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特許7141154抗体ライブラリーの構築方法およびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】抗体ライブラリーの構築方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C40B 40/02 20060101AFI20220914BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220914BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220914BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20220914BHJP
   C12N 1/15 20060101ALN20220914BHJP
   C12N 1/19 20060101ALN20220914BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20220914BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220914BHJP
   C12N 15/86 20060101ALN20220914BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220914BHJP
   C12N 15/38 20060101ALN20220914BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20220914BHJP
   C12N 15/87 20060101ALN20220914BHJP
【FI】
C40B40/02
C12Q1/02
C07K19/00
C07K16/18
C12N1/15 ZNA
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/86 Z
C12N15/13
C12N15/38
C12N15/54
C12N15/87 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021517102
(86)(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 CN2019108128
(87)【国際公開番号】W WO2020125120
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2020-11-30
(31)【優先権主張番号】201811571758.5
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520470268
【氏名又は名称】深▲セン▼市愛思迪生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】姚 永超
(72)【発明者】
【氏名】李 友佳
(72)【発明者】
【氏名】殷 莎
(72)【発明者】
【氏名】劉 広杰
【審査官】天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-506293(JP,A)
【文献】特表2018-525992(JP,A)
【文献】特表2018-533920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C40B
C07K 16/00 - 16/46
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1エレメントおよび第2エレメントを同一のベクターまたは異なるベクターに挿入し、前記ベクターを細胞内にトランスフェクションし、抗体発現細胞ライブラリーである抗体ライブラリーを取得することを含むCD19抗体ライブラリーの構築方法であって、
前記第1エレメントは、cisアクティベーターおよびその下流にスクリーニングマーカー遺伝子を含み、前記第2エレメントは、N端からC端まで順に細胞外抗体ライブラリーコーディング領域、Notchコアドメイン、および細胞内転写ドメインを含み、
前記細胞外抗体ライブラリーコーディング領域は、CD19陽性のRaji細胞でマウスを免疫し、脾臓リンパ細胞のRNAを抽出し、抽出したRNAをそれぞれ軽鎖の逆転写プライマーSEQ ID NO.18および重鎖の逆転写プライマーSEQ ID NO.19により逆転写し、縮重プライマーで重鎖および軽鎖をそれぞれ増幅してから、PCRを重ねる方法で軽鎖と重鎖とを連結し、軽鎖-Linker-重鎖のscFvライブラリーである前記細胞外抗体ライブラリーコーディング領域を形成するという方法により製造され、
前記細胞内転写ドメインは、tTAを含むとともに、前記cisアクティベーターは、pTetを含み、または、前記細胞内転写ドメインは、Gal4-VP64を含むとともに、前記cisアクティベーターは、UAS-pSV40を含む、CD19抗体ライブラリーの構築方法。
【請求項2】
前記スクリーニングマーカー遺伝子は、薬剤耐性遺伝子、自殺遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、および分子タグのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記薬剤耐性遺伝子は、ピューロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子、およびハイグロマイシンB耐性遺伝子のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含み、
前記自殺遺伝子は、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子、シトシンデアミナーゼ遺伝子、およびiCasp9自殺システム遺伝子のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含み、
前記蛍光タンパク質遺伝子は、EGFP、YFP、mCherry、DsRed、およびBFPのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含み、
前記分子タグは、His-tag、Flag-tag、HA-tag、Myc-tag、およびStrep-tagのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記スクリーニングマーカー遺伝子のスクリーニング方法は、薬剤スクリーニング、フローサイトメータによる検出と選別、および磁気ビーズ選別のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記薬剤耐性遺伝子のスクリーニング薬剤は、ピューロマイシン、G418、ブラストサイジン、およびハイグロマイシンBのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含み、
前記自殺遺伝子のスクリーニング薬剤は、ガンシクロビルまたはFIAU、5-フルオロシトシン、AP1903、およびAP20187のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記Notchコアドメインは、ヒトのNotchまたはマウスのNotchの配列を含み、
前記ヒトのNotchのアミノ酸配列はSEQ ID NO.1に示すとおりであり、
前記マウスのNotchのアミノ酸配列はSEQ ID NO.2に示すとおりである、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記トランスフェクションの方法は、ウイルストランスフェクション、化学トランスフェクション、試薬トランスフェクション、および電撃トランスフェクションのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の方法で構築された抗体ライブラリー。
【請求項9】
(1)請求項8に記載の抗体ライブラリーと抗原とを接触するステップと、
(2)スクリーニングマーカー遺伝子の発現状況に応じ、ターゲット抗体を発現した細胞をスクリーニングするステップと、
を含む請求項に記載の抗体ライブラリーを用いることで抗体をスクリーニングする方法であって、
前記抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を含み、
前記抗原は、野生型細胞、特定の抗原遺伝子をトランスフェクションした細胞、特定の抗原を結合した細胞、および培地に溶解した抗原のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む、方法。
【請求項10】
cisアクティベーターおよびスクリーニングマーカー遺伝子を含む第1遺伝子エレメントと、
細胞外抗体ライブラリーコーディング領域をコードする遺伝子、Notchコアドメインをコードする遺伝子、および細胞内転写ドメインをコードする遺伝子を含む第2遺伝子エレメントと、
を含む、CD19抗体をスクリーニングするための遺伝子発現ベクターシステムの構築方法であって、
前記細胞外抗体ライブラリーコーディング領域は、CD19陽性のRaji細胞でマウスを免疫し、脾臓リンパ細胞のRNAを抽出し、抽出したRNAをそれぞれ軽鎖の逆転写プライマーSEQ ID NO.18および重鎖の逆転写プライマーSEQ ID NO.19により逆転写し、縮重プライマーで重鎖および軽鎖をそれぞれ増幅してから、PCRを重ねる方法で軽鎖と重鎖とを連結し、軽鎖-Linker-重鎖のscFvライブラリーである前記細胞外抗体ライブラリーコーディング領域を形成するという方法により製造され、
前記細胞内転写ドメインは、tTAを含むとともに、前記cisアクティベーターは、pTetを含み、または、前記細胞内転写ドメインは、Gal4-VP64を含むとともに、前記cisアクティベーターは、UAS-pSV40を含む、
CD19抗体をスクリーニングするための遺伝子発現ベクターシステムの構築方法
【請求項11】
cisアクティベーターおよびスクリーニングマーカー遺伝子を含む第1遺伝子エレメントと、細胞外抗体ライブラリーコーディング領域をコードする遺伝子、Notchコアドメインをコードする遺伝子、および細胞内転写ドメインをコードする遺伝子を含む第2遺伝子エレメントとを細胞にトランスフェクションすることと、
前記細胞に前記細胞外抗体ライブラリーコーディング領域を発現させることと、
前記細胞と抗原とを接触することと、
前記スクリーニングマーカー遺伝子の発現状況に応じ、ターゲット抗体を発現した細胞をスクリーニングすることにより、ターゲット抗体をスクリーニングすることと、
を含む、請求項1に記載の遺伝子発現ベクターシステムの構築方法を用いてCD19抗体をスクリーニングする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、バイオテクノロジー分野に関し、抗体ライブラリーの構築方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、B細胞により発現され、特定の抗原と結合する免疫グロブリンである。多くの動物において、抗体は、1対となる重鎖および軽鎖から構成される。各鎖は、可変領域(Fv)と定常領域(Fc)との2種の異なる領域から構成される。ここで、重鎖および軽鎖のFv領域は、標的抗原との結合を担当し、抗原結合決定クラスターと呼ばれる。抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域で15~20個のアミノ酸の短いペプチド(linker)を介して連結された抗体は、一本鎖抗体(scFv)と呼ばれる。抗体薬剤は、腫瘍および自己免疫疾患という2つの分野で支配地位を占めている。特に、腫瘍治療の分野で、モノクローナル抗体、モノクローナル抗体に基づく抗体薬剤カップリング、二重特異的抗体、キメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞等の免疫治療は、現在最も人気のある腫瘍治療手段となる。現在、抗体または抗体断片の各種のスクリーニング技術は、主にB細胞モノクローナル技術、タンパク質ディスプレイ法に基づいて発展している。
【0003】
ハイブリドーマ技術は、マウスB細胞のモノクローナル化を確立するための最も早い技術である。所定の抗原を免疫した後の動物の脾臓細胞と、体外で培養されて無限に成長可能な骨髄腫細胞とを融合し、Bハイブリドーマ細胞を得る。このようなハイブリドーマ細胞は、骨髄腫細胞のように、体外で培養されて無限に増殖できるとともに、Bリンパ球のように特異的抗体を合成して分泌することができる。モノクローナル化により単一のハイブリドーマ細胞の細胞系を取得し、それが産生する抗体は同一の抗原エピトープのみに対するものであり、このような抗体は、いわゆるモノクローナル抗体である。しかし、マウス由来抗体がヒトにとって「異種」タンパク質に属しているため、これらのモノクローナル抗体が人体に入ると、これらの抗体に対する抗体(すなわち、ヒト抗マウス抗体)を生成するように人体を誘発する。ヒト抗マウス抗体は、マウス由来抗体を中和し、マウス由来抗体薬剤を無効にする。マウス由来抗体のFc断片をヒト由来抗体のFc断片に置換してヒトマウスキメラ抗体を得て、更にキメラ抗体のFv領域のFR断片をヒト化してヒト化抗体を得ることにより、マウス由来モノクローナル抗体の免疫原性を低減する。完全ヒト由来のモノクローナル抗体は、更に、ヒトの遺伝情報を完全に用いて抗体をコードし、抗異種タンパク質反応を回避する。ヒトB細胞と、mIL-6およびhTERTを発現したマウス骨髄腫細胞とを融合してなるヒトマウスハイブリドーマ細胞、およびEBVでヒトB細胞を形質転換して不死化させることは、いずれも完全ヒト由来のモノクローナル抗体を開発する有効な手段である。
【0004】
B細胞のモノクローナル化技術は、時間がかかって手間がかかり、効率が低く、抗体の高スループットのスクリーニングを行うことができない。タンパク質ディスプレイ法は、ハイブリドーマ技術の高スループットのスクリーニングを行うことができない欠点を克服し、1つの巨大なライブラリー(1010個を超えた独立したクローン)からターゲットクローンをスクリーニングすることができる。常用のタンパク質ディスプレイ法は、ファージディスプレイ法、細菌ディスプレイ法、リボソームディスプレイ法、酵母ディスプレイ法、および哺乳動物細胞ディスプレイ法を含み、既に新しい抗体のスクリーニングおよび抗体親和性の改良に広く適用されている。
【0005】
ファージディスプレイ法は、大きなヒト抗体ライブラリーを相対的に簡単、安定、容易に構築する等の利点により、これまで最も広く適用されるディスプレイ法となる。ファージディスプレイ法は、ポリペプチドまたはタンパク質のコード遺伝子をファージのコートタンパク質構造遺伝子の適当な位置に挿入し、他のコートタンパク質の正常な機能に影響しない場合、外因性ポリペプチドまたはタンパク質とコートタンパク質とを融合発現させ、外因性ポリペプチドまたはタンパク質とコートタンパク質とをファージの表面にディスプレイさせる。ファージの表面にディスプレイされたポリペプチドまたはタンパク質は、相対的に独立した空間構造および生物活性を保持し、標的分子を認識して結合することができる。ファージがディスプレイしたペプチドライブラリーまたはタンパク質ライブラリーは、固定された標的分子と結合し、結合していないファージを洗い落とした後、酸塩基または競合する分子で結合したファージを溶出し、中和後のファージは、大腸菌に対する感染が増幅し、3~5ラウンドの濃縮を経て、標的分子を特異的に認識できるファージの割合を徐々に高め、最終的に標的分子を認識するポリペプチドまたはタンパク質を取得する。抗体の可変領域の遺伝子をファージゲノムに挿入し、発現した抗体をファージの表面にディスプレイし、ファージディスプレイ抗体ライブラリーを構築し、様々な抗原に対する抗体をスクリーニングすることができる。ハイブリドーマ技術と比べ、ファージディスプレイ抗体ライブラリー技術により抗体をスクリーニングすることは、免疫を経なくてもよく、抗体生産の周期を短縮する。体内免疫原性が弱く、または毒性のある抗原の抗体をスクリーニングすることもでき、適用範囲が広い。ファージディスプレイ抗体ライブラリー技術は、属・種に制限されず、様々な種の抗体ライブラリーを構築することができる。ヒト天然ライブラリーからスクリーニングされた抗体は、ヒト化を経ずに直接抗体薬剤の研究に用いることができる。ファージディスプレイ法および細菌ディスプレイ法は、ディスプレイシステムの小容量に制限され、小さいペプチドのディスプレイにより適する。そのため、抗体ライブラリーのディスプレイに用いると、抗体の断片しかディスプレイできず、完全な抗体のディスプレイを行うことができない。また、抗体が真核細胞タンパク質であり、ファージおよび細菌は、真核タンパク質を完全に効果的に発現することを確保できない。
【0006】
酵母ディスプレイ法は、既にヒト抗体ライブラリーおよび抗体親和性成熟をスクリーニングする最も有力なツールの1つとなっている。酵母ディスプレイに最も広く使用されるシステムは、サッカロミセス・セレビシエAga1p/2pα-レクチンシステムであり、ジスルフィド結合に依存してGPIによりアンカーされたAga1pタンパク質とディスプレイされた抗体とを連結する。ファージディスプレイ法と比べ、酵母ディスプレイ法は多くの利点を有する。マルチカラーフローサイトメータを用いて酵母表面の抗体発現強度および蛍光でマークされた抗原との結合強度を定量することを含む。酵母は、分泌型の抗体を発現でき、より高い発現され、より良く折り畳まれ、適当に分泌されるクローンのスクリーニングに寄与する。酵母ディスプレイは、全ての形式の抗体および抗体断片を収容することができ、ドメイン抗体(dAbs)、scFv、Fabs、更にIgGを含む。しかし、形質転換効率およびフロー分析技術の制限により、酵母ディスプレイのヒト抗体ライブラリーの容量の大きさは限られている(10~10個の独立したクローン)。しかし、最近改良された酵母エレクトロポレーション形質転換技術は、形質転換効率を1.5×10個の形質転換体/μgのDNAまで向上させ、これにより、1010個と多い独立したクローンの抗体ライブラリーを構築することができる。
【0007】
哺乳動物細胞ディスプレイ法は、ヒト由来抗体の開発に最も重要な技術となる。哺乳動物細胞におけるタンパク質の折り畳み、分泌および翻訳後修飾は、人体に最も近い。哺乳動物細胞ディスプレイシステムは、ヒト抗体を発現して分泌する最も自然なシステムであり、抗体の自然な折り畳み、安定、凝集の減少に寄与する。哺乳動物細胞ディスプレイ法は、酵母ディスプレイ法に類似する利点を有し、フローサイトメータ技術により哺乳動物細胞表面の抗体状況を分析し、最適な抗体発現シグナルの細胞を選別することができる。哺乳動物細胞ディスプレイ法は、完全長ヒト由来抗体をディスプレイすることができ、Fc断片の完全抗体を含む抗体ライブラリーを構築するために用いられる。しかし、哺乳動物細胞ディスプレイ法には、トランスフェクション効率が低く、ライブラリー容量を高めにくいという問題が常に存在する。これらの制限により、哺乳動物細胞ディスプレイ法の最初の用途は、比較的小さいライブラリーの抗体の最適化に用いることである。一方、近年、技術の進歩に伴い、大量の哺乳動物細胞に基づくライブラリーは確立されて抗体のスクリーニングに用いられる。
【0008】
これらの主流の抗体スクリーニング技術のほか、成長シグナル体に基づく抗体スクリーニング技術(Growth Signalobody)、キメラ抗原受容体に基づく抗体スクリーニング技術(CARbodies)、ディープシーケンシング抗体発見技術のような鮮明な特徴を持つ抗体スクリーニング技術が更にあり、いずれも巨大な潜在力を示している。
【0009】
様々な抗体スクリーニング技術の進歩、人々の疾患に対する更なる認識、および多くの抗原標的点の発見により、抗体薬剤の開発は急速に発展している。抗体および抗体に基づく薬剤の腫瘍に対する治療効果は、選択された抗原標的点に密接に関連し、現在、FDAに承認された抗体薬剤標的点の数は限られ、これらの標的点に対する抗体は、いずれもモノクローナル抗体であるか、または複数のモノクローナル抗体で混合された多様性が限られたポリクローナル抗体である。
【0010】
抗体薬剤は、腫瘍治療で良好な治療効果を得たが、現在、腫瘍治療の問題を完全に解決できるモノクローナル抗体は未だになく、主な原因は以下のとおりである。(1)現在究明された腫瘍標的点のうち、ある腫瘍を完全に被覆可能な標的点がない。腫瘍細胞において、ある腫瘍抗原を高発現する可能性があるが、この腫瘍抗原が全ての腫瘍細胞でいずれも高発現されるとは限らず、この腫瘍抗原を発現しないかまたは低発現する一部の腫瘍細胞は、抗体薬剤に薬剤耐性を生じるため、腫瘍の治療中に腫瘍の迅速な反発をもたらす。(2)腫瘍細胞のみに発現され、正常な細胞に発現されない標的点は少ない。ほとんどの腫瘍抗原がヒトのある正常な組織にも発現されるため、抗体薬剤は正常な組織の損傷に大きな薬剤副作用を有する。(3)腫瘍細胞の抗原は極めて高い変異負荷を有し、すなわち、抗原は多様性を有し、且つ変異率が高い。腫瘍細胞は、大量のそれぞれ異なる腫瘍の新たな抗原を有し、これらの新たな抗原は、同一種の腫瘍でも異なり、確定された腫瘍抗原があっても、変異が起こって抗体薬剤が無効となる可能性がある。(4)既に究明された標的点は限られ、多くの腫瘍に対して使用可能な有効な標的点または標的点の組み合わせがなく、大量の未知の腫瘍標的点は究明されていない。従来の抗体スクリーニング技術は、ほとんどモノクローナル抗体のスクリーニングに用いられる。モノクローナル抗体は、単一の腫瘍抗原標的点の1つの抗原エピトープのみを認識し、複数のモノクローナル抗体で混合されたポリクローナル抗体であっても、認識する抗原エピトープも限られ、腫瘍細胞の複雑な抗原エピトープを被覆することはできない。多くの抗体スクリーニング技術は、ポリクローナル抗体のスクリーニングにも使用できるが、そのスクリーニング操作の利便性、抗体のスクリーニング成功率、得られた抗体特異性等の面では、いずれも大きなチャレンジに直面している。
【0011】
そのため、複雑な抗原に対するポリクローナル抗体をスクリーニングする技術に用いられる抗体ライブラリーの構築方法を開発し、腫瘍抗原が複雑かつ多様であり、変化しやすく、使用可能な標的点が限られているという問題を解決し、広い応用の見通し及び巨大な市場価値を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来技術の不足および実際のニーズに対し、本願は、抗体ライブラリーの構築方法および使用を提供し、前記方法は、synNotchシステムが細胞内の遺伝子発現を制御する原理に基づいて設計され、synNotchシステムの細胞外認識ドメインを細胞外抗体ライブラリーコーディング領域に変え、調整制御されたターゲット遺伝子をスクリーニングマーカー遺伝子に変えることで、抗原により活性化された抗体スクリーニングシステムを得て、複雑な抗原に対するポリクローナル抗体をスクリーニングする技術を得て、腫瘍抗原が複雑かつ多様であり、変化しやすく、使用可能な標的点が限られているという問題を解決し、広い応用の見通し及び巨大な市場価値を有する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するために、本願は以下の技術案を採用する。
【0014】
第1態様において、本願は、synNotchシステムが細胞内の遺伝子発現を制御することを原理とし、第1エレメントおよび第2エレメントを同一のベクターまたは異なるベクターに挿入し、細胞内にトランスフェクションし、抗体発現細胞ライブラリーである抗体ライブラリーを取得する抗体ライブラリーの構築方法であって、
前記第1エレメントは、cisアクティベーターおよびスクリーニングマーカー遺伝子を含み、前記第2エレメントは、細胞外抗体ライブラリーコーディング領域、Notchコアドメイン、および細胞内転写ドメインを含む抗体ライブラリーの構築方法を提供する。
【0015】
具体的には、
(1)cisアクティベーターおよびスクリーニングマーカー遺伝子を有するベクターを細胞にトランスフェクションするステップと、
(2)N端からC端まで順に細胞外抗体ライブラリーコーディング領域、Notchコアドメイン、細胞内転写ドメインを担持するベクターを、ステップ(1)の細胞内にトランスフェクションし、抗体発現細胞ライブラリーである抗体ライブラリーを取得するステップと、
を含む。
【0016】
ステップ(1)およびステップ(2)の2つのベクターは、1つのベクターに合わせることができ、このベクターを用いて抗体ライブラリーを構築することも可能である。一方、2つのベクターに分けて2ステップのトランスフェクションを行うことは、トランスフェクション効率を向上させ、大容量の抗体ライブラリーをより容易に構築することができ、前記ベクターは発現ベクターを含む。
【0017】
本願は、synNotchシステムが細胞内の遺伝子発現を制御する原理に基づいて設計され、synNotchシステムは、天然の細胞間シグナル伝達受容体Notchのコア調節ドメインを含むとともに、合成性の細胞外認識ドメインおよび合成性の細胞内転写ドメインを含み、合成性の細胞外認識ドメインは一本鎖抗体であり、一本鎖抗体が抗原を認識して結合すると、synNotchシステムが誘導性膜貫通領域のせん断を発生し、細胞内転写ドメインは放出されて細胞核に入り、上流cisアクティベーターと結合して調整制御されたターゲット遺伝子の発現を活性化させるため、synNotchシステムが改造した細胞は、特定の抗原認識結合によりある特定の遺伝子の発現を駆動し、T細胞を改造するために用いることができ、T細胞は、抗原によってサイトカインを調整制御して発現させることにより標的細胞を殺傷することができ、またはT細胞は、抗原によってCARを調整制御して発現させることにより、CAR-T細胞の標的細胞に対する認識精度を向上させることができる。
【0018】
本願において、出願人は、従来技術の抗体のスクリーニングの欠点を解決するために、簡潔で効率的な抗体ライブラリーの構築方法を提供し、synNotchシステムが細胞内の遺伝子発現を制御することを基本原理とし、大量の実験により、スキームのフロー全体を最適化し、繰り返し設計して検証し、synNotchシステムの細胞外認識ドメインを細胞外抗体ライブラリーコーディング領域に変え、調整制御されたターゲット遺伝子をスクリーニングマーカー遺伝子に変えることで、抗原により活性化された抗体スクリーニングシステムを得る。抗体ライブラリーの構築方法は、まず、cisアクティベーターおよびスクリーニングマーカー遺伝子を有するベクターを細胞にトランスフェクションし、その後、N端からC端までそれぞれ細胞外抗体ライブラリーコーディング領域、Notchコアドメイン、細胞内転写ドメインを担持するベクターをこの細胞にトランスフェクションし、抗体発現細胞ライブラリーを得る。
【0019】
好ましくは、前記スクリーニングマーカー遺伝子は、薬剤耐性遺伝子、自殺遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、および分子タグのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む。
【0020】
抗体のポジティブスクリーニングを行うためにスクリーニングマーカー遺伝子を薬剤耐性遺伝子に設計する場合、活性化された細胞は、スクリーニング薬剤を有する培地で生存することができるが、残りの細胞は死亡することにより、ターゲット抗原に対する抗体発現細胞をスクリーニングする。抗体のネガティブスクリーニングを行うためにスクリーニングマーカー遺伝子を自殺遺伝子に設計する場合、活性化された細胞はスクリーニング薬剤を有する培地でアポトーシスし、残りの細胞は生存することにより、ターゲット抗原に対する抗体発現細胞を除去する。
【0021】
本願の薬剤によりポジティブスクリーニングを行うことができるスクリーニングマーカー遺伝子は、ピューロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子、ハイグロマイシンB耐性遺伝子等であってもよいが、これらに限定されず、それぞれピューロマイシン、G418、ブラストサイジン、ハイグロマイシンBという薬剤でスクリーニングされ、薬剤によりネガティブスクリーニングを行うことができるスクリーニングマーカー遺伝子は、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)遺伝子、シトシンデアミナーゼ(CD)遺伝子、iCasp9自殺システム遺伝子であってもよいが、これらに限定されず、それぞれガンシクロビルまたはFIAU、5-フルオロシトシン、AP1903またはAP20187という薬剤でスクリーニングされる。
【0022】
好ましくは、前記薬剤耐性遺伝子は、ピューロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子、およびハイグロマイシンB耐性遺伝子のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む。
【0023】
好ましくは、前記自殺遺伝子は、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)遺伝子、シトシンデアミナーゼ(CD)遺伝子、およびiCasp9自殺システム遺伝子のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む。
【0024】
好ましくは、前記蛍光タンパク質遺伝子は、EGFP、YFP、mCherry、DsRed、およびBFPのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む。
【0025】
好ましくは、前記分子タグは、His-tag、Flag-tag、HA-tag、Myc-tag、およびStrep-tagのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む。
【0026】
本願のスクリーニングマーカー遺伝子は、EGFP、YFP、mCherry、DsRed、BFPという蛍光タンパク質遺伝子を含んでもよいが、これらに限定されない。分子タグ、すなわち、タンパク質/ポリペプチドタグは、His-tag、Flag-tag、HA-tag、Myc-tag、Strep-tagを含んでもよいが、これらに限定されない。フローサイトメータで蛍光または抗タグ抗体を検出することは、ポジティブスクリーニングを行ってもよいし、ネガティブスクリーニングを行ってもよい。
【0027】
前記スクリーニングマーカー遺伝子のスクリーニング方法は、薬剤スクリーニング、フローサイトメータによる検出と選別、および磁気ビーズ選別のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む。
【0028】
好ましくは、前記薬剤耐性遺伝子のスクリーニング薬剤は、ピューロマイシン、G418、ブラストサイジン、およびハイグロマイシンBのうちのいずれか1種を含む。
【0029】
好ましくは、前記自殺遺伝子のスクリーニング薬剤は、ガンシクロビルまたはFIAU、5-フルオロシトシン、AP1903、およびAP20187のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む。
【0030】
好ましくは、前記蛍光タンパク質遺伝子の検出と選別方法は、フローサイトメータによる検出と選別を含む。
【0031】
好ましくは、前記分子タグの検出と選別方法は、フローサイトメータによる検出と選別を含む。
【0032】
好ましくは、前記マーカー遺伝子の選別は磁気ビーズ選別を含む。
【0033】
好ましくは、前記細胞外抗体ライブラリーコーディング領域は、(完全抗体、抗体を構成する鎖または抗体断片)抗体配列、抗体重鎖配列、抗体軽鎖配列、抗体可変領域配列、一本鎖抗体配列、単一ドメイン抗体配列、およびFab断片配列のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む。
【0034】
本願において、細胞外抗体ライブラリーコーディング領域部分は、完全な抗体、抗体を構成する鎖(重鎖または軽鎖)、抗体の断片(抗体可変領域、一本鎖抗体、単一ドメイン抗体、Fab断片)からなるライブラリーを含んでもよいが、これらに限定されない。細胞外抗体ライブラリーコーディング領域の由来は、免疫動物、患者、健康者、ワクチン接種者、人工合成を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0035】
好ましくは、前記細胞外抗体ライブラリーコーディング領域の由来は、免疫動物、患者、健康者、ワクチン接種者、および人工合成のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む。
【0036】
好ましくは、前記Notchコアドメインは、ヒトのNotch、マウスのNotch、またはヒトのNotchもしくはマウスのNotchとの類似性が85%以上の配列を含む。
【0037】
好ましくは、前記Notchコアドメインは、ヒトのP1391-R1763断片、マウスのP1390-R1752断片、これらの断片の前または後から±200個のアミノ酸以内の断片、またはこれらの断片との類似性が85%以上の配列を含む。
【0038】
好ましくは、前記ヒトのNotchのアミノ酸配列はSEQ ID NO.1に示すとおりである。
【0039】
好ましくは、前記マウスのNotchのアミノ酸配列はSEQ ID NO.2に示すとおりである。
【0040】
本願のNotchコアドメインは、ヒトのNotch、マウスのNotch、およびそれらとの類似性が85%以上の配列に由来してもよいが、これらに限定されない。Notchコアドメインは、P1391-R1763断片(ヒト)、P1390-R1752断片(マウス)、これらの断片の前または後から±200個のアミノ酸以内の断片、およびこれらの断片との類似性が85%以上の配列であってもよい。
【0041】
好ましくは、前記転写ドメインは、tTAおよび/またはGal4-VP64を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0042】
好ましくは、前記cisアクティベーターは、pTetおよび/またはUAS-pSV40を含む。
【0043】
好ましくは、前記転写ドメインは、tTAおよび/またはGal4-VP64を含む。
【0044】
好ましくは、前記トランスフェクションの方法は、ウイルストランスフェクション、化学トランスフェクション、試薬トランスフェクション、および電撃トランスフェクションのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む。
【0045】
好ましくは、前記コーディング領域、ドメイン、または遺伝子は、コーディングタンパク質のアミノ酸配列、コーディングタンパク質のDNA配列、およびコーディングタンパク質のRNA配列のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む。
【0046】
第2態様において、本願は、第1態様に記載の方法で構築された抗体ライブラリーを提供する。
【0047】
第3態様において、本願は、
(1)抗体ライブラリーと抗原とを接触するステップと、
(2)スクリーニングマーカー遺伝子の発現状況に応じ、ターゲット抗体を発現した細胞をスクリーニングするステップと、
を含む第2態様に記載の抗体ライブラリーを用いてスクリーニングを行う抗体のスクリーニング方法であって、
前記抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を含み、
前記抗原は、野生型細胞、特定の抗原遺伝子をトランスフェクションした細胞、特定の抗原を結合した細胞、培地に溶解した抗原、培養皿に被覆された抗原、マイクロビーズに被覆された抗原、および培養足場に被覆された抗原のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む抗体のスクリーニング方法を提供する。
【0048】
本願において、抗体のスクリーニング方法は、抗体発現細胞ライブラリーと抗原とを接触し、抗原を認識可能な抗体発現細胞だけが細胞内のスクリーニングマーカー遺伝子の発現を活性化し、スクリーニングマーカー遺伝子の発現状況に応じ、ターゲット抗体を発現した細胞をスクリーニングする。
【0049】
第4態様において、本願は、第3態様に記載の方法でスクリーニングされた抗体を提供する。
【0050】
別の態様において、本発明は、
cisアクティベーターおよびスクリーニングマーカー遺伝子を含む第1エレメントと、
細胞外抗体ライブラリーコーディング領域をコードする遺伝子、Notchコアドメインをコードする遺伝子、および細胞内転写ドメインをコードする遺伝子を含む第2エレメントと、
を含む抗体をスクリーニングするためのシステムを更に提供する。
【0051】
前記cisアクティベーター、スクリーニングマーカー遺伝子、細胞外抗体ライブラリーコーディング領域、Notchコアドメイン、および細胞内転写ドメインは上述したように定義される。
【0052】
別の態様において、本発明は、
cisアクティベーターおよびスクリーニングマーカー遺伝子を含む第1エレメントと、細胞外抗体ライブラリーコーディング領域をコードする遺伝子、Notchコアドメインをコードする遺伝子、および細胞内転写ドメインをコードする遺伝子を含む第2エレメントとを細胞にトランスフェクションすることと、
前記細胞に前記細胞外抗体ライブラリーコーディング領域を発現させることと、
前記細胞と抗原とを接触することと、
前記スクリーニングマーカー遺伝子の発現状況に応じ、ターゲット抗体を発現した細胞をスクリーニングすることにより、ターゲット抗体をスクリーニングすることと、
を含む上記システムを用いて抗体をスクリーニングする方法を更に提供する。
【0053】
前記cisアクティベーター、スクリーニングマーカー遺伝子、細胞外抗体ライブラリーコーディング領域、Notchコアドメイン、および細胞内転写ドメインは上述したように定義される。
【発明の効果】
【0054】
従来技術と比べ、本願は、以下のような有益な効果を有する。
【0055】
1、本願に係る方法は、モノクローナル抗体をスクリーニングすることができ、ポリクローナル抗体をスクリーニングすることもできる。従来の抗体スクリーニング技術は、モノクローナル抗体のスクリーニングに適し、ポリクローナル抗体のスクリーニングに使用されても、スクリーニングした抗体の多様性、特異性、および安定性も確保しにくい。本願の抗体スクリーニング技術は、抗原に対してスクリーニングしたポリクローナル抗体がより大きな多様性を有し、且つ、スクリーニング条件を変更することにより特異性がより良く、親和性がより高い抗体を得ることができ、シーケンシングによって大量のモノクローナル抗体のコード配列を得ることができ、従来のモノクローナルスクリーニング技術よりもより簡単である。
【0056】
2、本願に係る方法は、抗原を発現して精製する必要がない。従来の抗体スクリーニング技術は、抗体のスクリーニングを行う場合、免疫動物、プレートで抗体をELISAによりスクリーニングすること、結合抗体で抗体をフロースクリーニングすることに用いられる抗原タンパク質または抗原エピトープのペプチド断片を発現して精製する必要があり、これらの抗原タンパク質またはペプチド断片は、精製しにくいか、または元の抗原タンパク質修飾と異なるか、または元の空間構造ではないか、これらはいずれもスクリーニングした抗体の特異性、親和性に影響を及ぼす。本願の抗体スクリーニング技術は、ターゲット抗原を細胞の表面にディスプレイすれば、抗体のスクリーニングを行うことができ、ターゲット抗原をディスプレイする細胞を得るために、ターゲット抗原の遺伝子を細胞にトランスフェクションするか、またはターゲット抗原の発現が確定された野生型細胞を直接用いれば良く、非常に便利である。
【0057】
3、本願に係る方法は、抗原を予め設定する必要がない。従来の抗体スクリーニング技術は、抗原を予め究明してから、抗原に対して抗体をスクリーニングする必要があるが、腫瘍細胞は極めて複雑であり、大量の究明されていない抗原があり、明確された腫瘍の抗原標的点は非常に限られ、限られた抗原標的点に対してスクリーニングされた抗体は、腫瘍治療のニーズを満たすことができない。本願は、抗原を予め設定する必要がなく、腫瘍細胞全体を抗原とすることができ、抗体ライブラリーからスクリーニングされたポリクローナル抗体は、腫瘍細胞表面の各種の抗原標的点を認識することができ、既知の抗原標的点が限られているという問題を回避する。
【0058】
4、本願に係る方法は、ネガティブスクリーニングを容易に行うことができる。抗体のネガティブスクリーニングの目的は、不要な抗体を除去することであり、例えば、正常な細胞を認識する可能性のある抗体を除去し、腫瘍細胞と正常な細胞とが大量の同じ抗原を有するため、腫瘍細胞に対してスクリーニングされた抗体は、腫瘍細胞を認識できるほか、正常な細胞を認識する可能性もあることで、開発された抗体薬剤は正常な組織を傷害する副作用を有し、従来の抗体スクリーニング技術でモノクローナル抗体をスクリーニングする場合、スクリーニングされた抗体の正常な細胞に対する作用を1つずつ検証し、不要な抗体を除去することができるが、このような方法の効率が低く、ポリクローナル抗体のスクリーニングに適しない。本願の抗体スクリーニング技術は、ネガティブスクリーニングマーカー遺伝子を用いることにより、ネガティブスクリーニング薬剤またはフローサイトメータによる陰性選別等の方式で、ネガティブスクリーニングを容易に行うことができる。
【0059】
5、本願に係る方法は、スクリーニング方式が多様である。本願に係る抗体スクリーニング技術は、薬剤でポジティブ・ネガティブスクリーニングを行ってもよく、フローサイトメータでスクリーニングを行ってもよく、薬剤によるスクリーニングとフローサイトメータによるスクリーニングとを組み合わせて行ってもよく、自分の研究条件および研究経験に基づいて自由に選択して組み合わせ、ターゲット抗体の取得により寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】本願のsynNotchシステムが細胞内の遺伝子発現を制御する原理図である。
図2】本願のsynNotchに基づく抗体スクリーニングシステムである。
図3】本願のcisアクティベーターおよびスクリーニングマーカー遺伝子のベクターの模式図である。
図4】本願のpTet cisアクティベーターで蛍光タンパク質とピューロマイシン耐性遺伝子との融合を調整制御するベクターの模式図である。
図5】本願のtTA発現ベクターの模式図である。
図6】本願の蛍光顕微鏡で撮影したtTAがpTet cisアクティベーターを活性化して緑色蛍光タンパク質を発現した図である。
図7】本願の蛍光顕微鏡で撮影したtTAがpTet cisアクティベーターを活性化して赤色蛍光タンパク質を発現した図である。
図8】本願の抗体ライブラリーの汎用発現ベクターの模式図である。
図9】本願の抗CD19一本鎖抗体の発現ベクターの模式図である。
図10】本願の抗GPC3一本鎖抗体の発現ベクターの模式図である。
図11】本願のCD19およびGFPC3抗原発現ベクターの模式図である。
図12】本願のフローサイトメータでCD19およびGFPC3の抗原のK562細胞における発現を検出した図である。
図13】本願の抗体スクリーニングシステムを用いて混合した抗体発現細胞ライブラリーからCD19抗体発現細胞をスクリーニングした結果図である。
図14】本願の抗体スクリーニングシステムを用いて混合した抗体発現細胞ライブラリーからGPC3抗体発現細胞をスクリーニングした結果図である。
図15】本願のpTet cisアクティベーターで緑色蛍光タンパク質を調整制御するベクターの模式図である。
図16】本願の抗Raji一本鎖抗体遺伝子ライブラリーの発現ベクターの模式図である。
図17】本願のネガティブスクリーニングに用いられる抗原発現ベクターの模式図である。
図18】本願のフローサイトメータでCD19抗原発現ベクターおよびネガティブスクリーニング抗原発現ベクターのK562細胞における発現を検出した結果図である。
図19】本願のフローサイトメータで検出してスクリーニングする前の抗体発現細胞ライブラリーの活性化誘導状況の図である。
図20】本願のフローサイトメータで検出してスクリーニングした後の抗体発現細胞ライブラリーの活性化誘導状況の図である。
図21】本願のpTet cisアクティベーターで蛍光タンパク質とポジティブ・ネガティブスクリーニング遺伝子との融合を調整制御するベクターの模式図である。
図22】本願の薬剤の初期スクリーニングが可能な一本鎖抗体遺伝子ライブラリーの発現ベクターの模式図である。
図23】本願の抗体スクリーニングシステムを用いて薬剤のポジティブスクリーニングを行う原理図である。
図24】本願のフローサイトメータでポジティブスクリーニングを行う抗体発現細胞を検出した結果図である。
図25】本願の抗体スクリーニングシステムを用いて薬剤のネガティブスクリーニングを行う原理図である。
図26】本願のフローサイトメータでネガティブスクリーニングを行う抗体発現細胞を検出した結果図である。
図27】本願の一本鎖抗体と抗体の定常領域とを融合した発現ベクターの模式図である。
図28】本願のフローサイトメータで本願の抗体スクリーニング方法によりスクリーニングした抗体の抗原との結合効率の結果図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本願に使用される技術的手段およびその効果を更に説明するために、以下、図面および具体的な実施形態を参照しながら本願の技術案について更に説明するが、本願は実施例の範囲内に限定されるものではない。
【0062】
実施例1.既知のCD19およびGPC3抗体をスクリーニングする
【0063】
synNotchシステムが細胞内の遺伝子発現を制御する原理図は図1に示すように、synNotchシステムの細胞外の一本鎖抗体が抗原を認識して結合する場合、synNotchシステムは誘導性膜貫通領域のせん断を発生し、細胞内転写ドメインが放出されて細胞核に入り、上流cisアクティベーターと結合して調整制御されたターゲット遺伝子の発現を活性化させた。
【0064】
synNotchに基づく抗体スクリーニングシステムの原理図は図2に示すように、synNotchシステムの基に、細胞外認識ドメインを細胞外抗体ライブラリーコーディング領域に変え、調整制御されたターゲット遺伝子をスクリーニングマーカー遺伝子に変えることで、抗原により活性化された抗体スクリーニングシステムを得た。
【0065】
既知のCD19とGPC3との混合した抗体ライブラリーからCD19およびGPC3に対する特異的抗体をそれぞれスクリーニングした。
【0066】
(1)cisアクティベーターおよびスクリーニングマーカー遺伝子を安定してトランスフェクションしたモノクローナル細胞系を構築した。
【0067】
本実施例において、cisアクティベーターはpTet(SEQ ID NO.3)を採用し、pTetがtTAシグナルを受信すれば、スクリーニング遺伝子の発現を開始することができ、スクリーニングマーカーは蛍光タンパク質を用いてピューロマイシン耐性遺伝子(SEQ ID NO.4)と融合し、両者の間は自動的に破断可能な2A(SEQ ID NO.5)配列で連結され、cisアクティベーターおよびスクリーニングマーカー遺伝子のベクターの模式図は図3に示すとおりである。
【0068】
本実施例は、それぞれ2種の蛍光タンパク質であるEGFP(SEQ ID NO.6)およびmCherry(SEQ ID NO.7)を用いてピューロマイシン耐性遺伝子と融合して2種のスクリーニングマーカーを構築し、ターミネーターはSV40ポリA(SEQ ID NO.8)を採用し、人工合成により配列全体(図4)のコード遺伝子を直接合成し、レンチウイルスベクターに構築し、レンチウイルスを包装し、それぞれ293T細胞にトランスフェクションし、3日間後にトランスフェクションした細胞をモノクローナル化した。
【0069】
モノクローナルの細胞系をスクリーニングして正確なモノクローナル細胞を取得するために、tTA発現ベクター(図5)を構築する必要があり、tTA発現ベクターは、ef1-αプロモーター(SEQ ID NO.9)、tTA遺伝子(SEQ ID NO.10)、ターミネーターから構成され、tTA発現ベクターをレンチウイルスベクターに構築し、レンチウイルスとして包装した。
【0070】
スクリーニング待ちのモノクローナル細胞から、それぞれ一部の細胞を取り出してtTAを発現したレンチウイルスをトランスフェクションし、2~3日間後、蛍光顕微鏡で観察し、EGFP(図6は、pTet cisアクティベーターを安定してトランスフェクションして緑色蛍光タンパク質とピューロマイシン耐性遺伝子との融合を調整制御するモノクローナル細胞をスクリーニングする場合、顕微鏡で観察した緑色蛍光の発現状況である。)またはmCherry(図7は、pTet cisアクティベーターを安定してトランスフェクションして赤色蛍光タンパク質とピューロマイシン耐性遺伝子との融合を調整制御するモノクローナル細胞をスクリーニングする場合、顕微鏡で観察した赤色蛍光発現状況である。)の発現があるがトランスフェクションの前に蛍光の発現がない細胞系は、いずれもpTet cisアクティベーターおよびスクリーニングマーカー遺伝子を安定してトランスフェクションしたモノクローナル細胞系であった。
【0071】
(2)抗体発現細胞ライブラリーを構築した。まず、後続に細胞外抗体ライブラリーコーディング領域遺伝子(図8は、抗体ライブラリーの汎用発現ベクターの模式図である)を挿入するように、抗体遺伝子ライブラリーの発現ベクターにおける細胞外抗体ライブラリーコーディング領域遺伝子以外の中間ベクターを構築し、中間ベクターの各構成部分の配列を人工合成し、N端からC端まで順に直列連結された部分は、それぞれmPGK1プロモーター(SEQ ID NO.11)、CD8αシグナルペプチド(SEQ ID NO.12)コード配列、抗体遺伝子ライブラリーコーディング領域(β-ガラクトシダーゼ(lacZ)のN端のα断片を有するコード領域の配列であり、前はAsc I制限酵素部位で、後ろはNot I制限酵素部位であり、抗体ライブラリー配列を挿入しやすく、且つ、青白斑で断片の挿入状況を示すことができる)、NOTCH1断片(SEQ ID NO.2に膜貫通領域のP1390-R1752断片が含まれる)コード配列、tTAコード配列、ターミネーターであり、合成した配列をレンチウイルスベクターに構築し、抗体遺伝子配列を更に挿入するように準備した。
【0072】
既知の抗ヒトCD19一本鎖抗体(SEQ ID NO.13)および抗ヒトGPC3一本鎖抗体(SEQ ID NO.14)のコード配列を合成し、両端にAsc IおよびNot I制限酵素部位があり、それぞれ中間ベクターのAsc IとNot I制限酵素部位との間に挿入され、抗ヒトCD19一本鎖抗体遺伝子が挿入されたベクター(図9)をレンチウイルスに包装し、EGFPスクリーニングマーカーを有するモノクローナル細胞系にトランスフェクションし、CD19一本鎖抗体発現細胞を得た。
【0073】
抗ヒトGPC3一本鎖抗体遺伝子が挿入されたベクター(図10)をレンチウイルスに包装し、mCherryスクリーニングマーカーを有するモノクローナル細胞系にトランスフェクションし、GPC3一本鎖抗体発現細胞を得た。
【0074】
(3)CD19およびGFPC3の抗原発現細胞を構築した。CD19(SEQ ID NO.15)およびGPC3(SEQ ID NO.16)抗原のコード配列を合成し、それぞれ発現ベクターに構築し、ベクターの発現中に、2つの2A配列により、CD19またはGPC3、青色蛍光タンパク質(SEQ ID NO.17)、ピューロマイシン耐性遺伝子という3者を融合した(図11)。
構築した発現ベクターをレンチウイルスに包装し、ウイルスによりK562細胞にトランスフェクションし、トランスフェクションしてから2日間後に、培地に1μg/mLのピューロマイシンを加えてスクリーニングし、CD19またはGPC3を安定して発現したK562細胞を得た。フローサイトメータにより青色蛍光タンパク質の発現がほぼ100%に達したことを検出し(図12)、抗原がK562細胞で安定して発現していることを示した。
【0075】
(4)混合した抗体発現細胞ライブラリーからCD19抗体発現細胞をスクリーニングした。CD19一本鎖抗体発現細胞とGPC3一本鎖抗体発現細胞と1:1で混合してから、混合細胞とCD19抗原発現細胞とを1:1で混合し、混合細胞を2日間培養した後、培地に1μg/mLのピューロマイシンを加えてスクリーニングし、8~10日間のスクリーニングを経て、抗体発現細胞は、ほとんどCD19抗体が緑色蛍光を有することを発現した細胞であり(図13)、CD19一本鎖抗体と緑色蛍光とを共に発現した細胞と、GPC3一本鎖抗体と赤色蛍光とを共に発現した細胞とを1:1で混合し、CD19抗原発現細胞と混合してピューロマイシンを加えてスクリーニングし、ほとんどCD19抗体が緑色蛍光を有することを発現した細胞を得た。
【0076】
(5)混合した細胞から抗GPC3抗体を発現した細胞をスクリーニングした。CD19抗体発現細胞とGPC3抗体発現細胞とを1:1で混合してから、混合細胞とGPC3抗原発現細胞とを1:1で混合し、混合細胞を2日間培養した後、培地に1μg/mLのピューロマイシンを加えてスクリーニングし、8~10日間のスクリーニングを経て、抗体発現細胞は、ほとんどGPC3抗体が赤色蛍光を有することを発現した細胞であり(図14)、CD19一本鎖抗体と緑色蛍光とを共に発現した細胞と、GPC3一本鎖抗体と赤色蛍光とを共に発現した細胞とを1:1で混合し、GPC3抗原発現細胞と混合してピューロマイシンを加えてスクリーニングし、ほとんどGPC3抗体が赤色蛍光を有することを発現した細胞を得た。
【0077】
上記実験結果により、本抗体スクリーニング方法により、既知の抗体ライブラリーからターゲット抗原に対する一本鎖抗体をスクリーニングすることができることが示された。
【0078】
実施例2.抗体ライブラリーを調製し、フローサイトメータでCD19抗体発現細胞をスクリーニングする
【0079】
(1)cisアクティベーターおよびスクリーニングマーカー遺伝子を安定してトランスフェクションしたモノクローナル細胞系を構築した。
【0080】
本実施例は、cisアクティベーターpTetを採用し、pTetがtTAシグナルを受信すれば、スクリーニングマーカーである緑色蛍光タンパク質遺伝子の発現を開始し、人工合成により配列全体を合成し(図15)、レンチウイルスベクターに構築した。レンチウイルスを包装し、293T細胞にトランスフェクションし、3日間後にトランスフェクションした細胞をモノクローナル化し、スクリーニング待ちのモノクローナル細胞から、それぞれ一部の細胞を取り出してtTAを発現したレンチウイルスをトランスフェクションし、2~3日間後、蛍光顕微鏡で観察し、緑色蛍光の発現があるがトランスフェクションの前に蛍光の発現がない細胞系を選択し、トランスフェクションcisアクティベーターおよびスクリーニングマーカー遺伝子を安定してトランスフェクションしたモノクローナル細胞系であった。
【0081】
(2)抗体発現細胞ライブラリーを構築した。
【0082】
CD19陽性のRaji細胞でC57BL/6Jマウスを免疫し、2週目に免疫を1回強化し、4週目に免疫を再度強化し、3日間後にマウスを殺し、マウスの脾臓リンパ球を分離し、RNA抽出精製キットで脾臓リンパ球のRNAを抽出した。
【0083】
抽出したRNAを逆転写キットでそれぞれ軽鎖の逆転写プライマー(SEQ ID NO.18)および重鎖の逆転写プライマー(SEQ ID NO.19)により逆転写し、縮重プライマーで重鎖および軽鎖をそれぞれ増幅してから、PCRを重ねる方法で軽鎖と重鎖とを連結し、軽鎖-Linker-重鎖のscFvライブラリーを形成し、scFvライブラリーのDNA断片をAsc IおよびNot Iにより二重酵素切断し、抗体遺伝子ライブラリーの発現ベクターの中間ベクターのAsc IとNot I制限酵素部位との間に挿入し、抗体遺伝子ライブラリーの発現ベクター(図16)を取得し、Raji細胞免疫マウスで調製した一本鎖抗体を抗体遺伝子ライブラリーの発現ベクターにクローンした。
【0084】
抗体遺伝子ライブラリーの発現ベクターをレンチウイルスに包装し、ステップ(1)のcisアクティベーターおよびスクリーニングマーカー遺伝子を安定してトランスフェクションしたモノクローナル細胞系にトランスフェクションし、抗体発現細胞ライブラリーを得た。
【0085】
(3)抗原発現細胞を構築した。
【0086】
CD19を発現した抗原発現細胞の調製は実施例1を参照し、この抗原発現細胞は抗CD19抗体のポジティブスクリーニングに用いられ、1つの膜貫通ドメイン(SEQ ID NO.20)のコード遺伝子を合成し、ポジティブスクリーニングベクターにおけるCD19抗原遺伝子を置換し、ネガティブスクリーニングに用いられる抗原発現ベクター(図17)を得た。
【0087】
構築した抗原発現ベクターをそれぞれレンチウイルスに包装し、ウイルスによりK562細胞にトランスフェクションし、トランスフェクションしてから2日間後に、培地に1μg/mLのピューロマイシンを加えてスクリーニングし、ポジティブスクリーニング抗原発現細胞系およびネガティブスクリーニング抗原発現細胞系をそれぞれ得た。フローサイトメータにより青色蛍光タンパク質の発現がほぼ100%に達したことを検出し(図18)、抗原がK562細胞で安定して発現していることを示した。
【0088】
(4)フローサイトメータでCD19抗体を発現した細胞をスクリーニングした。
【0089】
抗体発現細胞ライブラリーとCD19抗原を発現したポジティブスクリーニング細胞とを1:1で混合し、混合細胞を2日間培養した後、抗体発現細胞ライブラリーに緑色蛍光タンパク質を発現した細胞が少量現れ(図19)、抗体発現細胞ライブラリーとCD19抗原を発現したポジティブスクリーニング細胞とを混合して2日間培養した後、抗体発現細胞ライブラリーに緑色蛍光タンパク質を発現した細胞が少量現れ、選別型フローサイトメータで緑色蛍光タンパク質を発現した細胞を選別し、大部分の緑色蛍光が消えたまで培養し続けた。
【0090】
更に、選別した抗体発現細胞ライブラリーとネガティブスクリーニング抗原発現細胞とを1:1で混合し、3日間後に、選別型フローサイトメータで緑色蛍光タンパク質と青色蛍光タンパク質との両方が陰性である細胞を選別し、すなわち、CD19抗体を発現した細胞であり、この時の抗体発現細胞は、ネガティブスクリーニング抗原発現細胞と共培養する場合、緑色蛍光タンパク質の発現がなく、CD19抗原発現細胞と共培養する場合、緑色蛍光タンパク質の発現があり(図20)、ポジティブ・ネガティブスクリーニングを経た後の抗体発現細胞は、ネガティブスクリーニング抗原発現細胞と共培養する場合、緑色蛍光タンパク質の発現がなく、CD19抗原発現細胞と共培養する場合、緑色蛍光タンパク質発現があった。
【0091】
実施例3.抗体ライブラリーを調製し、薬剤でCD19抗体発現細胞をスクリーニングする
【0092】
(1)cisアクティベーターおよびスクリーニングマーカー遺伝子を安定してトランスフェクションしたモノクローナル細胞系を構築した。
【0093】
本実施例において、cisアクティベーターはpTetを用い、スクリーニングマーカーはiCasp9ネガティブスクリーニングシステム(SEQ ID NO.21)、緑色蛍光タンパク質、ピューロマイシン耐性遺伝子を用い、3者の間は、自動的に破断可能な2A配列で連結された。
【0094】
人工合成によりコード配列全体を合成し(図21)、レンチウイルスベクターに構築し、レンチウイルスを包装し、293T細胞にトランスフェクションし、3日間後にトランスフェクションした細胞をモノクローナル化し、スクリーニング待ちのモノクローナル細胞から、一部の細胞をそれぞれ取り出して実施例1におけるtTAを発現したレンチウイルスをトランスフェクションし、2~3日間後、蛍光顕微鏡で観察し、緑色蛍光の発現があるがトランスフェクションの前に蛍光の発現がない細胞系を選択し、cisアクティベーターおよびスクリーニングマーカー遺伝子を安定してトランスフェクションしたモノクローナル細胞系であった。
【0095】
(2)抗体発現細胞ライブラリーを構築した。
【0096】
まず、後続に細胞外抗体ライブラリー遺伝子(図22)を挿入するように、抗体遺伝子ライブラリーの発現ベクターにおける細胞外抗体ライブラリーコーディング領域遺伝子以外の中間ベクターを構築し、中間ベクターの各構成部分の配列を人工合成し、N端からC端まで順に直列連結された部分は、それぞれmPGK1プロモーター、CD8αシグナルペプチドコード配列、抗体遺伝子ライブラリーコーディング領域(β-ガラクトシダーゼ(lacZ)のN端のα断片を有するコード領域配列であり、前はAsc I制限酵素部位で、後ろはNot I制限酵素部位であり、抗体ライブラリー配列を挿入しやすく、且つ、青白斑で断片の挿入状況を示すことができる)、NOTCH1断片のコード配列、tTAコード配列、ターミネーター、EFSプロモーター(SEQ ID NO.22)、ブラストサイジン抗性(SEQ ID NO.23)遺伝子、ターミネーターであった。
【0097】
合成した配列をレンチウイルスベクターに構築し、抗体遺伝子ライブラリー配列を更に挿入するように準備した。Raji細胞免疫マウスのscFvライブラリーのDNA断片を、Asc IおよびNot Iにより二重酵素切断し、抗体遺伝子ライブラリーの発現ベクターの中間ベクターのAsc IとNot I制限酵素部位との間に挿入し、抗体遺伝子ライブラリーの発現ベクターを取得し、抗体遺伝子ライブラリーの発現ベクターをレンチウイルスに包装し、ステップ(1)におけるcisアクティベーターおよびスクリーニングマーカー遺伝子を安定してトランスフェクションしたモノクローナル細胞系にトランスフェクションし、2日間後に、培地に10μg/mLのブラストサイジンを加えて初期スクリーニングを行い、抗体発現細胞ライブラリーを得た。
【0098】
(3)薬剤でCD19抗体を発現した細胞をスクリーニングした。
【0099】
抗体発現細胞ライブラリーとCD19抗原を発現したポジティブスクリーニング細胞とを1:1で混合し、混合細胞を2日間培養した後、培地に1μg/mLのピューロマイシンを加えてスクリーニングし、6~8日間のポジティブスクリーニングを経て、(ポジティブスクリーニングの原理図は図23を参照する)、抗体ライブラリー発現細胞は、ほとんど緑色蛍光タンパク質を発現した細胞(図24)であり、抗体ライブラリー発現細胞とCD19抗原を発現したポジティブスクリーニング細胞との混合細胞をピューロマイシンでポジティブスクリーニングし、抗体発現細胞は、ほとんど緑色蛍光タンパク質を発現した細胞であった。
【0100】
更に、青色蛍光のポジティブスクリーニング抗原細胞が完全に消えたまで混合細胞の培地に10μg/mLのブラストサイジンを加え、ポジティブスクリーニングを経た後の抗体ライブラリー発現細胞を培養し続け、緑色蛍光タンパク質がほとんど発現しないまでになると、抗体ライブラリーの発現細胞とネガティブスクリーニング抗原の発現細胞とを1:1で混合し、培養した抗体発現細胞に緑色蛍光タンパク質(図26)が発現しないまで、培地に10nMのAP1903を加えてネガティブスクリーニング(ネガティブスクリーニングの原理図は図25を参照する)を行い、抗体ライブラリー発現細胞とネガティブスクリーニング細胞との混合細胞をAP1903でネガティブスクリーニングし、抗体発現細胞は、ほとんど緑色蛍光タンパク質を発現しない細胞であった。
【0101】
最後に、青色蛍光のネガティブスクリーニング抗原細胞が完全に消えたまで混合細胞の培地に10μg/mLのブラストサイジンを加え、この場合、抗体ライブラリー発現細胞は、CD19抗体を発現した細胞であった。
【0102】
実施例4. 抗体結合性質の同定
【0103】
(1)スクリーニングしたCD19抗体発現細胞の抗体コード配列をクローンした。
【0104】
スクリーニングしたCD19抗体発現細胞を、DNeasy Blood & Tissue Kitゲノム抽出キット(Qiagen)で、キットの操作マニュアルに従って細胞のゲノムを抽出し、抽出したゲノムをテンプレートとし、プライマーで(SEQ ID NO.24、SEQ ID NO.25)に対してscFvのコード遺伝子を増幅し、Asc IおよびNot Iで二重酵素切断した後、Asc IおよびNot Iで二重酵素切断した発現ベクターに挿入し、ヒトのIgG1定常領域(SEQ ID NO.26)と融合した(図27)。
【0105】
連結したベクターをコンピテント細胞にトランスフェクションし、100mg/Lのアンピシリンを含むLB固体培地のシャーレに塗り、翌日、シャーレから20個程度のモノクローナルを選択し、それぞれ100mg/Lアンピシリンを含むLB液体培地に接種して振盪培養し、シャーレ上の残りのコロニーをLB培地で溶出し、プラスミド抽出キットでキットの明細書に従ってポリクローナルのscFv発現プラスミドを抽出し、振盪培養したモノクローナル菌を一晩培養した後も、それぞれモノクローナルのscFv発現プラスミドを抽出した。
【0106】
(2)抗体を発現して精製した。
【0107】
それぞれポリクローナルのscFv発現プラスミドおよびモノクローナルのscFv発現プラスミドをPEIで293T細胞にトランスフェクションし、トランスフェクションしてから72時間後に、培養上清を収集し、培養上清と結合緩衝液とを1:1で混合し、濾過した後に使用に備え、まず、5~10倍体積の結合緩衝液でPteoein Aカラムをバランスさせ、次に、準備した培養上清のサンプルをサンプリングし、その後、結合液にタンパク質が含まれないまで結合緩衝液でカラムを洗い流し、最後に、溶出液に対してカラムクロマトグラフィーを行い、溶出液にタンパク質が含まれないまで溶出液を収集し、収集した抗体を透析して濃縮した。
【0108】
(3)フローサイトメータで抗体の結合を検出した。
【0109】
100μLのCD19を発現したおよびCD19を発現しないK562細胞懸濁液を、V型細胞プレートに敷き、500gで3min遠心し、細胞を沈積させ、上清を捨てて100μLの精製した抗体溶液(IgGの濃度を0.5μg/mLと定量する)を加え、4℃で30minインキュベートし、500gで3min遠心し、200μLのPBSで3回洗浄した。
【0110】
実験に従って孔を設計し、孔ごとに80μlのFITCでマークされたヤギ抗ヒト二次抗体(1:150で希釈)を加え、4℃で30minインキュベートし、500gで3min遠心し、上清を捨て、200μLのPBSで3回洗浄し、最後の洗浄が終わった後、200μLのPBS懸濁細胞を加え、懸濁細胞を濾過メッシュで濾過した後、フローサイトメータで検出した結果、ポリクローナルのscFvでもモノクローナルのscFvでも、CD19抗原を発現したK562細胞と異なる程度で特異的結合することができ(図28)、スクリーニングにより得られたポリクローナルのscFvでもモノクローナルのscFvでも、CD19抗原を発現したK562細胞と異なる程度で特異的結合することができ、CD19抗原の発現がないK562細胞と結合しないことが示された。
【0111】
以上をまとめ、本願は、抗体ライブラリーの構築方法およびその使用を提供し、synNotchシステムが細胞内の遺伝子発現を制御する原理に基づいて設計され、大量の実験により、スキームのフロー全体を最適化し、繰り返し設計して検証し、synNotchシステムの細胞外認識ドメインを抗体ライブラリーに変え、調整制御されたターゲット遺伝子をスクリーニングマーカー遺伝子に変えることで、複雑な抗原に対するポリクローナル抗体をスクリーニングする技術を得て、腫瘍抗原が複雑かつ多様であり、変化しやすく、使用可能な標的点が限られているという問題を解決し、広い応用の見通し及び巨大な市場価値を有する。
【0112】
本願は、上記実施例により本願の詳細な方法について説明したが、本願は上記詳細な方法に限定されるものではなく、すなわち、本願は上記実施例に依存して実施しなければならないことを意味するものではないことを、出願人より声明する。当業者であれば、本願に対するいかなる改良、本本願の製品の各原料に対する等価的な置換および補助成分の追加、具体的な形態の選択等は、全て本願の保護範囲および開示範囲内に含まれることを理解すべきである。
【0113】
(付記)
(付記1)
第1エレメントおよび第2エレメントを同一のベクターまたは異なるベクターに挿入し、前記ベクターを細胞内にトランスフェクションし、抗体発現細胞ライブラリーである抗体ライブラリーを取得することを含む抗体ライブラリーの構築方法であって、
前記第1エレメントは、cisアクティベーターおよびスクリーニングマーカー遺伝子を含み、前記第2エレメントは、細胞外抗体ライブラリーコーディング領域、Notchコアドメイン、および細胞内転写ドメインを含む、抗体ライブラリーの構築方法。
【0114】
(付記2)
前記スクリーニングマーカー遺伝子は、薬剤耐性遺伝子、自殺遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、および分子タグのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む、付記1に記載の方法。
【0115】
(付記3)
前記薬剤耐性遺伝子は、ピューロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子、およびハイグロマイシンB耐性遺伝子のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含み、
前記自殺遺伝子は、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子、シトシンデアミナーゼ遺伝子、およびiCasp9自殺システム遺伝子のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含み、
前記蛍光タンパク質遺伝子は、EGFP、YFP、mCherry、DsRed、およびBFPのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含み、
前記分子タグは、His-tag、Flag-tag、HA-tag、Myc-tag、およびStrep-tagのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む、付記2に記載の方法。
【0116】
(付記4)
前記スクリーニングマーカー遺伝子のスクリーニング方法は、薬剤スクリーニング、フローサイトメータによる検出と選別、および磁気ビーズ選別のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む、付記1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0117】
(付記5)
前記薬剤耐性遺伝子のスクリーニング薬剤は、ピューロマイシン、G418、ブラストサイジン、およびハイグロマイシンBのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含み、
前記自殺遺伝子のスクリーニング薬剤は、ガンシクロビルまたはFIAU、5-フルオロシトシン、AP1903、およびAP20187のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む、付記3に記載の方法。
【0118】
(付記6)
前記細胞外抗体ライブラリーコーディング領域は、抗体配列、抗体重鎖配列、抗体軽鎖配列、抗体可変領域配列、一本鎖抗体配列、単一ドメイン抗体配列、およびFab断片配列のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む、付記1~5のいずれか1つに記載の方法。
【0119】
(付記7)
前記細胞外抗体ライブラリーコーディング領域の由来は、免疫動物、患者、健康者、ワクチン接種者、および人工合成のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む、付記1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0120】
(付記8)
前記Notchコアドメインは、ヒトのNotch、マウスのNotch、またはヒトのNotchもしくはマウスのNotchとの類似性が85%以上の配列を含み、
前記ヒトのNotchのアミノ酸配列はSEQ ID NO.1に示すとおりであり、
前記マウスのNotchのアミノ酸配列はSEQ ID NO.2に示すとおりである、付記1~7のいずれか1つに記載の方法。
【0121】
(付記9)
前記cisアクティベーターは、pTetおよび/またはUAS-pSV40を含む、付記1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0122】
(付記10)
前記細胞内転写ドメインは、tTAおよび/またはGal4-VP64を含む、付記1~9のいずれか1つに記載の方法。
【0123】
(付記11)
前記トランスフェクションの方法は、ウイルストランスフェクション、化学トランスフェクション、試薬トランスフェクション、および電撃トランスフェクションのうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む、付記1~10のいずれか1つに記載の方法。
【0124】
(付記12)
前記コーディング領域、ドメイン、または遺伝子は、コーディングタンパク質のアミノ酸配列、コーディングタンパク質のDNA配列、またはコーディングタンパク質のRNA配列のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む、付記1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0125】
(付記13)
付記1~12のいずれか1つに記載の方法で構築された抗体ライブラリー。
【0126】
(付記14)
(1)前記抗体ライブラリーと抗原とを接触するステップと、
(2)スクリーニングマーカー遺伝子の発現状況に応じ、ターゲット抗体を発現した細胞をスクリーニングするステップと、
を含む付記13に記載の抗体ライブラリーを用いることで抗体をスクリーニングする方法であって、
前記抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を含み、
前記抗原は、野生型細胞、特定の抗原遺伝子をトランスフェクションした細胞、特定の抗原を結合した細胞、培地に溶解した抗原、培養皿に被覆された抗原、マイクロビーズに被覆された抗原、および培養足場に被覆された抗原のうちのいずれか1種または少なくとも2種の組み合わせを含む、方法。
【0127】
(付記15)
付記14に記載の方法でスクリーニングされた抗体。
【0128】
(付記16)
cisアクティベーターおよびスクリーニングマーカー遺伝子を含む第1エレメントと、
細胞外抗体ライブラリーコーディング領域をコードする遺伝子、Notchコアドメインをコードする遺伝子、および細胞内転写ドメインをコードする遺伝子を含む第2エレメントと、
を含む、抗体をスクリーニングするためのシステム。
【0129】
(付記17)
cisアクティベーターおよびスクリーニングマーカー遺伝子を含む第1エレメントと、細胞外抗体ライブラリーコーディング領域をコードする遺伝子、Notchコアドメインをコードする遺伝子、および細胞内転写ドメインをコードする遺伝子を含む第2エレメントとを細胞にトランスフェクションすることと、
前記細胞に前記細胞外抗体ライブラリーコーディング領域を発現させることと、
前記細胞と抗原とを接触することと、
前記スクリーニングマーカー遺伝子の発現状況に応じ、ターゲット抗体を発現した細胞をスクリーニングすることにより、ターゲット抗体をスクリーニングすることと、
を含む、付記16に記載のシステムを用いて抗体をスクリーニングする方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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