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特許7141060防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料及びその成形フイルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料及びその成形フイルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20220914BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20220914BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20220914BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20220914BHJP
   C08L 23/02 20060101ALI20220914BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20220914BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
C08J3/22 CES
B32B27/18 E
B32B27/32 E
C08K5/098
C08L23/02
C08L23/06
C08L71/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018219501
(22)【出願日】2018-11-22
(65)【公開番号】P2020084008
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】501451842
【氏名又は名称】株式会社テクノスタット工業
(73)【特許権者】
【識別番号】592176011
【氏名又は名称】タイヨーニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002398
【氏名又は名称】特許業務法人小倉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中沢 敏志
(72)【発明者】
【氏名】マヒーン シャラリー
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-116446(JP,A)
【文献】特開2006-103033(JP,A)
【文献】特許第3356376(JP,B2)
【文献】国際公開第2009/054342(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K3/00-13/08;C08L1/00-101/14
C08J3/00-3/28;99/00
C08J5/00-5/02;5/12-5/22,106
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテル系ブロック共重合体12~20wt%とポリオレフィン樹脂80~88wt%とからなる帯電防止性能を有する熱可塑性樹脂96~98wt%と,
鉄及び非鉄用気化性防錆剤75~85wt%と低密度ポリエチレン15~25wt%から成る第1のマスターバッチと,鉄用気化性防錆剤75~85wt%と低密度ポリエチレン15~25wt%から成る第2のマスターバッチとが2:0.5~2:1.5の重量比で混合された防錆性能を有する熱可塑性樹脂2~4wt%とが,
加熱混練されてなる防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料。
【請求項2】
前記第1のマスターバッチと前記第2のマスターバッチとが,2:1.5の重量比で混合されたことを特徴とする請求項1記載の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料。
【請求項3】
前記第1のマスターバッチと前記第2のマスターバッチとが,2:0.5~2:0.7の重量比で混合されたことを特徴とする請求項1記載の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料。
【請求項4】
前記鉄用気化性防錆剤並びに,前記鉄及び非鉄用気化性防錆剤が,カルボン酸塩を主成分としたことを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料。
【請求項5】
前記ポリエーテル系ブロック共重合体が,ポリエーテル‐ポリオレフィンブロック共重合体であることを特徴とする請求項1~4いずれか1項記載の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料。
【請求項6】
前記ポリエーテル-ポリオレフィンブロック共重合体の融点が114~116℃の範囲内にあることを特徴とする請求項5記載の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料。
【請求項7】
前記ポリオレフィン樹脂が,低密度ポリエチレン,直鎖状低密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン又は,ポリプロピレンであることを特徴とする請求項1~6いずれか1項記載の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料。
【請求項8】
請求項1~7いずれか1項記載の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料から形成されたフイルム。
【請求項9】
請求項8記載のフイルムが,ポリエチレンフイルムの表面及び裏面に積層された2種3層又は3種3層構成の積層フイルム。
【請求項10】
前記ポリエチレンフイルムが,低密度ポリエチレン又は直鎖状低密度ポリエチレンからなることを特徴とする請求項9記載の積層フイルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えば,非鉄金属からなる基板から,鉄を含む各種金属からなる電子部品が搭載された機器装置までの包装材(包装袋,包装容器等を含む。)に用いられる帯電防止性能及び防錆性能を有する熱可塑性樹脂材料に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材の帯電防止の方法としては,例えば,低分子の界面活性剤を低密度ポリエチレンに分散させてポリエチレン表面に析出膜を形成させ,該膜に空気中の水分を吸着させることで,前記ポリエチレン内の帯電静電気をポリエチレン表面から拡散放出させ,帯電電荷を減衰させる方法があった。
【0003】
しかし,上述の帯電防止の方法は,界面活性剤の移行汚染の問題があり,また,帯電防止性能の湿度依存性が大きいため,上述の帯電防止が施された包装材は今日のグローバルな物品流通時代に適切でなくなってきている。
【0004】
また,近年では,静電気障害に対して様々に対応するように国際規格化が進んできており,例えば,IEC規格(国際電気標準会議規格)として,電子デバイスの保護についてはIEC61340-5-1が規格化され,また,コンテナ輸送の静電気障害防止(静電気放電着火防止)についてはIEC61340-4が規格化され,静電気障害対策が各分野で整えられてきている。
【0005】
上述した昨今の動向に対し,高分子型の帯電防止樹脂が各社により開発され,その機能も向上しており,出願人においても前記高分子型の帯電防止樹脂を使用して防錆・帯電防止性熱可塑性樹脂成形品を発明している(特許文献1)。
【0006】
なお,出願人が発明した上記防錆・帯電防止性熱可塑性樹脂成形品は,非鉄用気化性防錆剤を含有しており,主に,プリント基板の包装材として使用されるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3356376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし,包装されるプリント基板に関し,近年では,プリント基板そのものを包装する機会はほとんど無く,通常,プリント基板が組み込まれた装置を包装することが殆どであるため,現在,包装材に求められる性能は,非鉄金属のみではなく鉄を含む装置全体の防錆性能と帯電防止性能となっている。
【0009】
また,プリント基板そのものではなく装置となると,その所在や環境もさまざまに変わるため,温度,湿度,また,紫外線を加味した様々な状況下での防錆及び帯電防止の両性能が包装材に要求されてきている。
【0010】
なお,鉄系金属は他金属に比べて錆が発生しやすい分,鉄用の気化性防錆剤は,他金属用に比べて強い質が求められ,また,添加量も多いため,帯電防止用として混合される帯電防止樹脂が化学的に安定しないという問題があった。
【0011】
例えば,前記高分子型の帯電防止樹脂としてアルカリ金属含有のアイオノマーが使用される場合があるが,該アルカリ金属含有のアイオノマーには,従来,アルカリ金属を含有させるために不飽和カルボン酸の含有量を高めた,多価アルコールを水素結合状態で含有するアイオノマーが使用されており,このような多価アルコールを含有したアイオノマーは,前記鉄用気化性防錆剤との組み合わせにおいて,フイルム成形時の成形温度で前記鉄用気化性防錆剤と化学反応してフイルムに揮発(遊離)成分による気泡が多数発生して発泡状態となり,フイルム成形が困難となる問題が有った。
【0012】
また,多価アルコールを水素結合状態で含有するアイオノマーは,アイオノマーの融点が低くなり,耐熱性を要求される用途には不適当であった。
【0013】
さらに,多価アルコールを含有するアイオノマーは,40℃を超えた温度領域ではカリウムイオン基に結合されている多価アルコールが解離されて機能が低下すること,また紫外線照射によっても機能劣化することが判明しており,更には酸,アルカリ性にも機能性劣化がみられる。
【0014】
一方,防錆剤については,鉄系金属は他金属より錆が発生しやすく,錆の進行も早いので亜硝酸及びアミン系を主成分とした防錆剤を使用するのが一般的であるが,これらは発癌性の疑いがあり,使用を控えるように強く求められてきている。
【0015】
また,物品の流通において,物品が世界各国に飛び交える昨今,上述した通り,静電気障害の対策基準も国単位でなく国際規格が一般化されており,電子機器対象のみならず,静電気障害や静電気放電による着火及び爆発の防止にも国際規格化がなされ,食料品から工業用原材料,医薬品,化粧品,中間体等に至るまで国外輸出,輸入には,国際規格に適合する梱包材が条件になっている。ただし,前記国際規格の基準が23℃,20±5%HRであり,日本国内環境では稀な環境が基準になっており,これに適合する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は,叙上の課題を解決するために開発されたもので,本発明の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料は,
イオン伝導性ポリマーとしてポリエーテル系ブロック共重合体を使用し,前記ポリエーテル系ブロック共重合体12~20wt%とポリオレフィン樹脂80~88wt%とからなる帯電防止性能を有する熱可塑性樹脂96~98wt%と,
鉄及び非鉄用気化性防錆剤75~85wt%と低密度ポリエチレン樹脂15~25wt%からなる第1のマスターバッチと,鉄用気化性防錆剤75~85wt%と低密度ポリエチレン15~25wt%からなる第2のマスターバッチとが2:0.5~2:1.5の重量比で混合された防錆性能を有する熱可塑性樹脂2~4wt%とが,
加熱混練されてなる事を特徴とする(請求項1)。
【0017】
なお,本発明の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料は,前記第1のマスターバッチと前記第2のマスターバッチの配合比率(重量比)を適宜選択することが可能で,例えば,鉄の防錆を重視して,前記第1のマスターバッチと前記第2のマスターバッチとが2:1.5の重量比で混合されても良く(請求項2),また,非鉄の防錆を重視して,前記第1のマスターバッチと前記第2のマスターバッチとが,2:0.5~2:0.7の重量比で混合されてもよい(請求項3)。
【0018】
前記鉄用気化性防錆剤並びに,前記鉄及び非鉄用気化性防錆剤は,カルボン酸塩を主成分としたものを使用するのが好ましい(請求項4)。
【0019】
また,前記ポリエーテル系ブロック共重合体が,ポリエーテル-ポリオレフィンブロック共重合体であることが好適である(請求項5)。
【0020】
特に,前記ポリエーテル-ポリオレフィンブロック共重合体の融点が114~116℃の範囲内にあることが好ましい(請求項6)。
【0021】
前記ポリオレフィン樹脂は,低密度ポリエチレン,直鎖状低密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン又は,ポリプロピレンであることが好ましい(請求項7)。
【0022】
また,上述した本発明の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料からフイルムを形成しても良い(請求項8)。
【0023】
また,前記本発明のフイルムが,ポリエチレンフイルムの表面及び裏面に積層された2種3層(前記ポリエチレンフイルムの両面に積層される2の本発明のフイルムが同一成分かつ同一配合比からなる本発明の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料から形成されたフイルムである場合)又は3種3層(前記ポリエチレンフイルムの両面に積層される2の本発明のフイルムが異なる成分又は異なる配合比からなる本発明の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料から形成されたフイルムである場合)構成の積層フイルムとしても良い(請求項9)。
【0024】
なお,前記ポリエチレンフイルムは,低密度ポリエチレン又は直鎖状低密度ポリエチレンからなることが好ましい(請求項10)。
【発明の効果】
【0025】
上述の構成を有する本発明の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料は,帯電防止効果の他に,鉄・非鉄両方に防錆効果を有し,化学的にも安定している。
【0026】
特に,本発明の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料は,帯電防止性能評価23℃,20±5%RH環境下で表面抵抗率1012Ω/□以下となる上,防錆効果試験で好結果が得られた(錆発生が殆ど見受けられない)。
【0027】
また,本発明は,帯電防止剤に多価アルコールを含有しないポリエーテル系ブロック共重合体(イオン伝導性ポリマー)を使用しているため,本発明の樹脂材料を使用してフイルムを形成しても,鉄用気化性防錆剤と反応して発泡するようなことが無く,フイルム形成が問題なくできた。
【0028】
また,上述した,従来の多価アルコールを含有するアイオノマーを使用することでみられた,40℃を超えた温度領域で多価アルコールが解離されて機能低下すること及び紫外線照射による機能劣化,更には酸,アルカリ性に対する機能性劣化等の問題は,帯電防止剤に多価アルコールを含有しない本発明の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料にはみられない。
【0029】
本発明の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料は,鉄・非鉄両方に防錆効果を有するものであるが,鉄又は非鉄いずれかを重点的に防錆するかで,前記第1のマスターバッチと前記第2のマスターバッチの配合比率(重量比)を2:0.5~2:1.5の範囲で適宜選択することが可能で,例えば,前記第1のマスターバッチと前記第2のマスターバッチを2:1.5の重量比で混合する場合は,主として鉄用の防錆剤として働き,かつ,非鉄金属(例えば,銅及び銅合金)に変色等の悪影響を与えないものとなり,また,前記第1のマスターバッチと前記第2のマスターバッチNNNA1-Fを2:0.5~2:0.7の重量比で混合することで,非鉄に対する防錆効果を上げるようにすることができた。
【0030】
また,本発明の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料は,前記鉄用気化性防錆剤並びに,前記鉄及び非鉄用気化性防錆剤に,カルボン酸塩を主成分としたものを使用することで,発癌性の疑いのある亜硝酸ナトリウム又はアミン類を主成分とする防錆剤の使用を回避することができ,安全である。
【0031】
また,本発明の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料から形成された本発明のフイルムは,薄膜層でも防錆性能及び帯電防止性能維持が可能であり,さらに,ポリエチレンフイルムの表面及び裏面に本発明のフイルムを積層して2種3層又は3種3層構成の積層フイルムとすることにより,反親水性層で梱包内の透湿を抑えてより防錆効果を発揮することができた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施例1のパターン「NNNA1-M/NNNA1-F=2wt%/1.5wt%」,厚み「60μm」のフイルムの防錆性能の評価写真を示したものである。
図2】実施例1のパターン「NNNA1-M/NNNA1-F=2wt%/1.5wt%」,厚み「80μm」のフイルムの防錆性能の評価写真を示したものである。
図3】実施例1のパターン「NNNA1-M/NNNA1-F=2wt%/1.2wt%」,厚み「60μm」のフイルムの防錆性能の評価写真を示したものである。
図4】実施例1のパターン「NNNA1-M/NNNA1-F=2wt%/1.2wt%」,厚み「80μm」のフイルムの防錆性能の評価写真を示したものである。
図5】実施例1のベンチマークであるZERUST MYFフイルムの防錆性能の評価写真を示したものである。
図6】実施例1のベンチマークであるLDPE汎用フイルムの防錆性能の評価写真を示したものである。
図7】実施例2のパターン「NNNA1-M/NNNA1-F=2wt%/1.5wt%」,厚み「60μm」,層構成比「1/2/1」のフイルムの防錆性能の評価写真を示したものである。
図8】実施例2のパターン「NNNA1-M/NNNA1-F=2wt%/1.5wt%」,厚み「60μm」,層構成比「1/3/1」のフイルムの防錆性能の評価写真を示したものである。
図9】実施例2のパターン「NNNA1-M/NNNA1-F=2wt%/1.5wt%」,厚み「80μm」,層構成比「1/2/1」のフイルムの防錆性能の評価写真を示したものである。
図10】実施例2のパターン「NNNA1-M/NNNA1-F=2wt%/1.5wt%」,厚み「80μm」,層構成比「1/3/1」のフイルムの防錆性能の評価写真を示したものである。
図11】実施例2のベンチマークであるZERUST MYFフイルムの防錆性能の評価写真を示したものである。
図12】実施例2のベンチマークである一般LDPEフイルムの防錆性能の評価写真を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下,本発明の実施の形態について,説明する。
【0034】
本発明の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料は,帯電防止性能を有する熱可塑性樹脂と,防錆性能を有する熱可塑性樹脂とを加熱混練してなるものである。
【0035】
まず,前記帯電防止性能を有する熱可塑性樹脂としては,多価アルコールを含有しないイオン伝導性ポリマーと,ポリオレフィン樹脂とを混合してなる樹脂組成物が使用される。
【0036】
前記多価アルコールを含有しないイオン伝導性ポリマーとしては,ポリエーテル系ブロック共重合体が好ましく,例えば,ポリエーテル-ポリオレフィンブロック共重合体やポリエーテル-ポリアミドブロック共重合体等が好適である。また,イオン伝導性ユニットとしてポリエチレンオキシド(PEO)鎖を有するポリエーテル系ブロック共重合体が好ましい。
【0037】
前記ポリエーテル系ブロック共重合体としては,例えば,三洋化成工業社製のペレスタット230,ペレスタットHC250,ペレスタット300,ペレスタット2450,ペレクトロンPVH,ペレクトロンHS,ペレクトロンAS,ペレクトロンLMP-FS等が挙げられる。
【0038】
なお,上記ペレクトロンシリーズは紫外線,耐薬品,温度等による機能性劣化が少なく,表面抵抗率も優れ,化学的に安定もしており,好適である。特に,ペレクトロンLMP-FSは,低融点(114~116℃)でありフイルムの形成に適し,また静電気拡散性の性能から特に好ましく,また,その他の機能性能として紫外線,耐熱にも安定した性能維持がなされ,耐薬品性についても安定した素材である。
【0039】
また,前記イオン伝導性ポリマーと混合される前記ポリオレフィン樹脂としては,例えば,低密度ポリエチレン,直鎖状低密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン又は,ポリプロピレン等が挙げられ,また,これらを混合して使用しても良い。
【0040】
また,前記イオン伝導性ポリマーとして前記ポリエーテル系ブロック共重合体を使用する場合の前記ポリオレフィン樹脂との配合比は,前記ポリエーテル系ブロック共重合体12~20wt%に対して前記ポリオレフィン樹脂80~88wt%とすることが好ましい。
【0041】
なお,前記ポリエーテル系ブロック共重合体の前記オレフィン樹脂中への混合は,溶融混合又は,ドライブレンドしてからの溶融混合等が挙げられる。
【0042】
一方,前記防錆性能を有する熱可塑性樹脂組成物としては,鉄及び非鉄用気化性防錆剤と,鉄用気化性防錆剤と,低密度ポリエチレンとを含有するものが使用される。
【0043】
具体的には,鉄及び非鉄用気化性防錆剤75~85wt%と低密度ポリエチレン15~25wt%から成る第1のマスターバッチと,鉄用気化性防錆剤75~85wt%と低密度ポリエチレン15~25wt%から成る第2のマスターバッチとが,2:0.5~2:1.5の重量比で混合された混合物が使用される。
【0044】
本発明では,上述の2種類の異なる化学成分を有するマスターバッチを混合することにより,帯電防止の他に,主として鉄鋼の防錆を行うとともに,非鉄金属に対しても錆を抑制する機能を有する。
【0045】
また,上述の通り,本発明は,鉄・非鉄両方に防錆効果を有するものであるが,鉄又は非鉄いずれかを重点的に防錆するかで,前記第1のマスターバッチと前記第2のマスターバッチの重量比を2:0.5~2:1.5の範囲で適宜選択することが可能で,例えば,前記第1のマスターバッチと前記第2のマスターバッチを2:1.5の重合比で混合する場合は,主として鉄用の防錆剤として働き,かつ,非鉄金属(例えば,銅,銅合金等。)に変色等の悪影響を与えないものとなり,また,前記第1のマスターバッチと前記第2のマスターバッチを2:0.5~2:0.7の重合比で混合することで,非鉄に対する防錆効果を上げるようにすることができる。
【0046】
なお,前記第1のマスターバッチには,例えば,Northern Technologies International Corporation USA 製のマスターバッチZERUST NNNA1-Mが好適に使用され,前記第2のマスターバッチには,例えば,Northern Technologies International Corporation USA 製のマスターバッチZERUST NNNA1-Fが好適に用いられる。
【0047】
また,従来の鉄用防錆剤には,防錆薬剤として亜硝酸ナトリウムまたはアミン類が使用されているが,前記ZERUST NNNA1-M及び前記ZERUST NNNA1-Fの主たる防錆成分はカルボン酸塩であり,発癌性が疑われている亜硝酸ナトリウム及びアミン類を使用していない。
【0048】
本発明の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料は,上述した通り,帯電防止性能を有する熱可塑性樹脂と,防錆性能を有する熱可塑性樹脂組成物とを加熱混練してなるものであるが,全体の配合比率については,イオン伝導性ポリマーとして前記ポリエーテル系ブロック共重合体12~20wt%とポリオレフィン樹脂80~88wt%とからなる樹脂組成物(帯電防止性能を有する熱可塑性樹脂)96~98wt%と,鉄及び非鉄用気化性防錆剤75~85wt%と低密度ポリエチレン15~25wt%から成る第1のマスターバッチと,鉄用気化性防錆剤75~85wt%と低密度ポリエチレン15~25wt%から成る第2のマスターバッチとが,2:0.5~2:1.5の重量比で混合された混合物(防錆性能を有する熱可塑性樹脂組成物)2~4wt%と,を加熱混練したものが好適である。
【実施例
【0049】
(実施例1)
本発明の実施例1として,メタロセン触媒LLDPEにペレクトロンLMP-FSを混合した帯電防止性能を有する樹脂組成物(熱可塑性樹脂)に,前記第1のマスターバッチとしてZERUST NNNA1-Mと,前記第2のマスターバッチとしてZERUST NNNA1-Fとを混合した防錆性能を有する樹脂組成物(熱可塑性樹脂)を添加し,加熱混練して得た防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料から,防錆及び帯電防止フイルムを形成し,該フイルムについて帯電防止性能試験と防錆性能試験を行った。
【0050】
なお,実施例1では,後述する二つの異なる配合比からなる防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料から形成された防錆及び帯電防止フイルム(実施例1-1と実施例1-2)を用意した。
【0051】
まず,一つ目の配合比として,実施例1-1は,メタロセン触媒LLDPE85wt%にペレクトロンLMP-FS15wt%を混合した帯電防止性能を有する樹脂組成物96.5wt%に,前記ZERUST NNNA1-Mと前記ZERUST NNNA1-Fとを2:1.5の割合で混合された防錆性能を有する樹脂組成物3.5wt%を添加したものを加熱混練して得た防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料から形成された防錆及び帯電防止フイルムである。
【0052】
次に,二つ目の配合比として,実施例1-2は,メタロセン触媒LLDPE85wt%にペレクトロンLMP-FS15wt%を混合した帯電防止性能を有する樹脂組成物96.8wt%に,ZERUST NNNA1-MとZERUST NNNA1-Fとを2:1.2の割合で混合された防錆性能を有する樹脂組成物3.2wt%を添加したものを加熱混練して得た防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料から形成された防錆及び帯電防止フイルムである。
【0053】
また,比較例1として,メタロセン触媒LLDPE75wt%にエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体のカルボキシル基をカリウムイオンで架橋したカリウムイオンアイオノマーのMK400(三井デュポンポリケミカル(株)製。多価アルコールを含有しない帯電防止剤。)25wt%を混合した樹脂組成物96.8wt%に,ZERUST NNNA1-MとZERUST NNNA1-Fを2:1.2の割合で混合した混合物3.2wt%を添加したものを加熱混練して得た樹脂からフイルムを形成し,該フイルムについて実施例1と同じく帯電防止性能試験及び防錆性能試験を行った。
【0054】
なお,実施例1(実施例1-1,実施例1-2)及び比較例1は,それぞれ混合原料各100Kgを実施例1から比較例1の順で加熱混練し,以下の表1に示す成形機と条件でインフレーション法により,厚み0.06mm(60μm)のフイルムと厚み0.08mm(80μm)のフイルムに成形した。
【0055】
【表1】
【0056】
上述のように形成された実施例1(実施例1-1,実施例1-2)及び比較例1のフイルムの帯電防止性能について,表面抵抗率(IEC61340-5準拠)と減衰時間(MIL規格準拠)の試験結果を以下の表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
実施例1の2つの異なる配合比(上記実施例1-1,実施例1-2)から形成された2種類の厚み(60μm,80μm)の計4種類のフイルムは,表2に示すように,表面抵抗率の値が「5.1~5.6×1010」の範囲内で,減衰時間が全て「0.01sec」という結果となった。
【0059】
なお,上記表2枠外の*欄に記載の通り,外観気泡の発生有無で比較例1は発泡が有り,そのため比較例1については測定不可という結果になった。
【0060】
原因は,前記MK400のMFR値が低く剪断発熱でNNNA1-Fの分解発泡が発生したためである。
【0061】
次に,実施例1及び,比較例1のフイルムの防錆効果について述べる。
【0062】
まず,実施例1のフイルムについて,防錆試験を行いその結果を以下の表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
なお,試験条件は,サイクル試験恒温恒湿槽(日測エンジニアリング製)に,2の試験片SPCC(冷延鋼板)それぞれを表3の各パターンの成形フイルムにて包んだものを載置し,9時間(温度:25℃,湿度:98%RH)→3時間(温度:25℃→55℃,湿度:98%RH→93%RH)→9時間(温度:55℃,湿度:93%RH)→3時間(温度:55℃→25℃,湿度93%RH→98%RH)の24時間を1サイクルとして17サイクル(17日間)実施した。
【0065】
また,防錆能力を比較確認するためのベンチマークとして,従来の鉄用防錆フイルムであるタイヨーニック(株)製のZERUST MYFフイルムと,LDPE汎用フイルムを使用した。
【0066】
そして,図1~6は,上記表3の各パターンの防錆性能の評価写真である。
【0067】
次に,比較例1の防錆試験結果を以下の表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
なお,比較例1の防錆試験は,水噴霧試験装置に試験サンプル(試験片SPCC(冷延鋼板))を表4の各パターンの成形フイルムにて包んだものを投入し,イオン交換水を17日間噴霧して行った。また,試験中の噴霧室内の温度は40℃とし,湿度は98%以上とした。
【0070】
また,防錆能力を比較確認するためのベンチマークとして,従来の鉄用防錆フイルムであるタイヨーニック(株)製のZERUST MYFフイルムと,LDPE汎用フイルムを使用した。
【0071】
試験結果については,比較例1のフイルムは,多数の発泡が生じているため水分の透過が著しく,防錆効果については測定するまでもない程に錆の発生が多かったため,表4に示すように試験中止となった。
【0072】
防錆評価試験での錆度合と評価点数の評価方法を以下の表5に示す。点数が大きい程,錆が少なく(評価が高くなり),9点以上が防錆効果ありと評価される。
【0073】
なお,表3に示す実施例1のパターン「NNNA1-M/NNNA1-F=2wt%/1.5wt%」の「厚み60μm」は,平均値が9点を下回っているが,試験片2では9点の評価点数を得ているため防錆効果有りと評価できる。
【0074】
【表5】
【0075】
(実施例2)
本発明の実施例2のフイルムは,実施例1-1のパターン「NNNA1-M/NNNA1-F=2wt%/1.5wt%」と同成分かつ同配合比の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料から形成された防錆及び帯電防止フイルムを,LLDPEフイルムの表面及び裏面に積層した2種3層構造(防錆及び帯電防止フイルム層/LLDPEフイルム層/防錆及び帯電防止フイルム層)である。
【0076】
実施例1-1と同成分の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料(ペレクトロンLMP-FSを含有している。)から形成された前記防錆及び帯電防止フイルムは,薄膜層でも帯電防止性能維持が可能であり,上述した実施例2のフイルム(防錆及び帯電防止フイルム層/LLDPEフイルム層/防錆及び帯電防止フイルム層)のように2種3層にして中間層を一般LLDPE層にすることにより,反親水性層で梱包内の透湿を抑えてより防錆効果を出すことができる。
【0077】
なお,実施例2では,同一成分及び同一配合比の本発明の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料から形成された2枚の防錆及び帯電防止フイルムをLLDPEフイルムの表面及び裏面に積層して2種3層としたが,異なる成分又は異なる配合比の本発明の防錆及び帯電防止性熱可塑性樹脂材料から形成された2枚の防錆及び帯電防止フイルムをLLDPEフイルムの表面及び裏面に積層して,3種3層のフイルムとしても構わない。
【0078】
実施例2のフィルム(3層)の成形条件を以下の表6に示す。なお,実施例2のフイルムは,共押出法により3層にする。
【0079】
【表6】
【0080】
次に,実施例2のフイルム(層比(外層の厚み/中間層の厚み/内層の厚み)を1/2/1とするもの,1/3/1とするものにつき,総厚み(層厚)を60μmとするものと,総厚み(層厚)を80μmとするものとの計4種類のパターンのフイルムを用意した。)について,帯電防止性能として,表面抵抗率(IEC61340-5準拠)と減衰時間(MIL規格準拠)について試験した結果を以下の表7-1及び表7-2に示す。
【0081】
【表7-1】
【0082】
【表7-2】
【0083】
表7-1及び表7-2に示すように,実施例2のいずれのパターンの成形フイルムも表面抵抗率1012Ω/□以下で,減衰時間も+側及び-側で,2秒以下という好結果となった。
次に,実施例2のフイルムについて,防錆試験を行いその結果を以下の表8に示す。
【0084】
【表8】
【0085】
なお,上記表4の防錆試験は,水噴霧試験装置に,試験サンプル(試験片SPCC(冷延鋼板))を表4の各パターンの成形フイルムにて包んだものを投入し,イオン交換水を17日間噴霧して行った。また,試験中の噴霧室内の温度は40℃とし,湿度は98%以上とした。
【0086】
なお,防錆能力を比較確認するためのベンチマークとして,従来の鉄用防錆フイルムであるタイヨーニック(株)製のZERUST MYFフイルムと,一般LDPEフイルムを使用した。
【0087】
また,表8内の項目「*層構成比」は,厚みの構成比(外層/中間層/内層)を示している。
【0088】
そして,図7~12は,上記表8の各パターンのフイルムの防錆性能の評価写真であり,図中マーキング箇所が評価点である。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
図10
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図12