(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】防食塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 163/00 20060101AFI20220914BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220914BHJP
C09D 5/10 20060101ALI20220914BHJP
C09D 183/00 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D7/61
C09D5/10
C09D183/00
(21)【出願番号】P 2018219115
(22)【出願日】2018-11-22
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】住田 友久
(72)【発明者】
【氏名】三村 展央
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-268765(JP,A)
【文献】特開平10-259351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、アミン硬化剤(B)、鱗片状アルミニウム粉(C)、および、該(C)以外のアルミニウム粉(D)を含有する防食塗料組成物。
【請求項2】
前記防食塗料組成物中の不揮発分100質量%に対して、前記アルミニウム粉(C)および(D)を0.1~15質量%(固形分)の量で含む、請求項1に記載の防食塗料組成物。
【請求項3】
前記アルミニウム粉(C)の質量(固形分)に対する前記アルミニウム粉(D)の質量(固形分)の比が0.1~5の範囲にある、請求項1または2に記載の防食塗料組成物。
【請求項4】
前記アルミニウム粉(D)のアスペクト比が5未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の防食塗料組成物。
【請求項5】
さらに、シランカップリング剤(E)を含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の防食塗料組成物。
【請求項6】
さらに、体質顔料(F)を含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の防食塗料組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の防食塗料組成物より形成された防食塗膜。
【請求項8】
請求項7に記載の防食塗膜と基材とを含む防食塗膜付き基材。
【請求項9】
下記工程[1]および[2]を含む、防食塗膜付き基材の製造方法。
[1]基材に、請求項1~6のいずれか1項に記載の防食塗料組成物を塗装する工程
[2]塗装された防食塗料組成物を乾燥させて塗膜を形成する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防食塗料組成物に関し、具体的には、防食塗料組成物、防食塗膜、防食塗膜付き基材および防食塗膜付き基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶や海洋構造物などの鋼構造物に適用される防食塗料としてエポキシ樹脂系塗料が使用され、特に腐食環境の厳しい部位では、電気防食システムも併用されている。特に、塗膜での防食と合わせて電気防食システムを利用することにより、塗膜欠陥部での腐食を抑制することができる。
電気防食には、流電陽極方式や外部電源方式等があり、電流の作用で金属の電位を変化させて腐食を防止する。海水の電気抵抗率は低いため、電気防食システムは、海洋構造物には特に有用である。
【0003】
また、近年、環境対応として揮発性有機成分(Volatile Organic Compounds:以下「VOC」ともいう。)が少ない低VOC量の塗料組成物が求められている。
【0004】
前記防食塗料として、特許文献1や2には、エポキシ樹脂系塗料において、アルミニウム顔料を用いることが記載されており、このアルミニウム顔料として、リーフィングタイプとノンリーフィングが挙げられている。これらリーフィングタイプとノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料は、使用される表面処理剤などが異なるが、いずれも鱗片状の顔料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-259351号公報
【文献】特開2016-65118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来の鱗片状のアルミニウム粉を用いる塗料は、該アルミニウム粉の形状から、塗料の粘度が高くなるため、粘度調整のために多量のVOCを用いる必要があり、結果、低VOC量の塗料組成物を得ることが困難であることが分かった。
【0007】
また、防食塗膜と電気防食システムとの併用は、塩分を含む大気下で、過酷な乾湿状態に曝される船舶や海洋構造物等において、これらの腐食環境から船体等を保護し、強度と安全性を維持して長期にわたる運行・稼働を行うために有用である。しかし、船舶や海洋構造物等における塗膜に欠陥が生じた場合、該塗膜欠陥部では電気防食によりエレクトロコーティングと呼ばれる、カルシウムやマグネシウムの炭酸塩や水酸化物等が沈着・析出する。これらの物質はアルカリ性であるため、鋼板等の基材の腐食を抑制するが、塗膜欠陥部周囲の塗膜の変質を促進し、その結果、塗膜の基材との付着性を低下させることが分かった。
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、本発明は、低VOC量で塗装作業性に優れる防食塗料組成物であって、防食性に優れ、電気防食システムを併用しても基材に対し良好な付着性を有する防食塗膜を形成できる塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決する方法について鋭意検討を重ねた結果、所定の塗料組成物によれば前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の構成例は以下の通りである。
【0010】
<1> エポキシ樹脂(A)、アミン硬化剤(B)、鱗片状アルミニウム粉(C)、および、該(C)以外のアルミニウム粉(D)を含有する防食塗料組成物。
【0011】
<2> 前記防食塗料組成物中の不揮発分100質量%に対して、前記アルミニウム粉(C)および(D)を0.1~15質量%(固形分)の量で含む、<1>に記載の防食塗料組成物。
<3> 前記アルミニウム粉(C)の質量(固形分)に対する前記アルミニウム粉(D)の質量(固形分)の比が0.1~5の範囲にある、<1>または<2>に記載の防食塗料組成物。
<4> 前記アルミニウム粉(D)のアスペクト比が5未満である、<1>~<3>のいずれかに記載の防食塗料組成物。
【0012】
<5> さらに、シランカップリング剤(E)を含有する、<1>~<4>のいずれかに記載の防食塗料組成物。
<6> さらに、体質顔料(F)を含有する、<1>~<5>のいずれかに記載の防食塗料組成物。
【0013】
<7> <1>~<6>のいずれかに記載の防食塗料組成物より形成された防食塗膜。
<8> <7>に記載の防食塗膜と基材とを含む防食塗膜付き基材。
【0014】
<9> 下記工程[1]および[2]を含む、防食塗膜付き基材の製造方法。
[1]基材に、<1>~<6>のいずれかに記載の防食塗料組成物を塗装する工程
[2]塗装された防食塗料組成物を乾燥させて塗膜を形成する工程
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低VOC量で塗装作業性に優れる防食塗料組成物であって、防食性に優れ、電気防食システムを併用しても基材に対し良好な付着性を有する防食塗膜を形成できる塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
≪塗料組成物≫
本発明の一実施形態に係る防食塗料組成物(以下「本組成物」ともいう。)は、エポキシ樹脂(A)、アミン硬化剤(B)、鱗片状アルミニウム粉(C)、および、該(C)以外のアルミニウム粉(D)(以下「非鱗片状アルミニウム粉(D)」ともいう。)を含有する塗料組成物である。
【0017】
本組成物は前記効果を奏するため、船舶や海洋構造物などの鋼構造物の防食用として好適に用いられる。さらには、バラストタンクや船舶外板など、電気防食システムと併用して用いられる船舶や海上構造物に好適に用いられる。
【0018】
本組成物は、1成分型の組成物であってもよいが、通常、エポキシ樹脂(A)を含有する主剤成分と、アミン系硬化剤(B)を含有する硬化剤成分とからなる2成分型の組成物である。また、必要により、本組成物は、3成分型以上の組成物であってもよい。
これら主剤成分および硬化剤成分は、通常、それぞれ別個の容器にて保存、貯蔵、運搬等され、使用直前に一緒に混合して用いられる。
【0019】
本組成物のVOCの含有量は、好ましくは340g/L以下、より好ましくは300g/L以下、特に好ましくは270g/L以下である。
【0020】
本組成物のVOC含有量は、下記塗料比重および質量NVの値を用い、下記式(1)から算出することができる。
VOC含量(g/L)=塗料比重×1000×(100-質量NV)/100 ・・・(1)
【0021】
塗料比重(g/cm3):23℃の温度条件下で、本組成物(例:主剤成分と硬化剤成分とを混合した直後の組成物)を内容積100mlの比重カップに充満し、該組成物の質量を計量することで算出される値
【0022】
質量NV(質量%):JIS K 5601-1-2に従って、本組成物(例:主剤成分と硬化剤成分とを混合した直後の組成物)1±0.1gを平底皿に量り採り、質量既知の針金を使って均一に広げ、23℃で24時間放置後、110℃で1時間、常圧下で乾燥させ、加熱残分および針金の質量を量ることで算出される質量百分率の値(本組成物中の加熱残分の含有率)
【0023】
なお、本発明では、前記と同様にして測定した本組成物の加熱残分を「不揮発分」という。また、本組成物、主剤成分または硬化剤成分を構成する原料となる各成分中(エポキシ樹脂(A)など)、主剤成分中、硬化剤成分中の溶剤以外の成分を「固形分」という。
【0024】
本組成物の顔料体積濃度(PVC)は、塗装作業性に優れる組成物を容易に得ることができ、防食性および耐水性に優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは10%以上、より好ましくは25%以上であり、好ましくは75%以下、より好ましくは60%以下、特に好ましくは50%以下である。
PVCが前記下限を下回ると、得られる塗膜の防食性が低下する傾向にあり、また、前記上限を超えると、得られる塗膜の耐水性が低下するとともに塗装作業性が低下する傾向にある。
【0025】
前記PVCとは、本組成物中の不揮発分の体積に対する、前記鱗片状アルミニウム粉(C)、非鱗片状アルミニウム粉(D)、下記体質顔料(F)および下記着色顔料を含む、すべての顔料の合計の体積濃度のことをいう。PVCは、具体的には下記式より求めることができる。
PVC[%]=本組成物中の全ての顔料の体積合計×100/本組成物中の不揮発分の体積
【0026】
前記本組成物中の不揮発分の体積は、本組成物の不揮発分の質量および真密度から算出することができる。前記不揮発分の質量および真密度は、測定値でも、用いる原料から算出した値でも構わない。
前記顔料の体積は、用いた顔料の質量および真密度から算出することができる。前記顔料の質量および真密度は、測定値でも、用いる原料から算出した値でも構わない。例えば、本組成物の不揮発分より顔料と他の成分とを分離し、分離された顔料の質量および真密度を測定することで算出することができる。
【0027】
<エポキシ樹脂(A)>
エポキシ樹脂(A)としては特に制限されず、従来公知のエポキシ樹脂を用いることができ、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
前記エポキシ樹脂(A)としては、例えば、特開平11-343454号公報や特開平10-259351号公報に記載の非タール系エポキシ樹脂が挙げられる。
【0028】
前記エポキシ樹脂(A)としては、分子内に2個以上のエポキシ基を含むポリマー、オリゴマー、およびこれらのエポキシ基の開環反応によって生成するポリマーまたはオリゴマー等が挙げられる。このようなエポキシ樹脂としては、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、脂肪酸変性エポキシ樹脂、エポキシ化油系エポキシ樹脂等が挙げられる。
これらの中でも、基材に対する密着性に優れる防食塗膜を容易に形成できる等の点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましく、さらにはビスフェノールA型およびビスフェノールF型のエポキシ樹脂がより好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0029】
前記エポキシ樹脂(A)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル類);ビスフェノールAD型エポキシ樹脂;ビスフェノールF型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂;トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂が挙げられ、これらの水素添加反応(以下、「水添」ともいう)物、脂肪酸変性物、樹脂中の水素原子の少なくとも1つが臭素原子で置換された臭素化物等であってもよい。
【0030】
前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールA(ポリ)プロピレンオキシドジグリシジルエーテル、ビスフェノールA(ポリ)エチレンオキシドジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA(ポリ)プロピレンオキシドジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA(ポリ)エチレンオキシドジグリシジルエーテル等のビスフェノールA型ジグリシジルエーテル類などの縮重合物が挙げられる。
【0031】
前記エポキシ樹脂(A)は、従来公知の方法で合成して得てもよく、市販品でもよい。該市販品としては、常温(15~25℃の温度、以下同様。)で液状のものとして、「E-028」(大竹明新化学(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量180~190、粘度12,000~15,000mPa・s/25℃)、「jER-807」(三菱ケミカル(株)製、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量160~175、粘度3,000~4,500mPa・s/25℃)、「フレップ60」(東レ・ファインケミカル(株)製、エポキシ当量約280、粘度約17,000mPa・s/25℃)等が挙げられる。常温で半固形状のものとして、「jER-834」(三菱ケミカル(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量230~270)等が挙げられる。常温で固形状のものとして、「jER1001」(三菱ケミカル(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量450~500)等が挙げられる。
また、前述の半固形状または固形状のエポキシ樹脂を溶剤で希釈し、溶液とした「E-834-85X」(大竹明新化学(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のキシレン溶液(834タイプエポキシ樹脂溶液)、エポキシ当量約300)、「E-001-75」(大竹明新化学(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のキシレン溶液(1001タイプエポキシ樹脂溶液)、エポキシ当量約630)等も使用することができる。
【0032】
前記エポキシ樹脂(A)としては、基材に対する密着性に優れる組成物が得られる等の点から、常温で液状または半固形状のものが好ましい。
【0033】
前記エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、防食性に優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは150以上、より好ましくは175以上であり、好ましくは1000以下、より好ましくは600以下、特に好ましくは500以下である。
【0034】
前記エポキシ樹脂(A)のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)で測定した重量平均分子量は、得られる組成物の塗装硬化条件(例:常乾塗装または焼付け塗装)などにもより一概に決定されないが、好ましくは350~20,000である。
【0035】
本組成物中の前記エポキシ樹脂(A)の含有量は、防食性により優れる塗膜を得ることができる等の点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。また、前記エポキシ樹脂(A)は、本組成物が主剤成分と硬化剤成分とからなる2成分型の組成物である場合、主剤成分に含まれ、該主剤成分中に、好ましくは5~80質量%、より好ましくは5~50質量%の量で含まれていることが望ましい。
また、本組成物中の前記エポキシ樹脂(A)の含有量は、前記と同様の理由より、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。
【0036】
<アミン硬化剤(B)>
アミン硬化剤(B)としては後述する三級アミン(3級アミノ基のみを有するアミン化合物)を除く、アミン化合物であれば特に制限されないが、脂肪族系、脂環族系、芳香族系、複素環系アミン硬化剤などのアミン化合物が好ましい。
アミン硬化剤(B)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0037】
前記脂肪族系アミン硬化剤としては、例えば、アルキレンポリアミン、ポリアルキレンポリアミン、アルキルアミノアルキルアミン等が挙げられる。
【0038】
前記アルキレンポリアミンとしては、例えば、式:「H2N-R1-NH2」(R1は、炭素数1~12の二価の炭化水素基である。)で表される化合物が挙げられ、具体的には、メチレンジアミン、エチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、トリメチルヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0039】
前記ポリアルキレンポリアミンとしては、例えば、式:「H2N-(CmH2mNH)nH」(mは1~10の整数である。nは2~10の整数であり、好ましくは2~6の整数である。)で表される化合物が挙げられ、具体的には、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、テトラプロピレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ノナエチレンデカミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレン-ビス(トリメチレン)ヘキサミン等が挙げられる。
【0040】
これら以外の脂肪族系アミン硬化剤としては、テトラ(アミノメチル)メタン、テトラキス(2-アミノエチルアミノメチル)メタン、1,3-ビス(2'-アミノエチルアミノ)プロパン、トリス(2-アミノエチル)アミン、ビス(シアノエチル)ジエチレントリアミン、ポリオキシアルキレンポリアミン(特に、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル)等が挙げられる。
【0041】
前記脂環族系アミン硬化剤としては、具体的には、シクロヘキサンジアミン、ジアミノジシクロヘキシルメタン(特に、4,4'-メチレンビスシクロヘキシルアミン)、4,4'-イソプロピリデンビスシクロヘキシルアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、メンセンジアミン(MDA)、2,4-ジ(4-アミノシクロヘキシルメチル)アニリン等が挙げられる。
【0042】
前記芳香族系アミン硬化剤としては、ビス(アミノアルキル)ベンゼン、ビス(アミノアルキル)ナフタレン、ベンゼン環に結合した2個以上の1級アミノ基を有する芳香族ポリアミン化合物等が挙げられる。
この芳香族系アミン硬化剤として、より具体的には、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン(MXDA)、p-キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、ナフタレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジエチルフェニルメタン、2,4'-ジアミノビフェニル、2,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメトキシ-4,4'-ジアミノビフェニル、ビス(アミノメチル)ナフタレン、ビス(アミノエチル)ナフタレン等が挙げられる。
【0043】
前記複素環系アミン硬化剤としては、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、1,4-ジアザシクロヘプタン、1-(2'-アミノエチルピペラジン)、1-[2'-(2''-アミノエチルアミノ)エチル]ピペラジン、1,11-ジアザシクロエイコサン、1,15-ジアザシクロオクタコサン等が挙げられる。
【0044】
前記アミン硬化剤(B)としては、さらに、前述したアミン硬化剤の変性物、例えば、ポリアミドアミン等の脂肪酸変性物、エポキシ化合物とのアミンアダクト、マンニッヒ変性物(例:フェナルカミン、フェナルカマイド)、マイケル付加物、ケチミン、アルジミンなどが挙げられる。これらの内、ポリアミドアミン、エポキシ化合物とのアミンアダクト、マンニッヒ変性物が好ましい。
【0045】
前記アミン硬化剤(B)は、従来公知の方法で合成して得てもよく、市販品でもよい。市販品としては、例えば、脂肪族ポリアミンである「ACIハードナーK-39」(PTIジャパン(株)製)、マンニッヒ変性脂肪族ポリアミンである「サンマイドCX-1154」(三和化学(株)製)、フェノルカミンアダクトである「カードライトNC556X80」(カードライト社製)、下記実施例で用いたアミン硬化剤が挙げられる。
【0046】
前記アミン硬化剤(B)の活性水素当量は、防食性に優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは50以上、より好ましくは80以上であり、好ましくは1000以下、より好ましくは400以下である。
【0047】
防食性、塗膜強度および乾燥性に優れる塗膜を容易に得ることができる等の点から、前記アミン硬化剤(B)は、下記式(2)で算出される反応比が、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上となるような量、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.0以下となるような量で用いることが望ましい。
【0048】
反応比={(アミン硬化剤(B)の配合量/アミン硬化剤(B)の活性水素当量)+(エポキシ樹脂(A)に対して反応性を有する成分の配合量/エポキシ樹脂(A)に対して反応性を有する成分の官能基当量)}/{(エポキシ樹脂(A)の配合量/エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量)+(アミン硬化剤(B)に対して反応性を有する成分の配合量/アミン硬化剤(B)に対して反応性を有する成分の官能基当量)} ・・・(2)
【0049】
ここで、前記式(2)における「アミン硬化剤(B)に対して反応性を有する成分」としては、例えば、後述するシランカップリング剤、エポキシ基含有反応性希釈剤、およびアクリレート化合物が挙げられ、また、「エポキシ樹脂(A)に対して反応性を有する成分」としては、例えば、後述するシランカップリング剤が挙げられる。前記各成分の「官能基当量」とは、これらの成分1molの質量からその中に含まれる官能基のmol数を除して得られた1mol官能基あたりの質量(g)を意味する。
後述のシランカップリング剤としては、反応性基としてアミノ基やエポキシ基を有するシランカップリング剤を使用することができるため、反応性基の種類によって、シランカップリング剤がエポキシ樹脂(A)に対して反応性を有するのか、アミン硬化剤(B)に対して反応性を有するのかを判断し、反応比を算出する必要がある。
【0050】
本組成物が主剤成分と硬化剤成分とからなる2成分型の組成物である場合、前記硬化剤(B)は硬化剤成分に含まれる。この硬化剤成分は、固形分が50~100質量%となるように調整された成分であることが好ましく、その時のE型粘度計で測定した25℃における粘度は、取扱い性、塗装作業性により優れる組成物となる等の点から、好ましくは100000mPa・s以下であり、より好ましくは50~10000mPa・sである。
【0051】
<鱗片状アルミニウム粉(C)>
前記鱗片状アルミニウム粉(C)における「鱗片状」とは、形状が鱗片の形を成しているものを指し、特に規定された範囲は存在しないが、通常、アスペクト比が、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは20以上であり、好ましくは150以下、より好ましくは120以下である。
前記鱗片状アルミニウム粉(C)は、得られる防食塗膜中において、粉末粒子が塗膜に対して水平に配向しやすく、このことにより、耐塩水性および耐湿性等により優れる防食塗膜を形成することができる。
【0052】
前記鱗片状アルミニウム粉(C)のアスペクト比は電子顕微鏡を用いて測定することができる。走査電子顕微鏡(SEM)、例えば「XL-30」(商品名;フィリップス社製)を用いて鱗片状アルミニウム粉(C)を観察し、数10~数100個の粉末粒子の厚みと主面における最大長さとを測定し、これらの比(主面における最大長さ/厚み)の平均値を求めることで算出できる。
なお、前記アルミニウム粉(C)の厚みは、該粉末の主面(最も面積の大きい面)に対して水平方向から観察することで測定することができ、また、前記アルミニウム粉(C)の主面における最大長さは、例えば、主面が四角形状であれば対角線の長さ、主面が円状であれば直径、主面が楕円状であれば長軸の長さのことを意味する。
【0053】
前記鱗片状アルミニウム粉(C)は、より防食性に優れる塗膜を得ることができる等の点から、そのメジアン径(D50)が、好ましくは100μm以下、より好ましくは5~70μm、特に好ましくは5~50μmである。
前記D50は、レーザー散乱回折式粒度分布測定装置、例えば、「SALD 2200」((株)島津製作所製)を用いて3回測定した平均値である。
【0054】
前記鱗片状アルミニウム粉(C)は、リーフィングタイプでもよく、ノンリーフィングタイプでもよいが、電気防食により生じる前記アルカリ性物質に基づく塗膜の変質や基材との付着性の低下をより抑制することができる等の点から、リーフィングタイプを用いることが好ましい。
なお、前記鱗片状アルミニウム粉(C)は、リーフィングタイプとノンリーフィングタイプとを併用してもよい。
【0055】
<非鱗片状アルミニウム粉(D)>
前記非鱗片状アルミニウム粉(D)は、形状が球形、涙滴形、紡錘形等の鱗片状以外の形状を有しているものを指し、特に規定された範囲は存在しないが、通常、アスペクト比が5未満であることが好ましく、アスペクト比が1~3であることがより好ましい。
前記非鱗片状アルミニウム粉(D)を鱗片状アルミニウム粉(C)とともに用いることで、低VOC量で塗装作業性に優れる組成物でありながら、防食性に優れ、電気防食システムを併用しても基材に対し良好な付着性を有する防食塗膜を形成できる。
【0056】
前記非鱗片状アルミニウム粉(D)のアスペクト比は電子顕微鏡を用いて測定することができる。走査電子顕微鏡(SEM)、例えば「XL-30」(商品名;フィリップス社製)を用いて非鱗片状アルミニウム粉(D)を観察し、数10~数100個の粉末粒子の長軸の長さと短軸の長さとを測定し、これらの比(長軸の長さ/短軸の長さ)の平均値を求めることで算出できる。
なお、前記アルミニウム粉(D)の長軸の長さは、具体的には、該粉末の中心付近の断面図における最も長い長さであり、前記アルミニウム粉(D)の短軸の長さは、前記断面図において、該断面図の中心で前記長軸と直交する線の長さである。
【0057】
非鱗片状アルミニウム粉(D)は、アトマイズ法(噴霧法)により製造されるアルミニウム粉末であることが好ましい。
【0058】
低VOC量で塗装作業性に優れる組成物を得ることができる等の点から、前記非鱗片状アルミニウム粉(D)のメジアン径(D50)は、好ましくは50μm以下、より好ましくは5~30μm、特に好ましくは5~15μmである。該D50は、鱗片状アルミニウム粉(C)のD50と同様の方法で測定することができる。
【0059】
低VOC量で塗装作業性に優れる組成物を得ることができる等の点から、前記非鱗片状アルミニウム粉(D)の離心率は、好ましくは0.85以下、より好ましくは0.7以下である。
該離心率は、アスペクト比の測定と同様に、短径bと長径aを測定し、離心率=√(a2-b2)/aの平均値を求めることで算出できる。
【0060】
本組成物中の鱗片状アルミニウム粉(C)および非鱗片状アルミニウム粉(D)合計含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
鱗片状アルミニウム粉(C)および非鱗片状アルミニウム粉(D)の合計含有量が前記範囲にあると、電気防食により生じる前記アルカリ性物質に基づく塗膜の変質や基材との付着性の低下を抑制することができる上、防食性により優れ、電気防食システムを併用しても基材に対し、より良好な付着性を有する防食塗膜を形成でき、また、放電による火花の発生を避けることができる。
【0061】
本組成物中のアルミニウム粉(C)の質量(固形分)に対する前記アルミニウム粉(D)の質量(固形分)の比[(D)/(C)]は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上であり、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、さらに好ましくは3以下である。
(D)/(C)が前記範囲にあると、低VOC量で塗装作業性に優れる組成物をより容易に調製でき、防食性により優れ、電気防食システムを併用しても基材に対しより良好な付着性を有する防食塗膜を形成できる。
【0062】
<シランカップリング剤(E)>
シランカップリング剤(E)を用いることで、得られる防食塗膜の基材への密着性をさらに向上させることができるのみならず、得られる防食塗膜の耐塩水性等の防食性をも向上させることができるため、本組成物はシランカップリング剤(E)を含むことが好ましい。
前記シランカップリング剤(E)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0063】
前記シランカップリング剤(E)としては、特に制限されず従来公知の化合物を用いることができるが、同一分子内に少なくとも2つの官能基を有し、基材に対する密着性の向上、塗料組成物の粘度の低下等に寄与できる化合物であることが好ましく、例えば、式:「X-SiMenY3-n」[nは0または1、Xは有機質との反応が可能な反応性基(例:アミノ基、ビニル基、エポキシ基、メルカプト基、ハロゲン基、炭化水素基の一部がこれらの基で置換された基、または炭化水素基の一部がエーテル結合等で置換された基の一部がこれらの基で置換された基。)を示し、Meはメチル基であり、Yは加水分解性基(例:メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基)を示す。]で表される化合物であることがより好ましい。
【0064】
前記シランカップリング剤(E)としては、反応性基としてエポキシ基またはアミノ基を有する化合物が好ましく、具体的には、「KBM403」(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業(株)製)、「サイラエースS-510」(JNC(株)製)、「KBM603」(3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、信越化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0065】
本組成物が前記シランカップリング剤(E)を含有する場合、該シランカップリング剤(C)の含有量は、本組成物100質量%に対し、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
シランカップリング剤(E)の含有量が前記範囲にあると、基材に対する密着性などの防食塗膜の性能が向上し、本組成物の粘度を下げることができるため、塗装作業性が向上する。
【0066】
<体質顔料(F)>
体質顔料(F)を用いることで、得られる塗料組成物のコスト面におけるメリットのみならず、防食性、特に耐塩水性、および耐湿性等に優れる防食塗膜を容易に形成することができるため、本組成物は体質顔料(F)を含むことが好ましい。
前記体質顔料(F)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0067】
前記体質顔料(F)としては、前記(C)および(D)以外の顔料であれば特に制限されないが、具体的には、硫酸バリウム、カリ長石、ナトリウム長石、バライト粉、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、ガラスフレーク等が挙げられる。
【0068】
本組成物が前記体質顔料(F)を含有する場合、前記効果をより発揮できる等の点から、該体質顔料(F)の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
【0069】
<その他の成分>
本組成物中には、前記(A)~(F)の他に、必要に応じて、有機溶剤、エポキシ基含有反応性希釈剤、可塑剤、アクリレート化合物、着色顔料、タレ止め・沈降防止剤、硬化促進剤、無機脱水剤(安定剤)、消泡剤、防汚剤等を、本発明の目的を損なわない範囲で配合してもよい。
これらのその他の成分は、防食塗料組成物に用いられる従来公知のものであればよい。
前記その他の成分は、それぞれ、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0070】
<有機溶剤>
前記有機溶剤としては特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、イソプロパノール、n-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール等のアルコール系溶剤、ミネラルスピリット、n-ヘキサン、n-オクタン、2,2,2-トリメチルペンタン、イソオクタン、n-ノナン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0071】
前記有機溶剤を用いる場合、本組成物中のVOC量が前記範囲となるような量で用いることが好ましい。
本組成物が前記溶媒を含有する場合、前記溶媒の含有量は特に制限されず、本組成物を塗装する際の塗装方法に応じて適宜調整すればよいが、本組成物の塗装性などを考慮すると、本組成物の不揮発分の濃度が、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上となるような量、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下となるような量で含まれることが望ましい。
また、前記溶媒は、本組成物をスプレー塗装する場合には、塗装性に優れる組成物となる等の点から、本組成物の不揮発分の濃度が、好ましくは70~95質量%、より好ましくは80~95質量%となるような量で含まれることが望ましい。
【0072】
<エポキシ基含有反応性希釈剤>
本組成物は、より低VOC量の塗料組成物を容易に得ることができる等の点から、エポキシ基含有反応性希釈剤を含んでいてもよい。
前記エポキシ基含有反応性希釈剤としては、25℃における粘度が500mPa・s以下のエポキシ化合物であれば特に制限されず、単官能型であっても、多官能型であってもよい。
【0073】
単官能型エポキシ基含有反応性希釈剤としては、例えば、アルキルグリシジルエーテル(アルキル基の炭素数1~13)、フェニルグリシジルエーテル、o-クレシルグリシジルエーテル、アルキルフェニルグリシジルエーテル(アルキル基の炭素数1~20、好ましくは1~5、例:メチルフェニルグリシジルエーテル、エチルフェニルグリシジルエーテル、プロピルフェニルグリシジルエーテル、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル)、フェノールグリシジルエーテル、アルキルフェノールグリシジルエーテル、フェノール(EO)nグリシジルエーテル(繰り返し数n=3~20、EO:-C2H4O-)が挙げられる。
【0074】
多官能型エポキシ基含有反応性希釈剤としては、例えば、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、モノまたはポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル(アルキレン基の炭素数1~5、例:エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル)、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0075】
本組成物が前記エポキシ基含有反応性希釈剤を含有する場合には、防食性等により優れる防食塗膜が得られる等の点から、該エポキシ基含有反応性希釈剤の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
形成される塗膜の防食性等の点から、反応性希釈剤を多量に配合することは避けた方がよいが、この場合に前記課題を解決することは容易ではなかった。本発明者が鋭意検討した結果、非鱗片状アルミニウム粉(D)を用いることで、反応性希釈剤の使用量を少なくしても、前記所定の効果を得ることができた。
【0076】
<可塑剤>
本組成物は、得られる防食塗膜の柔軟性および耐侯性等を向上させる等の点から、可塑剤を含有することが好ましい。
前記可塑剤としては、従来公知のものを広く使用でき、ナフサを熱分解して得られる低沸点留分等の液状炭化水素樹脂、常温で固形の石油樹脂、キシレン樹脂、クマロンインデン樹脂等が挙げられる。具体的には、特開2006-342360号公報に記載の液状炭化水素樹脂および可撓性付与樹脂等が挙げられる。
【0077】
これらの中でも、前記エポキシ樹脂(A)との相溶性がよい等の点から、液状炭化水素樹脂、ならびに、水酸基を含有し、かつ、常温で固形状である、石油樹脂、キシレン樹脂およびクマロンインデン樹脂が好ましい。
【0078】
前記液状炭化水素樹脂の市販品としては、「ネシレス EPX-L」、「ネシレス EPX-L2」(以上、NEVCIN社製/フェノール変性炭化水素樹脂)、「HILENOL PL-1000S」(KOLONケミカル社製/液状炭化水素樹脂)等が挙げられ、常温で固形状の石油系樹脂の市販品としては、「ネオポリマー E-100」、「ネオポリマー K-2」、「ネオポリマー K3」(以上、新日本石油化学(株)製/C9系炭化水素樹脂)等が挙げられ、クマロンインデン樹脂の市販品としては、「NOVARES CA 100」(Rutgers Chemicals AG社製)等が挙げられ、キシレン樹脂の市販品としては「ニカノールY-51」(三菱ガス化学(株)製)等が挙げられる。
【0079】
本組成物が前記可塑剤を含有する場合、耐候性および耐クラック性等により優れる防食塗膜が得られる等の点から、該可塑剤の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0080】
<アクリレート化合物>
本組成物は、得られる組成物の硬化速度を向上させる等の点から、アクリレート化合物を含んでいてもよい。
前記アクリレート化合物としては、例えば、単官能または多官能の脂肪族(メタ)アクリレートモノマー、単官能または多官能の芳香族(メタ)アクリレートモノマーを用いることができる。このようなアクリレート化合物は、1種または2種以上を用いることができる。
【0081】
前記アクリレート化合物の市販品としては、「M-CURE 100」(単官能の芳香族アクリレート、官能基当量257~267g/eq)、「M-CURE 200」(二官能の芳香族アクリレート、官能基当量130~140g/eq)、「M-CURE 201」(二官能の脂肪族アクリレート、官能基当量95~105g/eq)、「M-CURE 300」(三官能の脂肪族アクリレート、官能基当量112~122g/eq)、「M-CURE 400」(四官能の脂肪族アクリレート、官能基当量80~90g/eq)(いずれも、SARTOMER COMPANY,INC製)等が挙げられる。
【0082】
本組成物が前記アクリレート化合物を含有する場合、硬化速度により優れる組成物が得られる等の点から、該アクリレート化合物の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0083】
<着色顔料>
前記着色顔料としては、前記(C)、(D)および(F)以外の顔料であれば特に制限されず、従来公知の着色顔料を使用することができる。前記着色顔料としては、具体的には、チタン白、ベンガラ、黄色ベンガラ、カーボンブラック等が挙げられる。
【0084】
本組成物が前記着色顔料を含有する場合、該着色顔料の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0085】
また、本組成物が、前記体質顔料(F)および/または着色顔料を含有する場合、防食性により優れる塗膜を得ることができる等の点から、本組成物から形成される防食塗膜中に占める、前記体質顔料(F)および着色顔料の体積濃度は、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上であり、好ましくは65%以下、より好ましくは40%以下である。
【0086】
<タレ止め・沈降防止剤>
前記タレ止め剤(沈降防止剤)としては、Al、Ca、Znのステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩などの有機粘土系ワックス、ポリエチレンワックス、アマイドワックス、水添ヒマシ油ワックス、合成微粉シリカ、酸化ポリエチレン系ワックス等、従来公知のものを使用できるが、中でも、アマイドワックス、合成微粉シリカ、酸化ポリエチレン系ワックスおよび有機粘土系ワックスが好ましい。
【0087】
このようなタレ止め剤(沈降防止剤)としては、楠本化成(株)製の「ディスパロン305」、「ディスパロン4200-20」、「ディスパロン6650」;伊藤製油(株)製の「ASAT-250F」;共栄社化学(株)製の「フローノンRCM-300」;Elementis Specialties, Inc社製の「ベントンSD-2」等の商品が挙げられる。
【0088】
本組成物が前記タレ止め剤(沈降防止剤)を含有する場合、該タレ止め剤(沈降防止剤)の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは0.3~3質量%である。
【0089】
<硬化促進剤>
本組成物は、硬化速度の調整、特に促進に寄与できる硬化促進剤を含むことが好ましい。
前記硬化促進剤としては、例えば、三級アミン類が挙げられ、具体的には、例えば、トリエタノールアミン、ジアルキルアミノエタノール、トリエチレンジアミン[1,4-ジアザビシクロ(2,2,2)オクタン]、2,4,6-トリ(ジメチルアミノメチル)フェノール(例:商品名「バーサミンEH30」(ヘンケル白水(株)製)、商品名「アンカミンK-54」(エボニックジャパン(株)製))が挙げられる。
【0090】
本組成物が前記硬化促進剤を含有する場合、該硬化促進剤の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは0.05~2.0質量%である。
【0091】
≪防食塗膜、防食塗膜付き基材≫
本発明の一実施形態に係る防食塗膜は、前記本組成物から形成されたものであれば特に制限されず、本発明の一実施形態に係る防食塗膜付き基材は、該防食塗膜と基材とを含めば特に制限されないが、基材上に前記本組成物を塗装した後、該塗装された本組成物を乾燥させること、好ましくは該塗装された本組成物を乾燥、硬化させることで得られたものであることが好ましい。この方法は、基材の防食方法ともいえる。
この防食塗膜は、耐塩水性や耐湿性などの防食性に優れ、電気防食システムを併用しても基材に対する密着性に優れる。
【0092】
前記基材としては、特に制限されないが、本発明の効果がより発揮できることなどから、防食性が求められる基材であることが好ましい。
このような基材としては、鉄鋼、非鉄金属(亜鉛、アルミニウム等)、ステンレスなどからなる基材が好ましく、これらからなる船舶、陸上構造物、橋梁等の構造物、より好ましくは船舶構造物である。
前記基材としては、本発明の効果がより発揮できることなどから、特に、亜鉛または亜鉛-アルミニウム等の陽極を設置することや外部電源方式で電気防食を施したものが好ましく、該電気防食の際の電流密度は、1~10mA/m2が好ましい。
【0093】
前記基材としては、錆、油脂、水分、塵埃、スライム、塩分などを除去するため、また、得られる防食塗膜の密着性を向上させるために、必要により前記基材表面を処理(例えば、ブラスト処理(ISO8501-1 Sa2 1/2)、摩擦法、脱脂による油分・粉塵を除去する処理)等したものでもよく、基材の防食性や、溶接性、せん断性の点から、必要により、前記基材表面に従来公知の一次防錆塗料(ショッププライマー)等の薄膜形成用塗料や、その他プライマー等を塗布し乾燥させたものでもよい。
【0094】
本組成物を基材上に塗布する方法としては特に制限されず、従来公知の方法を制限なく使用可能であるが、作業性および生産性等に優れ、大面積の基材に対しても容易に塗装でき、本発明の効果がより発揮できる等の点から、スプレー塗装が好ましい。
また、本組成物が二成分型の組成物である場合、塗装直前に、主剤成分と硬化剤成分を混合し、スプレー塗装などしてもよい。
【0095】
前記スプレー塗装の条件は、形成したい防食塗膜の厚みに応じて適宜調整すればよいが、エアレススプレー時には、例えば、1次(空気)圧:0.4~0.8MPa程度、2次(塗料)圧:10~26MPa程度、ガン移動速度50~120cm/秒程度に塗装条件を設定すればよい。
【0096】
前記防食塗膜の膜厚は、所望の用途に応じて適宜選択すればよいが、防食性に優れる塗膜となる等の点から、好ましくは100μm以上、より好ましくは250μm以上であり、好ましくは450μm以下、より好ましくは400μm以下である。
このような膜厚の防食塗膜を形成する際は、1回の塗装(1回塗り)で、所望の厚みの防食塗膜を形成してもよいし、防食性に応じ、2回(必要によりそれ以上)の塗装で、所望の厚みの防食塗膜を形成してもよい。防食性に優れる防食塗膜を作業性よく形成することができる等の点から、2回塗りで前記範囲の厚みの防食塗膜を形成することが好ましい。
【0097】
前記塗膜を乾燥、硬化させる方法としては特に制限されず、乾燥、硬化時間を短縮させるために5~60℃程度の加熱により前記塗膜を乾燥、硬化させてもよいが、通常は、常温、大気下で1~14日程度放置することで、前記塗膜を乾燥、硬化させる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらによって限定されない。
【0099】
[実施例1]
下記表1に示すように、容器に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(注1)19質量部、液状炭化水素樹脂(注6)14質量部、キシレン9質量部、n-ブタノール2質量部、1-メトキシ-2-プロパノール1質量部、シランカップリング剤1(注5)1質量部、タルク(注8)15質量部、カリ長石(注9)14質量部、チタン白(注10)6質量部、黄色弁柄(注11)1.5質量部、雲母(注12)5質量部、鱗片状アルミニウム(注14)7質量部、非鱗片状アルミニウム(注17)4質量部、およびタレ止め剤(注19)1.5質量部を入れ、そこにガラスビーズを添加し、ペイントシェーカーを用いてこれら成分を混合した。次いで、ガラスビーズを取り除き、ハイスピードディスパーを用い56~60℃で分散後、30℃以下まで冷却し、主剤成分を調製した。
【0100】
また、下記表1に示すように、ポリアミドアミン(注20)9.4質量部、変性ポリアミン(注21)4.7質量部、三級アミン(注25)0.1質量部、および1-メトキシ-2-プロパノール 0.8質量部を、ハイスピードディスパーを用いて混合することで、硬化剤成分を調製した。
【0101】
得られた主剤成分と硬化剤成分を塗装前に混合することで塗料組成物を調製した。
なお、表1に記載の各成分の詳細は表2に示すとおりである。
【0102】
[実施例2~8および比較例1~3]
主剤成分および硬化剤成分に配合する成分の種類および配合量を下記表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして塗料組成物を調製した。
【0103】
なお、表1中の「理論NV」は、用いた原料の固形分の総和(溶剤以外の成分の総和)を塗料組成物の質量で除した値(質量%)である。また、表1中の「理論VOC量」は、ASTM D5201に基づいて算出した値であり、「反応比」は、前記式(2)に基づいて算出した値である。
表1中の各成分の欄の数値は、質量部を示し、アルミニウム含有量の欄の数値は、質量%を示す。
【0104】
【0105】
【0106】
前記実施例および比較例で得られた組成物から形成した防食塗膜について、以下の試験(1)~(4)を行った。結果を表3に示す。
なお、比較例3で得られた組成物は、粘度が高く、以下の試験(1)~(4)を行うことは困難であった。比較例3で得られた組成物を用いて、以下の試験(1)~(4)を行うには、VOC量を350g/L程度まで増やす必要があった。
【0107】
(1)耐塩水性試験
防食塗膜の耐塩水性を、JIS K-5600 6-1に準拠して測定した。具体的には以下のようにして行った。
寸法が150mm×70mm×1.6mm(厚)のブラスト処理された鋼板(以下「試験板」ともいう。)上に、実施例および比較例で得られた組成物それぞれを、乾燥膜厚が約320μmとなるようにスプレー塗装し、得られた塗膜付試験板を、23℃、50%RHの雰囲気で7日間乾燥することで防食塗膜付き試験板を作成した。この防食塗膜付き試験板を用い、40℃の3%塩水中に180日間浸漬した後の防食塗膜の外観を以下の基準に従って目視評価した。
【0108】
(評価基準)
○:フクレ、割れ、サビ、はがれ、色相のいずれも変化なし。
△:フクレ、割れ、サビ、はがれ、色相のいずれかに若干の欠陥(変化)が認められる。
×:フクレ、割れ、サビ、はがれ、色相の変化のいずれかが明らかに認められる。
【0109】
(2)電気防食性試験(犠牲陽極方式)
前記耐塩水性試験と同様にして作成した防食塗膜付き試験板に、電流密度が5mA/m2以下になるよう亜鉛陽極を接続した試料を、40℃の3%塩水中に180日間浸漬した後の防食塗膜の外観を、前記耐塩水性試験と同様の評価基準に従って目視評価した。
【0110】
(3)電気防食性試験(外部電源方式)
前記耐塩水性試験と同様にして作成した防食塗膜付き試験板に、ASTM G8に準拠して、直径10.0mmの塗膜欠損(ホリディ)を作成し、23℃の人工海水に180日間浸漬した後のホリディ周辺の塗膜の剥離長さ(塗膜の剥離部分のホリディ中心からの長さ(mm)-10.0)を4方向(ホリディの0時、3時、6時、9時方向)で測定し、これら剥離幅の平均値(mm)を求めた。
【0111】
(4)耐湿性試験
防食塗膜の耐湿性を、JIS K-5600 7-2に準拠して測定した。具体的には以下のようにして行った。
前記耐塩水性試験と同様にして作成した防食塗膜付き試験板を、温度50℃、湿度95%の試験器内に180日間保持した後の防食塗膜の外観を、前記耐塩水性試験と同様の評価基準に従って目視評価した。
【0112】