IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニオンツール株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-プリント配線板用ドリル 図1
  • 特許-プリント配線板用ドリル 図2
  • 特許-プリント配線板用ドリル 図3
  • 特許-プリント配線板用ドリル 図4
  • 特許-プリント配線板用ドリル 図5
  • 特許-プリント配線板用ドリル 図6
  • 特許-プリント配線板用ドリル 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】プリント配線板用ドリル
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20220913BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20220913BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20220913BHJP
   C23C 16/27 20060101ALI20220913BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
B23B27/14 A
B23B51/00 V
B23B27/20
C23C16/27
C23C14/14 D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020198714
(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公開番号】P2021122934
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2021-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2020020113
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000115120
【氏名又は名称】ユニオンツール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(72)【発明者】
【氏名】大堀 鉄太郎
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-034673(JP,A)
【文献】特開2006-152424(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065706(WO,A1)
【文献】特開2009-280853(JP,A)
【文献】特開2002-120129(JP,A)
【文献】特開2020-069571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23B 27/20
B23B 51/00
B23Q 17/22
C23C 14/14
C23C 16/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する工具基材がダイヤモンド皮膜により被覆され、プリント配線板との接触を電気的に検知し得るように構成されているプリント配線板用ドリルであって、前記工具基材の先端部より基端側に該先端部に比して径小な所定長のアンダーカット部が設けられ、このアンダーカット部を含むようにして工具先端から基端側に向かって切屑排出溝が設けられ、さらに、前記切屑排出溝に沿って凹み段差面が形成され、前記プリント配線板と接する部位にして前記ダイヤモンド皮膜には、前記工具基材と通電する導電性皮膜が設けられ、さらに、前記凹み段差面にも前記導電性皮膜が設けられていることを特徴とするプリント配線板用ドリル
【請求項2】
請求項1記載のプリント配線板用ドリルにおいて、前記導電性皮膜は前記ダイヤモンド皮膜を覆うように設けられていることを特徴とするプリント配線板用ドリル
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載のプリント配線板用ドリルにおいて、前記導電性皮膜は前記ダイヤモンド皮膜上に直接該ダイヤモンド皮膜を覆うように設けられていることを特徴とするプリント配線板用ドリル
【請求項4】
請求項1~3いずれか1項に記載のプリント配線板用ドリルにおいて、前記導電性皮膜は前記ダイヤモンド皮膜及び前記工具基材を覆うように設けられていることを特徴とするプリント配線板用ドリル
【請求項5】
請求項1~4いずれか1項に記載のプリント配線板用ドリルにおいて、前記導電性皮膜は周期表の第4族、第5族、第6族、第10族及び第11族に属する金属元素並びにAlからなる群より選択される単一金属若しくは前記群より選択される1種類若しくは2種類の金属元素を主成分とする合金であることを特徴とするプリント配線板用ドリル
【請求項6】
請求項5記載のプリント配線板用ドリルにおいて、前記導電性皮膜はTi、Cr及びAlのいずれかの単一金属若しくはTi、Cr及びAlのいずれか1種類若しくは2種類を主成分とする合金であることを特徴とするプリント配線板用ドリル
【請求項7】
請求項6記載のプリント配線板用ドリルにおいて、前記導電性皮膜はCr若しくはAlの単一金属又はCrとAlとの合金からなることを特徴とするプリント配線板用ドリル
【請求項8】
請求項7記載のプリント配線板用ドリルにおいて、前記導電性皮膜はAlの単一金属若しくは以下の組成式で示される合金であることを特徴とするプリント配線板用ドリル
Cr(100-x)Al(x) (ただし、50≦x<100、また、xは原子%)
【請求項9】
請求項1~8いずれか1項に記載のプリント配線板用ドリルにおいて、前記ダイヤモンド皮膜は、膜厚が3μm以上25μm以下に設定されていることを特徴とするプリント配線板用ドリル
【請求項10】
請求項1~9いずれか1項に記載のプリント配線板用ドリルにおいて、前記ダイヤモンド皮膜上の前記導電性皮膜は、膜厚が0.005μm以上3μm以下に設定されていることを特徴とするプリント配線板用ドリル
【請求項11】
請求項1~10いずれか1項に記載のプリント配線板用ドリルにおいて、前記工具基材は超硬合金製であることを特徴とするプリント配線板用ドリル
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具に関するものであり、特に、工具基材がダイヤモンド皮膜に被覆されているダイヤモンド被覆切削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プリント配線板(PCB)は軽薄短小化が進み、要求される電気的信頼性の高度化に伴い、高耐熱化、高放熱化及び高剛性化が求められている。そこで、これらの要求を満足するためにプリント配線板の構成材料であるガラス繊維強化樹脂(GFRP)への無機フィラーの高充填化やガラス繊維の高密度化が図られている。
【0003】
しかしながら、プリント配線板の無機フィラー量やガラス繊維量が増加すると、プリント配線板の穴明けに用いられるプリント配線板用ドリル(以下、PCBドリルと称す。)の切れ刃が摩耗し易くなり、このPCBドリルの切れ刃が摩耗すると、穴位置精度の悪化、内壁面の粗度の悪化及びPCBドリルの折損などの不具合が生じる。
【0004】
そこで、PCBドリルには、通常、切れ刃の摩耗を抑制し、切れ刃の摩耗に伴う加工穴品質の低下を防止すると共に工具寿命を改善する目的で工具基材が種々のコーティング膜に被覆されている(特許文献1等参照)。
【0005】
ところで、プリント配線板の穴明けに用いられる加工設備(例えばNCボール盤)には、PCBドリル先端とプリント配線板表面の銅箔層との接触を電気的に検知(PCBドリル先端とプリント配線板表面の銅箔層との電気的導通を検知)することで、PCBドリル先端とプリント配線板表面との接触位置を検出してPCBドリルの穴明け基準位置とし、この穴明け基準位置をもとにして穴明け深さを制御する機能を備えるものや、PCBドリル先端とプリント配線板表面の銅箔層との接触を電気的に検知できない場合、PCBドリル先端が折損していると判断する折損検知機能を備えるものがある。
【0006】
ここで、PCBドリルに被覆されるコーティング膜の中にはダイヤモンド皮膜のように電気抵抗値が大きく電気的に導通しにくいものがあり、コーティング膜が被覆されないドリル(ノンコートドリル)に比べて電流が流れにくいため、PCBドリル先端とプリント配線板表面の銅箔層との接触を電気的に検知できなかったり検知しにくくなったりする場合がある。このような場合、穴明けの深さ制御が良好に行えず、穴明け深さ(加工深さ、プリント配線板表面からの距離)を精度良く管理できなくなったり、PCBドリルの折損検知機能に誤検知が生じ穴明け加工を中断してしまうなどの不具合が生じることがある。
【0007】
なお、例えば、特許文献2には、多結晶ダイヤモンド皮膜にB(ホウ素)を添加することでダイヤモンド皮膜自体に導電性を付与する技術が開示されているが、この場合、内部応力の増大により多結晶ダイヤモンド皮膜と工具基材である超硬合金との密着性が低下することが知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2009-544481号公報
【文献】特開2006-152424号公報
【文献】国際公開第2013/105348号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のとおり、ダイヤモンド皮膜にB(ホウ素)を添加することで皮膜に導電性を付与する従来技術は、皮膜の持つ内部応力により密着性の低下の懸念があり、十分な問題の解決策になっていない。
【0010】
本発明はこのような現状に鑑みなされたものであり、工具基材がダイヤモンド皮膜に被覆されていても、工具基材と被削材との間に良好な電気的導通を実現可能とし、電気的導通を利用した穴明け深さの制御や折損検知を精度良く行うことができるプリント配線板用ドリルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0012】
導電性を有する工具基材1がダイヤモンド皮膜2により被覆され、プリント配線板との接触を電気的に検知し得るように構成されているプリント配線板用ドリルであって、前記工具基材1の先端部より基端側に該先端部に比して径小な所定長のアンダーカット部8が設けられ、このアンダーカット部8を含むようにして工具先端から基端側に向かって切屑排出溝10が設けられ、さらに、前記切屑排出溝10に沿って凹み段差面11が形成され、前記プリント配線板と接する部位にして前記ダイヤモンド皮膜2には、前記工具基材1と通電する導電性皮膜3が設けられ、さらに、前記凹み段差面11にも前記導電性皮膜3が設けられていることを特徴とするプリント配線板用ドリルに係るものである。
【0013】
また、請求項1記載のプリント配線板用ドリルにおいて、前記導電性皮膜3は前記ダイヤモンド皮膜2を覆うように設けられていることを特徴とするプリント配線板用ドリルに係るものである。
【0014】
また、請求項1,2いずれか1項に記載のプリント配線板用ドリルにおいて、前記導電性皮膜3は前記ダイヤモンド皮膜2上に直接該ダイヤモンド皮膜2を覆うように設けられていることを特徴とするプリント配線板用ドリルに係るものである。
【0015】
また、請求項1~3いずれか1項に記載のプリント配線板用ドリルにおいて、前記導電性皮膜3は前記ダイヤモンド皮膜2及び前記工具基材1を覆うように設けられていることを特徴とするプリント配線板用ドリルに係るものである。
【0016】
また、請求項1~4いずれか1項に記載のプリント配線板用ドリルにおいて、前記導電性皮膜3は周期表の第4族、第5族、第6族、第10族及び第11族に属する金属元素並びにAlからなる群より選択される単一金属若しくは前記群より選択される1種類若しくは2種類の金属元素を主成分とする合金であることを特徴とするプリント配線板用ドリルに係るものである。
【0017】
また、請求項5記載のプリント配線板用ドリルにおいて、前記導電性皮膜3はTi、Cr及びAlのいずれかの単一金属若しくはTi、Cr及びAlのいずれか1種類若しくは2種類を主成分とする合金であることを特徴とするプリント配線板用ドリルに係るものである。
【0018】
また、請求項6記載のプリント配線板用ドリルにおいて、前記導電性皮膜3はCr若しくはAlの単一金属又はCrとAlとの合金からなることを特徴とするプリント配線板用ドリルに係るものである。
【0019】
また、請求項7記載のプリント配線板用ドリルにおいて、前記導電性皮膜3はAlの単一金属若しくは以下の組成式で示される合金であることを特徴とするプリント配線板用ドリルに係るものである。
Cr(100-x)Al(x) (ただし、50≦x<100、また、xは原子%)
【0020】
また、請求項1~8いずれか1項に記載のプリント配線板用ドリルにおいて、前記ダイヤモンド皮膜2は、膜厚が3μm以上25μm以下に設定されていることを特徴とするプリント配線板用ドリルに係るものである。
【0021】
また、請求項1~9いずれか1項に記載のプリント配線板用ドリルにおいて、前記ダイヤモンド皮膜2上の前記導電性皮膜3は、膜厚が0.005μm以上3μm以下に設定されていることを特徴とするプリント配線板用ドリルに係るものである。
【0022】
また、請求項1~10いずれか1項に記載のプリント配線板用ドリルにおいて、前記工具基材1は超硬合金製であることを特徴とするプリント配線板用ドリルに係るものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明は上述のように構成したから、工具基材がダイヤモンド皮膜に被覆されている構成でありながら、良好に工具基材と被削材との接触を電気的に検知することができ、穴明け深さの制御や折損検知を精度良く行うことができるプリント配線板用ドリルとなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施例を示す概略説明図である。
図2図1におけるA部分の説明断面図である。
図3】本実験の各PCBドリルへの皮膜条件及び評価結果を示す表である。
図4】本実験の評価結果を皮膜条件ごとにまとめた表である。
図5】導電性皮膜にCrAl合金を用いた場合のAl含有率に対する性能(穴加工動作回数)を示すグラフである。
図6】本実施例の別例を示す概略説明図である。
図7】本実験の溝長に対する加工穴深さ若しくは凹み段差長さの割合及び評価結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0026】
本発明は、導電性を有する工具基材1がダイヤモンド皮膜2により被覆され、さらに被削材と接する部位若しくはその周囲のダイヤモンド皮膜2には導電性皮膜3が前記工具基材1と通電するように設けられているから、本発明とプリント配線板表面の銅箔層との接触を電気的に検知することが可能となる。
【0027】
したがって、本発明は工具基材1がダイヤモンド皮膜2に被覆された構成であっても、電気的導通を利用し穴明け深さ(加工深さ、プリント配線板表面からの距離)を精度良く管理する穴明け深さ制御機能や加工中のPCBドリルの折損の有無を検知する折損検知機能を備える加工設備に用いることができる。
【実施例
【0028】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0029】
本実施例は、本発明の切削工具をPCBドリルに適用した場合である。
【0030】
具体的には、本実施例は、導電性を有する工具基材1がダイヤモンド皮膜2により被覆され、さらに被削材と接する部位若しくはその周囲のダイヤモンド皮膜2には導電性皮膜3が前記工具基材1と通電するように設けられており、工具基材1が電気的に導通しにくいダイヤモンド皮膜2に被覆されている構成であっても、プリント配線板表面の銅箔層との接触を電気的に検知することができ、ドリル先端とプリント配線板表面の銅箔層との接触を電気的に検知できない場合、ドリル先端が折損していると判断する折損検知機能を備える加工設備(例えばNCボール盤)に用いることができるように構成されるPCBドリルである。
【0031】
以下、本実施例に係る構成各部について詳述する。
【0032】
本実施例の工具基材1は導電性を有する超硬合金製であり、具体的には、WC(炭化タングステン)とCo(コバルト)とからなる超硬合金製である。
【0033】
また、この工具基材1を被覆するダイヤモンド皮膜2は、工具基材1の直上に化学蒸着法により所定の膜厚で所定の領域に形成されている。
【0034】
具体的には、本実施例においては、ダイヤモンド皮膜2は、図1(a)に示すように、ドリル先端(工具基材1の先端)からドリル基端部(工具基材1の基端部)に位置するシャンク部4(プリント配線板用加工装置の工具取り付け部に連結する部分)の先端側に掛かる領域(以下、ダイヤモンド皮膜被覆領域部5と称す。)に形成されている。
【0035】
また、ダイヤモンド皮膜2は、膜厚が薄すぎると耐摩耗性が得られずPCBドリル(切削工具)としての性能が十分に得られず、また、膜厚が厚すぎると切れ刃の刃先が丸まることで切削抵抗が増大し折損寿命が悪化したり、被削材に対する切れ味が低下することで加工した穴の内壁面が荒れたり銅箔層にてバリが発生するなどの加工品質の低下が生じたりしてしまうことから、本実施例においては、これらの発生を回避するため、ダイヤモンド皮膜2は3μm以上25μm以下の膜厚に設定されている。
【0036】
なお、このダイヤモンド皮膜2は単層構成、多層構成(結晶の大きさの異なる層が複数層形成される構成)のいずれのものでも良い。
【0037】
また、本実施例は、工具基材1を被覆しているダイヤモンド皮膜2の直上にして、被削材(プリント配線板)と接する部位若しくはその周囲に、ダイヤモンド皮膜2を覆うように、且つ工具基材1と通電するようにして導電性皮膜3が設けられている。
【0038】
具体的には、本実施例においては、導電性皮膜3は、図1(a)に示すように、ダイヤモンド皮膜被覆領域部5を覆うと共に、このダイヤモンド皮膜被覆領域部5に隣接する工具基材1が露出するシャンク部4に掛かる領域(以下、導電性皮膜被覆領域部6と称す。)に形成されている。
【0039】
すなわち、本実施例は、導電性皮膜3(導電性皮膜被覆領域部6)をダイヤモンド皮膜2(ダイヤモンド皮膜被覆領域部5)に対してドリル基端方向へより長めに設けることで、導電性皮膜3が超硬合金製の工具基材1と直接接する通電領域部7が形成され、ダイヤモンド皮膜2を被覆する導電性皮膜3と工具基材1とがこの通電領域部7において良好に通電するように構成されている。
【0040】
また、本実施例の導電性皮膜3は単一金属若しくは少なくとも2種の金属元素を含む合金からなる皮膜である。なお、この導電性皮膜3においては、不可避不純物元素が含まれている構成であっても良く、また、単層構成、多層構成のいずれのものでも良い。また、多層構成の場合、ダイヤモンド皮膜2の直上に単一金属又は少なくとも2種の金属元素を含む合金の皮膜を形成し、ダイヤモンド皮膜2への密着性を確保すれば、その他の層については電気的導通を確保できればいずれの組成の皮膜を用いても構わない。
【0041】
また、導電性皮膜3はダイヤモンド皮膜2に対してアンカー効果が得られ易い展延性が高い金属若しくは合金からなるものとすることが好ましく、これによりダイヤモンド皮膜2に対する密着性を向上させることができる。
【0042】
本実施例の導電性皮膜3について、さらに具体的に説明すると、本実施例の導電性皮膜3は、周期表の第4族、第5族、第6族、第10族及び第11族に属する金属元素並びにAlからなる群より選択される単一金属若しくは前記群より選択される1種類若しくは2種類の金属元素を主成分とする合金からなる皮膜である。
【0043】
上記単一金属若しくは合金のなかでも、Ti、Cr及びAlのいずれかの単一金属若しくはTi、Cr及びAlのいずれか1種類若しくは2種類を主成分とする合金の皮膜とすることで、ダイヤモンド皮膜2との密着性が良好となり、切削加工時に剥離が発生しにくいものとなる。
【0044】
さらにはCr若しくはAlの単一金属又はCrとAlとの合金の皮膜とすることで、耐久性にも優れた性能を発揮するものとなり、特にAlの単一金属皮膜若しくは以下の組成式で示されるCrとAlの合金皮膜とすることで、極めて優れた性能を発揮するものとなる。
Cr(100-x)Al(x) (ただし、50≦x<100、また、xは原子%)
【0045】
また、導電性皮膜3の膜厚(ダイヤモンド皮膜2上の導電性皮膜3の膜厚)は、膜厚が薄すぎると導電性が十分に確保できず、また、膜厚が厚すぎるとこの導電性皮膜3の内部応力により剥離し易くなってしまうことから、本実施例においては、これらの不具合の発生を回避するため、0.005μm以上3μm以下の膜厚に設定されている。
【0046】
なお、本実施例は、図1(b)に示すような、加工穴壁面とドリル外周部との接触面積を低減し、切削抵抗を軽減する目的で、PCBドリルの先端部よりも基端側の位置において一段径小となるアンダーカット部8が設けられる所謂アンダーカットドリルに構成しても良く、このアンダーカットドリルに構成した場合は、シャンク部4までダイヤモンド皮膜被覆領域部5が設けられる構成とする必要はなく、ドリル先端から最低限径小となるアンダーカット部8の適宜の位置までダイヤモンド皮膜被覆領域部5を設ければ良く、その場合にはアンダーカット部8にて通電領域部7が確保できるよう導電性皮膜3を設けても良く、また電気的導通が確保できれば任意の構成に設定し得るものである。
【0047】
また、本実施例は、上記アンダーカットドリルと同様の目的で、工具基材1を、工具先端から基端側に向かって切屑排出溝10が設けられ、この切屑排出溝10に沿って導電性皮膜3が設けられた凹溝若しくは凹み段差面11が形成されている構成としても良い。
【0048】
具体的には、図6(a)に示すような、切れ刃9を複数枚有し、この切れ刃9と同数の同じねじれ角の切屑排出溝10が設けられ、この切屑排出溝10に沿ってドリル外周部に工具先端から工具後端側へ向かって凹み段差面11(二番取り面)が設けられるタイプのドリルに構成しても良い。なお、この凹み段差面11を設けたドリル形状は、図6(a)に示すタイプの他に、図6(b)に示すような、一枚の切れ刃9を有し、一本の切屑排出溝10が設けられたタイプや、図6(c)に示すような、二枚の切れ刃9を有し、工具先端から任意の位置にて二本ある切屑排出溝10のいずれか一方若しくは二本共にねじれ角を変化させることで溝を合流させた形状のタイプなど、被削材の特性や要求される加工品質に応じ任意の構成に設定し得るものである。
【0049】
また、前記アンダーカットドリルに凹み段差面11を設ける構成とした場合は、凹み段差面11の深さhは、アンダーカット部8より深くするものとする(アンダーカット部8における外周部の回転軌跡の直径に対し、凹み段差面11の回転軌跡の直径の方が小さくなるようにする。)。
【0050】
これにより、プリント配線板の加工穴壁面とアンダーカット部8の外周部にある隙間に加工により生じた切屑が入り込み、導電性皮膜3に損傷を与えても、工具先端から通電領域部7へ凹み段差面11を通じて導電し易くなる。
【0051】
なお、加工時に凹み段差面11が加工穴内に埋没するような場合、アンダーカット部8の外周部にある導電性皮膜3が損傷し導電しにくくなるため、凹み段差長さ12は加工穴深さよりも長いことがより好ましく、例えば、加工穴深さが溝長Lの40%であれば、凹み段差長さ12は溝長Lの40%を超える長さに設定されていれば良く、また、加工穴深さが溝長Lの75%であれば、凹み段差長さ12は溝長Lの75%を超える長さに設定されていれば良く、任意にその構成を設定し得るものである。
【0052】
また、本実施例の導電性皮膜3は、図2に示すように、工具基材1を被覆しているダイヤモンド皮膜2と、このダイヤモンド皮膜2と連設状態にあるダイヤモンド皮膜2に被覆されていない工具基材1の一部(基材露出部)の両方を覆うように設けられているが、導電性皮膜3の被覆状態は、本実施例に記載されているものに限定されるものではなく、例えば、工具基材1を被覆しているダイヤモンド皮膜2の一部を除去し、その後、ダイヤモンド皮膜2と工具基材1が露出した部分を連続的に覆うように設けるなど、適宜設計変更可能なものとする。
【0053】
本実施例は以上のように構成したから、ダイヤモンド皮膜2を被覆するように導電性皮膜3を設けた構成でありながら、切れ刃の刃先が丸まることで切削抵抗が増大し折損寿命が悪化したり、被削材に対する切れ味が低下することで加工した穴の内壁面が荒れたり銅箔層にてバリが発生するなどの加工品質の低下が生じることなく良好な切削性能を保持しつつ、さらには工具基材1がダイヤモンド皮膜2に被覆されている構成でありながら、良好に工具基材1と被削材であるプリント配線板表面の銅箔層との接触を電気的に検知することができ、電気的導通を利用し穴明け深さ(加工深さ、プリント配線板表面からの距離)を精度良く管理する穴明け深さ制御機能や加工中のPCBドリルの折損の有無を検知する折損検知機能を備える加工設備に用いることができ、高品質なプリント配線板の切削加工(穴明け加工)を提供することができる切削工具(PCBドリル)となる。
【0054】
以下は、本実施例の効果を裏付ける実験(評価実験)である。
【0055】
本実験では、まずダイヤモンド皮膜2の膜厚、導電性皮膜3の材料、組成、膜厚及び夫々の皮膜の有無を変えた実験No.1~35の夫々のPCBドリルについて、電気的導通を利用し加工中のPCBドリルの折損の有無を検知する折損検知機能を備える加工設備(NCボール盤)に取り付けてプリント配線板の穴明け加工を行った際の折損誤検知までの穴加工数を評価し、次に、溝長Lに対する加工穴深さの割合と、溝長Lに対する凹み段差長さ12の割合を変えた実験No.36~42のPCBドリルについても、折損誤検知までの穴加工数を評価した。以下、本実験について具体的に説明する。
【0056】
本実験に使用したPCBドリルは、以下のようにして作成した。
【0057】
超硬合金製の工具基材1(シャンク径φ3.175mm、直径φ0.3mm)に熱フィラメント型化学蒸着装置を用い、工具基材1の温度を650℃~800℃、ガス圧力が一定になるように、Hガス、CHガス、及びOガスを導入しながら工具基材1上にダイヤモンド皮膜2を形成した。なお、ダイヤモンド皮膜2の膜構成は比較の単純化のため、単層構成とした。その後、物理蒸着装置を用い、工具基材1の温度を50℃~300℃に加熱、ガス圧力が一定になるように、Ar、N、CHガスを導入しながら金属蒸発源に取り付けた金属又は合金のターゲットを用い、50A~150Aの電流にて放電させ、工具基材1とダイヤモンド皮膜2との両方を覆うようにして所定の導電性皮膜3を形成した、言い換えると工具基材1とダイヤモンド皮膜2との両方に跨るようにしてダイヤモンド皮膜2を被覆する導電性皮膜3が工具基材1と接触するように所定の導電性皮膜3を形成した。
【0058】
具体的には、例えば、実験No.17のPCBドリルは、熱フィラメント型化学蒸着装置にて、ガス圧力500Pa、ガス流量比H:CH:O=100:3:1、工具基材1の温度700℃でダイヤモンド皮膜2を形成し、その後、アーク放電式イオンプレーティング装置にて、成膜装置内の金属蒸発源にはCrを用い、Arガスのみでガス圧0.5Paとし、バイアス電圧を-50V、工具基材1の温度200℃として導電性皮膜3を形成した。
【0059】
また、実験No.28のPCBドリルは、熱フィラメント型化学蒸着装置にて、ガス圧力500Pa、ガス流量比H:CH:O=100:1:0、工具基材1の温度800℃でダイヤモンド皮膜を形成し、その後、アーク放電式イオンプレーティング装置にて、成膜装置内の金属蒸発源にはCr30Al70を用い、Arガスのみでガス圧1.0Paとし、バイアス電圧を-100V、工具基材1の温度150℃として導電性皮膜3を形成した。
【0060】
また、実験(加工評価)は、一般的なプリント配線板を被削材として用い、穴明け加工を行い、このPCBドリルとプリント配線板表面の銅箔層との接触を電気的に検知することでPCBドリルに折損が生じているとの誤検知を回避することが可能な加工回数について、加工設備の折損検知機能を有効にし、折損アラームによる設備停止が生じるまでの穴加工動作回数を「折損誤検知までの加工動作回数」として評価した。
【0061】
具体的には、回転速度:100,000min-1、Z方向の送り速度1,500mm/minにて穴明け加工を行い、PCBドリル先端とプリント配線板表面の銅箔層との間で電気的導通を検知できず、PCBドリルに折損が生じていると誤検知されるまでの穴加工動作回数を評価した。
【0062】
図3は、本実験の各PCBドリルのダイヤモンド皮膜2及び導電性皮膜3の皮膜条件と夫々の加工評価結果を示す表である。
【0063】
図3の加工評価結果については、穴加工動作回数が多いほど結果は良好な結果を示している。具体的には、7,000回以上の良好な結果が得られたものの判定を「A」とし、以下、4,000回以上6,999回以下を「B」、2,000回以上3,999回以下を「C」、1,000回以上1,999回以下を「D」、2回以上999回以下を「E」、1回を「F」とした。また、例えば、図中の実験No.2は「折損誤検知までの穴加工動作回数」に「1」と記載してあるが、これは1穴目の加工時にプリント配線板表面の銅箔層にて導通を検知できず加工を停止したものである。また、誤検知ではなく、加工時の折損により折損アラームが生じた場合には、「折損誤検知までの穴加工動作回数」の右に「(折損)」と記載した。なお、本実験では、ダイヤモンド皮膜2と導電性皮膜3ともに成膜していないPCBドリル(実験No.1)や、導電性皮膜3のみを被覆した(ダイヤモンド皮膜2なし)PCBドリル(実験No.4)についても実験を行い記載した。
【0064】
また、本実験では、各PCBドリルの皮膜条件を、ダイヤモンド皮膜2なし(皮膜条件a)、ダイヤモンド皮膜2あり+導電性皮膜3が炭化物又は窒化物(皮膜条件b)、ダイヤモンド皮膜2あり+導電性皮膜3がCr、Al以外の単一金属皮膜(皮膜条件c)、ダイヤモンド皮膜2あり+導電性皮膜3がCr、Al以外の金属元素を主成分とする合金皮膜(皮膜条件d)、ダイヤモンド皮膜2あり+導電性皮膜3がCr、Alの単一金属皮膜又はCrとAlとの合金皮膜(皮膜条件e)の5つの皮膜条件に大別でき、図4は、本実験の評価結果をこの皮膜条件ごとにまとめて示した表である。
【0065】
図3及び図4に示す結果から、ダイヤモンド皮膜2の膜厚は、3μm以上25μm以下が好適である。
【0066】
また、導電性皮膜3に関しては、皮膜条件eの結果が最も良好であったことから、材料はCr、Alの単一金属皮膜又はCrとAlとの合金皮膜が好適である。なお、Alの単一金属皮膜及びCr(100-x)Al(x)(50≦x<100、また、xは原子%)の組成式で示される合金皮膜がより好適であり、さらには、図5に示すように、xが大きいほう、すなわち、Al含有率が高いものほど好適である。
また、導電性皮膜3の膜厚は、0.005μm以上3μm以下が好適である。
【0067】
次に、ダイヤモンド皮膜2と折損誤検知までの穴加工動作回数が良好であったAl単一金属皮膜を導電性皮膜3として被覆したPCBドリル(シャンク径3.175mm、直径φ0.3mm、溝長L5.0mm)を用いて、凹み段差長さ12が折損誤検知までの穴加工動作回数に与える影響を検討した。
【0068】
図7に示すように、溝長Lに対する凹み段差長さ12の割合を3水準に設定したPCBドリル(実験No.36~38)では、凹み段差長さ12が加工穴深さより長いPCBドリル(実験No.37及び実験No.38)の方が、凹み段差長さ12の方が短いPCBドリル(実験No.36)より折損誤検知されにくい。
【0069】
また、溝長Lに対する加工穴深さの割合をより大きくし、併せて凹み段差長さ12を2水準に設定したPCBドリル(実験No.39~42)でも、同様に凹み段差長さ12が加工穴深さより長いものが折損誤検知されにくい結果が得られた。
【0070】
以上の結果から、凹み段差長さ12は加工穴深さよりも長ければ、任意にその構成を設定し得るものである。
【0071】
なお、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0072】
1 工具基材
2 ダイヤモンド皮膜
3 導電性皮膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7