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特許7140914バリシチニブを用いた原発性胆汁性胆管炎および原発性硬化性胆管炎の治療
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】バリシチニブを用いた原発性胆汁性胆管炎および原発性硬化性胆管炎の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20220913BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220913BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P1/16
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2021520400
(86)(22)【出願日】2019-10-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 US2019055566
(87)【国際公開番号】W WO2020081346
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-04-13
(31)【優先権主張番号】62/746,589
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594197872
【氏名又は名称】イーライ リリー アンド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100139310
【弁理士】
【氏名又は名称】吉光 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】コレイア,アナ ルイーザ デ マセド ピント
(72)【発明者】
【氏名】マコラム,パトリック エル.
(72)【発明者】
【氏名】マクギル,ジェームズ マイケル
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】The Journal of Clinical Pharmacology,2014年,Vol.54, No.12,p.1354-1361
【文献】Clinics in Liver Disease,2018年08月,Vol.22,p.501-515
【文献】Journal of Clinical and Translational Hepatology,2014年,Vol.2,p.266-284
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/519
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリシチニブを含む、患者の原発性胆汁性胆管炎(PBC)の治療用医薬組成物
【請求項2】
前記組成物は経口投与される、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
前記患者が以前にウルソデオキシコール酸に対して不十分な応答を有したか、または不耐容性である、請求項1または2に記載の医薬組成物
【請求項4】
前記患者のかゆみNRSスコアが0日目に評価され、前記医薬組成物の投与後に再評価される、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記患者の倦怠感NRSスコアが0日目に評価され、前記医薬組成物の投与後に再評価される、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記患者のALPスコアが0日目に評価され、前記医薬組成物の投与後に再評価される、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記患者のかゆみNRSスコアまたは倦怠感NRSスコアまたはALP再評価が、第12週の間またはその後に行われる、請求項4~6のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項8】
前記組成物は、1日用量バリシチニブを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項9】
前記1日用量が4mgである、請求項に記載の医薬組成物
【請求項10】
PBCの治療のための薬剤の製造におけるバリシチニブの使用。
【請求項11】
前記薬剤が、1種以上の賦形剤を含む錠剤の形態である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記薬剤が、ウルソデオキシコール酸に対して不十分な応答を有したか、または不耐容性である患者に投与される、請求項10または11に記載の使用。
【請求項13】
前記患者のかゆみNRSスコアが0日目に評価され、前記薬剤の投与後に再評価される、請求項10~12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記患者の倦怠感NRSスコアが0日目に評価され、前記薬剤の投与後に再評価される、請求項10~12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記患者のALPスコアが0日目に評価され、前記薬剤の投与後に再評価される、請求項10~12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
前記再評価が第12週の間またはその後に行われる、請求項13~15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
前記薬剤1日用量のバリシチニブを含む、請求項10~16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
前記1日用量が4mgである、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
原発性胆汁性胆管炎の治療に使用するためのバリシチニブを含む医薬製剤。
【請求項20】
前記医薬製剤が1種以上の賦形剤を含む錠剤の形態である、請求項19に記載の医薬製剤。
【請求項21】
前記医薬製剤が、ウルソデオキシコール酸に対して不十分な応答を有したか、または不耐容性である患者に投与される、請求項19または20に記載の医薬製剤。
【請求項22】
前記患者のかゆみNRSスコアが0日目に評価され、前記医薬製剤の投与後に再評価される、請求項19~21のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項23】
前記患者の倦怠感NRSスコアが0日目に評価され、前記医薬製剤の投与後に再評価される、請求項19~21のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項24】
前記患者のALPスコアが0日目に評価され、前記医薬製剤の投与後に再評価される、請求項19~21のいずれか一項に記載の使用の医薬製剤。
【請求項25】
前記再評価が第12週の間またはその後に行われる、請求項22~24のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項26】
前記医薬製剤が1日用量のバリシチニブを含む、請求項19~25のいずれか一項に記載の医薬製剤。
【請求項27】
前記1日用量が4mgである、請求項26に記載の医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の分野に関する。より具体的には、本発明は、原発性胆汁性胆管炎(PBC)および原発性硬化性胆管炎(PSC)の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
バリシチニブは、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤の薬理学的クラスに属する承認された薬剤である。ヤヌスキナーゼは、サイトカインシグナル伝達において役割を果たす4種のプロテインチロシンキナーゼ(JAK1、JAK2、JAK3、およびチロシンキナーゼ2[TYK2])のファミリーである。バリシチニブは、JAK1およびJAK2に対する選択性およびこれらの阻害を示し、JAK3またはTYK2の阻害に対しては効力がより低い(Fridman JS,et al.,“Selective inhibition of JAK1 and JAK2 is efficacious in rodent models of arthritis:preclinical characterization of INCB028050,”J Immunol.2010;184(9):5298-5307.)単離酵素アッセイにおいては、バリシチニブはJAK1、JAK2、TYK2、およびJAK3の活性を阻害し、最大阻害濃度の半分の値は、それぞれ5.9、5.7、53、および>400nMであった(同上を参照のこと)。
【0003】
ヤヌスキナーゼは、造血、炎症、および免疫機能に関与する多くのサイトカインおよび成長因子(例えば、JAKファミリーを介してシグナルを伝達する、インターロイキン[IL]-2、IL-6、IL-12、IL-15、IL-23、インターフェロン、および顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子)の細胞表面受容体からの細胞内シグナルを伝達する酵素である。(O’Shea et al.,“The JAK-STAT pathway:impact on human disease and therapeutic intervention”,Annu Rev Med.2015;66:311-28.)細胞内シグナル伝達経路の中で、JAKはシグナル伝達物質転写活性化因子(STAT)をリン酸化および活性化し、これは細胞内の遺伝子発現を活性化する。バリシチニブは、JAK1およびJAK2の酵素活性を部分的に阻害すること、STATのリン酸化および活性化を低減させること、ならびに、炎症、細胞活性化、および鍵となる免疫細胞の増殖を低減させることにより、これらのシグナル伝達経路を調節する。(O’Shea et al.,“JAKs and STATs in immunity,immunodeficiency,and cancer,”N Engl J Med.Review 2013 Jan 10;368(2):161-70.)
【0004】
以前は原発性胆汁性肝硬変として知られていたPBCは、本質的に自己免疫性であると考えられている慢性で進行性の胆汁うっ滞性肝疾患であり、小葉内胆管へのTリンパ球媒介性攻撃を特徴とする(Webb et al.,“The immunogenetics of primary biliary cirrhosis:A comprehensive review”、J Autoimmun.2015;64:42-52;Hirschfield et al.“The British Society of Gastroenterology/UK-PBC primary biliary cholangitis treatment and management guidelines”,Gut.2018 Mar 28.[印刷前の電子公開](以下「Hirschfield 2018」))。肝臓の肝内管が破壊されると、肝臓に胆汁が蓄積し、炎症および線維症の一因となる。(G.M.Hirschfield,M.E.Gershwin,“he immunobiology and pathophysiology of primary biliary cirrhosis,”Annu.Rev.Pathol.Mech.Dis.8(1)(2013),pp.303-330.)患者が掻痒または倦怠感の治療を求めるときに、患者がまだ無症候性または早期であるが、PBCは、他の理由(すなわち、アルカリホスファターゼ(ALP)の増加)について得られた定期的な肝臓生化学的検査から、診断されることがよくある(Hirschfield 2018)。未治療のPBCは典型的には、数年かけて肝硬変に進行し、肝移植または死亡に至る。
【0005】
Hirschfield 2018は、PBCを治療するために提案された2つのアプローチの概要を示している。第1のアプローチは、慢性炎症によって引き起こされる胆管の進行性の破壊および機能障害のために肝臓に蓄積する胆汁酸の産生および廃棄を管理することである。(Hirschfield 2018)。第2のアプローチは、疾患を引き起こす自己免疫プロセスを改変することである。(Hirschfield 2018)。今日まで、この第2のアプローチを通してPBCを治療する効果的で承認された方法(例えば、疾患を引き起こす自己免疫プロセスを改変する方法)はなかった。PBCを治療するための第1のアプローチは、一般的にウルソデオキシコール酸(「UDCA」)の使用を含む。UDCAは1997年にPBCの治療のために承認され、現在この疾患を治療するための標準治療となっている(Hirschfield 2018)。UDCAは、肝臓を通る胆汁の流れを促進し、肝臓細胞を保護することによって作用する。病期に関係なく、PBCの診断に際して、UDCAを用いる治療が推奨されている。
【0006】
オベチコール酸(商標OCALIVA(登録商標)で販売)は、UDCAに対する応答が不十分な患者では、UDCAのアドオンとして、またはUDCAに対して不耐容性の患者では単剤療法として承認された。(Nevens et al.,POISE Study Group,“A Placebo-Controlled Trial of obeticholic Acid in Primary Biliary Cholangitis,”N Engl J Med.2016 Aug 18;375(7):631-43)。しかしながら、UDCAもOCALIVA(登録商標)も、かゆみまたは倦怠感など、PBCの他の主要な症状に効果的に対処はしていない。実際、オベチコール酸(OCALIVA(登録商標))は掻痒症の増加と関連しており、有効用量の達成および維持はこの副作用によって制限される(Nevens et al.2016)。さらに、オベチコール酸の使用は、患者人口の55%程度でしか効果がないようである。
【0007】
したがって、UDCAに応答せず、オベチコール酸(単独またはUDCAとの組み合わせのいずれか)によって適切に治療されていない患者集団のセグメントがまだ存在している。なおさらに、PBCに関連する、かゆみ、倦怠感、痛みは、これらの現在の薬剤によっては治療されていない。加えて、UDCAおよびオベチコール酸の両方は、肝臓での胆汁酸の産生および廃棄を調整することによって機能するが、根底にある状態、例えば小葉内胆管へのTリンパ球媒介性攻撃を引き起こす自己免疫反応は治療しない。これらおよび他の理由により、PBCの新しい治療が必要とされている。したがって、オベチコール酸の承認に関連する当該分野における進歩にもかかわらず、PBCの新しい治療が必要とされていることは明らかである。
【0008】
PSCはPBCとは異なる。PSCは、胆管線維症を伴う、肝内または肝外の狭窄、あるいはその両方を特徴とするまれな慢性胆汁うっ滞性肝疾患である。PSCは、胆汁の形成または流れの障害および進行性の肝機能障害の結果として、胆管および肝臓の炎症および線維症を伴う可能性がある。(Jessica K Dyson,et al.,Lancet 2018;391:2547-59.)鍵となる診断要素は、胆汁うっ滞性肝生化学および胆管造影での胆管狭窄である。遺伝的要因および環境的要因は疾患の原因において重要であり、腸内微生物叢はますます病原性の役割を果たすと考えられている。患者の約70%が炎症性腸疾患を併発しており、患者は結腸内視鏡によるスクリーニングおよびサーベイランスを必要としている(Dyson,et al.,Lancet 2018;391:2547-59)。PSC患者は、リスクのある患者(典型的には炎症性腸疾患)のスクリーニングまたは一般的な健康診断のいずれかを行った後、胆汁うっ滞(ALPおよびγ-グルタミルトランスフェラーゼの上昇)を呈する可能性がある。あるいは、特に炎症性腸疾患の患者では、正常な血清生化学を伴う患者においてさえ、矛盾のない胆管造影特徴の存在を通してPSCを特定できる。(Lunder AK,et al.Gastroenterology 2016;151:660-6.)
【0009】
現在、PSCの有効な治療は知られておらず、むしろ、PSCに罹患している患者は最終的に肝移植を必要とする可能性がある。UDCAはPSCの治療として試みられてきたが、肝臓の主要な胆管の閉塞は依然として大多数の患者で発生した。(Stiehl A,et al.,“Development of dominant bile duct stenoses in patients with primary sclerosing cholangitis treated with ursodeoxycholic acid:outcome after endoscopic treatment,”J Hepatol.;36:151-56,2002.)したがって、PSCの新たな、承認され、かつ臨床的に効果的な治療に対する医学的な満たされていない必要性が存在している。
【発明の概要】
【0010】
少なくとも本明細書で提供される理由により、PBCおよびPSCの両方の治療を改善するという満たされていない必要性が存在している。このような治療は、PBCおよびPSCの自己免疫の原因に対処するべきであり、好ましくは、肝臓においてPSCまたはPBCを引き起こす自己免疫反応を予防または治療するべきである。加えて、PBCのそのような治療は、UDCAに対する非応答者を治療するべきである。さらに(とりわけPBCについて)、治療はこれらの状態に関連するかゆみ(掻痒症)、倦怠感および/または痛みに対処するべきである。すべての治療的処置と同様に、安全性および毒性には依然として限界があるため、いかなる改善された治療も、許容できない安全性および毒性プロファイルに付随してはならず、臨床的利益を提供する(特に承認された治療がないPSCについて)。本発明は、上記で認識された課題の1つ以上を克服する、PBCおよび/またはPSCの治療のための治療的処置を提供する。
【0011】
いくつかの実施形態において、一定量のバリシチニブまたはその医薬製剤を、PBCまたはPSCのうちの1つの治療を必要とする患者に投与することを含む、上記患者を治療する方法が提供される。いくつかの実施形態において、一定量のバリシチニブは経口投与される。例えば、経口投与は、1種以上の賦形剤を含むタブレットまたは錠剤を患者に与えることを含み得る。さらなる実施形態において、上記錠剤は4mgのバリシチニブを含むが、他の量のバリシチニブもまた使用され得る。いくつかの実施形態において、PBCまたはPSCの治療を必要としている患者は、UDCA治療に応答しない患者である。
【0012】
さらなる実施形態は、PBCまたはPSCのうちの1つの治療を必要とする患者に、一定量のバリシチニブまたはその医薬製剤を投与することによって、上記患者を治療する方法を含み、患者のかゆみNRSスコアが0日目に評価され、次いでバリシチニブを用いる治療が投与され、次いで患者のかゆみNRSスコアが再評価される。いくつかの実施形態において、かゆみNRSスコアが再評価された後、患者のかゆみNRSスコアは減少している。さらなる実施形態において、かゆみNRSスコアは、バリシチニブを用いる治療の第12週の間またはその後に再評価される。いくつかの実施形態の間、この治療は、バリシチニブを1日用量(例えば、4mgまたはいくらかの他の用量)で投与することを含む。
【0013】
追加の実施形態は、一定量のバリシチニブまたはその医薬製剤を、PBCまたはPSCのうちの1つの治療を必要とする患者に投与することによって、上記患者を治療する方法を含み、患者の倦怠感NRSスコアが0日目に評価され、次いで、バリシチニブを用いる治療が投与され、次いで患者の倦怠感NRSスコアが再評価される。いくつかの実施形態において、倦怠感NRSスコアが再評価された後、患者の倦怠感NRSスコアは減少している。これらの実施形態のいくつかにおいて、倦怠感NRSスコアは、バリシチニブを用いる治療の第12週の間またはその後に再評価される。いくつかの実施形態において、この治療は、バリシチニブを1日用量(例えば、4mgまたはいくらかの他の用量)で投与することを含む。
【0014】
実施形態はまた、バリシチニブまたはその医薬製剤を、PBCまたはPSCのうちの1つの治療を必要とする患者に投与することによって、上記患者を治療する方法を含み、患者のALPが0日目に評価され、次いでバリシチニブを用いる治療が投与され、次いで患者のALPが再評価される。いくつかの実施形態において、ALPが再評価された後、患者のALPは減少している(例えば、少なくとも15%の減少など)。これらの実施形態のいくつかにおいて、ALPはバリシチニブを用いる治療の第12週の間またはその後に再評価される。いくつかの実施形態の間、この治療は、バリシチニブを1日用量(例えば、4mgで)で投与することを含む。追加の実施形態において、ALPが再評価された後、ALPは、1.67ULN(正常の上限)未満である。さらなる実施形態は、ALPが再評価された後、患者のビリルビンがULNよりも少ない。
【0015】
他の実施形態によれば、一定量のバリシチニブまたはその医薬製剤は、PBCおよびPSCのうちの少なくとも1つを治療するための薬剤の製造における使用のために提供される。これらの実施形態の多くにおいて、バリシチニブの量は4mgの錠剤を含む。
【0016】
さらに、本発明は、原発性胆汁性胆管炎の治療に使用するためのバリシチニブ、またはバリシチニブを含む医薬製剤を提供する。本発明はまた、原発性硬化性胆管炎の治療に使用するためのバリシチニブ、またはバリシチニブを含む医薬製剤を提供する。いくつかの実施形態において、使用するためのバリシチニブ、またはバリシチニブを含む医薬製剤は、1種以上の賦形剤を含む錠剤の形態である。他の実施形態において、使用するためのバリシチニブ、またはバリシチニブを含む医薬製剤は、ウルソデオキシコール酸に対して不十分な応答を有したか、または不耐容性である患者に投与される。追加の実施形態は、患者のかゆみNRSスコアが0日目に評価され、バリシチニブの投与後に再評価される、使用のためのバリシチニブ、またはバリシチニブを含む医薬製剤を有する。なおさらに別の実施形態は、患者の倦怠感NRSスコアが0日目に評価され、バリシチニブの投与後に再評価される、使用のためのバリシチニブ、またはバリシチニブを含む医薬製剤を有する。加えて、使用するためのバリシチニブ、またはバリシチニブを含む医薬製剤は、患者のALPスコア、NRS倦怠感スコア、またはNRSかゆみスコアを0日目に評価し、バリシチニブの投与後に再評価する。加えて、使用するためのバリシチニブ、またはバリシチニブを含む医薬製剤は、第12週の間またはその後にALPの再評価が行われる。バリシチニブは、例えば、4mgの用量で毎日投与することができる。
【0017】
本実施形態は、PBCの治療のための薬剤の製造におけるバリシチニブの使用に関する。本実施形態はまた、PSCの治療のための薬剤の製造におけるバリシチニブの使用に関する。この使用は、1種以上の賦形剤を含む錠剤の形態のバリシチニブを有し得る。この使用はまた、ウルソデオキシコール酸に対して不十分な応答を有したか、または不耐容性である患者に投与されるバリシチニブを有する可能性がある。この使用はまた、患者のかゆみNRSスコアが0日目に評価され、バリシチニブの投与後に再評価されるようなものであり得る。この使用はさらに、患者の倦怠感NRSスコアが0日目に評価され、バリシチニブの投与後に再評価されるようなものであり得る。この使用はまた、患者のALPスコアが0日目に評価され、バリシチニブの投与後に再評価されるようなものであり得る。この使用はさらに、第12週の間またはその後に再評価が行われるようなものであり得る。この使用はさらに、バリシチニブが、例えば、1日4mgの用量でなど、毎日投与されるようなものであり得る。
【0018】
バリシチニブは、化学名{1-(エチルスルホニル)-3-[4-(7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-イル)-1H-ピラゾール-1-イル]アゼチジン-3-イル}アセトニトリル)を有するヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤(より具体的には選択的JAK1およびJAK2阻害剤)である。バリシチニブの構造式は次のとおりである。
【化1】
【0019】
化合物の作製方法を含むバリシチニブに関する追加情報は、米国特許第8,158,616号および同第8,420,629号において見出すことができる。バリシチニブを作製するための追加の方法は、米国特許出願公開第2018/0134713号において見出すことができる。
【0020】
バリシチニブは、関節リウマチの治療のために米国およびヨーロッパ(およびその他の国)で承認されている既知の医薬品であり、商標OLUMIANT(登録商標)の下で市販されている。一部の法域では、OLUMIANT(登録商標)は錠剤の形態で入手可能であり、錠剤には指定された量のバリシチニブならびに以下の賦形剤:クロスカルメロースナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、マンニトール、微結晶性セルロース、酸化第二鉄、レシチン(大豆)、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、タルクおよび二酸化チタンが含まれている。本発明の好ましい実施形態において、患者を治療するために使用される一定量のバリシチニブは、患者にOLUMIANT(登録商標)の1つ以上の錠剤を与えることによって投与される。もちろん、他の投薬形態、バリシチニブの医薬組成物なども使用することができる。肝疾患を有する患者を対象としたバリシチニブの第I相試験が実施された。
【0021】
本明細書で言及されているように、また当該分野で一般的に知られているように、「用量」という用語は、対象に投与されるバリシチニブの量を指す。当該分野で一般に知られており、本明細書で互換的に言及され得る「用量計画」または「投与計画」は、ある期間にわたって患者に投与される用量のセット(すなわち、連続または配列)を投与するための治療スケジュールを含む。
【0022】
本発明は、本発明のPBSまたはPBC治療の用量計画を含む。具体的には、バリシチニブを用いる治療を受ける前に(「0日目」と呼ばれる)、患者の状態が評価される。この評価には、患者のNRSかゆみスコア、患者のALP、患者のビリルビン測定値、および/または患者の倦怠感NRSスコアのうちの1つ以上を決定することが含まれる場合がある。いくつかの実施形態において、これらの測定値(および他の測定値)のすべてを取得することができる。0日目は実際にバリシチニブ治療を受け始める前に測定することを指すことに注意するべきである。そのような測定は、特定の実施形態に依存して、バリシチニブの受容を開始する前日、前の週などに行うことができる。いくつかの実施形態において、0日目は、療法を開始する前の最大6週間(42日)であり得る。他の実施形態において、0日目は、患者がバリシチニブを用いる治療を受ける最初の日であり得る。
【0023】
いくつかの実施形態において、1日目に、患者はバリシチニブを用いる治療を受け始める。いくつかの実施形態によれば、バリシチニブのこの投与は、毎日(または何らかの他の特定の投与期間で)行われ得、そして4mgのバリシチニブの用量であり得る(例えば、患者に4mgのバリシチニブの錠剤を投与するように指示することによる)。現在好ましい実施形態のいくつかにおいて、12週間の期間を通して毎日、患者は、バリシチニブの1日用量を服用するように指示される。バリシチニブの量は異なる場合がある。いくつかの実施形態において、患者は1日あたり4mgを服用するが、他の実施形態において、患者および/または彼または彼女の医師によって決定されるように、異なる用量のバリシチニブ(例えば、2mg、8mgなど)が与えられる。
【0024】
次に、将来のある時点で(例えば、1日目以降)、患者の状態が再評価され、これには、0日目に行われた1つ以上の測定値を決定することが含まれる。現在好ましい実施形態のいくつかにおいて、この再評価は、患者がバリシチニブ治療を12週間受けている間またはその後に行われる。他の実施形態において、再評価は、例えば、第24週、第36週、第52週などの間またはその後など、異なる時間間隔でまたはその後に行われる。いくつかの実施形態において、患者が再評価されるとき、患者のかゆみNRSスコアは減少した。他の実施形態において、患者が再評価されるとき、患者の倦怠感NRSスコアは減少した。倦怠感NRSスコアおよび/またはかゆみNRSスコアのそのような減少は統計的に有意である可能性がある。さらなる実施形態において、患者が再評価されると、患者のALPは、例えば、10%、15%、20%など減少している。いくつかのそのような実施形態において、患者のALPスコアは、1.67*ULN未満の値まで減少している。さらなる実施形態は、再評価時に、患者のビリルビンが減少した場合である。患者のビリルビンのそのような低下は、患者のビリルビンの測定値がULNよりも小さくなるようなものである可能性がある。(いくつかの実施形態によれば、患者のALPレベルは、Nevens et al.,POISE Study Group,“A Placebo-Controlled Trial of Obeticholic Acid in Primary Biliary Cholangitis,”N Engl J Med.2016 Aug 18;375(7):631-43.)に要約される様式で評価または再評価できる)
【0025】
いくつかの実施形態において、患者が治療を受ける前に、彼または彼女のALP値は、正常の2.5倍、正常の3倍、正常の4倍、正常の6倍などであり得る。しかしながら、バリシチニブの療法後、本明細書に概説された方法では、患者のALPは、1.67ULN以下の値まで減少する可能性がある。実際、バリシチニブの第3相試験は、治療後に患者のALPが減少することを示した。(ヒト用医薬品に関するEMA委員会のOlumiantについての「評価レポート」を参照のこと。)
【0026】
患者が再評価される(および様々な測定が行われる)とき、患者の用量および/または治療は調整され得る。例えば、患者が服用しているバリシチニブの量を調整することができる(1日2mg以上に調整するなど)。同様に、薬物投与の頻度(例えば、毎日)は、患者がより頻繁にまたはより少ない頻度で薬を服用するように調整され得る。他の実施形態において、患者は、同じ治療用量および/またはスケジュールを維持することができる。他の実施形態において、患者は、再評価後に薬物から外されてもよい。
【0027】
理解されるべきであるように、本明細書で使用される「1日目」は、バリシチニブの初回用量が投与される日を指す。本明細書で言及される場合、「週」は7日間のカレンダーを指す。したがって、1日目が月曜日の場合、その週(例えば、月曜日から日曜日)は「第1週」を構成し、「第2週」は次の月曜日に始まる。
【0028】
本明細書で使用されるかゆみNRSスコアは、患者が評価するスコアを指す。このスコアは、ゼロ(0)と10に固定された11ポイントの水平スケールであり、ゼロは「かゆみなし」を表し、10は「考えられる最悪のかゆみ」を表す。患者のかゆみの全体的な重症度は、過去7日間のかゆみの最悪のレベルを表す数値を選択することによって示される。患者は毎週スコアを評価し、上記のように、一定期間後(例えば、12週間など)、最初のかゆみNRSスコアと比較して全体的なかゆみNRSスコアが低下する。いくつかの実施形態において、患者は、かゆみのためにバリシチニブを用いる治療を受けているので、バリシチニブ治療に加えて、患者はまた、コルチコステロイドからなるバックグラウンド療法、および/またはかゆみ止め療法を含む、PBCのための通常の投薬計画を維持し得る。
【0029】
本明細書で使用される倦怠感NRSスコアは、患者が管理し、患者が評価したスコアを指す。このスコアは、0と10に固定された11ポイントの水平スケールであり、0は「倦怠感なし」を表し、10は「想像できる限り悪い」を表す。患者の倦怠感の全体的な重症度は、過去7日間の倦怠感の最悪のレベルを表す数値を選択することによって示される。毎週スコアを評価し、上記のように、一定期間後(例えば、12週間など)、最初の倦怠感NRSスコアと比較して全体的な倦怠感NRSスコアが低下する。
【0030】
特定の時点でのかゆみまたは倦怠感NRSスコアを決定することに加えて、代替の実施形態は、他の既知の病態生理学的エンドポイントに基づくことができる。これには、患者のFACIT-Fスコアのテスト、評価、および再評価が含まれる。FACIT-Fは、過去7日間(または何らかの他の7日間(または何らかの他の期間))の通常の日常活動中の個人の自己申告による倦怠感のレベルを測定する。スケールは、4ポイントスケールで測定された13項目で構成されている(4=非常に多いから0=まったくないまで)。合計スコアは0から52の範囲で、スコアが高いほど倦怠感が少ないことを表す。30未満のスコアは、重度の倦怠感を示す(このFACIT-F調査およびそのスコア付けの詳細については、Webster K.et al.,“The Functional Assessment of Chronic Illness Therapy(FACIT) measurement system:properties,applications,and interpretation,”Health Qual Life Outcomes 2003;1:79.を参照のこと)。同様に、患者の「PBC-40」調査スコアも評価および再評価される場合がある。PBC-40は、全体的な症状、かゆみ、倦怠感、認知、社会的、感情的な6つの領域を含む、疾患固有の40項目の患者報告調査である。全体的な症状、かゆみ、倦怠感、および認知に対する応答の選択肢は、「まったくない」、「まれに」、「時々」、「ほとんどの場合」、および「常に」の5段階スケールである。応答の選択肢はまた、社会的および感情的な5段階スケールでもある、「まったくない」、「少し」、「やや」、「かなり」、および「非常に多い」である。項目は1から5までスコア付けされ、個々の項目のスコアを合計して合計ドメインスコアが得られる。ここで、高いスコアはPBCが生活の質に与える影響が大きいことを表す(このPBC-40調査およびそのスコアの詳細については、Jacoby A.,et al.,“Development,validation,and evaluation of the PBC-40,a disease specific health related quality of life measure for primary biliary cirrhosis,”Gut,2005;54:1622-1629.を参照のこと)。医師、臨床医、および/または患者によって決定されるような、患者によって提供される他の情報もまた評価および再評価される可能性があり、これには、PSCまたはPBCに関連する患者の痛みのレベルまたは不快感のレベル、およびバリシチニブを用いる治療が痛みを低減/緩和しているかどうかが含まれる。
【0031】
本実施形態のいくつかにおいて、バリシチニブで治療されている患者は、バリシチニブを受容する前にUDCAを受容している。いくつかの実施形態において、患者は、バリシチニブの療法を開始する前に、52週間以上UCDAを受容している。他の実施形態において、患者は、バリシチニブの療法を開始する前に、少なくとも12週間、UDCAを受容している。さらなる実施形態において、PBCまたはPSCのためのバリシチニブ療法を受ける患者は、UDCAに対して不十分な応答を有したか、または不耐容性である患者である。患者がUDCAに対して不十分な応答を有するか、または不耐容性であるかを決定するために、次の2つの記事に教示されている方法によって概説されているように、患者は肝生化学の改善がないかどうかを評価および決定される。
・Corpechot C.,et al.,“Biochemical response to ursodeoxycholic acid and long-term prognosis in primary biliary cirrhosis,”Hepatology,2008;48(3):871-877;および
・Carbone M.,et al.,“Sex and age are determinants of the clinical phenotype of primary biliary cirrhosis and response to ursodeoxycholic acid,”Gastroenterology,2013;144(3):560-569.e7.
【0032】
本明細書で言及される場合、本明細書で互換的に使用される「個体」、「対象」、および「患者」という用語は、ヒトを指す。特定の実施形態において、対象は、JAK1またはJAK2の生物活性の減少から恩恵を受ける疾患、障害、または状態をさらに特徴とする。
【0033】
本明細書で互換的に使用される場合、「治療」および/または「治療すること」および/または「治療する」は、本明細書に記載の障害の進行の緩徐化、妨害、抑止、制御、停止、または逆転が存在し得るすべてのプロセスを指すことが意図されるが、すべての障害の症状の完全な排除を必ずしも示すものではない。治療には、PBCまたはPSCの治療のためのバリシチニブの投与が含まれ、これには、(a)PBCまたはPSCのさらなる進行を阻害すること、すなわち、その発症を抑止すること、および(b)PBCまたはPSCを軽減すること、すなわち、PBCまたはPSCの退行を引き起こすこと、またはその症状もしくは合併症を軽減することが含まれる。治療には、PBCまたはPSCの発病の予防、PBCもしくはPSCの発病の可能性の予防、および/またはPBCもしくはPSCの重症度の低減もまた含まれる。治療には、PBCまたはPSCのエピソードまたは「攻撃」を予防すること、および/あるいはそのような「攻撃」が発生する可能性を低減することもまた含まれる。
【0034】
さらなる実施形態において、バリシチニブを投与される患者(例えば、PBCおよび/またはPSCを有する患者は、関節リウマチ、狼瘡またはアトピー性皮膚炎を有しない。
【0035】
米国のバリシチニブのラベルは次のことを示していることにも注意するべきである。
肝酵素の上昇-OLUMIANTを用いる治療は、プラセボと比較して肝酵素の上昇の発生率の増加と関連していた。OLUMIANT臨床試験の患者において、ALTおよびASTの両方で、正常上限(ULN)の5倍以上および10倍以上の増加が観察された。ベースライン時およびその後の日常的な患者管理に従って評価する。薬物誘発性肝傷害の潜在的な症例を特定するために、肝酵素上昇の原因を迅速に調査することを推奨する。ALTまたはASTの増加が観察され、薬物誘発性肝傷害が疑われる場合は、この診断が除外されるまでOLUMIANTを中断する[副作用(6.1)を参照のこと]。
【0036】
しかし、この肝酵素の上昇にもかかわらず、バリシチニブはPBCおよび/またはPSCの効果的な治療である可能性がある。
【0037】
インビボ研究
患者は、二重盲検プラセボ群およびバリシチニブ療法群からなる治療群に分けられる。バリシチニブ療法群には一定量のバリシチニブ(例えば、本明細書に概説される様式での4mgの錠剤またはタブレット)が投与され、一方、プラセボ群には、プラセボのみを含む錠剤(例えば、プラセボの4mgの錠剤またはタブレット)が投与される。
【0038】
研究には一般に、「スクリーニング期間」、「治療期間」、「フォローアップ期間」の3つの期間がある。すべての患者はこれらの各期間を通過する。
【0039】
治療開始前に行われるスクリーニング期間において、患者は、ビリルビンレベル、ALP、かゆみNRSスコア、倦怠感NRSスコアおよび/または他の測定値の1つ以上について評価される。このスクリーニング期間は「0日目」を構成する場合がある。これらの評価は、患者が治療を受ける前に行われる。
【0040】
治療期間の間、患者にはプラセボまたはバリシチニブのいずれかが与えられる(彼らがどの研究の群にいるかに依存する)。状況によっては、無作為化された患者がクリニックで治験薬の初回用量を服用し、薬物動態(PK)サンプルが投与の15分後および1時間後に採取される。バリシチニブは12週間毎日である場合がある。追加のPKサンプリングを含む臨床評価および検査サンプルは、治療期間の間の予定された訪問時に取得される。治療期間の間、無作為化治療に加えて、患者は、コルチコステロイドからなるバックグラウンド療法、および/またはかゆみ止め療法を含む、PBCの通常の投薬計画もまた維持する。患者の測定値(上記の測定値など)の再評価は、治療期間の間いつでも行うことができる。
【0041】
治療期間(例えば、12週間続く場合がある)の後、患者はフォローアップ期間に入る。この期間の間に、患者の測定値が再評価される(またはさらに再評価される)。