(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】貼り合わせ構造物
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20220914BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220914BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20220914BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20220914BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20220914BHJP
C09J 7/25 20180101ALI20220914BHJP
【FI】
B32B27/00 M
B32B27/30 A
B32B27/40
B32B27/36 102
C09J7/38
C09J7/25
(21)【出願番号】P 2019019950
(22)【出願日】2019-02-06
【審査請求日】2021-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】高濱 瞬
(72)【発明者】
【氏名】尾上 真理子
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/142769(WO,A1)
【文献】特開2012-167163(JP,A)
【文献】特開2017-222085(JP,A)
【文献】特開2013-136731(JP,A)
【文献】特開2018-159019(JP,A)
【文献】特開2007-119562(JP,A)
【文献】国際公開第2020/162439(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の表面を構成する第一のアクリル粘着剤層と、熱硬化ポリウレタン層と、第二の表面を構成する第二のアクリル粘着剤層とをこの順に有する光学透明粘着シートと、
プラズマ処理面を有するポリカーボネート基材と、を備え、
前記第一の表面と前記プラズマ処理面とが接着されており、
前記光学透明粘着シートの厚みと前記ポリカーボネート基材の厚みとは、下記(1)、(2)、(3)又は(4)の関係を満たすことを特徴とする貼り合わせ構造物。
(1)前記光学透明粘着シートの厚みが0.3mm以上0.4mm以下、かつ前記ポリカーボネート基材の厚みが1.0mm以下
(2)前記光学透明粘着シートの厚みが0.4mmを超えて0.6mm以下、かつ前記ポリカーボネート基材の厚みが1.5mm以下
(3)前記光学透明粘着シートの厚みが0.6mmを超えて0.9mm以下、かつ前記ポリカーボネート基材の厚みが2.0mm以下
(4)前記光学透明粘着シートの厚みが0.9mmを超えて1.5mm以下、かつ前記ポリカーボネート基材の厚みが3.0mm以下
【請求項2】
前記熱硬化ポリウレタン層は、前記第一のアクリル粘着剤層及び前記第二のアクリル粘着剤層よりも厚いことを特徴とする請求項1に記載の貼り合わせ構造物。
【請求項3】
前記第一のアクリル粘着剤層の厚みは、3~100μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の貼り合わせ構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学透明粘着シートを用いて接合された貼り合わせ構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
光学透明粘着(OCA:Optically Clear Adhesive)シートは、光学部材の貼り合わせに利用される透明な粘着シートである。OCAシートの使用例としては、表示装置内において、液晶モジュール等の表示パネルと表示装置の最表面に設けられるカバーパネルとの接合に用いられることがある。OCAシートによって、表示パネルとカバーパネルとの間の空間が埋められることで、表示パネルの画面の視認性を向上することができる。
【0003】
OCAシート関連分野における先行技術を開示した文献としては、例えば、特許文献1が挙げられる。特許文献1には、第1の主表面及び第2の主表面を有し、第1の表面エネルギーを有する、第1の架橋感圧性接着剤層と、第1の主表面及び第2の主表面を有し、第2の表面エネルギーを有する、第2のシロキサン系感圧性接着剤層であって、前記第2のシロキサン系感圧性接着剤層の前記第1の主表面が、前記第1の架橋感圧性接着剤層の前記第2の主表面と接触している、第2のシロキサン系感圧性接着剤層と、配列された微細構造を含む微細構造化表面を備えた少なくとも1つの表面を有する剥離ライナーであって、前記微細構造化表面が、前記第2のシロキサン系感圧性接着剤層の前記第2の主表面と接触している剥離ライナーと、を含み、前記第1の表面エネルギーが、前記第2の表面エネルギーよりも低い、両面接着剤物品が開示されている。
【0004】
ところで、表示装置の多様化に伴い、カバーパネルとして、従来一般的であったガラスパネルよりもデザイン性、安全性(割れたときの飛散防止)及び価格面において有利な樹脂パネルの採用について、近年検討がなされている。そのため、OCAシートとして、樹脂パネルとの接合に適したものが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、表示パネルとタッチパネル本体との貼り合わせに適したOCAシートを実現するため、第一のアクリル粘着剤層、熱硬化ポリウレタン層及び第二のアクリル粘着剤層を積層した多層構造を有するOCAシートの開発を進めてきた。この多層構造を有するOCAシートは、熱硬化ポリウレタン層によって優れた柔軟性を得るとともに、第一及び第二のアクリル粘着剤層によって優れた粘着性を得ることができることから、せん断応力に対して剥離しにくい等の優れた特性を発揮することができる。
【0007】
しかしながら、この多層構造を有するOCAシートと樹脂パネルとを接合して作製した貼り合わせ構造物を信頼性試験で高温高湿環境下に投入すると、OCAシートと樹脂パネルとの接着界面に、貼り合わせ直後には存在せず後発的に生成する気泡、すなわち遅れ泡(ディレイバブル)が生じることがあった。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、高温高湿環境下における遅れ泡が防止された貼り合わせ構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の貼り合わせ構造物は、第一の表面を構成する第一のアクリル粘着剤層と、熱硬化ポリウレタン層と、第二の表面を構成する第二のアクリル粘着剤層をこの順に有する光学透明粘着シートと、プラズマ処理面を有するポリカーボネート基材と、を備え、上記第一の表面と上記プラズマ処理面とが接着されており、上記光学透明粘着シートの厚みと上記ポリカーボネート基材の厚みとは、下記(1)、(2)、(3)又は(4)の関係を満たすことを特徴とする。
(1)上記光学透明粘着シートの厚みが0.3mm以上0.4mm以下、かつ上記ポリカーボネート基材の厚みが1.0mm以下
(2)上記光学透明粘着シートの厚みが0.4mmを超えて0.6mm以下、かつ上記ポリカーボネート基材の厚みが1.5mm以下
(3)上記光学透明粘着シートの厚みが0.6mmを超えて0.9mm以下、かつ上記ポリカーボネート基材の厚みが2.0mm以下
(4)上記光学透明粘着シートの厚みが0.9mmを超えて1.5μm以下、かつ上記ポリカーボネート基材の厚みが3.0mm以下
【0010】
上記熱硬化ポリウレタン層は、上記第一のアクリル粘着剤層及び上記第二のアクリル粘着剤層よりも厚いことが好ましい。
【0011】
上記第一のアクリル粘着剤層の厚みは、3~100μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の貼り合わせ構造物によれば、高温高湿環境下における遅れ泡の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の貼り合わせ構造物が備える光学透明粘着シートの一例を模式的に示した断面図である。
【
図2】粘着力の評価方法を説明するための模式図である。
【
図3】ベゼルオン貼合構造を有する本発明の貼り合わせ構造物の構成を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の貼り合わせ構造物は、第一の表面を構成する第一のアクリル粘着剤層と、熱硬化ポリウレタン層と、第二の表面を構成する第二のアクリル粘着剤層をこの順に有する光学透明粘着シートと、プラズマ処理面を有するポリカーボネート基材と、を備え、上記第一の表面と上記プラズマ処理面とが接着されており、上記光学透明粘着シートの厚みと上記ポリカーボネート基材の厚みとは、下記(1)、(2)、(3)又は(4)の関係を満たすことを特徴とする。
(1)上記光学透明粘着シートの厚みが0.3mm以上0.4mm以下、かつ上記ポリカーボネート基材の厚みが1.0mm以下
(2)上記光学透明粘着シートの厚みが0.4mmを超えて0.6mm以下、かつ上記ポリカーボネート基材の厚みが1.5mm以下
(3)上記光学透明粘着シートの厚みが0.6mmを超えて0.9mm以下、かつ上記ポリカーボネート基材の厚みが2.0mm以下
(4)上記光学透明粘着シートの厚みが0.9mmを超えて1.5μm以下、かつ上記ポリカーボネート基材の厚みが3.0mm以下
【0015】
[光学透明粘着シート]
図1は、本発明の貼り合わせ構造物が備える光学透明粘着シートの一例を模式的に示した断面図である。
図1に示した光学透明粘着シート10は、第一の表面(粘着面)を構成する第一のアクリル粘着剤層11と、熱硬化ポリウレタン層12と、第二の表面(粘着面)を構成する第二のアクリル粘着剤層13とをこの順に有する。また、熱硬化ポリウレタン層12は、第一のアクリル粘着剤層11及び第二のアクリル粘着剤層13よりも厚いことが好ましい。このような積層構造を有することによって、被着体が樹脂パネルである場合であっても接着界面での高い粘着力と凝集力が得られ、かつ被着体の膨張や収縮に追従して変形することができる。
【0016】
<アクリル粘着剤層>
第一のアクリル粘着剤層11及び第二のアクリル粘着剤層13は、アクリル系樹脂を含有する層である。上記アクリル系樹脂は、アクリル系樹脂組成物を硬化させたものである。上記アクリル系樹脂組成物としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル系重合体、又は、これらの共重合体(以下、(メタ)アクリル系共重合体ともいう)と、架橋剤とを含有するものが挙げられる。
【0017】
上記(メタ)アクリル系共重合体としては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、カルボキシル基含有モノマーとの共重合体が挙げられる。
【0018】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が1~18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(CH2=CR1-COOR2;R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数1~18のアルキル基である)であるものが挙げられ、上記アルキル基の炭素数は4~12が好ましい。
【0019】
上記アルキル基の炭素数が1~18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデカ(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0020】
上記カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸β-カルボキシエチル、(メタ)アクリル酸5-カルボキシペンチル、コハク酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル、ω-カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等のカルボキシル基含有(メタ)アクリレート;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0021】
上記架橋剤としては、例えば、上記(メタ)アクリル系共重合体が有する、架橋性官能基含有モノマー由来の架橋性官能基と架橋反応を起こすことができる成分を用いることができ、具体的には、イソシアネート化合物、金属キレート化合物、エポキシ化合物等が挙げられる。上記架橋剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0022】
第一のアクリル粘着剤層11及び第二のアクリル粘着剤層13は、ポリウレタンを含有してもよい。上記ポリウレタンはポリウレタン組成物を硬化させたものである。上記ポリウレタン組成物としては、例えば、熱硬化性ポリウレタン組成物が挙げられる。上記熱硬化性ポリウレタン組成物としては、後述する熱硬化ポリウレタン層12に用いる熱硬化性ポリウレタン組成物と同様のものを用いることができる。
【0023】
第一のアクリル粘着剤層11及び第二のアクリル粘着剤層13は、常温(23℃)におけるガラスに対する粘着力が、5N/25mm以上であることが好ましい。なお、本明細書において、粘着力は、180°剥離試験での測定値を意味する。180°剥離試験の試験方法の詳細については後述する。上記常温における粘着力は、20N/25mm以上であることがより好ましい。上記常温における粘着力の上限は特に限定されないが、例えば、100N/25mmである。
【0024】
図2は、粘着力の評価方法を説明するための模式図である。
図2を用いて上記180°剥離試験について説明する。まず、長さ75mm×幅25mmに裁断した光学透明粘着シート10を試験片とする。この試験片の片面を長さ75mm×幅25mmのスライドガラス31に貼り付け、圧力0.4MPaで30分間保持し、光学透明粘着シート10とスライドガラス31とを貼り合わせる。次に、
図2(a)に示すように、光学透明粘着シート10のスライドガラス31とは反対側の面に、PETシート32を貼り合わせる。その後、所定の温度で、一定時間放置した後、
図2(b)に示すように、PETシート32を180°方向に引っ張り、光学透明粘着シート10をスライドガラス31との界面で剥離させ、スライドガラス31に対する光学透明粘着シート10の粘着力を測定する。上記PETシートとしては、例えば、厚み125μmのPETシート(帝人デュポンフィルム社製の「メリネックス(登録商標)S」)等を用いることができる。
【0025】
第一のアクリル粘着剤層11及び第二のアクリル粘着剤層13の厚みは、3~100μmであることが好ましい。上記厚みが3μm未満であると、遅れ泡を充分に抑制するのに充分な粘着力が得られないおそれがある。一方で、上記厚みが100μmを超えると、上記光学透明粘着シートを貼り付ける被着体の表面に存在する段差に追従して変形できる程度の柔軟性(段差追従性)が得られなくなるおそれがある。また、ガラス基材と樹脂基材との貼り合わせのように、環境変化時の伸縮性が異なる基材同士の貼り合わせに上記光学透明粘着シートを用いた場合には、上記光学透明粘着シートが環境変化時の基材の寸法変化に追従できず剥離するおそれがある。第一のアクリル粘着剤層11及び第二のアクリル粘着剤層13の厚みは、3~40μmであることがより好ましい。
【0026】
<熱硬化ポリウレタン層>
熱硬化ポリウレタン層12は、熱硬化ポリウレタンを含有する層である。熱硬化ポリウレタン層12が熱硬化ポリウレタンを含有し柔軟であるため、本発明で用いられる光学透明粘着シートは、引っ張り応力が加わったときに、良く伸び、非常に千切れにくい。このため、糊残りすることなく、引き剥がすことが可能である。また、熱硬化ポリウレタン層12が熱硬化ポリウレタンを含有するため、誘電率が高く、本発明で用いられる光学透明粘着シートは高い静電容量が得られる。このため、本発明で用いられる光学透明粘着シートは、静電容量方式のタッチパネルの貼り合わせに好適である。また、熱硬化ポリウレタンは、溶剤を用いずに成膜できるため、熱硬化ポリウレタン層12は厚膜化が可能である。
【0027】
熱硬化ポリウレタンは、アクリル変性されていないことが好ましく、主鎖中にアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等に由来する部位が含まれないことが好ましい。熱硬化ポリウレタンがアクリル変性されると、疎水化されるため、高温・高湿下において水分の凝集が生じやすくなる。この水分の凝集は、白化、発泡等を引き起こし、光学特性を損なうことがある。したがって、熱硬化ポリウレタンをアクリル変性されていないものとすることで、高温・高湿下において白化、発泡等による光学特性の低下を防止することができる。上記熱硬化ポリウレタンは、ポリオール成分に由来する単量体単位と、ポリイソシアネート成分に由来する単量体単位との合計量が、熱硬化ポリウレタン全体を構成する単量体単位の80モル%以上であることが好ましい。
【0028】
上記熱硬化性ポリウレタン組成物は、ポリオール成分及びポリイソシアネート成分を含有することが好ましい。上記ポリオール成分及び上記ポリイソシアネート成分としては、いずれも常温(23℃)で液体のものを用いることができ、溶剤を用いずに熱硬化ポリウレタンを得ることができる。タッキファイヤー等の他の成分は、ポリオール成分及びポリイソシアネート成分のいずれかに添加することができ、好ましくは、ポリオール成分に添加される。熱硬化ポリウレタン層12を作製する際には、溶剤の除去が必要ないため、均一なシートを厚く形成することができる。また、熱硬化ポリウレタン層12は厚く形成しても光学特性を維持することができるものであり、色付き、発泡(被着体との界面での気泡の発生)を充分に抑制することができる。更に、熱硬化ポリウレタン層12は、厚膜化できるとともに柔軟であることから、耐衝撃性に優れる。熱硬化ポリウレタン層12を備えた光学透明粘着シートは、透明導電膜を表層に有する透明部材とカバーパネルとの貼り合わせに用いることができ、更に他の部材を用いる場合には、表示パネル、又は、透明導電膜を表層に有する透明部材と、他の部材との貼り合わせにも用いることができる。熱硬化ポリウレタン層12を備えた光学透明粘着シートを、表示パネルと透明導電膜を表層に有する透明部材(タッチパネル)との貼り合わせに用いる場合、表示パネルの外縁上に配置されたベゼルによって形成された段差を光学透明粘着シートによって被覆することができる。
【0029】
上記ポリオール成分としては特に限定されず、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0030】
上記ポリオール成分は、オレフィン骨格を有するものが好ましい。すなわち主鎖がポリオレフィン又はその誘導体によって構成されていることが好ましい。上記オレフィン骨格を有するポリオール成分としては、例えば、1,2-ポリブタジエンポリオール、1,4-ポリブタジエンポリオール、1,2-ポリクロロプレンポリオール、1,4-ポリクロロプレンポリオール等のポリブタジエン系ポリオールや、ポリイソプレン系ポリオール、それらの二重結合を水素又はハロゲン等で飽和化したものが挙げられる。また、上記ポリオール成分は、ポリブタジエン系ポリオール等に、スチレン、エチレン、酢酸ビニル、アクリル酸エステル等のオレフィン化合物を共重合させたポリオールやその水添物であってもよい。上記ポリオール成分は、直鎖構造を有するものであってもよく、分岐構造を有するものであってもよい。上記ポリオール成分は、1種類のみ用いられてもよいし、2種類以上用いられてもよい。上記ポリウレタンに用いられるポリオール成分は、オレフィン骨格を有するポリオール成分を80モル%以上含むことが好ましく、より好ましくは、オレフィン骨格を有するポリオール成分のみからなる。
【0031】
上記ポリイソシアネート成分としては特に限定されず、従来公知のポリイソシアネートを用いることができ、親水性ユニットを有する親水性ポリイソシアネート、及び、親水性ユニットを有さない疎水性ポリイソシアネートのいずれか一方、又は、両方を用いてもよい。なお、上記親水性ユニットを有する親水性ポリイソシアネートとは、イソシアヌレート構造やビウレット構造のようにイソシアネート基に由来する構造のみによって親水性を向上させたものではなく、親水性を高める官能基(親水性ユニット)が付加されたポリイソシアネートを意味する。上記ポリイソシアネート成分中に親水性ユニットが含まれることで、吸湿による白化を抑制する作用が得られる。
【0032】
上記親水性ユニットとしては、エチレンオキシドユニットが好適である。上記エチレンオキシドユニットの含有量は、熱硬化性ポリウレタン組成物の全体に対して、0.1重量%以上、20重量%以下であることが好ましい。上記含有量が0.1重量%未満であると、白化を抑制する効果が充分に得られないおそれがある。上記含有量が20重量%を超えると、低極性のオレフィン系ポリオール成分、タッキファイヤー、可塑剤等との相溶性が低下することによって、ヘイズ等の光学特性が低下するおそれがある。上記エチレンオキシドユニットの含有量は、0.1~5重量%であることがより好ましい。上記含有量が5重量%を超えると、上記高温高湿環境での吸湿量が多くなりすぎるおそれがある。
【0033】
エチレンオキシドユニット以外の親水性ユニットとしては、例えば、カルボン酸基、カルボン酸のアルカリ金属塩基、スルホン酸基、スルホン酸のアルカリ金属塩基、ヒドロキシル基、アミド基、アミノ基等を含むユニットが挙げられる。さらに詳しくは、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸のアルカリ金属塩、スルホン酸基含有共重合体、スルホン酸基含有共重合体のアルカリ金属塩、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0034】
ポリイソシアネート成分は、イソシアネート基を有する脂肪族及び/又は脂環族ポリイソシネートと、エチレンオキシドユニットを有するエーテル化合物とを反応させて得られる変性ポリイソシアネートであることが好ましい。脂肪族及び/又は脂環族ポリイソシネートを用いることにより、着色や変色がより発生しにくく、長期に渡って光学透明粘着シートの透明性をより確実に確保することができる。また、エチレンオキシドユニットを有するエーテル化合物を反応させた変性体とすることによって、ポリイソシアネート成分は、親水性部分(エチレンオキシドユニット)の作用によって白化を抑制することができ、疎水性部分(その他のユニット)の作用によって低極性のタッキファイヤー、可塑剤等との相溶性を発揮することができる。
【0035】
熱硬化性ポリウレタン組成物は、α比(ポリオール成分由来のOH基のモル数/ポリイソシアネート成分由来のNCO基のモル数)が1以上であることが好ましい。α比が1未満である場合には、ポリイソシアネート成分の配合量が、ポリオール成分の配合量に対して過剰であるため、熱硬化ポリウレタンが硬くなり、光学透明粘着シートに要求される柔軟性を確保することが困難となることがある。熱硬化ポリウレタン層12の柔軟性が低いと、特に、タッチパネル等の光学部材を貼り合わせる場合、貼り合わせ面に存在する凹凸及び段差を被覆することができない。また、α比が1未満であると、光学透明粘着シートに要求される粘着力を確保することができないおそれがある。上記α比は、2.0未満であることが好ましい。α比が2.0以上である場合には、熱硬化性ポリウレタン組成物が充分に硬化しないことがある。
【0036】
上記熱硬化性ポリウレタン組成物は、更に、タッキファイヤー(粘着付与剤)を含有してもよい。タッキファイヤーは、粘着力を向上するために添加される添加剤であり、通常、分子量が数百~数千の無定型オリゴマーで、常温で液状又は固形の熱可塑性樹脂である。
【0037】
上記熱硬化性ポリウレタン組成物は、更に、可塑剤を含有してもよい。上記可塑剤としては、熱硬化ポリウレタンに柔軟性を付与するために用いられる化合物であれば特に限定されないが、相溶性及び耐候性の観点から、カルボン酸系可塑剤を含むことが好ましい。
【0038】
上記熱硬化性ポリウレタン組成物は、更に、触媒を含有してもよい。触媒としては、ウレタン化反応に用いられる触媒であれば特に限定されず、例えば、ジラウリル酸ジ-n-ブチル錫、ジラウリル酸ジメチル錫、ジブチル錫オキシド、オクタン錫等の有機錫化合物;有機チタン化合物;有機ジルコニウム化合物;カルボン酸錫塩;カルボン酸ビスマス塩;トリエチレンジアミン等のアミン系触媒が挙げられる。
【0039】
上記熱硬化ポリウレタンは、更に、シランカップリング剤を含有してもよい。上記シランカップリング剤は、エポキシ基又はイソシアヌレート構造を有するものが好ましく、エポキシ基又はイソシアヌレート構造を有し、かつアルコキシ基を有するものがより好ましい。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基が挙げられる。エポキシ基を有するシランカップリングモノマーとしては特に限定されず、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが挙げられる。イソシアヌレート構造を有するシランカップリングモノマーとしては特に限定されず、例えば、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートが挙げられる。
【0040】
エポキシ基又はイソシアヌレート構造を有するシランカップリング剤を用いて得られた熱硬化ポリウレタン層12は、第一のアクリル粘着剤層11及び第二のアクリル粘着剤層13に対して強固に接着する。そのため、第一のアクリル粘着剤層11と熱硬化ポリウレタン層12との界面、及び、熱硬化ポリウレタン層12と第二のアクリル粘着剤層13との界面が剥離することを効果的に防止できる。したがって、本発明の光学透明粘着シートによれば、第一のアクリル粘着剤層11及び第二のアクリル粘着剤層13を設けることによって被着体に対して高い粘着力を示すことができ、かつ剥離の際に糊残りが生じることを防止できる。
【0041】
上記シランカップリング剤の含有量は、熱硬化性ポリウレタン組成物に対して、0.2重量%以上、3重量%以下であることが好ましい。シランカップリング剤の含有量が0.2重量%未満である場合には、シランカップリング剤の添加による糊残り防止の効果を充分に得ることができないことがある。シランカップリング剤の含有量が3重量%を超える場合には、シランカップリング剤が光学透明粘着シートの表面に偏析することによって、光学透明粘着シートの粘着力が低下するおそれがある。
【0042】
上記熱硬化性ポリウレタン組成物には、光学透明粘着シートの要求特性を阻害しない範囲で、必要に応じて、着色剤、安定剤、酸化防止剤、防徽剤、難燃剤等の各種添加剤が添加されていてもよい。
【0043】
85℃における熱硬化ポリウレタン層12の貯蔵弾性率(G´85℃)は、1.0×104Pa以上、15.0×104Pa以下であることが好ましい。熱硬化ポリウレタン層12のG´85℃が1.0×104Pa未満であると、柔らかすぎるため内部発泡が発生しやすく、ヒートサイクル試験において剥離が発生しやすい。一方、熱硬化ポリウレタン層12のG´85℃が15.0×104Paを超えると、柔軟性が低下するため、充分な段差追従性が得られない。また、環境変化による伸縮性が異なる基材同士の貼り合わせに用いた場合に、基材間の寸法変化に追従できず剥離する。熱硬化ポリウレタン層12のG´85℃のより好ましい下限は2.0×104Paであり、より好ましい上限は14.0×104Paである。
【0044】
30℃における熱硬化ポリウレタン層12の貯蔵弾性率(G´30℃)は、例えば、8×104Pa以上、33×104Pa以下であってもよい。熱硬化ポリウレタン層12のG´30℃の好ましい下限は12.0×104Paであり、好ましい上限は25.0×104Paである。
【0045】
上記貯蔵弾性率は、例えば、アントンパール社(Anton Paar Germany GmbH)製の粘弾性測定装置「Physica MCR301」を用いて測定することができる。測定条件は、測定プレートとしてPP12を用い、ひずみ0.1%、周波数1Hz、セル温度25℃~100℃(昇温速度3℃/分)で測定し、目的の温度における測定値を採用することができる。
【0046】
85℃における熱硬化ポリウレタン層12の損失正接(tanδ85℃)は、例えば、0.2以上、0.8以下であってもよい。熱硬化ポリウレタン層12のtanδ85℃の好ましい下限は0.3であり、好ましい上限は0.5である。
【0047】
30℃における熱硬化ポリウレタン層12の損失正接(tanδ30℃)は、例えば、0.3以上、0.85以下であってもよい。熱硬化ポリウレタン層12のtanδ30℃の好ましい下限は0.35であり、好ましい上限は0.6である。
【0048】
上記損失正接は、上記貯蔵弾性率と同様の測定装置を用い、同様の測定条件で測定することができ、目的の温度における測定値を採用することができる。
【0049】
熱硬化ポリウレタン層12の厚みは、100~2000μmであることが好ましい。上記厚みが100μm未満である場合には、光学透明粘着シート全体の柔軟性が低下し、光学透明粘着シートの一方の面を光学部材の表面に貼り付けたときに、光学透明粘着シートによって光学部材の表面に存在する凹凸又は段差を被覆することができず、光学透明粘着シートの他方の面と他の光学部材の表面とを充分な接着力で貼り合わせることができないことがある。上記厚みが2000μmを超える場合には、ヘイズや全光線透過率等の光学特性が充分に得られないことがある。熱硬化ポリウレタン層12の厚みの、より好ましい下限は200μmであり、更に好ましい下限は250μmである。熱硬化ポリウレタン層12の厚みの、より好ましい上限は1500μmであり、更に好ましい上限は1000μmである。
【0050】
光学透明粘着シート10は、第一のアクリル粘着剤層11と熱硬化ポリウレタン層12と第二のアクリル粘着剤層13とをこの順に有していればよく、更に他の層を有してもよい。第一のアクリル粘着剤層11及び第二のアクリル粘着剤層13は、それぞれ光学透明粘着シート10の最表面(被着体と接する面)に位置すればよい。また、第一のアクリル粘着剤層11と熱硬化ポリウレタン層12とは互いに接することが好ましく、第二のアクリル粘着剤層13と熱硬化ポリウレタン層12とは互いに接することが好ましい。
【0051】
<光学透明粘着シート>
光学透明粘着シート10は、光学透明粘着シートとしての性能を確保するために、ヘイズが1%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。また、光学透明粘着シート10は、全光線透過率が90%以上であることが好ましい。ヘイズ及び全光線透過率は、例えば、日本電色工業社製の濁度計「HazeMeter NDH2000」を用いて測定することができる。ヘイズは、JIS K 7136に準拠した方法で測定され、全光線透過率は、JIS K 7361-1に準拠した方法で測定される。
【0052】
第一のアクリル粘着剤層11と、熱硬化ポリウレタン層12と、第二のアクリル粘着剤層13とをこの順に積層する方法としては特に限定されず、例えば、第一のアクリル粘着剤層11、第二のアクリル粘着剤層13及び熱硬化ポリウレタン層12を個別に作製した後、これらを貼り合わせる方法が挙げられる。
【0053】
第一のアクリル粘着剤層11及び第二のアクリル粘着剤層13の製法は特に限定されず、例えば、アクリル樹脂組成物を各種コーティング装置、バーコート、ドクターブレード等の汎用の成膜装置や成膜方法を用いるものであってもよい。また、遠心成形法を用いて第一のアクリル粘着剤層11及び第二のアクリル粘着剤層13を作製してもよい。
【0054】
熱硬化ポリウレタン層12の製法は特に限定されず、例えば、熱硬化性ポリウレタン組成物を調製した後、この組成物を従来公知の方法で熱硬化させつつ成形する方法が挙げられ、好ましくは、ポリオール成分、ポリイソシアネート成分、及び、タッキファイヤーを攪拌混合して熱硬化性ポリウレタン組成物を調製する工程と、熱硬化性ポリウレタン組成物を硬化する工程とを含む。
【0055】
製法の具体例としては、まず、所定量のタッキファイヤーを、ポリオール成分に添加し、加温及び攪拌して溶解させることによって、マスターバッチを調製する。続いて、得られたマスターバッチ、ポリオール成分、ポリイソシアネート成分、シランカップリング剤、及び、必要に応じて触媒等の他の成分を混合し、ミキサー等で攪拌することによって、液状又はゲル状の熱硬化性ポリウレタン組成物を得る。その後、即座に熱硬化性ポリウレタン組成物を成形装置に投入し、第一及び第二の離型フィルムによって挟んだ状態で熱硬化性ポリウレタン組成物を移動させながら硬化反応(架橋反応)させることで、熱硬化性ポリウレタン組成物が半硬化され、第一及び第二の離型フィルムと一体化されたシートを得る。その後、炉で一定時間架橋反応させることで、熱硬化ポリウレタン層12が得られる。
【0056】
[ポリカーボネート基材]
ポリカーボネート基材は、プラズマ処理面を有するものであれば特に限定されず、従来公知のポリカーボネートからなる板状部材の表面に、従来公知の方法でプラズマ処理を施した基材を用いることができる。プラズマ処理の処理条件としては、例えば、出力:500~1000W、処理時間:3~10分とすることができる。プラズマ処理を実施することで処理面には官能基(OH基や酸素・窒素ラジカル)が生成し、その効果により濡れ性が向上する(接触角が小さくなる)ので、粘着剤層との密着性が良くなる。したがって、光学透明粘着シートの第一の表面と接着させるポリカーボネート基材の表面にプラズマ処理を施すことによって、ポリカーボネート基材と光学透明粘着シートの接着強度を向上し、遅れ泡を生じにくくすることができる。ポリカーボネート基材は、プラズマ処理に加えて、光学透明粘着シートとの貼り合わせ前に加熱処理(例えば、60℃以上)が施されたものであってもよい。
【0057】
第一のアクリル粘着剤層11の第一の表面とポリカーボネート基材のプラズマ処理面との常温(23℃)における接着強度は、5N/25mm以上であることが好ましい。なお、本明細書において、接着強度は、180°剥離試験での測定値を意味する。上記常温における接着強度は、20N/25mm以上であることがより好ましい。上記常温における接着強度の上限は特に限定されないが、例えば、100N/25mmである。
【0058】
第一のアクリル粘着剤層11の第一の表面とポリカーボネート基材のプラズマ処理面との85℃における接着強度は、1N/25mm以上であることが好ましい。上記85℃における接着強度の上限は特に限定されないが、例えば、15N/25mmである。85℃における接着強度が15N/25mm以下であれば、光学透明粘着シートをタッチパネル等の光学部材の貼り合わせに用いた場合に、糊残りなく剥がすことができるので、リワーク性に優れる。また、接着強度が大きくなり過ぎると、光学透明粘着シートとポリカーボネート基材との間に入った気泡を抜くのが困難になることがある。上記85℃における接着強度は、4N/25mm以上であることがより好ましく、10N/25mm以上であることがより好ましい。
【0059】
[貼り合わせ構造物]
本発明の貼り合わせ構造物は、光学透明粘着シートの第一の表面にポリカーボネート基材のプラズマ処理面が接着した構成を有するものであればよい。光学透明粘着シートの第二の表面には、ガラス基材が接着されてもよいし、樹脂基材が接着されてもよい。樹脂基材を構成する樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、トリアセチルセルロース(TAC)等が挙げられる。
【0060】
上記光学透明粘着シートの厚みと上記ポリカーボネート基材の厚みとは、下記(1)、(2)、(3)又は(4)の関係を満たす。
(1)上記光学透明粘着シートの厚みが0.3mm以上0.4mm以下、かつ上記ポリカーボネート基材の厚みが1.0mm以下
(2)上記光学透明粘着シートの厚みが0.4mmを超えて0.6mm以下、かつ上記ポリカーボネート基材の厚みが1.5mm以下
(3)上記光学透明粘着シートの厚みが0.6mmを超えて0.9mm以下、かつ上記ポリカーボネート基材の厚みが2.0mm以下
(4)上記光学透明粘着シートの厚みが0.9mmを超えて1.5μm以下、かつ上記ポリカーボネート基材の厚みが3.0mm以下
【0061】
一般に、ポリカーボネートは吸湿しやすい材料であるため、ポリカーボネート基材と光学透明粘着シートとを貼り合わせた構造物を高温高湿環境下に投入すると、ポリカーボネート基材と光学透明粘着シートとの界面において気泡(遅れ泡)が発生することがあった。これに対して、本発明では、第一のアクリル粘着剤層によって構成された第一の表面にポリカーボネート基材のプラズマ処理面が接着されているので、高い接着強度を発揮し、遅れ泡の発生を抑制することができる。また、光学透明粘着シートは、ポリカーボネート基材から放出されたアウトガス(水分)を吸収する働きを示すことから、アウトガスが界面に溜まって遅れ泡が生じることを防止できる。本発明者らの検討の結果、ポリカーボネート基材の厚みに応じて、上記(1)、(2)、(3)又は(4)の関係を満たすように光学透明粘着シートの厚みを確保することにより、高温高湿環境下に長時間放置されたとしても、ポリカーボネート基材から放出されたアウトガスによる遅れ泡の発生を充分に防止できることが分かった。
【0062】
なお、ポリカーボネート基材の厚みの下限は特に限定されないが、0.5mm以上であることが好ましい。ポリカーボネート基材の厚みが0.5mm未満であると、ポリカーボネート基材から放出されるアウトガス(水分)が少ないことから、光学透明粘着シートの厚みを調整することによって得られる遅れ泡抑制の効果が比較的小さくなる。
【0063】
なお、本発明の貼り合わせ構造物が後述するベゼルオン貼合構造を有する場合のように、光学透明粘着シート10の厚みが均一でないときには、上記(1)、(2)、(3)及び(4)の関係における光学透明粘着シートの厚みは、光学透明粘着シートとポリカーボネート基材とが重畳する範囲における平均厚みを意味する。
【0064】
本発明の貼り合わせ構造物の用途は特に限定されず、液晶モジュールとカバーパネルとを光学透明粘着シートによって接合したものであってもよい。ポリカーボネート基材は、液晶モジュールの最表面の部材であってもよいし、カバーパネルであってもよい。液晶モジュールとカバーパネルとを光学透明粘着シートによって接合し、液晶モジュールとカバーパネルとの間に存在する空気層をなくすことで、液晶モジュールの視認性を向上することができる。表示部に開口が設けられた筐体(ベゼル)内に液晶モジュールが配置される場合、液晶モジュールの外縁上にベゼルが配置されることになる。そのため、ベゼルの厚みに対応する段差が形成される。液晶モジュールの中央だけでなく、ベゼルが配置された領域にも光学透明粘着シートを重ねて液晶モジュールとカバーパネルとの接合を行う方式を「ベゼルオン貼合」ともいう。ベゼルオン貼合により形成される貼り合わせ構造を「ベゼルオン貼合構造」ともいう。
【0065】
本発明で使用される光学透明粘着シートは、柔軟であり、かつ厚膜化が可能であることから、ベゼルオン貼合に適している。本発明の貼り合わせ構造物は、ベゼルオン貼合構造を有するものであってもよく、例えば、光学透明粘着シート及び支持部材を第一の基材と第二の基材との間に備える構造を有し、上記支持部材は、上記第一の基材の外縁上に配置された段差形成部を有し、上記光学透明粘着シートは、上記第一の基材と上記第二の基材とを接着する厚膜部と、上記段差形成部と上記第二の基材との間に挟み込まれた端部とを含むものであってもよい。ポリカーボネート基材は、第一の基材であってもよいし、第二の基材であってもよい。
【0066】
図3は、ベゼルオン貼合構造を有する本発明の貼り合わせ構造物の構成を模式的に示した断面図である。
図3に示した貼り合わせ構造物50は、第一の基材51及び第二の基材52との間に、光学透明粘着シート10及び上ベゼル(支持部材)41が設けられた構成を有し、例えば、表示装置等の電子機器の一部であってもよい。上ベゼル41は、下ベゼル42と一体化され、第一の基材51を収容する筐体(ベゼル)を構成する。
【0067】
貼り合わせ構造物50において、光学透明粘着シート10は、第一の基材51と第二の基材52とを接着する厚膜部と、上ベゼル41の段差形成部と第二の基材52との間に挟み込まれた端部とを含む。光学透明粘着シート10の端部は、第二の基材52と上ベゼル41の段差形成部との間に挟み込まれているため、剥がれにくい。また、光学透明粘着シート10が上ベゼル41の段差形成部まで到達していることから、第一の基材51の上面は全て、上ベゼル41の段差形成部又は光学透明粘着シート10によって被覆されており、第一の基材51の吸湿を防止できる。第一の基材51の上面に偏光板が位置する場合には、偏光板の吸湿を防止できる。偏光板が吸湿すると、性能劣化が早まったり、高温環境下で吸湿された水分が蒸発することで遅れ泡を引き起こしたりすることがある。
【0068】
第一の基材51と第二の基材52との組み合わせは特に限定されず、例えば、表示パネル、タッチパネル(ITO透明導電膜付きガラス基板)、カバーパネル(カバーガラス)等の表示装置を構成する各種部材が挙げられる。表示パネルの種類は特に限定されず、例えば、液晶パネル、有機エレクトロルミネッセンスパネル(有機ELパネル)等が挙げられる。また、表示パネルの光学透明粘着シート10が貼り付けられる面には、偏光板、位相差フィルム等が配置されていてもよい。光学透明粘着シート10を用いて表示装置内の各種部材を貼り合わせれば、表示装置内の空気層(エアギャップ)を無くすことができ、表示画面の視認性を向上することができる。また、偏光板が配置されている場合には、光学透明粘着シート10によって偏光板の吸湿を効果的に防止することができる。第一の基材51が液晶モジュール等の表示パネルであり、第二の基材52がポリカーボネート基材(カバーパネル)である組み合わせが好適である。
【0069】
上ベゼル41は、平面視したときに、光学透明粘着シート10の周囲に配置された枠状の部材であり、少なくとも一部が第一の基材51の外縁上に配置されている。第一の基材51の外縁上に配置された部分(段差形成部)の側面が段差を形成する。段差形成部の側面の形状は特に限定されず、第一の基材51の上面に対して段差形成部の側面が垂直であってもよい。第一の基材51が表示パネルである場合には、上ベゼル41が表示装置の額縁領域に配置されるが、表示装置の使用者から上ベゼル41が見えないように、第一の基材51の外縁に遮光部52Aが設けられてもよい。上ベゼル41の材質は特に限定されず、例えば、金属、樹脂等が挙げられる。
【0070】
上ベゼル41の厚み(段差の大きさ)は特に限定されないが、例えば、200~1000μmとされる。上ベゼル41の厚みが200μmを超えると、光学透明粘着シート10の厚みを300μm(0.3mm)以上にすることが必要となるため、通常の光学透明粘着シートよりも厚い光学透明粘着シートが用いられる。
【0071】
光学透明粘着シート10の厚膜部の厚みは、上ベゼル41の段差形成部の厚みの1.5倍以上であり、2倍以上であることがより好ましい。これにより、上ベゼル41の段差形成部と第二の基材52との間に挟み込まれた光学透明粘着シート10の端部において充分な厚みを確保することができ、端部の剥離を防止できる。なお、貼り合わせ構造物50における光学透明粘着シート10の厚膜部の厚みは、光学透明粘着シート10の貼り合わせ前の厚みと実質的に同じである。すなわち、光学透明粘着シート10の貼り合わせ前の厚みは、上ベゼル41の厚みの1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましい。
【実施例】
【0072】
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
まず、ポリオレフィンポリオール(出光興産社製の「EPOL(エポール、登録商標)」)75重量部、IPDI(イソホロンジイソシアネート)系ポリイソシアネート(住化バイエルウレタン社製の「デスモジュールI」)2.4重量部、エチレンオキシドユニットを含む変性ポリイソシアネート(東ソー社製の「コロネート4022」)4.6重量部、タッキファイヤー(出光興産社製の「アイマーブP-100」)17重量部、及び、触媒(ジラウリル酸ジメチル錫)1重量部を、往復回転式撹拌機アジターを用いて攪拌混合し、α比が1.60である熱硬化性ポリウレタン組成物を調製した。なお、熱硬化性ポリウレタン組成物において、IPDI系ポリイソシアネート(A)と変性ポリイソシアネート(B)との混合比(モル比)は、A:B=2:1であった。
【0074】
なお、東ソー社製の「コロネート4022」は、ヘキサメチレンジイソシアネート及び/又はヘキサメチレンジイソシアネートモノマーを出発物質とするポリイソシアネートに対して、エチレンオキシドユニットを1分子当たり平均3個以上有するエーテルポリオールを反応させて得られたものである。
【0075】
その後、得られた熱硬化性ポリウレタン組成物を一対の離型フィルム(表面に離型処理が施されたPETフィルム)によって挟んだ状態で搬送しつつ、炉内温度50~90℃、炉内時間数分間の条件で架橋硬化させ、離型フィルム付きのシートを得た。その後、加熱装置で10~15時間架橋反応させ、両面に離型フィルムが設けられた、熱硬化ポリウレタン層を作製した。熱硬化ポリウレタン層の厚みは250μmであった。
【0076】
アントンパール社(Anton Paar Germany GmbH)製の粘弾性測定装置「Physica MCR301」を用いて、熱硬化ポリウレタン層の損失正接(tanδ)を測定した。測定プレートは、PP12を用い、測定条件は、ひずみ0.1%、周波数1Hz、セル温度25℃~100℃(昇温速度3℃/分)とした。30℃における損失正接の測定値は、0.35であった。
【0077】
その一方で、アクリル系樹脂(綜研化学社製の「SK1838」)99.85重量部に、エポキシ系硬化剤(綜研化学社製の「E-AX」)0.15重量部を添加し、アクリル系樹脂組成物を作製した。得られたアクリル系樹脂組成物を離型フィルムにコンマコーターにて塗工し、80~120℃の乾燥炉において乾燥した後、塗工面に離型フィルムを重ねた。その後、40℃で1週間加熱することにより硬化を完了させ、アクリル粘着剤層を作製した。アクリル粘着剤層の厚みは25μmであった。
【0078】
その後、上記離型フィルム付きアクリル粘着剤層を二枚と、上記離型フィルム付き熱硬化ポリウレタン層を一枚とを準備した。一枚目の離型フィルム付きアクリル粘着剤層から一方の離型フィルムを剥離し、一枚目のアクリル粘着剤層の上記離型フィルムを剥離した面に熱硬化ポリウレタン層を積層した。更に、二枚目の離型フィルム付きアクリル粘着剤層から一方の離型フィルムを剥離し、上記熱硬化ポリウレタン層の上記一枚目のアクリル粘着剤層(第一のアクリル粘着剤層)を積層した面と反対側の面に、二枚目のアクリル粘着剤層(第二のアクリル粘着剤層)を積層した。これにより、離型フィルム、第一のアクリル粘着剤層、熱硬化ポリウレタン層、第二のアクリル粘着剤層及び離型フィルムがこの順で積層された積層シートを作製した。第一のアクリル粘着剤層、熱硬化ポリウレタン層及び第二のアクリル粘着剤層からなる光学透明粘着シートの厚みは0.3mmであった。
【0079】
透明なガラス基材(松波硝子工業社製のソーダガラス)に、離型フィルムを剥離した光学透明粘着シートの一方の面を押し圧0.15MPaで真空貼合し、離型フィルムを剥離した光学透明粘着シートの他方の面に、厚さ0.5mmのポリカーボネート基材(ミスミグループ本社製の「樹脂シートPCTSH」)を押し圧0.15MPaで真空貼合した。ポリカーボネート基材は、60℃のオーブン内で24時間乾燥した後、プラズマ処理を行ってプラズマ処理面を形成したものを用いた。この貼合により、ポリカーボネート基材とガラス基材とを光学透明粘着シートによって接合した貼り合わせ構造物が得られた。
【0080】
(実施例2~19及び比較例1~6)
下記表1に示すように、光学透明粘着シート(OCA)の厚み及びポリカーボネート基材の厚みを変更したことを除いて、実施例1と同様にして、実施例2~19及び比較例1~6に係る貼り合わせ構造物をそれぞれ作製した。
【0081】
光学透明粘着シートの厚みは、熱硬化ポリウレタン層の厚みを変更することによって調整し、第一のアクリル粘着剤層及び第二のアクリル粘着剤層の厚みは、すべての実施例及び比較例において25μmにした。
【0082】
実施例及び比較例で使用したポリカーボネート基材としては以下の通りである。
厚さ0.5mm:ミスミグループ本社製の「樹脂シートPCTSH」
厚さ1.0mm:ミスミグループ本社製の「樹脂シートPCTSH」
厚さ1.5mm:帝人社製の「PC1151」
厚さ2.0mm:タキロンシーアイ社製の「PC1600」
厚さ3.0mm:タキロンシーアイ社製の「PC1600」
【0083】
【0084】
上記表1に示したように、実施例1及び6は下記条件(1)を満たし、実施例2、7及び11は下記条件(2)を満たし、実施例3、8、12、15は下記条件(3)を満たし、実施例4、5、9、10、13、14、16、17、18、19は下記条件(4)を満たしている。
(1)上記光学透明粘着シートの厚みが0.3mm以上0.4mm以下、かつ上記ポリカーボネート基材の厚みが1.0mm以下
(2)上記光学透明粘着シートの厚みが0.4mmを超えて0.6mm以下、かつ上記ポリカーボネート基材の厚みが1.5mm以下
(3)上記光学透明粘着シートの厚みが0.6mmを超えて0.9mm以下、かつ上記ポリカーボネート基材の厚みが2.0mm以下
(4)上記光学透明粘着シートの厚みが0.9mmを超えて1.5μm以下、かつ上記ポリカーボネート基材の厚みが3.0mm以下
【0085】
(評価試験)
実施例及び比較例で作製した貼り合わせ構造物の各々について、矩形の試験体(対角線の長さ:7インチ)を2つずつ用意した。各試験体は、85℃85%の高温高湿環境下に24時間放置した。放置後の試験体を目視で観察し、ガラス基材と光学透明粘着シートの接着界面、及び、ポリカーボネート基材と光学透明粘着シートの接着界面に、気泡(遅れ泡)が生じているか否かを確認した。
【0086】
下記表2に評価試験の結果を示す。表2において、遅れ泡が発生していなかった条件には「〇」を記載し、遅れ泡が発生していた条件には「×」を記載した。
【0087】
【0088】
上記表2から分かるように、上記条件(1)、(2)、(3)又は(4)を満たす実施例1~19に係る貼り合わせ構造物は、85℃85%の高温高湿環境下に24時間放置されても遅れ泡が発生しなかった。
【符号の説明】
【0089】
10:光学透明粘着シート
11:第一のアクリル粘着剤層
12:熱硬化ポリウレタン層
13:第二のアクリル粘着剤層
31:スライドガラス
32:PETシート
41:上ベゼル(支持部材)
42:下ベゼル
50:貼り合わせ構造物
51:第一の基材
52:第二の基材
52A:遮光部