(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】ゴム組成物、加硫ゴム、ベルトコーティングゴム、間ゴム及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 7/00 20060101AFI20220914BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20220914BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220914BHJP
C08L 61/10 20060101ALI20220914BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220914BHJP
C08K 5/3467 20060101ALI20220914BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L9/00
C08K3/04
C08L61/10
C08K3/36
C08K5/3467
B60C1/00 A
B60C1/00 Z
(21)【出願番号】P 2018098167
(22)【出願日】2018-05-22
【審査請求日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2017236207
(32)【優先日】2017-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】石原 健延
(72)【発明者】
【氏名】額賀 英幸
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 拓也
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-156606(JP,A)
【文献】特開2012-224678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、
窒素吸着比表面積(N2SA)が70~90m2/gであり、
窒素吸着比表面積(N
2SA)m
2/gとよう素吸着量(IA)mg/gとの比(N
2SA/IA)が1.2m
2/mg以下であるカーボンブラックと、
SP値が10(cal/cm
3)
1/2以上である樹脂を含む樹脂成分と
を含み、
加硫後の50%モジュラス値(M50)に対する200%モジュラス値(M200)の比が、5.0以下(M200/M50≦5.0)であり、
24℃における1%歪時の損失正接(tanδ
1%)に対する24℃における100%歪時の損失正接(tanδ
100%)の割合〔tanδ
100%/tanδ
1%〕が0.6以上である
加硫ゴムであって、
前記樹脂成分が、フェノール樹脂とメチレン供与体とからなり、
前記ゴム成分は、天然ゴム及びイソプレンゴムから選択される少なくとも1種である、
加硫ゴム。
【請求項2】
前記カーボンブラックの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、35~45質量部である請求項
1に記載の加硫ゴム。
【請求項3】
更にシリカを含む請求項1
又は2に記載の加硫ゴム。
【請求項4】
前記メチレン供与体が、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサメトキシメチロールメラミン及びパラホルムアルデヒドからなる群より選択される少なくとも一種である請求項
1~3のいずれか1項に記載の加硫ゴム。
【請求項5】
前記SP値が10(cal/cm
3)
1/2以上である樹脂の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、2~10質量部である請求項1~
4のいずれか1項に記載の加硫ゴム。
【請求項6】
前記メチレン供与体の含有量に対する前記フェノール樹脂の含有量の割合が、0.6~7である請求項
1~5のいずれか1項に記載の加硫ゴム。
【請求項7】
前記ゴム成分は天然ゴム1種を用いる請求項1~
6のいずれか1項に記載の加硫ゴム。
【請求項8】
24℃における1%歪時の損失正接(tanδ
1%)に対する24℃における100%歪時の損失正接(tanδ
100%)の割合〔tanδ
100%/tanδ
1%〕が0.65以上である請求項1~
7のいずれか1項に記載の加硫ゴム。
【請求項9】
24℃における1%歪時の損失正接(tanδ
1%)に対する24℃における100%歪時の損失正接(tanδ
100%)の割合〔tanδ
100%/tanδ
1%〕が0.70以上である請求項1~
8のいずれか1項に記載の加硫ゴム。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の加硫ゴムを用いたベルトコーティングゴム。
【請求項11】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の加硫ゴムを用いた間ゴム。
【請求項12】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の加硫ゴムを用いたタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、加硫ゴム、ベルトコーティングゴム、間ゴム及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、強度が必要なタイヤのタイヤ内部には、リング状のタイヤ本体の子午線方向に沿って埋設されるコードから構成されたカーカス層と、該カーカス層のタイヤ径方向外側に配設されたベルトとを備えることがある。このベルトは通常、スチールコードをコーティングゴム(以下、「ベルトコーティングゴム」又は「コーティングゴム」という。)で覆った複数のベルト層によって形成され、タイヤに耐荷重性、耐牽引性等を付与している。そして、ベルトコーティングゴムについては、高い耐久性、その中でも特に高い耐亀裂進展性が要求されている。一方、近年、自動車の低燃費性能向上の観点から、タイヤの転がり抵抗を低減させる為、ベルトコーティングゴムの低ロス性向上の要求が高まっている。
【0003】
しかし、低ロス性を向上させるために、ベルトコーティングゴムに配合するカーボンブラックの量を減らした場合に、耐亀裂進展性が悪化する傾向にあることから、低ロス性と耐亀裂進展性との両立ができる技術の開発が望まれていた。
上記課題を解決するべく、例えば特許文献1には、特定グレードのカーボンブラックを用いて作成したウェットマスターバッチを用いてゴム組成物を製造することによって、表面処理カーボンブラックの分散性を高める技術が開示されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、コロイダル特性を制御したカーボンブラックを配合し転がり抵抗を低減しながら、タイヤにしたときの操縦安定性を従来レベル以上に向上することを目的として、タイヤ用ゴム組成物を、ジエン系ゴム100重量部に対し、ノボラック型フェノール樹脂及びメチレン供与体を合計で1~50重量部配合すると共に、カーボンブラック30~100重量部を含む補強性充填材を60~100重量部配合したタイヤ用ゴム組成物であって、前記カーボンブラックの凝集体のストークス径の質量分布曲線におけるモード径Dstが145nm以上、窒素吸着比表面積N2SAが45~70m2/g、沃素吸着量IA(単位mg/g)に対する前記窒素吸着比表面積N2SAの比N2SA/IAが1.00~1.40であるものとすることが開示されている。
更に、例えば特許文献3には、耐疲労性を損なうことなく発熱性、破壊強度を向上しスチールコードとの接着性を改善したスチールコード用ゴム組成物、及びこれを用いた耐久性に優れる空気入りラジアルタイヤを得ることを目的として、スチールコード用ゴム組成物を、天然ゴム及びジエン系合成ゴムより選ばれた少なくとも1種のゴム成分100重量部に対して、(A)窒素吸着比表面積(N2SA)が70~100m2/g、(B)アグリゲート分布の最多頻度値(Dst)に対するDstの半値幅(ΔDst)の比ΔDst/Dstが0.85~1.25、(C)24M4DBP吸油量が60~120ml/100g、(D)N2SAとヨウ素吸着量(IA)の比(N2SA/IA)の値が1.10~1.35、の全ての条件を満たすカーボンブラック35~65重量部、有機酸コバルト塩をコバルト金属分量で0.1~0.3重量部、レゾルシン又はレゾルシン誘導体を0.5~5重量部とそのメチレンドナーとしてのヘキサメチレンテトラミン又はメラミン誘導体を前記レゾルシン又はレゾルシン誘導体の0.5~2倍重量部含有してなるものとすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-037547号公報
【文献】特開2014-37514号公報
【文献】特開2006-232895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術によって、一定の低ロス性及び耐亀裂進展性の両立効果を得ることが可能となった。ただし、タイヤのさらなる性能向上の観点から、低ロス性及び耐亀裂進展性について、より高いレベルの両立が望まれていた。
また、特許文献2及び3の技術では、低ロス性及び耐亀裂進展性の両立効果を得られなかった。
【0007】
そのため、本発明は、低発熱性及び耐亀裂進展性を高いレベルで両立できる加硫ゴムを製造することができるゴム組成物、低発熱性及び耐亀裂進展性を高いレベルで両立できる加硫ゴム、ベルトコーティングゴム、及び間ゴム、並びに、低ロス性及び耐亀裂進展性を高いレベルで両立できるタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
<1> ゴム成分と、
窒素吸着比表面積(N2SA)m2/gとよう素吸着量(IA)mg/gとの比(N2SA/IA)が1.2m2/mg以下であるカーボンブラックと、
SP値が10(cal/cm3)1/2以上である樹脂を含む樹脂成分と
を含み、
加硫後の50%モジュラス値(M50)に対する200%モジュラス値(M200)の比が、5.0以下(M200/M50≦5.0)であるゴム組成物である。
【0009】
<2> 前記樹脂成分が、フェノール樹脂とメチレン供与体とからなる<1>に記載のゴム組成物である。
<3> 前記カーボンブラックの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、35~45質量部である<1>又は<2>に記載のゴム組成物である。
<4> 更にシリカを含む<1>~<3>のいずれか1つに記載のゴム組成物である。
<5> 前記メチレン供与体が、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサメトキシメチロールメラミン及びパラホルムアルデヒドからなる群より選択される少なくとも一種である<2>~<4>のいずれか1つに記載のゴム組成物である。
<6> 前記SP値が10(cal/cm3)1/2以上である樹脂の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、2~10質量部である<1>~<5>のいずれか1つに記載のゴム組成物である。
<7> 前記メチレン供与体の含有量に対する前記フェノール樹脂の含有量の割合が、0.6~7である<2>~<6>のいずれか1つに記載のゴム組成物である。
【0010】
<8> <1>~<7>のいずれか1つに記載のゴム組成物を用いた加硫ゴムである。
<9> 24℃における1%歪時の損失正接(tanδ1%)に対する24℃における100%歪時の損失正接(tanδ100%)の割合〔tanδ100%/tanδ1%〕が0.6以上である<8>に記載の加硫ゴムである。
【0011】
<10> <8>又は<9>に記載の加硫ゴムを用いたベルトコーティングゴムである。
<11> <8>又は<9>に記載の加硫ゴムを用いた間ゴムである。
<12> <8>又は<9>に記載の加硫ゴムを用いたタイヤ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低発熱性及び耐亀裂進展性を高いレベルで両立できる加硫ゴムを製造することができるゴム組成物、低発熱性及び耐亀裂進展性を高いレベルで両立できる加硫ゴム、ベルトコーティングゴム、及び間ゴム、並びに、低ロス性及び耐亀裂進展性を高いレベルで両立できるタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、ゴム成分と、窒素吸着比表面積(N2SA)m2/gとよう素吸着量(IA)mg/gとの比(N2SA/IA)が1.2m2/mg以下であるカーボンブラックと、SP値が10(cal/cm3)1/2以上である樹脂を含む樹脂成分とを含み、加硫後の50%モジュラス値(M50)に対する200%モジュラス値(M200)の比が、5.0以下(M200/M50≦5.0)である。すなわち、本発明のゴム組成物は、加硫ゴム特性として、50%モジュラス値(M50)に対する200%モジュラス値(M200)の比が、5.0以下(M200/M50≦5.0)である。
カーボンブラックの周りに樹脂が集まることで、樹脂を介してカーボンブラック同士のネットワークが形成され、これによって、ゴム組成物から得られる加硫ゴムは、高い亀裂性を発現することができると考えられる。ここで、カーボンブラックは、通常、表面にカルボキシ基、ヒドロキシ基、キノン基等の含酸素官能基を有している。これらの表面官能基が多いと、ゴム成分との反応性が高くなり、カーボンブラックの周りに樹脂が集まりにくくなるため、ネットワーク形成を阻害する傾向にあった。
カーボンブラックのN2SA/IAが小さいことは、カーボンブラックの表面官能基数が少ない(極性が低い)ことを意味する。カーボンブラックのN2SA/IAが1.2m2/mg以下であることで、ゴム成分とカーボンブラックとの反応性が抑制され、ネットワーク形成が進むため、加硫ゴムの耐亀裂進展性に優れると考えられる。
【0014】
また、本発明のゴム組成物は、樹脂を含有することで、加硫ゴムの50%モジュラス値(M50)を大きくし、優れた低発熱性を維持しつつ、ゴム組成物を補強し、優れた耐亀裂進展性を実現することができる。特許文献2、3に示されるゴム組成物には、N2SA/IAが1.2m2/mg以下であるカーボンブラックも用いられているが、樹脂を含まないため優れた耐亀裂進展性を実現することができない。
更に、SP値(溶解性パラメータ値、Solubility Parameter値)が10(cal/cm3)1/2未満となる樹脂は、ゴム成分と相溶し易いため、樹脂を介したカーボンブラック同士のネットワーク形成を阻害する傾向にあった。
本発明では、SP値が10(cal/cm3)1/2以上となる樹脂を含むことで、加硫ゴムの低発熱性に優れると共に、耐亀裂進展性に優れる。
【0015】
本発明では、更に、加硫ゴムの50%モジュラス値(M50)に対する加硫ゴムの200%モジュラス値(M200)の比を、5.0以下(M200/M50≦5.0)とすることによって、加硫ゴムの低発熱性及び耐亀裂進展性を実現することができる。
M50は低歪域の弾性に関連するパラメータであり、値が大きいほどタイヤのベルト部の変形を抑制することができる。一方、M200は高歪域の弾性に関連するパラメータであり、値が低いほど、加硫ゴムの亀裂進展を抑えることができ、亀裂先端の応力の集中を緩和させることができる。
以下、本発明のゴム組成物の詳細について説明する。
【0016】
〔ゴム成分〕
本発明のゴム組成物は、ゴム成分を含む。
ゴム成分は、特に限定はされず、要求される性能に応じて適宜変更することができる。例えば、優れた耐亀裂進展性及び耐摩耗性を得ることができる観点からは、ゴム組成物は、天然ゴム若しくはジエン系合成ゴムを単独で、又は、天然ゴム及びジエン系合成ゴムを併用した形で、ゴム成分を含有することができる。
また、ゴム成分は、ジエン系ゴム100%から構成することもできるが、本発明の目的を損なわない範囲であれば、ジエン系以外のゴムを含有することもできる。なお、優れた耐亀裂進展性を得ることができる観点から、ゴム成分中のジエン系ゴムの含有量は、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。
【0017】
ここで、ジエン系合成ゴムとしては、ポリブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。
また、非ジエン系ゴムについては、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、ブチルゴム(IIR)等が挙げられる。
なお、これらのジエン系合成ゴム及び非ジエン系ゴムは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、ゴム成分は変性基で変性されていてもよい。
以上の中でも、ゴム成分は、天然ゴム、ポリブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、及びスチレンブタジエンゴム(SBR)からなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、天然ゴム及びポリブタジエンゴム(BR)からなる群より選択される少なくとも1つを含むことがより好ましい。ゴム成分を1種単独で用いる場合は天然ゴム1種またはスチレンブタジエンゴム1種を用いることが好ましく、天然ゴム1種を用いることがより好ましい。ゴム成分を2種以上混合して用いる場合は、天然ゴムとジエン系合成ゴムとを混合して用いることが好ましく、天然ゴムとポリブタジエンゴムとの2種を混合して用いることが好ましい。
【0018】
〔カーボンブラック〕
本発明のゴム組成物は、窒素吸着比表面積(N2SA)とよう素吸着量(IA)との比(N2SA/IA)が1.2m2/mg以下であるカーボンブラックを含む。
N2SA/IAは、よう素吸着量(iodine adsorption number;IA)〔mg/g〕に対する窒素吸着比表面積(nitrogen adsorption specific surface area;N2SA)〔m2/g〕の値であり、N2SA/IAの単位は〔m2/g〕/〔mg/g〕=〔m2/mg〕である。
N2SA/IAの値が小さいと、カーボンブラックの表面官能基数が少なく、ゴム成分とカーボンブラックとの反応性が抑制され、樹脂を介したカーボンブラック同士のネットワーク形成が進むため、加硫ゴムの耐亀裂進展性に優れる。
カーボンブラック同士のネットワーク形成をより高める観点から、N2SA/IAは1.10m2/mg未満であることが好ましく、1.06m2/mg以下であることがより好ましい。N2SA/IAが0.85m2/mgよりも小さいカーボンブラックは入手しにくく、また、ゴム成分とカーボンブラックとの間にある程度の反応性があることで、カーボンブラック同士のネットワーク形成をより高めることができるため、N2SA/IAは0.90m2/mg以上であることが好ましく、0.93m2/mg以上であることがより好ましく、0.94m2/mg以上であることが更に好ましい。
【0019】
窒素吸着比表面積(N2SA)は、70~90m2/gであることが好ましく、75~85m2/gであることがより好ましい。カーボンブラックのストラクチャの適正化を図ることができるため、低発熱性及び耐亀裂進展性のさらなる改善ができる。なお、カーボンブラックのストラクチャとは、球状のカーボンブラック粒子がそれぞれ融着し、繋がった結果、形成された構造体(カーボンブラック粒子の凝集体)の大きさのことである。
なお、窒素吸着比表面積は、ISO4652-1に準拠して単点法にて測定することができ、例えば、脱気したカーボンブラックを液体窒素に浸漬させた後、平衡時においてカーボンブラック表面に吸着した窒素量を測定し、測定値から比表面積(m2/g)を算出できる。
【0020】
よう素吸着量(IA)は、60~120mg/gであることが好ましく、70~100mg/gであることがより好ましい。かかる範囲であることで、表面積の適正化を図ることで低発熱性を改善することができる。
なお、よう素吸着量は、JIS K6217-1(2008)〔ゴム用カーボンブラック -基本特性- 第1部:よう素吸着量の求め方(滴定法)〕に準拠した方法にて測定することができる。
【0021】
更に、カーボンブラックは、DBP(ジブチルフタレート)吸収量が50~100cm3/100gであることが好ましい。
DBP吸収量が50~100cm3/100gであり、ストラクチャの低いカーボンブラックを用いることで、ゴム組成物の補強性と適度な柔軟性を両立することができ、より優れた耐亀裂進展性を得ることができる。カーボンブラックのDBP吸収量は、90cm3/100g以下であることがより好ましく、80cm3/100g以下であることが更に好ましい。
また、カーボンブラックのDBP吸収量は、カーボンブラック100gが吸収するDBP(ジブチルフタレート)の量を表し、JIS K 6217-4(2008年)に準拠した方法にて測定することができる。
【0022】
カーボンブラックの種類は、N2SA/IAが1.2m2/mg以下であれば特に限定はされず、例えば、オイルファーネス法により製造された任意のハードカーボンを用いることができる。これらの中でも、より優れた低発熱性及び耐亀裂進展性を実現する観点からは、HAFグレードのカーボンブラックを用いることが好ましい。
【0023】
ゴム組成物中のカーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、35~45質量部であることが好ましい。カーボンブラックの含有量を、ゴム成分100質量部に対して、35質量部以上とすることで、高い補強性及び耐亀裂進展性を得ることができ、45質量部以下とすることで、低発熱性のさらなる改善を図ることができる。
【0024】
〔樹脂成分〕
本発明のゴム組成物は、SP値が10(cal/cm3)1/2以上である樹脂を含む樹脂成分を含む。
本発明において樹脂成分とは、SP値が10(cal/cm3)1/2以上である樹脂のほか、当該樹脂と共に硬化して樹脂の一部として樹脂分子に取り込まれる成分(例えば、後述するメチレン供与体等の硬化剤)を含む。
樹脂のSP値が10(cal/cm3)1/2未満であると、ゴム成分と相溶し易いため、樹脂を介したカーボンブラック同士のネットワーク形成を阻害する傾向にあり、加硫ゴムの耐亀裂進展性に優れない。樹脂のSP値は、加硫ゴムの耐亀裂進展性をより高める観点から、10.3(cal/cm3)1/2以上であることが好ましく、11.0(cal/cm3)1/2以上であることがより好ましく、12.0(cal/cm3)1/2以上であることが更に好ましく、12.5(cal/cm3)1/2以上であることがより更に好ましい。SP値が16(cal/cm3)1/2を超える樹脂は入手することが困難である。
樹脂のSP値は、Flory-Hugginsの式に従って算出することができる。
【0025】
樹脂としては、SP値が10(cal/cm3)1/2以上であれば、特に制限されず、例えば、テルペン樹脂、フェノール樹脂、クマロン・インデン樹脂、キシレン樹脂、ロジン系樹脂、芳香族系炭化水素樹脂、脂肪族系炭化水素樹脂、脂環族系炭化水素樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂が挙げられる。
テルペン樹脂は、テルペン重合体又はその変性物を主成分とする樹脂であり、ヤスハラケミカル(株)製の商品名「YSレジンPX」、「YSレジンPXN」、「YSレジンTO」及び「YSレジンTR」の各シリーズ、ハーキュリーズ社製の商品名「ピコライト」シリーズ等が挙げられる。
フェノール樹脂は、ノボラック系の熱可塑性フェノール樹脂が好ましく、住友ベークライト(株)製の商品名「スミライトレジンPR」シリーズ、荒川化学工業(株)製の商品名「タマノル501」等が挙げられる。
クマロン・インデン樹脂は、コールタール中のクマロン、インデン、スチレン等を重合させたものであり、神戸油化学工業(製)のクマロン樹脂シリーズ等が挙げられる。
キシレン樹脂は、キシレンとホルムアルデヒドを縮合して得られる樹脂又はその変性物であり、リグナイト(株)製の商品名「リグノール」シリーズ等が挙げられる。
ロジン系樹脂としては、ロジンのペンタエリスリトール・エステル、ロジンのグリセロール・エステル、重合ロジン、水素添加ロジン等が挙げられる。
芳香族系炭化水素樹脂は、C9留分から製造された石油樹脂であり、JX日鉱日石エネルギー(株)製の商品名「日石ネオポリマー」シリーズ等が挙げられる。
脂肪族系炭化水素樹脂は、C5留分から製造された石油樹脂であり、エクソンモービル社製の商品名「エスコレッツ」シリーズ、日本ゼオン(株)製の商品名「クイントン100」シリーズ等が挙げられる。
脂環族系炭化水素樹脂は、例えば、C5留分から抽出された高純度のシクロペンタジエンを主原料に製造された石油樹脂が挙げられるが、C5系樹脂はSP値が10(cal/cm3)1/2未満であるものが多い。従って、樹脂のSP値を10(cal/cm3)1/2以上とするために、シクロペンタジエンを二量体化した高純度のジシクロペンタジエンを主原料に製造したジシクロペンタジエン系樹脂(DCPD系樹脂)を用いることが好ましい。
ジシクロペンタジエン系樹脂としては、日本ゼオン社製、クイントン1000シリーズ(クイントン1105、クイントン1325、クイントン1340)等が好適に挙げられる。
以上の中でも、SP値が10(cal/cm3)1/2以上である樹脂は、ジシクロペンタジエン系樹脂(DCPD系樹脂)及びフェノール樹脂が好ましく、フェノール樹脂がより好ましい。
【0026】
ゴム組成物中のSP値が10(cal/cm3)1/2以上である樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、2~10質量部であることが好ましく、3~7質量部であることがより好ましい。SP値が10(cal/cm3)1/2以上である樹脂の含有量を、ゴム成分100質量部に対して、2質量部以上とすることで、耐亀裂進展性をさらに改善することができ、10質量部以下とすることで、低発熱性の悪化を抑制することができる。
【0027】
(フェノール樹脂)
フェノール樹脂について、より詳細に説明する。
ゴム組成物が、フェノール樹脂を、後述するメチレン供与体とともに含むことによって、ゴム組成物の50%モジュラス値(M50)を向上させ、優れた低発熱性を維持しつつ、ゴム組成物の補強性を向上し、優れた耐亀裂進展性を実現することができる。
フェノール樹脂は、特に限定はされず、要求される性能に応じて適宜選択することができる。例えば、フェノール、クレゾール、レゾルシン、tert-ブチルフェノール等のフェノール類またはこれらの混合物とホルムアルデヒドとを、塩酸、蓚酸等の酸触媒の存在下において縮合反応させることによって製造したものが挙げられる。また、フェノール樹脂には、変性したものを用いることができ、例えば、ロジン油、トール油、カシュー油、リノール酸、オレイン酸、リノレン酸等の油によって変性することができる。
フェノール樹脂は、1種を単独して含むこともできるし、複数種を混合して含むこともできる。
【0028】
(メチレン供与体)
本発明のゴム組成物は、フェノール樹脂と共に、樹脂成分として、メチレン供与体を含むことが好ましい。
メラミン供与体を含むことによって、フェノール樹脂の硬化剤として機能し、ゴム組成物の50%モジュラス値(M50)を向上させ、優れた低発熱性を維持しつつ、ゴム組成物の補強性を向上することができ、M50に対するM200の比を、5.0以下(M200/M50≦5.0)とし易い。
更に、加硫ゴムの低発熱性及び耐亀裂進展性をより向上する観点から、樹脂成分は、フェノール樹脂とメチレン供与体とからなることが好ましい。
【0029】
メチレン供与体の種類は、特に限定はされず、要求される性能に応じて適宜選択することができる。例えば、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチロールメラミン、ペンタメトキシメチロールメラミン、ヘキサメトキシメチルメラミン、ペンタメトキシメチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、ヘキサキス-(メトキシメチル)メラミン、N,N’,N”-トリメチル-N,N’,N”-トリメチロールメラミン、N,N’,N”-トリメチロールメラミン、N-メチロールメラミン、N,N’-(メトキシメチル)メラミン、N,N’,N”-トリブチル-N,N’,N”-トリメチロールメラミン、パラホルムアルデヒド等が挙げられる。これらの中でも、メチレン供与体は、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサメトキシメチロールメラミン及びパラホルムアルデヒドからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
なお、これらのメチレン供与体は、1種単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0030】
また、メチレン供与体の含有量に対するフェノール樹脂の含有量の割合は、加硫ゴムの低発熱性及び耐亀裂進展性を、より更に高いレベルで両立する観点から、0.6~7であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。メチレン供与体の含有量に対するフェノール樹脂の含有量の割合が0.6以上であることで、加硫ゴムのM50がより向上し易く、耐亀裂進展性をより高めることができる。また、前記割合が7以下であることで加硫ゴムの低発熱性に優れる。
【0031】
〔その他の成分〕
本発明のゴム組成物は、上述したゴム成分、カーボンブラック、樹脂成分に加え、その他の成分を、本発明の効果を損なわない程度に含むことができる。
その他の成分としては、例えば、前記カーボンブラック以外の充填材、老化防止剤、架橋促進剤、架橋剤、架橋促進助剤、シランカップリング剤、ステアリン酸、オゾン劣化防止剤、界面活性剤等のゴム工業で通常使用されている添加剤を適宜含むことができる。
【0032】
(充填材)
充填材としては、例えば、シリカ、その他の無機充填材等が挙げられる。
その中でも、充填材として、シリカを含むことが好ましい。ゴム組成物がシリカを含むことで、加硫ゴムについて、高歪領域での発熱を発生させ易く、耐亀裂性を向上させることができるため、より優れた低発熱性及び耐亀裂進展性が得られる。
【0033】
[シリカ]
シリカとしては、例えば、湿式シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。
上述した中でも、シリカは、湿式シリカであることが好ましく、沈降シリカであることがより好ましい。これらのシリカは、分散性が高く、ゴム組成物から得られる加硫ゴムの低発熱性及び耐亀裂進展性をより向上できるためである。なお、沈降シリカとは、製造初期に、反応溶液を比較的高温、中性~アルカリ性のpH領域で反応を進めてシリカ一次粒子を成長させ、その後酸性側へ制御することで、一次粒子を凝集させる結果得られるシリカのことである。
【0034】
シリカは、ゴム補強性とゴム成分中への分散性の観点から、BET表面積が100~250m2/gであることが好ましく、160~220であることが好ましい。また、セチルトリメチルアンモニウムブロミド比表面積(CTAB比表面積)が80~230m2/gであることが好ましく、130~180m2/gであることがより好ましい。
【0035】
ゴム組成物中のシリカの含有量は、特に限定はされないが、加硫ゴムについて優れた低発熱性を実現する観点からは、ゴム成分100質量部に対して、1~15質量部であることが好ましく、3~10質量部であることがより好ましい。
【0036】
なお、無機充填材としては、例えば、下記式(I)で表される無機化合物を用いることもできる。
nM・xSiOY・zH2O ・・・ (I)
(式中、Mは、アルミニウム、マグネシウム、チタン、カルシウム及びジルコニウムからなる群から選ばれる金属、これらの金属の酸化物又は水酸化物、及びそれらの水和物、並びに、これらの金属の炭酸塩から選ばれる少なくとも一種であり;n、x、y及びzは、それぞれ1~5の整数、0~10の整数、2~5の整数、及び0~10の整数である。)
【0037】
式(I)の無機化合物としては、γ-アルミナ、α-アルミナ等のアルミナ(Al2O3);ベーマイト、ダイアスポア等のアルミナ一水和物(Al2O3・H2O);ギブサイト、バイヤライト等の水酸化アルミニウム[Al(OH)3];炭酸アルミニウム[Al2(CO3)3]、水酸化マグネシウム[Mg(OH)2]、酸化マグネシウム(MgO)、炭酸マグネシウム(MgCO3)、タルク(3MgO・4SiO2・H2O)、アタパルジャイト(5MgO・8SiO2・9H2O)、チタン白(TiO2)、チタン黒(TiO2n-1)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム[Ca(OH)2]、酸化アルミニウムマグネシウム(MgO・Al2O3)、クレー(Al2O3・2SiO2)、カオリン(Al2O3・2SiO2・2H2O)、パイロフィライト(Al2O3・4SiO2・H2O)、ベントナイト(Al2O3・4SiO2・2H2O)、ケイ酸マグネシウム(Mg2SiO4、MgSiO3等)、ケイ酸アルミニウムカルシウム(Al2O3・CaO・2SiO2等)、ケイ酸マグネシウムカルシウム(CaMgSiO4)、炭酸カルシウム(CaCO3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、水酸化ジルコニウム[ZrO(OH)2・nH2O]、炭酸ジルコニウム[Zr(CO3)2]、各種ゼオライトのように電荷を補正する水素、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む結晶性アルミノケイ酸塩等を挙げることができる。
【0038】
老化防止剤としては、公知のものを用いることができ、特に制限されない。例えば、フェノール系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、アミン系老化防止剤等を挙げることができる。これら老化防止剤は、1種又は2種以上を併用することができる。
【0039】
架橋促進剤としては、公知のものを用いることができ、特に制限されるものではない。例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド等のチアゾール系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラドデシルチウラムジスルフィド、テトラオクチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等のチウラム系加硫促進剤;ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛等のジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤;ジアルキルジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。
【0040】
架橋剤も、特に制限はされない。例えば、硫黄、ビスマレイミド化合物等が挙げられる。
ビスマレイミド化合物の種類は、例えば、N,N’-o-フェニレンビスマレイミド、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、N,N’-p-フェニレンビスマレイミド、N,N’-(4,4’-ジフェニルメタン)ビスマレイミド、2,2-ビス-[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタンなどを例示することができる。本発明では、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド及びN,N’-(4,4’-ジフェニルメタン)ビスマレイミド等を好適に用いることができる。
【0041】
架橋促進助剤は、例えば、亜鉛華(ZnO)や脂肪酸等が挙げられる。
脂肪酸としては、飽和若しくは不飽和、直鎖状若しくは分岐状のいずれの脂肪酸であってもよく、脂肪酸の炭素数も特に制限されないが、例えば炭素数1~30、好ましくは15~30の脂肪酸、より具体的にはシクロヘキサン酸(シクロヘキサンカルボン酸)、側鎖を有するアルキルシクロペンタン等のナフテン酸;ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸(ネオデカン酸等の分岐状カルボン酸を含む)、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)等の飽和脂肪酸;メタクリル酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の不飽和脂肪酸;ロジン、トール油酸、アビエチン酸等の樹脂酸などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明においては、亜鉛華及びステアリン酸を好適に用いることができる。
【0042】
また充填材としてシリカを含有する場合には、シランカップリング剤をさらに含有してもよい。シリカによる加硫ゴムの補強性及び低発熱性の効果をさらに向上させることができるからである。なお、シランカップリング剤は、公知のものを適宜使用することができる。好ましいシランカップリング剤の含有量については、シランカップリング剤の種類などにより異なるが、シリカ100質量部に対して、好ましくは2~25質量部の範囲であることが好ましく、2~20質量部の範囲であることがより好ましく、5~18質量部であることが特に好ましい。含有量が2質量部以上であることでカップリング剤としての効果が充分に発揮され易く、また、25質量部以下であることでゴム成分のゲル化を引き起こしにくい。
【0043】
<ゴム組成物の製造方法>
次に、本発明のゴム組成物を製造するための方法について説明する。
本発明のゴム組成物を製造する方法については、特に限定はされず、ゴム組成物を構成する各成分(ゴム成分、カーボンブラック、樹脂成分及びその他の成分)を、配合し、混練することによって得ることができる。
【0044】
なお、本発明のゴム組成物を製造する方法では、前記各成分を同時に混練してもよいし、いずれかの成分を予め混練した上で、残りの成分を混練してもよい。これらの条件については、ゴム組成物が要求される性能に応じて適宜変更することができる。
【0045】
例えば、加硫ゴムについて、より優れた低発熱性及び他亀裂進展性を実現する観点からは、フェノール樹脂の配合に先立って、ゴム成分とカーボンブラックとを配合し、混練することが好ましい。フェノール樹脂は、カーボンブラックとの相互作用が強いため、ゴム成分とカーボンブラックとの混練後にフェノール樹脂を配合することで、ゴム成分とカーボンブラックとの反応を進め易く、カーボンブラックをゴム成分中に分散し易い。その結果、加硫ゴムの補強性が向上し、低発熱性及び耐亀裂進展性をさらに改善することができる。
【0046】
<加硫ゴム>
本発明の加硫ゴムは、本発明のゴム組成物を用いてなる。本発明のゴム組成物を用いて、常法により加硫することで加硫ゴムが得られる。
本発明のゴム組成物は、加硫後の50%モジュラス値(M50)に対する200%モジュラス値(M200)の比が、5.0以下(M200/M50≦5.0)である。すなわち、本発明のゴム組成物を加硫して得られた加硫ゴムは、M200/M50が、5.0以下である。
M200/M50は、カーボンブラックの種類、含有量等により調整することができ、樹脂成分としてフェノール樹脂及びメチレン供与体を含む場合は、フェノール樹脂及びメチレン供与体の種類、それぞれの量、量比等の調整等により調整することができる。
加硫ゴムについて、優れた低発熱性及び耐亀裂進展性を実現する観点から、M200/M50は、4.8以下であることが好ましく、4.5以下であることがより好ましい。加硫ゴムのM200/M50は、通常、3.5未満とすることは困難であり、3.5以上である。
なお、50%モジュラスとは、加硫ゴムの伸び50%時の引張応力のことであり、200%モジュラスとは、加硫ゴムの伸び200%時の引張応力のことである。これらの値については、JIS K 6251(2010年)に準拠して測定することができる。
【0047】
M50及びM200の具体的な数値範囲については、特に限定はされないが、より高いレベルで低発熱性及び耐亀裂進展性を実現する観点からは、M50が1.6以上、M200が10.5以下であることが好ましく、M50が1.8以上、M200が9.0以下であることがより好ましい。
【0048】
本発明の加硫ゴムは、24℃における1%歪時の損失正接(tanδ1%)に対する24℃における100%歪時の損失正接(tanδ100%)の割合〔tanδ100%/tanδ1%〕が0.6以上であることが好ましい。
高歪で発熱することで加硫ゴムの亀裂の進展を熱として逃がす効果が発現する一方、低歪の発熱が低いことで、加硫ゴムの低発熱性と耐亀裂進展性をより高度に両立することができる。従って、かかる加硫ゴムをタイヤに適用すると、タイヤとしての燃費性が優れる。
tanδ100%/tanδ1%は、樹脂成分の種類と含有量を変更することで調整することができる。
tanδ100%/tanδ1%は、加硫ゴムの低発熱性と耐亀裂進展性をより高度に両立する観点から、0.65以上であることがより好ましく、0.70以上であることが更に好ましく、0.75以上であることがより更に好ましく、また、0.90以下であることが好ましい。
【0049】
<ベルトコーティングゴム>
本発明のベルトコーティングゴムは、上述した本発明の加硫ゴムを用いてなる。タイヤのベルトコーティングゴムとして、本発明の加硫ゴムを用いることによって、得られたベルトコーティングゴムは、優れた低発熱性及び耐亀裂進展性を有することができる。
【0050】
<間ゴム>
本発明の間ゴムは、上述した本発明の加硫ゴムを用いてなる。
間ゴムは、層と層との間に介在する中間層のゴムであり、具体的には、例えば、タイヤのプライとベルトとの間に挿入されるプライインサートゴムとして用いることができる。
本発明の間ゴムとして、本発明の加硫ゴムを用いることによって、得られた間ゴムは、優れた低発熱性及び耐亀裂進展性を有することができる。
【0051】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、上述した本発明の加硫ゴムを用いてなる。本発明の加硫ゴムをタイヤ材料として用いることによって、得られたタイヤは、優れた低ロス性及び耐亀裂進展性を有することができる。
本発明のタイヤでは、具体的には、本発明の加硫ゴムを、いずれかの部材に適用するが、タイヤ用部材の中でも、上述したようにベルトコーティングゴムへ適用することが好ましい。
タイヤを製造する方法としては、慣用の方法を用いることができる。例えば、タイヤ成形用ドラム上に本発明のゴム組成物及びコードからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常タイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとする。次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱し、加硫することにより、所望のタイヤ(例えば、空気入りタイヤ)を製造することができる。タイヤに充填する気体としては、通常の又は酸素分圧を変えた空気、又は窒素等の不活性ガスが挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
<実施例1~10、比較例1~8>
表1及び2に示す配合に従って、常法で配合し、混練することで、ゴム組成物のサンプルを調製した。なお、各成分の混練については、容量3.0Lのバンバリーミキサーによって行った。また、実施例7については、フェノール樹脂と、ゴム成分及びカーボンブラックとを同時に混練した。一方、その他のフェノール樹脂を配合した例については、樹脂との混錬に先立って、ゴム成分及びカーボンブラックを混練した。
【0054】
<物性測定>
調製した実施例及び比較例のゴム組成物の各サンプルの加硫ゴムについて、次のようにして、引張り応力及び粘弾性を測定した。
【0055】
(1)引張り応力
各サンプルのゴム組成物を、145℃で40分間加硫して加硫ゴムを得た。得られた加硫ゴムに対し、JIS K 6251(2010年)に準拠する方法で、50%モジュラス値(M50)と200%モジュラス値(M200)を測定した。
また、得られたM50とM200とから、50%モジュラス値(M50)に対する200%モジュラス値(M200)の比(M200/M50)を算出した。
得られた結果を表1及び2に示した。
【0056】
(2)粘弾性
各サンプルのゴム組成物を、145℃で40分間加硫して加硫ゴムを得た。得られた加硫ゴムに対し、スペクトロメーター(株式会社上島製作所製)を用い、温度24℃、周波数52Hzの条件で、歪が1%である低歪での損失正接(tanδ1%)と歪が100%である高歪での損失正接(tanδ100%)とを測定した。
得られた結果から、tanδ100%/tanδ1%を算出し、表1及び2に示した。
【0057】
<ゴム組成物の評価>
調製した実施例及び比較例のゴム組成物の各サンプルについて、以下の評価を行った。
【0058】
(1)低発熱性
各サンプルのゴム組成物を、145℃で40分間加硫して加硫ゴムを得た。得られた加硫ゴムに対し、スペクトロメーター(株式会社上島製作所製)を用い、温度24℃、歪1%、周波数52Hzの条件で、損失正接(tanδ)を測定した。
評価については、比較例1のサンプルのtanδを100としたときの指数で示し、指数値が小さい程、低発熱性に優れる。評価結果を表1及び2に示した。
【0059】
(2)耐亀裂性(耐亀裂進展性)
各サンプルのゴム組成物を、145℃で40分間加硫して加硫ゴムを得た。得られた加硫ゴムから、2mm×50mm×6mmのシートを作製し、その中心部に微小な穴を空けて初期亀裂とした。その後、該シートに対して、2.0MPa、周波数は6Hz、雰囲気温度80℃の条件で、長辺方向に繰り返し応力を加えた。そして、サンプルごとに、繰り返し応力を加えてから、試験片が破断するまでの繰り返し回数を測定した後、その繰り返し回数の常用対数を算出した。なお、破断までの測定試験は、サンプルごとに4度実施して常用対数を算出し、それらの平均を平均常用対数とした。
評価については、比較例1の平均常用対数を100とした場合の指数として示し、サンプルの平均常用対数が大きい程、耐亀裂進展性に優れることを示す。評価結果を表1及び2に示した。
【0060】
【0061】
【0062】
1.ゴム成分
(1)NR:天然ゴム、TSR20
(2)BR:ブタジエンゴム、JSR(株)製、商品名「BR01」
(3)SBR:スチレンブタジエンゴム、旭化成ケミカルズ(株)製、商品名「TUFDENE 3835」
【0063】
2.カーボンブラック
(1)カーボンブラック1:
HAF級カーボンブラック、東海カーボン(株)製、商品名「N326」、窒素吸着比表面積(N2SA)=78m2/g、よう素吸着量(IA)=82mg/g、N2SA/IA=0.95m2/mg
(2)カーボンブラック2:
ISAF級カーボンブラック、東海カーボン(株)製、商品名「シースト7HM」、窒素吸着比表面積(N2SA)=126m2/g、よう素吸着量(IA)=120mg/g、N2SA/IA=1.05m2/mg
(3)カーボンブラック3:
HAF級カーボンブラック、三菱化学(株)製、商品名「大ブラックLH」、窒素吸着比表面積(N2SA)=88m2/g、よう素吸着量(IA)=75mg/g、N2SA/IA=1.17m2/mg
(4)カーボンブラック4:
HAF級カーボンブラック、東海カーボン(株)製、商品名「シーストNH」、窒素吸着比表面積(N2SA)=74m2/g、よう素吸着量(IA)=70mg/g、N2SA/IA=1.05m2/mg
(5)カーボンブラック101:
GPF級カーボンブラック、旭カーボン(株)製、商品名「旭NPG」、窒素吸着比表面積(N2SA)=28m2/g、よう素吸着量(IA)=21mg/g、N2SA/IA=1.33m2/mg
【0064】
3.樹脂成分
(1)C5系樹脂:三井石油化学工業(株)製、商品名「HI-REZ G-100X」
(2)DCPD系樹脂:日本ゼオン(株)製、商品名「クイントン1105」
(3)変性フェノール樹脂:トール変性フェノール樹脂、住友ベークライト(株)製、商品名「スミライトレジン PR-51587」
(4)フェノール樹脂:ノボラック型フェノール樹脂、住友ベークライト(株)製、商品名「スミライトレジン PR-50235」
(5)ヘキサメトキシメチルメラミン:ALLNEX社製、商品名「CYREZ 964」
【0065】
4.各種成分
(1)シリカ:東ソー・シリカ(株)製、商品名「ニップシールAQ」、窒素吸着比表面積=210m2/g、BET表面積=205m2/g
(2)酸化亜鉛:ハクスイテック(株)製、商品名「3号亜鉛華」
(3)老化防止剤A:大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクラック NS-6」、2,2’ -メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)
(4)老化防止剤B:大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクラック 6C」、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン
(5)硫黄:鶴見化学(株)製、商品名「粉末硫黄」
(6)加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラー DZ」、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド
(7)コバルト塩:OMG社製、商品名「マノボンドC」、有機酸のコバルト塩中の有機酸の一部をホウ酸で置き換えた複合塩、コバルト含有量:22.0質量%
(8)ビスマレイミド:大和化成工業(株)製、商品名「BMI-RB」
【0066】
表中のゴム成分及び樹脂のSP値〔(cal/cm3)1/2〕は、Flory-Hugginsの式に従って算出した。
【0067】
表1及び2の結果から、実施例の各サンプルは、比較例の各サンプルに比べて、低発熱性及び耐亀裂進展性のいずれについても、バランス良く優れた値を示すことがわかった。こういった実施例のゴム組成物を用いれば、低発熱性及び耐亀裂進展性を高いレベルで両立することができるベルトコーティングゴム及び間ゴムが得られ、また、低ロス性及び耐亀裂進展性を高いレベルで両立することができるタイヤが得られると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、低発熱性及び耐亀裂進展性を高いレベルで両立することができる加硫ゴムを製造することができるゴム組成物、低発熱性及び耐亀裂進展性を高いレベルで両立することができる加硫ゴム、ベルトコーティングゴム、間ゴムを提供することができる。また、低ロス性及び耐亀裂進展性を高いレベルで両立することができるタイヤを提供することができる。