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特許7140734ガス供給システムおよびガスタンクの内部圧力を推定する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】ガス供給システムおよびガスタンクの内部圧力を推定する方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 13/02 20060101AFI20220913BHJP
   F17C 7/00 20060101ALI20220913BHJP
   H01M 8/04 20160101ALN20220913BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20220913BHJP
【FI】
F17C13/02 301A
F17C7/00 A
H01M8/04 Z
H01M8/10 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019182814
(22)【出願日】2019-10-03
(65)【公開番号】P2021060044
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏輔
(72)【発明者】
【氏名】横山 幸秀
【審査官】田中 一正
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-099963(JP,A)
【文献】特開2009-002432(JP,A)
【文献】特開平09-229798(JP,A)
【文献】特開2009-093840(JP,A)
【文献】特開2018-195375(JP,A)
【文献】特開2006-140132(JP,A)
【文献】特開2010-003527(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0255326(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 13/02
F17C 7/00
H01M 8/04
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス供給システムであって、
加圧されたガスを貯蔵するガスタンクと、
前記ガスを消費するガス消費装置と前記ガスタンクとを接続するガス供給路と、
一次側の圧力の増加に伴い二次側の圧力が変化する非バランス式減圧弁であって、前記ガス供給路に設けられて前記ガスタンクから供給される前記ガスの圧力を減圧する減圧弁と、
前記減圧弁の二次側の圧力を検出する圧力センサと、
前記減圧弁の二次側の流量を変更する流量変更部と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記流量変更部を駆動して、前記減圧弁の二次側の流量を、第1流量と、前記第1流量とは異なる第2流量との間で変更させ、
前記二次側の流量が前記第1流量のときの前記圧力センサの検出値である第1圧力と、前記二次側の流量が前記第2流量のときの前記圧力センサの検出値である第2圧力と、を前記圧力センサから取得し、
前記第1流量、前記第2流量、および、前記第1圧力と前記第2圧力との差分、の関係を用いて、前記減圧弁の一次側の圧力を推定する
ガス供給システム。
【請求項2】
請求項1に記載のガス供給システムであって、
前記第1流量は、前記流量変更部によって変更される前記二次側の流量の最小流量であり、
前記第2流量は、前記流量変更部によって変更される前記二次側の流量の最大流量である
ガス供給システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガス供給システムであって、
前記制御部は、
前記減圧弁の一次側の圧力ごとに、前記減圧弁の二次側の圧力と、前記減圧弁の二次側の流量と、の関係を予め求めたマップを予め記憶しており、
前記マップを参照して、前記圧力センサが検出した前記第1圧力と前記第2圧力との差分が実現されるときの前記減圧弁の一次側の圧力を特定することにより、前記減圧弁の一次側の圧力を推定する
ガス供給システム。
【請求項4】
請求項3に記載のガス供給システムであって、
前記ガスは水素であり、
前記減圧弁は、
前記ガスタンクから吐出される前記ガスが流入する一次室と、
前記一次室から前記ガスが減圧されつつ流入する二次室と、
前記一次室内で特定方向に往復移動して、前記一次室と前記二次室とを連通させる連通路を開閉する弁体と、
前記弁体と一体で設けられて、前記弁体による前記連通路の開閉時には、前記減圧弁内で前記特定方向に摺動するピストンと、
前記ピストンによって前記二次室と区画された大気圧室と、
前記一次室に設けられて、前記弁体を、前記弁体の閉方向に付勢する第1スプリングと、
前記大気圧室に設けられて、前記ピストンを、前記弁体の開方向に付勢する第2スプリングと、
を備え、
前記減圧弁の一次側の圧力と、前記減圧弁の二次側の圧力と、前記減圧弁の二次側の流量と、の関係は、以下の(1)式で表わされるガス供給システム。
【数1】
(式中、Pは、前記減圧弁の二次側の圧力であり、Pは、前記減圧弁の一次側の圧力であり、Patmは、大気圧であり、kは、前記第1スプリングのばね定数であり、kは、前記第2スプリングのばね定数であり、Sは、前記連通路における前記特定方向に垂直な断面の断面積であり、Sは、前記二次室における前記特定方向に垂直な断面の断面積であり、Fk1は、前記第1スプリングが前記弁体を前記閉方向に付勢する力であり、Fk2は、前記第2スプリングが前記ピストンを前記開方向に付勢する力であり、Fμは、前記ピストンが摺動する際の摩擦力であり、Tは、前記減圧弁を流れる前記ガスの温度であり、Qは、前記減圧弁の二次側の流量であり、Dは、前記連通路における前記特定方向に垂直な断面の直径であり、αは、前記連通路を通過して前記ガスが流れる際の有効流路の縮流係数であり、βは、前記連通路に対向する前記弁体の先端部が前記特定方向に垂直な断面との間で成す角度である。)
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のガス供給システムであって、
前記制御部は、推定した前記減圧弁の一次側の圧力が、予め定めた基準圧力以下になったときには、前記流量変更部を通じて前記ガス消費装置に供給する前記ガスの流量を制限する
ガス供給システム。
【請求項6】
加圧されたガスを貯蔵するガスタンクを備えるガス供給システムにおける前記ガスタンクの内部圧力を推定する方法であって、
前記ガス供給システムは、さらに、
前記ガスを消費するガス消費装置と前記ガスタンクとを接続するガス供給路と、
一次側の圧力の増加に伴い二次側の圧力が変化する非バランス式減圧弁であって、前記ガス供給路に設けられて前記ガスタンクから供給される前記ガスの圧力を減圧する減圧弁と、
前記減圧弁の二次側の圧力を検出する圧力センサと、
前記減圧弁の二次側の流量を変更する流量変更部と、
を備え、
前記流量変更部を駆動して、前記減圧弁の二次側の流量を、第1流量と、前記第1流量とは異なる第2流量との間で変更させ、
前記二次側の流量が前記第1流量のときの前記圧力センサの検出値である第1圧力と、前記二次側の流量が前記第2流量のときの前記圧力センサの検出値である第2圧力と、を前記圧力センサから取得し、
前記第1流量、前記第2流量、および、前記第1圧力と前記第2圧力との差分、の関係を用いて、前記減圧弁の一次側の圧力を推定する
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス供給システムおよびガスタンクの内部圧力を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス供給システムとして、水素を消費する燃料電池に水素を供給するシステムであって、水素が充填されたガスタンクを備えるシステムが知られている。ガスタンク内のガス残量を推定する方法としては、ガスタンク内の圧力を直接検出するタンク圧センサを用いる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-179114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タンク圧センサとしては、満充填時からガス残量が僅かになったときまでガスタンク内の圧力を検出できるように、十分に検出レンジが広いセンサを用いることが望ましい。しかし、センサは、一般に、検出レンジが広いほど検出感度が低くなって、真の値に対する検出値のバラツキ幅が大きくなり得る。そのため、ガスタンク内の圧力を精度良く検出可能な技術が望まれていた。特に、ガスタンク内のガス残量が減少して、ガスタンク内の圧力が比較的低いときに、ガスタンク内の圧力を精度良く検出する技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、ガス供給システムが提供される。このガス供給システムは、加圧されたガスを貯蔵するガスタンクと、前記ガスを消費するガス消費装置と前記ガスタンクとを接続するガス供給路と、一次側の圧力の増加に伴い二次側の圧力が変化する非バランス式減圧弁であって、前記ガス供給路に設けられて前記ガスタンクから供給される前記ガスの圧力を減圧する減圧弁と、前記減圧弁の二次側の圧力を検出する圧力センサと、前記減圧弁の二次側の流量を変更する流量変更部と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記流量変更部を駆動して、前記減圧弁の二次側の流量を、第1流量と、前記第1流量とは異なる第2流量との間で変更させ、前記二次側の流量が前記第1流量のときの前記圧力センサの検出値である第1圧力と、前記二次側の流量が前記第2流量のときの前記圧力センサの検出値である第2圧力と、を前記圧力センサから取得し、前記第1流量、前記第2流量、および、前記第1圧力と前記第2圧力との差分、の関係を用いて、前記減圧弁の一次側の圧力を推定する。
この形態のガス供給システムによれば、減圧弁の一次側の圧力を推定する際に、減圧弁を非バランス式減圧弁で構成すると共に、減圧弁の二次側の流量を変化させて、圧力センサによって減圧弁の二次側の圧力を検出し、流量変化の前後における二次側の圧力の差分を用いている。このように、減圧弁の二次側の圧力を検出する圧力センサの検出値を用いて、減圧弁の一次側の圧力を推定するため、減圧弁の一次側に設けたセンサを用いて減圧弁の一次側の圧力を検出する場合に比べて、減圧弁の一次側の圧力を求める精度を高めることができる。そして、減圧弁の一次側の圧力によりガスタンクの内部圧力を求める場合には、ガスタンクの内部圧力を推定する精度を高めることができる。特に、ガスタンクのタンク残量が少なく、減圧弁の一次側の圧力が比較的低いときに、ガスタンクの内部圧力を推定する精度を高めることができる。
(2)上記形態のガス供給システムにおいて、前記第1流量は、前記流量変更部によって変更される前記二次側の流量の最小流量であり、前記第2流量は、前記流量変更部によって変更される前記二次側の流量の最大流量であることとしてもよい。この形態のガス供給システムによれば、減圧弁の一次側の圧力を推定する精度をさらに高めることができる。
(3)上記形態のガス供給システムにおいて、前記制御部は、前記減圧弁の一次側の圧力ごとに、前記減圧弁の二次側の圧力と、前記減圧弁の二次側の流量と、の関係を予め求めたマップを予め記憶しており、前記マップを参照して、前記圧力センサが検出した前記第1圧力と前記第2圧力との差分が実現されるときの前記減圧弁の一次側の圧力を特定することにより、前記減圧弁の一次側の圧力を推定することとしてもよい。この形態のガス供給システムによれば、予め記憶したマップを参照することにより、減圧弁の一次側の圧力を精度良く推定することができる。
(4)上記形態のガス供給システムにおいて、前記ガスは水素であり、前記減圧弁は、前記ガスタンクから吐出される前記ガスが流入する一次室と、前記一次室から前記ガスが減圧されつつ流入する二次室と、前記一次室内で特定方向に往復移動して、前記一次室と前記二次室とを連通させる連通路を開閉する弁体と、前記弁体と一体で設けられて、前記弁体による前記連通路の開閉時には、前記減圧弁内で前記特定方向に摺動するピストンと、前記ピストンによって前記二次室と区画された大気圧室と、前記一次室に設けられて、前記弁体を、前記弁体の閉方向に付勢する第1スプリングと、前記大気圧室に設けられて、前記ピストンを、前記弁体の開方向に付勢する第2スプリングと、を備え、前記減圧弁の一次側の圧力と、前記減圧弁の二次側の圧力と、前記減圧弁の二次側の流量と、の関係は、以下の(1)式で表わされるガス供給システム。
【数1】
(式中、Pは、前記減圧弁の二次側の圧力であり、Pは、前記減圧弁の一次側の圧力であり、Patmは、大気圧であり、kは、前記第1スプリングのばね定数であり、kは、前記第2スプリングのばね定数であり、Sは、前記連通路における前記特定方向に垂直な断面の断面積であり、Sは、前記二次室における前記特定方向に垂直な断面の断面積であり、Fk1は、前記第1スプリングが前記弁体を前記閉方向に付勢する力であり、Fk2は、前記第2スプリングが前記ピストンを前記開方向に付勢する力であり、Fμは、前記ピストンが摺動する際の摩擦力であり、Tは、前記減圧弁を流れる前記ガスの温度であり、Qは、前記減圧弁の二次側の流量であり、Dは、前記連通路における前記特定方向に垂直な断面の直径であり、αは、前記連通路を通過して前記ガスが流れる際の有効流路の縮流係数であり、βは、前記連通路に対向する前記弁体の先端部が前記特定方向に垂直な断面との間で成す角度である。)
この形態のガス供給システムによれば、上記(1)式を用いることで、減圧弁の一次側の圧力ごとに、減圧弁の二次側の圧力と減圧弁の二次側の流量との関係を、容易に求めることができる。
(5)上記形態のガス供給システムにおいて、前記制御部は、推定した前記減圧弁の一次側の圧力が、予め定めた基準圧力以下になったときには、前記流量変更部を通じて前記ガス消費装置に供給する前記ガスの流量を制限することとしてもよい。この形態のガス供給システムによれば、精度良く検出した減圧弁の一次側の圧力を用いて、ガス消費装置に供給するガスの流量の制限に係る制御を適切に行なうことができる。
本発明は、ガス供給システム以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、水素ガス供給システム、燃料電池システム、ガスタンクを備えるガス供給システムにおける前記ガスタンクの内部圧力を推定する方法、ガス供給システムの制御方法、その制御方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】燃料電池システムの概略構成を表わす説明図。
図2】減圧弁内部構成を模式的に示す説明図。
図3】減圧弁の二次流量と二次圧との関係を表わす説明図。
図4】タンク残量監視処理ルーチンを表わすフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.装置の全体構成:
図1は、本発明の一実施形態としての燃料電池システム15の概略構成を表わす説明図である。本実施形態では、燃料電池システム15は、燃料電池車両に搭載されている。
【0009】
燃料電池システム15は、燃料電池車両に搭載された図示しない駆動モータで用いる電力を発生するための装置である。燃料電池システム15は、燃料電池66と、燃料電池66に対して燃料ガスである水素を供給するためのガス供給システム10と、を備える。ガス供給システム10は、水素タンク60と、供給配管30と、制御部68と、を備える。供給配管30は、水素タンク60と燃料電池66とを接続する。供給配管30は、「ガス供給路」とも呼ぶ。図1では、燃料電池システム15の構成のうち、燃料電池66に対する水素の供給に係る部分のみを示す。燃料電池システム15は、さらに、水素タンク60に水素を充填するための構成、燃料電池66からの水素(アノードオフガス)の排出に係る構成、燃料電池66に対して酸素を含む酸化ガスを流通させる構成、および、燃料電池66に対して冷媒を流通させる構成を備えるが、これらについては説明を省略する。
【0010】
燃料電池66は、燃料ガスと酸化ガスとを電気化学的に反応させて電力を取り出すための発電装置であり、単セルが複数積層されたスタック構成を有している。本実施形態の燃料電池66は、固体高分子形燃料電池であるが、他種の燃料電池を用いてもよい。燃料電池66を構成する各単セルでは、電解質膜を間に介して、アノード側に燃料ガスである水素が流れる流路(以後、アノード側流路とも呼ぶ)が形成され、カソード側に酸化ガスである空気が流れる流路(以後、カソード側流路とも呼ぶ)が形成されている。
【0011】
水素タンク60は、燃料電池66に供給するための加圧された水素を貯蔵する装置である。水素タンク60は、例えば、樹脂製ライナーの外表面上に、熱硬化性樹脂を含有する繊維を巻回した繊維強化プラスチック(FRP)層を有する樹脂製タンクとすることができる。水素タンク60は、図示しないバルブ機構が内部に設けられた口金62を備える。口金62内のバルブ機構は、水素タンク60と供給配管30との間の連通状態を遮断する遮断弁を含む。
【0012】
本実施形態の水素タンク60は、満充填時には、内部の圧力が70MPa程度となるように水素が充填される。このような高圧ガスタンクにおいては、内部圧力の下限値として最低許容圧力が設定されており、内部圧力が最低許容圧力を下回らないように、タンク残量が管理される。水素タンク60は、タンク壁に対して常に外部に向かう圧力が加えられることを前提とする構造を有しているため、最低許容圧力は、例えば、このような構造を安定して維持する観点から設定することができる。最低許容圧力は、例えば、1~2MPa程度とすることができる。
【0013】
供給配管30には、水素流れの上流側から順に、減圧弁50とインジェクタ部52とが設けられている。水素タンク60から供給配管30に水素が吐出される際の水素の圧力は、水素タンク60の内部圧力(以下、タンク圧とも呼ぶ)に等しいと考えられ、減圧弁50は、水素タンク60から吐出されたこのような高圧の水素を減圧する。減圧弁50は、例えば、1~1.5MPa程度に水素を減圧する。減圧弁50の構成については、後に詳しく説明する。インジェクタ部52は、燃料電池66に供給する水素量を調節する。本実施形態では、インジェクタ部52は、並列に接続された複数のインジェクタを備える。図1では、並列に接続された3つのインジェクタを示しているが、インジェクタ部52が備えるインジェクタの数は、1または3以外の複数としてもよく、燃料電池66に供給する水素量を変更可能であればよい。インジェクタ部52が備える各々のインジェクタは、内部に電磁弁を備え、この電磁弁の開閉動作によって、水素タンク60から燃料電池66に供給する水素量を変更する。本実施形態では、開弁するインジェクタの数を変更することによって、水素タンク60からの供給水素量を調節する。インジェクタ部52は、「流量変更部」とも呼ぶ。
【0014】
供給配管30内のガス圧を検出するセンサとして、供給配管30において、減圧弁50とインジェクタ部52との間には第1圧力センサ42が設けられており、減圧弁50と水素タンク60との間には第2圧力センサ40が設けられている。減圧弁50よりも上流側に配置された第2圧力センサ40の検出値は、水素タンク60から水素が吐出されるときには、水素タンク60内の圧力を示す値となる。そして、減圧弁50よりも下流側に配置された第1圧力センサ42の検出値は、第2圧力センサ40の検出値よりも小さくなる。第2圧力センサ40を「高圧センサ」とも呼び、第1圧力センサ42を「中圧センサ」とも呼ぶ。
【0015】
なお、燃料電池66内のアノード側流路を流れて燃料電池66から排出される水素を含有するガス(アノードオフガス)は、例えば、供給配管30におけるインジェクタ部52の下流側に導いて、再び燃料電池66に供給することとしてもよい。
【0016】
制御部68は、論理演算を実行するCPUやROM、RAM等を備えたいわゆるマイクロコンピュータで構成される。制御部68は、既述した第1圧力センサ42および第2圧力センサ40等の各種センサから検出信号を取得して、燃料電池システム15の各部に駆動信号を出力する。そして、水素タンク60におけるガス残量を管理する制御や、燃料電池66の発電量に係る制御を行なう。なお、制御部68は、燃料電池システム15に係る制御の全てを一体で行なうのではなく、ガス残量の管理に係る制御を含む個々の制御をそれぞれ別体の制御部(ECU:Electronic Control Unit)で行うこととして、各ECU間で情報をやり取りするように構成してもよい。
【0017】
B.減圧弁について:
図2は、減圧弁50の内部構成を模式的に示す説明図である。減圧弁50は、一次導入路20と、一次室24と、連通路25と、二次室26と、二次排出路22と、大気圧室28と、大気開放路29と、弁体70と、貫通部73と、ピストン74と、シール部78と、第1スプリング72と、第2スプリング76と、を備える。
【0018】
一次導入路20は、水素タンク60と連通するように、供給配管30に接続されている。一次室24は、減圧弁50の内部において一次導入路20に連通して設けられ、水素タンク60から吐出される水素が流入する空間である。一次室24の外壁は、円筒状に形成されている。連通路25は、一次室24に連続して設けられ、円筒状の外壁を有し、一次室24よりも内径が小さく形成されている。二次室26は、連通路25に連続して設けられ、連通路25を介して一次室24から水素が減圧されつつ流入する空間であり、連通路25よりも内径が大きな円筒状の外壁内に形成されている。二次排出路22は、二次室26に連通して設けられ、インジェクタ部52と連通するように、供給配管30に接続されている。大気圧室28は、二次室26と共通する円筒状の外壁内に形成される空間であり、ピストン74によって二次室26と区画されている。大気開放路29は、大気圧室28を、減圧弁50の外部に連通させて、大気圧室28を大気開放する。図2では、一次室24、連通路25、二次室26、および大気圧室28に共通する中心線を、減圧弁50の軸線Oとして表わしている。軸線Oに平行な方向を、「軸線方向」あるいは「特定方向」とも呼ぶ。
【0019】
弁体70は、一次室24内に配置されて、一次室24内で軸線方向に往復移動し、一次室24の外壁の内側における連通路25との境界に対して当接と離間とを繰り返して、連通路25を開閉する。軸線方向において、連通路25が開くときの弁体70の移動方向を「開方向」とも呼び、連通路が閉じるときの弁体70の移動方向を「閉方向」とも呼ぶ。弁体70における連通路25に対向する先端部は、二次室26側に向かって一定の傾きで縮径する円錐台形状を有している。貫通部73は、弁体70に連続して設けられ、連通路25を貫通するように配置され、中心軸が軸線Oと重なる円柱形状を有し、軸線方向に垂直な断面の直径が、連通路25の内径よりも小さく形成されている。ピストン74は、貫通部73に連続して設けられ、二次室26および大気圧室28が形成される円筒状の外壁内に配置され、中心軸が軸線Oと重なる円柱形状を有し、軸線方向に垂直な断面の直径が、上記円筒状の外壁の内径よりも若干小さく形成されている。シール部78は、ピストン74の側面に固定されたリング状の部材である。シール部78は、上記円筒状の外壁内においてピストン74が軸線方向に摺動することを許容しつつ、上記円筒状の外壁の内側と接触し、二次室26と大気圧室28との間をシールする。連通路25の開閉時には、弁体70と貫通部73とピストン74とが一体で、軸線方向に往復移動する。
【0020】
第1スプリング72は、一次室24内において、一次室24の外壁と弁体70とに接続して設けられており、弁体70を閉方向に付勢する。第2スプリング76は、大気圧室28において、大気圧室28の外壁とピストン74とに接続して設けられており、ピストン74を開方向に付勢する。
【0021】
減圧弁50においては、弁体70が連通路25を閉じる閉方向に働く力として、第1スプリング72が弁体70を閉方向に付勢する力であるFk1と、一次室24にかかる減圧弁50の一次側の圧力(以下、一次圧Pとも呼ぶ)が弁体70を閉方向に押す力であるFPHと、二次室26にかかる減圧弁50の二次側の圧力(以下、二次圧Pとも呼ぶ)がピストン74を閉方向に押す力であるFPLと、が存在する。また、減圧弁50においては、弁体70が連通路25を開く開方向に働く力として、第2スプリング76がピストン74を開方向に付勢する力であるFk2と、大気圧室28にかかる大気圧がピストン74を開方向に押す力であるFatmと、が存在する。また、減圧弁50においては、弁体70と貫通部73とピストン74とが一体で軸線方向に往復移動する際に、移動の方向に応じて向きが変わる力として、二次室26および大気圧室28の外壁の内部とシール部78との間の摩擦力Fμが生じる。
【0022】
減圧弁50は、上記した閉方向に働く力の合計と、開方向に働く力の合計とが釣り合うように動作することで、一次室24に流入した高圧のガスを減圧して二次室26に流す。例えば、弁体70が連通路25を閉じると、一次室24からの高圧ガスの流入がなくなることにより二次室26の圧力が低下し、閉方向に働く力FPLが小さくなる。その結果、閉方向に働く力の合計よりも開方向に働く力の合計の方が大きくなり、弁体70等が開方向に移動して連通路25が開かれる。すると、二次室26の圧力が上昇して、閉方向に働く力FPLが大きくなる。その結果、閉方向に働く力の合計の方が開方向に働く力の合計よりも大きくなり、弁体70等が閉方向に移動して連通路25が閉じられる。
【0023】
本実施形態の減圧弁50は、ピストン式の非バランス式減圧弁である。バランス式減圧弁では二次圧が一定に調節されるのに対し、非バランス式減圧弁では、一次圧の増加に伴い二次圧が変化する。すなわち、非バランス式減圧弁とは、一次圧の増加に伴い二次圧が増加あるいは減少する性質を示す減圧弁である。本実施形態の減圧弁50は、一次圧の増加に伴い、減圧弁50の二次側の流量がゼロのときの二次圧が減少する。減圧弁50において、二次室26から排出されるガスの流量である二次流量(以下、二次流量Qとも呼ぶ)を変化させると、二次圧Pと二次流量Qとの間には、一定の関係が成り立つ。具体的には、二次流量Qが増加するほど二次圧Pが低下する。
【0024】
図3は、減圧弁50の二次流量と二次圧との関係を表わす説明図である。図3において、横軸は二次流量Qを表わし、縦軸は二次圧Pを表わす。図3に示すように、減圧弁50の二次流量Qと二次圧Pとの関係は、一次関数で近似することができる。このような二次流量Qと二次圧Pとの関係は、減圧弁50の一次圧Pによって変化する。図3では、二次流量Qと二次圧Pとの関係として、減圧弁50の一次圧Pが5.0MPaの場合と、2.0MPaの場合とを例示している。図3に示すように、一次圧Pが低いほど、二次流量Qの変化量に対する二次圧Pの変化量の傾きが大きくなる。これは、一次圧Pが低圧になるほど、一次室24から二次室26へのガス供給能力が低下して、二次流量Qの変動に対する二次圧Pの変動の感度が高まるためと考えられる。
【0025】
本実施形態の燃料電池システム15では、一次圧Pが低圧になるほど、二次流量Qの変動に対する二次圧Pの変動の感度が高まるという上記した性質を利用して、減圧弁50の一次圧Pを推定している。具体的には、まず、一次圧Pごとに、二次流量Qと二次圧Pとの関係を求めておく。そして、二次流量Qを、第1流量と、第1流量とは異なる第2流量との間で変更させ、二次流量Qが第1流量のときの二次圧Pである第1圧力と、二次流量Qが第2流量のときの二次圧Pである第2圧力と、を検出する。そして、第1流量、第2流量、および、第1圧力と第2圧力との差分、の関係を用いて、一次圧Pを推定している。
【0026】
例えば、図3において、減圧弁50の一次圧Pが5.0MPaの場合には、二次流量Qが0のときの二次圧P2はPa0となり、二次流量QがQに増加したときの二次圧PはPa1となる。そのため、二次流量Qが0からQに増加したときの二次圧Pの変化量ΔPは、「Pa0-Pa1」と表わすことができる。また、図3において、減圧弁50の一次圧Pが2.0MPaの場合には、二次流量Qが0のときの二次圧P2はPb0となり、二次流量QがQに増加したときの二次圧PはPb1となる。そのため、二次流量Qが0からQに増加したときの二次圧Pの変化量ΔPは、「Pb0-Pb1」と表わすことができる。このように、一次圧Pごとの、二次流量Qと二次圧Pとの関係が予め分かっていれば、二次流量Qが0からQに増加したときの二次圧Pの変化量から、一次圧Pを推定することができる。
【0027】
本実施形態の燃料電池システム15は、減圧弁50の一次圧Pを種々変更したときの二次流量Qと二次圧Pとの関係を、予め制御部68内の記憶部に記憶している。図3に示したような、一次圧Pごとの二次流量Qと二次圧Pとの関係は、例えば、実験により求めることとしてもよく、あるいは、シミュレーションにより求めてもよい。また、図2に示したように、減圧弁50においては、閉方向に働く力であるFk1、FPH、およびFPLの合計と、開方向に働く力であるFk2とFatmとの合計と、シール部78による摩擦力Fμと、が釣り合うように動作している。そのため、これらの力の関係から、二次圧Pと、一次圧Pおよび二次流量Qとの関係は、例えば、以下に(1)式として示す近似式により表わすことができる。このようにして求めた上記関係は、例えば、マップとして記憶しておけばよい。
【0028】
【数1】
【0029】
なお、(1)式において、Patmは、大気圧である。kは、第1スプリング72のばね定数である。kは、第2スプリング76のばね定数である。Sは、連通路25における軸線方向に垂直な断面の断面積である。Sは、二次室26における軸線方向に垂直な断面の断面積である。Fk1は、第1スプリング72が弁体70を閉方向に付勢する力である。Fk2は、第2スプリング76がピストン74を開方向に付勢する力である。Fμは、ピストン74が摺動する際の摩擦力である。Tは、減圧弁50を流れるガスの温度である。Dは、連通路25における軸線方向に垂直な断面の直径である。αは、連通路25を通過してガスが流れる際の有効流路の縮流係数である。βは、連通路25に対向する弁体70の先端部が軸線方向に垂直な断面との間で成す角度である(図2参照)。
【0030】
C.タンク圧の検出を伴う制御:
図4は、本実施形態の燃料電池システム15の制御部68で実行されるタンク残量監視処理ルーチンを表わすフローチャートである。燃料電池システム15では、水素タンク60の残量を監視して、水素タンク60の残量が、予め定めた下限値を下回らないように、水素の使用状態が制御される。本ルーチンは、燃料電池システム15を始動される指示が入力されたとき、具体的には、燃料電池車両のスタートスイッチ(図示せず)が押されたときに起動されて、燃料電池システム15の稼働中に実行される。
【0031】
図4の残量監視処理ルーチンが起動されると、制御部68のCPUは、高圧センサである第2圧力センサ40の検出値Pを取得する(ステップS100)。そして、制御部68のCPUは、取得した検出値Pと、予め定めた第1使用時下限圧PH1とを比較する(ステップS110)。第2圧力センサ40の検出値Pは、減圧弁50の一次圧Pであって、供給配管30に水素を吐出する水素タンク60の内部の圧力を示す。第1使用時下限圧PH1とは、水素タンク60の残量が低下したことを判断するための値として予め設定された値である。この第1使用時下限圧PH1は、後述する第2使用時下限圧PH2および第3使用時下限圧PH3よりも、大きな値として設定されている。
【0032】
燃料電池システム15が始動されて燃料電池66が発電を開始すると、水素タンク60内の水素が消費されて水素タンク60内の圧力が次第に低下し、第2圧力センサ40の検出値Pが次第に低下する。第2圧力センサ40の検出値Pが第1使用時下限圧PH1よりも大きいときには(ステップS110:NO)、制御部68のCPUは、検出値Pが第1使用時下限圧PH1に低下するまで、ステップS100およびステップS110の動作を繰り返す。
【0033】
第2圧力センサ40の検出値Pが第1使用時下限圧PH1以下であると判断すると(ステップS110:YES)、制御部68のCPUは、燃料電池66に対する水素の供給を行ないつつ、燃料電池66による水素の使用量を制限するように制御を変更する(ステップS120)。例えば、燃料電池66からの出力(燃料電池66が発電する電力)を、通常発電値の最大値の80%以下に制限するように、制御変更する。ステップS100~ステップS120の動作は必須ではないが、水素タンク60における水素残量がある程度低下したときにガスの使用を制限することにより、燃料電池66が発電可能である時間や燃料電池車両が走行可能である時間を延ばすことができるため望ましい。ガスの使用を制限する際には、ガスの使用や燃料電池出力が制限されていることを、燃料電池システム15の使用者が認識可能となるように、表示や音声により報知することが望ましい。
【0034】
その後、制御部68のCPUは、第2圧力センサ40の検出値Pを取得し(ステップS130)、取得した検出値Pと、予め定めた第2使用時下限圧PH2とを比較する(ステップS140)。水素タンク60においては、タンク内の圧力の下限値として、既述した最低許容圧力が定められている。そして、最低許容圧力に対して、第2圧力センサ40の検出感度に起因する誤差を加味して、第2使用時下限圧PH2が定められている。すなわち、第2圧力センサ40の検出値Pが第2使用時下限圧PH2を下回らないようにすれば、水素タンク60内の圧力の真の値が最低許容圧力を下回らないように、最低許容圧力に対して余裕を持たせた値として、第2使用時下限圧PH2が設定されている。第2圧力センサ40の検出値Pが第2使用時下限圧PH2よりも大きいときには(ステップS140:NO)、制御部68のCPUは、検出値Pが第2使用時下限圧PH2に低下するまで、ステップS130およびステップS140の動作を繰り返す。
【0035】
第2圧力センサ40の検出値Pが第2使用時下限圧PH2以下であると判断すると(ステップS140:YES)、制御部68のCPUは、中圧センサである第1圧力センサ42の検出値Pを用いて、減圧弁50の一次圧Pを推定する動作を行なう(ステップS150)。第1圧力センサ42の検出値Pは、減圧弁50の二次圧Pを示す。ステップS150では、図3を用いて説明したように、二次流量Qを、第1流量と、第1流量とは異なる第2流量との間で変更させ、二次流量Qが第1流量のときの二次圧Pである第1圧力と、二次流量Qが第2流量のときの二次圧Pである第2圧力と、の差分を求めて、減圧弁50の一次圧Pを推定する。
【0036】
図3に示すように、二次流量Qが第1流量のときの二次圧Pである第1圧力と、二次流量Qが第2流量のときの二次圧Pである第2圧力と、の差分は、第1流量と第2流量の差が大きいほど大きくなる。そして、第1圧力と第2圧力との差分が大きいほど、減圧弁50の一次圧Pを推定する感度を高めることができる。本実施形態では、流量変更部であるインジェクタ部52によって、二次流量Qを変更することができる。そこで、本実施形態では、変更前の二次流量Qである第1流量は、インジェクタ部52によって変更される二次流量Qの最小流量としており、変更後の二次流量Qである第2流量は、インジェクタ部52によって変更される二次流量Qの最大流量としている。具体的には、インジェクタ部52が備える全てのインジェクタを閉弁したとき、すなわち、流量0を、変更前の流量である第1流量としている。また、インジェクタ部52が備える全てのインジェクタを開弁したときの二次流量Qを、変更後の流量である第2流量としている。第1圧力センサ42を用いて、まず、全てのインジェクタを閉弁した状態で第1圧力センサ42の検出値Pを取得し、その後、全てのインジェクタを開弁して第1圧力センサ42の検出値Pを取得する。そして、二次流量Qの変更の前後における検出値Pの差分を求め、既述したマップを参照して、減圧弁50の一次圧Pを推定する。すなわち、既述したマップを参照して、二次流量Qの変更の前後における第1圧力センサ42の検出値Pの差分が実現されるときの一次圧Pを特定することにより、減圧弁50の一次圧Pを推定する。
【0037】
例えば、変更前の二次流量Qである第1流量がゼロであり、変更後の二次流量Qである第2流量が図3に示す流量Qである場合に、制御部68のCPUは、算出した上記差分がΔPの値と等しければ、減圧弁50の一次圧Pは5.0MPaであると推定する。そして、上記差分がΔPの値と等しければ、減圧弁50の一次圧Pは2.0MPaであると推定する。
【0038】
減圧弁50の一次圧Pを推定すると、制御部68のCPUは、推定した一次圧Pと、予め定めた第3使用時下限圧PH3とを比較する(ステップS160)。第3使用時下限圧PH3とは、水素タンク60の既述した最低許容圧力に対して、第1圧力センサ42の検出感度に起因するタンク圧の推定誤差を加味して定めた値である。すなわち、第1圧力センサ42の検出値Pを用いて推定した一次圧Pが第3使用時下限圧PH3を下回らないようにすれば、水素タンク60内の圧力の真の値が最低許容圧力を下回らないように、最低許容圧力に対して余裕を持たせた値として、第3使用時下限圧PH3が設定されている。第1圧力センサ42は減圧弁50で減圧されたガスを検出対象とするため、第1圧力センサ42としては、減圧弁50の上流に設けられた第2圧力センサ40よりも、検出レンジが狭く検出感度が高い圧力センサが用いられている。そのため、第3使用時下限圧PH3は、既述した第2使用時下限圧PHよりも、最低許容圧力に対するセンサの誤差を加味した上乗せ分が小さく、第2使用時下限圧PHよりも小さな値が設定されている。第3使用時下限圧PH3は、「基準圧力」とも呼ぶ。一次圧Pの推定値が第3使用時下限圧PH3よりも大きいときには(ステップS160:NO)、制御部68のCPUは、一次圧Pの推定値が第3使用時下限圧PH3に低下するまで、ステップS150およびステップS160の動作を繰り返す。
【0039】
一次圧Pの推定値が第3使用時下限圧PH3以下であると判断すると(ステップS160:YES)、制御部68のCPUは、ガスの使用を禁止して、すなわち、燃料電池66における水素を用いた発電を禁止して(ステップS170)、本ルーチンを終了する。燃料電池66の発電を禁止する際には、制御部68のCPUは、インジェクタ部52を通じた燃料電池66への水素の供給を停止する。
【0040】
ステップS170でガスの使用を禁止した後は、燃料電池システム15を搭載する燃料電池車両においては、燃料電池66以外の駆動用電源(例えば二次電池等の蓄電装置)のみを用いた走行が可能になる。また、ステップS170においてガスの使用を禁止する際には、水素ガスの使用や燃料電池による発電が行なわれないことを、燃料電池システム15の使用者が認識可能となるように、表示や音声により報知することが望ましい。
【0041】
以上のように構成された本実施形態の燃料電池システム15によれば、減圧弁50の二次流量Qを、第1流量と第2流量との間で変更させ、二次流量Qが第1流量のときの二次圧Pである第1圧力を示す第1圧力センサ42の検出値Pと、二次流量Qが第2流量のときの二次圧Pである第2圧力を示す第1圧力センサ42の検出値Pと、の差分を求めて、減圧弁50の一次圧Pを推定している。すなわち、水素タンク60の残量が減少したときには、高圧センサである第2圧力センサ40の検出値Pに代えて、検出レンジが狭く検出感度が高い中圧センサである第1圧力センサ42の検出値Pを用いて、減圧弁50の一次圧Pを推定している。そのため、一次圧Pの真の値に対するバラツキを抑えた推定値を得て、一次圧Pの検出精度を高めることができる。
【0042】
特に、水素タンク60の残量が減少して、一次圧Pがタンク圧の下限値に近づいて比較的小さい値となったときには、図3に示すように、二次流量Qを変化させたときの二次圧Pの変化量が大きくなる。そのため、検出レンジが狭く検出感度が高い中圧センサである第1圧力センサ42を用いて、上記二次圧Pの変化量を測定することにより、一次圧Pを精度良く推定することができる。その結果、推定した一次圧Pを水素タンク60のタンク圧として水素タンク60の残量を判断する際に、推定したタンク圧が下限値(第3使用時下限圧PH3)に低下したと判断する時点における、タンク圧の真の値の下限値(最低許容圧力)に対する過剰分を、抑えることができる。そして、水素タンク60内の水素を、より多く使用可能となるため、燃料電池システム15を搭載する燃料電池車両の航続距離を伸ばし、燃費を向上させることができる。
【0043】
D.他の実施形態:
(D1)上記実施形態では、図3に示すように、取り得る二次流量Qの値に対応する二次圧P2の値を、一次圧P1毎に求めたマップを用いているが、異なる構成としてもよい。二次流量Qを、第1流量と、第1流量とは異なる第2流量との間で変更させ、二次流量Qが第1流量のときの二次圧Pである第1圧力と、二次流量Qが第2流量のときの二次圧Pである第2圧力と、の差分を求めて、第1流量、第2流量、および、上記差分の関係を用いて、一次力Pを推定できればよい。例えば、二次流量Qが第1流量のときの二次圧Pである第1圧力と、二次流量Qが第2流量のときの二次圧Pである第2圧力と、の差分と、一次圧Pとの対応関係のみをマップとして記憶してもよい。あるいは、二次流量Qが第1流量から第2流量に増加するのに伴って二次圧Pが低下するときの変化量の傾きと、一次圧Pとの対応関係のみをマップとして記憶してもよい。
【0044】
(D2)上記実施形態では、一次圧Pを推定するために二次流量Qを変更する際の第1流量は、流量変更部によって変更される二次流量Qの最小流量としており、第2流量は、流量変更部によって変更される二次流量の最大流量としているが、異なる構成としてもよい。減圧弁50の二次流量Qを、第1流量と、第1流量とは異なる第2流量との間で変更させて、それぞれの流量に対応する二次圧Pを検出すれば、同様にして一次圧Pを推定することができる。ただし、推定の精度を向上させるためには、第1流量と第2流量の差が大きい方が望ましい。
【0045】
(D3)上記実施形態では、流量変更部を、複数のインジェクタを備えるインジェクタ部52としたが、異なる構成としてもよい。流量変更部は、減圧弁50の二次側の流量を、第1流量と、第1流量とは異なる第2流量との間で変更可能であればよい。例えば、下流側に流すガス流量を任意の流量に調節可能な流量調整弁によって流量変更部を構成してもよい。実施形態で用いたインジェクタ部52は、インジェクタが閉状態から開状態に変更する動作によって、すなわち、二次流量Qの増加を伴う動作によって、流量制御を行なうが、二次流量Qの減少を伴う動作によって流量制御する流量変更部を用いてもよい。この場合には、ステップS150において、二次流量Qを第1流量と第2流量との間で変更させる際に、二次流量Qを増加させるのではなく減少させて、減圧弁50の一次圧Pを推定すればよい。すなわち、二次流量Qの変化前の流量である第1流量よりも、変化後の流量である第2流量を、少なくすればよい。このとき、減圧弁50において、二次流量Qと二次圧Pとの関係を示す特性が、二次流量Qを減少させる場合と増加させる場合とで異なるならば、例えば、ステップS150で用いるマップとして、二次流量Qの増減の態様に応じたマップを用意すればよい。
【0046】
(D4)既述した(1)式に示したように、減圧弁50において二次圧Pや二次流量Qと一次圧Pとの関係は、ガス温度の影響を受ける。そのため、例えば、ステップS150で用いるマップとして、さらにガス温度をパラメータとして有するマップを用いてもよい。この場合には、燃料電池システム15において、減圧弁50を流れる水素の温度を検出する温度センサをさらに設けて、ステップS150において一次圧Pを推定する際には、さらに、上記温度センサが検出したガス温度を用いることとしてもよい。
【0047】
(D5)実施形態では、減圧弁50は、ピストン式の非バランス式減圧弁としたが、異なる構成としてもよい。減圧弁50は、一次圧の増加に伴い二次圧が変化する非バランス式減圧弁であればよく、例えば、ダイヤフラム式減圧弁であってもよい。また、直動式減圧弁やパイロット式減圧弁など、種々の態様を採用可能である。
【0048】
(D6)実施形態では、ステップS170において、燃料電池66における水素を用いた発電を禁止して、燃料電池66に対する水素の供給を停止しているが、異なる構成としてもよい。すなわち、ステップS170では、燃料電池66に対して供給する水素の流量を制限すればよく、燃料電池66に対する水素の供給の停止に限らず、燃料電池66に対して供給する水素の流量および燃料電池66における発電量の上限値を、さらに減少させるように制御変更してもよい。
【0049】
(D7)実施形態では、燃料電池システム15がガス供給システム10を備えることとしたが、異なる構成としてもよい。例えば、燃料電池66以外の水素消費装置、例えば、水素エンジンを備えるシステムにおいて、水素消費装置に水素を供給するためにガス供給システム10を用いることとしてもよい。また、ガス供給システム10が備えるガスタンクに蓄えるガスは、水素以外のガスであってもよい。ガス消費装置に対してガスを供給するガス供給システムにおいて、ガスタンクとガス消費装置とを接続するガス供給路に、非バランス式減圧弁とガスセンサとを、ガス流れの上流側からこの順序で配置することで、同様の動作を行ない、同様の効果を得ることができる。
【0050】
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
10…ガス供給システム、15…燃料電池システム、20…一次導入路、22…二次排出路、24…一次室、25…連通路、26…二次室、28…大気圧室、29…大気開放路、30…供給配管、40…第2圧力センサ、42…第1圧力センサ、50…減圧弁、52…インジェクタ部、60…水素タンク、62…口金、66…燃料電池、68…制御部、70…弁体、72…第1スプリング、73…貫通部、74…ピストン、76…第2スプリング、78…シール部
図1
図2
図3
図4