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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】難燃性ポリアミド組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20220913BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K5/521
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2019511867
(86)(22)【出願日】2017-08-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-19
(86)【国際出願番号】 US2017048318
(87)【国際公開番号】W WO2018044664
(87)【国際公開日】2018-03-08
【審査請求日】2020-08-14
(31)【優先権主張番号】62/380,757
(32)【優先日】2016-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518168155
【氏名又は名称】アイシーエル‐アイピー・アメリカ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ICL‐IP AMERICA INC.
【住所又は居所原語表記】769 OLD SAW MILL RIVER ROAD, 4TH FLOOR, TARRYTOWN, NY 10591, UNITED STATES OF AMERICA
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ヒルクソーン,ヤニフ
(72)【発明者】
【氏名】ディヒター,シェイ
(72)【発明者】
【氏名】エデン,エーヤル
(72)【発明者】
【氏名】レヴチク,セルゲイ,ヴィ
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-265539(JP,A)
【文献】特開昭60-058463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/00
C08K 5/521
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも一種のポリアミド、
並びに、
(b)一般式(I)のヒドロキノンジフェニルホスフェートエステル、
【化1】
(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、任意にヘテロ原子で中断された、それぞれ独立して30個までの炭素原子を含むアリールまたはアリールアルキルであり、Xは20個までの炭素原子を含む二価ヒドロキノン基であり、nは1.0~2.0の平均値を有する。)
および
(c)少なくとも一種の臭素化難燃剤および任意のメラミンポリホスフェート
からなる難燃添加剤、
を含み、かつ、
有機ホスホン酸化合物又はその塩、有機亜ホスホン酸化合物又はその塩、有機スルホン酸化合物又はその塩、およびポリフェニレンエーテル樹脂をいずれも含まない、
難燃性ポリアミド組成物。
【請求項2】
前記少なくとも一種のポリアミド(a)が、ポリアミド-6、ポリアミド-6,6、ポリアミド-11、ポリアミド-12、ポリアミド-4,6、ポリアミド-6,10およびポリアミド-6,12ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項3】
前記ポリアミドがポリアミド-6,6である、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項4】
前記一般式(I)の前記ヒドロキノンジフェニルホスフェートエステルがヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)である、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項5】
前記少なくとも一種の臭素化難燃剤がポリマー臭素化難燃剤である、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項6】
前記少なくとも一種の臭素化難燃剤がポリマー臭素化エポキシポリマーである、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項7】
前記少なくとも一種の臭素化難燃剤がデカブロモジフェニルエタンである、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項8】
前記少なくとも一種の臭素化難燃剤が臭素化ポリスチレンである、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項9】
前記少なくとも一種の臭素化難燃剤が、臭素化ポリスチレン、ポリジブロモスチレン、ポリトリブロモスチレン、ポリペンタブロモスチレン、デカブロモジフェニルエタン、テトラブロモデカブロモジフェノキシベンゼン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、2-エチルヘキシルテトラブロモフタル酸エステル、ヘキサブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、テトラブロモジフェニルスルフィド、テトラブロモビスフェノールSビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、臭素化ポリアクリレート、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、ポリジブロモフェニレンオキシド、臭素化フェノキシ樹脂、エポキシ末端臭素化フェノキシ樹脂、F-3000シリーズとして販売されている末端封鎖臭素化エポキシポリマー、臭素化ポリカーボネート、テトラブロモビスフェノールAのフェノキシ末端カーボネートオリゴマー、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項10】
前記少なくとも一種の臭素化難燃剤がポリペンタブロモベンジルアクリレートである、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項11】
シリコーンオイル、シリカ、アスベスト、およびフィブリル化型フッ素含有ポリマーからなる群より選択される少なくとも一種の防滴剤をさらに含む、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項12】
前記フィブリル化型フッ素含有ポリマーが、ポリ(テトラフルオロエチレン)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、テトラフルオロエチレン/エチレンコポリマー、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)、およびそれらの混合物から成る群より選択される、請求項11に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項13】
成分(b)および(c)の存在量としては、(b)が5~30重量%、(c)の合計量が1~40重量%であり、防滴剤の量が0.02~2重量%である、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項14】
充填剤をさらに含む、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項15】
前記充填剤がガラス繊維である、請求項14に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項16】
衝撃改質剤をさらに含む、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項17】
熱安定剤および/または酸化防止剤をさらに含む、請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物。
【請求項18】
請求項1に記載の難燃性ポリアミド組成物を含む成形品。
【請求項19】
前記成形品が0.8mmの厚さおよびV-0の難燃性を有する、請求項18に記載の成形品。
【請求項20】
前記成形品が0.4mmの厚さおよびV-0の難燃性を有する、請求項18に記載の成形品。
【請求項21】
前記成形品が10~50のメルトフローインデックスを有する、請求項18に記載の成形品。
【請求項22】
(a)少なくとも一種のポリアミド、
並びに、
(b)一般式(I)のヒドロキノンジフェニルホスフェートエステル、
【化2】
(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、任意にヘテロ原子で中断された、それぞれ独立して30個までの炭素原子を含むアリールまたはアリールアルキルであり、Xは20個までの炭素原子を含む二価ヒドロキノン基であり、nは1.0~2.0の平均値を有する。)
および
(c)少なくとも一種の臭素化難燃剤および任意のメラミンポリホスフェート
からなる難燃添加剤、を含み、
有機ホスホン酸化合物又はその塩、有機亜ホスホン酸化合物又はその塩、有機スルホン酸化合物又はその塩、およびポリフェニレンエーテル樹脂をいずれも含まない、
原料群をブレンドすることを含む、難燃性物品を製造する方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法によって製造された難燃性物品。
【請求項24】
前記物品が射出成形電子部品である、請求項23に記載の難燃性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2016年8月29日に出願された米国仮出願第62/380,757号の優先権を主張し、その内容が全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、難燃性ポリアミド組成物、その製造方法、およびそれを含む物品に関する。
【背景技術】
【0003】
ガラス強化または非強化熱可塑性ポリアミドが、とりわけコネクター、フレーム、可動部品、変圧器、マイクロモーターなどの電子部品の製造に使用されている。これらの用途のほとんどにおいて、難燃性が必要とされ、通常、臭素化難燃剤と、相乗剤としての三酸化アンチモンとの組み合わせに基づく難燃剤系によって提供される。
【0004】
しかし、非常に効率的な相乗剤である三酸化アンチモンは煙の発生量を著しく増加させる傾向があり、それが火災の場合に視界を損ない人々の避難の問題を引き起こすので、このタイプの難燃剤系には制限がある。さらに、三酸化アンチモンは非常に高い嵩密度を有し、これが成形部品の比重を増大させる。これは輸送および航空において特に望ましくない。さらに、近年、三酸化アンチモンの価格が大幅に上昇している。さらに、最近導入された一部のエコラベルは、熱可塑性部品からの三酸化アンチモンの除去を必要としている。
【0005】
低三酸化アンチモンまたは三酸化アンチモンを含まない難燃性プラスチックが明らかに必要とされているが、それは、通常、臭素化難燃剤の配合量の大幅な増加を必要とする。
【0006】
ジエチルホスフィン酸のアルミニウム塩(DEPAL)などのいくつかのリン含有材料が使用されてきたが、それは、依然として、押出機スクリューの腐食、低流動性、より困難な成形性、より長い射出成形時間、不十分なリサイクル性、劣っている機械的および熱的特性、望ましさに至らない耐老化性などの様々な加工問題をもたらしていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ヒドロキノンビスジフェニルホスフェートエステルと、少なくとも一種の臭素化難燃剤および場合によりメラミンポリホスフェート(MPP)との組み合わせが、熱可塑性ポリアミド、好ましくはガラス強化ポリアミド-6,6のための難燃添加剤を提供し、それにより、三酸化アンチモンの使用を必要とせずに、電気および電子用途における熱可塑性ポリアミド樹脂に適切な難燃性効率が提供されることが本明細書において予想外にも発見された。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(a)少なくとも一種のポリアミド、
(b)一般式(I)のヒドロキノンビスジフェニルホスフェートエステル、
【化1】
(式中、R、R、RおよRは、それぞれ独立して、任意にヘテロ原子で中断された、それぞれ独立して約30個までの炭素原子を含むアリールまたはアリールアルキルであり、Xは約20個までの炭素原子を含む二価ヒドロキノン基であり、nは約1.0~約2.0の平均値を有する。)、および
(c)少なくとも一種の臭素化難燃剤および任意のメラミンポリホスフェートを含む難燃性ポリアミド組成物に関する。
【0009】
さらに、本発明は、前記ポリアミド(a)、例えばポリアミド-6,6、ヒドロキノンビスジフェニルホスフェートエステル(b)、および少なくとも一種の臭素化難燃剤および任意のMPPをブレンドすることを含む、前記難燃性ポリアミド組成物の製造方法に関する。
【0010】
さらにまた、本発明は、前述の方法によって製造される物品、例えば、ポリアミド、ガラス繊維、ヒドロキノンビスジフェニルホスフェートエステル(b)、少なくとも一種の臭素化難燃剤および任意のMPP、さらに任意の、少なくとも一種の防滴剤、ガラス繊維以外の充填剤、衝撃改質剤、酸化防止剤、潤滑剤、加工助剤、および着色剤を含む成形品にも関する。
【0011】
本発明は、一つの非限定的な実施形態において、本明細書に記載されるように、成分(a)~(c)および任意のMPPを含む、本質的になる、またはそれからなることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書における本発明の前記使用は、特に一般式(I)のヒドロキノンビスジフェニルホスフェートエステル(b)の前記使用に関して、ヒドロキノンビスジフェニルホスフェートエステル(b)が機械的および熱的特性を維持し、さらなる添加剤を含むDEPALと比較して同じ流動特性を維持するという点で、DEPALと同様の可塑化効果をもたらした。
【0013】
本明細書で使用されるとき、前記少なくとも一種のポリアミド(a)は、主鎖中にアミド基を含有する任意のポリマー熱可塑性材料を含むことを意図している。より具体的には、前記ポリアミド(a)は、好ましい実施形態では、アミノおよびカルボン酸基の間に少なくとも二個の炭素原子を有するモノアミノモノカルボン酸またはそれらのラクタムの、アミノ基とジカルボン酸との間に少なくとも二個の炭素原子を含む実質的に等モル割合のジアミンの、または先に定義したモノアミノカルボン酸又はそのラクタムと、実質的に等モル割合のジアミンおよびジカルボン酸の重合を含む任意の公知の方法によって製造される任意の熱可塑性ポリアミドである。前記ジカルボン酸は、その官能性誘導体、例えば塩、エステルまたは酸塩化物の形で使用することができる。
【0014】
本明細書の別の実施形態では、前記難燃ポリアミド組成物は、一つまたは複数のポリアミド、例えば、数種類のポリアミドのブレンドを含むことができる。
【0015】
適切なポリアミド成分としては、少なくとも一種のポリアミド-6、ポリアミド-6,6、ポリアミド-11、ポリアミド-12、ポリアミド-4,6、ポリアミド-6,10およびポリアミド-6,12、ならびにテレフタル酸および/またはイソフタル酸とトリメチルヘキサメチレンジアミンから調製されるポリアミド、アジピン酸とメタキシリレンジアミンから製造されるポリアミド、アジピン酸、アゼライン酸および2,2-ビス-(p-アミノシクロヘキシル)プロパンから製造されるポリアミド、ならびにテレフタル酸と4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタンから製造されるポリアミドが挙げられる。前述のポリアミドまたはそのプレポリマーの二つ以上の混合物および/またはコポリマーも、それぞれ、本明細書で使用することができる。
【0016】
本明細書における1つの特定の実施形態では、前記ポリアミドは、ポリアミド-6、ポリアミド-6,6、ポリアミド-11、ポリアミド-12、およびそれらの組み合わせからなる群より選択することができ、より具体的な前記ポリアミドは、ポリアミド-6,6およびポリアミド6の少なくとも一種である。本明細書の一実施形態では、前記最も具体的なポリアミドは、ポリアミド-6,6である。
【0017】
本明細書の一実施形態では、本明細書の前記熱可塑性ポリアミド(a)は、前記難燃ポリアミド組成物の合計重合に基づいて約30~約90重量パーセントの量で存在することができる。
【0018】
ポリアミドのブレンドを使用する場合、前記ポリアミド成分(a)は、組み合わせた両ポリアミド成分100重量部を基準にして、約1~約99重量部の一種のポリアミドおよび約99~約1重量部の異なるポリアミドを含むことができる。
【0019】
一実施形態では、一般式(I)の前記ヒドロキノンビスジフェニルホスフェートエステル(b)は、式中、R、R、RおよびRが、それぞれ独立して、任意にヘテロ原子で中断された、それぞれ独立して約30個までの炭素原子、好ましくは12個までの炭素原子を含むアリールまたはアリールアルキルであり、Xが約20個までの炭素原子を含む二価ヒドロキノン基であり、nが約1.0~約2.0の平均値を有するものとすることができる。
【0020】
本発明の一態様において、nが約1.0~約1.1の平均値を有し、Xがヒドロキノンである一般式(I)内のホスフェートは、易流動性粉末の形態である。典型的には、これに限定されないが、式Iの前記ホスフェートに適用される「易流動性粉末」は、約10μm~約80μmの平均粒径を有する。これらの易流動性粉末は、熱可塑性樹脂と配合すると、様々な取り扱い上の問題を回避し、ならびに樹脂流動性などの改善された熱特性を付与する。
【0021】
一般に、本発明の前記ヒドロキノンビスホスフェートはジアリールハロホスフェートを触媒の存在下でヒドロキノンと反応させることにより製造される。本発明の好ましい実施形態では、ジフェニルクロロホスフェート(DPCP)をMgClの存在下でヒドロキノンと反応させてヒドロキノンビス-(ジフェニルホスフェート)(HDP)を製造する。本発明によれば、この方法によって製造される一般式(I)で示されるヒドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)は約1.1以下の平均n値を有するであろう。
【0022】
前記難燃性ポリアミド組成物において本明細書で使用される成分(c)は、少なくとも一種の臭素化難燃剤を含むことができ、本明細書の別の実施形態では、前記難燃性ポリアミド組成物はMPPもさらに任意で含み得る。一つの特定の実施形態では、前記成分(c)は少なくとも一種の臭素化難燃剤、例えばFR-803Pのような臭素化ポリスチレンおよび/またはF-2400またはF-3100(これらはすべてICL-IP America社から入手可能)のような臭素化エポキシポリマー、または同様にICL-IP America社から入手可能なFR-1410のようなデカブロモジフェニルエタンであり、前記難燃性ポリアミド組成物のそのような組成において、前記組成物はMPPが存在しなくてもよいが、MPPが存在してもよい。他の特定の成分において、前記難燃性ポリアミド組成物は成分(a)-(c)を含み、MPPも含む。本明細書の特定の一実施形態では、前記難燃性ポリアミド組成物は、成分(a)~(c)を含み、MPPを含まないことがある。
【0023】
前記ポリアミド組成物の前記成分(c)は少なくとも一種の臭素化難燃剤を含むことができる。すなわち、それは任意の既知の臭素化難燃剤であり、非限定的な例として、臭素化ポリスチレン、ポリジブロモスチレン、ポリトリブロモスチレン、ポリペンタブロモスチレン、デカブロモジフェニルエタン、テトラブロモデカブロモジフェノキシベンゼン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、2-エチルヘキシルテトラブロモフタル酸エステル、ヘキサブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、テトラブロモジフェニルスルフィド、テトラブロモビスフェノールSビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、臭素化ポリアクリレート、例えば、ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、ポリジブロモフェニレンオキシド、臭素化フェノキシ樹脂、エポキシ末端臭素化フェノキシ樹脂、F-3000シリーズとして販売されている末端封鎖臭素化エポキシポリマー、臭素化ポリカーボネート、テトラブロモビスフェノールAのフェノキシ末端カーボネートオリゴマー、およびそれらの組み合わせが挙げられる。ポリジブロモスチレンなどの前記臭素化ポリスチレンは、ポリスチレンまたはポリ(α-メチルスチレン)を臭素化することによって、または臭素化スチレンまたは臭素化α-メチルスチレンを重合することによって調製される。
【0024】
前記少なくとも一種の臭素化難燃剤は、本明細書の一実施形態では、ポリマー臭素化エポキシポリマーなどのポリマー臭素化難燃剤であり得る。本明細書の他の実施形態では、前記少なくとも一種の臭素化難燃剤はデカブロモジフェニルエタンであり得る。本明細書のさらに別の実施形態では、前記少なくとも一種の臭素化難燃剤は臭素化ポリスチレンであり得る。
【0025】
具体的には、少なくとも一種の臭素化難燃剤成分(c)の適切な例には、以下の式の難燃剤化合物が含まれる。
【0026】
FR-1210の商品名で販売されているデカブロモジフェニルエーテル
【化2】
【0027】
FR-1524の商品名で販売されているテトラブロモビスフェノールA
【化3】
【0028】
FR-720の商品名で販売されているテトラブロモビスフェノールAビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)
【化4】
【0029】
FR-245の商品名で販売されているトリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン
【化5】
【0030】
FR-370の商品名で販売されているトリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート
【化6】
【0031】
FR-1025の商品名で販売されているポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)
【化7】
【0032】
FR-803Pの商品名で販売されている臭素化ポリスチレン
【化8】
【0033】
F-2000シリーズの商品名で販売されているエポキシ末端臭素化フェノキシ樹脂
【化9】
【0034】
F-3000シリーズの商品名で販売されている末端封鎖臭素化エポキシポリマー
【化10】
【0035】
テトラブロモビスフェノールAのフェノキシ末端カーボネートオリゴマー
【化11】
【0036】
デカブロモジフェニルエタン
【化12】
【0037】
テトラブロモデカブロモジフェノキシベンゼン
【化13】
【0038】
エチレンビステトラブロモフタルイミド
【化14】
【0039】
テトラブロモビスフェノールSビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)
【化15】
【0040】
ポリジブロモフェニレンオキシド
【化16】
【0041】
2-エチルヘキシルテトラブロモフタル酸エステル
【化17】
【0042】
ビス(トリブロモフェノキシ)エタン
【化18】
【0043】
本明細書における一つの特定の実施形態では、前記ポリアミド組成物の前記成分(c)は、ICL-IP America社から入手可能なFR-803Pの商品名で販売されている臭素化ポリスチレンである。
【0044】
一実施形態では、前記成分(c)は、ICL-IP America社から入手可能なF-2400などの臭素化エポキシポリマー難燃剤である。
【0045】
本明細書の一実施形態では、前記MPP成分はBASFから入手可能である。
【0046】
前記難燃性ポリアミド組成物は、防滴剤、例えばガラス繊維である充填剤、酸化防止剤、潤滑剤、加工助剤、および着色剤などの一つまたは複数の任意成分をさらに含むことができる。
【0047】
防滴剤は、前記ポリアミド樹脂が燃焼条件にさらされている間にポリアミド樹脂が滴下するのを防止または遅延させる。そのような剤の具体例としては、シリコーンオイル、シリカ(補強性充填剤としても機能する)、およびフィブリル化型フッ素含有ポリマーが挙げられる。フッ素含有ポリマーのいくつかの非限定的な例には、フッ素化ポリオレフィン、例えば、ポリ(テトラフルオロエチレン)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、テトラフルオロエチレン/エチレンコポリマー、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)など、および上記防滴剤の少なくともいずれか一つを含む混合物が挙げられる。
【0048】
好ましい防滴剤は、スチレン-アクリロニトリル(SAN)コポリマーによってカプセル化されたポリ(テトラフルオロエチレン)である。使用されるとき、防滴剤は、前記組成物の合計重合に基づいて0.02~2重量%、より具体的には0.05~1重量%の量で存在する。
【0049】
一実施形態では、前記防滴剤はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり得る。これは様々な製品品質で市販されている。これらは添加剤を含み、それは例えば、Hostaflon(登録商標)TF2021またはPTFEブレンドであり、例えば、Metablen(登録商標)A-3800(約40%のPTFE CAS 9002-84-0および約60%のメタクリル酸メチル/アクリル酸ブチルコポリマー CAS 25852-37-3:三菱レイヨン製)またはChemtura製のBlendex(登録商標)B449(約50%のPTFEおよび約50%のSAN[80%スチレンおよび20%アクリロニトリル])である。Blendex(登録商標)B449が好ましくは使用される。
【0050】
本発明の無機充填剤は、得られる成形品の成形収縮率や線膨張係数を下げ、高低の熱衝撃性を改良する目的で、前記難燃性ポリアミド組成物に添加することができ、所望の物品に応じて、繊維または非繊維(例えば、粉末、プレート)状態の種々の充填剤を使用することができる。無機フィラーの一種である繊維状フィラーの一部の例としては、ガラス繊維、偏平繊維などの非円形断面を有するガラス繊維、炭素繊維、シリカ繊維、シリカ-アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維、ホウ素繊維、チタン酸カリウム繊維、さらには、ステンレス、アルミニウム、チタン、銅および真鍮のような金属繊維状物質が挙げられる。
【0051】
特に、典型的な前記繊維状充填剤はガラス繊維または炭素繊維である。一方、無機充填剤は、粉末状充填剤であり、例えば、カーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉末、ケイ酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、珪灰石のようなケイ酸塩、金属酸化物、例えば酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛およびアルミナ、金属炭酸塩、例えば炭酸カルシウムおよび炭酸マグネシウム、金属硫酸塩、例えば硫酸カルシウムおよび硫酸バリウム、さらに、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、および各種金属粉末が挙げられる。
【0052】
無機充填剤の他の例は、マイカ、ガラスフレークおよび種々の金属箔のような板状充填剤であり得る。これらの無機充填材は、単独使用または2種類以上併用することができる。これらの無機充填材を使用する場合、必要に応じてあらかじめサイズ剤や表面処理剤で処理しておくことが望ましい。特定の一実施形態では、前記充填剤は、ガラス繊維単独、または本明細書に記載の他の充填剤のうちの一つ以上と組み合わせたものであり得る。
【0053】
前記ポリアミド系難燃剤組成物中の前記無機充填剤の量は、1~50重量%、好ましくは10~45重量%、最も好ましくは20~40重量%であり得る。少なすぎると耐熱衝撃性を向上させる効果が少なく、多すぎると成形加工が困難になる。
【0054】
前記ポリアミド難燃剤組成物はまた、エラストマーおよびコア-シェルポリマーなどの衝撃改質剤をさらに含み得る。これらのエラストマーは、常温でゴム状弾性を有する固体であるが、加熱すると粘度が低下するため、熱可塑性ポリアミド樹脂(a)と溶融混合することができる熱可塑性エラストマーであり得る。使用される前記具体的な熱可塑性エラストマーは特に限定されず、オレフィン-、スチレン-、ポリアミド-(成分(a)を除く)、およびウレタン-に基づくエラストマーが非限定的な例として使用され得る。
【0055】
コアシェルポリマーは、多層構造を有し、好ましくは1.0μm以下の平均粒径を有するゴム層がガラス質樹脂で包まれたコアシェル型のグラフトコポリマーである。前記コアシェル型コポリマーのゴム層は、1.0μm以下の平均粒径を有し、好ましくは0.2~0.6μmである。前記ゴム層の平均粒径が1.0μmを超えると、耐衝撃性向上の効果が不十分となる場合がある。このコアシェル型コポリマーの前記ゴム層としては、シリコン系、ジエン系またはアクリル系エラストマーの少なくとも1つを共重合/グラフト共重合したものを用いることができる。
【0056】
三酸化アンチモンを含まない難燃性ポリアミド組成物の10重量%未満、好ましくは5重量%未満の量で典型的に使用される他の任意成分としては、非限定的例として、潤滑剤、熱安定剤、および前記樹脂の特性を向上させるために使用される他の添加剤が挙げられる。
【0057】
典型的には、エステル交換防止剤は0.01重量%~0.5重量%の量で使用され、これにはリン酸モノ亜鉛、リン酸亜鉛、または他の種類の防止剤が含まれる。従来の安定剤添加剤は、好ましくは全ポリアミド難燃組成物の0.01~5重量%の量で利用することができ、ヒンダードフェノールおよび酸化防止剤のような例を含む。
【0058】
本明細書の一実施形態では、前記ポリアミド難燃剤組成物は、前記ポリアミド難燃剤組成物のすべての合計重量に基づいて、約40~約90重量%の量のポリアミド(a)、約5~約30重量%の量の一般式(I)のヒドロキノンビスジフェニルホスフェート(b)、総量1~約30重量%の前記臭素化難燃剤成分(c)、および、任意に存在する場合は約1~約10重量%の量のMPP、および、約0.02~2重量%の量の前記防滴剤を含む。
【0059】
より具体的な実施形態では、前記ポリアミド難燃剤組成物は、前記ポリアミド難燃剤組成物の合計重量に基づいて、約40~約90重量%の量のポリアミド(a)、約5~約30重量%の量の一般式(I)のヒドロキノンビスジフェニルホスホン酸塩(b)、総量1~約30重量%の前記臭素化難燃剤成分(c)、および、任意に存在する場合は約1~約10重量%の量のMPP、および、約0.05~1重量%の量の前記防滴剤を含み、また、前記ポリアミド難燃剤組成物のすべての合計重量に基づいて、約10~約35重量%の量の無機充填剤を含む。
【0060】
前記ポリアミド難燃性熱可塑性組成物中の難燃性添加剤(b)、(c)、および無機充填剤のこれらの量のは、その難燃性有効量である。
【0061】
本明細書の前記ポリアミド難燃性熱可塑性組成物は、UL-94プロトコルに従って、HB、V-2、V-1、V-0および5VAのうちの一つ以上の難燃性分類を有することができる。一実施形態では、前記ポリアミド難燃剤組成物は少なくともV-1またはV-0の難燃性を有することができる。
【0062】
本発明の組成物をブレンドする方法は重要ではなく、従来の技術によって実施することができる。一つの便利な方法は、前記ポリアミド(a)ならびに他の成分(b)および(c)、および任意のMPPを、任意に粉末または顆粒形態でブレンドし、前記ブレンド物を押出し、前記ブレンド物をペレットまたは他の適当な形状に粉砕することを含む。
【0063】
必須ではないが、前記成分をあらかじめ配合し、ペレット化してから成形すると、最良の結果が得られる。予備配合は従来の装置で実施することができる。例えば、前記ポリアミド樹脂(a)、他の成分、および場合により他の添加剤および/または強化剤を注意深く予備乾燥した後、一軸スクリュー押出機に前記組成物のドライブレンドを供給し、使用する前記スクリューは、適切な融解を確保するために、長い遷移部を有する。一方、二軸スクリュー押出機、例えば、ZE25(L/D=32、Berstorff製)押出機の供給口に樹脂や添加剤を供給し、下流補強を有することができる。いずれの場合でも、一般的に適切な機械温度は約220~320℃である。
【0064】
前記予備配合組成物を、標準的な技術によって、押し出し、従来の顆粒、ペレットなどの成形コンパウンドに切断または叩き切ることができる。
【0065】
前記ポリアミド難燃剤組成物は、熱可塑性組成物に従来使用されている任意の装置で成形することができる。例えば、射出成形機、例えばArburg 320S Allrounder 500-150タイプにおいて、慣用の温度、例えば230~270℃で良好な結果が得られる。必要ならば、前記ポリアミド(a)の成形特性、添加剤および/または強化用充填剤の量および前記ポリアミド成分(a)の結晶化速度に応じて、当業者は、組成物を収容する成形サイクルにおいて慣用の調整を行うことができるであろう。
【0066】
本明細書の別の実施形態では、前記ポリアミド難燃組成物を含む成形品、好ましくは射出成形によって製造される成形品が提供される。
【0067】
一実施形態では、前記成形品は0.8mmまたは0.4mmの厚さおよびV-0の難燃性を有する。
【0068】
別の実施形態では、前記成形品は、ASTMD1238 270C/1.2kgで測定して、10~50、好ましくは15~50、より好ましくは15~40、最も好ましくは20~40のメルトフローインデックス(MFI)を有する。
【0069】
本発明の前記ポリアミド難燃組成物は、例えば、コネクタ、フレーム、可動部品、変圧器およびマイクロモーターなどの電子部品の製造に有用である。
【0070】
本明細書の特定の実施形態では、ポリアミドポリマー(a)、ヒドロキノンビスジフェニルホスフェート(b)、少なくとも一種の臭素化難燃剤(c)、任意のMPPおよび防滴剤、および任意にガラス繊維を含む射出成形部品、例えば電子部品が提供される。
【0071】
別の実施形態では、上述の方法によって製造された、本明細書に記載の難燃性物品、例えば電子部品、好ましくは射出成形電子部品が提供される。
【実施例
【0072】
以下の実施例を用いて本発明を説明する。
(実施例)
本実施例は、1.6、0.8および0.4mmの厚さでの燃焼性を評価し、さらに機械的特性も評価した。
【0073】
(材料)
この研究で使用された材料を表1に示す。
【0074】
(配合)
配合は、二軸同方向回転押出機ZE25(L/D=32、Berstorff製)において行った。前記押し出されたストランドを、Accrapak Systems Limited製のペレタイザー750/3でペレット化した。前記得られたペレットを、Heraeus Instruments製の循環空気オーブン中、110℃で3時間乾燥した。
【0075】
(射出成形)
試験片は、Allrounder 500-150(Arburg製)において射出成形することにより調製した。
【0076】
(コンディショニング)
試験片を23℃で一週間コンディショニングした。
【0077】
(試験)
試験方法を表2に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
(結果)
FR-803Pを含有する組成物の難燃性(表3):
ATO基準:13%Brおよび4%ATOは全ての厚さでV-0と評価された。
MPPおよびExolit 1314組成物はFR-803Pではうまく機能しなかった。
MPP/HDP(混合物):13%Brおよび4%MPP/HDPは1.6および0.8mmでV-0と評価されたが、0.4mmでV-2と評価された。
13%Brおよび5%MPP/HDP組成物は1.6および0.4mmでV-0と評価されたが、0.8mmでV-1と評価された。
Exolit 1312:13%Brおよび4%Exolit 1312は、すべての厚さでV-0と格付けされた。
【0083】
FR-803Pを含有する組成物の機械的特性(表3):
アイゾット衝撃強度:MPP+HDPはATOと同様のアイゾット衝撃を持ち、Exolit 1312はより低いアイゾット衝撃強度であった(10%減少)。
他のすべての特性はほぼ同じである。
【0084】
F-2400を含有する組成物の難燃性(表4):
ATO基準:13%Brおよび4%ATOは全ての厚さでV-0と評価された。
MPPとExolit 1240はF-2400でうまく機能しなかった。
Exolit 1312:13%Brと4%Exolit 1312では、1.6および0.8mmでV-0と評価されたが、0.4mmでV-2と評価された。
MPP/HDP(混合物)は、HDP単独に勝るものは無かった。
HDP:13%Brと4%HDPでは、全ての厚さでV-0と評価された。
【0085】
F-2400を含有する組成物の機械的特性(表4):
アイゾット衝撃強度:HDPはATOと同様のアイゾット衝撃を有していた。Exolit 1312は低かった(20%)。
MFI:HDPおよびExolit 1312はATOと比較して低いMFI値を有し、MPPは非常に高い流動性を有した(おそらく分解による)。
引張およびHDT:HDPはATOと同様の特性を有していた。Exolit 1312は、より低い引張強度(15%減少)およびより低いHDT値(12%減少)を有していた。
【0086】
(結論)
MPP+HDP(混合物)およびExolit 1312は、FR-803Pを含む30%ポリアミド-6,6中のATO代替として良好な性能を示し、MPP+HDP混合物は機械的特性において利点を有し、一方、Exolit 1312は少し優れた難燃性を示した。
【0087】
HDPは、良好な機械的特性を維持しながら、F-2400を含むポリアミド-6,6中のATO代替として、最高の総合性能を示した。
【0088】
本発明を特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更を加えてもよく、それらの要素と等価物を置換してもよいことが当業者には理解されよう。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本発明の教示に適合させるために多くの修正を加えることができる。したがって、本発明は、本発明を実施するために企図された最良の形態として開示された特定の実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲内にあるすべての実施形態を含むことが意図される。