(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】歯科用清掃材
(51)【国際特許分類】
A61K 8/24 20060101AFI20220913BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20220913BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20220913BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
A61K8/24
A61Q11/00
A61K8/55
A61K8/37
(21)【出願番号】P 2019536788
(86)(22)【出願日】2018-08-16
(86)【国際出願番号】 JP2018030433
(87)【国際公開番号】W WO2019035474
(87)【国際公開日】2019-02-21
【審査請求日】2021-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2017157481
(32)【優先日】2017-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】樫木 信介
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-224233(JP,A)
【文献】特開2015-209421(JP,A)
【文献】特表2008-520565(JP,A)
【文献】特開2006-008596(JP,A)
【文献】特開2007-031339(JP,A)
【文献】特表2001-521525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 6/00-6/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性物質(a)、酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)、及び水(c)を含有し、
前記塩基性物質(a)がリン酸塩、リン酸水素塩、及びリン酸二水素塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩基性物質であり、
前記酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)が、リン酸基含有(メタ)アクリル系単量体、ピロリン酸基含有(メタ)アクリル系単量体、及びカルボン酸基含有(メタ)アクリル系単量体からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
pHが2.0以上7.3以下である、歯科用清掃材。
【請求項2】
塩基性物質(a)、酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)、及び水(c)を含有し、前記塩基性物質(a)がリン酸塩、リン酸水素塩、及びリン酸二水素塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩基性物質であり、
前記酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)が、リン酸基含有(メタ)アクリル系単量体、ピロリン酸基含有(メタ)アクリル系単量体、及びカルボン酸基含有(メタ)アクリル系単量体からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
pHが7.4以上9.0未満であり、25℃における水に対する溶解度が10質量%以上である酸性基を含有しないラジカル親水性重合性単量体を含まない、歯科用清掃材。
【請求項3】
前記塩基性物質(a)が、リン酸アルカリ金属塩、リン酸水素アルカリ金属塩、及びリン酸二水素アルカリ金属塩からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1
又は2に記載の歯科用清掃材。
【請求項4】
塩基性物質(a)、酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)、及び水(c)を混合する工程を含み、
前記塩基性物質(a)がリン酸塩、リン酸水素塩、及びリン酸二水素塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩基性物質であり、
前記酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)が、リン酸基含有(メタ)アクリル系単量体、ピロリン酸基含有(メタ)アクリル系単量体、及びカルボン酸基含有(メタ)アクリル系単量体からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
pHが2.0以上7.3以下である、請求項1に記載の歯科用清掃材の製造方法。
【請求項5】
塩基性物質(a)、酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)、及び水(c)を混合する工程を含み、
前記塩基性物質(a)がリン酸塩、リン酸水素塩、及びリン酸二水素塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩基性物質であり、
前記酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)が、リン酸基含有(メタ)アクリル系単量体、ピロリン酸基含有(メタ)アクリル系単量体、及びカルボン酸基含有(メタ)アクリル系単量体からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
pHが7.4以上9.0未満であり、25℃における水に対する溶解度が10質量%以上である酸性基を含有しないラジカル親水性重合性単量体を含まない、請求項2に記載の歯科用清掃材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陶材、セラミックス、金属酸化物、無機フィラーと樹脂とを含む歯科用コンポジットレジン硬化物(以下、単に「歯科用コンポジットレジン硬化物」と表現する)などの歯科用修復物、及び歯面などの支台歯の清掃に用いる歯科用清掃材に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科分野の修復治療において、歯科用修復物は、陶材、セラミックス、金属酸化物、歯科用コンポジットレジン硬化物などからなり、様々な様式で歯の欠損部に適合させる。この歯科用修復物は、一般的に、適合性を確認する目的で、固定する前に予備的に挿入する試適を行う。その際、歯科用ラバーダムを使用した場合でも、タンパク質含有体液(例えば、唾液、歯液、血液など)による歯科用修復物及び支台歯の汚染は、事実上不可避である。これらのタンパク質含有体液は、その後の歯科用修復物と支台歯との接着の際に、歯科用修復物と歯科用接着材若しくは歯科用セメントとの間、又は、支台歯と歯科用接着材若しくは歯科用セメントとの間での接着性低下をもたらす。
【0003】
特許文献1では、歯面のプラークや着色などを除去する方法として歯面清掃材が提案されている。また、特許文献2では、歯科用修復物の洗浄、特に、タンパク質汚染物質を除去するための洗浄用粒子を含有する組成物が提案されている。
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、特許文献1及び2に記載の組成物を適用した場合、組成物が強い塩基性であるために、タンパク質の変性が起き、口腔内で使用する際には、危険性が非常に高いという問題があることがわかった。さらに、特許文献1及び2に記載の組成物を歯質に適用した場合、歯質と歯科用接着材又は歯科用セメントとの間での接着強さが低下するという問題があることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-3213号公報
【文献】特許第5607559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、歯科用修復物、及び支台歯のタンパク質含有体液による汚染に対して優れた洗浄性を示し、洗浄後の接着強さに優れ、かつ口腔内で使用した際にも安全である歯科用清掃材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を続けた結果、塩基性物質(a)、酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)、及び水(c)を含有し、前記塩基性物質(a)がリン酸塩、リン酸水素塩、及びリン酸二水素塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩基性物質である歯科用清掃材を用いることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、塩基性物質(a)、酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)、及び水(c)を含有し、前記塩基性物質(a)がリン酸塩、リン酸水素塩、及びリン酸二水素塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩基性物質である、歯科用清掃材を提供する。
【0009】
本発明の特定の一実施形態の歯科用清掃材においては、pHが9.0未満である。
【0010】
本発明の特定の一実施形態の歯科用清掃材においては、前記酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)が、リン酸基含有(メタ)アクリル系単量体、ピロリン酸基含有(メタ)アクリル系単量体、及びカルボン酸基含有(メタ)アクリル系単量体からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0011】
本発明の特定の一実施形態の歯科用清掃材においては、前記塩基性物質(a)が、リン酸アルカリ金属塩、リン酸水素アルカリ金属塩、及びリン酸二水素アルカリ金属塩からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0012】
また、本発明は、塩基性物質(a)、酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)、及び水(c)を混合する工程を含む歯科用清掃材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の歯科用清掃材は、歯科用修復物、及び支台歯のタンパク質含有体液による汚染に対して優れた洗浄性を示し、洗浄後の接着強さに優れ、かつ口腔内で使用した際にも安全である。さらに、酸性基含有ラジカル重合性単量体を含むため、修復治療の清掃材として使用した場合、歯質を脱灰しながら浸透して歯質と結合し、歯質に対する接着性を向上させる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の歯科用清掃材は、塩基性物質(a)、酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)、及び水(c)を含有し、前記塩基性物質(a)がリン酸塩、リン酸水素塩、及びリン酸二水素塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩基性物質であることを特徴とする。
【0015】
以下、本発明の歯科用清掃材の成分である、塩基性物質(a)、酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)、及び水(c)について説明する。
【0016】
まず、本発明で用いられる、塩基性物質(a)について説明する。
【0017】
塩基性物質(a)は、リン酸塩、リン酸水素塩、及びリン酸二水素塩から選択される少なくとも1種の塩基性物質であって、タンパク質含有体液による汚染に対する洗浄効果をもたらす。また、塩基性物質(a)の一部は、酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)と反応して塩を形成し、界面活性効果により、タンパク質含有体液による汚染に対する洗浄効果をさらに向上させることができる。さらに、歯科用清掃材が塩基性物質(a)を含むことによって、歯科用修復物及び歯質に対して、洗浄後に優れた接着強さを有する。塩基性物質(a)としては、例えば、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウムなどのリン酸アルカリ金属塩、リン酸水素アルカリ金属塩又はリン酸二水素アルカリ金属塩;リン酸三カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウムなどのリン酸アルカリ土類金属塩、リン酸水素アルカリ土類金属塩又はリン酸二水素アルカリ土類金属塩;リン酸三マグネシウム、リン酸水素マグネシウムなどが挙げられ、リン酸アルカリ金属塩、リン酸水素アルカリ金属塩又はリン酸二水素アルカリ金属塩が好ましく、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウムがより好ましい。
【0018】
塩基性物質(a)は、1種単独を配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。塩基性物質(a)の含有量は、少なすぎると、塩基性物質(a)の配合による効果が得られないおそれがあり、多すぎると、塩基性が強くなって、タンパク質の変性をおこすため、口腔内での安全性が低下するおそれがある。また、多すぎると、塩基性物質(a)が析出して、操作性が低下し、十分なタンパク質含有体液に対する洗浄効果が得られないおそれがある。塩基性物質(a)の含有量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、結果的に歯科用清掃材(溶液又は懸濁液)のpHが2.0以上9.0未満となるように配合されることが好ましく、歯科用清掃材の合計100質量部において、0.1~20質量部の範囲が好ましく、0.5~10質量部の範囲がより好ましく、0.8~8質量部の範囲がさらに好ましく、1~5質量部の範囲が特に好ましい。歯科用清掃材のpHは、洗浄後に優れた接着強さを有し、より安全である点から、2.3以上8.0以下がより好ましく、2.5以上7.5以下がさらに好ましい。他の好適な実施形態に係る歯科用清掃材のpHは、タンパク質の変性をより抑制できる点から、6.0を超えて9.0未満であってもよく、6.2以上8.5以下であってもよく、6.4以上8.2以下であってもよい。また、他の好適な実施形態に係る歯科用清掃材のpHは、洗浄後により優れた接着強さを有する点から、1.0以上6.0以下であってもよく、1.5以上5.5以下であってもよく、2.0以上5.0以下であってもよい。前記pHは公知の測定装置を用いて測定できる。測定装置としては、例えば、株式会社堀場製作所製「LAQUAtwin」が挙げられる。
【0019】
次に、本発明で用いられる、酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)について説明する。
【0020】
酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)は、塩基性物質(a)と反応して塩を形成し、界面活性効果により、タンパク質含有体液による汚染に対する洗浄効果を向上させる。また、歯質を脱灰しながら浸透して歯質と結合し、歯質に対する接着性を向上させる。酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)は、リン酸基、ホスホン酸基、ピロリン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基などの酸性基を少なくとも1個有し、かつアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基などのラジカル重合性基を少なくとも1個有する重合性単量体である。エナメル質に対する接着性の観点から、酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)は、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基及びメタクリルアミド基のいずれか1個を有する単官能性の酸性基含有(メタ)アクリル系単量体であることが好ましい。具体例としては、下記のものが挙げられる。
【0021】
リン酸基含有(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩などが挙げられる。
【0022】
ホスホン酸基含有(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノプロピオネート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルホスホノアセテート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホノアセテート、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩などが挙げられる。
【0023】
ピロリン酸基含有(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、ピロリン酸ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩などが挙げられる。
【0024】
カルボン酸基含有(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸;4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸及びこれらの酸無水物;5-(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、6-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ヘキサンジカルボン酸、8-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-オクタンジカルボン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-デカンジカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩などが挙げられる。
【0025】
スルホン酸基含有(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレート、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩などが挙げられる。
【0026】
上記の酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)の中では、リン酸基、ピロリン酸基又はカルボン酸基含有(メタ)アクリル系単量体が歯科用修復物及び歯質に対してより優れた接着力を発現するので好ましく、特に、リン酸基含有(メタ)アクリル系単量体が好ましい。その中でも、分子内に主鎖として炭素数が6~20のアルキル基又はアルキレン基を有する2価のリン酸基含有(メタ)アクリル系単量体がより好ましく、10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートなどの分子内に主鎖として炭素数が8~12のアルキレン基を有する2価のリン酸基含有(メタ)アクリル系単量体が最も好ましい。
【0027】
酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)は、1種単独を配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)の含有量は、少なすぎると、酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)の配合による効果が得られないおそれがあり、多すぎると、酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)が歯科用修復物、及び支台歯に多く残存し、その後に適用する歯科用接着材の硬化性が低下して、接着性が低下するおそれがある。酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)の含有量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、歯科用清掃材の合計100質量部において、0.1~30質量部の範囲が好ましく、0.5~20質量部の範囲がより好ましく、0.8~15質量部の範囲がさらに好ましく、1~10質量部の範囲が特に好ましい。
【0028】
本発明に係る歯科用清掃材は、重合性単量体として、酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)以外に、酸性基を含有しないラジカル重合性単量体を含んでいてもよい。酸性基を含有しないラジカル重合性単量体としては、酸性基を含有しないラジカル親水性重合性単量体、酸性基を含有しない疎水性重合性単量体が挙げられる。酸性基を含有しないラジカル親水性重合性単量体とは、25℃における水に対する溶解度が10質量%以上のものを意味し、該溶解度が30質量%以上のものが好ましく、25℃において任意の割合で水に溶解可能なものがより好ましい。酸性基を含有しない疎水性重合性単量体とは、25℃における水に対する溶解度が10質量%未満のものを意味し、例えば、芳香族化合物系の二官能性重合性単量体、脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体、三官能性以上の重合性単量体などの架橋性の重合性単量体が例示される。ある好適な実施形態としては、塩基性物質(a)、酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)、及び水(c)を含有し、実質的に酸性基を含有しないラジカル重合性単量体を含まない、歯科用清掃材が挙げられる。実質的に酸性基を含有しないラジカル重合性単量体を含まないとは、酸性基を含有しないラジカル重合性単量体の含有量が、歯科用清掃材に含まれる重合性単量体の総量に対して5.0質量%未満であり、好ましくは1.0質量%未満であることを意味する。
【0029】
次に、本発明で用いられる、水(c)について説明する。
【0030】
水(c)は、塩基性物質(a)、及び酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)を溶解させる溶媒である。また、歯質に対する酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)の脱灰作用を促進し、接着性を向上させる。水(c)は、接着性に悪影響を及ぼす不純物を実質的に含有しないものを使用する必要があり、蒸留水又はイオン交換水が好ましい。水(c)の含有量は、歯科用清掃材の合計100質量部に対して、50~99.8質量部の範囲が好ましく、70~99質量部の範囲がより好ましく、85~98質量部の範囲がさらに好ましい。
【0031】
本発明に係る歯科用清掃材には、さらに水(c)以外の溶媒を配合してもよい。水(c)以外の溶媒をさらに配合することにより、組成物の粘度の調節や有効成分の濃縮によるより効率的な清掃が期待できる場合もある。前記水(c)以外の溶媒としては、例えば、アセトン、エチルメチルケトンなどの有機溶媒;エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、1,2-ペンタジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオールなどのアルコール類;などが挙げられる。前記水(c)以外の溶媒の含有量は、特に限定されないが、歯科用清掃材の合計100質量部において、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。また、前記水(c)以外の溶媒の含有量は、水(c)100質量部に対して、100質量部以下が好ましく、85質量部以下がより好ましく、60質量部以下であってもよい。
【0032】
この他、本発明の歯科用清掃材には、本発明の効果を阻害しない範囲で、フィラー、フッ素イオン放出性物質、pH調整剤、重合禁止剤(例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ))、増粘剤、着色剤、蛍光剤、香料などを配合してもよい。また、パラベン、セチルピリジニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライド、トリクロサンなどの抗菌性物質を配合してもよい。
【0033】
本発明の歯科用清掃材の製造方法は、塩基性物質(a)、酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)、及び水(c)を混合する工程を含むことを特徴とする。混合方法や混合に用いる装置は本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)の水(c)への溶解性が低い場合には、塩基性物質(a)を水(c)に混合した後、酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)を混合させる方法、または塩基性物質(a)を酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)に混合した後、水(c)を混合する方法が好ましい。なお、歯科用清掃材が前述の(a)~(c)以外の成分を含む場合には、(a)~(c)と該成分を併せて同時に混合してもよく、(a)~(c)を混合する工程とは別に該成分を混合する工程を組み合わせてもよい。
【0034】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的思想の範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。以下で用いる略記号は次の通りである。
【0036】
〔酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)〕
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
MAC-10:11-メタクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸
4-MET:4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸
【0037】
[実施例1~17及び比較例1~9]
実施例及び比較例として、歯科用接着性組成物を以下のように調製した。
【0038】
[歯科用清掃材の調製]
下記表1及び表2に記載の各成分を、表1及び表2に記載の質量比で常温下において混合して歯科用清掃材を作製した。得られた歯科用清掃材は、「クリアフィル(登録商標)メガボンド(登録商標)プライマー」(クラレノリタケデンタル株式会社製)の容器に充填して用いた。なお、塩基性物質(a)、塩基性物質(a)以外の塩基性物質、酸性基含有ラジカル重合性単量体(b)、水(c)、及び有機溶媒以外の成分として以下を用いた。
ヒュームドシリカ:日本アエロジル株式会社製の微粒子シリカ「AEROSIL(登録商標) 130」
ジルコニア粉末:IBU-Tec,Weimar,Germany社製「ZirCOXTM 15」、重量平均粒径12±3nm
ダブルミント:香料
コバルトブルー:着色剤
パラベン:抗菌性物質
【0039】
実施例及び比較例の歯科用清掃材について、下記の方法で評価した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0040】
[pH測定]
調製した歯科用清掃材のpHを、pHメーター(株式会社堀場製作所製「LAQUAtwin」)を用いて測定した。
【0041】
[人工唾液の調製]
下記表3に記載の各成分を、表3に記載の組成で常温下において混合して人工唾液を作製した。
【0042】
[洗浄操作後のジルコニアに対する引張接着強さ試験]
CAD/CAMシステム用のジルコニアディスク(商品名:カタナ(登録商標)ジルコニアHT、クラレノリタケデンタル株式会社製)から作製した円柱状(内径12mm×高さ5mm)のジルコニア焼結体(1500℃で2時間焼成したもの)を#1000シリコンカーバイド紙(日本研紙株式会社製)で研磨して、平坦面を露出させたサンプルを得た。得られたサンプルを超音波洗浄機(ヤマト科学株式会社製)で5分間洗浄後、表面の水をエアブローすることで乾燥した。この平滑面に、人工唾液を塗布し、次いで、エアブローで乾燥した後、調製した歯科用清掃材を塗布して20秒間擦り洗浄を実施し、水洗した。次いで、エアブローすることで乾燥した後、直径5mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着し、接着面積を規定し、被着体処理面とした。
【0043】
得られた被着体処理面の上に、補綴物用前処理材(クラレノリタケデンタル株式会社製、商品名「クリアフィル(登録商標)セラミックプライマープラス」)を塗布した後、エアーを吹き付けることで乾燥した。次いで、歯科用レジンセメント(クラレノリタケデンタル株式会社製、商品名「パナビア(登録商標)V5」)を、ミキシングチップを用いて体積比1:1で混練して得た組成物を被着体処理面の上に載置し、離型フィルム(株式会社クラレ製、商品名「エバール」(登録商標))を被せた後、常温で1時間静置して硬化させた。その後、この硬化面に対して、歯科用レジンセメント(クラレノリタケデンタル株式会社製、商品名「パナビア(登録商標)21」)を用いて、ステンレス製円柱棒(直径7mm、長さ2.5cm)の一方の端面(円形断面)を接着し、30分間静置した。ステンレス製円柱棒の周囲からはみ出た余剰のレジンセメント組成物を除去した後、蒸留水に浸漬した。蒸留水に浸漬したサンプルを、37℃に保持した恒温器内に24時間静置して、接着試験供試サンプルとした。接着試験供試サンプルは全部で5個作製した。
【0044】
上記の5個の接着試験供試サンプルの引張接着強さを、万能試験機(株式会社島津製作所製)にてクロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定し、平均値を引張接着強さとした。
【0045】
[洗浄操作後の牛歯象牙質に対する引張接着強さ試験]
ウシ下顎前歯の唇面を流水下にて(#80)シリコンカーバイド紙(日本研紙株式会社製)で研磨して、エナメル質の平坦面を露出させたサンプル及び象牙質の平坦面を露出させたサンプルをそれぞれ得た。得られたそれぞれのサンプルを流水下にて#1000のシリコンカーバイド紙(日本研紙株式会社製)でさらに研磨した。研磨終了後、表面の水をエアブローで乾燥した。この平滑面に、人工唾液を塗布し、次いで、エアブローで乾燥した後、調製した歯科用清掃材を塗布して20秒間擦り洗浄を実施し、水洗した。次いで、エアブローすることで乾燥した後、直径5mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着し、接着面積を規定し、被着体処理面とした。
【0046】
得られた被着体処理面の上に、歯質用前処理材(クラレノリタケデンタル株式会社製、商品名「パナビア(登録商標)V5 トゥース プライマー」)を塗布した後、エアブローすることで乾燥した。次いで、歯科用レジンセメント(クラレノリタケデンタル株式会社製、商品名「パナビア(登録商標)V5」)を、ミキシングチップを用いて体積比1:1で混練して得た組成物を被着体処理面の上に載置し、離型フィルム(株式会社クラレ製、商品名「エバール」(登録商標))を被せた後、常温で1時間静置して硬化させた。その後、この硬化面に対して、歯科用レジンセメント(クラレノリタケデンタル株式会社製、商品名「パナビア(登録商標)21」)を用いて、ステンレス製円柱棒(直径7mm、長さ2.5cm)の一方の端面(円形断面)を接着し、30分間静置した。ステンレス製円柱棒の周囲からはみ出た余剰のレジンセメント組成物を除去した後、蒸留水に浸漬した。蒸留水に浸漬したサンプルを、37℃に保持した恒温器内に24時間静置して、接着試験供試サンプルとした。接着試験供試サンプルは全部で5個作製した。
【0047】
上記の5個の接着試験供試サンプルの引張接着強さを、万能試験機(株式会社島津製作所製)にてクロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定し、平均値を引張接着強さとした。
【0048】
[ジルコニア、又はハイドロキシアパタイト板に対する洗浄効果試験]
CAD/CAMシステム用のジルコニアディスク(商品名:カタナ(登録商標)ジルコニアHT、クラレノリタケデンタル株式会社製)から作製した円柱状(内径12mm×高さ5mm)のジルコニア焼結体(1500℃で2時間焼成したもの)、又は厚さ2mmのハイドロキシアパタイト板(商品名:アパタイトペレットAPP-100、サイズ:10mm×10mm×2mm、HOYA Technosurgical株式会社製)を、ラッピングフィルムシート(スリーエム社製、粒度1ミクロン)で研磨し、平坦面を露出させたサンプルを得た。得られたサンプルを超音波洗浄機(ヤマト科学株式会社製)で5分間洗浄後、表面の水をエアブローすることで乾燥した。この平滑面に、人工唾液を塗布し、次いで、エアブローすることで乾燥した後、歯科用清掃材を塗布して20秒間擦り洗浄を実施し、水洗した。次いで、エアブローすることで乾燥後、走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「SU3500」)を用いて、倍率1000倍で洗浄効果を観察し、下記の基準に基づいて評価した。
○:洗浄後に付着物なし
×:洗浄後に付着物あり
【0049】
[タンパク質変性試験]
調製した歯科用清掃材を生ハムに塗布して2分間静置した後、水洗して目視で白化現象の有無を観察し、下記の基準に基づいて3段階で評価した。
A:白化現象なし
B:わずかな白化現象あり
C:明確な白化現象あり
【0050】
【0051】
【0052】
【表3】
(カゼイン:和光純薬工業株式会社製「カゼイン、乳由来」)
【0053】
表1及び表2に示すように、本発明に係る歯科用清掃材は、タンパク質含有体液による汚染に対して優れた洗浄効果を示し、かつ洗浄後のジルコニアに対する引張接着強さが28MPa以上、かつ洗浄後の牛歯象牙質に対する引張接着強さが20MPa以上の優れた接着性を発現した。これに対して、比較例1、2、5、6、7及び8の組成物では、タンパク質含有体液による汚染に対する洗浄効果が不十分で、洗浄後のジルコニアに対する引張接着強さが23MPa以下、かつ洗浄後の牛歯象牙質に対する引張接着強さが15MPa未満の低い接着性であった。また、比較例3及び9の組成物では、タンパク質含有体液による汚染に対する洗浄効果は見られたが、タンパク質の変性が観察され、かつ洗浄後の牛歯象牙質に対する引張接着強さが11MPa以下の低い接着性であった。さらに、比較例4の組成物では、洗浄後の牛歯象牙質に対する引張接着強さが11MPa以下の低い接着性であった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る歯科用清掃材は、歯科用修復物、及び支台歯の清掃に用いることができる。