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特許7140752胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団とその製造方法、及び医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団とその製造方法、及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/073 20100101AFI20220913BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALN20220913BHJP
【FI】
C12N5/073
C12Q1/68
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019511267
(86)(22)【出願日】2018-04-03
(86)【国際出願番号】 JP2018014323
(87)【国際公開番号】W WO2018186418
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2017073981
(32)【優先日】2017-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲生 渓太
(72)【発明者】
【氏名】喜田 悠太
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-061520(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0108589(US,A1)
【文献】WEGMEYER, Heike et al.,Mesenchymal Stromal Cell Characteristics Vary Depending on Their Origin,STEM CELLS AND DEVELOPMENT,2013年05月15日,Vol. 22, No. 19,p. 2606-2618, Supplementary Data
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団の製造方法であって、
胎児付属物由来接着細胞を含む試料において、以下に示す(a)及び(b)
(a)CD73及びCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が90%以上であり、かつ
(b)SDHA遺伝子の発現量に対するLFA-3遺伝子の相対発現量が1.0以上であることを満たす、
という条件を指標として、胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団を識別する識別工程
を含む、前記方法
【請求項2】
前記識別した細胞集団を選択的に分離する分離工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記識別工程において、SDHA遺伝子の発現量に対するHAPLN1遺伝子の相対発現量が4.0以上及び/又はSDHA遺伝子の発現量に対するCCND2遺伝子の相対発現量が1.5以下であるという条件をさらに指標とする、請求項1又は2記載の方法
【請求項4】
前記識別工程において、STRO-1が陰性を呈する前記胎児付属物由来接着細胞の比率が95%以上であるという条件をさらに指標とする、請求項1~3のいずれか1項記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団の製造方法に関する。さらに本発明は、胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団、及び上記細胞集団を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
胎児付属物に由来する接着細胞(胎児付属物由来接着細胞)は、免疫抑制に関与するサイトカインの分泌能を有するため、胎児付属物由来接着細胞を含む細胞懸濁液を経静脈的に投与することにより、免疫関連疾患や炎症性疾患等の治療が可能であることが報告されている。また、胎児付属物由来接着細胞は、細胞ソースである胎盤、臍帯、卵膜などの胎児付属物が出産時における医療廃棄物であるため、非侵襲的に採取可能であり、様々な免疫関連疾患や炎症性疾患等を対象とした細胞治療への応用が期待されている。
【0003】
特許文献1には、胎児付属物由来接着細胞の製造方法及び凍結保存方法、並びに治療剤について記載されている。特に、ジメチルスルホキシドを5~10質量%含有し、ヒドロキシルエチルデンプンを5~10質量%またはデキストランを1~5質量%含有する溶液中に胎児付属物由来接着細胞を含む混合物を凍結保存することによって、凍結保存された胎児付属物由来接着細胞を移植に至適化した細胞製剤として製造できることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、(D)哺乳動物の羊膜から胎児付属物由来接着細胞の細胞集団を採取するステップと、(E)前記採取された細胞集団を400~35000/cm2の細胞濃度において播種し、2~3日間初期培養するステップと、(F)前記初期培養の1/5000以上1/10未満の細胞濃度において播種し、1週間に2回の培地交換を行う継代培養を3~4回繰り返すステップと、(G)前記継代培養において紡錘状の形態を有する細胞のコロニーが形成されたとき、細胞がコンフルエントになるまで同一の培養皿で培養を維持するステップとを含む、胎児付属物由来接着細胞集団を調製する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-61520号公報
【文献】国際公開WO2013/077428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、胎児付属物由来接着細胞は、分化能や増殖能、サイトカイン産生能が異なる様々な細胞を含むヘテロな細胞集団であることが分かってきた。安定した品質の細胞製剤を製造するためには、純化された均一性の高い細胞集団を調製する必要がある。また、脂肪、軟骨細胞等への分化能を有する細胞を、細胞製剤として生体内に投与すると、異所性組織形成が起こる可能性が指摘されている。従って、異所性組織形成のリスクを低減し、細胞製剤としての安全性を向上させるには、より分化能が低い細胞のみを選択的に取得して細胞製剤化することが望ましい。
【0007】
特許文献1には、胎児付属物由来接着細胞を含む混合物を、特定の凍結保存液にて凍結保存することにより、解凍後の胎児付属物由来接着細胞の生存率減少を抑制し、凍結保存された胎児付属物由来接着細胞を移植に至適化した細胞製剤として製造できることは記載されている。しかしながら、胎児付属物由来接着細胞の中から特定の優れた特徴を有する細胞を選択的に調製すること、具体的には、分化能が低い胎児付属物由来接着細胞を多く含む細胞集団を、胎児付属物由来接着細胞の特性を指標として選択的に調製することについては、一切記載されていない。また、特許文献2には、低密度で細胞を播種することによって、高い増殖能と分化能を有する胎児付属物由来接着細胞を調製しているものの、胎児付属物由来接着細胞集団に含まれる細胞の特性を指標として、分化能が低い胎児付属物由来接着細胞を多く含む細胞集団を製造することについては記載も示唆もない。
【0008】
本発明は、分化能が低い胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団及びその製造方法、並びに上記細胞集団を含む医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団において、CD73及びCD90が陽性であり、かつ、LFA-3遺伝子が高発現している胎児付属物由来接着細胞が含まれていることを見出し、さらに、上記した細胞特性を有する胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団は、分化能が低いことを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち、本明細書によれば、以下の発明が提供される。
[1] 胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団の製造方法であって、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団を取得することを含む、製造方法:
(a)前記細胞集団において、CD73及びCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が90%以上であり、かつ
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するLFA-3遺伝子の相対発現量が1.0以上であることを満たす。
[1-A] 胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団の製造方法であって、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団を取得することを含む、製造方法:
(a)前記細胞集団において、CD73及びCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が90%以上であり、かつ
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するCCND2遺伝子の相対発現量が1.5以下であることを満たす。
以下において、[1]と表記する場合には、[1]及び[1-A]の両方を包含するものとする。
[2] 胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団であって、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団:
(a)前記細胞集団において、CD73及びCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が90%以上であり、
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するLFA-3遺伝子の相対発現量が1.0以上である。
[3] 前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するHAPLN1遺伝子の相対発現量が4.0以上及び/又はSDHA遺伝子の発現量に対するCCND2遺伝子の相対発現量が1.5以下である、[2]に記載の細胞集団。
[4] 前記細胞集団が、STRO-1が陰性を呈する前記胎児付属物由来接着細胞の比率が95%以上である、[2]又は[3]に記載の細胞集団。
[2-A] 胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団であって、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団:
(a)前記細胞集団において、CD73及びCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が90%以上であり、かつ
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するCCND2遺伝子の相対発現量が1.5以下であることを満たす。
以下において、[2]と表記する場合には、[2]及び[2-A]の両方を包含するものとする。
[5] [2]から[4]の何れか一に記載の細胞集団と、製薬上許容し得る媒体とを含む、医薬組成物。
[6] ヒトへの胎児付属物由来接着細胞の1回の投与量が109個/kg体重以下である、[5]に記載の医薬組成物。
[7] 前記医薬組成物が、注射用製剤である、[5]又は[6]に記載の医薬組成物。
[8] 前記医薬組成物が、細胞塊又はシート状構造の移植用製剤である、[5]又は[6]に記載の医薬組成物。
[9] 免疫関連疾患、虚血性疾患、下肢虚血、脳血管虚血、腎臓虚血、肺虚血、神経性疾患、移植片対宿主病、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、放射線腸炎、全身性エリテマトーデス、紅斑性狼瘡、膠原病、脳卒中、脳梗塞、脳内血腫、脳血管麻痺、肝硬変、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、乾癬、表皮水疱症、糖尿病、菌状息肉腫、強皮症、炎症性関節炎、関節リウマチ、眼疾患、血管新生関連疾患、虚血性心疾患、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、心不全、心筋症、弁膜症、創傷、上皮損傷、線維症、肺疾患、及び癌から選択される疾患の治療剤である、[5]から[8]の何れか一に記載の医薬組成物。
【0011】
[10] [1]に記載の製造方法により得られる、細胞集団。
[11] 医薬組成物の製造のための、[2]から[4]の何れか一に記載の細胞集団の使用。
[12] 医薬組成物が、ヒトへの胎児付属物由来接着細胞の1回の投与量が109個/kg体重以下である医薬組成物である、[11]に記載の使用。
[13] 医薬組成物が、注射用製剤である、[11]又は[12]に記載の使用。
[14] 医薬組成物が、細胞塊又はシート状構造の移植用製剤である、[11]又は[12]に記載の使用。
[15] 医薬組成物が、免疫関連疾患、虚血性疾患、下肢虚血、脳血管虚血、腎臓虚血、肺虚血、神経性疾患、移植片対宿主病、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、放射線腸炎、全身性エリテマトーデス、紅斑性狼瘡、膠原病、脳卒中、脳梗塞、脳内血腫、脳血管麻痺、肝硬変、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、乾癬、表皮水疱症、糖尿病、菌状息肉腫、強皮症、炎症性関節炎、関節リウマチ、眼疾患、血管新生関連疾患、虚血性心疾患、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、心不全、心筋症、弁膜症、創傷、上皮損傷、線維症、肺疾患、及び癌から選択される疾患の治療剤である、[11]から[14]の何れか一に記載の使用。
【0012】
[16] 疾患の治療において使用するための、[2]から[4]の何れか一に記載の細胞集団。
[17] ヒトへの胎児付属物由来接着細胞の1回の投与量が109個/kg体重以下である、[16]に記載の細胞集団。
[18] 注射用製剤である、[16]又は[17]に記載の細胞集団。
[19] 細胞塊又はシート状構造の移植用製剤である、[16]又は[17]に記載の細胞集団。
[20] 疾患が、免疫関連疾患、虚血性疾患、下肢虚血、脳血管虚血、腎臓虚血、肺虚血、神経性疾患、移植片対宿主病、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、放射線腸炎、全身性エリテマトーデス、紅斑性狼瘡、膠原病、脳卒中、脳梗塞、脳内血腫、脳血管麻痺、肝硬変、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、乾癬、表皮水疱症、糖尿病、菌状息肉腫、強皮症、炎症性関節炎、関節リウマチ、眼疾患、血管新生関連疾患、虚血性心疾患、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、心不全、心筋症、弁膜症、創傷、上皮損傷、線維症、肺疾患、及び癌から選択される疾患である、[16]から[19]の何れか一に記載の細胞集団。
【0013】
[21] [2]から[4]の何れか一に記載の細胞集団を、治療を必要とする患者に投与することを含む、疾患の治療方法。
[22] ヒトへの胎児付属物由来接着細胞の1回の投与量が109個/kg体重以下である、[21]に記載の疾患の治療方法。
[23] 注射用製剤である、[21]又は[22]に記載の疾患の治療方法。
[24] 細胞塊又はシート状構造の移植用製剤である、[21]又は[22]に記載の疾患の治療方法。
[25] 疾患が、免疫関連疾患、虚血性疾患、下肢虚血、脳血管虚血、腎臓虚血、肺虚血、神経性疾患、移植片対宿主病、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、放射線腸炎、全身性エリテマトーデス、紅斑性狼瘡、膠原病、脳卒中、脳梗塞、脳内血腫、脳血管麻痺、肝硬変、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、乾癬、表皮水疱症、糖尿病、菌状息肉腫、強皮症、炎症性関節炎、関節リウマチ、眼疾患、血管新生関連疾患、虚血性心疾患、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、心不全、心筋症、弁膜症、創傷、上皮損傷、線維症、肺疾患、及び癌から選択される疾患である、[21]から[24]の何れか一に記載の疾患の治療方法。
【0014】
[26] [2]から[4]の何れか一に記載の細胞集団と、媒体とを含む、組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表面抗原CD73及びCD90の陽性率とLFA-3遺伝子の発現量を指標として、分化能が低い胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団を取得することができる。前記細胞集団は、分化能が低いことから、生体内における異所性組織形成が起こりにくく、安全性が高いことが考えられ、例えば、免疫関連疾患、虚血性疾患、心不全、脳卒中、線維症等の治療のための医薬組成物として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1で培養した胎児付属物由来接着細胞に関し、フローサイトメーターを用いてCD73及びCD90に対して陽性となる細胞の比率を測定した結果を示す。
図2】比較例1で培養した胎児付属物由来接着細胞に関し、フローサイトメーターを用いてCD73及びCD90に対して陽性となる細胞の比率を測定した結果を示す。
図3】実施例1で培養した胎児付属物由来接着細胞に関し、フローサイトメーターを用いてSTRO-1に対して陽性となる細胞の比率を測定した結果を示す。
図4】比較例1で培養した胎児付属物由来接着細胞に関し、フローサイトメーターを用いてSTRO-1に対して陽性となる細胞の比率を測定した結果を示す。
図5】実施例1で培養した胎児付属物由来接着細胞を、脂肪細胞への分化誘導培地を用いて21日間培養した細胞の顕微鏡像を示す。
図6】比較例1で培養した胎児付属物由来接着細胞を、脂肪細胞への分化誘導培地を用いて21日間培養した細胞の顕微鏡像を示す。
図7】実施例1で培養した胎児付属物由来接着細胞を、軟骨細胞への分化誘導培地を用いて21日間培養した細胞の顕微鏡像を示す。
図8】比較例1で培養した胎児付属物由来接着細胞を、軟骨細胞への分化誘導培地を用いて21日間培養した細胞の顕微鏡像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、下記の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が下記の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0018】
[1]用語の説明
本明細書における「胎児付属物」は、卵膜、胎盤、臍帯及び羊水を指す。さらに「卵膜」は、胎児の羊水を含む胎嚢であり、内側から羊膜、絨毛膜及び脱落膜からなる。このうち、羊膜と絨毛膜は胎児を起源とする。「羊膜」は、卵膜の最内層にある血管に乏しい透明薄膜を指す。羊膜の内層(上皮細胞層ともよばれる)は分泌機能のある一層の上皮細胞で覆われ羊水を分泌し、羊膜の外層(細胞外基質層ともよばれ、間質に相当する)は胎児付属物由来接着細胞を含む。
【0019】
本明細書における「胎児付属物由来接着細胞」は、胎児付属物に由来する接着細胞を指し、下記の定義を満たす細胞を指す。
【0020】
胎児付属物由来接着細胞の定義
i)胎児付属物に由来する。
ii)標準培地での培養条件で、プラスチックに接着性を示す。
iii)表面抗原CD105、CD73、CD90が陽性であり、CD45、CD34、CD11b、CD79alpha、CD19、HLA-DRが陰性。
【0021】
本明細書における「胎児付属物由来接着細胞集団」は、胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団を意味し、その形態は特に限定されず、例えば、細胞ペレット、細胞凝集塊、細胞浮遊液又は細胞懸濁液などが挙げられる。
【0022】
本明細書における「分化能」とは、細胞が異なる性質を有する細胞種へ変化する能力のことをいう。分化能は、後述の実施例にて記載される分化誘導培地を用いた細胞培養、及び培養した細胞の顕微鏡観察により評価することができる。
【0023】
本明細書における「CD73及びCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率」とは、後記する実施例に記載の通り、フローサイトメトリーによって解析した上記表面抗原について陽性である細胞の比率を示す。本明細書において、「CD73及びCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率」は「陽性率」と記載されることがある。
本明細書における「STRO-1が陰性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率」とは、後記する実施例に記載の通り、フローサイトメトリーによって解析した上記表面抗原について陰性である細胞の比率を示す。本明細書において、「STRO-1が陰性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率」は「陰性率」と記載されることがある。
【0024】
[2]胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団
本発明により提供される胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団は、
(a)前記細胞集団において、CD73及びCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が90%以上であり、かつ
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するLFA-3遺伝子の相対発現量が1.0以上であることを満たす、
ことを特徴とする。
別の態様によれば、本発明により提供される胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団は、
(a)前記細胞集団において、CD73及びCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が90%以上であり、かつ
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するCCND2遺伝子の相対発現量が1.5以下であることを満たす、
ことを特徴とする。
【0025】
CD73は、分化クラスター73を意味し、NT5E遺伝子によってコードされる5-Nucleotidase(或いは、Ecto-5’-nucleotidase)としても知られているタンパク質である。
CD90は、分化クラスター90を意味し、THY1遺伝子によってコードされるThy-1としても知られているタンパク質である。
LFA-3は、Lymphocyte function-associated antigen-3を意味する。
CCND2は、Cyclin D2を意味する。
【0026】
本発明により提供される胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団は、CD73及びCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が90%以上であり、かつSDHA遺伝子の発現量に対するLFA-3遺伝子の相対発現量が1.0以上である、という条件を満たすと、分化能が低い胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団を形成する。そのため、本発明においては、前記条件を分化能が低い細胞集団形成の指標とすることができる。
【0027】
別の態様によれば、本発明により提供される胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団は、CD73及びCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が90%以上であり、かつSDHA遺伝子の発現量に対するCCND2遺伝子の相対発現量が1.5以下である、という条件を満たすと、分化能が低い胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団を形成する。そのため、本発明においては、前記条件を分化能が低い細胞集団形成の指標とすることができる。
【0028】
細胞集団においてCD73が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率は、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
【0029】
細胞集団においてCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率は、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
【0030】
本発明の一態様によれば、本発明により提供される胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団においては、STRO-1が陰性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が95%以上であることを満たしていてもよい。
【0031】
細胞集団において、STRO-1が陰性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率は、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は100%でもよい。
【0032】
表面抗原マーカー(CD73、CD90及びSTRO-1)は、当該技術分野において公知の任意の検出方法により検出することができる。CD73、STRO-1およびCD90を検出する方法としては、例えばフローサイトメトリー又は細胞染色が挙げられるが、これらに限定されない。蛍光標識抗体を用いるフローサイトメトリーにおいて、ネガティブコントロール(アイソタイプコントロール)と比較してより強い蛍光を発する細胞が検出された場合、当該細胞は当該マーカーについて「陽性」と判定される。蛍光標識抗体は、当該技術分野において公知の任意の抗体を使用することができ、例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、フィコエリスリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)等により標識された抗体が挙げられるが、これらに限定されない。細胞染色において、着色するか若しくは蛍光を発する細胞が顕微鏡下にて観察された場合、当該細胞は当該マーカーについて「陽性」と判定される。細胞染色は、抗体を使用する免疫細胞染色であってもよく、抗体を使用しない非免疫細胞染色であってもよい。
【0033】
表面抗原マーカー(CD73、CD90及びSTRO-1)に対して陽性である細胞の比率(陽性率)は、具体的には、フローサイトメトリーのドットプロット展開解析を用いて、以下の手順(1)~(8)にて測定することができる。
(1)対象となる細胞が接着細胞の場合、プラスチック製培養容器から、トリプシン-EDTA(Thermo Fisher Scientific社)を用いて接着細胞を剥離し、遠心分離により細胞を回収する。対象となる細胞が非接着細胞の場合、遠心分離により細胞を回収する。
(2)4%パラホルムアルデヒドを用いて細胞を固定した後、リン酸バッファー(PBS)にて細胞を洗浄し、2%BSA/PBSにて1.0×106個/mLとなるように細胞懸濁液を調製する。前記細胞懸濁液を100μLずつ分注する。
(3)分注した細胞懸濁液を遠心分離し、得られた細胞ペレットに0.5%BSA/PBSを100μLずつ添加する。次いで、各表面抗原マーカーに対応する抗体、又はそのアイソタイプコントロール用抗体を添加する。各反応液をVoltexにて混和した後、4℃にて20分間静置する。
(4)0.5%BSA/PBSを添加し、遠心分離により細胞を洗浄した後、0.5%BSA/PBSにて細胞を懸濁し、セルストレーナー(35μmナイロンメッシュフィルター)(コーニング社/品番:352235)にてフィルターろ過する。
(5)フィルターろ過により得られた細胞懸濁液を、BD AccuriTM C6 Flow Cytometer(ベクトン・ディッキンソン社)にてALL Event 10000で解析する。
(6)測定結果を、縦軸にSSC(側方散乱光)(数値範囲:0以上16777215以下)、横軸を抗体に標識された色素の蛍光強度(数値範囲:101以上107.2以下)としたドットプロットで展開する。
(7)ドットプロット展開図において、アイソタイプコントロール用抗体で測定した総細胞のうち、より蛍光強度が強い細胞集団が1.0%以下となる全ての領域(ゲート)を選択する。
(8)表面抗原マーカーに対応する抗体で測定した総細胞のうち、(7)で選択したゲート内に含まれる細胞の割合を算出する。
【0034】
表面抗原マーカー(CD73、CD90及びSTRO-1)に対して陰性である細胞の比率(陰性率)は、以下の式により算出する。
陰性率(%)=100-陽性率
【0035】
上記した表面抗原マーカーを検出するタイミングは、特に限定されないが、例えば、生体試料から細胞を分離した直後、培養工程の途中、培養工程における純化後、N回継代した直後(Nは1以上の整数を示す)、維持培養の途中、凍結保存前、解凍後、又は医薬品組成物として製剤化する前などが挙げられる。
【0036】
本発明により提供される胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団は、SDHA遺伝子の発現量に対するLFA-3遺伝子の相対発現量が1.0以上であることを満たす。
【0037】
SDHA遺伝子の発現量に対するLFA-3遺伝子の相対発現量は、1.1以上、1.2以上、1.3以上、1.4以上、1.5以上、1.6以上、1.7以上、または1.8以上でもよい。SDHA遺伝子の発現量に対するLFA-3遺伝子の相対発現量の上限は特に限定されないが、例えば、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、又は5.0以下でもよい。
【0038】
別の態様によれば、本発明により提供される胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団は、SDHA遺伝子の発現量に対するCCND2遺伝子の相対発現量が1.5以下であることを満たす。
【0039】
SDHA遺伝子の発現量に対するCCND2遺伝子の相対発現量は、1.4以下、1.3以下、1.2以下、1.1以下、1.0以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、又は0.4以下でもよい。SDHA遺伝子の発現量に対するCCND2遺伝子の相対発現量の下限は特に限定されないが、0.0以上、又は0.1以上でもよい。
【0040】
本発明の一態様によれば、本発明により提供される胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団においては、SDHA遺伝子の発現量に対するHAPLN1遺伝子の相対発現量が4.0以上及び/又はSDHA遺伝子の発現量に対するCCND2遺伝子の相対発現量が1.5以下であることを満たしていてもよい。
【0041】
SDHA遺伝子の発現量に対するHAPLN1遺伝子の相対発現量は、4.1以上、4.2以上、4.3以上、4.4以上、4.5以上、4.6以上、4.7以上、4.8以上、4.9以上、5.0以上、5.1以上、5.2以上、5.3以上、5.4以上、5.5以上、5.6以上、5.7以上、5.8以上、5.9以上、6.0以上、6.1以上、6.2以上、6.3以上、又は6.4以上でもよい。SDHA遺伝子の発現量に対するHAPLN1遺伝子の相対発現量の上限は特に限定されないが、例えば、15.0以下、14.0以下、13.0以下、12.0以下、11.0以下、又は10.0以下でもよい。
【0042】
SDHA遺伝子の発現量に対する各遺伝子の相対発現量の測定方法としては、マイクロアレイを用いた測定を使用することができる。マイクロアレイは、具体的には、以下の手順(1)~(5)にて行なうことができる。なお、以下の手順(3)~(5)は、株式会社理研ジェネシスに委託して実施することができる。
(1)プラスチック製培養容器から、セルスクレーパー(コーニング社製)を用いて非酵素的に接着細胞を剥離し、遠心分離により細胞を回収する。
(2)RNA安定化試薬(RNAlater(Thermo Fisher Scientific社製))を用いて細胞を安定保存した後、RNA抽出キット(RNeasy Plus Miniキット(QIAGEN社製))を用いてトータルRNAを抽出、精製する。
(3)精製したトータルRNAを鋳型として用いて逆転写反応によりcDNAを合成し、さらに合成されたcDNAからin vitro transcriptionによりcRNAに転写してビオチン標識を行う。
(4)ビオチン標識cRNAをハイブリダイゼーションバッファーに加え、Human GeneGenome U133A 2.0 Array(Affymetrix社製)上で16時間のハイブリダイゼーションを行う。GeneChip Fluidics Station 450(Affymetrix社製)にて洗浄し、フィコエリスリン染色後、GeneChip Scanner 3000 7G(Affymetrix社製)にてスキャンを行い、AGCC(Affymetrix GeneChip Command Console Software)(Affymetrix社製)にて画像解析し、Affymetrix Expression Console(Affymetrix社製)を用いて数値化する。
(5)数値データファイルを、解析ソフトGeneSpring GX(アジレント・テクノロジー社製)を用いて比較解析する。各細胞におけるSDHA遺伝子の発現量に対する各遺伝子の相対発現量を算出する。
【0043】
SDHA(Succinate dehydrogenase complex,subunit A)遺伝子の配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースにID:6389として登録されている。
LFA-3(Lymphocyte function-associated antigen-3)遺伝子のNational Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースにID:965として登録されている。
HAPLN1(Hyaluronan and proteoglycan link protein 1)遺伝子のNational Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースにID:1404として登録されている。
CCND2(Cyclin D2)遺伝子のNational Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースにID:894として登録されている。
【0044】
上記した遺伝子発現量を測定するタイミングは、特に限定されないが、例えば、生体試料から細胞を分離した直後、培養工程の途中、培養工程における純化後、N回継代した直後(Nは1以上の整数を示す)、維持培養の途中、凍結保存前、解凍後、又は医薬品組成物として製剤化する前などが挙げられる。
【0045】
胎児付属物由来接着細胞の由来は、胎児付属物であれば特に限定されないが、例えば、卵膜、羊膜、絨毛膜、脱落膜、胎盤、臍帯及び羊水に由来する接着細胞を使用することができる。胎児付属物由来接着細胞は、好ましくは、羊膜に由来する接着細胞(羊膜由来接着細胞)である。
【0046】
本発明の胎児付属物由来接着細胞は、使用直前まで凍結状態にて保存することができる。上記の胎児付属物由来接着細胞集団は、胎児付属物由来接着細胞以外に、任意の成分を含んでもよい。かかる成分としては、例えば、塩類、多糖類(例えば、HES、デキストランなど)、タンパク質(例えば、アルブミンなど)、DMSO、アミノ酸、培地成分(例えば、RPMI1640培地に含まれる成分など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0047】
本発明の細胞集団は、媒体と組み合わせた組成物として提供してもよい。媒体としては、好ましくは液体媒体(例えば、培地、又は後記する製薬上許容し得る媒体など)を使用することができる。
【0048】
本発明の細胞集団は、任意の数の胎児付属物由来接着細胞を含むことができる。本発明の細胞集団は、例えば、1×101個、2×101個、5×101個、1×102個、2×102個、5×102個、1×103個、2×103個、5×103個、1×104個、2×104個、5×104個、1×105個、2×105個、5×105個、1×106個、2×106個、5×106個、1×107個、2×107個、5×107個、1×108個、2×108個、5×108個、1×109個、2×109個、5×109個、1×1010個、2×1010個、5×1010個、1×1011個、2×1011個、5×1011個、1×1012個、2×1012個、5×1012個以上又は以下の胎児付属物由来接着細胞を含むことができるが、これらに限定されない。
【0049】
細胞集団の分化能は、以下の手順(1)~(3)にて評価することができる。
(1)培養した細胞集団を、接着培養用12ウェルプレート(住友ベークライト社/品番:MS-80120)に継代し、10%ウシ胎児血清(FBS)(非働化済み)及び1×Antibiotic-Antimycotic(Thermo Fisher Scientific社製)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてコンフルエント率60%以上80%以下になるまで培養する。
(2)脂肪細胞への分化誘導培地(StemPro(登録商標)Adipogenesis Differentiation Kit、Thermo Fisher Scientific社製)、又は軟骨細胞への分化誘導培地(StemPro(登録商標)Chondrogenesis Differentiation Kit、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、3%以上5%以下のCO2濃度、37℃環境下にて21日間培養を行う。培地交換は週2回の頻度で実施する。
(3)脂肪細胞への分化誘導培地を用いて培養した細胞集団を、オイルレッドOを用いて染色し、顕微鏡にて観察する。軟骨細胞への分化誘導培地を用いて培養した細胞集団を、アルシアンブルーを用いて染色し、顕微鏡にて観察する。
【0050】
[3]胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団の製造方法
本発明による胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団の製造方法は、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団を取得することを含む方法である。
(a)前記細胞集団において、CD73及びCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が90%以上であり、かつ
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するLFA-3遺伝子の相対発現量が1.0以上であることを満たす。
【0051】
別の態様によれば、発明による胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団の製造方法は、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団を取得することを含む方法である。
(a)前記細胞集団において、CD73及びCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が90%以上であり、かつ
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するCCND2遺伝子の相対発現量が1.5以下であることを満たす。
【0052】
即ち、本発明による胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団の製造方法は、胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団を、上記(a)及び(b)の細胞特性を調製する工程を含む方法である。上記の(a)及び(b)の条件は、分化能が低い胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団形成の指標であり、本発明の培養方法は、前記指標を満たせば特に制限されない。
【0053】
本発明の製造方法は、胎児付属物由来接着細胞を含む試料(例えば、羊膜、絨毛膜など)を酵素処理することにより、胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団を取得する細胞集団取得工程を含むものでもよい。
【0054】
羊膜は、上皮細胞層と細胞外基質層からなり、後者には胎児付属物由来接着細胞が含まれている。羊膜上皮細胞は、他の上皮細胞同様、特徴として上皮カドヘリン(E-cadherin:CD324)及び上皮接着因子(EpCAM:CD326)を発現しているのに対し、胎児付属物由来接着細胞はこれら上皮特異的表面抗原マーカーを発現しておらず、フローサイトメトリーで容易に区別可能である。上記の細胞集団取得工程は、羊膜を帝王切開により得る工程を含む工程でもよい。
【0055】
本発明における胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団は、好ましくは胎児付属物から採取した上皮細胞層と細胞外基質層とを含む試料を少なくともコラゲナーゼで処理して得た細胞集団である。
【0056】
胎児付属物から採取した試料(好ましくは上皮細胞層と細胞外基質層とを含む試料)の酵素処理は、好ましくは、胎児付属物の細胞外基質層に含まれる胎児付属物由来接着細胞を遊離することができ、かつ上皮細胞層を分解しない酵素(又はその組み合わせ)による処理である。かかる酵素としては、特に限定されないが、例えば、コラゲナーゼ及び/又は金属プロテイナーゼを挙げることができる。金属プロテイナーゼとしては、非極性アミノ酸のN末端側を切断する金属プロテイナーゼであるサーモリシン及び/又はディスパーゼを挙げることができるが、特に限定されない。
【0057】
コラゲナーゼの活性濃度は、好ましくは50PU/ml以上、より好ましくは100PU/ml以上、さらに好ましくは200PU/ml以上、さらに好ましくは300PU/ml以上、さらに好ましくは400PU/ml以上である。また、コラゲナーゼの活性濃度は、特に限定されないが、例えば、1000PU/ml以下、900PU/ml以下、800PU/ml以下、700PU/ml以下、600PU/ml以下、500PU/ml以下である。ここで、PU(Protease Unit)とは、pH7.5、30℃において、FITC-collagen 1ugを1分間で分解する酵素量と定義する。
【0058】
金属プロテイナーゼ(例えば、サーモリシン及び/又はディスパーゼ)の活性濃度は、好ましくは50PU/ml以上、より好ましくは100PU/ml以上、さらに好ましくは200PU/ml以上、さらに好ましくは300PU/ml以上、さらに好ましくは400PU/ml以上である。また、金属プロテイナーゼの活性濃度は、好ましくは1000PU/ml以下、より好ましくは900PU/ml以下、さらに好ましくは800PU/ml以下、さらに好ましくは700PU/ml以下、さらに好ましくは600PU/ml以下、さらに好ましくは500PU/ml以下である。ここで、金属プロテイナーゼとしてディスパーゼを用いた態様において、PU(Protease Unit)とは、pH7.5、30℃において、乳酸カゼインから1分間に1ugのチロシンに相当するアミノ酸を遊離する酵素量と定義される。上記の酵素濃度の範囲において、胎児付属物の上皮細胞層に含まれる上皮細胞の混入を防止しながら、細胞外基質層に含まれる胎児付属物由来接着細胞を効率よく遊離させることができる。コラゲナーゼ及び/又は金属プロテイナーゼの好ましい濃度の組み合わせは、酵素処理後の胎児付属物の顕微鏡観察や、取得した細胞のフローサイトメトリーにより決定することができる。
【0059】
生細胞を効率的に回収する観点から、コラゲナーゼ及び金属プロテイナーゼを組み合わせて胎児付属物を同時一括に処理することが好ましい。この場合の金属プロテイナーゼとしては、サーモリシン及び/又はディスパーゼを使用することができるが、これらに限定されない。コラゲナーゼ及び金属プロテイナーゼを含有する酵素液を用いて胎児付属物を一回のみ処理することにより、胎児付属物由来接着細胞を簡便に取得することができる。また、同時一括に処理することにより、細菌やウィルス等のコンタミネーションのリスクを低減することができる。
【0060】
胎児付属物の酵素処理は、生理食塩水やハンクス平衡塩溶液等の洗浄液を用いて洗浄した羊膜を酵素液に浸漬し、撹拌手段によって撹拌しながら処理することが好ましい。かかる撹拌手段としては、胎児付属物の細胞外基質層に含まれる胎児付属物由来接着細胞を効率よく遊離させる観点から、例えば、スターラー又はシェーカーを使用することができるが、これらに限定されない。撹拌速度は、特に限定されないが、スターラー又はシェーカーを用いた場合、例えば、5rpm以上、10rpm以上、20rpm以上、30rpm以上、40rpm以上又は50rpm以上である。また、撹拌速度は、特に限定されないが、スターラー又はシェーカーを用いた場合、例えば、100rpm以下、90rpm以下、80rpm以下、70rpm以下又は60rpm以下である。酵素処理時間は、特に限定されないが、例えば、10分以上、20分以上、30分以上、40分以上、50分以上、60分以上、70分以上、80分以上又は90分以上である。また、酵素処理時間は、特に限定されないが、例えば、6時間以下、5時間以下、4時間以下、3時間以下、2時間以下、110分以下、100分以下である。酵素処理温度は、特に限定されないが、例えば、15℃以上、16℃以上、17℃以上、18℃以上、19℃以上、20℃以上、21℃以上、22℃以上、23℃以上、24℃以上、25℃以上、26℃以上、27℃以上、28℃以上、29℃以上、30℃以上、31℃以上、32℃以上、33℃以上、34℃以上、35℃以上又は36℃以上である。また、酵素処理温度は、特に限定されないが、例えば、40℃以下、39℃以下、38℃以下又は37℃以下である。
【0061】
本発明の製造方法において、所望により、遊離した胎児付属物由来接着細胞を含む酵素溶液からフィルター、遠心分離や中空糸分離膜、セルソーター等の公知の方法により遊離した胎児付属物由来接着細胞を分離及び/又は回収することができる。好ましくは、フィルターによって遊離した胎児付属物由来接着細胞を含む酵素溶液を濾過する。前記酵素溶液をフィルターによって濾過する態様においては、遊離した細胞のみがフィルターを通過し、分解されなかった上皮細胞層はフィルターを通過できずにフィルター上に残るため、遊離した胎児付属物由来接着細胞を容易に分離及び/又は回収することができるだけでなく、細菌やウィルス等のコンタミネーションのリスクも低減することができる。フィルターとしては、特に限定されないが、例えば、メッシュフィルターを挙げることができる。メッシュフィルターのポアサイズ(メッシュの大きさ)は、特に限定されないが、例えば、40μm以上、50μm以上、60μm以上、70μm以上、80μm以上、又は90μm以上である。また、メッシュフィルターのポアサイズは、特に限定されないが、例えば、200μm以下、190μm以下、180μm以下、170μm以下、160μm以下、150μm以下、140μm以下、130μm以下、120μm以下、110μm以下、又は100μm以下である。濾過速度に関しては特に限定されないが、メッシュフィルターのポアサイズを上記の範囲とすることにより、胎児付属物由来接着細胞を含む酵素溶液を自然落下により濾過することができ、これにより細胞生存率の低下を防止することができる。
【0062】
メッシュフィルターの材質としては、ナイロンが好ましく用いられる。研究用として汎用されるFalconセルストレーナーなどの40μm、70μm、95μm又は100μmのナイロンメッシュフィルターを含有するチューブが利用可能である。また、血液透析などで使用されている医療用メッシュクロス(ナイロン及びポリエステル)が利用できる。さらに、体外循環時に使用される動脈フィルター(ポリエステルメッシュフィルター、ポアサイズ:40μm以上120μm以下)も利用可能である。他の材質、例えば、ステンレスメッシュフィルター等も用いることが可能である。
【0063】
胎児付属物由来接着細胞をフィルター通過させる場合、自然落下(自由落下)が好ましい。ポンプ等を用いた吸引など強制的なフィルター通過も可能であるが、細胞に損傷を与えることを避けるため、できるだけ弱い圧力とすることが望ましい。
【0064】
フィルターを通した胎児付属物由来接着細胞は、倍量又はそれ以上の培地又は平衡塩緩衝液で濾液を希釈した後、遠心分離により回収することができる。平衡塩緩衝液としては、ダルベッコリン酸バッファー(DPBS)、アール平衡塩溶液(EBSS)、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、リン酸バッファー(PBS)等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0065】
上記の細胞集団取得工程で得られた細胞集団は、
(a)前記細胞集団において、CD73及びCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が90%以上であり、かつ
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するLFA-3遺伝子の相対発現量が1.0以上であることを満たす、という条件下において調製する。
【0066】
別の態様によれば、上記の細胞集団取得工程で得られた細胞集団は、
(a)前記細胞集団において、CD73及びCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が90%以上であり、かつ
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するCCND2遺伝子の相対発現量が1.5以下であることを満たす、という条件下において調製する。
【0067】
前記条件は、分化能が低い胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団を取得する際の指標として有用である。調製方法としては、前記指標を満たすものであれば、特に限定されない。そのような方法としては、例えば、セルソーターにて上記(a)を満たす細胞集団を分取し、次いで、得られた細胞集団について、上記(b)を満たす細胞集団を選択することや、上記(b)を満たす細胞集団を選択し、次いで、得られた細胞集団について、セルソーターにて上記(a)を満たす細胞集団を分取することが挙げられる。また、前記指標を満たす他の調製方法としては、細胞集団を、上記(a)及び(b)を満たす条件下において培養することが挙げられる。
【0068】
前記指標を満たす培養方法としては、例えば、細胞集団を、コーティングしていないプラスチック製培養容器に400~5,000細胞/cm2の密度で播種し、培養することを複数回繰り返す工程を挙げることができる。細胞集団を播種する際の密度はさらに好ましくは500細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは600細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは700細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは800細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは900細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1000細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1100細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1200細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1300細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1400細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1500細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1600細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1700細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1800細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1900細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは2000細胞/cm2以上である。細胞集団を播種する際の密度はさらに好ましくは4800細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは4600細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは4400細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは4200細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは4000細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは3800細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは3600細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは3400細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは3200細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは3000細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは2800細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは2600細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは2400細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは2200細胞/cm2以下である。
【0069】
前記指標を満たす他の培養方法としては、例えば、細胞集団を、コーティング剤によりコーティングしたプラスチック製培養容器に400~5,000細胞/cm2の密度で播種し、培養することを複数回繰り返す工程を挙げることができる。細胞集団を播種する際の密度の好ましい条件は、上記した条件と同様である。
【0070】
コーティング剤としては、例えば、細胞外基質、フィブロネクチン、ビトロネクチン、オステオポンチン、ラミニン、エンタクチン、コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンIV、コラーゲンV、コラーゲンVI、ゼラチン、ポリ-L-オルニチン、ポリ-D-リジン、マトリゲル(登録商標)マトリックスを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0071】
前記指標を満たすさらに他の培養方法としては、例えば、培養に用いる基礎培地に、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を添加して培養することが挙げられる。塩基性線維芽細胞増殖因子の濃度は、好ましくは2ng/mL以上であり、さらに好ましくは4ng/mL以上であり、さらに好ましくは6ng/mL以上であり、さらに好ましくは8ng/mL以上であり、さらに好ましくは10ng/mL以上である。塩基性線維芽細胞増殖因子の濃度は、好ましくは20ng/mL以下であり、さらに好ましくは18ng/mL以下であり、16ng/mL以下であり、さらに好ましくは14ng/mL以下であり、さらに好ましくは12ng/mL以下である。塩基性線維芽細胞増殖因子を添加するタイミングは、特に限定されないが、例えば、培養工程の最初、培養工程の途中、培養工程における純化後、N回継代した直後(Nは1以上の整数を示す)、維持培養の途中、凍結保存前、又は解凍後などが挙げられる。
【0072】
上記の1回の培養の培養期間としては、例えば4~10日間を挙げることができ、より具体的には、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間又は10日間を挙げることができる。
【0073】
上記の培養に用いる培地は、任意の動物細胞培養用液体培地を基礎培地とし、必要に応じて他の成分(血清、血清代替試薬、増殖因子など)を適宜添加することにより調製することができる。
【0074】
基礎培地としては、BME培地、BGJb培地、CMRL1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)培地、DMEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの混合培地(例えば、DMEM/F12培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Nutrient Mixture F-12 Ham))等の培地を使用することができるが、特に限定されない。
【0075】
また、上記の培養に用いる培地は、一般的に市販されている無血清培地を用いても良い。例えば、STK1やSTK2(DSファーマバイオメディカル社)などが挙げられるが、特に限定されない。
【0076】
前記基礎培地に対して添加する他の成分としては、例えば、アルブミン、血清、血清代替試薬又は増殖因子などが挙げられる。前記基礎培地にアルブミンを添加する態様においては、アルブミンの濃度は0.05%より多く5%以下が好ましい。また、前記基礎培地に血清を添加する態様においては、血清の濃度は5%以上が好ましい。増殖因子を添加する態様においては、増殖因子を培地中で安定化させるための試薬(ヘパリンなど)を、増殖因子に加えてさらに添加してもよいし、増殖因子をあらかじめゲルや多糖類などで安定化しておき、その後、安定化した増殖因子を前記基礎培地に対して添加してもよい。
【0077】
胎児付属物由来接着細胞の培養は、例えば、以下のような工程にて行うことができる。まず、細胞懸濁液を遠心分離し、上清を除去し、得られた細胞ペレットを培地にて懸濁する。次に、プラスチック製培養容器に細胞を播種し、3%以上5%以下のCO2濃度、37℃環境にて、培地を用いてコンフルエント率95%以下となるように培養する。上記の培地としては、例えば、αMEM、M199、或いはこれらを基礎とする培地を挙げることができるが、これらに限定されない。上記のような培養により取得した細胞は、1回培養した細胞である。
【0078】
上記の1回培養した細胞は、例えば、以下のようにさらに継代し、培養することができる。まず、1回培養した細胞を、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)にて処理した後にトリプシンにて処理してプラスチック製培養容器から剥離させる。次に、得られた細胞懸濁液を遠心分離し、上清を除去し、得られた細胞ペレットを培地にて懸濁する。最後に、プラスチック製培養容器に細胞を播種し、3%以上、5%以下のCO2濃度、37℃環境にて、培地を用いてコンフルエント率95%以下となるように培養する。上記の培地としては、例えば、αMEM、M199、或いはこれらを基礎とする培地を挙げることができるが、これらに限定されない。上記のような継代及び培養により取得した細胞は、1回継代した細胞である。同様の継代及び培養を行うことにより、N回継代した細胞を取得することができる(Nは1以上の整数を示す)。継代回数Nの下限は、細胞を大量に製造する観点から、例えば、1回以上、好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上、さらに好ましくは4回以上、さらに好ましくは5回以上、さらに好ましくは6回以上、さらに好ましくは7回以上、さらに好ましくは8回以上、さらに好ましくは9回以上、さらに好ましくは10回以上、さらに好ましくは11回以上、さらに好ましくは12回以上、さらに好ましくは13回以上、さらに好ましくは14回以上、さらに好ましくは15回以上、さらに好ましくは16回以上、さらに好ましくは17回以上、さらに好ましくは18回以上、さらに好ましくは19回以上、さらに好ましくは20回以上、さらに好ましくは25回以上である。また、継代回数Nの上限は、細胞の老化を抑える観点から、例えば、50回以下、45回以下、40回以下、35回以下、30回以下であることが好ましい。
【0079】
本発明の製造方法によれば、分化能が低い胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団を得ることができ、これにより安全性の高い細胞製剤(医薬組成物)を製造することができる。培養1バッチあたりの取得細胞数(単位表面積あたり、単位培養日数あたりの得られる細胞数)の下限は、播種細胞数、播種密度等によって異なるが、例えば、1.0×105(個/cm2/day)以上、2.0×105(個/cm2/day)以上、3.0×105(個/cm2/day)以上、4.0×105(個/cm2/day)以上、5.0×105(個/cm2/day)以上、6.0×105(個/cm2/day)以上、7.0×105(個/cm2/day)以上、8.0×105(個/cm2/day)以上、9.0×105(個/cm2/day)以上又は10.0×105(個/cm2/day)以上である。また、培養1バッチあたりの取得細胞数の上限は、特に限定されないが、例えば、10.0×108(個/cm2/day)以下、9.0×108(個/cm2/day)以下、8.0×108(個/cm2/day)以下、7.0×108(個/cm2/day)以下、6.0×108(個/cm2/day)以下、5.0×108(個/cm2/day)以下、4.0×108(個/cm2/day)以下、3.0×108(個/cm2/day)以下、2.0×108(個/cm2/day)以下又は1.0×108(個/cm2/day)以下である。
【0080】
本発明の製造方法によれば、分化能が低い胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団を得ることができる。本発明の製造方法によって得られる胎児付属物由来接着細胞は、生体外での培養開始後、好ましくは40日以降まで、さらに好ましくは45日以降まで、50日以降まで、55日以降まで、60日以降まで、65日以降まで、70日以降まで、75日以降まで、80日以降まで、85日以降まで、90日以降まで、95日以降まで、100日以降まで、105日以降まで、又は110日以降まで、培養することが可能である。
【0081】
また、本発明の製造方法によって得られる胎児付属物由来接着細胞は、生体外での培養開始後、倍加回数が好ましくは10回以上、さらに好ましくは15回以上、20回以上、25回以上、30回以上、35回以上、40回以上、45回以上、又は50回以上になるまで培養することが可能である。
【0082】
本発明の製造方法は、
(a)前記細胞集団において、CD73及びCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が90%以上であり、かつ
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するLFA-3遺伝子の相対発現量が1.0以上であることを満たす、という条件を指標として、分化能が低い胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団を識別する識別工程を含むものでもよい。
別の態様によれば、本発明の製造方法は、
(a)前記細胞集団において、CD73及びCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が90%以上であり、かつ
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するCCND2遺伝子の相対発現量が1.5以下であることを満たす、という条件を指標として、分化能が低い胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団を識別する識別工程を含むものでもよい。
【0083】
前記胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団を識別するための手段は、好ましくは、フローサイトメトリー及びマイクロアレイである。
【0084】
前記細胞集団においてCD73及びCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率(陽性率)は、フローサイトメトリーのドットプロット展開解析を用いて、段落0033で述べた手順に従って測定することができる。
【0085】
SDHA遺伝子の発現量に対するLFA-3遺伝子又はCCND2遺伝子の相対発現量は、マイクロアレイを用いて、段落0042で述べた手順に従って測定することができる。
【0086】
上記した識別を行うタイミングは、特に限定されないが、例えば、生体試料から細胞を分離した直後、培養工程の途中、培養工程における純化後、N回継代した直後(Nは1以上の整数を示す)、維持培養の途中、凍結保存前、解凍後、又は医薬品組成物として製剤化する前などが挙げられる。
【0087】
また、本発明の製造方法は、上記(a)及び(b)を指標として前記胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団を識別した後に、識別した細胞集団を選択的に分離する工程を含むことができる。前記識別した細胞集団を選択的に分離するための手段は、特に限定されないが、例えば、セルソーターによる細胞集団の分取、培養による細胞集団の純化などが挙げられる。
【0088】
また、本発明の製造方法は、前記胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団を凍結保存する工程を含むことができる。前記細胞集団を凍結保存する工程を含む態様においては、前記細胞集団を解凍後、必要に応じて前記細胞集団を分離、回収及び/又は培養してもよい。また、前記細胞集団を解凍後、そのまま使用してもよい。
【0089】
前記胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団を凍結保存するための手段は、特に限定されないが、例えば、プログラムフリーザー、ディープフリーザー、液体窒素への浸漬などが挙げられる。プログラムフリーザーを用いた場合、凍結する際の温度は、好ましくは-30℃以下、-40℃以下、-50℃以下、-60℃以下、-70℃以下、-80℃以下、-90℃以下、-100℃以下、-110℃以下、-120℃以下、-130℃以下、-140℃以下、-150℃以下、-160℃以下、-170℃以下、-180℃以下、-190℃以下、又は-196℃(液体窒素温度)以下である。プログラムフリーザーを用いた場合、凍結する際の好ましい凍結速度は、例えば、-1℃/分、-2℃/分、-3℃/分、-4℃/分、-5℃/分、-6℃/分、-7℃/分、-8℃/分、-9℃/分、-10℃/分、-11℃/分、-12℃/分、-13℃/分、-14℃/分又は-15℃/分である。かかる凍結手段としてプログラムフリーザーを用いた場合、例えば、-2℃/分以上-1℃/分以下の凍結速度で-50℃以上-30℃以下の間の温度(例えば、-40℃)まで温度を下げ、さらに-11℃/分以上-9℃/分以下(例えば、-10℃/分)の凍結速度で-100℃以上-80℃以下の温度(例えば、-90℃)まで温度を下げることができる。また、かかる凍結手段として液体窒素への浸漬を用いた場合、例えば、-196℃まで急速に温度を下げて凍結させた後、液体窒素(気相)中で凍結保存することができる。
【0090】
上記の凍結手段により凍結する際、上記の細胞集団は、任意の保存容器に入った状態で凍結されてよい。かかる保存容器としては、例えば、クライオチューブ、クライオバイアル、凍結用バッグ、輸注バッグなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
上記の凍結手段により凍結する際、上記の細胞集団は、任意の凍結保存液中で凍結されてもよい。かかる凍結保存液として、市販されている凍結保存液を用いても良く、例えば、CryoNovo(Akron Biotechnology社)、CryoStor(HemaCare社)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0092】
上記の凍結保存液は、所定濃度の多糖類を含有することができる。多糖類の好ましい濃度は、例えば、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上、8質量%以上、9質量%以上、10質量%以上、11質量%以上又は12質量%以上である。また、多糖類の好ましい濃度は、例えば、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、19質量%以下、18質量%以下、17質量%以下、16質量%以下、15質量%以下、14質量%以下又は13質量%以下である。多糖類としては、例えば、ヒドロキシルエチルデンプン(HES)又はデキストラン(Dextran40など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0093】
上記の凍結保存液は、所定濃度のジメチルスルホキシド(DMSO)を含有することができる。DMSOの好ましい濃度は、例えば、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上、8質量%以上又は9質量%以上である。また、DMSOの好ましい濃度は、例えば、20質量%以下、19質量%以下、18質量%以下、17質量%以下、16質量%以下、15質量%以下、14質量%以下、13質量%以下、12質量%以下、11質量%以下又は10質量%以下である。
【0094】
上記の凍結保存液は、0質量%より多い所定濃度のアルブミンを含有するものでもよい。アルブミンの好ましい濃度は、例えば、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上又は8質量%以上である。また、アルブミンの好ましい濃度は、例えば、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下又は9質量%以下である。アルブミンとしては、例えば、ウシ血清アルブミン、マウスアルブミン、ヒトアルブミン等を挙げることができるが、これに限定されない。
【0095】
[4]医薬組成物
本発明による胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団は、医薬組成物として使用することができる。即ち、本発明によれば、本発明による細胞集団と、製薬上許容し得る媒体とを含む、医薬組成物が提供される。
【0096】
本発明の医薬組成物は、好ましくは液剤であり、より好ましくは注射用液剤である。
本発明の医薬組成物は、細胞治療剤、例えば、難治性疾患治療剤として使用することができる。
本発明の医薬組成物は、免疫関連疾患、虚血性疾患、下肢虚血、脳血管虚血、腎臓虚血、肺虚血、神経性疾患、移植片対宿主病、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、放射線腸炎、全身性エリテマトーデス、紅斑性狼瘡、膠原病、脳卒中、脳梗塞、脳内血腫、脳血管麻痺、肝硬変、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、乾癬、表皮水疱症、糖尿病、菌状息肉腫、強皮症、炎症性関節炎、関節リウマチ、眼疾患、血管新生関連疾患、虚血性心疾患、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、心不全、心筋症、弁膜症、創傷、上皮損傷、線維症、肺疾患、及び癌などを挙げることができる。本発明の医薬組成物を治療部位に効果が計測できる量投与することで、上記疾患を治療することができる。
【0097】
本発明によれば、医薬組成物のために使用される、本発明による胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団が提供される。
本発明によれば、細胞治療剤のために使用される、本発明による胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団が提供される。
【0098】
本発明によれば、免疫関連疾患、虚血性疾患、下肢虚血、脳血管虚血、腎臓虚血、肺虚血、神経性疾患、移植片対宿主病、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、放射線腸炎、全身性エリテマトーデス、紅斑性狼瘡、膠原病、脳卒中、脳梗塞、脳内血腫、脳血管麻痺、肝硬変、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、乾癬、表皮水疱症、糖尿病、菌状息肉腫、強皮症、炎症性関節炎、関節リウマチ、眼疾患、血管新生関連疾患、虚血性心疾患、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、心不全、心筋症、弁膜症、創傷、上皮損傷、線維症、肺疾患、及び癌から選択される疾患の治療のために使用される、本発明による胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団が提供される。
【0099】
本発明によれば、患者又は被験者に投与して、心筋の再生、心筋細胞の産生、血管新生、血管の修復、又は、免疫応答の抑制のために使用される、本発明による胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団が提供される。
【0100】
本発明によれば、患者又は被験者に、本発明による胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団の治療有効量を投与する工程を含む、患者又は被験者に細胞を移植する方法、並びに患者又は被験者の疾患の治療方法が提供される。
【0101】
本発明によれば、医薬組成物の製造のための、本発明による胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
本発明によれば、細胞治療剤の製造のための、本発明による胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
【0102】
本発明によれば、免疫関連疾患、虚血性疾患、下肢虚血、脳血管虚血、腎臓虚血、肺虚血、神経性疾患、移植片対宿主病、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、放射線腸炎、全身性エリテマトーデス、紅斑性狼瘡、膠原病、脳卒中、脳梗塞、脳内血腫、脳血管麻痺、肝硬変、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、乾癬、表皮水疱症、糖尿病、菌状息肉腫、強皮症、炎症性関節炎、関節リウマチ、眼疾患、血管新生関連疾患、虚血性心疾患、冠動脈性心疾患、心筋梗塞、狭心症、心不全、心筋症、弁膜症、創傷、上皮損傷、線維症、肺疾患、及び癌から選択される疾患の治療剤の製造のための、本発明による胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
【0103】
本発明の医薬組成物の投与量としては、患者又は被験者に投与した場合に、投与していない患者又は被験者と比較して疾患に対して治療効果を得ることができるような細胞の量である。具体的な投与量は、投与形態、投与方法、使用目的、及び患者又は被験者の年齢、体重及び症状等によって適宜決定することができる。ヒトへの胎児付属物由来接着細胞の1回の投与量は、特に限定されないが、例えば、104個/kg体重以上、105個/kg体重以上又は106個/kg体重以上である。また、ヒトへの胎児付属物由来接着細胞の1回の投与量は、特に限定されないが、例えば、109個/kg体重以下、108個/kg体重以下又は107個/kg体重以下である。
【0104】
本発明の医薬組成物の投与方法は、特に限定されないが、例えば、皮下注射、リンパ節内注射、静脈内注射、動脈内注射、腹腔内注射、胸腔内注射又は局所への直接注射、又は局所に直接移植することなどが挙げられる。医薬組成物の投与方法については、例えば、特開2015-61520号公報、Onken JE, t al.American College of Gastroenterology Conference 2006Las Vegas,NV, Abstract 121.、Garcia-Olmo D,et al.Dis Colon Rectum 2005;48:1416-23.などにおいて、静脈内注射、点滴静脈注射、局所への直接注射、局所への直接移植などが知られている。本発明の医薬組成物も、上記文献に記載されている各種方法により投与することができる。
【0105】
本発明の医薬組成物は、他の疾患治療目的に注射用製剤、或いは細胞塊又はシート状構造の移植用製剤、或いは任意のゲルと混合したゲル製剤として用いることも可能である。
【0106】
本発明の患者又は被験者とは、典型的にはヒトであるが、他の動物であってもよい。他の動物としては、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、サル(カニクイザル、アカゲザル、コモンマーモセット、ニホンザル)、フェレット、ウサギ、げっ歯類(マウス、ラット、スナネズミ、モルモット、ハムスター)等の哺乳動物、ニワトリ、ウズラ等の鳥類が挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
本発明の医薬組成物は、使用直前まで凍結状態にて保存することができる。本発明の医薬組成物を患者又は被験者に投与する際には、37℃で急速に解凍して使用することができる。
【0108】
本発明の医薬組成物は、ヒトの治療の際に用いられる任意の成分を含んでもよい。かかる成分としては、例えば、塩類、多糖類(例えば、HES、デキストランなど)、タンパク質(例えば、アルブミンなど)、DMSO、アミノ酸、培地成分(例えば、RPMI1640培地に含まれる成分など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0109】
また、本発明の医薬組成物は、胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団を、製薬上許容し得る媒体として使用される輸液製剤により希釈したものでもよい。本明細書における「輸液製剤(製薬上許容し得る媒体)」としては、ヒトの治療の際に用いられる溶液であれば特に限定されないが、例えば、生理食塩液、5%ブドウ糖液、リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、開始液(1号液)、脱水補給液(2号液)、維持輸液(3号液)、術後回復液(4号液)等を挙げることができる。
【0110】
本発明の医薬組成物は、保存安定性、無菌性、等張性、吸収性及び/又は粘性を増加するための種々の添加剤、例えば、乳化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、湿潤剤、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、増粘剤、ゲル化剤、pH調整剤等を含んでもよい。前記増粘剤としては、例えば、HES、デキストラン、メチルセルロース、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられるが、これらに限定されない。増粘剤の濃度は、選択される増粘剤によるが、患者又は被験者に投与した場合に安全であり、かつ所望の粘性を達成する濃度の範囲で、任意に設定することができる。
【0111】
本発明の医薬組成物のpHは、中性付近のpH、例えば、pH6.5以上又はpH7.0以上とすることができ、またpH8.5以下又はpH8.0以下とすることができるが、これらに限定されない。
【0112】
以下の実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例
【0113】
<比較例1>
(工程1:羊膜の採取)
インフォームドコンセントを得た待機的帝王切開症例の妊婦(ドナー)から、胎児付属物である卵膜及び胎盤を無菌的に採取した。得られた卵膜及び胎盤を生理食塩水が入った滅菌バットに収容し、卵膜の断端から羊膜を用手的に剥離した。羊膜をハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg不含有)にて洗浄し、付着した血液及び血餅を除去した。
【0114】
(工程2:羊膜の酵素処理及び胎児付属物由来接着細胞の回収)
上皮細胞層と細胞外基質層とを含む羊膜を、300PU/mLコラゲナーゼと200PU/mLディスパーゼIとを含有するハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg含有)に浸し、37℃にて90分間、50rpmの条件にて振盪攪拌することにより羊膜を酵素処理した。酵素処理後の溶液を目開き95μmのナイロンメッシュでろ過することにより羊膜の未消化物を取り除き、胎児付属物由来接着細胞を含む細胞懸濁液を回収した。得られた細胞懸濁液に関し、フローサイトメーターを用いてCD90の発現が陽性である細胞の比率を解析し、高純度で羊膜から胎児付属物由来接着細胞を分離できていることを確認した。
【0115】
表面抗原解析は、ベクトン・ディッキンソン(BD)社のBD AccuriTM C6 Flow Cytometerを用い、測定条件は解析細胞数:10,000cells、流速設定:Slow(14μL/min)とした。CD90抗原に対応する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD90(BD社/型番:561969)を、そのアイソタイプコントロール用抗体としてFITC Mouse IgG1, κ Isotype Control(BD社/型番:349041)を使用した。
【0116】
(工程3:胎児付属物由来接着細胞の凍結保存)
上記の「工程2:羊膜の酵素処理及び胎児付属物由来接着細胞の回収」で得られた細胞集団を、1.0×107個/mLとなるようにバンバンカー(リンフォテック社)に懸濁し、クライオチューブに分注した。クライオチューブをバイセル(凍結処理容器)(日本フリーザー社)に入れ、-80℃にて12時間保存の後、液体窒素温度にて凍結保存した。
【0117】
(工程4:胎児付属物由来接着細胞の培養)
上記の「工程3:胎児付属物由来接着細胞の凍結保存」で得られた細胞集団を、コーティングしていないプラスチック製培養容器に播種し、10%ウシ胎児血清(FBS)(非働化済み)及び1×Antibiotic-Antimycotic(Thermo Fisher Scientific社製)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてサブコンフルエントになるまで接着培養した。その後、TrypLE Select(1×)(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて細胞を剥離し、1/4量の細胞を先の培養と同じスケールのコーティングしていないプラスチック製培養容器に播種することにより、継代培養を行った。培地交換は週2回の頻度で実施した。このようにして継代培養を続けた。
【0118】
<実施例1>
(工程1:羊膜の採取)
比較例1におけるドナーとは異なるドナーから、胎児付属物である卵膜及び胎盤を無菌的に採取した以外は、比較例1の工程1と同様の手法にて羊膜を取得した。
【0119】
(工程2:羊膜の酵素処理及び胎児付属物由来接着細胞の回収)
比較例1の工程2と同様の手法にて胎児付属物由来接着細胞を含む細胞懸濁液を回収した。得られた細胞懸濁液に関し、フローサイトメーターを用いて比較例1と同様にして、CD90の発現が陽性である細胞の比率を解析し、高純度で羊膜から胎児付属物由来接着細胞を分離できていることを確認した。
【0120】
(工程3:胎児付属物由来接着細胞の凍結保存)
上記の「工程2:羊膜の酵素処理及び胎児付属物由来接着細胞の回収」で得られた細胞集団を、比較例1の工程3と同様の手法にて凍結保存した。
【0121】
(工程4:胎児付属物由来接着細胞の培養)
上記の「工程3:胎児付属物由来接着細胞の凍結保存」で得られた細胞集団を、比較例1の工程4と同様の手法にてサブコンフルエントになるまで接着培養した。継代培養は、比較例1の工程4と同様の手法にて行った。
【0122】
<表面抗原の発現の解析>
比較例1及び実施例1で培養した6継代目の細胞集団に関し、フローサイトメーターを用いてCD73、CD90及びSTRO-1のそれぞれに対して陽性となる細胞の比率を測定した。また、STRO-1については、段落0034に記載の式を用いて、陰性である細胞の比率を算出した。
【0123】
本測定では、CD73抗原に対応する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD73(BD社/型番:561254)を、CD90抗原に対応する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD90(BD社/型番:561969)を、それらのアイソタイプコントロール用抗体としてFITC Mouse IgG1, κ Isotype Control(BD社/型番:349041)を使用した。また、STRO-1抗原に対応する抗体としてPE Mouse Anti-STRO-1(Abcam社/型番:ab190282)を、そのアイソタイプコントロール用抗体としてMouse IgM,lambda monoclonal(PE)-Isotype Control(Abcam社/型番:ab154448)を使用した。
【0124】
解析の結果を図1図4及び表1に示す。
【表1】
【0125】
表1より、実施例1及び比較例1の細胞集団は、CD73が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が90%以上(実施例1の細胞集団:99.9%、比較例1の細胞集団:92.3%)であり、CD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が90%以上(実施例1の細胞集団:99.9%、比較例1の細胞集団:99.8%)であり、STRO-1が陰性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が95%以上(実施例1の細胞集団:100.0%、比較例1の細胞集団:99.9%)であった。
【0126】
<遺伝子発現の解析>
比較例1及び実施例1で培養した6継代目の胎児付属物由来接着細胞に関し、マイクロアレイ解析により、LFA-3遺伝子、HAPLN1遺伝子、CCND2遺伝子、及びSDHA遺伝子の発現を解析した。
【0127】
以下の手順(1)~(5)によりマイクロアレイ解析を実施した。なお、以下の手順(3)~(5)は、株式会社理研ジェネシスに委託して実施した。
(1)比較例1及び実施例1で培養した6継代目の細胞集団を、セルスクレーパー(コーニング社製)を用いてプラスチック製培養容器から剥離し、遠心分離により回収した。
(2)得られた細胞ペレットにRNAlater(Thermo Fisher Scientific社製)を添加してRNAを安定保存した後、RNeasy Plus Miniキット(QIAGEN社製)を用いてトータルRNAを抽出、精製した。
(3)100ngのトータルRNAから逆転写反応によりcDNAを合成し、cDNAからin vitro transcriptionによりcRNAに転写してビオチン標識を行った(3’IVT PLUS Reagent Kitを使用)。
(4)10.0μgの標識cRNAをハイブリダイゼーションバッファーに加え、Human GeneGenome U133A 2.0 Array(Affymetrix社製)上で16時間のハイブリダイゼーションを行った。GeneChip Fluidics Station 450(Affymetrix社製)にて洗浄、フィコエリスリン染色後、GeneChip Scanner 3000 7G(Affymetrix社製)にてスキャンを行い、AGCC(Affymetrix GeneChip Command Console Software)(Affymetrix社製)にて画像解析し、Affymetrix Expression Console(Affymetrix社製)を用いて数値化した。
(5)数値データファイルを、解析ソフトGeneSpring GX(アジレント・テクノロジー社製)を用いて解析した。
【0128】
各遺伝子の発現レベルを、SDHA遺伝子の発現レベルに対する相対発現量として求めた。結果を下記表2に示す。
【0129】
【表2】
【0130】
表2より、比較例1の細胞集団と比べて、実施例1の細胞集団は、LFA-3遺伝子の相対発現量が多いことが分かった。実施例1の細胞集団は、SDHA遺伝子の発現量に対するLFA-3遺伝子の相対発現量が1.0以上(具体的には1.8)であるのに対し、比較例1の細胞集団は、SDHA遺伝子の発現量に対するLFA-3遺伝子の相対発現量が1.0未満(具体的には0.8)であることが分かった。
【0131】
また、表1より、比較例1の細胞集団と比べて、実施例1の細胞集団は、HAPLN1遺伝子の相対発現量が多いことが分かった。実施例1の細胞集団は、SDHA遺伝子の発現量に対するHAPLN1遺伝子の相対発現量が4.0以上(具体的には6.4)であるのに対し、比較例1の細胞集団は、SDHA遺伝子の発現量に対するHAPLN1遺伝子の相対発現量が4.0未満(具体的には0.5)であることが分かった。
【0132】
さらに、表1より、比較例1の細胞集団と比べて、実施例1の細胞集団は、CCND2遺伝子の相対発現量が少ないことが分かった。実施例1の細胞集団は、SDHA遺伝子の発現量に対するCCND2遺伝子の相対発現量が1.5以下(具体的には0.4)であるのに対し、比較例1の細胞集団は、SDHA遺伝子の発現量に対するCCND2遺伝子の相対発現量が1.5より多い(具体的には3.8)ことが分かった。
【0133】
<分化能の評価>
分化能を以下の手順(1)~(3)により評価した。
(1)比較例1及び実施例1で培養した6継代目の細胞集団を、接着培養用12ウェルプレート(住友ベークライト社/品番:MS-80120)に継代し、10%ウシ胎児血清(FBS)(非働化済み)及び1×Antibiotic-Antimycotic(Thermo Fisher Scientific社製)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてコンフルエント率60%以上80%以下になるまで培養した。
(2)脂肪細胞への分化誘導培地(StemPro(登録商標)Adipogenesis Differentiation Kit、Thermo Fisher Scientific社製)、又は軟骨細胞への分化誘導培地(StemPro(登録商標)Chondrogenesis Differentiation Kit、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、3%以上5%以下のCO2濃度、37℃環境下にて21日間培養を行った。培地交換は週2回の頻度で実施した。
(3)脂肪細胞への分化誘導培地を用いて培養した細胞集団を、オイルレッドOを用いて染色し、顕微鏡にて観察した。軟骨細胞への分化誘導培地を用いて培養した細胞集団を、アルシアンブルーを用いて染色し、顕微鏡にて観察した。
【0134】
結果を図5図8に示す。
【0135】
図5及び図6より、比較例1の細胞集団は、多数の丸みを帯びた細胞が観察され、オイルレッドO染色により成熟脂肪細胞を示すオイルレッドO染色細胞が観察された。一方、実施例1の細胞集団は、多数の紡錘形の細胞が観察され、オイルレッドO染色陽性細胞は観察されなかった。以上より、比較例1の細胞集団と比べて、実施例1の細胞集団は、脂肪細胞への分化能が低いことが明らかになった。
【0136】
また、図7及び図8より、実施例1及び比較例1の細胞集団は、いずれも細胞に形態的な差は観察されず、アルシアンブルー染色により軟骨特異的細胞外マトリックスの蓄積が観察されなかった。以上より、実施例1及び比較例1の細胞集団は、いずれも軟骨細胞への分化能が認められなかった。
【0137】
よって、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団は、分化能が低いことが分かった。
(a)前記細胞集団において、CD73及びCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が90%以上であり、かつ
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するLFA-3遺伝子の相対発現量が1.0以上であることを満たす。
【0138】
また、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団は、分化能が低いことが分かった。
(a)前記細胞集団において、CD73及びCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が90%以上であり、かつ
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するCCND2遺伝子の相対発現量が1.5以下であることを満たす。
【0139】
分化能が低い細胞集団を取得するための指標として、上記(a)及び(b)の条件が有効であることが示唆された。つまり、本発明によれば、上記(a)及び(b)の条件を指標とすることによって、低い分化能を示す胎児付属物由来接着細胞を含む細胞集団を取得することができ、これを細胞製剤の製造に供することにより、異所性組織形成を引き起こすリスクを低減した安全性の高い細胞製剤を製造することができる。
【0140】
<実施例2>
インフォームドコンセントを得た待機的帝王切開症例の妊婦(比較例1及び実施例1とは異なるドナー)から、実施例1と同様に、「工程1:羊膜の採取」、「工程2:羊膜の酵素処理及び胎児付属物由来接着細胞の回収」、「工程3:胎児付属物由来接着細胞の凍結保存」及び「工程4:胎児付属物由来接着細胞の培養」を行った。胎児付属物由来接着細胞の培養においては、継代ごとに細胞集団の一部を採取し、採取したそれぞれの細胞集団について下記(a)及び(b)の条件を評価した。前記条件の評価は、上記「表面抗原の発現の解析」及び「遺伝子発現の解析」と同様の手法を使用した。
(a)前記細胞集団において、CD73及びCD90が陽性を呈する胎児付属物由来接着細胞の比率が90%以上であり、かつ
(b)前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するLFA-3遺伝子の相対発現量が1.0以上であることを満たす。
【0141】
採取した細胞集団には、上記(a)及び(b)の条件を満たす細胞集団と満たさない細胞集団が存在したため、前記2種類の細胞集団について段落0133に記載の「分化能の評価」と同様の手法にて分化能を評価した。
【0142】
その結果、上記(a)及び(b)の条件を満たさない細胞集団と比べて、上記(a)及び(b)の条件を満たす細胞集団は、脂肪細胞への分化能が低く、軟骨細胞への分化能が認められなかった。上記(a)及び(b)の条件を満たさない細胞集団と比べて、上記(a)及び(b)の条件を満たす細胞集団は、分化能が低いことから、上記(a)及び(b)の条件を指標とすれば、分化能が低い細胞集団を選択的に取得することができる。
【0143】
<実施例3:医薬組成物の製造>
上記の実施例1で得られた細胞集団の一部を医薬組成物の調製に供する。胎児付属物由来接着細胞4.0×108個、HES800mg、DMSO0.7mL及びヒト血清アルブミン800mgを含有するRPMI1640培地20mLからなる医薬組成物(細胞製剤)を調製する。当該医薬組成物を凍結用バッグに封入し、凍結状態で保存する。尚、使用時に医薬組成物を解凍し、患者に供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8