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特許7141289溶接電流波形調整量算出装置及び学習方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】溶接電流波形調整量算出装置及び学習方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/095 20060101AFI20220914BHJP
   B23K 9/09 20060101ALI20220914BHJP
   G05B 19/4155 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
B23K9/095 505A
B23K9/095 515A
B23K9/09
G05B19/4155 V
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018180935
(22)【出願日】2018-09-26
(65)【公開番号】P2020049509
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩貴
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-502001(JP,A)
【文献】米国特許第05283418(US,A)
【文献】特開昭57-165177(JP,A)
【文献】特開平11-000707(JP,A)
【文献】特開2009-028775(JP,A)
【文献】特開2018-010391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00、9/06 - 9/133、10/00
G05B 19/4155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを用いたパルス溶接の溶接電流波形を調整するための調整量データを算出する溶接電流波形調整量算出装置であって、
溶接ワイヤの溶滴移行形態が1パルス1ドロップで無い溶接工程中に溶接箇所を撮像して得られた動画データが入力された場合、溶接ワイヤの溶滴移行形態が1パルス1ドロップとなるように溶接電流波形を調整するための調整量データを算出して出力するように学習させた学習済みニューラルネットワークと、
溶接工程中に溶接箇所を撮像して得られた動画データを取得する動画データ取得部と
を備え、
溶接電流波形はピーク電流が2段階で変化するパルス波形であり、
前記調整量データは、
パルス電流の第1ピーク電流の増減量と、第2ピーク電流の増減量と、第1ピーク電流のピーク電流時間の増減量と、第2ピーク電流の電流時間の増減量と、ベース電流から第1ピーク電流への立ち上がり時間又は電流増加速度の増減量と、第2ピーク電流からベース電流への立ち下がり時定数の増減量とを含み、
前記学習済みニューラルネットワークは、
前記動画データ取得部にて取得した動画データが入力され、入力された該動画データに応じた調整量データを出力する
溶接電流波形調整量算出装置。
【請求項2】
前記動画データ取得部は、
複数パルス期間の動画データを取得する
請求項1に記載の溶接電流波形調整量算出装置。
【請求項3】
溶接工程中に検出して得られた溶接電流データを取得する溶接電流データ取得部を備え、
前記学習済みニューラルネットワークは、
前記動画データ取得部にて取得した動画データと、前記溶接電流データ取得部にて取得した溶接電流データとに基づいて、溶接ワイヤの溶滴移行形態が1パルス1ドロップとなるように溶接電流波形を調整するための前記調整量データを算出して出力する
請求項1又は請求項2に記載の溶接電流波形調整量算出装置。
【請求項4】
溶接ワイヤの種類毎に前記調整量データの出力を学習させた複数の学習済みニューラルネットワークを備え、
溶接ワイヤの種類を示す情報を含む溶接条件を取得する溶接条件取得部と、
該溶接条件取得部にて取得した溶接ワイヤの種類を示す情報に基づいて、溶接電流の調整に用いる一の前記学習済みニューラルネットワークを選択する選択部と
を備える請求項1~請求項3までのいずれか一項に記載の溶接電流波形調整量算出装置。
【請求項5】
溶接ワイヤを用いたパルス溶接の溶接電流波形を調整するための調整量データを算出するニューラルネットワークの学習方法であって、
溶接電流波形はピーク電流が2段階で変化するパルス波形であり、前記調整量データは、パルス電流の第1ピーク電流の増減量と、第2ピーク電流の増減量と、第1ピーク電流のピーク電流時間の増減量、第2ピーク電流の電流時間の増減量と、ベース電流から第1ピーク電流への立ち上がり時間又は電流増加速度の増減量と、第2ピーク電流からベース電流への立ち下がり時定数の増減量とを含み、
溶接ワイヤの溶滴移行形態が1パルス1ドロップで無い溶接工程中に溶接箇所を撮像して得られた動画データと、溶接ワイヤの溶滴移行形態が1パルス1ドロップとなるように溶接電流波形を調整するための調整量データとを収集し、
収集された前記動画データ及び前記調整量データに基づいて、収集された前記動画データが前記ニューラルネットワークに入力された場合、該動画データに対応する前記調整量データが出力されるように前記ニューラルネットワークを学習させる学習方法。
【請求項6】
溶接ワイヤの溶滴移行形態が1パルス1ドロップである溶接工程中に溶接箇所を撮像して得られた動画データを収集し、
溶滴移行形態が1パルス1ドロップである溶接工程中の動画データに基づいて、
該動画データが前記ニューラルネットワークに入力された場合、溶接電流波形の調整が不要であることを示すデータが出力されるように前記ニューラルネットワークを学習させる
請求項5に記載の学習方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス溶接における溶接電流波形を調整する溶接電流波形調整量算出装置及び学習方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MIG溶接又はMAG溶接においてパルスアーク溶接法が用いられている。特許文献1には、溶滴移行形態を操作することによって、溶け込み部分の形状を制御するパルスアーク溶接装置が開示されている。当該パルスアーク溶接装置は、パルス電流のピーク電流、ピーク電流時間を調整することによって、溶滴移行形態を制御している。溶滴移行形態には、1パルス1ドロップ、1パルス複数ドロップ、複数パルス1ドロップ等の形態がある。溶滴移行形態は電磁ピンチ力の仕事量に依存しており、パルス電流のピーク電流及びピーク電流時間を調整することによって、溶滴移行形態を変化させることができる。一般的には、1パルス1ドロップの溶滴移行形態が望ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-16491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、1パルス1ドロップの溶滴移行形態を実現するピーク電流、ピーク電流時間は溶接ワイヤの材質、ワイヤ径などにも依存し、種々の溶接条件毎に最適な溶接電流波形を決定する必要がある。また、最適な溶接電流波形は、必ずしも矩形波状とは限らない。
このような溶接電流波形の調整は手作業であるため、熟練を要し、調整に時間を要するという問題があった。また、チューニング作業者は、データロガーに表示される溶接電流波形、溶接音、溶接感覚等の官能評価によって、溶接電流波形の調整を行っていたため、チューニング作業者の感覚によって調整結果にバラツキが生ずるという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、1パルス1ドロップの溶滴移行形態が実現されるように、パルス溶接の溶接電流波形を自動で調整するための調整量データを算出することができる溶接電流波形調整量算出装置及び学習方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本態様に係る溶接電流波形調整量算出装置は、溶接ワイヤを用いたパルス溶接の溶接電流波形を調整するための調整量データを算出する溶接電流波形調整量算出装置であって、溶接ワイヤの溶滴移行形態が1パルス1ドロップで無い溶接工程中に溶接箇所を撮像して得られた動画データが入力された場合、溶接ワイヤの溶滴移行形態が1パルス1ドロップとなるように溶接電流波形を調整するための調整量データを算出して出力するように学習させた学習済みニューラルネットワークと、溶接工程中に溶接箇所を撮像して得られた動画データを取得する動画データ取得部とを備え、前記学習済みニューラルネットワークは、前記動画データ取得部にて取得した動画データが入力され、入力された該動画データに応じた調整量データを出力する。
【0007】
本態様によれば、動画データ取得部は、パルス溶接中の溶接箇所を撮像して得た動画データを取得する。動画データは、溶接ワイヤの溶滴移行形態が1パルス1ドロップになっているか否か、溶滴移行形態を認識するための情報である。溶接電流波形が適切で無いと、溶滴移行形態は1パルス1ドロップとならず、溶接の品質が悪化する。例えば、1パルスに対して複数回の溶滴移行が発生した場合、短絡してスパッタが発生するおそれがある。逆に溶接電流波形を適切な形状に調整できれば、溶滴移行形態は1パルス1ドロップの状態となり、良好な溶接結果が得られる。
動画データ取得部にて取得された動画データが学習済みニューラルネットワークに入力されると、溶接電流波形を調整するための調整量データが出力される。溶接電流波形調整部から出力される調整量データは、溶接電流波形を変化させる情報であり、溶接電流波形の調整により、1パルス1ドロップとなっていない溶滴移行形態を、1パルス1ドロップの溶滴移行形態に修正することができる。動画データを用いて溶滴移行形態を認識して溶接電流波形を調整する構成であるため、溶接電流、溶接電圧、その他の溶接条件に基づく仕事量を演算して溶滴移行形態を制御する構成に比べて、より適切に溶接電流波形を調整することができる。
【0008】
本態様に係る溶接電流波形調整量算出装置は、前記動画データ取得部は、複数パルス期間の動画データを取得する。
【0009】
本態様によれば、動画データ取得部にて取得され、電流波形調整部に入力される動画データは、少なくとも複数パルス期間の動画データである。パルス溶接の溶接電流は、ベース電流から高い電流(ピーク電流)へ変化し、再びベース電流に戻る変化が繰り返される複数のパルス電流を有する。複数パルス期間は少なくともパルス電流が複数回表れる期間である。溶滴移行形態には、1パルス1ドロップ、1パルス複数ドロップ、複数パルス1ドロップ等の形態があるが、複数パルス期間は、少なくとも複数パルス1ドロップを識別可能な時間である。パルス電流が周期的である場合、複数パルス期間はパルス電流が表れる周期(パルス周期)の2倍以上の期間である。例えば、複数パルス期間は、パルス周期10周期分の期間である。
本態様に係る動画データ取得部によって取得された動画データによれば、複数パルス期間の動画データにより、継続的な1パルス1ドロップの溶滴移行形態を認識することが可能となる。
【0010】
本態様に係る溶接電流波形調整量算出装置は、溶接電流波形は指数関数的に溶接電流が増加及び減少するパルス波形であり、前記調整量データは、溶接電流の立ち上がり態様を定める時定数の増減量と、溶接電流のピーク電流値の増減量と、ピーク電流時間の増減量と、溶接電流の立ち下がり態様を定める時定数の増減量とを含む。
【0011】
本態様によれば、溶接電流波形は指数関数的に立ち上がり、また立ち下がるパルス波形であり、電流波形調整部は溶接電流の立ち上がり態様を定める時定数、ピーク電流値、ピーク電流時間、溶接電流の立ち下がり態様を定める時定数等を増減させる調整量データを出力することによって、1パルス1ドロップの溶滴移行形態を実現する。本態様に係る溶接電流波形によれば、種々の溶接条件に対して汎用的に1パルス1ドロップの溶滴移行形態を実現することができる。
【0012】
本態様に係る溶接電流波形調整量算出装置は、溶接工程中に検出して得られた溶接電流データを取得する溶接電流データ取得部を備え、前記学習済みニューラルネットワークは、前記動画データ取得部にて取得した動画データと、前記溶接電流データ取得部にて取得した溶接電流データとに基づいて、溶接ワイヤの溶滴移行形態が1パルス1ドロップとなるように溶接電流波形を調整するための前記調整量データを算出して出力する。
【0013】
本態様によれば、溶接工程中に撮像して得た動画データと、溶接工程中に検出して得られた溶接電流データとが学習済みニューラルネットワークに入力される。電流波形調整部は、動画データ及び溶接電流データの双方が入力されるため、溶接電流の時間的変化と、溶滴移行の時間的変化の関係を認識し、溶接電流波形を調整するための調整量データを出力することができる。従って、動画データのみが電流波形調整部に入力される場合に比べて、より適切に溶接電流波形を調整し、1パルス1ドロップの溶滴移行形態を実現することができる。
【0014】
本態様に係る溶接電流波形調整量算出装置は、溶接ワイヤの種類毎に前記調整量データの出力を学習させた複数の学習済みニューラルネットワークを備え、溶接ワイヤの種類を示す情報を含む溶接条件を取得する溶接条件取得部と、該溶接条件取得部にて取得した溶接ワイヤの種類を示す情報に基づいて、溶接電流の調整に用いる一の前記学習済みニューラルネットワークを選択する選択部とを備える。
【0015】
本態様によれば、溶接条件取得部は、溶接ワイヤの種類を含む溶接条件を取得する。溶接電流波形の調整方法は、溶接ワイヤの種類毎に異なる傾向がある。そこで、選択部は、溶接ワイヤの種類毎に用意された複数の学習済みニューラルネットワークの中から、溶接条件取得部が取得した溶接条件に合致する学習済みニューラルネットワークを選択する。そして、電流波形調整部は、選択された一の学習済みニューラルネットワークを用いて溶接電流波形の調整を行う。溶接ワイヤの種類毎に溶接電流波形調整用の学習済みニューラルネットワークを備えることにより、より適切に1パルス1ドロップの溶滴移行形態を実現することができる。
【0016】
本態様に係る学習方法は、溶接ワイヤを用いたパルス溶接の溶接電流波形を調整するための調整量データを算出するニューラルネットワークの学習方法であって、溶接ワイヤの溶滴移行形態が1パルス1ドロップで無い溶接工程中に溶接箇所を撮像して得られた動画データと、溶接ワイヤの溶滴移行形態が1パルス1ドロップとなるように溶接電流波形を調整するための調整量データとを収集し、収集された前記動画データ及び前記調整量データに基づいて、収集された前記動画データが前記ニューラルネットワークに入力された場合、該動画データに対応する前記調整量データが出力されるように前記ニューラルネットワークを学習させる。
【0017】
本態様によれば、溶接ワイヤの溶滴移行形態が1パルス1ドロップで無い溶接工程中に溶接箇所を撮像して得られた動画データが入力された場合、溶接ワイヤの溶滴移行形態が1パルス1ドロップとなるように溶接電流波形を調整するための調整量データが出力されるようにニューラルネットワークを学習させることができる。
【0018】
本態様に係る学習方法は、溶接ワイヤの溶滴移行形態が1パルス1ドロップである溶接工程中に溶接箇所を撮像して得られた動画データを収集し、溶滴移行形態が1パルス1ドロップである溶接工程中の動画データに基づいて、該動画データが前記ニューラルネットワークに入力された場合、溶接電流波形の調整が不要であることを示すデータが出力されるように前記ニューラルネットワークを学習させる。
【0019】
本態様によれば、溶接ワイヤの溶滴移行形態が1パルス1ドロップである溶接工程中に溶接箇所を撮像して得られた動画データが入力された場合、溶接電流波形の調整が不要であることを示すデータが出力されるようにニューラルネットワークを学習させることができる。溶接電流波形の調整が不要であることを示すデータの内容及び形式は特に限定されるものでは無く、溶接電流波形の変更量がゼロであることを示す調整量データであっても良いし、溶接電流波形の調整の要否を示すデータであっても良い。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、1パルス1ドロップの溶滴移行形態が実現されるように、パルス溶接の溶接電流波形を自動で調整するための調整量データを算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態1に係るアーク溶接システムを示す模式図である。
図2】実施形態1に係る溶接電流波形調整量算出装置を示すブロック図である。
図3】実施形態1に係る溶接電流波形調整量算出装置を示す機能ブロック図である。
図4】溶接電流波形及び調整量の一例を示す説明図である。
図5】溶接電流波形及び調整量の一例を示す説明図である。
図6】溶接電流波形及び調整量の一例を示す説明図である。
図7】溶接電流波形及び調整量の一例を示す説明図である。
図8】実施形態2に係る溶接電流波形調整量算出装置を示す模式図である。
図9】電流波形調整部の機械学習方法を示すフローチャートである。
図10】実施形態3に係る溶接電流波形調整量算出装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて詳述する。また、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
(実施形態1)
図1は実施形態1に係るアーク溶接システムを示す模式図である。本実施形態に係るアーク溶接システムは、パルスアーク溶接機であり、溶接ロボット1、溶接電源2、溶接条件設定部3、撮像装置4及び溶接電流波形調整量算出装置5とを備える。
【0023】
溶接ロボット1は、母材Aのアーク溶接を自動で行うものである。溶接ロボット1は、床面の適宜箇所に固定される基部を備える。基部には、複数のアームが軸部を介して回動可能に連結しており、アームの先端部には溶接トーチ11が保持されている。また、アームの適宜箇所にワイヤ送給装置12が設けられている。各アームの連結部分にはモータが設けられており、モータの回転駆動力によって軸部を中心に各アームが回動する。モータの回転は図示しない制御装置によって制御されている。制御装置は、各アームを回動させることによって、母材Aに対して溶接トーチ11を上下前後左右に移動させることができる。また、各アームの連結部分には、アームの回動位置を示す信号を制御装置へ出力するエンコーダが設けられており、制御装置は、エンコーダから出力された信号に基づいて、溶接トーチ11の位置を認識する。
【0024】
溶接トーチ11は、銅合金等の導電性材料からなり、溶接対象の母材Aへ溶接ワイヤWを案内すると共に、アークの発生に必要な溶接電流を供給する円筒形状のコンタクトチップを有する。溶接電流は溶接電源2から供給される。溶接ワイヤWは、図示しないワイヤ供給源からワイヤ送給装置12によって溶接トーチ11に供給される。溶接ワイヤWは、例えばソリッドワイヤであり、消耗電極として機能する。
コンタクトチップは、その内部を挿通する溶接ワイヤWに接触し、溶接電流を溶接ワイヤWに供給する。また、溶接トーチ11は、コンタクトチップを囲繞する中空円筒形状をなし、先端の開口から母材Aへシールドガスを噴射するノズルを有する。シールドガスは、アークによって溶融した母材A及び溶接ワイヤWの酸化を防止するためのものである。シールドガスは、例えば炭酸ガス、炭酸ガス及びアルゴンガスの混合ガス、アルゴン等の不活性ガス等である。シールドガスは溶接電源2から供給される。
【0025】
溶接電源2は、電源部21、ワイヤ送給制御部22、シールドガス供給部23及び検出部24を備える。電源部21は、給電ケーブルを介して、溶接トーチ11のコンタクトチップ及び母材Aに接続され、溶接電流としてパルス電流を供給する。ワイヤ送給制御部22は、ワイヤ送給装置12による溶接ワイヤWの送給速度を制御する。溶接ワイヤWの送給速度は溶接電流の値に対応している。シールドガス供給部23は、シールドガスを溶接トーチ11に供給する。検出部24は、溶接工程中、アークを流れる溶接電流を検出する電流検出部、溶接トーチ11及び母材Aに印加される電圧を検出する電圧検出部を含む。電源部21は、検出部24にて検出された溶接電流及び溶接電圧に基づいて所要の電流波形を有する直流パルス電流を出力する電源回路、信号処理回路等を含む。また、溶接電源2は、溶接工程中の溶接状態を示す溶接モニタデータを溶接電流波形調整量算出装置5へ出力する。溶接モニタデータは、例えば、溶接工程中に検出された溶接電流又は溶接電圧を示す溶接電流データ又は溶接電圧データである。また溶接モニタデータとして、図示しないマイクで集音して得られる溶接音データを溶接電流波形調整量算出装置5へ出力しても良い。
【0026】
撮像装置4は、溶接工程中、母材Aの溶接箇所及び溶接ワイヤWの先端部を撮像し、撮像して得た動画データを溶接電流波形調整量算出装置5へ出力する。当該動画データは少なくとも複数パルス期間の動画を含む。動画データは、溶滴移行形態を認識するための情報である。複数パルス期間は少なくともパルス電流が複数回表れる期間であり、複数パルス1ドロップを識別可能な時間である。例えば、複数パルス周期は、パルス周期10周期分の期間である。
【0027】
溶接条件設定部3は、ユーザによって選択又は入力された溶接条件及び溶接設定を溶接電源2へ出力する。溶接条件は、溶接ワイヤWの種類、ワイヤ径、シールドガスの種類等の情報である。溶接設定は、溶接電圧及び溶接電流、溶接速度等の情報である。
【0028】
溶接条件設定部3にて設置される溶接条件及び溶接設定は必ずしも最適なものでは無く、溶接電流波形については、溶滴移行形態が1パルス1ドロップとなるように、溶接電流波形調整量算出装置5によって調整される。
【0029】
図2は実施形態1に係る溶接電流波形調整量算出装置5を示すブロック図である。溶接電流波形調整量算出装置5は、当該溶接電流波形調整量算出装置5の各構成部の動作を制御する制御部50を備える。制御部50には、入力部50a、出力部50b及び記憶部50cが接続されている。
【0030】
記憶部50cは、ハードディスク、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリである。記憶部50cは、1パルス1ドロップの溶滴移行形態が実現されるように、溶接電流波形を調整する処理を制御部50に実行させるためのコンピュータプログラム50dを記憶している。
【0031】
制御部50は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)又はマルチコアCPU等のプロセッサ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力インタフェース等を有するコンピュータであり、インタフェースには、入力部50a、出力部50b及び記憶部50cが接続されている。制御部50は、記憶部50cが記憶するコンピュータプログラム50dを実行することにより、1パルス1ドロップの溶滴移行形態を実現するための電流波形データを溶接電源2に出力する。具体的には、制御部50は、1パルス1ドロップの溶滴移行形態となるように、溶接電流波形を調整するための調整量を示した調整量データを演算する。そして、制御部50は、1パルス1ドロップの溶滴移行形態を実現するための電流波形データを出力部50bから出力させる。
【0032】
入力部50aは、溶接電源2及び撮像装置4に接続されている。入力部50aには、溶接電源2から出力された溶接モニタデータと、撮像装置4から出力された動画データが入力される。溶接モニタデータは、例えば溶接電流、溶接電圧、溶接音等を示す時系列データである。動画データは、溶接工程中、溶接箇所を撮像して得た時系列データである。
【0033】
出力部50bは、溶接電源2に接続されている。制御部50は、1パルス1ドロップの溶滴移行形態を実現するために必要な、溶接電流波形の調整量を示した調整量データを溶接電源2へ出力する。
【0034】
図3は実施形態1に係る溶接電流波形調整量算出装置5を示す機能ブロック図である。溶接電流波形調整量算出装置5は、機能ブロックとして、動画データ取得部51aと、溶接電流データ取得部51bと、溶接条件取得部51cと、電流波形調整部52と、電流波形データ出力部53とを備える。
【0035】
動画データ取得部51aは、撮像装置4から出力される動画データを取得し、取得した動画データを電流波形調整部52へ出力する。動画データ取得部51aは、少なくとも複数パルス期間以上の動画データを取得し、電流波形調整部52へ出力すると良い。
なお、電流波形調整部52に入力させる動画データは、時系列の画像データであるが、全ての画像データを入力しても良いし、一部を間引いて入力しても良い。また、実質的に動画データの情報を有していれば良く、時系列の画像データを1枚の静止画としてまとめたものを生成し、当該静止画データを電流波形調整部52に入力させても良い。
【0036】
溶接電流データ取得部51bは、溶接電源2から出力される溶接電流データを取得し、取得した溶接電流データを電流波形調整部52へ出力する。溶接電流データ取得部51bは、動画データと同様の期間の溶接電流データを取得する。
【0037】
電流波形調整部52は、動画データ及び溶接電流データに基づいて、溶滴移行形態を認識し、1パルス1ドロップの溶滴移行形態となるように溶接電流波形を調整するための調整量データを出力する。電流波形調整部52には、少なくとも複数パルス期間の動画データ及び溶接電流データが入力される。電流波形調整部52は、例えば、動画データ及び溶接電流データが入力された場合、1パルス1ドロップの溶滴移行形態となるように溶接電流波形を調整するための調整量データを出力する学習済みニューラルネットワーク52aを備える。学習済みニューラルネットワーク52aは、動画データ及び溶接電流データが入力される入力層と、中間層と、調整量データを出力する出力層とを有する。また、学習済みニューラルネットワーク52aは、動画データを構成する時系列の画像データを処理するための図示しない畳み込み層及びプーリング層を入力層側に有する。なお、溶接電流データは、畳み込み層及びプーリング層を介さず、入力層に直接入力させると良い。また、学習済みニューラルネットワーク52aは、時系列の画像データ及び溶接電流データを処理すべく、再帰型ニューラルネットワークを中間層に有する。
電流波形調整部52の学習済みニューラルネットワーク52aは、溶接ワイヤWの溶滴移行形態が1パルス1ドロップで無い溶接工程中に溶接箇所を撮像して得られた動画データ及び溶接電流データ(入力データ)と、溶接ワイヤWの溶滴移行形態が1パルス1ドロップとなるように溶接電流波形を調整するための調整量データ(教師データ)とを学習データとしてニューラルネットワークを学習させると良い。つまり、1パルス1ドロップで無い溶接工程中に撮像された動画データ及び電流データが入力された場合、当該溶接における溶滴移行形態を1パルス1ドロップにするための調整量データが出力されるようにニューラルネットワークを学習させると良い。学習用の動画データ、溶接電流データ及び調整量データは、熟練者が溶接電流波形を調整する作業をモニタリングすることによって取得すれば良い。
なお、学習済みニューラルネットワーク52aの中間層の層数、各層のニューロン数等、その構造は特に限定されるものでは無い。また、学習済みニューラルネットワーク52aの種類も特に限定されるものでは無い。
【0038】
図4図7は溶接電流波形及び調整量を示す説明図である。横軸は時間、縦軸は電流を示す。
図4は矩形状ないし台形状の溶接電流を示している。溶接電流波形が図4に示すような台形状である場合、電流波形調整部52の学習済みニューラルネットワーク52aは、調整量データとして、パルス電流のピーク電流の増減量と、ピーク電流時間の増減量とを出力するように構成すると良い。ピーク電流時間は、溶接電流の立ち上がり完了後、立ち下がり開始までの時間、つまり電流値が最大となっている時間である。
なお、上記増減量に加え、又は上記増減量の全部若しくは一部に代えて、ベース電流からピーク電流への立ち上がり時間若しくは電流増加速度の増減量、ピーク電流からベース電流への立ち下がり時定数の増減量を出力するように、学習済みニューラルネットワーク52aを構成しても良い。
図5は、指数関数的に立ち上がり、一定時間ピーク電流を維持し、その後指数関数的に立ち下がるパルス状の溶接電流を示している。溶接電流波形が図5に示すようなパルス波形である場合、電流波形調整部52の学習済みニューラルネットワーク52aは、調整量データとして、溶接電流の立ち上がり態様を定める時定数の増減量と、溶接電流のピーク電流値の増減量と、ピーク電流時間の増減量と、溶接電流の立ち下がり態様を定める時定数の増減量とを出力するように構成すると良い。
図6は、ピーク電流が2段階で変化するパルス状の溶接電流を示している。溶接電流波形が図6に示すようなパルス波形である場合、電流波形調整部52の学習済みニューラルネットワーク52aは、調整量データとして、パルス電流の第1ピーク電流の増減量と、第2ピーク電流の増減量と、第1ピーク電流のピーク電流時間の増減量、第2ピーク電流の電流時間の増減量とを出力するように構成すると良い。第1ピーク電流時間は、溶接電流の立ち上がり完了後、第2ピーク電流への切り替え開始までの時間、つまり電流値が最大となっている時間である。第2ピーク電流は、第1ピーク電流から第2ピーク電流への切り替え完了後、立ち下がり開始までの時間、つまり第1ピーク電流に次いで電流値が最大となっている時間である。
なお、上記増減量に加え、又は上記増減量の全部若しくは一部に代えて、ベース電流から第1ピーク電流への立ち上がり時間若しくは電流増加速度の増減量、第1ピーク電流から第2ピーク電流への切替時間の増減量、又は第2ピーク電流からベース電流への立ち下がり時定数の増減量を出力するように、学習済みニューラルネットワーク52aを構成しても良い。
図7は、2段階の増加速度で電流が立ち上がり、その後指数関数的に立ち下がるパルス状の溶接電流を示している。溶接電流波形が図7に示すようなパルス波形である場合、電流波形調整部52の学習済みニューラルネットワーク52aは、調整量データとして、前段の電流増加速度の増減量と、後段の電流増加速度の増減量と、立ち下がり時定数の増減量とを出力するように構成すると良い。後段の電流増加速度は、前段の電流増加速度に比べて小さい。
なお、上記増減量に加え、又は上記増減量の全部若しくは一部に代えて、前段の電流増加完了時の第1ピーク電流の増減量、後段の電流増加完了後の第2ピーク電流の増減量を出力するように、学習済みニューラルネットワーク52aを構成しても良い。
【0039】
電流波形調整部52は、図4図7に示す溶接電流波形のいずれか一つを調整できるように構成しても良いし、複数種類の溶接電流波形を調整できるように構成しても良い。複数種類の溶接電流波形を調整する構成の場合、電流波形調整部52は、溶接電流波形の種類毎に異なる学習済みニューラルネットワーク52aを備えても良いし、単一の学習済みニューラルネットワーク52aが溶接電流波形の種類を認識して、調整量データを算出して出力するように構成しても良い。なお、電流波形調整部52は、溶接電流波形の種類を、溶接電流データに基づいて認識又は判定しても良いし、溶接条件取得部51cが取得した溶接条件に基づいて認識又は判定しても良い。
【0040】
溶接条件取得部51cは、溶接条件設定部3から出力される溶接条件及び溶接設定を取得し、取得した溶接条件及び溶接設定を電流波形調整部52へ出力する。
【0041】
電流波形データ出力部53は、電流波形調整部52から出力された調整量データに基づいて、溶接電流波形を調整し、調整後の溶接電流波形を示す電流波形データを溶接電源2へ出力する。なお、電流波形データ出力部53は、溶接電流波形を調整する際、溶接条件又は溶接設定、例えば溶接電流の平均値を考慮して溶接電流波形を調整すると良い。
【0042】
溶接電源2は、溶接電流波形調整量算出装置5から出力された電流波形データを受信し、受信した電流波形データに基づいて、調整後の溶接電流波形となるように溶接電流を供給する。
【0043】
以上のように構成された溶接電流波形調整量算出装置5を用意し、コンピュータプログラム50dを実行させることによって、本実施形態1に係る溶接電流波形調整量算出方法を実行することができる。まず、溶接電流波形調整量算出装置5を溶接電源2に接続することによって、溶滴移行形態が1パルス1ドロップとなるように溶接電流波形を調整するための学習済みニューラルネットワーク52aを用意する。
そして、溶接電流波形調整量算出装置5は、動画データ取得部51a及び溶接電流データ取得部51bにて、溶接工程中に溶接箇所を撮像して得られた動画データと、溶接工程中に検出された溶接電流データを取得する。
次いで、溶接電流波形調整量算出装置5は、取得した動画データ及び溶接電流データを学習済みニューラルネットワーク52aに入力させることにより、溶接ワイヤWの溶滴移行形態が1パルス1ドロップとなるように溶接電流波形を調整するための調整量データを出力させる。
次いで、溶接電流波形調整量算出装置5は、電流波形データ出力部53にて、調整量データによって調整された電流波形データを溶接電源2に出力する。
以下、同様の処理が繰り返し実行され、溶滴移行形態が1パルス1ドロップになるまで溶接電流波形の調整が行われる。溶滴移行形態が1パルス1ドロップになった場合、電流波形調整部52から出力される調整量データが示す調整量はゼロになり、溶接電流波形の調整が終了する。
【0044】
このように構成された溶接電流波形調整量算出装置5によれば、1パルス1ドロップの溶滴移行形態が実現されるように、パルス溶接の溶接電流波形を自動で調整することができる。
【0045】
また、少なくとも複数パルス期間の動画データ及び溶接電流データが電流波形調整部52に入力されるため、学習済みニューラルネットワーク52aは、複数パルス期間の動画データにより、継続的な1パルス1ドロップの溶滴移行形態を認識することができる。もちろん、1パルス複数ドロップの溶滴移行形態も認識することができる。従って、電流波形調整部52は、より確実に溶滴移行形態を認識し、溶接電流波形を調整するための調整量データを出力することができる。
【0046】
更に、図4に示すような溶接電流はパルス波形のピーク電流値及びピーク電流時間を増減させる調整量データを出力することによって、1パルス1ドロップの溶滴移行形態を実現することができる。
【0047】
更にまた、図5に示すような溶接電流波形の立ち上がり態様を定める時定数、ピーク電流値、ピーク電流時間、溶接電流の立ち下がり態様を定める時定数等を増減させる調整量データを出力することによって、1パルス1ドロップの溶滴移行形態を実現することができる。図5に示す溶接電流波形によれば、種々の溶接条件に対して汎用的に1パルス1ドロップの溶滴移行形態を実現することができる。
同様にして、図6又は図7に示すような溶接電流波形を適宜調整することによって、1パルス1ドロップの溶滴移行形態を実現することができる。
【0048】
更にまた、本実施形態1では、動画データ及び溶接電流データの双方が学習済み電流波形調整部52に入力されるため、学習済みニューラルネットワーク52aは、溶接電流の時間的変化と、溶滴移行の時間的変化の関係を認識し、溶接電流波形を調整するための調整量データを出力することができる。従って、動画データのみが電流波形調整部52に入力される場合に比べて、より適切に溶接電流波形を調整し、1パルス1ドロップの溶滴移行形態を実現することができる。
【0049】
更にまた、学習済みニューラルネットワーク52aを用いることにより、動画データから溶滴移行形態を認識し、調整量データを出力する構成であるため、溶滴移行形態を認識するための特徴量を具体的に定める必要は無く、動画データに基づく溶滴移行形態に応じた調整量データを出力することができる。
【0050】
なお、本実施形態1では溶接電流波形調整量算出装置5が学習済みニューラルネットワーク52aを備える例を説明したが、電流波形調整部52の学習済みニューラルネットワーク52aを規定する各種パラメータを、外部サーバからダウンロードし、更新するように構成しても良い。パラメータは、例えば、中間層の階層数、各層のニューロンの数、各ニューロンの重み係数、活性化関数の種類等を含む情報である。また、溶接電流波形調整量算出装置5は、ダウンロードした各種パラメータを、学習済みニューラルネットワーク52aに反映させることを許可するか否かを示すフラグを記憶し、フラグが許可を示した場合にダウンロードされたパラメータを用いて学習済みニューラルネットワーク52aを更新するように構成しても良い。
また、工場内に、溶接電流波形調整量算出装置5を備える溶接システムが複数設置されている場合、必要に応じて各溶接システムの溶接電流波形調整量算出装置5が上記パラメータを交換しても良い。
更に、溶接電流波形調整量算出装置5をクラウドサーバとして構成しても良い。溶接電源2又は制御装置は、当該サーバに溶接電流波形の調整を要求し、要求に応じてサーバから送信された調整量データを受信し、溶接電流波形を調整しても良い。
更にまた、溶接電流波形調整量算出装置5は溶接電源2に備えても良い。また、溶接電流波形調整量算出装置5は、溶接電流波形調整用の専用装置として実施しても良い。作業者は、溶接システムに当該専用装置を接続し、溶接電流波形を自動で調整することができる。
更にまた、本実施形態1では、動画データ及び溶接電流データを用いて、溶接電流波形を調整する例を説明したが、更に溶接音データ、その他の溶接モニタデータを用いて、溶接電流波形を調整するように構成しても良い。
【0051】
更にまた、本実施形態1では、1個の学習済みニューラルネットワーク52aが溶滴移行形態の認識と、溶接電流波形の最適な調整量データを決定する処理を実行しているが、機能毎に異なるニューラルネットワークを備えても良い。例えば、溶滴移行形態を判定するニューラルネットワークと、溶滴移行形態に応じて調整量データを出力するニューラルネットワークとを備えるように構成しても良い。
【0052】
(実施形態2)
図8は、実施形態2に係る溶接電流波形調整量算出装置205を示す模式図である。実施形態2に係る溶接電流波形調整量算出装置205は、更に調整量データ取得部51d、学習用データ蓄積部55及び学習処理部54を備える。
【0053】
調整量データ取得部51dは、動画データ取得部51aが取得した動画データに係る溶接が行われた際に熟練者が溶接電流波形の調整を行ったときの当該調整量を示す調整量データを取得し、取得した調整量データを学習用データ蓄積部55に出力する。調整量データは、ある溶滴移行形態にあるときに熟練者が溶接電流波形をどのように調整するかを示した情報である。
動画データには、溶滴移行形態が1パルス1ドロップで無い溶接工程中に溶接箇所を撮像して得られたものと、溶滴移行形態が1パルス1ドロップである溶接工程中に溶接箇所を撮像して得られたものとがある。前者の場合、調整量データ取得部51dは、溶接ワイヤWの溶滴移行形態が1パルス1ドロップとなるように溶接電流波形を調整するための調整量を示した調整量データを取得することになる。後者の場合、調整量データ取得部51dは、溶接電流波形の調整が不要であることを示す調整量データを取得することになる。
【0054】
学習用データ蓄積部55は、ハードディスク等の不揮発性記憶装置である。学習用データ蓄積部55は、動画データ取得部51a、溶接電流データ取得部51b、及び調整量データ取得部51dにて取得ないし収集された動画データ、溶接電流データ及び調整量データを蓄積する。
【0055】
学習処理部54は、学習用データ蓄積部55に蓄積された動画データ、溶接電流データ、調整量データに基づいて電流波形調整部52のニューラルネットワークを学習させる。具体的には、学習処理部54は、学習用データ蓄積部55に蓄積された動画データ及び溶接電流データを未学習のニューラルネットワークに入力させる。そして、学習処理部54は、当該ニューラルネットワークから出力される調整量と、当該動画データ及び溶接電流データに対応付けて学習用データ蓄積部55に蓄積されていた調整量データとの差分を算出する。次いで、学習処理部54は、当該差分が小さくなるように誤差拡散伝播法等のアルゴリズムを用いて、ニューラルネットワークの重み係数を変更する。学習処理部54は、学習用データ蓄積部55に蓄積された多量のデータを用いて上記学習処理を繰り返し実行することによって、ニューラルネットワークは収集された動画データが入力された場合に、該動画データに対応する調整量が出力されるようになる。
【0056】
図9は、電流波形調整部52の機械学習方法を示すフローチャートである。1パルス複数ドロップの動画データ、溶接電流データ及び溶接電流波形の調整方法を収集する(ステップS11)。
【0057】
また、複数パルス1ドロップの動画データ、溶接電流データ及び溶接電流波形の調整方法を収集する(ステップS12)。
【0058】
更に、1パルス1ドロップの動画データを収集する(ステップS13)。当該動画データは、溶接電流波形の調整が不要な状態、つまり理想的な溶滴移行形態を示す情報である。なお説明の便宜上、上記収集処理をステップS11~ステップS13の流れで説明したが、各収集処理の順序は特に限定されるものでは無く、適宜のタイミングで実行させる。
【0059】
そして、1パルス1ドロップの溶滴移行形態にないときの動画データ及び調整量と、1パルス1ドロップの溶滴移行形態にあるときの動画データ及び調整量=0とを用いて、ニューラルネットワークを学習させる(ステップS14)。動画データはニューラルネットワークに入力されるデータであり、調整量は教師データである。当該ニューラルネットワークは、ある動画データが入力された場合、当該動画データに対応する調整量が出力されるように学習を行う。
【0060】
本実施形態2に係る学習方法によれば、溶接ワイヤWの溶滴移行形態が1パルス1ドロップで無い溶接工程中に溶接箇所を撮像して得られた動画データが入力された場合、溶接ワイヤWの溶滴移行形態が1パルス1ドロップとなるように溶接電流波形を調整するための調整量データが出力されるようにニューラルネットワークを学習させることができる。
【0061】
また、溶接ワイヤWの溶滴移行形態が1パルス1ドロップである溶接工程中に溶接箇所を撮像して得られた動画データが入力された場合、溶接電流波形の調整が不要であることを示すデータが出力されるようにニューラルネットワークを学習させることができる。
【0062】
なお、本実施形態1では、溶接電流波形調整量算出装置205において電流波形調整部52の機械学習を行う例を説明したが、溶接電流波形調整量算出装置205外のサーバでニューラルを学習させるように構成しても良い。当該サーバは、複数の溶接システムから動画データ、溶接電流データ及び調整量データを収集し、ニューラルネットワークを学習させ、各溶接システムの溶接電流波形調整量算出装置205へ学習済みニューラルネットワーク52aを規定する各種パラメータを配信するように構成しても良い。
【0063】
(実施形態3)
図10は、実施形態3に係る溶接電流波形調整量算出装置305を示す模式図である。実施形態3に係る溶接電流波形調整量算出装置305は、実施形態1と同様の構成である。電流波形調整部352の構成が異なる。
【0064】
実施形態3に係る電流波形調整部352は、溶接ワイヤW毎に、溶接電流波形に応じた調整量データを算出して出力するように学習させた複数の学習済みニューラルネットワーク52aを備える。例えば、第1の種類の溶接ワイヤWについて調整量データ出力の学習を行った第1NN(Neural Network)352a、第2の種類の溶接ワイヤWについて調整量データ出力の学習を行った第2NN352b、第3の種類の溶接ワイヤWについて調整量データ出力の学習を行った第3NN352c、第4の種類の溶接ワイヤWについて調整量データ出力の学習を行った第4NN352dを備える。
また、電流波形調整部352は選択部352eを備える。電流波形調整部352は、溶接条件取得部51cにて取得した溶接条件、特に溶接ワイヤWの種類を示す情報を選択部352eに出力する。選択部352eは、当該情報に基づいて、溶接電流波形の調整に使用する学習済みニューラルネットワーク52aを選択する。電流波形調整部352は、選択部352eによって選択された学習済みニューラルネットワーク52aに動画データ及び溶接電流データを入力させ、調整量データを出力される。
【0065】
実施形態3に係る溶接電流波形調整量算出装置305によれば、溶接ワイヤWの種類毎に溶接電流波形調整用の学習済みニューラルネットワークである第1NN352a、第2NN352b、第3NN352c、第4NN352d等を備えることにより、より適切に1パルス1ドロップの溶滴移行形態を実現することができる。
【0066】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0067】
1 溶接ロボット
2 溶接電源
3 溶接条件設定部
4 撮像装置
5 溶接電流波形調整量算出装置
11 溶接トーチ
12 ワイヤ送給装置
21 電源部
22 ワイヤ送給制御部
23 シールドガス供給部
24 検出部
50 制御部
50a 入力部
50b 出力部
50c 記憶部
50d コンピュータプログラム
51a 動画データ取得部
51b 溶接電流データ取得部
51c 溶接条件取得部
51d 調整量データ取得部
52 電流波形調整部
52a 学習済みニューラルネットワーク
53 電流波形データ出力部
54 学習処理部
55 学習用データ蓄積部
352a 第1NN
352b 第2NN
352c 第3NN
352d 第4NN
352e 選択部
A 母材
W 溶接ワイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10