(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】能動閉ループ医療システム
(51)【国際特許分類】
A61N 1/372 20060101AFI20220914BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20220914BHJP
A61B 5/05 20210101ALI20220914BHJP
【FI】
A61N1/372
A61B5/11 230
A61B5/05
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017211756
(22)【出願日】2017-11-01
【審査請求日】2020-08-19
(32)【優先日】2016-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518406644
【氏名又は名称】オンワード メディカル エヌ.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】ONWARD Medical N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145791
【氏名又は名称】加藤 志麻子
(72)【発明者】
【氏名】フォン ジッツェウィッツ ジョアキム
(72)【発明者】
【氏名】ディラトル ヴィンセント
(72)【発明者】
【氏名】バッカー ベルト
(72)【発明者】
【氏名】クールティーヌ グレゴイヤー
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-514043(JP,A)
【文献】特開平09-038216(JP,A)
【文献】特開2015-226845(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147643(WO,A1)
【文献】特表平07-504095(JP,A)
【文献】特開2015-146908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/00-1/44
A61B 5/11
A61B 5/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
能動閉ループ医療システム(10)であって、
少なくとも1つの埋込み可能な医療装置と、
少なくとも1つの埋め込まれていない構成要素と、
前記埋込み可能な医療装置を制御する少なくとも1つの制御手段(14)と
を備え、
前記埋込み可能な医療装置、前記埋め込まれていない構成要素、および前記制御手段(14)が、データ交換のために接続されており、
活動状態において、前記埋込み可能な医療装置、前記埋め込まれていない構成要素、および前記制御手段(14)は、前記埋め込まれていない構成要素との間で交換された信号に基づいて前記埋込み可能な医療装置が前記制御手段(14)によって制御されるような態様の閉ループシステム(10)を形成し、
前記埋め込まれていない構成要素は前記埋込み可能な医療装置が埋め込まれた患者の生理的データを感知するセンサを備え、または、前記埋め込まれていない構成要素は前記埋込み可能な医療装置が埋め込まれた患者の生理的データを感知するセンサであり、
前記センサは、前記生理的データに関する信号を取得するよう構成され、
前記生理的データは、キネティックス、運動学、筋肉活動、神経活動、神経活動相関物、および体温のうちの1つ又は複数であり、
前記制御手段は、前記埋め込まれていない構成要素および/または前記埋込み可能な医療装置から前記制御手段と交換する信号がリアルタイムで処理されるように構成されており、
前記埋込み可能な医療装置は神経刺激器を備え、または、前記埋込み可能な医療装置は神経刺激器であり、
前記神経刺激器は、硬膜外電気刺激神経刺激器であり、
前記埋込み可能な医療装置は、歩行サイクルに従い、前記患者の
右脚の伸展筋および屈曲筋の刺激と左脚の伸展筋および屈曲筋の刺激を交互に生じさせる、能動閉ループ医療システム(10)。
【請求項2】
前記埋め込まれていない構成要素と前記制御手段とが、少なくとも部分的に、無線でおよび/または有線接続によって接続されていることを特徴とする、請求項1に記載の能動閉ループ医療システム(10)。
【請求項3】
前記制御手段が少なくとも部分的に体外に配置されていること、および/または前記制御手段が少なくとも部分的に体内に配置されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の能動閉ループ医療システム(10)。
【請求項4】
前記能動閉ループ医療システム(10)のユーザの生理的データを感知する埋め込まれた少なくとも1つのセンサ(S5)を、前記埋込み可能な医療装置の部分としてさらに備えることを特徴とする、請求項1から3の一項に記載の能動閉ループ医療システム(10)。
【請求項5】
前記システム(10)は、前記システム(10)の閉ループ処理の特定の制御信号および/または方法ステップを設定する音声ベースの指令を受け取り、前記指令を処理するように構成された音声制御モジュールを備え、
前記音声ベースの指令は、立ち続けること、歩くこと、椅子から立ち上がること、起立すること、腕を動かすこと、および体の一部を動かすことからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から4の一項に記載の能動閉ループ医療システム(10)。
【請求項6】
体外通信手段を備え、前記体外通信手段が受信器(R1、R2)を備え、活動状態において、前記受信器(R1、R2)が、前記埋め込まれていない構成要素に無線または有線接続されていることを特徴とする、請求項1から5の一項に記載の能動閉ループ医療システム(10)。
【請求項7】
前記埋込み可能な医療装置が、データ伝送コイルを備える体内データ伝送ユニットを有し、受信器(R3’)もデータ伝送コイルを備え、前記受信器(R3’)の前記データ伝送コイルおよび前記体内データ伝送ユニットによって提供されたコイルツーコイル通信接続または誘導結合通信接続によって、前記受信器(R3’)と前記体内データ伝送ユニットとが経皮的に接続されていることを特徴とする、請求項6に記載の能動閉ループ医療システム(10)。
【請求項8】
活動状態において、受信器(R3、R3’)が、無線高周波リンクを介して前記埋め込まれていない構成要素に接続されており、前記無線高周波リンクが、BluetoothもしくはWiFi(W1、W2)であること、および/または、活動状態において、前記受信器(R3、R3’)が、無線超音波リンクを介して前記埋め込まれていない構成要素に接続されていることを特徴とする、請求項6または7に記載の能動閉ループ医療システム(10)。
【請求項9】
前記能動閉ループ医療システム(10)の構成要素間の通信が一方向もしくは双方向であること、および/または、前記能動閉ループ医療システム(10)の構成要素間の通信が、無線高周波リンクおよび/または無線超音波リンクを介して確立されることを特徴とする、請求項1から8の一項に記載の能動閉ループ医療システム(10)。
【請求項10】
脳信号および/または神経信号受信手段(12)を備え、前記脳信号および/または神経信号受信手段(12)によって脳信号および/または神経信号を受信することができ、前記脳信号および/または神経信号が前記埋込み可能な医療装置の制御に少なくとも部分的に使用されるような態様で、前記脳信号および/または神経信号受信手段(12)が前記制御手段に接続されていることを特徴とする、請求項1から9の一項に記載の能動閉ループ医療システム(10)。
【請求項11】
前記システム(10)は、前記システム(10)の閉ループ処理の特定の制御信号および/または方法ステップを設定する信号ベースのタッピング指令を受け取り、前記指令を処理するように構成されたタッピング信号制御モジュール(TS)を備え、
前記信号ベースのタッピング指令は、立ち続けること、歩くこと、椅子から立ち上がること、起立すること、腕を動かすこと、および体の一部を動かすことからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から10の一項に記載の能動閉ループ医療システム(10)。
【請求項12】
拡張現実感モジュールを前記閉ループシステム(10)の部分として備えることを特徴とする、請求項1から11の一項に記載の能動閉ループ医療システム(10)。
【請求項13】
能動医療システムであって、
少なくとも1つの埋込み可能な医療装置と、
少なくとも1つの埋め込まれていない構成要素と、
前記埋込み可能な医療装置を制御する少なくとも1つの制御手段と
を備え、
前記埋込み可能な医療装置、前記埋め込まれていない構成要素、および前記制御手段が、データ交換のために接続されており、
活動状態において、前記埋込み可能な医療装置、前記埋め込まれていない構成要素、および前記制御手段は、前記埋込み可能な医療装置が、前記制御手段により制御されて、前記埋め込まれていない構成要素と交換した信号に基づき、歩行サイクルに従い、前記埋込み可能な医療装置が埋め込まれた患者の右脚の伸展筋および屈曲筋の刺激と左脚の伸展筋および屈曲筋の刺激を交互に生じさせるシステムを形成し、
前記埋め込まれていない構成要素は前記患者の生理的データを感知するセンサを備え、または、前記埋め込まれていない構成要素は前記患者の生理的データを感知するセンサであり、
前記センサは、前記生理的データに関する信号を取得するよう構成され、
前記生理的データは、キネティックス、運動学、筋肉活動、神経活動、神経活動相関物、および体温のうちの1つ又は複数であり、
前記制御手段は、前記埋め込まれていない構成要素および/または前記埋込み可能な医療装置から前記制御手段と交換する信号がリアルタイムで処理されるように構成されており、
前記埋込み可能な医療装置は神経刺激器を備え、または、前記埋込み可能な医療装置は神経刺激器であり、
前記神経刺激器は、硬膜外電気刺激神経刺激器である、能動医療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、能動閉ループ医療システム、特に神経刺激用の能動閉ループ医療システム、例えば、脊髄損傷(spinal cord injury:SCI)、例えば外傷後の脊髄損傷のような神経疾患後の回復を改善する分野の神経刺激用の能動閉ループ医療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
欧州特許出願公開第2868343号明細書は、神経運動障害後の移動運動(locomotion)を容易にし、復元するために、適応電気脊髄刺激を送達するシステムを開示している。とりわけ、硬膜外電気刺激のリアルタイム制御のための閉ループシステムが開示されている。このシステムは、調整可能な刺激パラメータを有する神経変調を対象者に適用する手段を備え、この手段は、リアルタイム監視構成要素に動作可能に接続されており、このリアルタイム監視構成要素は、対象者の運動の特徴を提供するフィードバック信号を対象者から連続的に取得するセンサを備えており、このシステムは、フィードバック信号を受け取り、リアルタイム自動制御アルゴリズムを動作させる信号処理装置に動作可能に接続されており、この信号処理装置は、この手段に動作可能に接続されており、この手段に新たな刺激パラメータを最小限の遅延で供給する。この発明のシステムは、神経運動障害を有する対象者の歩行の一貫性を向上させる。単一入力-単一出力モデル(single input-single-output:SISO)または多入力-単一出力(multiple input-single-output:MISO)モデルを使用するフィードフォワード構成要素を備えるリアルタイム自動制御アルゴリズムが使用される。Wenger et.al., Closed-loop neuromodulation of spinal sensorimotor circuits controls refined locomotion after complete spinal cord injury, Science Translational Medicine, 第6巻, 番号255, 2014年も参照されたい。
【0003】
国際公開第2002/034331号パンフレットは、埋込み可能な非閉ループ医療装置システムを開示している。このシステムは、埋込み可能な医療装置およびトランシーバ装置を含み、このトランシーバ装置は、患者との間、患者と埋込み可能な医療装置との間および遠隔位置と埋込み可能な医療装置との間でデータを交換する。患者、埋込み可能な医療装置、トランシーバ装置および遠隔位置の間の双方向データ転送を可能にするために、このトランシーバ装置に結合された通信装置が、トランシーバ装置とデータを交換し、受信装置を介して埋込み可能な医療装置とデータを交換し、トランシーバ装置と遠隔位置との間でデータを交換する。コンバータユニットが、このデータの伝送を、第1の遠隔測定フォーマットから第2の遠隔測定フォーマットに変換し、ユーザインタフェースが、トランシーバ装置と患者の間の情報の交換、トランシーバ装置を介した埋込み可能な医療装置と患者との間の情報の交換、およびトランシーバ装置を介した患者と遠隔位置との間の情報の交換を可能にする。
【0004】
米国特許出願公開第2002/0052539号明細書は、部分閉ループ非連続非リアルタイム緊急医療情報通信システムおよび対応する方法を記載している。このシステムは、患者の体内に埋め込まれた埋込み可能医療装置(implantable medical device:IMD)によって感知または処理された情報に基づいて緊急警報を発することを許可する。IMDは、患者の体外に位置する通信モジュール、携帯電話および/またはパーソナルデータアシスタント(PDA)と双方向通信することができる。この通信モジュール、携帯電話またはPDAは、IMDによって生成された緊急警報を、通信システムを介して遠隔コンピュータに伝達することができる。この遠隔コンピュータシステムでは、緊急治療行為が必要かどうかを判定することができる。緊急治療行為が必要な場合には、通信システムを介して、遠隔コンピュータシステムから離れたIMD内で、治療行為が実行される。
【0005】
米国特許第7,149,773B2号明細書は、患者に医療サービスが提供されたときにインボイス(invoice)を自動的に作成する方法、装置およびシステムに関する。インボイスは例えば、患者の体内に埋め込まれた埋込み可能医療装置(IMD)の性能のある態様のモニタリングが、患者によってもしくは遠隔的に開始されたときに、またはIMDを介した患者への治療の送達がその場所でまたは遠隔的に開始されたときに、このシステムによって自動的に作成される。IMDは、患者の体外に位置する通信モジュール、携帯電話および/またはパーソナルデータアシスタント(PDA)と双方向通信することができる。このインボイス作成システムは、IMD、通信モジュールおよび/または携帯電話および/またはPDA、インボイスを作成する手段、遠隔コンピュータシステム、ならびに双方向通信することができる通信システムを備えることができ、この通信モジュール、携帯電話および/またはPDAは、IMDから情報を受け取ること、またはIMDに情報を中継することができる。
【0006】
米国特許第6,878,112B2号明細書は、複数の埋め込まれた医療装置(implanted medical device:IMD)の動作パラメータおよび機能パラメータを遠隔的にモニタリング、管理および変更するためにウエブが利用可能な高速コンピュータシステム内で実施される複数の相補的な協同ソフトウェアプログラムを開示している。このシステムは、仮想電気生理学者モジュール(virtual electrophysiologist module:VEM)プログラム、慢性モニタリングモジュール(chronic monitoring module:CMM)プログラム、および処方箋プログラムモジュール(prescription program module:PPM)プログラムを利用して、IMDを状態に応じてリアルタイムで遠隔的に管理する特定の治療法および診断法を実施する。これらのモジュールは、重大な医療事象を識別し、最適な臨床環境を決定し、性能パラメータを規範的データに基づいて更新することによって、IMDの遠隔連続モニタリング、管理および保守を可能にする。これらのモジュールは、ウエブが利用可能な環境で動作する高速コンピュータを有するデータセンタ内に実装される。これらのモジュールとIMDは、プログラマまたはインタフェース医療ユニット(IMU)を介し、無線通信システムを通して通信する。
【0007】
欧州特許出願公開第2652676号明細書は、生体の合図をモニタリングする身振り(gesture)制御に関し、加速度計、より正確には体センサの感知された加速度を、体センサのユーザ制御に再利用する。これは、患者の他の動きに無関係な加速度信号中の予め決められたパターンを検出することによって達成される。これらは、センサを/でタップ(tap)すること、センサを振ること、およびセンサを回転させることを含む。呼吸、心拍動、歩行などのような身振りでない動きに起因する多くの偽陽性を導入することなしに、加速度感知を、信頼性の高い身振り検出のために再利用することを可能にする新規の手順が記載されている。ユーザのタッピング(tapping)を検出する類似の解決策が、米国特許第8,326,569号明細書および米国特許第7,742,037号明細書から知られている。
【0008】
硬膜外電気刺激(EES)は、機能的電気刺激(FES)とは異なる手法として知られている。いくつかの科学論文がEESを論じており、これには例えば、Capogrosso, M, et al., A Computational Model for Epidural Electrical Stimulation of Spinal Sensorimotor Circuits, Journal of Neuroscience, 2013年12月4日, 33(49)19326~19340, Courtine et al., Transformation of nonfunctional spinal circuits into functional states after the loss of brain input, Nat Neurosci. 2009年10月; 12(10): 1333~1342, Moraud et al., Mechanisms Underlying the Neuromodulation of Spinal Circuits for Correcting Gait and Balance Deficits after Spinal Cord Injury, Neuron 第89巻, 4号, 814~824ページ, 2016年2月17日などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】欧州特許出願公開第2868343号明細書
【文献】国際公開第2002/034331号パンフレット
【文献】米国特許出願公開第2002/0052539号明細書
【文献】米国特許第7,149,773B2号明細書
【文献】米国特許第6,878,112B2号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2652676号明細書
【文献】米国特許第8,326,569号明細書
【文献】米国特許第7,742,037号明細書
【非特許文献】
【0010】
【文献】Wenger et al., Closed-loop neuromodulation of spinal sensorimotor circuits controls refined locomotion after complete spinal cord injury、Science Translational Medicine, 第6巻, 番号255, 2014年
【文献】Capogrosso, Met al., A Computational Model for Epidural Electrical Stimulation of Spinal Sensorimotor Circuits、Journal of Neuroscience, 2013年12月4日, 33(49)19326~19340
【文献】Courtine et al., Transformation of nonfunctional spinal circuits into functional states after the loss of brain input, Nat Neurosci., 2009年10月; 12(10): 1333~1342
【文献】Moraud et al., Mechanisms Underlying the Neuromodulation of Spinal Circuits for Correcting Gait and Balance Deficits after Spinal Cord Injury, Neuron 第89巻, 4号, 814~824ページ, 2016年2月17日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、能動閉ループ医療システム、特に神経刺激用の能動閉ループ医療システム、例えば、脊髄損傷(SCI)、例えば外傷後の脊髄損傷のような神経疾患後の回復を改善する分野の神経刺激用の能動閉ループ医療システムを、特に、埋め込まれた構成要素だけに基づく閉ループシステムではない閉ループシステムを確立することができるという点で、改良することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、この課題は、請求項1に記載の能動閉ループ医療システムによって解決される。したがって、埋込み可能な少なくとも1つの医療装置と、埋め込まれていない少なくとも1つの構成要素と、埋込み可能な医療装置を制御する少なくとも1つの制御手段とを備え、この埋込み可能な医療装置、埋め込まれていない構成要素および制御手段がデータ交換のために接続されており、活動状態(active state)において、埋込み可能な医療装置、埋め込まれていない構成要素および制御手段が、埋め込まれていない構成要素との間で交換された信号に基づいて埋込み可能な医療装置が制御手段によって制御されるような態様の閉ループシステムを形成している、能動閉ループ医療システムが提供される。
【0013】
本発明は、閉ループシステムの構成要素が、それらの構成要素が患者の体内にあるのか、すなわち患者に埋め込まれているか、または患者の体外にあるのか、すなわち患者の体に装着できるようにまたは患者の体に取り付けられるように設計されているのかに関わらず、互いに接続されているという基本的な発想に基づく。システムの構成要素のこの接続によって、閉ループシステムを形成するのに必要なデータ交換を実行することができる。このことは、とりわけ、閉ループシステムの構成要素が、信号を制御するために、閉ループシステムの少なくとも1つの別の構成要素と対話すること、さらに、少なくとも1つの構成要素が、制御手段によって提供される後続の制御信号に影響を与えるために、例えば閉ループシステムの制御手段にフィードバックを返すことを意味する。さらに、内側および外側、例えば治療対象の人間の患者の体内および体外に構成要素を配置することができる。これは、例えば埋込み可能な医療装置、埋込み可能なパルス発生器、神経刺激器または神経調節因子(neurostimulator)物質として患者の体内に埋め込むことが本当に必要な構成要素だけを患者に埋め込まなければならない場合に設計を可能にする。これにより、電池交換、センサもしくはセンサ電池の交換、定期的な再充電、制御データの新たな設定またはソフトウェア更新のような保守を生涯にわたって実施する必要があるであろう構成要素を、患者の体外に配置することができる。その結果、能動閉ループ医療システム、例えば神経刺激用の能動閉ループ医療システム(ただしこの分野だけに限定されるわけではない)、例えば、脊髄損傷(SCI)、例えば外傷後の脊髄損傷のような神経疾患後の回復、または脳卒中もしくは多発性硬化症のような他の状態後の回復を改善する分野の神経刺激用の能動閉ループ医療システムであって、特に、埋め込まれた構成要素だけに基づく閉ループシステムではない閉ループシステムを確立することができる能動閉ループ医療システムを提供することができる。
【0014】
例えば、埋込み可能な医療装置は神経刺激器を備えることができ、または埋込み可能な医療装置を神経刺激器とすることができる。
【0015】
特に言うと、埋込み可能な医療装置が、神経刺激器もしくは神経刺激器の構成要素を備え、または、埋込み可能な医療装置が、神経刺激器もしくは神経刺激器の構成要素であり、特に、神経刺激器が、硬膜外電気刺激(EES)神経刺激器であることが可能である。
【0016】
硬膜外電気刺激(EES)は、運動ニューロンを直接には刺激せずに、脊髄に入る前の求心性感覚ニューロンを刺激し、したがって、移動運動制御に自然に関与するシナプス回路を活動化する。したがって、EESは特に、活動に依存する脊髄の可塑性を誘起し、この可塑性は、患者の移動運動機能の継続的な学習および向上につながる。この刺激モードは、全ての固有受容求心性神経の連続的な活動化を同時に仲介する。
【0017】
EESを使用して、固有受容求心性神経がより選択的に刺激され、歩行サイクルの異なる位相と整列したときに、トレーニングによって誘起される即時的な効果をさらに向上させることができる。歩行中、これらの位相は、右脚の伸展筋および屈曲筋の刺激と左脚の伸展筋および屈曲筋の刺激が交互に起こることからなる。時間-空間EESを使用して、遊脚期(屈曲)と体重を支える立脚期(伸展)の両方を復元することができる。連続的なEESは肢への刺激の伝導を遮断することがある。
【0018】
反対に、機能的電気刺激(FES)中は、遠心性運動ニューロン軸索および筋肉が、移動運動活動を調節する脊髄の複雑なシナプス回路から遠位方向に直接に刺激される。その結果として、結果として生じる動きおよび筋肉活動は不随意であり、時間の経過に伴う移動運動機能の学習および向上を可能にする脊髄内の可塑的機構をあまり起動させない。概念的には、FESは、カエルの筋収縮を引き起こすことによって1780年にルイジガルバーニ(Luigi Galvani)が発見した原理と同じ原理に従う。要約すると、FESは、電気生理学の基本的原理を利用し、したがって、FESは、即時的な成功を容易に得ることにつながりうる。しかしながら、長い臨床の歴史によれば、成功は単発的なケースに留まっており、わずらわしい刺激と即時の筋疲労とが相まって、FESは、特に本特許出願が目指している分野において、日常生活で使用するのに適さないものになっている。これよりも後に発見された間接EES法は、堅固な科学的基礎の上に立脚し、FESの固有の限界の大部分を解決する潜在的可能性を有するが、現在までのところ、FESに比べて臨床経験が乏しい。
【0019】
特に言うと、硬膜外電気刺激(EES)神経刺激器は、空間選択的な脊椎インプラント(spatially selective spinal implant)として配置および構成されており、この空間選択的な脊椎インプラントは、リアルタイム運動フィードバック入力を使用して「閉ループ」方式で調整される時間的に精確な刺激アルゴリズムに基づいて機能するように、能動閉ループ医療システムの部分として構成されている。
【0020】
埋め込まれていない構成要素と制御手段とを、少なくとも部分的に、無線でおよび/または有線接続によって接続することが可能である。このことの背後にある考え方は、最も適当でかつ/または最も信頼性の高い接続を確立すべきであり、そのような接続は確立しうるというものである。
【0021】
無線接続は、より多くの自由度および行動の自由を提供する。
【0022】
有線接続は、非常に信頼性が高く、妨害信号および干渉信号のような外的因子の影響を受けにくい。
【0023】
より多くの自由度および行動の自由ならびに信頼性に関する良好な組合せを同時に実現するために、無線接続と有線接続の両方を組み合わせると有利なことがある。そのため、冗長データ接続を確立することができる。
【0024】
制御手段と交換された埋め込まれていない構成要素からの信号および/または制御手段と交換された埋込み可能な医療装置からの信号がリアルタイムで処理されるように、制御手段を構成することができる。
【0025】
リアルタイムは、リアルタイムまたはほぼリアルタイムであると理解することができる。とりわけ、0.0から約30ミリ秒の間の時間フレームおよび短い遅延は、リアルタイムの条件を満たすと理解することができる。
【0026】
例えば、制御手段と埋込み可能な医療装置との間のデータ交換は、制御手段と埋込み可能な医療装置の少なくとも1つの構成要素とが信号を交換するような態様のデータ交換とすることができる。この少なくとも1つの構成要素は例えば、埋込み可能なセンサまたは埋め込まれたセンサである。
【0027】
この信号は、とりわけシステムデータおよび/もしくは患者データおよび/もしくは生理的データなどのデータを含むことができ、かつ/またはこのようなデータに関することができる。さらに、この信号は、制御データおよび/または制御情報などに関することができる。
【0028】
埋め込まれていない構成要素から制御手段が受け取った信号を処理することは、能動閉ループ医療システムの性能を向上させるのに有利である。このようなリアルタイム処理は、特に、リアルタイムまたはほぼリアルタイムでのセンサ入力に基づいて必要な信号を、それらの入力センサ信号の処理に基づいて準備することができるという点で、神経刺激の分野における重大な改良を可能にする。
【0029】
制御手段は、少なくとも部分的に体外に配置することができる。これにより制御手段の保守が簡単になる。また、制御手段などの電池交換も容易であるが、説明は不要であろう。
【0030】
制御手段を、少なくとも部分的に体内に配置することもできる。特に言うと、制御手段のこの部分は例えば、埋込み可能な医療装置の部分である電子構成部品である。単純に、制御手段のこの体内部分を、制御手段の体外部分と通信することができる通信モジュールとすることもできる。
【0031】
埋め込まれていない構成要素は、能動閉ループ医療システムのユーザの生理的データを感知するセンサを備えることができ、または埋め込まれていない構成要素を、能動閉ループ医療システムのユーザの生理的データを感知するセンサとすることができる。このようなセンサは、ジャイロスコープ、加速度計、ビデオカメラ、圧力センサ、力センサ、筋電計(EMG)、神経プローブなどからなるグループから選択することができる。このようなセンサは例えば、キネティックス(kinetics)、運動学(kinematics)、筋肉活動、ニューロン信号、患者の動き、患者の意図した動きなどのような運動特徴を検出することができる。この生理的データは、電気生理学的信号、特に患者の動きに関する電気生理学的信号に関することができる。
【0032】
この能動閉ループ医療システムは、能動閉ループ医療システムのユーザの生理的データを感知する埋め込まれた少なくとも1つのセンサを、埋込み可能な医療装置の部分としてさらに備えることができる。この生理的データは、電気生理学的信号、特に患者の動きに関する電気生理学的信号に関することができる。これによって、非常に特定的な信号を検出することができ、二者択一的にまたは体外のセンサと組み合わせて、意図された運動タスクを引き起こす事象、例えば移動運動を引き起こす事象を検出し、制御手段によって提供される制御信号のために使用することができる。
【0033】
限定はされないが運動、キネティックス、運動学、筋肉活動、神経活動、神経活動相関物(neural activity correlate)、体温を含む生理的データに関する信号を取得するように、センサを構成することができる。
【0034】
このシステムは、システムの閉ループ処理の特定の制御信号および/または方法ステップを設定する音声ベースの指令、特に、立ち続けるため、および/または歩くため、および/または椅子から立ち上がる/起立するため、腕を動かすため、および/または一般に体の部分を動かすための音声ベースの指令を受け取り、その指令を処理するように構成された音声制御モジュールを備えることができる。このシステム、特に音声制御モジュールは、センサ、例えば閉ループ処理の特定の制御信号およびプログラム機能(program feature)を設定する音声ベースの指令、例えば、立ち続けるため、歩くため、椅子から立ち上がるため、腕を動かすため、および/または一般に体の部分を動かすための音声ベースの指令を検出するセンサを備えることができ、あるいは、このシステム、特に音声制御モジュールを、そのようなセンサとすることができる。さらに、適用可能な場合には、(例えば埋込み可能な医療装置の部分として提供された)埋め込まれていないセンサおよび/または埋め込まれたセンサを、センサ、例えば閉ループ処理の特定の制御信号およびプログラム機能を設定する音声ベースの指令、例えば、立ち続けるため、歩くため、椅子から立ち上がるため、腕を動かすため、および/または一般に体の部分を動かすための音声ベースの指令を検出するセンサとすることもできる。音声制御を提供することによって、システム全体の操作がユーザにとって単純になり、システム全体の操作をより直観的にすることができる。特に、患者またはその患者の医師もしくはトレーナが、動き方または動きの種類を変化させようとした場合には、その変化を、単純な音声指令によって引き起こすことができる。このような音声指令は次いで、音声制御モジュールによって受け取られ、制御手段によって処理されるように構成されたシステム信号に変換され、制御手段に提示される。この処理もリアルタイムで実行することができる。
【0035】
音声認識は、特に脊髄損傷(SCI)、例えば頚髄外傷後の脊髄損傷(SCI)のような神経疾患のために腕および手の可動度が制限された人に、より多くの自由度および行動の自由を提供する。
【0036】
音声認識は特に、四肢麻痺の患者の治療に対して非常に有用である。音声指令を使用することにより、このような患者は、直観的に、そして非常に容易にシステムを制御することができる。
【0037】
この能動閉ループ医療システムは、体外通信手段を備えることができ、この体外通信手段は受信器を備え、活動状態において、この受信器は、埋め込まれていない構成要素に接続されている。この受信器によって、この体外通信手段は、例えばセンサなどの埋め込まれていない構成要素および埋め込まれた構成要素のサブセットとの接続を確立することができる。
【0038】
さらに、埋込み可能な医療装置は、データ伝送コイルを備える体内データ伝送ユニットを有することができ、受信器もデータ伝送コイルを備えることができ、この受信器のデータ伝送コイルおよび体内データ伝送ユニットによって提供されたコイルツーコイル通信接続(coil-to-coil-communication connection)によって、受信器と体内データ伝送ユニットとを経皮的に接続することができる。
【0039】
このコイルツーコイル通信接続を誘導結合とすることができる。誘導結合は、データおよびエネルギーをも転送する目的に使用することができる。誘導結合は、能動閉ループ医療システムの体外部分から能動閉ループ医療システムの体内部分へ経皮的にデータおよび/またはエネルギーを伝送する信頼性が高く非常に効率的な通信接続を提供することができる。この通信は双方向とすることができる。通信方向ごとに別々のコイルツーコイル通信接続を確立することも可能である。
【0040】
一般的に言って、コイルツーコイル通信接続の代わりに、適当な誘導結合または誘導結合されたリンクを使用することもできる。
【0041】
さらに、活動状態において、受信器を、Bluetoothおよび/またはWIFIによって、埋め込まれていない構成要素に接続することもできる。一般的に言って、他の適当な無線データ転送プロトコルを使用することもできる。あるいは、例えば、光学的手段、RF技術もしくは誘導結合、または磁場技術、または超音波を使用することもできる。
【0042】
Bluetoothおよび/またはWIFIデータ接続を使用することが好ましく、Bluetoothおよび/またはWIFIデータ接続は、リアルタイムまたはほぼリアルタイムの双方向伝送である高速データ伝送を提供することができるという利点を提供することができる。
【0043】
音声を使用することも好ましく、音声は、外部コントローラへの命令を速く単純に伝送することができるという利点を提供することができる。
【0044】
活動状態において、受信器を、無線超音波リンクを介して、埋め込まれた構成要素または埋め込まれていない構成要素に接続することができる。例えば、受信器および埋め込まれた構成要素または受信器および埋め込まれていない構成要素を、能動閉ループ医療システムのこれらの両方の構成要素が、信号を運ぶ超音波を(無線信号の変調と同様に)変調することができるように構成することができる。さらに、受信器およびは埋め込まれた構成要素の部分であり、もしくは受信器および埋め込まれていない構成要素の部分である被変調超音波受信器によって、受信した超音波信号を復号することができるように、または他の適当な信号を復号することができるように、能動閉ループ医療システムのこれらの両方の構成要素を構成することもできる。次いで、この信号を使用して、とりわけ、システム全体をリアルタイムで制御することができる。
【0045】
さらに、能動閉ループ医療システムの構成要素の通信は双方向とすることができる。能動閉ループ医療システムの機能性を強化および改良するためには、能動閉ループ医療システムの構成要素の双方向通信が求められる。とりわけ、制御信号に関する直接フィードバックは、特に自己学習システム、システムの構成および較正、ならびにシステム信頼性を目指すときに有用である。センサによって提供されたデータ入力と、能動閉ループ医療システムの埋め込まれた体内構成要素からフィードバックとして提供されたデータ入力とに基づいて、制御手段の制御ソフトウェアによって実行される制御アルゴリズムを、自己学習システムとして構成することができるように、制御手段を構成することができる。この自己学習システムは、これらの全ての入力を使用して、制御アルゴリズムを連続的に適応させる。
【0046】
能動閉ループ医療システムの構成要素間の通信は、無線高周波リンク(wireless radio-frequency link)および/または無線超音波リンクを介して確立することができる。
【0047】
例えば、無線高周波リンクおよび/または無線超音波リンクを使用して、データ伝送および/もしくは信号伝送用の接続、またはシステムの埋め込まれた構成要素と埋め込まれていない構成要素との間の他の接続を確立することができる。さらに、システムの埋め込まれた構成要素だけをこのように接続すること、またはシステムの埋め込まれていない構成要素だけをこのように接続することもできる。
【0048】
さらに、能動閉ループ医療システムが、脳信号および/または神経信号受信手段を備えることも可能であり、この脳信号および/または神経信号受信手段によって脳信号および/または神経信号を受信することができる。
【0049】
脳信号および神経信号が埋込み可能な医療装置の制御に少なくとも部分的に使用されるような態様で、この信号受信手段を制御手段に接続することができる。
【0050】
これによって、脳信号および/または神経信号を使用してこのシステムを制御することができる。このことは、脊髄損傷(SCI)、例えば外傷後の脊髄損傷のような神経疾患後の回復、または脳卒中もしくは多発性硬化症のような他の状態後の回復を改善するときに、能動閉ループ医療システムが患者の神経制御を復元するのに特に有益である。患者の脳信号および/または神経信号のリアルタイムでの影響を可能にすることによって、患者の体内の神経学的経路をリセットし取り戻す強化された可能性を患者の神経学的経路に与える。
【0051】
この能動閉ループ医療システムは、システムの閉ループ処理の特定の制御信号および/または方法ステップを設定するタッピング指令に基づく信号、特に、立ち続けるため、および/または歩くため、および/または椅子から立ち上がる/起立するため、腕を動かすため、および/または一般に体の部分を動かすためのタッピング指令に基づく信号を受け取り、その信号を処理するように構成されたタッピング信号制御モジュールをさらに備えることができる。このようなタッピング信号制御モジュールは、対麻痺患者に対して特に有益であり、単純な制御信号入力のためのオプションを可能にする。
【0052】
例えば、タッピング信号制御モジュールは、タッピング指令に基づく信号を検出するセンサを備えることができる。このようなセンサは、(限定はされないが)加速度計、圧力センサ、誘導センサなどとすることができる。このタッピング指令に基づく信号は、例えば予め決められたパターンを検出することによって、例えばタッピング指令を生成することを意図したものではない患者の動きまたは他の「雑音」から区別するための予め決められたパターンを検出することによって、システムによって認識される所定の定義された信号とすることができる。
【0053】
さらに(それに加えてまたはその代わりに)、タッピング信号制御モジュールは、(例えばシステムの1つまたは複数の構成要素にBluetoothによって無線で接続され、かつ/または有線で接続された)スマートホンまたはタブレットPCを構成することができ、このスマートホンまたはタブレットPCは、画面をタップすることにより、このシステムのための制御信号をユーザが入力することを可能にする。
【0054】
さらに、この能動閉ループ医療システムは、拡張現実感(augmented reality)モジュールを閉ループシステムの部分として備えることができる。特に言うと、埋込み可能な医療装置、制御手段、埋め込まれていない構成要素および拡張現実感モジュールを、それらが合わさって閉ループシステムを形成するような態様で相互リンクすることができる。この拡張現実感モジュールは、仮想環境または部分的な仮想環境を提供することができる。拡張現実感モジュールによって、システムのユーザは、拡張現実感環境内でシステムを使用することができる。具体的なトレーニングおよび動きの提案または動きを提供することができる。さらに、仮想環境内に支援情報を表示することもできる。リハビリテーション患者に対するトレーニングセッションをより面白くし、かつ/または患者の意欲を維持させるため、拡張現実感を使用して、ゲームのような環境を生み出すことができる。例えば、ゲームの1つのレベルをうまくクリアするために特定の一連の動きを実行しようとする意欲を患者に起こさせる、ゲームのような環境を生み出すことができる。これにより、トレーニングセッションの退屈さが低下し、患者の意欲が維持される。例えば、トレーニング場所の床もしくは表面および/またはトレーニング場所内に、足を踏み出す点および/または触れる点を表示または投影することができる。
【0055】
特に、能動閉ループ医療システムによって患者を治療する方法が明確に開示される。この能動閉ループ医療システムは、埋込み可能な少なくとも1つの医療装置と、埋め込まれていない少なくとも1つの構成要素と、埋込み可能な医療装置を制御する少なくとも1つの制御手段とを備え、この埋込み可能な医療装置、埋め込まれていない構成要素および制御手段がデータ交換のために接続されており、活動状態において、埋込み可能な医療装置、埋め込まれていない構成要素および制御手段が、埋め込まれていない構成要素との間で交換された信号に基づいて埋込み可能な医療装置が制御手段によって制御されるような態様の閉ループシステムを形成している。この能動閉ループ医療システムは、上で説明し本出願の特許請求項に記載された能動閉ループ医療システムとすることができる。
【0056】
患者を治療するこの方法は、特に、能動閉ループ医療システムによる神経刺激によって患者を治療する方法である。
【0057】
次に、本発明のさらなる詳細および利点を図面を参照して開示する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】トレーニング環境内にある能動閉ループ医療システムの略図である。
【
図2】トレーニング環境の外にある
図1に示された能動閉ループ医療システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
図1は、トレーニング環境または生活環境E内にいて能動閉ループ医療システム10を有する人Pを示す。
【0060】
能動閉ループ医療システム10は、外部センサS1、S2、S3、S4およびS6、ならびに埋め込まれた1つのセンサS5を備える。
【0061】
さらに、選択されたセンサ信号のための受信器/送信器(トランシーバ)ユニットR1およびR2もある。
【0062】
さらに、インプラントに関する全てのセンサデータおよび/または制御信号を収集、処理および送信する固定された送信器/受信器R3もある。
【0063】
さらに、全てのセンサデータおよび/または制御信号を収集し、処理し、インプラントに送信している可搬型送信器/受信器R3’もある。
【0064】
送信器/受信器R3と送信器/受信器R3’は、両方ともに、または互いに二者択一的に設けることができる。
【0065】
さらに、未加工のセンサデータもしくは制御信号または予め処理されたセンサデータもしくは制御信号をS1ないしS6またはR3および/もしくはR3’から受け取っているインプラントIもある。インプラントIは、受け取ったデータを処理することができ、受け取ったデータ/制御信号に能動的に反応することができる。この通信は双方向であることが好ましい。双方向であるとは、インプラントIがその活動状態において何らかの方法で通信し、データの受信を認知し、送信器/受信器R3および/またはR3’にフィードバックを返すことができることを意味する。
【0066】
ここでは、インプラントIが、埋込み可能な神経刺激器、とりわけ、埋込み可能なパルス発生器(implantable pulse generator:IPG)とIPGに接続された埋込み可能な少なくとも1つの電極列とを備える埋込み可能な神経刺激器である。
【0067】
ここでは、この神経刺激器が、システム10および硬膜外電気刺激(EES)神経刺激器の部分である。
【0068】
特に言うと、硬膜外電気刺激(EES)神経刺激器16は、空間選択的な脊椎インプラントとして配置および構成されており、この空間選択的な脊椎インプラントは、リアルタイム運動フィードバック入力を使用して「閉ループ」方式で調整される時間的に精確な刺激アルゴリズムに基づいて機能するように、能動閉ループ医療システムの部分として構成されている。
【0069】
システム10は、システムの閉ループ処理の特定の制御信号および/または方法ステップを設定する音声ベースの指令、ここでは、立ち続けるため、および/または歩くため、および/または椅子から立ち上がる/起立するため、腕を動かすため、および/または一般に体の部分を動かすための音声ベースの指令を受け取り、その指令を処理するように構成された音声制御モジュールVを備える。
【0070】
音声制御モジュールVは、センサ、例えば閉ループ処理の特定の制御信号およびプログラム機能を設定する音声ベースの指令、例えば、立ち続けるため、歩くため、椅子から立ち上がるため、腕を動かすため、および/または一般に体の部分を動かすための音声ベースの指令を検出するセンサを備えることができ、あるいはそのようなセンサとすることができる。さらに、(例えば埋込み可能な医療装置10の部分として提供された)埋め込まれていないセンサおよび/または埋め込まれたセンサを、センサ、例えば閉ループ処理の特定の制御信号およびプログラム機能を設定する音声ベースの指令、例えば、立ち続けるため、歩くため、椅子から立ち上がるため、腕を動かすため、および/または一般に体の部分を動かすための音声ベースの指令を検出するセンサとすることもできる。
【0071】
能動閉ループ医療システム10は、システムの閉ループ処理の特定の制御信号および/または方法ステップを設定するタッピング指令に基づく信号、特に、立ち続けるため、および/または歩くため、および/または椅子から立ち上がる/起立するため、腕を動かすため、および/または一般に体の部分を動かすためのタッピング指令に基づく信号を受け取り、その信号を処理するように構成されたタッピング信号制御モジュールTSを備える。
【0072】
例えば、タッピング信号制御モジュールTSは、タッピング指令に基づく信号を検出するセンサを備えることができる。このようなセンサは、(限定はされないが)加速度計、圧力センサ、誘導センサなどとすることができる。このタッピング指令に基づく信号は、例えば予め決められたパターンを検出することによって、例えばタッピング指令を生成することを意図したものではない患者の動きまたは他の「雑音」から区別するための予め決められたパターンを検出することによって、システム10によって認識される所定の定義された信号とすることができる。
【0073】
さらに、ここでは、タッピング信号制御モジュールTSが、(例えばシステムの1つまたは複数の構成要素にBluetoothによって無線で接続され、かつ/または有線で接続された)携帯型装置MD、例えばスマートホンまたはタブレットPCを備え、携帯型装置MDは、画面をタップすることにより、このシステムのための制御信号をユーザが入力することを可能にする。
【0074】
ここでは、埋込み可能な医療装置が、インプラントIおよび埋め込まれたセンサS5によって形成されている。
【0075】
制御手段は、とりわけ、受信器/送信器ユニットR1、R2、R3およびR3’によって形成されている。
【0076】
さらに、この能動閉ループ医療システムは、拡張現実感モジュールARを閉ループシステム10の部分として備えることができる。
【0077】
拡張現実感モジュールARは、(例えば、とりわけ受信器/送信器ユニットR1、R2、R3に接続されたW1を介して、もしくはとりわけインプラントIおよびセンサS5に接続されたW2を介して無線で、および/または有線接続によって)相互リンクされている。
【0078】
ここでは、拡張現実感モジュールARが、現実の状況の上に仮想要素を重ねる拡張現実感眼鏡備える。
【0079】
図1に示された全ての構成要素が能動閉ループ医療システム10を形成する。
【0080】
図2にさらに示されているように、患者Pは、トレーニングエリアの外へ移動することもでき、例えば患者Pの脚に取り付けられた加速度計とすることができるセンサS6、可搬型送信器/受信器R3’およびインプラントIだけで(必須ではないが、埋め込まれたセンサS5を設けることも可能である)、能動閉ループ医療システム10の最小限の構成を形成することもできる。
【0081】
ここでは、センサS6と送信器/受信器R3との間の無線接続W1が設けられている。送信器/受信器R3’とインプラントIとの間に別の無線接続W2が経皮的に設けられている。
【0082】
センサS6は、患者の信号を、Bluetooth(および/またはWIFIおよび/または誘導および/または超音波)により第1の無線接続W1を介して受信器R3’に送る。受信器R3’は、Bluetoothトランシーバまたは適当な無線インタフェースを備えた小型のPCによって形成することができる。
【0083】
一般に、それに加えてまたはその代わりに、接続W1を有線接続に置き換えること、または接続W1がさらに有線接続を含むことも可能であろう。さらに、ここでは、その代わりにまたはそれに加えて、冗長接続を形成するために、超音波接続を確立することもできる。
【0084】
受信器R3’は、データを処理し、コイルツーコイル通信W2を介して制御信号をインプラントIに送る。
【0085】
さらに、能動閉ループ医療システム10は、脳信号および神経信号受信手段12を備え、これによって脳信号および神経信号を受信することができる。
【0086】
この信号受信手段は、脳信号および神経信号が埋込み可能な医療装置の制御に少なくとも部分的に使用されるような態様で制御手段に接続されている。
【0087】
図1および2に示されているように、構成要素S1、S2、S3、S4、S6、R2、R1/S1、R3、R3’は、患者Pの体外に配置される。
【0088】
次に、このシステムの機能レイアウトを説明する。
【0089】
図1および2に示された能動閉ループ医療システム10によって、人間の感覚-運動系の復元および/または置換および/または強化を提供することができる。
【0090】
特に、リアルタイム(すなわち0から30ミリ秒の間のリアルタイムに近い遅延を含む)で機能する能動閉ループ医療システム10を提供することができる。
【0091】
これらの図に示された実施形態は、刺激器、インプラントの部分とすることができる埋込み可能なパルス発生器(IPG)、または、その構成要素からある距離のところでとられた方策に基づいて有線接続なしで制御される体内のアクチュエータのような能動構成要素を相互リンクすることを可能にする。
【0092】
リアルタイム対話の場合には、作業施設ならではの方式で人を例えば支援することができる。このことは、患者Pが例えば脊髄損傷から回復するのを助けるための外傷後のリハビリテーションにおいて、患者がトレーニングを受けるときに、特に有益である。そのシステム全体が、リアルタイムで機能する能動閉ループ医療システム10を形成するため、システムは、予め定められたルーチンを実行する代わりに、予期しない事象に反応することができる。
【0093】
音声制御モジュールVによる音声制御を提供することによって、システム全体の操作がユーザにとって単純になり、システム全体の操作をより直観的にすることができる。特に、患者またはその患者の医師もしくはトレーナが、動き方または動きの種類を変化させようとした場合には、その変化を、単純な音声指令によって引き起こすことができる。
【0094】
そのために、患者Pは、例えば、
- 立ち続けようとしている場合には、「立ち続ける(stand)」または「立ったままでいる(stay)」、
- 歩こうとしている場合には、「歩く(walk)」、
- 起立しようとしている場合には、「椅子から立ち上がる(sit to stand)」または「起立する(stand up)」、
- 腕を動かそうとしている場合には、「右腕を動かす(move the right arm)」、「左腕を動かす(move left arm)」、「両腕を動かす(move both arms)」
のような音声指令を声に出して言い、または、患者の体の特定の部分を動かす他の適当な指令を提供する。音声制御モジュールVは、基本構成と、トレーニング中に患者Pが次第に多くの制御を取り戻すことができるような態様の自己学習制御システムとを備えることができる。
【0095】
このような音声指令は次いで、音声制御モジュールによって受け取られ、制御手段によって処理されるように構成されたシステム信号に変換され、制御手段に提示される。この処理もリアルタイムで実行することができる。
【0096】
タッピング信号制御モジュールTSを使用することによって、このシステムを同様に制御することができる。
【0097】
ユーザは、タッピング信号制御モジュールTSのセンサもしくは携帯型装置MD上の指令、またはタッピング信号制御モジュールTSのセンサもしくは携帯型装置MDの近くの指令を、
- 立ち続けようとしている場合には、「タップ」-「タップしない/中断」-「タップ」、
- 歩こうとしている場合には、「タップ」-「タップ」-「タップしない/中断」-「タップ」-「タップ」、
- 起立しようとしている場合には、「タップ」-「タップしない/中断」-「タップ」-「タップしない/中断」-「タップ」
のようにタップし、
- 腕を動かそうとしている場合には、「右腕を動かす」、「左腕を動かす」、「両腕を動かす」ための適当なタップ信号
を与え、
または、患者の体の特定の部分を動かす他の適当な指令を与えることができる。これらの上記の指令は例を示しているだけであり、それらの指令を、他の適当な例によって置き換えることもできる。
【0098】
タッピング信号制御モジュールTSは、基本構成と、トレーニング中に患者Pが次第に多くの制御を取り戻すことができるような態様の自己学習制御システムとを備えることができる。
【0099】
このようなタップ指令は次いで、タッピング信号制御モジュールTSによって受け取られ、制御手段によって処理されるように構成されたシステム信号に変換され、制御手段に提示される。この処理もリアルタイムで実行することができる。
【0100】
神経信号受信手段12によって、脳信号および神経信号を使用してシステム10を制御することができる。
図1および
図2に示された実施形態では、脊髄損傷(SCI)、例えば外傷後の脊髄損傷のような神経疾患後の回復、または脳卒中もしくは多発性硬化症のような他の状態後の回復を改善するときに、システム10が、患者の神経制御を復元する役目を果たす。患者の脳信号および/または神経信号のリアルタイムでの影響を可能にすることによって、患者の体内の神経学的経路をリセットし取り戻す強化された可能性を患者の神経学的経路に与える。
【0101】
EES神経刺激器16は、脊髄もまたは脊髄に含まれる運動ニューロンも直接には刺激せずに、脊髄に入る前の求心性感覚ニューロンを刺激し、したがって、移動運動制御に自然に関与するシナプス回路を活動化する。
【0102】
したがって、EES神経刺激器16は特に、活動に依存する脊髄の可塑性を誘起し、この可塑性は、患者の移動運動機能の継続的な学習および向上につながる。
【0103】
そのため、EES神経刺激器16を有するシステム10によって提供されるEESにより、固有受容求心性神経がより選択的に刺激され、歩行サイクルの異なる位相と整列したときに、トレーニングによって誘起される即時的な効果をさらに向上させることができる。歩行中、これらの位相は、右脚の伸展筋および屈曲筋の刺激と左脚の伸展筋および屈曲筋の刺激が交互に起こることからなる。時間-空間EESを使用して、遊脚期(屈曲)と体重を支える立脚期(伸展)の両方を復元することができる。連続的なEESは肢への刺激の伝導を遮断することがある。
【0104】
拡張現実感モジュールARは、患者Pのトレーニングを強化する目的に使用される。この拡張現実感モジュールは、仮想環境または部分的な仮想環境を提供することができる。拡張現実感モジュールによって、システムのユーザは、拡張現実感環境内でシステムを使用することができる。具体的なトレーニングおよび動きの提案または動きを提供することができる。さらに、仮想環境内に支援情報を表示することもできる。リハビリテーション患者に対するトレーニングセッションをより面白くし、かつ/または患者の意欲を維持させるため、拡張現実感を使用して、ゲームのような環境を生み出すことができる。例えば、ゲームの1つのレベルをうまくクリアするために特定の一連の動きを実行しようとする意欲を患者に起こさせる、ゲームのような環境を生み出すことができる。これにより、トレーニングセッションの退屈さが低下し、患者の意欲が維持される。例えば、トレーニング場所の床もしくは表面および/またはトレーニング場所内に、足を踏み出す点および/または触れる点を表示または投影することができる(このために、例えば、ビーマ(beamer)のような1つまたは複数の追加の投影器を、拡張現実感モジュールARの部分として提供することができる)。
【符号の説明】
【0105】
10 能動閉ループ医療システム
12 脳信号および神経信号受信手段
14 制御手段
16 硬膜外電気刺激(EES)神経刺激器
P 患者
AR 拡張現実感モジュール
E トレーニング環境
I インプラント
MD 携帯型装置(スマートフォンまたはタブレット)
R1 受信器/送信器ユニット
R2 受信器/送信器ユニット
R3 固定された送信器ユニット/受信器
R3’ 可搬型送信器/受信器
S1 外部センサ
S2 外部センサ
S3 外部センサ
S4 外部センサ
S5 内部センサ
S6 外部センサ
TS タッピング信号制御モジュール
V 音声制御モジュール
W1 無線接続
W2 別の無線接続