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特許7140964含フッ素単量体、含フッ素重合体およびそれを用いたパターン形成用組成物、並びにそのパターン形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】含フッ素単量体、含フッ素重合体およびそれを用いたパターン形成用組成物、並びにそのパターン形成方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/22 20060101AFI20220914BHJP
   G03F 7/039 20060101ALI20220914BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20220914BHJP
   C07D 307/20 20060101ALI20220914BHJP
   C07D 307/24 20060101ALI20220914BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220914BHJP
【FI】
C08F20/22
G03F7/039 601
G03F7/20 501
G03F7/20 521
C07D307/20 CSP
C07D307/24
C07B61/00 300
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018099306
(22)【出願日】2018-05-24
(65)【公開番号】P2018203996
(43)【公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2017111208
(32)【優先日】2017-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】兼子 譲
(72)【発明者】
【氏名】板倉 翼
(72)【発明者】
【氏名】灘野 亮
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-033262(JP,A)
【文献】特開2005-206587(JP,A)
【文献】特公昭50-001004(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/22
G03F 7/039
G03F 7/20
C07D 307/20
C07D 307/24
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される繰り返し単位を含む、含フッ素重合体。
【化1】
(式中、Rは、水素原子、フッ素原子または炭素数1~10の直鎖状のまたは炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。R~Rは、水素原子、炭素数1~10の直鎖状または炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。Xは、単結合または2価の基であり、2価の基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Yは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基(-COOR)であり、含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基である。)
【請求項2】
前記式(1)中のR、R、Rが水素原子である、請求項1に記載の含フッ素重合体。
【請求項3】
さらに、前記式(1)中のYがトリフルオロメチル基である、請求項2に記載の含フッ素重合体。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の含フッ素重合体と、酸発生剤、塩基性化合物および溶剤を含む、レジストパターン形成用組成物。
【請求項5】
請求項4に記載のレジストパターン形成用組成物を基板上に塗布し膜を形成する製膜工程と、
フォトマスクを介して波長300nm以下の電磁波または高エネルギー線を照射露光し、フォトマスクのパターンを膜に転写する露光工程と、現像液を用いて膜を現像しパターンを得る現像工程を含む、レジストパターンの形成方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の含フッ素重合体と、酸発生剤と溶剤を含む、インクパターン形成用組成物。
【請求項7】
請求項6に記載のインクパターン形成用組成物を基板上に塗布し膜を形成する製膜工程と、
フォトマスクを介して波長150nm以上、500nm以下の光を、膜に照射露光し、フォトマスクのパターンを膜に転写し、撥液部と親液部を有するパターン形成膜を得る露光工程と、
得られたパターン形成膜にインクを塗布するインクパターン形成工程を含む、インクパターンの形成方法。
【請求項8】
請求項6に記載のインクパターン形成用組成物を基板上に塗布し得られた塗膜を加熱する製膜工程と、
次いで、波長150nm以上、500nm以下の光を描画装置により膜に走査露光して、パターンを膜に描画し、撥液部と親液部を有するパターン形成膜を得る描画工程と、
得られたパターン形成膜にインクを塗布するインクパターン形成工程を含む、インクパターン形成方法。
【請求項9】
式(4)で表される含フッ素単量体。
【化2】
(式中、Rは、水素原子、フッ素原子または炭素数1~10の直鎖状のまたは炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。R~Rは、水素原子、炭素数1~10の直鎖状または炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。Xは、単結合または2価の基であり、2価の基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Yは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基(-COOR)であり、含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基である。)
【請求項10】
前記式(4)中のR、R、Rが水素原子である、請求項9に記載の含フッ素単量体。
【請求項11】
さらに、前記式(4)中のYがトリフルオロメチル基である、請求項10に記載の含フッ素単量体。
【請求項12】
下記の式(10)で表されるヒドロキシカルボニル化合物または式(11)で表されるヒドロキシビニルエーテルまたはヒドロキシビニルエステルを環化させ、式(7)で表される環状ヘミアセタール化合物を得る工程を含む、
請求項9に記載の式(4)で表される含フッ素単量体の製造方法。
【化3】
(式中、Rは、水素原子、フッ素原子または炭素数1~10の直鎖状のまたは炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。R~Rは、水素原子、炭素数1~10の直鎖状または炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。Xは、単結合または2価の基であり、2価の基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Yは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基(-COOR)であり、含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基である。Zは、炭素数1-20の直鎖状、炭素数3-20分岐鎖状または環状のアルキル基であり、Z中の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換されていてもよく、エーテル結合、シロキサン結合、チオエーテル結合、カルボニル結合を含んでいてもよい。)
【請求項13】
式(7)で表される含フッ素環状ヘミアセタール。
【化4】
(式中、R~Rは、水素原子、炭素数1~10の直鎖状または炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。Yは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基(-COOR)であり、含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基である。)
【請求項14】
前記式(7)中のR、R、Rが水素原子である、請求項13に記載の含フッ素環状ヘミアセタール。
【請求項15】
さらに、前記式(7)中の、Yがトリフルオロメチル基である、請求項14に記載の含フッ素環状ヘミアセタール。
【請求項16】
下記の式(10)で表されるヒドロキシカルボニル化合物または式(11)で表されるヒドロキシビニルエーテルまたはヒドロキシビニルエステルを環化させ、請求項13乃至請求項15のいずれか1項に記載の式(7)で表される含フッ素環状ヘミアセタール化合物を得る、
含フッ素環状ヘミアセタール化合物の製造方法。
【化5】
(式中、R~Rは、水素原子、炭素数1~10の直鎖状または炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。Yは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基(-COOR)であり、含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基である。Zは、炭素数1-20の直鎖状、炭素数3-20分岐鎖状または環状のアルキル基であり、Z中の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換されていてもよく、エーテル結合、シロキサン結合、チオエーテル結合、カルボニル結合を含んでいてもよい。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素単量体、含フッ素重合体およびそれを用いたパターン形成用組成物、並びにそのパターン形成方法に関する。特に、半導体製造におけるリソグラフィーに使用するレジスト材料、または電子機器製造において、インクにより電子回路等を形成する、例えば、導電性インクを用いた印刷によりガラス製または樹脂製の基板上に導電膜インクによるパターン回路を形成するプリンテッドエレクトロニクスに用いることのできる含フッ素重合体およびその前駆体としての含フッ素単量体、およびそれを用いたパターン形成用組成物、並びにそのパターン形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素重合体は、その化学構造中にフッ素原子を有することによる優れた性質が知られている。撥水性、耐熱性、透明性、低屈折率性および感光性等を有する含フッ素重合体は、半導体製造におけるレジスト材料、およびプリンテッドエレクトロニクスにおけるパターン形成材料として使用される。
【0003】
半導体製造におけるレジスト材料に使用する酸分解性基を有する含フッ素重合体は、光酸発生剤を加えレジスト膜とし、光照射によって光酸発生剤から発生した酸により酸分解性基が含フッ素重合体から解離することで、現像液に可溶または不溶の性質が変化し、レジスト膜にパターン形成が可能となる。プリンテッドエレクトロニクスにおいて、インクを弾くまたは弾かないパターンを設けたパターン形成膜の材料として、含フッ素重合体は利用される。
【0004】
フォトリソグラフィおよびプリンテッドエレクトロニクスに共通して、パターン形成材料としてフッ素を含む酸分解性基を有する含フッ素重合体を用いた場合、形成した含フッ素重合体膜は、光照射前は高い撥水性を示し、光照射後はフッ素を含む酸分解性基が解離することで照射部が撥水性から親水性へ変化する。
【0005】
プリンテッドエレクトロニクスにおいて、パターン形成材料からなる膜に、パターンを形成したマスクを介して光照射すると、マスクパターンが転写された未照射の撥水部と照射後の親水部からなる親撥パターンが形成され、その後、インクを塗布した際、撥水部がインクを弾くことにより、インクによるパターンが形成される。
【0006】
例えば、特許文献1および特許文献2には、親撥パターンを与えるプリンテッドエレクトロニクス向けのパターン形成材料としてインクの濡れ広がり、滲みを抑えて高精細なパターンを形成するための、炭素数6以上の長鎖パーフルオロアルキル基を有する樹脂が開示され、これら樹脂が含むパーフルオロアルキル基の光照射による解離により、インクに対する親液部と撥液部のパターンが形成されることが記載される。
【0007】
しかしながら、長鎖パーフルオロアルキル基を有する樹脂は、燃焼および分解しにくく環境への蓄積が懸念される。例えば、パーフルオロオクタン酸は米国環境保護庁より環境への蓄積が指摘されており使用の削減が要求される。このように、炭素数6以上のパーフルオロアルキル基を有するフッ素化合物は、環境への蓄積の観点において、使用を避けることが好ましい。
【0008】
また、半導体製造におけるレジスト材料に使用する酸分解性基を有する重合体として、酸解離部に環状アセタール骨格を有する重合体が知られている。酸解離部に環状アセタール骨格を有する重合体は優れた酸解離性を示すことより、電子材料分野、特に感放射線パターニング組成物として開発されている。
【0009】
例えば、特許文献3には、酸解離性の単量体として、メタクリル酸2-テトラヒドロフラニル等のフッ素を含まない環状アセタール単量体を含む重合体と、光酸発生剤を含む感放射線樹脂組成物を用いたパターン形成方法について開示されている。また、特許文献4には、高感度且つ高解像度で、現像時に残膜率が大きくなるパターン形成材料として、フッ素を含まない環状アセタール基を有する単量体、酸分解性基を有する単量体、架橋性基を有する単量体を共重合してなる重合体、および感放射線酸発生剤を含むポジ型感光性組成物が開示されている。
【0010】
特許文献5には、環状ヘミアセタール構造を有する含フッ素重合体および前駆体としての含フッ素単量体が開示される。また、特許文献6には、環状ヘミアセタール構造を有する含フッ素単量体において環状ヘミアセタール構造を置換基で修飾し置換基の選択により、含フッ素重合体した際の撥水性、脂溶性、酸分解性を調整可能なことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開WO2014/178279のパンフレット
【文献】特開2016-87602号公報
【文献】特開平4-26850号公報
【文献】特開2012-42837号公報
【文献】特開2006-152255号公報
【文献】特開2010-106138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、フォトレジスト、プリンテッドエレクトロニクスにおいて光酸発生剤を含む膜とした際に、製膜後光照射前は撥水性を示し、光照射後は光酸発生剤から生じた酸の作用により親水性となることで、光照射前の水に対する接触角が高く、光照射後の接触角が低く、高感度且つ高解像度のパターンを与えるパターン形成用組成物に用いる、炭素数4以上のパーフルオロアルキル基を含まない含フッ素重合体を提供することを目的とする。
【0013】
また、パターン形成材料としての前記含フッ素重合体を含むパターン形成用組成物、およびパターン形成用組成物を用いたパターン形成方法を提供することを目的とする。
【0014】
さらにその前駆体として含フッ素単量体および含フッ素化合物、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本明細書の実施例に示す様に、本発明者らは、特定の位置にトリフルオロメチル基が結合する含フッ素環状アセタール骨格を有する酸分解性基を持つ下記の繰り返し単位(1)を含む、含フッ素重合体(以下、含フッ素重合体(1)と呼ぶことがある)を新規に合成した。次いで、本発明の含フッ素重合体(1)が含まれるパターン形成用組成物を基板上に展開し製膜した。
【0016】
【化1】
【0017】
(式中、Rは、水素原子、フッ素原子または炭素数1~10の直鎖状のアルキル基である。R~Rは、水素原子、または炭素数1~10の直鎖状のアルキル基である。Xは、単結合または2価の基である。Yは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基(-COOR)であり、Rは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基である。)
【0018】
次いで、本発明の含フッ素重合体(1)と、以下に示す特許文献6に記載の繰り返し単位(A)を含む含フッ素重合体、特許文献3に記載の繰り返し単位(B)を含む含フッ素重合体、または汎用のレジスト材料として知られる繰り返し単位(C)を含む含フッ素重合体に光酸発生剤および溶剤等を加え各々のパターン形成用組成物を調製した後、基板上に展開し製膜し加熱キュアリングした。すると、含フッ素重合体(1)を含む膜は、含フッ素重合体(A)および含フッ素重合体(B)を含む膜と比較して、水に対し10°程度高い接触角を示した(実施例の[表3]の実施例1~7、比較例1~2参照)。また、レジスト感度を測定したところ、含フッ素重合体(1)を含むレジスト膜は、繰り返し単位(A)を含む含フッ素重合体を含むレジスト膜、または繰り返し単位(B)を含むレジスト膜に比べ、高い感度を示した。含フッ素重合体(1)を含むレジスト膜は、繰り返し単位(A)を有する共重合体、繰り返し単位(B)を有する共重合体および繰り返し単位(C)を有する共重合体を含むレジスト膜に比べ、高い感度を示した(実施例の[表4]のレジスト1~3、比較レジスト1~3参照)。含フッ素重合体(1)を含むレジスト膜が、繰り返し単位(A)を有する含フッ素重合体を含むレジスト膜に比べ高い感度を示したことから、繰り返し単位(A)を有する含フッ素重合体に比較して含フッ素重合体(A)に対し、本発明の含フッ素重合体(1)の含フッ素環状アセタール構造の酸分解性が高いことが推測される。
【0019】
【化2】
【0020】
次いで、30nmのラインアンドスペースのパターンを有するフォトマスクを準備し、各膜に、マスクを介して紫外光を照射したところ、本発明の含フッ素重合体(1)に属する含フッ素重合体を含むパターン形成用組成物からなるレジストパターンは、本発明の範疇にない他のパターン形成用組成物からなるレジストパターンに対し、感度が高く高解像度であることがわかった。(実施例の[表4]のレジスト1~3、比較レジスト1~3参照)
【0021】
このようにして、本発明者は、リソグラフィー、プリンテッドエレクトロニクスにおいて光酸発生剤を含む膜とした際に、製膜後光照射前は高い撥水性を示し、光照射後は光酸発生剤から生じた酸の作用により親水性となることで、光照射前の水に対する光照射前の接触角が高く、光照射後の接触角が低く、高感度で高精度のパターンを与えるパターン形成用組成物に用いる、炭素数4以上のパーフルオロアルキル基を含まない含フッ素重合体を得たことを確認した。
【0022】
すなわち、本発明は以下の発明1~16を含む。
[発明1]
式(1)で表される繰り返し単位を含む、含フッ素重合体。
【化3】
(式中、Rは、水素原子、フッ素原子または炭素数1~10の直鎖状のまたは炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。R~Rは、水素原子、炭素数1~10の直鎖状または炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。Xは、単結合または2価の基であり、2価の基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Yは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基(-COOR)であり、含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基である。)
【0023】
[発明2]
前記式(1)中のR、R、Rが水素原子である、発明1の含フッ素重合体。
【0024】
[発明3]
さらに、前記式(1)中のYがトリフルオロメチル基である、発明2の含フッ素重合体。
[発明4]
発明1~3の含フッ素重合体と、酸発生剤、塩基性化合物および溶剤を含む、レジストパターン形成用組成物。
【0025】
[発明5]
発明4のレジストパターン形成用組成物を基板上に塗布し膜を形成する製膜工程と、
フォトマスクを介して波長300nm以下の電磁波または高エネルギー線を照射露光し、フォトマスクのパターンを膜に転写する露光工程と、現像液を用いて膜を現像しパターンを得る現像工程を含む、レジストパターンの形成方法。
【0026】
[発明6]
発明1~3の含フッ素重合体と、酸発生剤と溶剤を含む、インクパターン形成用組成物。
【0027】
[発明7]
発明6のインクパターン形成用組成物を基板上に塗布し膜を形成する製膜工程と、
フォトマスクを介して波長150nm以上、500nm以下の光を、膜に照射露光し、マスクのパターンを膜に転写し、撥液部と親液部を有するパターン形成膜を得る露光工程と、
得られたパターン形成膜にインクを塗布するパターン形成工程を含む、インクパターンの形成方法。
【0028】
[発明8]
発明6のインクパターン形成用組成物を基板上に塗布し得られた塗膜を加熱(プレベーク)する工程である製膜工程と、
次いで、波長150nm以上、500nm以下の光を描画装置により膜に走査露光して、パターンを膜に描画し、撥液部と親液部を有するパターン形成膜を得、
得られたパターン形成膜にインクを塗布するパターン形成工程を含む、インクパターン形成方法。
【0029】
[発明9]
式(4)で表される含フッ素単量体。
【化4】
(式中、Rは、水素原子、フッ素原子または炭素数1~10の直鎖状のまたは炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。R~Rは、水素原子、炭素数1~10の直鎖状または炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。Xは、単結合または2価の基であり、2価の基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Yは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基(-COOR)であり、含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基である。)
【0030】
[発明10]
前記式(4)中のR、R、Rが水素原子である、発明9の含フッ素単量体。
【0031】
[発明11]
さらに、前記式(4)中のYがトリフルオロメチル基である、発明10の含フッ素単量体。
【0032】
[発明12]
下記の式(10)で表されるヒドロキシカルボニル化合物または式(11)で表されるヒドロキシビニルエーテルまたはヒドロキシビニルエステルを環化させ、式(7)で表される環状ヘミアセタール化合物を得る工程を含む、
発明9の式(4)で表される含フッ素単量体の製造方法。
【化5】
(式中、Rは、水素原子、フッ素原子または炭素数1~10の直鎖状のまたは炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。R~Rは、水素原子、炭素数1~10の直鎖状または炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。Xは、単結合または2価の基であり、2価の基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Yは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基(-COOR)であり、含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基である。Zは、炭素数1-20の直鎖状、炭素数3-20分岐鎖状または環状のアルキル基であり、Z中の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換されていてもよく、エーテル結合、シロキサン結合、チオエーテル結合、カルボニル結合を含んでいてもよい。)
【0033】
[発明13]
式(7)で表される含フッ素環状ヘミアセタール。
【化6】
(式中、R~Rは、水素原子、炭素数1~10の直鎖状または炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。Yは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基(-COOR)であり、含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基である。)
【0034】
[発明14]
前記式(7)中のR、R、Rが水素原子である、発明13の含フッ素環状ヘミアセタール。
【0035】
[発明15]
さらに、前記式(7)中の、Yがトリフルオロメチル基である、発明14の含フッ素環状ヘミアセタール。
【0036】
[発明16]
下記の式(10)で表されるヒドロキシカルボニル化合物または式(11)で表されるヒドロキシビニルエーテルまたはヒドロキシビニルエステルを環化させ、発明13~15の式(7)で表される含フッ素環状ヘミアセタールを得る、
含フッ素環状ヘミアセタールの製造方法。
【化7】
(式中、R~Rは、水素原子、炭素数1~10の直鎖状または炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。Yは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基(-COOR)であり、含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基である。Zは、炭素数1-20の直鎖状、炭素数3-20分岐鎖状または環状のアルキル基であり、Z中の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換されていてもよく、エーテル結合、シロキサン結合、チオエーテル結合、カルボニル結合を含んでいてもよい。)
【発明の効果】
【0037】
本発明により、フォトレジスト、プリンテッドエレクトロニクスにおいて光酸発生剤を含む膜とした際に、製膜後光照射前は膜が撥水性を示し、光照射後は光酸発生剤から生じた酸の作用によりフッ素を含む酸分解性基が解離し膜が親水性となることで、光照射前の水に対する接触角が高く、光照射後の接触角が低く、高感度且つ高解像度のパターンを与えるパターン形成用組成物に用いる、炭素数4以上のパーフルオロアルキル基を含まない含フッ素重合体が得られた。
【0038】
また、パターン形成材料としての前記含フッ素重合体を含むパターン形成用組成物、およびパターン形成用組成物を用いたパターン形成方法が得られた。
【0039】
さらにその前駆体として含フッ素単量体および含フッ素化合物、その製造方法が得られた。
【0040】
本発明の含フッ素環状アセタール骨格を有する重合体は、炭素数1~3のパーフルオロアルキル基を含み、炭素数4以上のパーフルオロアルキル基を含まないので、環境に蓄積する懸念がない。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0042】
1.含フッ素重合体
本発明の含フッ素重合体は、式(1)で表される繰り返し単位を含む、含フッ素環状アセタール構造を有する重合体である。以下、含フッ素重合体(1)と呼ぶことがある。
【0043】
[含フッ素重合体(1)]
【0044】
【化8】
【0045】
(式中、R水素原子、フッ素原子または炭素数1~10のアルキル基である。 R~Rは、水素原子、または炭素数1~10のアルキル基である。Xは、単結合または2価の基である。Yは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基(-COOR)(Rは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基である。)
【0046】
式(1)中のR、R、R、R、R、X、Yについて説明する。
[R
式中、Rは、水素原子、フッ素原子または炭素数1~10の直鎖状または炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下の水素原子がフッ素原子と置換されていてもよい。
【0047】
は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、フッ素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、トリフルオロプロピル基、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル基(-C(CFH)、ヘプタフルオロイソプロピル基を例示することができる。重合の容易さから、Rは、水素原子、フッ素原子、またはメチル基であることが好ましい。
【0048】
[R~R
~Rは、水素原子、素数1~10の直鎖状または炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。
【0049】
~Rは、合成の容易さから、電子吸引性の置換基よりも供与性のアルキル基が好ましく、立体障害のない水素原子またはメチル基が好ましい。
【0050】
[X]
Xは、単結合または2価の基であり、2価の基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。
【0051】
Xは、炭素数2~10の2価の基であることが好ましく、メチレン基、炭素数2~10のアルキレン基、炭素数2~10アルケニレン基、炭素数6~10の2価のアリール基、または炭素数4 ~10の2価の脂環式炭化水素基を挙げることができる。
アルキレン基またはアルケニレン基は、エーテル結合(-O-)、カルボニル基(-(C=O-)、カルボキシル基(-(C=O)O-、または-O(C=O)-を含んでいてもよい。2価の基が長鎖となると撥液性が低下することより、好ましくは、単結合、オキシエチレン基(-O-CH-CH-)、またはオキシアセチル基(-O-CH-CO-)である。
【0052】
[Y]
Yは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基、または炭素数1~3のカルボン酸エステル基(-COOR)(Rは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基)である。含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。
【0053】
Yは、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、トリフルオロプロピル基、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル基、またはヘプタフルオロイソプロピル基を例示することができる。合成の容易さから、好ましくは、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル基が好ましい。
【0054】
また、本発明の含フッ素単量体(1)において、上記に示した置換基の種類、組み合わせによっては、分子内に不斉炭素水素を持つ場合があり、エナンチオマー(鏡像異性体)、ジアステレオマー(2個以上の不斉炭素原子を有する異性体であって、鏡像関係にはならない立体異性体)が存在し得る。しかしながら式(1)は、これらの立体異性体の全部を代表して示す。なお、立体異性体は、単独で用いてもよく、混合物で用いてもよい。
【0055】
[含フッ素重合体(2)]
本発明の含フッ素重合体(1)は、前記式(1)中のR、R、Rが水素原子である、以下の繰り返し単位(2)を含む含フッ素重合体)であることが好ましい。含フッ素重合体(1)をパターン形成用組成物とし基板上に製膜する際、溶剤への溶解性のために、前記式(1)中のR、R、Rが水素原子であることが好ましく、本発明に用いるのに好ましくは、式(2)で表される繰り返し単位を含む、含フッ素環状アセタール構造を有する重合体であることが好ましい。以下、含フッ素重合体(2)と呼ぶことがある。
【0056】
【化9】
【0057】
(式中のR、R、X、Yは、式(1)と同義である。)
【0058】
[含フッ素重合体(3)]
本発明の含フッ素重合体(1)は、さらに、前記式(1)中のYがトリフルオロメチル基である、以下の繰り返し単位(3)を含む含フッ素重合体(3)であることが好ましい。
【0059】
さらに、溶剤への溶解性のために、前記式(1)中のYがトリフルオロメチル基であることが好ましく、式(3)で表される繰り返し単位を含む、含フッ素環状アセタール構造を有する重合体であることが好ましい。以下、含フッ素重合体(3)と呼ぶことがある。
【0060】
【化10】
【0061】
(式中のR、R、Xは、式(1)と同義である。)
【0062】
1-1.含フッ素重合体(1)の酸による分解
環状アセタール構造は、一般的なアセタール同様に酸発生剤からの酸により分解することが知られている。本発明の含フッ素重合体(1)の含フッ素環状アセタール構造も同様に、以下に示す反応が進行すると推測される。
【0063】
酸による反応は以下の式に示す、含フッ素重合体(1)から、酸分解性基(1B)が解離し式(1A)で表される繰り返し単位が残る、または含フッ素環状アセタール構造の開環により、式(1C)で表される繰り返し単位が生成する2つの反応経路があると推測され、撥水性の含フッ素重合体(1)から、親水性の式(1A)で表される繰り返し単位または式(1C)で表される繰り返し単位を含む含フッ素重合体が生成することにより、インクの膜に対する接触角は低下し、インクによるパターン形成の機能が発現すると推測される。
【0064】
【化11】
【0065】
1-2.他の繰り返し単位を与える単量体
本発明の含フッ素重合体(1)において、繰り返し単位(1)以外の他の繰り返し単位を含んでいてもよい。繰り返し単位(1)以外の他の繰り返し単位は、含フッ素重合体(1)を成分とするパターン形成用組成物を膜とする際の含フッ素重合体(1)の溶剤溶解性、または膜とした際の膜の硬さ等を調整する目的で含フッ素重合体(1)の構造中に加えるものである。
【0066】
繰り返し単位(1)と他の繰り返し単位を含む含フッ素重合体(1)は、繰り返し単位(1)を与える含フッ素単量体(1)と他の繰り返し単位を与える単量体を共重合させることで得られる。
【0067】
他の繰り返し単位を与える単量体は重合性不飽和結合を有し、繰り返し単位(1)を与える含フッ素単量体(1)と共重合可能であればよく、他の繰り返し単位を与える単量体としては、密着性基を与える単量体、アクリル酸エステル類、含フッ素アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、含フッ素メタクリル酸エステル類、へキサフルオロイソプロパノール基(-C(CFOH、以下HFIP基と呼ぶことがある)を有する単量体、スチレン類、含フッ素スチレン類、ビニルエーテル類、アリルエーテル類、含フッ素ビニルエーテル類、含フッ素アリルエーテル類、オレフィン類、含フッ素オレフィン類、ノルボルネン類、含フッ素ノルボルネン類、または、その他の重合性不飽和結合を有する単量体等を挙げることができる。
【0068】
[密着基を有する単量体]
含フッ素重合体(1)をレジスト成分とする際、化学構造中に密着性基を導入することで、リソグラフィーにおいて基板との好ましい密着性を得ることができる。密着性基としては、ラクトン構造を含む基を挙げることができる。
【0069】
本発明の含フッ素重合体(1)に密着性基を導入する場合は、含フッ素単量体(1)と共重合可能な単環式または多環式のラクトン構造を有する基を含む単量体を使用することができる。
【0070】
単環式のラクトン構造としては、γ-ブチロラクトンまたはメバロニックラクトンから水素原子1つを除き結合手とした基、多環式のラクトン構造としてはノルボルナンラクトンから水素原子1つを除き結合手とした基を例示することができる。ラクトン構造を含む、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを共重合することによって、ラクトン構造を本発明の含フッ素重合体(1)に導入する。こうすることで、含フッ素重合体(1)をレジスト成分としリソグラフィーに用いる際、基板との密着性を向上させるばかりでなく、現像液との親和性を高めることが期待される。
【0071】
レジスト膜とした際に基板との密着性を与える繰り返し単位として、以下の繰り返し単位を例示することができる。
【0072】
【化12】
【0073】
入手の容易さから、特に好ましくは、5-メタクリロリロキシ-2,6-ノルボルナンカルボラクトン(以下、MNLAと呼ぶことがある)である。上図中にMNLAで示す。
【0074】
[アクリル酸エステル類]
アクリル酸エステル類としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレートもしくは2-ヒドロキシプロピルアクリレート、またはエチレングリコール、プロピレングリコールもしくはテトラメチレングリコール基を有するアクリレート、または不飽和アミドとしてのアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミドもしくはジアセトンアクリルアミド、またはtert-ブチルアクリレート、3-オキソシクロヘキシルアクリレート、アダマンチルアクリレート、メチルアダマンチルアクリレート、エチルアダマンチルアクリレート、ヒドロキシアダマンチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレートもしくはトリシクロデカニルアクリレート、またはラクトン環もしくはノルボルネン環等の環構造を有するアクリレート、またはα位にシアノ基を有するこれらアクリル酸エステルを例示することができる。
【0075】
[含フッ素アクリル酸エステル類]
含フッ素アクリル酸エステル類としては、含フッ素有機基をアクリル部位のα位に有する、またはエステル部位に有する含フッ素アクリル酸エステルを挙げることができる。α位とエステル部位ともに含フッ素有機基を有していてもよく、α位にシアノ基を有しエステル部位含フッ素アルキル基を有していてもよい。
【0076】
含フッ素アクリル酸エステル類がα位に有する含フッ素有機基としては、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基またはノナフルオロ-n-ブチルを例示することができる。
【0077】
含フッ素アクリル酸エステル類のエステル部位における含フッ素有機基としては、パーフルオロもしくは水素原子を含む含フッ素アルキル基、または環状構造の水素原子をフッ素原子、トリフルオロメチル基、HFIP基で置換した含フッ素ベンゼン環、含フッ素シクロペンタン環、含フッ素シクロヘキサン環もしくは含フッ素シクロヘプタン環を含む基を、例示することができる。
【0078】
含フッ素アクリル酸エステル類としては、2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルアクリレート、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルアクリレート、ヘプタフルオロイソプロピルアクリレート、1,1-ジフィドロヘプタフルオロ-n-ブチルアクリレート、1,1,5-トリフィドロオクタフルオロ-n-ペンチルアクリレート、1,1,2,2-テトラフィドロトリデカフルオロ-n-オクチルアクリレート、1,1,2,2-テトラフィドロヘプタデカフルオロ-n-デシルアクリレート、6-[3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ2-(トリフルオロメチル)プロピル]ビシクロ[2.2.1]ヘプチル-2-イルアクリレート、6-[3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ2-(トリフルオロメチル)プロピル]ビシクロ[2.2.1]ヘプチル-2-イル 2-(トリフルオロメチル)アクリレート、1,4-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-ヒドロキシイソプロピル)シクロヘキシルアクリレート、または1,4-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-ヒドロキシイソプロピル)シクロヘキシル-2-トリフルオロメチルアクリレートを例示することができる。
【0079】
[メタクリル酸エステル類]
メタクリル酸エステル類としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、またはエチレングリコール、プロピレングリコールもしくはテトラメチレングリコール基を有するメタクリレート、または不飽和アミドとしてのメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミドもしくはジアセトンアクリルアミド、またはtert-ブチルメタクリレート、3-オキソシクロヘキシルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート、メチルアダマンチルメタクリレート、エチルアダマンチルメタクリレート、ヒドロキシアダマンチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートもしくはトリシクロデカニルメタクリレート、またはラクトン環もしくはノルボルネン環等の環構造を有するメタクリレートを例示することができる。
【0080】
[含フッ素メタクリル酸エステル類]
含フッ素メタクリル酸エステル類としては、含フッ素有機基をエステル部位に有する含フッ素メタクリル酸エステル類を挙げることができる。
【0081】
この様な、含フッ素有機基としては、パーフルオロフルオロもしくは水素原子を含む含フッ素アルキル基、もしくは環状構造の水素原子をフッ素原子、トリフルオロメチル基、HFIP基等で置換した含フッ素ベンゼン環、含フッ素シクロペンタン環、含フッ素シクロヘキサン環または含フッ素シクロヘプタン環を例示することができる。
【0082】
含フッ素アクリル酸エステル類としては、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルメタクリレート、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート、ヘプタフルオロイソプロピルメタクリレート、1,1-ジヒドロヘプタフルオロ-n-ブチルメタクリレート、1,1,5-トリヒドロオクタフルオロ-n-ペンチルメタクリレート、1,1,2,2-テトラヒドロトリデカフルオロ-n-オクチルメタクリレート、1,1,2,2-テトラヒドロヘプタデカフルオロ-n-デシルメタクリレート、パーフルオロシクロヘキシルメチルアクリレート、パーフルオロシクロヘキシルメチルメタクリレート、6-[3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-(トリフルオロメチル)プロピル]ビシクロ[2.2.1]ヘプチル-2-イルメタクリレート、または1、4-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-ヒドロキシイソプロピル)シクロヘキシルメタクリレートを例示することができる。
【0083】
[HFIP基を有する単量体]
HFIP基を有する単量体としては、以下に示す単量体を例示することができる。
【0084】
【化13】
【0085】
(Rは水素原子、メチル基、フッ素原子、またはトリフルオロメチル基を表す。また、HFIP基は、その一部又は全部が保護基で保護されていてもよい。)
【0086】
[スチレン類、含フッ素スチレン類]
スチレン類としては、スチレン、ヒドロキシスチレンを例示することができる。
【0087】
含フッ素スチレン類としては、ペンタフルオロスチレン、トリフルオロメチルスチレン、ビストリフルオロメチルスチレン、フッ素原子もしくはトリフルオロメチル基で芳香環構造の水素原子を置換してなるスチレン、HFIP基もしくはその水酸基を保護基で保護したHFIP基で、芳香環構造の水素原子を置換してなるスチレン、α位にハロゲン原子、アルキル基もしくは含フッ素アルキル基が結合したこれらスチレン、またはパーフルオロビニル基含有のスチレンを例示することができる。
【0088】
[ビニルエーテル類、アリルエーテル類、含フッ素ビニルエーテル類、含フッ素アリルエーテル類]
ビニルエーテル類またはアリルエーテル類は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、ヒドロキシエチル基もしくはヒドロキシブチル基を含有してもよく、アルキルビニルエーテルあるいはアルキルアリルエーテルであってもよい。ヒドロキシエチル基もしくはヒドロキシブチル基を含有するビニルエーテルの場合は、アルコール部位がアセチル基、ブチロイル基、プロピノイル基によりエステル結合を形成してもよい。シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、芳香環、その環状構造内に水素原子やカルボニル結合を有する環状型ビニルエーテルまたは環状型アリルエーテルであってもよい。含フッ素ビニルエーテル、含フッ素アリルエーテルとしては、これらビニルエーテルもしくはアリルエーテルが有する水素原子の一部もしくは全部がフッ素原子で置換された含フッ素ビニルエーテルもしくは含フッ素アリルエーテルを挙げることができる。
【0089】
[オレフィン類、含フッ素オレフィン類]
オレフィン類としては、エチレン、プロピレン、イソブテン、シクロペンテンまたはシクロヘキセンを例示することができる。含フッ素オレフィン類としては、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンもしくはヘキサフルオロイソブテン、1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロシクロペンテン、オクタフルオロシクロペンテンまたはデカフルオロシクロヘキセンを例示することができる。
【0090】
[ノルボルネン類、含フッ素ノルボルネン類]
ノルボルネン類、含フッ素ノルボルネン類は重合性基を有していればよく、1個のノルボルネン骨格のみならず、複数のノルボルネン骨格を有していてもよい。ノルボルネン類または含フッ素ノルボルネン類は、不飽和化合物とジエン化合物のとのDiels-Alder付加反応で生成する。
【0091】
このような不飽和化合物としては、含フッ素オレフィン、アリルアルコール、含フッ素アリルアルコール、ホモアリルアルコール、含フッ素ホモアリルアルコール、アクリル酸、α-フルオロアクリル酸、α-トリフルオロメチルアクリル酸、メタクリル酸、上記アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、含フッ素アクリル酸エステル又は含フッ素メタクリル酸エステル、2-(ベンゾイルオキシ)ペンタフルオロプロパン、2-(メトキシエトキシメチルオキシ)ペンタフルオロプロペン、2-(テトラヒドロキシピラニルオキシ)ペンタフルオロプロペン、2-(ベンゾイルオキシ)トリフルオロエチレン、または2-(メトキメチルオキシ)トリフルオロエチレンを例示することができる。ジエン化合物としては、シクロペンタジエン、またはシクロヘキサジエンを例示することができる。
【0092】
含フッ素ノルボルネン化合物としては、3-(5-ビシクロ[2.2.1]ヘプテン-2-イル)-1,1,1-トリフルオロ-2-(トリフルオロメチル)-2-プロパノールを例示することができる。
【0093】
[その他の重合性不飽和結合を有する単量体]
その他の重合性不飽和結合を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸を例示することができる。
【0094】
その他の単量体として、重合部位からの有機基の長さが長鎖となる場合、または、多くのヘテロ原子を含む場合は、他の繰り返し単位由来の有機基の影響が強くなり、末端の含フッ素アルキル基による撥液性を及ぼす効果が軽減される、また重合体の溶解性が低くなる懸念がある。よって、他の単量体として、好ましくは、炭素数10未満のアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルであり、特に好ましくは、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、またはイソブチルメタクリレートである。
【0095】
1-3.含フッ素重合体(1)における各繰り返し単位の含有割合
含フッ素重合体(1)全量に対する、式(4)で表される繰り返し単位の含有割合は、10mol%以上、100mol%以下であり、より好ましくは10mol%以上、90mol%、である。含フッ素重合体(1)中の繰り返し単位(1)の含有が10mol%よりも少ないと、含フッ素重合体(1)からなる膜を露光してなる、パターン形成膜の未露光部に撥水性が得られない。
【0096】
含フッ素重合体(1)全量に対する、その他の単量体に由来する繰り返し単位の含有割合は、好ましくは0mol%以上、90mol%以下、より好ましくは10mol%以上、90mol%以下である。
【0097】
その他の単量体に由来する繰り返し単位は、含フッ素重合体(1)の有機溶媒への溶解性、膜とした際の基板との密着性または硬さ等を向上させるためのものである。必要なければ用いなくてもよいが、10mol%より少ないと、膜とした際の基板との密着性または硬さが向上しなく、90mol%を超えると繰り返し単位(1)の含有量が少なくなり、含フッ素重合体(1)からなる膜を露光してなる、パターン形成膜の未露光部に撥水性が得られるという効果、また露光部の親水性が得られると言う効果が得られ難い。
【0098】
1-4.フッ素重合体(1)の分子量
本発明の含フッ素重合体(1)の数平均分子量は、1,000以上、100,000以下であり、好ましくは3,000以上、50,000以下である。分子量分散は1以上、4以下であり、好ましくは1以上、2.5以下である。
【0099】
数平均分子量が1000より少ないと、含フッ素重合体(1)を成分として含むパターン形成用組成物からなる膜が柔らかくなるとともに、所望の厚さの膜を形成することが難しくなる。また、露光後のパターン形成膜において、撥液部位および親液部位からなる微細なパターンを形成することが困難であるとともに、パターンの耐久性が乏しくなる虞がある。数平均分子量が100,000より多いと、含フッ素重合体(1)が溶剤に溶け難くなり、製膜後、ひび割れが発生し、含フッ素重合体(1)を成分として含むパターン形成用組成物からなる膜を塗膜として形成することが困難である。
【0100】
2.含フッ素重合体の合成
[含フッ素重合体(1)の合成]
本発明の含フッ素重合体(1)の合成は、一般的に使用される重合方法から選択することができる。ラジカル重合、イオン重合が好ましく、場合により、配位アニオン重合、リビングアニオン重合、カチオン重合を選択することができる。重合反応に用いる反応器は特に限定されない。また、重合においては、重合溶媒を用いてもよい。以下、ラジカル重合について説明する。
【0101】
ラジカル重合は、ラジカル重合開始剤またはラジカル開始源の存在下で、塊状重合、溶液重合、懸濁重合または乳化重合等の公知の重合方法により、回分式、半連続式または連続式のいずれかの操作で行うことができる。
【0102】
<ラジカル重合開始剤>
ラジカル重合開始剤としては、アゾ系化合物、過酸化物系化合物、レドックス系化合物を挙げることができる。アゾ系化合物としては、アゾビスイソブチロニトリルを例示することができる。過酸化物系化合物としては、t-ブチルパーオキシピバレート、ジ-t-ブチルパーオキシド、i-ブチリルパーオキシド、ラウロイルパーオキサイド、スクシン酸パーオキシド、ジシンナミルパーオキシド、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、過酸化ベンゾイル、過酸化水素または過硫酸アンモニウムを例示することができる。
【0103】
<重合溶媒>
重合溶媒としては、ラジカル重合を阻害しないものが好ましく、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、炭化水素系溶媒、またはアルコール系溶剤を挙げることができる。他に水、エーテル系、環状エーテル系、フロン系、または芳香族系の溶媒を用いてもよい。
【0104】
重合溶媒としては、エステル系溶媒としての酢酸エチルまたは酢酸n-ブチル、ケトン系溶媒としてのアセトンまたはメチルイソブチルケトン、炭化水素系溶媒としてのトルエンまたはシクロヘキサン、アルコール系溶媒としてのメタノール、イソプロピルアルコールまたはエチレングリコールモノメチルエーテルを例示することができる。
【0105】
これらの重合溶媒は単独でもあるいは2種類以上を混合しても使用してもよく。また、メルカプタンのような分子量調整剤を併用してもよい。
【0106】
<重合条件>
重合温度はラジカル重合開始剤あるいはラジカル重合開始源の種類により適宜選択すればよい。重合温度が20℃以上、200℃以下、好ましくは30℃以上、140℃以下となるように、ラジカル重合開始剤あるいはラジカル重合開始源の種類を適宜選択することが好ましい。含フッ素重合体(1)の分子量は、ラジカル重合開始剤あるいはラジカル重合開始源の選択、および重合条件を調整することにより制御可能である。
【0107】
また、重合後の含フッ素重合体(1)を含む溶液または分散液から、有機溶媒または水等の前記重合溶媒である除去する方法としては、公知の方法を使用することができ、再沈殿、濾過または減圧下での加熱蒸留を挙げることができる。
【0108】
本発明の含フッ素重合体(1)をレジスト成分としての使用する際は、含フッ素重合体(1)の分子量の多少により、含フッ素重合体(1)の現像液溶解性が異なり、リソグラフィーにおけるパターニング条件が変わり得る。含フッ素重合体(1)の分子量が高いと現像液への溶解速度が遅くなり、分子量が低いと溶解速度が速くなる傾向がある。含フッ素重合体(1)の分子量はこの重合条件を調整することにより制御可能である。
【0109】
3.レジストパターン形成用組成物
本発明のレジストパターン形成用組成物は、含フッ素重合体(1)~(3)のいずれかに、酸発生剤、塩基性化合物および溶剤を加えてなり、リソグラフィーに用いることができる。以下、レジストパターン形成用組成物を単にレジストと呼ぶことがある。
【0110】
本発明の含フッ素重合体(1)~(3)は、特に光増感ポジ型レジストの成分として好適に用いられる。本発明のレジストは、含フッ素重合体(1)~(3)を含むレジスト、特に光増感ポジ型レジスト材料を提供するものである。
【0111】
本発明のレジストはその成分として、(A)本発明の含フッ素重合体(1)~(3)のいずれか、(B)光酸発生剤、(C)塩基性化合物、(D)溶剤を含むことが好ましい。また、必要により(E)界面活性剤を加えてもよい。
【0112】
3-1.(B)光酸発生剤
本発明のレジストに用いる光酸発生剤には、特に制限はなく、化学増幅型レジストの酸発生剤として用いられるものの中から、任意のものを選択して使用することができ、オニウムスルホネートまたはスルホン酸エステルを挙げることができる。例えば、ヨードニウムスルホネート、スルホニウムスルホネート、N-イミドスルホネート、N-オキシムスルホネート、o-ニトロベンジルスルホネート、またはピロガロールのトリスメタンスルホネートを例示することができる。
【0113】
リソグラフィーにおいて露光により、これらの光酸発生剤から発生する酸は、アルカンスルホン酸、アリールスルホン酸、あるいは部分的もしくは完全にフッ素化されたアリールスルホン酸またはアルカンスルホン酸等である。これら光酸発生剤の中、部分的もしくは完全にフッ素化されたアルカンスルホン酸を発生する光酸発生剤が好ましい。例えば、トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホナート、またはトリフェニルスルホニウムパーフルオロ-n-ブタンスルホナートを例示することができる。
【0114】
3-2.(C)塩基性化合物
本発明の含フッ素重合体(1)~(3)のいずれかを含むレジストには、塩基性化合物を配合することができる。塩基性化合物には、前記光酸発生剤より発生する酸が、レジスト膜中に拡散する際の拡散速度を遅くする働きがある。塩基性化合物の配合には、酸拡散距離を調整してレジストパターンの形状の改善、レジスト膜形成後に露光するまでの引き置き時間が長くても、所望の精度のレジストパターンを与える安定性を向上する効果が期待される。
【0115】
このような塩基性化合物としては、脂肪族アミン類、芳香族アミン類、複素環式アミン類、または脂肪族多環式アミン類を挙げることができる。これらのアミン類の中でも、好ましくは第2級もしくは第3級の脂肪族アミン、またはアルキルアルコールアミンである。例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、トリノニルアミン、トリデカニルアミン、トリドデシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデカニルアミン、ジドデシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デカニルアミン、ドデシルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジオクタノールアミン、トリオクタノールアミン、アニリン、ピリジン、ピコリン、ルチジン、ビピリジン、ピロール、ピペリジン、ピペラジン、インドール、またはヘキサメチレンテトラミンを例示することができる。これら塩基性化合物は単独でも2種以上組み合わせてもよい。
【0116】
本発明のレジストにおける塩基性化合物の配合量は、含フッ素重合体(1)100質量部に対して0.001~2質量部、好ましくは、含フッ素重合体(1)100質量部に対して0.01~1質量部である。配合量が0.001質量部よりも少ないと添加剤としての効果が十分得られず、2質量部を超えると解像性や感度が低下する場合がある。
【0117】
3-3.(D)溶剤
本発明のレジストには、(A)本発明の含フッ素重合体(1)~(3)のいずれか、(B)光酸発生剤、および(C)塩基性化合物に加え、(D)溶剤を配合する。溶剤は(A)本発明の含フッ素重合体(1)~(3)のいずれか、(B)光酸発生剤、(C)塩基性化合物を含むレジスト成分を溶解して均一な溶液にできればよく、従来のレジスト用溶剤の中から選択して用いることができる。また、2種類以上の溶剤を混合して用いてもよい。
【0118】
この様な溶剤として、ケトン類、アルコール類、多価アルコール類、エステル類、芳香族系溶剤、エーテル類、フッ素系溶剤、または、塗布性を高める目的で高沸点溶剤であるターペン系の石油ナフサ溶媒やパラフィン系溶媒を挙げることができる。
【0119】
例えば、ケトン類としてのアセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンメチルイソペンチルケトンもしくは2-ヘプタノン、アルコール類としてのイソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、n-ペンタノール、イソペンタノール、tert-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、2,3-ジメチル-2-ペンタノール、n-ヘキシサノール、n-ヘプタノール、2-ヘプタノール、n-オクタノール、n-デカノール、s-アミルアルコール、t-アミルアルコール、イソアミルアルコール、2-エチル-1-ブタノール、ラウリルアルコール、ヘキシルデカノールもしくはオレイルアルコール、多価アルコールとしてのエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)もしくはプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、およびこれら多価アルコールの誘導体、エステル類としての乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチルもしくはエトキシプロピオン酸エチル、芳香族系溶剤としてのトルエンもしくはキシレン、エーテル類としてのジエチルエーテル、ジオキサン、アニソールもしくはジイソプロピルエーテル、またはフッ素系溶剤としてのヘキサフルオロイソプロピルアルコールを例示することができる。
【0120】
本発明のレジストとして、これら溶剤の中でも特に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、シクロヘキサノン、乳酸エチル(EL)が好ましい。
【0121】
本発明のレジストに配合する溶剤の量は特に限定されないが、レジストとした際の固形分濃度が好ましくは3質量%以上、25質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上、15質量%以下である。レジストの固形分濃度を調整することによって、形成される樹脂膜の膜厚を調整することが可能である。
【0122】
また、本発明の含フッ素重合体(1)~(3)は、幅広い溶剤に対する溶解性に優れており、上記のアルコール系溶剤の中でも、炭素数5~20のアルコール系溶剤に溶解することは特筆すべきことである。このようなアルコールとして、n-ペンタノール、イソペンタノール、tert-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、2,3-ジメチル-2-ペンタノール、n-ヘキシサノール、n-ヘプタノール、2-ヘプタノール、n-オクタノール、n-デカノール、s-アミルアルコール、t-アミルアルコール、イソアミルアルコール、2-エチル-1-ブタノール、ラウリルアルコール、ヘキシルデカノールまたはオレイルアルコールを例示することができる。
【0123】
3-4.(E)界面活性剤
本発明のレジストにおいては、必要により界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、またはフッ素原子とケイ素原子の両方を有する界面活性剤を挙げることができ、2種以上を含有することができる。
【0124】
3-5.レジスト
本発明のレジストは、一般的なレジスト材料を溶解できない炭素数5~20のアルコール系溶剤等で溶液化することが可能である。これにより、ダブルパターニングプロセス用の上層レジストとして使用できる。また本発明のレジストは耐水性が高く、適度な撥水性を有しながら現像液親和性を有する。
【0125】
本発明のレジストは、露光前は水に対する適度な撥水性を有し、露光後には現像液に対する速やかな溶解性を示すので、ドライ露光のみならず、レジストとレンズの間を水等の空気よりも屈折率の大きい媒体で満たして露光する液浸露光においてラフネスのない優れた解像度のパターン形成が可能であると推察される。液浸露光によるフォトリソグラフィにおいては、レジストの保護膜であるトップコート膜を用いる場合と用いない場合があるが、本発明のレジストは組成と配合を調整することによって液浸露光にも適用することができると推察される。
【0126】
液浸露光の媒体としては、水の他にもフッ素系溶剤、シリコン系溶剤、炭化水素系溶剤、含硫黄溶剤等があげられ、本発明の含フッ素重合体(1)を含むレジストはこれらの媒体にも適用できる可能性がある。
【0127】
4.レジストパターンの形成方法
本発明のレジストパターンの形成方法は、本発明のレジストを基板上に塗布し膜を形成する製膜工程と、フォトマスクを介して波長300nm以下の電磁波または高エネルギー線を照射露光し、フォトマスクのパターンを膜に転写する露光工程と、現像液を用いて膜を現像しパターンを得る現像工程を含む。
なお、本発明において、高エネルギー線とは、電子線または軟X線のことを示す。
【0128】
本発明のレジストパターンの形成方法は、含フッ素重合体(1)~(3)のいずれかを含むレジストを使用するリソグラフィーによるパターン形成方法であり、(A)基板上にレジストを塗布しレジスト膜を形成する製膜工程、(B)レジスト膜を加熱させた後に、パターン加工したフォトマスクを介してレジスト膜に波長300nm以下の電磁波または高エネルギー線を照射し露光する露光工程、(C)露光したレジスト膜をアルカリ現像液で現像して、基板上にフォトマスクのパターンが転写されたレジストパターンを得る現像工程からなる。
【0129】
例えば、(A)製膜工程においては、基板としてのシリコンウエハ上に、スピンコートによって、本発明の含フッ素重合体(1)~(3)のいずれかを含むレジストを塗布し、シリコンウエハをホットプレート上で60~200℃、10秒~10分間、好ましくは80℃以上、150℃以下、30秒以上、2分間以下にプリベークし基板上にレジスト膜を製膜する。次いで(B)露光工程においては、パターン加工されたフォトマスクを露光装置にセットし、紫外線、エキシマレーザ、X線等の高エネルギー線または電子線を、露光量が1mJ/cm以上、200mJ/cm以下、好ましくは10mJ/cm以上、100mJ/cm以下となるようにフォトマスクを介してレジスト膜に照射した後、ホットプレート上で60℃以上、150℃以下、10秒以上、5分間以下、好ましくは80℃以上、130℃以下、30秒以上、3分間以下、必要に応じてポストエクスポーザーベーク(PEB)を行う。次いで(C)現像工程においては、0.1質量%以上、5質量%以下、好ましくは2質量%以上、3質量%以下の濃度のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液による現像液を用い、10秒以上、3分間以下、好ましくは30秒以上、2分間以下、レジスト膜とdip法、パドル法、スプレー法等の既存の方法で接触させ現像することによって、目的のレジストパターンが得られる。
【0130】
上記基板は、シリコンウエハの他に、金属またはガラス基板を用いることが可能である。また、基板上には有機系あるいは無機系の膜が設けられていてもよい。例えば、反射防止膜、多層レジストの下層があってもよく、レジストパターンが形成されていてもよい。
【0131】
なお、本発明のレジストのリソグラフィーにおいて、露光に用いる電磁波の波長は限定されないが、KrFエキシマレーザによるUV光(波長248nm)、ArFエキシマレーザによるUV光(波長193nm)、極端紫外線リソグラフィー(Extreme ultraviolet lithography EUV)、X線を選択することができ、特
に、ArFエキシマレーザによるUV光が好ましく採用される。
【0132】
本発明のレジストは、露光前は水に対する適度な撥水性を有し、露光後には現像液に対する速やかな溶解性を示し、ラフネスのない優れた解像性のパターン形成が可能である。
【0133】
本発明のレジストを用いたリソグラフィーによるパターン形成方法により半導体デバイスを製造することができる。デバイスとしては、特に限定されないが、シリコンウエハ、化合物半導体基板、絶縁性基板等に形成されるCPU(Central Processing Unit)、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の微細加工により製造される半導体装置が挙げられる。
【0134】
5.インクパターン形成用組成物
本発明のインクパターン形成用組成物は、含フッ素重合体(1)~(3)のいずれかに、酸発生剤および溶剤を加えてなり、プリントエレクトロニクスにおけるインクパターン形成に用いることができる。以下、インクによるパターンをインクパターンと呼ぶことがある。
【0135】
本発明のインクパターン形成用組成物は、その成分として、含フッ素重合体(1)~(3)のいずれか、(A)酸発生剤、(B)溶剤を含む。その他(C)クエンチャー、(D)増感剤、(E)重合性化合物を含むことが好ましく、必要に応じて界面活性剤、保存安定剤、接着助剤または耐熱性向上剤を含んでいてもよい。
【0136】
(A)酸発生剤は、インクパターン形成用組成物から製膜した膜中において、露光時に光照射によって酸を発生する化合物である。(B)溶剤はインクパターン形成用組成物の成分を溶解または分散するための物質である。(C)クエンチャーは、露光時に、酸発生剤からの酸の拡散を防止し得られるパターンを高精細にするための物質である。(D)増感剤は露光感度を上げるための物質である。(E)重合性化合物は露光後に得られるパターン形成膜をより硬くするための物質である。以下、各々の成分について記載する。
【0137】
5-1.(A)酸発生剤
本発明のインクパターン形成用組成物の成分として用いる(A)酸発生剤としては、光照射によって酸を発生する化合物である光酸発生剤を使用できる。
【0138】
本発明のインクパターン形成用組成物に成分として用いる(A)酸発生剤は、光照射によって酸を発生する化合物であればよく、オキシムスルホネート化合物、オニウム塩、スルホンイミド化合物、ハロゲン含有化合物、ジアゾメタン化合物、スルホン化合物、スルホン酸エステル化合物、またはカルボン酸エステル化を等が挙げることができる。
【0139】
[オキシムスルホネート化合物]
オキシムスルホネート化合物としては、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のフルオロアルキル基、炭素数4~12の脂環式炭化水素基、または炭素数6~20のアリール基を挙げることができる。これらの基が有する水素原子の一部または全部がハロゲン原子または置換基で置換されていてもよい。好ましくは、炭素数1~12の直鎖状または炭素数3~12分岐状のアルキル基である。置換基としては、炭素数1~10のアルコキシ基、7,7-ジメチル-2-オキソノルボルニル基等の橋かけ環式脂環基を含む脂環式基を挙げることができる。
【0140】
炭素数1~12のフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基またはヘプチルフルオロプロピル基を例示することができる。炭素数4~12の脂環式炭化水素が有してもよい置換基としては、炭素数1~5のアルキル基またはアルコキシ基を挙げることができる。
【0141】
炭素数6~20のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、トリル基またはキシリル基を挙げることができる。炭素数6~20のアリール基が有してよい置換基としては、炭素数1~5のアルキル基もしくはアルコキシ基、またはハロゲン原子を挙げることができる。
【0142】
オキシムスルホネート化合物としては、(5-プロピルスルフォニルオキシイミノ-5H-チオフェン-2-イリデン)-(2-メチルフェニル)アセトニトリル、(5-オクチルスルフォニルオキシイミノ-5H-チオフェン-2-イリデン)-(2-メチルフェニル)アセトニトリル、(カンファースルフォニルオキシイミノ-5H-チオフェン-2-イリデン)-(2-メチルフェニル)アセトニトリル、(5-p-トルエンスルフォニルオキシイミノ-5H-チオフェン-2-イリデン)-(2-メチルフェニル)アセトニトリル、または(5-オクチルスルフォニルオキシイミノ)-(4-メトキシフェニル)アセトニトリルを例示することができる。
【0143】
[オニウム塩]
オニウム塩としては、ジフェニルヨードニウム塩、トリフェニルスルホニウム塩、アルキルスルホニウム塩、ベンジルスルホニウム塩、ジベンジルスルホニウム塩、置換ベンジルスルホニウム塩、ベンゾチアゾニウム塩またはテトラヒドロチオフェニウム塩を挙げることができる。
【0144】
<ジフェニルヨードニウム塩>
ジフェニルヨードニウム塩としては、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスホネート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアルセネート、ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホナート、ジフェニルヨードニウムトリフルオロアセテート、ジフェニルヨードニウム-p-トルエンスルホナート、ジフェニルヨードニウムブチルトリス(2,6-ジフルオロフェニル)ボレート、4-メトキシフェニルフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、ビス(4-t-ブチルフェニル)ヨードニウムテトラフルオロボレート、ビス(4-t-ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアルセネート、ビス(4-t-ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホナート、ビス(4-t-ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロアセテート、ビス(4-t-ブチルフェニル)ヨードニウム-p-トルエンスルホナート、またはビス(4-t-ブチルフェニル)ヨードニウムカンファースルホン酸を例示することができる。
【0145】
<トリフェニルスルホニウム塩>
トリフェニルスルホニウム塩としては、トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホナート、トリフェニルスルホニウムカンファースルホン酸、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムトリフルオロアセテート、トリフェニルスルホニウム-p-トルエンスルホナート、またはトリフェニルスルホニウムブチルトリス(2、6-ジフルオロフェニル)ボレートを例示することができる。
【0146】
<アルキルスルホニウム塩>
アルキルスルホニウム塩としては、4-アセトキシフェニルジメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4-アセトキシフェニルジメチルスルホニウムヘキサフルオロアルセネート、ジメチル-4-(ベンジルオキシカルボニルオキシ)フェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジメチル-4-(ベンゾイルオキシ)フェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジメチル-4-(ベンゾイルオキシ)フェニルスルホニウムヘキサフルオロアルセネート、またはジメチル-3-クロロ-4-アセトキシフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネートを例示することができる。
【0147】
<ベンジルスルホニウム塩>
ベンジルスルホニウム塩としては、ベンジル-4-ヒドロキシフェニルメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ベンジル-4-ヒドロキシフェニルメチルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4-アセトキシフェニルベンジルメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ベンジル-4-メトキシフェニルメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ベンジル-2-メチル-4-ヒドロキシフェニルメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ベンジル-3-クロロ-4-ヒドロキシフェニルメチルスルホニウムヘキサフルオロアルセネート、または4-メトキシベンジル-4-ヒドロキシフェニルメチルスルホニウムヘキサフルオロホスフェートを例示することができる。
【0148】
<ジベンジルスルホニウム塩>
ジベンジルスルホニウム塩としては、ジベンジル-4-ヒドロキシフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジベンジル-4-ヒドロキシフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4-アセトキシフェニルジベンジルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジベンジル-4-メトキシフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジベンジル-3-クロロ-4-ヒドロキシフェニルスルホニウムヘキサフルオロアルセネート、ジベンジル-3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、またはベンジル-4-メトキシベンジル-4-ヒドロキシフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェートを例示することができる。
【0149】
<置換ベンジルスルホニウム塩>
置換ベンジルスルホニウム塩としては、p-クロロベンジル-4-ヒドロキシフェニルメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、p-ニトロベンジル-4-ヒドロキシフェニルメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、p-クロロベンジル-4-ヒドロキシフェニルメチルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、p-ニトロベンジル-3-メチル-4-ヒドロキシフェニルメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、3,5-ジクロロベンジル-4-ヒドロキシフェニルメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、またはo-クロロベンジル-3-クロロ-4-ヒドロキシフェニルメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネートを例示することができる。
【0150】
<ベンゾチアゾニウム塩>
ベンゾチアゾニウム塩としては、3-ベンジルベンゾチアゾニウムヘキサフルオロアンチモネート、3-ベンジルベンゾチアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、3-ベンジルベンゾチアゾニウムテトラフルオロボレート、3-(p-メトキシベンジル)ベンゾチアゾニウムヘキサフルオロアンチモネート、3-ベンジル-2-メチルチオベンゾチアゾニウムヘキサフルオロアンチモネート、または3-ベンジル-5-クロロベンゾチアゾニウムヘキサフルオロアンチモネートを例示することができる。
【0151】
<テトラヒドロチオフェニウム塩>
テトラヒドロチオフェニウム塩としては、4,7-ジ-n-ブトキシ-1-ナフチルテトラヒドロチオフェニウムトリフルオロメタンスルホネート、1-(4-n-ブトキシナフタレン-1-イル)テトラヒドロチオフェニウムトリフルオロメタンスルホネート、1-(4-n-ブトキシナフタレン-1-イル)テトラヒドロチオフェニウムノナフルオロ-n-ブタンスルホネート、1-(4-n-ブトキシナフタレン-1-イル)テトラヒドロチオフェニウム-1,1,2,2-テトラフルオロ-2-(ノルボルナン-2-イル)エタンスルホネート、1-(4-n-ブトキシナフタレン-1-イル)テトラヒドロチオフェニウム-2-(5-t-ブトキシカルボニルオキシビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2-イル)-1,1,2,2-テトラフルオロエタンスルホネート、または1-(4-n-ブトキシナフタレン-1-イル)テトラヒドロチオフェニウム-2-(6-t-ブトキシカルボニルオキシビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2-イル)-1,1,2,2-テトラフルオロエタンスルホネートを例示することができる。
【0152】
<スルホンイミド化合物>
スルホンイミド化合物としては、N-(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(カンファスルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(4-メチルフェニルスルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(2-トリフルオロメチルフェニルスルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(4-フルオロフェニルスルホニルオキシ)スクシンイミド、N-(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)フタルイミド、N-(カンファスルホニルオキシ)フタルイミド、N-(2-トリフルオロメチルフェニルスルホニルオキシ)フタルイミド、N-(2-フルオロフェニルスルホニルオキシ)フタルイミド、N-(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)ジフェニルマレイミド、N-(カンファスルホニルオキシ)ジフェニルマレイミド、4-メチルフェニルスルホニルオキシ)ジフェニルマレイミド、N-(2-トリフルオロメチルフェニルスルホニルオキシ)ジフェニルマレイミド、N-(4-フルオロフェニルスルホニルオキシ)ジフェニルマレイミド、N-(4-フルオロフェニルスルホニルオキシ)ジフェニルマレイミド、N-(フェニルスルホニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(4-メチルフェニルスルホニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(ノナフルオロブタンスルホニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(カンファスルホニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(カンファスルホニルオキシ)-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(4-メチルフェニルスルホニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(4-メチルフェニルスルホニルオキシ)-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(2-トリフルオロメチルフェニルスルホニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(2-トリフルオロメチルフェニルスルホニルオキシ)-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(4-フルオロフェニルスルホニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(4-フルオロフェニルスルホニルオキシ)-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-5,6-オキシ-2,3-ジカルボキシイミド、N-(カンファスルホニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-5,6-オキシ-2,3-ジカルボキシイミド、N-(4-メチルフェニルスルホニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-5,6-オキシ-2,3-ジカルボキシイミド、N-(2-トリフルオロメチルフェニルスルホニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-5,6-オキシ-2,3-ジカルボキシイミド、N-(4-フルオロフェニルスルホニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-5,6-オキシ-2,3-ジカルボキシイミド、N-(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)ナフチルジカルボキシイミド、N-(カンファスルホニルオキシ)ナフチルジカルボキシイミド、N-(4-メチルフェニルスルホニルオキシ)ナフチルジカルボキシイミド、N-(フェニルスルホニルオキシ)ナフチルジカルボキシイミド、N-(2-トリフルオロメチルフェニルスルホニルオキシ)ナフチルジカルボキシイミド、N-(4-フルオロフェニルスルホニルオキシ)ナフチルジカルボキシイミド、N-(ペンタフルオロエチルスルホニルオキシ)ナフチルジカルボキシイミド、N-(ヘプタフルオロプロピルスルホニルオキシ)ナフチルジカルボキシイミド、N-(ノナフルオロブチルスルホニルオキシ)ナフチルジカルボキシイミド、N-(エチルスルホニルオキシ)ナフチルジカルボキシイミド、N-(プロピルスルホニルオキシ)ナフチルジカルボキシイミド、N-(ブチルスルホニルオキシ)ナフチルジカルボキシイミド、N-(ペンチルスルホニルオキシ)ナフチルジカルボキシイミド、N-(ヘキシルスルホニルオキシ)ナフチルジカルボキシイミド、N-(ヘプチルスルホニルオキシ)ナフチルジカルボキシイミド、N-(オクチルスルホニルオキシ)ナフチルジカルボキシイミド、またはN-(ノニルスルホニルオキシ)ナフチルジカルボキシイミドを例示することができる。
【0153】
<ハロゲン含有化合物>
ハロゲン含有化合物としては、ハロアルキル基含有炭化水素化合物、ハロアルキル基含有ヘテロ環状化合物を挙げることができる。
【0154】
<ジアゾメタン化合物>
ジアゾメタン化合物としては、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(シクロヘキシルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(フェニルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(p-トリルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(2,4-キシリルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(p-クロロフェニルスルホニル)ジアゾメタン、メチルスルホニル-p-トルエンスルホニルジアゾメタン、シクロヘキシルスルホニル(1,1-ジメチルエチルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(1,1-ジメチルエチルスルホニル)ジアゾメタン、またはフェニルスルホニル(ベンゾイル)ジアゾメタンを例示することができる。
【0155】
<スルホン化合物>
スルホン化合物としては、β-ケトスルホン化合物、β-スルホニルスルホン化合物、ジアリールジスルホン化合物が挙げることができる。
【0156】
<スルホン酸エステル化合物>
スルホン酸エステル化合物としては、アルキルスルホン酸エステル、ハロアルキルスルホン酸エステル、アリールスルホン酸エステル、またはイミノスルホネートを挙げることができる。
【0157】
<カルボン酸エステル化合物>
カルボン酸エステル化合物としては、カルボン酸o-ニトロベンジルエステルを挙げることができる。
【0158】
<本発明のインクパターン形成用組成物が含む(A)酸発生剤>
これら(A)酸発生剤は、単独、または2種類以上を組み合わせて用いてもよい。インクパターン形成用組成物からなる膜の露光感度を向上させる効果が大きいことより、好ましくは、オキシムスルホネート化合物、オニウム塩、スルホン酸エステル化合物であり、特に好ましくは、オキシムスルホネート化合物である。
【0159】
[インクパターン形成用組成物中の(A)酸発生剤の含有]
本発明のインクパターン形成用組成物中の(A)酸発生剤の含有は、本発明の含フッ素重合体(1)を基準とする質量%で表して、好ましくは0.1%以上、10%以下、より好ましくは1%以上、5%以下である。(A)酸発生剤の含有量を上述の範囲とすることで、インクパターン形成用組成物の高い露光感度が得られ、撥液部位と親液部位による、より高精細なパターン形成膜が得られる。
【0160】
5-2.(B)溶剤
本発明のインクパターン形成用組成物に成分として用いる(B)溶剤としては、インクパターン形成用組成物の各成分を溶解または分散することができればよく、アルコール類、エーテル類、ジエチレングリコールアルキルエーテル類、エチレングリコールアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテルプロピオネート類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ケトン類またはエステル類等の有機溶剤を挙げることができる。以下、各々の(B)溶剤を示す。
【0161】
[アルコール類]
アルコール類としては、長鎖アルキルアルコール類、芳香族アルコール類、エチレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類;、プロピレングリコールモノアルキルエーテルを挙げることができる。
【0162】
<長鎖アルキルアルコール類>
長鎖アルキルアルコール類としては、1-ヘキサノール、1-オクタノール、1-ノナノール、1-ドデカノール、1,6-ヘキサンジオール、または1,8-オクタンジオールを例示することができる。
【0163】
<芳香族アルコール類>
芳香族アルコール類としては、ベンジルアルコールを例示することができる。エチレングリコールモノアルキルエーテル類としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、またはエチレングリコールモノブチルエーテルを例示することができる。
【0164】
<プロピレングリコールモノアルキルエーテル類>
プロピレングリコールモノアルキルエーテル類としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、またはプロピレングリコールモノブチルエーテルを例示することができる。
【0165】
<ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル類>
ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル類としては、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、またはジプロピレングリコールモノブチルエーテルを例示することができる。
【0166】
本発明のインクパターン形成用組成物を溶解し易く、製膜し易いことより、これらアルコール類の中でも、好ましくは、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、またはプロピレングリコールモノエチルエーテルである。
【0167】
[エーテル類]
エーテル類としては、テトラヒドロフラン、ヘキシルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、または1,4-ジオキサンを例示することができる。
【0168】
[ジエチレングリコールアルキルエーテル類]
ジエチレングリコールアルキルエーテル類としては、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、またはジエチレングリコールエチルメチルエーテル等を例示することができる。
【0169】
<エチレングリコールアルキルエーテルアセテート類>
エチレングリコールアルキルエーテルアセテート類としては、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、またはエチレングリコールモノエチルエーテルアセテーを例示することができる。
【0170】
<プロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類>
プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、またはプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテートを例示することができる。
【0171】
<プロピレングリコールモノアルキルエーテルプロピオネート類>
プロピレングリコールモノアルキルエーテルプロピオネート類としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルプロピオネート、またはプロピレングリコールモノブチルエーテルプロピオネートを例示することができる。
【0172】
[脂肪族炭化水素類]
脂肪族炭化水素類としては、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、シクロヘキサン、またはデカリンを例示することができる。
【0173】
[芳香族炭化水素類]
芳香族炭化水素類としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、n-プロピルベンゼン、i-プロピルベンゼン、n-ブチルベンゼン、メシチレン、クロロベンゼン、またはジクロロベンゼンを例示することができる。
【0174】
[ケトン類]
ケトン類としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、または4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンを例示することができる。
【0175】
[エステル類]
エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸i-プロピル、酢酸ブチル、2-ヒドロキシプロピオン酸エチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸メチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、ヒドロキシ酢酸メチル、ヒドロキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、3-ヒドロキシプロピオン酸メチル、3-ヒドロキシプロピオン酸エチル、3-ヒドロキシプロピオン酸プロピル、3-ヒドロキシプロピオン酸ブチル、2-ヒドロキシ-3-メチルブタン酸メチル、メトキシ酢酸メチル、メトキシ酢酸エチル、メトキシ酢酸プロピル、メトキシ酢酸ブチル、エトキシ酢酸メチル、エトキシ酢酸エチル、エトキシ酢酸プロピル、エトキシ酢酸ブチル、プロポキシ酢酸メチル、プロポキシ酢酸エチル、プロポキシ酢酸プロピル、プロポキシ酢酸ブチル、ブトキシ酢酸メチル、ブトキシ酢酸エチル、ブトキシ酢酸プロピル、ブトキシ酢酸ブチル、2-メトキシプロピオン酸メチル、2-メトキシプロピオン酸エチル、2-メトキシプロピオン酸プロピル、2-メトキシプロピオン酸ブチル、2-エトキシプロピオン酸メチル、または2-エトキシプロピオン酸エチルを例示することができる。
【0176】
[インクパターン形成用組成物中の(B)溶剤の含有率]
これら(B)溶剤は、単独、または2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0177】
インクパターン形成用組成物中の(B)溶剤の含有は、(BC)溶剤以外のインクパターン形成用組成物100質量部に対して、好ましくは200質量部~1600質量部であり、より好ましくは400質量部~1000質量部である。(B)溶剤の使用を上述の範囲にすることで、インクパターン形成用組成物のガラス基板等に対する濡れ性を向上させ、さらに塗布ムラの発生を抑制し、均一な膜を得ることができる。
【0178】
5-3.(C)クエンチャー
本発明のインクパターン形成用組成物に用いる(C)クエンチャーは、膜とした際の露光時に(A)酸発生剤からの酸の拡散を防止する酸拡散抑制材として機能するものであり、露光により感光し弱酸を発生する光崩壊性塩基を挙げることができる。光崩壊性塩基として、好ましくはオニウム塩化合物である。
【0179】
光崩壊性塩基は、露光部においては酸を発生する一方、未露光部ではアニオンによる高い酸捕捉機能が発揮されて、(A)酸発生剤からの酸を補足し、露光部から未露光部拡散する酸を失活させる。未露光部のみにおいて酸を失活させる。本発明のパターン形成用組成物を露光した後のパターン形成膜において撥液部位と親液部位の境界が明確となり、インク塗布後のパターンのコントラストが向上し、精緻なパターンが得られる。(C)クエンチャーは、単独、または2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0180】
[インクパターン形成用組成物中の(C)クエンチャーの含有]
インクパターン形成用組成物中の(C)クエンチャーの含有は、含フッ素重合体(1)100質量部に対して、好ましくは0.001質量部~5質量部であり、より好ましくは0.005質量部~3質量部である。(C)クエンチャーの含有を上述の範囲とすることで、本発明のインクパターン形成用組成物を露光した後のパターン形成膜において撥液部位と親液部位の境界が明確となり、インク塗布後のパターンのコントラストが向上し、精緻なパターンが得られる。
【0181】
5-4.(D)増感剤
本発明のインクパターン形成用組成物に用いる(D)増感剤は、インクパターン形成用組成物の露光感度をより向上させたい際に加えるものである。(D)増感剤は、光線または放射線を吸収して励起状態となる化合物であることが好ましい。(D)増感剤は励起状態となることで、(A)酸発生剤と接触した際、電子移動、エネルギー移動または発熱等を生じ、これにより、(A)酸発生剤は分解し酸を生成し易くなる。(D)増感剤は、350nm~450nmの領域に吸収波長を有すればよく、多核芳香族類、キサンテン類、キサントン類、シアニン類、メロシアニン類、ローダシアニン類、オキソノール類、チアジン類、アクリジン類、アクリドン類、アントラキノン類、スクアリウム類、スチリル類、ベーススチリル類、またはクマリン類を挙げることができる。
以下、各々の(D)増感剤を示す。
【0182】
[多核芳香族類]
多核芳香族類としては、ピレン、ペリレン、トリフェニレン、アントラセン、9,10-ジブトキシアントラセン、9,10-ジエトキシアントラセン,3,7-ジメトキシアントラセン、または9,10-ジプロピルオキシアントラセンを例示することができる。
【0183】
[キサンテン類]
キサンテン類としては、フルオレッセイン、エオシン、エリスロシン、ローダミンB、ローズベンガルを例示することができる。
【0184】
[キサントン類]
キサントン類としては、キサントン、チオキサントン、ジメチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、またはイソプロピルチオキサントンを例示することができる。
【0185】
[シアニン類]
シアニン類としては、チアカルボシアニン、オキサカルボシアニンを例示することができる。
【0186】
[メロシアニン類]
メロシアニン類としては、メロシアニン、カルボメロシアニンを例示することができる。
【0187】
[チアジン類]
チアジン類としては、チオニン、メチレンブルー、トルイジンブルーを例示することができる。
【0188】
[アクリジン類]
アクリジンとしては、アクリジンオレンジ、クロロフラビン、アクリフラビンを例示することができる。
【0189】
[アクリドン類]
アクリドン類としては、アクリドン、10-ブチル-2-クロロアクリドンを例示することができる。
【0190】
[アントラキノン類]
アントラキノン類としては、アントラキノンを例示することができる。
【0191】
[スクアリウム類]
スクアリウム類としては、スクアリウムを例示することができる。
【0192】
[ベーススチリル類]
ベーススチリル類としては、2-[2-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]エテニル]ベンゾオキサゾールを例示することができる。
【0193】
[クマリン類]
クマリン類としては、7-ジエチルアミノ4-メチルクマリン、7-ヒドロキシ4-メチルクマリン、または2,3,6,7-テトラヒドロ-9-メチル-1H,5H,11H[l]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-ノンを例示することができる。
【0194】
これら(D)増感剤は、単独、または2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0195】
[本発明のインクパターン形成用組成物が含む(D)増感剤]
本発明のインクパターン形成用組成物に使用する(D)増感剤としては、露光感度向上の効果が大きいことより、好ましくは、多核芳香族類、アクリドン類、スチリル類、ベーススチリル類、クマリン類、またはキサントン類であり、特に好ましくはキサントン類である。キサントン類の中でもジエチルチオキサントンおよびイソプロピルチオキサントンが好ましい。
【0196】
[インクパターン形成用組成物中の(D)増感剤の含有率]
(D)増感剤の含有は、含フッ素重合体(1)100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~8質量部であり、より好ましくは1質量部~4質量部である。(D)増感剤の含有を上述の範囲とすることで、インクパターン形成用組成物の露光感度を向上させ、本発明のパターン形成用組成物を露光した後のパターン形成膜において撥液部位と親液部位の境界が明確となり、インク塗布後のインクパターンのコントラストが向上し、精緻なパターンが得られる。
【0197】
5-5.(E)重合性化合物
本発明のインクパターン形成用組成物に成分として用いる(E)重合性化合物は、得られるパターン形成膜をより硬くするために、インクパターン形成用組成物に含有させるものである。(E)重合性化合物は、含フッ素重合体(1)以外の、エチレン性不飽和結合を有する化合物である。このような(E)重合性化合物としては、重合性が良好であり、インクパターン形成用組成物から得られるパターン形成膜がより硬くなることから、単官能または2官能以上の、アクリル酸エステル類およびメタクリル酸エステルを挙げることができる。
【0198】
以下、各々の(E)重合性化合物を示す。
[単官能のアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステル]
【0199】
<単官能アクリル酸エステル>
単官能アクリル酸エステルとしては、2-ヒドロキシエチルアクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアクリレート、(2-アクリロイルオキシエチル)(2-ヒドロキシプロピル)フタレート、または(2-メタクリロイルオキシエチル)(2-ヒドロキシプロピル)フタレートを例示することができる。
【0200】
<単官能メタクリル酸エステル>
単官能メタクリル酸エステルとしては、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルメタクリレート、またはω-カルボキシポリカプロラクトンモノアクリレートを例示することができる。
【0201】
単官能のアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルは市販品を入手することが可能であり、例えば、東亞合成株式会社から、商品名、アロニックス(登録商標)、品番M-101、M-111、M-114、およびM-5300、日本化薬株式会社から、商品名、KAYARAD、品番TC-110S、TC-120S、大阪有機化学工業株式会社から、商品名、ビスコート158、2311ビスコート等が市販されている。
【0202】
[2官能のアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステル]
2官能アクリル酸エステルとしては、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、または1,9-ノナンジオールジアクリレートを例示することができる。
【0203】
2官能メタクリル酸エステルとしては、プロピレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、または1,9-ノナンジオールジメタクリレートを例示することができる。
【0204】
2官能のアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステは市販品を入手することが可能であり、例えば、東亞合成株式会社から、商品名、アロニックス(登録商標)、品番、M-210、M-240、M-6200、日本化薬株式会社から、商品名、KAYARAD、品番、HDDA、HX-220、R-604、大阪有機化学工業株式会社から、商品名、ビスコート、品番、260、312、335HP、共栄社化学株式会社から、商品名、ライトアクリレート1,9-NDA等が市販されている。
【0205】
[3官能以上のアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステル]
3官能以上のアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルとしては、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリ(2-アクリロイルオキシエチル)フォスフェート、トリ(2-メタクリロイルオキシエチル)フォスフェート、コハク酸変性ペンタエリスリトールトリアクリレート、コハク酸変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレートの、または直鎖アルキレン基および脂環式構造を有し、かつ2個以上のイソシアネート基を有する化合物と、分子内に1個以上の水酸基とを有し、かつ3個、4個または5個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物と反応させて得られる多官能ウレタンアクリレート系化合物を例示することができる。
【0206】
3官能以上のアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルは市販品を入手することが可能であり、例えば、東亞合成株式会社から、商品名、アロニックス(登録商標)、品番、M-309、M-315、M-400、M-405、M-450、M-7100、M-8030、M-8060、TO-1450、日本化薬株式会社から、商品名、KAYARAD、品番、TMPTA、DPHA、DPCA-20、DPCA-30、DPCA-60、DPCA-120、同DPEA-12、大阪有機化学工業株式会社から、商品名、ビスコート、品番、295、300、360、GPT、3PA、400、共栄社化学株式会社から、商品名、ライトアクリレート1,9-NDA等が市販されている。多官能ウレタンアクリレート系化合物は、第一工業製薬株式会社から、商品名、ニューフロンティア(登録商標)品便、R-1150、日本化薬株式会社ヵら、商品名、KAYARAD、品番、DPHA-40H等が市販されている。
【0207】
本発明のインクパターン形成用組成物に使用する(E)重合性化合物としては、得られるパターン形成膜をより硬くする効果が大きいことより、好ましくは、ω-カルボキシポリカプロラクトンモノアクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートとの混合物、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、コハク酸変性ペンタエリスリトールトリアクリレート、コハク酸変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレートまたは多官能ウレタンアクリレート系化合物である。特に好ましくは、3官能以上のアク(メタ)リル酸エステルが好ましく、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートとの混合物である。
【0208】
[インクパターン形成用組成物中の(E)重合性化合物の含有率]
これら(E)重合性化合物は、単独、または2種類以上を組み合わせて用いてもよい。(E)重合性化合物の含有は、含フッ素重合体(1)100質量部に対して、好ましくは1質量部~300質量部であり、さらに好ましくは、3質量部~200質量部であり、特に好ましくは5質量部~100質量部である。(E)重合性化合物の使用量を上述の範囲内とすることで、インクパターン形成用組成物から得られるパターン形成膜をより硬くすることができる。
【0209】
6.インクパターンの形成方法
【0210】
本発明のインクパターンの形成方法は、以下の2種類のパターン形成方法(A)、(B)が挙げられる。インクパターンの形成方法(A)はフォトマスクを用いる方法であり、インクパターンの形成方法(B)は描画装置を用いる方法である。
【0211】
[インクパターンの形成方法(A)]
本発明のインクパターンの形成方法(A)は、上記インクパターン形成用組成物を基板上に塗布し膜を形成する製膜工程と、フォトマスクを介して波長150nm以上、500nm以下の光を、膜に照射露光し、フォトマスクのパターンを膜に転写し、撥液部と親液部を有するパターン形成膜を得る露光工程と、得られたパターン形成膜にインクを塗布するしインクによるパターンを得るインクパターン形成工程を含む。
【0212】
[パターン形成方法(B)]
本発明のインクパターンの形成方法(B)は、上記インクパターン形成用組成物を基板上に塗布し得られた塗膜を加熱する製膜工程と、次いで、波長150nm以上、500nm以下の光を描画装置により膜に走査露光して、パターンを膜に描画し、撥液部と親液部を有するパターン形成膜を得る描画工程と、得られたパターン形成膜にインクを塗布するインクパターン形成工程を含む。
【0213】
6-1.インクパターンの形成方法の製膜工程およびインクパターン形成工程
以下に、本発明のインクパターンの形成方法(A)および(B)に共通する製膜工程、インクパターンの形成方法(A)における露光固定、および(B)における描画工程、並びにインクパターンの形成方法(A)および(B)に共通するインクパターン形成工程について示す。
【0214】
6-2.製膜工程
製膜工程は、上述の本発明のインクパターン形成用組成物を基板に塗布し、得られた塗膜を加熱(プレベーク)する工程である。
【0215】
[基板]
製膜工程で用いる基板としては、従来、電子回路に用いられてきた、樹脂製基板、ガラス基板、石英、シリコン等の半導体基板を挙げることができる。樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、またはポリイミドを例示することができる。
【0216】
基板にインクパターン形成用組成物を塗布する前に、必要に応じて基板表面を洗浄、粗面化、微少な凹凸面の付与等の前処理を施しておいていてもよい。
【0217】
[塗布方法]
インクパターン形成組成物の基板への塗布方法としては、特に限定されず、はけまたはブラシを用いた塗布、ディッピング法、スプレー法、ロールコート法、回転塗布法(スピンコート法)、スリットダイ塗布法、バー塗布法、フレキソ印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、またはディスペンス法を挙げることができる。本発明のパターンの形成方法において、好ましくはスピンコート法が好ましい。
【0218】
[膜厚]
上記工程で形成される塗膜の厚みは、所望の用途に応じ適宜調整すればよい。本発明のインクパターン形成方法において、好ましくは0.1μm~20μmである。
【0219】
[プレベーク]
用いるインクパターン形成用組成物の組成等によっても異なるが、本発明のインクパターンの形成方法(A)および(B)に共通するプレベークの条件は、好ましくは加熱温度60℃~120℃、加熱時間1分間~10分間である。
【0220】
6-3.露光工程および描画工程
[露光工程]
インクパターンの形成方法(A)における露光工程は、製膜工程で得られた膜にフォトマスクを介して波長150nm以上、500nm以下の光を照射し露光し、フォトマスクのパターンを膜に転写し、撥液部と親液部を有するパターン形成膜を得る工程である。露光は、所望のパターンと同様のパターンの露光部が形成されるように、所定のパターンを有するフォトマスクを介して露光する。
【0221】
[描画工程]
インクパターンの形成方法(B)における描画工程は、製膜工程で得られた膜に波長150nm以上、500nm以下の光を描画装置により膜に走査露光して、パターンを膜に描画し、撥液部と親液部を有するパターン形成膜を得る工程である。例えば、直描式露光装置を用いて所定のパターンを走査することで行う。
【0222】
[使用光]
露光および描画には、可視光線、紫外線、X線または荷電粒子の流れである放射線を使用することができる。好ましくは、波長150nm以上、500nm以下の紫外線であり、特に好ましくは紫外線発光ダイオードによる365nmの紫外線である。
【0223】
露光および描画により、膜中の(A)酸発生剤より発生する酸の効果により、含フッ素重合体(1)が有する酸解離性基が脱離し揮発する。その結果、露光部の膜厚が未露光部の膜厚に比べ薄くなり、凹状のパターンが形成される。その際、酸解離性基は含フッ素原子を有するため、未露光部は撥液性を示し、露光部は親液性となる。したがって、基板上に形成された膜は、撥液性の未露光部と、凹状のパターンである親液性の露光部とを有するパターン形成膜となる。
【0224】
[加熱]
露光後のパターン形成膜は加熱することが好ましい。露光後のパターン形成膜を加熱することで、露光部において含フッ素重合体(1)から解離した酸解離性基による成分をさらに揮発させることができ、露光された凹部と、未露光の凸部からなる、より精緻なパターンが得られる。
【0225】
パターン形成膜を加熱する方法としては、例えば、該膜形成基板を、ホットプレート、バッチ式オーブンまたはコンベア式オーブンを用いて加熱する方法、あるいはドライヤー等を用いて熱風乾燥する方法、真空ベークする方法を挙げることができる。加熱の条件は、組成物の組成や、得られた塗膜の厚み等によっても異なるが、好ましくは、60℃以上、150℃以下で、3分以上、30分以下である。
【0226】
6-4.インクパターン形成工程
インクパターンの形成は、得られたパターン形成膜にインクを塗布しインクによるパターンを得ることでなされる。
【0227】
パターン形成膜の露光前後の親撥部と撥液部の、インク溶媒である水およびヘキサデカンに対する接触角の差は、好ましくは30°以上であり、より好ましくは50°以上である。接触角差が上述の範囲にあることにより、凸状の撥液性部位にインクを塗布した場合であっても、インクをはじき、親液部である凹部にインクが移動しやすくなり、露光された凹部と、未露光の凸部からなる、より精緻なインクパターンが得られる。
【0228】
[導電性インクパターンの形成]
本発明のインクパターンの形成方法において、インクとして導電性インク用いることで、基板上に導電性インクパターンを形成することができる。
【0229】
6-5.電子回路および電子デバイスへの応用
本発明のインクパターンの形成方法において基板上に導電性インクパターンからなる電機回路を形成し、電子デバイスを製造することができる。
【0230】
電子回路は、基板上に形成された導電性インクパターンによる配線である。電子デバイスは、電子回路を有する機器であり、液晶ディスプレイ、携帯電話等の携帯情報機器、デジタルカメラ、有機ディスプレイ、有機EL照明、各種センサーまたはウェアラブルデバイスを挙げることができる。
【0231】
7.含フッ素単量体
本発明の含フッ素重合体(1)~(3)は、以下に示す本発明の含フッ素単量体(4)を単独重合または共重合させることで合成する。
【0232】
[含フッ素単量体(4)]
本発明の含フッ素単量体は、下記の式(4)で表される含フッ素単量体であり、含フッ素環状アセタール構造を有するものであり、含フッ素重合体(1)は、含フッ素単量体(4)を単独または共重合させて得られる。以下、含フッ素単量体(4)と呼ぶことがある。
【0233】
【化14】
【0234】
(式中、Rは、水素原子、フッ素原子または炭素数1~10の直鎖状のまたは炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。R~Rは、水素原子、炭素数1~10の直鎖状または炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。Xは、単結合または2価の基であり、2価の基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Yは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基(-COOR)であり、含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基である。以下同じ。)
【0235】
[含フッ素単量体(5)]
本発明の含フッ素単量体(1)は、前記式(1)中のR、R、Rが水素原子である、含フッ素単量(5)であることが好ましい。
【0236】
含フッ素単量体(4)を重合させて得られる含フッ素重合体(1)を、本発明のレジストまたはインクパターン形成用組成物の成分とし基板上に製膜する際、溶剤への溶解性のために、前記式(4)中のR、R、Rが水素原子であることが好ましく、好ましくは、以下の式(5)で表される含フッ素環状アセタール構造を有する含フッ素単量台である。以下、含フッ素単量体(5)と呼ぶことがある。
【0237】
【化15】
【0238】
(式(5)中のR、R、X、Yは、式(4)と同義である。)
【0239】
[含フッ素単量体(6)]
本発明の含フッ素単量体(5)は、さらに、前記式(5)中のYがトリフルオロメチル基である、以下の含フッ素単量体(6)であることが好ましい。
【0240】
さらに、含フッ素単量体(5)を単独重合または共重合させて得られる前述の含フッ素重合体(2)を、レジストまたはインクパターン形成用組成物とし基板上に製膜する際、溶剤への溶解性のために、前記式(4)中のYがトリフルオロメチル基であることが好ましく、さらに、好ましくは、以下の式(6)で表される含フッ素環状アセタール構造を有する含フッ素単量体である。以下、含フッ素単量体(6)と呼ぶことがある。
【0241】
【化16】
【0242】
(式(6)中のR、R、Xは、式(4)と同義である。)
本発明の含フッ素単量体(4)として、以下に具体例を例示するが、これらのものに限定されるものではない。
【0243】
【化17】
【0244】
8.含フッ素単量体(4)の製造方法
本発明の含フッ素単量体(4)の製造方法について示す。
本発明の含フッ素単量体の製造方法は、以下の式(10)で表されるヒドロキシカルボニル化合物または式(11)で表されるヒドロキシビニルエーテルまたは、ヒドロキシビニルエステルを環化させ、式(7)で表される環状ヘミアセタール化合物を得る工程を含む。
【0245】
【化18】
【0246】
(式中、Rは、水素原子、フッ素原子または炭素数1~10の直鎖状のまたは炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。R~Rは、水素原子、炭素数1~10の直鎖状または炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。Xは、単結合または2価の基であり、2価の基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Yは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基(-COOR)であり、含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基である。Zは、炭素数1-20の直鎖状、炭素数3-20分岐鎖状または環状のアルキル基であり、Z中の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換されていてもよく、エーテル結合、シロキサン結合、チオエーテル結合、カルボニル結合を含んでいてもよい。以下、同じ。)
【0247】
8-1.含フッ素環状ヘミアセタール化合物のアシル化またはアルキル化
本発明の含フッ素単量体(4)は、式(7)で表される含フッ素環状ヘミアセタール化合物(以下、含フッ素環状ヘミアセタール化合物(7)と呼ぶことがある)に重合性基を導入し、含フッ素単量体(4)を得ることで、合成可能である。以下に本反応を示す。
【0248】
【化19】
【0249】
(R、R~R、X、Yは上式と同義であり、Aは、水素原子、ハロゲン原子、アクロイル基、またはメタクロイル基である。)
【0250】
本反応は、水酸基を有する含フッ素環状ヘミアセタール化合物(7)の水酸基のアシル化またはアルキル化反応することで可能である、塩基の存在下、溶媒中または無溶媒で、アクリロイル化合物(12)において、Xが単結合であるアシル化剤、またはXが2価の有機基であるアルキル化剤との反応させることにより、含フッ素単量体(4)を合成する反応である。
【0251】
8-1-1.含フッ素環状ヘミアセタール化合物のアシル化
[アシル化剤]
アシル化剤としては、カルボン酸クロリドまたはカルボン酸無水物を挙げることができる。
【0252】
アシル化剤としては、アクリル酸クロリド、メタクリル酸クロリド、アクリル酸無水物、メタクリル酸無水物、2-フルオロアクリル酸クロリド、または2-メタクロイロキシアセチルクロリドを例示ずることができる。
【0253】
アシル化剤の使用量は、含フッ素環状ヘミアセタール化合物(7)1モルに対し、0.5モル以上、10モル以下が好ましく、特に1モル以上、3モル以下が、アシル化の収率が高くなるため好ましい。アシル化剤との反応は、塩基存在下、反応は無溶媒、または溶媒中で行うことができる。
【0254】
[塩基]
塩基としては、無機塩基、有機塩基を挙げることができる。反応に用いる塩基の使用量は、含フッ素環状ヘミアセタール化合物(7)1モルに対し0.05以上、10モル以下が好ましく、特に1モル以上、3モル以下が、収率が高くなるため好ましい。
【0255】
<無機塩基>
無機塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムまたは炭酸水素カリウムを例示することができる。
【0256】
<有機塩基>
有機塩基としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、イミダゾール、トリエチレンジアミン、ジメチルアミノピリジン等を例示することができる。
【0257】
[溶媒]
溶媒としては、炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒または塩素系溶媒を挙げることができる。必要に応じて、水とともに用いてもよい。
【0258】
<炭化水素系溶媒>
炭化水素系溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、またはキシレンを例示することができる。
【0259】
<エーテル系溶媒>
エーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、またはエチレングリコールジメチルエーテルを例示することができる。
【0260】
<塩素系溶媒>
塩素系溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、または1,2-ジクロロエチレンを例示することができる。
【0261】
8-1-2.含フッ素環状ヘミアセタール化合物のアルキル化
含フッ素環状ヘミアセタール化合物(7)の水酸基のアルキル化によっても重合性基の導入は可能である。反応には反応速度を促進ために触媒を用いてもよい。
[アルキル化剤]
アルキル化剤として、ハロゲン化アルキル類、スルホン酸エステル類を挙げることができる。
【0262】
アシル化剤との反応は、塩基存在下、反応は無溶媒、又は溶媒中で行うことができる。アルキル化剤の使用量は、含フッ素環状ヘミアセタール化合物(7)1モルに対し、0.5モル以上、10モル以下が好ましく、特に1モル以上、3モル以下が、収率が高くなるため好ましい。
【0263】
<ハロゲン化アルキル>
ハロゲン化アルキルとしては、アクリル酸クロロエチル、メタクリル酸クロロエチル、アクリル酸ブロモエチル、メタクリル酸ブロモエチルを例示することができる。
【0264】
<スルホン酸エステル>
スルホン酸エステルとしては、アクリル酸-2-メチルスルホニロキシエチル、メタクリル酸-2-メチルスルホニロキシエチル、アクリル酸-2-p-トルエンスルホニロキシエチル、メタクリル酸-2-p-トルエンスルホニロキシエチルを例示することができる。
【0265】
[塩基]
塩基としては、無機塩基、有機塩基を挙げることができる。有機塩基としては、有機金属塩、を挙げることができる。反応に用いる塩基の使用量は、0.05モル以上、10モル以下が好ましく、特に1モル以上、3モル以下が、収率が高くなるため好ましい。
【0266】
<無機塩基>
無機塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、アンモニアを例示することができる。
【0267】
<有機塩基>
有機金属塩としては、有機リチウム塩、グリニャール試薬またはアルカリ金属塩を例示することができる。
【0268】
有機リチウム塩としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、イミダゾール、トリエチレンジアミン、ジメチルアミノピリジン、メチルリチウム、またはn-ブチルリチウムを例示することができる。
【0269】
グリニャール試薬としては、臭化メチルマグネシウムを例示することができる。
【0270】
アルカリ金属塩としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、またはカリウムt-ブトキシドを例示することができる。
【0271】
[溶媒]
溶媒としては、一般的に求核置換反応によいとされている溶媒が好ましく、非プロトン系極性溶媒類、プロトン系極性溶媒を挙げることができる。これら溶剤と水との2層系であってもよい。
【0272】
非プロトン系極性溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、またはN-メチルピロリドンを例示することができる。
【0273】
プロトン系極性溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、またはジクロロエチレンを例示することができる。
【0274】
[触媒]
アルキル化反応の反応速度を促進するために触媒として、ヨウ化物または臭化物を加えてもよい。触媒を加える場合の添加量はヘミアセタール化合物(7)1モルに対し、0.001~1モル、特に0.005~0.5モルとすることが好ましい。
【0275】
<ヨウ化物>
ヨウ化物としては、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化リチウム、またはヨウ化テトラブチルアンモニウムを例示することができる。
【0276】
<臭化物>
臭化物としては、臭化ナトリウム、臭化リチウム、または臭化テトラブチルアンモニウムを例示することができる。
【0277】
9.含フッ素環状ヘミアセタール
本発明の含フッ素重合体(1)は、含フッ素単量体(4)を重合させて得られる。含フッ素単量体は、含フッ素単量体であり、含フッ素環状アセタール構造を有するものである。含フッ素環状ヘミアセタール(7)は、含フッ素単量体(4)の前駆体としての化合物である。
【0278】
[含フッ素環状ヘミアセタール(7)]
【0279】
【化20】
【0280】
(式中、R~Rは、水素原子、炭素数1~10の直鎖状または炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。Yは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基(-COOR)であり、含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基である。)
【0281】
[含フッ素環状ヘミアセタール(8)]
本発明の含フッ素ヘミアセタール(7)は、前記式(7)中のR、R、Rが水素原子である、以下の含フッ素ヘミアセタール(8)であることが好ましい。
【0282】
本発明の含フッ素重合体(2)は、含フッ素単量体(5)を重合させて得られる。含フッ素単量体は、含フッ素単量体であり、含フッ素環状アセタール構造を有するものである。また、以下の含フッ素環状ヘミアセタール(8)は、含フッ素単量体(5)の前駆体としての化合物である。
【0283】
【化21】
【0284】
(式(8)中のR、Xは、式(7)と同義である。)
[含フッ素環状ヘミアセタール(9)]
本発明の含フッ素ヘミアセタール(7)は、さらに、前記式(8)中のYがトリフルオロメチル基である、含フッ素ヘミアセタール(9)であることが好ましい。
【0285】
本発明の含フッ素重合体(3)は、含フッ素単量体(6)を重合させて得られる含フッ素単量体であり、含フッ素環状アセタール構造を有するものである。以下の含フッ素環状ヘミアセタール(9)は、含フッ素単量体(6)の前駆体としての化合物である。
【0286】
【化22】
【0287】
(式(9)中の、Rは、式(7)と同義である。)
【0288】
10.含フッ素環状ヘミアセタール(7)の合成
本発明の含フッ素環状ヘミアセタール(7)の製造方法について説明する。
【0289】
以下の式(10)で表されるヒドロキシカルボニル化合物または式(11)で表されるヒドロキシビニルエーテルまたはヒドロキシビニルエステルを環化させ、式(7)で表される発明12の環状ヘミアセタール化合物を得る、環状ヘミアセタール化合物の製造方法である。
【0290】
【化23】
【0291】
(式中、R~Rは、水素原子、炭素数1~10の直鎖状または炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。Yは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基(-COOR)であり、含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基である。Zは、炭素数1-20の直鎖状、炭素数3-20分岐鎖状または環状のアルキル基であり、Z中の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換されていてもよく、エーテル結合、シロキサン結合、チオエーテル結合、カルボニル結合を含んでいてもよい。)
本発明の含フッ素環状ヘミアセタール(7)は、主として以下に示す2つの工程を経て合成可能である。
【0292】
10-1.第1工程
第1工程は、アリルアルコール類、アリルエーテル類またはアリルエステル類と、ヘキサフルオロアセトン(以下、HFAと呼ぶことがある)またはトリフルオロピルビン酸エステルのカルボニル-エン反応により、式(10)で表されるヒドロキシビニルエステルまたは式(11)で表されるヒドロキシビニルエーテルを得る工程である。
【0293】
以下に、式(12)で表されるアリルアルコール類、アリルエーテル類またはアリルエステル類と、式(13)で表されるトリフルオロカルボニル化合物のカルボニル-エン反
応により、式(10)で表されるヒドロキシビニルカルボニル化合物または式(11)で表されるヒドロキシビニルエーテルまたはヒドロキシエステルを得る反応を示す。
【0294】
以下、ヒドロキシカルボニル化合物(10)、ヒドロキシビニルエーテル(11)アリルアルコール類(12)、アリルエーテル類(12)、アリルエステル類(12)、トリフルオロカルボニル化合物(13)と呼ぶことがある。
【0295】
【化24】
【0296】
(式中、Rは、水素原子、フッ素原子または炭素数1~10の直鎖状のまたは炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。R~Rは、水素原子、炭素数1~10の直鎖状または炭素数3~10の分枝状のアルキル基であり、アルキル基中の炭素原子に結合する水素原子のうち、7個以下がフッ素原子と置換されていてもよい。Yは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基(-COOR)であり、含フッ素アルキル基、またはカルボン酸エステル基が含む7個以下の水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい。Rは、炭素数1~3の含フッ素アルキル基である。Zは、炭素数1-20の直鎖状、炭素数3-20分岐鎖状または環状のアルキル基であり、Z中の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換されていてもよく、エーテル結合、シロキサン結合、チオエーテル結合、カルボニル結合を含んでいてもよい。)
【0297】
Zが水素原子であるアリルアルコール類(12)または、Zがアルキル基であり水酸基が保護されたアリルエーテル類(12)またはアリルエステル類(12)と、Yがトリフルオロメチル基であるHFAを混合し、オートクレーブ等による密閉加圧下、必要に応じて加熱することで、ヒドロキシビニルエステル(10)またはヒドロキシビニルエーテル(11)を選択的に合成することが可能である。さらに、HFAの替わりに、トリフルオロピルビン酸エステルに用いた場合においても、反応は効率よく進行する。
【0298】
本反応は、アリルアルコール類(12)、アリルエーテル類(12)またはアリルエステル類(12)のアリル部位と含フッ素カルボニル化合物(13)とのエン反応であり、アリルアルコール類(12)、アリルエーテル類(12)またはアリルエステル類(12)側のオレフィン部の電子密度が高いほど反応が進行しやすく、副反応少なく選択的に反応を進めることができる。アリルアルコール類(12)、アリルエーテル類(12)またはアリルエステル類(12)中ののR~Rの全てが水素原子であるよりも、いくつかが電子供与性基で置換されていることが好ましく、電子供与性基としてはメチル基が好ましい。
【0299】
アリルアルコール類(12)、アリルエーテル類(12)またはアリルエステル類(12)に1モル対するHFAまたはトリフルオロピルビン酸エステルの使用量は、0.5モル以上、10モル以下が好ましく、特に1モル以上、3モル以下が好ましい。
【0300】
[アリルアルコール類]
Zが水素原子であるアリルアルコール類(12)としては、アリルアルコール、β-メタリルアルコール、1-ブテン-3―オール、クロチルアルコール、または3-メチル-2―ブテン-1―オールを例示することができる。
【0301】
[アリルエーテル類]
Zが水素原子以外のアリルエーテル類(12)またはアリルエステル類(12)としては、上述のアリルアルコール類(12)の水酸基に保護基を導入したものが好ましく保護基の種類としては、シリル基、アセタール類、アシル類、ベンジル類、またはカルバメート類を挙げることができる。オレフィン部の電子密度を向上させ、反応を促進するために、保護基は、アセタール系、シリル系、カルバメート類またはベンジル系が好ましい。
【0302】
<シリル基類>
シリル基類としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリブチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基またはt-ブチルジフェニルシリル基を例示することができる。
【0303】
<アセタール類>
アセタール類としては、テトラヒドロピラニル基、エトキシエチル基、ブトキシエチル基、メトキシメチル基、メチルチオメチル基、ベンジロキシメチル基またはメトキシエトキシメチル基を例示することができる。
【0304】
<アシル類>
アシル類としては、ホルミル基、アセチル基、トリフルオロアセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基、ピバロイル基、アクリリル基またはメタクリリル基を例示することができる。
【0305】
<ベンジル類>
ベンジル類としては、ベンジル基、p-メトキシベンジル基を例示することができる。
【0306】
<カルバメート類>
カルバメート類としては、t-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基を例示することができる。
【0307】
10-2.第1工程
上記第1工程の反応は無触媒、無溶媒でも進行するが、反応を促進させるためには、溶媒中で酸触媒を用いることも可能である。より安価に製造するためには、無溶媒、無触媒で行い、反応生成物より下記の式(10)で表されるヒドロキシアルデヒド、ケトン類、または式(11)で表されるヒドロキシビニルエーテル類、ヒドロキシビニルエステル類を蒸留等の精製操作で単離することが好ましい。
【0308】
【化25】
【0309】
触媒は使用有無を特に限定されず、使用する場合無機酸、有機酸、ルイス酸のいずれも使用することができる。
【0310】
無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸 またはゼオライトを例示することができる。有機酸としては、カルボン酸、スルホン酸、陽イオン交換樹脂、ルイス酸を挙げることができる。具体的には、カルボン酸としては、ギ酸、酢酸またはトリフルオロ酢酸、スルホン酸としては、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸またはp-トルエンスルホン、ルイス酸としては、塩化アルミニウム、四塩化チタンまたは塩化すずを例示することができる。
【0311】
溶媒を用いなくても反応は進行するが用いる場合は、原料であるアリルアルコール類(12)、アリルエーテル類(12)またはアリルエステル類(12)と、HFAまたはトリフルオロピルビン酸エステル(13)、目的物である式(10)または式(11)で表される含フッ素化合物に不活性な溶媒であればよい。例としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素またはエーテル類を挙げることができる。
【0312】
[脂肪族炭化水素]
脂肪族炭化水素としては、ヘキサン、ヘプタン、 シクロヘキサン、環状の脂肪族炭化水素であるメチルシクロヘキサンを例示することができる。
【0313】
[芳香族炭化水素]
芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエンまたはキシレンを例示することができる。
【0314】
[ハロゲン化炭化水素]
ハロゲン化炭化水素としては、塩化メチレンを例示することができる。
【0315】
[エーテル類]
エーテル類としては、ジエチルエーテル、時ブチルエーテル、テトラヒドロフランまたはエチレングリコールジメチルエーテルを例示することができる。
【0316】
10-3.第2工程
第2工程は、ヒドロキシカルボニル化合物(10)、ヒドロキシビニルエーテルまたはヒドロキシビニルエステル(11)を分子内環化させ、式(9)で表される環状ヘミアセタール化合物(7)を得る工程である。
【0317】
第1工程での生成物の種類、置換基によって種々異なるが、主に上述に示す三つの方法(方法1~3)で可能である。
【0318】
10-3-1.方法-1
方法-1は、以下の反応式に示す様に、ヒドロキシカルボニル化合物(10)を溶媒中、酸または塩基の作用により、選択的に分子内環化が進行し、含フッ素環状ヘミアセタール(7)を得る方法である。
【0319】
【化26】
【0320】
本方法は、溶媒中、酸性条件または塩基性条件下で行うことが好ましい。
【0321】
酸としては、無機酸、有機酸、ルイス酸のいずれも使用することができる。反応に用いる酸の使用量は、ヒドロキシカルボニル化合物(10)1モルに対して、0.01モル以上、1モル以下が好ましく、特に0.05モル以上、0.2モル以下が好ましい。
【0322】
塩基としては、無機塩基、有機塩基を挙げることができる。未反応の原料および微量含まれる含フッ素アルコール類を取り除くことが可能な、水-有機溶剤の2層系で、塩基性下、特に水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを用いることが特に好ましい。反応に用いる塩基の使用量は、ヒドロキシカルボニル化合物(10)1モルに対して、0.5モル以上、10モル以下が好ましく、特に1モル以上、3モル以下が収率が高くなるため好ましい。
【0323】
[無機酸]
無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸 またはゼオライトを例示することができる。
【0324】
[有機酸]
有機酸としては、カルボン酸、スルホン酸、陽イオン交換樹脂、ルイス酸を挙げることができる。カルボン酸としては、ギ酸、酢酸またはトリフルオロ酢酸、スルホン酸としては、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸またはp-トルエンスルホン、ルイス酸としては、塩化アルミニウム、四塩化チタンまたは塩化すずを例示することができる。
【0325】
[無機塩基]
無機塩基としては、塩水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、アンモニア例示することができる。
【0326】
[有機塩基]
有機塩基としては、有機リチウム塩、グリニャール試薬、有機アルカリ金属塩を挙げることができる。
【0327】
有機リチウム塩としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、イミダゾール、トリエチレンジアミン、ジメチルアミノピリジン、メチルリチウムまたはn-ブチルリチウムを例示することができる。グリニャール試薬としては、臭化メチルマグネシウムを例示することができる。有機アルカリ金属塩としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシドを例示することができる。
【0328】
[溶媒]
溶媒を用いなくても反応は進行するが用いる場合は、原料であるヒドロキシカルボニル化合物(10)、生成物である含フッ素環状ヘミアセタール(7)に不活性な溶媒であればよい。例えば、水、アルコール類、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル類を挙げることができる。
【0329】
脂肪族炭化水素としては、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、環状の脂肪族炭化水素であるメチルシクロヘキサンを例示することができる。芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエンまたはキシレンを例示することができる。ハロゲン化炭化水素としては、塩化メチレン、エーテル類としては、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフランまたはエチレングリコールジメチルエーテルを例示することができる。
【0330】
10-3-2.方法-2
方法-2は、以下の反応式に示す様に、ヒドロキシビニルエ-テル(11)、またはヒドロキシビニルエステル(11)を脱保護した後、溶媒中、酸または塩基の作用により、水酸基の水素原子を引き抜くことによって、選択的に分子内環化が進行し、含フッ素環状ヘミアセタール(7)を得る方法である。以下に本反応を示す。
【0331】
【化27】
【0332】
ヒドロキシビニルエ-テル(11)、またはヒドロキシビニルエステル(11)は水酸基が保護されている化合物であり、ヒドロキシビニルエ-テル(11)、またはヒドロキシビニルエステル(11)は保護基を脱保護し、ヒドロキシビニルエ-テル(11)、またはヒドロキシビニルエステル(11)からヒドロキシカルボニル化合物(10)に変換した後に、方法-1と同様に分子内環化を進行させて、含フッ素環状ヘミアセタール(7)を得ることができる。脱保護は、一般的な脱保護方法を用いることが可能である。使用する酸、塩基または溶媒は、方法―1と同様である。
【0333】
10-3-2.方法-3
方法-3は、以下の反応式に示す様に、ヒドロキシビニルエ-テル(11)、またはヒドロキシビニルエステル(11)溶媒中、酸または塩基の作用により、水酸基の水素原子を引き抜くことによって、選択的に分子内環化を進行させ含フッ素環状アセタール中間体(14)を得た後、脱保護することで、含フッ素環状ヘミアセタール(7)を得る方法である。以下に本反応を示す。
【0334】
【化28】
【0335】
[分子内環化]
ヒドロキシビニルエ-テル(11)、またはヒドロキシビニルエステル(11)を無溶媒または溶媒下で酸触媒を加え、溶媒沸点程度まで加熱することにより、式(14)で表される含フッ素環状アセタール中間体を得ることができる。
【0336】
含フッ素環状アセタール中間体(14)が高い収率が得られることから、特に好ましくは、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸または硫酸である。反応に用いる酸の使用量は、ヒドロキシビニルエ-テル(11)、またはヒドロキシビニルエステル(11)1モルに対し、0.01モル以上、1モル以下が好ましく、特に0.05モル以上、0.2モル以下が好ましい。
【0337】
[酸]
方法-3に用いる酸としては、無機酸、有機酸、ルイス酸のいずれも使用することができる。
【0338】
<無機酸>
無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸 またはゼオライトを例示することができる。
【0339】
<有機酸>
有機酸としては、カルボン酸、スルホン酸、陽イオン交換樹脂、ルイス酸を挙げることができる。
【0340】
カルボン酸としては、ギ酸、酢酸またはトリフルオロ酢酸、スルホン酸としては、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸またはp-トルエンスルホンを例示することができる。ルイス酸としては、塩化アルミニウム、四塩化チタンまたは塩化すずを例示することができる。
【0341】
[脱保護]
含フッ素環状アセタール中間体(14)は、含フッ素環状ヘミアセタール(7)の水酸基を他置換基で保護した形であり、保護基を脱保護することで、含フッ素環状ヘミアセタール(7)を得ることが可能となる。脱保護は、一般的な脱保護方法を用いることができる。
【0342】
一方で、ヒドロキシビニルエーテル(11)のZが重合性基を有する含フッ素化合物(15)の場合、方法-3の前段の分子内環化によって、含フッ素単量体(4)が合成可能である。以下に本反応を示す。
【0343】
【化29】
【実施例
【0344】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0345】
1.含フッ素環状ヘミアセタールの合成
含フッ素単量体(4)を得るための前駆体としての、前述の式(7)で表される含フッ素単量体に属する、含フッ素環状ヘミアセタール-1~7を以下の製法で合成した。
【0346】
1-1-1.含フッ素環状ヘミアセタール-1の合成(その1)
攪拌機を備えた反応器中に、アリルアルコール(東京化成株式会社製、11.6g(0.2mol)を仕込み、反応器を密閉した。次に、真空ポンプで反応器内を脱気した後、攪拌機で内容物を攪拌しながら、HFA、66.4g(0.40mol)を導入した。次いで、反応器内を150℃に昇温した後、40時間攪拌を続けた。反応終了後、内容物を抜き出して分液ロートに移し、濃度3.5質量%の塩酸50mlを加え、2時間攪拌した後、有機層と水層を分離した。有機層に濃度4質量%の水酸化ナトリウム水を50ml加え、1時間攪拌後、有機層を分離し圧力3.0kPa、温度60℃~62℃の条件で減圧蒸留し、以下の式に示す含フッ素環状ヘミアセタール-1、22.4gを収率50%で得た。以下に本反応を示す。
【0347】
【化30】
【0348】
<NMR分析結果>
核磁気共鳴分析(以下、NMRと呼ぶことがある)の結果を以下に示す。
H-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:TMS);δ(ppm)2.32-2.59(2H,m),2.65-2.78(2H,m),4.11(1H,br)、6.20(1H,d)
19F-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:C);δ(ppm)-77.5 (3F,s)、-79.5 (3F,s)
【0349】
1-1-2.含フッ素環状ヘミアセタール-1の合成(その2)
攪拌機を備えた反応器中に、アリルアルコール11.6g(0.2mol)、メタンスルホン酸(0.2g(0.0002mol)を仕込み、反応器を密閉した。次に、真空ポンプで反応器内を脱気した後、攪拌機で内容物を攪拌しながら、HFA 66.4g(0.40mol)を導入した。次いで、反応器内を120℃昇温した後、20時間攪拌を続けた。反応終了後、内容物を抜き出して分液ロートに移し濃度4質量%の水酸化ナトリウム水を50ml加え、1時間攪拌後、有機層を分離し圧力3.0kPa、温度60℃~62℃の条件で減圧蒸留し、以下の式に示す含フッ素環状ヘミアセタール-1としての、28gを収率63%で得た。以下に本反応を示す。
【0350】
【化31】
【0351】
1-2.含フッ素環状ヘミアセタール-2の合成
攪拌機を備えた反応器中に、β-メタリルアルコール(東京化成株式会社製、14.4g(0.2mol)を仕込み、反応器を密閉した。次に、真空ポンプで反応器内を脱気した後、攪拌機で内容物を攪拌しながら、HFA、66.4g(0.40mol)を導入した。次いで、反応器内を40℃昇温した後、2時間攪拌を続けた。反応終了後、内容物を抜き出して分液ロートに移し、濃度3.5質量%の塩酸50mlを加え、2時間攪拌した後、有機層と水層を分離した。有機層に濃度4質量%の水酸化ナトリウム水を50ml加え、1時間攪拌後、有機層を分離し圧力3.0kPa、温度68℃~69℃の条件で減圧蒸留し、以下の式に示す含フッ素環状ヘミアセタール-2としての、43.7gを収率92%で得た。以下に本反応を示す。
【0352】
【化32】
【0353】
<NMR分析結果>
H-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:TMS);δ(ppm)
異性体1 1.14(3H,d)、1.93-2.05(1H,m),2.40(2H,dd)、3.80(1H, d)、5.19(1H,d)
異性体2 1.10(3H,d)、2.18(1H,dd),2.2-2.5(1H,m),2.55(1H,dd)、3.25(1H, d)、5.55(1H,d)
19F-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:C);δ(ppm)-77.5 (3F,m)、-79.5(3F,m)
【0354】
1-3.含フッ素環状ヘミアセタール-3の合成
前述の含フッ素環状ヘミアセタール-2合成において使用したβ-メタリルアルコールの替わりに3-ブテン-2-オール(東京化成工業株式会社製)を用いた以外は、含フッ素環状ヘミアセタール-2の合成と同様の手順で、以下の式に示す反応を行い、含フッ素環状ヘミアセタール-3を収率87%で得た。以下に本反応を示す。
【0355】
【化33】
【0356】
1-4.含フッ素環状ヘミアセタール-4の合成
前述の含フッ素環状ヘミアセタール-2合成において使用したβ-メタリルアルコールの替わりにクロチルアルコール(東京化成工業株式会社製)を用いた以外は、含フッ素環状ヘミアセタール-2の合成と同様の手順で、以下の式に示す反応を行い、含フッ素環状ヘミアセタール-4を収率75%で得た。以下に本反応を示す。
【0357】
【化34】
【0358】
1-5.含フッ素環状ヘミアセタール-5の合成
前述の含フッ素環状ヘミアセタール-2合成において使用したβ-メタリルアルコールの替わりに3-メチル-2-ブテン-1-オール(東京化成工業株式会社製)を用いた以外は、フッ素環状ヘミアセタール-2の合成と同様の手順で、以下の式に示す反応を行い、フッ素環状ヘミアセタール-5を収率65%で得た。以下に本反応を示す。
【0359】
【化35】
【0360】
1-6.含フッ素環状ヘミアセタール-6の合成
攪拌機付き100mlガラス製フラスコに予め定法に従いβ-メタリルアルコールをt-ブチルジメチルシリルで保護したβ-メタリル-t-ブチルジメチルシリルエーテル1.86g(0.01mol)と、別途合成したトリフルオロピルビン酸1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル、2.92g(0.01mol)を混合した。次いで、反応器内を50℃昇温した後、18時間攪拌を続けた。反応終了後、内容物を抜き出して分液ロートに移し、濃度3.5質量%の塩酸10mlを加え、2時間攪拌した後、有機層と水層を分離した。有機層に濃度4質量%の水酸化ナトリウム水を10ml加え、1時間攪拌後、有機層を分離しシリカゲルカラムクロマトグラフィー法にて分離した。以下の式に示す含フッ素環状ヘミアセタール-6、19.0gを収率52%で得た。以下に本反応を示す。
【0361】
【化36】
【0362】
<NMR分析結果>
H-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:TMS);δ(ppm)
異性体1 1.17(3H,d)、1.97-2.11(1H,m),2.45(2H,dd)、3.81(1H, d)、5.25(1H,d)、5.68(1H,m)
異性体2 1.11(3H,d)、2.22(1H,dd),2.25-2.53(1H,m),2.65(1H,dd)、3.30(1H, d)、5.60(1H,d)、5.68(1H,m)
19F-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:C);δ(ppm)-77.1 (6F,m)、-78.5(3F,m)
【0363】
[トリフルオロピルビン酸1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルの合成] 上記含フッ素環状ヘミアセタール-6の合成に用いたトリフルオロピルビン酸1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルの合成手順を以下に示す。
【0364】
攪拌機付き100mlガラス製フラスコにトリフルオロピルビン酸エチル(セントラル硝子株式会社、商品名:E-TFPA)17.0g(0.1mol)中に、10質量%水酸化ナトリウム水50mlを加え、2時間攪拌した。減圧濃縮し、エタノールを留去した後、10質量%塩酸55mlを加え中和した後、ジクロロメタン30mlを加え、生成しているトリフルオロピルビン酸をジクロロメタン層に抽出した。ジクロロメタン層を分液し、乾燥剤にて水分を除去した後、CDI(カルボニルジイミダゾール)16.2g(0.1mol)(和光純薬株式会社製)を加え、室温にて1時間攪拌し、HFIP(セントラル硝子株式会社製)16.8g(0.1mol)を加え、さらに2時間攪拌した。反応液に濃度3.5質量%の塩酸30mlを加え、純水30mlで2回洗浄した。有機層を分離し、圧力40kPa、温度65℃の条件で減圧蒸留し、トリフルオロピルビン酸1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル16gを収率55%で得た。以下に本反応を示す。
【0365】
【化37】
【0366】
<NMR分析結果>
1H-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:TMS);δ(ppm)5.65(1
H,m)
19F-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:C);δ(ppm)-76.6
(6F,s)、-83.1 (3F,s)
【0367】
1-7.含フッ素環状ヘミアセタール-7の合成
前述の含フッ素環状ヘミアセタール-6の合成において使用したトリフルオロピルビン酸1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルの替わりに、別途合成したトリフルオロピルビン酸2,2,2‐トリフルオロエチルを用いた以外は、含フッ素環状ヘミアセタール-6の合成と同様の手順で、以下の式に示す反応を行い、含フッ素環状ヘミアセタール-7を収率61%で得た。以下に本反応を示す。
【0368】
【化38】
【0369】
[トリフルオロピルビン酸2,2,2-トリフルオロエチルの合成]
上記含フッ素環状ヘミアセタール-7の合成に用いたリフルオロピルビン酸2,2,2-トリフルオロエチルの合成手順を以下に示す。
【0370】
攪拌機付き100mlガラス製フラスコに先に合成例を示したトリフルオロピルビン酸のジクロロメタン溶液に、CDI(カルボニルジイミダゾール)16.2g(0.1mol)を加え、室温にて1時間攪拌し、2,2,2-トリフルオロエタノール(和光純薬株式会社製)10.0g(0.1mol)を加え、さらに2時間攪拌した。反応液に濃度3.5質量%の塩酸30mlを加え、純水30mlで2回洗浄した。有機層を分離し、圧力30kPa、温度65℃の条件で減圧蒸留し、トリフルオロピルビン酸2,2,2-トリフルオロエチル11gを収率50%で得た。以下に本反応を示す。
【0371】
【化39】
【0372】
2.含フッ素単量体の合成
前述の式(7)含フッ素環状ヘミアセタール-1、2、6、7を用いて含フッ素単量体(4)を合成した。
【0373】
2-1.含フッ素単量体-1の合成
攪拌機付き300mlガラス製フラスコに、含フッ素環状ヘミアセタール-1 22.4g(0.1mol)、トリエチルアミン15.1g(0.15mol)、重合禁止剤としてメトキシフェノール(1000ppm)を加え、内温30℃以下でメタクリル酸無水物 16.9g(0.11mol)を滴下した。2時間攪拌後、ジイソプロピルエーテル40ml 、純水30mlを加え、攪拌、分液後、1重量%水酸化ナトリウム水20mlを加え1時間攪拌した後、分液した。有機層を純水30mlで2回洗浄した後、1.1kPa、温度70℃~72℃の条件で減圧蒸留し、含フッ素単量体-1を収率85%で得た。以下に本反応を示す。
【0374】
【化40】
【0375】
<NMR分析結果>
H-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:TMS);δ(ppm)1.92(3H,s),2.32-2.59(2H,m),2.72-2.89(2H,m),5.65(1H,q)、6.12(1H,q)、6.68(1H,d)
19F-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:C);δ(ppm)-77.5 (3F,s)、-79.5 (3F,s)
【0376】
2-2.含フッ素単量体-2の合成
前述の含フッ素単量体-1の合成において使用した含フッ素環状ヘミアセタール-1の替わりに含フッ素環状ヘミアセタール-2を用いた以外は、含フッ素単量体-1の合成と同様の手順で、以下の式に示す反応を行い、含フッ素単量体-2を収率93%で得た。以下に本反応を示す。
【0377】
【化41】
【0378】
核磁気共鳴分析の結果を以下に示す。
<NMR分析結果>
H-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:TMS);δ(ppm)1.19(3H,s)(異性体A)、1.23(3H,s)(異性体B)、後、異性体のピーク分離せず、混合物として帰属した。1.92(3H,s),2.32-2.59(2H,m),2.72-2.89(2H,m),5.65(1H,q)、6.14(1H,q)、6.17(1H,dd)
19F-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:C);δ(ppm)-77.3 (3F,s)、-79.0 (3F,s)
【0379】
2-3.含フッ素単量体-3の合成
前述の含フッ素単量体-2の合成において使用したメタクリル酸無水物の替わりに2-フルオロアクリル酸クロリドを用いた以外は、含フッ素単量体-2の合成と同様の手順で、以下の式に示す反応を行い、含フッ素単量体-3を収率70%で得た。以下に本反応を示す。
【0380】
【化42】
【0381】
<NMR分析結果>
H-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:TMS);δ(ppm)1.17(3H,s)(異性体A)、1.22(3H,s)(異性体B)、後、異性体のピーク分離せず、混合物として帰属した。1.92(3H,s),2.32-2.59(2H,m),2.72-2.89(2H,m),6.12(1H,q)、6.45(1H,q)、6.68(1H,d)
19F-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:C);δ(ppm)-10.3(1F,S),-77.3 (3F,s)、-79.0 (3F,s)
【0382】
2-4.含フッ素単量体-4の合成
前述の含フッ素単量体-2の合成において使用したメタクリル酸無水物の替わりに2-メタクロイロキシアセチルクロリドを用いた以外は、含フッ素単量体-2の合成と同様の手順で、以下の式に示す反応を行い、含フッ素単量体-4を収率80%で得た。以下に本反応を示す。
【0383】
【化43】
【0384】
<NMR分析結果>
H-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:TMS);δ(ppm)1.21(3H,s)、1.90(3H,s),2.30-2.55(2H,m),2.74-2.86(2H,m),4.43(2H,s), 5.60(1H,q)、6.09(1H,q)、6.15(1H,dd)
19F-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:C);δ(ppm)-77.7 (3F,s)、-79.6 (3F,s)
【0385】
2-5.含フッ素単量体-5の合成
攪拌機付き300mlガラス製フラスコに、含フッ素環状ヘミアセタール-2、22.4g(0.1mol)、トリエチルアミン15.1g(0.15mol)、ヨウ化カリウム、0.8g(0.05mol)、ジメチルホルムアミド20ml、重合禁止剤としてメトキシフェノール(1000ppm)を加え、内温30℃以下でメタクリル酸クロロエチル 16.3g(0.11mol)を滴下した。2時間攪拌後、ジイソプロピルエーテル40ml 、純水30mlを加え、攪拌、分液後、5重量%塩酸水50mlを加え30分攪拌した後、分液した。有機層を純水50mlで2回洗浄した後、1.0kPa、温度89℃~91℃の条件で減圧蒸留し、含フッ素単量体-5を収率45%で得た。以下に本反応を示す。
【0386】
【化44】
【0387】
<NMR分析結果>
H-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:TMS);δ(ppm)1.23(3H,s)、1.92(3H,s),2.22-2.50(2H,m),2.70-2.81(2H,m),3.85(2H,m),4.03(2H,m)、 5.63(1H,q)、6.15(1H,q)、6.22(1H,dd)
19F-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:C);δ(ppm)-77.0 (3F,s)、-79.3(3F,s)
【0388】
2-6.含フッ素単量体-6の合成
前述の含フッ素環状単量体-2の合成において使用した含フッ素環状ヘミアセタール-2の替わりに含フッ素環状ヘミアセタール-6を用いた以外は、含フッ素単量体-2の合成と同様の手順で、以下の式に示す反応を行い、含フッ素単量体-6を収率78%で得た。以下に本反応を示す。
【0389】
【化45】
【0390】
<NMR分析結果>
H-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:TMS);δ(ppm)1.16(3H,s)、1.95(3H,s),2.27-2.54(2H,m),2.65-2.80(2H,m),5.61(1H,q)、5.83(1H,m)、6.12(1H,q)、6.18(1H,dd)
19F-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:C);δ(ppm)-77.5(6F,m)、-79.5(3F,m)
【0391】
2-7.含フッ素単量体-7の合成
前述の含フッ素単量体-2の合成において使用した含フッ素環状ヘミアセタール-2の替わりに含フッ素環状ヘミアセタール-7を用いた以外は、含フッ素単量体-7の合成と同様の手順で、以下の式に示す反応を行い、含フッ素単量体-7を収率74%で得た。以下に本反応を示す。
【0392】
【化46】
【0393】
<NMR分析結果>
H-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:TMS);δ(ppm)1.22(3H,s)、1.89(3H,s),2.24-2.50(2H,m),2.68-2.87(2H,m),4.86(2H,m)、5.65(1H,q)、6.13(1H,q)、6.18(1H,dd)
19F-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:C);δ(ppm)-77.9(3F,m)、-78.5(3F,m)
【0394】
2-8.含フッ素単量体-8の合成
前述の含フッ素単量体-6の合成において使用したメタクリル酸無水物の替わりに2-フルオロアクリル酸クロリドを用いた以外は、含フッ素単量体-6の合成と同様の手順で、以下の式に示す反応を行い、含フッ素単量体-8を収率68%で得た。以下に本反応を示す。
【0395】
【化47】
【0396】
<NMR分析結果>
H-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:TMS);δ(ppm)1.17(3H,s)、2.27-2.52(2H,m),2.62-2.82(2H,m),5.64(1H,q)、5.93(1H,m)、6.42(1H,q)、6.68(1H,dd)
19F-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:C);δ(ppm)-10.1(1F,S),-77.9(6F,m)、-79.0(3F,m)
【0397】
2-9.含フッ素単量体-9の合成
前述の含フッ素単量体-7の合成において使用したメタクリル酸無水物の替わりに2-フルオロアクリル酸クロリドを用いた以外は、含フッ素単量体-7の合成と同様の手順で、以下の式に示す反応を行い、含フッ素単量体-9を収率65%で得た。以下に本反応を示す。
【0398】
【化48】
【0399】
<NMR分析結果>
H-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:TMS);δ(ppm)1.17(3H,s)、2.27-2.52(2H,m),2.62-2.82(2H,m),4.93(2H,m)、5.64(1H,q)、6.42(1H,q)、6.68(1H,dd)
19F-NMR(溶媒:重クロロホルム,基準物質:C);δ(ppm)-10.4(1F,S),-77.1(6F,m)、-79.3(3F,m)
【0400】
3.比較単量体の合成
本発明の含フッ素単量体-1~7と比較するために、式(6)で表される含フッ素単量体に属さない比較単量体1-3を合成した。
【0401】
3-1.比較単量体-1の合成
特許文献3に記載の方法を用いて比較単量体-1を合成した。
【0402】
攪拌機付き1000mlガラス製フラスコに、メタクリル酸 30.0g、ジヒドロキシピラン58.6gを、エチレンジクロリド450mlに溶解させ、パラトルエンスルホン酸0.1gを加え1時間攪拌した。トリエチルアミン3mlを加え反応を停止した。得られた反応混合物を水50mlで洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒留去後、0.4kPa、温度66℃~67℃の条件で減圧蒸留し、比較単量体-1、50gを得た。以下に本反応を示す。以下に本反応を示す。
【0403】
【化49】
【0404】
3-2.比較単量体-2の合成
特許文献5に記載の方法を用いて比較単量体-2を合成した。
【0405】
HFIP16.8g、テトラヒドロフラン120gの混合物に、窒素雰囲気下、5℃でブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液)129mlを加え、5℃で1時間撹拌した。次に5℃でメタクリル酸2-オキソプロピル14.2gを加えた。10時間撹拌後、希塩酸を加えて反応を停止するとともに中和を行った。通常の水系後処理の後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、合成中間体であるトリオール25.3gを得た。トリオール化合物24g、トリエチルアミン15.6g、トルエン15gの混合物を70℃で4時間撹拌した。室温まで冷却後、希塩酸で中和し、有機層を分取した。洗浄、乾燥、濃縮の通常の後処理で得られた粗生成物を減圧蒸留してヘミアセタール20gを得た。
【0406】
上記で得たヘミアセタール3.2g、ヨウ化メチル2.8g、酸化銀(I)2.8g、酢酸エチル150gの混合物を40℃で24時間攪拌した。不溶分をろ別、減圧濃縮の後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、比較単量体-2、3gを得た。以下に本反応を示す。
【0407】
【化50】
【0408】
3-3.比較単量体-3の合成
攪拌機付き300mlガラス製フラスコに、メタクリル酸ビニル(東京化成株式会社製、以下同じ)、33.6g(0.3mol)、HFIP、52.9g(0.315mol)を入れた後、硫酸、0.74g(7.5mmol)を徐々に加え、反応温度40 ℃ で6 時間攪拌し、以下の式に示す反応を行った。以下に本反応を示す。
【0409】
【化51】
【0410】
反応液を室温に冷却した後、濃度6質量%の重曹水、50mlを加え、攪拌した。次いで、反応液を分液ロートに移し、静置して分離し有機層を採取した。採取した有機層を減圧蒸留し、比較単量体-3、39gを収率47%で得た。得られた比較単量体-3の沸点は、圧力4.0kPaで62℃であった。
【0411】
4.重合体の合成
含フッ素単量体-1~9、比較単量体-1~3、および比較単量体4としてのメタクリル酸ヘキサフルオロイソプロピル(セントラル硝子株式会社製、商品名、HFIP-M)を用いて、含フッ素重合体-1~12および比較重合体-1~7を合成した。含フッ素重合体-1~12は、含フッ素重合体(4)に属する。比較単量体-1~7は、本発明の含フッ素重合体-1~12と比較するためのものであり、含フッ素重合体(4)に属さない。
【0412】
なお、含フッ素重合体-1~9および比較重合体-1~4は、単量体の効果、性能の差が明確に現れるよう自己重合体を合成し、その性能を比較した。含フッ素重合体-10~12および比較重合体-5~7は、共重合単量体を5-メタクリロリロキシ-2,6-ノルボルナンカルボラクトン(MNLA)に固定して、本発明の含フッ素単量体と比較単量体のレジスト用材料として性能を比較するために行った。
【0413】
[重合体の分析]
<NMR>
重合体における繰り返し組成の組成は、NMRによるH-NMRおよび19F-NMRの測定値により決定した。
<分子量>
重合体の数平均分子量Mnと分子量分散(数平均分子量Mnと質量平均分子量Mwの比=Mw/Mn)は、高速ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(以下、GPCと呼ぶことがある。東ソー株式会社製、形式HLC-8320GPC)を使用し、東ソー株式会社製ALPHA-MカラムとALPHA-2500カラムを1本ずつ直列に繋ぎ、展開溶媒としてテトラヒドロフランを用いて測定した。検出器には、屈折率差測定検出器を用いた。
【0414】
4-1.含フッ素重合体-1の合成
攪拌機付き300mlガラス製フラスコ中に、室温で、含フッ素単量体-1、29.2g(0.1mol)、溶媒として2-ブタノン、60gを加え、濃度33質量%のブタノン溶液とした。重合開始剤として2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(以下、AIBNと呼ぶことがある、和光純薬株式会社製)、0.8g(0.005mol)加え、撹拌しながら脱気した後に、フラスコ内を窒素ガスで置換し、温度80℃に昇温した後6時間反応させた。反応終了後の内容物を、n-ヘプタン500gに滴下し、白色の沈殿を得た。この沈殿を濾別し、温度60℃下にて減圧乾燥を行い、含フッ素単量体-1に基づく繰り返し単位を含む含フッ素重合体-1を、白色固体として25.6gを収率88%で得た。
【0415】
【化52】
【0416】
<GPC測定結果>
Mw=22,000、Mw/Mn=2.0
【0417】
4-2.含フッ素重合体-2の合成
前述の含フッ素重合体―1の合成において使用した含フッ素単量体-1の替わりに、含フッ素単量体-2を用いた以外は、含フッ素重合体-1の合成と同様の手順で、以下の繰り返し単位を含む含フッ素重合体―2を合成し、含フッ素重合体―2を収率87%で得た。
【0418】
【化53】
【0419】
<GPC測定結果>
Mw=23,100、Mw/Mn=2.1
【0420】
4-3.含フッ素重合体-3の合成
前述の含フッ素重合体-1の合成において使用した含フッ素単量体-1の替わりに、含フッ素単量体-3を用いた以外は、含フッ素重合体-1の合成と同様の手順で、以下の繰り返し単位を含む含フッ素重合体―3を合成し、含フッ素重合体―3を収率93%で得た。
<GPC測定結果>
Mw=21,200、Mw/Mn=2.3
【0421】
【化54】
【0422】
4-4.含フッ素重合体-4の合成
前述の含フッ素重合体-1の合成において使用した含フッ素単量体-1の替わりに含フッ素単量体-4を用いた以外は、含フッ素重合体-1の合成と同様の手順で、以下の繰り返し単位を含む含フッ素重合体-4を合成し、含フッ素重合体-4を収率92%で得た。
【0423】
【化55】
【0424】
<GPC測定結果>
Mw=22,500、Mw/Mn=2.1
【0425】
4-5.含フッ素重合体-5の合成
前述の含フッ素重合体-1の合成において使用した含フッ素単量体-1の替わりに含フッ素単量体-5を用いた以外は、含フッ素重合体-1の合成と同様の手順で、以下の繰り返し単位を含む含フッ素重合体―5を合成し、含フッ素重合体-5を収率90%で得た。
【0426】
【化56】
【0427】
<GPC測定結果>
Mw=24,200、Mw/Mn=2.3
【0428】
4-6.含フッ素重合体-6の合成
前述の含フッ素重合体-1の合成において使用した含フッ素単量体-1の替わりに含フッ素環状単量体-6を用いた以外は、含フッ素重合体-1の合成と同様の手順で、以下の繰り返し単位を含む含フッ素重合体-6を合成し、含フッ素重合体-6を収率72%で得た。
【0429】
【化57】
【0430】
<GPC測定結果>
Mw=20,700、Mw/Mn=2.5
【0431】
4-7.含フッ素重合体-7の合成
前述の含フッ素重合体-1の合成において使用した含フッ素単量体-1の替わりに含フッ素単量体-7を用いた以外は、含フッ素重合体-1の合成と同様の手順で、以下の繰り返し単位を含む含フッ素重合体-7を合成し、含フッ素重合体-7を収率78%で得た。
【0432】
【化58】
【0433】
<GPC測定結果>
Mw=20,100、Mw/Mn=2.2
【0434】
4-8.含フッ素重合体-8の合成
前述の含フッ素重合体-1の合成において使用した含フッ素単量体-1の替わりに含フッ素単量体-8を用いた以外は、含フッ素重合体-1の合成と同様の手順で、以下の繰り返し単位を含む含フッ素重合体-8を合成し、含フッ素重合体-8を収率90%で得た。
【0435】
【化59】
【0436】
<GPC測定結果>
Mw=19,700、Mw/Mn=2.3
【0437】
4-9.含フッ素重合体-9の合成
前述の含フッ素重合体-1の合成において使用した含フッ素単量体-1の替わりに含フッ素単量体-9を用いた以外は、含フッ素重合体-1の合成と同様の手順で、以下の繰り返し単位を含む含フッ素重合体-9を合成し、含フッ素重合体-9を収率89%で得た。
【0438】
【化60】
【0439】
<GPC測定結果>
Mw=20,900、Mw/Mn=2.1
【0440】
4-10.含フッ素重合体-10の合成
ガラス製フラスコ中に、室温(約20℃)で含フッ素単量体-1を29.2g(0.1mol)、レジストとした際に密着性の繰り返し単位を与える5-メタクリロリロキシ-2,6-ノルボルナンカルボラクトン(MNLA)を11.1g(0.05mol)およびn-ドデシルメルカプタン(東京化成株式会社製)0.67gを仕込み、2-ブタノン82.8gを加え溶解させた。重合開始剤として2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(以下、AIBNと呼ぶことがある、和光純薬株式会社製)を1.7g加え撹拌しながら脱気した後にフラスコ内を窒素ガスで置換し、温度75℃に昇温した後16時間反応させた。反応終了後の内容物をn-ヘプタン620.0gに滴下し、白色の沈殿を得た。この沈殿を濾別し、温度60℃下にて減圧乾燥を行い、以下に示す、含フッ素単量体-1由来の繰り返し単位、およびMNLA由来の繰り返し単位を含む含フッ素重合体-8を、白色固体として34gを収率85%で得た。
【0441】
【化61】
【0442】
<NMR測定結果>
含フッ素重合体-10中の、各繰り返し単位の組成比をNMRにより測定した。測定結果は、mol%で表わして、含フッ素単量体-10による繰り返し単位:MNLAによる繰り返し単位=67:33であった。
<GPC測定結果>
Mw=8,500、Mw/Mn=1.7
【0443】
4-11.含フッ素重合体-11の合成
前述の含フッ素重合体-10の合成において使用した含フッ素単量体-1の替わりに、含フッ素単量体-2を用いた以外は、含フッ素重合体-10の合成と同様の手順で含フッ素重合体-11を合成し、以下の繰り返し単位を含む含フッ素重合体-11を収率86%で得た。
【0444】
【化62】
【0445】
<NMR測定結果>
含フッ素重合体-11中の、各繰り返し単位の組成比をNMRにより測定した。測定結果は、mol%で表わして、含フッ素単量体-11による繰り返し単位:MNLAによる繰り返し単位=65:35であった。
<GPC測定結果>
Mw=8,700、Mw/Mn=1.6
【0446】
4-12.含フッ素重合体-12の合成
前述の含フッ素重合体-10の合成において使用した含フッ素単量体-1の替わりに、含フッ素単量体-6を用いた以外は、含フッ素単量体-10の合成と同様の手順で含フッ素重合体-12を合成し、以下の繰り返し単位を含む含フッ素重合体-12を収率73%で得た。
【0447】
【化63】
【0448】
<NMR測定結果>
含フッ素重合体-12中の、各繰り返し単位の組成比をNMRにより測定した。測定結果は、mol%で表わして、含フッ素単量体-12による繰り返し単位:MNLAによる繰り返し単位=64:36であった。
<GPC測定結果>
Mw=7、700、Mw/Mn=1.7
【0449】
5.比較重合体の合成
本発明の含フッ素重合体-1~10と比較するために、含フッ素重合体(4)に属さない比較重合体-1~7を合成した。
【0450】
5-1.比較重合体-1の合成
前述の含フッ素重合体-1の合成において使用した含フッ素単量体-1の替わりに比較単量体-1を用いた以外は、含フッ素重合体-1の合成と同様の手順で、以下の繰り返し単位を含む比較重合体-1を合成した。
【0451】
【化64】
【0452】
<GPC測定結果>
Mw=20,100、Mw/Mn=2.2
【0453】
5-2.比較重合体-2の合成
前述の含フッ素重合体-1の合成において使用した含フッ素単量体-1の替わりに比較単量体-2を用いた以外は、含フッ素重合体-1の合成と同様の手順で、以下の繰り返し単位を含む比較重合体-2を合成した。
【0454】
【化65】
【0455】
<GPC測定結果>
Mw=23,400、Mw/Mn=2.1
【0456】
5-3.比較重合体-3の合成
前述の含フッ素重合体―1の合成において使用した含フッ素単量体-1の替わりに比較単量体-3を用いた以外は、含フッ素重合体-1の合成と同様の手順で、以下の繰り返し単位を含む比較重合体-3を合成した。
【0457】
【化66】
【0458】
<GPC測定結果>
GPC測定結果はMw=22,800、Mw/Mn=2.1であった。
【0459】
5-4.比較重合体-4の合成
前述の含フッ素重合体-1の合成において使用した含フッ素単量体-1の替わりに比較単量体-4を用いた以外は、含フッ素重合体-1の合成と同様の手順で、以下の繰り返し単位を含む比較重合体-4を合成した。
【0460】
【化67】
【0461】
<GPC測定結果>
Mw=20,100、Mw/Mn=2.1
【0462】
5-5.比較重合体-5の合成
前述の含フッ素重合体-8の合成において使用した含フッ素単量体-1の替わりに、比較単量体-1を用いた以外は、含フッ素単量体-8の合成と同様の手順で、以下の繰り返し単位を含む比較重合体-5を合成し、比較重合体-5を収率89%で得た。
【0463】
【化68】
【0464】
<NMR測定結果>
比較重合体-5中の、各繰り返し単位の組成比をNMRにより測定した。測定結果は、mol%で表わして、比較単量体-1による繰り返し単位:MNLAによる繰り返し単位=67:33であった。
<GPC測定結果>
Mw=8、300、Mw/Mn=1.7
【0465】
5-6.比較重合体-6の合成
前述の含フッ素重合体-8の合成において使用した含フッ素単量体-1の替わりに、比較単量体-2を用いた以外は、含フッ素単量体-8の合成と同様の手順で、以下の繰り返し単位を含む比較重合体-6を合成し、比較重合体-6を収率83%で得た。
【0466】
【化69】
【0467】
<NMR測定結果>
比較重合体-6中の、各繰り返し単位の組成比をNMRにより測定した。測定結果は、mol%で表わして、比較単量体-2による繰り返し単位:MNLAによる繰り返し単位=65:35であった。
<GPC測定結果>
Mw=8、900、Mw/Mn=1.6
【0468】
5-7.比較重合体-7の合成
前述の含フッ素重合体-8の合成において使用した含フッ素単量体-1の替わりに、比較単量体-4を用いた以外は、含フッ素単量体-8の合成と同様の手順で、以下の繰り返し単位を含む比較重合体-7を合成し、比較重合体-7を収率81%で得た。
【0469】
【化70】
【0470】
<NMR測定結果>
比較重合体-7中の、各繰り返し単位の組成比をNMRにより測定した。測定結果は、mol%で表わして、比較単量体-3による繰り返し単位:MNLAによる繰り返し単位=66:34であった。
<GPC測定結果>
Mw=8、100、Mw/Mn=1.6
【0471】
5―8.含フッ素重合体-1~10、比較重合体-1~7の繰り返し単位
以下に、含フッ素重合体-1~10および比較重合体1~7が含む繰り返し単位を示す。
【0472】
【化71】
【0473】
5-9.含フッ素重合体-1~10、比較重合体-1~7の組成、分子量および収率
表1に、含フッ素重合体-1~10、比較重合体-1~7の組成(繰り返し単位の比)、重量平均分子量、分子量分布および収率を示す。
【0474】
【表1】
【0475】
5―10.含フッ素重合体-1~9、比較重合体-1~4のガラス転移点および5%重量減少率
含フッ素重合体-1~9、比較重合体-1~4のガラス転移点および5%重量減少率を以下の方法で測定した。
【0476】
[ガラス転位点および5%重量減少率の測定方法]
含フッ素重合体-1~9および比較重合体-1~4の熱物性を測定した。
株式会社日立ハイテクサイエンス製、示差走査熱量計(以下、DSCと呼ぶことがある)および示差熱熱重量同時測定装置(以下、DTAと呼ぶことがある)を用いてガラス転移点(以下、Tgと呼ぶことがある)および熱重量測定での5%重量減少率(以下、Td5と呼ぶことがある)を測定した。
【0477】
[測定結果]
表2に、含フッ素重合体-1~9および比較重合体-1~4のTgおよびTd5の測定結果を示す。リソグラフィーおよびプリンテッドエレクトロニクス用のパターン形成材料において、TgおよびTd5は高い方が、マスクパターンがより忠実に転写され、得られるパターンのラインエッヂラフネスやラインワイズラフネスがよい傾向があることが知られている。
【0478】
【表2】
【0479】
環状アセタール構造を有する含フッ素重合体-1~9および比較重合体-1~2は、鎖状の比較重合体3、4に比べ、25℃近く高いTgであった。
含フッ素重合体1~3、8、9は、同様の骨格でフッ素原子を持たない比較重合体1に比べ高いTgを示した。
【0480】
6.プリンテッドエレクトロニクス用のパターン形成用組成物
6-1.プリンテッドエレクトロニクス用のパターン形成用組成物の調製
以下に示す繰り返し単位を含む、含フッ素重合体-1~9および比較重合体-1~4を用いて、本発明のパターン形成用組成物-1~9、その比較のための比較組成物-1~4を調製した。
【0481】
【化72】
【0482】
含フッ素重合体-1~9および比較重合体-1~4に対し、(A)酸発生剤としてのN-ヒドロキシナフタルイミド-トリフルオロメタンスルホン酸エステル、(D)増感剤としての2-イソプロピルチオキサントン、(C)クエンチャーとしての2-フェニルベンゾイミダゾール、(B)有機溶剤としてジエチレングリコールメチルエチルエーテルを加え、パターン形成用組成物-1~9、比較組成物-1~4を調製した。
パターン形成用組成物-1~9、比較組成物-1~4の各組成比は、質量部で表して、重合体:(A)酸発生剤:(D)増感剤:(C)クエンチャー:(B)有機溶剤が100:
2:1:0.05:300のとなるように配合した。
【0483】
6-2.プリンテッドエレクトロニクス用のパターン形成用組成物の製膜
ガラス基板上に、調製したパターン形成用組成物-1~9、比較組成物-1~4をスピンナーにより塗布し、100℃に加熱したホットプレート上で2分間乾燥させ、膜厚0.5μmの膜を形成した。次いで、高圧水銀ランプを膜に照射した。また、フォトマスクを介して、高圧水銀ランプを用いて紫外光を照射しフォトマスクのパターンを膜に転写し、その後、ホットプレートを用い、温度100℃で5分間加熱乾燥した。このようにして、親水部および撥水部からなるパターン(親撥パターン)を形成してなるガラス基板を得た。
【0484】
6-3.パターン形成用組成物からなる膜の露光前後での接触角の測定、および水性インクによるパターンの形成
【0485】
[接触角の測定]
ガラス基板上の膜に対して、水滴を載せ、接触角計(協和界面科学株式会社製)を用い、液滴法で紫外光未照射部および照射部の静的接触角を、拡張収縮法で紫外光未照射部の動的後退角を測定した。本発明において静的接触角とは、水滴を膜面に載せて着滴したとき,膜面とのなす角度を言い、動的後退角とは、水滴をニードル等で吸引し、水滴が収縮するときの接触角のことを言い、動的前進角とは、水滴をニードル等で吐出し、水滴が拡張するときの接触角のことを言う。
【0486】
リソグラフィーおよびプリンテッドエレクトロニクス用のパターン形成材料において、パターン形成膜は未照射部の静的接触角が高い方が好ましく、マスクパターンがより忠実に転写され、得られるパターンのラインエッヂラフネスやラインワイズラフネスがよく高解像度のパターンが得られる。また、照射部の静的接触角が低く、未照射部と照射部の接触角の差が大きい方がパターンを切るのが容易である。
【0487】
パターン形成膜の未照射部の動的後退角が高い方が、マスクパターンがより忠実に転写され、得られるパターンのラインエッヂラフネスやラインワイズラフネスがよく高解像度のパターンが得られる。高解像度のパターンを得るには、未照射部において、動的前進角および動的後退角がともに高く、ヒステリシス(動的前進角-動的後退角)は小さいことが好ましい。
【0488】
[インクパターン]
得られたガラス基板上の親撥パターンに、自動極小接触角計( 協和界面科学株式会社社製、品番 MCA-2) を用い、ホウケイ酸ガラス毛細管(マイクロキャピラリー)にて水性インクを50pl 滴下し、5 秒後にパターンを顕微鏡観察した。そして、親撥パターンに沿って水性インクがパターニングできれば良、パターンから溢れれば不可、どちらとも分別できないものを可とした。
【0489】
[測定結果]
表3に、上述のパターン形成用組成物-1~9、および比較例1~4の静的接触角および動的接触角の測定結果を示す。表3において、実施例1~9がパターン形成用組成物-1~9に、比較例1~4が比較組成物-1~4の測定値に対応する。
【0490】
【表3】
【0491】
[接触角]
実施例1~9のトリフルオロメチル基を含むパターン形成用組成物は、紫外光未照射部の接触角が大きく良好な撥水性を示した。
【0492】
比較例1のフッ素原子を含まない比較重合体-1を用いた比較組成物-1から形成した膜の未照射部の接触角は73°および後退接触角は58°であった。比較例2のフッ素原子を含む比較重合体-2を用いた比較組成物-2から形成した膜の紫外線未照射部の接触角は94度であり、実施例1~9のパターン形成用組成物-1~9から形成した膜に撥水性に劣っていた。
【0493】
比較例4の比較組成物-4は、酸解離性のないヘキサフルオロイソプロピル基を有する比較重合体-4を用いており、紫外光照射部の接触角が大きく親水性を示さなかった。
[インクパターン]
実施例1~9の含フッ素重合体-1~9を用いた各パターン形成用組成物-1~9によ
る親撥パターンにおいては、未照射部の接触角と照射部の接触角の差が40°以上あること、また後退接触角が高いため、撥水部の水性インクは、親水部へ速やかに流動した。
【0494】
一方で、比較重合体-2を用いた比較組成物-2による親撥パターンにおいては、親撥パターンの未照射部と照射部の差が30°程度であり、且つ後退接触角が80°と低く、撥水部位の水性インクの残存が見られた。
【0495】
比較例1においては、比較重合体-1がフッ素原子を含んでいない。撥水部の撥水性が十分でなく水の濡れ性があり、水性インクが残存した一方で、比較例4は酸解離性のないヘキサフルオロイソプロピル基を有する比較重合体-4を用いており、親撥パターンが形成されず、膜表面に水性インクの膜ができた。
【0496】
7.レジスト
7.1 レジストの調製
以下に示す以下の繰り返し単位を含む、含フッ素重合体-10~12および比較重合体-5~7を用いて、レジスト溶液としてのレジスト-1~3および比較レジスト-1~3を調製した。
【0497】
【化73】
【0498】
上記各重合体に、光酸発生剤としてノナフルオロブタンスルホン酸トリフェニルスルホニウム、塩基性化合物として、トリエタノールアミン、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を加えてレジスト溶液を調製した。レジストの組成比は質量部で表して重合体:光酸発生剤:塩基性物質:溶剤が100:5:1:900のとなるように配合し、各レジスト溶液を調製した。
【0499】
[レジスト膜の成膜]
シリコンウエハに反射防止膜用溶液(日産化学工業株式会社製、品番ARC29A)を塗布した後、200℃下、60秒間乾燥させ、膜厚78nmの反射防止膜を設けた。次いで、前述の各レジスト溶液を0.2μmのメンブランフィルターでろ過した後、反射防止膜上にスピンナーを用い回転数1,500rpmで塗布し、ホットプレート上で100℃下、90秒間、乾燥させ、レジスト膜を形成した。
【0500】
7.2 レジストの現像液溶解性およびレジストパターンの解像度の評価
各レジスト膜に対し、レジストの現像液溶解性およびレジストパターンの解像度の評価、並びに接触角の測定を行った。以下に測定方法を示す。
【0501】
[現像液溶解性]
レジスト膜を形成したシリコンウエハを、室温でアルカリ現像液に60秒間浸漬し、現像液に対する溶解性を試験した。アルカリ現像液には、リソグラフィーで標準的に用いられる濃度2.38質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(以下、TMAHと呼ぶことがある)を用いた。レジスト膜の溶解性は、浸漬後のレジスト膜の膜厚を光干渉型の膜厚計で測定することによって判定した。レジスト膜が完全に消失している場合を「可溶」、レジスト膜の膜厚に変化が見られない場合を「不溶」とした。
【0502】
[レジストパターンの感度および解像度]
配線の幅と隣り合う配線同士の間隔がそれぞれ30nmのラインアンドスペースのパターンを有するフォトマスクを準備した。
【0503】
レジスト膜を形成したシリコンウエハを、100℃で60秒間プリベークを行った後、フッ化アルゴンエキシマレーザを用い発振波長193nmで、フォトマスクを介してフォトマスクのパターンが転写されるように紫外光を照射し、レジスト膜を露光した。シリコンウエハを回転させつつ、純水を2分間滴下した。その後、120℃で60秒間ポストエクスポーザーベークを行い、その後、アルカリ現像液としてのTMAHを用いで現像し、その後、純水に30秒間つけた後、エアーナイフにて乾燥させた。続いて、100℃で45秒乾燥させるポストベイクを行い、このようにして、レジストパターンを形成したシリコンウエハ得た。
【0504】
<感度>
上記操作において、30nmのラインアンドスペースのパターンが1回の形成される際の最適露光量Eop(mj/cm)を求め感度の目安とした。
【0505】
<解像度>
得られたパターンが転写されたシリコンウェハを割断し、フォトマスクの30nmのラインアンドスペースのパターンが転写されたウエハ上のレジストパターンを顕微鏡で観察し、ラインエッヂラフネスの確認できないものを解像度「優」、確認できるが微小であるものを解像度「良」、ラインエッヂラフネスが顕著であるものを解像度「不可」とした。
【0506】
[接触角の測定方法]
得られたシリコンウエハ上のレジスト膜に対して、接触角計(協和界面科学株式会社製)を用いて水滴の接触角を測定した。
【0507】
接触角が高いレジスト膜は、マスクパターンがより忠実に転写され、得られるパターンのラインエッヂラフネスやラインワイズラフネスがよく高解像度のパターンが得られる。また、液浸露光リソグラフィーにおいて、膜中への水の浸入がなくウォーターマーク欠陥の発生が少ない。
【0508】
表4に、レジストの現像液溶解性およびレジストパターンの感度および解像度の評価結果、並びに接触角の測定結果を示す。
【0509】
【表4】
【0510】
[現像液溶解性の評価]
表4に示すように、レジスト-1~3、および比較レジスト-1~3は、いずれも未露光の状態ではアルカリ現像液に不溶であり、露光後は可溶となった。このことから、試験したレジスト全てが感光性樹脂として、アルカリ現像液としてのTMAHに対し、溶解コントラストを有していることが示された。
【0511】
[レジストパターンの感度および解像度の評価]
<感度>
感度については、比較レジスト-1~3の最適露光量は、レジスト-1~3の最適露光量に比べいずれも低い値となった。比較例レジスト-2の構造の環状のアセタール構造に比べ低い値であった。さらにフッ素原子を有しない環状のアセタール構造である比較レジスト-1の最適露光量は低い値であり、非環状のアセタール構造である比較レジスト-3の最適露光量は最も低い値であった。
【0512】
<解像度>
表4に示すとおり、レジスト-1~3、比較レジスト-2を用いた場合には、所望の30nmのラインアンドスペースのパターンを有するパターンが形成され、良好な解像性を示し「良」と判定した。これに対して、比較レジスト-1の場合はラインエッヂラフネスが確認され、「不可」と判定した。比較レジスト-3の場合は、微小なラインエッヂラフネス確認され、レジスト-1~3および比較レジスト-2と比較すると劣っていたため「可」と判定した。
【0513】
[接触角の測定結果]
レジスト1-3の水後退接触角は、比較レジスト1-2に比べ、いずれも高い値となった。比較レジスト2は、含フッ素環状アセタール構造を持つ重合体を含んでいるが、レジスト1-3に劣る結果となった。