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  • 特許-タイヤ、及び、多孔質体の固定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】タイヤ、及び、多孔質体の固定方法
(51)【国際特許分類】
   B60C 5/00 20060101AFI20220913BHJP
【FI】
B60C5/00 F
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019560987
(86)(22)【出願日】2018-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2018045360
(87)【国際公開番号】W WO2019124148
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2017242064
(32)【優先日】2017-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(72)【発明者】
【氏名】兼定 美智雄
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-148437(JP,A)
【文献】特開2016-060257(JP,A)
【文献】特開2011-240626(JP,A)
【文献】特表2017-531587(JP,A)
【文献】特開2016-055439(JP,A)
【文献】特開2015-107690(JP,A)
【文献】特開2008-111045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂により形成されている、又は、熱可塑性樹脂を含有する、タイヤ内面を構成する内面層と、
一部が前記内面層に埋め込まれている多孔質体と、を備え
前記内面層と前記多孔質体との間には離型剤が介在しているタイヤ。
【請求項2】
前記多孔質体の密度は、前記内面層の密度よりも小さい、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記多孔質体は可撓性を有する、請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記多孔質体の融点は、前記内面層の融点よりも高い、請求項1乃至3のいずれか1つに記載のタイヤ。
【請求項5】
前記多孔質体は、分解点の温度が融点の温度よりも低く、かつ、前記分解点の温度が前記内面層の融点の温度よりも高い、請求項4に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記多孔質体は、融点の温度が分解点の温度よりも低い、請求項4に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記内面層はゴム層に積層されている、請求項1乃至6のいずれか1つに記載のタイヤ。
【請求項8】
熱可塑性樹脂により形成されている、又は、熱可塑性樹脂を含有する、タイヤ内面を構成する内面層を溶融させると共に、前記タイヤ内面に付着している離型剤を除去することなく、多孔質体を押圧して前記内面層に埋め込む、多孔質体の固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤ、及び、多孔質体の固定方法、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タイヤ内面に吸音スポンジ等の多孔質体を接着し、空洞共鳴エネルギーを吸収等させることで、ロードノイズを低減するタイヤが知られている。特許文献1には、この種のタイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4318639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイヤを加硫成型する際、密着したブラダーとの離型性を高めるために、加硫成型前の生タイヤのタイヤ内面、又は、ブラダー外面、に予めシリコン、マイカ等の離型剤を塗布することが知られている。このような離型剤は、加硫成型後のタイヤ内面にも残留した状態となる。そのため、例えば、多孔質体をタイヤ内面に接着する場合に、タイヤ内面に付着している離型剤が、多孔質体とタイヤ内面との固着を阻害する。
【0005】
多孔質体を接着する前に、例えば、レーザー照射による焼成、洗剤を用いた洗浄など、タイヤ内面から離型剤を除去することが行われているが、このような離型剤の除去工程を省き得る、多孔質体の取付構成が望まれている。
【0006】
そこで本発明は、タイヤ内面から離型剤を除去しなくても多孔質体をタイヤ内面に固定可能とする取付構成を備えるタイヤ、及び、多孔質体の固定方法、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様としてのタイヤは、熱可塑性樹脂により形成されている、又は、熱可塑性樹脂を含有する、タイヤ内面を構成する内面層と、一部が前記内面層に埋め込まれている多孔質体と、を備える。
【0008】
本発明の第2の態様としての、多孔質体の固定方法は、熱可塑性樹脂により形成されている、又は、熱可塑性樹脂を含有する、タイヤ内面を構成する内面層を溶融させると共に、多孔質体を押圧して前記内面層に埋め込む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、タイヤ内面から離型剤を除去しなくても多孔質体をタイヤ内面に固定可能とする取付構成を備えるタイヤ、及び、多孔質体の固定方法、を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態としてのタイヤの、タイヤ幅方向に沿う断面を示す断面図である。
図2図1の多孔質体の近傍を拡大して示す拡大断面図である。
図3図2の更に一部を拡大して示す拡大断面図である。
図4】本発明の一実施形態としての、多孔質体の固定方法の概要を示す概要図である。
図5図1に示す多孔質体とは別の多孔質体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る、タイヤ、及び、多孔質体の固定方法、について図1図5を参照して説明する。各図において共通する部材・部位には同一の符号を付している。
【0012】
図1は、本発明に係るタイヤの一実施形態としてのタイヤ1についての、タイヤ1のタイヤ中心軸線を含み、タイヤ幅方向Aに沿う断面を示す断面図である。
【0013】
図1に示すように、タイヤ1は、タイヤ本体2と、このタイヤ本体2の内面30(以下、「タイヤ内面30」と記載する。)に取り付けられている多孔質体3と、を備えている。
【0014】
図2は、図1の多孔質体3の近傍を拡大して示す拡大断面図である。図1図2に示すように、タイヤ本体2は、熱可塑性樹脂により形成されている、又は、熱可塑性樹脂を含有する、タイヤ内面30を構成する内面層11を備えている。そして、図2に示すように、多孔質体3は、その一部が内面層11に埋め込まれている。なお、「多孔質体の一部が内面層に埋め込まれている」とは、多孔質体の一部が、内面層の延在方向の周囲で、内面層と接触した状態にあることを意味する。
【0015】
なお、後述するように、本実施形態のタイヤ1は、チューブレスタイプの乗用車用ラジアルタイヤであるが、この構成に限らず、例えば、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂などの樹脂材料を少なくとも50質量%以上、好ましくは90質量%以上含む、樹脂製のタイヤ骨格体を備えるタイヤであってもよい。このような樹脂製のタイヤ骨格体を備えるタイヤとする場合には、上述の内面層11を、タイヤ骨格体自体で構成することができるが、このような構成に限らず、タイヤ骨格体に、別の層を積層することで内面層11を形成してもよい。
【0016】
なお、内面層11は、熱可塑性樹脂から形成されている場合に限らず、例えば、ゴムに熱可塑性樹脂が混合されている構成など、熱可塑性樹脂を一部に含有する構成であってもよい。内面層11を、熱可塑性樹脂を一部に含有する構成とする場合には、熱可塑性樹脂を少なくとも50質量%以上、含有していることが好ましい。
【0017】
内面層11が形成される樹脂、又は、内面層11に含有される樹脂、の材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、PA(6、6-6、6-10、6-12、12)、ポリエステルにより構成できる。
【0018】
多孔質体3は、例えば、ゴム、合成樹脂を発泡させた連続気泡又は独立気泡を有するスポンジ材により構成することができる。本実施形態の多孔質体3は、スポンジ材により構成されている。スポンジ材の材料として、好ましくは、エーテル系ポリウレタンスポンジ、エステル系ポリウレタンスポンジ、ポリエチレンスポンジなどの合成樹脂スポンジ;クロロプレンゴムスポンジ(CRスポンジ)、エチレンプロピレンゴムスポンジ(EDPMスポンジ)、ニトリルゴムスポンジ(NBRスポンジ)などのゴムスポンジ;を用いることができる。とりわけエーテル系ポリウレタンスポンジを含むポリウレタン系又はポリエチレン系等が、制音性、軽量性、発泡の調節可能性、耐久性などの観点から好ましい。
【0019】
また、多孔質体3は、不織布状のものにより構成してもよい。多孔質体3を不織布状のもので構成する場合、例えば、動物繊維、植物繊維、鉱物繊維、合成繊維、金属繊維又はガラス繊維等を絡み合わせた構成とすることができる。合成繊維の材料としては、例えば、芳香族ポリアミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、モダアクリル、これらの組合せ、が挙げられる。
【0020】
なお、多孔質体3を、動物繊維、植物繊維、鉱物繊維、合成繊維、金属繊維又はガラス繊維等を織ったもので構成してもよい。
【0021】
多孔質体3の密度は、例えば、16kg/m3~100kg/m3の範囲とすることができる。また、多孔質体3の硬さは、例えば、20N~300Nの範囲とすることができる。なお、この硬さは、JIS K6401(2011年版)において引用されるJIS K6400-2の「試験の種類」で規定されている「D法」に基づいて測定される硬さを意味する。更に、多孔質体3の引張強度は、例えば、50kPa~300kPaの範囲とすることができる。
【0022】
多孔質体3は、その表面や内部に形成される空隙が振動する空気の振動エネルギーを熱エネルギーに変換することにより、吸音することができる。これにより、リム組みされたタイヤ1内で発生する空洞共鳴音を低減することができる。
【0023】
以上のように、タイヤ1は、熱可塑性樹脂により形成されている、又は、熱可塑性樹脂を含有する、タイヤ内面30を構成する内面層11を備えている。また、タイヤ1では、多孔質体3が、その一部が内面層11に埋め込まれた状態とされることで、内面層11に固定されている。このような取付構成とすることで、タイヤ内面30から離型剤を除去するか否かにかかわらず、すなわち、タイヤ内面30から離型剤を除去しなくても、多孔質体3をタイヤ内面30に固定することが可能となる。
【0024】
以下、本実施形態のタイヤ1の詳細について説明する。
【0025】
<タイヤ本体2>
まず、本実施形態のタイヤ1のタイヤ本体2について説明する。図1に示すように、本実施形態のタイヤ本体2は、トレッド部2aと、このトレッド部2aのタイヤ幅方向Aの両端部からタイヤ径方向Bの内側に延びる一対のサイドウォール部2bと、各サイドウォール部2bのタイヤ径方向Bの内側の端部に設けられた一対のビード部2cと、を備えている。
【0026】
より具体的に、本実施形態のタイヤ本体2は、ビード部材4、カーカス5、ベルト6、トレッドゴム7、サイドゴム8、インナーライナ9、及び、内面部材10、を備えている。
【0027】
[ビード部材4]
ビード部材4は、ビード部1cに埋設されている。ビード部材4は、ビードコア4aと、このビードコア4aに対してタイヤ径方向Bの外側に位置するゴム製のビードフィラ4bと、を備えている。ビードコア4aは、周囲をゴムにより被覆されている複数のビードワイヤを備えている。ビードワイヤはスチールコードにより形成されている。スチールコードは、例えば、スチールのモノフィラメント又は撚り線からなるものとすることができる。なお、ビードワイヤとして、有機繊維やカーボン繊維等を用いてもよい。
【0028】
[カーカス5]
カーカス5は、一対のビード部1c間、より具体的には一対のビード部材4のビードコア4a間に跨っており、トロイダル状に延在している。また、カーカス5は、少なくともラジアル構造を有している。
【0029】
更に、カーカス5は、カーカスコードをタイヤ周方向Cに対して例えば75°~90゜の角度で配列した1枚以上(本実施形態では1枚)のカーカスプライ5aから構成されている。このカーカスプライ5aは、一対のビードコア4a間に位置するプライ本体部と、このプライ本体部の両端で、ビードコア4aの廻りでタイヤ幅方向Aの内側から外側に折り返されるプライ折返し部と、を備えている。そして、プライ本体部とプライ折返し部との間には、ビードコア4aからタイヤ径方向Bの外側に先細状に延びるビードフィラ4bが配置されている。カーカスプライ5aを構成するカーカスコードとして、本実施形態ではポリエステルコードを採用しているが、これ以外にもナイロン、レーヨン、アラミドなどの有機繊維コードや、必要によりスチールコードを採用してもよい。また、カーカスプライ5aの枚数についても、2枚以上としてもよい。
【0030】
[ベルト6]
ベルト6は、カーカス5のクラウン部に対してタイヤ径方向Bの外側に配置されている1層以上(本実施形態では5層)のベルト層を備えている。具体的には、図2に示すように、本実施形態のベルト6は、傾斜ベルト6aと、周方向ベルト6bと、を備えている。
【0031】
図2に示すように、傾斜ベルト6aは、カーカス5のクラウン部に対してタイヤ径方向Bの外側に配置されている1層以上(本実施形態では2層)の傾斜ベルト層を備えている。より具体的に、本実施形態の傾斜ベルト6aは、タイヤ径方向Bに積層されている、第1傾斜ベルト層6a1及び第2傾斜ベルト層6a2、を備えている。第1傾斜ベルト層6a1及び第2傾斜ベルト層6a2それぞれは、金属のベルトコードとしてのスチールコードをタイヤ周方向Cに対して10°~40°の角度で傾斜配列したベルトプライから形成されている。2枚のベルトプライは、ベルトコードの傾斜の向きを互いに違えて重ね置きされている。そのため、ベルトコードがベルトプライ間相互で交差し、ベルト剛性が高められ、トレッド部2aの略全幅をタガ効果により補強することができる。
【0032】
図2に示すように、周方向ベルト6bは、傾斜ベルト6aに対してタイヤ径方向Bの外側に配置されている1層以上(本実施形態では2層)の周方向ベルト層を備えている。より具体的に、周方向ベルト6bは、タイヤ径方向Bに積層されている、第1周方向ベルト層6b1及び第2周方向ベルト層6b2を備えている。第1周方向ベルト層6b1及び第2周方向ベルト層6b2それぞれは、有機繊維のベルトコードとしてのナイロンコードをタイヤ周方向Cに対して10°以下、好ましくは5°以下の角度で、タイヤ回転軸回りに、螺旋状に巻回させたベルトプライから形成されている。
【0033】
[トレッドゴム7及びサイドゴム8]
トレッドゴム7は、トレッド部2aのタイヤ径方向Bの外側の面を構成しており、トレッド外面には、タイヤ周方向Cに延在する周方向溝7aや、タイヤ幅方向Aに延在する、図示しない幅方向溝等、を含むトレッドパターンが形成されている。サイドゴム8は、サイドウォール部2bのタイヤ幅方向Aの外側の面を構成しており、上述のトレッドゴム7と一体で形成されている。
【0034】
[インナーライナ9]
インナーライナ9は、カーカス5の内面に積層されており、空気透過性の低いブチル系ゴムにより形成されている。すなわち、インナーライナ9は、カーカス5の内面に積層されているゴム層12を構成している。なお、ブチル系ゴムとは、ブチルゴム、及びその誘導体であるハロゲン化ブチルゴムを意味する。
【0035】
[内面部材10]
内面部材10は、ゴム層12としてのインナーライナ9の内面に積層されており、タイヤ内面30を構成している。すなわち、本実施形態の内面層11は、内面部材10により構成されている。
【0036】
タイヤ本体2は、インナーライナ9の内面上に内面部材10を積層された状態で、加硫成型される。したがって、加硫成型時に密着するブラダーとの離型性を高めるため、加硫成型前のタイヤ内面30、すなわち、内面部材10のインナーライナ9側とは反対側の面には、予めシリコン等の離型剤が塗布される。図3は、図2のうちタイヤ内面30の一部を更に拡大した拡大断面図である。図3に示すように、本実施形態では、加硫成型後にもタイヤ内面30に残留する上述の離型剤Sを除去することなく、タイヤ内面30と多孔質体3との間に離型剤Sが介在する状態で、多孔質体3が、タイヤ内面30に固定されている。すなわち、内面層11と多孔質体3との間には離型剤Sが介在している。
【0037】
多孔質体3を、内面層11を構成する内面部材10との間で離型剤Sを介在させた状態で、内面部材10に固定することにより、離型剤Sが被膜となり、内面層11が、多孔質体3を透過する酸素に触れにくくなる。つまり、内面層11の酸素暴露を抑制でき、酸素による内面層11の劣化を抑制することができる。なお、多孔質体3の固定方法の詳細については後述する(図4参照)。
【0038】
本実施形態の内面部材10は、熱可塑性樹脂により形成されている、又は、熱可塑性樹脂を含有している。そして、本実施形態の内面部材10は、上述した内面層11の材料から形成することができる。多孔質体3は、その一部が内面層11を構成する内面部材10に埋め込まれた状態で、内面部材10に固定されている。なお、多孔質体3の内面部材10への固定方法の詳細については後述する(図4参照)。
【0039】
内面部材10の厚みは、多孔質体3の一部が埋め込まれる厚みがあればよく、特に限定されるものではない。例えば3μm以上とすることができる。
【0040】
<多孔質体3>
図1に示すように、本実施形態の多孔質体3は、タイヤ内面30のうち、タイヤ幅方向Aの中央領域に取り付けられている。より具体的に、本実施形態の多孔質体3は、タイヤ内面30のうち、タイヤ赤道面CLと交わる位置に取り付けられている。
【0041】
多孔質体3は、タイヤ内面30を構成する内面層11に一部が埋め込まれているものであれば、特に限定されるものではない。但し、多孔質体3は、後述する超音波を利用した内面部材10への固定方法(図4参照)を用いる場合には、可撓性を有することが好ましい。また、後述する超音波を利用した内面部材10への固定方法(図4参照)を用いる場合には、多孔質体3の密度は、本実施形態で内面部材10により構成されている内面層11の密度よりも小さいことが好ましい。これら条件は、多孔質体3をスポンジ材や不織布状のもの等で構成することにより充足し易い。
【0042】
また、多孔質体3の融点は、本実施形態で内面部材10により構成されている内面層11の融点よりも高いことが好ましい。このようにすれば、超音波を利用した固定方法(図4参照)に限らず、内面部材10により構成される内面層11を溶融させた状態で、多孔質体3の一部を内面層11に埋没させ易い。
【0043】
更に、上述の融点の大小関係を前提とし、多孔質体3は、分解点の温度が融点の温度よりも低く、かつ、分解点の温度が内面層11の融点の温度よりも高く、構成されていることが好ましい。「分解点」とは熱分解する温度を意味する。このような構成とした上で、多孔質体3の分解点の温度よりも低い温度で、多孔質体3を内面層11に埋め込んで固定する。このようにすれば、超音波を利用した固定方法(図4参照)に限らず、内面部材10により構成される内面層11を溶融させた状態で、かつ、多孔質体3が溶融していない状態で、多孔質体3の一部を内面層11に埋没させることができる。すなわち、多孔質体3を、溶融せずに内部の空隙が保持された状態のまま、溶融状態の内面層11に埋め込むことができる。そのため、溶融状態の内面層11が多孔質体3の空隙に入り込み易い。換言すれば、多孔質体3が溶融状態の内面層11に含浸する。この状態で、内面層11が冷却されると、内面層11は、その一部が多孔質体3の空隙に入り込んだ状態のまま硬化され、アンカー効果により、多孔質体3を強固に保持する。すなわち、多孔質体3を、分解点の温度が融点の温度よりも低く、かつ、分解点の温度が内面層11の融点の温度よりも高い構成とすれば、内面層11に対して強固に固定された多孔質体3を実現し易くなる。この場合、多孔質体3が形成される材料、又は、多孔質体3に含まれる材料、は特に限定されるものではなく、例えば、熱可塑性樹脂ではなく、熱硬化性樹脂やエラストマーから形成される多孔質体3としてもよい。
【0044】
但し、上述の融点の大小関係を前提とし、多孔質体3を、融点の温度が分解点の温度よりも低い構成としてもよい。このような構成とした上で、多孔質体3の融点の温度以上で、かつ、多孔質体3の分解点の温度未満で、多孔質体3を内面層11に埋め込んで固定する。このようにすれば、超音波を利用した固定方法(図4参照)に限らず、内面部材10により構成される内面層11を溶融させた状態で、多孔質体3の一部を内面層11に埋め込むことができると共に、多孔質体3の同じ一部又は他の一部を溶融させ、溶融状態の内面層11と混合又は溶着させることが可能となる。すなわち、多孔質体3を、融点の温度が分解点の温度よりも低い構成とすれば、内面層11への埋め込み、及び、内面層11との混合又は溶着、の両方により、内面層11に対して固定された多孔質体3を実現し易くなる。この場合、多孔質体3は、熱可塑性樹脂により形成されている、又は、熱可塑性樹脂を含有している。
【0045】
このように、多孔質体3の一部が、内面部材10により構成されている内面層11に埋め込まれている構成であれば、固定時において多孔質体3が溶融したか否かは特に限定されるものではない。
【0046】
次に、本発明の一実施形態としての多孔質体3の固定方法について説明する。図4は、多孔質体3の固定方法の一例を示す概要図である。
【0047】
図4(a)は、タイヤ本体2の加硫成型時の状態を示す図である。図4(a)に示すように、インナーライナ9により構成されるゴム層12の内側(図4(a)では下側)に、内面部材10により構成される内面層11を積層した状態で、タイヤ本体2の加硫成型を実行する。加硫成型時は、不図示のブラダーにより、内面部材10がインナーライナ9に向かって押圧される(図4(a)の白抜き矢印参照)。なお、内面部材10のうちブラダーと接触する面、又はブラダーの外面には、加硫成型後の離型性を高めるため、予め離型剤Sが塗布されている。
【0048】
図4(b)は、タイヤ本体2の加硫成型後の状態を示す図である。図4(b)に示すように、ゴム層12及び内面層11は、加硫成型時の加熱及び圧力により、密着した状態で一体化される。また、図4(b)に示すように、離型剤Sは、内面層11により構成される、タイヤ本体2のタイヤ内面30において残留した状態となる。
【0049】
図4(c)は、超音波を利用して、多孔質体3を内面層11に固定する工程を示す図である。図4(c)に示すように、タイヤ内面30上に多孔質体3を配置する。そして、超音波溶着機の超音波ホーン50により、多孔質体3をタイヤ内面30に向かって押圧した状態とする。この状態で、超音波ホーン50から発振される超音波の振動エネルギーにより、内面層11により構成されるタイヤ内面30に摩擦熱が発生し、内面層11の融点の温度まで瞬時に上昇する。そのため、図4(c)に示すように、超音波ホーン50により内面層11側に押圧される多孔質体3は、溶融状態になった内面層11内に埋め込まれる。そして、内面層11を冷却することで、多孔質体3を、その一部が内面層11に埋め込まれた状態で、内面層11に対して固定することができる。
【0050】
なお、内面層11はゴム層12としてのインナーライナ9に積層されている。ゴム層12は、超音波の振動エネルギーによっても溶融しない。このようなゴム層12を設けることで、ゴム層12を挟んで内面層11と反対側に位置する各部の溶融を抑制することができる。
【0051】
このように、多孔質体3の一部を内面層11に埋め込むことで、多孔質体3を内面層11に固定するため、内面層11で構成されるタイヤ内面30上に離型剤Sが付着しているか否かによらず、多孔質体3を内面層11に固定することができる。
【0052】
ここで、図4(c)による超音波溶着を実行するためには、超音波ホーン50から発振される超音波による振動エネルギーが、多孔質体3を通じて、タイヤ内面30を溶融させる程度に保持されたまま、タイヤ内面30に到達することが必要となる。そのためには、超音波ホーン50とタイヤ内面30との距離を短くできる構成とすることが好ましい。したがって、多孔質体3としては、超音波ホーン50の押圧により圧縮変形して薄肉化される可撓性を備えることが好ましい。このようにすれば、多孔質体3側から超音波を発振させて超音波溶着を実行する場合であっても、タイヤ内面を溶融させ易い。
【0053】
なお、多孔質体3が可撓性を有さない場合、多孔質体3の肉厚が薄肉であればよいが、薄肉の多孔質体3の場合には、例えば吸音性能など、多孔質体3に求められる機能が低下する可能性がある。また、多孔質体3が可撓性を有さない場合で、かつ、多孔質体3の肉厚が厚い場合、超音波ホーン50から発振される超音波の強度を高める必要があるが、汎用性のある超音波溶着機を利用できない可能性がある。以上のことから、可撓性を有する多孔質体3とすることが特に好ましい。
【0054】
また、図4(c)による超音波溶着を実行するためには、超音波ホーン50から発振される超音波による振動エネルギーが、多孔質体3よりも、タイヤ内面30に集中させることが必要である。そのためには、多孔質体3の密度を、内面層11の密度よりも小さくすることが好ましい。このように、内面層11に対して相対的に密度の小さい多孔質体3を用いることで、内面層11に対して相対的に密度の大きい多孔質体を用いる場合と比較して、超音波ホーン50から発振される超音波が、多孔質体3において減衰され難い。つまり、超音波が、タイヤ内面30に到達し易くなる。また、多孔質体3に対して相対的に密度の大きい内面層11を用いることで、多孔質体3に対して相対的に密度の小さい内面層を用いる場合と比較して、超音波ホーン50から発振される超音波が、内面層11において減衰され易い。つまり、超音波による振動エネルギーにより、タイヤ内面30を構成する内面層11を温度上昇させ易い構成とすることができる。以上のことから、多孔質体3の密度を、内面層11の密度よりも小さくすることで、多孔質体3側から超音波を発振させて超音波溶着を実行する場合であっても、タイヤ内面30を溶融させ易い。これにより、多孔質体3の一部が内面層11に埋め込まれた構成を実現し易い。
【0055】
なお、多孔質体3の密度は、上述したように、例えば、16kg/m3~100kg/m3の範囲とすることができる。多孔質体3の密度は、内面層11の密度よりも小さくなるように、上述の範囲から設定されることが好ましい。
【0056】
更に、図4(c)による超音波溶着を実行するためには、多孔質体3よりも先に内面層11が溶融することが必要である。そのためには、多孔質体3の融点が、内面層11の融点よりも高いことが必要である。
【0057】
なお、多孔質体3として、例えば、融点が100℃~260℃の範囲の材料を用いることができる。また、内面層11を構成する内面部材10として、例えば、融点が80℃~240℃の範囲の材料を用いることができる。これらの範囲から、多孔質体3の融点が、内面層11の融点よりも高くなるように設定されることが好ましい。
【0058】
このように、図4に示す多孔質体3の固定方法では、熱可塑性樹脂により形成されている、又は、熱可塑性樹脂を含有する、タイヤ内面30を構成する内面層11を溶融させると共に、多孔質体3を押圧して、多孔質体3の一部を、内面層11に埋め込む。これにより、タイヤ内面30から離型剤Sを除去しなくても、多孔質体3をタイヤ内面30に固定することができる。
【0059】
なお、図4に示す固定方法で使用する超音波溶着機としては、35kHzの周波数の超音波を発振可能なものとすることが好ましい。このようにすれば、汎用性ある20kHzの周波数の超音波を発振可能な超音波溶着機と比較して、使用する超音波溶着機を小型化することができると共に、タイヤ内面30に対して単位時間当たりに入力される振動エネルギーを大きくすることができる。その結果、溶着のための作業効率を高めることができる。タイヤ本体2のうちタイヤ内面30に対して利用することを考慮すれば、超音波溶着機を小型化できる点は特に有益である。本実施形態では、35kHzの周波数の超音波を発振可能な超音波溶着機として、ソノトロニック社の商品名「ECOiSONIC」の周波数35kHzを発振可能なものを使用している。
【0060】
また、図1図4に示すように、本実施形態の多孔質体3はスポンジ材により構成されているが、図5に示すような不織布状のものとしてもよい。不織布状の多孔質体3の一例として、日本バイリーン株式会社の乾燥炉用耐熱フィルタの型式「AE-100」を用いることができる。そして、この耐熱フィルタを単層で内面層11に埋め込み固定する場合に、超音波面圧を0.32kg/mm2以上とすることが好ましい。また、この耐熱フィルタを2枚重ねで内面層11に埋め込み固定する場合には、超音波面圧を0.49kg/mm2以上とすることが好ましい。
【0061】
また、上述の耐熱フィルタを多孔質体3として用いる場合、内面層11への所望の埋め込みを実現するため、超音波照射幅を0.3mm、かつ、超音波照射長を25mm又は50mmとすることができる。なお、超音波照射長は25mmとすることが好ましい。
【0062】
本発明に係る、タイヤ、及び、多孔質体の固定方法、は上述した実施形態で示す具体的な構成及び工程に限られるものではなく、特許請求の範囲の記載を逸脱しない限り、種々の変形、変更が可能である。例えば、図1図5に示す例では、多孔質体3のタイヤ幅方向Aの全域のうち一部の部分のみが、内面層11に埋め込まれているが、多孔質体3のタイヤ幅方向Aの全域に亘って、内面層11に埋め込まれる構成としてもよい。また、多孔質体3のタイヤ周方向Cの全域のうち一部の部分のみが、内面層11に埋め込まれる構成であっても、多孔質体3のタイヤ周方向Cの全域に亘って、内面層11に埋め込まれる構成としてもよい。なお、多孔質体3のタイヤ幅方向Aの一部を部分的に、又は、多孔質体3のタイヤ周方向Cの一部を部分的に、内面層11に埋め込む場合には、図4で説明するように、埋め込む部分のみに超音波を照射して、内面層11を部分的に溶融させればよい。
【0063】
また、タイヤ1のベルト6における傾斜ベルト層及び周方向ベルト層の数についても、上述した実施形態で示す数に限定されるものではない。また、傾斜ベルト層及び周方向ベルト層のタイヤ幅方向Aの長さや、その両端のタイヤ幅方向Aでの位置関係などについても、上述した実施形態で示す長さや位置関係に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明はタイヤ、及び、多孔質体の固定方法、に関する。
【符号の説明】
【0065】
1:タイヤ、 2:タイヤ本体、 2a:トレッド部、 2b:サイドウォール部、 2c:ビード部、 3:多孔質体、 4:ビード部材、 4a:ビードコア、 4b:ビードフィラ、 5:カーカス、 5a:カーカスプライ、 6:ベルト、 6a:傾斜ベルト、 6a1:第1傾斜ベルト層、 6a2:第2傾斜ベルト層、 6b:周方向ベルト、 6b1:第1周方向ベルト層、 6b2:第2周方向ベルト層、 7:トレッドゴム、 7a:周方向溝、 8:サイドゴム、 9:インナーライナ、 10:内面部材、 11:内面層、 12:ゴム層、 30:タイヤ内面、 50:超音波ホーン、 A:タイヤ幅方向、 B:タイヤ径方向、 C:タイヤ周方向、 S:離型剤、 CL:タイヤ赤道面
図1
図2
図3
図4
図5