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特許7140772表面処理剤、表面処理皮膜を有する缶用アルミニウム合金材の製造方法、並びにそれを用いたアルミニウム合金缶体及び缶蓋
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】表面処理剤、表面処理皮膜を有する缶用アルミニウム合金材の製造方法、並びにそれを用いたアルミニウム合金缶体及び缶蓋
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/34 20060101AFI20220913BHJP
   B32B 1/02 20060101ALI20220913BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20220913BHJP
   C23C 22/83 20060101ALI20220913BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
C23C22/34
B32B1/02
B32B15/01 Z
C23C22/83
C23C28/00 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019548240
(86)(22)【出願日】2018-10-11
(86)【国際出願番号】 JP2018037951
(87)【国際公開番号】W WO2019074068
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2017198237
(32)【優先日】2017-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 秋雄
(72)【発明者】
【氏名】常石 明伸
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 正一
(72)【発明者】
【氏名】菊地 亮平
(72)【発明者】
【氏名】黒川 亙
(72)【発明者】
【氏名】船城 裕二
(72)【発明者】
【氏名】小原 功義
(72)【発明者】
【氏名】中野 修治
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-090407(JP,A)
【文献】特開2005-097712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/02,15/01
C23C 22/34,22/83,28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶用アルミニウム合金材の表面処理に用いる表面処理剤であって、
ジルコニウムと、アルミニウムと、硝酸根と、フッ素と、を含み、pHが2.0~4.0の範囲内であり、
前記ジルコニウムの質量モル濃度が3.2mmol/kg~33.0mmol/kgの範囲内であり、
前記アルミニウムの質量モル濃度が14.8mmol/kg~74.1mmol/kgの範囲内であり、
前記硝酸根の質量モル濃度が16.1mmol/kg~161.4mmol/kgの範囲内であり、
前記フッ素の質量モル濃度が52.6mmol/kg~526.3mmol/kgの範
囲内であり、
(F-6Zr)/Al≧2.5を満たし(但し、Fは前記フッ素の質量モル濃度、Zrは前記ジルコニウムの質量モル濃度、Alは前記アルミニウムの質量モル濃度を示す。)、かつ、リン化合物の質量モル濃度が、0.1mmol/kg以下である、表面処理剤。
【請求項2】
表面処理皮膜を有する缶用アルミニウム合金材の製造方法であって、
缶用アルミニウム合金材の表面又は表面上に、請求項1に記載の表面処理剤を接触させる工程を含む製造方法。
【請求項3】
表面処理皮膜と下地皮膜とを含む複層皮膜を有する缶用アルミニウム合金材の製造方法であって、
缶用アルミニウム合金材の表面又は表面上に、請求項1に記載の表面処理剤を接触させる工程と、
前記表面処理剤を接触させた缶用アルミニウム合金材の表面上に、下記式(I):
【化1】
[式(I)中、Xは、水素原子または下記式(II):
【化2】
(式(II)中、R及びRは、別個独立に炭素数10以下のアルキル基又は、炭素数10以下のヒドロキシルアルキル基である。)で表されるZ基であり、前記Z基の導入率はベンゼン環1個当たり0.3~1.0である。]で表される繰り返し構造を有する重合体を含む下地処理剤を接触させる工程と、を含み、
前記式(I)中のXが全て水素原子である場合の重合体の重量平均分子量が、1,000~100,000の範囲内である、製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の製造方法により得られる、表面処理皮膜を有する缶用アルミニウム合金材であって、前記表面処理皮膜の付着量が、単位面積当たりのジルコニウム原子の換算質量で1~50mg/mの範囲内である、表面処理皮膜を有する缶用アルミニウム合金材。
【請求項5】
請求項3に記載の製造方法により得られる、表面処理皮膜と下地皮膜とを含む複層皮膜を有する缶用アルミニウム合金材であって、前記表面処理皮膜の付着量が、単位面積当たりのジルコニウム原子の換算質量で1~50mg/mの範囲内であり、
前記下地皮膜の付着量が、単位面積当たりのカーボンの換算質量で0.1~30mg/mの範囲内である、複層皮膜を有する缶用アルミニウム合金材。
【請求項6】
請求項4または5に記載の缶用アルミニウム合金材の少なくとも一方の表面上に、樹脂組成物層を有する、缶蓋。
【請求項7】
請求項4または5に記載の缶用アルミニウム合金材の少なくとも一方の表面上に、樹脂組成物層を有する、缶体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶用アルミニウム合金材の表面処理に用いる表面処理剤、表面処理皮膜を有する缶用アルミニウム合金材の製造方法、並びにそれを用いたアルミニウム合金缶体及びアルミニウム合金缶蓋に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金材用の表面処理剤は、リン酸クロメート系表面処理剤が広く使用されてきた。しかしながら、有害な6価クロムを含有しているので、環境上の問題から6価クロムを含有せず、リン酸クロメート系表面処理と同等の高い耐食性、密着性を付与することができるクロムフリーの表面処理剤が求められている。
【0003】
特許文献1には、Zr、O、Fを主成分とすると共に、リン酸イオンを含有しない無機表面処理層を有する表面処理金属材料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-97712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は缶用アルミニウム合金材の表面又は表面上に、優れた耐食性及び密着性を有する表面処理皮膜を形成可能な表面処理剤を提供することを課題とする。また、それを用いて表面処理を行うことで得られた表面処理皮膜を有する缶用アルミニウム合金材、並びに該合金材から成る缶体及び缶蓋を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の表面処理剤は、ジルコニウムと、アルミニウムと、硝酸根と、フッ素と、を特定量含み、かつ、アルミニウム量とフッ素量が特定の関係式を満たすことで、優れた耐食性及び密着性を有する表面処理皮膜を形成し得る。本発明は、以下のものを含む。
【0007】
[1]缶用アルミニウム合金材の表面処理に用いる表面処理剤であって、
ジルコニウムと、アルミニウムと、硝酸根と、フッ素と、を含み、pHが2.0~4.0の範囲内であり、
前記ジルコニウムの質量モル濃度が3.2mmol/kg~33.0mmol/kgの範囲内であり、または3.2mmol/kg~11.0mmol/kgの範囲内であってよく、
前記アルミニウムの質量モル濃度が14.8mmol/kg~74.1mmol/kgの範囲内であり、
前記硝酸根の質量モル濃度が16.1mmol/kg~161.4mmol/kgの範囲内であり、または16.1mmol/kg~80.7mmol/kgの範囲内であってよく、
前記フッ素の質量モル濃度が52.6mmol/kg~526.3mmol/kgの範囲内であり、
(F-6Zr)/Al≧2.5を満たし(但し、Fは前記フッ素の質量モル濃度、Zrは前記ジルコニウムの質量モル濃度、Alは前記アルミニウムの質量モル濃度を示す。)、かつ、実質的にリン化合物を含有しない、表面処理剤。
[2]表面処理皮膜を有する缶用アルミニウム合金材の製造方法であって、
缶用アルミニウム合金材の表面又は表面上に、[1]に記載の表面処理剤を接触させる工程を含む製造方法。
[3]表面処理皮膜と下地皮膜とを含む複層皮膜を有する缶用アルミニウム合金材の製造方法であって、
缶用アルミニウム合金材の表面又は表面上に、[1]に記載の表面処理剤を接触させる工程と、
前記表面処理剤を接触させた缶用アルミニウム合金材の表面上に、下記式(I):
【化1】
[式(I)中、Xは、水素原子または下記式(II):
【化2】
(式(II)中、R及びRは、別個独立に炭素数10以下のアルキル基又は、炭素数10以下のヒドロキシルアルキル基である。)で表されるZ基であり、前記Z基の導入率はベンゼン環1個当たり0.3~1.0である。]で表される繰り返し構造を有する重合体を含む下地処理剤を接触させる工程と、を含み、
前記式(I)中のXが全て水素原子である場合の重合体の重量平均分子量が、1,000~100,000の範囲内である、製造方法。
[4][2]に記載の製造方法により得られる、表面処理皮膜を有する缶用アルミニウム合金材であって、前記表面処理皮膜の付着量が、単位面積当たりのジルコニウム原子の換算質量で1~50mg/mの範囲内である、表面処理皮膜を有する缶用アルミニウム合金材。
[5][3]に記載の製造方法により得られる、表面処理皮膜と下地皮膜とを含む複層皮膜を有する缶用アルミニウム合金材であって、前記表面処理皮膜の付着量が、単位面積当たりのジルコニウム原子の換算質量で1~50mg/mの範囲内であり、
前記下地皮膜の付着量が、単位面積当たりのカーボンの換算質量で0.1~30mg/mの範囲内である、複層皮膜を有する缶用アルミニウム合金材。
[6][4]または[5]に記載の缶用アルミニウム合金材の少なくとも一方の表面上に、樹脂組成物層を有する、缶蓋。
[7][4]または[5]に記載の缶用アルミニウム合金材の少なくとも一方の表面上に、樹脂組成物層を有する、缶体。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、缶用アルミニウム合金材の表面又は表面上に、優れた耐食性及び密着性を有する表面処理皮膜を形成可能な表面処理剤を提供することができる。また、当該表面処理皮膜を有する缶用アルミニウム合金材、並びに当該合金材から成る缶体及び缶蓋を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施例として、ラミネートフィルム密着性試験2において試験片に入れた切り込みの模式図を示す。
図2】本発明の一実施例として、ラミネートフィルム密着性試験2にて評価した最大フィルム残り幅の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態は缶用アルミニウム合金材に用いる表面処理剤である。
本実施形態に係る表面処理剤は、ジルコニウム(元素)と、アルミニウム(元素)と、硝酸根(NO )と、フッ素(元素)と、を含み、pHが2.0~4.0の範囲内である。ジルコニウム(元素)、アルミニウム(元素)、フッ素(元素)等は、表面処理剤中にてどのような形態で含まれていてもよく、例えば、イオンの形態、錯イオンの形態であってもよい。以下、ジルコニウム(元素)、アルミニウム(元素)及びフッ素(元素)を、それぞれ「ジルコニウム」、「アルミニウム」及び「フッ素」と称する。
【0011】
ジルコニウムの供給源としては、表面処理剤中でジルコニウムイオン、ジルコニウムを含む錯イオン等を供給できるものであれば特段限定されないが、例えば、ジルコニウムの酸化物;ジルコニウムの水酸化物;ジルコニウムの硝酸塩;ヘキサフルオロジルコニウム酸、そのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩等の、ジルコニウムのフッ化物;等を使用することができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
表面処理剤中のジルコニウムの質量モル濃度が3.2mmol/kg~33.0mmol/kgの範囲内であることで、良好な皮膜が形成され得るが、3.2mmol/kg~11.0mmol/kgの範囲内であってもよい。
【0012】
フッ素の供給源としては、表面処理剤中でフッ素イオン、フッ素を含む錯イオン等を供給できるものであれば特段限定されないが、例えば、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウム、ヘキサフルオロジルコニウム酸、ヘキサフルオロケイ酸、テトラフルオロホウ酸等の酸;並びにこれらの酸の塩;等を使用することができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
表面処理剤中のフッ素の質量モル濃度が52.6mmol/kg~526.3mmol/kgの範囲内であることで、良好な皮膜が形成され得る。
【0013】
アルミニウムの供給源としては、表面処理剤中でアルミニウムイオン、アルミニウムを含む錯イオン等を供給できるものであれば特段限定されないが、例えば、金属アルミニウム、アルミニウムの酸化物、アルミニウムの水酸化物、アルミニウムの硝酸塩、アルミニウムの硫酸塩、アルミン酸ナトリウム等のアルミン酸塩;ヘキサフルオロアルミン酸等のアルミニウムのフッ化物;等を使用することができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
表面処理剤中のアルミニウムの質量モル濃度が14.8mmol/kg~74.1mmol/kgの範囲内であることで、良好な皮膜が形成され得る。
【0014】
本実施形態においては、表面処理剤中におけるジルコニウム量、アルミニウム量、及びフッ素量が関係式:(F-6Zr)/Al≧2.5を満たすことを要する。但し、Fはフッ素の質量モル濃度、Zrはジルコニウムの質量モル濃度、Alはアルミニウムの質量モル濃度を示す。この関係式を満たすことで良好な皮膜が形成され得る。なお、上記関係式の上限値は特段限定されないが、4.0以下であることが好ましい。
【0015】
表面処理剤中に含まれる硝酸根の供給源としては、表面処理剤中で硝酸根を供給できるものであれば特段限定されないが、例えば、硝酸;硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウム等の硝酸塩;等を使用することができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
表面処理剤中の硝酸根の質量モル濃度が16.1mmol/kg~161.4mmol/kgの範囲内であることで、良好な皮膜が形成され得るが、16.1mmol/kg~80.7mmol/kgの範囲内であってもよい。
【0016】
本実施形態の表面処理剤は、さらにBi(元素)、Co(元素)、Fe(元素)、Ni(元素)、Mg(元素)等を含んでいてもよい。これらは、表面処理剤中にてどのような形態で含まれていてもよく、例えば、イオンの形態、錯イオンの形態であってもよい。これらのイオン又は錯イオンの供給源としては特段限定されないが、例えば、Bi、Co、Fe、Ni又はMgの、硝酸塩、硫酸塩、酸化物、水酸化物、及びフッ化物等の金属化合物を使用することができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記金属化合物を配合した表面処理剤を用いて缶用アルミニウム合金材の表面又は表面上に表面処理皮膜を形成することで、表面処理皮膜の上に形成させる樹脂組成物層と缶用アルミニウム合金材の密着性を向上させることができる。
前記金属化合物を配合する場合、表面処理剤における前記金属化合物の含有量は、配合する金属原子の換算質量モル濃度で通常0.1mmol/kg以上である。また、62.0mmol/kg以下であることが好ましく、41.0mmol/kg以下であることがより好ましい。前記金属化合物の含有量が上記範囲内である表面処理剤を用いて缶用アルミニウム合金材の表面又は表面上に表面処理皮膜を形成することで、表面処理皮膜の上に形成させる樹脂組成物層と缶用アルミニウム合金材の密着性をより向上させることができる。
【0017】
本実施形態の表面処理剤は、実質的にリン化合物を含有しない。本明細書におけるリン化合物とは、一分子中に1個以上のリン元素を含む化合物である。実質的にリン化合物を含有しないとは、表面処理剤中のリン化合物の質量モル濃度が、0.1mmol/kg以下であり、0.05mmol/kg以下であってよく、0.01mmol/kg以下であってよく、リン化合物を全く含有しないことが好ましい。
【0018】
また、本実施形態の表面処理剤は、実質的にSn(元素)を含有しないことが好ましい。Sn(元素)を実質的に含有しない表面処理剤を用いて缶用アルミニウム合金材の表面又は表面上に表面処理皮膜を形成することで、形成された表面処理皮膜の耐食性の低下を抑制できる。実質的にSn(元素)を含有しないとは、表面処理剤中のSn(元素)の質量モル濃度が、0.1mmol/kg以下であり、0.05mmol/kg以下であってよく、0.01mmol/kg以下であってよく、Sn(元素)を全く含有しないことが好ましい。
【0019】
また、本実施形態の表面処理剤はZn(元素)を含んでもよい。Zn(元素)は、表面処理剤中にてどのような形態で含まれていてもよく、例えば、イオンの形態、錯イオンの形態であってもよい。これらのイオン又は錯イオンの供給源としては特段限定されないが、例えば、Znの、硝酸塩、硫酸塩、酸化物、水酸化物、及びフッ化物等を使用することができる。Zn(元素)を含む場合には表面処理剤中のZn(元素)の質量モル濃度は1.5mmol/kg以下であることが好ましく、0.8mmol/kg以下であることがより好ましい。Zn(元素)の質量モル濃度が上記範囲内である表面処理剤を用いて缶用アルミニウム合金材の表面又は表面上に表面処理皮膜を形成することで、形成された表面処理皮膜の耐食性を向上させることができる。なお、表面処理剤はZn(元素)を全く含有していなくてもよい。
【0020】
本実施形態の表面処理剤は、上記説明した成分以外の成分を含有してもよいが、有機物を実質的に含有しないことが好ましい。有機物を実質的に含有しない表面処理剤を用いて缶用アルミニウム合金材の表面又は表面上に表面処理皮膜を形成することで、形成された表面処理皮膜の酸性水溶液に対する溶解耐性の低下を抑制できる。なお、有機物を実質的に含有しないとは、表面処理剤中の有機物の質量モル濃度(有機物が複数存在する場合には合計の質量モル濃度を意味する。)が、0.1mmol/kg以下であり、0.05mmol/kg以下であってよく、0.01mmol/kg以下であってよく、有機物を全く含有しないことが好ましい。
【0021】
本実施形態の表面処理剤のpHは、後述するように、缶用アルミニウム合金材の表面又は表面上に接触させる際の温度における値を意味し、通常2.0~4.0の範囲内である。pHが上記範囲内である表面処理剤を用いて缶用アルミニウム合金材の表面又は表面上に表面処理皮膜を形成することで、形成された表面処理皮膜の皮膜性能を向上させることができる。表面処理剤のpHは、硝酸、硫酸、フッ化水素酸等の酸成分;水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化アンモニウム等のアルカリ成分;等を使用することにより調整することができる。
【0022】
本実施形態の表面処理剤は、例えば、ジルコニウムの供給源と、フッ素の供給源と、アルミニウムの供給源と、硝酸根の供給源と、水とを混合することにより製造可能である。ジルコニウムの供給源とフッ素の供給源、又は、ジルコニウムの供給源と硝酸根の供給源は、同一の化合物であってもよく、異なる化合物であってもよい。また、アルミニウムの供給源とフッ素の供給源、又は、アルミニウムの供給源と硝酸根の供給源は、同一の化合物であってもよく、異なる化合物であってもよい。
【0023】
本発明の別の実施形態では、缶用アルミニウム合金材の表面又は表面上に表面処理剤を接触させることで表面処理皮膜を形成し、次いで、前記表面処理剤を接触させた缶用アルミニウム合金材の表面上に下地処理剤を接触させることで下地皮膜を形成する。このように、表面処理皮膜上に下地皮膜を形成することで、下地皮膜上に設ける樹脂組成物層と缶用アルミニウム合金材との密着性を向上させることができる。
【0024】
下地処理剤は、下記式(I)で表される繰り返し構造を有する重合体を含む。
【化3】
式(I)中、Xは、水素原子または下記式(II)
【化4】
(式(II)中、R及びRは、別個独立に炭素数10以下のアルキル基又は、炭素数10以下のヒドロキシルアルキル基である。)で表されるZ基を表し、Z基の導入率はベンゼン環1個当たり0.3~1.0である。Z基の導入率は、例えば、CHNS-O元素分析により重合体を完全燃焼させ、生成したガス(CO、HO、N、SO)を測定することにより各元素の定量を行い、定量結果より算出することができる。
重合体の重量平均分子量は、Xを全て水素原子としたとき1,000~100,000の範囲内である。重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定した、ポリスチレン換算の分子量として求めることができる。
【0025】
下地処理剤は、前記重合体と水とを含むものであってもよいが、酸成分等の他の成分をさらに含有するものであってもよい。その製造方法は特段限定されないが、例えば、重合体と、水と、必要に応じ酸系化合物と、を混合することにより、調製できる。上記酸系化合物としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、硝酸、硫酸等の無機酸;フッ化水素酸、ヘキサフルオロジルコニウム酸、ヘキサフルオロチタン酸、テトラフルオロホウ酸、酸性フッ化アンモニウム等のフッ化物;ギ酸、酢酸、シュウ酸、乳酸、クエン酸、酢酸ジルコニウム、酢酸チタン、酢酸アルミニウム等の、有機酸又はその塩;等を使用することができるが、これらに限定されない。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
下地処理剤中の重合体の濃度は特段限定されないが、通常0.01g/L以上であり、0.05g/L以上であることが好ましい。また、通常30g/L以下であり、10g/L以下であることが好ましい。重合体の濃度が上記範囲内である下地処理剤を用いて表面処理皮膜上に下地皮膜を形成することで、下地皮膜上に設ける樹脂組成物層と缶用アルミニウム合金材との密着性を向上させることができる。
下地処理剤中に酸系化合物を含有する場合、酸系化合物の濃度は特段限定されないが、通常0.01g/L以上であり、0.05g/L以上であることが好ましい。また、通常30g/L以下であり、5g/L以下であることが好ましい。酸系化合物の濃度が上記範囲内である下地処理剤を用いて表面処理皮膜上に下地皮膜を形成することで、下地皮膜上に設ける樹脂組成物層と缶用アルミニウム合金材との密着性を向上させることができる。下地処理剤のpHは特に制限されないが、後述するように、表面処理皮膜を有する缶用アルミニウム合金材の表面上に接触させる際の温度における値が3.0~6.0の範囲内であることが好ましい。
【0026】
次に、缶用アルミニウム合金材の製造方法について説明する。
本発明の別の実施形態は、表面処理皮膜を有する缶用アルミニウム合金材の製造方法である。また、表面処理皮膜と下地皮膜とを含む複層皮膜を有する缶用アルミニウム合金材の製造方法である。また、これらの方法で得られた缶用アルミニウム合金材である。
なお、複層皮膜は表面処理皮膜と下地皮膜とを含むが、これ以外の皮膜を含んでいてもよい。
【0027】
(缶用アルミニウム合金材)
本実施形態で用いる缶用アルミニウム合金材の素材は、アルミニウム缶用に用いられる材料であれば特段限定されないが、アルミニウム-マンガン合金材(A3000系)、アルミニウム-マグネシウム合金材(A5000系)等が好ましく例示される。
【0028】
缶用アルミニウム合金材は、表面処理皮膜を形成するに先立ち、缶用アルミニウム合金材の表面を清浄にすることが好ましい。表面を清浄化する方法としては特段限定されないが、例えば、脱脂方法を挙げることができる。脱脂方法に用いる脱脂剤としては特に制限されないが、一般的に使用される有機溶剤、アルカリ性脱脂剤または酸性脱脂剤等が挙げられる。
【0029】
(表面処理皮膜を有する缶用アルミニウム合金材の製造方法)
表面処理皮膜を有する缶用アルミニウム合金材の製造方法は、缶用アルミニウム合金材の表面又は表面上に上記説明した表面処理剤を接触させる工程、を含む。当該製造方法は、表面処理剤を接触させた後、接触した表面処理剤を乾燥させる工程を含んでもよい。
【0030】
前記表面処理剤と缶用アルミニウム合金材との接触方法は特段限定されないが、例えば、浸漬方法、スプレー処理方法、流しかけ方法等が挙げられる。接触時間は適宜設定されるが、通常1~20秒間であり、缶用アルミニウム合金材に表面処理剤をスプレーする場合には、2~10秒間の範囲内が好ましい。表面処理剤と缶用アルミニウム合金材との接触温度は特段限定されないが、通常40~70℃の範囲内において行われる。
【0031】
(表面処理皮膜)
缶用アルミニウム合金材の表面又は表面上に形成される表面処理皮膜の付着量は、単位面積当たりのジルコニウム原子の換算質量で通常1mg/m以上であり、好ましくは2mg/m以上であり、また通常50mg/m以下であり、好ましくは30mg/m以下である。表面処理皮膜の付着量が上記範囲内であれば、表面処理皮膜の上に形成させる樹脂組成物層と缶用アルミニウム合金材の密着性をより向上させることができる。
【0032】
(複層皮膜を有する缶用アルミニウム合金材の製造方法)
上記複層皮膜を有する缶用アルミニウム合金材の製造方法は、表面処理皮膜を有する缶用アルミニウム合金材の表面上に、上記説明した下地処理剤を接触させる工程を含む。当該製造方法は、下地処理剤を接触させた後、接触した下地処理剤を乾燥させる工程を含んでもよい。
【0033】
前記下地処理剤と上記缶用アルミニウム合金材との接触方法は特に限定されず、例えば塗布による方法があげられ、具体的にはロールコート法、バーコート法、スプレー処理法、浸漬処理法等が挙げられる。通常、下地処理剤を上記缶用アルミニウム合金材に接触する面(表面処理皮膜を有する面)にロールコート、又は、シャワー・リンガー絞り等にて塗布することにより行うことができる。塗布時の下地処理剤の温度は、特に制限されないが、通常15~65℃であることが好ましい。ついで、通常、下地処理剤、又は表面処理剤及び下地処理剤の乾燥を行うが、この際の乾燥条件は、特に制限されないが、通常80~250℃で、2~60秒間行う方法が挙げられる。
【0034】
(下地皮膜)
缶用アルミニウム合金材の表面処理皮膜上に形成される下地皮膜の付着量は、単位面積当たりのカーボンの換算質量で通常0.1mg/m以上、好ましくは0.5mg/m以上であり、また通常30mg/m以下であり、好ましくは20mg/m以下である。下地皮膜の付着量が上記範囲内であれば、下地皮膜上に設ける樹脂組成物層と缶用アルミニウム合金材との密着性をより向上させることができる。
【0035】
次に、缶蓋及び缶体の製造方法について説明する。
本発明の別の実施形態は、表面処理皮膜を有する缶用アルミニウム合金材または表面処理皮膜と下地皮膜とを含む複層皮膜を有する缶用アルミニウム合金材の少なくとも一方の表面上に、樹脂組成物層を有する、缶蓋及び缶体である。
【0036】
(樹脂組成物層)
前記表面処理皮膜を有する缶用アルミニウム合金材上に、又は前記表面処理皮膜と下地皮膜とを含む複層皮膜を有する缶用アルミニウム合金材上に、樹脂組成物層を形成してもよい。樹脂組成物層は、1又は2以上の塗膜であってもよく、ラミネートフィルムであってもよい。樹脂組成物層の形状は特に制限されないが、典型的には板状、シート状、フィルム状等のものが用いられる。
【0037】
樹脂組成物層が塗膜である場合、塗膜の形成方法は特段限定されないが、例えば、ロールコーター塗装、スプレー塗装等が挙げられ、これらを組み合わせた方法であってもよい。
【0038】
塗膜の形成に用いられる塗料は特段限定されないが、例えば、熱硬化性樹脂を含有する塗料や熱可塑性樹脂を含有する塗料等が挙げられ、熱硬化性樹脂を含有する塗料が好ましい。
熱硬化性樹脂としては特段限定されないが、例えば、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、フラン-ホルムアルデヒド樹脂、キシレン-ホルムアルデヒド樹脂、ケトン-ホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、トリアリルシアヌレート樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、シリコーン樹脂、油性樹脂等が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては特段限定されないが、例えば、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物、塩化ビニル-マレイン酸共重合体、塩化ビニル-マレイン酸-酢酸ビニル共重合体、アクリル重合体、飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。
塗料に含有される上記樹脂は、1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0039】
樹脂組成物層がラミネートフィルムの場合、その貼り付け方法としては特段限定されず、既知の方法を適用することができる。具体的には、ドライラミネート法、押出ラミネート法等を挙げることができる。また、前記表面処理皮膜を有する缶用アルミニウム合金材上に、前記表面処理皮膜と下地皮膜とを含む複層皮膜を有する缶用アルミニウム合金材上に、又はラミネートフィルムの貼付面に樹脂接着剤を塗布し、貼り付けてもよい。
【0040】
ラミネートフィルムに用いられる樹脂組成物は特段限定されないが、熱可塑性樹脂であることが好ましく、中でも、ポリエステル系樹脂またはポリオレフィン系樹脂が好ましく、特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレート、あるいはこれらのブレンド樹脂から選ばれるポリエステル系樹脂が熱可塑性樹脂として最も好ましい。
【0041】
樹脂組成物層を形成した缶用アルミニウム合金材は、缶蓋や缶体として成形され得る。缶蓋や缶体への成形は、公知の方法を適用することができる。
【実施例
【0042】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、単位は質量基準である。
【0043】
表面処理剤の調製
(実施例1)
表1-1に記載された組成の表面処理剤1を調製した。表面処理剤1の調製は下記成分(A)~(D)を全量の八割分の水に対して(D)、(C)、(B)、(A)の順に添加し、最後に水でメスアップし、常温で10分間撹拌した。次いで、pHの調整のため表1-1に記載の接触温度に加温して、その後表1-1に記載のpHとなるように水酸化アンモニウムを用いて調整を行った。
(A)ヘキサフルオロジルコニウム酸
(B)水酸化アルミニウム
(C)フッ化水素酸
(D)硝酸
【0044】
(実施例2~13、実施例29~34、実施例37~41、比較例1~6)
ジルコニウムの質量モル濃度及び供給源、アルミニウムの質量モル濃度及び供給源、フッ素の質量モル濃度、硝酸根の質量モル濃度、pH、接触温度、接触時間を表1-1及び2-1に示す条件に設定し、その他の条件は実施例1と同様とし、実施例2~13、実施例29~34、実施例37~41及び比較例1~6の表面処理剤を調製した。
【0045】
(実施例14)
表1-1に記載された組成の表面処理剤14を調製した。表面処理剤14の調製は下記成分(A)~(E)を全量の八割分の水に対して(D)、(C)、(B)、(A)、(E)の順に添加し、最後に水でメスアップし、常温で10分間撹拌した。次いで、pHの調整のため表1-1に記載の接触温度に加温して、その後表1-1に記載のpHとなるように水酸化アンモニウムを用いて調整を行った。
(A)オキシ硝酸ジルコニウム
(B)硝酸アルミニウム
(C)フッ化水素酸
(D)硝酸
(E)硝酸コバルト
【0046】
(実施例15~28、実施例35~36)
ジルコニウムの質量モル濃度及び供給源、アルミニウムの質量モル濃度及び供給源、フッ素の質量モル濃度、硝酸根の質量モル濃度、pH、接触温度、接触時間、その他金属元素の金属原子換算質量モル濃度とその他金属元素の供給源を表1-1に示す条件に設定し、その他の条件は実施例14と同様とし、実施例15~28、及び実施例35~36の表面処理剤を調製した。
【0047】
下地処理剤の調製
(下地処理剤:実施例29)
下地処理剤に用いる重合体は、式(I)で表される構造単位において、Z基がCHN(CH、Z基の導入率がベンゼン環1個あたり0.5、Xが全て水素原子である場合の重量平均分子量が1000のものを用いた。
イオン交換水を撹拌付きベッセルに仕込み、常温にて撹拌しながら、85%リン酸(濃度:15g/L)及び上記重合体(濃度:40g/L)を添加して、溶解させた。その後、重合体の濃度が0.60g/Lとなるようにイオン交換水で希釈した。
【0048】
(下地処理剤:実施例30~41、 比較例6)
重合体の重量平均分子量、Z基の導入率、酸系化合物の種類を表1-1、及び表2-1に示す条件に設定し、その他の条件は実施例29と同様とし、実施例30~41、及び比較例6の下地処理剤を調製した。
【0049】
(アルミニウム合金板の表面処理:実施例1~28及び比較例1~5)
市販のアルミニウム-マグネシウム合金板(JIS A5182材 板厚:0.25mm)及びアルミニウム-マンガン合金板(JIS A3104材 板厚:0.285mm)を準備した。市販のアルカリ性脱脂剤(ファインクリーナー4477;日本パーカライジング株式会社製)の2%水溶液を用いて60℃-6秒間スプレーにて洗浄し、ついで水洗した。さらに、2%硫酸水溶液で50℃-2秒間洗浄し、ついで水洗した。その後、上記実施例及び比較例で調製した表面処理剤を用いて、表1-1及び2-1に記載の接触温度、接触時間でスプレーによる表面処理を行った。ついで水道水で水洗し、さらに脱イオン水でスプレー水洗した後、水切りロールで絞り、到達メタルピーク温度70℃-10秒間乾燥し、表面処理皮膜を有するアルミニウム合金板を作製した。
【0050】
(アルミニウム合金板の下地処理:実施例29~41及び比較例6)
実施例1~28及び比較例1~5と同様に、上記調製した表面処理剤を用いてアルミニウム合金板の表面処理を行った。その後、上記調製した下地処理剤を用いて、下地処理を行った。下地処理皮膜の付着量は、下地処理剤中の重合体の濃度を変更することで調整した。下地処理は、バーコーター#5を用いて、下地処理皮膜の付着量が単位面積当たりのカーボンの換算質量で表1-1及び表2-1に示す量となるように、重合体の濃度を脱イオン水で調整した下地処理剤を塗布した。下地処理剤を塗布したアルミニウム合金板は、自動排出式オーブンを用いて200℃で、20秒間乾燥させて、表面処理皮膜、及び下地処理皮膜を有するアルミニウム合金板を作製した。
【0051】
表面処理、又は表面処理及び下地処理を行ったアルミニウム合金板の、表面処理皮膜の単位面積当たりのジルコニウム原子の換算質量の付着量及び下地皮膜の単位面積当たりのカーボンの換算質量の付着量は、走査型蛍光X線分析装置(ZSX PrimusII;株式会社リガク製)にて定量した。
【0052】
(塗装板の作製)
上記実施例1~28及び比較例1~5で作製した表面処理皮膜を有するアルミニウム合金板の、表面処理皮膜を形成した側の表面に、市販の水系エポキシアクリル系塗料を乾燥後の塗膜量として70mg/dmとなるようにバーコーター#18を用いて塗布した。続いて、このアルミニウム合金板を、自動排出オーブンを用いて温度260℃、風速1~30m/minの条件下、60秒間加熱することで塗膜を形成し、塗装板を作製した。
【0053】
(ラミネート板の作製)
上記実施例1~28及び比較例1~5で作製した表面処理皮膜を有するアルミニウム合金板、並びに実施例29~41及び比較例6で作製した表面処理皮膜及び下地皮膜を有するアルミニウム合金板を、予め板温度250℃に加熱しておき、合金板の片面または両面にポリエチレンテレフタレートフィルム(膜厚20μm)を、ラミネートロールを介して熱圧着した後、直ちに水冷することによりラミネート板を作製した。
【0054】
アルミニウム合金板の評価
(表面処理皮膜の酸性溶液への皮膜溶解耐性試験)
実施例1~41及び比較例1~6の表面処理皮膜を有するアルミニウム合金板の皮膜溶解耐性は、酸性試験液1に表面処理皮膜を有するアルミニウム合金板を浸漬することで試験した。酸性試験液1は、塩化ナトリウムを500ppm、クエン酸を500ppm含むものを用いた。また、試験時の酸性試験液1の温度は50℃で、各アルミニウム合金板を5時間浸漬した。その後、試験片を脱イオン水で水洗し、室温で乾燥した。試験後に試験片表面に残存する表面処理皮膜の、単位面積当たりのジルコニウム原子の換算質量の付着量と、試験前の試験片表面に存在する表面処理皮膜の、単位面積当たりのジルコニウム原子の換算質量の付着量との比率で評価を行った。アルミニウム合金板の皮膜溶解耐性が高いほど、試験後の表面処理皮膜の残存率が高くなる。
評価基準は以下のとおりとし、S及びAを合格とした。評価結果を表1-2及び表2-2に示す。
S:残存率 80%以上~100%以下
A:残存率 60%以上~80%未満
B:残存率 40%以上~60%未満
C:残存率 0%以上~40%未満
【0055】
(ラミネートフィルム密着性試験1)
実施例1~41及び比較例1~6で作製したラミネートアルミニウム合金板(アルミニウム-マンガン合金板:JIS A3104材)を、50mm×50mmのサイズに切り出したものを試験片とした。ラミネートフィルムを設けた評価面が外側になる様に試験片をセットし、デュポン衝撃試験機で直径12.7mm(1/2インチ)、重量1000gの重りを150mmの高さから試験片に落下させ、加工を行った。続いて、デュポン衝撃試験機で加工した試験片の評価面にNTカッターで碁盤目状のクロスカットを施した。なお、碁盤目状のクロスカットは、2mm間隔の平行線11本を直角に交差させるように施し、100個のマス目を作製した。その後、沸騰した純水に30分間浸漬後、試験片を取り出し、室温で30分間放置して乾燥した後に、評価面を幅24mmのニチバン製粘着テープを用いてテープ剥離した。密着性は、100個のマス目中、ラミネートフィルムが残存するマス目を計数して評価した。評価基準は以下のとおりとした。評価結果を表1-2及び表2-2に示す。
S:残存マス 100/100
A:残存マス 90/100~99/100
B:残存マス 80/100~89/100
C:残存マス 0/100~79/100
【0056】
(ラミネートフィルム密着性試験2)
実施例1~41及び比較例1~6で作製したラミネートアルミニウム合金板(アルミニウム-マグネシウム合金板:JIS A5182材)を、長さ75mm(圧延目と直角方向、以下長辺とも称する。)×50mm(圧延目方向、以下短辺とも称する。)のサイズに切り出した。図1に示す様に、切り出したラミネートアルミニウム合金板のラミネート面の裏側に、一方の短辺側から、底辺25mm、高さ50mmの2等辺三角形形状の切り込みをカッターで入れた。なお、2等辺三角形の底辺は、切り出したラミネートアルミニウム合金板の短辺と一致させ、また両中心点も一致させた。ラミネートアルミニウム合金板を、2等辺三角形の底辺から頂点に向かって、カッターの切り込みに沿って約15mmに渡りアルミニウム合金から切断し、そのまま折り曲げたものを試験片とした。
上記試験片を純水に入れ、125℃のオートクレーブ中で30分間浸漬した後、試験片を取り出し、80℃の純水中に保持した。試験直前に試験片を80℃の純水中から取り出して2等辺三角形の折り曲げ部と、外側部分を引張試験機で挟み、引張速度200mm/minで長辺方向(長手方向)に引っ張った。図2に示す様に、試験後の試験片部Bに残存する最大フィルム残り幅を測定して評価した。評価基準は以下のとおりとした。評価結果を表1-2及び表2-2に示す。
A:最大フィルム残り幅 0.5mm未満
B:最大フィルム残り幅 0.5mm以上、1.0mm未満
C:最大フィルム残り幅 1.0mm以上
【0057】
(塗膜の耐食性試験)
実施例1~28及び比較例1~5の、塗装後のアルミニウム合金板(アルミニウム-マグネシウム合金板:JIS A5182材)を、50mm×50mmのサイズに切り出したものを試験片とした。試験片の非塗装面にバックシールを施して、塗装面にNTカッターで50mm×50mmのクロスカットを施した。続いて、試験片を、70℃の環境下、密閉容器中において塩化ナトリウムを500ppm、クエン酸を1000ppm含む酸性試験液2に1週間浸漬した後、脱イオン水で水洗し、室温で乾燥した。乾燥後の腐食の程度を、腐食により平面部に発生した塗膜の浮き(ブリスター)の最大直径とクロスカット部の最大剥離幅(カット幅)で評価した。評価基準は以下のとおりとし、Aを合格とした。評価結果を表1-2及び表2-2に示す。
<ブリスター>
A:最大直径 1mm未満
B:最大直径 1mm以上、3mm未満
C:最大直径 3mm以上
<カット幅>
A:0.1mm未満
B:0.1mm以上、1.0mm未満
C:1.0mm以上
【0058】
【表1-1】
【0059】
【表1-2】
【0060】
【表2-1】
【0061】
【表2-2】
図1
図2