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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】窒化物半導体トランジスタ装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20220914BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20220914BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20220914BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20220914BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
H01L29/80 F
H01L29/80 H
H01L29/78 301B
H01L29/78 301G
H01L29/78 301X
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2019166835
(22)【出願日】2019-09-13
(65)【公開番号】P2021044464
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】516008224
【氏名又は名称】白田 理一郎
(73)【特許権者】
【識別番号】516008235
【氏名又は名称】高谷 信一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100067448
【弁理士】
【氏名又は名称】下坂 スミ子
(74)【代理人】
【識別番号】100213746
【弁理士】
【氏名又は名称】川成 渉
(72)【発明者】
【氏名】寺本 章伸
(72)【発明者】
【氏名】黒田 理人
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 智之
(72)【発明者】
【氏名】白田 理一郎
(72)【発明者】
【氏名】高谷 信一郎
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-211103(JP,A)
【文献】特開2011-192944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/778
H01L 29/812
H01L 21/338
H01L 29/78
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に設けられた電気的に不活性な素子分離領域と、前記基板上に設けられた窒化物半導体層と、前記窒化物半導体層上に設けられた第1の絶縁膜と、少なくとも前記第1の絶縁膜上に設けられた電荷蓄積用ゲート電極と、前記電荷蓄積用ゲート電極上に設けられた第2の絶縁膜と、前記第2の絶縁膜上に設けられた第1のゲート電極と、面方向に前記電荷蓄積用ゲート電極を挟んで前記窒化物半導体層上に設けられたソース電極およびドレイン電極と、前記電荷蓄積用ゲート電極上に設けられた第3の絶縁膜と、前記第3の絶縁膜上に設けられた第2のゲート電極と、を有することを特徴とするトランジスタを有し、
前記第1のゲート電極と前記電荷蓄積用ゲート電極で形成される電気的容量が、前記トランジスタがオン状態の時の前記電荷蓄積用ゲート電極と前記窒化物半導体層で形成される電気的容量より大きいことを特徴とする窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項2】
基板と、前記基板上に設けられた電気的に不活性な素子分離領域と、前記基板上に設けられた窒化物半導体層と、前記窒化物半導体層上に設けられた第1の絶縁膜と、少なくとも前記第1の絶縁膜上に設けられた電荷蓄積用ゲート電極と、前記電荷蓄積用ゲート電極上に設けられた第2の絶縁膜と、前記第2の絶縁膜上に設けられた第1のゲート電極と、面方向に前記電荷蓄積用ゲート電極を挟んで前記窒化物半導体層上に設けられたソース電極およびドレイン電極と、前記電荷蓄積用ゲート電極上に設けられた第3の絶縁膜と、前記第3の絶縁膜上に設けられた第2のゲート電極と、を有することを特徴とするトランジスタを有し、
前記トランジスタは複数個並列に接続され、前記第2のゲート電極以外の前記電極は並列に接続されており、一つ乃至全数個の前記トランジスタに一つずつ前記第2のゲート電極が設けられていることを特徴とする窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項3】
前記第3の絶縁膜は素子分離領域上に設けられた前記電荷蓄積用ゲート電極上に存し、前記第3の絶縁膜上に前記第2のゲート電極が設けられたことを特徴とする請求項1または2の窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項4】
前記第2のゲート電極と前記電荷蓄積用ゲート電極の間に電流を流して、前記電荷蓄積用ゲート電極に電荷を蓄積することにより、前記電荷蓄積用ゲート電極の電位を変化させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つの窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項5】
前記第2のゲート電極と前記電荷蓄積用ゲート電極の間に電流を流して、前記電荷蓄積用ゲート電極に電荷を蓄積する際、前記第1のゲート電極に電圧を印加して、電荷注入量の制御を容易にすることを特徴とする請求項の窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項6】
前記 第1のゲート電極と前記電荷蓄積用ゲート電極間の電気的容量が前記第2のゲート電極と前記電荷蓄積用ゲート電極間の電気的容量より大きい事を特徴とする請求項1乃至のいずれか一つの窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項7】
前記 第1のゲート電極と前記電荷蓄積用ゲート電極間の電気的容量が、前記第2のゲート電極と前記電荷蓄積用ゲート電極間の電気的容量と前記ソース電極前記電荷蓄積用ゲート電極間の電気的容量と前記ドレイン電極前記電荷蓄積用ゲート電極間の電気的容量との総和より大きい事を特徴とする請求項1乃至のいずれか一つの窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項8】
前記 第2のゲート電極に前記ソース電極及び前記ドレイン電極及び前記第1のゲート電極より低い電圧を与える事により、前記第2のゲート電極と前記電荷蓄積用ゲート電極の間に電流を流し、それにより前記電荷蓄積用ゲート電極内の電荷を変化させる事を特徴とする請求項1乃至のいずれか一つの窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項9】
前記 第1のゲート電極が0V以下の時に前記トランジスタがオフ状態であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一つの窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項10】
前記 第1のゲート電極と前記第2のゲート電極が絶縁されていることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一つの窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項11】
前記 第1のゲート電極と前記電荷蓄積用ゲート電極で形成される電気的容量が、前記トランジスタがオン状態の時の前記電荷蓄積用ゲート電極と前記窒化物半導体層で形成される電気的容量より大きいことを特徴とする請求項乃至10のいずれか一つの窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項12】
前記 第1のゲート電極の面積が前記電荷蓄積用ゲート電極とチャネル領域のオーバーラップした面積より大きいことを特徴とする請求項11の窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項13】
前記第1のゲート電極と前記電荷蓄積用ゲート電極のオーバーラップしている領域が、チャネル領域から前記ドレイン電極側に張り出している請求項1乃至12のいずれか一つの窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項14】
前記第2の絶縁膜と前記第3の絶縁膜とが同じ絶縁膜である請求項1乃至13のいずれか一つの窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項15】
前記第3の絶縁膜がトンネル絶縁膜である請求項1乃至14のいずれか一つの窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項16】
前記第2の絶縁膜がブロック絶縁膜を含む請求項1乃至13のいずれか一つの窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項17】
前記トランジスタが複数個並列に接続され、前記第2のゲート電極以外の前記電極は並列に接続されており、一つ乃至全数個の前記トランジスタに一つずつ前記第2のゲート電極が設けられている請求項1、3乃至16のいずれか一つの窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項18】
前記複数個のトランジスタを接続する際、前記ソース電極前記ドレイン電極が交互に配置され、その間に前記電荷蓄積用ゲート電極が配置されるフィンガー構造の請求項17の窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項19】
前記第2のゲート電極と前記電荷蓄積用ゲート電極の間に電流を流して、前記電荷蓄積用ゲート電極に電荷を蓄積する際の電荷注入量を、前記第1のゲート電極に電圧を印加して制御する際、前記第2のゲート電極を共通とする部分ごとに電荷量を調整することを特徴とする請求項17または18の窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項20】
前記第1の絶縁膜の少なくとも最下層が酸化アルミニウムで構成されていることを特
とする請求項1乃至19のいずれか一つの窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項21】
前記窒化物半導体層はGaNから成ることを特徴とする請求項1乃至20のいずれか一つの窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項22】
前記窒化物半導体層は前記基板上に設けられた第1の窒化物半導体層と、前記第1の窒化物半導体層上に設けられ、前記第1の窒化物半導体層の少なくとも一部の窒化物半導体よりバンドギャップの大きい窒化物半導体を少なくとも含む第2の窒化物半導体層から成ることを特徴とする請求項1乃至20のいずれか一つの窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項23】
前記第1の窒化物半導体層がGaNで構成されており、前記第2の窒化物半導体層がAlxGa1-xN(0<x≦1)で構成されていることを特徴とする請求項22の窒化物半導体トランジスタ装置。
【請求項24】
請求項1乃至23のいずれか一つの窒化物半導体トランジスタ装置と、当該窒化物半導体トランジスタ装置を封止するパッケージとを含み、当該窒化物半導体トランジスタ装置の前記第1のゲート電極と前記ドレイン電極と前記ソース電極とを前記パッケージのそれぞれの外部ピンにそれぞれ接続させ、当該窒化物半導体トランジスタ装置の前記第2のゲート電極は外部ピンに接続させない事を特徴とする窒化物半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体トランジスタ装置に係り、特に、電界効果型窒化物半導体トランジスタにおいて、ゲート電極への電圧印加のない状態でゲート電極下の導電チャネルが実質的にオフ状態となる、所謂、ノーマリオフを実現する窒化物半導体トランジスタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体であるGaN、AlN、InN、或はこれらの混晶からなる半導体は、広いバンドギャップを有し、かつ、伝導電子が高いキャリア移動度を有するため、高電圧高出力電子デバイスに好適である。特に、窒化物半導体により作製された電界効果型トランジスタ(FET、Field-Effect Transistor)、その一形態であるAlGaN/GaN等の半導体ヘテロ接合界面に誘起される伝導電子を導電チャネルに用いる高電子移動度トランジスタ(HEMT、High Electron Mobility Transistor)は、高電圧、大電流、低オン抵抗動作が可能であり、高出力電力増幅器や大電力スイッチング素子として用いられている。
【0003】
しかしながら、通常の窒化物半導体FETは、ゲート電極への電圧印加がない状態でゲート電極下の導電チャネルがオン状態となる、所謂、ノーマリオンである。電源等の装置で用いられるスイッチング素子としては、誤動作や故障等によりゲート電極に印加される制御電圧が失われた際にはスイッチが開となってしまうため、装置全体の破壊につながるなど、安全性の観点から好ましくない。
【0004】
このため、窒化物半導体FETをノーマリオフ化する技術がいくつか開発されてきた。その一技術として、FETのゲート直下にp型窒化物半導体層を挿入してpn接合型のゲート電極とすることにより、ノーマリオフ動作を実現する方法が知られている(非特許文献1参照)。この技術では、ゲート電極の動作範囲は、半導体のバンドギャップで決まるフラットバンド電圧で制限される。このため、閾値を正の電圧とした場合、その値は2V以下に留まり、通常の電源装置では3V以上の正の閾値が望まれるのに対し、十分な閾値が得られない。また、ゲート電圧に印加できる正電圧は、pn接合のオン電圧で制限されるため、ゲートの動作電圧振幅が小さくなり、FETがオン状態で導電チャネルに流すことのできる電流が制限される。
【0005】
ノーマリオフを実現する他の方法としては、FETのゲート直下に絶縁膜を挿入し、金属/絶縁物/半導体(MIS、Metal-Insulator-Semiconductor)接合型のゲート電極とする方法が知られている(非特許文献2参照)。この方法では、ゲート金属下に絶縁物が存在するため、ゲート電極を流れる漏えい電流を低く抑えることができ、大きな正のゲート電圧の印加が可能となる。このため、ゲート電極にpn接合を用いる場合に比べ、閾値電圧を大きな正の値とした場合でもゲートの動作電圧振幅を十分に大きく取ることができる。
【0006】
図6に従来のMIS型ゲート電極を有するGaN FETの主要部分の断面構造を示す。基板1001の材料には、シリコンカーバイド(SiC)、シリコン(Si)、サファイア、GaNなどが用いられる。この基板1001上に、エピタキシャル成長により形成したバッファ層1002、GaN層1003、AlGaN層1004が順次積層されている。ゲート電極形成部のAlGaN層1004はリセスエッチングにより一部除去されている。リセスエッチング部1006内に絶縁膜1005をはさんでゲート電極1007が形成される。さらにソース電極1008、ドレイン電極1009を形成すれば、GaN HEMTの主要部分が完成する。絶縁膜1005の材料としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化シリコン、窒化シリコン、或は従来知られているその他のゲート絶縁物材料が用いられる。GaN層1003とGaN層1003よりバンドギャップの大きいAlGaN層1004との界面のGaN層1003側に誘起される伝導電子により、導電チャネル1010が形成される。導電チャネル1010のゲート電極1007直下における伝導電子密度をゲート電極1007に印加する電圧で変化させることにより、トランジスタ動作が得られる。この従来例のFETは、AlGaN/GaN半導体ヘテロ界面に形成される導電チャネルを用いており、所謂、HEMTと呼ばれるFETの一種である。
【0007】
図7に別の従来例のMIS型ゲート電極を有するGaN FETの主要部分の断面構造を示す。図6に示した従来例と同様に、基板1101の材料には、シリコンカーバイド(SiC)、シリコン(Si)、サファイア、GaNなどが用いられる。基板1101上に、エピタキシャル成長により形成したバッファ層1102、GaN層1103、AlGaN層1104が順次積層されている。また絶縁膜1105の材料としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化シリコン、窒化シリコン、或は従来知られるその他のゲート絶縁物材料が用いられる。この従来例の図6に示した従来例との相違点は、リセスエッチング部1106が深く、その底部がAlGaN層1104を貫通してGaN層1103に達している点である。ソース電極1108とゲート電極1107との間、およびドレイン電極1109とゲート電極1107との間はAlGaN/GaN界面に形成される導電チャネル1110で電気的に接続され、ゲート電極直下の導電チャネル1111は絶縁膜1105とGaN層1103との界面に誘起される伝導電子により形成される。この伝導電子の密度をゲート電極1107に印加する電圧で変化させることによりトランジスタ動作が得られる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Y. Umemoto et al., IEEE Transactions on Electron Devices Volume 54, Number 12, December 2007, p.3393.
【文献】M.Kanamura et al.,IEEE Electron Device Letters, Volume 31, Number 3, March 2010, p.189.
【文献】Bongmook Lee,et al,International Electron Device Meeting,2010, P.484.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図6に示した従来例において、ゲート電極部にリセスエッチング部1006を形成する目的は、FETの閾値電圧を正の値とすることによりノーマリオフとすることである。従来の電子デバイスに用いられる窒化物半導体は六方晶系結晶構造を有し、エピタキシャル成長の容易性から通常c軸方向に成長した層が用いられる。この場合、AlGaN層1004内には面に直交する方向(c軸方向)に沿って基板方向にピエゾ分極と自発分極に起因する大きな分極が発生する。
【0010】
図8(a)および図8(b)にゲート電極下部の半導体層のバンド図を示す。このバンド図は、ゲートに電圧が印加されていない場合について示したものである。図8(b)は、図8(a)の構造に比べ、AlGaN層1004の厚さを薄くした場合である。図8(a)および図8(b)において、AlGaN層1004内に存在する分極(P)1202により、伝導帯下端1201のエネルギー値はゲート電極から離れるにつれて低下する。このため、図8(a)に示したように、AlGaN層1004の厚さが厚いと、AlGaN層1004とGaN層1003の接触界面の三角形状のポテンシャル井戸に形成される基底量子準位がフェルミ準位1203(図中「EF」と表示)より下に位置するようになり、伝導電子が量子井戸内に誘起されて導電チャネル1010が形成される。ゲート電圧を印加しない状態で導電チャネルに誘起される伝導電子を実質的にゼロとしてノーマリオフとするには、AlGaN層1004の厚さを図8(b)に示したように薄くする必要がある。
【0011】
非特許文献2に記載されているように、例えばAlGaN層1004のAlN混晶比、即ち、化学組成をAlxGa1-xNと表記した時のxが20%の場合、ゲート電極1007下部のAlGaN層1004の厚さは2ナノメータ程度とする必要がある。xが大きくなると、AlGaN層1004をさらに薄くする必要がある。一方、図6において、ソース電極1008とゲート電極1007、およびドレイン電極1009とゲート電極1007との間の領域では、AlGaN層1004の厚さは10ナノメータ程度、或はそれ以上とし、十分な量の伝導電子をAlGaN/GaN界面の導電チャネル1010に誘起し、この領域の抵抗を下げる必要がある。このため、図6に示したように、あらかじめ厚いAlGaN層1004を成長させ、ゲート電極を形成する部分のみリセスエッチングしてAlGaN層を薄くする必要がある。しかし、エッチング後の残りのAlGaN層の厚さによって閾値電圧が変わるため、実際にトランジスタを製造する場合においては、リセスエッチング部1006のエッチング深さを厳密に制御しなければならず、基板1001上に一括して多数のトランジスタを作成する場合、エッチング量の面内ばらつきを抑えることが困難であった。
【0012】
図6に示した従来例にはさらに別の問題点がある。通常、窒化物半導体と絶縁物との界面には、窒化物半導体の伝導帯下端から数百ミリ電子ボルトの範囲に多数のトラップ準位が存在する。図8(c)は、AlGaN層1004を十分に薄くし、トランジスタをノーマリオフとした場合において、ゲート電極1007に正のゲート電圧1205(図中「V」と表示)を印加し、伝導電子を導電チャネル1010に誘起した状態を示すバンド図であるが、絶縁膜1005とAlGaN層1004との界面にトラップ準位1204が存在するため、正のゲート電圧1205を印加した際、フェルミ準位1203がトラップ準位1204によって固定され、正のゲート電圧1205による導電チャネル1010内への伝導電子の誘起が阻害される。その結果、オン抵抗が下がらず、かつオン電流が上がらず、スイッチとしての性能が著しく低下する。
【0013】
一方、図7に示した従来例では、図6の場合と異なり、リセスエッチング部1106はAlGaN層1104を貫通しGaN層1103に達している。従って、AlGaN層1004の分極の影響を避けることができ、エッチング後のAlGaN層の厚さの制御の問題はなくなる。しかしながら、絶縁膜1105とGaN層1103との界面に形成される導電チャネル1111内の伝導電子の移動度は、AlGaN/GaN界面の伝導電子の移動度に比べて数分の1と小さい。このため、図6に示した所謂HEMTに比べ、トランジスタの性能が大幅に低下する問題があった。また、この従来例においても、図6に示した従来例と同様に、絶縁膜1105とGaN層1103との界面に存在するトラップ準位が導電チャネル1111の伝導電子の蓄積を阻害し、オン抵抗が下がらず、かつオン電流が上がらず、スイッチとしての性能が劣化する問題があった。
【0014】
別の従来技術として非特許文献3には、窒化物半導体FETのゲート電極下に電荷蓄積用電極を設けた構造を用いることにより、ノーマリオフ動作を実現する方法が記載されている。その方法によりノーマリオフを可能とする窒化物半導体FETは、基板上に設けられた第1の窒化物半導体層と、第1の窒化物半導体層上に設けられた、第1の窒化物半導体層よりバンドギャップの大きい第2の窒化物半導体層を有し、その上に設けられたゲート絶縁膜(以下、第1の絶縁膜と呼ぶ)と、第1の絶縁膜上に設けられた電荷蓄積用ゲート電極を有し、電荷蓄積用ゲート電極上にはブロック絶縁膜を介して制御用のゲート電極が設けられる。また、面方向に電荷蓄積用ゲート電極を挟んで第2の窒化物半導体層上にソース電極及びドレイン電極が設けられる。電荷蓄積用ゲート電極に第2の窒化物半導体層から電子を注入して、電荷蓄積用ゲート電極に負の電荷を蓄積することによって、ソース電極とドレイン電極との間をノーマリオフとすることができる。動作時には、導電チャンネルを通過してソース電極とドレイン電極との間で流れる電流を、制御用ゲート電極に印加する電圧で制御する。
【0015】
しかしながら、上記のような従来の構造では、実際には第2の窒化物半導体層から電荷蓄積用ゲート電極への電子の注入が阻害されて充分な量の電子を電荷蓄積用ゲート電極に蓄積することができず、実用に至らないことが判明した。これは以下の理由による。電荷蓄積用ゲート電極に電子を注入するには、制御用ゲート電極に正の電圧を印加し静電容量結合により電荷蓄積用ゲート電極を第2の窒化物半導体層に対して順方向バイアス状態とすることにより第2の窒化物半導体層内の伝導電子を電荷蓄積用ゲート電極にトンネリングさせる必要がある。しかし、第2の窒化物半導体層と第1の絶縁膜との界面に存在するトラップ準位でフェルミ準位が固定されてしまい、順方向バイアス電圧が第2の窒化物半導体層に伝わらず、注入に必要な電子が第2の窒化物半導体層内に誘起されない。また、電子注入時に第1の絶縁膜に高い電界が印加されることによってデバイス信頼性に影響が及ぶこと、閾値保持時間が短いこと、閾値の均一化が困難なこと等の問題点も指摘されている。
【0016】
従って、本発明の目的は、上述したような従来の窒化物半導体FETにおける問題点を解決することができるノーマリオフ窒化物半導体トランジスタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するための、本願発明による窒化物半導体トランジスタ装置は、基板と、前記基板上に設けられた電気的に不活性な素子分離領域と、前記基板上に設けられた窒化物半導体層と、前記窒化物半導体層上に設けられた第1の絶縁膜と、少なくとも前記第1の絶縁膜上に設けられた電荷蓄積用ゲート電極と、前記電荷蓄積用ゲート電極上に設けられた第2の絶縁膜と、前記第2の絶縁膜上に設けられた第1のゲート電極と、面方向に前記電荷蓄積用ゲート電極を挟んで前記窒化物半導体層上に設けられたソース電極およびドレイン電極と、前記電荷蓄積用ゲート電極上に設けられた第3の絶縁膜と、前記第3の絶縁膜上に設けられた第2のゲート電極とを有するものである。
【0018】
前記窒化物半導体層は、好ましくは前記基板上に設けられた第1の窒化物半導体層と、前記第1の窒化物半導体層上に設けられ、前記第1の窒化物半導体層の少なくとも一部の窒化物半導体よりバンドギャップの大きい窒化物半導体を少なくとも含む第2の窒化物半導体層から成る。
【0019】
第3の絶縁膜は素子分離領域上に設けられた前記電荷蓄積用ゲート電極上に存し、第2のゲート電極は素子分離領域上において前記第3の絶縁膜上に設けられるのが好ましい。
【0020】
本発明の窒化物半導体トランジスタ装置においては、第2のゲート電極と電荷蓄積用ゲート電極の間に電流を流して、電荷蓄積用ゲート電極に電荷を蓄積することにより、電荷蓄積用ゲート電極の電位を変化させる。
【0021】
第2のゲート電極と電荷蓄積用ゲート電極の間に電流を流して、電荷蓄積用ゲート電極に電荷を蓄積する際、第1のゲート電極に電圧を印加して、電荷注入量の制御を容易にするようにしてもよい。
【0022】
本発明の窒化物半導体トランジスタ装置においては、第1のゲート電極と電荷蓄積用ゲート電極間の電気的容量が第2のゲート電極と電荷蓄積用ゲート電極間の電気的容量より大きい事が好ましい。
【0023】
また、第1のゲート電極と電荷蓄積用ゲート電極間の電気的容量が、第2のゲート電極と電荷蓄積用ゲート電極間の電気的容量とソースと電荷蓄積用ゲート電極間の電気的容量とドレインと電荷蓄積用ゲート電極間の電気的容量との総和より大きい、或いは第1のゲート電極と電荷蓄積用ゲート電極間の電気的容量と第2のゲート電極と電荷蓄積用ゲート電極間の電気的容量の総和がソースと電荷蓄積用ゲート電極間の電気的容量とドレインと電荷蓄積用ゲート電極間の電気的容量との総和より大きいことが好ましい。
【0024】
本発明の窒化物半導体トランジスタ装置においては、第2のゲート電極にソース電極及びドレイン電極及び第1のゲート電極より低い電圧を与える事により、第2のゲート電極と電荷蓄積用ゲート電極の間に電流を流し、それにより電荷蓄積用ゲート電極内の電荷を変化させる事が好ましい。
【0025】
本発明の窒化物半導体トランジスタ装置は、パッケージに封止される際、第1のゲート電極とドレイン電極とソース電極とに外部ピンをそれぞれ接続させ、第2のゲート電極は外部ピンを接続させないようにしてもよいし、第1のゲート電極と同電位にしてもよい。
【0026】
本発明の窒化物半導体トランジスタ装置は、第1のゲート電極が0V以下の時にトランジスタがオフ状態であることを特徴とする。
【0027】
本発明の窒化物半導体トランジスタ装置は、第1のゲート電極と第2のゲート電極が絶縁されていてもよい。
【0028】
本発明の窒化物半導体トランジスタ装置は、第1のゲート電極と電荷蓄積用ゲート電極で形成される電気的容量が、電荷蓄積用ゲート電極と窒化物半導体層で形成される電気的容量より大きいことが好ましい。
【0029】
本発明の窒化物半導体トランジスタ装置は、第1のゲート電極の面積が電荷蓄積用ゲート電極の面積より大きいことが好ましい。
【0030】
本発明の窒化物半導体トランジスタ装置は、第1のゲート電極と電荷蓄積用ゲート電極のオーバーラップしている領域が、電荷蓄積用ゲート電極からドレイン電極側に張り出していることが好ましい。
【0031】
本発明の窒化物半導体トランジスタ装置の好ましい一形態においては、第1の窒化物半導体層はGaNで構成され、第2の窒化物半導体層がAlxGa1-xN(0<x≦1)で構成される。GaNとAlxGa1-xNとの界面に誘起される導電チャネルは高い電子移動度を有するため、オン抵抗やオン電流等のスイッチとしての特性に優れるノーマリオフ窒化物半導体トランジスタ装置が得られる。
【0032】
本発明の窒化物半導体トランジスタ装置の別の好ましい一形態においては、第1の絶縁膜の少なくとも最下層が酸化アルミニウムで構成される。酸化アルミニウムは窒化物半導体層との界面において界面準位を発生しにくいため、第1のゲート電極に印加する正の電圧を増やし、第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層との界面に誘起される導電チャネルを流れる電流を増大せしめる際に、第2の窒化物半導体層と第1の絶縁膜との間に存在する界面準位の影響を受け難くなるため、オン抵抗、オン電流などのスイッチとしての特性に優れるノーマリオフ窒化物半導体トランジスタ装置が得られる。
【発明の効果】
【0033】
本願発明によれば、電荷蓄積用ゲート電極上に第3の絶縁膜を介して第2のゲート電極を設けたことによって、第2のゲート電極から第3の絶縁膜を経由して電子を電荷蓄積用ゲート電極に注入することができ、かかる電子の注入が第1の絶縁膜とは無関係に行われるため、第1の絶縁膜と窒化物半導体層との界面に存在するトラップ準位により窒化物半導体層から電荷蓄積用ゲート電極への電子の注入が阻害され所望量の負電荷を電荷蓄積用ゲート電極に蓄積できない、第1の絶縁膜が電荷注入の際にダメージを受ける、等の従来の構造による問題点が解消され、実用的なノーマリオフ窒化物半導体トランジスタ装置を得ることができる。なお、窒化物半導体層を第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層で構成する場合には、第2の窒化物半導体層の厚さを大きくすることにより、第1のゲート電極に印加する正の電圧を増やして導電チャネルを流れる電流を増大せしめる際に、第2の窒化物半導体層と第1の絶縁膜との間に存在する界面準位の影響を受け難くなるため、オン抵抗、オン電流などのスイッチとしての特性に優れるノーマリオフ窒化物半導体トランジスタ装置を得ることができる。
【0034】
本願発明によれば、オン抵抗やオン電流等のスイッチとしての特性に優れ、かつ特性のばらつきの少ないノーマリオフ窒化物半導体トランジスタ装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は、本願発明の実施例によるノーマリオフ窒化物半導体トランジスタ装置を示す平面図およびそのA―A’及びB―B’断面をそれぞれ示す断面図である。
図2図2は、図1に示したトランジスタ装置の各ノード間容量を示す等価回路図である。(a)は、活性領域に含まれるチャネル領域にチャネルが形成されているときを、(b)は、トランジスタ装置がオフ状態になり、チャネル領域に電子が実質的に居なくなった場合を示している。
図3図3は、本願発明の実施例によるノーマリオフ窒化物半導体トランジスタを複数並列に接続した装置を示す平面図およびそのa―a’及びb―b’断面をそれぞれ示す断面図である。
図4図4は、本願発明の他の実施例によるノーマリオフ窒化物半導体トランジスタ装置を示す平面図である。
図5図5は、本願発明の他の実施例によるノーマリオフ窒化物半導体トランジスタ装置を示す平面図およびそのA―A’及びB―B’断面をそれぞれ示す断面図である。
図6図6は従来例であるFETの平面図と断面図である。
図7図7は別の従来例であるFETの断面図である。
図8(a)】図8(a)は従来例であるFETのバンドダイアグラムを示す図である。
図8(b)】図8(b)は同じく従来例であるFETのバンドダイアグラムを示す図である。
図8(c)】図8(c)は同じく従来例であるFETのバンドダイアグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1に本願発明の一実施例によるFETの平面図とそのA-A’及びB―B’断面図を示す。平面図と断面図とでは縮尺が若干異なっている。基板101上にバッファ層102、GaN層103、AlGaN層104を順次積層する。基板101の材料には、シリコンカーバイド(SiC)、シリコン(Si)、サファイア、GaNなどが用いられる。
【0037】
次に平面図ないし断面図に示される様に、素子分離領域114をイオン打ち込みによりAlGaN層104、GaN層103ないしバッファ層102を電気的に不活性化することにより形成する。ここで、不活性化処理をしていない領域を活性領域と言う。素子分離領域内のAlGaN層104、さらにその下のGaN層103ないしバッファ層102を除去する方法を用いてもよい。次にフィールド絶縁膜105を形成する。その後、FETのチャネル部分となるチャネル領域106の部分だけフィールド絶縁膜105を除去し、第1の絶縁膜110を形成する。その後、金属あるいは導電性の半導体層により電荷蓄積用ゲート電極111を形成する。このとき、電荷蓄積用ゲート電極111は少なくともチャネル領域106上の第1の絶縁膜110上には存在し、その他、素子分離領域上に存在してもよい。ここで、電荷蓄積用ゲート電極111は実質的に電位が同じになる様に電気的に接続されている複数の材料で形成されてもかまわない。続いて、その上にブロック絶縁膜112を形成する。ブロック絶縁膜112は、電子の流れを実質的に遮断することのできる絶縁膜であり、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、アルミナ膜、酸化ジルコニウム膜、酸化ハフニウム膜、またはそれらの積層膜で構成することができ、厚さはSiO2膜換算で40nm程度が好ましい。その後、フィールド絶縁膜105上で電荷蓄積用ゲート電極111上の一部においてブロック絶縁膜112を除去することにより電荷注入領域113を形成し、当該領域113においては電荷蓄積用ゲート電極111上に、当該領域113以外においてはブロック絶縁膜112上に、トンネル絶縁膜115を形成する。トンネル絶縁膜115は、トンネル電子が流れることのできる絶縁膜であり、例えば酸化シリコン膜で構成し、厚さは例えば20nm、またはそれより薄くする。その後、金属あるいは導電性の半導体層により、第1のゲート電極116と第2のゲート電極117を形成する。第1のゲート電極116は、チャネル領域106の上方を含む電荷蓄積用ゲート電極111の主要部の上方に形成され、第2のゲート電極117は電荷注入領域113において、電荷蓄積用ゲート電極111を素子分離領域114の上方に張り出させた部分の上に、トンネル絶縁膜115に接して形成される。これらのゲート電極116、117を覆うように絶縁膜118を形成した後、ソース形成領域107とドレイン形成領域108の絶縁膜105、110、112、115および118を除去し、金属あるいは金属窒化物等の導電性材料あるいはそれらの積層膜により、ソース電極109とドレイン電極210を形成する。このとき、ソース電極109とドレイン電極210は、AlGaN層104にのみ接していてもGaN層103にも接していてもかまわない。
第1のゲート電極116と電荷蓄積用ゲート電極111のオーバーラップする領域の電流が動作時に十分小さいことが確保できれば、ブロック絶縁膜112を形成せず(従って電荷注入層の領域だけ除去する工程は不要となる)、トンネル絶縁膜115のみを介して第1のゲート電極116と電荷蓄積用ゲート電極111とをオーバーラップさせるようにしてもかまわない。
【0038】
上記の製造工程について、ソース電極109とドレイン電極210をフィールド絶縁膜105の形成直後に形成し、第1の絶縁膜110から第1のゲート電極116と第2のゲート電極117までの形成を行ってもかまわない。
【0039】
第2のゲート電極117に、電荷蓄積用ゲート電極111に対して負電圧を印加することにより、電荷注入領域113における両者の間のトンネル絶縁膜115を介して、電子が第2のゲート電極117から電荷蓄積用ゲート電極111に注入される。第1のゲート電極116から見たこのFETの閾値電圧は、電荷蓄積用ゲート電極111の電荷量によって変化する。所望の正の電圧になるように、第2のゲート電極117から電荷蓄積用ゲート電極111に注入する電子数を制御すれば、いわゆるノーマリオフのFETが実現する。
【0040】
ソース電極109と電荷蓄積用ゲート電極111およびドレイン電極210と電荷蓄積用ゲート電極111の間の領域では、AlGaN層104の厚さは10ナノメータ程度、或はそれ以上とし、十分な量の伝導電子をAlGaN/GaN界面の導電チャネルに誘起して、当該領域の抵抗を下げる。AlGaN層104のAlN混晶比、即ち、化学式をAlxGa1-xNと表記した際のxの値は、GaNと格子定数の異なるAlGaNが著しく格子緩和を起こさないように適宜調節する。通常、xは0.1から0.4の間で調節される。電荷蓄積用ゲート電極111は周囲を第1の絶縁膜110とブロック絶縁膜112とトンネル絶縁膜115で覆われ、電気的に浮遊状態となる。よって、パッケージに封止した際は、ソース電極109とドレイン電極210と第1のゲート電極116と第2のゲート電極117のみ外部ピンに接続される。或は第2のゲート電極117をフローティングにして外部ピンには接続せずに封止してもよい。外部ピンへ接続される電極は4つないし3つとなる。
【0041】
電荷蓄積用ゲート電極111として、金属層の他、不純物をドープした多結晶シリコンを使うことができる。その場合、不純物は燐、砒素、ボロン等を用いる。
【0042】
図1に示したFETの各ノード間容量を図2に示す。ブロック絶縁膜112とトンネル絶縁膜115を介して第1のゲート電極116を形成するとき、その面積を十分大きくとれば、電荷蓄積用ゲート電極111と第1のゲート電極116によって形成される容量120は、第2のゲート電極117と電荷蓄積用ゲート電極111で形成される容量121や電荷蓄積用ゲート電極111とソース及びドレインとの間に形成される容量119より大きくなり、第一のゲート電極116と電荷蓄積用ゲート電極111との容量結合を相対的に強くすることができる。このとき、電荷蓄積用ゲート電極111と第1のゲート電極116とのオーバーラップ部分は、素子分離領域114上でもかまわないが、活性領域内においてチャネル領域106からドレイン側に伸ばすことにより、フィールドプレートの役割を果たすことも期待できる。
チャネル領域106にチャネルが形成されているときを(a)、FETがオフ状態になり、チャネル領域106に電子が実質的に居なくなった場合を(b)で表している。第1のゲート電極116と電荷蓄積用ゲート電極111の間に容量120が、第2のゲート電極117と電荷蓄積用ゲート電極111の間に容量121が形成される。一方電荷蓄積用ゲート電極111とソース及びドレインとの間に形成される容量119は、チャネル領域106にチャネルが形成されているとき(図(a))には、電荷蓄積用ゲート電極111とソース-ドレイン間の電荷が蓄積している領域122の間に形成される。一方、チャネル領域106にチャネルが形成されていないとき(図(b))には、GaNは空乏化し、電荷蓄積用ゲート電極111とソース及びドレインとの間に容量123が形成されるが、容量123は容量119に比べて極めて小さくなる。
【0043】
第1のゲート電極116、ソース電極109、ドレイン電極210の電圧を固定し、それよりも低い電圧を第2のゲート電極117に印加することによって、第2のゲート電極117から電荷蓄積用ゲート電極111に電荷を注入する。本FETを動作させるときの条件、例えば、ソース電極109の電圧が0V、ドレイン電極210の電圧は使用する高電圧、第2のゲート電極117の電圧が0Vのときの第1のゲート電極116から見た閾値電圧Vthは電荷蓄積用ゲート電極111中の電荷量Qthによって決定される。通常、Vthは正電圧に設定される。第2のゲート電極117には第1のゲート電極116、ソース電極109より低い電圧Vinjを印加し総注入量がQthになるまで電圧を印加する。このとき、ソース電圧0V、第2のゲート電極の電圧がVinj、電荷蓄積用ゲート電極111の電荷量がQthのときに、チャネル領域106の電荷が実質的に消えるように第1のゲート電極の電圧を与えておけば、電荷蓄積用ゲート電極111の電荷量がQthになったときに図2の容量119が容量123に変化し、電荷蓄積用ゲート電極111とソース及びドレインとの間の容量結合が弱まるため、電荷蓄積用ゲート電極111と第1のゲート電極116および第2のゲート電極117との間の電圧の絶対値は、きわめて小さくなり、電荷注入が実質的に止まる。
【0044】
電荷注入後、本発明のFETを動作させる場合、ソースドレイン間を流れる電流をオンオフさせるのに必要な第一のゲート電極116に印加する電圧をより小さくするためには、第1のゲート電極116と電荷蓄積用ゲート電極111で形成される容量120がその他の容量より十分大きいことが望ましい。できれば、容量120は、第2のゲート電極117と電荷蓄積用ゲート電極111で形成される容量121に電荷蓄積用ゲート電極111とソース-ドレイン間の電荷が蓄積している領域122の間の容量119を加えたものより大きいことが望ましい。或は第2のゲート電極を第1のゲート電極と同電位にして動作させる場合は容量120と容量121の和を容量119より大きくすることが望ましい。これらは、容量120を形成する第1のゲート電極116と電荷蓄積用ゲート電極111のオ-バーラップする面積が、第2のゲート電極117と電荷蓄積用ゲート電極111がオ-バーラップする面積より大きいことで実現することができ、そのように大きくするための面積は、活性領域内においてチャネル領域106からドレイン電極210側に電荷蓄積用ゲート電極111を拡張し、その上部にブロック絶縁膜112とトンネル絶縁膜115を介して第1ゲート電極116を形成することで実現できる。
【0045】
本発明のFETにおいては、電荷蓄積用ゲート電極111の、素子分離領域114上方に延在させた部分上にトンネル絶縁膜115を介して第2のゲート電極117を設け、この部分すなわち電荷注入領域113において第2のゲート電極117と電荷蓄積用ゲート電極111の間に電流を流して、電荷蓄積用ゲート電極111に電荷を蓄積することにより、電荷蓄積用ゲート電極の電位を変化させる。従って、かかる電荷注入の影響が第1の絶縁膜110に及ぶことがなく、第1の絶縁膜110が電荷注入の際にダメージを受ける等の従来の構造による問題点が解消され、実用的なノーマリオフ窒化物半導体FETを得ることができる。
【0046】
ここで、大きなドレイン電流を得たい場合には、図1の構造を複数個並べて、第1のゲート電極116、第2のゲート電極117、ソース電極109、ドレイン電極210を並列に接続すればよい。このとき、第2のゲート電極117は、すべて並列に接続せず、一つずつのトランジスタに対し、一つのパッド、あるいは、全個数より少ない複数個に一つのパッドを引き出すことで、電子注入を行い、閾値を調整した後の複数個に接続したトランジスタの閾値のばらつきが小さくなる。また、並列に接続する工程をウェーハプロセスではなく、パッケージのボンディングによって行えば、不良チップを除去して大電流を流す半導体装置となる。
【0047】
並列に接続する場合は、図3に示すようにソース電極109とドレイン電極210を交互に配置し、その間に電荷蓄積用ゲート111を配置し、それぞれの第一のゲート電極116、ソース電極109,ドレイン電極210を接続すれば、上述、単体トランジスタの並列接続より、面積が小さく大電流が得られる。このとき、上述の単体の場合と同様に、ブロック絶縁膜112とトンネル絶縁膜115を介して第1のゲート電極116を形成するとき、その面積を十分大きくとれば、電荷蓄積用ゲート電極111と第1のゲート電極116によって形成される容量120は、第2のゲート電極117と電荷蓄積用ゲート電極111で形成される容量121や電荷蓄積用ゲート電極111とソースやドレインと形成する容量119より大きくなる。このとき、電荷蓄積用ゲート電極111と第一のゲート電極116を活性領域のドレイン側に伸ばすことにより、フィールドプレートの役割を果たすことも期待できる。
【0048】
さらに、図4に示すように電荷蓄積用ゲート電極111と第1のゲート電極116とのオーバーラップ部分を、素子分離領域114上に形成すれば、容量120を大きくすることができる。素子分離領域114上のオーバーラップ部分の面積が十分大きければ、電荷蓄積用ゲート電極111と第1のゲート電極116のドレイン側への引き延ばしは短くしても、または、無くしてもかまわない。或は、電荷蓄積用ゲート電極111と第1のゲート電極116とのオーバーラップ部分を素子分離領域114上のみに形成してもよい。この場合も、電荷蓄積用ゲート電極111を活性領域においてチャネル領域からドレイン側に伸ばすことにより、フィールドプレートの役割を果たすこともできる。なお、本実施例では活性領域内の電荷蓄積用ゲート電極111と素子分離領域114上に形成される電荷蓄積用ゲート電極111を共通の導電膜で同時に形成する場合について示したが、活性領域内の電荷蓄積用ゲート電極111と素子分離領域114上に形成された電荷蓄積用ゲート電極111を異なる導電膜で形成し、電気的に接続してもよい。
【0049】
第2のゲート電極117は、図3に示すように、一つのソース/ドレインおよび電荷蓄積用ゲート電極111で構成されるセルに対して、一つずつ設けてもかまわないし、複数個に一つ設けてもかまわない。全体で一カ所の場合は、図4に示すようにセル外であってもかまわない。全体で一個の場合は、上述の電荷注入方法で閾値を調整するが、セルを分割して第2のゲート電極117を形成すれば、その単位ごとに電荷注入が止まるので、閾値の調整が高精度化される。
【0050】
上述の実施例においては、窒化物半導体としてGaNおよびAlGaNを用いる場合について説明した。AlGaNのバンドギャップはGaNのバンドギャップより大きいため、AlGaNとGaNとの界面のGaN側に導電チャネルが形成される。上述の実施例においてはこの導電チャネルを用いている。本発明はGaN、AlGaN以外の窒化物半導体を用いてもよい。例えば、InN、InGaN、InAlN等のInを含む窒化物半導体を用いてもよい。或は組成の異なる窒化物半導体の多層構造を用いてもよい。材料および組成は、下層の主要部分がバンドギャップの小さい窒化物半導体で形成され、上層の主要部分がバンドギャップの大きい窒化物半導体で形成されるように選べばよい。
【0051】
第2の窒化物半導体の表面保護等の目的で、第2の窒化物半導体とは組成の異なる別の窒化物半導体を挿入してもよい。例えば、第1の窒化物半導体をGaN、第2の窒化物半導体をAlGaNとする場合、AlGaN直上に薄いGaN層を挿入してもよい。
【0052】
チャネル領域106において、AlGaN層104を途中までエッチングした後に第1の絶縁膜110を形成してもよい。この場合、AlGaN層104が薄くなるため第1のゲート電極に印加する正の電圧を増やして導電チャネルを流れる電流を増大せしめる際に第1の絶縁膜110とAlGaN層104との界面に存在するトラップ準位でフェルミ準位が固定され易くなり、その結果導電チャネルへの伝導電子の誘起が阻害され、オン抵抗等の特性が劣化する。その一方でAlGaN層104が薄くなり分極による閾値電圧の負側へのシフト量が減るため、所望の正の閾値電圧を得るために電荷蓄積用ゲート電極111に注入する負電荷の量を減らすことができる。またエッチング深さのばらつきにより初期の閾値電圧にばらつきが生じるが、前述の電荷蓄積用ゲート電極111への電荷注入を自動的に停止させる方法等によりばらつきを補償することができる。
【0053】
以上の実施例では、チャネル領域の導電チャネルが第1の窒化物半導体層と第2の窒化物半導体層との界面に形成される導電チャネルから成る場合について説明した。一方本発明は、単層の窒化物半導体の直上に第1の絶縁膜が設けられ、当該窒化物半導体と第1の絶縁膜との界面に形成される導電チャネルを通してソース・ドレイン間の電流が流れる窒化物半導体トランジスタに適用することも可能である。この場合の実施例を図5に示す。図5では、図1に示した実施例においてチャネル領域のAlGaN層104を除去しGaN層103まで掘り込み、第1の絶縁膜110をGaN層103の直上の形成し、その上に電荷蓄積用ゲート電極111を形成している。トランジスタ動作時におけるソース・ドレイン間の電流は第1の絶縁膜110とGaN層103との界面に形成される導電チャネルを通して流れる。それ以外は図1に示した実施例と同様である。トランジスタの閾値電圧の調整も図1及び図2で説明した方法と同じ要領で行えばよい。本実施例の窒化物半導体トランジスタは、導電チャネルが第1の絶縁膜110とGaN層103との界面に存在するトラップ準位の影響を強く受け、導電チャネルの電子移動度が低下する、第1のゲート電極116への正電圧印加による導電チャネルへの電子の誘起が阻害される、等の問題があるため、図1に示した実施例による窒化物半導体トランジスタ比べオン抵抗等の特性は大幅に劣る。しかし、AlGaN層の分極による閾値電圧の負側へのシフトがないため、所望のノーマリオフ動作に必要な正の閾値電圧を得るために電荷蓄積用ゲート電極111に注入する負電荷の量を大幅に減らすことができる。また、所望の閾値電圧に到達したところで第2のゲート電極117から電荷蓄積用ゲート電極111への電荷注入を自動的に停止させることができる、複数のセルで構成されるトランジスタにおいてセル間の閾値電圧のばらつきを低減することが出来るなどの効果が得られる点も、図1乃至図3で説明した窒化物半導体トランジスタの場合と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の窒化物半導体トランジスタ装置は、主として、電源回路等で用いられるパワースイッチとして有用である。それに加え、無線通信、センサ等に用いられる高周波トランジスタとしても有用である。高周波トランジスタとして用いる場合においては、本発明により閾値電圧を正に調整すれば正電圧電源のみでトランジスタを動作させることが出来るため、従来必要であった負電圧電源をなくすことが出来る。またトランジスタの閾値を負のままで動作させる場合においても、本発明による閾値電圧の調整方法により、トランジスタ間の閾値電圧ばらつき、或は複数本のゲート電極からなるトランジスタにおいてはトランジスタ内のゲート間の閾値電圧ばらつきを減らすことができ、特性ばらつきの少ない良好なトランジスタが得られる。
【符号の説明】
【0055】
101・・・基板、102・・・バッファ層、103・・・GaN層、104・・・AlGaN層、105・・・フィールド絶縁膜、106・・・チャネル領域、107・・・ソース形成領域、108・・・ドレイン形成領域、109・・・ソース電極、210・・・ドレイン電極、110・・・第1の絶縁膜、111・・・電荷蓄積用ゲート電極、112・・・ブロック絶縁膜、113・・・電荷注入領域、114・・・素子分離領域、115・・・トンネル絶縁膜、116・・・第1のゲート電極、117・・・第2のゲート電極、118・・・絶縁膜、119・・・電荷蓄積用ゲート電極とゲート直下導電チャネル間容量、120・・・電荷蓄積用ゲート電極と第1のゲート電極間容量、121・・・電荷蓄積用ゲート電極と第2のゲート電極間容量、122・・・ソース・ドレイン間の電荷が蓄積している領域、123・・・電荷蓄積用ゲート電極とゲート直下の導電チャネルが形成されていないフローティング領域との間の容量。1001・・・基板、1002・・・バッファ層、1003・・・GaN層、1004・・・AlGaN層、1005・・・絶縁膜、1006・・・リセスエッチング部、1007・・・ゲート電極、1008・・・ソース電極、1009・・・ドレイン電極、1010・・・導電チャネル、1101・・・基板、1102・・・バッファ層、1103・・・GaN層、1104・・・AlGaN層、1105・・・絶縁膜、1106・・・リセスエッチング部、1107・・・ゲート電極、1108・・・ソース電極、1109・・・ドレイン電極、1110・・・導電チャネル、1111・・・導電チャネル、1201・・・伝導帯下端、1202・・・AlGaN層内に存在する分極(P)、1203・・・フェルミ準位(EF)、1204・・・トラップ準位、1205・・・正のゲート電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8(a)】
図8(b)】
図8(c)】