(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】六フッ化タングステンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 41/04 20060101AFI20220914BHJP
【FI】
C01G41/04
(21)【出願番号】P 2019560815
(86)(22)【出願日】2018-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2018037134
(87)【国際公開番号】W WO2019123771
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2017242821
(32)【優先日】2017-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】長友 真聖
(72)【発明者】
【氏名】八尾 章史
(72)【発明者】
【氏名】上島 修平
(72)【発明者】
【氏名】菊池 亜紀応
【審査官】中村 浩
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2007-0051400(KR,A)
【文献】特開2010-105910(JP,A)
【文献】特開平01-234303(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106587159(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101070189(CN,A)
【文献】米国特許第04421727(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 41/04
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンと、フッ素含有ガスとを反応させて六フッ化タングステンを製造する方法において、
前記反応を行う反応容器は、冷媒ジャケットを装備した反応容器であり、
前記冷媒ジャケットを流通する冷媒が水であり、冷媒と前記反応容器との境膜伝熱係数が500W/m2/K以上であり、
前記反応容器の内壁温度を400℃以下に保持しながら、前記反応を
1000℃以上、3400℃以下の反応温度で行うことを特徴とする六フッ化タングステンの製造方法。
【請求項2】
タングステンと、フッ素含有ガスとを反応させて六フッ化タングステンを製造する方法において、
前記反応を1200℃以上、2000℃以下の反応温度で行うことを特徴とする
請求項1に記載の六フッ化タングステンの製造方法。
【請求項3】
前記フッ素含有ガスが、フッ素ガス及び三フッ化窒素ガスのいずれか又は両方であることを特徴とする請求項1又は2に記載の六フッ化タングステンの製造方法。
【請求項4】
前記フッ素含有ガスが、未希釈のフッ素ガスであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の六フッ化タングステンの製造方法。
【請求項5】
前記反応を行う反応容器において、前記タングステンは固定層の形態で充填されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の六フッ化タングステンの製造方法。
【請求項6】
前記フッ素含有ガスが、フッ素ガスであり、
前記反応容器において、前記タングステンは固定層の形態で充填されていることを特徴とする請求項1に記載の六フッ化タングステンの製造方法。
【請求項7】
内部にタングステン充填層を有する反応容器と、
前記反応容器にフッ素含有ガスを供給するフッ素含有ガス供給部と、
前記反応容器の内壁面温度が400℃以下となるように前記反応容器を冷却する冷媒ジャケットと、を備え、
前記冷媒ジャケットを流通する冷媒が水であり、冷媒と前記反応容器との境膜伝熱係数が500W/m2/K以上であり、
前記反応容器の内壁温度を400℃以下に保持しながら、タングステンと、フッ素含有ガスとの反応を、1000℃以上、3400℃以下の反応温度で行うように構成された、
六フッ化タングステンの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有ガスとタングステンを反応させて六フッ化タングステンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
六フッ化タングステンは、タングステンおよびタングステン化合物を化学気相蒸着する際の前駆体として有用である。六フッ化タングステンを製造する方法として、フッ素とタングステン、又は三フッ化窒素とタングステンを反応させる方法が広く用いられている。反応式(1)の標準生成熱ΔH298K、1atmは-1722kJ/WF6mol、反応式(2)の標準生成熱ΔH298K、1atmは-1458kJ/WF6molである。
W(s)+F2(g)→WF6(g) …反応式(1)
W(s)+2NF3(g)→WF6(g)+N2(g) …反応式(2)
【0003】
反応式(1)及び(2)の反応速度は極めて速く、生成熱量も大きいため、温度は急激に増加する。反応容器が高温のフッ素含有ガスに侵食されることを防ぐため、反応容器内の反応温度を400℃以下に制御するため、種々の検討がなされてきた。
【0004】
タングステンが固定層として充填されている反応容器を用いた、六フッ化タングステンの製造方法がある。固体層型反応容器を用いた製法例として、特許文献1、2では、原料の金属微粉末が混入することを防止するため、フッ化ナトリウムを成型助剤として成型したタングステンを反応温度380~400℃でフッ素含有ガスと反応させる、六フッ化タングステンの製造方法が開示されている。また、フッ素含有ガスとタングステンを直接反応させる方法では、特許文献3では反応温度200~400℃であり、特許文献4では反応容器内の温度20~400℃、特許文献5では反応容器温度250~400℃であることが開示されている。また、特許文献6では、金属タングステンとフッ素ガスを750℃の温度及び1.5atmの圧力で反応させて六フッ化タングステンを得ている。
【0005】
また、固体層型反応容器に比べて、フッ素含有ガスとタングステンとの接触面積を増やすため、流動層型反応容器や移動層型反応容器が用いられる場合もある。
【0006】
流動層型反応容器を用いた製法例として、特許文献7及び8では、窒素ガスでタングステン粉体を流動させる流動層を形成させ、その層にフッ素含有ガスを供給し、流動層の温度200~400℃で反応させる、六フッ化タングステンの製造方法が開示されている。
【0007】
移動層型反応容器を用いた製法例として、特許文献9では、タングステン粉体を上方から、フッ素含有ガスを下方から供給し、外部温度を40~80℃に保持しながら反応させる、六フッ化タングステンの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平1-234301号公報
【文献】特開平1-234303号公報
【文献】特開2000-119024号公報
【文献】中国特許出願公開第101070189号明細書
【文献】中国特許出願公開第102951684号明細書
【文献】韓国特許出願公開第10-2007-0051400号明細書
【文献】中国特許出願公開第101428858号明細書
【文献】中国特許出願公開第101723465号明細書
【文献】中国特許出願公開第102786092号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、固定層反応容器では不活性固体や不活性ガスで原料を希釈したとしても、局所的に反応するため反応温度400℃以下で制御する場合、原料のフッ素含有ガスの流量に制限がある。流動層、移動層などのタングステンを物理的に動かしながら反応させる反応形態においても、反応温度400℃以下で制御する場合、原料のフッ素含有ガスの流量に制限がある。すなわち、400℃を超える反応温度での製造が難しいため、反応容器あたりの六フッ化タングステンの製造量が小さいという問題点があった。
【0010】
本発明は、反応温度を400℃以下に制御しながらフッ素含有ガスと金属タングステンから六フッ化タングステンを得る従来技術に比べて、反応容器あたりの製造量を増加させることができる六フッ化タングステンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、タングステンとフッ素含有ガスを反応温度800℃以上で反応させることによって、反応容器当たりの六フッ化タングステンの製造量を増加させることを見出し、本発明に至った。
【0012】
即ち、本発明の一態様は、金属タングステンを、フッ素含有ガスと反応させて六フッ化タングステンを製造する方法において、反応を行う反応容器が、冷媒ジャケットを装備した反応容器であり、冷媒ジャケットを流通する冷媒が水であり、冷媒と反応容器との境膜伝熱係数が500W/m
2
/K以上であり、反応容器の内壁面温度を400℃以下に保持しながら、反応を1000℃以上、3400℃以下の反応温度で行うことを特徴とする六フッ化タングステンの製造方法である。また、本発明の他の態様は、内部にタングステン充填層を有する反応容器と、反応容器にフッ素含有ガスを供給するフッ素含有ガス供給部と、反応容器の内壁面温度が400℃以下となるように反応容器を冷却する冷媒ジャケットと、を備え、冷媒ジャケットを流通する冷媒が水であり、冷媒と反応容器との境膜伝熱係数が500W/m
2
/K以上であり、反応容器の内壁温度を400℃以下に保持しながら、タングステンと、フッ素含有ガスとの反応を、1000℃以上、3400℃以下の反応温度で行うように構成された、六フッ化タングステンの製造装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の六フッ化タングステンの製造方法によれば、反応容器内の金属タングステンとフッ素含有ガスを効率良く反応させることが可能となり、反応容器あたりの製造量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る反応装置を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の金属タングステンとフッ素含有ガスの固気反応による六フッ化タングステンの製造方法の実施形態を、
図1を用いて詳細に説明する。しかしながら、本発明は、以下に示す実施の形態に限定されるものではない。
【0016】
[反応形式]
本発明を実施するための固気反応の形式として、固定層、移動層、流動層、気流層、転動層などを取り得ることができる。しかし、タングステンが動く反応形式である移動層、流動層、気流層、転動層は、タングステンの硬度が高いため、反応装置の摩耗や損傷の原因になり得るため、タングステンが動かない反応形式である固定層の反応形式が好ましい。
【0017】
[反応装置]
反応装置100は、固定層型反応容器の一例であり、反応熱を熱交換するための冷媒が流通する冷媒ジャケット02を備えた反応容器01からなる。反応容器01は、光学窓03を介してタングステン充填層の反応部21aの温度を測定するための非接触式温度計04、フッ素含有ガス供給器11、タングステン供給器12、希釈ガス供給器13、出口ガス排出口14を具備しており、冷媒ジャケット02は冷媒入口15及び冷媒出口16が具備されている。また、冷媒ジャケット02は冷媒の不均一な流れを防ぐためにジャケットの内部に邪魔板を設置してもよい。反応容器01には、タングステン供給器12から供給されたタングステンが充填される層21が存在する。タングステン充填層21が接触する反応容器01の外面は冷媒ジャケット02で覆われている。反応容器01において、固体のタングステンは固定層の形態で充填されている。
【0018】
タングステン充填層21のうち、フッ素含有ガスが供給され、タングステンとフッ素含有ガスが反応している領域が反応部21aであり、フッ素含有ガスが消費しつくされ、特にタングステンとフッ素含有ガスが反応していない領域が未反応部21bである。
図1では未反応部21bは、反応部21aの下部にあり、ガスの流れの下流側にあるため、反応部21aで生成した六フッ化タングステンを冷却することができる。本発明では、反応部21aの少なくとも一部は800℃以上である。
【0019】
反応容器01に使用する材質として、特に限定されないが、経験する温度と接触するガスによって、適宜選択すればよい。接触ガスがフッ素含有ガス及び六フッ化タングステンの場合、経験する温度が200℃以上になる場合、耐食性の高いニッケル、ニッケル基合金(モネル、ハステロイ、インコネル)が好ましく、200℃未満の場合、オーステナイト系ステンレス鋼、アルミ基合金を使用することができる。しかし、六フッ化タングステンへの材質に由来する不純物の混入、耐食性、強度、経済性の観点から、ニッケル若しくはオーステナイト系ステンレス鋼が好ましい。
【0020】
本発明を実施する上で、光学窓03、非接触式温度計04は必ずしも具備する必要はないが、反応容器の内部温度を測定するために具備することが好ましい。光学窓03の窓材材質としては特に限定されず、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、石英などが好ましいが、フッ化カルシウムが特に好ましい。非接触式温度計04としては放射温度計、光高温計が好ましい。放射温度計を用いる場合、単色計では放射率、二色計では放射率比を真温度で校正したものを用いればよい。また、光学窓と非接触式温度計以外の温度測定手段を用いてもよい。
図1では、光学窓03と非接触式温度計04は、反応容器01の上部に設けられるため、フッ素含有ガスが供給される側からタングステン充填層21の反応部21aの温度を測定することができる。
【0021】
フッ素含有ガス供給器11、及び希釈ガス供給器13としては、連続的にガスを供給できる供給器、例えば、マスフローコントローラーを備えた供給装置が好ましい。タングステン供給器12としては、連続的及び間欠的、いずれの供給方式でもよいが、フッ素含有ガスは反応性が高いため、タングステン供給器12内のタングステンと反応する可能性があることから、間欠的な供給方式が好ましい。供給方式として、例えば、ホッパーを具備したロータリーバルブ、スクリューフィーダー、テーブルフィーダーを用いることができる。また、供給器を介さずにホッパーから反応容器01に直接タングステンを投入してもよい。
【0022】
本発明において、反応温度は800℃以上であり、反応部(タングステン)からの輻射熱の影響が大きい。そのため、反応容器の内面が過度に高温にならないように、反応容器内部の放射率ができる限り小さいこと、即ち反射率ができる限り高いことが好ましく、例えば、放射率0.5以下が好ましい。放射率を下げるために、反応容器の内面の壁面及び天板の表面粗さはできる限り下げ、異物の付着がないことが好ましい。
【0023】
[原料]
フッ素含有ガスとして、フッ素ガス、三フッ化窒素ガスが好ましい。三フッ化窒素ガスを用いた場合、生成物として窒素ガスも生成し、六フッ化タングステンの分圧を下げるため、六フッ化タングステンを回収するための捕集器の冷却温度を低くする必要があるため、フッ素ガスを希釈せずに用いることが特に好ましい。ハロゲン間化合物、例えば、三フッ化塩素、七フッ化ヨウ素を用いても六フッ化タングステンを製造することはできるが、フッ素以外のハロゲンが不純物として混入するため好ましくない。フッ素含有ガスの純度は、本発明を実施する上で特に限定されないが、生成した六フッ化タングステンの回収及び精製する際の負荷を低減させるため、例えば95体積%以上が好ましく、99体積%以上がより好ましい。
【0024】
生成した六フッ化タングステンの回収及び精製する際の負荷を低減させることができるため、本発明を実施する上で希釈ガスを添加しないことが好ましい。従来では反応温度が過度に高くならないように、希釈ガスを使用する必要があったが、本発明では、反応温度を高温まで上昇してもよいため、未希釈のフッ素含有ガスを使用することができる。一方で、反応容器の上方に複数設置されている導管及び計器を、対流伝熱及び輻射による熱から防ぐため、反応装置100をガス置換するため、又は六フッ化タングステンの分圧を下げるためなどに希釈ガスを適宜用いてもよい。希釈ガスとして、フッ素含有ガス、六フッ化タングステン及び反応容器と反応しないガスが好ましく、例えば、六フッ化タングステン、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスを用いてもよい。
【0025】
タングステンの純度として、本発明を実施する上で特に限定されないが、例えば、純度99.999体積%以上の六フッ化タングステンを得るためには、タングステンの純度が99質量%以上であることが好ましい。タングステンの形状として、本発明を実施する上で特に限定されず、例えば、粉体、粉体の成型体、塊、粒、棒、板などを、単体若しくは組み合わせて用いることができる。
【0026】
[冷媒とその流量]
本実施形態では、冷媒により反応容器01を冷却するため、反応部21aの反応温度が800℃以上でも反応容器の内壁面の温度は400℃以下の低温となり、フッ素含有ガス及び六フッ化タングステンガスによる損傷を防ぐことができる。冷媒ジャケット02を用いずに、単に大気中に反応容器を置き、空冷とした場合、反応容器01の内壁面の温度は400℃を越えてしまい、損傷を生じる。なお、反応容器の内壁面の温度は、冷媒の温度に依存するが冷媒として水を用いる場合、通常は5℃以上である。
【0027】
冷媒入口15から流入し、冷媒ジャケット02を介して冷媒出口16から流出する冷媒とその流量として、特に限定されず、冷媒と反応容器との境膜伝熱係数が500W/m2/K以上5000W/m2/K以下となればよい。境膜伝熱係数が500W/m2/K未満である場合、冷却速度が低く、反応容器の内壁面の温度が400℃以上になるおそれがある。冷媒の選定、その流量を決定するための境膜伝熱係数を推算する方法として、多くの方法が提案されているが、例えば、平板の場合、以下の式がある。
Nu=0.664Re1/2Pr1/3 …(式3)
Nu=0.037Re4/5Pr1/3 …(式4)
ここで、Nu:ヌッセルト数、Re:レイノルズ数、Pr:プラントル数の定義は以下の通りである。
Nu=hL/λ …(式5)
Re=Duρ/μ …(式6)
Pr=Cpμ/λ …(式7)
ここで、λ:流体の熱伝導率、h:境膜伝熱係数、L:代表長さ、D:冷媒が流れる代表管径、u:冷媒の流速、μ:冷媒の粘度、Cp:冷媒の熱容量。
【0028】
具体的には、水、ブライン、シリコーン油、蒸気、空気などの冷媒を選択すればよいが、価格及び物性の観点から、水が好ましい。水を冷媒として用いる場合、温度は5℃以上95℃以下が好ましく、特に10℃以上80℃以下が好ましい。これは、5℃未満では凝固、95℃を超える場合は蒸発するおそれがあり、冷媒として機能しなくなるためである。
【0029】
冷媒として水を用いる場合、冷媒ジャケット02内の流れの状態は、レイノルズ数(Re)が500以上50000以下の状態が好ましく、より好ましくは2000以上20000以下が好ましい。レイノルズ数500未満の場合、金属壁と水との境膜伝熱係数が十分に高くなく、反応熱を除熱できずに反応容器を損傷させる可能性があるため好ましくない。レイノルズ数50000を超える場合、任意の代表管径に対して、流量を大きくする必要があるため、ポンプやその付帯設備が高価となるため好ましくない。
Re=De×u×ρ/μ …(式8)
De:ジャケットの代表管径(m)、u:流速(m/s)、ρ:冷媒密度(kg/m3)、μ:粘度(Pa・s)。
【0030】
[反応容器の圧力、温度]
反応中における反応容器01、導管、及び計装にかかる圧力は、好ましくは絶対圧で10kPa以上、300kPa以下であり、より好ましくは30kPa以上、200kPa以下である。圧力が10kPa未満であると、圧力を維持するための付帯設備、例えば、減圧ポンプの負荷が大きくなる。圧力が300kPaを超える場合、反応装置を圧力及び腐食に耐える構造にする必要がある。
【0031】
[反応温度]
本発明では、タングステンとフッ素含有ガスの反応温度が800℃以上である。タングステンにフッ素含有ガスが接触することにより発熱反応が進行するので、本発明での反応温度は、タングステンとフッ素含有ガスが接触して反応している領域を、フッ素含有ガスが供給される側から測定した温度と定義することができる。また、本発明での反応温度とは、マイクロメートルサイズの局所的な反応温度ではなく、少なくとも直径1mm以上の略円形の範囲での反応温度を指しており、好ましくは直径10mm以上の略円形の範囲での反応温度を指している。
【0032】
反応容器01内に固体のタングステンを充填したタングステン充填層21を用いる場合は、タングステン充填層21の反応部21aは反応熱で加熱され、反応部21aの少なくとも一部は800℃以上に到達する。
図1では、フッ素含有ガスが上部より供給されるため、
図1の反応装置100での反応温度とは、フッ素含有ガスと反応中の反応部21aの最上部又は最表層をフッ素含有ガスが供給される側から測定した温度である。
【0033】
但し、タングステン充填層21の反応部21aの全体が800℃以上である必要はない。例えば、
図1では、反応部21aの最上部は800℃以上に到達するが、反応部21aの未反応部21bに近い領域は800℃以下であってもよい。
【0034】
本発明では、タングステンとフッ素含有ガスの反応温度が800℃以上3400℃以下であることが好ましい。反応温度を800℃未満に制御する場合、従来技術と同様にその温度を保持するための熱交換器又は反応容器サイズが大きくなる可能性があり、反応容器あたりの六フッ化タングステンの生産量が小さくなる可能性があるため好ましくない。特に、六フッ化タングステンの生産量を大きくするためには、反応温度は900℃以上が好ましく、1000℃以上がより好ましく、1200℃以上が更に好ましく、1400℃以上が更に好ましい。一方、反応温度が3400℃を超える場合、タングステンが溶融するおそれがあり、正常な固気反応を実施できなくなる可能性があるため好ましくない。なお、六フッ化タングステンは1200℃~2500℃程度で熱分解するため、反応温度は2500℃以下が好ましく、2000℃以下がより好ましく、1800℃以下が特に好ましい。
【0035】
反応によって生成した六フッ化タングステンが流通する、タングステン充填層21の未反応部21bの、ガスの流れの出口側の最表層(
図1では未反応部21bの最下部に該当する)の温度は5℃以上400℃以下が好ましい。未反応部21bにより、反応部21aで生成した六フッ化タングステンが冷却されるため、出口ガスの温度は、未反応部21bの最下部の温度と同様に5℃以上400℃以下となる。出口ガス14の温度が5℃未満の場合、生成した六フッ化タングステンが凝縮及び固化するおそれがある。出口ガスの温度が400℃を超える場合、冷媒が流通していない導管や計装を損傷させるおそれがある。特に、六フッ化タングステンの製造が進み、充填されたタングステンの量が少なくなり、出口ガスの温度が400℃を超えるようになった場合、六フッ化タングステンの製造を中止することが好ましい。
【0036】
タングステン充填層21と接触する反応容器01の内壁温度は、冷媒及び流通状態によって左右されるが、400℃以下であることが好ましい。冷媒が水の場合、冷媒温度10℃以上80℃以下、ジャケット内のレイノルズ数2000以上であれば、反応容器の損傷に至る温度に到達することはなく、例えば反応容器の内壁温度を150℃以下に保持することができる。
【0037】
本発明の六フッ化タングステンの製造方法は、反応容器あたりの生産量を増加させることができる。すなわち、本発明の六フッ化タングステンの製造方法は、反応温度を800℃以上とすることにより、反応温度400℃以下で制御する製造方法と比較して、反応容器に充填されたタングステンをフッ素含有ガスと効率良く接触させ、原料として有効利用することで反応容器あたりの製造量を増加させることができる。
【0038】
また、本発明の六フッ化タングステンの製造方法では、フッ素含有ガスの供給量の制御が容易であるという特長も持つ。以下、具体的に説明する。タングステンとフッ素含有ガスとの反応は、反応熱が非常に大きいため、フッ素含有ガスの供給量が多いと、簡単に反応温度が400℃を越えてしまう。従って、反応温度を400℃以下に制御するためには、フッ素含有ガスの量を厳密に制御するか、希釈ガスで冷却する必要がある。本発明では、タングステンとフッ素含有ガスの反応温度には、タングステンとフッ素含有ガスの反応熱による加熱により到達する。フッ素含有ガスの供給量が増えると、タングステンとの反応熱も増え、反応温度が上昇していく。一方で、六フッ化タングステンの熱分解温度はタングステンの融点以下であり、タングステンとフッ素含有ガスの反応温度は、六フッ化タングステンの熱分解温度以上には容易には上昇しないことが分かった。すなわち、本発明の六フッ化タングステンの製造方法では、フッ素含有ガスの供給量が一定程度を超え、反応温度が反応熱によって六フッ化タングステンの熱分解温度付近に到達すると、下記式に示す熱分解平衡反応が生じ、タングステンとフッ素含有ガスの反応熱は、六フッ化タングステンの熱分解に使用されるため、反応温度の上昇が抑えられる。そのため、タングステンとフッ素含有ガスの反応温度は、六フッ化タングステンの熱分解温度程度に抑えられるため、フッ素含有ガスの供給量が一定程度を超えると、供給量を厳密に制御しなくとも、反応温度は800℃以上3400℃以下、特には1200℃以上2000℃以下となる。また、熱分解により生じたフッ素ガスを、タングステン充填層21の最表層より下の層のタングステンと反応させることができ、反応容器当たりの六フッ化タングステンの製造量を増加させることができる。
WF6⇔W+3F2 …(式9)
【実施例】
【0039】
具体的な実施例により、本発明の六フッ化タングステンの製造方法を説明する。しかしながら、本発明の六フッ化タングステンの製造方法は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
図1に示す様に、Ni製の反応容器01として内径28.4mm、外径34mm、長さ1000mm、ステンレス鋼製の冷媒ジャケット02として内径54.9mm(代表管径20.9mm)、外径60.5mm、長さ800mmの反応装置を準備した。反応容器の上部には、光学窓03、非接触式温度計04として二色計の放射温度計を設置した。反応容器に平均粒子径10μmのタングステン粉末と約20mm角のタングステン塊を合計1.4kg(充填長400mm)充填した。非接触式温度計04は、タングステン充填層21の最上部の中心部、すなわち反応部21aの最上部の中心部の温度をスポット径10mmで測定する。タングステン塊には反応の痕跡を確認するためのラベルが彫られている。気相を真空脱気及び窒素ガスで置換した。冷媒ジャケットに25℃の水を流量2L/min(Re数2020、冷媒と反応容器との境膜伝熱係数1370W/m
2/K)で流通させた状態で、フッ素ガスを反応容器の上方から流量5SLM(0℃、1atmにおける体積流量L/min)で導入した。反応容器後段ガスは100kPa(絶対圧)で圧力制御した。光学窓から反応熱による発光が認められ、放射温度計の温度は1630℃を指示した。反応容器後段ガスの一部を抜き出し、六フッ化タングステンの分圧を赤外分光光度計で測定し、フッ素含有ガスの転化率を算出した結果、転化率99%以上だった。反応を停止し、反応容器を窒素ガス及び真空脱気でガス置換した後、充填したタングステンを抜出し、ラベルしたタングステン塊の重量減少から反応深さを確認した結果、充填層最上部から160mmの深さまでタングステンが消費されていた。
【0041】
[実施例2]
フッ素ガスの流量を3.5SLMとする以外は実施例1と同様の条件で反応を実施した。光学窓から反応熱による発光が認められ、放射温度計は1520℃を指示した。反応容器後段ガスの赤外分光光度計による分析の結果、フッ素含有ガスの転化率は99%以上だった。タングステン塊の重量減少から、消費深さは110mmだった。
【0042】
[実施例3]
フッ素ガスの流量を0.5SLMとする以外は実施例1と同様の条件で反応を実施した。光学窓から反応熱による発光が認められ、放射温度計は950℃を指示した。反応容器後段ガスの赤外分光光度計による分析の結果、フッ素含有ガスの転化率は99%以上だった。タングステン塊の重量減少から、消費深さは10mmだった。
【0043】
[実施例4]
フッ素含有ガスとして三フッ化窒素を用いた。三フッ化窒素ガスの流量を5SLMとする以外は実施例1と同様の条件で反応を実施した。光学窓から反応熱による発光が認められ、放射温度計は1580℃を指示した。反応容器後段ガスの赤外分光光度計による分析の結果、フッ素含有ガスの転化率は99%以上だった。タングステン塊の重量減少から、消費深さは140mmだった。
【0044】
[実施例5]
冷却水の流量を10L/min(Re数10100、冷媒と反応容器との境膜伝熱係数3020W/m2/K)とする以外は実施例1と同様の条件で反応を実施した。光学窓から反応熱による発光が認められ、放射温度計は1620℃を指示した。反応容器後段ガスの赤外分光光度計による分析の結果、フッ素含有ガスの転化率は99%以上だった。タングステン塊の重量減少から、消費深さは150mmだった。
【0045】
[実施例6]
冷却水の流量を1L/min(Re数1010、冷媒と反応容器との境膜伝熱係数970W/m2/K)とする以外は実施例1と同様の条件で反応を実施した。光学窓から反応熱による発光が認められ、放射温度計は1640℃を指示した。反応容器後段ガスの赤外分光光度計による分析の結果、フッ素含有ガスの転化率は99%以上だった。タングステン塊の重量減少から、消費深さは170mmだった。
【0046】
[比較例1]
フッ素ガスの流量を0.2SLMとし、希釈ガスとして窒素ガスを4.8SLMを導入する以外は実施例1と同様の条件で反応を実施した。光学窓からは反応熱による発光が認められず、放射温度計は460℃を指示した。反応容器後段ガスの赤外分光光度計による分析の結果、フッ素含有ガスの転化率は99%以上だった。供給したフッ素含有ガスの総量を実施例1と同じにしたが、タングステン塊の重量減少から消費深さは10mm未満であり、タングステンはほとんど消費されていなかった。
【0047】
[比較例2]
三フッ化窒素ガスの流量を0.2SLM、希釈ガスとして窒素ガスを4.8SLMを導入する以外は実施例4と同様の条件で反応を実施した。光学窓からは反応熱による発光は認められず、放射温度計は420℃を指示した。反応容器後段ガスの赤外分光光度計による分析の結果、フッ素含有ガスの転化率は99%以上だった。供給したフッ素含有ガスの総量を実施例4と同じにしたが、タングステン塊の重量減少から、消費深さは10mm未満であり、タングステンはほとんど消費されていなかった。
【0048】
【0049】
反応温度が800℃以上で実施する本発明の実施例1~6では、フッ素含有ガスがタングステン充填層の内部のタングステンとも反応できたのに対して、反応温度400℃付近を上限に設ける従来の技術を用いた比較例1、2では、線速及び供給量を統一したにも関わらず、実施例1、4と比較してフッ素含有ガスの流量に制限があり、タングステン消費深さが小さく、WF6の生産量が少なかった。
【0050】
特に、実施例3と実施例2を比較すると、フッ素含有ガス流量が増えるに従って、反応温度が上昇しているが、実施例2と実施例1を比較すると、フッ素含有ガス流量が増えても、反応温度はほとんど上昇していない。即ち、実施例1では、WF6の熱分解平衡に到達することにより、反応熱の上昇が抑えられている。また、反応温度が950℃である実施例3と比較すると、反応温度が1500℃以上と高温である実施例1及び2では、タングステン消費深さが大きく、WF6の生産量が多かった。
【符号の説明】
【0051】
100: 反応装置
01: 反応容器
02: 冷媒ジャケット
03: 光学窓
04: 非接触式温度計
11: フッ素含有ガス供給器
12: タングステン供給器
13: 希釈ガス供給器
14: 出口ガス
15: 冷媒入口
16: 冷媒出口
21: タングステン充填層
31、32、33: バルブ