順に備えている。
【0016】
図1に示すように、本実施形態においては、ビードコア2aのタイヤ径方向外側に、図示例で断面略三角形状のビードフィラ2bをさらに備えている。一方で、本発明では、ビード部2の構成は、特に限定されるものではなく、ビードコア2aやビードフィラ2bの断面形状、大きさ、材質は任意の既知のものとすることができる。また、ビードコア2aやビードフィラ2bを有しない構成とすることもできる。
【0017】
また、本実施形態では、カーカス3は、有機繊維からなる1枚のカーカスプライで構成されているが、本発明では、カーカス3を構成するカーカスプライの枚数や材質も特に限定されない。
【0018】
また、本実施形態では、ベルト4は、層間でコード(この例ではスチールコード)が互いに交差する、2層のベルト層4a、4bからなるが、本発明では、ベルト構造は特に限定されず、コードの材質等、打ち込み数、傾斜角度、ベルト層数等、任意の構成とすることができる。
また、トレッド部5のゴムの材質等も、任意の既知の構成とすることができる。
【0019】
ここで、図1に示すように、本実施形態のタイヤ1は、タイヤ内面6(本実施形態では、タイヤ内面にインナーライナー7が配置されているため、インナーライナー7のさらに内面)に、吸音材8がシーラント層12を介して配置されている。
【0020】
ここで、シーラント層12を構成するシーラント剤は、任意の既知の材料を用いることができる。例えば、-20~60℃の温度範囲において流動性を有するものとすることができる。シーラント剤は、該シーラント成分100質量部に対して、ポリブテンを30~50質量部含むことが好ましい。また、シーラント剤には、粘着性やシール性能をより高めるために、ポリブテンに未加硫のブチルゴムを配合することも好ましい。この場合、ブチルゴムとポリブテンとの配合比率は40:60~60:40の範囲とすることが好ましい。また、粘性や加工性を調整するために、ポリブテンに、例えば白色充填剤、酸化亜鉛などを添加しても良い。
シーラント層12の厚さは、特には限定しないが、例えば3~10mmとすることができる。シーラント層12の幅は、特には限定しないが、シーラント層12と吸音層8との接着性等を考慮して、吸音層8の幅より大きくすることが好ましい。また、パンクする可能性の高い領域にシーラント層12を配置する観点から、シーラント層12は、トレッド部5の少なくとも一部(好ましくは全部)の内面、及び、必要に応じてサイドウォール部の少なくとも一部の内面に配置することが好ましい。
なお、本実施形態では、シーラント層12は、その粘着性によりタイヤ内面6に粘着されて設けられている。なお、この例では、シーラント層12は、タイヤ周上、タイヤ周方向に沿って連続して設けられている。
【0021】
本実施形態では、吸音材8は、シーラント層12(該シーラント層のタイヤ径方向内側の表面)に、この例ではシーラント層12の粘着力により貼り付けられている。
本実施形態では、吸音材8は、少なくとも一部(図示例では全部)が、トレッド部5のタイヤ径方向内側に配置されている。なお、この例では、吸音材8は、タイヤ周上に、タイヤ周方向に沿って連続して設けられている。
図1に示すように、吸音材8は、不織布からなる2層以上(図示例では10層)の吸音層8a~8jが、図示例ではタイヤ径方向に積層されてなる。
本実施形態において、吸音層8a~8jの各々の厚さは、10μm~2mm(この例では、0.1mm以上0.4mm以下)である。
【0022】
ここで、吸音材8(吸音層8a~8j)に用いる不織布の繊維は、有機繊維又は無機繊維を用いることができる。有機繊維の例としては、レーヨンやポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリベンゾイミダゾール、ポリフェニレンサルファイド、ポリビニルアルコール、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド(アラミド)、芳香族ポリイミド等が挙げられる。また、無機繊維の例としては、炭素繊維やフッ素繊維、ガラス繊維、金属繊維等が挙げられる。なお、異なる種類の繊維を2種以上混合して用いることもできる。
また、不織布を構成する繊維の長さや径は、任意に設定することができる。特には限定されないが、繊維の径は、例えば100nm~200μmとすることができる。
また、不織布の目付けは、10g/m2~300g/m2であることが好ましい。目付けを10g/m2以上とすることにより、繊維をより均一にすることができ、一方で、300g/m2とすることにより、吸音材8を設けたことによる過度の重量増を招かないようにすることができる。
【0023】
図2は、本発明の空気入りタイヤの不織布に好適に用いられる繊維の断面図である。
本発明では、吸音材(吸音層)に用いる不織布の繊維は、断面円形の芯(図2では芯9)と、当該芯の外周に配置され、芯を構成する材料よりも融点の低い材料で構成された、断面環状の鞘(図2では鞘10)とからなることが好ましい。具体的には、例えば、芯がポリプロピレンからなり、鞘がポリエチレンからなることが好ましい。この場合、鞘が芯よりも融点が低いので、芯と鞘とを熱溶着により固着させることができる。また、この場合、芯と鞘とをほぼ同一体積とすることが好ましい。特には限定されないが、繊維の芯の径は、例えば45nm~95μmとすることができ、繊維全体の径は、例えば100nm~200μmとすることができる。
【0024】
本発明において、不織布は、例えば、熱溶着、カーディング法、抄紙法、エアレイ法、メルトブロー、スパンボンド法、水流絡合法、ニードルパンチ法等により、ウェブを作製することで製造することができる。
本発明では、特に、厚さ10μm~2mmのウェブを、熱を加えながら、所望の層数となるまで折り返して、熱溶着により各層を融着させることが好ましい。
【0025】
ここで、本実施形態では、タイヤ内面にインナーライナー7が配置されているため、シーラント層12は、加硫成型時のブラダーの膨張により、粘着性を有するインナーライナー7に押着されて、シーラント層12自体の粘着性も相まって、そのままインナーライナー7に固着される。
【0026】
本発明においては、吸音層8a~8j間の積層は、上記のように熱溶着により行うことが好ましいが、その際に層間にホットメルト接着剤を介在させることもできる。
【0027】
以下、本実施形態の空気入りタイヤの作用効果について説明する。
まず、本実施形態では、タイヤ内面6(この例では、インナーライナー7の内面)に、(シーラント層12を介して)吸音材8が配置されているため、タイヤ内腔で生じた空洞共鳴に伴う充填気体の振動エネルギーを、吸音材8の内部で内部振動エネルギーに変換して、熱エネルギーとして消費させることができ、これにより空洞共鳴音を低減することができる。
ここで、本発明者は、タイヤ内面6に、シーラント層12を介して吸音材8が配置した構成においては、タイヤのパンク時に、シーラント剤の一部が吸音材8(の孔)の方へと流入して、裂傷への流動性が低下することが、シール性能が所期するよりも十分に発揮されない原因となることを突き止めた。また、本発明者は、パンク時に、釘等により吸音材8が破損した場合に、その破損した箇所にシーラント剤が流入し易くなってしまうことも突き止めた。
そこで、本実施形態の空気入りタイヤでは、吸音材8(各吸音層)を不織布で構成している。本実施形態のように、吸音材8として不織布を用いた場合、スポンジを用いた場合と比較して、吸音材8とシーラント層12との接触面積が減少するため、シーラント剤の吸音材8(の孔)への流入量を低減して、シーラント剤の裂傷への流動性が低下してしまうのを抑制することができる。
ここで、図3Aは、従来の1層の不織布からなる吸音材を示す模式平面図である。図3Bは、本発明の一実施形態にかかる空気入りタイヤに用いられる、不織布からなる2層以上の吸音層が積層された吸音材を示す模式断面図である。
ここで、通常、不織布は、図3Aに模式的に示すように、その繊維が各方向にランダムに配向している。これに対し、本実施形態においては、吸音材8は、不織布からなる2層以上(図示例では10層)の吸音層8a~8jが、図1の例ではタイヤ径方向に積層されてなり、吸音層8a~8jの各々の厚さは、2mm以下である。このため、本実施形態で用いている吸音材8は、例えば吸音層8a~8jの積層厚さ(厚さの合計)と同じ厚さを有する1層の吸音材と比べて、図3Bに繊維の結合が層の界面で切断されている様子を模式的に示すように、吸音層の積層方向(図1の例ではタイヤ径方向)の繊維間の結合が層間の界面により切断されることにより少なくなる一方で、層内での繊維間の結合は保つことができる。なお、図3Bにおいて、紙面左右方向に延びる各直線は、各吸音層を模式的に示し、紙面上下方向にジグザグ状に延びる各線は、各吸音層間を結合している繊維を模式的に示している。
これにより、空気入りタイヤに釘等が刺さった場合であっても、釘等の引き抜きに対しての抗力を保つことができ、釘等の引き抜きによる破損を抑制することができ、シーラント剤が吸音体8の破損箇所へ流入するのを抑制して、空気入りタイヤの裂傷への流動性を向上させることができる。
また、走行時、特に高速走行時に、吸音材8に大きな遠心力がかかった場合であっても、吸音層の積層方向(図1の例ではタイヤ径方向)の繊維間の結合が少ないため、吸音材8が変形した状態が熱によって吸音層の積層方向(図1の例ではタイヤ径方向)の繊維間の結合により固まって固定されるのを抑制することができる。これにより、吸音材8に大きな遠心力がかかって、吸音材8の体積が減少するように変形した場合であっても、吸音材8の体積を早期に復元させて、吸音材8による吸音効果を有効に発揮させて、走行時の静粛性を向上させることができる。
このように、本実施形態の空気入りタイヤによれば、シーラント層によるパンク時のシール性能を向上させることができる。また、本実施形態の空気入りタイヤによれば、走行時の静粛性も向上させることができる。
【0028】
本発明の空気入りタイヤでは、吸音材は、少なくとも一部が、トレッド部のタイヤ径方向内側に配置されていることが好ましい。
上記配置の場合に大きな遠心力がかかりやすいが、このような場合に、吸音材の体積を効果的に復元させて、走行時の静粛性をより有効に向上させることができるからである。
【0029】
本発明の空気入りタイヤでは、吸音材は、10μm~2mmの厚さを有する吸音層が、10~200層積層されてなることが好ましい。
それぞれの吸音層の厚さを2mm以下とすることにより、吸音層の積層方向の繊維間の結合をより少なくして吸音材の復元力をより高めることができ、それを10層以上積層することで吸音材の体積を確保して、これにより、走行時の静粛性をさらに向上させることができるからである。また、製造上の観点から、それぞれの吸音層の厚さは、10μm以上とすることが好ましく、上記の範囲の厚さの吸音層を200層以下積層することにより、タイヤの過度の重量増を招かないようにすることができるからである。
よって、上記の範囲とすることにより、タイヤの過度の重量増を招くことなく、走行時の静粛性をさらに向上させることができる。
同様の理由により、本発明では、吸音材は、50μm~500μmの厚さを有する吸音層が、20~100層積層されてなることがより好ましく、100μm~400μmの厚さを有する吸音層が、30~80層積層されてなることがさらに好ましい。
【0030】
本発明の空気入りタイヤでは、吸音材は、吸音層内の面内の結合量に比して、吸音層の層間の結合量が小さいことが好ましい。上記の吸音材に大きな遠心力がかかった場合であっても、吸音層の積層方向(図1の例ではタイヤ径方向)の繊維間の結合が少ないため、吸音材が変形した状態が熱によって吸音層の積層方向(図1の例ではタイヤ径方向)の繊維間の結合により固まって固定されるのを抑制する効果をより効果的に得ることができるからである。
例えば、吸音材における該吸音材の幅方向の単位幅当たりの繊維の接触面積Swに比して、吸音材における該吸音層の積層方向の(上記幅方向の単位幅に等しい)単位長さ当たりの繊維の接触面積Srが小さいことが好ましい。
【0031】
図4A図4Gは、それぞれ、本発明に用いる切り込みを有する吸音材の例を、タイヤ内腔側から見た平面図である。これらの例では、吸音材は、1つ以上の切り込みを有している。
【0032】
特に、図4A図4Eに示す例では、吸音材8は、該吸音材8の幅方向(周方向に直交する方向)(図1の例ではタイヤ幅方向)に延びる、1つ以上の切り込み11を有している。
図4Aに示す例では、吸音材8は、図示の範囲で3本の切り込み11を有しており、各切り込み11は、吸音材8の幅方向の一端から他端まで該吸音材8の幅方向(図1の例ではタイヤ幅方向)に沿って延びている。
図4Bに示す例では、吸音材8は、図示の範囲で3本の切り込み11を有しており、各切り込み11は、吸音材8の幅方向の一端から該吸音材8の幅方向(図1の例ではタイヤ幅方向)に沿って延びて、該吸音材8内で(図示例では吸音材8の幅方向中心付近で)終端している。
図4Cに示す例では、吸音材8は、図示の範囲で3本の切り込み11を有しており、各切り込み11は、該吸音材8の幅方向(図1の例ではタイヤ幅方向)に沿って延びて、その両端が該吸音材8内で終端している。
図4Dに示す例では、吸音材8は、図示の範囲で3本の切り込み11を有しており、切り込み11は、吸音材8の幅方向の一端から該吸音材8の幅方向(図1の例ではタイヤ幅方向)一方側に該幅方向に沿って延びて、該吸音材8内で(図示例では吸音材8の幅方向中心を横切って)終端する、第1の切り込みと、吸音材8の幅方向の他端から該吸音材8の幅方向(図1の例ではタイヤ幅方向)他方側に該幅方向に沿って延びて、該吸音材8内で(図示例では吸音材8の幅方向中心を横切って)終端する、第2の切り込みとが、周方向(図1の例ではタイヤ周方向)に交互に配置されている。図示例では、第1の切り込み及び第2の切り込みは、周方向に投影した際に重なるように幅方向に延在しているが、第1の切り込み及び第2の切り込みは、周方向に投影した際に互いに重ならないように構成することもできる。
図4Eに示す例では、吸音材8は、図示の範囲で4本の切り込み11を有しており、2本の切り込み11は、吸音材8の幅方向の一端から該吸音材8の幅方向(図1の例ではタイヤ幅方向)一方側に向かって該幅方向に対して傾斜して延びて該吸音材8内で(図示例では吸音材8の幅方向中心を横切ることなく)終端している、第3の切り込みであり、他の2本の切り込み11は、吸音材8の幅方向の他端から該吸音材8の幅方向(図1の例ではタイヤ幅方向)他方側に向かって該幅方向に対して傾斜して延びて該吸音材8内で(図示例では吸音材8の幅方向中心を横切ることなく)終端している、第4の切り込みである。図示例では、第3の切り込み及び第4の切り込みは、周方向(図1の例ではタイヤ周方向)に投影した際に重ならないように幅方向に延在しているが、第3の切り込み及び第4の切り込みは、周方向に投影した際に互いに重なるように構成することもできる。
【0033】
図4Fに示す例では、吸音材8は、図示の範囲で2本の切り込み11を有しており、各切り込み11は、タイヤ周上にタイヤ周方向に沿って連続して延びている。なお、図4Fに示す例では、切り込み11は、タイヤ周方向に対して傾斜せずに延びているが、タイヤ周方向に対して傾斜して延びるものとすることもできる。
【0034】
図4Gに示す例では、吸音材8は、図示の範囲で8つの小穴である切り込み11を有している。なお、図4A図4Bにおいて、直線状の切り込み11に換えて、当該直線に沿って配列された複数の小穴とすることもできる。
【0035】
図5A図5Eは、それぞれ、本発明に用いる切り込みを有する吸音材の例を示す断面図である。
図5A図5Eに示すように、1つ以上の切り込みは、吸音材の内面からタイヤ外面側に向かって延びている。
【0036】
図5Aに示す例では、図示の範囲で4本の切り込み11が、吸音材の内面からタイヤ外面側に向かって吸音層の積層方向(図1の例ではタイヤ径方向)に対して傾斜せずに延び、吸音材8内で(図示例では、吸音材8の厚さ方向の中心付近で)終端している。
図5Bに示す例では、図示の範囲で4本の切り込み11が、吸音材の内面からタイヤ外面側に向かって屈曲して延びて、吸音材8内で終端している。図示例では、屈曲箇所は1箇所であるが2箇所以上とすることもできる。
図5Cに示す例では、図示の範囲で3本の切り込み11が、吸音材の内面からタイヤ外面側に向かって吸音層の積層方向(図1の例ではタイヤ径方向)に対して傾斜して延びて、吸音材8内で終端している。
図4A図4F及びその変形例のいずれの場合についても、切り込み11の延在方向に直交する方向の断面形状を、例えば、図5A図5Cのいずれか又はその変形例に対応した形状とすることができる。
【0037】
図5Dに示す例では、小穴である切り込み11が、吸音材の内面からタイヤ外面側に向かって延び、吸音材8内で終端しており、その断面形状は略半円状である。
図5Eに示す例では、小穴である切り込み11が、吸音材の内面からタイヤ外面側に向かって延び、吸音材8内で終端しており、その断面形状は、吸音材の内面からタイヤ外面側に向かって幅が大きくなる三角形状である。
図4G及びその変形例のいずれでも、切り込み11の延在方向に直交する方向の断面形状を、例えば、図5D図5Eのいずれか又はその変形例に対応した形状とすることができる。
【0038】
本発明では、図4A図4E及び図5A図5Cに示したように、吸音材は、該吸音材の幅方向に延びる、1つ以上の切り込みを有し、該1つ以上の切り込みは、吸音材の内面からタイヤ外面側に向かって延びることが好ましい。切り込みにより吸音材での変形を吸収して、吸音材にしわが発生するのを抑制することができるからである。
【0039】
本発明では、図5A図5Eに示したように、1つ以上の切り込みは、吸音材の内面からタイヤ外面側に向かって延び、吸音材内で終端することが好ましい。吸音材自体の変形を抑制して、吸音材にしわが発生するのを有効に抑制することができるからである。
【0040】
本発明では、吸音材は、該吸音材の内面に、該吸音材の幅方向に延びる1つ以上のくせ付け部を有することも好ましい。この場合も、吸音材にしわが発生するのを抑制することができるからである。なお、くせ付け部の位置等は、例えば、切り込みの場合について図4A図4Eに示したのと同様にすることができる。
【0041】
上記の切り込み及びくせ付け部は、特には限定されないが、例えばブレード(刃のない金属板も含む)等で形成することができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、吸音材の幅方向の幅や厚さなどは、適宜変更することができる。また、上記の例では、吸音材は、タイヤ周上に連続して設けられているものとしたが、タイヤ周上の1箇所以上に設けることができ、例えば、断続的に設けられたものとすることもできる。この場合、タイヤ周上のいずれか一箇所において、吸音材が、不織布からなる2層以上の吸音層が積層されてなれば、上記の作用効果を得ることができる。また、吸音材を幅方向(図1の例ではタイヤ幅方向)に複数個分けて設けることもできる。この場合も、幅方向に複数個に分けたいずれか一箇所において、吸音材が、不織布からなる2層以上の吸音層が積層されてなれば、上記の作用効果を得ることができる。あるいは、1つの吸音材について、幅方向の一部においてのみ、不織布からなる2層以上の吸音層が積層されても、上記の作用効果を得ることができる。なお、この場合、当該一部と他の部分とは接着層等により接着することができる。
切り込み又はくせ付け部を設ける場合、切り込み、くせ付け部の本数等は、適宜変更することができる。また、切り込み、くせ付け部の平面形状等は、図4A図4Gに示した例には限定されず、延在方向及び延在長さと共に適宜変更することができる。また、切り込みの断面形状も、図5A図5Eに示した例には限定されず、延在方向及び延在長さと共に適宜変更することができる。
また、シーラント層12と吸音体8とは、その一部の領域が接着層を介して接着されていても良い。
【符号の説明】
【0043】
1:空気入りタイヤ
2:ビード部
2a:ビードコア
2b:ビードフィラ
3:カーカス
4:ベルト
5:トレッド部
6:タイヤ内面
7:インナーライナー
8:吸音材(不織布)
8a~8j:吸音層(不織布)
9:芯
10:鞘
11:切り込み
12:シーラント層
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E