(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】状態監視装置および状態監視方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20220913BHJP
【FI】
G05B23/02 302W
G05B23/02 T
(21)【出願番号】P 2019238363
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390010054
【氏名又は名称】コイト電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】工藤 拓道
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-170326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両を構成する複数の機器に関する指定された駅間の動作情報を取得する取得部と、
前記動作情報の所定時間分の集計値を前記複数の機器ごとに算出する集計部と、
前記集計値を前記複数の機器ごとに階調処理する階調処理部と、
前記階調処理部の出力に基づき、正常時における前記複数の機器の動作情報の前記所定時間分の集計値を基準として、異常と判定される動作情報を含む機器を抽出する判定部と
を具備する状態監視装置。
【請求項2】
鉄道車両を構成する複数の機器に関する指定された駅間の動作情報を取得する取得部と、
前記動作情報の所定時間分の集計値を前記複数の機器ごとに算出する集計部と、
前記集計値を前記複数の機器ごとに階調処理する階調処理部と、
前記階調処理部の出力に基づき、過去の動作時における前記複数の機器の動作情報の前記所定時間分の集計値を基準として、
異常と判定される動作情報を含む機器を抽出する判定部と
を具備する状態監視装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の状態監視装置であって、
前記階調処理部は、前記集計値のヒートマップデータを生成する
状態監視装置。
【請求項4】
請求項3に記載の状態監視装置であって、
前記複数の機器に関する前記集計値のヒートマップデータを一方向に配列させた画像情報を生成する画像生成部をさらに具備する
状態監視装置。
【請求項5】
請求項4に記載の状態監視装置であって、
前記画像生成部は、前記複数の機器に関する前記集計値のヒートマップデータを任意の数ずつ前記一方向と直交する方向へ折り返した画像情報を生成する
状態監視装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つに記載の状態監視装置であって、
前記集計部は、横方向に車両、縦方向に前記複数の機器、または縦方向に車両、横方向に前記複数の機器で分類された集計値のデータを生成する
状態監視装置。
【請求項7】
状態監視装置によって実行される状態監視方法であって、
鉄道車両を構成する複数の機器に関する指定された駅間の動作情報を取得し、
前記動作情報の所定時間分の集計値を前記複数の機器ごとに算出し、
前記集計値を前記複数の機器ごとに階調処理し、
階調処理
した出力に基づき、正常時における前記複数の機器の動作情報の前記所定時間分の集計値を基準として、異常と判定される動作情報を含む機器を抽出する
状態監視方法。
【請求項8】
状態監視装置によって実行される状態監視方法であって、
鉄道車両を構成する複数の機器に関する指定された駅間の動作情報を取得し、
前記動作情報の所定時間分の集計値を前記複数の機器ごとに算出し、
前記集計値を前記複数の機器ごとに階調処理し、
階調処理
した出力に基づき、過去の動作時における前記複数の機器の動作情報の前記所定時間分の集計値を基準として、異常と判定される動作情報を含む機器を抽出する
状態監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄道車両の異常検知に適用可能な状態監視装置および状態監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機器の異常を検知する方法として、当該機器の正常時と異常時の動作を比較して異常パタンを見つける方法が広く用いられている。例えば特許文献1には、設備機器の出力データを処理するデータ処理手段より出力される動作ログをログパタン表に加工し、ログパタン表と正常動作時のログパタン表とを比較することで監視プログラムの動作状態が正常か異常かを判定し、その結果を表示手段に送信する監視システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、機器を構成する複数の機構部の動作ログパタンを個々に分析して正常か異常かを判断する手法は、機構部の数が多いほど計算量が膨大となるため、迅速に結果を出すことができなくなる。例えば、鉄道車両の異常を検知するに際しては、車両が正常か否かの判断を迅速に行うことが要求されるが、車両には複数の機構部が搭載され、機構部ごとに複数の検知項目を持ち、項目ごとに時系列データが生成されることから、データに対し個々に分析を行う既存の方法では迅速な判定が容易ではない。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、機器の動作状態の異常の有無の判断を容易に行うことができる状態監視装置および状態監視方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る状態監視装置は、取得部と、集計部と、階調処理部とを具備する。
前記取得部は、複数の機器に関する指定された条件に合致した範囲の動作情報を取得する。
前記集計部は、前記動作情報の所定時間分の集計値を前記複数の機器ごとに算出する。
前記階調処理部は、前記集計値を前記複数の機器ごとに階調処理する。
【0007】
上記状態監視装置においては、各機器の動作情報の所定時間分の集計値をもとに異常の有無の判定に必要な情報を提示するように構成されているため、項目ごとの値の近似で機器が正常かどうかを容易に判断することができる。
【0008】
前記階調処理部は、前記集計値のヒートマップデータを生成するように構成されてもよい。ヒートマップデータの値は階調もしくは色相で表現する。
【0009】
前記状態監視装置は、前記複数の機器に関する前記集計値のヒートマップデータを一方向に配列させた画像情報を生成する画像生成部をさらに具備してもよい。
【0010】
前記画像生成部は、前記複数の機器に関する前記集計値のヒートマップデータを任意の数ずつ前記一方向と直交する方向へ折り返した画像情報を生成するように構成されてもよい。
【0011】
前記状態監視装置は、前記階調処理部の出力に基づき、異常と判定される動作情報を含む機器を抽出する判定部をさらに具備してもよい。
【0012】
前記判定部は、正常時における前記複数の機器の動作情報の前記所定時間分の集計値を基準として、前記異常と判定される動作情報を含む機器を抽出するように構成されてもよい。
【0013】
あるいは、前記判定部は、過去の動作時における前記複数の機器の動作情報の前記所定時間分の集計値を基準として、前記異常と判定される動作情報を含む機器を抽出するように構成されてもよい。
【0014】
前記複数の機器は、鉄道車両を構成する機器であってもよい。
【0015】
前記集計部は、横方向に車両、縦方向に前記複数の機器で分類された集計値のデータを生成するように構成されてもよい。
【0016】
本発明の一形態に係る状態監視方法は、複数の機器に関する一定時間のごとの動作情報を取得することを含む。
前記動作情報の所定時間分の集計値が前記複数の機器ごとに算出される。
前記集計値が前記複数の機器ごとに階調処理される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、機器の動作状態の異常の有無の判断を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る状態監視装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】動作履歴のデータ構造の一例を示す図である。
【
図3】上記状態監視装置の集計部において実行される処理を説明する模式図である。
【
図7】集計値データの基準データとの比較方法を説明する図である。
【
図8】集計値データの基準データとの比較方法を説明する図である。
【
図9】上記状態監視装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図11】上記状態監視装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図13】上記状態監視装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図15】上記状態監視装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る状態監視装置100の構成を示すブロック図である。本実施形態において状態監視装置100は、監視対象である鉄道車両の異常の有無を監視する状態監視システムへの適用例について説明する。
【0021】
[状態監視装置]
図1に示すように状態監視装置100は、取得部101と、集計部102と、階調処理部103と、画像生成部104と、判定部105とを有する。
状態監視装置100は、CPU(Central Processing Unit)等の演算装置とメモリとを有するコンピュータで構成され、取得部101、集計部102、階調処理部103、画像生成部104および判定部105は、当該CPUの機能ブロックとしてそれぞれ構成される。
【0022】
状態監視装置100は、鉄道車両に設置されてもよいし、鉄道車両の車庫、管制センター等に設置されてもよい。
【0023】
取得部101は、図示しない鉄道車両を構成する複数の機器A,B,C,Dの動作情報を取得する。機器の数は特に限定されないが、本実施形態では4つの機器A~Dを例に挙げて説明する。
【0024】
取得部101は、有線または無線により機器A~Dから動作情報を取得可能な通信機器を含んでもよい。取得部101は、機器A~Dから取得した動作情報をデータベース101に蓄積する。また、取得部101は、データベース101に蓄積した機器A~Dの動作情報を読み出すことが可能に構成される。
【0025】
ここで、動作情報とは、指定された条件に合致した範囲の動作情報をいう。本実施形態では、鉄道車両を構成する各機器A~Dの所定の複数の項目に関する一定時間ごとの動作情報であり、以下、動作履歴ともいう。機器A~Dとしては、ブレーキやマスコン、コンプレッサ、空調装置、各種スイッチ等の搭載機器あるいは操作機器を意味し、単一の車両内の機器だけでなく、列車を構成する各車両の機器をも含む。また、機器A~Dのそれぞれには、異常の有無を検知すべき複数の項目を有する。
【0026】
図2に、動作履歴のデータ構造の一例を示す。
動作情報は、時刻情報と、編成情報と、状態情報で構成される。
編成情報は、編成としての情報であって、運行情報、速度、距離などを含む。
状態情報は、車両ごとのスイッチのON/OFF、ブレーキなどの搭載機器の状態である。状態情報の内容は、典型的には、ON(1)/OFF(0)のデジタル値である。スイッチのON/OFFだけでなく、車両搭載機器から送信される通信情報内のビットON/OFFであってもよい。これにより、値でしきい値判定できない(0か1しかない)デジタル値に対して、しきい値判定が可能となる。
なお、状態情報は、デジタル値に限られず、任意の値をとるアナログ値であってもよい。アナログ値の場合、しきい値と現在値の比較で判定ができる。
【0027】
図2に示す編成情報のすべてが監視対象とされてもよいし、その一部の情報のみが監視対象とされてもよい。本実施形態では、例えば、編成情報として、日時、列車番号、後方駅および次駅の情報が抽出される。
【0028】
ここで、日時とは、車両動作情報の日時である。
列車番号とは、鉄道のダイヤにおいて個々の列車に与えられる数字および記号であって、運転業務において列車を区別するための識別子である。走行開始時間、種別(普通、快速など)などで分けられ、1運行の区切りとなる。同じ駅間で走行していても、列番が違えば別の時間・種別の運用であると区別される。
後方駅とは、走行中の車両から見て後方に位置する駅をいう。
次駅とは、走行中の車両から見て次に停車する駅をいう。
【0029】
集計部102は、上記動作情報の所定時間分の集計値を複数の機器ごとに算出する。所定時間分の集計値としては、本実施形態では、後方駅から次駅までの走行時間分の集計値である。
図3は、集計部102において実行される処理を説明する模式図である。
【0030】
図3において横方向には、所定の機器における項目が示され、縦方向には、一定時間(例えば1秒)間隔で取得した各項目の動作情報を表すデジタルデータが示される。項目としては、例えば、「力行4線」および「力行5線」は、マスコンの操作状態を表しており、「281線」、「282線」、「283線」および「284線」は、ブレーキの強さを表しており、「1」はON、「0」はOFFにそれぞれ相当する。
【0031】
集計部102は、後方駅Aと次駅Bの駅間ごとに動作情報を抽出し、項目ごとに集計する。動作情報はON「1」およびOFF「0」の記録であるため、「1」を集計すると回数を算出できる。サンプリング周期は本例では1秒であるため、当該回数は、動作時間となる。したがって、正常運行時の集計値データを基準データとすれば、動作情報の集計値データを基準データと比較することで、正常か否かの判断が可能となる。
【0032】
図2に示すように、項目は横方向に配置されるため、項目数が1万になると、未加工状態の集計値データが1行1万列の横方向に長いデータとなり、扱いにくくなる。そこで、集計部102は、
図4に示すように、車両ごと、あるいは機器ごとに項目を分類して、集計値データを所定の数ずつ縦方向へ折り返すことで横方向のデータ数を圧縮する。
【0033】
このような折り返し処理を繰り返した結果の一例を
図5に示す。
図5に示すように、各項目の集計値データは、横方向に車両、縦方向に機器A~Dで分類された集計値データが一目で確認しやすい形に再配置される。この例では、1行に1機器8項目の集計値データが10両分、つまり、80列かける125行の計10000列分の集計値データが2次元的に配置される。なお、上記の例に限られず、各項目の集計値データは、縦方向に車両、横方向に機器A~Dで分類された集計値データが生成されてもよい。
【0034】
階調処理部103は、再配置された集計値データを複数の機器A~Dごとに階調処理する。本実施形態において階調処理部103は、
図5に示す10000列分の集計値データを所定ビット数で階調処理したときのヒートマップデータに変換する。
【0035】
画像生成部104は、階調処理部103において生成されたヒートマップデータに基づき、
図6に示すような二次元画像を生成する。ヒートマップデータの値は、階調もしくは色相で表現される。
図6では、集計値データの数値が大きいほど色を濃くしているが、これに限られず、集計値データの数値が大きいほど色を薄くしてもよい。
【0036】
画像生成部104は、複数の機器A~Dに関する集計値データのヒートマップデータを一方向(横方向)に配列させた画像情報を生成する。特に本実施形態では、
図6に示すように、複数の機器A~Dに関する集計値データのヒートマップデータを任意の数ずつ一方向(横方向)と直交する方向(縦方向)へ折り返した画像情報を生成する。画像生成部104は、生成した画像情報を表示部20(
図1参照)へ出力し、表面部20の画面に表示させる。
【0037】
このように車両ごとに機器A~Dに関する動作情報を
図6に示すようなヒートマップ画像として表示することで、各機器の動作状況を一目で把握することができる。
図6に示す二次元画像の各座標位置には、所定の機器の所定の項目が紐づいて表示されるため、異常と推定される項目を速やかに探知することができる。
【0038】
また、当該鉄道車両の正常運行時における同様なヒートマップ画像を基準データとして用意しておくことで、今回取得されたヒートマップ画像を基準データと比較しながら各機器の動作状況を確認することができる。
【0039】
例えば
図7に、基準データの画像と今回データの画像とを比較して示す。これらの結果より、今回データは、基準データと比較して、1両目の機器Aについては動作回数が過少傾向にあり、1両目の機器Bについては動作回数が過大傾向にある。また、3両目の機器Aについては、動きがない項目が散見される。これら2つのデータから、各機器A~Dの異常の有無に関する情報をユーザへ提供することができる。
【0040】
判定部105は、階調処理部103の出力に基づき、異常と判定される動作情報を含む機器を抽出する。例えば、判定部105は、
図7の左に示した正常時における各機器A~Dの動作情報の上記所定時間分の集計値(基準データ)を基準として、異常と判定される動作情報を含む機器を抽出する。なお判定部105は、必要に応じて省略されてもよい。
【0041】
判定部による異常項目の抽出方法は特に限定されず、例えば、基準データとの比較から、階調度に所定以上の差分を有する項目のみが
図6に示す二次元座標の対応する位置に所定の階調度で表示されてもよいし、上記差分に応じた階調度で上記二次元座標の対応する位置に表示されてもよい。
【0042】
なお、基準データは、正常時における機器A~Dの動作情報の所定時間分の集計値に限られず、前回運行時などの過去の動作時における機器A~Dの動作情報の所定時間分の集計値であってもよく、当該過去の動作時における集計値を基準として、異常と判定される動作情報を含む機器を抽出するようにしてもよい。これにより、各機器の経時的な劣化を検出することができるため、交換や修理を必要とされる機器を当該機器の故障前に特定することができる。例えば
図8に、異なる日時に取得した同一駅間における各機器の動作情報の集計値データを比較して示す。図中、横軸が項目を、縦軸が号車を、そして、濃淡が異なる領域が前記取得時と動作回数が相違する程度をそれぞれ表している。
【0043】
以上のように構成される本実施形態の状態監視装置100は、各機器A~Dにおける各項目の動作回数を所定時間分集計した集計値データをもとに異常の有無を判定するようにしているため、項目ごとの値の近似でその時の運行が正常かどうかを判断することができる。以下、その詳細について説明する。
【0044】
[本実施形態の作用]
(故障の予知検知の課題)
鉄道車両の故障の予兆を得るためには、一般に、「正常な動作パタン」と「故障の異常動作パタン」の確立が必要とされる。車両状態と故障の因果の相関を見つけることができれば、動作パタンとして扱うことができる。
しかし、データ解析としてよく知られる以下の手法を適用したとしても。車両状態と故障の因果の相関を見つけることが困難である。
例えば、統計的手法で複数の変数からなる多変量データから結果(故障)に対する主成分(原因)を選別する多変量解析法では、車両状態の項目数が多すぎて、相関を見いだせない。
また、基礎的なティープラーニング手法であるニューラルネットワーク多層パーセプトロン法では、車両状態の項目が多くても処理はできるが、故障との相関を見いだせない。
さらに、局所的なデータの位置のずれを吸収してくれるニューラルネットワーク畳み込み法では、車両状態の項目と故障の相関らしきものを見えるが、処理自体に時間がかかってしまい実用に向かないという問題がある。
【0045】
実際の運用では早く結果が欲しいことから、簡単な計算で行える故障の予兆の検知方法が必要とされる。そこで本実施形態では、駅間単位で各項目の動作回数の集計値データを作成することで、「傾向」の比較をできるようにして異常検知を行うようにしている。
【0046】
(データ抽出の検討)
まず、どのようなデータも比較をするためには基準となる軸が必要である。また、大きなデータでは取り回しが難しいため、部分ごとに切り出して扱いやすいサイズにするのがデータ解析の基本である。
一般的に時間はわかりやすい単位であることからデータを時間で区切る方法が考えられるが、車両の実際の運用である「編成」という単位でみると、毎日同じ時間に同じところを走っているわけではなく、運用次第で日々別の場所を走行することから時間がデータの区切りとしては適さない場合がある。
そこで本実施形態では、時間・編成が違っていても同じ動作をする観点から、「駅間」を区切りとして採用した。選別の理由は、同型の車両ならば走行距離・走行時間が決まった箇所に収束することから、列番や運行日時が違っていても比較することができ、走行時間が都市部なら駅間が10分以内、郊外の場合は30分~1時間程度であることから、データサイズがコンパクトに収まり扱いやすいためである。
【0047】
(比較方法の検討)
データを駅間単位で切り出したのち、正常・異常の判定には複数の項目の時系列データが比較される。時系列データの比較は、同じタイミングで同じ値をとるか(マンハッタン距離)、ある塊で切り出したときポイント間が同じ傾きをとるか(ユークリッド距離)を判定するのが一般的な方法であるが、車両は据え置きの機械ではないため波形にゆらぎが生じる。
ゆらぎの発生の理由は、車両ごとのクセ・運転士の扱い・天候などの要因により、「おおよそ同じ動作をするが、全く同じではない」ことによる。一例として、同じ駅間を走行していても、運転士による力行やブレーキのタイミングが違う場合がある。このようなケースでは、前述のタイミングと値の不一致や波形の一致が適用できなくなる。
このようなケースに対処するために、毎秒・項目ごとの許容値を用意して確認するといった方法もあるが、最終的に膨大な例外パタンが生まれ、処理が終わらない、精度が出ない結果となることが考えられる。
【0048】
(新たな比較方法)
基本的な考え方は、車両は正常運行時におおよそ決まった場所で決まった操作・動作をすることから、各項目の動作回数は近い値になると考えられる。このため、項目ごとの値の近似でその時の運行が正常かどうかを容易に判断することができる。
【0049】
本実施形態で得られる車両データはそのほとんどがデジタル情報であり、電線の加圧(ON)・無加圧(OFF)で構成されている。そこでONを「1」、OFFを「0」として扱い、項目ごとに値を集計する。結果として項目ごとのON(1)の合算されたデータとなり、時系列が1次元に圧縮される。元データは1秒ごとの記録であることから、集計値は項目ごとの動作時間と読むことができる。これで同じ区間で同じ時間稼働したかを比較できるようになり、車両の部位ごとに正しく動いているかを判定することができる。例えば、
図7を参照して説明したように、正常に運行していたときの集計データと比べ、ある項目だけが突出して多い、もしくは少なりという状態になれば、何等かの異常状態であると判断することができる。
【0050】
一般に、車両の故障検知は、モニタ装置で電線のON/OFF、機器との伝送データでビットのON/OFFなど複数の条件の組み合わせで行われる。モニタ装置は、すべての条件が揃わないと故障として扱わないが、短時間でON/OFFを繰り返すケースや、時素が条件に組み込まれている故障で規定時間に達する前に故障条件が解除されることがある。この場合、モニタ装置はじめ車載機器は条件未成立で故障として検知しないが、本実施形態のように項目ごとの稼働状況の差異を確認できれば、故障の予兆検知に近いものになる。
【0051】
また、本実施形態では集計することで時間(例えば
図3において縦方向)を圧縮したが、項目(同、横方向)は1万列以上もある場合、確認が困難となる。そこで
図4および
図5を参照して説明したように、本実施形態では、集計したデータを決まったサイズで折り返すことで、横一列の状態から車両と搭載機器がマトリクスとして表現できるようになる。これにより、車両ごと、機器ごとにパーティション分けがされるため、全体俯瞰がしやすくなる。
【0052】
さらに本実施形態では、
図6~
図8に示したように、各項目の集計値データを階調処理したグラフ(ヒートマップ画像)を生成するようにしているため、車両、機器ごとにどの部位が動いているのかがより直感的にわかるようになる。このように、データの整理とグラフ化でシステム全体の差異分布から、異常の有無を容易に見通すことができるようになる。
【0053】
[状態監視方法]
続いて、以上のように構成される状態監視装置100の処理手順について説明する。
図9は、状態監視装置100の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図10は、
図9の処理手順を説明する模式図である。
【0054】
まず、取得部101は、データベース10より、日時、列番、後方駅および次駅を基準に対象とする鉄道車両の動作履歴を抽出する(ステップ101)。
続いて、取得部101は、データの取り出し位置を設定する(ステップ102)。取り出し位置は、
図3の行方向における位置情報に相当し、取り出し位置にフラグ「1」をセットする。
【0055】
続いて、取得部101は、抽出した動作履歴より、管理番号と取り出し位置と一致するデータを取得し(ステップ103)、
図3の列方向における位置情報に相当する項目番号にフラグ「1」をセットする(ステップ104)。そして、取得部101は、項目番号と項目位置に対応する動作履歴に関するデータを取得する(ステップ105)。
【0056】
集計部102は、集計データの項目番号位置に対応するデータに、ステップ105で取得したデータを加算する(ステップ106)。集計部102は、項目位置の数が全項目数未満のときは、ステップ105およびステップ106の処理を繰り返し実行する(ステップ107,108)。集計部102は、項目位置の数が全項目数以上のとき、取り出し位置が最大管理番号に達するまでステップ103~ステップ108の処理を繰り返し実行する(ステップ109,110)。そして、集計部102は、取り出し位置が最大管理番号以上のとき、集計データをグラフ用の中間データとして出力する(ステップ111)。
【0057】
図11は、集計処理およびヒートマップ処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図12は、
図11の処理手順を説明する模式図である。
【0058】
集計部102は、集計データより、指定した機器のデータを取り出し(ステップ201)、データを取得した車両のフラグ「1」をセットする(ステップ202)。続いて、集計部102は、指定した車両のデータを取り出し(ステップ203)、取り出したデータを指定した位置に出力する(ステップ204)。集計部102は、データ取得車両の数が全車両数に到達するまで上記ステップ201~204を繰り返し実行する(ステップ205,206)。
【0059】
データ取得車両の数が全車両数に到達したときは、集計データのヒートマップグラフが生成される(ステップ207)。このとき、階調処理部103において車両・機器の項目ごとに集計データが階調処理され、その処理の結果に基づき、画像生成部104においてヒートマップ画像が生成される。
【0060】
図13は、集計データの折り返し処理等の手順の一例を示すフローチャートである。
図14は、
図13の処理手順を説明する模式図である。
【0061】
集計部102は、データ取得車両にフラグ「1」をセットし(ステップ301)、集計データより、データ取得車両のデータを機器ごとに取り出す(ステップ302)。続いて、集計部102は、取り出したデータを結合し(ステップ303)、1号車、2号車等の車両単位でデータを折り返すことで(ステップ304)、号車ごとの車両データを出力する(ステップ305)。
【0062】
集計部102は、データ取得車両が全車両数に到達するまで上記ステップ302~ステップ304の処理を繰り返す(ステップ306,307)。集計部102は、データ取得車両が全車両数に到達したとき、号車ごとの車両データを結合する(ステップ308)。その後、上述と同様な方法で集計データのヒートマップグラフが生成される(ステップ309)。
【0063】
図15は、判定部105における処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図16は、
図15の処理手順を説明する模式図である。
【0064】
判定部105は、今回の生成データの走行駅間と同じ駅間のリファレンスデータ(基準データ)をデータベース10より取得する(ステップ401)。判定部105は、取得したリファレンスデータと今回の生成データとを項目ごとに比較し(ステップ402)、その差分を項目ごとに出力する(ステップ403)。リファレンスデータが複数ある場合は、すべてのリファレンスデータとの比較が完了するまで、上記ステップ402、403の処理を繰り返す(ステップ404,405)。
【0065】
判定部105は、今回の生成データとリファレンスデータとの比較差分を判定する(ステップ405)。判定方法は特に限定されず、例えば、対応する項目どうしの階調度の差分が所定以上であるか否かを判定する。この場合、差分が所定未満の場合は、当該項目が「正常」と判定し、差分が所定以上の場合は、当該項目が「異常」と判定する。判定部105は、「異常」と判定された項目を異常個所として認識しやすい形態でグラフ化する(ステップ407)。このとき、差分の大きさによって異常個所をヒートマップ化してもよい(
図15参照)。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0067】
例えば以上の実施形態では、異常検知の対象機器として鉄道車両を例に挙げて説明したが、対象はこれに限られず、例えば、自動車、航空機、船舶、各種ロボット等にも本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0068】
10…データベース
20…表示部
100…状態監視装置
101…取得部
102…集計部
103…階調処理部
104…画像生成部
105…判定部