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  • 特許-医療用具の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】医療用具の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 29/08 20060101AFI20220913BHJP
   A61L 29/12 20060101ALI20220913BHJP
   A61L 29/04 20060101ALI20220913BHJP
   A61M 25/00 20060101ALI20220913BHJP
   A61M 25/09 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
A61L29/08
A61L29/12
A61L29/04 100
A61L29/08 100
A61M25/00
A61M25/09
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019543605
(86)(22)【出願日】2018-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2018034070
(87)【国際公開番号】W WO2019059106
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2017180692
(32)【優先日】2017-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018111807
(32)【優先日】2018-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小濱 弘昌
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-33704(JP,A)
【文献】特開2012-161372(JP,A)
【文献】特開平7-233233(JP,A)
【文献】特開平4-15278(JP,A)
【文献】特開平1-292025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00-33/18
A61M25/00-25/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、前記基材層の少なくとも一部に担持された潤滑層と、を備える医療用具の製造方法であって、
エポキシ基を有する反応性単量体由来の構成単位(A)および親水性単量体由来の構成単位(B)を有するブロック共重合体と、8以上24以下の炭素原子を有するアルキルアンモニウム塩と、溶媒とを含む溶液を前記基材層上に塗布し、洗浄することを含み、
前記アルキルアンモニウム塩が、テトラアルキルアンモニウム塩である、医療用具の製造方法。
【請求項2】
前記溶液を前記基材層上に塗布した後、110℃以下で維持する、請求項1に記載の医療用具の製造方法。
【請求項3】
前記アルキルアンモニウム塩が、テトラエチルアンモニウム塩、テトラn-プロピルアンモニウム塩、テトラn-ブチルアンモニウム塩、テトラn-ペンチルアンモニウム塩、およびテトラn-ヘキシルアンモニウム塩からなる群から選択される、請求項1または2に記載の医療用具の製造方法。
【請求項4】
前記アルキルアンモニウム塩のアニオンが、ハロゲン化物イオン、硫酸水素イオン、過塩素酸イオン、および水酸化物イオンからなる群から選択される、請求項1~のいずれか1項に記載の医療用具の製造方法。
【請求項5】
前記アルキルアンモニウム塩のアニオンが、ハロゲン化物イオンである、請求項1~のいずれか1項に記載の医療用具の製造方法。
【請求項6】
前記アルキルアンモニウム塩が、16以上20以下の炭素原子を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の医療用具の製造方法。
【請求項7】
前記エポキシ基を有する反応性単量体は、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート、β-メチルグリシジルメタクリレート、およびアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の医療用具の製造方法。
【請求項8】
前記親水性単量体は、N,N-ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、およびN-ビニルピロリドンからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の医療用具の製造方法。
【請求項9】
前記溶液が、前記ブロック共重合体を1~10質量%含む、請求項1~のいずれか1項に記載の医療用具の製造方法。
【請求項10】
前記溶液が、前記ブロック共重合体と、前記アルキルアンモニウム塩とを、1:0.05~2の質量比で含む、請求項1~のいずれか1項に記載の医療用具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテル、ガイドワイヤ等の生体内に挿入される医療用具は、血管などの組織損傷を低減させ、かつ術者の操作性を向上させるため、優れた潤滑性を示すことが要求される。このため、医療用具の基材層表面に潤滑性を有する親水性高分子を被覆する方法は、開発され実用化されている。一方、このような医療用具は、術者の操作性を保つため、術者の使用時に基材層表面に潤滑性を有する親水性高分子を維持できることも重要である。このため、親水性高分子によるコーティングには、優れた潤滑性のみならず磨耗や擦過等の負荷に対する耐久性も要求される。
【0003】
このような観点から、特開平8-33704号公報には、水溶性または水膨潤性重合体を、医療用具の基材が膨潤する溶媒に溶解させて重合体溶液を作製し、この重合体溶液に医療用具の基材を浸漬して膨潤させ、さらに基材層表面でこの重合体を架橋または高分子化させることによって、基材層表面に表面潤滑層を形成した医療用具が開示されている。
【0004】
特開平8-33704号公報に開示された技術によれば、比較的良好な潤滑性を示す表面潤滑層を基材に固定することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開平8-33704号公報には、水溶性または水膨潤性重合体として、潤滑性を発現する親水性部位とエポキシ基を有する部位とからなるブロック共重合体を用いると好ましいことが開示されている。そして、このようなブロック共重合体を用いる場合、加熱操作によりブロック共重合体のエポキシ基を架橋させ、比較的剥離しにくい表面潤滑層を形成することができる。しかし、良好な潤滑性と優れた耐久性とはトレードオフの関係にあり、良好な潤滑性と優れた耐久性を両立させる技術が求められている。
【0006】
特に、近年の医療用具の小型化・細径化は著しく、生体内において、より屈曲性が高く、狭い病変部位へと医療用具をアプローチする医療手技が広まりつつある。また、医療手技の複雑化に伴い、医療用具の操作が長時間にわたる場合がある。したがって、複雑な病変部位であってもデバイスの操作性を良好に保つために、従来技術よりもさらにデバイス表面の潤滑維持性(耐久性)を高める技術が要求されている。より具体的には、デバイス表面の摺動を繰り返した場合であっても、高い潤滑性を維持できる、摺動耐久性に優れたデバイスが要求されている。
【0007】
ゆえに、医療用具の耐久性(特に、摺動耐久性)を向上させ、複雑高度化する医療手技をサポートすることができる技術が求められている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた耐久性(特に、摺動耐久性)を発揮する潤滑層(被覆層)を有する医療用具の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、エポキシ基を有する反応性単量体と親水性単量体とのブロック共重合体と共に、特定の炭素数を有するアルキルアンモニウム塩をさらに含む溶液を基材層上に塗布し、洗浄することにより、上記目的を達成できることを知得して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、上記目的は、基材層と、前記基材層の少なくとも一部に担持された潤滑層と、を備える医療用具の製造方法であって、エポキシ基を有する反応性単量体由来の構成単位(A)および親水性単量体由来の構成単位(B)を有するブロック共重合体と、8以上24以下の炭素原子を有するアルキルアンモニウム塩と、溶媒とを含む溶液を前記基材層上に塗布し、洗浄することを含む、医療用具の製造方法によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る方法により製造される医療用具の代表的な実施形態の表面の積層構成を模式的に表した部分断面図である。図1中、10は医療用具を;1は基材層を;および2は潤滑層を、それぞれ、示す。
図2図1の実施形態の応用例として、表面の積層構成の異なる構成例を模式的に表した部分断面図である。図1中、10は医療用具を;1aは基材層コア部を;1bは基材表面層を;1は基材層を;および2は潤滑層を、それぞれ、示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
本発明の一形態に係る医療用具の製造方法は、基材層と、前記基材層の少なくとも一部に担持された潤滑層と、を備える医療用具の製造方法であって、エポキシ基を有する反応性単量体由来の構成単位(A)および親水性単量体由来の構成単位(B)を有するブロック共重合体と、8以上24以下の炭素原子を有するアルキルアンモニウム塩と、溶媒とを含む溶液を前記基材層上に塗布し、洗浄することを含む。本発明によれば、優れた耐久性(特に、摺動耐久性)を発揮する潤滑層(被覆層)を有する医療用具を製造方法できる。
【0014】
なお、本明細書では、エポキシ基を有する反応性単量体由来の構成単位(A)を、単に「反応性単量体由来の構成単位」または「構成単位(A)」とも称する。同様にして、親水性単量体由来の構成単位(B)を、単に「親水性単量体由来の構成単位」または「構成単位(B)」とも称する。また、反応性単量体由来の構成単位および親水性単量体由来の構成単位を有するブロック共重合体を単に「ブロック共重合体」と、8以上24以下の炭素原子を有するアルキルアンモニウム塩を、単に「アルキルアンモニウム塩」とも称する。
【0015】
本発明に係る医療用具の製造方法では、反応性単量体由来の構成単位および親水性単量体由来の構成単位を有するブロック共重合体、特定の炭素数を有するアルキルアンモニウム塩および溶媒を含む溶液を基材層上に塗布し、洗浄する。当該構成によって、本発明の方法により製造される医療用具は、優れた耐久性(表面潤滑維持性、摺動耐久性)を発揮できる。本発明に係る製造方法により得られる医療用具が、優れた耐久性を呈することができるメカニズムは、以下のように考えられる。なお、本発明は、下記推定に限定されない。
【0016】
本発明では、まず、エポキシ基を有する反応性単量体由来の構成単位(A)および親水性単量体由来の構成単位(B)を有するブロック共重合体を基材層上に塗布する。これにより、基材層上に潤滑層が形成される。潤滑層を形成するブロック共重合体は、体液や水性溶媒との接触時に膨潤性を発揮し、ゆえに医療用具に潤滑性(表面潤滑性)を付与して血管壁などの管腔壁との摩擦を低減する。
【0017】
一方で、潤滑層を形成するブロック共重合体は、溶液として塗布された後、構成単位(A)に含まれるエポキシ基を架橋点として、架橋または高分子化して網目構造(ネットワーク)を形成すると考えられる。また、上記ブロック共重合体は、8以上24以下の炭素原子を有するアルキルアンモニウム塩の添加によって可塑化し、類似の性質を有するブロック同士が凝集することによっても、高分子化して網目様構造を形成し、その後の加熱処理によって架橋して、網目構造(ネットワーク)を形成すると考えられる。このとき、本発明では、ブロック共重合体溶液中に含まれる、8以上24以下の炭素原子を有するアルキルアンモニウム塩が上記架橋または高分子化(複数の架橋によるネットワークの形成や、凝集によるネットワークの形成を含む)を促進すると考えられる。その結果、潤滑層中の網目構造(ネットワーク)をより高密度に形成できるため、強固な被覆層(潤滑層)が形成され、摺動後もその強固な被覆層を良好に維持でき、高い潤滑性(表面潤滑性)をより長期間にわたり維持できる(すなわち、優れた表面潤滑性を維持し、摺動耐久性を向上できる)と推測される。なお、以下において、上記のようなブロック共重合体に含まれるエポキシ基を架橋点とする架橋またはブロック共重合体の高分子化を、単に「ブロック共重合体の架橋または高分子化」とも称することがある。
【0018】
また、基材層(基材)の種類によっては、基材層表面にある官能基と、構成単位(A)に含まれるエポキシ基とが反応して結合することがある。この場合、8以上24以下の炭素原子を有するアルキルアンモニウム塩により、かような反応もまた促進され、エポキシ基が基材層にも結合(固定化)して基材層からの剥離を抑制・防止することができる。
【0019】
したがって、本発明に係る医療用具の製造方法によれば、優れた耐久性(表面潤滑維持性、摺動耐久性)を有する医療用具が得られる。
【0020】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0021】
また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」はXおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0022】
<医療用具の製造方法>
本発明に係る医療用具の製造方法は、エポキシ基を有する反応性単量体由来の構成単位(A)および親水性単量体由来の構成単位(B)を有するブロック共重合体と、8以上24以下の炭素原子を有するアルキルアンモニウム塩と、溶媒とを含む溶液を基材層上に塗布すること((I)溶液塗布工程、塗布層形成工程)、および洗浄すること((II)洗浄工程)を含む。また、必要に応じて、上記工程(I)と(II)との間に、さらに乾燥および/または加熱処理を行ってもよい((I’)乾燥および/または加熱処理工程)。このように、ブロック共重合体と共に特定のアルキルアンモニウム塩を含む溶液を塗布することにより、優れた耐久性を発揮する潤滑層(被覆層)を有する医療用具が得られる。
【0023】
(I)溶液塗布工程(塗布層形成工程)
本発明に係る医療用具の製造方法では、まず、上記ブロック共重合体、上記アルキルアンモニウム塩および溶媒を含む溶液(本明細書中、単に「ブロック共重合体溶液」または「コート液」とも称する)を基材層上に塗布する((I)溶液塗布工程、塗布層形成工程)。溶液塗布工程は、基材層表面の少なくとも一部に、ブロック共重合体を含む潤滑層を担持(または被覆)させる目的で行われる。なお、「担持」とは、潤滑層が基材層表面から容易に遊離しない状態に固定化された状態を意味し、基材層の表面全体が潤滑層により完全に覆われている形態のみならず、基材表面の一部のみが潤滑層により覆われている形態、すなわち、基材表面の一部のみに潤滑層が付着した形態をも含むものとする。したがって、溶液を塗布する方法は、上記構成単位(A)および構成単位(B)を有するブロック共重合体と、上記アルキルアンモニウム塩と、溶媒とを含む溶液を使用する以外は特に制限されず、公知の方法と同様にしてあるいはこれを適宜修飾して適用できる。
【0024】
溶液塗布工程において、具体的には、上記ブロック共重合体および上記アルキルアンモニウム塩を溶媒に溶解させて溶液(コート液)を調製し、当該溶液(コート液)を基材上にコートして塗布層を形成する。
【0025】
以下、(I)溶液塗布工程(塗布層形成工程)について、好ましい態様を詳説する。
【0026】
≪ブロック共重合体溶液(コート液)の調製≫
上記の通り、溶液塗布工程(塗布層形成工程)では、ブロック共重合体、アルキルアンモニウム塩および溶媒を含む溶液を基材層上に塗布するため、まず、ブロック共重合体溶液(コート液)を調製する。
【0027】
(ブロック共重合体)
本発明において、ブロック共重合体は、基材層の少なくとも一部に担持された潤滑層を形成する。すなわち、本発明に係る方法により得られる医療用具において、潤滑層は、ブロック共重合体を含む。
【0028】
本発明におけるブロック共重合体は、エポキシ基を有する反応性単量体由来の構成単位(A)および親水性単量体由来の構成単位(B)を有する。
【0029】
ブロック共重合体を構成するエポキシ基を有する反応性単量体は、エポキシ基を反応性基として有する。このような反応性単量体由来の構成単位(A)をブロック共重合体中に導入することにより、ブロック共重合体同士がエポキシ基を介して架橋または高分子化して網目構造を形成する。ここで、上述のように、本発明に係るアルキルアンモニウム塩が添加されることにより、ブロック共重合体は、架橋または高分子化が促進されるため、潤滑層の強度を向上できる。具体的には、本発明に係るアルキルアンモニウム塩は、エポキシ基の架橋を促進するだけでなく、ブロック共重合体を可塑化させ、類似の性質を有するブロック同士の凝集を促進することで、ブロック共重合体の高分子化に寄与していると推測される。ゆえに、本発明に係る方法により得られる医療用具は、摺動耐久性に優れ、また、摺動後もその形状を良好に維持できる。また、基材層の種類によっては、エポキシ基を介して潤滑層を基材層に強固に結合(固定化)でき、基材層からの剥離を抑制・防止できる。ゆえに、かような観点からも、本発明に係る方法により得られる医療用具は、摺動耐久性がより向上する。
【0030】
なお、ブロック共重合体を構成する構成単位(A)による網目構造(ネットワーク)の形成は、公知の方法によって確認できるが、本願明細書では、ATR-IRによるエポキシ基の消失およびエーテル結合の形成によって、上記網目構造(ネットワーク)の形成を確認している。なお、具体的なATR-IRの測定条件は、実施例に記載のものを採用することができる。
【0031】
ブロック共重合体を構成する反応性単量体は、エポキシ基を有するものであれば特に制限されず、公知の化合物を使用できる。なかでも、ブロック共重合体の架橋または高分子化の制御がしやすいことから、エポキシ基を有する反応性単量体は、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート(GMA)、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート、β-メチルグリシジルメタクリレート、およびアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種を含んでいると好ましい。なかでも、網目構造の容易形成性の向上、製造の容易さなどを考慮すると、グリシジル(メタ)アクリレートが好ましい。なお、本明細書中、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートの双方を包含する。
【0032】
上記反応性単量体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。すなわち、反応性単量体由来の反応性部位は、1種単独の反応性単量体から構成されるホモポリマー型であっても、あるいは上記反応性単量体2種以上から構成されるコポリマー型であってもよい。なお、2種以上用いる場合の反応性部位の形態は、ブロック共重合体でもよいしランダム共重合体でもよい。
【0033】
ブロック共重合体を構成する親水性単量体は、体液や水性溶媒との接触時に膨潤性を有し、ゆえに潤滑性(表面潤滑性)を医療用具に付与する。したがって、このような親水性単量体由来の構成単位(B)をブロック共重合体中に導入することにより、医療用具の潤滑性(表面潤滑性)が向上し、医療用具が血管壁などの管腔壁と接触した際の摩擦を低減できる。
【0034】
ブロック共重合体を構成する親水性単量体は、上記特性を有するものであれば特に制限されず、公知の化合物を使用できる。例えば、アクリルアミドやその誘導体、ビニルピロリドン、アクリル酸やメタクリル酸およびそれらの誘導体、ポリエチレングリコールアクリレートおよびその誘導体、糖やリン脂質を側鎖に有する単量体、無水マレイン酸などの水溶性の単量体などを例示できる。より具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA)、アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N-ビニルピロリドン、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2-メタクリロイルオキシエチル-D-グリコシド、2-メタクリロイルオキシエチル-D-マンノシド、ビニルメチルエーテル、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、1-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェニルオキシ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレート、およびポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレートが挙げられる。優れた潤滑性の付与、合成の容易性や操作性の観点から、親水性単量体は、N,N-ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、およびN-ビニルピロリドンからなる群から選択される少なくとも一種を含むと好ましい。なかでも、潤滑性に優れるという観点から、親水性単量体は、N,N-ジメチルアクリルアミドが好ましい。
【0035】
上記親水性単量体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。すなわち、親水性単量体由来の親水性部位は、1種単独の親水性単量体から構成されるホモポリマー型であっても、あるいは上記親水性単量体2種以上から構成されるコポリマー型であってもよい。なお、2種以上用いる場合の親水性部位の形態は、ブロック共重合体でもよいしランダム共重合体でもよい。
【0036】
ブロック共重合体は、上記構成単位(A)および構成単位(B)を有する。ここで、構成単位(A)と構成単位(B)との比率は、上記効果を奏する限り特に制限されない。良好な潤滑性、潤滑維持性、被覆層の強度、基材層との結合性などを考慮すると、構成単位(A)と構成単位(B)との比率(構成単位(A):構成単位(B)のモル比)は、1:2~100であることが好ましく、1:2~50であることがより好ましく、1:5~50であることがさらに好ましく、1:10~1:30であることが特に好ましい。このような範囲であれば、潤滑層は、構成単位(B)により潤滑性を十分発揮でき、また、構成単位(A)により十分な被覆層強度、基材層との結合性および耐久性を発揮できる。なお、上記構成単位(A):構成単位(B)のモル比は、ブロック共重合体の製造段階において、各単量体の仕込み比(モル比)を調整することにより制御することができる。このとき、ブロック共重合体の製造段階におけるエポキシ基を有する反応性単量体と、親水性単量体との仕込み比率(モル比)は、1:2~100であると好ましく、1:2~50であるとより好ましく、1:5~50であることがさらに好ましく、1:10~1:30であることが特に好ましい。なお、上記構成単位(A):構成単位(B)のモル比は、例えば、共重合体についてNMR測定(H-NMR測定、13C-NMR測定等)を行うことにより確認することができる。
【0037】
ブロック共重合体の重量平均分子量は、溶解性の点から、好ましくは10,000~10,000,000である。そして、ブロック共重合体の重量平均分子量は、ブロック共重合体溶液(コート液)の調製のしやすさの点から、より好ましくは100,000~10,000,000である。本明細書中、「重量平均分子量」は、ポリスチレンを標準物質とするゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定した値を採用するものとする。
【0038】
また、ブロック共重合体の製造方法は、特に制限されず、例えば、リビングラジカル重合法、マクロ開始剤を用いた重合法、重縮合法など、従来公知の重合法を適用して作製可能である。これらのうち、反応性単量体に由来する構成単位(部位)、親水性単量体に由来する構成単位(部位)の分子量および分子量分布のコントロールがしやすいという点で、リビングラジカル重合法またはマクロ開始剤を用いた重合法が好ましく使用される。リビングラジカル重合法としては、特に制限されないが、例えば特開平11-263819号公報、特開2002-145971号公報、特開2006-316169号公報等に記載される方法、ならびに原子移動ラジカル重合(ATRP)法などが、同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。また、マクロ開始剤を用いた重合法では、例えば、反応性官能基を有する反応性部位と、パーオキサイド基等のラジカル重合性基とを有するマクロ開始剤を作製した後、そのマクロ開始剤と親水性部位を形成するための単量体を重合させることで親水性部位と反応性部位とを有するブロック共重合体を作製することができる。
【0039】
また、ブロック共重合体の重合においては、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の公知の方法が用いられうる。具体的には、ブロック共重合体の製造では、反応性単量体および親水性単量体を重合溶媒中で重合開始剤と共に撹拌・加熱することにより共重合させる方法が使用できる。ここで、重合開始剤は特に制限されず、公知のものを使用すればよい。また、重合溶媒としては、特に制限されないが、例えば、n-ヘキサン、n-へプタン、n-オクタン、n-デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、流動パラフィン等の脂肪族系有機溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶媒、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン系有機溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性非プロトン性有機溶媒が使用できる。なお、前記溶媒は、単独でもまたは2種以上を混合して用いることもできる。
【0040】
重合溶媒中の単量体の濃度(親水性単量体および反応性単量体の合計濃度)は、5~90質量%であると好ましく、8~80質量%であるとより好ましく、10~50質量%であると特に好ましい。
【0041】
上記重合において、重合条件もまた、上記共重合が進行すれば特に制限されない。例えば、重合温度は、好ましくは30~150℃、より好ましくは40~100℃とするのが好ましい。また、重合時間は、好ましくは30分~30時間、より好ましくは3~24時間である。
【0042】
さらに、共重合の際に、必要に応じて、連鎖移動剤、重合速度調整剤、界面活性剤、水溶性高分子、水溶性無機化合物(アルカリ金属塩、アルカリ金属水酸化物、多価金属塩、および非還元性アルカリ金属塩pH緩衝剤など)、無機酸、無機酸塩、有機酸及び有機酸塩およびその他の添加剤を適宜使用してもよい。
【0043】
共重合後のブロック共重合体は、再沈澱法、透析法、限外濾過法、抽出法など一般的な精製法により精製することが好ましい。
【0044】
(アルキルアンモニウム塩)
本発明において、アルキルアンモニウム塩は、上記ブロック共重合体の架橋または高分子化を促進する。これにより、強固な潤滑層を形成することができ、優れた耐久性(摺動耐久性)を得ることができる。
【0045】
上記のようなブロック共重合体の架橋または高分子化の促進は、強酸の添加によっても生じうるが、本発明者は、強酸を添加すると、ブロック共重合体溶液(コート液)中において上記架橋また高分子化が急速に進行する結果、コート液の粘性が高くなり、均一に塗布することが難しくなることを見出した。これに対し、本発明に係るアルキルアンモニウム塩は、ブロック共重合体の架橋または高分子化を緩やかに促進するため、上記のようなコート液中におけるブロック共重合体の架橋または高分子化によるコート液の粘性の上昇を抑制できる。よって、本発明では、アルキルアンモニウム塩を用いることにより、コート液を均一に塗布することができる。また、強酸を用いる場合には、上記の理由により、ブロック共重合体の溶液と、強酸の溶液とを別途に調製し、これらを順に塗布する必要があるが、本発明によれば、潤滑層(塗布層)の形成時、ブロック共重合体およびアルキルアンモニウム塩の双方を含む液を塗布すれば足りるため、一液による潤滑層(塗布層)の形成が可能となるという利点もある。
【0046】
本発明におけるアルキルアンモニウム塩は、8以上24以下の炭素原子を有する。なお、当該炭素原子の数は、アルキルアンモニウムカチオン中に含まれる炭素原子の数の合計を指す。アルキルアンモニウム塩の炭素数が8未満であると、当該アルキルアンモニウム塩がブロック共重合体溶液(コート液)中に均一に溶解させることができず、当該溶液を均一に基材層上に塗布することが難しい。よって、十分な潤滑性が得られない。また、アルキルアンモニウム塩の炭素数が24を超えると、均一な溶液は調製できるものの、当該アルキルアンモニウム塩と潤滑層(ブロック共重合体)との親和性が高く、当該潤滑層を洗浄した際、当該アルキルアンモニウム塩を除去することが難しい。ゆえに、潤滑層上に当該アルキルアンモニウム塩が残留し、十分な潤滑性(表面潤滑性)が得られない。より優れた耐久性(摺動耐久性)を有する潤滑層を形成するという観点から、アルキルアンモニウム塩は、12以上24以下の炭素原子を有すると好ましく、16以上20以下の炭素原子を有するとより好ましい。
【0047】
本発明において用いられるアルキルアンモニウム塩は、そのカチオン部分が、8以上24以下の炭素原子を有し、少なくとも一つのアルキル基を有するものであれば、特に制限されず、第一級~第四級アンモニウム塩のいずれであってもよい。入手容易性やブロック共重合体の架橋または高分子化の制御をより行いやすくするという観点から、アルキルアンモニウム塩は、第四級アンモニウム塩であると好ましい。
【0048】
また、アルキルアンモニウム塩において、アルキルアンモニウム塩のカチオン部分は、炭素数が上記範囲を満たす範囲で、アルキル基以外の他の置換基を有していてもよい。他の置換基としては、特に制限されず、例えば、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基等を有していてもよい。しかしながら、入手容易性やブロック共重合体の架橋または高分子化の制御をより行いやすくするという観点から、アルキルアンモニウム塩のカチオン部分が、アルキル基以外の置換基を有していない形態が好ましい。すなわち、アルキルアンモニウム塩は、テトラアルキルアンモニウム塩であると好ましい。
【0049】
アンモニウム塩中に含まれるアルキル基は、上記炭素数を満たすものであれば特に制限されない。また、アルキルアンモニウム塩が2以上のアルキル基を有する場合、アルキル基は同じであっても異なっていてもよい。
【0050】
ブロック共重合体溶液に対する溶解性に優れ、また、ブロック共重合体の架橋または高分子化を促進しやすいという観点から、アルキルアンモニウム塩中に含まれるアルキル基は、それぞれ独立して、炭素数2~6の直鎖もしくは分岐鎖、または炭素数3~6の環状のアルキル基であると好ましく、炭素数2~6の直鎖または分岐鎖のアルキル基であるとより好ましく、炭素数2~6の直鎖のアルキル基であるとさらに好ましく、炭素数4~5の直鎖のアルキル基であると最も好ましい。
【0051】
上記アルキル基としては、例えば、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基等の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基が挙げられる。なかでも、ブロック共重合体溶液に対する溶解性に優れ、また、ブロック共重合体の架橋または高分子化の制御をより行いやすくするという観点から、アルキルアンモニウム塩中のアルキル基は、それぞれ独立して、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基およびn-ヘキシル基からなる群から選択されると好ましく、n-ブチル基またはn-ペンチル基であるとより好ましい。
【0052】
アルキルアンモニウム塩の入手容易性やブロック共重合体の架橋または高分子化の制御をより行いやすくするという観点から、アルキルアンモニウム塩に含まれる2以上のアルキル基は、同じものであると好ましい。
【0053】
なかでも、上記好ましいアルキル基を考慮すると、アルキルアンモニウム塩は、テトラエチルアンモニウム塩、テトラn-プロピルアンモニウム塩、テトラn-ブチルアンモニウム塩、テトラn-ペンチルアンモニウム塩、およびテトラn-ヘキシルアンモニウム塩からなる群から選択されると好ましく、テトラn-ブチルアンモニウム塩またはテトラn-ペンチルアンモニウム塩であるとより好ましい。
【0054】
一方、本発明において用いられるアルキルアンモニウム塩を形成するアニオン(カウンターアニオン)は、上記アルキルアンモニウムカチオンと塩を形成できるものであれば、特に制限されない。かようなアニオンとしては、例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン;硫酸水素イオン(HSO );硫酸イオン(SO 2-);硝酸イオン(NO );リン酸二水素イオン(HPO )、リン酸水素イオン(HPO 2-)、リン酸イオン(PO 3-);過塩素酸イオン(ClO );水酸化物イオン(OH);クエン酸イオン、酢酸イオン、リンゴ酸イオン、フマル酸イオン、乳酸イオン、グルタル酸イオンおよびマレイン酸イオン等のカルボン酸系アニオンが挙げられる。ブロック共重合体溶液に対する溶解性に優れることから、アルキルアンモニウム塩のアニオンは、ハロゲン化物イオン、硫酸水素イオン、過塩素酸イオン、および水酸化物イオンからなる群から選択されると好ましい。
【0055】
さらに、アルキルアンモニウム塩のアニオンは、ハロゲン化物イオンであるとより好ましい。かようなアニオンを有するアルキルアンモニウム塩を用いることにより、潤滑層の耐久性が極めて向上する。かかる理由は、以下のように考えられる。ハロゲン化物イオンをアニオンとするアルキルアンモニウム塩は、塩基性が比較的弱いか、または中性であることから、例えば、構成単位(A)がエポキシ基またはグリシジルエステル基を含む場合、ブロック共重合体中に含まれるエポキシ基の架橋部分またはグリシジルエステル基の加水分解が生じにくい。よって、形成される潤滑層が、かような加水分解の影響を受けにくくなるため、結果として潤滑層の強度が向上し、耐久性(摺動耐久性)に優れる潤滑層を形成することができる。
【0056】
より耐久性に優れた潤滑層を形成するという観点から、アルキルアンモニウム塩のアニオンは、塩化物イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群から選択されると好ましく、塩化物イオンまたは臭化物イオンであると特に好ましい。塩化物イオンまたは臭化物イオンをアニオンとするアルキルアンモニウム塩は、特に塩基性が弱いことから、ブロック共重合体の加水分解を生じさせず、かつエポキシ基の架橋または類似の性質を有するブロック同士の凝集を促進するため、より耐久性に優れる潤滑層を形成できる。
【0057】
以上より、本発明において好適に用いられるアルキルアンモニウム塩としては、下記式(1)であると好ましい:
【0058】
【化1】
【0059】
式(1)中、R~Rは、それぞれ独立して、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基またはn-ヘキシル基であり、Xは、ハロゲン化物イオン、硫酸水素イオン、過塩素酸イオンまたは水酸化物イオンである。
【0060】
より耐久性(摺動耐久性)に優れる潤滑層を形成するという観点から、式(1)中、R~Rは、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基またはn-ヘキシル基であり(ただし、複数のR~Rは、同じ置換基である)、Xは、ハロゲン化物イオン、硫酸水素イオン、過塩素酸イオンまたは水酸化物イオンであるとより好ましい。さらに同様の観点から、式(1)中、R~Rは、n-ブチル基またはn-ペンチル基であり(ただし、複数のR~Rは、同じ置換基である)、Xは、ハロゲン化物イオンであるとさらにより好ましく、式(1)中、R~Rは、n-ブチル基またはn-ペンチル基であり(ただし、複数のR~Rは、同じ置換基である)、Xは、塩化物イオン、臭化物イオンまたはヨウ化物イオンであると特に好ましく、式(1)中、R~Rは、n-ブチル基またはn-ペンチル基であり(ただし、複数のR~Rは、同じ置換基である)、Xは、塩化物イオンまたは臭化物イオンであると最も好ましい。
【0061】
なお、上記アルキルアンモニウム塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0062】
(溶媒)
本発明では、ブロック共重合体を均一に基材層上に担持させる目的から、上記ブロック共重合体および上記アルキルアンモニウム塩を含む均一な溶液を調製し、当該溶液(コート液)を基材層上に塗布する。
【0063】
本発明に係るブロック共重合体およびアルキルアンモニウム塩を溶解するのに使用される溶媒としては、本発明に係るブロック共重合体およびアルキルアンモニウム塩を溶解できるものであれば特に制限されない。具体的には、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、クロロホルム等のハロゲン化物、ヘキサン等のオレフィン類、テトラヒドロフラン(THF)、ブチルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族類、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類などを例示することができるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。なかでも、ブロック共重合体およびアルキルアンモニウム塩を均一に溶解でき、溶液の塗布を均一に行えるという観点から、溶液(コート液)の溶媒は、アセトン等のケトン類、およびDMF等のアミド類が好ましく、アセトンおよびDMFが特に好ましい。
【0064】
(他の成分)
潤滑層を形成するためのブロック共重合体溶液(コート液)は、ブロック共重合体、アルキルアンモニウム塩、溶媒の他、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、特に制限されず、例えば、医療用具がカテーテルなどの体腔や管腔内への挿入を目的とする場合には、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ薬、抗血栓薬、HMG-CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIb/IIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、血管平滑筋増殖抑制薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロン、およびNO産生促進物質等の薬剤(生理活性物質)などが挙げられる。ここで、他の成分の添加量は、特に制限されず、通常使用される量が同様にして適用される。最終的には、他の成分の添加量は、適用される疾患の重篤度、患者の体重等を考慮して適切に選択される。
【0065】
(ブロック共重合体溶液(コート液)の調製)
上記ブロック共重合体、アルキルアンモニウム塩および溶媒を用いて、ブロック共重合体溶液(コート液)を調製する。上記各成分の添加順、添加方法は特に制限されない。上記各成分を、一括してもしくは別々に、段階的にもしくは連続して加えてもよい。また、混合方法も特に制限されず、公知の方法を用いることができる。好ましいブロック共重合体溶液(コート液)の調製方法としては、溶媒中にブロック共重合体およびアルキルアンモニウム塩を順次添加し、溶媒中で撹拌することを含む。
【0066】
ブロック共重合体溶液(コート液)中のブロック共重合体の濃度は、特に限定されない。塗布性、潤滑層の潤滑性および耐久性をより向上させるという観点からは、当該溶液(コート液)中のブロック共重合体の濃度は、0.01~20質量%であると好ましく、0.05~15質量%であるとより好ましく、1~10質量%であると特に好ましい。ブロック共重合体の濃度が上記範囲であれば、得られる潤滑層の潤滑性、耐久性が十分発揮されうる。すなわち、本発明の好ましい形態によると、溶液(ブロック共重合体溶液、コート液)が、ブロック共重合体を0.01~20質量%(より好ましくは0.05~15質量%、特に好ましくは1~10質量%)含む。また、1回のコーティングで所望の厚みの均一な潤滑層を容易に得ることができ、また、溶液の粘度が適切な範囲内となり、操作性(例えば、コーティングのしやすさ)、生産効率の点で好ましい。但し、上記範囲を外れても、本発明の作用効果に影響を及ぼさない範囲であれば、十分に利用可能である。
【0067】
ブロック共重合体溶液(コート液)中のアルキルアンモニウム塩の濃度もまた特に限定されない。ブロック共重合体の架橋または高分子化を十分に進行させながらも、一方で、過度に進行させない(架橋または高分子化を適度に促進できる)という観点から、当該溶液(コート液)中のアルキルアンモニウム塩の濃度は、0.01~20質量%であると好ましく、0.05~15質量%であるとより好ましく、1~10質量%であると特に好ましい。アルキルアンモニウム塩の濃度が上記範囲であれば、得られる潤滑層の潤滑性、耐久性が十分発揮されうる。但し、上記範囲を外れても、本発明の作用効果に影響を及ぼさない範囲であれば、十分に利用可能である。
【0068】
さらに、ブロック共重合体溶液(コート液)中における、ブロック共重合体およびアルキルアンモニウム塩の混合比も特に限定されない。塗布性、潤滑層の潤滑性および耐久性をより向上させるという観点からは、当該溶液(コート液)は、ブロック共重合体およびアルキルアンモニウム塩を、1:0.01~10(質量比)で含んでいると好ましく、1:0.05~5(質量比)で含んでいるとより好ましく、1:0.05~2(質量比)で含んでいると特に好ましく、1:0.1~2(質量比)で含んでいると最も好ましい。ブロック共重合体およびアルキルアンモニウム塩の質量比が上記範囲であれば、得られる潤滑層の潤滑性、耐久性が十分発揮されうる。後述する洗浄工程において、アルキルアンモニウム塩を十分に除けることから、潤滑層の潤滑性も向上する。
【0069】
≪ブロック共重合体溶液(コート液)の塗布≫
次に、上記の通りブロック共重合体、アルキルアンモニウム塩および溶媒を含む溶液(コート液)を調製した後、当該溶液を基材層上に塗布する。
【0070】
基材層は、いずれの材料から構成されてもよいが、例えば、金属材料、高分子材料(樹脂材料)、およびセラミックスなどが挙げられる。
【0071】
基材層を構成する材料のうち、金属材料としては、特に制限されるものではなく、カテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の医療用具に一般的に使用される金属材料が使用される。具体的には、SUS304、SUS314、SUS316、SUS316L、SUS420J2、SUS630などの各種ステンレス鋼、金、白金、銀、銅、ニッケル、コバルト、チタン、鉄、アルミニウム、スズあるいはニッケル-チタン合金、ニッケル-コバルト合金、コバルト-クロム合金、亜鉛-タングステン合金等の各種合金などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記金属材料には、使用用途であるカテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の基材層として最適な金属材料を適宜選択すればよい。
【0072】
また、上記基材層を構成する材料のうち、高分子材料(樹脂材料またはエラストマー材料)としては、特に制限されるものではなく、カテーテル、イントロデューサー、ガイドワイヤ、留置針等の医療用具に一般的に使用される高分子材料が使用される。具体的には、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂(アリル樹脂)、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、アミノ樹脂(ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂)、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル樹脂、スチロール樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂(ケイ素樹脂)、ポリエーテル樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0073】
また、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマーなどの熱可塑性エラストマーも、基材層の材料として用いることができる。
【0074】
これらの高分子材料は1種単独で使用してもよいし、2種以上の混合物または上記いずれかの樹脂またはエラストマーを構成する2種以上の単量体の共重合体として使用してもよい。なかでも、高分子材料としては、ポリエチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドエラストマーが好ましく、ポリアミド樹脂、ポリアミドエラストマーがより好ましい。ポリアミド樹脂やポリアミドエラストマーに含まれる末端基としてのカルボキシ基やアミノ基は、ブロック共重合体中のエポキシ基と架橋反応しうる。また、これらの高分子材料(特にポリアミド樹脂、ポリアミドエラストマー)は、比較的柔らかく、潤滑層を構成するブロック共重合体がしみ込みやすいともいえる。よって、高分子材料(特にポリアミド樹脂、ポリアミドエラストマー)とブロック共重合体との結合性が高まり、より耐久性に優れた潤滑層を形成することができる。上記高分子材料には、使用用途であるカテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の基材層として最適な高分子材料を適宜選択すればよい。
【0075】
本発明に係る医療用具の製造方法は、後述するように、ブロック共重合体溶液(コート液)を塗布した後、比較的低い温度で維持した場合であっても、ブロック共重合体の架橋または高分子化が進行し、耐久性に優れる潤滑層を形成できる。換言すると、潤滑層を基材層上に固定する温度を低くすることができるという効果もまた奏される。したがって、本発明に係る医療用具の製造方法においては、基材層の構成材料として、高分子材料(樹脂材料またはエラストマー材料)が好適に用いられる。本発明によれば、低温で潤滑層を固定できることから、熱により変形または可塑化しやすい高分子材料を基材層に含んでいても、基材層の変形や可塑化が抑制され、寸法安定性が向上する。
【0076】
また、上記基材層の形状は、特に制限されることはなく、シート状、線状(ワイヤ)、管状など使用態様により適宜選択される。
【0077】
基材層表面にブロック共重合体溶液(コート液)を塗布(コーティング)する方法は、特に制限されず、塗布・印刷法、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)、噴霧法(スプレー法)、スピンコート法、混合溶液含浸スポンジコート法、バーコート法、ダイコート法、リバースコート法、コンマコート法、グラビアコート法、ドクターナイフ法など、従来公知の方法を適用することができる。これらのうち、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)を用いるのが好ましい。
【0078】
なお、カテーテル、ガイドワイヤ、注射針等の細く狭い内面に潤滑層を形成させる場合、コート液中に基材層を浸漬して、系内を減圧にして脱泡させてもよい。減圧にして脱泡させることにより、細く狭い内面に素早く溶液を浸透させ、潤滑層の形成を促進できる。
【0079】
また、基材層の一部にのみ潤滑層を形成させる場合には、基材層の一部のみをコート液中に浸漬して、コート液を基材層の一部にコーティングすることで、基材層の所望の表面部位に、潤滑層を形成することができる。
【0080】
基材層の一部のみをコート液中に浸漬するのが困難な場合には、予め潤滑層を形成する必要のない基材層の表面部分を着脱(装脱着)可能な適当な部材や材料で保護(被覆等)した上で、基材層をコート液中に浸漬して、コート液を基材層にコーティングした後、潤滑層を形成する必要のない基材層の表面部分の保護部材(材料)を取り外し、その後、加熱処理等により反応させることで、基材層の所望の表面部位に潤滑層を形成することができる。ただし、本発明では、これらの形成法に何ら制限されるものではなく、従来公知の方法を適宜利用して、潤滑層を形成することができる。例えば、基材層の一部のみをコート液中に浸漬するのが困難な場合には、浸漬法に代えて、他のコーティング手法(例えば、医療用具の所定の表面部分に、コート液を、スプレー装置、バーコーター、ダイコーター、リバースコーター、コンマコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、ドクターナイフなどの塗布装置を用いて、塗布する方法など)を適用してもよい。なお、医療用具の構造上、円筒状の用具の外表面と内表面の双方が、潤滑層を有する必要があるような場合には、一度に外表面と内表面の双方をコーティングすることができる点で、浸漬法(ディッピング法)が好ましく使用される。
【0081】
ブロック共重合体溶液(コート液)の塗布量は、得られる被膜(潤滑層)の厚みが0.1~10μmとなるような量であることが好ましく、0.5~5μmとなるような量であることがより好ましく、1~3μmとなるような量であることがさらに好ましい。被膜(潤滑層)の厚みが0.1μm以上となるような塗布量であれば、得られる被膜(潤滑層)の耐久性が十分達成できる。また、被膜(潤滑層)の厚みが10μm以下となるような塗布量であれば、被膜(潤滑層)の表面がべたつきにくくなり、製造時の取扱いがより容易になる。
【0082】
(I’)乾燥および/または加熱処理工程
本発明に係る医療用具の製造方法では、基材層上にブロック共重合体溶液(コート液)を塗布して塗布層を形成した後、溶媒の除去や、強固な潤滑層を形成する目的で、乾燥および/または加熱処理工程を行うと好ましい。
【0083】
以下、(I’)ブロック共重合体溶液(コート液)の乾燥および/または加熱処理工程について、好ましい態様を詳説する。
【0084】
上記(I)溶液塗布工程において、基材層上に、ブロック共重合体およびアルキルアンモニウム塩を含む溶液(コート液)を塗布した後、乾燥および/または加熱処理を行うと好ましい。ここで、「乾燥処理」と「加熱処理」とは、厳密に区別されるものではないが、説明の便宜上、「乾燥処理」とは、上記コート液を塗布した基材層を室温付近の温度(20~30℃)以下に保持することを「乾燥処理」といい、「加熱処理」とは、室温付近の温度(20~30℃)を超える温度に保持することを「加熱処理」という。
【0085】
乾燥または加熱処理時の条件は、基材層上にブロック共重合体を含む潤滑層が形成できる条件であれば、特に制限されない。
【0086】
乾燥または加熱処理の温度は、特に制限されないが、好ましくは10~200℃である。すなわち、ブロック共重合体溶液を基材層上に塗布した後(塗布層を形成した後)、塗布層を10~200℃で維持するとより好ましい。かような温度で維持することにより、ブロック共重合体の架橋または高分子化が効果的に促進され、強固な被覆層(潤滑層)が形成される。よって、高い潤滑性(表面潤滑性)をより長期間にわたり維持できる。また、かような温度で維持することにより、上記架橋または高分子化が過剰に進行してしまうのを抑制することができる。よって、潤滑層が硬くなりすぎることに起因する膨潤性の低下を抑制でき、結果として、良好な潤滑性(表面潤滑性)を維持できる。
【0087】
さらに、ブロック共重合体溶液を基材層上に塗布した後(塗布層を形成した後)、塗布層を110℃以下で維持するとより好ましく、25~110℃で維持するとさらに好ましく、50~100℃で維持すると最も好ましい。かような温度で維持することにより、優れた潤滑性を発揮することができ、かつ、高い耐久性を有する潤滑層を形成することができる。特に、110℃以下とすることにより、加熱処理を長時間行っても、ブロック共重合体の過剰な架橋または高分子化を抑制することができる。よって、潤滑層が硬くなりすぎることに起因する膨潤性の低下を抑制でき、潤滑性の制御をより容易に行うことが可能となる。なお、上記温度は、乾燥または加熱処理の途中で変更してもよい。
【0088】
本発明に係る製造方法では、上記のように、ブロック共重合体溶液(コート液)を塗布した後、例えば80℃以下、さらには25~80℃といった、比較的低い温度で維持した場合であっても、高い耐久性を有する潤滑層を形成できることもまた特徴の一つである。これにより、熱により変形または可塑化しやすい高分子材料であっても、基材層として使用できるという利点がある。したがって、本発明によれば、材料の選択性がより高くなり、多様な用途の医療用具を製造することができる。また、低温で耐久性に優れた潤滑層の形成が可能であるため、医療用具の製造時、エネルギーコスト的な観点からも好ましい。
【0089】
また、乾燥または加熱処理の時間も特に制限されないが、好ましくは30分~30時間、より好ましくは1~25時間、特に好ましくは1~10時間である。かような時間とすることにより、ブロック共重合体中の架橋または高分子化が効果的に促進され、強固な被覆層(潤滑層)が形成される。よって、高い潤滑性(表面潤滑性)をより長期間にわたり維持できる。また、かような時間とすることにより、上記架橋または高分子化が過剰に進行してしまうのを抑制することができる。よって、潤滑層が硬くなりすぎることに起因する膨潤性の低下を抑制でき、結果として、良好な潤滑性(表面潤滑性)を維持できる。
【0090】
本工程において、ブロック共重合体の架橋または高分子化を特に効果的に(効率よく)促進させるという観点から、乾燥処理を行った後、さらに加熱処理を行うことが好ましい。このように、乾燥および加熱処理を経ることで、溶媒が留去された状態で(すなわち、ブロック共重合体とアルキルアンモニウム塩とが接触しやすい状態で)さらに加熱処理を行うため、アルキルアンモニウム塩によるブロック共重合体の架橋または高分子化を促進する効果がより向上する。したがって、加熱処理をより短時間とすることができるため、熱により変形または可塑化しやすい高分子材料であっても、基材層として用いることができる。
【0091】
このときの乾燥および加熱処理の条件(温度、時間等)も特に制限されないが、効率よく医療用具を製造するという観点から、10~30℃で30分~5時間維持する乾燥処理を行った後、40~200℃で1~10時間維持する加熱処理を行うと好ましい。さらに同様の観点から、20~30℃で30分~3時間維持する乾燥処理を行った後、45~150℃で1~6時間維持する加熱処理を行うとより好ましく、20~25℃で30分~1.5時間維持する乾燥処理を行った後、50~100℃で2~6時間維持する加熱処理を行うと特に好ましい。このように、本発明に係る方法によれば、低温かつ短時間で耐久性に優れた潤滑層を備える医療用具を製造することができる。
【0092】
一方で、ブロック共重合体溶液に含まれるアルキルアンモニウム塩により、ブロック共重合体の架橋または高分子化が十分に促進される場合には、加熱処理は要さず、乾燥処理のみを行なってもよい。このとき、乾燥処理の条件(温度、時間等)は特に制限されないが、潤滑性に優れ、かつ耐久性の高い潤滑層を形成するという観点から、処理温度は10~30℃であると好ましく、20~25℃であるとより好ましい。また、処理時間は5~30時間であると好ましく、10~25時間であるとより好ましい。
【0093】
以上より、乾燥および/または加熱処理では、20~25℃で30分~1.5時間維持する乾燥処理を行った後、50~100℃で2~6時間維持する加熱処理を行うか、または、20~25℃で10~25時間維持する乾燥処理を行うことが好ましい。
【0094】
上記のような条件(温度、時間等)であれば、基材層表面に強固な潤滑層(被覆層)を担持させることができる。また、基材層の種類によっては、潤滑層中のブロック共重合体中のエポキシ基を介した架橋反応が起こり、基材層から容易に剥離することのない、高強度の潤滑層を形成することができる。よって、上記乾燥および/または加熱処理工程により、基材層からの潤滑層の剥離を有効に抑制・防止できる。
【0095】
また、乾燥時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下で行うことができるほか、加圧ないし減圧下で行ってもよい。
【0096】
乾燥または加熱手段(装置)としては、例えば、オーブン、減圧乾燥機などを利用することができるが、自然乾燥の場合には、特に乾燥手段(装置)は不要である。
【0097】
(II)洗浄工程
本発明に係る医療用具の製造方法では、上記(I)溶液塗布工程または任意で行われる(I’)乾燥および/または加熱処理工程の後、基材層上に設けられた潤滑層を洗浄する((II)洗浄工程)。洗浄工程は、ブロック共重合体溶液(コート液)中に含まれるアルキルアンモニウム塩を除去し、潤滑層に優れた潤滑性(低摩擦性)を付与する目的で行われる。
【0098】
以下、(II)洗浄工程について、好ましい態様を詳説する。
【0099】
洗浄方法は特に限定されないが、ブロック共重合体による被膜(潤滑層)を洗浄溶媒に浸漬する方法、洗浄溶媒をかけ流す方法、またはこれらを組合せてもよい。このとき使用される洗浄溶媒は、ブロック共重合体による被膜(潤滑層)を溶解させず、かつ、アルキルアンモニウム塩を含む不純物を除去することができるものであれば特に限定されないが、水または温水が好ましく用いられる。洗浄水の温度は特に制限されないが、好ましくは20℃~100℃であり、より好ましくは25~80℃である。また、洗浄時間(洗浄溶媒を被膜に接触させる時間)は特に制限されないが、好ましくは1~60分、より好ましくは5~30分である。上記条件によれば、アルキルアンモニウム塩を十分に除去することができる。その結果、基材層上に形成される潤滑層は、優れた潤滑性を呈することができる。
【0100】
上記洗浄工程の後、さらに、乾燥工程を行ってもよい。乾燥方法および乾燥条件(温度、時間等)は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0101】
本発明に係る方法により製造される医療用具は、潤滑層を形成するブロック共重合体およびアルキルアンモニウム塩を含む溶液(コート液)を基材層上に塗布することにより、潤滑層が基材層上に担持された構成を有する。このとき、潤滑性を良好にするため、潤滑層中に含まれるアルキルアンモニウム塩は少ないほど好ましいが、完全に除去できず、残存することがある。このような場合、その医療用具が、本発明に係る方法により製造されたと判断される。具体的には、以下の分析方法によりアルキルアンモニウム塩が検出されることにより確認される。
【0102】
一方で、良好な潤滑性を有する医療用具を得るために、洗浄工程後の潤滑層に含まれるアルキルアンモニウム塩は、単位面積当たり50μg/cm以下であると好ましく、5μg/cm以下であるとより好ましい。50μg/cm以下とすることにより、潤滑層が優れた潤滑性を発揮できる。他方、その下限は特に制限されず、少ないほど好ましいが、アルキルアンモニウム塩の実質的な除去効率や、潤滑層の実用的な潤滑性を考慮すると、1μg/cm以上である。
【0103】
ここで、「単位面積当たり」の上記アルキルアンモニウム塩の含有量とは、潤滑層の単位面積(1cm)当たりに含まれるアルキルアンモニウム塩であり、以下の方法により測定されるアルキルアンモニウム塩の質量(μg)を、潤滑層の面積(cm)で除した値とする。
【0104】
具体的には、潤滑層(潤滑層が設けられた医療用具)を水に浸漬させ、70℃で24時間保持する。そして、得られた抽出液(水)について、以下の条件でLC-MS測定をおこなう。
【0105】
≪LC/MS 測定条件≫
LC/MS機器:Waters 2695/Quattro micro API (LC)
LC機種:Waters 2695
カラム:Waters製XBridge Amide 2.1mm×150mm,3.5μm
移動相:20mmol/L ぎ酸アンモニウム溶液(pH3.2)/アセトニトリル(1:9(体積比))
流量:0.2mL/min
カラム温度:40℃
(MS)
MS機種:Waters Quattro micro API
イオン化法:ESI-Positive。
【0106】
<医療用具>
上記において説明した(I)溶液塗布工程(塗布層形成工程)、(II)洗浄工程ならびに必要に応じて行われる(I’)乾燥および/または加熱処理工程を経ることで、優れた耐久性を発揮する潤滑層(被覆層)を有する医療用具を製造することができる。
【0107】
すなわち、本発明に係る方法によれば、基材層表面にブロック共重合体およびアルキルアンモニウム塩を含む塗布層を形成した後、エポキシ基を架橋させることで基材層から容易に剥離することのない、強固な潤滑層を形成することができる。また、本発明に係る方法により得られる医療用具は、ブロック共重合体による潤滑層が表面に形成されるため、優れた潤滑性、潤滑維持性を発揮できる。
【0108】
以下、添付した図面を参照して本発明に係る方法により製造される医療用具の好ましい実施形態を説明する。
【0109】
図1は、本発明に係る方法により製造される医療用具(本明細書中、「医療用具」とも略記する)の代表的な実施形態の表面の積層構造を模式的に表した部分断面図である。図2は、本実施形態の応用例として、表面の積層構造の異なる構成例を模式的に表した部分断面図である。なお、図1および図2中の各符号は、それぞれ、下記を表わす。符号1は、基材層を;符号1aは、基材層コア部を;符号1bは、基材表面層を;符号2は、潤滑層を;および符号10は、本発明に係る方法により製造される医療用具を、それぞれ表わす。
【0110】
図1図2に示されるように、本実施形態の医療用具10では、基材層1と、基材層1の少なくとも一部に設けられた(図中では、図面内の基材層1表面の全体(全面)に設けられた例を示す)ブロック共重合体を含む潤滑層2と、を備える。なお、図1図2では、潤滑層2は基材層1の両面に形成されているが、本発明は上記形態に限定されず、基材層1の片面に形成されている形態;基材層1の片面または両面の一部に形成される形態など、いずれの形態であってもよい。
【0111】
以下、医療用具を構成部材ごとに詳しく説明する。
【0112】
≪基材層(基材)≫
本実施形態で用いられる基材層としては、いずれの材料から構成されてもよく、その材料は特に制限されない。具体的には、基材層1を構成する材料は、金属材料、高分子材料、およびセラミックスなどが挙げられる。なお、上記基材層1を構成する材料の具体例は、上記≪ブロック共重合体溶液(コート液)の塗布≫に記載の通りである。
【0113】
ここで、基材層1は、基材層1全体が上記いずれかの材料で構成されてもよい。基材層1は、異なる材料を多層に積層してなる多層構造体、あるいは医療用具の部分ごとに異なる材料で形成された部材を繋ぎ合わせた構造などであってもよい。または、図2に示されるように、上記いずれかの材料で構成された基材層コア部1aの表面に他の上記いずれかの材料を適当な方法で被覆して、基材表面層1bを構成した構造を有していてもよい。後者の場合の例としては、樹脂材料等で形成された基材層コア部1aの表面に金属材料が適当な方法(メッキ、金属蒸着、スパッタ等従来公知の方法)で被覆されて、基材表面層1bを形成してなるもの;金属材料やセラミックス材料等の硬い補強材料で形成された基材層コア部1aの表面に、金属材料等の補強材料に比して柔軟な高分子材料が適当な方法(浸漬(ディッピング)、噴霧(スプレー)、塗布・印刷等の従来公知の方法)で被覆されて、あるいは基材層コア部1aを形成する補強材料と高分子材料とが複合化されて、基材表面層1bを形成してなるものなどが挙げられる。また、基材層コア部1aが、異なる材料を多層に積層してなる多層構造体、あるいは医療用具の部分ごとに異なる材料で形成された部材を繋ぎ合わせた構造などであってもよい。また、基材層コア部1aと基材表面層1bとの間に、さらに別のミドル層(図示せず)が形成されていてもよい。さらに、基材表面層1bに関しても異なる材料を多層に積層してなる多層構造体、あるいは医療用具の部分ごとに異なる材料で形成された部材を繋ぎ合わせた構造などであってもよい。
【0114】
≪潤滑層(表面潤滑層、被覆層)≫
潤滑層は、上記基材層1の少なくとも一部に担持される。ここで、潤滑層2が、基材層1表面の少なくとも一部に担持されているとしたのは、使用用途であるカテーテル、ガイドワイヤ、留置針等の医療用具において、必ずしもこれらの医療用具の全ての表面(表面全体)が湿潤時に潤滑性を有する必要はなく、湿潤時に表面が潤滑性を有することが求められる表面部分(一部の場合もあれば全部の場合もある)のみに潤滑層が担持されていればよいためである。このため、上述したように、潤滑層は、図1図2に示されるような基材層の両面全体を被覆するように形成される形態;基材層の片面全体のみを被覆するように形成される形態;基材層の両面の一部を同じまたは異なる形態で被覆するように形成される形態;基材層の片面の一部を被覆するように形成される形態などを包含する。
【0115】
<医療用具の用途>
本発明の方法により製造される医療用具は、体液や血液などと接触して用いるデバイスのことであり、体液や生理食塩水などの水系液体中において表面が潤滑性を有し、操作性の向上や組織粘膜の損傷の低減が可能なものである。具体的には、血管内で使用されるカテーテル、ガイドワイヤ、留置針等が挙げられるが、その他にも以下の医療用具が示される。
【0116】
(a)胃管カテーテル、栄養カテーテル、経管栄養用チューブなどの経口もしくは経鼻的に消化器官内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
【0117】
(b)酸素カテーテル、酸素カヌラ、気管内チューブのチューブやカフ、気管切開チューブのチューブやカフ、気管内吸引カテーテルなどの経口または経鼻的に気道ないし気管内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
【0118】
(c)尿道カテーテル、導尿カテーテル、尿道バルーンカテーテルのカテーテルやバルーンなどの尿道ないし尿管内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
【0119】
(d)吸引カテーテル、排液カテーテル、直腸カテーテルなどの各種体腔、臓器、組織
内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
【0120】
(e)留置針、IVHカテーテル、サーモダイリューションカテーテル、血管造影用カテーテル、血管拡張用カテーテルおよびダイレーターあるいはイントロデューサーなどの血管内に挿入ないし留置されるカテーテル類、あるいは、これらのカテーテル用のガイドワイヤ、スタイレットなど。
【0121】
(f)人工気管、人工気管支など。
【0122】
(g)体外循環治療用の医療用具(人工肺、人工心臓、人工腎臓など)やその回路類。
【実施例
【0123】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0124】
[合成例1:ブロック共重合体(1)の合成]
下記反応を行い、ブロック共重合体(1)を製造した。
【0125】
【化2】
【0126】
50℃のアジピン酸2塩化物72.3gにトリエチレングリコール29.7gを滴下した後、50℃で3時間塩酸を減圧除去して、オリゴエステルを得た。次に、得られたオリゴエステル22.5gにメチルエチルケトン4.5gを加え、これを、水酸化ナトリウム5g、31%過酸化水素6.93g、界面活性剤としてのジオクチルホスフェート0.44g及び水120gよりなる溶液中に滴下し、-5℃で20分間反応させた。得られた生成物は、水洗、メタノール洗浄を繰り返した後、乾燥させて、分子内に複数のパーオキサイド基を有するポリ過酸化物を(PPO)を得た。
【0127】
次に、このPPOを0.5g、グリシジルメタクリレート(GMA)を9.5g、さらにベンゼン30gを溶媒として、80℃で2時間、減圧下で撹拌しながら重合した。重合後に得られた反応物をジエチルエーテルで再沈殿して、分子内に複数のパーオキサイド基を有するポリグリシジルメタクリレート(PPO-GMA)を得た。
【0128】
続いて、得られたPPO-GMA1.0g(GMA 7mmol相当)を、ジメチルアクリルアミド(DMAA)9.0g、溶媒としてのジメチルスルホキシド90gに仕込み、80℃で18時間、反応させた。反応後に得られた反応物をヘキサンで再沈殿して回収し)、分子内にエポキシ基を有する湿潤時に潤滑性を発現するブロック共重合体(1)(構成単位(A):構成単位(B)=GMA:DMAA=1:14(モル比))を得た。このようにして得られたブロック共重合体(1)について、NMRおよびATR-IRにより分析したところ、分子内にエポキシ基が存在することを確認した。また、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)によって測定されたブロック共重合体(1)の重量平均分子量(Mw)は、約150万であった。
【0129】
[実施例1]
上記合成例1で得られたブロック共重合体(1)を6質量%の濃度になるようN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、これにテトラエチルアンモニウムブロミド(東京化成工業株式会社)を、ブロック共重合体(1)に対し0.5倍の量(質量比)を添加して溶解し、混合溶液を調製した。外径5Fr(1.65mm直径)のポリアミドエラストマー(ダイセル・エボニック社製ベスタミド(登録商標)E62-S1)製チューブを、上記混合溶液に浸漬し、室温(25℃)で1時間乾燥させ塗膜を形成した。さらに、チューブを80℃のオーブン中で5時間保管して塗膜を加熱処理した。室温まで冷却した後、室温の水に10分間浸漬することによりテトラエチルアンモニウムブロミドを塗膜から溶出させ除去した。チューブを室温で乾燥し、表面にブロック共重合体(1)由来の架橋共重合体を含む被覆層(潤滑層)(乾燥後の膜厚=2μm)を有する被覆チューブ(1)を作製した。
【0130】
この被覆チューブ(1)について、ATR-IRにより表面分析を行ったところ、エポキシ基のピークが小さくなり、エポキシ基の反応が確認された。また、テトラエチルアンモニウムブロミドのピークは確認されなかった。
【0131】
この被覆チューブ(1)を25℃の生理食塩水に浸漬して指で擦ったところ、未処理のチューブと比較して、滑りやすい低摩擦表面が形成されていることを確認した。
【0132】
なお、ATR-IRによる表面分析は以下の条件で行った(以下、同様)。
【0133】
≪ATR-IR 分析条件≫
装置:PerkinElmer製フーリエ変換赤外分光光度計Spectrum100
測定モード:ATR法
検出器:ZnSe
分解能:4cm-1
測定範囲:4000~650cm-1
積算回数:4回。
【0134】
[実施例2]
テトラエチルアンモニウムブロミドの代わりにテトラプロピルアンモニウムブロミド(東京化成工業株式会社)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で被覆チューブ(2)を作製した。
【0135】
この被覆チューブ(2)について、ATR-IRにより表面分析を行ったところ、エポキシ基のピークが小さくなり、エポキシ基の反応が確認された。また、テトラプロピルアンモニウムブロミドのピークは確認されなかった。
【0136】
この被覆チューブ(2)を25℃の生理食塩水に浸漬して指で擦ったところ、未処理のチューブと比較して、滑りやすい低摩擦表面が形成されていることを確認した。
【0137】
[実施例3]
テトラエチルアンモニウムブロミドの代わりにテトラブチルアンモニウムブロミド(東京化成工業株式会社)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で被覆チューブ(3)を作製した。
【0138】
この被覆チューブ(3)について、ATR-IRにより表面分析を行ったところ、エポキシ基のピークが小さくなり、エポキシ基の反応が確認された。また、テトラブチルアンモニウムブロミドのピークは確認されなかった。
【0139】
この被覆チューブ(3)を25℃の生理食塩水に浸漬して指で擦ったところ、未処理のチューブと比較して、滑りやすい低摩擦表面が形成されていることを確認した。
【0140】
[実施例4]
テトラエチルアンモニウムブロミドの代わりにテトラペンチルアンモニウムブロミド(東京化成工業株式会社)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で被覆チューブ(4)を作製した。
【0141】
この被覆チューブ(4)について、ATR-IRにより表面分析を行ったところ、エポキシ基のピークが小さくなり、エポキシ基の反応が確認された。また、テトラペンチルアンモニウムブロミドのピークは確認されなかった。
【0142】
この被覆チューブ(4)を25℃の生理食塩水に浸漬して指で擦ったところ、未処理のチューブと比較して、滑りやすい低摩擦表面となっていることを確認した。
【0143】
[実施例5]
テトラエチルアンモニウムブロミドの代わりにテトラヘキシルアンモニウムブロミド(東京化成工業株式会社)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で被覆チューブ(5)を作製した。
【0144】
この被覆チューブ(5)について、ATR-IRにより表面分析を行ったところ、エポキシ基のピークが小さくなり、エポキシ基の反応が確認された。また、テトラヘキシルアンモニウムブロミドのピークは確認されなかった。
【0145】
この被覆チューブ(5)を25℃の生理食塩水に浸漬して指で擦ったところ、未処理のチューブと比較して、滑りやすい低摩擦表面となっていることを確認した。
【0146】
[実施例6]
テトラエチルアンモニウムブロミドの代わりにテトラブチルアンモニウムフルオリド(アルドリッチ、テトラヒドロフラン溶液)、また、ポリアミドエラストマーの代わりにポリエチレン(日本ポリエチレン社製ノバテック(登録商標)HB530)製チューブを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で被覆チューブ(6)を作製した。
【0147】
この被覆チューブ(6)について、ATR-IRにより表面分析を行ったところ、エポキシ基のピークが小さくなり、エポキシ基の反応が確認された。また、テトラブチルアンモニウムフルオリドのピークは確認されなかった。
【0148】
この被覆チューブ(6)を25℃の生理食塩水に浸漬して指で擦ったところ、未処理のチューブと比較して、滑りやすい低摩擦表面となっていることを確認した。
【0149】
[実施例7]
テトラブチルアンモニウムフルオリドの代わりにテトラブチルアンモニウムクロリド(東京化成工業株式会社)を用いたこと以外は、実施例6と同様の方法で被覆チューブ(7)を作製した。
【0150】
この被覆チューブ(7)について、ATR-IRにより表面分析を行ったところ、エポキシ基のピークが小さくなり、エポキシ基の反応が確認された。また、テトラブチルアンモニウムクロリドのピークは確認されなかった。
【0151】
この被覆チューブ(7)を25℃の生理食塩水に浸漬して指で擦ったところ、未処理のチューブと比較して、滑りやすい低摩擦表面となっていることを確認した。
【0152】
[実施例8]
テトラブチルアンモニウムフルオリドの代わりにテトラブチルアンモニウムブロミド(東京化成工業株式会社)を用いたこと以外は、実施例6と同様の方法で被覆チューブ(8)を作製した。
【0153】
この被覆チューブ(8)について、ATR-IRにより表面分析を行ったところ、エポキシ基のピークが小さくなり、エポキシ基の反応が確認された。また、テトラブチルアンモニウムブロミドのピークは確認されなかった。
【0154】
この被覆チューブ(8)を25℃の生理食塩水に浸漬して指で擦ったところ、未処理のチューブと比較して、滑りやすい低摩擦表面となっていることを確認した。
【0155】
また、LC-MS測定により、この被覆チューブ(8)に残留するテトラブチルアンモニウムブロミドの定量を行った。その結果、被覆チューブ(8)に残留していたテトラブチルアンモニウムブロミドは、単位面積当たり5μg/cmと少量であった。なお、LC-MS測定の条件は、上記「(II)洗浄工程」の項に記載の通りである。
【0156】
[実施例9]
テトラブチルアンモニウムフルオリドの代わりにテトラブチルアンモニウムヨージド(東京化成工業株式会社)を用いたこと以外は、実施例6と同様の方法で被覆チューブ(9)を作製した。
【0157】
この被覆チューブ(9)について、ATR-IRにより表面分析を行ったところ、エポキシ基のピークが小さくなり、エポキシ基の反応が確認された。また、テトラブチルアンモニウムヨージドのピークは確認されなかった。
【0158】
この被覆チューブ(9)を25℃の生理食塩水に浸漬して指で擦ったところ、未処理のチューブと比較して、滑りやすい低摩擦表面となっていることを確認した。
【0159】
[実施例10]
テトラブチルアンモニウムフルオリドの代わりにテトラブチルアンモニウム硫酸水素塩(東京化成工業株式会社)を用いたこと以外は、実施例6と同様の方法で被覆チューブ(10)を作製した。
【0160】
この被覆チューブ(10)について、ATR-IRにより表面分析を行ったところ、エポキシ基のピークが小さくなり、エポキシ基の反応が確認された。また、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩のピークは確認されなかった。
【0161】
この被覆チューブ(10)を25℃の生理食塩水に浸漬して指で擦ったところ、未処理のチューブと比較して、滑りやすい低摩擦表面となっていることを確認した。
【0162】
[実施例11]
テトラブチルアンモニウムフルオリドの代わりに過塩素酸テトラブチルアンモニウム(東京化成工業株式会社)を用いたこと以外は、実施例6と同様の方法で被覆チューブ(11)を作製した。
【0163】
この被覆チューブ(11)について、ATR-IRにより表面分析を行ったところ、エポキシ基のピークが小さくなり、エポキシ基の反応が確認された。また、過塩素酸テトラブチルアンモニウムのピークは確認されなかった。
【0164】
この被覆チューブ(11)を25℃の生理食塩水に浸漬して指で擦ったところ、未処理のチューブと比較して、滑りやすい低摩擦表面となっていることを確認した。
【0165】
[実施例12]
テトラブチルアンモニウムフルオリドの代わりにテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(10%イソプロピルアルコール溶液、東京化成工業株式会社)を用い、その添加量をブロック共重合体(1)に対し0.05倍の量(質量比)に変更したこと以外は、実施例6と同様の方法で被覆チューブ(12)を作製した。
【0166】
この被覆チューブ(12)について、ATR-IRにより表面分析を行ったところ、エポキシ基のピークが小さくなり、エポキシ基の反応が確認された。また、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドのピークは確認されなかった。
【0167】
この被覆チューブ(12)を25℃の生理食塩水に浸漬して指で擦ったところ、未処理のチューブと比較して、滑りやすい低摩擦表面となっていることを確認した。
【0168】
[実施例13]
上記合成例1で得られたブロック共重合体(1)を6質量%の濃度になるようアセトンに溶解し、これにテトラブチルアンモニウムブロミド(東京化成工業株式会社)を、ブロック共重合体(1)に対し1.5倍の量(質量比)を添加して溶解し、混合溶液を調製した。外径5Fr(1.65mm直径)のポリアミドエラストマー(ダイセル・エボニック社製ベスタミド(登録商標)E62-S1)製チューブを、上記混合溶液に浸漬し、室温(25℃)で1時間乾燥させ塗膜を形成した。さらに、チューブを室温(25℃)で24時間保管した後、室温の水に10分間浸漬することによりテトラブチルアンモニウムブロミドを塗膜から溶出させ除去した。チューブを室温で乾燥し、表面にブロック共重合体(1)由来の架橋共重合体を含む被覆層(潤滑層)を有する被覆チューブ(13)を作製した。
【0169】
この被覆チューブ(13)について、ATR-IRにより表面分析を行ったところ、エポキシ基のピークが小さくなり、エポキシ基の反応が確認された。また、テトラブチルアンモニウムブロミドのピークは確認されなかった。
【0170】
この被覆チューブ(13)を25℃の生理食塩水に浸漬して指で擦ったところ、未処理のチューブと比較して、滑りやすい低摩擦表面となっていることを確認した。
【0171】
[実施例14]
ブロック共重合体(1)等を含む混合溶液を塗布し、乾燥させた後、チューブを50℃のオーブン中で3時間保管して塗膜を加熱処理したこと以外は、実施例13と同様の方法で被覆チューブ(14)を作製した。
【0172】
この被覆チューブについて、ATR-IRにより表面分析を行ったところ、エポキシ基のピークが小さくなり、エポキシ基の反応が確認された。また、テトラブチルアンモニウムブロミドのピークは確認されなかった。
【0173】
この被覆チューブ(14)を25℃の生理食塩水に浸漬して指で擦ったところ、未処理のチューブと比較して、滑りやすい低摩擦表面となっていることを確認した。
【0174】
[実施例15]
実施例3と同様にしてブロック共重合体(1)等を含む混合溶液を調製し、当該混合溶液を塗布する対象を、外径5Fr(1.65mm直径)のSUS314製ワイヤーに変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で被覆ワイヤー(1)を作製した。
【0175】
この被覆ワイヤー(1)について、ATR-IRにより表面分析を行ったところ、エポキシ基のピークが小さくなり、エポキシ基の反応が確認された。また、テトラブチルアンモニウムブロミドのピークは確認されなかった。
【0176】
この被覆ワイヤー(1)を25℃の生理食塩水に浸漬して指で擦ったところ、未処理のワイヤーと比較して、滑りやすい低摩擦表面となっていることを確認した。
【0177】
[実施例16]
ブロック共重合体(1)等を含む混合溶液を塗布し、乾燥させた後、ワイヤーを130℃のオーブン中で1時間保管して塗膜を加熱処理したこと以外は、実施例15と同様の方法で被覆ワイヤー(2)を作製した。
【0178】
この被覆ワイヤー(2)について、ATR-IRにより表面分析を行ったところ、エポキシ基のピークが小さくなり、エポキシ基の反応が確認された。また、テトラブチルアンモニウムブロミドのピークは確認されなかった。
【0179】
この被覆ワイヤー(2)を25℃の生理食塩水に浸漬して指で擦ったところ、未処理のワイヤーと比較して、滑りやすい低摩擦表面となっていることを確認した。
【0180】
[比較例1]
上記合成例1で得られたブロック共重合体(1)を6質量%の濃度になるようN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、これにテトラメチルアンモニウムブロミド(東京化成工業株式会社)を、ブロック共重合体(1)に対し0.5倍の量(質量比)を添加した。しかしながら、テトラメチルアンモニウムブロミドが溶解せず、混合溶液を調製できなかった。
【0181】
[比較例2]
テトラエチルアンモニウムブロミドの代わりにテトラオクチルアンモニウムブロミド(和光純薬工業株式会社)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で比較被覆チューブ(1)を作製した。
【0182】
この比較被覆チューブ(1)について、ATR-IRにより表面分析を行ったところ、エポキシ基のピークが小さくなり、エポキシ基の反応が確認された。また、テトラオクチルアンモニウムブロミドのピークが観察され、当該アンモニウム塩が除去できていないことが確認された。
【0183】
この比較被覆チューブ(1)を25℃の生理食塩水に浸漬して指で擦ったところ、未処理のチューブと比較して、滑りやすい低摩擦表面となっていなかった。
【0184】
[比較例3]
上記合成例1で得られたブロック共重合体(1)を含む混合溶液の調製時、アルキルアンモニウム塩を添加しなかったこと以外は、実施例6と同様の方法で比較被覆チューブ(2)を作製した。
【0185】
この比較被覆チューブ(2)を25℃の生理食塩水に浸漬して指で擦ったところ、未処理のチューブと比較して、滑りやすい低摩擦表面となっていることを確認した。
【0186】
[比較例4]
上記合成例1で得られたブロック共重合体(1)を含む混合溶液の調製時、アルキルアンモニウム塩を添加しなかったこと以外は、実施例16と同様の方法で比較被覆ワイヤー(1)を作製した。
【0187】
[比較例5]
テトラブチルアンモニウムフルオリドの代わりにピリジン(東京化成工業株式会社)を用いて調製した混合溶液を塗布し、乾燥させた後、チューブを80℃のオーブン中で18時間保管して塗膜を加熱処理したこと以外は、実施例6と同様の方法で比較被覆チューブ(3)を作製した。
【0188】
この比較被覆チューブ(3)を25℃の生理食塩水に浸漬して指で擦ったところ、未処理のチューブと比較して、滑りやすい低摩擦表面となっていることを確認した。
【0189】
[摺動耐久性の評価]
上記実施例1~実施例16、および比較例2~5で得られた被覆チューブ、ワイヤーならびに比較被覆チューブ、ワイヤー(以下、単に「サンプル」とも称する)について、下記方法にしたがって、摺動耐久性(潤滑層の耐久性)を評価した。
【0190】
(評価方法)
各サンプルを蒸留水に浸漬し、手でサンプルを挟み長軸方向に擦る手法により、摺動性を官能評価した。潤滑性(つるつる感)が損なわれるまでに擦った回数を測定することで、摺動耐久性を評価した。上記回数が多いほど、摺動耐久性が優れていると判断される。
【0191】
結果を以下の表1に示す。なお、表中の「摺動耐久性」の項目について、「-」は、摺動耐久性が評価できなかったことを示す。また、例えば「>20」の記載は、少なくとも20回サンプルを擦っても摺動性が損なわれなかったことを示す。
【0192】
【表1】
【0193】
上記表1より、特定のアンモニウム塩を含む混合溶液を用いることにより、摺動耐久性に優れる潤滑層を有する医療用具が得られることが示された。特に、実施例1~5の対比より、炭素数が16~20であるアンモニウム塩を用いると、特に摺動性が向上することが明らかになった。また、実施例6~12の対比より、アンモニウム塩のアニオンが、ハロゲン化物イオンであると摺動耐久性が向上しやすいと言える。なかでも、アンモニウム塩のアニオンが、塩化物イオン、臭化物イオンであるとき(実施例7、8)、特に摺動耐久性が向上した。次いで、アンモニウム塩のアニオンが、ヨウ化物イオンであるときも、摺動耐久性の向上効果が良好であった(実施例9)。
【0194】
さらに、本願の構成によれば、実施例13、14のように、処理温度が低温であっても良好な摺動耐久性が得られた。これは、特定のアンモニウム塩の添加により、共重合体中のグリシジル基の反応が十分に進行したことによるものと考えられる。
【0195】
本出願は、2017年9月20日に出願された日本特許出願番号2017-180692号および2018年6月12日に出願された日本特許出願番号2018-111807号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。
【符号の説明】
【0196】
10 医療用具
1 基材層
1a 基材層コア部
1b 基材表面層
2 潤滑層
図1
図2