(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】心臓信号を処理するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
A61N 1/39 20060101AFI20220913BHJP
A61N 1/365 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
A61N1/39
A61N1/365
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020198219
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2021-04-05
(32)【優先日】2019-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】510166157
【氏名又は名称】ソーリン シーアールエム エス ア エス
【氏名又は名称原語表記】SORIN CRM S.A.S.
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】エロディ マリ
(72)【発明者】
【氏名】ルカ ヴィターリ
【審査官】山口 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-346771(JP,A)
【文献】特開2003-225218(JP,A)
【文献】特表2008-538989(JP,A)
【文献】特開平06-205847(JP,A)
【文献】国際公開第2006/115778(WO,A2)
【文献】米国特許第05447518(US,A)
【文献】米国特許第05513644(US,A)
【文献】特開2013-031571(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0035739(US,A1)
【文献】特開2005-080712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/39
A61N 1/362
A61N 1/365
A61B 5/024
A61B 5/318
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間の関数として表される心臓信号を処理するための方法であって、
a)i=1~n、およびnが3
またはそれ以上の異なる閾値レベルNiの数nを提供する工程と、
b)
心臓信号と閾値レベルNiとの増加時および/または減少時の交点に従って所定の時間Tおよび閾値レベルNiごとに、心臓信号と閾値レベルNiとの少なくとも2つの連続した交点を検出
する工程と、
c)心臓信号と
前記少なくとも3つの異なる閾値レベルNi
との交点から、心臓信号の少なくとも1つの統計的パラメータを決定する工程と
を含む方法。
【請求項2】
工程c)における少なくとも1つの統計的パラメータの決定が、心臓信号の期間の決定を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)は、さらに、所定の時間Tおよび閾値レベルNiごとに、心臓信号と閾値レベルNiとの連続する2つの交点の少なくとも1つの経過時間Δ1ti、i=1~nを決定することを含み、少なくとも1つの統計パラメータは所定の時間Tから工程b)で決定された経過時間Δ1tiによって、工程c)が決定される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第1の経過時間Δ1tiは、所定の時間Tからの2つの直近の連続した
心臓信号と閾値レベルNiの交点
から決定され、および
第2の経過時間Δ2tiは、所定の時間Tからの直近の
心臓信号と閾値レベルNiの交点と
3番目の直近の
心臓信号と閾値レベルNiの交点
から決定され、
工程c)は、さらに、第1の経過時間Δ1tiと第2の経過時間Δ2tiを比較することによって、心臓信号
から定まる少なくとも1つの統計的パラメータを決定することを含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程c)において、所定の時間Tからの心臓信号の期間が、経過時間(Δ1ti;Δ2ti)の
ヒストグラムの度数分布から決定される請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
所定の時間間隔ごとの経過時間(Δ1ti;Δ2ti)の
度数分布は、ヒストグラ
ムによって表され、所定時間Tからの心臓信号の期間は、経過時間(Δ1ti;Δ2ti)の
最大の発生数からなるヒストグラムの
バーに含まれる経過時間(Δ1ti;Δ2ti)の平均または中央値から決定される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
所定の時間間隔ごとの経過時間(Δ1ti;Δ2ti)の
度数分布はヒストグラ
ムによって表され、所定の時間Tからの心臓信号の期間は、ヒストグラムの
バーに対応する時間間隔よりも大きい所定の時間間隔に含まれる経過時間(Δ1ti;Δ2ti)の平均または中央値から決定される請求項5に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの統計パラメータの決定において、その値があらかじめ定義された閾値を越える経過時間(Δ1ti;Δ2ti)のみを考慮する請求項3~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
所定の時間Tの前の時間において、心臓信号と閾値レベルNiとの連続した交点の検出から、予め定義された閾値が決定される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程a)は、心臓信号の最小振幅および最大振幅の決定を含み、その結果、異なる閾値レベルNiに対する値が、前記信号の最小振幅および最大振幅に対応する最小値と最大値の間に構成されるように決定される請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
異なる閾値レベルNiのそれぞれに対する値は経時的に一定である請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
異なる閾値レベルNiに対する値は、少なくとも1つの統計パラメータの関数として経時的に変化する請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
異なる閾値レベルNiが一定の間隔で互いに離れている請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程a)は、少なくとも10の異なる閾値レベルNiの決定を含む請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
閾値レベルNiのそれぞれは
レベルが0である基線とは異なる請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
心臓信号を皮下に捕捉するように構成されている能動インプラント型医療機器のインプラント型リードを介して、捕捉された少なくとも1つの心臓信号を受信するための工程をさらに含む請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
閾値レベルNi=nと心臓信号のピークによる交差と、次の閾値レベルNi=n+1と心臓信号の連続した交差から時間間隔が決定されるための工程をさらに含む請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
皮下能動インプラント型医療装置であって、
ハウジングと、
ハウジングに接続された皮下インプラント型リードと、
心調律を皮下で捕捉するように構成された1つまたはそれ以上の感知電極を含む皮下インプラント型リードと
を含み、
前記皮下リードによって捕捉された心臓信号の少なくとも1つから、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成された制御回路とをさらに含む皮下能動インプラント型医療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置、および心臓に由来する信号を処理するためのその方法、特に皮下リードを有するインプラント型心臓除細動器に関する。
【背景技術】
【0002】
心不整脈の迅速かつ確実な検出は、除細動器の機能の鍵である。心室細動を患っている患者にとっても、他のタイプの不安定な血行動態不整脈(すなわち、心臓が血液の循環を起こさない)にとっても、遅発性または欠損性のショックは致死的となる可能性がある。同時に、目的のないショックは、一般に多くの望ましくない影響を伴うため、避けるべきである。
【0003】
不整脈事象を検出するために、除細動器は一般に、心臓によって生成される電気信号を検査し、これらの信号を解釈して、心臓の調律を決定する。心調律が正常から逸脱し、一定の基準(例えば、所定の調律よりも速い)を満たした場合、頻拍が検出されたと仮定し、ショックを患者に送達することができる。
【0004】
心調律を決定する重要な要素は、心室収縮の開始を示す
図1aに示されるQRS複合波を、電気的な心臓信号の他の構成要素、特にT波とP波と区別する能力である。装置が全てのQRS複合波およびQRS複合波のみを検出することが可能であれば、信頼できる調律の検出を行うことができる。
【0005】
しかしながら、心調律を確実に検出することは、従来の心内膜(すなわち、心腔内)除細動器よりも皮下除細動器においてより複雑であることが証明される。実際、心内膜除細動器では、電気信号は、皮下除細動器よりも、心調律を検出するのにより好ましい形態を有する傾向がある。この結果、特に、右心室に移植されたリードでは、信号の最大成分は脱分極電位であり、これは
図1aに図示されているQRS複合波によって表される。一方、T波とP波はほとんど存在しないか、適切な高域フィルタまたは帯域フィルタによって効果的に識別できる。
【0006】
皮下除細動器において、皮下リード上に位置する電極によって検出される心臓信号は、全ての部品が存在する標準表面心電図(ECG)の信号とより良く似ており、時に、形態学的特徴および振幅を有し、心調律を一貫して検出することを困難にする。
【0007】
現在使用されている心調律を検出する方法は、特徴的な処理工程に基づいている。第1の工程は、一般に、所望の成分を改善し、より重要でない成分を除去する目的で、入力されたECG信号を増幅し、フィルタリングすることからなる。しかし、不適当または積極的なフィルタ処理は、心調律の検出に有用な成分を失う可能性がある。
【0008】
典型的には、前処理された信号は、次に、所定の閾値と比較され、閾値と交差すると、1つの周期がカウントされる。周期のカウントは、例えば、同じ周期の重複したカウントを避けるために、閾値が交差したことを検出した後、通常、不応期と呼ばれる短期間の間に阻害される。周期の重複計数の例を
図1bに示す。この計数ミスは皮下除細動器でしばしば起こり、
図1bに示す例のように、(QRS複合波の検出に加えて)心周期におけるT波の誤った検出が原因である可能性がある。この現象が起こると、各心周期が2回カウントされ、その結果、心拍数が見かけ上倍増となり、その結果、頻拍および不適切なショック送達が誤って検出される可能性がある。
【0009】
図1bに例示されているように、心調律の検出のための多くの方法は、単一の閾値レベルを有する前処理された信号(増幅、フィルタリングなど)の比較に連結される。この「単一閾値」アプローチの結果として、心周期を正しくカウントするためには、閾値が信号の特性に関して常に正確に配置されていることが不可欠である。実際、例えば信号の最高ピークよりも高い位置に配置されすぎる閾値は、決して交差しない。この場合、システムは、それらが生理学的に存在していたにもかかわらず、いかなる心周期も検出しない。この症例は「過小検出」として知られ、心調律の不正確な検出につながる。対照的に、閾値が、
図1bの例のように、低すぎるレベルに位置決めされれば、QRS複合波のピークによって交差することができただけでなく、他の成分(
図1bでは、それはT波である)によって交差することもでき、それによって、同じ周期の多重計数のための条件を生成することができる。
【0010】
閾値の適切な位置決めに関連した困難を克服するために、例えば、
図1cに例示されているように、信号の最も高いピークの振幅に基づくスキームに従って閾値のレベルを変化させることが知られている。この方法では、閾値は、通常はより低い振幅をもつ雑音と、望ましくない複合波からできるだけ離れた位置に保証される(
図1cの4つの複合波b1、b2、b3、b4を参照)。
【0011】
しかしながら、このアプローチは、
図1cに例示されているように、振幅の急激な変化に関して、あまり堅牢ではないことが分かる。そこでは、矢印m1、m2、m3、m4、m5によって示されている5つのピークは、それらが、検出のための閾値レベルを、ピークm1からm5の振幅をはるかに超えて、上昇させる結果となった、4つのより高い先行するピーク(
図1cのe1、e2、e3、e4参照)によって隠されるため、見逃される。
【0012】
さらに、入力信号をフィルタリングし、検出閾値を越えて検出方法を実施する方法を以下に示すように実装することは、複雑なアルゴリズムや費用のかかるソフトウェア資源(デジタル処理)につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2001-346771号公報
【文献】特開2003-225218号公報
【文献】特表2008-538989号公報
【文献】特開平06-205847号公報
【文献】欧州特許公開2407097号公報
【文献】米国特許公開2007/078488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述された制限を克服する目的で、本発明は、心臓信号、特に皮下リードによって捕捉された信号を処理する信頼性および堅牢性を改善する一方で、入力信号フィルタリング工程およびソフトウェア資源のコストを最小限にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の目的は、時間の関数として表される心臓信号を処理する方法の手段によって達成され、方法は、i=1~nおよびnが3と同等またはそれより上である、異なる閾値レベルNiの数を提供する工程a)と、所定の時間Tおよび閾値レベルNiごとに、心臓信号と閾値レベルNiとの少なくとも2つの連続した交点を検出し、心臓信号と閾値レベルNiとの増加および/または減少ごとにの交点を考慮する工程b)と、心臓信号と少なくとも3つの異なる閾値レベルNiとの交点から、心臓信号の少なくとも1つの統計的パラメータを決定する工程c)とを含む。
【0016】
このように、既知の方法で説明したように、固定された、あるいは時間とともに変化する単一の閾値に依存するのではなく、本方法では、少なくとも3つの異なる、分離した閾値を同時に考慮される。このように、信号は全ての閾値と同時に比較され、これは、心臓信号と様々な閾値レベルとの交差に基づく閾値交差モデルを得ることができることを意味する。また、本法はフィルタリングによる識別を必要としない。フィルタリングによる識別を排除することによって、信号に存在する情報のすべてが保存され、利用することができる。これは、所望の成分と望ましくない成分との間の形態、振幅、および周波数の差が微妙である場合に特に有利であり、心臓信号の処理を行うためには、情報の全ての要素を保存することが重要である。
【0017】
心臓信号を処理するための方法に関する本発明は、以下の実施形態の手段によってさらに改良することができる。
【0018】
一実施形態によれば、工程c)における少なくとも1つの統計的パラメータの決定は、心臓信号の期間の決定を含むことができる。
【0019】
したがって、心臓信号の様々な交点と閾値レベルは、心臓信号の期間の決定に寄与し、すなわち、QRS波のピークだけでなく、T波またはP波さえも、既知の方法では一般に可能な限りフィルタリングされてそれらは検出されない。
【0020】
一実施形態によれば、工程b)は、所定の時間Tから、心臓信号と閾値レベルNiとの連続する2つの交点の間で、少なくとも1つの経過時間Δ1ti、i=1~nの所定の時間Tおよび閾値レベルNiからの決定をさらに含むことができ、および、工程c)において、少なくとも1つの統計的パラメータが、所定の時間Tから、工程b)で決定された経過時間Δ1tiによって決定され得るように、工程c)において決定され得る。
【0021】
このことは、計算を単純化することができ、ソフトウェア資源コストを減少させることができることを意味する。
【0022】
一実施形態によれば、第1の経過時間Δ1tiは、所定の時間Tからの2つの直近の連続する交点の間の閾値レベルNiごとに決定されてもよく、第2の経過時間Δ2tiは、所定の時間Tからの直近の交点と第3の直近の交点との間の閾値レベルNiごとに決定されてもよく、工程c)は第1の経過時間ΔL1tiと第2の経過時間Δ2tiとを比較することによって、心臓信号に対する少なくとも1つの統計的パラメータの決定をさらに含む。
【0023】
このように、この方法は、これまでに知られている方法と同様に、「決定論的」というよりむしろ「確率論的」であるアプローチによってさらに特徴づけられる。他の既知の方法では、各交差が心周期の終わりと他の方法の始まりについて完全な情報を供給するので、「決定論的」タイプと単一の閾値との期間的かつ正確な交差が必要である。対照的に、本発明に従った本方法では、各交点(信号による閾値の交点)が統計パラメータの決定に寄与し、他よりも1つの交差が重要であることはない。さらに、心臓信号の特性は、典型的には、閾値交差の大部分について、経過時間Δ1tiおよび/または経過時間Δ2tiが決定されている期間、すなわち心調律に近い。
【0024】
一実施形態によれば、工程c)において、所定の時間Tからの心臓信号の期間は、経過時間Δ1ti;Δ2ti、特に、ヒストグラムの手段によって表される数による分布から決定され得る。
【0025】
このように、この方法は、統計パラメータを決定するために複雑な計算を必要としない。このことは、計算が単純化され、ソフトウェア資源コストを減少させることができることを意味する。その理由は、例えばヒストグラムによって表される分布において、心臓信号の期間、すなわち心調律に対する値に対応する最も観測されているのは、経過した時間Δ1tiまたはΔ2tiであるからである。
【0026】
実際、同様の持続時間の値は共通の値に収束する傾向があり、ヒストグラムではこの持続時間に対してより高い棒が蓄積して生じる。したがって、これは、小さな振幅成分が存在し、考慮されている場合であっても、信号の期間がヒストグラムから容易に読み取れることを意味する。
【0027】
また、持続時間値の分布が急激に変化し、特に最大値が低下することから、ヒストグラムにおける持続時間の分布の変化が不整脈の発現の目安となる可能性がある。
【0028】
ある実施態様によれば、所定の時間間隔ごとの経過時間(Δ1ti;Δ2ti)の数による分布は、ヒストグラムの手段によって表され得、所定の時間Tからの心臓信号の期間は、経過時間の最大の発生数(Δ1ti;Δ2ti)を構成するヒストグラムの棒内に含まれる経過時間(Δ1ti;Δ2ti)の平均または中央値から決定され得る。
【0029】
したがって、ヒストグラムの棒の区間内にある最も高頻度の心臓信号の期間の持続時間を、より正確に決定することが可能である。
【0030】
一実施形態によれば、所定の時間間隔ごとの経過時間(Δ1ti;Δ2ti)の数による分布はヒストグラムの手段によって表され得、所定の時間Tからの心臓信号の期間は、ヒストグラムの1本の棒のそれに対応する時間間隔よりも大きい所定の時間間隔に含まれる経過時間(Δ1ti;Δ2ti)の平均または中央値から決定され得る。
【0031】
このように、定義された間隔によって定義される、ヒストグラムの1つの棒の間隔内およびヒストグラムの棒の外側の両方の経過時間を考慮することによって、より正確な方法で、最も頻度の高い心臓信号の期間の持続時間を決定することが可能である。
【0032】
一実施形態によれば、工程c)では、少なくとも1つの統計パラメータの決定において、その値があらかじめ定義された閾値を越える経過時間(Δ1ti;Δ2ti)のみを考慮することができる。
【0033】
したがって、あらかじめ定義された閾値を用いて、方法の堅牢性を保証することができる。
【0034】
一実施形態によれば、予め定義された閾値は、心臓信号と閾値レベルNiとの連続する交点の検出から、所定の時間Tの前の時間で決定され得る。
【0035】
したがって、事前に定義された閾値を決定するために、検出および計算のための補足的な工程は必要ない。このように、本方法はさらに最適化される。
【0036】
一実施形態によれば、工程a)は、心臓信号の最小振幅および最大振幅の決定を含むことができ、その結果、異なる閾値レベルNiに対する値が、最小振幅および最大振幅に対応する最小値と最大値の間に構成されるよう決定され得る。
【0037】
したがって、異なる閾値レベルNiは、方法の堅牢性を確保するような方法で決定される。
【0038】
一実施形態によれば、異なる閾値レベルNiのそれぞれに対する値は、経時的に一定であってもよい。
【0039】
したがって、本方法は、既知の先行技術の方法の場合のように、時間の関数として連続的に適応される閾値レベルの必要性を必要としない。このため、計算コストを削減でき、方法が簡素化される。
【0040】
一実施形態によれば、異なる閾値レベルNiに対する値は、少なくとも1つの統計パラメータの関数として経時的に変化する。
【0041】
従って、異なる閾値レベルNiは、有利には、昼の時間(睡眠相、活動相)の関数として、および/または患者の生涯にわたって適応され得る。
【0042】
一実施形態によれば、異なる閾値レベルNiは、一定の間隔によって互いに離れることができる。
【0043】
このように、様々な閾値レベルNiは、方法の堅牢性をさらに改善するような方法で、心臓信号のために有利に配置され得る。
【0044】
一実施形態によれば、工程a)は、少なくとも10の異なる閾値レベルNiの決定を含むことができる。
【0045】
この方法では、各閾値交差が寄与するので、そこにある閾値が多くなればなるほど、心臓信号の統計的パラメータの決定が良好となる。従って、少なくとも10の異なる閾値レベルNiの存在は、本方法の堅牢性、特に信号の振幅の変動を検出するための堅牢性を、更に改善することができることを意味する。
【0046】
一実施形態によれば、閾値レベルNiのそれぞれは、基線とは異なる。
【0047】
基線は、各システムに固有の雑音が存在するため、信号がなくても、時間の関数として数回交差してもよい。レベルがゼロの閾値、すなわち基線の交差は、信号が存在しないか否かにかかわらず、雑音の影響を受ける可能性がある。このため、本発明による方法の様々な閾値レベルNiから、基線は有利に省略される。
【0048】
一実施形態によれば、この方法は、心臓信号を皮下に捕捉するように構成されている能動インプラント型医療機器のインプラント型リードを介して、捕捉された少なくとも1つの心臓信号を受信するための工程をさらに含むことができる。
【0049】
したがって、この方法は、皮下に捕捉された心臓信号を処理するように構成されている。事実上、この方法は、QRS複合波、P波およびT波の全ての成分を含むこの種の心臓信号を処理するために適応される。このため、この方法は、皮下に捕捉された心臓信号の形態学的特性および振幅特性の決定のために構成されている。
【0050】
一実施形態によれば、この方法は、心臓信号によって2つの連続した閾値レベルNi=nとNi=n+1の交差間の間隔を決定するための工程をさらに含むことができる。
【0051】
このように、心臓信号の誘導体に類似した値が得られ、これは、人工物からQRS複合波のピークのように、同じ強度だが異なる形態の2つの事象を識別できることを意味する。
【0052】
本発明の目的は、また、皮下能動インプラント型医療装置の、ハウジングと、ハウジングに接続されたインプラント型皮下リードと、心臓信号を皮下で捕捉するように構成された、1つまたはそれ以上の感知電極を含む皮下インプラント型リードと、皮下リードによって捕捉された心臓信号の、少なくとも1つからの心臓信号を処理するための方法を実行するように構成された、制御回路とをさらに含む手段によって達成される。
【0053】
本発明およびその利点は、以下で、好ましい実施形態で、特に以下の図を参照して以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1b】既知の先行技術の方法に従った心臓信号および一定の閾値を表す。
【
図1c】既知の先行技術の方法に従った心臓信号および可変閾値を表す。
【
図2】本発明の方法に従った心臓信号および複数の閾値を表す。
【
図3】本発明の方法に従った心臓信号および複数の経過時間を表す。
【
図4a】本発明の方法の例に従った心臓信号および複数の経過時間を表す。
【
図4b】本発明の方法の
図4aの心臓信号から決定された複数の経過時間を含む第1のヒストグラムを表す。
【
図4c】本発明の方法の
図4aの心臓信号から決定された複数の経過時間を含む第2のヒストグラムを表す。
【
図5a】本発明の方法に従って心臓信号から決定された複数の経過時間を含む第3のヒストグラムを表す。
【
図5b】
図5aに図示された第3のヒストグラムの拡大図である。
【
図6】本発明による心臓信号から人工物を識別するために決定された2つのプロットを表す。
【
図7a】正常洞調律に対する心臓信号および対応するヒストグラムを表す。
【
図7b】心室細動エピソードへのアプローチ時の心臓信号および対応するヒストグラムを表す。
【
図7c】心室細動エピソードの第1の周期の前の2秒未満の心臓信号および対応するヒストグラムを表す。
【
図7d】心室細動エピソード中の心臓信号および対応するヒストグラムを表す。
【0055】
ここで、本発明は、有利な実施形態を用いて、実施例の方法により、および図を参照して、より詳細に記述される。実施形態は、可能で単純な構成であり、本発明を実施する際には、上記のような個々の特徴が互いに独立して提供され得るか、または完全に省略され得ることを念頭に置くべきである。
【0056】
図2の線Cは、時間の関数としての心電図(ECG)の心臓信号を表す。
【0057】
横線は、すなわち時間軸と平行な横線は、
図2の例においてi=1~14で、複数の閾値レベルN
iを表している。本発明によれば、閾値レベルN
iの数は変化し得るが、3と同等またはそれより上のままである。ここにある閾値レベルN
iが多くなるほど、心臓信号の統計的パラメータの決定が良好になることに留意すべきである。したがって、より多くの閾値レベルN
iを考慮に入れることは、特に心臓信号の振幅の変動を検出するための方法の堅牢性を改善できることを意味する。
【0058】
図2の円のそれぞれは、心臓信号によるある閾値レベルN
iの上向き方向への交差、すなわち、心臓信号の増加値による交点を表す。したがって、各円は心臓信号と閾値レベルN
iの交点l
i,jに相当し、
図2の例ではi=1~14およびj=1~9である。
【0059】
変形例では、心臓信号による各閾値レベルの交差は、下向き方向、すなわち、心臓信号の減少値によって考慮され得る。
【0060】
別の変形例では、心臓信号による閾値レベルNiの2方向(上向きと下向き)の交差が同時に想定されることがある。
【0061】
図2に示した例では、レベルゼロに相当する閾値レベルが意図的に省略されている。なぜなら、それは、各物理系に固有の雑音により、信号がなくても、時間数回交差することができる基線に相当するからである。したがって、ゼロレベル閾値の交差は、信号の存在にかかわらず雑音の影響を受ける可能性があるため、i=1~14の複数の閾値レベルN
iは意図的にゼロ以外である。
【0062】
図2に示した例では、異なる閾値レベルN
iのそれぞれに対する値は、経時的に一定である。したがって、本方法は、既知の先行技術の方法と同様に、時間の関数として連続的に調整される閾値レベルを必要としない。このため、計算コストを削減でき、方法が簡素化される。
【0063】
変形例では、異なる閾値レベルNiに対する値は、経時的に変化してもよい。このように、異なる閾値レベルNiは、有利には、昼の時間(睡眠相、活動相)および/または患者のライフスタイルに適応され得る。
【0064】
図2に示した例に従えば、i=1~7とi=8~14の閾値レベルN
iは、同じ間隔「p」で連続的に隔てられており、閾値レベルN
i間の間隔、すなわち間隔「p」の値が固定される場合もあれば、経時的に変化する場合もあることに留意する必要がある。
【0065】
このように、異なる閾値レベルNiは、方法の堅牢性をさらに改善するような方法で、心臓信号に関して有利に配置され得る。加えて、本発明の方法は、心臓信号の最小振幅および最大振幅の決定を含み得、その結果、異なる閾値レベルNiの値が、心臓信号の最小振幅および最大振幅に対応する最小値と最大値との間にそれぞれ含まれるように選択される。
【0066】
したがって、これは、時間、心臓信号が常に少なくとも複数の閾値Niを通過することを保証する。しかしながら、時間、心臓信号が閾値Niの全てを通過するわけではないことを理解すべきである。
【0067】
本発明によれば、心臓信号は閾値N
iの全てと同時に比較され、これは閾値の交差の統計的モデルを得ることができることを意味する。この方法の例を、
図3および
図4a、4bおよび4cに例示する。
【0068】
本発明による方法は、
図2を参照して説明されるように、i=1~nが3と同等またはそれより上、すなわち少なくとも3つの異なる閾値レベルN
iの数nを提供することで構成され、および所定の時間Tおよび閾値レベルN
iごとに、心臓信号の閾値レベルN
iとの少なくとも2つの連続する交点l
i,jを検出し、心臓信号と閾値レベルN
iとの値の増加および/または減少ごとに1つの交差を考慮して検出することからなる。
【0069】
i=1~nである各閾値レベルN
iについて、第1の経過時間Δ
1t
iは、閾値レベルN
iを有する心臓信号の2つの連続する交点I
i,jとI
i,j+1の間で決定される。第1の経過時間Δ
1t
iは、時間Tからの直近の交差と、同じ閾値レベルの2回目の直近の交差との差に相当する。
図3では、セグメントΔ
1t
iは、信号と閾値N
1の第1交点I
1,1と第2交点I
1,2との間の閾値レベルN
1との間の時間Tからの第1の経過時間を表す。同様に、セグメントΔ
1t
13は、信号と閾値N
13の第1交点I
13,1と第2交点I
13,2との間の閾値レベルN
13の時間Tからの第1の経過時間を表す。
【0070】
さらに、各閾値レベルN
iについて、i=1~nで、第2の経過時間Δ
2t
iは、所定の時間Tからの直近の交点I
1,jと直近の第3交点I
1,j+2との間の閾値レベルN
iごとに決定される。第2の経過時間Δ
2t
iは、時間Tからの直近の交差と、同じ閾値レベルの3回目の直近の交差との差に相当する。
図3では、セグメントΔ
2t
iは、信号と閾値N
1の第1交点I
1,1と第3交点I
1,3との間の閾値レベルN
1の時間Tからの第2の経過時間を表す。同様に、セグメントΔ
2t
13は、信号と閾値N
13の第1交点I
13,1と第3交点I
13,3との間の閾値レベルN
13の時間Tからの第2の経過時間を表す。
【0071】
心臓信号に対する少なくとも1つの統計パラメータの決定は、複数の閾値レベルNiを同時に考慮することによって、第1の経過時間Δ1tiと第2の経過時間Δ2tiを比較することによって得られる。
【0072】
明確にするために
図3には示されていないが、第1の経過時間Δ
1t
iと第2の経過時間Δ
2t
iは、閾値レベルN
iごとに決定されていることに留意したい。
【0073】
また、最低閾値に相当する閾値レベルN
14(
図2に図示)は、心臓信号が
図3に図示された時間の窓において閾値N
14を越えないため、
図3の表現から意図的に省略されていることに留意したい。この方法は、信号が閾値N
iのすべてを越えることを必要としないことがわかる。この方法は、単一の閾値に基づく既知の方法と比較して、信号の振幅の変動に対してさらに耐性がある。有利なことに、本方法は、信号が最小数の閾値、すなわち少なくとも3つ、特に少なくとも10を通過することを条件として、心臓信号の振幅の遅い変動と突然の変動の両方に耐えることができ、その結果、以下に説明するように、ある情報を信号から抽出することができる。
【0074】
図4a、4bおよび4cは、本発明による心臓信号を処理するための方法の連続する工程を表す。
図2および
図3で既に使用されている同じ参照数字をもつ要素は、再度詳細には記載しないが、上記のそれらの記述を参照すること。
【0075】
図4aは、複数の交点I
i,jで信号を通過する心臓信号および閾値レベルN
iを表している。
図3を参照して説明されたが、本発明の方法は、第1の経過時間Δ
1t
iおよび第2の経過時間Δ
2t
iを決定する段階を含む。明確にするために、Δ
1t
1およびΔ
2t
1の経過時間のみが、
図4aの第1の閾値N
1に対して示される。他の閾値レベルN
iの経過時間の決定は、参考とする
図3に記載されたものと同様の方法で行われていることに留意しなければならず、再度詳細には記載しない。
【0076】
心調律を決定するための心臓信号の期間のような、心臓信号から統計的パラメータを抽出するために、例えば、持続時間Δ1tiおよびΔ2tiの集合によって供給される情報から、前記持続時間Δ1tiおよびΔ2tiは、ヒストグラムの手段によってグラフで表される。
【0077】
図4bは、このようなヒストグラムを示しており、このヒストグラムでは、ドットで満たされた棒は、第1の経過時間Δ
1t
iの二乗の観測数N
1,iの分布に対応し、斜線で満たされた棒は、第2の経過時間Δ
2t
iの二乗の数N
2.iの分布に対応する。
図4bのヒストグラムの横軸は秒単位の時間間隔を表し、ヒストグラムの縦軸はそれぞれの時間間隔で観察されたΔ
1t
iおよびΔ
2t
iの経過回数を表している。
【0078】
特に、信号の振幅の減少などの理由で、所定の期間を超えて長期間更新されなかった持続時間Δ1tiおよびΔ2tiは、ヒストグラムには考慮されていないことに留意されたい。心臓信号に最も頻繁に現れる経過時間をさらに強調するために、経過時間Δ1tiおよびΔ2tiの発生数をヒストグラムの表示で二乗する。
【0079】
特に、心電図の固有の出現のために、経過時間Δ
1t
iおよびΔ
2t
iの一般的な値の最大値がヒストグラムに出現する。経過時間Δ
1t
iおよびΔ
2t
iの出現頻度が最も高い時間間隔(すなわち、最も高い棒)は、検出されるべき心臓信号の期間であるとみなすことができる。
図4bに示した例では、t=0.7sを中心とした時間間隔で、第1の経過時間Δ
1t
iと第2の経過時間Δ
2t
iの発生の大部分が観察される。
【0080】
t=1.5sを中心とした時間間隔では、第2の経過時間Δ2tiの発生のみが観察されるが、第1の経過時間Δ1tiは観察されないことが観察される。
【0081】
図4cでは、経過時間Δ
1t
iおよびΔ
2t
iの発生頻度が加算され、次いでヒストグラムをより読みやすくするために2乗され、ヒストグラムの他の棒と比較して、最も高い棒をさらに高くする。この側面については、以下の表1を使ってさらに詳しく説明する。
【0082】
以下の表1は、
図4aに図示した心臓信号の時間間隔ごとの発生頻度を表す。
【0083】
【0084】
図4bのヒストグラムは表1の値(Δ
1t
i)
2と(Δ
2t
i)
2を表し、
図4cのヒストグラムは表1の値(Δ
1t
i+Δ
2t
i)
2を表している。したがって、
図4cのヒストグラムの最も高い棒は100の値に相当する。したがって、本方法によれば、
図4aに示される心臓信号の期間が、所定の時間Tからt=0.7sの中心に置かれたヒストグラムの時間間隔によって示される、持続時間に相当することを決定するために、統計的方法が用いられている。
【0085】
図4cの例では、結果を偽ることなく考慮される低振幅成分が存在するにもかかわらず、ヒストグラムが心調律に対する正しい値を強調することが観察され、なぜなら低振幅成分が交差する閾値については、Δ
2t
iの値が不応性の適切な値を示すためである。このため、低振幅成分は存在しているものの、心調律の解釈には何も変化しない。したがって、本方法は、既知の先行技術の方法よりも人工物に対してさらに耐性がある。
【0086】
ヒストグラムの各時間間隔は時間値の範囲に対応し、
図4bおよび4cの横軸に沿って示される時間値を中心にしていることに留意すべきである。たとえば、
図4cのt=0.7sの値を中心とした時間間隔は、t=0.65s~t=0.75sの範囲の時間値の範囲に相当する。
【0087】
変形例では、心臓信号の最も頻繁な期間の持続時間を、所定の範囲内でより正確に決定することが可能である。
図5aは、上述の本発明の方法に従った、心臓信号から決定された複数の経過時間の棒を有するヒストグラムを例示する。
図5bは
図5aに示されたヒストグラムの最も高い棒を拡大した図である。t=0.18s~t=0.22sまでの間に対応し、t=0.20の値を中心とする。また、
図5bは、t=[0.18;0.22]の範囲内での経過時間の分布を示している。経過時間のそれぞれの時間値は、
図5bの円で示してある。この分布から経過時間の平均値を求めることができる。変形例では、経過時間の中央値が何で決定されてもよい。
【0088】
図5bに示された例では、時間間隔t=[0.18;0.22]の経過時間Δ
1t
iの平均値は、t=0.195sを有するt=0.20sの値の中心となる。
【0089】
変形例では、経過時間の平均は、ヒストグラムの1本の棒の幅によって、1つの定義された時間間隔よりも広い範囲の値で決定される。心臓信号による閾値N
iの交差はまた、2つの連続した閾値N
i=nおよびN
i=n+1の閾値の交差間の間隔を決定するために使用され得る。したがって、プロットAおよびBを示す
図6を参照して以下に説明するように、心臓信号の誘導体に類似した値が得られ、これを用いて、同じ強度であるが異なる形態の2つの事象を区別することができる。
【0090】
プロットAは、心臓信号11、特に整流心臓信号11を表し、参照番号13および15で示される2つのピークを含む。プロットAには、4つの閾値レベルN1、N2、N3、N4も示されている。
【0091】
プロットBは、心臓信号11が閾値レベルN1~N4の1つを越える時間(プロットB上の各垂直線で示す)を表す。
【0092】
時間間隔17は、閾値レベルN1のピーク13による連続した交差と次の閾値レベル、すなわち閾値レベルN2との間で定義される。同様に、時間間隔19は閾値レベルN1のピーク15と閾値レベルN2による交差間で定義される。同様に、複数の時間間隔が、閾値レベルNiの残りのピーク13および15によって交差するために規定される。
【0093】
図6のプロットBに示すように、ピーク13に関する閾値レベルの2つの交差間の時間間隔は、ピーク15に関する閾値レベルの2つの交差間の時間間隔よりも短い。時間間隔17は時間間隔19よりも短いことが観測される。
【0094】
プロットBに示されたように時間区間17、19によって提供される情報から、次に、心臓信号の2つの異なるタイプのピーク、特に、心調律に関連するピーク(プロットAのピーク13など)と人工物によって発生したピーク(プロットAのピーク15など)とを区別することが可能になる。
【0095】
さらに、複数の閾値レベルN
iが同時に考慮されるので、本方法は、心室細動中の心調律の検出に適応される。これは、処理方法が、例えば、人工物のような特定の事象に、さらに堅牢かつ信頼性が高く、かつ依存性が低いことが示されているからである。この様相は、
図7a~7dを使ってさらに記述され、以下に図示される。
【0096】
図7a~7dは、正常洞調律から心室細動(以下「VF」と略す)のエピソードへの移行の間に、本方法が反応する様式を図示する。各
図7は、
図4bおよび4cと同様の方法で決定された、心臓信号および2つの対応するヒストグラムを表す。
【0097】
図7aは、ヒストグラムによって示される、心周期期間に対する優勢な持続時間が、値t=0.7sに集中する間隔の最も高い棒に相当することを決定するために、本方法を使用することができる正常洞調律を例示する。心室細動が近づくにつれて、心調律の加速は、本方法を用いて既に知覚可能である。実際、
図7bに見られるように、VF期間が始まるとすぐに、ヒストグラムはより分散し始め、心調律の「乱れ」を示している。しかし、心臓のリズムは依然として比較的遅く、t=0.55sにおける
図7bのヒストグラムに代表される圧倒的な持続期間となる。
【0098】
心室細動は一般的に、急速で規則的な心室頻拍の攻撃として始まり、それが複数の波帯に分裂する。VFエピソードの直前および/または開始直後の心臓信号の振幅の突然の減少は、通常観察される典型的な現象である。しかしながら、既知の方法の従来のアプローチでは、先行技術のアルゴリズムが信号の新しい振幅に適応し始める前に、かつては心調律を正しく検出することができる一定の周期数がしばしば見逃されることがわかった。
【0099】
図7cのヒストグラムは、(
図7aとの比較により)正常洞調律について追跡されたものよりさらに分散している。
図7cのヒストグラムの棒の分散は、心調律の乱れを示している。さらに、ヒストグラムの棒の左に向かうオフセット、すなわち、心調律の加速が観察できる。したがって、本方法は、VFエピソードが始まる直前、すなわち、VF中の最初の心臓周期の前に、心調律の加速を検出するために使用することができる。
図7aのヒストグラムの最も高い棒は、
図7cではほとんど見えない。
【0100】
本発明によるいくつかの閾値レベルの存在のために、また、既知の技術方法とは対照的に、本方法は、振幅が有意に低下していても、VFエピソードへのアプローチ時に心臓信号を監視するために使用することができる。実際、
図7cは、本方法の複数の閾値レベルによって、VFエピソードに先行する、t=372sとt=373sとの間の、ほぼ1秒の間の信号の振幅の変化の検出を図示する。
【0101】
このように、本方法は、既知のアルゴリズムと比較して、VFエピソードに向かう遷移の検出を改善するために使用することができる。
【0102】
図7dは、心室細動のエピソード中の心臓信号を図示する。ウェーブレットの形態における信号の形態から、t=373の前後の信号の振幅によって
図7dに見られるように、VFエピソードの間に、VFエピソードに先行する心臓信号の振幅と比較して、信号の振幅が減少することが観察されるであろう。
図7dのヒストグラムは、
図7cに示されたものより分散の少ない分布を強調しているが、
図7aのものより低い値をもつ時間間隔を含んでいる。実際、
図7dの最も高い棒はt=0.2sの値を中心にしている。
【0103】
このように、本方法では、特にヒストグラムを構成する棒の分散および変位を観察することにより、ヒストグラムを用いて、正常心調律からVFエピソードへの心調律の変遷を観察することが可能である。
【0104】
一実施形態によれば、この方法は、心臓信号を皮下に捕捉するように構成されている能動インプラント型医療装置のインプラント型リードを介して、少なくとも1つの心臓信号を受信するための工程をも含むことができる。
【0105】
したがって、この方法は、皮下で捕捉された心臓信号を処理するように構成される。この方法は、事実上、全ての部品が存在するこの種の心臓信号、すなわちQRS複合波、P波およびT波を処理するのに適している。このため、この方法は、皮下で捕捉された心臓信号の形態学的および信号振幅特性の決定のために構成されている。
【0106】
図7a~7dに示すように、ヒストグラムが実質的に等しい高さの互いに異なる2本の棒からなり、経過時間Δ
2t
iのそれぞれが、経過時間Δ
2t
iの2倍に相当するという事実によって互いに区別されている特定の場合、本方法は、より小さい値を有する時間間隔、すなわち、統計パラメータの決定のための経過時間Δ
1t
iに相当する時間間隔を選択するように構成されることに留意すべきである。
【0107】
例えば、ヒストグラムが並列した2本の棒で構成され、かつ、経過時間の特定の値が、ある区間と他の区間の境界にあるなどの理由で、実質的に等しい高さの2本の棒で構成されている場合には、ヒストグラムの各棒を半期ずつオフセットすることにより、時間解析を行うことができる。変形例では、経過時間をヒストグラムで表すのではなく、経過時間の時間的分布を考慮してもよい。この変形例では、経過時間に対する時間分布曲線の最大値が決定され、統計パラメータの決定に用いられる。
【0108】
本発明はまた、ハウジングと、ハウジングにつながるインプラント型皮下リードと、心臓信号が皮下で捕捉される1つまたはそれ以上の感知電極を含むインプラント型皮下リードとを含む皮下能動インプラント型医療機器に関する。さらに前記装置は、特にリアルタイムで、皮下リードによって捕捉された心臓信号の少なくとも1つから、本発明による方法を実施するように構成された制御回路を含む。皮下除細動器において、皮下リードによって検出された心臓信号は、
図2、3および4aに例示されるように、全ての部品(QRS波、PおよびT波)が存在する標準表面心電図(ECG)の信号に類似していることに留意すべきである。
【0109】
装置のための制御回路はマイクロ制御装置を含み、マイクロ制御装置は、次に、プロセッサを含むことができる。