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特許7141031改質生体組織の製造方法、および生体組織の加圧処理装置
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  • 特許-改質生体組織の製造方法、および生体組織の加圧処理装置 図1
  • 特許-改質生体組織の製造方法、および生体組織の加圧処理装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】改質生体組織の製造方法、および生体組織の加圧処理装置
(51)【国際特許分類】
   A01N 1/02 20060101AFI20220914BHJP
   A61L 27/60 20060101ALI20220914BHJP
   B30B 9/00 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
A01N1/02
A61L27/60
B30B9/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018022290
(22)【出願日】2018-02-09
(65)【公開番号】P2019136307
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-12-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的がん医療実用化研究事業、「先天性巨大色素性母斑を母地とした悪性黒色腫に対する予防的低侵襲治療方法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】500409219
【氏名又は名称】学校法人関西医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】399051858
【氏名又は名称】株式会社 ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】森本 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】山岡 哲二
(72)【発明者】
【氏名】馬原 淳
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-067711(JP,A)
【文献】国際公開第2014/034759(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02942069(EP,A1)
【文献】国際公開第99/008861(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00- 27/60
A01N 1/02
B30B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手術室内において生体組織および液体を、ねじ込み式キャップを有する自立容器に入れて該容器を密閉するステップと、
前記容器を、37℃以下で前記手術室内から手術室外に輸送するステップと、
前記手術室外で、前記自立容器を開封ぜずに30M(メガ)Pa以上で高圧処理するステップと、
を有する改質生体組織の製造方法。
【請求項2】
前記高圧処理するステップの前または前記高圧処理するステップ中に前記生体組織を昇温させるステップと、
前記高圧処理するステップの後に前記生体組織を冷却するステップと、
を有する請求項1に記載の改質生体組織の製造方法。
【請求項3】
前記高圧処理が前記チャンバーの内容積の1%以上の液体を前記チャンバー内に加圧注入する処理である請求項1または2に記載の改質生体組織の製造方法。
【請求項4】
前記チャンバーは、前記自立容器を収容するための第1開口部と、該第1開口部よりも開口面積の小さい第2開口部を有しており、
前記高圧処理するステップでは、第2開口部を通じて前記チャンバー内に液体が注入される請求項に記載の改質生体組織の製造方法。
【請求項5】
前記自立容器を高圧処理するステップの前に、前記自立容器内の気体を脱気するステップを有する請求項1~のいずれか一項に記載の改質生体組織の製造方法。
【請求項6】
前記高圧処理の実施中に前記チャンバー内の温度が37℃を超えない請求項1~のいずれか一項に記載の改質生体組織の製造方法。
【請求項7】
前記生体組織が皮膚組織である請求項1~のいずれか一項に記載の改質生体組織の製造方法。
【請求項8】
生体組織と液体とを封入する、ねじ込み式キャップを有する自立容器と、前記自立容器を収容しかつ耐圧が30M(メガ)Pa以上のチャンバーとを有する生体組織の加圧処理装置であって、前記チャンバーは、前記自立容器を収容するための第1開口部と、該第1開口部よりも開口面積の小さい第2開口部を有している加圧処理装置。
【請求項9】
前記第1開口部は、前記チャンバーにおいて重力方向上方に設けられており、前記第2開口部は、前記第1開口部よりも下方に設けられている請求項に記載の加圧処理装置。
【請求項10】
前記生体組織が皮膚組織である請求項またはに記載の加圧処理装置。
【請求項11】
手術室内において生体組織および液体を入れて密閉された、ねじ込み式キャップを有する自立容器を前記手術室外で、前記自立容器を開封せずに30M(メガ)Pa以上で高圧処理するステップを有する改質生体組織の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質生体組織の製造方法、および生体組織の加圧処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体組織の改質については様々な分野で研究がなされている。生体組織のうち、例えば皮膚の改質技術についても研究が進んでいる。皮膚は表皮と真皮の二層から構成されている。表皮は、外界からの病原体の侵入を防ぎ、体内の水分を保つ役割がある。表皮の構造は表皮細胞が重層化した、ほぼ細胞成分のみから成り立っており、現在の細胞培養技術を用いれば再生可能である。真皮は主に膠原線維等の強靱な結合組織と線維芽細胞等の細胞成分、皮膚付属器(毛等)からなり、皮膚に力学的強度を持たせる、体の中で最大の臓器である。表皮はほぼ再生可能なのに対し、真皮を再生することは現在の技術では極めて困難である。
【0003】
このため、皮膚欠損創に対する治療では、縫縮(縫い縮めること)できる程度の小さな創以外を治療するには、(1)自家皮膚・皮弁移植(自分の皮膚を他の部位から採取しまたは切り離さずに移植する)、(2)同種皮膚移植(死体から採取し凍結保存した皮膚を移植する)、(3)人工材料を用いた再建、の三つの治療法しかない。近年、自家皮膚移植および同種皮膚移植のために、自家または同種皮膚に含まれる細胞を除去した脱細胞化皮膚の研究開発が進められている。
【0004】
生体組織から脱細胞化する方法では、高張液や低張液を用いる方法、酵素を用いる方法、凍結させる方法等が報告されているが、界面活性剤(SDS; Sodium Dodecyl Sulfate)を用いる方法がもっとも脱細胞効果が高いとされている(非特許文献1)。本発明者らは、ヒト皮膚組織(母斑組織、母斑:母斑細胞を含む皮膚)を用いて、まず表皮を酵素処理して分離し、その後に界面活性剤(SDS)や酵素(トリプシン)、高張食塩水(1N)等を用いた方法でヒト皮膚組織(真皮)の細胞を不活化できることを確認した。そして、剥離した表皮を不活化した皮膚組織上に再移植して培養すると、トリプシン、1N食塩水で不活化した皮膚上には表皮が生着するが、SDSを用いて不活化した皮膚上には表皮が生着しないことを報告した(非特許文献2)。この結果、SDSによる不活化では組織に損傷があることが示唆されたため、本発明者らは、薬剤を用いない不活化方法として、超高圧法による皮膚の不活化、脱細胞化を検討した。超高圧法(冷間等方圧加圧処理)は、600MPa以上の超高圧法(冷間等方圧加圧処理)を利用し組織内の細胞を完全に破壊する脱細胞化技術であり、当該方法を用いて既に心臓弁や大動脈、神経、角膜等多種類の組織で脱細胞化が行われ、動物実験で有効性が確認されている(特許文献1、非特許文献3、4)。超高圧方法は、自家移植ではなく、同種移植を目的として開発を行ってきたため、同種移植の際に問題となる拒絶反応および感染症の伝播を防ぐことが可能な加圧条件、すなわち600MPa以上の非常な超高圧を設定している。超高圧方法は細胞および細菌、ウィルス等も死滅させるが、細胞外マトリックスを損傷することのない、薬剤等を用いる従来の方法と比較して安全性が高い方法であるとされてきた。更に、本発明者らは、この超高圧法を皮膚に応用し、加圧条件を検討したところ、安価で小型の加圧処理装置を用いても達成できる200MPa程度の圧力でも不活化、脱細胞化が可能であることを見出した(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4092397号公報
【文献】WO2014/034759(段落0037等)
【文献】特開2016-67711号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Crapo PM et al., Biomaterials. 2011 Apr;32(12):3233-43
【文献】Liem PH et al., J. Artif. Organs. 2013 Sep;16(3):332-42
【文献】Hashimoto Y. et al., Biomaterials. 2010 May;31(14): 3941-8
【文献】Funamoto S. et al., Biomaterials. 2010 May;31(13):3590-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2等にも記載されているように生体組織の加圧処理は基本的には病院の手術室等において行うことが前提とされていて、仮に手術室外や、病院施設外において生体組織の加圧処理を行う場合に、手術室同等のクリーンな環境下で加圧処理を行うための手法について具体的には検討されていないのが実情である。かかる課題に鑑み、本発明の目的は、生体組織をクリーンな環境下で加圧処理するための方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。生体組織を手術室内において採取し、これを手術室同等のクリーンな環境を保ったままで手術室外、或いは病院施設外へ運搬し、そのような場所で生体組織の加圧処理を行おうとする場合、車輌による運送後、加圧処理を行う設備、設備内の装置に至るまで、全てをクリーンな状態としなければならないと一般的には考えられる。かといって、手術室内で生体組織をパッキングした容器をそのままで例えば500MPaもの高圧環境下に入れてしまうと容器が破裂してしまう、或いは、破裂まで行かなくとも強制的に開封されてしまうことが懸念される。しかしながら本発明者らは生体組織をパッキングした容器内の空気を脱気するなどしてある程度排除することにより、意外にも、例えば500MPaもの高圧下でも容器が破裂しないことを見いだし、本発明を完成した。上記課題を解決し得た本発明の改質生体組織の製造方法、加圧処理装置の一例は以下のものである。
【0009】
[1]手術室内において生体組織および液体を容器に入れて該容器を密閉するステップと、
前記容器を、37℃以下で前記手術室内から手術室外に輸送するステップと、
前記手術室外で、前記容器を開封ぜずに高圧処理するステップと、
を有する改質生体組織の製造方法。
【0010】
[2]前記高圧処理するステップの前または前記高圧処理するステップ中に前記生体組織を昇温させるステップと、前記高圧処理するステップの後に前記生体組織を冷却するステップと、を有する項1に記載の改質生体組織の製造方法。
【0011】
[3]前記高圧処理がチャンバー内において30M(メガ)Pa以上で高圧処理する処理である項1または2に記載の改質生体組織の製造方法。
【0012】
[4]前記高圧処理が前記チャンバーの内容積の1%以上の液体を前記チャンバー内に加圧注入する処理である項1または2に記載の改質生体組織の製造方法。
【0013】
[5]前記チャンバーは、前記容器を収容するための第1開口部と、該第1開口部よりも開口面積の小さい第2開口部を有しており、前記高圧処理するステップでは、第2開口部を通じて前記チャンバー内に液体が注入される項4に記載の改質生体組織の製造方法。
【0014】
[6]前記容器を高圧処理するステップの前に、前記容器内の気体を脱気するステップを有する項1~5のいずれか一項に記載の改質生体組織の製造方法。
【0015】
[7]前記高圧処理の実施中に前記チャンバー内の温度が37℃を超えない項1~6のいずれか一項に記載の改質生体組織の製造方法。
【0016】
[8]前記生体組織が皮膚組織である項1~7のいずれか一項に記載の改質生体組織の製造方法。
【0017】
[9]生体組織と液体とを封入する容器と、前記容器を収容しかつ耐圧が30M(メガ)Pa以上のチャンバーとを有する生体組織の加圧処理装置であって、前記チャンバーは、前記容器を収容するための第1開口部と、該第1開口部よりも開口面積の小さい第2開口部を有している加圧処理装置。
【0018】
[10]前記第1開口部は、前記チャンバーにおいて重力方向上方に設けられており、前記第2開口部は、前記第1開口部よりも下方に設けられている項9に記載の加圧処理装置。
【0019】
[11]前記生体組織が皮膚組織である項9または10に記載の加圧処理装置。
【0020】
[12]手術室内において生体組織および液体を入れて密閉された容器を前記手術室外で、前記容器を開封せずに高圧処理するステップを有する改質生体組織の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、手術室内において生体組織および液体を容器に入れて該容器を密閉するステップと、前記容器を、37℃以下で前記手術室内から手術室外に輸送するステップと、前記手術室外で、前記容器を開封ぜずに高圧処理するステップとを有しているため、生体組織を容器の外界に曝すことなく高圧処理するものであり、清浄な状態を保ったままでの改質生体組織を製造することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】(a)は本発明の実施の形態1における改質生体組織の製造方法に使用する容器の側面図(一部断面図)であり、(b)は本発明の実施の形態1における改質生体組織の製造方法に使用する加圧処理装置の断面図である。
図2】本発明の実施の形態2における改質生体組織の製造方法に使用する加圧処理装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施の形態に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0024】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1における改質生体組織の製造方法は、
(1)手術室内において生体組織および液体を容器に入れて該容器を密閉するステップ
(2)容器を37℃以下で手術室内から手術室外に輸送するステップ
(3)手術室外で、容器を開封せずに高圧処理するステップと
を有するものであるが、具体例について以下詳細に説明する。
【0025】
(1)容器密閉ステップ
図1(a)は、本発明の実施の形態1における改質生体組織の製造方法に使用する容器の側面図(一部断面図)である。まず、手術室内においてドナーとなる患者から採取した生体組織1を図1(a)に示すように液体2と一緒に容器3に入れてこの容器3を密閉する。手術室内は清浄であるほど好ましいが、目安として空気の清浄度規格(ISO14644-1:1999,JIS B 9920:2002)による分類で、クラス1~クラス7であることが好ましい。クラス7は、空気1立方メートルに含まれる0.5マイクロメートル径の粒子数が352,000個以下であることに相当する。
【0026】
容器3に入れられる生体組織1に特に制限はないが、有用であるのは動物の生体組織であり、動物としては例えば鳥類、哺乳類が挙げられる。哺乳類としては例えば、ヒト、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコ、ヤギ等が挙げられる。
【0027】
容器3に入れられる液体2に特段の制限はないが、緩衝液、培養液、蒸留水等が含まれるがこれらに限定されない。緩衝液としては、例えば、生理食塩水、PBS緩衝液、HEPES緩衝液、MES緩衝液、Tris-HCl緩衝液等が挙げられる。培養液としては、例えば、DMEM、MEM-α、RPMI1640、Eagle基礎培養液等が挙げられる。
【0028】
容器3は、生体組織1を収容・運搬するために用いられるものであるが、本発明では後述するように開封しないで高圧処理されるものである。容器3は、生体組織1を収容したままで高圧処理されるものであるため、容器3の少なくとも一部に可撓性のある材料を用いることにより容器3外の圧力により圧縮ないし変形しやすいことが好ましく、剛性の高い材料で構成するよりも好ましい。容器3は、図1(a)に示すように自立できる容器であってもよいが、非自立のファスナー付き可撓性袋であってもよい。ファスナーは、溝部と該溝部に嵌合する凸部を含む構造とすることができる。これら溝部と凸部とを嵌合させることにより可撓性袋を密閉することができる。可撓性袋にファスナーを用いることのほか、可撓性袋の口部分をラミネート封着することにより密閉することもできる。
【0029】
容器3の構成材料に特に制限はないが、容器3が外部の圧力により圧縮ないし変形するものである観点からは、容器3の少なくとも一部に樹脂材料や軟質の無機材料などを用いることが好ましい。樹脂材料は、例えば、フッ素樹脂(PFA、PTFE等)、ポリプロピレン、ポリスチロール、ポリエチレン、ポリスチレン、ABS、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ナイロン、ポリアセタール、メラミン樹脂などを使用することができる。無機材料としては、例えば、シリコーン、酸化シリコーンなどを使用することができる。
【0030】
(2)容器を37℃以下で手術室内から手術室外に輸送するステップ
本発明の実施の形態1における改質生体組織の製造方法においては、後の高圧処理を手術室外の部屋や病院外の施設において行うことを前提としているため、容器3を手術室内から手術室外に輸送するステップは必須である。37℃以下で輸送するのは、生体組織の鮮度を保つためであるが、「容器を37℃以下で」の意味は、輸送中の容器3の平均温度が37℃以下であることである。好ましくは、輸送中は容器3を常に37℃以下、より好ましくは25℃以下、更に好ましくは10℃以下、いっそう好ましくは冷凍温度以下(例えばマイナス5℃以下、マイナス10℃以下、マイナス15℃以下)に保つ。
【0031】
(3)容器を開封せずに高圧処理するステップ
本発明の実施の形態1における改質生体組織の製造方法においては、容器3の運搬後、容器3を開封せずに高圧処理する。容器3は従来、生体組織1を専ら収容・運搬するために用いていたが、上述したように本発明者らは生体組織1を収容した容器3内の空気をある程度脱気することにより、意外にも、例えば500MPaもの高圧下でも容器3が破裂しないことを見いだしたものである。容器3を開封せずに高圧処理することにより、生体組織1が高圧処理される環境が手術室外であり、その環境が上記清浄度規格により特定される(1)「容器密閉ステップ」の清浄度より劣るもの(例えばクラス8)であったとしても、生体組織1が汚染されることなく高圧処理が執り行える。
【0032】
容器3を高圧処理する方法に特に限定はないが、容器3に静水圧を印加する方法を好ましく採用することができる。図1(b)は、本発明の実施の形態1における改質生体組織の製造方法に使用する加圧処理装置の断面図であり、加圧のために高静水圧を与えるものである。生体組織1および液体2が密封された容器3に入れられている状態のものは、手術室外に運搬された後、図1(b)に示されるように第1開口部4aから加圧処理装置4のチャンバー5内部に入れられる。チャンバー5内には液体6(代表的には水)が入れられており、容器3は液体6に浸かる状態となる。この状態において第1開口部4aに設けられている圧力付与部材7を押し下げることにより液体6の圧力を高めていくと、容器3が圧縮或いは変形を受けることにより、容器3内の液体2の圧力が上昇して液体6の圧力に釣り合う高さになる。液体2と液体6の圧力が釣り合っているため、容器3は内外の圧力差により破裂する可能性は低い。また、通常、水に1000気圧(約100MPa)を付与しても、水の体積は4.5%程度減るだけであることから、容器3の外部から100MPaの静水圧がかかっても容器3の圧縮率は4.5%程度である。したがって、容器3は圧縮・変形により破壊される可能性は高くない。
【0033】
容器3の高圧処理時に容器3が破壊されないようにするため、上述のように高圧処理前に容器3内の空気を脱気することが好ましく、脱気の程度としては、容器3がチャンバー5内において浮かず、チャンバー5の底に沈むことが好ましい。容器3がチャンバー5の底に沈むことは、容器3が破壊されない程度に十分に脱気がされているという効果があるとともに、仮に容器3がチャンバー5の中で浮いてしまうと、容器3がチャンバー5内の水と気体との双方に接触するため容器3が圧縮・変形する部位が安定しにくく、容器3の機密性が保持しにくい場合があるからである。
【0034】
容器3を封止する構造部(以下、「封止構造部」と記載する:ファスナー、ねじ込み式キャップ(図1(a)の3a)、栓など)のヤング率が容器3の他の部分よりも低い場合には容器3の圧縮・変形が当該封止構造部に集中するため封止状態が解かれてしまう(開封されてしまう)可能性がでてくるため、封止構造部はその他の部分よりもヤング率が高いことが好ましい。封止構造部のヤング率を他の部分に比べて高く構成すれば、容器3の圧縮・変形は、封止構造部以外の部分で起こるため、高静水圧の印加中に容器3が意図せず開封されてしまうことを回避できる。封止構造部が、その他の部分よりも厚肉に形成されていれば封止構造部のヤング率は他の部分に比べて高くなるため好ましい。
【0035】
実施の形態1において、容器3を高圧処理するステップの前または高圧処理するステップ中に生体組織1を昇温させるステップと、高圧処理するステップの後に生体組織1を冷却するステップとを有することが好ましい。例えば高圧処理するステップの前、容器3の運搬中は、生体組織1を冷凍している場合もあるが、高圧処理するステップの際には、生体組織1に適切に圧力がかかるようにするため生体組織1を解凍しておくことが好ましいからである。昇温には、強制昇温(加熱処理)と自然昇温が含まれる。昇温後の生体組織1の温度は、好ましくは1℃以上、より好ましくは5℃以上、更に好ましくは10℃以上である。上限は特に制限されないが好ましくは37℃以下、より好ましくは32℃以下、更に好ましくは27℃以下である。他方、高圧処理するステップの後は、生体組織1の鮮度を保つため、高圧処理するステップの前や途中とは逆に、生体組織1を冷却(冷蔵または冷凍)することが好ましい。冷却後の生体組織1は、例えば15℃以下、好ましくは5℃以下の冷蔵温度、より好ましくは冷凍温度(例えばマイナス5℃以下、マイナス10℃以下、マイナス15℃以下)にする。
【0036】
高圧処理は、チャンバー5内において30M(メガ)Pa以上の高圧にすることが好ましく、より好ましくは100MPa以上、更に好ましくは200MPa以上である。生体組織1内の細胞(例えば色素性母斑組織)を不活化が促進されるからである。他方、高圧処理の圧力上限は、生体組織1の動物への生着性の観点では、例えば700MPaであることが好ましく、より好ましくは600MPa、更に好ましくは500MPaである。
【0037】
なお、チャンバー5内の液体6を加圧する手段としては、圧力付与部材7の使用の他に、チャンバー5の内容積の1%以上の液体6をチャンバー5内に加圧注入する方法も考えられる。液体の注入量は、より好ましくは3%以上、更に好ましくは6%以上である。液体の注入量の上限は、容器3の圧縮・変形を小さく抑える観点からは、20%以下であることが好ましく、より好ましくは17%以下、更に好ましくは14%以下である。
【0038】
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2における改質生体組織の製造方法に使用する加圧処理装置の断面図である。実施の形態2における加圧処理装置4が実施の形態1における加圧処理装置4と異なる点は主に2つあり、1つ目は、図2の加圧処理装置4では、チャンバー5には、開口面積が、第1開口部4aの開口面積よりも小さい第2開口部4bが設けられている点である。第2開口部4bは開口面積が小さいため、チャンバー5内の液体6に所定圧力を付与するための応力が小さくて済む。例えば、実施の形態1において示した圧力付与部材7と同様の圧力付与部材(図示せず)を使用する場合、当該部材に付与する応力は小さくて済む。与圧に必要な応力は開口面積に比例するからである。
【0039】
実施の形態2における加圧処理装置4が実施の形態1における加圧処理装置4と異なる点の2つ目は、図2の加圧処理装置4では、第2開口部4bの上流に液体の加圧注入手段の一例であるスクリュー8が設けられている点である。スクリュー8の回転により加圧液体が発生するため圧力付与部材を用いることなく第2開口部4bを通じて加圧液体を注入しチャンバー5内の液体6を加圧することができる。
【0040】
なお、実施の形態1において示した圧力付与部材7を使用しない場合、圧力付与部材7の代わりに蓋部材5aを第1開口部4aに装着しておくことが好ましい。チャンバー5の密閉性の向上のためである。
【0041】
実施の形態2において第1開口部4aは、チャンバー5の重力方向上方に設けられ、第2開口部4bは、第1開口部4aよりも下方に設けられることが好ましい。第1開口部4aを上方としたのは容器3の出し入れを容易にするためであり、第2開口部4bを反対側の下方としたのは、チャンバー5にかかる高圧の応力を上下に分散して安全を図るためである。
【0042】
実施の形態1および2において、高圧処理の実施中にチャンバー5内の温度が37℃を超えないことが好ましい。これは、容器3を手術室内から手術室外に輸送するステップにおいて容器3を37℃以下にすることと同じ趣旨であり生体組織1を生鮮に保つためである。なお、本発明者らの試験によれば、チャンバー5内に200MPa程度の圧力をかけた場合には、チャンバー5内の温度が5℃程度上昇することがわかっているため、高圧処理の前段階、すなわち、容器3と液体6とが最初に接する時点での液体6の温度は、32℃以下にしておくことが好ましい。より好ましくは27℃以下、更に好ましくは22℃以下である。液体6の下限温度は、生体組織1が凍結せず、かつ、液体6が液体のまま存在し得る限り、特段の制限はない。
【符号の説明】
【0043】
1 生体組織
2 液体
3 容器
4 加圧処理装置
4a 第1開口部
4b 第2開口部
5 チャンバー
5a 蓋部材
6 液体
7 圧力付与部材
8 スクリュー
図1
図2