(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-12
(45)【発行日】2022-09-21
(54)【発明の名称】窒化ホウ素粉末、及び窒化ホウ素粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20220913BHJP
【FI】
C01B21/064 M
C01B21/064 G
(21)【出願番号】P 2022526374
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2021035394
(87)【国際公開番号】W WO2022071225
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2020165642
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】竹田 豪
(72)【発明者】
【氏名】塩月 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝明
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-098882(JP,A)
【文献】特開平06-076624(JP,A)
【文献】特開2019-218254(JP,A)
【文献】国際公開第2015/122378(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103910343(CN,A)
【文献】国際公開第2019/073690(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
C04B 35/5833
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶窒化ホウ素の一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含む窒化ホウ素粉末であって、
純度が98.5質量%以上であり、
平均粒子径が30~100μmであり、
配向性指数が5以上であり、
黒鉛化指数が2.3以下であり、
炭素を含む粒子の個数が、窒化ホウ素粉末10gあたり10個以下である、窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
炭素を含む粒子の個数が、窒化ホウ素粉末10gあたり0.05~10個である、請求項1に記載の窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
不純物炭素量が170ppm以下である、請求項1又は2に記載の窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
平均粒子径が
30~100μmであり、比表面積が0.8~8.0m
2/gである、請求項1~
3のいずれか一項に記載の窒化ホウ素粉末。
【請求項5】
一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含み、純度が98.0質量%以上である六方晶窒化ホウ素を含む原料粉末を、酸素の割合が15体積%以上の雰囲気下において、500℃以上の温度で加熱処理すること
によって、純度が98.5質量%以上であり、平均粒子径が30~100μmであり、配向性指数が5以上であり、黒鉛化指数が2.3以下であり、炭素を含む粒子の個数が、窒化ホウ素粉末10gあたり10個以下である、窒化ホウ素粉末を得ることを含む、窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項6】
前記原料粉末の配向性指数が30以下である、請求項
5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記原料粉末の黒鉛化指数が2.3以下である、請求項
5又は
6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化ホウ素粉末、及び窒化ホウ素粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素は、潤滑性、高熱伝導性、及び絶縁性等に優れる。そのため、六方晶窒化ホウ素は、放熱材料用の充填材、固体潤滑材、溶融ガス及びアルミニウム等に対する離型材、化粧料用の原料、並びに焼結体用の原料等の種々の用途に用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1では、樹脂等の絶縁性放熱材の充填材として用いた場合に、上記樹脂等の熱伝導率及び耐電圧(絶縁破壊電圧)を高めることができる六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、及びCPU等の電子部品の高機能化にともない、これらの電子部品に使用される部材にも更なる高性能化が求められている。例えば、電子部品を高電圧で長時間使用するような場面では、電子部品に組み込まれる伝熱シートにもより優れた絶縁性等が求められる。窒化ホウ素粉末は、樹脂と共に伝熱シートを構成する材料として用いられるが、本発明者らの検討によれば、十分に高純度であり性能に優れると考えられる従前の窒化ホウ素粉末を用いた場合であっても、上述のような使用環境においては、伝熱シートの絶縁破壊等が生じ得る。
【0006】
本開示は、従来の窒化ホウ素粉末よりも、充填材として使用した場合の絶縁性能に優れる窒化ホウ素粉末、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは純度の高い従来の窒化ホウ素粉末に対する詳細な分析を行い、伝熱シートに使用した際への影響を検討した。検討の中で、従前は問題ないとされていた微量の炭素を含む粒子(炭素含有粒子)が高電圧等に曝される環境下にあっては伝熱シート等の製品の性能に影響を及ぼし得ることを見出し、当該知見に基づいて本発明を完成させた。
【0008】
本開示の一側面は、六方晶窒化ホウ素の一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含む窒化ホウ素粉末であって、純度が98.5質量%以上であり、炭素を含む粒子の個数が、窒化ホウ素粉末10gあたり10個以下である、窒化ホウ素粉末を提供する。
【0009】
上記窒化ホウ素粉末は、純度が高く、炭素含有粒子の含有量が低減されていることから、充填材として使用した場合の絶縁性能に優れる。本開示における絶縁性能は、従来よりも厳しい条件で評価される性能である。本開示における絶縁性能は、具体的には、窒化ホウ素粉末と樹脂とで調製された樹脂組成物を、65℃、90RH%の環境下で、直流電圧1100Vを印加し、絶縁破壊が生じるまでの通電条件に基づいて評価される性能である。
【0010】
上記炭素を含む粒子の個数が、窒化ホウ素粉末10gあたり0.05~10個であってよい。
【0011】
上述の窒化ホウ素粉末は、不純物炭素量が170ppm以下であってよい。
【0012】
上述の窒化ホウ素粉末は、黒鉛化指数が2.3以下であってよい。一次粒子の黒鉛化指数が上記範囲内であると、窒化ホウ素粉末は絶縁性能により優れる。
【0013】
上述の窒化ホウ素粉末は、平均粒子径が7~100μmであり、比表面積が0.8~8.0m2/gであってよい。平均粒子径及び比表面積が上記範囲内であると、窒化ホウ素粉末は絶縁性に加え、熱伝導率も向上し得る。このため、上記窒化ホウ素粉末は、絶縁性能及び放熱性能に優れる伝熱シートを調製するための充填材としてより好適に使用できる。
【0014】
本開示の一側面は、一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含み、純度が98.0質量%以上である六方晶窒化ホウ素を含む原料粉末を、酸素の割合が15体積%以上の雰囲気下において、500℃以上の温度で加熱処理することを含む、窒化ホウ素粉末の製造方法を提供する。
【0015】
上記窒化ホウ素粉末の製造方法においては、純度の高い窒化ホウ素の原料粉末を更に、酸素を一定以上含む条件下で加熱処理することによって、上述のような窒化ホウ素粉末を製造することができる。
【0016】
上記原料粉末の配向性指数が30以下であってよい。
【0017】
上記原料粉末の黒鉛化指数が2.3以下であってよい。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、従来の窒化ホウ素粉末よりも、充填材として使用した場合の絶縁性能に優れる窒化ホウ素粉末、及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0020】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。本明細書における「工程」とは、互いに独立した工程であってもよく、同時に行われる工程であってもよい。
【0021】
[窒化ホウ素粉末]
窒化ホウ素粉末の一実施形態は、六方晶窒化ホウ素の一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含む。上記窒化ホウ素粉末は、純度が98.5質量%以上であり、炭素を含む粒子の個数が、窒化ホウ素粉末10gあたり10個以下である。
【0022】
六方晶窒化ホウ素は一次粒子の粒子形状のばらつきが小さなものであってよい。六方晶窒化ホウ素の一次粒子の形状は、例えば、鱗片状及び円盤状等であってよい。
【0023】
窒化ホウ素粉末の純度はより高いものであってよく、例えば、98.7質量%以上、又は99.0質量%以上であってよい。本明細書における窒化ホウ素粉末の純度は、滴定によって算出される値を意味する。具体的には、本明細書の実施例に記載の方法で滴定を行い、決定する。
【0024】
窒化ホウ素粉末には、一般に六方晶窒化ホウ素の無色の粒子に加えて、有色の粒子が含まれ得る。この有色の粒子としては、例えば、炭素を含む粒子、及び着磁性を有する粒子等が挙げられる。これに対して、本実施形態に係る窒化ホウ素粉末は純度の高いことに加え、更に炭素を含む粒子(以下、炭素含有粒子ともいう)の含有量が低減されたものとなっている。炭素を含む粒子(以下、炭素含有粒子ともいう)は導電性を有するものであることが多く、窒化ホウ素粉末の性状への影響が比較的大きいことから、炭素含有粒子の含有量を低減することによって絶縁性能を向上させることができる。なお、上述の有色の粒子の色味は、六方晶窒化ホウ素の粒子とは異なることを意味するものであって、色味を特定するものではない。炭素を含む粒子、及び着磁性を有する粒子は、一般に、褐色、又は黒色であるが、炭素の含有量及び着磁性成分の含有量に応じて色味は変化し得る。
【0025】
窒化ホウ素粉末における炭素含有粒子の個数は、窒化ホウ素粉末10gあたり10個以下であるが、炭素含有粒子の個数の上限値は、窒化ホウ素粉末10gあたり、例えば、9個以下、8個以下、7個以下、5個以下、又は3個以下であってよい。炭素含有粒子の個数の上限値が上記範囲内であると、窒化ホウ素粉末の絶縁性能等への影響をより十分に抑制できる。窒化ホウ素粉末における炭素含有粒子の個数の下限値は特に制限されるものではなく、含まれなくてもよいが、窒化ホウ素粉末10gあたり、例えば、0.05個以上、又は0.1個以上であってよい。窒化ホウ素粉末における炭素含有粒子の個数は上述の範囲内で調整でき、例えば、窒化ホウ素粉末10gあたり0.05~10個、又は0.05~5個であってよい。
【0026】
本明細書における炭素含有粒子の個数は、以下のように測定して得られる数である。まず、容器に、測定対象となる窒化ホウ素粉末10gと、エタノール100mLとを測り取り、撹拌棒によって撹拌し、混合溶液を調製する。次に上記混合溶液を、超音波分散器を用いて分散させ、分散液を調製する。得られた分散液を、目開き63μmのふるい(JIS Z 8801-1:2019「試験用ふるい-金属製網ふるい」)に投入し、その後、蒸留水2L投入する。さらに、ふるい下から白濁した水が出なくなるまで蒸留水を流し続けふるいにかける。その後、ふるいの上に残ったもの(篩上品)をエタノールで洗浄し、ふるいにかけて篩上品を回収する。篩上品に再度エタノールを投入し、ふるい下から白濁した水が出なくなるまで更に蒸留水を流し続けて、篩上品をエタノールにて洗浄する。更に、篩上品を容器に移し、エタノール100mLを加えて、上述の操作と同様に撹拌、分散、ふるいの処理を行う。ふるいを通過するエタノール溶液の白濁がなくなるまで同様の操作を繰り返し行う。
【0027】
その後、上述のようにして得た篩上品を乾燥させ薬包紙の上に粉末を分散させ、薬包紙の下に永久磁石を設置し、永久磁石に対して着磁されない粉末を別の薬包紙の上に分散させ、光学顕微鏡によって観察を行い、観測される有色粒子の数をカウントする。同様の操作を5サンプル以上について行い、得られた有色粒子の数の算術平均を算出し、この平均値を窒化ホウ素粉末10gあたりの炭素含有粒子の個数とする。なお、炭素を含有するものであることはエネルギー分散型X線分析装置(EDX)によって測定することで確認できる。
【0028】
窒化ホウ素粉末は炭素が不純物として含まれ得る。微量に含まれる炭素であっても、窒化ホウ素粉末が使用される状況に応じて、絶縁性能等の性状に影響を及ぼし得る。窒化ホウ素粉末における炭素(不純物炭素)の含有量は低減されていることが好ましい。
【0029】
窒化ホウ素粉末における不純物炭素量の上限値は、例えば、170ppm以下、165ppm以下、又は160ppm以下であってよい。不純物炭素量の上限値が上記範囲内であると、窒化ホウ素粉末の絶縁性能により優れる。窒化ホウ素粉末における不純物炭素量の下限値は特に制限されるものではなく、含まれなくてもよいが、例えば、5ppm以上、10ppm以上、又は15ppm以上であってよい。窒化ホウ素粉末における不純物炭素量は上述の範囲内で調整してよく、例えば、5~170ppm等であってよい。
【0030】
本明細書における不純物炭素量は、炭素/硫黄同時分析装置によって測定される値を意味する。なお、本明細書における不純物炭素量の測定は、測定対象となる窒化ホウ素粉末から上述の炭素含有粒子(粒子径が63μm以上のもの)を除いた粉末を測定対象とするものとする。炭素/硫黄同時分析装置は、例えば、LECO社製の「IR-412型」(製品名)等を使用できる。
【0031】
上記窒化ホウ素粉末に含まれる六方晶窒化ホウ素は、好ましくは結晶性が高いものである。本実施形態の窒化ホウ素粉末においては、上述の結晶性の指標として黒鉛化指数(Graphitization Index(G.I.)ということもある)を用いることができる。すなわち、黒鉛化指数の低い六方晶窒化ホウ素を含む窒化ホウ素粉末は、不純物がより低減されており絶縁性能に優れ、結晶性が高いことで放熱性能も向上し得る。上記窒化ホウ素粉末の黒鉛化指数の上限値は、例えば、2.3以下、2.2以下、2.1以下、又は2.0以下であってよい。上記窒化ホウ素粉末の黒鉛化指数の上限値が上記範囲内であることによって、窒化ホウ素粉末はより絶縁性能に優れる。上記窒化ホウ素粉末の黒鉛化指数の下限値は、特に制限されるものではないが、放熱フィラー向けとしては一般に、1.2以上、又は1.3以上であってよい。上記窒化ホウ素粉末の黒鉛化指数は上述の範囲内で調整してよく、例えば、1.2~2.3等であってよい。
【0032】
本明細書における黒鉛化指数は、黒鉛の結晶性の程度を示す指標値としても知られている指標である(例えば、J.Thomas,et.al,J.Am.Chem.Soc.84,4619(1962)等)。黒鉛化指数は、六方晶窒化ホウ素の一次粒子を粉末X線回折法で測定したスペクトルに基づき算出する。まず、X線回折スペクトルにおいて、六方晶窒化ホウ素の一次粒子の(100)面、(101)面及び(102)面に対応する各回折ピークの積分強度(すなわち、各回折ピーク)とそのベースラインとで囲まれる面積値(単位は任意)を算出し、それぞれS100、S101、及びS102とする。算出された面積値を用いて、[(S100+S101)/S102]の値を算出し、黒鉛化指数を決定する。より具体的には、本明細書の実施例に記載の方法によって決定する。
【0033】
窒化ホウ素粉末の平均粒子径の下限値は、例えば、7μm以上、8μm以上、9μm以上、又は10m以上であってよい。窒化ホウ素粉末の平均粒子径の下限値が上記範囲内であると、窒化ホウ素粉末の放熱性能をより向上できる。窒化ホウ素粉末の平均粒子径の上限値は、例えば、100μm以下、90μm以下、80μm以下、又は75μm以下であってよい。窒化ホウ素粉末の上限値が上記範囲内であると、厚さが500μm以下であるシートに好適に充填できる。窒化ホウ素粉末の平均粒子径は上述の範囲内で調整でき、例えば、7~100μm、又は8~80μmであってよい。例えば、樹脂中に窒化ホウ素粉末を分散させ、シート状に成形して用いる場合には、シートの厚みに合わせて窒化ホウ素粉末の平均粒子径を選択することができる。
【0034】
本明細書における平均粒子径は、窒化ホウ素粉末に対するホモジナイザー処理を行わずに測定して得られる値であり、凝集粒子を含む平均粒子径である。本明細書における平均粒子径はまた、累積粒度分布の累積値が50%となる粒子径(メジアン径、d50)である。本明細書における平均粒子径は、ISO 13320:2009の記載に準拠し、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置を用いて測定する。具体的には、本明細書の実施例に記載の方法で測定する。レーザー回折散乱法粒度分布測定装置は、例えば、ベックマンコールター社製の「LS-13 320」(製品名)等を使用できる。
【0035】
窒化ホウ素粉末の比表面積の下限値は、例えば、0.8m2/g以上、1.0m2/g以上、1.2m2/g以上、又は1.4m2/g以上であってよい。比表面積の下限値が上記範囲内であると、充填性と放熱性とにより優れたフィラーを提供することができる。窒化ホウ素粉末の比表面積の上限値は、例えば、8.0m2/g以下、7.5m2/g以下、7.0m2/g以下、又は6.5m2/g以下であってよい。比表面積の上限値が上記範囲内であると、絶縁性能により優れる。窒化ホウ素粉末の比表面積は上述の範囲内で調整でき、例えば、0.8~8.0m2/g、又は1.0~7.0m2/gであってよい。
【0036】
本明細書における比表面積は、JIS Z 8830:2013「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」の記載に準拠し、比表面積測定装置を用い測定される値を意味し、窒素ガスを使用したBET一点法を適用して算出される値である。具体的には、本明細書の実施例に記載の方法で測定する。
【0037】
上記凝集粒子は、六方晶窒化ホウ素の複数の一次粒子の凝集によって構成されることから、空隙を有する。したがって、平均粒子径の値のみでは無く、比表面積の値と総合して性状評価の指標とすることが望ましい。上記窒化ホウ素粉末の平均粒子径及び比表面積は、上述の範囲内で調整してよく、上記窒化ホウ素粉末は、例えば、平均粒子径が7~100μmであり、かつ比表面積が0.8~8.0m2/gであってよく、平均粒子径が8~80μmであり、かつ比表面積が1~7m2/gであってよい。
【0038】
上記凝集粒子は、好ましくは圧壊強さに優れたものである。上記凝集粒子の圧壊強さの下限値は、例えば、6MPa以上、8MPa以上、10MPa以上、又は12MPa以上であってよい。上記凝集粒子の圧壊強さの上限値は、例えば、20MPa以下、又は15MPa以下であってよい。上記凝集粒子の圧壊強さは上述の範囲内で調整してよく、例えば、6~20MPa、又は8~15MPaであってよい。
【0039】
本明細書における圧壊強さは、JIS R 1639-5:2007「ファインセラミックス-か(顆)粒特性の測定方法-第5部:単一か粒圧壊強さ」の記載に準拠して測定される値を意味する。具体的には、本明細書の実施例に記載の方法で測定する。
【0040】
上記窒化ホウ素粉末の配向性指数の上限値は、例えば、30以下、20以下、18以下、又は15以下であってよい。上記窒化ホウ素粉末の配向性指数の下限値は、特に制限されるものではないが、例えば、2以上、3以上、又は5以上であってよい。配向性指数の上限値が上記範囲内であると、放熱性により優れた窒化ホウ素粉末が提供できる。上記窒化ホウ素粉末の配向性指数は上述の範囲内で調整してよく、例えば、2~30等であってよい。
【0041】
本明細書における配向性指数は、X線回折装置で測定される窒化ホウ素の(002)面におけるピーク強度と、(100)面におけるピーク強度との比を意味し、[I(002)/I(100)]で算出することができる。具体的には、本明細書の実施例に記載の方法で測定する。
【0042】
本実施形態に係る窒化ホウ素粉末は、純度が十分に高く、従来品よりも炭素含有粒子の含有量が低く抑制されていることから、過酷な環境(例えば、長時間高電圧を印加される等)に曝される場合であっても、高い性能(例えば、絶縁性能等)を発揮し得る。上記窒化ホウ素粉末は、例えば、樹脂、ゴム等に分散させて用いる充填材として好適に使用できる。上記窒化ホウ素粉末は、例えば、伝熱シート等の構成材料に好適に使用できる。
【0043】
[窒化ホウ素粉末の製造方法]
上述の窒化ホウ素粉末は、例えば、以下のような方法によって調製することができる。窒化ホウ素粉末の製造方法の一実施形態は、六方晶窒化ホウ素の一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含み、純度が98.0質量%以上である原料粉末を酸素含有雰囲気下で加熱処理する工程(以下、酸化処理工程ともいう)、を含む。
【0044】
上記原料粉末は、六方晶窒化ホウ素の一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含み、純度が98.0質量%以上の粉末であればよく、市販の窒化ホウ素粉末を用いることも、別途調製したものを用いることもできる。原料粉末を調製する場合、例えば、炭化ホウ素を、窒素を含む雰囲気下で焼成する方法(以下、B4C法ともいう)、及び窒素を含む雰囲気下で焼成する方法(以下、炭素還元法ともいう)等によって調製できる。
【0045】
B4C法を応用した原料粉末の調製方法の一例は、炭化ホウ素粉末(B4C粉末)を、窒素加圧雰囲気下で焼成して、炭窒化ホウ素(B4CN4)を含む焼成物を得る工程(以下、窒化工程ともいう)と、当該焼成物と、ホウ酸を含むホウ素含有化合物とを含む混合粉末を加熱して鱗片状である六方晶窒化ホウ素(hBN)の一次粒子を生成し、一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含む粉末を得る工程(以下、結晶化工程ともいう)と、を有する。
【0046】
炭化ホウ素粉末は、例えば、以下の手順で調製したものを用いることもできる。ホウ酸とアセチレンブラックとを混合したのち、不活性ガス雰囲気中、1800~2400℃にて、1~10時間加熱し、炭化ホウ素塊を得る。この炭化ホウ素塊を、粉砕後、篩分けし、洗浄、不純物除去、乾燥等を適宜行い、炭化ホウ素粉末を調製することができる。
【0047】
窒化工程における焼成温度は、例えば、1800~2400℃、1900~2400℃、1800~2200℃、又は1900~2200℃であってよい。焼成温度を上記範囲内とすることで、炭窒化ホウ素の結晶性を高め、六方晶炭窒化ホウ素の割合を高めることができる。窒化工程における圧力は、0.6~1.0MPa、0.7~1.0MPa、0.6~0.9MPa、又は0.7~0.9MPaであってよい。当該圧力を上記範囲内とすることで、炭化ホウ素の窒化をより十分に進行させることができる。一方、当該圧力が高すぎると、製造コストが上昇する傾向にある。
【0048】
窒化工程における窒素加圧雰囲気の窒素ガス濃度は、例えば、95体積%以上、又は99体積%以上であってよい。窒化工程における焼成時間は、窒化が十分進む範囲であれば特に限定されず、例えば、6~30時間、又は8~20時間であってもよい。なお、本明細書において焼成時間とは、加熱対象物の周囲環境の温度が所定の温度に到達してから当該温度で維持する時間(保持時間)を意味する。
【0049】
結晶化工程では、窒化工程で得られた炭窒化ホウ素を脱炭化させるとともに、所定の大きさの鱗片状の一次粒子を生成させつつ、これらを凝集させて塊状粒子を含む窒化ホウ素粉末を得る。
【0050】
ホウ素含有化合物としては、ホウ酸に加えて、酸化ホウ素等が挙げられる。結晶化工程で加熱する混合粉末は、公知の添加物を含有してもよい。ホウ素含有化合物との配合割合は、モル比に応じて適切に設定可能である。混合粉末におけるホウ素含有化合物の含有量は、ホウ素含有化合物を炭窒化ホウ素に対して過剰量となるように設定することで、原料粉末の純度を向上できる。
【0051】
結晶化工程において混合粉末を加熱する加熱温度は、例えば、1800~2200℃、2000~2200℃、又は2000~2100℃であってよい。加熱温度を上記範囲内とすることで、粒成長をより十分に進行させることができる。結晶化工程は、常圧(大気圧)の雰囲気下で加熱してもよく、加圧して大気圧を超える圧力で加熱してもよい。加圧する場合には、例えば、0.5MPa以下、又は0.3MPa以下であってよい。
【0052】
結晶化工程における加熱時間は、例えば、0.5~40時間、0.5~35時間、又は1~30時間であってよい。加熱時間が短すぎると粒成長が十分に進行しない傾向にある。一方、加熱時間が長すぎると工業的に不利になる傾向にある。
【0053】
以上の工程によって、六方晶窒化ホウ素粉末を得ることができる。結晶化工程の後に、粉砕工程を行ってもよい。粉砕工程においては、一般的な粉砕機又は解砕機を用いることができる。例えば、ボールミル、振動ミル、及びジェットミル等を用いることができる。なお、本開示においては、「粉砕」には「解砕」も含まれる。
【0054】
炭素還元法を応用した原料粉末の調製方法の一例は、ホウ酸を含むホウ素含有化合物と、炭素含有化合物とを含む混合粉末を、窒素加圧雰囲気下で焼成して、窒化ホウ素を含む焼成物を得る工程(以下、低温焼成工程ともいう)と、上記工程よりも高く、2050℃未満の温度で上記焼成物を加熱処理し、六方晶窒化ホウ素(hBN)の一次粒子を生成し、上記一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含む粉末を得る工程(以下、焼成工程ともいう)と、を有する。
【0055】
ホウ素含有化合物は構成元素としてホウ素を有する化合物である。ホウ素含有化合物としては、純度が高く比較的安価な原料を用いることができる。このようなホウ素含有化合物としては、ホウ酸の他、例えば、酸化ホウ素などが挙げられる。ホウ素含有化合物はホウ酸を含むが、ホウ酸は加熱によって脱水し酸化ホウ素となり、原料粉末の加熱処理中に液相を形成すると共に粒成長を促す助剤としても働くことができる。
【0056】
炭素含有化合物は構成元素として炭素原子を有する化合物である。炭素含有化合物としては、純度が高く比較的安価な原料を用いることができる。このような炭素含有化合物としては、例えば、カーボンブラック及びアセチレンブラック等が挙げられる。
【0057】
混合粉末において、ホウ素含有化合物を炭素含有化合物に対して過剰量となるように配合してよい。混合粉末は、炭素含有化合物及びホウ素含有化合物に加えて、その他の化合物を含有してもよい。その他の化合物としては、例えば、核剤としての窒化ホウ素等が挙げられる。混合粉末が核剤としての窒化ホウ素を含有することで、合成される六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒径をより容易に制御することができる。混合粉末は、好ましくは核剤を含む。混合粉末が核剤を含む場合、比表面積の小さな六方晶窒化ホウ素粉末(例えば、比表面積が2.0m2/g未満である六方晶窒化ホウ素粉末)の調製がより容易となる。
【0058】
低温焼成工程は加圧下で行われる。低温焼成工程における圧力は、例えば、0.25MPa以上5.0MPa未満、0.25~3.0MPa、0.25~2.0MPa、0.25~1.0MPa、0.25MPa以上1.0MPa未満、0.30~2.0MPa、又は0.50~2.0MPaであってよい。低温焼成工程における圧力を高くすることで、ホウ素含有化合物等の原料の揮発をより抑制し、副生成物である炭化ホウ素の生成を抑制することができる。また低温焼成工程における圧力を高くすることで、窒化ホウ素粉末の比表面積の増加を抑制することができる。低温焼成工程の圧力の上限値を上記範囲内とすることで、窒化ホウ素の一次粒子の成長をより促進することができる。
【0059】
低温焼成工程における加熱温度は、例えば、1650℃以上1800℃未満、1650~1750℃、又は1650~1700℃であってよい。低温焼成工程における加熱温度の下限値を上記範囲内とすることで、反応を促進させ、得られる窒化ホウ素の収量を向上させることができる。低温焼成工程における加熱温度の上限値を上記範囲内とすることで、副生成物の生成を十分に抑制することができる。
【0060】
低温焼成工程における加熱時間は、例えば、1~10時間、1~5時間、又は2~4時間であってよい。窒化ホウ素を合成する反応の序盤である工程において、比較的低温で所定時間の間、維持することで、反応系をより均質化することができ、ひいては形成される窒化ホウ素をより均質化できる。なお、本明細書において加熱時間とは、加熱対象物の周囲環境の温度が所定の温度に到達してから当該温度で維持する時間(保持時間)を意味する。
【0061】
焼成工程は、低温焼成工程で得られた焼成物を、低温焼成工程よりも高い温度で加熱処理して六方晶窒化ホウ素(hBN)の一次粒子を生成し、上記一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含む粉末を得る工程である。
【0062】
焼成工程における加熱温度は、低温焼成工程よりも高く、2050℃未満の温度である。焼成工程の加熱温度は、2000℃以下であってよい。焼成工程における加熱時間は、例えば、3~15時間、5~10時間、又は6~9時間であってよい。
【0063】
焼成工程の圧力は、例えば、0.25MPa以上5.0MPa未満、0.25~3.0MPa、0.25~2.0MPa、0.25~1.0MPa、0.25MPa以上1.0MPa未満、0.30~2.0MPa、又は0.50~2.0MPaであってよい。焼成工程における圧力を高くすることで、得られる原料粉末の純度をより向上させることができる。焼成工程における圧力の上限値を上記範囲内とすることで、原料粉末の調製コストをより低減することができ、工業的に優位である。
【0064】
以上の工程によって、六方晶窒化ホウ素粉末を得ることができる。低温焼成工程又は焼成工程の後に、粉砕工程を行ってもよい。粉砕工程においては、一般的な粉砕機又は解砕機を用いることができる。
【0065】
窒化ホウ素粉末の製造方法における酸化処理工程は、酸素存在下で原料粉末を加熱処理することによって、原料粉末中の炭素分を炭酸ガスに変換し、系外に除去することで、原料粉末における炭素分の残存量を低減する工程である。当該工程によって、炭素含有粒子及び不純物炭素の含有量をより低減することができる。
【0066】
酸化処理工程における加熱温度の下限値は、例えば、500℃以上、600℃以上、又は700℃以上であってよい。加熱温度の下限値を上記範囲内とすることで、原料粉末中の炭素分をより低減できる。酸化処理工程における加熱温度の上限値は、例えば、1000℃未満、900℃以下、又は800℃以下であってよい。加熱温度の上限値を上記範囲内とすることで、脱炭処理を行いつつ、窒化ホウ素の過剰な酸化を防ぐことができる。酸化処理工程における加熱温度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、500℃以上1000℃未満、又は500~900℃等であってよい。
【0067】
酸化処理工程における圧力は、例えば、大気圧、又は減圧となるように調整することができる。酸化処理工程における圧力の上限値は、例えば、150kPa以下、130kPa以下、又は120kPa以下であってよい。酸化処理工程における圧力の下限値は特に制限されるものではないが、例えば、15kPa以上、20kPa以上、又は30kPa以上であってよい。酸化処理工程における圧力は上述の範囲内で調整してよく、例えば、15~150kPa等であってよい。
【0068】
酸化処理工程における雰囲気に占める酸素の割合の下限値は、例えば、15体積%以上、18体積%以上、又は20体積%以上であってよい。酸素の割合の下限値が上記範囲とすることで、原料粉末中の炭素分をより低減できる。酸化処理工程における雰囲気に占める酸素の割合の上限値は、例えば、80体積%以下、70体積%以下、又は60体積%以下であってよい。なお、上記酸素の割合は、標準状態における体積で定められる値を意味する。酸化処理工程における雰囲気に占める酸素の割合は上述の範囲内で調整してよく、例えば、15~80体積%等であってよい。
【0069】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
[炭化ホウ素粉末の調製]
新日本電工株式会社製のオルトホウ酸100質量部と、デンカ株式会社製のアセチレンブラック(商品名:HS100L)35質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合した。得られた混合物を、黒鉛製のルツボ中に充填し、アーク炉によって、アルゴン雰囲気下で、2200℃、6時間加熱し、塊状の炭化ホウ素(B4C)を得た。得られた塊状物を、ジョークラッシャーで粗粉砕して粗粉を得た。得られた粗粉を、炭化珪素製のボール(直径:10mm)を有するボールミルによって、さらに粉砕して粉砕粉を得た。ボールミルによる粉砕は、回転数20rpmで40分間行った。その後、目開き90μmの振動篩を用いて、粉砕粉を分級し炭化ホウ素粉末を得た。得られた炭化ホウ素粉末の炭素量は19.8質量%であった。炭素量は、炭素/硫黄同時分析計によって測定した。
【0072】
[炭窒化ホウ素粉末の調製]
調製した炭化ホウ素粉末を、カーボン式抵抗加熱炉内で、窒素ガス雰囲気下、焼成温度2050℃、且つ圧力0.90MPaの条件で12時間加熱した。このようにして炭窒化ホウ素(B4CN4)を含む焼成物を得た。また、XRDで分析した結果、六方晶炭窒化ホウ素の生成を確認した。その後、引き続き、アルミナ製のルツボに上記焼成物を充填し、マッフル炉内で、大気雰囲気、且つ焼成温度700℃の条件で5時間加熱した。
【0073】
[原料粉末(窒化ホウ素粉末)の調製]
焼成物とホウ酸とを、炭窒化ホウ素100質量部に対してホウ酸が50質量部となるような割合で配合し、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。得られた混合物を、窒化ホウ素製のルツボに充填し、抵抗加熱炉内で、窒素ガス雰囲気下、大気圧の圧力条件で、室温から1000℃まで昇温速度10℃/分で昇温した。引き続いて、1000℃から昇温速度2℃/分で1880℃まで昇温した。1880℃で、5時間保持して加熱することによって、六方晶窒化ホウ素の一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含む粉末を得た。得られた粉末をヘンシェルミキサーで20分解砕した後、95μm通篩することで原料粉末を得た。このようにして得られた原料粉末の純度は99.2質量%であり、配向性指数は7、黒鉛化指数は2.5であった。
【0074】
[酸化処理工程]
次に、得られた原料粉末に対して、以下の酸化処理を行った。まず、原料粉末500gに対し、大気圧雰囲気下(酸素の割合21体積%)、ロータリーキルン炉を用い700℃、1rpmで粉末を炉内攪拌させながら、2時間酸化処理して、原料粉末中の炭素分(不純物炭素等)を除去した粉末を得た。
【0075】
[乾燥工程]
窒化ホウ素板の上に、上述のようにして得られた粉末を設置した後、窒素雰囲気にて高温乾燥機を用いて、400℃、30分間加熱して、乾燥粉末を得た。当該乾燥粉末を実施例1の窒化ホウ素粉末とした。
【0076】
(実施例2)
酸化処理工程の加熱温度を550℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、窒化ホウ素粉末を調製し、評価した。
【0077】
(実施例3)
原料粉末の調製におけるホウ酸量を70質量部に変更し、抵抗加熱炉焼成の温度を1950℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、窒化ホウ素粉末を調製し、評価した。
【0078】
(実施例4)
炭化ホウ素粉末の調製におけるボールミルによる粉砕の処理時間を60分間に変更することで、原料粉末の平均粒径を45μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、窒化ホウ素粉末を調製し、評価した。
【0079】
(実施例5)
炭化ホウ素粉末の調製におけるボールミルによる粉砕の条件を回転数50rpmで3時間に変更することで、原料粉末の平均粒径を10μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、窒化ホウ素粉末を調製し、評価した。
【0080】
(実施例6)
原料粉末の調製におけるホウ酸量を55質量部に変更し、抵抗加熱炉焼成の温度を1890℃に変更することで、原料粉末のG.I.値を2.2に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、窒化ホウ素粉末を調製し、評価した。
【0081】
(実施例7)
原料粉末の調製における抵抗加熱炉焼成の温度を2100℃に変更することで、原料粉末のG.I.値を1.4に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、窒化ホウ素粉末を調製し、評価した。
【0082】
(実施例8)
炭化ホウ素粉末の調製におけるボールミルによる粉砕の条件を回転数25rpmで60分間とし、その後、目開き63μmの振動篩を用いて、粉砕粉を分級するように変更し、原料粉末の調製におけるホウ酸量を100質量部に変更し、また抵抗加熱炉焼成の温度を2000℃変更することで、原料粉末の比表面積を2.7、平均粒径を30μm、且つG.I.値を1.7に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、窒化ホウ素粉末を調製し、評価した。
【0083】
(比較例1)
酸化処理工程及び乾燥工程を実施しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、窒化ホウ素粉末を調製し、評価した。
【0084】
<窒化ホウ素粉末の評価>
実施例1~8、及び比較例1で得られた窒化ホウ素粉末のそれぞれについて、後述する測定方法によって、純度、黒鉛化指数、平均粒子径、比表面積、圧壊強さ、配向性指数、不純物炭素量、及び炭素含有粒子の数を評価した。結果を表1に示す。
【0085】
[窒化ホウ素粉末の純度]
窒化ホウ素粉末を水酸化ナトリウムでアルカリ分解させ、水蒸気蒸留法によって分解液からアンモニアを蒸留して、ホウ酸水溶液に捕集した。この捕集液を対象として、硫酸規定液で滴定行った。滴定の結果から窒化ホウ素粉末中の窒素原子(N)の含有量を算出した。得られた窒素原子の含有量から、式(1)に基づいて、窒化ホウ素粉末中の六方晶窒化ホウ素(hBN)の含有量を決定し、六方晶窒化ホウ素粉末の純度を算出した。なお、六方晶窒化ホウ素の式量は24.818g/mol、窒素原子の原子量は14.006g/molを用いた。
試料中の六方晶窒化ホウ素(hBN)の含有量[質量%]=窒素原子(N)の含有量[質量%]×1.772・・・式(1)
【0086】
[窒化ホウ素粉末の黒鉛化指数]
窒化ホウ素粉末の黒鉛化指数は粉末X線回折法による測定結果から算出した。得られたX線回折スペクトルにおいて、六方晶窒化ホウ素の一次粒子の(100)面、(101)面及び(102)面に対応する各回折ピークの積分強度(すなわち、各回折ピーク)とそのベースラインとで囲まれる面積値(単位は任意)を算出し、それぞれS100、S101、及びS102とした。こうして算出された面積値を用いて、以下の式(2)に基づき、黒鉛化指数を決定した。
GI=(S100+S101)/S102・・・式(2)
【0087】
[窒化ホウ素粉末の平均粒子径]
窒化ホウ素粉末の平均粒子径は、ISO 13320:2009の記載に準拠し、ベックマンコールター社製のレーザー回折散乱法粒度分布測定装置(装置名:LS-13 320)を用いて測定した。なお、窒化ホウ素粉末に対するホモジナイザー処理を行わずに、測定を行った。粒度分布の測定に際し、窒化ホウ素粉末を分散させる溶媒には水を用い、分散剤にはヘキサメタリン酸を用いた。この際、水の屈折率として1.33の数値を用い、窒化ホウ素粉末の屈折率として1.80の数値を用いた。
【0088】
[窒化ホウ素粉末の比表面積]
窒化ホウ素粉末の比表面積は、JIS Z 8830:2013「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」の記載に準拠し、窒素ガスを使用したBET一点法を適用して算出した。比表面積測定装置としては、ユアサアイオニクス株式会社製の比表面積測定装置(装置名:カンターソーブ)を用いた。なお、測定は、窒化ホウ素粉末を、300℃で、15分間かけて、乾燥脱気した後に行った。
【0089】
[凝集粒子の圧壊強さ]
凝集粒子の圧壊強さは、JIS R 1639-5:2007「ファインセラミックス-か(顆)粒特性の測定方法-第5部:単一か粒圧壊強さ」の記載に準拠して測定した。圧壊強さσ(単位[MPa])は、粒子内の位置によって変化する無次元数α(α=2.48)と、圧壊試験力P(単位[N])と、測定対象である凝集粒子の粒子径d(単位[μm])とから、σ=α×P/(π×d2)の計算式を用いて20粒子の累積破壊率63.2%の箇所を圧壊強さとして算出した。
【0090】
[窒化ホウ素粉末の配向性指数]
窒化ホウ素粉末の配向性指数は、粉末X線回折法による測定結果から決定した。まずX線回折装置(株式会社リガク製、商品名:ULTIMA-IV)に付属している深さ0.2mmの凹部を有するガラスセルの凹部に、窒化ホウ素粉末を充填し、粉末試料成型機(株式会社アメナテック製、商品名:PX700)を用いて、設定圧力Mにて固めることで測定サンプルを調製した。上記成型機によって固めた充填物の表面が平滑になっていない場合は手動で平滑にしてから測定を行った。測定サンプルにX線を照射して、ベースライン補正を行った後、窒化ホウ素の(002)面と(100)面とのピーク強度比を算出し、この数値に基づき配向性指数[I(002)/I(100)]を決定した。
【0091】
[窒化ホウ素粉末の不純物炭素量]
窒化ホウ素粉末の不純物炭素量は、炭素/硫黄同時分析装置(LECO社製、商品名:IR-412型)によって測定した。
【0092】
[窒化ホウ素粉末の炭素含有粒子の数]
炭素含有粒子の個数は、以下のように測定した。まず、容器に、測定対象となる窒化ホウ素粉末10gと、エタノール100mLとを測り取り、撹拌棒によって撹拌し、混合溶液を調製した。次に上記混合溶液を、超音波分散器を用いて分散させ、分散液を調製した。得られた分散液を、目開き63μmのふるい(JIS Z 8801-1:2019「試験用ふるい-金属製網ふるい」)に投入し、その後、蒸留水2L投入し、篩下から白濁した水が出なくなるまで更に蒸留水を流し続けふるいにかけた。その後、ふるいの上に残ったもの(篩上品)をエタノールで洗浄し、ふるいにかけて回収した。篩上品に再度エタノールを投入し篩下から白濁した水が出なくなるまで更に蒸留水を流し続けて、篩上品をエタノールにて洗浄した。更に、篩上品を容器に移し、エタノール100mLを加えて、上述の操作と同様に撹拌、分散、ふるいの処理を行った。ふるいを通過するエタノール溶液の白濁がなくなるまで同様の操作を繰り返し行った。
【0093】
その後、篩上品を乾燥させ薬包紙の上に粉末を分散させ、薬包紙の下に永久磁石を設置し、永久磁石に対して着磁されない粉末を別の薬包紙の上に分散させ、光学顕微鏡によって観察を行い、観測される有色粒子の数をカウントした。同様の操作を5サンプル以上について行い、得られた有色粒子の数の算術平均を算出し、この平均値を窒化ホウ素粉末10gあたりの炭素含有粒子の個数とした。なお、炭素を含有するものであることはXRFによって測定することで確認した。
【0094】
<窒化ホウ素粉末の性能評価>
実施例1~8、及び比較例1で得られた窒化ホウ素粉末のそれぞれについて性能評価を行った。具体的には、放熱シートの充填材としての評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
[絶縁性能の評価(絶縁破壊電圧の測定)]
まず、窒化ホウ素粉末の含有する樹脂シートを調製した。ナフタレン型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、商品名HP4032)100質量部と硬化剤としてイミダゾール類(四国化成工業株式会社製、商品名MAVT)10質量部の混合物を準備した。この混合物100体積部に対して、窒化ホウ素粉末を55体積部の割合でプラネタリーミキサーによって15分間、攪拌混合した。得られた混合物を、PET製シートの上に塗布した後、500Paの減圧条件で、脱泡を10分間行った。エポキシ樹脂組成物を、厚さ0.05mmのポリエチレンテレフタレート(PET)製のフィルム上に、硬化後の厚さが0.10mmになるように塗布し、100℃15分加熱乾燥させ、プレス機によって面圧160kgf/cm2をかけながら180℃で180分間、加熱硬化し、厚さ0.1mmの放熱シートを得た。
【0096】
得られた放熱シートを評価対象とした。放熱シートの絶縁強度の測定は、JIS C 2110に記載の方法に準拠して行った。具体的には、シート状の放熱部材(放熱シート)を5cm×5cmの大きさに加工し、加工した放熱部材の一方の面に直径25mmの円形の銅層を形成し、他方の面には面全体に銅層を形成し、試験サンプルを作製した。試験サンプルを挟み込むように電極を配置し、65℃、90RH%の状態で、直流電圧1100Vを印加した。印加してから、絶縁破壊されるまでの通電時間(破壊時間という)を測定し、以下の基準で評価付けを行った。各評価サンプルに対して10回、同じ評価を行い、その平均値を、各評価サンプルの絶縁性能とした。
A:破壊時間が300時間以上である。
B:破壊時間が200時間以上300時間未満である。
C:破壊時間が100時間以上200時間未満である。
D:破壊時間が50時間以上100時間未満である。
E:破壊時間が50時間未満である。
【0097】
[放熱性能の評価(熱伝導率の測定)]
上記絶縁性評価のための樹脂シートと同じ樹脂シート(放熱シート)を調製し、エポキシ樹脂組成物をシリコーンシート上に流し込み、縦10mm、横10mm、厚さ0.5mmの硬化体を作製し、これを評価サンプルとした。得られた樹脂シートの一軸プレス方向における熱伝導率H(単位[W/(m・K)])は、熱拡散率T(単位[m2/秒])、密度D(単位[kg/m3])、及び比熱容量C(単位[J/(kg・K)])の測定値を用いて、H=T×D×Cの計算式から算出した。熱拡散率Tは、樹脂シートを、縦×横×厚さ=10mm×10mm×0.3mmのサイズに加工したサンプルに対するレーザーフラッシュ法によって測定した値を用いた。測定装置はキセノンフラッシュアナライザ(NETZSCH社製、商品名:LFA447NanoFlash)を用いた。密度Dはアルキメデス法によって測定した値を用いた。比熱容量Cは、示差走査熱量計(株式会社リガク製、商品名:ThermoPlusEvo DSC8230)を用いて測定した値を用いた。得られた、熱伝導率Hに基づき、窒化ホウ素粉末の放熱性能を以下の基準で評価した。
A:熱伝導率Hが、12W/mK以上である。
B:熱伝導率Hが、9W/mK以上12W/mK未満である。
C:熱伝導率Hが、6W/mK以上9W/mK未満である。
D:熱伝導率Hが、6W/mK未満である。
【0098】
【産業上の利用可能性】
【0099】
本開示によれば、従来の窒化ホウ素粉末よりも、充填材として使用した場合の絶縁性能に優れる窒化ホウ素粉末を提供できる。