(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】プレス機械
(51)【国際特許分類】
B30B 15/18 20060101AFI20220913BHJP
B30B 15/00 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
B30B15/18 A
B30B15/00 B
(21)【出願番号】P 2019159557
(22)【出願日】2019-09-02
【審査請求日】2021-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000100861
【氏名又は名称】アイダエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】河野 泰幸
(72)【発明者】
【氏名】岩村 竜昇
【審査官】山本 裕太
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-220429(JP,A)
【文献】特開平10-291095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 15/18
B30B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライド
を、該スライドの上死点と下死点との間で往復駆動する液圧シリンダと、
正逆回転することにより前記液圧シリンダに作動液を供給し、又は前記液圧シリンダから作動液を吸引する複数の液圧ポンプ/モータであって、前記複数の液圧ポンプ/モータの第1ポートが、前記スライドを正方向に駆動する前記液圧シリンダの第1加圧室にそれぞれ接続された複数の液圧ポンプ/モータと、
前記複数の液圧ポンプ/モータの回転軸にそれぞれ軸接続された複数のサーボモータと、
0.3MPa以上の一定圧を有する第1圧力源であって、前記複数の液圧ポンプ/モータの第2ポートがそれぞれ接続された第1圧力源と、
1MPa以上の一定圧を有する第2圧力源であって、前記スライドを負方向に駆動する前記液圧シリンダの第2加圧室に接続された第2圧力源と、
前記スライドのスライド位置指令信号を出力するスライド位置指令器と、
前記スライドの位置を検出し、スライド位置信号を出力するスライド位置検出器と、
前記スライド位置指令信号及び前記スライド位置信号に基づいて前記スライドの位置が前記スライド位置指令信号に対応する位置になるように前記複数のサーボモータを制御するスライド位置制御器と、
を備えたプレス機械。
【請求項2】
前記複数のサーボモータの各サーボモータの回転軸とその回転軸に連動する回転体の慣性モーメントは、それぞれ1kgm
2以下であることを特徴とする請求項1に記載のプレス機械。
【請求項3】
前記スライド位置指令器から出力される前記スライド位置指令信号は、その時間微分信号が滑らかに連続することを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス機械。
【請求項4】
前記スライド位置指令器から出力される前記スライド位置指令信号は、正弦波状又はクランク曲線状に変化することを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス機械。
【請求項5】
前記スライド位置指令器は、前記スライドの1分間当たりのストローク数が100回以上となる前記スライド位置指令信号を出力することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のプレス機械。
【請求項6】
前記スライド位置指令器は、前記スライドの上死点から下死点までのストローク量が50mm以下となる前記スライド位置指令信号を出力することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のプレス機械。
【請求項7】
前記複数のサーボモータの回転角速度をそれぞれ検出する複数の角速度検出器を備え、 前記スライド位置制御器は、前記複数の角速度検出器によってそれぞれ検出される角速度信号を、角速度フィードバック信号として使用する安定化制御器を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のプレス機械。
【請求項8】
前記スライド位置制御器は、前記スライド位置指令信号を入力信号とするフィードフォワード補償器を含み、前記フィードフォワード補償器により演算されるフィードフォワード補償量を、前記スライド位置指令信号及び前記スライド位置信号に基づいて演算した前記複数のサーボモータのトルク指令信号に作用させることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のプレス機械。
【請求項9】
前記フィードフォワード補償器は、位相進ませ補償要素により前記フィードフォワード補償量を演算することを特徴とする請求項8に記載のプレス機械。
【請求項10】
前記位相進ませ補償要素は、sをラプラス演算子、T
ωa及びT
ωbをそれぞれ定数とすると、(1+T
ωb・s)/(1+T
ωa・s)で表され、前記定数T
ωa及びT
ωbは、前記スライドの1分間当たりストローク数、及び前記スライドの上死点から下死点までのストローク量に応じて設定されることを特徴とする請求項9に記載のプレス機械。
【請求項11】
前記フィードフォワード補償器は、微分要素及び比例要素により前記フィードフォワード補償量を演算することを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載のプレス機械。
【請求項12】
前記スライドを駆動する液圧シリンダは複数本並設され、
前記複数の液圧ポンプ/モータ及び前記複数のサーボモータは、それぞれの液圧シリンダ毎に設けられることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載のプレス機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレス機械に係り、特に1分間当たりのスライドのストローク数(SPM:Shots Per Minute)が100回以上の高速のプレス機械に関する。
【背景技術】
【0002】
IC(Integrated Circuit)のリードフレームや精密端子等、比較的薄物の精密量産部品を100~500SPM程度と比較的高SPMで生産する場合は、従来、ほぼ高速化に特化した機械式のプレス機械が担っていた。
【0003】
この種のプレス機械は、高速回転下において、クランク軸等のアンバランスな慣性力によるプレス機械の振れを抑制する動バランス保持機構やクランク軸と同軸受間に回転角度により、むらの無い極小隙間を維持する特殊軸受機構等、高SPMを維持する為の特殊機構を多く含んで構成されている。その分コスト高になる。また、製品(の高さ)に応じて、スライドのストローク量を変更することは、上記機構の複雑さにより、困難であった。
【0004】
一方、特許文献1及び2には、それぞれ液圧シリンダを備えた液圧駆動装置及び高速プレス機械が記載されている。
【0005】
特許文献1に記載の液圧駆動装置は、サーボモータにより駆動される液圧ポンプの一方のポートと液圧シリンダの一方の圧力室とが接続され、液圧ポンプの他方のポートとタンクとが接続され、また、液圧シリンダの他方の圧力室にはアキュムレータが接続されている。この液圧駆動装置は、サーボモータ及びアキュムレータにより4象限動作が可能になっている。
【0006】
特許文献2に記載の高速プレス機械は、プレスシリンダのラムを小径の補助シリンダのロッドに接続し、プレスシリンダが無負荷の時には、補助シリンダによって高速でラムを前進後退させる。また、プレスシリンダのラムが加圧動作に入ると、プレスシリンダの加圧室と補助シリンダの加圧室とを連通させ、低速大推力の加圧を行う。尚、補助シリンダの一方側の加圧室と他方側の加圧室には、2方向に作動流体を吐出可能なポンプの一方のポートと他方のポートとがそれぞれ接続され、ポンプの回転軸には正逆回転可能なサーボモータが接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表平10-505891号公報
【文献】特開2002-178200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
機械式のプレス機械に対して、油圧シリンダを使用した油圧式のプレス機械は、プレス機械を横方向に押す荷重が作用しない直動式のため、スライドの振れ量が少なく、精密な成形に適するが、高SPM運転は不得手である。
【0009】
特許文献1には、サーボモータにより駆動される液圧ポンプにより液圧シリンダを制御する記載があるが、高SPMでスライドを位置制御する記載はない。また、特許文献1に記載の液圧駆動装置は、サーボモータにより駆動される液圧ポンプが1つであり、1つの液圧ポンプにより液圧シリンダを高SPMで運転することは現実的ではない。
【0010】
特許文献2に記載の高速プレス機械は、小径の補助シリンダのロッドをプレスシリンダのラムに接続し、プレスシリンダが無負荷の時には、補助シリンダによって高速でラムを前進後退させるものであり、質量が大きいラムが接続される場合には、1つのポンプにより駆動される小径の補助シリンダでは、ラムを高速で前進後退させることはできない。また、特許文献2に記載の高速プレス機械は、プレスシリンダが無負荷の時に高速でラムを前進後退させるものであり、プレスシリンダのラムが加圧動作に入ると、ラムは低速(大推力)に変化する。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、高SPM運転時にスライドの振れ量が少なく、安価なプレス機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明の一の態様に係るプレス機械は、スライドを駆動する液圧シリンダと、正逆回転することにより前記液圧シリンダに作動液を供給し、又は前記液圧シリンダから作動液を吸引する複数の液圧ポンプ/モータであって、前記複数の液圧ポンプ/モータの第1ポートが、前記スライドを正方向に駆動する前記液圧シリンダの第1加圧室にそれぞれ接続された複数の液圧ポンプ/モータと、前記複数の液圧ポンプ/モータの回転軸にそれぞれ軸接続された複数のサーボモータと、0.3MPa以上の一定圧を有する第1圧力源であって、前記複数の液圧ポンプ/モータの第2ポートがそれぞれ接続された第1圧力源と、1MPa以上の一定圧を有する第2圧力源であって、前記スライドを負方向に駆動する前記液圧シリンダの第2加圧室に接続された第2圧力源と、前記スライドのスライド位置指令信号を出力するスライド位置指令器と、前記スライドの位置を検出し、スライド位置信号を出力するスライド位置検出器と、前記スライド位置指令信号及び前記スライド位置信号に基づいて前記スライドの位置が前記スライド位置指令信号に対応する位置になるように前記複数のサーボモータを制御するスライド位置制御器と、を備える。
【0013】
本発明の一の態様によれば、複数のサーボモータにそれぞれ軸接続された複数の液圧ポンプ/モータの第1ポートを、液圧シリンダの第1加圧室にそれぞれ接続(並列に接続)することで、プレス機械の高SPM運転及び加圧能力の調整(大/小させること)が可能である。また、各サーボモータの回転軸とその回転軸に連動する回転体の慣性モーメントを小さくすることができ、液圧ポンプ/モータ+サーボモータの回転軸の角速度応答性を高くすることができ、更にサーボモータの回転軸とその回転軸に連動する回転体を加速させるための駆動トルクを小さくすることができ、サーボモータが発生する駆動トルクを有効にプレス荷重発生用に使用することができる。
【0014】
また、液圧ポンプ/モータの正逆回転する際、第1圧力源及び第2圧力源の圧力が常時0.3MPa以上確保されている為、キャビテーション(作動液の吸い込み不良)を伴うこと無く安定して機能し、液圧シリンダの第1加圧室及び第2加圧室は作動液により常時満たされ、機械式のプレス機械で発生するような隙間は運転中0である。
【0015】
更に、液圧シリンダによりスライドを駆動するプレス機械であり、単純な構造に伴い低コストの高速プレスを構成することが可能であり、また、製品高さに応じてストローク量を可変させることができる。また、直動式のプレス機械であるため、プレス機械を横方向に押す荷重が作用せず、これにより高SPM運転時にスライドの振れ量が少なく、精密な成形に適する。
【0016】
また、スライド位置指令信号に対してスライド位置を追従させるべくスライド位置を制御すると、スライド位置信号はスライド位置指令にほぼ線形に追従する。この傾向は、スライドを高SPMで駆動させるスライド位置指令信号に対しても維持される。
【0017】
本発明の他の態様に係るプレス機械において、前記複数のサーボモータの各サーボモータの回転軸とその回転軸に連動する回転体の慣性モーメントは、それぞれ1kgm2以下であることが好ましい。慣性モーメントを1kgm2以下にすることで、液圧ポンプ/モータ+サーボモータの回転軸の角速度応答性を高くすることができ、更にサーボモータの回転軸とその回転軸に連動する回転体を加速させるための駆動トルクを小さくすることができるため、その分、サーボモータが発生する駆動トルクを有効にプレス荷重発生用に使用することができる。
【0018】
本発明の更に他の態様に係るプレス機械において、前記スライド位置指令器から出力される前記スライド位置指令信号は、その時間微分信号が滑らかに連続することが好ましい。スライド位置指令信号の時間微分信号が滑らかに連続するため、時間微分信号に対して位相進ませ補償を有効に作用させることが可能になる。
【0019】
本発明の更に他の態様に係るプレス機械において、前記スライド位置指令器から出力される前記スライド位置指令信号は、正弦波状又はクランク曲線状に変化することが好ましい。
【0020】
本発明の更に他の態様に係るプレス機械において、前記スライド位置指令器は、前記スライドの1分間当たりのストローク数が100回以上となる前記スライド位置指令信号を出力することが好ましい。これにより、スライドを高SPM運転することができる。
【0021】
本発明の更に他の態様に係るプレス機械において、前記スライド位置指令器は、前記スライドの上死点から下死点までのストローク量が50mm以下となる前記スライド位置指令信号を出力することが好ましい。50mm以下のストローク量により、高SPM効果を有効に発揮することができる。理由は、その程度のストローク量の場合、SPMは(比較的液圧駆動が不得手である)最大スライド速度に依存せず、スライド速度の応答性に依存するからである。
【0022】
本発明の更に他の態様に係るプレス機械において、前記複数のサーボモータの回転角速度をそれぞれ検出する複数の角速度検出器を備え、前記スライド位置制御器は、前記複数の角速度検出器によってそれぞれ検出される角速度信号を、角速度フィードバック信号として使用する安定化制御器を含むことが好ましい。安定化制御器は、スライド位置指令信号からスライド位置信号に至るスライド位置制御系の一巡伝達関数(オープンループ)の位相遅れを改善し、位置制御機能を安定化させる役割を担う。
【0023】
本発明の更に他の態様に係るプレス機械において、前記スライド位置制御器は、前記スライド位置指令信号を入力信号とするフィードフォワード補償器を含み、前記フィードフォワード補償器により演算されるフィードフォワード補償量を、前記スライド位置指令信号及び前記スライド位置信号に基づいて演算した前記複数のサーボモータのトルク指令信号に作用させることが好ましい。フィードフォワード補償器は、スライド速度指令信号(スライド位置指令信号の微分を意味する信号)に対するスライド速度信号の位相遅れ量を補償する。
【0024】
本発明の更に他の態様に係るプレス機械において、前記フィードフォワード補償器は、位相進ませ補償要素により前記フィードフォワード補償量を演算することが好ましい。
【0025】
本発明の更に他の態様に係るプレス機械において、前記位相進ませ補償要素は、sをラプラス演算子、Tωa及びTωbをそれぞれ定数とすると、(1+Tωb・s)/(1+Tωa・s)で表され、前記定数Tωa及びTωbは、前記スライドの1分間当たりのストローク数、及び前記スライドの上死点から下死点までのストローク量に応じて設定されることを特徴とする。位相進ませ補償要素は、スライド位置制御系(クローズドループ)が高SPM化するにつれ、スライド位置指令信号からスライド位置信号に至る位相が変化する(位相遅れ)作用を補償する。位相進ませ補償要素の定数Tωa及びTωbは、スライドのストローク数とストローク量に応じて設定されることが好ましい。
【0026】
本発明の更に他の態様に係るプレス機械において、前記フィードフォワード補償器は、微分要素及び比例要素により前記フィードフォワード補償量を演算することが好ましい。微分要素及び比例要素によりスライド位置指令信号からスライド位置信号に至る位相遅れとゲインの変化を補償する。
【0027】
本発明の更に他の態様に係るプレス機械において、前記スライドを駆動する液圧シリンダは複数本並設され、前記複数の液圧ポンプ/モータ及び前記複数のサーボモータは、それぞれの液圧シリンダ毎に設けられることが好ましい。これにより、サイズ及び質量が大きなスライドであっても、スライドを水平に維持しながら高SPM運転することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、液圧シリンダによりスライドを駆動する直動式のプレス機械であるため、高SPM運転時にスライドの振れ量が少なく、精密なプレス成形に適する。また、機械式の高速のプレス機械に比べて安価なプレス機械とすることができ、更に製品高さに応じてストローク量を容易に可変させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、本発明に係るプレス機械の第1実施形態を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に示したスライド位置制御器の詳細な構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、スライドのストローク量(20mm)、ストローク数(20SPM)、無負荷の条件で、正弦波状のスライド位置指令信号にスライド位置を追従させるべく運転した場合の、経過時間に対するスライド位置指令信号及びスライド位置信号を示す波形図である。
【
図4】
図4は、スライドのストローク量(20mm)、ストローク数(200SPM)、無負荷の条件で、正弦波状のスライド位置指令信号にスライド位置を追従させるべく運転した場合の、経過時間に対するスライド位置指令信号及びスライド位置信号を示す波形図である。
【
図5】
図5は、スライドのストローク量(20mm)、ストローク数(200SPM)、無負荷の条件で、正弦波状のスライド位置指令信号にスライド位置を追従させるべく運転した場合であって、フィードフォワード補償器の第2比例要素の可変比例定数Khvを、Khv=0.81に設定した場合の、経過時間に対するスライド位置指令信号とスライド位置信号を示す波形図である。
【
図6】
図6は、スライドのストローク量(20mm)、ストローク数(200SPM)、無負荷の条件で、正弦波状のスライド位置指令信号にスライド位置を追従させるべく運転した場合であって、フィードフォワード補償器の位相進ませ補償要素の定数T
ωa、T
ωbをT
ωa=0.0296、T
ωb=0.0769、第2比例要素168の可変比例定数KhvをKhv=0.608に設定した場合の、経過時間に対するスライド位置指令信号及びスライド位置信号を示す波形図である。
【
図7】
図7は、スライドのストローク量(20mm)、ストローク数(200SPM)、最大加圧能力の10%負荷の条件で、正弦波状のスライド位置指令信号にスライド位置を追従させるべく運転した場合であって、フィードフォワード補償器の位相進ませ補償要素の定数T
ωa、T
ωbをT
ωa=0.0296、T
ωb=0.0769、第2比例要素の可変比例定数KhvをKhv=0.608に設定した場合の、経過時間に対するスライド位置指令信号、スライド位置信号、及びプレス荷重を示す波形図である。
【
図8】
図8は、第5実験と同じ条件で運転し、下死点のスライド位置指令信号を補正した場合の、経過時間に対するスライド位置指令信号、スライド位置信号、及びプレス荷重を示す波形図である。
【
図9】
図9は、第1実施形態のプレス機械により制御可能なスライドのストローク量とストローク数(SPM)との関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、スライドのストローク量(5mm)、ストローク数(450SPM)、無負荷の条件で運転した場合のスライド位置指令信号及びスライド位置を示す波形図である。
【
図11】
図11は、本発明に係るプレス機械の第2実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下添付図面に従って本発明に係るプレス機械の好ましい実施形態について詳説する。
【0031】
[第1実施形態]
図1は、本発明に係るプレス機械の第1実施形態を示す図である。
【0032】
図1に示す第1実施形態のプレス機械1は、コラム10、ベッド12、及びクラウン(フレーム上部強度部材)14によりフレームが構成され、コラム10に設けられたガイド部16によりスライド20が上下方向(鉛直方向)に移動自在に案内されている。
【0033】
クラウン14には、スライド20を駆動する液圧シリンダ(油圧シリンダ)30が固定され、油圧シリンダ30のピストンロッド30Cがスライド20に連結されている。
【0034】
油圧シリンダ30を駆動する油圧装置として、複数の液圧ポンプ/モータ(本例では、5基の油圧ポンプ/モータ(P/M1~P/M5))が設けられ、各油圧ポンプ/モータ(P/M1~P/M5)の回転軸には、それぞれ複数のサーボモータ(本例では、5基のサーボモータ(SM1~SM5))が軸接続されている。
【0035】
5基の油圧ポンプ/モータ(P/M1~P/M5)の一方のポート(第1ポート)は、それぞれ配管40を通じて油圧シリンダ30の一方の加圧室(第1加圧室)30Aに接続され、5基の油圧ポンプ/モータ(P/M1~P/M5)の他方のポート(第2ポート)は、それぞれ配管42を通じて、0.3MPa以上の一定圧(略一定圧)を有する第1圧力源(以降「低圧アキュムレータ」という)50に接続されている。
【0036】
また、油圧シリンダ30の他方の加圧室(第2加圧室)30Bには、配管44を通じて、1MPa以上の一定圧(略一定圧)を有する第2圧力源(以降「高圧アキュムレータ」という)60が接続されている。
【0037】
ここで、油圧シリンダ30の加圧室30A側の配管40に対して、複数(5基)の油圧ポンプ/モータ(P/M1~P/M5)を並列に接続し、各油圧ポンプ/モータ(P/M1~P/M5)の回転軸にサーボモータ(SM1~SM5)の回転軸を軸接続した理由は、各サーボモータの回転軸とその回転軸に連動する回転体の慣性モーメントを小さくし、油圧ポンプ/モータ+サーボモータの回転軸の角速度応答性を高くし、また、サーボモータの回転軸とその回転軸に連動する回転体を加速させるための駆動トルクを小さくし、その分、サーボモータが発生する駆動トルクを有効にプレス荷重発生用に使用するためである。油圧ポンプ/モータ+サーボモータの一基分の慣性モーメントは、1kgm2以下であることが好ましい。
【0038】
尚、油圧シリンダ30の加圧室30A側の配管40及び加圧室B側の配管44にはそれぞれ開閉弁46、48が設けられている。これらの開閉弁46、48は、プレス機械1を運転する場合には全開とされる。
【0039】
油圧シリンダ30の加圧室30Aは、スライド20を正方向(鉛直下方向)に駆動する場合に、各油圧ポンプ/モータ(P/M1~P/M5)から作動液(作動油)が供給される加圧室であり、油圧シリンダ30の加圧室30Bは、スライド20を負方向(鉛直上方向)に駆動する場合に、高圧アキュムレータ60から作動油が供給される圧力室である。
【0040】
サーボモータ(SM1~SM5)は、各油圧ポンプ/モータ(P/M1~P/M5)の回転軸を正回転又は逆回転(正逆回転)させることにより、各油圧ポンプ/モータ(P/M1~P/M5)から作動液(作動油)を油圧シリンダ30の加圧室30Aに供給し、又は加圧室30Aから作動油を吸引するとともに、油圧シリンダ30の加圧室30Aの圧力を変動させる。
【0041】
油圧シリンダ30は、油圧シリンダ30の加圧室30Aの圧力と加圧室30Aの断面積との積が、油圧シリンダ30の加圧室30B(高圧アキュムレータ60)の略一定圧と加圧室30Bの断面積との積よりも大きくなると、ピストンロッド30C(スライド20)を下降させ、逆に油圧シリンダ30の加圧室30Aの圧力と加圧室30Aの断面積との積が、油圧シリンダ30の加圧室30Bの略一定圧と加圧室30Bの断面積との積よりも小さくなると、ピストンロッド30C(スライド20)を上昇させるように動作する。
【0042】
ベッド12には、スライド位置検出器70が設置されており、スライド位置検出器70は、スライド20の位置を検出し、検出したスライド20の位置を示すスライド位置信号をスライド位置制御器100に出力する。
【0043】
各サーボモータ(SM1~SM5)には、サーボモータ(SM1~SM5)の回転角速度をそれぞれ検出する角速度検出器E1~E5が設けられており、各角速度検出器(E1~E5)は、それぞれ検出したサーボモータ(SM1~SM5)の角速度を示す角速度信号をスライド位置制御器100に出力する。
【0044】
スライド位置制御器100は、スライド位置指令器110(
図2)から入力するスライド位置指令信号、及びスライド位置検出器70から入力するスライド位置信号に基づいてスライド20の位置がスライド位置指令信号に対応する位置になるように5基のサーボモータ(SM1~SM5)を制御するもので、スライド位置指令信号及びスライド位置信号等に基づいて演算した各サーボモータSM1~SM5のトルク指令信号を、各サーボモータ(SM1~SM5)のアンプ(A1~A5)に出力する。
【0045】
<スライド位置制御器>
図2は、
図1に示したスライド位置制御器100の詳細な構成を示すブロック図である。
【0046】
図2に示すスライド位置制御器100は、スライド位置指令器110、位置制御器120、安定化制御器130、加算器141~145、外乱補償器151~155、及びフィードフォワード補償器160から構成されている。
【0047】
スライド位置指令器110は、スライド20の1分間当たりのストローク数(SPM)、及びスライド20の上死点から下死点までのストローク量の設定に基づいて演算される、正弦波状のスライド位置指令信号を位置制御器120に出力する。
【0048】
位置制御器120は、減算器122及び位置補償器124を有している。減算器122の正入力にはスライド位置指令信号が加えられ、負入力にはスライド位置検出器70からスライド位置指令信号が加えられており、減算器122はスライド位置指令信号とスライド位置信号との偏差(位置偏差)を演算し、演算した位置偏差を低減させるべく位置補償器124に出力する。
【0049】
位置補償器124は、位置偏差に対して比例する補償量に位置偏差の積分量に比例する補償量等を加算し、位置偏差の低減を助長する信号を演算する。
【0050】
安定化制御器130は、5つの減算器(131A~135A)及び5つの安定化補償器(131B~135B)を有しており、位置制御器120だけでは、スライド位置指令信号からスライド位置信号に至るスライド位置制御系の一巡伝達関数(オープンループ)の位相遅れが大きくなり、位置制御機能が不安定化する問題を改善する役割を担う。
【0051】
各減算器(131A~135A)の正入力には、位置制御器120により演算された信号が加えられ、負入力には角速度検出器E1~E5により検出された各サーボモータ(SM1~SM5)の回転角速度を示す角速度信号がそれぞれ角速度フィードバック信号として加えられており、各減算器(131A~135A)は、2入力信号の偏差(角速度偏差)を演算し、演算した角速度偏差を安定化補償器(131B~135B)に出力する。
【0052】
各安定化補償器(131B~135B)は、各減算器(131A~135A)により演算された角速度偏差に対して比例する補償量に角速度偏差の積分量に比例する補償量等を加算し、角速度偏差の低減を助長する信号をそれぞれ演算する。
【0053】
各安定化補償器(131B~135B)により演算された信号は、各サーボモータ(SM1~SM5)のトルク指令信号としてそれぞれ加算器(141~145)に出力される。
【0054】
フィードフォワード補償器160は、微分要素162、位相進ませ補償要素164、及び比例要素(第1比例要素166、第2比例要素168)を有し、スライド20の動作中における、スライド位置指令信号とスライド位置信号の偏差を低減させる役割を担う。
【0055】
フィードフォワード補償器160の微分要素162は、スライド位置指令器110からスライド位置指令信号を入力し、スライド位置指令信号を時間微分した結果を出力する。
【0056】
位相進ませ補償要素164は、入力信号の位相を進ませる補償要素であり、その伝達関数が、(1+Tωb・s)/(1+Tωa・s)で表される。尚、sはラプラス演算子である。また、Tωa及びTωbはそれぞれ定数であり、上下方向に往復駆動されるスライド20のストローク数(SPM)、及びスライド20のストローク量に応じて適宜設定されることが好ましい。
【0057】
フィードフォワード補償器160の第1比例要素166は、固定比例定数(Khf)を乗じた結果を出力し、第2比例要素168は、可変比例定数(Khv)を乗じた結果を出力する。
【0058】
フィードフォワード補償器160から出力される信号(フィードフォワード補償量)は、それぞれ加算器(131A~135A)の他方の入力に加えられる。加算器(131A~135A)の一方の入力には、前述したように各サーボモータ(SM1~SM5)のトルク指令信号が加えられており、加算器(131A~135A)は、各サーボモータ(SM1~SM5)のトルク指令信号に、フィードフォワード補償器160からの信号を作用させる(加算する)。
【0059】
ここで、フィードフォワード補償器160の微分要素162及び第1比例要素166は、安定化制御器130に因る安定化の代償(副作用)であるスライド速度信号の、(スライド位置指令信号の微分を意味する)スライド速度指令信号に対する位相遅れ量を補償する。
【0060】
また、フィードフォワード補償器160の位相進ませ補償要素164及び第2比例要素168は、スライド位置制御系(クローズドループ)が高SPM化するにつれ、スライド位置指令信号からスライド位置信号に至る位相とゲインが変化する(位相が遅れ、ゲインが増減する)作用を補償する。
【0061】
位相進ませ補償要素164は、位置制御器120及び安定化制御器130等のクローズドループを構成する補償要素に対して直列に配置せず、オープンループのフィードフォワード補償器160に直列に配置することを特徴とする。こうすることで(クローズドループに配列しないことで)、スライド位置制御系自体はノイズを増幅せず不安定に陥ることが無い。
【0062】
各外乱補償器(151~155)は、各サーボモータ(SM1~SM5)に作用する外乱(外部から作用する)トルクを補償する役割を担う。各外乱補償器(151~155)は、加算器(131A~135A)により加算された(基本トルク指令)信号に対して、各角速度検出器(E1~E5)から入力するサーボモータ(SM1~SM5)の回転角速度を示す角速度信号を比較し、(与える各トルク指令信号に対して発生すべき各角加速度信号との乖離分を外乱トルクとして)演算することで、外乱を推定し除去する。
【0063】
各外乱補償器(151~155)により演算された各トルク指令信号は、それぞれアンプ(A1~A5)を介して各サーボモータ(SM1~SM5)に出力される。これにより、各サーボモータ(SM1~SM5)は、スライド20の位置がスライド位置指令信号に対応する位置になるように駆動制御される。
【0064】
このように各サーボモータ(SM1~SM5)のトルク指令信号に、フィードフォワード補償器160からの信号を作用させることで、サーボモータ角速度に時間遅れすることなく(位相遅れすることなく)、高SPMなスライド位置指令信号にスライド位置(信号)を追従させることが可能になる。
【0065】
外乱補償器(151~155)を経たトルク指令信号は各サーボモータ(SM1~SM5)のアンプ(A1~A5)に出力される。その結果、
図1に示す各サーボモータ(SM1~SM5)は同調して動作し、各サーボモータ(SM1~SM5)に軸接続された各油圧ポンプ/モータ(P/M1~P/M5)の一方(駆動側)のポートから流出入する油量が合算され、油圧シリンダ30の下降側の加圧室30Aに作用する。この時、低圧アキュムレータ50に蓄積された0.3MPa以上(本例では、0.5MPa程度)の略一定圧が、各油圧ポンプ/モータ(P/M1~P/M5)の他方のポートに作用するため、高SPM運転に伴い油圧ポンプ/モータ(P/M1~P/M5)が高速回転する際にキャビテーションを防止することができ、油圧ポンプ/モータ(P/M1~P/M5)の作用を安定化させることができる。
【0066】
また、高圧アキュムレータ60に蓄積された1MPa以上(本例では、6MPa程度)の略一定圧が、油圧シリンダ30の上昇側の加圧室30Bに作用しているため、スライド20の上昇時の加速力とスライド20の下降時の減速力を担う。
【0067】
このようにして、スライド20は、スライド位置指令信号に沿って(高SPMで)上下動する。
【0068】
<作用例>
図1及び
図2に示した第1実施形態のプレス機械1を、以下の物理諸元に基づき製作した。
【0069】
サーボモータ+油圧ポンプ/モータ:5基使用
各サーボモータの出力:10kW
油圧ポンプ/モータの押し退け容積:40cm3/rev
サーボモータ+油圧ポンプ/モータの1基分の慣性モーメント:0.02kgm2
低圧アキュムレータ50の一定圧:0.5MPa
油圧シリンダ30:1基使用
加圧室30Aの断面積:176cm2
加圧室30Bの断面積:136cm2
高圧アキュムレータ60の一定圧:6MPa
スライド20の質量:800kg
位相進ませ補償要素164の定数Tωa=0.1、Tωb=0.1(進み無し)
第2比例要素168の可変比例定数Khv:1
最大加圧能力:400kN
[実験結果]
上記の物理諸元を有するプレス機械1を、種々の条件で運転した場合の第1実験結果から第6実験結果を示す。
【0070】
<第1実験結果>
図3は、スライドのストローク量(20mm)、ストローク数(20SPM)、無負荷の条件で、正弦波状のスライド位置指令信号にスライド位置を追従させるべく運転した場合の、経過時間に対するスライド位置指令信号及びスライド位置信号を示す波形図である。
【0071】
図3に示す第1実験結果によれば、スライド位置指令信号の微分値に比例する(フィードフォワード)補償量を、各サーボモータのトルク指令信号に作用させる(加算する)ことにより、スライド位置指令信号とスライド位置信号との間には殆ど位相遅れが生じていない。
【0072】
この段階では、位相進ませ補償要素164の定数Tωa及びTωbは、それぞれTωa=0.1、Tωb=0.1であり、位相進ませ補償は機能させていない。
【0073】
<第2実験結果>
図4は、スライドのストローク量(20mm)、ストローク数(200SPM)、無負荷の条件で、正弦波状のスライド位置指令信号にスライド位置を追従させるべく運転した場合の、経過時間に対するスライド位置指令信号及びスライド位置信号を示す波形図である。
【0074】
第2実験では、第1実験のストローク数(20SPM)に対して10倍のストローク数(200SPM)に増加させている。
【0075】
図4に示す第2実験結果によれば、ストローク数(SPM)の増加に伴い、スライド位置指令信号からスライド位置(信号)間に約26度の遅れが生じている。
【0076】
本スライド位置制御系におけるスライド位置指令信号からスライド位置信号に至る挙動が周波数特性に依存するからである。それにも拘わらず、スライド位置指令信号に対するスライド位置信号のストロークが(本来は減衰するところ)増幅している理由は、主に、200SPMが本スライド位置制御系の固有振動数の近傍に存在する為と考えられる。
【0077】
これでは、実ストローク量が設定ストローク量より大きくなり(設定通りのストローク量にならず)、例えば、スライド20の下死点を合わせるためには、スライド位置指令信号をオフセットする調整等が必要になり、使い勝手が悪くなる。
【0078】
しかし、スライド位置信号はスライド位置指令信号に対して、(綺麗に)ほぼ線形に応答している。
【0079】
<第3実験結果>
図5は、スライドのストローク量(20mm)、ストローク数(200SPM)、無負荷の条件で、正弦波状のスライド位置指令信号にスライド位置を追従させるべく運転した場合であって、フィードフォワード補償器160の第2比例要素168の可変比例定数Khvを、Khv=0.81に設定した場合の、経過時間に対するスライド位置指令信号とスライド位置信号を示す波形図である。
【0080】
第3実験では、第2実験と比較して、第2比例要素168の可変比例定数Khvを1から0.81に変更している。
【0081】
図5に示す第3実験結果によれば、第2比例要素168の可変比例定数Khvを1から0.81に変更し、各サーボモータのトルク指令信号に作用させる、フィードフォワード補償器160からの補償量の振幅を調整することで、実ストローク量が設定ストローク量と等しくなる。
【0082】
<第4実験結果>
図6は、スライドのストローク量(20mm)、ストローク数(200SPM)、無負荷の条件で、正弦波状のスライド位置指令信号にスライド位置を追従させるべく運転した場合であって、フィードフォワード補償器160の位相進ませ補償要素164の定数T
ωa、T
ωbをT
ωa=0.0296、T
ωb=0.0769、第2比例要素168の可変比例定数KhvをKhv=0.608に設定した場合の、経過時間に対するスライド位置指令信号及びスライド位置信号を示す波形図である。
【0083】
第4実験では、第2実験と比較して、位相進ませ補償要素164の定数Tωa、Tωbを、それぞれTωa=0.1、Tωb=0.1からTωa=0.0296、Tωb=0.0769に変更し、かつ第2比例要素168の可変比例定数Khvを1から0.608に変更している。
【0084】
図6に示す第4実験結果によれば、位相進ませ補償要素164の定数T
ωa、T
ωbをそれぞれ定数T
ωa=0.0296、T
ωb=0.0769に設定することで、位相を26.35度進ませ、かつ第2比例要素168の可変比例定数Khvを0.608に設定することで、スライド位置指令信号からスライド位置(信号)までの位相遅れとゲイン(倍率)の変化は、ほぼ解消される。
【0085】
これにより、高SPMなスライド位置指令信号にスライド位置(信号)を精度よく追従させることができ、材料や製品を搬送する周辺装置との連携も行い易くなる。
【0086】
<第5実験結果>
図7は、スライドのストローク量(20mm)、ストローク数(200SPM)、最大加圧能力の10%負荷の条件で、正弦波状のスライド位置指令信号にスライド位置を追従させるべく運転した場合であって、フィードフォワード補償器160の位相進ませ補償要素164の定数T
ωa、T
ωbをT
ωa=0.0296、T
ωb=0.0769、第2比例要素168の可変比例定数KhvをKhv=0.608に設定した場合の、経過時間に対するスライド位置指令信号、スライド位置信号、及びプレス荷重を示す波形図である。
【0087】
第5実験では、第4実験と比較して、無負荷運転から10%負荷運転に変更している。
最大加圧能力は400kNであるため、10%負荷は40kNである。
【0088】
図7のプレス荷重を示す波形図によれば、下死点上2mm(ストロークの10%)から下死点で最大40kNに至る(予定の)プレス荷重が作用している。
【0089】
また、
図7に示す第5実験結果によれば、スライド位置は下死点(0mm)まで到達せず、プレス荷重も想定値(40kN)を下回り、スライド位置約0.7mmで折り返している。
【0090】
これは、負荷に抗じてスライド位置制御精度を向上させる外乱補償器等の制御補償を作用させているが、下死点でスライド位置指令信号を停滞(スライド位置を停止)させることなく運転しているため、スライドが下死点0に整定する応答時間が不足し、制御補償が完全に機能していない為である。
【0091】
<第6実験結果>
図8は、第5実験と同じ条件で運転し、下死点のスライド位置指令信号を補正した場合の、経過時間に対するスライド位置指令信号、スライド位置信号、及びプレス荷重を示す波形図である。
【0092】
第6実験では、第5実験と比較して、スライド位置指令信号の下死点を0から-0.57mmに変更している。
【0093】
図8に示す第6実験結果によれば、スライド位置は下死点0mmまで到達し、プレス荷重も下死点で予定の40kNに達する。これは、下死点近傍で作用し下死点でピークに至るプレス荷重によって生じる、下死点におけるスライド位置偏差(0-スライド位置信号)量を考慮し、スライド位置指令信号を補正(オフセット)したためである。
【0094】
オフセット量は、手動の調整運転や自動の学習(下死点位置自動補正)運転により求めることができる。
【0095】
本例の場合は、先ず、スライドのストローク数(SPM)とストローク量を設定した後、実際に成形を行いながら調整運転を行い、製品精度を満足する下死点位置指令値(-0.57mm)を見極める。この後、下死点位置自動補正機能を有効にして、生産運転を開始した。この金型を使用した生産運転は1時間程度連続して行われる。
図8に示す各波形図は、この時に計測したものである。
【0096】
生産運転の間、金型は成形に伴い温度変化を生じ線膨張する。その結果、成形に必要なプレス荷重も若干変動する。プレス荷重が変動すればプレス機械の下死点が変動し、製品精度が悪化する。下死点位置自動補正機能は、このように、プレス荷重変動に伴う下死点が変動を抑制する為に、毎サイクル毎にスライド位置偏差量を考慮しスライド位置指令信号を補正するものである。
【0097】
このようにして決定したスライド位置(プレス下死点)の繰り返し再現性は、制御補償の作用により±10μm程度に維持される。
【0098】
尚、第1実施形態のプレス機械1は、上記の第1実験から第6実験におけるスライドのストローク数及びストローク量等に限らず、種々の条件で運転可能であり、この場合、スライドの設定ストローク数、設定ストローク量に応じて、フィードフォワード補償器160の位相進ませ補償要素164の定数Tωa、Tωbを設定し、あるいはフィードフォワード補償器160の第2比例要素168の可変比例定数Khvを設定することが好ましい。
【0099】
図9は、第1実施形態のプレス機械1により制御可能なスライドのストローク量とストローク数(SPM)との関係を示すグラフである。
【0100】
図9に示すようにスライドのストローク量が小さくなる程、高SPM化が可能である。比較的薄物の部品を100SPM以上の高SPMで生産する場合、スライドのストローク量は50mm以下にすればよい。
【0101】
図10は、スライドのストローク量(5mm)、ストローク数(450SPM)、無負荷の条件で運転した場合のスライド位置指令信号及びスライド位置を示す波形図である。
【0102】
図10に示すようにスライド位置指令にスライド位置が追従していることが分かる。尚、スライドのストローク量(5mm)、ストローク数(450SPM)は、
図9に示したグラフの左端に対応している。
【0103】
[第2実施形態]
図11は、本発明に係るプレス機械の第2実施形態を示す図である。尚、
図11において、
図1に示した第1実施形態のプレス機械1と共通する部分には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0104】
図11に示す第2実施形態のプレス機械2は、1つのスライド20’を駆動する複数本(2基)の油圧シリンダ(30-L,30-R)が並設されている。
【0105】
2基の油圧シリンダ(30-L,30-R)を駆動する油圧装置として、それぞれ一点鎖線(80-L、80-R)で示す2つの油圧装置が設けられている。各油圧装置は、第1実施形態のプレス機械1と同様に、5基の油圧ポンプ/モータ(P/M1~P/M5)及びサーボモータ(SM1~SM5)等から構成されている。
【0106】
一点鎖線(80-L)内の5基の油圧ポンプ/モータ(P/M1~P/M5)の一方のポートは、配管40Lを通じて油圧シリンダ(30-L)の加圧室(30A-L)側に接続され、一点鎖線(80-R)内の5基の油圧ポンプ/モータ(P/M1~P/M5)の一方のポートは、それぞれ配管40Rを通じて油圧シリンダ(30-R)の加圧室(30A-R)側に接続されている。
【0107】
一点鎖線(80-L、80-R)内の2×5基の油圧ポンプ/モータ(P/M1~P/M5)の他方のポートは、それぞれ配管42を通じて低圧アキュムレータ50に接続されている。
【0108】
また、油圧シリンダ(30-L、30-R)の加圧室(30B-L,30B-R)は、それぞれ配管44を通じて高圧アキュムレータ60に接続されている。
【0109】
また、ベッド12には、スライド20’の位置を検出する2つのスライド位置検出器(70-L,70-R)が設置されている。本例の2つのスライド位置検出器(70-L,70-R)は、スライド20’の左右の位置をそれぞれ検出し、検出したスライド20’の左右の位置を示すスライド位置信号をそれぞれスライド位置制御器100’に出力する。
【0110】
スライド位置制御器100’は、1つのスライド位置指令器110(
図2)から入力するスライド位置指令信号、及び2つのスライド位置検出器(70-L、70-R)から入力する2つのスライド位置信号に基づいて、スライド20’の左右の位置がそれぞれスライド位置指令信号に対応する位置になるように、2×5基のサーボモータ(SM1~SM5)を制御するもので、1つのスライド位置指令信号及び2つのスライド位置信号等に基づいて演算した、2×5基のサーボモータ(SM1~SM5)のトルク指令信号を、2×5基のサーボモータ(SM1~SM5)のアンプ(A1~A5)にそれぞれ出力する。
【0111】
尚、スライド位置制御器100’は、
図2に示した第1実施形態のプレス機械1のスライド位置制御器100と同様に構成され、スライド位置制御器100は1つであるが、2×5基のサーボモータ(SM1~SM5)をそれぞれ制御するために位置制御器120、安定化制御器130及びフィードフォワード補償器160等は、それぞれ2系統設けられている。
【0112】
第2実施形態のプレス機械2によれば、サイズ及び質量が大きなスライド20’であっても、スライド20’を水平に維持しながら高SPM運転することができる。
【0113】
[その他]
本実施形態では、1つの油圧シリンダに対して、サーボモータ+油圧ポンプ/モータを5基並列に使用したが、これに限らず、サーボモータ+油圧ポンプ/モータは、2基以上の任意の数だけ設けることができる。
【0114】
また、第2実施形態では、スライド20’を2基の油圧シリンダ(30-L,30-R)で駆動するようにしたが、油圧シリンダの数はこれに限定されず、例えば4基の油圧シリンダで駆動するようにしてもよい。
【0115】
更に、スライド位置指令器から出力されるスライド位置指令信号は、正弦波状に変化するものに限らず、クランク曲線状に変化するものでもよく、要はスライド位置指令信号の時間微分信号が滑らかに連続するものであればよい。
【0116】
また、本実施形態のフィードフォワード補償器160は、微分要素162、位相進ませ補償要素164、及び比例要素(第1比例要素166、第2比例要素168)を有するが、これに限らず、スライド位置指令信号に対するスライド位置(信号)の位相遅れ量を補償するものであれば、如何なるものでもよく、また、フィードフォワード補償による位相遅れ量の補償は、位相遅れ量を略ゼロにする場合に限らない。
【0117】
更に、スライドを駆動する油圧シリンダ、及び油圧ポンプ/モータの作動液として油を使用した場合について説明したが、これに限らず、水やその他の液体を使用してもよい。
【0118】
また、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の精神を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0119】
1、2 プレス機械
10 コラム
12 ベッド
14 クラウン
16 ガイド部
20、20' スライド
30、30-L、30-R 油圧シリンダ
40、40L、40R、42、44 配管
46、48 開閉弁
50 低圧アキュムレータ
60 高圧アキュムレータ
70、70-L、70-R スライド位置検出器
100、100' スライド位置制御器
110 スライド位置指令器
120 位置制御器
122 減算器
124 位置補償器
130 安定化制御器
131A~135A 減算器
131B~135B 安定化補償器
141~145 加算器
151~155 外乱補償器
160 フィードフォワード補償器
162 微分要素
164 補償要素
166 第1比例要素
168 第2比例要素
E1~E5 角速度検出器
SM1~SM5 サーボモータ