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特許71413035,5’-メチレンジサリチル酸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】5,5’-メチレンジサリチル酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/15 20060101AFI20220914BHJP
   C07C 65/105 20060101ALI20220914BHJP
   C07C 51/43 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
C07C51/15
C07C65/105
C07C51/43
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018194582
(22)【出願日】2018-10-15
(65)【公開番号】P2020063196
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】久野 貴矢
(72)【発明者】
【氏名】柳川瀬 邦代
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-122245(JP,A)
【文献】特開2004-323475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応媒体中で、式(1)
【化1】
(式中、Mはナトリウム、カリウム、リチウム、ルビジウムまたはセシウムを示す)
で表されるビスフェノールFジアルカリ金属塩と二酸化炭素とを反応させる工程を含
前記工程において、反応媒体として、軽油、灯油、ガソリン、潤滑油、白油、アルキルベンゼン、アルキルナフタリン、水素化トリフェニル、ジフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテルおよびiso-オクチルアルコールからなる群から選択される1種以上を用いる、
式(2)
【化2】
で表される5,5’-メチレンジサリチル酸の製造方法。
【請求項2】
前記工程は、有機酸および/または有機酸塩の存在下で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機酸塩は酢酸ナトリウムである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ビスフェノールFジアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応を、圧力10MPa以下および温度100~250℃の条件下で行う、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
さらに有機溶媒による再結晶化工程を含む、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
有機溶媒はメタノールである、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5,5’-メチレンジサリチル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
5,5’-メチレンジサリチル酸(以下、MDSAとも称する)は2つのサリチル酸がメチレン基で結合した構造を有しており、各種樹脂の改質モノマーや安定化剤などの用途が提案されている。
【0003】
MDSAの製造方法としては、サリチル酸とホルムアルデヒドとの反応によるメチレンビス化(非特許文献1)や、サリチル酸メチルと1,3,5-トリオキサンとのメチレンビス化(非特許文献2)が知られているが、これらの方法では反応性および反応選択性が低いものであった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Tetrahedron(2013)、69(44)、9329-9334
【文献】Bioorganic&Medicinal Chem.lett(2007)、17(10)、2760-2764
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、反応性および反応選択性が改善された、5,5’-メチレンジサリチル酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、反応媒体中で、式(1)
【化1】
(式中、Mはナトリウム、カリウム、リチウム、ルビジウムまたはセシウムを示す)
で表されるビスフェノールFジアルカリ金属塩と二酸化炭素とを反応させる工程を含む、式(2)
【化2】
で表される5,5’-メチレンジサリチル酸の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によると、反応性および反応選択性が高いため、高純度なMDSAを高収率で得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のMDSAの製造方法においては、ビスフェノールFジアルカリ金属塩を二酸化炭素と反応させる、いわゆるコルベシュミット反応が用いられる。本発明において、反応は通常撹拌下で行われる。
【0009】
本発明において使用される反応装置としては、通常のコルベシュミット反応において使用される反応装置であればよく、例えば、撹拌機を備え、高圧反応に対応可能なオートクレーブが好適に使用できる。さらに、温度制御機能を有し、炭酸ガスや不活性ガスの導入管、温度計支持管、圧力計および排気管などを有するものがより好ましい。
【0010】
本発明において使用される式(1)で表されるビスフェノールFジアルカリ金属塩としては、ビスフェノールFジリチウム塩、ビスフェノールFジナトリウム塩、ビスフェノールFジカリウム塩、ビスフェノールFジルビジウム塩、ビスフェノールFジセシウム塩が挙げられる。入手の容易さ、コストおよび反応性の点から、ビスフェノールFジナトリウム塩およびビスフェノールFジカリウム塩が好ましく、さらに反応性により優れる点から、ビスフェノールFジナトリウム塩がより好ましい。
【0011】
ビスフェノールFジアルカリ金属塩は、ビスフェノールFを、アルカリ金属水酸化物や、アルカリ金属t-ブトキシド、アルカリ金属メトキシド、アルカリ金属エトキシド、アルカリ金属i-プロポキシドなどのアルカリ金属アルコキシドを用いて、ジアルカリ金属塩とすることにより得ることができる。特に、経済性を考慮すると、ビスフェノールFをアルカリ金属水酸化物を用いてジアルカリ金属塩とするのが好ましい。
【0012】
より具体的には、ビスフェノールFジナトリウム塩は、ビスフェノールFを、水酸化ナトリウムや、t-ブトキシナトリウム、メトキシナトリウム、エトキシナトリウム、i-プロポキシナトリウムなどのナトリウムアルコキシドを用いて、ジナトリウム塩とすることにより得ることができる。特に、経済性を考慮すると、ビスフェノールFを水酸化ナトリウムを用いてジナトリウム塩とするのが好ましい。
【0013】
ビスフェノールFジカリウム塩も、ビスフェノールFジナトリウム塩と同様に、ビスフェノールFを、水酸化カリウムや、t-ブトキシカリウム、メトキシカリウム、エトキシカリウム、i-プロポキシカリウムなどのカリウムアルコキシドを用いて、ジカリウム塩とすることにより得ることができる。特に、経済性を考慮すると、ビスフェノールFを水酸化カリウムを用いてジカリウム塩とするのが好ましい。
【0014】
反応に供するビスフェノールFジアルカリ金属塩は、十分脱水されていることが好ましく、脱水が不完全であると反応収率が低下することがある。脱水は、例えば、エバポレーターなどの装置を用い、真空状態で加熱することにより行われる。反応に供するビスフェノールFジアルカリ金属塩は、その水分量が3質量%以下、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下であることが好ましい。
【0015】
本発明では、ビスフェノールFジアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応は、有機酸および/または有機酸塩の存在下で行うことが反応選択性の向上の観点から好ましい。
【0016】
有機酸および/または有機酸塩としては、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタミン酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、酒石酸およびクエン酸、およびこれらのアルカリ金属塩からなる群から選択される1種以上が好適に用いられる。入手容易性および反応における選択性向上の観点から、酢酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0017】
有機酸および/または有機酸塩は、ビスフェノールFジアルカリ金属塩1モル当たり、通常0.1~10モル、好ましくは0.3~5モル、より好ましくは、0.5~4.5モル、さらに好ましくは1~3モル存在させるのがよい。
【0018】
本発明において、ビスフェノールFジアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応に用いる反応媒体は、好適には、反応温度および反応圧力において液体であり、ビスフェノールFジアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応に対して不活性なものである。好ましくは、反応媒体は大気圧での沸点が220℃以上のものである。
【0019】
反応媒体としては、脂肪族、脂環族もしくは芳香族の炭化水素またはこれらの残基を有するエーテル化合物が好適に使用され、例えば、軽油、灯油、ガソリン、潤滑油、白油、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)、アルキルベンゼン、アルキルナフタリン、水素化トリフェニル、ジフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテルおよびiso-オクチルアルコールからなる群から選択される1種以上を用いることができる。尚、これらの反応媒体は2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0020】
反応媒体の使用量は、ビスフェノールFジアルカリ金属塩に対して通常0.5倍質量以上、好ましくは1~15倍質量、より好ましくは2~8倍質量である。
【0021】
ビスフェノールFジアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応は、通常100~250℃で行われ、好ましくは120~230℃、より好ましくは140~210℃の温度下で行うことができる。100℃より低温では、反応が進行し難い傾向があり、250℃より高温では、反応が頭打ちとなりエネルギーが損失するとともに、副反応が生じるおそれがある。
【0022】
ビスフェノールFジアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応は、通常10MPa以下、好ましくは0.1~5MPa、より好ましくは0.2~1MPaの圧力下、好適には二酸化炭素による圧力下で行なわれる。反応時の圧力が10MPaを超えると高圧に耐える装置が必要となるなど、工業的に有利ではない。
【0023】
反応時間は、通常30分~15時間、好ましくは1時間~10時間、より好ましくは2時間~9時間、特に好ましくは3~8時間の間で適宜選択することができる。
【0024】
かかる反応により得られたMDSAのジアルカリ金属塩は、酸析などの当業者に既知の手段によって酸に変換することにより、目的のMDSAを得ることができる。
【0025】
得られたMDSAは、さらに有機溶媒による再結晶化工程を経ることで、より高純度のものとすることが可能である。
【0026】
再結晶化工程では、まず溶解工程において、前記反応工程で得られたMDSAを含む粗組成物を有機溶媒に溶解させる。MDSAを含む粗組成物とは、目的物であるMDSA以外に、反応原料や触媒および反応副生物などの不純物を含む組成物を意味する。不純物の含有量は反応方法によっても異なるが、粗組成物中において通常1~20質量%、好ましくは3~10質量%である。
【0027】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、1-ブタノール、2-ブタノール、t-ブチルアルコール、2-メチル-1-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、エチルベンゼン、o-ジエチルベンゼン、m-ジエチルベンゼン、p-ジエチルベンゼン、プロピルベンゼン、クメン、o-シメン、m-シメン、p-シメン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタンおよびシクロオクタンからなる群から選択される1種以上を用いることができる。
【0028】
これらの中でも、安全性および経済性に優れる点で、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールおよび1-ブタノールが好ましく、特に入手容易性および再結晶後の除去が容易であることからメタノールがより好ましい。
【0029】
溶解工程において、MDSAを含む粗組成物と上記有機溶媒との比率は、粗組成物に対して有機溶媒5~15倍質量であることが好ましく、より好ましくは7~10倍質量である。有機溶媒の比率が5倍質量を下回る場合、原料や触媒あるいは副生物などの不純物が結晶中に取り込まれてしまい高純度の結晶を得ることが困難になる傾向があり、15倍質量を上回る場合、MDSAの収量が減少する傾向がある。
【0030】
溶解工程において、MDSAを含む粗組成物と有機溶媒の混合物の温度は、用いる有機溶媒の種類および混合比率によって異なるため特に限定されないが、好ましくは30℃~100℃、より好ましくは40℃~90℃、さらに好ましくは45℃~80℃である。
【0031】
粗組成物が溶解した溶液は次いで晶析工程に供される。
【0032】
晶析工程は、好ましくは5~30℃、より好ましくは5~25℃、さらに好ましくは10~20℃の温度下で攪拌しながら行われる。
【0033】
晶析温度が5℃を下回る場合、原料や触媒あるいは副生物などの不純物が結晶中に取り込まれてしまい、高純度の結晶を得ることが困難になる傾向がある。晶析温度が30℃を上回る場合、MDSAの収量が減少する傾向がある。
【0034】
晶析工程によって析出した結晶は、濾過等の常套手段により固液分離し、目的物であるMDSAを回収する。固液分離に際し、適宜有機溶媒を注いで結晶を洗浄するのが好ましい。固液分離の際に用いる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノールおよび2-プロパノールからなる群から選択される1種以上が好ましく使用される。洗浄に用いる有機溶媒は、MDSAに対し0.5~2倍質量使用するのが好ましい。
【0035】
固液分離によって回収された結晶は、常圧下において通風乾燥するか、減圧下で乾燥し、溶媒を留去することによって、高純度のMDSAを得ることができる。
【0036】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【実施例
【0037】
各化合物は以下の方法によって分析した。
<高速液体クロマトグラフィー(HPLC)>
装置: Watersアライアンス 2690/2996
カラム型番: L-Column
液量: 1.0mL/分
溶媒比: HO(pH2.3)/CHOH=65/35(10分)→3分→40/60(7分)→1分→30/70(9分)→1分→10/90(19分)、グラジエント分析
波長: 229nm
カラム温度: 40℃
【0038】
[実施例1]
120mLのオートクレーブ中に、ビスフェノールFジナトリウム塩(以下、BisF-2Naとも称する)13.75g(41.4ミリモル)、酢酸ナトリウム6.79g(82.8ミリモル、BisF-2Naに対して2.0当量)、および軽油68.75g(BisF-2Naに対して5倍質量)を入れて密閉し、窒素置換した後、撹拌した。
【0039】
次いで、混合物を200℃まで昇温した後、窒素を二酸化炭素に置き換えて、撹拌しながら圧力0.59MPaで6時間反応させた。反応終了後、冷却(<90℃)して開封し、水52.25g(BisF-2Naに対して3.8倍質量)を加え、さらに撹拌した。
【0040】
静置後、水層を分離し、HPLCによってビスフェノールFの残存率およびMDSAの生成率(生成した化合物中のMDSAの割合)を分析した。結果を表1に示す。尚、ビスフェノールFの残存率が低い程、反応性が良いことを示す。
【0041】
[実施例2]
酢酸ナトリウムの添加量を3.40g(41.4ミリモル、BisF-2Naに対して1.0当量)に変更した以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0042】
[実施例3]
二酸化炭素による圧力を0.37MPaに変更した以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0043】
[実施例4]
反応時間を4時間に変更した以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例5]
120mLのオートクレーブ中に、BisF-2Na12.26g(36.9ミリモル)、および軽油61.30g(BisF-2Naに対して5倍質量)を入れて密閉し、窒素置換した後、撹拌した。
【0045】
次いで、混合物を200℃まで昇温した後、窒素を二酸化炭素に置き換えて、撹拌しながら圧力0.59MPaで6時間反応させた。反応終了後冷却(<90℃)して開封し、水52.72g(BisF-2Naに対して4.3倍質量)を加え、撹拌した。
【0046】
その後、水層を抽出し、HPLCによってビスフェノールFの残存率およびMDSAの生成率(生成した化合物中のMDSAの割合)を分析した。結果を表1に示す。
【0047】
[実施例6]
120mLのオートクレーブ中に、BisF-2Na13.89g(41.8ミリモル)、およびDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)68.05g(BisF-2Naに対して4.9倍質量)を入れて密閉し、窒素置換した後、撹拌した。
【0048】
次いで、混合物を150℃まで昇温した後、窒素を二酸化炭素に置き換えて、撹拌しながら圧力0.59MPaで6時間反応させた。反応終了後冷却(<90℃)して開封し、エバポレーターで溶媒を留去した。水31.1g(BisF-2Naに対して3.0倍質量)を加え、撹拌した。
【0049】
その後、水層をHPLCによってビスフェノールFの残存率およびMDSAの生成率(生成した化合物中のMDSAの割合)を分析した。結果を表1に示す。
【0050】
<粗MDSA(1)の調製>
実施例3で得られた水層に85℃にて70%硫酸を加えてpH6.08になるまで中和した後、2-エチルヘキサノール(EHA)79gで3回洗浄を行った。得られた水層を85℃にてカーボン0.4gで処理した後、濾過し、得られた濾液に再び70%硫酸を加えて80℃にて酸析した(pH1.98)。析出した固体を濾別した後、通風乾燥し、粗MDSA(1)を得た(収率39.4%)。得られた粗MDSA(1)のHPLC分析値を表2に示す。
【0051】
<粗MDSA(2)の調製>
実施例6で得られた水層を用い、中和pHを4.11とした以外は<粗MDSA(1)の調製>と同様の操作を実施し、粗MDSA(2)を得た(収率44.2%)。得られた粗MDSA(2)のHPLC分析値を表2に示す。
【0052】
[実施例7](再結晶化工程)
撹拌機、温度センサーおよび還流管を備えた200mLの4口フラスコに、得られた粗MDSA(1)7.3gおよびイソプロパノール44.6gを加えて、窒素気流下、80℃に昇温し溶解させた。同温度にて熱時濾過し、得られた濾液(48.6g)をさらに加熱してイソプロパノール10.3gを留去した。その後、3時間かけて20℃までゆっくりと冷却し、固体を析出させた。析出した固体を濾別した後、通風乾燥し、MDSAを得た(2.0g、収率27.5%)。得られたMDSAのHPLC分析値を表2に示す。
【0053】
[実施例8](再結晶化工程)
撹拌機、温度センサーおよび還流管を備えた200mLの4口フラスコに、得られた粗MDSA(2)10.5gおよびメタノール108.8gを加えて、窒素気流下、65℃に昇温し溶解させた。そこへカルボラフィン1.04gを加え、65℃のまま1時間撹拌した。同温度にて熱時濾過し、得られた濾液を3時間かけて15℃までゆっくりと冷却し、固体を析出させた。析出した固体を濾別した後、通風乾燥し、MDSAを得た(2.9g、収率28.3%)。得られたMDSAのHPLC分析値を表2に示す。
【0054】
[比較例1](サリチル酸のメチレンビス化によるMDSAの合成)
撹拌機、温度センサーおよび還流管を備えた500mLの4口フラスコに、サリチル酸14.09g(0.102mol)、37%ホルムアルデヒド水溶液4.19g(サリチル酸に対して0.51当量)、酢酸140.3g(サリチル酸に対して10倍質量)および硫酸1.01g(サリチル酸に対して0.1当量)を加えて、窒素気流下、114℃に昇温した。同温度で5時間撹拌し、反応させた。反応終了後、反応液をHPLCによってサリチル酸残存率およびMDSAの生成率(生成した化合物中のMDSAの割合)を分析した。その結果、サリチル酸の残存率は20.9mol%、MDSAの生成率は39.45area%であった。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
※N.D.は検出されなかったことを意味する。
【0057】
実施例1~6および比較例1に記載の通り、サリチル酸のメチレンビス化よりも、本発明に従うコルベシュミット反応によるMDSAの合成の方が反応性および選択性において優れることが理解される。また、実施例7、8に記載の通り、さらに有機溶媒による再結晶化工程を含むことにより高純度のMDSAを得ることが可能である。
本発明の好ましい態様は以下を包含する。
〔1〕反応媒体中で、式(1)
[化1]
(式中、Mはナトリウム、カリウム、リチウム、ルビジウムまたはセシウムを示す)
で表されるビスフェノールFジアルカリ金属塩と二酸化炭素とを反応させる工程を含む、式(2)
[化2]
で表される5,5’-メチレンジサリチル酸の製造方法。
〔2〕前記工程は、有機酸および/または有機酸塩の存在下で実施される、〔1〕に記載の方法。
〔3〕有機酸塩は酢酸ナトリウムである、〔2〕に記載の方法。
〔4〕ビスフェノールFジアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応を、圧力10MPa以下および温度100~250℃の条件下で行う、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕前記工程において、反応媒体として、軽油、灯油、ガソリン、潤滑油、白油、アルキルベンゼン、アルキルナフタリン、水素化トリフェニル、ジフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテルおよびiso-オクチルアルコールからなる群から選択される1種以上を用いる、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕さらに有機溶媒による再結晶化工程を含む、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕有機溶媒はメタノールである、〔6〕に記載の方法。