(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】セパレートハンドル
(51)【国際特許分類】
B62K 21/12 20060101AFI20220913BHJP
【FI】
B62K21/12
(21)【出願番号】P 2019522103
(86)(22)【出願日】2018-05-16
(86)【国際出願番号】 JP2018018918
(87)【国際公開番号】W WO2018221223
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2017106455
(32)【優先日】2017-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【氏名又は名称】鳥居 洋
(72)【発明者】
【氏名】西田 和洋
(72)【発明者】
【氏名】永本 洋之
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0159426(US,A1)
【文献】特開平5-147569(JP,A)
【文献】特開昭60-234086(JP,A)
【文献】特表2008-518826(JP,A)
【文献】MOERSKY, Peter,Manufacturing of composite bicycle handlebar,Degree Thesis,フィンランド,Arcada University of Applied Sciences,2016年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞍乗型車両の操舵機構に直接または間接的に固定されるセパレートハンドルであって、
軸方向に延びる筒状であり、前記操舵機構の軸部が挿通した状態で前記操舵機構に直接または間接的に固定される筒部と、
グリップ部が設けられるハンドルバー部と、
前記ハンドルバー部における長手方向の一方の端部が接続されるハンドルバー取付部と、
前記筒部と前記ハンドルバー取付部とを連結するハンドルバー連結部と、
を備え、
前記筒部
、前記ハンドルバー取付部及び前記ハンドルバー連結部は、積層された状態で樹脂によって結合された複数の繊維シートを含み、
前記筒部は、
前記筒部を周方向に分断するとともに、前記筒部を前記操舵機構の軸部に固定可能なように前記筒部の周方向への弾性変形を許容する少なくとも一つのスリット部を有し、
前記軸方向よりも前記周方向に高い強度を有するように前記複数の繊維シートが径方向に積層された状態で樹脂によって結合された繊維強化樹脂によって構成されていて、
前記ハンドルバー取付部は、
前記複数の繊維シートが、前記ハンドルバー部の軸線方向に対して垂直な方向に積層された状態で、樹脂によって結合されている部分であり、
前記ハンドルバー連結部は、
前記複数の繊維シートが、前記ハンドルバー
取付部が連結される部分と前記筒部が連結される部分とを結ぶ仮想線に対して垂直な方向に積層された状態で、樹脂によって結合された繊維強化樹脂を含む、セパレートハンドル。
【請求項2】
請求項1に記載のセパレートハンドルにおいて、
前記筒部は、
筒状の筒本体部と、
前記周方向における前記スリット部の左方及び右方に、前記筒本体部の外周面から突出する一対の締結部と、
を有し、
前記一対の締結部のうち一方は、締結部材と締結可能な被締結部材を有し、
前記被締結部材は、前記筒部を構成する前記繊維強化樹脂に含まれる前記複数の繊維シートによって巻かれた状態で、樹脂によって前記筒部に結合されている、セパレートハンドル。
【請求項3】
請求項1に記載のセパレートハンドルにおいて、
前記ハンドルバー連結部は、前記筒部から前記軸方向に突出している、セパレートハンドル。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載のセパレートハンドルにおいて、
前記ハンドルバー連結部は、中実である、セパレートハンドル。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一つに記載のセパレートハンドルにおいて、
前記ハンドルバー連結部は、中空である、セパレートハンドル。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一つに記載のセパレートハンドルにおいて、
前記ハンドルバー連結部は、内部に多面体構造体または気泡体構造体を有する、セパレートハンドル。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一つに記載のセパレートハンドルにおいて、
前記ハンドルバー部は、前記ハンドルバー連結部とは別体である、セパレートハンドル。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一つに記載のセパレートハンドルにおいて、
前記ハンドルバー部は、前記ハンドルバー連結部
と一体である、セパレートハンドル。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一つに記載のセパレートハンドルにおいて、
前記ハンドルバー部は、前記ハンドルバー部に対する取付部品の取り付け位置において、少なくとも一部が中実である、セパレートハンドル。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか一つに記載のセパレートハンドルにおいて、
前記ハンドルバー部は、前記ハンドルバー部に対する取付部品の取り付け位置以外において、少なくとも一部が中空である、セパレートハンドル。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一つに記載のセパレートハンドルにおいて、
前記積層された状態で樹脂によって結合される複数の繊維シートは、カーボン、ガラス樹脂、アラミドのいずれかによって構成された繊維を含む、セパレートハンドル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のセパレートハンドルに関する。
【背景技術】
【0002】
セパレート形のハンドルを支持するハンドル支持構造として、フロントフォークに嵌合されたハンドルホルダにハンドルバーが支持された構造が知られている。具体的には、このようなハンドル支持構造として、ハンドルホルダが、割り溝によって弾性変形可能に形成されたベース部と、ハンドルバーを保持するホールド部と、前記ホールド部を前記ベース部に連結する複数のアーム部とを備えた構成が知られている(特許文献1)。この構成では、複数のアーム部が、前記ベース部の周方向に離間して配置されている。
【0003】
前記特許文献1に開示されている構成では、前記複数のアーム部が前記ホールド部を介して前記ハンドルバーを支持することにより、前記ベース部の剛性を低く保つことができる。これにより、前記ベース部における前記割り溝周辺の部分の弾性変形が許容される。よって、締結部材の締付け力によってベース部が弾性変形することにより、ハンドルホルダがフロントフォークの外周部に締結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の特許文献1に開示されている車両のハンドル支持構造では、ベース部(筒部)に金属が用いられている。そのため、セパレート形のハンドル(セパレートハンドル)を備えた車体の重量は重い。これに対し、車体の軽量化を図りたいという要求がある。
【0006】
本発明は、車両のセパレートハンドルにおいて、軽量化を図れる構成を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特許文献1に開示されるような従来のハンドル支持構造について詳細に検討した。
【0008】
前記特許文献1に開示されているような従来のハンドル支持構造では、筒部に金属が用いられている。そのため、ハンドル支持構造の剛性を高めようとした場合、前記ハンドル支持構造が弾性変形を生じにくくなる。また、ハンドル支持構造を樹脂によって構成しつつ十分な強度を確保しようとした場合、ハンドル支持構造が大型化する。そのため、車両が大型化する。
【0009】
車両を大型化することなく、車体の軽量化を図るためには、以下のような手法が考えられる。たとえば、繊維強化樹脂の特性を利用して、ハンドル支持構造の筒部に繊維強化樹脂を採用することが考えられる。
【0010】
上述のハンドル支持構造では、前記筒部は、弾性変形した状態でフロントフォークの外周部に固定されている。そのため、前記筒部には、常に周方向に引張応力(tensile stress)が加わっている。
【0011】
また、前記ハンドル支持構造では、例えばブレーキ操作によって左右のハンドルバー部に同位相の入力が加わった際に、前記筒部に対して、ハンドルバーを保持するホールド部を中心に車両前方または車両後方に回転する力が加わる。このような回転力によって、前記筒部には周方向に引張応力が生じる。そのため、前記筒部には、ブレーキ操作時等に生じる引張応力に対する強度が要求される。
【0012】
上述のような検討結果に基づいて、本発明者らは、以下のような構成に想到した。
【0013】
本発明の一実施形態に係るセパレートハンドルは、鞍乗型車両の操舵機構に直接的または間接的に固定されるセパレートハンドルである。このセパレートハンドルは、軸方向に延びる筒状であり、前記操舵機構の軸部が挿通した状態で前記操舵機構に直接または間接的に固定される筒部(a cylinder portion)と、グリップ部が設けられるハンドルバー部(a handlebar portion)と、前記ハンドルバー部における長手方向の一方の端部が接続されるハンドルバー取付部と、前記筒部と前記ハンドルバー取付部とを連結するハンドルバー連結部(a handlebar connecting portion)と、を備える。前記筒部及び前記ハンドルバー連結部は、積層された状態で樹脂によって結合された複数の繊維シートを含み、前記筒部は、前記筒部を周方向に分断するとともに、前記筒部を前記操舵機構の軸部に固定可能なように前記筒部の周方向への弾性変形を許容する少なくとも一つのスリット部を有する。前記筒部は、前記軸方向よりも前記周方向に高い強度を有するように前記複数の繊維シートが径方向に積層された状態で樹脂によって結合された繊維強化樹脂によって構成されている。前記ハンドルバー連結部は、前記複数の繊維シートが、前記ハンドルバー部が連結される部分と前記筒部が連結される部分とを結ぶ仮想線に対して垂直な方向に積層された状態で、樹脂によって結合された繊維強化樹脂を含む。
【0014】
このように、セパレートハンドルの筒部において、繊維を含む複数の繊維シートを前記筒部の径方向に積層することにより、前記筒部の周方向の強度を向上することができる。
【0015】
また、前記筒部とハンドルバー部とを連結するハンドルバー連結部において、前記ハンドルバー部が連結される部分と前記筒部が連結される部分とを結ぶ仮想線に対して垂直な方向に繊維シートを積層することにより、前記仮想線が延びる方向の強度を向上することができる。前記ハンドルバー連結部において、前記ハンドルバー部に力が入力された場合、前記ハンドルバー連結部に曲げ応力が生じる。前記ハンドルバー連結部において、繊維シートが上述のように積層されることにより、前記ハンドルバー連結部の曲げ方向の強度を向上することができる。
【0016】
したがって、前記ハンドルバー部への力の入力によってハンドルバー取付部を中心に前記ハンドルバー連結部に発生する曲げ応力に対してセパレートハンドルの強度を確保しつつ、前記筒部が金属材料によって構成された従来の構成に比べてセパレートハンドルの軽量化を図ることができる。
【0017】
本発明の一実施形態に係るセパレートハンドルにおいて、前記筒部は、筒状の筒本体部と、前記周方向における前記スリット部の右方及び左方に、前記筒本体部の外周面から突出する一対の締結部と、を有していてもよい。前記一対の締結部のうち一方は、締結部材と締結可能な被締結部材を有していてもよい。前記被締結部材は、前記筒部を構成する前記繊維強化樹脂に含まれる複数の繊維シートによって巻かれた状態で、樹脂によって前記筒部に結合されていてもよい。
【0018】
このように、筒部における一対の締結部のうち一方に被締結部材が含まれることにより、締結部材によって前記一対の締結部を締結した際に締結面がクリープ(creep)することによって生じる、締結力の低下を防止することができる。
【0019】
すなわち、繊維シートが樹脂によって結合された繊維強化樹脂によって筒部が構成されているため、該筒部における一対の締結部を締結部材によって締結した場合、前記締結部の締結面がクリープする可能性がある。これに対し、上述のように、前記一対の締結部のうち一方に前記被締結部材を設けることにより、前記被締結部材に前記締結部材を締結した際に、前記締結面がクリープすることを防止できる。
【0020】
これにより、前記締結部材によって前記一対の締結部を締結した際に、締結力が低下することを防止できる。
【0021】
また、前記被締結部材が、前記筒部を構成する前記繊維強化樹脂に含まれる複数の繊維シートによって巻かれた状態で、樹脂によって前記筒部に結合されることにより、前記一対の締結部と筒本体部との接続部分の強度を向上できる。これにより、前記被締結部材に対して前記締結部材を締結した際に、前記一対の締結部と前記筒本体部との接続部分に生じる応力によって、前記接続部分の構造が変化することを防止できる。
【0022】
本発明の一実施形態に係るセパレートハンドルにおいて、前記ハンドルバー連結部は、前記筒部から前記軸方向に突出していてもよい。
【0023】
このように、操舵軸に対して筒部で固定されるセパレートハンドルにおいて、ハンドルバー連結部を、前記筒部から軸方向に突出させることにより、グリップ部の位置の設計自由度を高めることができる。
【0024】
本発明の一実施形態に係るセパレートハンドルにおいて、前記ハンドルバー連結部は、中実であってもよい。
【0025】
このようにハンドルバー連結部の内部を中実にすることにより、前記ハンドルバー連結部の剛性を高めることができる。
【0026】
本発明の一実施形態に係るセパレートハンドルにおいて、前記ハンドルバー連結部は、中空であってもよい。
【0027】
このようにハンドルバー連結部の内部を中空にすることにより、前記ハンドルバー連結部が中実に形成された構成に対して、セパレートハンドルの軽量化を図ることができる。
【0028】
本発明の一実施形態に係るセパレートハンドルにおいて、前記ハンドルバー連結部は、内部に多面体構造体または気泡体構造体を有していてもよい。
【0029】
このようにハンドルバー連結部が内部に多面体構造体または気泡体構造体を有することにより、前記ハンドルバー連結部の剛性を確保しつつ、ハンドルの軽量化を図ることができる。
【0030】
本発明の一実施形態に係るセパレートハンドルにおいて、前記ハンドルバー部は、前記ハンドルバー連結部とは別体であってもよい。
【0031】
本発明の一実施形態に係るセパレートハンドルにおいて、前記ハンドルバー部は、前記ハンドルバー連結部とは一体であってもよい。
【0032】
本発明の一実施形態に係るセパレートハンドルにおいて、前記ハンドルバー部は、該ハンドルバー部に対する取付部品の取り付け位置において、少なくとも一部が中実であってもよい。
【0033】
このように、ハンドルバー部の取付部品の取り付け位置において、前記ハンドルバー部の少なくとも一部を中実にすることにより、前記取り付け位置における前記ハンドルバー部の強度を高めることができる。
【0034】
本発明の一実施形態に係るセパレートハンドルにおいて、前記ハンドルバー部は、該ハンドルバー部に対する取付部品の取り付け位置以外において、少なくとも一部が中空であってもよい。
【0035】
このように、ハンドルバー部の取付部品の取り付け位置以外の部分において、前記ハンドルバー部の少なくとも一部を中空にすることにより、前記取り付け位置における前記ハンドルバー部の強度を確保しつつ、セパレートハンドルの軽量化を図ることができる。
【0036】
本発明の一実施形態に係るセパレートハンドルにおいて、前記積層された状態で樹脂によって結合された複数の繊維シートは、カーボン、ガラス樹脂、アラミドのいずれかによって構成された繊維を含んでいてもよい。
【0037】
これにより、セパレートハンドルの強度を確保しつつ、筒部が金属材料によって構成された従来の構成に比べてセパレートハンドルの軽量化を図ることができる。また、繊維シートとしてアラミド繊維を用いることにより、セパレートハンドルの少なくとも一部が欠損することをより確実に防止することができる。
【0038】
本明細書で使用される専門用語は、特定の実施例のみを定義する目的で使用されるのであって、前記専門用語によって発明を制限する意図はない。
【0039】
本明細書で使用される用語「および/または」は、1つまたは複数の関連して列挙された構成物のすべての組み合わせを含む。
【0040】
本明細書中において、用語「含む、備える(including)」「含む、備える(comprising)」または「有する(having)」およびそれらの変形の使用は、記載された特徴、工程、要素、成分および/またはそれらの等価物の存在を特定するが、ステップ、動作、要素、コンポーネント、および/または、それらのグループのうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0041】
本明細書中において、用語「取り付けられた」、「接続された」、「結合された」、および/または、それらの等価物は、広義の意味で使用され、“直接的および間接的な”取り付け、接続および結合の両方を包含する。さらに、「接続された」および「結合された」は、物理的または機械的な接続または結合に限定されず、直接的または間接的な接続または結合を含むことができる。
【0042】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。
【0043】
一般的に使用される辞書に定義された用語は、関連する技術および本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されていない限り、理想的または過度に形式的な意味で解釈されることはない。
【0044】
本発明の説明においては、いくつもの技術および工程が開示されていると理解される。これらの各々は、個別の利益を有し、他に開示された技術の1つ以上、または、場合によっては全てとともに使用することもできる。
【0045】
したがって、明確にするために、本発明の説明では、不要に個々のステップの可能な組み合わせを全て繰り返すことを控える。
【0046】
しかしながら、明細書および特許請求の範囲は、そのような組み合わせが全て本発明の範囲内であることを理解して読まれるべきである。
【0047】
本明細書では、セパレートハンドルの実施形態について説明する。
【0048】
以下の説明では、本発明の完全な理解を提供するために多数の具体的な例を述べる。しかしながら、当業者には、これらの具体的な例がなくても本発明を実施できることが明らかである。
【0049】
よって、以下の開示は、本発明の例示として考慮されるべきであり、本発明を以下の図面または説明によって示される特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【0050】
[鞍乗型車両の定義]
本明細書において、鞍乗型車両とは、乗員がシートを跨いだ状態で該シートに着座する車両である。よって、前記鞍乗型車両は、二輪車はもちろんのこと、乗員がシートを跨いだ状態で該シートに着座する車両であれば、三輪車及び四輪車など、他の車両も含む。また、前記鞍乗型車両は、スクータータイプの車両も含む。
【0051】
[ハンドルバーの一端部及び他端部の定義]
ハンドルバーを長手方向の中央で二分した場合に、ハンドルバーにおける長手方向の一方の端部が一端部であり、ハンドルバーにおける長手方向の他方の端部が他端部である。
【0052】
[操舵機構に直接的または間接的に支持の定義]
本明細書において、操舵機構に直接的または間接的に支持とは、前記操舵機構に対して直接、接続または連結されている場合だけでなく、前記操舵機構に対して他の部材を介して接続または連結されている場合も含む。
【0053】
[クリープの定義]
通常、物体に一定の荷重を加えた場合、それ以上変形しないところで物体の変形が止まるが、一定の荷重を物体にさらに加え続けることにより、物体の変形が時間とともに徐々に進行する場合がある。本明細書では、このような現象をクリープ(creep)という。クリープは、樹脂の場合、常温下で発生することが知られている。
【発明の効果】
【0054】
本発明の一実施形態に係るセパレートハンドルによれば、軽量化を図れる構成が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るセパレートハンドルを備えた自動二輪車の概略構成を示す左側面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係るセパレートハンドルを備えた自動二輪車の概略構成を示す平面図である。
【
図3】
図3は、実施形態1における左ハンドルユニットの概略構成を示す模式図である。
【
図4】
図4は、実施形態1における右ハンドルユニットの概略構成を示す模式図である。
【
図5】
図5は、実施形態1におけるセパレートハンドルを車体の上方且つ後方から見た斜視図である。
【
図6】
図6は、実施形態1におけるセパレートハンドルをフロントフォークに取り付けた状態を上方且つ後方から見た斜視図である。
【
図7】
図7は、実施形態2におけるセパレートハンドルを車体の上方且つ後方から見た斜視図である。
【
図8】
図8は、
図5におけるVIII-VIII線端面図である。
【
図9】
図9は、実施形態3におけるセパレートハンドルをフロントフォークに取り付けた状態を車体の後方から見た模式図である。
【
図10】
図10は、車両及びセパレートハンドルの概略構成及びセパレートハンドルの締結部の概略構成をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下で、各実施形態について、図面を参照しながら説明する。各図において、同一部分には同一の符号を付して、その同一部分の説明は繰り返さない。なお、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0057】
以下、図中の矢印Fは、車両の前方向を示す。図中の矢印Uは、車両の上方向を示す。図中の矢印Rは、車両の右方向を示す。図中の矢印Lは、車両の左方向を示す。また、前後左右の方向は、それぞれ、車両を運転する乗員から見た場合の前後左右の方向を意味する。
【0058】
(実施形態1)
<全体構成>
図1は、実施形態1に係る車両1の全体構成の概略を示す左側面図である。
図2は、車両1の概略構成を示す平面図である。
図1及び
図2に示すように、車両1は、例えば自動二輪車などの鞍乗型車両であり、車体2と、前輪3と、後輪4とを備える。本実施形態の車両1は、例えば、傾斜姿勢で旋回する傾斜車両である。すなわち、車両1は、左方向に旋回する際に左方向に傾斜し、右方向に旋回する際に右方向に傾斜する。
【0059】
車体2は、メインフレーム5と、ヘッドパイプ6と、スイングアーム7と、シート8と、フートレスト9とを備える。
【0060】
ヘッドパイプ6は、メインフレーム5の前端部に設けられている。ヘッドパイプ6には、図示しないステアリングシャフトを介して一対のフロントフォーク10(軸部)が回動自在に支持されている。一対のフロントフォーク10の下端部には、前輪3が回動自在に取り付けられている。一対のフロントフォーク10の上端部には、それぞれ、操向用の左ハンドルユニット20および右ハンドルユニット21が支持されている。なお、ヘッドパイプ6、前記ステアリングシャフト及び一対のフロントフォーク10によって、操舵機構Sの少なくとも一部が構成される。
【0061】
スイングアーム7は、メインフレーム5の後部に回転自在に取り付けられている。スイングアーム7の後端部には、後輪4が回転自在に取り付けられている。
【0062】
シート8は、車両1における前後方向中央部分の上部に設けられている。フートレスト9は、車両1における前後方向中央部分の下部に設けられている。ライダーは、シート8に着座し、フートレスト9に足を乗せた状態で、左ハンドルユニット20及び右ハンドルユニット21をそれぞれ握る。これにより、ライダーは車両1の操舵を行うことができる。
【0063】
一対のフロントフォーク10は、左右一対の円筒状のアウターチューブ11,12と、円筒状のインナーチューブ13,14とを備えている。フロントフォーク10において、アウターチューブ11,12は下部に位置し、インナーチューブ13,14は上部に位置する。これらのインナーチューブ13,14の各々の上端部には、左ハンドルユニット20の左ハンドルホルダ26及び右ハンドルユニット21の右ハンドルホルダ27が固定されている。
【0064】
<左ハンドルユニット>
図3は、左ハンドルユニット20の概略構成を示す図である。この
図3は、左ハンドルユニット20を車両1の上方から見た図である。
図3に示すように、左ハンドルユニット20は、左ハンドル22と、クラッチレバー50と、ブラケット51と、左スイッチボックス52と、グリップ部53とを有する。
【0065】
左ハンドル22は、後述の右ハンドル23とは分離されたセパレートハンドルである。すなわち、左ハンドル22は、右ハンドル23とは独立して、フロントフォーク10のインナーチューブ13の上端部に固定されている。
【0066】
左ハンドル22は、左ハンドルバー部24(ハンドルバー部)と、左ハンドルホルダ26とを有する。左ハンドルバー部24及び左ハンドルホルダ26は、一体に形成されている。
【0067】
左ハンドルバー部24は、長手方向の一方の端部(右端部)が左ハンドルホルダ26に接続されている。すなわち、左ハンドルバー部24は、左ハンドルホルダ26から左方向に延びている。
【0068】
左ハンドルホルダ26は、円環状に形成されている。左ハンドルホルダ26は、フロントフォーク10のインナーチューブ13の上端部が貫通した状態で、該上端部に固定されている。これにより、左ハンドル22は、フロントフォーク10のインナーチューブ13の上端部に固定されている。
【0069】
左ハンドル22は、後述の右ハンドル23の構成とは左右が逆である点以外、同様の構成を有する。
【0070】
左ハンドルバー部24には、ブラケット51および左スイッチボックス52が取り付けられている。クラッチレバー50は、ブラケット51を介して左ハンドル22に回転可能に取り付けられている。すなわち、左ハンドル22は、クラッチレバー50、ブラケット51及び左スイッチボックス52を支持している。
【0071】
ブラケット51、左スイッチボックス52及びグリップ部53が、左ハンドル22における取付部品である。
【0072】
<右ハンドルユニット>
図4は、右ハンドルユニット21の概略構成を示す図である。この
図4は、右ハンドルユニット21を車両1の上方から見た図である。
図4に示すように、右ハンドルユニット21は、右ハンドル23と、ブレーキレバー55と、ブレーキマスターシリンダ56と、右スイッチボックス57と、スロットルケース58と、グリップ部59とを有する。
【0073】
右ハンドル23は、左ハンドル22とは分離されたセパレートハンドルである。すなわち、右ハンドル23は、左ハンドル22とは独立して、フロントフォーク10のインナーチューブ14の上端部に固定されている。
【0074】
右ハンドル23は、右ハンドルバー部25(ハンドルバー部)と、右ハンドルホルダ27とを有する。右ハンドルバー部25及び右ハンドルホルダ27は、一体に形成されている。
【0075】
右ハンドルバー部25は、長手方向の一方の端部(左端部)が右ハンドルホルダ27に接続されている。すなわち、右ハンドルバー部25は、右ハンドルホルダ27から右方向に延びている。
【0076】
右ハンドルホルダ27は、円環状に形成されている。右ハンドルホルダ27は、フロントフォーク10のインナーチューブ14の上端部が貫通した状態で、該上端部に固定されている。これにより、右ハンドル23は、
図6に示すように、フロントフォーク10のインナーチューブ14の上端部に固定されている。
【0077】
右ハンドル23の詳しい構成は後述する。なお、右ハンドル23は、左ハンドル22の構成とは左右が逆である点以外、同様の構成を有する。
【0078】
図4に示すように、右ハンドルバー部25には、ブレーキマスターシリンダ56、右スイッチボックス57及びスロットルケース58が取り付けられている。ブレーキレバー55は、ブレーキマスターシリンダ56を介して右ハンドル23に回転可能に取り付けられている。すなわち、右ハンドル23は、ブレーキレバー55、ブレーキマスターシリンダ56、右スイッチボックス57及びスロットルケース58を支持している。
【0079】
ブレーキマスターシリンダ56、右スイッチボックス57、スロットルケース58及びグリップ部59が、右ハンドル23における取付部品である。
【0080】
<セパレートハンドル>
図5は、右ハンドル23(セパレートハンドル)を車体の上方且つ後方から見た斜視図である。なお、既述のとおり、左ハンドル22及び右ハンドル23は、構成が左右逆である点以外、同じ構成を有する。よって、以下では、右ハンドル23についてのみ説明する。
【0081】
図5に示すように、右ハンドル23は、右ハンドルバー部25と、右ハンドルホルダ27とを有する。右ハンドルバー部25及び右ハンドルホルダ27は、炭素繊維を含む繊維シートが樹脂(例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル、フェノール樹脂、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイドなど。以下の説明における樹脂についても同様。)によって強化された炭素繊維強化樹脂により、一体に形成されている。前記繊維シートは、繊維を例えば編んだり固めたりすることによって、シート状(平面状)に形成された部材を意味する。
【0082】
<ハンドルバー部>
右ハンドルバー部25は、円筒状の部材である。右ハンドルバー部25は、右ハンドルホルダ27から右方向に延びている。すなわち、右ハンドルバー部25は、長手方向の一方の端部である左端部が右ハンドルホルダ27に接続されている。
【0083】
右ハンドルバー部25は、炭素繊維を含む繊維シートが径方向に積層された状態で、樹脂によって結合されている。すなわち、右ハンドルバー部25は、樹脂が炭素繊維によって強化された炭素繊維強化樹脂によって構成されている。
【0084】
右ハンドルバー部25の外周面上には、ブレーキマスターシリンダ56、右スイッチボックス57、スロットルケース58及びグリップ部59が取り付けられている。具体的には、右ハンドルバー部25の長手方向の中央部よりも右部分は、グリップ部59によって覆われている。右ハンドルバー部25の長手方向の中央部よりも右ハンドルホルダ27に近い位置には、ブレーキマスターシリンダ56、右スイッチボックス57及びスロットルケース58が取り付けられている。
【0085】
上述のように、右ハンドルバー部25において、繊維シートを径方向に積層することにより、右ハンドルバー部25に取り付けられる各部品の重量及び右ハンドルバー部25に入力された力に対して、右ハンドルバー部25の強度を確保できる。
<ハンドルホルダ>
右ハンドルホルダ27は、円環状の部材である。
図6に示すように、右ハンドルホルダ27は、後述の筒部33をフロントフォーク10のインナーチューブ14の上端部が貫通した状態で、該上端部に固定されている。
【0086】
詳しくは、
図5に示すように、右ハンドルホルダ27は、ホールド部31(ハンドルバー取付部)と、筒部33と、ハンドルバー連結部34とを備える。
【0087】
筒部33は、本実施形態では、筒軸方向(軸方向)に延びる円筒状の筒本体部35と、筒本体部35から径方向外方に向かって突出する一対の締結部36,37とを有する。筒本体部35には、周方向の少なくとも1箇所(本実施形態では1箇所)に、前記筒軸方向に延びるスリット部32が設けられている。スリット部32は、筒本体部35における前記筒軸方向の一方の端部から他方の端部まで延びている。これにより、筒本体部35は、スリット部32によって、周方向に分断されている。筒本体部35において、スリット部32に面する周方向の端部が、周方向端部33a,33bである。すなわち、一対の周方向端部33a,33bの間に、スリット部32が形成されている。
【0088】
一対の締結部36,37は、一対の周方向端部33a,33bに、それぞれ、筒本体部35の径方向外方に向かって突出するように設けられている。すなわち、筒部33は、スリット部32の左方及び右方に周方向に並んで設けられた一対の締結部36,37を有する。一対の締結部36,37は、筒本体部35と一体に形成されている。
【0089】
図8に示すように、一対の締結部36,37のうち、一方の締結部36は、内部に筒状のナット38(被締結部材)を有する。ナット38は、筒本体部35を前記筒軸方向から見て筒本体部35の外周面に対する接線の方向に、軸線が延びるように、一方の締結部36内に配置されている。すなわち、ナット38の軸線は、筒本体部35の外周面上において一対の締結部36,37が並ぶ方向に延びている。
【0090】
一対の締結部36,37のうち、他方の締結部37は、貫通孔37aを有する。この貫通孔37aは、他方の締結部37に対し、筒本体部35を前記筒軸方向から見て筒本体部35の外周面に対する接線の方向に貫通している。すなわち、貫通孔37aの軸線は、前記接線方向に延びている。
【0091】
ナット38及び貫通孔37aは、それらの軸線が一致するように、一対の締結部36,37に設けられている。
【0092】
上述の構成において、一対の締結部36,37のうち他方の締結部37の貫通孔37aを貫通させたボルト39(締結部材)を、一方の締結部36に設けられたナット38に締結させることにより、一対の締結部36,37を連結することができる。一対の締結部36,37は、筒本体部35をフロントフォーク10のインナーチューブ14の上端部が貫通した状態で、連結される。これにより、右ハンドルホルダ27を、インナーチューブ14の上端部に固定できる。
【0093】
上述のように一対の締結部36,37を連結することにより、一対の締結部36,37を連結しない場合に比べて、筒本体部35の周方向端部33a,33b同士を近づけることができる。これにより、筒部33には、周方向に引張応力が生じる。
【0094】
また、上述のようにボルト39によって一対の締結部36,37を連結した際、一対の締結部36,37は、先端部が密着するように曲げ変形を生じる。そのため、一対の締結部36,37の基端部に曲げ応力が生じる。すなわち、一対の締結部36,37の基端部には、引張応力が生じる。
【0095】
筒本体部35は、炭素繊維を含む繊維シートが径方向に積層された状態で、樹脂によって結合されている。すなわち、筒本体部35は、樹脂が炭素繊維によって強化された炭素繊維強化樹脂によって構成されている。
【0096】
上述のように、筒本体部35において、繊維シートを径方向に積層することにより、筒本体部35の周方向の強度を向上できる。これにより、一対の締結部36,37を連結した際に筒本体部35に周方向に生じる引張応力に対して、筒本体部35の強度を確保できる。
【0097】
一対の締結部36,37では、それぞれ、炭素繊維を含む繊維シートが内部から外方に向かって積層された状態で、樹脂によって結合されている。すなわち、一対の締結部36,37は、それぞれ、樹脂が炭素繊維によって強化された炭素繊維強化樹脂によって構成されている。
【0098】
一対の締結部36,37の前記繊維シートは、筒本体部35の前記繊維シートと一体である。すなわち、一対の締結部36,37の繊維強化樹脂を構成する繊維シートは、筒部33の繊維強化樹脂を構成する繊維シートの一部である。
【0099】
なお、一方の締結部36では、ナット38に対して繊維シートが積層されている。ナット38は、筒部33を構成する炭素繊維強化樹脂に含まれる繊維シートによって巻かれた状態で、樹脂によって筒部33に結合されている。これにより、ナット38を筒部33に強固に固定できる。
【0100】
上述のように、一対の締結部36,37の繊維シートと筒本体部35の繊維シートとを一体にすることにより、一対の締結部36,37と筒本体部35との接続部分の強度を向上できる。よって、一対の締結部36,37における基端部の強度を向上できる。これにより、一対の締結部36,37を連結した際に、一対の締結部36,37における基端部と筒本体部35との接続部分に生じる引張応力に対して、前記接続部分の強度を確保できる。
【0101】
ホールド部31は、右ハンドルバー部25の一端部(左端部)を挿入可能な凹部(図示省略)を有する。すなわち、ホールド部31は、円柱状の右ハンドルバー部25を保持可能に構成されている。ホールド部31は、右ハンドルバー部25の長手方向が、筒本体部35を前記筒軸方向から見て筒本体部35の外周面に対する接線の方向と一致するように、筒本体部35の外方で右ハンドルバー部25を支持する。ここで、右ハンドルバー部25の長手方向が、筒本体部35を前記筒軸方向から見て筒本体部35の外周面に対する接線の方向と一致するとは、完全に一致する場合だけでなく、筒本体部35を前記筒軸方向から見て、右ハンドルバー部25の長手方向と前記接線とのなす角度が45度以下の場合も含む。
【0102】
ホールド部31は、炭素繊維を含む繊維シートが、右ハンドルバー部25の軸線方向に対して垂直な方向に積層された状態で、樹脂によって結合されている。すなわち、ホールド部31は、樹脂が炭素繊維によって強化された炭素繊維強化樹脂によって構成されている。
【0103】
これにより、右ハンドルバー部25に対する力の入力によってホールド部31に生じる応力に対して、ホールド部31の強度を確保できる。
【0104】
図5に示すように、ハンドルバー連結部34は、筒部33とホールド部31とを連結する。すなわち、ハンドルバー連結部34は、筒本体部35の外周面から径方向外方に突出している。ハンドルバー連結部34は、筒本体部35の径方向(筒軸に直交する方向)から見て、ホールド部31が筒本体部35と重なるように設けられている。
【0105】
ハンドルバー連結部34は、炭素繊維を含む繊維シートが、ハンドルバー連結部34及びホールド部31が連結される部分とハンドルバー連結部34及び筒本体部35が連結される部分とを結ぶ仮想線40に対して垂直な方向に積層された状態で、樹脂によって結合されている。すなわち、ハンドルバー連結部34は、樹脂が炭素繊維によって強化された炭素繊維強化樹脂によって構成されている。なお、前記連結される部分とは、連結される部分を連結方向から見た場合の中央部分を意味する。
【0106】
本実施形態では、ハンドルバー連結部34は、内部まで炭素繊維強化樹脂によって構成された、いわゆる中実構造を有する。
【0107】
以上のようにハンドルバー連結部34を炭素繊維強化樹脂によって構成することにより、右ハンドルバー部25に対する力の入力によってハンドルバー連結部34に生じる応力に対して、ハンドルバー連結部34の強度を確保できる。
【0108】
本実施形態では、右ハンドルホルダ27を、炭素繊維が樹脂によって強化された炭素繊維強化樹脂によって構成することにより、車両を大型化することなく、車体の軽量化を図れる。
【0109】
しかも、右ハンドルホルダ27を、炭素繊維が樹脂によって強化された炭素繊維強化樹脂によって構成することにより、右ハンドルホルダ27の各部分で必要な強度を確保できる。
【0110】
例えばブレーキ操作によって右ハンドルバー部25に入力が加わった際に、筒部に33対して、右ハンドルバー部25を保持するホールド部31を中心に車両前方または車両後方に回転する力が加わる。このような回転力によって、筒本体部35には周方向に引張応力が生じる。これに対し、筒本体部35において、炭素繊維を含む繊維シートを径方向に積層することにより、周方向の強度を向上できる。よって、ブレーキ操作時に筒本体部35に生じる引張応力に対して、筒本体部35の強度を確保できる。
【0111】
以上では、右ハンドル23の構成について説明したが、左ハンドル22も、構成が左右逆である点以外、右ハンドル23と同様の構成を有する。よって、左ハンドル22の構成によっても、右ハンドル23と同様の作用効果が得られる。
【0112】
(実施形態2)
図7に、実施形態2に係る右ハンドル123の構成を示す。
図7は、右ハンドル123を車両1の上方且つ後方から見た斜視図である。この実施形態における右ハンドル123は、筒本体部35の径方向から見て、ホールド部131の少なくとも一部が筒本体部35の筒軸方向の外方に位置するとともに、ハンドルバー連結部134が筒本体部35の前記筒軸方向の外方に延びているという点で実施形態1の右ハンドル23の構成とは異なる。以下では、実施形態1の構成と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略し、実施形態1の構成と異なる部分についてのみ説明する。
【0113】
なお、本実施形態でも、実施形態1と同様、右ハンドル及び左ハンドルは、構成が左右逆である点を除いて、同一の構成を有する。よって、以下では、右ハンドルについてのみ説明する。
【0114】
右ハンドル123は、右ハンドルバー部25と、右ハンドルホルダ127とを有する。右ハンドルホルダ127は、筒部33と、ホールド部131と、ハンドルバー連結部134とを備える。
【0115】
ホールド部131は、円柱状である。ホールド部131は、筒本体部35の外方で且つ筒本体部35に対して前記筒軸方向にオフセットした位置に設けられている。すなわち、ホールド部131の少なくとも一部は、筒本体部35の径方向から見て、筒本体部35の前記筒軸方向の外方に位置する。
【0116】
ホールド部131は、炭素繊維を含む繊維シートが右ハンドルバー部25の軸線方向に対して垂直な方向に積層された状態で、樹脂によって結合されている。すなわち、ホールド部131は、樹脂が炭素繊維によって強化された炭素繊維強化樹脂によって構成されている。
【0117】
これにより、右ハンドルバー部25に対する力の入力によってホールド部131に生じる応力に対して、ホールド部131の強度を確保できる。
【0118】
ハンドルバー連結部134は、筒本体部35の外周面とホールド部131とを連結する。よって、ハンドルバー連結部134は、筒本体部35の外周面から径方向外方に突出し且つ筒本体部35の前記筒軸方向に延びている。すなわち、ハンドルバー連結部134は、筒部33から前記筒軸方向の外方に延びている。
【0119】
ハンドルバー連結部134は、炭素繊維を含む繊維シートが、ハンドルバー連結部134及びホールド部131が連結される部分の中心とハンドルバー連結部134及び筒部33が連結される部分の中心とを結ぶ仮想線140に対して垂直な方向に積層された状態で、樹脂によって結合されている。すなわち、ハンドルバー連結部134は、樹脂が炭素繊維によって強化された炭素繊維強化樹脂によって構成されている。なお、前記連結される部分の中心とは、連結される部分を連結方向から見た場合の中心である。
【0120】
本実施形態でも、実施形態1と同様、ハンドルバー連結部134は、内部まで炭素繊維強化樹脂によって構成された、いわゆる中実構造を有する。
【0121】
以上のようにハンドルバー連結部134を炭素繊維強化樹脂によって構成することにより、右ハンドルバー部25に対する力の入力によってハンドルバー連結部134に生じる応力に対して、ハンドルバー連結部134の強度を確保できる。
【0122】
本実施形態では、ハンドルバー連結部134が筒本体部35から前記筒軸方向に突出することにより、右ハンドル123の配置の設計自由度を高めることができる。したがって、本実施形態の構成により、車両を大型化することなく、車体の軽量化を図りつつ、ハンドルの配置の設計自由度を高めることができる。
【0123】
以上では、右ハンドル123の構成について説明したが、左ハンドルも、構成が左右逆である点以外、右ハンドル123と同様の構成を有する。よって、左ハンドルの構成によっても、右ハンドル123と同様の作用効果が得られる。
【0124】
(実施形態3)
図9は、実施形態1における右ハンドル23をフロントフォーク10に取り付けた状態で車両1の後方から見た模式図である。本実施形態では、右ハンドルホルダ27がトップブリッジ15の下方でフロントフォーク10に嵌合されている。
【0125】
なお、本実施形態でも、実施形態1と同様、右ハンドル及び左ハンドルは、構成が左右逆である点を除いて、同一の構成を有する。よって、以下では、右ハンドルについてのみ説明する。
【0126】
図9に示すように、右ハンドルホルダ27をトップブリッジ15の下方でフロントフォーク10に嵌合することにより、車両を大型化することなく、車体の軽量化を図りつつ、左ハンドルユニット及び、右ハンドルユニットの位置の設計自由度を高めることができる。
【0127】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0128】
前記各実施形態では、車両は自動二輪車である。しかしながら、車両は、自動二輪に限らず、三輪車または四輪車であってもよい。また、前記車両は、傾斜車両に限らず、傾斜車両以外の車両であってもよい。
【0129】
前記各実施形態では、右ハンドルホルダ27の筒部33に設けられているスリット部は1箇所である。しかしながら、筒部に、周方向に複数のスリット部を設けてもよい。
【0130】
前記各実施形態では、左ハンドルユニット20及び右ハンドルユニット21は、テレスコピック式のフロントフォーク10に取り付けられている。しかしながら、左ハンドルユニット及び右ハンドルユニットは、例えばトップブリッジなど、フロントフォーク以外の部品に取り付けられていてもよい。
【0131】
前記各実施形態では、フロントフォーク10として、いわゆる正立フォークを例示しているが、フロントフォークはいわゆる倒立フォークであってもよい。
【0132】
なお、前記正立フォークとは、テレスコピック型サスペンションユニットの一種であり、インナーチューブが上方に位置し、アウターチューブが下方に位置するサスペンションユニットである。
【0133】
また、前記倒立フォークとは、テレスコピック型サスペンションユニットの一種であり、インナーチューブが下方に位置し、アウターチューブが上方に位置するサスペンションユニットである。
【0134】
前記各実施形態では、フロントタイヤ懸掛方式として、テレスコピック式サスペンションユニットであるフロントフォーク10が用いられている。しかしながら、フロントタイヤ懸掛方式として、フロントフォークの代わりに、リンク式サスペンションユニット、または、スイングアーム式サスペンションユニットなどを用いてもよい。
【0135】
前記各実施形態では、右ハンドル23,123及び左ハンドル22は、炭素繊維を用いた炭素繊維強化樹脂によって構成されている。しかしながら、右ハンドル及び左ハンドルにおいて、右ハンドルバー部及び左ハンドルバー部は、金属または樹脂など、他の材料によって構成されていてもよい。また、右ハンドル及び左ハンドルに用いられる繊維強化樹脂の繊維シートとして、カーボン以外の繊維、例えば、アラミド、ガラス、セルロースなどが用いられてもよい。また、繊維強化樹脂に用いられる複数の繊維シートは、異なる材質によって構成されていてもよい。さらに、右ハンドル及び左ハンドルに用いられる繊維強化樹脂の樹脂は、繊維を結合可能な樹脂であれば、どのような種類の樹脂であってもよい。
【0136】
前記各実施形態では、右ハンドル23,123及び左ハンドル22は、樹脂が炭素繊維を含む繊維シートによって強化された炭素繊維強化樹脂によって構成されている。しかしながら、右ハンドル及び左ハンドルは、繊維シートではなく、編まれていない状態の繊維が用いられた繊維強化樹脂によって形成されていてもよい。また、前記繊維は、所定長さ(例えば1mm)以上、連続した繊維であってもよいし、不連続繊維であってもよい。
【0137】
前記各実施形態では、右ハンドル23,123及び左ハンドル22は、樹脂が炭素繊維を含む繊維シートによって強化された炭素繊維強化樹脂によって構成されている。しかしながら、右ハンドル及び左ハンドルは、繊維シートによって強化された炭素繊維強化樹脂層と、発泡合成樹脂を含む発泡樹脂層とが厚み方向に積層された複合材料によって形成されていてもよい。この複合材料は、一対の前記炭素繊維強化樹脂層を有し、それらの炭素繊維強化樹脂層の間に、前記発泡樹脂層が配置された材料である。前記複合材料を用いて構造体を形成することにより、炭素繊維強化樹脂層のみを用いて構造体を形成する場合に比べて軽量化を図れるとともに、構造体の壁の厚みを容易に変えることができる。なお、前記発泡樹脂層の前記発泡合成樹脂として、振動を吸収可能な樹脂を用いてもよい。
【0138】
前記各実施形態では、ハンドルバー連結部34,134は、中実構造を有する。しかしながら、ハンドルバー連結部は、中空構造を有していてもよいし、多面体構造体を含んでいてもよい。多面体構造とは、一般的に、ハニカム構造体、四角柱体、三角柱体、ウィア=フェラン構造体、切頂八面体構造体、菱形十二面体構造体、連続気泡体構造体、独立気泡体構造体等の二次元的または三次元的な立体構造を意味するが、これらの例示に限らず、複数の面を有する構造体を含む。なお、気泡体構造体は、連続気泡体構造体でもよいし、独立気泡体構造体でもよい。また、前記多面体構造体の材質は、繊維強化樹脂に限らない。
【0139】
前記各実施形態では、左ハンドルバー部24及び右ハンドルバー部25は、ハンドルバー連結部34,134と別体で構成されている。しかしながら、左ハンドルバー部及び右ハンドルバー部の少なくとも一方が、ハンドルバー連結部と一体で構成されていてもよい。
【0140】
前記各実施形態では、左ハンドルバー部24及び右ハンドルバー部25は、円筒状の中空である。しかしながら、左ハンドルバー部及び右ハンドルバー部の少なくとも一方は、取付部品の取り付け位置において、少なくとも一部が中実であってもよい。これにより、前記取り付け位置におけるハンドルバー部の強度を向上できる。また、左ハンドルバー部及び右ハンドルバー部の少なくとも一方は、取付部品の取り付け位置以外において、少なくとも一部が中空であってもよい。これにより、前記取り付け位置におけるハンドルバー部の強度を確保しつつ、ハンドルの軽量化を図ることができる。
【符号の説明】
【0141】
1 車両(鞍乗型車両)
2 車体
5 メインフレーム
6 ヘッドパイプ
10 フロントフォーク(軸部)
11、12 アウターチューブ
13、14 インナーチューブ
15 トップブリッジ
20 左ハンドルユニット
21 右ハンドルユニット
22 左ハンドル
23、123 右ハンドル
24 左ハンドルバー部(ハンドルバー部)
25 右ハンドルバー部(ハンドルバー部)
26 左ハンドルホルダ
27、127 右ハンドルホルダ
31、131 ホールド部(ハンドルバー取付部)
32 スリット部
33 筒部
34、134 ハンドルバー連結部
35 筒本体部
36、37 締結部
38 ナット(被締結部材)
39 ボルト(締結部材)
40、140 仮想線
50 クラッチレバー
51 ブラケット(取付部品)
52 左スイッチボックス(取付部品)
53 グリップ部(取付部品)
55 ブレーキレバー
56 マスタシリンダ(取付部品)
57 右スイッチボックス(取付部品)
58 スロットルケース(取付部品)
59 グリップ部(取付部品)
S 操舵機構