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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】循環補助装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/191 20210101AFI20220914BHJP
   A61M 60/289 20210101ALI20220914BHJP
   A61M 60/486 20210101ALI20220914BHJP
   A61M 60/515 20210101ALI20220914BHJP
   A61M 60/837 20210101ALI20220914BHJP
   A61M 60/871 20210101ALI20220914BHJP
   A61M 60/878 20210101ALI20220914BHJP
   A61M 60/892 20210101ALI20220914BHJP
【FI】
A61M60/191
A61M60/289
A61M60/486
A61M60/515
A61M60/837
A61M60/871
A61M60/878
A61M60/892
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019511339
(86)(22)【出願日】2017-08-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-10
(86)【国際出願番号】 EP2017071422
(87)【国際公開番号】W WO2018037111
(87)【国際公開日】2018-03-01
【審査請求日】2020-08-21
(31)【優先権主張番号】102016115940.9
(32)【優先日】2016-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】517058853
【氏名又は名称】フリードリヒ-アレクサンダー-ウニヴェルシテート エアランゲン-ニュルンベルク
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】アルカサール、 ムハンナド
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0010180(US,A1)
【文献】特開2012-239513(JP,A)
【文献】国際公開第98/055165(WO,A1)
【文献】特開2006-296579(JP,A)
【文献】特表2013-500071(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0194669(US,A1)
【文献】米国特許第05800528(US,A)
【文献】米国特許第10220128(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0129025(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/191
A61M 60/289
A61M 60/486
A61M 60/515
A61M 60/837
A61M 60/871
A61M 60/878
A61M 60/892
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物の心臓用の循環補助装置(22)であって、少なくとも1つの誘電エラストマー膜によって心臓(10)に周期的に圧力を加えるためのカフを含み、前記少なくとも1つの誘電エラストマー膜は制御装置によってパルス的に血液を運ぶために心拍と同期して制御することができ、前記カフは、前記心臓(10)の外側の上で引っ張られるように設計され、この目的のために少なくとも心室の外側の領域において心臓の外側の輪郭に適合する内側の形状を有し、
前記カフは、前記誘電エラストマー膜を含む外側の収縮層(24)と内側のパッド層(26)とからなり、前記パッド層(26)は非圧縮性の液体で満たすことができ身体の中への少なくとも1つの出口弁(28)を有し、前記出口弁(28)は、通常状態では閉じ、緊急状態では開いていることを特徴とする循環補助装置(22)。
【請求項2】
前記パッド層(26)は、前記収縮層(24)の少なくとも1回の収縮ストロークに対応する厚さを有することを特徴とする請求項1に記載の循環補助装置(22)。
【請求項3】
前記収縮層(24)は、時間をずらした順序で別々に電気的に制御可能である多数の環状部分からなることを特徴とする請求項1に記載の循環補助装置(22)。
【請求項4】
前記収縮層(24)には3から250個の環状部分が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の循環補助装置(22)。
【請求項5】
前記パッド層(26)は、それぞれ収縮層の環状部分の下方に配置された同数の液体で満たされた環状空間からなり、各環状空間は独自の出口弁を有することを特徴とする請求項3に記載の循環補助装置(22)。
【請求項6】
前記パッド層(26)は、前記出口弁(28)を介して収集バッグ又は身体から排出するための排出ラインと連通することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の循環補助装置(22)。
【請求項7】
前記パッド層(26)の非圧縮性の液体は生理学的に許容可能であり、前記出口弁(28)を通じて身体の中に放出され得ることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の循環補助装置(22)。
【請求項8】
前記パッド層(26)の非圧縮性の液体は、心臓機能の一時的な向上をもたらす少なくとも1つの物質を含むことを特徴とする請求項6に記載の循環補助装置(22)。
【請求項9】
前記制御装置は、指定された期間に前記収縮層(24)への電力供給が最小値を下回った場合に緊急状態を検出する緊急状態検出ユニットを有することを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の循環補助装置(22)。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の循環補助装置(22)と、制御装置(30)と、電源装置と、心周期を検出するための少なくとも1つのセンサ装置とを含む循環補助システム。
【請求項11】
循環補助装置(22)は、生物の心臓の上で引っ張られて固定され、前記センサ装置が前記心臓(10)に取り付けられるように構成されたことを特徴とする請求項10に記載の循環補助システム。
【請求項12】
前記制御装置は、前記センサ装置によって検出された 前記心臓(10)の心周期に同期して収縮層(24)に電力が供給されるように制御することを特徴とする請求項10又は11に記載の循環補助システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物の心臓用の循環補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
毎年、ドイツでは、約30万人の成人が心不全を発症する。これらの患者の約3分の1は、重度の心不全を患い、適切な治療を受ける機会を欠いているために2年以内に死亡する。
【0003】
小児において、先天性心不全は、心循環器疾患の最も頻繁な原因である。欠陥の重症度を評価するために使用される基準は、心機能と構造異常である。最も一般的な構造上の欠陥は、外科的に治療することができる。心機能障害の場合に取り得る選択肢は、非常に少ない。長い間、心機能が生命を脅かすほど悪化した場合には、心臓移植以外に適切な治療の選択肢はなかった。
【0004】
近年、心不全の機能を支援するために様々なポンプシステムが開発されてきた。これらはすべて機械的なポンプユニットであり、動作中の心臓と並行して血液を加速させることによって、心臓の負担を間接的に軽減する。
【0005】
しかしながら、今までのところ、外部ポンプを用いて血液を直接に加速することによって心臓の弱いポンプ力を補うことしか可能ではなかった。この目的のために、供給される媒体としての血液は、ポンプの構成要素(管系、ポンプユニットなど)と常に接触しなければならなかった。このことは、凝固系の強力な活性化のために、血栓が形成される危険性を常に著しく増加させることになる。また、大血管に入力及び出力管系を移植することは、突然の出血の危険性を増大させる。この種のシステムは非常に脆弱であり、心臓移植又は心臓の再生が行われるまでの暫定的な解決策として常に役立つだけであるので、この治療を受け続けている間に患者を退院させることは可能ではない。
【0006】
国際公開第2004/078025号から、非圧縮性の液体を使用して外部から圧力を加えることができるカフによって管状血管が囲まれ、圧力は、バルーン容積が環状の誘電エラストマー膜によって半径方向に周期的に圧縮される別個のポンプ装置を用いて加えることができる循環補助装置が知られている。その結果、この流体は、カフ内にパルス的に運ばれるため、それが取り囲む血管を収縮させる。ポンプは、心周期のためのセンサによって制御される。
【0007】
この装置は、人体に2つの容積の大きい構成部品、すなわちカフ及びポンプを埋め込むことを必要とする。また、血管の周期的な半径方向の圧縮は、最初に血管の両方の軸方向に血流を生じ、それは静脈弁を有する静脈内での使用に主に適しているように見えるが、そこでさえもポンプの効率を妨げる。
【0008】
誘電エラストマーは、両側が拡張可能な電極で覆われた、高度に非圧縮性の弾性的に変形可能なエラストマーフィルム(例えば、シリコーン、天然ゴム、ポリウレタン又はアクリル製)からなる。電極に電力が印加されると、エラストマーは可逆的変形を起こし、エラストマーフィルムの厚さは減少し、エラストマーフィルムは同時に厚さ方向に直交する両方向に伸びる。電流が遮断されると、エラストマーは初期状態に戻る。環状の誘電体膜の場合、これら2つの方向のうちの一方はリングの円周方向と一致し、このことは環状誘電体エラストマー膜が電力の影響下で直径が拡大することを意味する。
【0009】
米国特許出願公開第2004/0249236号明細書から、その通電によって心臓を取り囲むカフの収縮を引き起こすように固定された細長い誘電エラストマー膜を含む請求項1の前文による循環補助装置が知られている。ここでの1つの欠点は、誘電エラストマー膜が比較的短いため、小さな収縮ストロークしか可能でないことである。第2の配置は、心臓の外側に多くのスペースを取り、不利である。
【0010】
米国特許出願公開第2004/0010180号から、ストッキングに似た誘電エラストマーストランドの網目構造で作られた膜を含む循環補助装置が知られている。サイズ適応のための流体で満たされた空洞はストッキングの下に配置されてもよい。電力が失われると、カフは収縮してこの状態のままになり、即座に、大規模な、生命を脅かす障害につながることがあり得る。
【0011】
国際公開第2004/075953号も同様に、請求項1の前文による循環補助装置を開示している。
【0012】
人体又は動物の体外に配置された誘電エラストマー膜を使用する蠕動ポンプも知られている。
【0013】
米国特許第8100819号から、膀胱、腸又は食道用の人工の環状閉鎖筋ならびに心臓に固定可能なパッチとしての誘電エラストマー膜の使用が知られている。
【0014】
米国特許第6293906号明細書には、病理学的に拡大された心臓用の網目状ジャケットが開示されている。
【発明の概要】
【0015】
本発明の目的は、高効率で作動する簡単な設計の循環補助装置を提供することである。
【0016】
本発明は請求項1の特徴から生じる。有利な発展及び設計は従属請求項の主題である。課題は請求項1によって解決され、請求項1において、生物の心臓のための循環補助装置が提供され、パルス的に血液を運ぶために心拍に同期する制御装置によって制御することができる少なくとも1つの誘電エラストマー膜を使用して心臓に周期的に圧力を供給するためのカフを含み、カフは、心臓の外側の上で引っ張られるように設計され、この目的のために少なくとも心室の領域で心臓の外側の輪郭に適合する内側の形状を有し、カフは誘電エラストマー膜を含む外側の収縮層と内側のパッド層とからなり、パッド層は非圧縮性の液体で満たされ、通常状態で閉じられ、緊急状態で開く少なくとも1つの出口弁を有している。
【0017】
本発明は、罹患した心臓の構造的特徴を使用して心臓をそのポンプ機能において特に支援する機械的システムを提供する。従来の心臓補助ポンプシステムと比較して、これは、罹患した心臓の長期の補助を可能にする多数の利点を有する。心臓の上で引っ張られたカフによる心臓それ自身のポンプ機能の補助は、出血や血栓症の傾向のリスクを伴わない。追加の機械的ポンプがないため、高価な外部装置を患者に接続する必要はない。これにより、心臓病患者の生活の質が確実に向上する。パッド層の支援によって、有利なことに、非常事態を表す電力損失の場合には、電力が供給されていないときにより低い拡張の状態となり、したがってより小さな周囲の長さとなる誘電エラストマー膜は、心臓を締め付けないが、その代わりに、収縮層と心臓の壁との間に設けられたパッド層にある非圧縮性の液体は出口弁の自動的な開放によってパッド層から逃げることができる。したがって、狭くなった収縮層のこの効果は、完全に又は部分的に回避することができる。パッド層において、膜弁システムが、好ましくは心臓との接続領域に組み込まれ、電力が失われると、これが開き、非圧縮性の液体が逃げる。出口弁が閉じると、パッド層は変形可能となり、エラストマー膜の形状の変化に追従する。
【0018】
心臓補助システムは、長期使用が可能である。心臓への直接的な影響を通じて、より高い有効性も達成することができ、その結果、単位時間当たりの電力消費は従来のシステムと比較して低く、したがって本発明による循環補助装置は利用可能な制限された電源供給によってより長期間にわたって機能するであろう。したがって、電源装置も体内に配置されている限り、患者はより長い間充電プロセスから独立していることになり、生活の質を改善するであろう。
【0019】
さらなる実施形態に従い、心臓の上で引っ張ることができるカフは、心室の領域に適用されるカフとして定義される。
【0020】
別のさらなる実施形態によれば、その領域において心臓の上で引っ張ることができるカフは、心室の領域で少なくとも部分的に少なくとも1つの心房の領域内でも引っ張ることができるカフと定義され、心房への圧力の印加は心室への圧力の印加とは心周期内の異なる時点で行わなければならないので、カフは互いに別々に作動する少なくとも2つの誘電エラストマー膜を含まなければならない。
【0021】
特定のさらなる発展形では、制御装置によって異なる方法で制御される少なくとも2つの部分膜からなる誘電エラストマー膜が提供される。ここで、第1の部分膜は心房の領域(心臓の上室)に位置し、第2の部分膜は心室の領域(心臓の下室)に位置する。洞結節及び/又は心房結節刺激と協調して、2つの部分膜が反周期的に制御されるという点で、異なる制御パターンが達成される。第1及び第2の部分膜は、それぞれが別々の電極を介して制御装置によって制御される、2つの別々のエラストマー膜の形態で提供されてもよい。あるいは、第1及び第2の部分膜は、同じエラストマー膜を使用して提供され、電極層は、部分的な膜を形成するために中断された方式で、それら自身の電源接続を伴って提供される。2つではなく3つ又は4つの部分膜を提供することが可能である。
【0022】
この設計の有利なさらなる発展によれば、パッド層は収縮層の少なくとも1回の収縮運動に対応する厚さを有する。このようにして、電力損失による心臓の活動の妨害は完全に回避されるが、それは、無通電状態の収縮層は機能状態よりも心臓の周囲に接近して適合しないためであり、それは、空のパッド層が圧縮バッファを形成するからである。
【0023】
好ましくは、カフは、心尖を完全に囲むようにチューリップ形状である。このようにして、単に環状の包囲体の場合よりも心臓に対する大きな効果が達成される。チューリップ形状の設計では、心尖を取り囲むために提供されるカフの範囲は、心尖の方向に狭くなるか、又は閉じた頂点で終わるのに対して、カフは心臓の心房の領域で広がり、より大きな周囲の長さも有している。
【0024】
本発明の有利なさらなる発展によれば、収縮層は時系列で別々に電気的に制御され得る多数の環状部分からなる。したがって、心尖から進行する心筋の収縮と同期して膜を補助する収縮を達成することが可能である。好ましくは、収縮層の3から250、特に5から20の環状部分がこの目的のために提供される。個々の環状部分の制御は、筋肉収縮運動の所定の典型的な伝播に従って時間をずらして行われる。
【0025】
この設計の有利なさらなる発展によれば、パッド層は、それぞれ環状収縮層部分の下に位置する同数の液体が満たされた環状空間からなり、各環状部分はそれ自身の出口弁を有している。隣接する環状部分は、拡張可能な分離区画によって互いに分離されていることが好ましい。
【0026】
本発明の有利なさらなる発展形態によれば、パッド層は出口弁を通って収集バッグ又は体外へ送る出口ラインと連通している。このようにして、パッド層にある液体が体腔に入るのを防がれている。しかしながら、液体が胸腔内への排出に適するように選択された場合、そのような構成部品は省くことができる。適切な液体の非限定的な例は、例えば生理食塩水、血漿増量剤のようなすべての生理学的に適合性の液体、例えばデキストラン、ヒドロキシエチルデンプンもしくはゼラチンをベースとするもの、又は当業者に知られているさらなる液体である。生理学的に適合性の液体それ自体は薬理学的に不活性であることが好ましい。
【0027】
したがって、本発明の有利な代替的なさらなる発展によれば、パッド層の非圧縮性の液体は生理学的に適合性があり、出口弁を通して生物の体内、特にその胸腔内に放出することができる。有利なことに、このようにして、理論的には細菌、物質又は不純物の侵入口を常に表すこともあり得る、身体からの出口ラインを提供する必要がない。
【0028】
非常に特定の実施形態によれば、パッド層の非圧縮性かつ生理学的に適合性の液体は、正の変力効果を有する少なくとも1つの物質を含んでいる。出口弁を開き、続いて液体を生体の体内、したがって一般的にはその胸腔内に放出した後、陽性変力作用を有する少なくとも1つの物質は、少なくとも心臓機能の一時的な向上をもたらす。したがって、有利なことに、循環補助装置の喪失後の正確に最初の瞬間に生命を脅かす循環器の脆弱をもたらし得る血圧降下が抑制される。また、身体には、したがって、身体の自然の心臓が、循環補助装置の喪失が、別の方法で、医学的に、外科的に、又は医療装置を用いて補償されるまで、ポンプ能力のすべてを今や提供しなければならないという事実に適合する信号が与えられる。陽性変力作用を有する物質の非限定的な例は、エピネフリン、ノルエピネフリン、ジゴキシン、ジギトキシン又はウアバインのような強心配糖体、レボシメンダンのようないわゆるカルシウム増感剤の群からの活性物質、ホスホジエステラーゼ-3阻害剤の群からの活性物質、例えば、3-アミノ-5-(4-ピリジニル)-2(1H)-ピリジノン(アムリノン)、6-[4-(1-シクロヘキシル-1H-テトラゾール-5-イル)-ブトキシ]-3、4-ジヒドロキノリン-2-オン(シロスタゾール)、ミルリノン又はエノキシモンである。生理学的に適合性の液体はまた、正の変力作用を有する2つ以上の物質の組み合わせを含んでもよい。標準量の変力作用が陽性の物質が生理学的に適合性の液体に存在しない限り、当業者は年齢、体重、他の薬物治療、疾病状態及び必要であれば生物のあり得る他のパラメータに応じて変力作用が陽性の物質の選択及び投与量を決定することができる。
【0029】
本発明のさらなる有利な発展形態によれば、制御装置は、収縮層への電力供給が所定の期間の又は指定可能な期間にわたって最小値を下回ったときに緊急状態を識別する緊急状態決定ユニットを含んでいる。このようにして、電力の喪失が確実に検出されることを確保することが可能であるが、他方で重大な警報はトリガされないが、それは、出口弁の不可逆的な開放を誘発し、したがって本発明の循環補助装置の機能を喪失するであろうからである。しかしながら、制御装置によって制御される期間に弁に電力が供給されないか又は不十分な電力しか供給されないと、開いた弁を介して心臓と膜との間の液体の損失をもたらし、その結果、収縮している膜は心臓の残りの適切な機能を妨げることができない。
【0030】
さらに、この課題は、制御装置と、1つ以上の上記の実施形態又はさらなる発展形態による循環補助装置と、電源装置と、心周期を検出するための少なくとも1つのセンサ装置と含む循環補助システムによって解決される。
【0031】
本発明はまた、生物の身体に上述した循環補助システムを導入するための医療処置にも関し、循環補助装置は生物の心臓の上で引っ張られ、そこに固定され、そしてセンサ装置は心臓に取り付けられる。
【0032】
本発明はまた、上述した循環補助システムを使用して生物の循環を補助する方法に関し、心臓の心周期が検出され、それに同期して収縮層に電力が供給され、エラストマー層の収縮は、エラストマー層の下に位置する筋肉の範囲の収縮と一緒に機能する。このようにして、心不全を有する患者において心臓のポンプ力を改善することができ、したがって平均余命及び生活の質を向上させることができる。
【0033】
さらなる利点、特徴及び詳細は、以下の記載から明らかになるであろう。いくつかの場合には、図面を参照して、少なくとも1つの例示的な実施形態が詳細に説明される。同一の、類似の、及び/又は機能的に等価な部分には同じ参照符号が付されている。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】正常な動作状態にある循環補助システムを有する心臓の概略図である。
図2】緊急状態にある循環補助システムを有する心臓の概略図である。
図3】通常の動作状態における循環補助システムの第2の設計を有する心臓の概略図である。
図4】循環補助システムの第3の設計を有する心臓の概略図である。
図5】第3の実施形態の作用機序のいくつかの図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1及び図2において、本発明による循環補助システムを有する生物の心臓は、2つの状態、すなわち図1における通常の動作状態及び図2における緊急状態において示されている。心臓10は本質的に右心室12、左心室14、心室内隔膜16及び心室壁18からなる。循環系20の追加の血管は、さらに詳細には示されていないか、又は参照符号が付されていない。
【0036】
第1の実施形態における循環補助装置のカフ22は、心周期の拡張期中に心臓10の周囲に接近して適合する。カフは、外側の収縮層24と内側のパッド層26とを含んでいる。収縮層24の内側には、少なくとも1つの弾性エラストマー膜があり、それは、好ましくは閉じた環状、又は図1及び図2に示すようにチューリップ形状である。カフ22には、いくつかの誘電エラストマー膜を互いに隣接して、又は上下に重ねて配置してもよい。エラストマー膜は完全に閉じているのが好ましいが、本発明の範囲内で、いくつかの別々に制御された環状のエラストマー膜を互いに並べて配置することも可能である。
【0037】
収縮層24について考慮されてもよい材料は、例えば、PDMS、ポリウレタン、アクリレート(例えば、3MからのVHB)を含んでいる。ポリマー成分としてポリジメチルシロキサンを有するシリコーン及びアクリルポリマー及び天然ゴムが特に適している。
【0038】
パッド層26は、出口弁28の開放状態において、出口弁28に機能的に接続され、パッド層26にある非圧縮性の液体が環境又はそのために設けられたリザーバ(図示せず)に排出されることができるようにしている。図1では、循環補助装置は、通常の作動状態にあり、従って出口弁28は閉じられている。
【0039】
パッド層26は、好ましくは0.5から2.5cmの厚さを有し、好ましくは吸収性水溶液で満たされている。さらなる発展によると、これは薬剤も含むことができる。
【0040】
循環支援装置22は制御装置30に接続され、制御装置30は図示しない電源装置を含んでいる。制御装置30はセンサ32にも接続され、センサ32は適切な位置で心臓10の心周期を検出している。制御装置30は、電力供給線34を介して収縮層24に接続され、収縮層24の状態を示す図示しないセンサからのセンサ信号も電力供給線34の別々の導体を介して伝わることができる。電源ライン34から電源ライン36は分岐しているが、これは、電力が供給されているときに図1に示される閉状態になるように、出口弁28に電力を供給している。制御装置30の電力供給ユニットが機能しないか、又は収縮層24への電力供給が不十分であると、出口弁28は電力供給を受けないか又は不十分な電力しか受けず、そのときには、図2に示すように、パッド層26にある非圧縮性の液体が出口弁28を通じて環境、すなわち胸腔内の周囲組織に流れ込むことができる。
【0041】
図3には、環状カフ40の形態の循環補助システムの第2の実施形態が示されている。このカフ40が心臓10の心尖を取り囲まないという事実を除けば、これは構造的にも機能的にもカフ22と同じ設計を有している。
【0042】
図1から図3に見られるように、カフ22又は40は、好ましくは心室壁18の全体に沿って延び、そして図示されていない手段によってそれに固定され、好ましくは環状に取り付けられる。
【0043】
通常の動作では、センサ32は心臓10の心周期を検出する。初期状態では、心臓10は拡張期にあり、心臓は弛緩して最大容積を占め、2つの心室は血液で満たされる。この状態では、これが最大の可能な拡張した状態にあるように、収縮層24に電力が供給される。この時点において非圧縮性の流体で満たされたパッド層26は、心臓壁に対して内部に、収縮層24に対して外部に位置している。制御装置30が収縮期の始まりを検出すると直ちに、収縮層への電力供給は突然に又は所定の順序で中断され、したがって収縮層24は、半径方向に内向きに一緒に引き寄せられ、その結果として生じる半径方向に内向きの力を心臓の心室壁に伝達する。遅くとも心周期の収縮期が完了すると、収縮層24に再び電力が供給され、これによって再び半径方向に拡張し、それに伴ってパッド層26が拡張する心室壁18から離れるように移動する。
【0044】
ライン34を通じた電力供給と電力遮断の両方は、予め設定された電圧対時間曲線に従って行われることが好ましい。
【0045】
図4には、第3の実施形態が示され、それは、収縮層24が多数の隣接する環状部分41からなり、その各々が制御装置30によって個別に制御され、明りょうにするために環状部分についてのみ参照符号41´でマークされているという点で、先の実施形態とは異なっている。これは、通常はリングに分割されたフィルムである。あるいは、互いに接続された個々のフィルムのリングを設けてもよい。
【0046】
これに対応して、その下に位置するパッド層26は、拡張可能な仕切り42によって分離された多数の隣接する環状領域44に細分されている。各環状領域44は、制御装置によって環境に向かうように制御されるそれ自体の出口弁46を有している(明りょうにするため、ここでは1つの出口弁46´のみが示されている。)。
【0047】
環状部分41は、心尖から広がる心臓収縮と同期して、時間をずらした順序で制御装置30によって別々に電力が供給される。したがって、個々の環状部分41の付勢は、心臓の筋肉収縮運動の典型的な広がりに従って時間をずらして行われる。
【0048】
図5は、図4による設計の機能を説明するための3つの概略図を示している。図5aにおいて、収縮層24は静止位置に示され、そこでは全ての環状部分41に電力が供給されている。これに対応して、心室壁18には圧力が加えられていない。
【0049】
図5bによる位置では、第1の環状部分41´への電力供給は中断されるが、追加の環状部分41´´及び41´´´への電力供給は中断されない。したがって、第1の環状部分41´は互いに引き寄せられて収縮している。非圧縮性媒体が対応する環状空間44´に満たされているので、このようにして圧力が位置50´で心室壁18に加えられる。
【0050】
第1の環状部分41´への電力供給が回復し、その代わりに隣接する環状部分41´´への電力供給が中断されると、第1の環状部分41´は再び拡張して心室壁18の位置50´での圧力が緩和するが、第2の環状部分4´´が位置50´´で引き寄せられて心室壁18に圧力を発生させる。これらすべては、特に心尖からの心臓収縮の伝播と同期して、制御装置30によって制御される。このようにして、1つの環状部分41が次々に付勢され、それによって圧力波が発生し、それは心臓収縮の伝播と同様に同期して伝播する。
【0051】
本発明をより詳細に説明しそして好ましい実施態様により説明したが、本発明は開示された実施例によって限定されず、そして本発明の保護の範囲を離れることなく当業者により他の変形を導き出すことができる。これから、多くの可能な変形例が存在することは明らかである。また、例として挙げた実施形態は、例えば保護の範囲、適用の可能性又は本発明の構成を限定するものと決して見なされるべきではない例を表すに過ぎないことも明らかである。代わりに、上記の説明及び図面の説明は、例示された実施形態を具体的に実施するための位置に当業者を配置し、そこでは、本発明の開示された概念を知っている当業者は多くの変更を加えることができ、例えば、例示の実施形態において挙げられた個々の要素の機能又は配置に関して、特許請求の範囲及びそれらの法的な対応物によって定義される保護の範囲を逸脱することなく、例えば本明細書におけるさらなる説明を省略する。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図5c