(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】位相差補償素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20220914BHJP
G02B 1/115 20150101ALI20220914BHJP
G02F 1/13363 20060101ALI20220914BHJP
G03B 21/00 20060101ALI20220914BHJP
G03B 21/14 20060101ALI20220914BHJP
H04N 5/66 20060101ALI20220914BHJP
H04N 5/74 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B1/115
G02F1/13363
G03B21/00 E
G03B21/14 Z
H04N5/66 102Z
H04N5/74 K
(21)【出願番号】P 2019038407
(22)【出願日】2019-03-04
(62)【分割の表示】P 2018015822の分割
【原出願日】2018-01-31
【審査請求日】2021-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】菅原 淳一
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-068935(JP,A)
【文献】特開2012-242449(JP,A)
【文献】特開2015-082035(JP,A)
【文献】特開2006-171327(JP,A)
【文献】特開2009-145864(JP,A)
【文献】特開2007-310052(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0054500(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G03B 21/00-21/30
H04N 5/66- 5/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶セルによって生じる光の位相差を補償
し、
前記液晶セルと組み合わせて
液晶表示装置を構成する位相差補償素子の製造方法であって、
前記位相差補償素子は、透明基板と、同一の無機材料が堆積された第1の複屈折膜、第2の複屈折膜、および第3の複屈折膜のみからなる光学異方性層と、を含み、
前記第1の複屈折膜、前記第2の複屈折膜、および前記第3の複屈折膜
を斜方蒸着により形成
する工程を有し、
前記第1の複屈折膜と前記第2の複屈折膜の斜方蒸着は、面内方向の角度は異ならせるが、膜厚
および前記複屈折膜の成膜方向と前記透明基板の表面とのなす角の角度は同じとし、
前記第3の複屈折膜の斜方蒸着は、前記第1の複屈折膜と前記第2の複屈折膜の斜方蒸着とは、面内方向の角度および膜厚を異ならせ
るが、前記複屈折膜の成膜方向と前記透明基板の表面とのなす角の角度は同じとし、
前記複屈折膜の成膜方向を前記透明基板の表面に投影した線分の向きと、前記複屈折膜の厚みとで前記複屈折膜のベクトルを決定するとき、前記第1の複屈折膜、前記第2の複屈折膜、および前記第3の複屈折膜の各々のベクトルを合成した合成ベクトルを前記透明基板の表面に投影した線分の向きが、無電圧印加状態におけ
る前記液晶セルを構成する液晶分子を
前記透明基板の表面に投影した線分の向きと略同一となるようにする、位相差補償素子の製造方法。
【請求項2】
前記無機材料は、Si、Nb、Zr、Ti、La、Ta、Al、Hf、およびCeからなる群より選択される少なくとも1種を含有する酸化物である
、請求項1に記載の位相差補償素子の製造方法。
【請求項3】
さらに
、位相差付与反射防止層を備えさせる工程を有し、
前記位相差付与反射防止層は、屈折率の異なる2種以上の誘電体からなる誘電体膜の積層体であり、反射防止の作用と、前記液晶セルに斜め方向から入射する光の位相差を補償する作用とを有する、請求項1または2に記載の位相差補償素子の製造方法。
【請求項4】
前記誘電体膜は、TiO
2、SiO
2、Ta
2O
5、Al
2O
3、CeO
2、ZrO
2、ZrO、Nb
2O
5、およびHfO
2からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の位相差補償素子の製造方法。
【請求項5】
さらに、前記透明基板と前記光学異方性層との間にマッチング層を備えさせる工程を有する、請求項1~4いずれか記載の位相差補償素子の製造方法。
【請求項6】
さらに
、保護層を備えさせる工程を有する、請求項1~5いずれか記載の位相差補償素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差補償素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置において、コントラスト特性や視野角特性を改善するために、位相差補償素子を用いた光学補償技術が利用されている。このような位相差補償素子としては、例えば、誘電体材料の蒸着により、高屈折率と低屈折率の薄膜を交互に積層して形成した負のC-プレートと、少なくとも二層構成の斜方蒸着膜で形成されたOプレートと、を積層した位相差補償素子が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された位相差補償素子は、高屈折率と低屈折率層の交互積層による構造性複屈折を有する負のC-プレートによって、光変調素子への斜入射光の偏光の乱れが補正される。また、少なくとも二層構成の斜方蒸着膜で形成されたO-プレートによって、液晶のプレチル卜角により生じる偏光の乱れを補正する。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された負のC-プレートは、屈折率の異なる2種類の蒸着膜の光学膜厚の比を定め、それに基づき定められた同一の膜厚の高屈折率層と、同一の膜厚の低屈折率層が交互に積層され、その結果生じる構造性複屈折によって位相差を発現させる。このため、合計で80層以上の積層数が必要となる上、さらに別途、反射防止膜が必要となるため、高コスト化やリードタイムの長期化が懸念される。
【0005】
また別の位相差補償技術として、斜方蒸着膜で形成された2枚の位相差板を用いて、光学補償する方法が提案されている(特許文献2参照)。特許文献2に記載された光学補償方法では、2枚の位相差板を面内方向に回転させ、関係角度を最適な位置に調整することでコントラストを向上させる。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載された光学補償方法では、2枚の位相差板と、当該2枚の位相差板を回転させる回転機構が必要となるため、高コスト化や搭載スペースの増加が懸念される。
【0007】
また、少なくとも2つの補償層を有し、それらの位相差の値や、面内の光学軸方向が互いに異なるように配置して貼り合わせた位相差補償板を用いた液晶表示装置が提案されている(特許文献3参照)。
【0008】
しかしながら、特許文献3に記載された液晶表示装置にて用いられる位相差補償板は、2つの補償層の貼り合せによって形成することから接着剤を必要とし、耐久性に課題がある。また、2枚の基板が必要となり、高コスト化の懸念もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-171327号公報
【文献】特開2009-145863号公報
【文献】国際公開第2008/08l919号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、高コスト化、リードタイムの長期化を抑制しつつ耐久性を有するとともに、液晶表示装置のコントラストを改善できる位相差補償素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、基板上に光学異方性層を形成するにあたり、光学異方性層を複数の複屈折膜を含むものとし、それぞれの複屈折膜につき、成膜方向を透明基板の表面に投影した線分の向きと、厚みとでベクトルを決定するとき、複屈折膜の各々のベクトルを合成した合成ベクトルを透明基板の表面に投影した線分の向きと、液晶セルを構成する液晶分子を透明基板の表面に投影した線分の向きとを略同一とすれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち本発明は、液晶セルによって生じる光の位相差を補償する、液晶セルと組み合わせて用いる位相差補償素子の製造方法であって、前記位相差補償素子は、透明基板と、無機材料が堆積された第1の複屈折膜、第2の複屈折膜、および第3の複屈折膜を含む光学異方性層と、を含み、前記第1の複屈折膜、前記第2の複屈折膜、および前記第3の複屈折膜は、斜方蒸着により形成し、前記第1の複屈折膜と前記第2の複屈折膜の斜方蒸着は、面内方向の角度は異ならせるが、膜厚は同じとし、前記第3の複屈折膜の斜方蒸着は、前記第1の複屈折膜と前記第2の複屈折膜の斜方蒸着とは、面内方向の角度および膜厚を異ならせて、前記複屈折膜の成膜方向を前記透明基板の表面に投影した線分の向きと、前記複屈折膜の厚みとで複屈折膜のベクトルを決定するとき、前記複数の複屈折膜の各々のベクトルを合成した合成ベクトルを透明基板の表面に投影した線分の向きが、無電圧印加状態における組み合わせて用いる前記液晶セルを構成する液晶分子を透明基板の表面に投影した線分の向きと略同一となるようにする、位相差補償素子の製造方法である。
【0013】
前記無機材料は、Si、Nb、Zr、Ti、La、Ta、Al、Hf、およびCeからなる群より選択される少なくとも1種を含有する酸化物であってもよい。
【0014】
さらに位相差付与反射防止層を備えさせる工程を有し、
前記位相差付与反射防止層は、屈折率の異なる2種以上の誘電体からなる誘電体膜の積層体であり、反射防止の作用と、前記液晶セルに斜め方向から入射する光の位相差を補償する作用とを有していてもよい。
【0015】
前記誘電体膜は、TiO2、SiO2、Ta2O5、Al2O3、CeO2、ZrO2、ZrO、Nb2O5、およびHfO2からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0016】
さらに、前記透明基板と前記光学異方性層との間にマッチング層を備えさせる工程を有していてもよい。
【0017】
さらに保護層を備えさせる工程を有していてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高コスト化、リードタイムの長期化、搭載スペースの増加および耐熱性の課題を解決しつつ、液晶表示装置のコントラストを改善できる位相差補償素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明
で得られる位相差補償素子の断面模式図である。
【
図2】本発明
で得られる複屈折膜の斜視模式図である。
【
図3】液晶分子を透明基板の表面に投影した線分の向きを示す図である。
【
図4】複屈折膜の成膜方向を透明基板の表面に投影した線分の向きを示す図である。
【
図5】
一実施形態に係る位相差付与反射防止層の断面模式図である。
【
図6】実施例1の複屈折膜のベクトルを示す図である。
【
図7】実施例1の各複屈折膜のベクトルの向きとコントラストとの関係を示す図である。
【
図8】実施例1の各複屈折膜の厚みとコントラストとの関係を示す図である。
【
図9】実施例2の複屈折膜のベクトルを示す図である。
【
図10】実施例2の各複屈折膜のベクトルの向きとコントラストとの関係を示す図である。
【
図11】実施例1の各複屈折膜の厚みとコントラストとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
[位相差補償素子]
本発明で得られる位相差補償素子は、液晶セルで生じる光の位相差を補償する位相差補償素子であって、透明基板と、無機材料からなる複数の複屈折膜を含む光学異方性層と、を含む。複数の複屈折膜の各々は、無機材料の成膜方向と透明基板の表面とのなす角の角度が90度ではなく、複屈折膜の成膜方向を透明基板の表面に投影した線分の向きと、前記複屈折膜の厚みとで複屈折膜のベクトルを決定するとき、複数の複屈折膜の各々のベクトルを合成した合成ベクトルを透明基板の表面に投影した線分の向きが、液晶分子を透明基板の表面に投影した線分の向きと略同一であることを特徴とする。
【0022】
図1は、本発明
で得られる位相差補償素子10の断面模式図である。
図1に示すように、本実施形態に係る位相差補償素子10は、透明基板11と、位相差付与反射防止層12と、光学異方性層13と、保護層14と、マッチング層15と、反射防止層16と、を備える。なお、本発明は、透明基板と、無機材料からなる複数の複屈折膜を含む光学異方性層とを少なくとも備えていればよい。
【0023】
[透明基板]
透明基板は、所望の使用波長帯域の光に対して透光性を有するものであれば、特に限定されるものではない。透明基板の材料としては、例えば、ガラス、石英、水晶、サファイヤ等が挙げられる。透明基板の形状としては、四角形が一般的であるが、目的に応じた形状を適宜選択してもよい。また、透明基板の厚みは、例えば0.1~3.0mmの範囲とすることが好ましい。
【0024】
図1に示される位相差補償素子10においては、透明基板11は、位相差付与反射防止層12とマッチング層15との間に配置される。
【0025】
[光学異方性層]
本発明で得られる位相差補償素子における光学異方性層は、無機材料が堆積された複数の複屈折膜を含む。光学異方性層は、本発明で得られる位相差補償素子において位相差を補償する機能を有し、コントラストを改善することに寄与する層である。
【0026】
図1に示される位相差補償素子10においては、光学異方性層13は、マッチング層15と保護層14との間に配置される。光学異方性層13は、複数の複屈折膜を含む層となっている。
【0027】
図2は、光学異方性層を構成する複屈折膜の一実施態様を示す視模式図である。
図2に示すように、光学異方性層13を構成する複屈折膜131は、透明基板1の表面に直交する方向(以下、基板法線方向という)である基板法線Sに対して、傾斜する方向に堆積して形成された膜で構成される。本発明
で得られる位相差補償素子における光学異方性層は、このような膜で構成される複屈折膜が複数堆積された構成となっている。
【0028】
複屈折膜の各々は、透明基板の基板法線に対して傾斜する方向に堆積して形成され、複屈折膜を構成する無機材料の成膜方向と透明基板の表面とのなす角の角度は90度ではない。
【0029】
本発明において、複屈折膜の各々について、無機材料の成膜方向と透明基板の表面とのなす角の角度を90度ではない状態にする方法としては、例えば、基板法線Sに対して傾斜した位置に蒸着源を配置し、当該蒸着源からの斜方蒸着により、斜方蒸着膜を形成する方法が好ましい。複数回の斜方蒸着によって光学異方性層を作製する場合には、蒸着角度を変えて斜方蒸着を繰り返し、最終的な光学異方性層を得る。
【0030】
また、本発明で得られる位相差補償素子における光学異方性層は、複屈折膜の成膜方向を透明基板の表面に投影した線分の向きと、複屈折膜の厚みとで複屈折膜のベクトルを決定するとき、光学異方性層を構成する複数の複屈折膜の各々のベクトルを合成した合成ベクトルを透明基板の表面に投影した線分の向きが、液晶セルを構成する液晶分子を透明基板の表面に投影した線分の向きと略同一となっている。
【0031】
なお、本発明においての「略同一」とは、±10°の範囲であることを意味する。
【0032】
図3は、液晶分子を透明基板の表面に投影した線分の向きを示す図である。液晶分子の傾斜方向LをXY平面上に投影して得られる線分の向きが、液晶分子を透明基板の表面に投影した線分の向きlとなる。
【0033】
図4は、複屈折膜の成膜方向を透明基板の表面に投影した線分の向きを示す図である。蒸着源から蒸着方向Dにて透明基板11に向かって蒸着膜を形成した場合には、複屈折膜の成膜方向を透明基板の表面に投影した線分の向きはdで示される。本発明
で得られる位相差補償素子の光学異方性層においては、投影した線分の向きdと複屈折膜の厚みとで、複屈折膜のベクトルを決定し、複数の複屈折膜の各々のベクトルを合成した合成ベクトル
を透明基板の表面に投影した線分の向きが、液晶セルを構成する液晶分子を透明基板の表面に投影した線分の向きlと略同一となっている。
【0034】
光学異方性層は、無機材料からなる複数の複屈折膜を含む。無機材料としては、誘電材料が好ましく、例えば、Si、Nb、Zr、Ti、La、Ta、Al、Hf、およびCeからなる群より選択される少なくとも1種を含有する酸化物が挙げられる。さらには、Ta2O
5
を主成分とするものが好ましく、Ta2O
5
にTiO2を5~15質量%添加した材料がさらに好ましい。
【0035】
また、本発明で得られる光学異方性層を構成する複屈折膜を斜方蒸着で形成する場合には、透明基板を面内方向に所定の角度に回転させることにより、蒸着方向を変更することができる。
【0036】
なお、本発明において光学異方性層を構成する複数の複屈折膜の材料や組成は、同一である。また、複数の複屈折膜の各々の位相差についても、特に限定されるものではなく、液晶セルに応じて最適化される。
【0037】
光学異方性層は、無機材料からなる複数の複屈折膜を含む。無機材料としては、誘電材料が好ましく、例えば、Si、Nb、Zr、Ti、La、Ta、Al、Hf、およびCeからなる群より選択される少なくとも1種を含有する酸化物が挙げられる。さらには、Ta2O3を主成分とするものが好ましく、Ta2O
5
にTiO2を5~15質量%添加した材料がさらに好ましい。
【0038】
複数の複屈折膜を含む光学異方性層全体の厚みは、複屈折膜の各々のベクトルを合成した合成ベクトルを透明基板の表面に投影した線分の向きが、液晶分子を透明基板の表面に投影した線分の向きと略同一となれば特に限定されるものではなく、液晶セルに応じて最適化される。
【0039】
[位相差付与反射防止層]
位相差付与反射防止層は、本発明においては任意の層であり、屈折率の異なる2種以上の誘電体からなる誘電体膜の積層体である。位相差付与反射防止層は、反射防止の作用と、液晶セルに斜め方向から入射する光の位相差を補償する作用とを有する。すなわち位相差付与反射防止層は、液晶パネルで生じる斜入射光の位相差のずれを補償するとともに、反射防止を同時に行う位置づけとなっている。
【0040】
位相差付与反射防止層を備えさせる場合には、透明基板の、光学異方性層が設けられた面と対向する面に設けられる。
【0041】
図5は
、一実施形態に係る位相差付与反射防止層の断面模式図である。
図5に示す位相差付与反射防止層12は、屈折率の異なる2種類の誘電体膜を積層することで形成された多層膜である。本実施形態では、位相差付与反射防止層12は、第1の誘電体膜121と、第2の誘電体膜122とが交互に積層された誘電体多層膜で構成される。層数としては特に限定されるものではないが、例えば、第1の誘電体膜121と第2の誘電体膜122が交互に積層された合計34層からなる誘電体多層膜が挙げられる。
【0042】
位相差付与反射防止層を構成する、屈折率の異なる2種以上の誘電体からなる誘電体膜を形成する材料としては、それぞれ、TiO
2、SiO
2、Ta
2O
5、Al
2O
3、CeO
2、ZrO
2、ZrO、Nb
2O
5、およびHfO
2からなる群より選択される少なくとも1種の無機酸化物が挙げられる。例えば、
図5に示す一実施形態に係る位相差付与反射防止層12においては、第1の誘電体膜121は、相対的に高屈折率のNb
2O
5にて形成し、第2の誘電体膜122は、相対的に低屈折率のSiO
2にて形成することが好ましい。
【0043】
ここで、本発明における位相差付与反射防止層は、構成する誘電体膜の膜厚が異なることから、構造複屈折を利用して液晶セルに斜め方向から入射する斜入射光の位相差を補償しつつ、光の干渉効果(多重反射)を利用して、反射防止膜としても機能する。また、積層数も比較的少なくすることが可能である。
【0044】
位相差付与反射防止層は、透明基板の表面に直交する方向(基板法線方向)に対して15度傾斜した斜入射光に付与する位相差が、1.0~25.0nmとなるように設計することが好ましい。この範囲の位相差となるように、各誘電体膜の膜厚を異なるものとし、さらに積層数を最適なものとすることで、実用的な位相差付与反射防止層となる。したがって、位相差付与反射防止層の膜厚は、所望の位相差を得るために必要な厚みとすればよく、特に限定されるものではない。
【0045】
[マッチング層]
マッチング層は、本発明においては任意の層であり、透明基板と光学異方性層との界面における反射を防止する層である。マッチング層は、透明基板と光学異方性層との間に設けられ、例えば、誘電体の多層膜である。マッチング層は、透明基板とマッチング層との界面反射光と、マッチング層と光学異方性層との界面反射光を、打ち消しあうように設計する。
【0046】
図1における位相差補償素子10におけるマッチング層15は、透明基板11と光学異方性層13との間に配置されている。マッチング層15の存在により、位相差補償素子10は、より反射が防止された素子となる。
【0047】
[保護層]
保護層は、本発明においては任意の層であり、位相差補償素子の反りを防止し、かつ、光学異方性層の耐湿性を向上するために設けられる。保護層の材料としては、位相差補償素子にかかる応力が調整可能であり、かつ、耐湿性向上に寄与するものであれば特に限定されるものではない。例えばSiO2等の薄膜が挙げられる。
【0048】
図1における位相差補償素子10における保護層14は、光学異方性層13と反射防止層16との間に配置されている。保護層を設ける場合には、位相差補償素子において、光学異方性層上に配されることが好ましい。
【0049】
[反射防止層]
反射防止層は、必要に応じて設けられ、所望の使用波長帯域における反射防止の作用を有する層である。反射防止層は、例えば誘電体膜が積層されたものであり、必要とする特性と生産性に応じて、用いる誘電体と層数とを適宜決定することができる。
【0050】
図1における位相差補償素子10における反射防止層16は、光学異方性層13やマッチング層15、保護層14が設けられている側の最外部となるように設けられている。
【0051】
[液晶表示装置]
本発明で得られる位相差補償素子を用いた液晶表示装置は、液晶セルと、上記の本発明で得られる位相差補償素子と、を備える。本発明においては、液晶セルはVAモードであることが好ましい。
【0052】
VAモード液晶セルは、垂直配向型の液晶セルであり、無電圧印加状態における液晶分子は、基板面の法線方向に対して一定の方向に傾いて配向する。この傾き角度をプレチル卜角と呼ぶが、本発明で得られる位相差補償素子は、光学異方性層を構成する複数の複屈折膜の各々のベクトルを合成した合成ベクトルを透明基板の表面に投影した線分の向きが、液晶分子を透明基板の表面に投影した線分の向きと略同一であることを特徴とする。
【0053】
本発明によれば、わずか一枚の位相差補償素子を、液晶セルを有する光路上の、入射側偏光板と液晶セルの間、または、液晶セルと出射側偏光板の間に配置するだけで、特に位相差補償素子の角度調整を行うことなく、液晶表示装置のコントラストを増加させることができ、十分な光学補償効果を得ることができる。
【0054】
[投射型画像表示装置]
また、本発明で得られる位相差補償素子を用いた投射型画像表示装置は、光を出射する光源と、変調された光を投射する投射光学系と、光源と投射光学系との間の光路に配置された上記の液晶表示装置と、を有する。
【0055】
光源は、光を出射するものであり、例えば、白色光を出射する超高圧水銀ランプ等が挙げられる。投射光学系は、変調された光を投射するものであり、例えば、変調された光をスクリーンに投射する投射レンズ等が挙げられる。VAモード液晶セルと、本発明で得られる位相差補償素子と、を備える液晶表示装置は、光源と投射光学系との間の光路上に配置される。
【0056】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【実施例】
【0057】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0058】
<実施例1>
[位相差補償素子の作製]
(マッチング層の作製)
ガラス基板(平均厚み0.7mm)を準備し、一方の面上に、SiO2/Nb2O5/SiO2の3層をスパッタ法により積層することによって、マッチング層を形成した。
【0059】
(位相差付与反射防止層の作製)
次いで、ガラス基板の他方の面上に、Nb2O5とSiO2とを用いて、34層をスパッタ法により交互積層することによって位相差付与反射防止層を形成した。付与した位相差は、基板の法線方向から15°傾斜した入射光に対して、7.Onmとなるようにした。
【0060】
(光学異方性層の作製)
マッチング層の上に、Ta205とTi02の混合物を蒸着材料として、基板法線方向に対して70度傾斜した位置に蒸着源を配置して、斜方蒸着により複数の蒸着プロセスを実施し、複数の複屈折膜を作製することにより光学異方性層を作製し、位相差補償素子を得た。
【0061】
図6に、各蒸着プロセスの面内方向の角度や蒸着膜厚を示す。蒸着プロセス1においては、
図6に示すように、蒸着面にxy軸を規定して中心から反時計回りの方向を+とした場合に、83°の方向から膜厚を96nmとした斜方蒸着を実施して、複屈折膜1を作製した。次いで、蒸着プロセス2として、103°の方向から膜厚96nmの蒸着を実施して複屈折膜2を、蒸着プロセス3として、177°の方向から膜厚192nmの斜方蒸着を実施して複屈折膜3を作製することにより、最終的に3つの複屈折膜を有する光学異方性層を得た。
【0062】
なお、複屈折膜1のベクトルp1、複屈折膜2のベクトルp2、および複屈折膜3のベクトルp3を合成した合成ベクトルP1は、
図6に示すように、液晶分子を透明基板の表面に投影した線分の向きlと同一である。作製した複屈折膜の面内蒸着角度および蒸着膜厚を、表1に示す。
【0063】
【0064】
<比較例1>
実施例1における蒸着プロセス1の蒸着角度を、実施例1の面内蒸着角度である83°から±5°の範囲で1°ずつ変えて斜方蒸着を行なった以外は、実施例1と同様に位相差補償素子を作成した。
【0065】
<比較例2>
実施例1における蒸着プロセス2の蒸着角度を、実施例1の面内蒸着角度である103°から±5°の範囲で1°ずつ変えて蒸着を行なった以外は、実施例1と同様に位相差補償素子を作成した。
【0066】
<比較例3>
実施例1における蒸着プロセス3の蒸着角度を、実施例1の面内蒸着角度である177°から±5°の範囲で1°ずつ変えて蒸着を行なった以外は、実施例1と同様に位相差補償素子を作成した。
【0067】
<比較例4>
実施例1における蒸着プロセス1の蒸着膜厚を、実施例1の蒸着膜厚である96nmから±5nmの範囲で1nmずつ変えて蒸着を行なった以外は、実施例1と同様に位相差補償素子を作成した。
【0068】
<比較例5>
実施例1における蒸着プロセス2の蒸着膜厚のみを、実施例1の蒸着膜厚である96nmから±5nmの範囲で1nmずつ変えて蒸着を行なった以外は、実施例1と同様に位相差補償素子を作成した。
【0069】
<比較例6>
実施例1における蒸着プロセス3の蒸着膜厚のみを、実施例1の蒸着膜厚である192nmから±5nmの範囲で1nmずつ変えて蒸着を行なった以外は、実施例1と同様に位相差補償素子を作成した。
【0070】
[コントラストの測定]
実施例1および比較例1~3で得られた位相差補償素子について、コントラストを測定した。結果を
図7(a)~
図7(c)に示す。実施例1における面内方向の蒸着角度から外れると、コントラストが低下することが判る。
【0071】
実施例1および比較例4~6で得られた位相差補償素子について、コントラストを測定した。結果を
図8(a)~
図8(c)に示す。実施例1における面内方向の膜厚から外れると、コントラストが低下することが判る。
【0072】
<実施例2>
光学異方性層を構成する複屈折膜を作製するための蒸着プロセスを
図9および表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様に位相差補償素子を作成した。
【0073】
実施例2においては、蒸着プロセス4として、78°の方向から膜厚を98nmとした斜方蒸着を実施して、複屈折膜4を作製した。次いで、蒸着プロセス5として、103°の方向から膜厚49nmの蒸着を実施して複屈折膜5を、蒸着プロセス6として、113°の方向から膜厚49nmの蒸着を実施して複屈折膜6を、蒸着プロセス7として、172°の方向から膜厚98nmの蒸着を実施して複屈折膜7を、蒸着プロセス8として、182°の方向から膜厚98nmの斜方蒸着を実施して複屈折膜8を作製することにより、最終的に5つの複屈折膜を有する光学異方性層を得た。
【0074】
なお、複屈折膜4のベクトルp4、複屈折膜5のベクトルp5、複屈折膜6のベクトルp6、複屈折膜7のベクトルp7、および複屈折膜8のベクトルp8を合成した合成ベクトルP2は、
図9に示すように、液晶分子を透明基板の表面に投影した線分の向きlと同一である。作製した複屈折膜の面内蒸着角度および蒸着膜厚を、表2に示す。
【0075】
【0076】
<比較例7>
実施例2における蒸着プロセス4の蒸着角度を、実施例2の面内蒸着角度である78°から±5°の範囲で1°ずつ変えて蒸着を行なった以外は、実施例2と同様に位相差補償素子を作成した。
【0077】
<比較例8>
実施例2における蒸着プロセス5の蒸着角度を、実施例2の面内蒸着角度である103°から±5°の範囲で1°ずつ変えて蒸着を行なった以外は、実施例2と問様に位相差補償素子を作成した。
【0078】
<比較例9>
実施例2における蒸着プロセス6の蒸着角度を、実施例2の面内蒸着角度である113°から±5°の範囲で1°ずつ変えて蒸着を行なった以外は、実施例2と同様に位相差補償素子を作成した。
【0079】
<比較例10>
実施例2における蒸着プロセス7の蒸着角度を、実施例2の面内蒸着角度である172°から±5°の範囲で1°ずつ変えて蒸着を行なった以外は、実施例2と同様に位相差補償素子を作成した。
【0080】
<比較例11>
実施例2における蒸着プロセス8の蒸着角度を、実施例2の面内蒸着角度である182°から±5°の範囲で1°ずつ変えて蒸着を行なった以外は、実施例2と同様に位相差補償素子を作成した。
【0081】
<比較例12>
実施例2における蒸着プロセス4の蒸着膜厚を、実施例2の蒸着膜厚である98nm±5nmの範囲で1nmずつ変えて蒸着を行なった以外は、実施例2と同様に位相差補償素子を作成した。
【0082】
<比較例13>
実施例2における蒸着プロセス5の蒸着膜厚を、実施例2の蒸着膜厚である49nm±5nmの範囲で1nmずつ変えて蒸着を行なった以外は、実施例2と同様に位相差補償素子を作成した。
【0083】
<比較例14>
実施例2における蒸着プロセス6の蒸着膜厚を、実施例2の蒸着膜厚である49nm±5nmの範囲で1nmずつ変えて蒸着を行なった以外は、実施例2と同様に位相差補償素子を作成した。
【0084】
<比較例15>
実施例2における蒸着プロセス7の蒸着膜厚を、実施例2の蒸着膜厚である98nm±5nmの範囲で1nmずつ変えて蒸着を行なった以外は、実施例2と同様に位相差補償素子を作成した。
【0085】
<比較例16>
実施例2における蒸着プロセス8の蒸着膜厚を、実施例2の蒸着膜厚である98nm±5nmの範囲で1nmずつ変えて蒸着を行なった以外は、実施例2と同様に位相差補償素子を作成した。
【0086】
[コントラストの測定]
実施例2および比較例7~11の位相差補償素子について、コントラストを測定した結果を
図10(a)~
図10(e)に示す。実施例2における面内方向の蒸着角度から外れると、コントラストが低下することが判る。
【0087】
実施例2および比較例12~16の位相差補償素子について、コントラストを測定した結果を
図11(a)~
図11(e)に示す。実施例2における膜厚から外れると、コントラストが低下することが判る。
【符号の説明】
【0088】
10 位相差補償素子
11 透明基板
12 位相差付与反射防止層
121 第1の誘電体膜
122 第2の誘電体膜
13 光学異方性層
131 複屈折膜
14 保護層
15 マッチング層
S 基板法線
L 液晶分子の傾斜方向
l 液晶分子を透明基板の表面に投影した線分の向き
D 複屈折膜の成膜方向
d 複屈折膜の成膜方向を透明基板の表面に投影した線分の向き
p1 複屈折膜1のベクトル
p2 複屈折膜2のベクトル
p3 複屈折膜3のベクトル
P1 実施例1の複屈折膜の合成ベクトル
p4 複屈折膜4のベクトル
p5 複屈折膜5のベクトル
p6 複屈折膜6のベクトル
p7 複屈折膜7のベクトル
p8 複屈折膜8のベクトル
P2 実施例2の複屈折膜の合成ベクトル