(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】手動変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 63/32 20060101AFI20220914BHJP
F16H 3/091 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
F16H63/32
F16H3/091
(21)【出願番号】P 2019029091
(22)【出願日】2019-02-21
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100122770
【氏名又は名称】上田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 旭
(72)【発明者】
【氏名】山本 宇紘
(72)【発明者】
【氏名】和田 幸生
(72)【発明者】
【氏名】黒田 恭亮
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 朋宏
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-6954(JP,A)
【文献】実公昭50-026833(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 63/32
F16H 3/091
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの駆動力が入力されるインプットシャフトと、
前記インプットシャフトと同軸上に配置され、外周面に、周方向に沿って、全周にわたって切り欠きが形成されたアウトプットシャフトと、
前記インプットシャフト及び前記アウトプットシャフトと平行に配設され、前記インプットシャフト又は前記アウトプットシャフトに軸方向に沿って設けられた複数のギヤと噛み合い複数のギヤ段を構成する複数のギヤが軸方向に沿って設けられているカウンタシャフトと、
シフトレバーと連動され、シフト操作に応じて、前記複数のギヤ段の中から、前記シフトレバーの位置に対応したギヤ段を選択するように動くシフトロッドと、
前記シフトロッドに取り付けられ、前記シフトレバーがニュートラル位置にあるときに、前記アウトプットシャフトの外周面に形成された切り欠きに嵌まり、該切り欠きの前記インプットシャフト側の面と当接し、前記アウトプットシャフトを前記インプットシャフト側に押圧して、前記アウトプットシャフトの先端面を前記インプットシャフトの後端面に当接させる押圧部材と、を備えることを特徴とする手動変速機。
【請求項2】
前記押圧部材は、円弧状に形成された先端部と、該先端部と前記シフトロッドとの間に、前記押圧部材の軸方向に伸縮自在に設けられた弾性部材とを有することを特徴とする請求項1に記載の手動変速機。
【請求項3】
前記アウトプットシャフトの外周面に形成された切り欠きは、軸方向に沿った断面が円弧状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の手動変速機。
【請求項4】
前記アウトプットシャフトの外周面に形成された切り欠きの円弧の径は、前記押圧部材の先端部の円弧の径よりも大きいことを特徴とする請求項3に記載の手動変速機。
【請求項5】
前記押圧部材は、テーパ状に形成された先端部と、該先端部と前記シフトロッドとの間に、前記押圧部材の軸方向に伸縮自在に設けられた弾性部材とを有することを特徴とする請求項1に記載の手動変速機。
【請求項6】
前記アウトプットシャフトの外周面に形成された切り欠きは、軸方向に沿った断面がコ字状に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の手動変速機。
【請求項7】
前記押圧部材は、軸が、前記シフトロッドの軸及び前記アウトプットシャフトの軸それぞれと略直交するように、前記シフトロッドに取り付けられていることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の手動変速機。
【請求項8】
前記シフトレバーがニュートラル位置以外の位置にあるときには、前記押圧部材が、前記アウトプットシャフトの外周面に形成された切り欠きから外れることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の手動変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される手動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両に搭載される変速機として、シフトレバーのシフト操作によって、複数のギヤ段(変速段)の中から所望のギヤ段を選択して切換える手動変速機が広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の手動変速機は、主として、クラッチを介してエンジン駆動力(トルク)が入力されるインプットシャフトと、インプットシャフトと平行に配設され、インプットシャフトとリダクションギヤを介して接続され、複数のギヤが軸方向に設けられたカウンタシャフトと、インプットシャフトと同軸上に配置され、カウンタシャフトに設けられた複数のギヤと噛み合い複数のギヤ段(変速ギヤ列)を構成する複数のギヤが軸方向に設けられたアウトプットシャフトと、複数のギヤ段それぞれを動力伝達状態又は中立状態(遮断状態)に切り換えるシンクロメッシュ機構の噛合いクラッチ(ドグクラッチ)とを備えている。そして、運転者のシフトレバー操作に応じて噛合いクラッチが作動し、複数のギヤ段の中から、シフトレバーの位置に対応したギヤ段が選択される(すなわち変速される)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、手動変速機を搭載した車両において、停車時に、ニュートラルレンジでクラッチが締結された状態からクラッチが解放された直後(すなわち、シフトレバーがニュートラル位置にあり、クラッチペダルの踏み込みが解除された状態からクラッチペダルが踏み込まれた直後)に、シフトレバーがニュートラル位置から例えば1速位置に操作されると、異音や振動が発生することがあった。そのため、このような異音や振動の発生を防止したいという要望があった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、手動変速機を搭載した車両において、停車時に、ニュートラルレンジでクラッチが締結された状態からクラッチが解放された直後(すなわち、シフトレバーがニュートラル位置にあり、クラッチペダルの踏み込みが解除された状態からクラッチペダルが踏み込まれた直後)に、シフトレバーがニュートラル位置から例えば1速位置に操作されたときに発生し得る異音や振動の発生を防止することが可能な手動変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者達は、上記の問題点につき鋭意検討を重ねた結果、次のような知見を得た。すなわち、停車時に、ニュートラルレンジでクラッチが締結された状態(シフトレバーがニュートラル位置にあり、クラッチペダルの踏み込みが解除された状態)では、インプットシャフトが連れ回っている(回転している)。そのため、クラッチが解放された直後(クラッチペダルが踏み込まれた直後)は、インプットシャフトが惰性で回転している。よって、クラッチが解放された直後(クラッチペダルが踏み込まれた直後)に、シフトレバーがニュートラル位置から例えば1速位置に操作されると、インプットシャフトが惰性で回転しているため、シンクロが噛み合うときに、アウトプットシャフトの下流側に存在する、例えば、プロペラシャフトやドライブシャフトなどのスプラインのガタ、及び、リヤデフなどのバックラッシュが急激に詰まり、例えば「ドスン」といった異音や振動が発生するとの知見を得た。
【0008】
そこで、本発明に係る自動変速機は、エンジンからの駆動力が入力されるインプットシャフトと、インプットシャフトと同軸上に配置され、外周面に、周方向に沿って、全周にわたって切り欠きが形成されたアウトプットシャフトと、インプットシャフト及びアウトプットシャフトと平行に配設され、インプットシャフト又はアウトプットシャフトに軸方向に沿って設けられた複数のギヤと噛み合い複数のギヤ段を構成する複数のギヤが軸方向に沿って設けられているカウンタシャフトと、シフトレバーと連動され、シフト操作に応じて、複数のギヤ段の中から、シフトレバーの位置に対応したギヤ段を選択するように動くシフトロッドと、シフトロッドに取り付けられ、シフトレバーがニュートラル位置にあるときに、アウトプットシャフトの外周面に形成された切り欠きに嵌まり、該切り欠きのインプットシャフト側の面と当接し、アウトプットシャフトをインプットシャフト側に押圧して、アウトプットシャフトの先端面をインプットシャフトの後端面に当接させる押圧部材とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る自動変速機によれば、アウトプットシャフトの外周面に、周方向に沿って、全周にわたって切り欠きが形成されるとともに、シフトロッドには、シフトレバーがニュートラル位置にあるときに、アウトプットシャフトの外周面に形成された切り欠きに嵌まり、該切り欠きのインプットシャフト側の面と当接し、アウトプットシャフトをインプットシャフト側に押圧して、アウトプットシャフトの先端面をインプットシャフトの後端面に当接させる押圧部材が取り付けられている。そのため、ニュートラル時に、アウトプットシャフトがインプットシャフト側に押されて、アウトプットシャフトの先端面がインプットシャフトの後端面に押し当てられることにより、インプットシャフトからアウトプットシャフトに微小なトルクが伝達されて、アウトプットシャフトの下流側に存在し得るスプラインのガタやギヤのバックラッシュなどが予め詰められる。その結果、停車時に、ニュートラルレンジでクラッチが締結された状態からクラッチが解放された直後(すなわち、シフトレバーがニュートラル位置にあり、クラッチペダルの踏み込みが解除された状態からクラッチペダルが踏み込まれた直後)に、シフトレバーがニュートラル位置から例えば1速位置に操作されたときに発生し得る異音や振動の発生を防止することが可能となる。また、切り欠きがアウトプットシャフトの外周面に、周方向に沿って、全周にわたって形成されているため、アウトプットシャフトがどのような回転位置で止まっていても、押圧部材を切り欠きに嵌めること(すなわち、アウトプットシャフトを押すこと)ができる。
【0010】
本発明に係る自動変速機では、押圧部材が、円弧状に形成された先端部と、該先端部とシフトロッドとの間に、押圧部材の軸方向に伸縮自在に設けられた弾性部材とを有することが好ましい。
【0011】
このようにすれば、押圧部材が切り欠きに嵌まる際には、押圧部材が伸長することにより、押圧部材の先端部が押し出され、押圧部材を切り欠きに確実に嵌めることができる。一方、押圧部材を切り欠きから抜く際には、押圧部材が圧縮されることにより、押圧部材の先端部が引っ込み、操作力(抜く際に要求される力)を下げることができる。
【0012】
また、本発明に係る自動変速機では、アウトプットシャフトの外周面に形成された切り欠きが、軸方向に沿った断面が円弧状に形成されていることが好ましい。このようにすれば、押圧力を確保しつつ、かつ、シフトレバーの操作力(特に、押圧部材を切り欠きから抜くときに要する力)を低減することができる。すなわち、背反する押圧力と操作力とを両立させることができる。
【0013】
さらに、本発明に係る自動変速機では、アウトプットシャフトの外周面に形成された切り欠きの円弧の径が、押圧部材の先端部の円弧の径よりも大きいことが好ましい。このようにすれば、押圧部材の先端部をアウトプットシャフトの切り欠きのインプットシャフト側の面のみに当接させることができ、より確実に、アウトプットシャフトを、インプットシャフト側に押圧することができる。
【0014】
一方、本発明に係る自動変速機では、押圧部材が、テーパ状に形成された先端部と、該先端部とシフトロッドとの間に、押圧部材の軸方向に伸縮自在に設けられた弾性部材とを有する構成とすることも好ましい。
【0015】
その際に、本発明に係る自動変速機では、アウトプットシャフトの外周面に形成された切り欠きが、軸方向に沿った断面がコ字状に形成されていることが好ましい。
【0016】
このような構成とした場合も、押圧部材が切り欠きに嵌まる際には、押圧部材が伸長することにより、押圧部材の先端部が押し出され、押圧部材を切り欠きに確実に嵌めることができる。一方、押圧部材を切り欠きから抜く際には、押圧部材が圧縮されることにより、押圧部材の先端部が引っ込み、操作力(抜く際に要求される力)を下げることができる。そして、押圧力を確保しつつ、かつ、シフトレバーの操作力(特に、押圧部材を切り欠きから抜くときに要する力)を低減することができる。すなわち、背反する押圧力と操作力とを両立させることができる。
【0017】
なお、本発明に係る自動変速機では、押圧部材の軸が、シフトロッドの軸及びアウトプットシャフトの軸それぞれと略直交するように、押圧部材がシフトロッドに取り付けられていることが好ましい。このようにすれば、押圧部材を切り欠きに確実に嵌めることができる。
【0018】
また、本発明に係る自動変速機は、ニュートラル以外の変速段では、押圧部材が、アウトプットシャフトの外周面に形成された切り欠きから外れることが好ましい。このようにすれば、ニュートラル以外では(すなわち走行時には)、インプットシャフトとアウトプットシャフトとが接触することによるフリクションの発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、手動変速機を搭載した車両において、停車時に、ニュートラルレンジでクラッチが締結された状態からクラッチが解放された直後(すなわち、シフトレバーがニュートラル位置にあり、クラッチペダルの踏み込みが解除された状態からクラッチペダルが踏み込まれた直後)に、シフトレバーがニュートラル位置から例えば1速位置に操作されたときに発生し得る異音や振動の発生を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態に係る手動変速機の全体構成を示す断面図である。
【
図2】実施形態に係る手動変速機が備える押圧機構(押圧部材及びアウトプットシャフトの切り欠き)のニュートラル時における位置関係を示す図(
図1中の枠で囲んだ部分を拡大して示す図)である。
【
図3】変形例に係る手動変速機が備える押圧機構(押圧部材及びアウトプットシャフトの切り欠き)のニュートラル時における位置関係を示す図である。
【
図4】6段変速機のシフトパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0022】
まず、
図1及び
図2を併せて用いて、実施形態に係る手動変速機1の構成について説明する。
図1は、手動変速機1の全体構成を示す断面図である。
図2は、手動変速機1が備える押圧機構(押圧部材61及びアウトプットシャフト40の切り欠き40a)のニュートラル時における位置関係を示す図(
図1中の枠で囲んだ部分を拡大して示す図)である。なお、本実施形態では、手動変速機1として、インプットシャフト20とカウンタシャフト30との間にリダクションギヤ35A,35Bが設けられたインプット・リダクションギヤ・タイプのものを例にして説明する。
【0023】
手動変速機1は、乾式クラッチ10を介してエンジンからの駆動力(トルク)が入力されるインプットシャフト20と、インプットシャフト20と平行に配設され、インプットシャフト20とリダクションギヤ35A,35Bを介して接続され、複数のギヤ37A,34A,33A,32A,31A,36Aが軸方向に沿って設けられているカウンタシャフト30と、インプットシャフト20と同軸上に、インプットシャフト20の後端面とクリアランスを介して配置され、カウンタシャフト30に設けられた複数のギヤ37A,34A,33A,32A,31A,36Aそれぞれと噛み合う複数のギヤ37B,34B,33B,32B,31B,36Bが軸方向に沿って設けられているアウトプットシャフト40とを備えている。
【0024】
インプットシャフト20とアウトプットシャフト40とは、ベアリング21を介して相互に回転自在に構成されている。また、アウトプットシャフト40は、ベアリング21及びベアリング22によって、径方向には移動不能に、軸方向には、インプットシャフト20の後端面との間のクリアランスを詰めることができる程度に移動可能に、かつ、回動可能に軸支されている。さらに、アウトプットシャフト40には、外周面に、周方向に沿って、全周にわたって切り欠き(溝)40aが形成されている。
【0025】
ここで、アウトプットシャフト40の外周面に形成された切り欠き40aは、軸方向に沿った断面が円弧状に形成されている。また、アウトプットシャフト40の外周面に形成された切り欠き40aの円弧の径は、後述する押圧部材61の先端部61cの円弧の径よりも大きく形成されている。なお、切り欠き40aの円弧の傾斜角は、例えば、押圧部材61がアウトプットシャフト40をインプットシャフト20側に押すことができ(すなわち、クリアランスを詰めることができ)、かつ、切り欠き40aから押圧部材61を抜くときの操作力が過大にならないように考慮して設定される。
【0026】
カウンタシャフト30には第1速、第2速の駆動ギヤ31A,32A、及び、後退用の駆動ギヤ37Aが固定されており、第3速、第4速の駆動ギヤ33A,34A、及び、第6速の駆動ギヤ36Aが回転自在に取り付けられている。一方、アウトプットシャフト40には第1速、第2速の従動ギヤ31B,32B、及び、後退用の従動ギヤ37Bが回転自在に取り付けられており、第3速、第4速、第6速の従動ギヤ33B,34B,36Bが固定されている。これらの駆動ギヤ31A,32A,33A,34A,36Aと従動ギヤ31B,32B,33B,34B,36Bとはそれぞれに噛み合って前進用の変速ギヤ列すなわち変速段を形成する。なお、手動変速機1は、5速直結タイプであり、第5速の変速段を有していない。
【0027】
アウトプットシャフト40には、第1速と第2速の変速段を動力伝達状態と中立状態とに切り換える切換機構41、及び、第5速(直結)と後退用の変速段を動力伝達状態と中立状態とに切り換える切換機構43が装着されている。また、カウンタシャフト30には、第3速と第4速の変速段を動力伝達状態と中立状態とに切り換える切換機構42と、第6速の変速段を動力伝達状態と中立状態とに切り換える切換機構44とが装着されている。これらの切換機構41~44はシンクロメッシュ機構となっている。
【0028】
切換機構41は、第1速と第2速の2つの従動ギヤ31B,32Bの間に配置されるとともにアウトプットシャフト40に固定されるシンクロハブ41aと、これに常時噛み合うシンクロスリーブ41bとを有している。このシンクロスリーブ41bを従動ギヤ31Bに一体形成されたスプライン31Cに噛み合わせると第1速に設定され、逆に従動ギヤ32Bに一体形成されたスプライン32Cに噛み合わせると第2速に設定される。同様に、切換機構43は、第5速(直結用)のギヤ35Aと後退用の従動ギヤ37Bの間に配置されるとともにアウトプットシャフト40に固定されるシンクロハブ43aと、これに常時噛み合うシンクロスリーブ43bとを有している。このシンクロスリーブ43bをギヤ35Aに一体形成されたスプライン35Cに噛み合わせると第5速(直結)に設定され、逆に従動ギヤ37Bに一体形成されたスプライン37Cに噛み合わせると後退(リバース)に設定される。
【0029】
また、他の切換機構42,44も切換機構41と同様の構造を備えており、カウンタシャフト30に固定されるシンクロハブ42a,44aと、シンクロハブ42a,44aのそれぞれに常時噛み合うシンクロスリーブ42b,44bとを有している。これらのシンクロスリーブ42b,44bを駆動ギヤ33A,34A,36Aのそれぞれに一体形成されたスプライン33C,34C,36Cに噛み合わせることにより、変速段は第3速、第4速、第6速のいずれかに設定される。なお、各シンクロスリーブ41b~44bと各スプライン31C~37Cとの間には、双方の回転を同期させるシンクロ機構が設けられている。
【0030】
切換機構41~44を作動させるため、それぞれのシンクロスリーブ41b~44bはシフトフォーク41d~44dに把持されており、シフトフォーク41d~44dの移動に伴ってシンクロスリーブ41b~44bは軸方向に移動する。シフトフォーク41d~44dと車室内のシフトレバー(シフタアーム)70(
図4参照)とは、シフトロッド50を介して連結されており、シフトレバー70の手動操作に伴うシンクロスリーブ41b~44bの移動により所望の変速段が動力伝達状態に切り換えられる。すなわち、シフトロッド50は、シフトレバー70と連動され、シフト操作に応じて(すなわち、シフトレバー70のセレクト方向(X方向)/シフト方向(Y方向)への移動に追従して)、複数のギヤ段の中から、シフトレバー70の位置に対応したギヤ段を選択するように動く。
【0031】
シフトロッド50はアウトプットシャフト40と平行に配設されている。シフトロッド50には、円弧状の先端部61cを有する円柱状の押圧部材61が突設されている。押圧部材61は、その軸が、シフトロッド50の軸及びアウトプットシャフト40の軸それぞれと略直交するように、シフトロッド50に取り付けられている。
【0032】
押圧部材61は、円弧状に形成された先端部61c(例えば球体)と、円筒状の本体部(シリンダ)61aと、本体部61aの内部に収容されたコイルスプリング61b(特許請求の範囲に記載の弾性部材に相当)とを有している。コイルスプリング61bは、先端部61cと本体部61aの底部(すなわちシフトロッド50)との間に、伸縮自在に配設されている。押圧部材61としては、例えば、ボールプランジャやピンプランジャなどのプランジャを好適に用いることができる。押圧部材(プランジャ)61は、ニュートラル位置では、コイルスプリング61bが伸長して先端部61cが押し出され(初期状態)、ニュートラル位置以外の位置では、コイルスプリング61bが圧縮されて先端部61cが本体内部に押し込まれる。
【0033】
よって、押圧部材61は、
図2に示されるように、シフトレバー70(シフトロッド50)がニュートラル位置にあるときに、アウトプットシャフト40の外周面に形成された切り欠き40aに嵌まり、該切り欠き40aのインプットシャフト20側の面と当接し、アウトプットシャフト40をインプットシャフト20側に押圧(与圧)して、アウトプットシャフト40の先端面をインプットシャフト20の後端面に当接(又は摺接)させる。
【0034】
なお、押圧部材61は、シフトレバー70(シフトロッド50)がニュートラル位置以外の位置にあるときには、アウトプットシャフト40の外周面に形成された切り欠き40aから外れる。より具体的には、
図2に示されるように、押圧部材61は、1速、3速、5速のときには、ニュートラル位置に対して右側に移動し、2速、4速、6速のときには、ニュートラル位置に対して左側に移動する。
【0035】
次に、手動変速機1の押圧機構(押圧部材61及び切り欠き40a)の動作について説明する。上述したように構成されることにより、すなわち、アウトプットシャフト40の外周面に、周方向に沿って、全周にわたって切り欠き40aが形成されるとともに、シフトロッド50に、シフトレバー70がニュートラル位置にあるときに、アウトプットシャフト40の外周面に形成された切り欠き40aに嵌まり、該切り欠き40aのインプットシャフト20側の面と当接し、アウトプットシャフト40をインプットシャフト20側に押圧(与圧)して、アウトプットシャフト40の先端面をインプットシャフト20の後端面に当接させる押圧部材61が取り付けられていることにより、
図2に示されるように、シフトレバー70がニュートラル位置に操作されたときに、アウトプットシャフト40がインプットシャフト20側に押されて、アウトプットシャフト40の先端面がインプットシャフト20の後端面に押し当てられるため、インプットシャフト20からアウトプットシャフト40に微小なトルクが伝達されて、アウトプットシャフト40の下流側に存在し得るスプラインのガタやギヤのバックラッシュなどが予め詰められる。
【0036】
一方、ニュートラル位置から奇数段(1,3,5速段)側にシフトレバー70が操作されると、シフトロッド50、すなわち押圧部材61が、ニュートラル位置に対して図面右側に移動し、アウトプットシャフト40の外周面に形成された切り欠き40aから外れる。そのため、アウトプットシャフト40の先端面とインプットシャフト20の後端面とが離れる。同様に、ニュートラル位置から偶数段(2,4,6速段)側にシフトレバー70が操作されると、シフトロッド50、すなわち押圧部材61が、ニュートラル位置に対して図面左側に移動し、アウトプットシャフト40の外周面に形成された切り欠き40aから外れる。そのため、アウトプットシャフト40の先端面とインプットシャフト20の後端面とが離れる。
【0037】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、停車時に、ニュートラルレンジでクラッチ10が締結された状態からクラッチ10が解放された直後(すなわち、シフトレバー70がニュートラル位置にあり、クラッチペダルの踏み込みが解除された状態からクラッチペダルが踏み込まれた直後)に、シフトレバー70がニュートラル位置から例えば1速位置に操作されたときに発生し得る異音や振動の発生を防止することが可能となる。また、切り欠き40aがアウトプットシャフト40の外周面に、周方向に沿って、全周にわたって形成されているため、アウトプットシャフト40がどのような回転位置で止まっていても、押圧部材61を切り欠き40aに嵌めること(すなわち、アウトプットシャフト40を押すこと)ができる。
【0038】
本実施形態によれば、押圧部材61が、円弧状に形成された先端部61cと、該先端部61cとシフトロッド50との間に、軸方向に伸縮自在に設けられたコイルスプリング61bとを有している。そのため、押圧部材61が切り欠き40aに嵌まる際には、コイルスプリング61bが伸長することにより、押圧部材61の先端部61cが押し出され、押圧部材61を切り欠き40aに確実に嵌めることができる。一方、押圧部材61を切り欠き40aから抜く際には、コイルスプリング61bが圧縮されることにより、押圧部材61の先端部61cが引っ込み、操作力(抜く際に要求される力)を下げることができる。
【0039】
また、本実施形態では、アウトプットシャフト40の外周面に形成された切り欠き40aが、軸方向に沿った断面が円弧状に形成されている。そのため、押圧力を確保しつつ、かつ、シフトレバー70の操作力(特に、押圧部材61を切り欠き40aから抜くときに要する力)を低減することができる。すなわち、背反する押圧力と操作力とを両立させることができる。
【0040】
さらに、本実施形態によれば、アウトプットシャフト40の外周面に形成された切り欠き40aの円弧の径が、押圧部材61の先端部61cの円弧の径よりも大きく設定されている。そのため、押圧部材61の先端部61cをアウトプットシャフト40の切り欠き40aのインプットシャフト20側の面のみに当接させることができ、より確実に、アウトプットシャフト40を、インプットシャフト20側に押圧することができる。
【0041】
なお、本実施形態によれば、ニュートラル以外の変速段では、押圧部材61が、アウトプットシャフト40の外周面に形成された切り欠き40aから外れるため、ニュートラル以外では(すなわち走行時には)、インプットシャフト20とアウトプットシャフト40とが接触することによるフリクションの発生を防止することができる。
【0042】
(変形例)
上述した実施形態では、押圧部材61の先端部61cが円弧状(球状)に形成されていたが、押圧部材61の先端部61cはテーパ状(円錐状・円錐台状)に形成されていてもよい。
【0043】
そこで、
図3を参照しつつ、変形例に係る押圧機構について説明する。
図3は、変形例に係る押圧機構(押圧部材61B及びアウトプットシャフト40Bの切り欠き40b)のニュートラル時における位置関係を示す図である。なお、
図3において上記実施形態と同一又は同等の構成要素については同一の符号が付されている。
【0044】
押圧部材61Bは、円弧状に形成された先端部61cに代えて、テーパ状(円錐状・円錐台状)に形成された先端部61Bcを備えている点で、上述した実施形態と異なっている。その他の構成は、上述した実施形態(押圧部材61)と同一または同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0045】
また、アウトプットシャフト40Bの外周面に形成された切り欠き40bが、軸方向に沿った断面がカタカナのコ字状に形成されている点で、上述した実施形態と異なっている。その他の構成は、上述した実施形態(切り欠き40a)と同一または同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0046】
本変形例によっても、上述した実施形態と同様の効果を奏することができる。すなわち、
図3に示されるように、シフトレバー70がニュートラル位置に操作されたときに、アウトプットシャフト40Bがインプットシャフト20側に押されて、アウトプットシャフト40Bの先端面がインプットシャフト20の後端面に押し当てられるため、インプットシャフト20からアウトプットシャフト40Bに微小なトルクが伝達されて、アウトプットシャフト40Bの下流側に存在し得るスプラインのガタやギヤのバックラッシュなどが予め詰められる。そのため、停車時に、ニュートラルレンジでクラッチ10が締結された状態からクラッチ10が解放された直後(すなわち、シフトレバー70がニュートラル位置にあり、クラッチペダルの踏み込みが解除された状態からクラッチペダルが踏み込まれた直後)に、シフトレバー70がニュートラル位置から例えば1速位置に操作されたときに発生し得る異音や振動の発生を防止することが可能となる。
【0047】
また、本変形例では、押圧部材61Bの先端部61Bcがテーパ状(円錐状・円錐台状)に形成されるとともに、アウトプットシャフト40Bの外周面に形成された切り欠き40bが、軸方向に沿った断面がコ字状に形成されている。そのため、押圧力を確保しつつ、かつ、シフトレバー70の操作力(特に、押圧部材61Bを切り欠き40bから抜くときに要する力)を低減することができる。すなわち、背反する押圧力と操作力とを両立させることができる。
【0048】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明を、インプットシャフト20とカウンタシャフト30との間にリダクションギヤ35A,35Bが設けられたインプット・リダクションギヤ・タイプの手動変速機1に適用した場合を例にして説明したが、本発明は、カウンタシャフトとアウトプットシャフトとの間にリダクションギヤが設けられたアウトプット・リダクションギヤ・タイプの手動変速機にも適用することができる。また、上記実施形態では、最高変速段が6速である手動変速機1に適用した場合を例にして説明したが、最高変速段は6速以外(例えば5速など)でもよい。
【0049】
上記実施形態では、押圧部材61,61Bの先端部61a,61Baの形状を円弧状又はテーパ状に形成したが、押圧部材61,61Bの先端部61a,61Baの形状は、上記実施形態に限られることなく、例えば、押圧力や操作力などを考慮して任意の形状に形成することができる。
【0050】
同様に、上記実施形態では、切り欠き40a,40bの形状を断面円弧状又はコ字状に形成したが、切り欠き40a,40bの形状は、上記実施形態に限られることなく、例えば、押圧部材61,61Bの先端部61a,61Baの形状や求められる要件等に応じて任意の形状(例えば、V字状、U字状など)に形成することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 手動変速機
10 乾式クラッチ
20 インプットシャフト
30 カウンタシャフト
31A~37A 駆動ギヤ
31B~37B 従動ギヤ
40,40B アウトプットシャフト
40a,40b 切り欠き
41~44 切換機構
50 シフトロッド
61,61B 押圧部材
61b,61Bb コイルスプリング
61c,61Bc 先端部
70 シフトレバー