(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】電線皮剥工具
(51)【国際特許分類】
H02G 1/12 20060101AFI20220914BHJP
B26D 3/00 20060101ALI20220914BHJP
B26B 27/00 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
H02G1/12 024
B26D3/00 603Z
B26B27/00 G
(21)【出願番号】P 2018222838
(22)【出願日】2018-11-28
【審査請求日】2021-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000207311
【氏名又は名称】大東電材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大久保 和典
(72)【発明者】
【氏名】小畑 昇一
【審査官】遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】実開平1-147608(JP,U)
【文献】実開平3-120621(JP,U)
【文献】実開平3-86720(JP,U)
【文献】特開2011-15510(JP,A)
【文献】特開2017-147907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/12
B26D 3/00
B26B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の被覆を剥ぐ電線皮剥工具であって、
本体ユニットと、
前記本体ユニットに取り付けられ、前記本体ユニットによって回転軸周りに回転させられる刃物ユニットと、を備え、
前記刃物ユニットは、
前記刃物ユニットを開閉することで前記電線を保持可能な電線保持部と、
回転軸方向に沿って前記電線保持部に隣接する刃物保持部と、
前記刃物保持部に固定され、前記回転軸方向から見て前記電線保持部の内側に突出する固定刃物と、
回転軸に垂直な方向から見て一部が前記固定刃物と重複し、前記回転軸方向から見て前記電線保持部の内側に突出又は退避可能に前記刃物保持部に取り付けられた可動刃物と、
前記可動刃物に固定され、前記回転軸方向から見て前記可動刃物よりも前記電線保持部の内側に突出し、前記回転軸に垂直な方向から見て前記固定刃物と重複するスペーサと、
前記可動刃物及び前記スペーサを前記電線保持部の内側に突出する方向に付勢する弾性部材と、を含む、電線皮剥工具。
【請求項2】
請求項1に記載の電線皮剥工具であって、
前記スペーサの前記可動刃物からの突出量は、前記可動刃物の先端に向かうにつれ小さくなる、電線皮剥工具。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電線皮剥工具であって、
前記電線保持部は、
固定電線保持部と、
前記刃物ユニットを開閉することで前記固定電線保持部と近接又は離間可能な可動電線保持部と、を含み、
前記刃物保持部は、
前記回転軸方向に沿って前記固定電線保持部に隣接する固定刃物保持部と、
前記回転軸方向に沿って前記可動電線保持部に隣接する可動刃物保持部と、を含み、
前記固定刃物は、前記可動刃物保持部に固定され、前記回転軸方向から見て前記可動電線保持部の内側に突出し、
前記可動刃物は、前記回転軸方向から見て前記固定電線保持部の内側に突出又は退避可能に前記固定刃物保持部に取り付けられた、電線皮剥工具。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の電線皮剥工具であって、
前記電線保持部は、
固定電線保持部と、
前記刃物ユニットを開閉することで前記固定電線保持部と近接又は離間可能な可動電線保持部と、を含み、
前記刃物保持部は、
前記回転軸方向に沿って前記固定電線保持部に隣接する固定刃物保持部と、
前記回転軸方向に沿って前記可動電線保持部に隣接する可動刃物保持部と、を含み、
前記固定刃物は、前記可動刃物保持部に固定され、前記回転軸方向から見て前記可動電線保持部の内側に突出し、
前記可動刃物は、前記回転軸方向から見て前記可動電線保持部の内側に突出又は退避可能に前記可動刃物保持部に取り付けられた、電線皮剥工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線皮剥工具に関する。
【背景技術】
【0002】
配電工事では、電線同士を接続するために電線の被覆を剥ぐことがある。電線の被覆を剥ぐ方法として、螺旋状に被覆を剥ぐ方法(以下、「螺旋式皮剥」という。)が知られている。螺旋式皮剥では、工具に取り付けられた刃物を、電線の中心軸周りに回転させつつ、電線の延在方向に進めながら所定区間の被覆を剥ぐ。このような螺旋式皮剥は、刃物と電線の被覆との接触面積が小さいため、被覆を剥ぐ際の抵抗が小さくて済む。しかしながら、螺旋式皮剥では所定区間の被覆を徐々に剥いでいくため、作業量が多くなりやすい。また、螺旋式皮剥では刃物を電線の延在方向に進めながら被覆を剥ぐため、初めに刃物を被覆に食い込ませた痕が被覆を剥いだ後の端面に残る。すなわち、螺旋式皮剥では被覆を剥いだ後、残った被覆の端面が平坦にならない。この平坦でない端面により、被覆が剥がれた所定区間に保護カバーを装着しにくい。
【0003】
そこで、所定区間の被覆を一括で剥ぐ方法(以下、「一括式皮剥」という。)が提案されている。一括式皮剥ぎでは、刃物を電線の中心軸周りに1回転させるだけで被覆を剥ぐことができるため、螺旋式皮剥に比べて作業量が少なくて済む。また、一括式皮剥では螺旋式皮剥のように刃物を電線の延在方向に進めながら被覆を剥がないので、被覆を剥いだ後、残った被覆の端面が平坦となり、保護カバーを装着しやすい。
【0004】
一括式皮剥はたとえば、特開平6-261432号公報(特許文献1)及び特開2017-147907号公報(特許文献2)に開示されている。
【0005】
特許文献1及び特許文献2には、所定の刃幅を有する1つの刃物が取り付けられた工具が開示されており、この工具は刃物を電線の中心軸周りに1回転させることで所定の区間の被覆を剥ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-261432号公報
【文献】特開2017-147907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示されるような一括式皮剥では、一定区間の被覆を一度に剥ぐため、被覆を剥ぐ際に刃物に負荷される抵抗が大きく、刃物や作業者に負担が大きい。
【0008】
また、電線の被覆の内側には芯線があり、芯線は複数の金属線を撚って形成されている。この芯線の撚りの方向は、被覆を剥ぐ前に確認することはできない。被覆が刃物から受ける力は芯線に伝わるため、仮に一括式皮剥において刃物を回転させる方向が芯線の撚りと反対方向であれば、芯線は撚りを解く方向に力を受ける。芯線の撚りが解けると、芯線の直径が大きくなるため、芯線が刃物に当たり、傷つく可能性がある。
【0009】
すなわち、螺旋式皮剥では被覆を剥ぐ際の抵抗は小さいが、作業量が多く、一括式皮剥では作業量は少ないが、被覆を剥ぐ際の抵抗が大きい。
【0010】
本発明の目的は、少ない作業量で電線の被覆を剥ぎ、かつ、芯線を傷つけることを抑制できる電線皮剥工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による電線の被覆を剥ぐ電線皮剥工具は、本体ユニットと、刃物ユニットと、を含む。刃物ユニットは、本体ユニットに取り付けられ、本体ユニットによって回転軸周りに回転させられる。刃物ユニットは、電線保持部と、刃物保持部と、固定刃物と、可動刃物と、スペーサと、弾性部材と、を含む。電線保持部は、刃物ユニットを開閉することで電線を保持可能である。刃物保持部は、回転軸方向に沿って電線保持部に隣接する。固定刃物は、刃物保持部に固定され、回転軸方向から見て電線保持部の内側に突出する。可動刃物は、回転軸に垂直な方向から見て一部が固定刃物と重複し、回転軸方向から見て電線保持部の内側に突出又は退避可能に刃物保持部に取り付けられる。スペーサは、可動刃物に固定され、回転軸方向から見て可動刃物よりも電線保持部の内側に突出し、回転軸に垂直な方向から見て固定刃物と重複する。弾性部材は、可動刃物及びスペーサを電線保持部の内側に突出する方向に付勢する。
【発明の効果】
【0012】
本発明による電線皮剥工具によれば、少ない作業量で電線の被覆を剥ぐことができ、かつ、芯線を傷付けることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、第1実施形態の電線皮剥工具の斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す状態から刃物ユニットを開いた場合の第1実施形態の電線皮剥工具の斜視図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態の電線皮剥工具によって電線の被覆を剥ぎ取っている状態を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態の刃物ユニットの斜視図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態の電線皮剥工具を回転軸方向に沿って先端側から見た図である。
【
図6】
図6は、
図5に示す刃物ユニットから固定ガイド及び可動ガイドを外した図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態の電線皮剥工具を回転軸に垂直な方向から見た図である。
【
図9】
図9は、
図8の可動刃物、固定刃物及びスペーサを回転軸に垂直な方向から見た模式図である。
【
図10】
図10は、電線を保持する前の第1実施形態の電線皮剥工具を回転軸方向に沿って先端側から見た図である。
【
図11】
図11は、電線を保持している第1実施形態の電線皮剥工具を回転軸方向に沿って先端側から見た図である。
【
図12】
図12は、
図11に示す状態から刃物ユニットが回転した後の第1実施形態の電線皮剥工具を回転軸方向に沿って先端側から見た図である。
【
図13】
図13は、第2実施形態の電線皮剥工具の斜視図である。
【
図14】
図14は、第2実施形態の刃物ユニットの斜視図である。
【
図15】
図15は、第2実施形態の刃物ユニットを回転軸方向に沿って先端側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の電線皮剥工具の斜視図である。電線皮剥工具1は、刃物ユニット2と、本体ユニット3と、を含む。
【0016】
[本体ユニット]
本体ユニット3は、刃物ユニット2を回転軸A周りに回転させる。本体ユニット3はたとえば、ハウジング内部にギアを含み、ギアが絶縁操作棒10を介して伝達された回転駆動力を刃物ユニット2に伝達することで、刃物ユニット2を回転させる。本体ユニット3と刃物ユニット2とはたとえば、プランジャー、ボルト等によって固定される。なお、回転軸Aは本体ユニット3の回転軸を意味する。本体ユニット3は、周知の構成であるので、その他の詳細な構造の説明は省略する。
【0017】
[刃物ユニット]
図2は、
図1に示す状態から刃物ユニットを開いた場合の第1実施形態の電線皮剥工具の斜視図である。刃物ユニット2は開閉可能であり、刃物ユニット2を開いた状態で電線20を刃物ユニット2に挿入し、刃物ユニット2を閉じることで電線20を保持する。
【0018】
図3は、第1実施形態の電線皮剥工具によって電線の被覆を剥ぎ取っている状態を示す斜視図である。刃物ユニット2は回転軸A周りに回転することで電線の被覆21を剥ぎ取る。被覆21を剥ぎ取った後、刃物ユニット2を開き、電線を取り出し、他の電線と接続作業を行う。なお、被覆を剥ぐ際には、電線皮剥工具を絶縁操作棒10に取り付けて行う。以下、刃物ユニット2について詳述する。
【0019】
図4は、第1実施形態の刃物ユニットの斜視図である。刃物ユニット2は、電線保持部4、5と、刃物保持部6、7と、固定刃物8と、可動刃物9と、スペーサ11と、弾性部材と、を含む。
【0020】
[電線保持部]
電線保持部は、固定電線保持部4と、可動電線保持部5と、を含む。
【0021】
固定電線保持部4は、回転軸A方向から見て湾曲した湾曲面を含み、回転軸Aに沿って延びる。
【0022】
可動電線保持部5は、回転軸A方向から見て湾曲した湾曲面を含み、回転軸Aに沿って延びる。可動電線保持部5は、固定電線保持部4と対をなす。可動電線保持部5は、固定電線保持部4とヒンジ部13でヒンジ止めされており、刃物ユニット2の開閉と連動して固定電線保持部4に対してヒンジ部13を中心に回転可能である。可動電線保持部5の湾曲面は固定電線保持部4の湾曲面と可動電線保持部5の回転方向において対向する。
【0023】
すなわち、刃物ユニット2を開閉することで可動電線保持部5を固定電線保持部4に対して近接又は離間させ、電線を保持したり、保持を解いたりする。可動電線保持部5の湾曲面及び固定電線保持部4の湾曲面は、保持する電線の外周形状に一致又は電線の半径よりも小さい曲率を有する。
【0024】
刃物ユニット2はさらに、固定ガイド31と、可動ガイド32とを含んでいてもよい。固定ガイド31は、固定電線保持部4の先端に配置される。固定ガイド31は回転軸A方向から見て湾曲した湾曲面を含み、この湾曲面は固定電線保持部4の湾曲面よりも僅かに内側(回転軸A側)に突出する。可動ガイド32は、可動電線保持部5の先端に配置される。可動ガイド32は回転軸A方向から見て湾曲した湾曲面を含み、この湾曲面は可動電線保持部5の湾曲面よりも僅かに内側(回転軸A側)に突出する。
【0025】
このように固定ガイド31及び可動ガイド32を設けることにより、電線を片持ちではなく両持ちすることができ、より安定して電線を保持することができる。
【0026】
[刃物保持部]
刃物保持部は、後述する固定刃物8及び可動刃物9を保持する。刃物保持部は、固定刃物保持部6と、可動刃物保持部7と、を含む。
【0027】
固定刃物保持部6は、後述する可動刃物9を保持する。固定刃物保持部6は後述するようにピン14によって可動刃物9を回転可能に保持する。固定刃物保持部6は、固定電線保持部4と一体である。
【0028】
可動刃物保持部7は、後述する固定刃物8を保持する。可動刃物保持部7はたとえば、回転軸A方向に延びる平坦面を含んでおり、その平坦面に固定刃物8を固定することで固定刃物8を保持する。可動刃物保持部7は、可動電線保持部5と一体である。たとえば、円筒を縦割りしたような部材の肉厚部分を可動刃物保持部7とし、円筒の内周面を可動電線保持部5とすることができる。
【0029】
[固定刃物]
固定刃物8は、電線の被覆を剥ぐものである。固定刃物8は、可動刃物保持部7に固定される。固定方法は特に限定されないが、ねじ止め等の強固に固定できる方法であるのが好ましい。
【0030】
固定刃物8の刃先は、回転軸A方向に沿うように配置される。固定刃物8の刃先の回転軸A方向の長さ(以下、「刃幅」という。)は、後述する可動刃物との重複部分を加味して電線の被覆を剥ぐ区間の長さの半分よりも少し長い。
【0031】
図5は、第1実施形態の電線皮剥工具を回転軸方向に沿って先端側から見た図である。つまり、
図5は、刃物ユニットから本体ユニットに向かう方向で見ている。固定刃物8は、回転軸A方向から見て可動電線保持部5の湾曲面よりも内側(回転軸A側)に突出する。固定刃物8の突出量は、対象とする電線の被覆の厚さ以下である。
【0032】
[可動刃物]
可動刃物9は、電線の被覆を剥ぐものである。可動刃物9は、固定刃物保持部6に取り付けられる。可動刃物9は、固定電線保持部4の湾曲面よりも内側(回転軸A側)に突出又は退避可能に固定刃物保持部6に取り付けられる。可動刃物9のより具体的な取付方法を
図6を用いて説明する。
【0033】
図6は、
図5に示す刃物ユニットから固定ガイド及び可動ガイドを外した図である。可動刃物9は、刃先から所定の距離の位置に貫通孔を有し、貫通孔にピン14を差し込んで固定刃物保持部6に取り付けられる。ピン14は、回転軸Aに沿う方向に差し込まれる。これにより、可動刃物9はピン14を中心に回転することができ、固定電線保持部4の湾曲面よりも内側(回転軸A側)に突出したり、湾曲面よりも外側に退避したりすることができる。可動刃物9の突出量は、対象とする電線の被覆の厚さ以下である。
【0034】
図7は、
図4中のVII-VII線での断面図である。可動刃物9の突出量は可動刃物保持部に設けられたストッパーネジ18によって制御するのが好ましい。ストッパーネジ18は、ピン14よりも可動刃物9の刃先側の部分に接触可能であり、ストッパーネジ18が可動刃物9に接触することで可動刃物9の回転が止まる。
図7では可動刃物9の位置決め用のストッパーネジと、位置決め用のストッパーネジの緩み止め用のストッパーネジとの2つを図示しているが、ストッパーネジは1つでもよい。
【0035】
可動刃物9の刃先は、回転軸A方向に沿うように配置される。可動刃物9の刃幅は、上述した固定刃物8と同様に電線の被覆を剥ぐ区間の長さの半分よりも少し長い。また、回転軸Aの周方向における可動刃物9の刃先の向きは、固定刃物8の刃先の向きと同じである。すなわち、刃物ユニットがある一方向に回転すると、可動刃物9及び固定刃物8は双方とも電線の被覆を剥ぐ方向に回転する。
【0036】
図8は、第1実施形態の電線皮剥工具を回転軸に垂直な方向から見た図である。回転軸Aに垂直な方向から見て、可動刃物9の一部は固定刃物8と重複する。この点を模式図を用いて説明する。
【0037】
図9は、
図8の可動刃物、固定刃物及びスペーサを回転軸に垂直な方向から見た模式図である。すなわち、本明細書において「可動刃物の一部は固定刃物と重複する」とは、回転軸A方向において、可動刃物9の固定刃物8側の端面16が固定刃物8の可動刃物9側の端面15よりも固定刃物8の中央側に位置していることを意味し、可動刃物の固定刃物側の端面16が固定刃物の可動刃物側の端面15と同じ位置である場合を含む。
【0038】
[弾性部材]
図6を参照して、弾性部材17は、可動刃物9及びスペーサ11を固定電線保持部4の内側(回転軸A側)に突出する方向に付勢する。たとえば、
図6に示されるように、弾性部材17は、ピン14を挟んで可動刃物9の刃先と反対側を、可動刃物9及びスペーサ11が固定電線保持部4の内側に突出する方向に付勢してもよい。また、弾性部材17は、ピン14を挟んで可動刃物9の刃先側を、可動刃物9及びスペーサ11が固定電線保持部4の内側に突出する方向に付勢してもよい。
【0039】
要するに、弾性部材17による可動刃物9及びスペーサ11の付勢位置は特に限定されず、可動刃物9及びスペーサ11が固定電線保持部4の内側に突出する方向に付勢されていればよい。弾性部材17はたとえば、ばね、ゴム等である。
【0040】
[スペーサ]
図9を参照して、スペーサ11は、可動刃物9の固定刃物8側の端面16に固定される。したがって、スペーサ11は可動刃物9と一体となって動くことが可能である。固定方法は特に限定されないが、ねじ止め等の強固に固定できる方法であるのが好ましい。また、スペーサの材質はたとえば、樹脂等である。
【0041】
図6を参照して、スペーサ11は、回転軸方向から見て可動刃物9よりも固定電線保持部4の湾曲面の内側(回転軸A側)に突出する。これは、可動刃物9が固定電線保持部4よりも外側に退避している際であっても、内側に突出している際であっても同じである。
【0042】
図9を参照して、回転軸Aに垂直な方向から見て、スペーサ11は固定刃物8と重複する。ここで、本明細書において「スペーサは固定刃物と重複する」とは、回転軸A方向において、スペーサ11の回転軸方向の両端面が固定刃物8の可動刃物9側の端面15よりも固定刃物8の中央側に位置していることを意味し、スペーサ11の固定刃物8側の端面23が固定刃物の可動刃物側の端面15と反対側の端面24と同じ位置である場合を含む。したがって、スペーサ11の回転軸A方向の長さは、固定刃物8の刃幅よりも短い。
【0043】
このような構成のスペーサ11は、固定刃物8による電線の被覆の剥ぎ取りの終了を検知する。以下この点について第1実施形態の電線皮剥工具による電線の被覆の剥ぎ取り動作とともに説明する。
【0044】
[電線皮剥工具の動作]
図10は、電線を保持する前の第1実施形態の電線皮剥工具を回転軸方向に沿って先端側から見た図である。なお、
図10~
図12では刃物ユニットの先端の固定ガイド及び可動ガイドの図示を省略している。電線20を保持する際、刃物ユニット2を開き、固定電線保持部の内側に電線20を収容する。スペーサ11は固定電線保持部4の内側に突出しているため、電線20を固定電線保持部4に収容することでスペーサ11及び可動刃物9が、固定電線保持部4の外側に押し上げられる。したがって、可動刃物9は電線20と接触しない。この状態から、可動電線保持部5を回転させて刃物ユニット2を閉じ、可動電線保持部5及び固定電線保持部4で電線20を保持する。
【0045】
図11は、電線を保持している第1実施形態の電線皮剥工具を回転軸方向に沿って先端側から見た図である。可動電線保持部5及び固定電線保持部4が電線を保持すると、固定刃物8は可動電線保持部5の内側に突出しているため、固定刃物8が電線の被覆21に食い込む。この状態から、本体ユニットを操作し、刃物ユニット2を回転軸A周りに回転させる。ここで、可動電線保持部5の湾曲面及び固定電線保持部4の湾曲面は電線の外周形状とほぼ一致するため、回転軸Aは電線の中心軸とほぼ一致する。したがって、刃物ユニット2が一回転すると、固定刃物8が電線の被覆21を一周にわたって剥ぎ取る。
【0046】
図9を参照して、上述したように、回転軸Aに垂直な方向から見てスペーサ11は固定刃物8と重複している。したがって、電線を保持した際、スペーサ11は固定刃物8が剥ぎ取る電線の被覆と接触している。
【0047】
図11を参照して、固定刃物8が被覆21を剥ぎ取ると、スペーサ11が接していた被覆が存在しなくなる。スペーサ11は弾性部材17により固定電線保持部4の内側に突出するように付勢されているため、スペーサ11が接していた被覆が存在しなくなれば、スペーサ11が固定電線保持部4の内側に突出するようになるとともに、可動刃物9も固定電線保持部4の内側に突出するようになる。すなわちスペーサ11は、固定刃物8が電線の被覆21を剥ぎ取ったことを検知する役割を担う。
【0048】
図12は、
図11に示す状態から刃物ユニットが回転した後の第1実施形態の電線皮剥工具を回転軸方向に沿って先端側から見た図である。上述したように可動刃物9は、回転軸Aに垂直な方向から見てその一部が固定刃物8と重複している。そのため、刃物ユニット2が回転し、固定刃物8が電線の被覆21を剥ぎ取ると、可動刃物9の固定刃物8と重複していない部分が電線の被覆21に食い込むようになる。
【0049】
この状態からさらに刃物ユニット2が回転すると、可動刃物9が固定刃物8によって剥ぎ取られていない電線の被覆21を剥ぎ取り、所定区間の電線の被覆の剥ぎ取りが完了する。なお、スペーサ11が固定電線保持部4の内側に突出するタイミング、すなわち可動刃物9が被覆21を剥ぎ取り始めるタイミングは、スペーサ11と固定刃物8との回転軸A周りの配置角度によって適宜調整できる。
【0050】
[作業量及び芯線を傷つけることの抑制効果]
このような第1実施形態の電線皮剥工具によれば、刃物ユニット2を回転させることで所定区間の電線の被覆を剥ぎ取ることができ、螺旋式皮剥よりも少ない作業量で電線の被覆を剥ぎ取ることができる。
【0051】
また、第1実施形態の電線皮剥工具によれば、所定区間の電線の被覆を固定刃物8、可動刃物9の順に2回に分けて剥ぎ取る。そのため、一括式皮剥よりも刃物と被覆との接触面積が小さいため、被覆を剥ぐ際の抵抗が小さくて済む。そのため、仮に固定刃物8及び可動刃物9を回転させる方向が芯線22の撚りの方向と反対であっても、被覆の剥ぎ取りの際に芯線が撚りを解く方向に受ける力は小さくて済む。したがって、芯線の撚りが解けにくく、芯線の直径が大きくなりにくいため、固定刃物8及び可動刃物9が芯線を傷つけることを抑制できる。
【0052】
なお、上述の説明では、固定刃物8が可動刃物保持部7に固定され、可動刃物9が固定刃物保持部6に取り付けられる場合について説明した。しかしながら、第1実施形態の電線皮剥工具はこれに限定されない。第1実施形態の電線皮剥工具では、固定刃物8が固定刃物保持部6に固定され、可動刃物9が可動刃物保持部7に取り付けられていてもよい。
【0053】
また、上述の説明では、回転軸方向における固定刃物8及び可動刃物9の配置について、固定刃物8が本体ユニット3側に配置され、可動刃物9が可動電線保持部5側(先端側)に配置される場合について説明した。しかしながら、第1実施形態の電線皮剥工具はこれに限定されない。第1実施形態の電線皮剥工具では、回転軸方向において固定刃物8が固定電線保持部4側(先端側)に配置され、可動刃物9が本体ユニット3側に配置されてもよい。
【0054】
以上、第1実施形態の電線皮剥工具について説明した。しかしながら、本発明の電線皮剥工具はこれに限定されず、次のような実施形態とすることもできる。
【0055】
[第2実施形態]
第2実施形態の電線皮剥工具について説明する。以下の第2実施形態の電線皮剥工具の説明では、第1実施形態の電線皮剥工具と異なる構成のみ説明し、同じ構成は説明を省略する。
【0056】
図13は、第2実施形態の電線皮剥工具の斜視図である。第2実施形態の電線皮剥工具は、固定刃物8及び可動刃物9が双方とも可動刃物保持部7に取り付けられる点で第1実施形態の電線皮剥工具と異なる。
【0057】
[刃物保持部]
図14は、第2実施形態の刃物ユニットの斜視図である。可動刃物保持部7は、固定刃物8を保持する固定取付部と、可動刃物9を保持する可動取付部と、を含む。固定取付部は、第1実施形態の刃物取付部と同様であるので、その説明は省略する。可動取付部は可動電線保持部5から回転軸A方向に延びるピン14と、支持部材12とを含む。
【0058】
[可動刃物]
可動刃物9には可動取付部のピン14が貫通しており、可動刃物9がピン14を中心に回転できるように構成されている。このような構成により、回転軸A方向から見て可動刃物9の刃先が、可動電線保持部5の内側に突出したり退避したりすることが可能となる。
【0059】
[弾性部材]
弾性部材17はたとえば、ねじりコイルばねである。弾性部材17は、可動刃物9を貫通するピン14に取り付けられ、可動刃物9及びスペーサを可動電線保持部5の内側に突出する方向に付勢する。
【0060】
[支持部材]
図15は、第2実施形態の刃物ユニットを回転軸方向に沿って先端側から見た図である。なお、
図15では刃物ユニットの先端側の部材の図示を省略し、内部構造を示している。支持部材12は、先端にフックが設けられた棒状の部材である。支持部材12のフックとは異なる端部は、可動電線保持部5にピン止め等により回転可能に取り付けられる。支持部材12のフックは、可動刃物9を貫通するピン14を挟んで可動刃物9の刃先と反対側を支持可能である。
【0061】
可動刃物9は弾性部材により付勢されているため、可動刃物9の刃先は可動電線保持部5の内側を向こうとする。仮に、可動刃物9の回転を何ら制御しないとすると、電線保持部に電線を入れる際に可動刃物9の刃先が邪魔になったり、電線の被覆に触れて意図せぬ箇所の被覆が傷つく可能性がある。
【0062】
そこで、刃物ユニット2を開いた状態のとき、支持部材12のフックが可動刃物9のピン14を挟んで刃先と反対側の部分を支持し、可動刃物9の刃先が可動電線保持部5の内側に向くことを防ぐ。これにより、電線の保持が容易になり、さらに意図せぬ箇所の被覆を傷つけることを抑制できる。
【0063】
また、回転軸方向から見て、支持部材12は可動電線保持部5の湾曲面よりも内側に位置している。この位置に支持部材12があることで、刃物ユニット2を閉じた際に電線の被覆が支持部材12に当たり、可動刃物9から支持部材12のフックを外す構成となっている。
【0064】
なお、上述の説明では、固定刃物8及び可動刃物9の双方が可動刃物保持部7に取り付けられる場合について説明した。しかしながら、第2実施形態の電線皮剥工具はこれに限定されない。第2実施形態の電線皮剥工具では、固定刃物8及び可動刃物9の双方が固定刃物保持部6に取り付けられていてもよい。
【0065】
また、上述の説明では、回転軸方向における固定刃物8及び可動刃物9の配置が、固定刃物8が本体ユニット3側に配置され、可動刃物9が可動電線保持部5側(先端側)に配置される場合について説明した。しかしながら、第2実施形態の電線皮剥工具はこれに限定されない。第2実施形態の電線皮剥工具では、回転軸方向において固定刃物8が固定電線保持部4側(先端側)に配置され、可動刃物9が本体ユニット3側に配置されてもよい。
【0066】
以上、第2実施形態の電線皮剥工具について説明した。続いて、第1実施形態及び第2実施形態に共通する好ましいその他の実施形態について説明する。
【0067】
[その他の実施形態]
図16は、可動刃物の先端近傍の図である。スペーサ11の可動刃物9からの突出量Dは、可動刃物9の先端に向かうにつれ小さくなるのが好ましい。この理由について第1実施形態の電線皮剥工具を例に説明する。
【0068】
上述したように、固定刃物による被覆の剥ぎ取りが終了するまで、可動刃物9よりも可動電線保持部の内側に突出したスペーサ11のある部分が被覆21と接触している。そのため、固定刃物によって剥ぎ取られた被覆があった場所にスペーサ11が到達するまで可動刃物9が被覆21を剥ぎ取ることはない。
【0069】
しかしながら、スペーサ11が固定刃物8によって剥ぎ取られた被覆があった場所に到達すると、スペーサ11が接触していた被覆21が無くなっているため、スペーサ11及び可動刃物9はピンを中心に回転し、可動電線保持部の内側に突出するようになる。この際、仮に、スペーサ11の可動刃物9からの突出量Dが可動刃物9の先端(刃先)まで一定であるとすると、可動刃物9の先端が芯線22から突出量D以上離れた位置にあるため、可動刃物9が被覆21に深く食い込みにくくなり、被覆21が剥ぎ取りにくい。
【0070】
そこで、スペーサ11の可動刃物9からの突出量Dを可動刃物9の先端に向かうにつれ小さくすることで、スペーサ11が芯線22に当たった状態のとき、可動刃物9の先端が位置する芯線22からの距離(突出量D)が小さくなり、被覆21に深く食い込みやすくなる。
【0071】
なお、上述の説明では、可動刃物9の突出量Dをストッパーネジで制御する場合について説明したが、可動刃物9の突出量Dの制御はこの場合に限定されない。たとえば、スペーサ11を芯線22に当てることで可動刃物9の突出量Dを制御してもよい。
【0072】
以上説明したように、
(1)本実施形態の電線の被覆を剥ぐ電線皮剥工具は、本体ユニットと、刃物ユニットと、を含む。刃物ユニットは、本体ユニットに取り付けられ、本体ユニットによって回転軸周りに回転させられる。刃物ユニットは、電線保持部と、刃物保持部と、固定刃物と、可動刃物と、スペーサと、弾性部材と、を含む。電線保持部は、刃物ユニットを開閉することで電線を保持可能である。刃物保持部は、回転軸方向に沿って電線保持部に隣接する。固定刃物は、刃物保持部に固定され、回転軸方向から見て電線保持部の内側に突出する。可動刃物は、回転軸に垂直な方向から見て一部が固定刃物と重複し、回転軸方向から見て電線保持部の内側に突出又は退避可能に刃物保持部に取り付けられる。スペーサは、可動刃物に固定され、回転軸方向から見て可動刃物よりも電線保持部の内側に突出し、回転軸に垂直な方向から見て固定刃物と重複する。弾性部材は、可動刃物及びスペーサを電線保持部の内側に突出する方向に付勢する。
【0073】
(2)上記(1)の電線皮剥工具において、スペーサの可動刃物からの突出量は、可動刃物の先端に向かうにつれ小さくなるのが好ましい。
【0074】
(3)上記(1)又は(2)の電線皮剥工具において、電線保持部は、固定電線保持部と、刃物ユニットを開閉することで固定電線保持部と近接又は離間可能な可動電線保持部と、を含むのが好ましい。この場合、刃物保持部は、回転軸方向に沿って固定電線保持部に隣接する固定刃物保持部と、回転軸方向に沿って可動電線保持部に隣接する可動刃物保持部と、を含む。固定刃物は、可動刃物保持部に固定され、回転軸方向から見て可動電線保持部の内側に突出し、可動刃物は、回転軸方向から見て固定電線保持部の内側に突出又は退避可能に固定刃物保持部に取り付けられる。
【0075】
(4)上記(1)又は(2)の電線皮剥工具において、電線保持部は、固定電線保持部と、刃物ユニットを開閉することで固定電線保持部と近接又は離間可能な可動電線保持部と、を含むのが好ましい。この場合、刃物保持部は、回転軸方向に沿って固定電線保持部に隣接する固定刃物保持部と、回転軸方向に沿って可動電線保持部に隣接する可動刃物保持部と、を含む。固定刃物は、可動刃物保持部に固定され、回転軸方向から見て可動電線保持部の内側に突出し、可動刃物は、回転軸方向から見て可動電線保持部の内側に突出又は退避可能に可動刃物保持部に取り付けられる。
【0076】
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0077】
1:電線皮剥工具
2:刃物ユニット
3:本体ユニット
4:固定電線保持部
5:可動電線保持部
6:固定刃物保持部
7:可動刃物保持部
8:固定刃物
9:可動刃物
11:スペーサ
17:弾性部材
20:電線
21:被覆
22:芯線
A:回転軸
D:突出量