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<図1>
  • 特許-歯科用補綴物及びその部品 図1
  • 特許-歯科用補綴物及びその部品 図2
  • 特許-歯科用補綴物及びその部品 図3A
  • 特許-歯科用補綴物及びその部品 図3B
  • 特許-歯科用補綴物及びその部品 図3C
  • 特許-歯科用補綴物及びその部品 図4
  • 特許-歯科用補綴物及びその部品 図5A
  • 特許-歯科用補綴物及びその部品 図5B
  • 特許-歯科用補綴物及びその部品 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】歯科用補綴物及びその部品
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/12 20060101AFI20220914BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20220914BHJP
   A61K 6/75 20200101ALI20220914BHJP
   A61C 8/00 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
A61L27/12
A61L27/40
A61K6/75
A61C8/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018514645
(86)(22)【出願日】2017-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2017016443
(87)【国際公開番号】W WO2017188285
(87)【国際公開日】2017-11-02
【審査請求日】2020-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2016087553
(32)【優先日】2016-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516124720
【氏名又は名称】医療法人Natural Smile
(73)【特許権者】
【識別番号】516124719
【氏名又は名称】株式会社岡部
(73)【特許権者】
【識別番号】509090601
【氏名又は名称】株式会社ソフセラ
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】藤波 淳
(72)【発明者】
【氏名】藤波 美和
(72)【発明者】
【氏名】岡部 真一
(72)【発明者】
【氏名】檜枝 洋記
(72)【発明者】
【氏名】小粥 康充
(72)【発明者】
【氏名】河邉 カーロ 和重
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-038949(JP,A)
【文献】特表2009-515600(JP,A)
【文献】特開2005-319022(JP,A)
【文献】米国特許第05344457(US,A)
【文献】国際公開第2010/125686(WO,A1)
【文献】特許第5980982(JP,B2)
【文献】特許第6072968(JP,B2)
【文献】J. Biomed. Mater. Res. Part A, 2015, Vol.103A, pp.3139-3147
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00-27/60
A61K 6/00- 6/90
A61C 8/00- 8/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用補綴物又はその部品において、
前記歯科用補綴物又はその部品が、前記歯科用補綴物又はその部品の表面にハイドロキシアパタイト微粒子を有しており、
前記ハイドロキシアパタイト微粒子が、焼結体であり、且つ
前記ハイドロキシアパタイト微粒子の平均粒子径が、10~1,000nmであり、
前記ハイドロキシアパタイト微粒子の表面被覆率が15~60%であり、
前記ハイドロキシアパタイト微粒子が、リンカー又はバインダーを介して前記歯科用補綴物又はその部品に付着し、
前記ハイドロキシアパタイト微粒子が、炭酸カルシウムを含まず、
前記歯科用補綴物又はその部品の素材が、貴金属、純チタン、チタン合金、チタン・ニッケル合金、コバルト・クロム合金、ジルコニア、人工サファイア、アクリル酸、アクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸誘導体、又は、芳香族ポリエーテルケトンであり、
前記リンカーが、イソシアネート基を2つ以上有する化合物、カルボキシル基を2つ以上有する化合物、イソシアネート基およびカルボキシル基を1つずつ以上有する化合物、又は、アルコキシシリル基を1つ以上有する化合物であり、
前記バインダーが、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、又は、ポリイソプロピルアクリルアミドである
ことを特徴とする歯科用補綴物又はその部品。
【請求項2】
前記歯科用補綴物が、口腔内の骨に埋入される人工歯根であるインプラントであり、前記部品が、前記インプラントに使用されるアバットメントである、請求項1記載の歯科用補綴物又はその部品。
【請求項3】
前記ハイドロキシアパタイト微粒子は、X線回折法(XRD)により測定されたd=2.814での半値幅が0.8以下である、請求項1又は2に記載の歯科用補綴物又はその部品。
【請求項4】
前記ハイドロキシアパタイト微粒子は、粒子径の変動係数が20%以下である、請求項1~3のいずれかに記載の歯科用補綴物又はその部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内にて使用される歯科用補綴物及びその部品に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示されるように、インプラント1(インプラントキット)は、上部構造1-1(歯冠部分:インプラント義歯)とインプラント体1-4{歯根部分:フィクスチャー(人工歯根)}からなる。ここで、スクリュー1-2を介して、上部構造1-1とインプラント体1-4とを連結させる部分がアバットメント1-3である。
【0003】
ここで、インプラントを埋入した後長期間経過すると、アバットメント(歯科用材料)と歯肉との間に隙間ができ、当該隙間から雑菌が侵入し、感染や炎症を引き起こすことがある。そこで、これを解決すべく、様々な手法が提案されている。
【0004】
まず、特許文献1には、人工歯根であって、歯肉当接面を生体不活性成分{CaMgSi(ディオプサイト)結晶}で被覆し抗菌性を付与する技術が提案されている。また、特許文献2には、酸化ガリウムを含む表面層を形成する抗菌性コーティングをアバットメントに施す技術が提案されている。更に、特許文献3には、治療剤+錯化剤+カルシウムイオン+リンイオンを含む電解溶液を用い、正電荷した治療剤錯体を含有するリン酸カルシウムイオンによりインプラント表面を被覆する技術が提案されている。また、特許文献4には、NO放出ポリマーによりインプラントを表面被覆する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平04-183463号公報
【文献】特表2015-516829号公報
【文献】特表2012-522885号公報
【文献】特表2009-507539号公報
【発明の概要】
【発明を解決するための課題】
【0006】
本発明は、これら従来技術との対比において、アバットメントを含め、口腔内にて歯科用補綴物を使用した際における、当該歯科用補綴物と歯肉との間からの雑菌の侵入及びこれに伴う感染や炎症をより有効に防止可能な手段を提供することを目的とする。
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
[1] 歯科用補綴物又はその部品において、
前記歯科用補綴物又はその部品が、前記歯科用補綴物又はその部品の表面にハイドロキシアパタイト微粒子を有しており、
前記ハイドロキシアパタイト微粒子が、焼結体であり、且つ
前記ハイドロキシアパタイト微粒子の平均粒子径が、10~1,000nmである
ことを特徴とする歯科用補綴物又はその部品。
[2] 前記歯科用補綴物が、口腔内の骨に埋入される人工歯根であるインプラントであり、前記部品が、前記インプラントに使用されるアバットメントである、前記[1]の歯科用補綴物又はその部品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アバットメントを含め、口腔内にて歯科用補綴物を使用した際における、当該歯科用補綴物と歯肉との間からの雑菌の侵入及びこれに伴う感染や炎症をより有効に防止可能な手段を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、2ピースタイプに係るインプラントの全体構成図である。
図2図2は、焼結ハイドロキシアパタイト微粒子がアバットメント(歯科用材料)周囲にリング状に設けられた態様を示した概念図である。
図3A図3Aは、本実施例に係る供試材1のSEM写真である。
図3B図3Bは、本実施例に係る供試材2のSEM写真である。
図3C図3Cは、本実施例に係る供試材3のSEM写真である。
図4図4は、本実施例に係る供試材1の、アクチン由来の蛍光画像とDNA由来の蛍光画像とを合成した画像である。
図5A図5Aは、本実施例に係る供試材1とコントロール(熱処理チタン)との、コラーゲン由来の蛍光画像とDNA由来の蛍光画像とを合成した画像(上段左はコントロール、上段右は本実施例)及びフィブロネクチン由来の蛍光画像とDNA由来の蛍光画像とを合成した画像である(左はコントロール、右は本実施例)。
図5B図5Bは、本実施例に係る供試材2とコントロール(熱処理チタン)との、コラーゲン由来の蛍光画像とDNA由来の蛍光画像とを合成した画像(上段左はコントロール、上段右は本実施例)及びフィブロネクチン由来の蛍光画像とDNA由来の蛍光画像とを合成した画像である(左はコントロール、右は本実施例)。
図6図6は、本実施例に係る供試材3に対して、超音波処理をする前のものと、30分超音波処理したもののSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の説明では、歯科用補綴物としてインプラントを例に採り説明する。本発明に係る歯科用補綴物は、歯や歯に関連する組織の欠損によって生じる顎口腔系の機能障害、審美性を回復することを目的として用いられる人工物である。具体的には、インレー、アンレー、クラウン、ブリッジ、義歯(全床、部分床)、人工歯、インプラントを指す。以下、歯科用補綴物としてインプラント(この部品の一つがアバットメント)を例に採り説明する。
【0011】
≪インプラントの全体構成≫
本発明に係るアバットメント(歯科用材料)が適用されるインプラントは、特に限定されず、例えば、「アバットメント(歯科用材料)」と「フィクスチャー」とが別個である連結インプラント(2ピースタイプ)や「アバットメント(歯科用材料)」と「フィクスチャー」とが一体化した一体型インプラント(1ピースタイプ)を挙げることができる。以下、2ピースタイプを例に採り本発明を説明するが、本発明は1ピースタイプも含む。ここで、図1は、2ピースタイプに係るインプラントの全体構成図である。図1に従い説明すると、インプラント1は、上部構造1-1(歯冠部分:インプラント義歯)とインプラント体1-4{歯根部分:フィクスチャー(人工歯根)}からなる。ここで、スクリュー1-2を介して、上部構造1-1とインプラント体1-4とを連結させる部分がアバットメント1-3である。尚、図1はあくまで一例であり、本発明に係るアバットメント(歯科用材料)が適用されるインプラントにおける各部の大きさや形状は、図1の例のものに何ら限定されない。
【0012】
≪アバットメント(歯科用材料)≫
以下、本発明に係るアバットメント(歯科用材料)について詳述する。本発明に係るアバットメント(歯科用材料)は、その表面にハイドロキシアパタイト微粒子を有しており;前記ハイドロキシアパタイト微粒子が、焼結体であり;且つ、前記ハイドロキシアパタイト微粒子の平均粒子径が、10~1,000nmである。以下、各要素を詳述する。
【0013】
<素材>
(アバットメント(歯科用材料))
アバットメント(歯科用材料)の素材は、特に限定されず、従来公知の素材が使用可能であり、例えば、貴金属、純チタン、チタン合金、チタン・ニッケル合金、コバルト・クロム合金、ジルコニア、人工サファイア、アクリル酸、アクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸誘導体、芳香族ポリエーテルケトン類を挙げることができる。
【0014】
(ハイドロキシアパタイト微粒子)
本発明に係るハイドロキシアパタイト微粒子は、焼結体であることを一特徴とする。ここで、焼結の程度が高い程、結晶化度は高くなる。本発明に係る焼結ハイドロキシアパタイト微粒子は、高結晶性であることが好適である。具体的には、各結晶面を示すピークの半値幅が狭ければ狭いほど結晶性が高い。ここで、本発明の高結晶性リン酸カルシウムに係る「高結晶性」とは、d=2.814での半値幅が0.8以下(好適には、0.5以下)である。尚、このリン酸カルシウムの結晶性の度合いは、X線回折法(XRD)により、測定することができる。
【0015】
更に、本発明に係る焼結ハイドロキシアパタイト微粒子の平均粒子径は、10~1,000nmであり、20~300nmが好適であり、20~250nmが更に好適であり、20~150nmが特に好適であり、20~100nmが更に特に好適であり、20~80nmが極めて好適であり、25~60nmが最も好適である。ハイドロキシアパタイトを焼結し且つ当該粒径範囲とすることで、(1)歯肉線維芽細胞によるフィブロネクチン(接着性タンパク)の産生が活発になる結果、歯肉線維芽細胞がアバットメント(歯科用材料)にしっかり結合し、(2)アバットメント(歯科用材料)に結合した歯肉線維芽細胞がコラーゲンを産生する。今回の新知見は、このように(焼成ハイドロキシアパタイト微粒子を介して)アバットメント(歯科用材料)に結合した歯肉線維芽細胞がコラーゲンを「線維状」に産生するという点である。更なる新知見は、当該産生した当該線維状のコラーゲンがアバットメント(歯科用材料)と歯肉との間に「線維状」に張り巡る結果、アバットメント(歯科用材料)と歯肉との間の隙間部分が無くなり且つ歯肉とアバットメント(歯科用材料)とが強固に接着し、このために雑菌の侵入を防ぎ感染や炎症を防止できるという点である。尚、粒径の変動係数は、20%以下が好適であり、18%以下がより好適であり、15%以下が更に好適である。尚、平均粒子径及び変動係数は、電子顕微鏡を用い、少なくとも100個以上の一次粒子について粒子径を測定して計算すればよい。尚、「変動係数」は、標準偏差÷平均粒子径×100(%)で計算することができる粒子間の粒子径のバラツキを示す値である。リン酸カルシウム微粒子の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば、粒子状であっても、ロッド状であってもよい。尚、ロッド状である場合には、前記平均粒径は、当該粒子の長径により測定されるものとする。
【0016】
焼結ハイドロキシアパタイト微粒子としては、特許第5043436号公報が開示するようなものが挙げられる。この文献では、ハイドロキシアパタイトの一次粒子に融着防止剤を付着させた後に焼結を行うことで、粒径の小さい焼結ハイドロキシアパタイト微粒子が製造可能な点が記載されている。この文献が開示するセラミック(焼結ハイドロキシアパタイト微粒子)でも十分に実用的であるが、製造段階にて融着防止剤を用いる結果、得られる焼結ハイドロキシアパタイト微粒子の表面に炭酸カルシウムが存在し得る。表面に炭酸カルシウムが残存すると溶解性の違いによるpHの変動や溶解による材料の目減りのリスクがあり、生体内に適用する点で不利である。そのため、炭酸カルシウムを実質的に含有しないものが好ましい。そのようなセラミック(焼結ハイドロキシアパタイト微粒子)として特許第5980982号公報、特許6072967および特許第6072968号公報に開示されているものが挙げられる。これらは生体内において溶解による急激なpHの変化、それに伴う周辺組織の炎症の惹起のリスクを低減でき、そもそも溶解による材料が目減りするリスクが全くないため極めて有利である。
【0017】
ここで、「炭酸カルシウムを含有しない」とは、炭酸カルシウムを実質的に含有しないことであり、微量の含有を必ずしも排除するものではないが、以下の(1)~(3)の基準を満たすことであり、好適には、更に(4)の基準を満たすことである。
(1)X線回折の測定結果より炭酸カルシウムが、炭酸カルシウム(式量:100.09)/ハイドロキシアパタイト(式量:1004.62)=0.1/99.9(式量換算比)以下である。
(2)熱重量示差熱分析(TG-DTA)測定において、650℃~800℃に明確な吸熱を伴う2%以上の重量減を観察されない。
(3)FT-IR測定において得られるスペクトルをクベルカムンク(KM)式で計算した吸光度を示したチャートにおいて、波数が860cm-1~890cm-1の間に現れるピークを分離し、炭酸カルシウムに帰属される877cm-1付近のピークが観察されない。なお、ピーク分離は、例えば、fityk 0.9.4というソフトを用いて、Function Type:Gaussian、Fitting Method:Levenberg-Marquardtという条件で処理することによって行う。
(4)医薬部外品原料規格2006(ヒドロキシアパタイト)に準じて試験した際、気泡発生量が0.25mL以下である。
【0018】
<ハイドロキシアパタイト微粒子の付着>
本発明では、歯科用補綴物又はその部品の表面にハイドロキシアパタイト微粒子を付着させる。ここで付着させるとは、歯科用補綴物又はその部品の表面にハイドロキシアパタイト微粒子が存在していればよく、どのような方法も使用可能である。インプラントの例では、特にインプラントの部品であるアバットメント(歯科用材料)の表面(特に歯肉と接する部分)にハイドロキシアパタイト微粒子を付着させる。ここで歯肉と接する部分とは、使用において歯肉と接触する領域及び接触することが予想される領域を意味する。
【0019】
<付着密度>
本発明に係るアバットメント(歯科用材料)における、焼結ハイドロキシアパタイト微粒子の付着密度(表面被覆率)は、5~80%が好適であり、10~70%がより好適であり、15~60%が更に好適である。当該範囲内であると、より有効に、アバットメント(歯科用材料)と歯肉との間の隙間部分を線維状コラーゲンで埋めることが可能となる。尚、焼結ハイドロキシアパタイト微粒子は、アバットメント(歯科用材料)の周囲に部分的に設けられていても(例えば、図2に示すようにリング状)全体に設けられていてもよい。尚、部分的に設けられている場合には、前記付着密度は、焼結ハイドロキシアパタイト微粒子が部分的に設けられている場所における密度をいう。
【0020】
付着密度(表面被覆率)は以下に記載する方法で評価する。走査型電子顕微鏡(SEM)にて、材料表面を倍率5万倍にて撮影し、得られた画像を画像処理ソフトウエア(Image J)にて二値化し、二値化前の焼結ハイドロキシアパタイトの粒子に対応する部分と二値化後の焼成ハイドロキシアパタイト微粒子に対応する部分のシルエットが一致するようContrast、Noise、Brightnessのパラメータを適宜調整し、基材部分と焼成ハイドロキシアパタイト微粒子部分とを区別し、面積比を算出する。なお、付着密度は、全体の面積に対して、焼成ハイドロキシアパタイト微粒子の面積が占める割合で表す。
【0021】
<付着態様>
本発明に係るアバットメント(歯科用材料)における、焼結ハイドロキシアパタイト微粒子のアバットメント(歯科用材料)への付着態様は、特に限定されず、アバットメント(歯科用材料)表面と焼結ハイドロキシアパタイト微粒子との化学結合による付着、接着剤によるアバットメント(歯科用材料)と表面焼結ハイドロキシアパタイト微粒子との付着、アバットメント(歯科用材料)表面への焼結ハイドロキシアパタイト微粒子の埋め込み等を挙げることができるが、好適には化学結合による付着である。
【0022】
上述の付着態様としては、その付着強度の度合いによって脱落型と非脱落型(または非固着型と固着型)とに大別される。非脱落型(固着型)とは、付着が非常に強固であり、焼結ハイドロキシアパタイト微粒子とアバットメント(歯科用材料)とが半永久的に付着し続けることが期待される態様を意味する。他方、脱落型(非固着型)とは、付着強度が比較的弱く、焼結ハイドロキシアパタイト微粒子がアバットメント(歯科用材料)から脱落することが期待される態様を意味する。
より具体的には、洗浄用超音波(25W、38kHz)を30分照射して、超音波処理の前後において、アバットメント(歯科用材料)に付着した焼結ハイドロキシアパタイト微粒子の80%以上が残存している場合に非脱落型と定義される。別の表現をすれば、超音波処理前の付着密度に対する超音波処理後の付着密度の百分率が80%以上の場合に非脱落型と定義される。他方、これを満たさないものは脱落型と見なしてもよい。
【0023】
例えば、共有結合などの強い化学結合による付着や強力な接着剤を用いた付着は非脱落型に分類され、水素結合などの弱い化学結合による付着や比較的弱い接着剤を用いた付着は脱落型に分類されうる。またアバットメント(歯科用材料)を焼結ハイドロキシアパタイト微粒子分散液に浸漬し溶媒を除去することで得られるような、アバットメント(歯科用材料)に焼結ハイドロキシアパタイト微粒子を直接付着させただけのものも脱落型と考えられる。
【0024】
脱落型は基材自体が生体との長期に良好な接着が担保できる場合特に有利で、焼結ハイドロキシアパタイトが発現する初期段階での組織との接着を呼び込み、その後、逐次生体と基材との接着に移行できる点で有利である。他方、非脱落型はコラーゲン産生に好影響を及ぼしうる焼結ハイドロキシアパタイト微粒子が長期間または永久に残存する点で有利である。本発明においては、脱落型と非脱落型いずれの付着態様であっても良いが非脱落型の方が好ましい。非脱落型はコラーゲン産生に有利と考えられ、歯科用補綴物と歯肉との間からの雑菌の侵入及びこれに伴う感染や炎症をより有効に防止可能な手段を提供するという本願の目的に即しているからである。
【0025】
≪アバットメント(歯科用材料)の製造方法≫
<焼結ハイドロキシアパタイト微粒子の製造方法>
本発明に係る焼結ハイドロキシアパタイトは、例えば、融着防止剤を使用してナノサイズのものを調製する方法(特許第5043436号公報)や粉砕によりナノサイズのものを調製する方法(特許第5781681号公報)が挙げられる。なお、実質的に炭酸カルシウムを含まないナノサイズの焼結ハイドロキシアパタイトは、例えば、焼成前に凍結することでナノサイズのものを調製する方法(特許第5980982号公報及び特許6072967)、又は、融着防止剤を使用してナノサイズのものを調製する方法(特許第5043436号公報)で調製された焼結ハイドロキシアパタイトを更に酸で洗浄する方法(特許第6072968号公報)により製造可能である。
【0026】
<アバットメント(歯科用材料)への焼結ハイドロキシアパタイト微粒子の付着方法>
アバットメント(歯科用材料)への焼結ハイドロキシアパタイト微粒子の付着方法は、アバットメント(歯科用材料)の素材及び付着態様により適宜決定される。ここで、前記のように、付着態様としては化学結合が好適である。
以下、アバットメント(歯科用材料)素材としてチタン系素材(例えば、純チタン、チタン合金)を選択した場合における、アバットメント(歯科用材料)素材への焼結ハイドロキシアパタイト微粒子の付着方法(化学結合による付着方法)を詳述する。
【0027】
(洗浄工程)
アバットメント(歯科用材料)の洗浄工程は、アバットメント(歯科用材料)表面に汚れが生じている場合等の状況に応じて行えばよく、その手法は特に限定されず、アルカリ洗浄やアルコール洗浄を挙げることができる。
【0028】
(表面改質工程)
アバットメント(歯科用材料)の表面改質工程は、続いて実施されるリンカー・バインダー導入工程にて用いる「リンカー」と化学結合するまたは「バインダー」と相互作用する反応性基をアバットメント(歯科用材料)表面に生じさせる処理であれば特に限定されず、例えば、アバットメント(歯科用材料)がチタン系材料であり且つ反応性基が水酸基である場合には、加熱処理(例えば、酸素および水を含む雰囲気下、通常は大気雰囲気下で150~500℃で0時間超5時間以下加熱)、オゾン水処理(例えば、WO2010/125686参照)、過酸化水素処理、コロナ放電処理を挙げることができる。
【0029】
(リンカー・バインダー導入工程)
アバットメント(歯科用材料)へのリンカー導入工程は、アバットメント(歯科用材料)の表面に導入された反応性基にリンカーを化学結合(共有結合)させる工程である。アバットメント(歯科用材料)の反応性基および焼結ハイドロキシアパタイト微粒子の反応性基の双方で共有結合を形成する化合物であればリンカーとして使用可能である。共有結合は強固な結合であることが知られているので、共有結合を介するこの付着態様は非脱落型と考えられる。アバットメント(歯科用材料)がチタン系材料の場合、チタン系材料表面に存在する水酸基が反応性基なり得る。また焼結ハイドロキシアパタイト微粒子に存在する水酸基が反応性基なり得る。反応性基が水酸基である場合には、これと反応する官能基としてはイソシアネート基、カルボキシル基、アルコキシシリル基などがある。イソシアネート基を有するリンカーを選択した場合、水酸基とウレタン結合を形成することが可能であり、カルボキシル基を有するリンカーを選択した場合は、水酸基とエステル結合を形成させることができる。これらのことから、アバットメント(歯科用材料)がチタン系材料の場合、上述したような官能基を有する化合物はリンカーとして使用できる。より具体的には、イソシアネート基を2つ以上有する化合物、カルボキシル基を2つ以上有する化合物、イソシアネート基およびカルボキシル基を1つずつ以上有する化合物、アルコキシシリル基を1つ以上有する化合物などがリンカーとして使用できる。このようなリンカーとしてはシランカップリング剤が好適である。
共有結合を介してアバットメント(歯科用材料)および焼結ハイドロキシアパタイト微粒子を付着させるリンカー以外にも、アバットメント(歯科用材料)および焼結ハイドロキシアパタイト微粒子の双方に対して水素結合などの相互作用をする化合物を使用してもよい。このような化合物を便宜上バインダーと呼ぶこととする。バインダーが双方に相互作用することによって、このバインダーを介して焼結ハイドロキシアパタイト微粒子をアバットメント(歯科用材料)に付着させることができる。水素結合などの相互作用は比較的弱いため、バインダーによる付着態様は脱落型と考えられる。あるいはアバットメント(歯科用材料)および焼結ハイドロキシアパタイト微粒子のいずれか片方とは共有結合を形成し、他方には水素結合など相互作用をする化合物を使用してもよい。この場合も脱落型であるものと通常考えられるため、そのような化合物もバインダーと呼ぶこととする。
【0030】
反応性基が水酸基であり、水酸基と反応する官能基を有する化合物(例えばシランカップリング剤)を用いた場合、まず、アバットメント(歯科用材料)表面の水酸基と前記化合物(例えばシランカップリング剤)が反応して結合する。次いで、重合剤の添加により、アバットメント(歯科用材料)表面と結合しなかった残りの前記化合物(例えばシランカップリング剤)と、アバットメント(歯科用材料)表面に結合した前記化合物(例えばシランカップリング剤)と、が重合し、グラフトポリマーを形成する。これにより、水酸基と反応する官能基(例えばアルコキシシリル基)を有するグラフトポリマーがアバットメント(歯科用材料)表面に形成されるため、後述する焼結ハイドロキシアパタイト微粒子固定化処理において、水酸基と反応する官能基(例えばアルコキシシリル基)と焼結ハイドロキシアパタイト微粒子とが結合する。ここで、シランカップリング剤としては、特に限定されず、ビニル系シランカップリング剤、スチリル系シランカップリング剤、メタクリロキシ系シランカップリング剤、アクリロキシ系シランカップリング剤等の重合性二重結合を有するシランカップリング剤が好適である。シランカップリング剤以外の化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、アクリル酸、メタクリル酸、4-メタクリロキシエチルトリメリトリレート無水物(4-methacryloxyethyl trimellitate anhydride:4-META)、無水マレイン酸およびこれら化合物の単独重合体や共重合体などが挙げられる。
また、アバットメント(歯科用材料)表面の水酸基と反応させる化合物(例えばシランカップリング剤)と、その後に重合させる化合物(例えばシランカップリング剤)と、は同一でもよいし異なる種のものであってもよい。
このような化合物(例えばシランカップリング剤)を用いる場合、アバットメント(歯科用材料)表面の水酸基と前記化合物(例えばシランカップリング剤)とが共有結合し、前記化合物(例えばシランカップリング剤)と焼結ハイドロキシアパタイト微粒子とが共有結合しているため、非脱落型の付着態様であることが予想される。
【0031】
バインダーを用いた場合、例えば、アバットメント(歯科用材料)がチタン系材料である場合には、まず、バインダーの極性基とアバットメント(歯科用材料)表面の水酸基や酸素架橋構造(M-O-M:金属-酸素-金属の架橋構造)との間に分子間力が生じ付着する。および/または、バインダーの極性基と焼成ハイドロキシアパタイト微粒子が分子間力により付着する。ここで、バインダーとしては、特に限定されず、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリイソプロピルアクリルアミドなどが挙げられ、ポリエチレングリコールやポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンが好適である。
バインダーを用いた場合、アバットメント(歯科用材料)および焼結ハイドロキシアパタイト微粒子の少なくとも一方とバインダーとの相互作用によって、焼結ハイドロキシアパタイト微粒子がアバットメント(歯科用材料)に付着しているに過ぎないため、脱落型の付着態様であることが予想される。
【0032】
(焼結ハイドロキシアパタイト微粒子固定化処理)
焼結ハイドロキシアパタイト微粒子固定化処理は、リンカー・バインダー導入工程後のアバットメント(歯科用材料)の表面に焼結ハイドロキシアパタイト微粒子を結合させる工程であればよい。リンカー・バインダー導入工程後の基材の表面にアバットメント(歯科用材料)を結合させる方法としては、特に限定されず従来公知の方法を用いてもよい。例えば、特開2004-51952号公報や特開2000-327314号公報を参照することができる。具体的には、焼結ハイドロキシアパタイト微粒子を懸濁させた液体に基材を浸漬させてもよい。また、浸漬の間、当該液体を攪拌してもよいし、超音波処理を行ってもよい。また、浸漬後に、当該基材を減圧条件下、好ましくは真空条件下に静置させてもよく、減圧条件下又は真空条件下において更に加熱してもよい。加熱する温度としては、50~200℃が好適であり、80~150℃がより好適である。
【実施例
【0033】
≪製造例1≫
<焼結ハイドロキシアパタイト微粒子1の調製>
(一次粒子生成工程)
連続オイル相としてドデカン〔CH(CH10CH〕、非イオン性界面活性剤として曇点31℃のペンタエチレングリコールドデシルエーテル〔CH(CH10CHO(CHCHO)CHCHOH〕を用いた。室温において、上記非イオン性界面活性剤0.5gを含有している連続オイル相40mlを調製した。次に、上記で調製した連続オイル相に2.5mol/l水酸化カルシウム〔Ca(OH)〕分散水溶液10mlを添加し、油中水滴型溶液(W/O溶液)を調製した。上記W/O溶液を攪拌しながら、そこに1.5mol/lリン酸二水素カリウム〔(KHPO)〕溶液を10ml添加した。そして、24時間、室温で撹拌しながら反応させた。次に、得られた反応物を遠心分離により分離洗浄することにより、ハイドロキシアパタイト(HAp)一次粒子群を取得した。
(混合工程)
1.0gのポリアクリル酸ナトリウム(ALDRICH社製、重量平均分子量15,000g/mol)を含むpH12.0の水溶液100mlに、1.0gのハイドロキシアパタイト(HAp)一次粒子群を分散させることで、同粒子表面にポリアクリル酸ナトリウムを吸着させた。この水溶液のpHは株式会社 堀場製作所製pHメータD-24SEを用いて測定した。次に、上記で調製した分散液に、0.12mol/lの硝酸カルシウム〔Ca(NO〕水溶液100mlを添加することで、同一次粒子表面にポリアクリル酸カルシウムを析出させた。かかるポリアクリル酸カルシウムは、融着防止剤である。その結果として生じた沈殿物を回収し、減圧下(約0.1Pa)80℃にて乾燥させることで、混合粒子を取得した。
(焼結工程)
上記混合粒子をルツボに入れ、焼結温度800℃にて1時間焼結を行なった。この際、ポリアクリル酸カルシウムは熱分解し、酸化カルシウム〔CaO〕となった。焼結工程終了後の酸化カルシウム〔CaO〕の残存率は25%以上であった。
(除去工程)
融着防止剤の水への溶解性を上げるために、50mmol/l硝酸アンモニウム〔NHNO〕水溶液を調製した。次に、上記で調製した水溶液500mlに、上記工程にて得られた焼結体を懸濁し、遠心分離により分離洗浄し、さらに蒸留水に懸濁し、同様に遠心分離により分離洗浄を行なうことによって、融着防止剤および硝酸アンモニウムを除去し、高結晶性ハイドロキシアパタイト(HAp)微粒子を回収した。これらの工程により得られたハイドロキシアパタイト微粒子の詳細な情報については、以下に纏めた。
【0034】
XRDの半値幅:0.519(d=2.814)
形状:球状
平均粒径(電子顕微鏡より):41nm
変動係数:18%
【0035】
<供試材1の製造>
(前処理)
市販のアバットメントと同一素材である純チタン材(10mm×10mmの純チタン材)を、300℃で0.5時間加熱した。
(表面改質工程)
前処理を施した純チタン材に対し、アルコール処理(アルコール(エタノール、2―プロパノールなど中5分間超音波照射)を実施した。
(リンカー導入工程)
シランカップリング剤(γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、信越化学工業製、KBE503、以下単に「KBE」とする。)3.3mlとトルエン25mlからなる温度70℃の溶液に、窒素ガスにてバブリングしながら、前記表面改質処理を施した純チタン材を30分間浸漬した。その後、更にAIBNを33mg溶解したトルエン5mlを追加して、窒素ガスにてバブリングしながら、温度70℃の当該溶液の中で120分間、基材を浸漬し、グラフト重合を行なった。このように時間差でAIBNを添加することで基材表面と結合を有するKBEモノマーと、溶媒中に遊離中のKBEとのグラフトポリマーを形成することを意図している。当該処理後、基材表面上に付着しているKBEのホモポリマーを除去するため、エタノール溶媒中、室温で2分間、超音波洗浄(50W)を実施し、その後、60分間、室温で減圧乾燥した。
(焼結ハイドロキシアパタイト微粒子固定化処理)
上記処理後、1%の焼結ハイドロキシアパタイト微粒子1の分散液中(分散媒:エタノール)、35℃で20分間、超音波処理(50W)を行った。その後、減圧下で110℃にて120分間アニーリング(熱処理)を行った。更に当該処理基材をエタノール中、室温で2分間、超音波洗浄(50W)を行なって、基材表面上に物理的に吸着している焼結ハイドロキシアパタイト微粒子1を除去した。その後、室温にて60分間減圧乾燥を行なった。これにより、本実施例に係る供試材1を得た。尚、下記の表でのX線光電子分光(XPS)による原子分析の結果から分かるように、本供試材1では、リンカーを介して純チタン材と焼結ハイドロキシアパタイト微粒子1とが結合していることが確認できた。また、図3Aは、本実施例に係る供試材1の走査型電子顕微鏡(SEM)の写真である。尚、平均被覆率は28%であった。
【0036】
【表1】
【0037】
≪試験例≫
<細胞接着・細胞形態評価>
製造例1で作製した供試材1について、細胞接着・細胞形態評価試験を実施した。尚、試験に先立ち、供試材1をエタノール洗浄し、培地(DMEM)で洗浄した後(3回)、培地に浸して、使用までインキュベート(37℃,5%CO)した。そして、以下の手順で細胞培養を実施した。まず、24穴プレートに培地(200μL/穴)及びチタン薄膜を入れた。その後、HGF-1線維芽細胞(P18)の懸濁液を入れ(約2×10細胞/500μL/穴)、24時間培養した。続いて、以下の手順で染色(細胞接着・細胞形態評価用)を実施した。まず、固定処理(4%PFA)及び界面活性剤処理 (0.5%Triton X-100/PBS)を行い、次いで、AlexaFluor(商標)488標識Acti-stainを添加した後、封入剤(核染色色素DAPI入り)で封入した。488nmのレーザー線を照射し、アクチン線維の染色により細胞形態を確認した。405nmのレーザー線を照射し、細胞核の染色を確認した。その結果を図4に示す。図4は、アクチン由来の蛍光画像と細胞核由来の蛍光画像とを合成した画像である。当該図から分かるように、本実施例に係る供試材1を用いた場合、アクチン線維が十分に発達しているため優れた細胞接着性を示すことが確認でき、また、殆どの細胞は大きく伸長した細胞形態を示すことも確認できた。
<コラーゲン/フィブロネクチン産生評価>
製造例1で作製した供試材1について、コラーゲン/フィブロネクチン産生評価試験を実施した。尚、試験に先立ち、供試材1をエタノール洗浄し、培地で洗浄した後(3回)、培地に浸して、使用までインキュベート(37℃,5%CO)した。そして、以下の手順で細胞培養を実施した。まず、24穴プレートに培地(200μL/穴)及びチタン薄膜を入れた。その後、HGF-1細胞(P18)の懸濁液を入れ(約2×10細胞/500μL/穴)、アスコルビン酸無しで培養した(8日)。続いて、以下の手順で染色(コラーゲン/フィブロネクチン産生評価用)を実施した。まず、固定処理(メタノール、-20℃)及び界面活性剤処理(0.5% Triton X-100/PBS)を行い、次いで、ビオチンブロッキング(1%BSA/PBS→ストレプトアビジン→ビオチン)を実施し、その後、1次抗体{ビオチン標識ラット抗1型コラーゲン抗体 (2μg/mL)+ウサギ抗フィブロネクチン抗体(1/200希釈)}を添加し、更に二次抗体として蛍光標識抗体{AlexaFluor555標識ストレプトアビジン (1/500希釈)+AleaFluor488標識抗ウサギIgG抗体(1/500希釈)}を添加した後、封入剤(核染色色素DAPI入り)で封入した。555nmレーザー照射にてコラーゲンを観察し、更に、488nmレーザー照射にてフィブロネクチンを観察した。次いで、405nmレーザー照射にて細胞核を観察した。その結果を図5に示す。図5の上段は、コラーゲン由来の蛍光画像と細胞核由来の蛍光画像とを合成した画像である(左はコントロール、右は本実施例)。また、図5の下段は、フィブロネクチン由来の蛍光画像と細胞核由来の蛍光画像とを合成した画像である(左はコントロール、右は本実施例)。当該図から分かるように、本実施例に係る供試材1を用いた場合、コントロールと比較し、コラーゲン及びフィブロネクチン共に、大量に産生されたことが確認できた(界面活性剤処理後に染色したことからこれらのほとんどが細胞外に形成されたものと理解される)。特に、本実施例に係る供試材1を用いた場合、コラーゲンが線維状に産生された。繊維状のコラーゲンが高い配向性を有して緻密に産生されたことから、本実施例に係る供試材1に産生コラーゲンが密着することが予想される。これによって、例えば本実施例に係る供試材1をアバットメント(歯科用材料)として使用すると、産生コラーゲンがアバットメント(歯科用材料)と歯肉との間の隙間を塞ぎ、当該隙間から雑菌が侵入して感染や炎症を引き起こす問題を解消することが期待できる。
【0038】
≪製造例2≫
<焼結ハイドロキシアパタイト微粒子2の調製>
(一次粒子生成工程)
連続オイル相としてドデカン〔CH(CH10CH〕、非イオン性界面活性剤として曇点31℃のペンタエチレングリコールドデシルエーテル〔CH(CH10CHO(CHCHO)CHCHOH〕を用いた。室温において、上記非イオン性界面活性剤0.5gを含有している連続オイル相40mlを調製した。次に、上記で調製した連続オイル相に2.5mol/l水酸化カルシウム〔Ca(OH)〕分散水溶液10mlを添加し、油中水滴型溶液(W/O溶液)を調製した。上記W/O溶液を攪拌しながら、そこに1.5mol/lリン酸二水素カリウム〔(KHPO)〕溶液を10ml添加した。そして、24時間、室温で撹拌しながら反応させた。次に、得られた反応物を遠心分離により分離洗浄することにより、ハイドロキシアパタイト(HAp)一次粒子群を取得した。
(凍結・解凍工程)
その後、反応容器内の上澄みを廃水容器に移した後、脱イオン水を加え、攪拌器で撹拌し、上澄みを廃棄容器に移す、という作業を2回繰り返した。その後、当該沈殿物の入った反応容器ごと、-10℃~-15℃にて一夜冷凍した。その後、室温で解凍し、解凍後の沈殿をろ取した。
(焼成工程)
その後、焼成皿に約400gの沈殿を入れ、焼成炉に入れ、1時間強かけて600℃までにし、600℃1時間保った後、1時間以上かけて冷却することで焼成を実施した。その後、焼成体へ脱イオン水を加え、30分間以上超音波照射した。そして、ポットミルへ移し、粉砕球を入れて1時間粉砕した。粉砕終了後、手付きビーカーへ移し、目開き150μm篩を用い、未粉砕焼成体を除去した。尚、この後、脱イオン水洗浄を6回繰り返した。その後、60~80℃で乾燥し、ハイドロキシアパタイト微粒子を得た。これらの工程により得られたハイドロキシアパタイト微粒子の詳細な情報については、以下に纏めた。このようにして得られたハイドロキシアパタイト微粒子は、以下の(1)~(4)の性質を全て満たすものであり、実質的に炭酸カルシウムを含まないことが確認された。
(1)X線回折の測定結果より炭酸カルシウムが、炭酸カルシウム(式量:100.09)/ハイドロキシアパタイト(式量:1004.62)=0.1/99.9(式量換算比)以下である。
(2)熱重量示差熱分析(TG-DTA)測定において、650℃~800℃に明確な吸熱を伴う2%以上の重量減を観察されない。
(3)FT-IR測定において得られるスペクトルをクベルカムンク(KM)式で計算した吸光度を示したチャートにおいて、波数が860cm-1~890cm-1の間に現れるピークを分離し、炭酸カルシウムに帰属される877cm-1付近のピークが観察されない。
(4)医薬部外品原料規格2006(ヒドロキシアパタイト)に準じて試験した際、気泡発生量が0.25mL以下である。
【0039】
XRDの半値幅:0.67(d=2.814)
形状:球状
平均粒径(電子顕微鏡より):40nm
変動係数:16%
【0040】
<供試材2の製造>
焼結ハイドロキシアパタイト微粒子1を焼結ハイドロキシアパタイト微粒子2とした以外は、供試材1と同様に、供試材2を製造した。尚、供試材1と同様に、本供試材2では、リンカーを介して純チタン材と焼結ハイドロキシアパタイト微粒子2とが結合していることが確認できた。また、図3Bは、本実施例に係る供試材2のSEM写真である。尚、平均被覆率は32%であった。
【0041】
≪試験例≫
<コラーゲン/フィブロネクチン産生評価>
製造例2で作製した供試材2について、コラーゲン/フィブロネクチン産生評価試験を供試材1と同様に実施して供試材1と同様に細胞核を観察した。その結果を図5Bに示す。図5Bの上段は、コラーゲン由来の蛍光画像と細胞核由来の蛍光画像とを合成した画像である(左はコントロール、右は本実施例)。また、図5Bの下段は、フィブロネクチン由来の蛍光画像と細胞核由来の蛍光画像とを合成した画像である(左はコントロール、右は本実施例)。当該図から分かるように、本実施例に係る供試材2を用いた場合、コントロールと比較し、コラーゲン及びフィブロネクチン共に、大量に産生されたことが確認できた(界面活性剤処理後に染色したことからこれらのほとんどが細胞外に形成されたものと理解される)。特に、本実施例に係る供試材2を用いた場合、コラーゲンが線維状に産生された。加えて実施例1の場合よりもコラーゲン量が多く、かつコラーゲンの線維化が促進されていることが確認できた。繊維状のコラーゲンが高い配向性を有して緻密に産生されたことから、本実施例に係る供試材2に産生コラーゲンが密着することが予想される。これによって、例えば本実施例に係る供試材2をアバットメント(歯科用材料)として使用すると、産生コラーゲンがアバットメント(歯科用材料)と歯肉との間の隙間を塞ぎ、当該隙間から雑菌が侵入して感染や炎症を引き起こす問題を解消することが期待できる。供試材2に係る焼結ハイドロキシアパタイト微粒子2は炭酸カルシウムを実質的に含有しない。そのため、生体内において溶解による急激なpHの変化、それに伴う周辺組織の炎症の惹起のリスクを低減できる。さらに溶解による目減りがほぼ又は全くないため、アバットメント(歯科用材料)と歯肉との間の隙間を塞ぐという点でも有利である。
また、培養上清について波長450nmの光に対する吸光度を測定しコラーゲン濃度を算出し、波長562nmの光に対する吸光度を測定しタンパク質濃度を算出した。これらの結果から、タンパク質量あたりのコラーゲン量が算出される。タンパク質量と細胞量は比例関係にあるので細胞量によって標準化されたコラーゲン量が得られる。供試材2における標準化コラーゲン量は0.062であった。他方、上述した市販の純チタン材(10mm×10mmの純チタン材)をそのまま使用した場合、加熱処理(300℃で0.5時間)だけ施して使用した場合における標準化コラーゲン量はいずれも0.049であり、コラーゲン産生を促進する効果において有意差を確認することができた。
製造例2で作製した供試材2について、供試材1と同様に細胞接着・細胞形態評価試験を実施した。本実施例に係る供試材2を用いた場合、供試材1と同様に、アクチン線維が十分に発達し優れた細胞接着性を示すことを確認でき、またほとんどの細胞は大きく伸長した細胞形態を示すことも確認できた。
【0042】
<供試材3の製造>
リンカーの代わりにバインダーによって付着させたこと以外は、供試材2と同様に、供試材3を製造した。バインダー導入以後の工程は以下の通りである。
【0043】
(バインダー導入工程)
バインダー(ポリ-L-乳酸、ナカライテスク製、以下単に「ポリ乳酸」とする。)0.1gをとクロロホルム10mlに溶解させ、バインダー溶液を調製した。前記表面改質を施した純チタン材を30分間浸漬した。当該処理後、基材表面上に付着している余剰のポリ乳酸を除去するため、クロロホルムで洗浄し、その後、60分間、室温で減圧乾燥した。
(焼結ハイドロキシアパタイト微粒子固定化処理)
上記処理後、1%の焼結ハイドロキシアパタイト微粒子2の分散液中(分散媒:エタノール)、35℃で20分間、浸漬した。その後、60分間、室温で減圧乾燥した。更に当該処理基材をエタノール中、室温で2分間、超音波洗浄(50W)を行なって、基材表面上に吸着している余分な焼結ハイドロキシアパタイト微粒子2を除去した。その後、室温にて60分間減圧乾燥を行なった。これにより、本実施例に係る供試材3を得た。尚、後述するように供試材2と同様に、本供試材3では、バインダーを介して純チタン材と焼結ハイドロキシアパタイト微粒子2とが付着していることが確認できた。また、図3Cは、本実施例に係る供試材3のSEM写真である。尚、平均被覆率は27%であった。
【0044】
≪試験例≫
<コラーゲン/フィブロネクチン産生評価>
製造例3で作製した供試材3について、コラーゲン/フィブロネクチン産生評価試験を供試材1と同様に実施した。供試材1と同様に本実施例に係る供試材3を用いた場合、コントロールと比較し、コラーゲン及びフィブロネクチン共に、大量に産生され、特に、コラーゲンが線維状に産生されたことが確認できた。繊維状のコラーゲンが高い配向性を有して緻密に産生されたことから、本実施例に係る供試材3に産生コラーゲンが密着することが予想される。これによって、例えば本実施例に係る供試材3をアバットメント(歯科用材料)として使用すると、産生コラーゲンがアバットメント(歯科用材料)と歯肉との間の隙間を塞ぎ、当該隙間から雑菌が侵入して感染や炎症を引き起こす問題を解消することが期待できる。供試材3に係る焼結ハイドロキシアパタイト微粒子2は炭酸カルシウムを実質的に含有しない。そのため、生体内において溶解による急激なpHの変化、それに伴う周辺組織の炎症の惹起のリスクを低減できる。さらに溶解による目減りがほぼ又は全くないため、アバットメント(歯科用材料)と歯肉との間の隙間を塞ぐという点でも有利である。
製造例2で作製した供試材3について、供試材1と同様に細胞接着・細胞形態評価試験を実施した。本実施例に係る供試材3を用いた場合、供試材1と同様に、アクチン線維が十分に発達し優れた細胞接着性を示すことを確認でき、またほとんどの細胞は大きく伸長した細胞形態を示すことも確認できた。
【0045】
(バインダーによる付着の確認)
バインダーを介して純チタン材と焼結ハイドロキシアパタイト微粒子2とが付着していることを確認するため、供試材3に対して超音波洗浄(50W)を室温で30分間行なった。このときの供試材3のSEM写真を確認したところ焼結ハイドロキシアパタイト微粒子2が脱落していることが確認できた(図6)。したがって当初の供試材3では、バインダーを介して焼結ハイドロキシアパタイト微粒子2が付着していることが確認できた。

図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図6