(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】TCBの蒸留分離装置及び方法
(51)【国際特許分類】
B01D 3/14 20060101AFI20220913BHJP
C07C 17/383 20060101ALI20220913BHJP
C07C 25/10 20060101ALI20220913BHJP
B08B 3/08 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
B01D3/14 A
C07C17/383
C07C25/10
B08B3/08 Z
(21)【出願番号】P 2019167510
(22)【出願日】2019-09-13
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】592141927
【氏名又は名称】JFE環境テクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【氏名又は名称】丸山 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100205730
【氏名又は名称】丸山 重輝
(74)【代理人】
【識別番号】100213551
【氏名又は名称】丸山 智貴
(72)【発明者】
【氏名】梅本 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】前村 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】大井 一彦
【審査官】小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-103388(JP,A)
【文献】特開2010-215581(JP,A)
【文献】特開2003-212801(JP,A)
【文献】特開2002-95769(JP,A)
【文献】米国特許第4814021(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 3/00-3/42
B08B 3/08
C07C 17/383
C07C 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCB、TCB、洗浄油及び水を含む処理物を受け入れて洗浄を行う抜油洗浄部と、
該抜油洗浄部から排出される抜油とPCB含有洗浄油を蒸留分離して、水を含む留出液と、濃PCB、TCB及び洗浄油を含む缶出液に分離する水分離塔と、
前記水分離塔の蒸留によって生じる濃PCB、TCB及び洗浄油を含む缶出液を、蒸留によって、留出液と缶出液に分離する洗浄油回収塔と
、
前記洗浄油回収塔の留出液を一時的に貯留する洗浄油回収塔還流槽と、
新規洗浄油を供給する洗浄油供給槽と、
前記洗浄油回収塔還流槽からの留出液と、前記洗浄油供給槽からの新規洗浄油を受け入れる洗浄油中間槽とを備え、
該洗浄油回収塔の留出液は、洗浄油を含み、
前記洗浄油回収塔還流槽を介して、前記洗浄油中間槽に送られ、該洗浄油中間槽から、前記新規洗浄油と、前記洗浄油回収塔の留出液の洗浄油とを含む再生洗浄油を前記抜油洗浄部に送り、該洗浄油回収塔の缶出液は、濃PCB及びTCBを含み、
濃PCB及びTCBを含む前記洗浄油回収塔の缶出液を、TCBを含む留出液と、PCBを含む缶出液に蒸留分離するTCB分離塔を備えることを特徴とする処理物から排出されるPCB含有洗浄油に含まれるTCBの蒸留分離装置。
【請求項2】
PCB、TCB、洗浄油及び水を含む処理物を抜油洗浄部に受け入れて洗浄を行い、
次いで、該抜油洗浄部から排出される抜油とPCB含有洗浄油を水分離塔に受け入れて、水を含む留出液と、濃PCB、TCB及び洗浄油を含む缶出液に蒸留分離し、
次いで、前記水分離塔の蒸留によって生じる濃PCB、TCB及び洗浄油を含む缶出液を、洗浄油回収塔に受け入れ、蒸留によって、留出液と缶出液に分離すると共に、該洗浄油回収塔の留出液は、洗浄油を含み、該洗浄油を再生洗浄油として前記抜油洗浄部に送り、該洗浄油回収塔の缶出液は、濃PCB及びTCBを含み、
次いで、濃PCB及びTCBを含む前記洗浄油回収塔の缶出液を、TCB分離塔に受け入れ、TCBを含む留出液と、PCBを含む缶出液に蒸留分離することを特徴とする処理物から排出されるPCB含有洗浄油に含まれるTCBの蒸留分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TCBの蒸留分離装置及び方法に関し、詳しくは、PCB汚染機器を抜油洗浄して発生した、TCB入りのPCBから、TCBを分離除去するTCBの蒸留分離装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、安定性、不燃性、電気絶縁性に優れていることから、コンデンサやトランス等の電気機器の絶縁油に多用されていたが、後に、その難分解性と毒性とが明らかとなり新たな使用が禁じられている。
【0003】
PCBを含有する絶縁油が既に含まれているコンデンサやトランス等のPCB汚染機器については回収措置がとられ、特別な施設において無害化処理が実施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許5639932号
【文献】特許5639931号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、PCB含有絶縁油を含む機器を洗浄油で洗浄するための洗浄部と、洗浄によって生じたPCB含有洗浄油を蒸留して再生洗浄油を作製するための蒸留再生部とを有し、PCB含有洗浄油をPCB含有洗浄油よりもPCB濃度の低い留出液とPCB濃度の高い缶出液とに分離するための蒸留塔が蒸留再生部に備えられているPCB汚染機器無害化設備の解体方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、特許文献1で用いた蒸留塔を効率良く無害化して解体する方法が開示されている。
【0007】
しかし、この特許文献1及び2の無害化施設では、PCBにTCBが混在することを考慮していないので、TCBの除去手法について全く考慮されていない。
【0008】
TCBはそれ自体毒性があるわけではないので、処理する必要性がなければ処理しないのが従来の常識であり、特許文献1,2においても、全く考慮されていない。
【0009】
本発明者は、自らの脱塩素化処理プロセスにおいて、パラジウム触媒を用いているが、TCBがPCBに混在している場合には、そのTCBの存在によってパラジウム消費量が大幅に増加する問題があり、その結果、処理プラント自体が高騰になるという重大な問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、PCBに含まれるTCBを極限まで除去できるので、PCBの脱塩素化処理における触媒使用量を低減でき、無害化設備のコストを低下させることができるTCBの蒸留分離装置及び方法を提供することを課題とする。
【0011】
本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、本発明の課題は、以下の各発明によって解決される。
【0013】
(請求項1)
PCB、TCB、洗浄油及び水を含む処理物を受け入れて洗浄を行う抜油洗浄部と、
該抜油洗浄部から排出される抜油とPCB含有洗浄油を蒸留分離して、水を含む留出液と、濃PCB、TCB及び洗浄油を含む缶出液に分離する水分離塔と、
前記水分離塔の蒸留によって生じる濃PCB、TCB及び洗浄油を含む缶出液を、蒸留によって、留出液と缶出液に分離する洗浄油回収塔と、
前記洗浄油回収塔の留出液を一時的に貯留する洗浄油回収塔還流槽と、
新規洗浄油を供給する洗浄油供給槽と、
前記洗浄油回収塔還流槽からの留出液と、前記洗浄油供給槽からの新規洗浄油を受け入れる洗浄油中間槽とを備え、
該洗浄油回収塔の留出液は、洗浄油を含み、前記洗浄油回収塔還流槽を介して、前記洗浄油中間槽に送られ、該洗浄油中間槽から、前記新規洗浄油と、前記洗浄油回収塔の留出液の洗浄油とを含む再生洗浄油を前記抜油洗浄部に送り、該洗浄油回収塔の缶出液は、濃PCB及びTCBを含み、
濃PCB及びTCBを含む前記洗浄油回収塔の缶出液を、TCBを含む留出液と、PCBを含む缶出液に蒸留分離するTCB分離塔を備えることを特徴とする処理物から排出されるPCB含有洗浄油に含まれるTCBの蒸留分離装置。
(請求項2)
PCB、TCB、洗浄油及び水を含む処理物を抜油洗浄部に受け入れて洗浄を行い、
次いで、該抜油洗浄部から排出される抜油とPCB含有洗浄油を水分離塔に受け入れて、水を含む留出液と、濃PCB、TCB及び洗浄油を含む缶出液に蒸留分離し、
次いで、前記水分離塔の蒸留によって生じる濃PCB、TCB及び洗浄油を含む缶出液を、洗浄油回収塔に受け入れ、蒸留によって、留出液と缶出液に分離すると共に、該洗浄油回収塔の留出液は、洗浄油を含み、該洗浄油を再生洗浄油として前記抜油洗浄部に送り、該洗浄油回収塔の缶出液は、濃PCB及びTCBを含み、
次いで、濃PCB及びTCBを含む前記洗浄油回収塔の缶出液を、TCB分離塔に受け入れ、TCBを含む留出液と、PCBを含む缶出液に蒸留分離することを特徴とする処理物から排出されるPCB含有洗浄油に含まれるTCBの蒸留分離方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、PCBに含まれるTCBを極限まで除去できるので、PCBの脱塩素化処理における触媒使用量を低減でき、無害化設備のコストを低下させることができる、処理物から排出されるPCB含有洗浄油に含まれるTCBの蒸留分離装置及び方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係るTCBの蒸留分離方法を実施するための装置の一例を示す処理フロー図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、TCBの蒸留分離方法を実施するための装置の一例を示す処理フロー図である。
【0018】
図1において、1は処理物であり、抜油洗浄部2に送られる。
【0019】
抜油洗浄部2を構成する装置は、抜油装置と粗洗浄装置の二つの機能を備える。抜油装置は、処理対象物を受け入れることができれば、一つの装置であっても、複数の装置であってもよい。
【0020】
処理物1は、例えば老朽化してPCBが漏洩するおそれがあるトランスやコンデンサ、漏洩するおそれのない大型のトランスやコンデンサ、小型のトランスやコンデンサが挙げられる。抜油を行うに際しては、例えばトランスなどのケーシングに開けた孔から内部のPCBやTCB含有絶縁油を抜取る。抜油装置には、大型抜油室、漏洩品抜油室、小型抜油室を備えることが好ましい。
上記処理物から抜油を行った後、洗浄装置によって洗浄を行う。具体的には、洗浄油でトランスやコンデンサの内部を洗浄する。
【0021】
洗浄油としては、TCB類似物質であることが好ましく、炭化水素系高機能洗浄剤が例示され、例えば、HC-250(東ソー社製)、NSクリーン220(JXTGエネルギー社製)が例示できる。これ以外にも、HC-250相当品、NSクリーン220相当品であってもよく、沸点がTCBより低く、処理物1の洗浄に際し、処理物の内部に付着したPCBを剥離できるものであればよい。
【0022】
なお、抜油洗浄部2によって、内部洗浄されたトランスをケーシングと内部機器などに図示しない粗解体装置によって解体する。
抜油洗浄部2によって抜油し、洗浄された後、図示しないが複数に分岐される。
本実施の形態では、処理物1を抜油洗浄部2に受け入れて洗浄を行い、PCB、TCB、洗浄油及び水を含むPCB含有洗浄油が発生する。
【0023】
その抜油洗浄部2から排出される抜油とPCB含有洗浄油を、水分離塔3に受け入れて、蒸留分離して、留出液と、缶出液とが得られる。缶出液には、濃PCB、TCB及び洗浄油を含む。留出液には、水を含む。
【0024】
缶出液は、洗浄油回収塔4に送られ、濃PCB及びTCBを含む缶出液と、洗浄油を含む留出液に分離される。例えば、PCBのbp(沸点)は360~390℃、TCBのbpは210℃、洗浄油(HC-250)のbpは170℃であるから、洗浄油回収塔4の分離温度を180℃に設定すると、洗浄油は、留出液中に分離され、濃PCB及びTCBは缶出液中に分離される。
【0025】
洗浄油回収塔4の留出液は、洗浄油回収塔環流槽5に送られ、その後、洗浄油中間槽6に送られる。一方で、洗浄油中間槽6には、新規な洗浄油が洗浄油供給槽7から必要量供給され、洗浄油中間槽6から該洗浄油を再生洗浄油として前記抜油洗浄部2に送る。
【0026】
該洗浄油回収塔4の缶出液は、濃PCB及びTCBを含み、トランス油受槽8に送られる。
【0027】
トランス油受槽8に送られた濃PCB及びTCBを含む缶出液は、TCB分離塔9で、TCBを含む留出液と、PCBを含む缶出液に蒸留分離される。
【0028】
TCBを含む留出液は、TCB分離塔環流槽10に送られ、その一部は外部に排出されるが、必要により、抜油洗浄部2の洗浄によって生じたPCB含有洗浄油に混合させ、再度分離蒸留させるようにしてもよい。
【0029】
またPCBを含む缶出液は、わずかにTCBを含む可能性があるので、第1蒸留塔11に送られ、PCBを含む缶出液と、微量のTCBを含む留出液に蒸留分離される。
【0030】
第1蒸留塔11で得られた留出液は、第1蒸留塔環流槽12に送られ、その一部は外部に排出してもよいし、トランス油受槽8に戻して、再度蒸留に供してもよい。
【0031】
また、PCBを含む缶出液は、脱塩素化設備に送られ、PCBから塩素を除去し、生成物としてビフェニルが得られる。本実施形態において、PCBを含む缶出液には、パラジウム触媒を余分に消費するような量のTCBは含まれていない。
【0032】
図2は、従来装置の処理フロー図である。
図2に示す従来装置には、本発明において極めて重要なPCBとTCBの分離装置が設けられていない。分離する必要がないからである。その理由は後述する。
【0033】
図2において、抜油洗浄部100から排出される抜油とPCB含有洗浄油を、第1蒸留塔101に受け入れて、蒸留分離する。
【0034】
留出液には、微量のPCB、TCB及び洗浄油及び水を含む。また缶出液には、濃いPCB、わずかの洗浄油を含む。
【0035】
この濃いPCB、わずかの洗浄油を含む缶出液は脱塩素化設備103に送られる。
【0036】
微量のPCB、TCB及び洗浄油及び水を含む留出液は、第2蒸留塔104に送られ、缶出液には、濃いPCBを含む。留出液には、TCB及び洗浄油及び水を含み、この留出液は、再生洗浄油として、抜油洗浄部100又は第1蒸留塔101に送られ、再利用される。
【0037】
従って、従来装置の処理フローでは、TCBはどんどん濃縮されることになり、TCBとPCBの濃度が変動し、組成分の沸点変動が生じ、PCBとTCBの分離は非常に難しくなる。
【0038】
この従来装置では、PCB含有洗浄油やPCB含有スクラバー油を脱ハロゲン化処理するためのナトリウム分散体を貯留するナトリウム分散体槽を備えている。さらに、脱ハロゲン化部には、PCB含有洗浄油やPCB含有スクラバー油とナトリウム分散体とを反応させて脱ハロゲン化処理するための反応槽を備えている。
【0039】
また従来装置では、反応槽で脱ハロゲン化処理され、未反応なナトリウム分散体や、塩化ナトリウムや、脱ハロゲン化済の油分が混合された混合液を固液分離するための固液分離装置を備えている。
【0040】
この従来の脱ハロゲン化部では、パラジウム触媒を用いた脱塩素化は行っていない。
【0041】
従って、
図2に示す従来装置では、TCBの分離を考慮する必要もないことが理解できるであろう。
【符号の説明】
【0042】
1 :処理物
2 :抜油洗浄部
3 :水分離塔
4 :洗浄油回収塔
5 :洗浄回収塔環流槽
6 :洗浄油中間槽
7 :洗浄油供給槽
8 :トランス油受槽
9 :TCB分離塔
10 :TCB分離塔環流槽
11 :第1蒸留塔
12 :第1蒸留塔環流槽
100 :抜油洗浄部
101 :第1蒸留塔
103 :脱塩素化設備
104 :第2蒸留塔