(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】列車制御システムおよび列車制御方法
(51)【国際特許分類】
B61L 23/22 20060101AFI20220914BHJP
B60L 15/40 20060101ALI20220914BHJP
B61L 3/12 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
B61L23/22
B60L15/40 K
B61L3/12 Z
(21)【出願番号】P 2019067426
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-04-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】拜郷 将馬
(72)【発明者】
【氏名】中西 佑介
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/207480(WO,A1)
【文献】特開2014-148260(JP,A)
【文献】特開平02-266404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 23/22
B60L 15/40
B61L 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
演算対象とする列車の進行方向上に存在する支障候補から、同じ進行方向上に在線する他列車の位置を含む支障位置としての条件を満足するものを当該支障位置として検索し、
検索した前記支障位置から前記支障位置の種別に対応する安全余裕距離を前記列車の進行方向に確保した停止限界点を演算し、
前記停止限界点と前記列車に関し先に演算し保持した最
長停止限界点とから
、前記列車の現在位置
を基
準にして前記停止限界点の方が遠方にある場合には当該停止限界点を前記列車の最
長停止限界点として更新し、
更新
された前記
列車の最
長停止限界点を保持すると共に
、前記列車に
対して当該最長停止限界点または前記更新がなかった場合には前記停止限界点を通知し、
通知される前記最
長停止限界点
または前記停止限界点を含む制御情報に基づいて、前記列車
の走行制御を行う
ことを特徴とする列車制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の列車制御システムであって、
前記支障位置の種別と前記安全余裕距離との関係を保持する
ことを特徴とする列車制御システム。
【請求項3】
演算対象とする列車の進行方向上に当該列車の現在位置に近い順に存在する支障候補から、同じ進行方向上に在線する他列車の位置を含む支障位置としての条件を満足するものを当該支障位置として抽出し、
抽出した前記支障位置から前記列車の進行方向に一定の安全余裕距離を確保した停止限界点を演算し、
前記停止限界点と前記列車に関し先に演算し保持した最
長停止限界点とから
、前記列車の現在位置
を基
準にして前記停止限界点の方が遠方にある場合には当該停止限界点を前記列車の最
長停止限界点として更新し、
更新
された前記
列車の最
長停止限界点を保持すると共に
、前記列車に
対して当該最長停止限界点または前記更新がなかった場合には前記停止限界点を通知し
、
通知される前記最
長停止限界点
または前記停止限界点を含む制御情報に基づいて
、前記列車の走行制御を行う
ことを特徴とする列車制御システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の列車制御システムであって、
前記他列車の進行方向が、前記列車の進行方向と逆で対向している
ことを特徴とする列車制御システム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の列車制御システムであって、
前記列車の在線位置から前記列車の最
長停止限界点までを前記列車の占有範囲として管理し、
前記列車の占有範囲と前記他列車の占有範囲とから両者の重複を検出すると、異常として報知する
ことを特徴とする列車制御システム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の列車制御システムであって、
前記列車と前記列車の最
長停止限界点との間に前記他列車の存在を検出すると、異常として報知する
ことを特徴とする列車制御システム。
【請求項7】
請求項5または6に記載の列車制御システムであって、
前記異常の報知に伴い、当該列車制御システムが管理する列車に対して停止指令を出力する
ことを特徴とする列車制御システム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の列車制御システムであって、
前記列車の車上制御装置が、通知される前記最
長停止限界点
または前記停止限界点を含む制御情報に基づいて前記列車の走行制御を実行し、
前記の動作態様以外の動作態様を、地上側の制御装置が実行する
ことを特徴とする列車制御システム。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の列車制御システムを搭載した車上制御装置。
【請求項10】
地上側の制御装置は、
演算対象とする列車の進行方向上に存在する支障候補から、同じ進行方向上に在線する他列車の位置を含む支障位置としての条件を満足するものを当該支障位置とする検索を周期的に
処理する第1のステップと、
列車毎に、検索した前記支障位置から前記支障位置の種別に対応する安全余裕距離を前記列車の進行方向に確保した停止限界点の演算を周期的に
処理する第2のステップと、
前記列車毎に、前記停止限界点と前記列車に関し先に演算し保持した最
長停止限界点とから
、前記列車の現在位置
を基
準にして前記停止限界点の方が遠方にある場合には当該停止限界点を前記列車の最
長停止限界点として更新する第3のステップと、
更新した前記
列車の最
長停止限界点を保持すると共に
、前記列車に
対して当該最長停止限界点または前記更新がなかった場合には前記停止限界点を通知する第4のステップと
を実行し、
前記列車の車上制御装置は、
前記地上側の制御装置が通知する前記最
長停止限界点
または前記停止限界点を含む制御情報に基づいて、前記列車の走行制御を行う第5のステップ
を実行する
ことを特徴とする列車制御方法。
【請求項11】
地上側の制御装置は、
演算対象とする列車の進行方向上に当該列車の現在位置に近い順に存在する支障候補から、同じ進行方向上に在線する他列車の位置を含む支障位置としての条件を満足するものを当該支障位置として抽出する第1のステップと、
抽出した前記支障位置から前記列車の進行方向に一定の安全余裕距離を確保した停止限界点を演算する第2のステップと、
前記停止限界点と前記列車に関し先に演算し保持した最
長停止限界点とから
、前記列車の現在位置
を基
準にして前記停止限界点の方が遠方にある場合には当該停止限界点を前記列車の最
長停止限界点として更新する第3のステップと、
更新した前記
列車の最
長停止限界点を保持すると共に
、前記列車に
対して当該最長停止限界点または前記更新がなかった場合には前記停止限界点を通知する第4のステップと
を実行し、
前記列車の車上制御装置は、
前記地上側の制御装置が通知する前記最
長停止限界点
または前記停止限界点を含む制御情報に基づいて
、前記列車の走行制御を行う第5のステップ
を実行する
ことを特徴とする列車制御方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の列車制御方法であって、
前記他列車の進行方向が、前記列車の進行方向と逆で対向している
ことを特徴とする列車制御方法。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか1項に記載の列車制御方法であって、
前記地上側の制御装置は、
前記列車の在線位置から前記列車の最
長停止限界点までを前記列車の占有範囲とし、
前記列車の占有範囲と前記他列車の占有範囲とから両者の重複を検出すると異常として報知する第6のステップを
実行する
ことを特徴とする列車制御方法。
【請求項14】
請求項10~13のいずれか1項に記載の列車制御方法であって、
前記地上側の制御装置は、
前記列車と前記列車の最
長停止限界点との間に前記他列車の存在を検出すると異常として報知する第7のステップを
実行する
ことを特徴とする列車制御方法。
【請求項15】
請求項13または14に記載の列車制御方法であって、
前記地上側の制御装置は、
前記異常の報知に伴い管理対象である列車に対して停止指令を出力する第8のステップを
実行する
ことを特徴とする列車制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自列車の位置情報に基づいて列車制御を行う列車制御システムおよび列車制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、列車の走行制御においては、地上から車上へ送信する信号をデジタル情報とすることで、停止する軌道回路を地上システムから列車に送信することを可能にしていた。また、車上の自動列車制御装置は、車両性能や路線条件に基づいて停止点に停止する一段階のブレーキ曲線を作成し、このブレーキ曲線より自列車速度が超過している場合には、自動的にブレーキを作動させる。これにより、列車の時隔短縮や乗り心地向上が図られてきた。
【0003】
従来のデジタルATC(Automatic Train Control)では、地上制御装置における列車検知は、軌道回路を用いて行われ、地上から車上への制御情報の通知は、レールを用いたデジタル伝送により実現されてきた。
【0004】
一方、近年、無線技術の発展から、特許文献1に示すような無線を用いた列車制御システムが実用化されつつある。この列車制御システムにおいては、車上制御装置は、列車の位置を検知する機能を有し、検知した列車の位置情報を無線通信部から地上側に送信する。地上側の制御装置は、車上の無線通信部から受信した列車の位置情報に基づいて、列車が安全に走行できる限界位置である停止限界点(先行列車の位置から、走行許可位置を求める対象としている列車の位置検知誤差と、先行列車の位置検知誤差と、先行列車が後退する可能性のある距離とを差し引いた地点)を求め、無線通信を介して車上制御装置に通知する。車上制御装置は、この停止限界点を越えることがないように列車制御を行う。
【0005】
一般的に、車上~地上間の双方向デジタル伝送に無線通信を利用した列車制御システムは、CBTC(Communication Based Train Control)と称される。無線を利用することで地上~車上間での双方向通信が可能となるため、CBTCでは、従来のデジタルATCの軌道回路で行っていた列車の在線検知に代わって、車上が演算し求めた自列車の位置情報を、無線で地上に通知することによって列車検知を実現することができる。これにより、従来のシステムが軌道回路単位の閉塞区間で在線検知を行っていた手法と比較して、CBTCでは実際の列車位置を検知することができるので、地上制御装置は、これに基づいた停止限界点を後方列車に通知することで、デジタルATCよりも時隔および距離間隔を縮めた列車制御を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先行列車即ち対向列車と、後続列車即ち自列車が対向して走行するような場面で、危険な事態が発生しないように、安全性を担保した列車制御を行う必要がある。ここにおいて、「危険な事態」とは、危険な状態から結果として危害に至る事象を意味する。
【0008】
列車が対向していない場合、列車同士の間隔を制御する方法としては、後続列車(自列車)の支障位置を先行列車の最後尾として、そこから安全余裕距離を確保した地点までに停止制御を行う方法がある。
【0009】
これを応用して、列車が対向している場合の列車間隔を制御する方法としては、自列車の支障位置を、対向列車の停止限界点として、そこから安全余裕距離を確保した地点までに停止制御を行う方法がある。
【0010】
ここで、何らかの支障(例えば、列車防護、経路復位等)が対向列車の先頭位置から停止限界点の間で発生することを考えると、対向列車の停止限界点は、支障発生位置から安全余裕距離を確保した地点に短縮される。一方、自列車の停止限界点は、対向列車の停止限界点が短縮されたため、それに伴って支障発生位置に安全余裕距離を確保した地点に延長され前方に進行できるようになる。
【0011】
しかし、対向列車は、ブレーキ制御が間に合わず停止限界点を過走する可能性がある。そこで、自列車は、対向列車の先頭位置から安全余裕距離を確保した位置に停止限界点を短縮する必要があり、自列車の停止パターン範囲内で支障が発生していないにも拘らず、不要な緊急停止制御が行われてしまう問題がある。また最悪の場合、対向列車が自列車の停止限界点を支障して危険な事態となる問題もある。
【0012】
本発明の目的は、列車が対向して走行する際に安全を担保した自列車の停止限界点を作成しそれに基づき列車の走行制御を実行する列車制御システムおよび列車制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る列車制御システムは、演算対象とする列車の進行方向上に存在する支障候補から、同じ進行方向上に在線する他列車の位置を含む支障位置としての条件を満足するものを当該支障位置として検索し、検索した支障位置から支障位置の種別に対応する安全余裕距離を列車の進行方向に確保した停止限界点を演算し、停止限界点と列車に関し先に演算し保持した最長停止限界点とから列車の現在位置を基準にして前記停止限界点の方が遠方にある場合には当該停止限界点を列車の最長停止限界点として更新し、更新された列車の最長停止限界点を保持すると共に列車に対して当該最長停止限界点または更新がなかった場合には停止限界点を通知し、通知される最長停止限界点または停止限界点を含む制御情報に基づいて列車の走行制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、列車が対向して走行する状況において、安全性を担保した停止限界点の作成方法を提供し、それに基づいて列車制御を実行することによって、不要な緊急停止制御や危険な事態に陥ることを防ぎつつ安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1に係る列車制御システムの概略構成の一例であって、二組の列車が同方向に向かって進む場合を示す図である。
【
図2】実施例1に係る列車制御システムの概略構成の一例であって、二組の列車が対向して進む場合を示す図である。
【
図3】従来の列車対向の自列車と対向列車の停止限界点の例を示す図である。
【
図4】対向列車の停止パターン範囲内で列車防護発生時の停止限界点の例を示す図である。
【
図5】対向列車が列車防護範囲を過走した場合の停止限界点の例を示す図である。
【
図6】列車対向時に、自列車の支障位置を対向列車の最
長停止限界点とする例を示す図である。
【
図7】
図5の状態で、対向列車が列車防護範囲を過走した場合の例を示す図である。
【
図8】自列車の支障位置の保持が解除された場合の停止限界点の例を示す図である。
【
図9】地上制御装置が実行する演算フロー(フローチャート)を示す図である。
【
図10】
図9のステップ14を構成する演算処理(停止限界点情報の生成および最長停止限界点の演算処理)のフローチャートを示す図である。
【
図11】
図10のステップ22を構成する演算処理(支障位置を探索する演算処理)のフローチャートを示す図である。
【
図12】
図10のステップ23を構成する演算処理のフローチャートを示す図である。
【
図13】支障の種別と安全余裕距離との関係の一例を示す図である。
【
図14】
図11および
図12に示すステップ22およびステップ23に代わる演算フロー(フローチャート)を示す図である。
【
図15】自列車と対向列車それぞれに関し、停止限界点(最長も含む)、停止パターン、支障位置および列車占有エリアの関係を示す図である。
【
図16】自列車の自列車最長停止限界点と対向列車の在線範囲が重複した場合の例を示す図である。
【
図17】実施例2で地上制御装置が異常事象を検知する処理のフローチャートを示す図である。
【
図18】
図16に示す列車配置の場合に異常出力する処理のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態として、実施例1および2について図を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0017】
図1および
図2は、本発明の実施例1に係る列車制御システムの概略構成の一例を示す図である。
実施例1に係る列車制御システムは、車上システムと地上システムとから構成される。
車上システムは、車上制御装置10と車上無線機11とから構成される。
地上システムは、車上無線機11との間で無線通信を行う地上無線機21と、路線に在線する列車の間隔制御を行う地上制御装置20とから構成される。
【0018】
車上制御装置10は、自列車位置を演算し、また、車上無線機11と地上無線機21間の双方向通信により、自列車位置の位置情報30を地上制御装置20へ通知する。
地上制御装置20は、列車から通知された位置情報30に基づいて、先行列車100からの安全余裕距離300を考慮した後続列車(自列車)203の停止限界点204を演算し、制御情報40として、後続列車(自列車)203へ無線通信により通知する。
上記のシステムにおいて、先行列車100と後続列車(自列車)203とが同方向または対向して走行する場面で、危険な事態に陥らないように、安全性を担保した列車制御を行う必要がある。
【0019】
図1は、本発明の実施例1に係る列車制御システムの概略構成の一例であって、二組の列車が同方向に向かって進む場合を示す図である。走行中に列車が対向していない場合、列車同士の間隔を制御する方法として、後続列車(自列車)203の支障位置は、先行列車100の最後尾となり、その位置から安全余裕距離300を確保した地点までに停止制御を行う方法がある。
【0020】
図2は、本発明の実施例1に係る列車制御システムの概略構成の一例であって、二組の列車が対向して進む場合を示し、
図3~8は、二組の列車が対向している場合における自列車と対向列車の停止限界点の様々なケースを示す図である。
【0021】
列車が対向している場合の列車間隔を制御する方法としては、
図3に示すように、自列車支障位置206を対向列車停止限界点104として、その地点から安全余裕距離300を確保した地点までに停止制御を行う方法がある。
【0022】
しかし、
図4に示すように、何らかの支障、例えば列車防護400が対向列車停止パターン105の範囲内で発生した場合、対向列車停止限界点104は、列車防護400の対向列車支障位置106から安全余裕距離300を対向列車103側へ確保した地点に短縮される。一方、自列車停止限界点204は、対向列車停止限界点104が短縮されたため、それに連動して列車防護400の自列車支障位置206に安全余裕距離300を確保した地点に延長され、前方に進行できるようになる。なお、何らかの支障としては、経路復位等の場合もあり得る。
【0023】
次に、
図5に示すように、対向列車103が、自らのブレーキ制御が間に合わずに過走して、自列車停止限界点204に到達する場合を想定する。この場合、自列車停止限界点204は、対向列車103の先頭位置から安全余裕距離300を自列車203側へ確保した位置に短縮されるため、自列車停止パターン205の範囲内で支障が発生していないにも拘らず、不要な緊急停止制御を行うことになる。また、最悪の場合、対向列車103が自列車停止限界点204を支障して危険な事態と判断される。
【0024】
上記した事象を防ぐために、地上制御装置20が先行列車100の運転方向転換を検知して列車対向の状態になった場合は、
図6に示すように、自列車支障位置206を最長の対向列車停止限界点104に設定し、その限界点104に安全余裕距離300を自列車203側に確保した地点までに自列車203を停止させるようにする。その上で、対向列車103の運転方向に向かって停止限界点が対向列車103の遠方に更新された時は、最新の停止限界点を最長の対向列車停止限界点104に更新して保持する。
【0025】
また、対向列車支障位置106も同様で、対向列車支障位置106を最長の自列車停止限界点204に設定し、その限界点204に安全余裕距離300を対向列車103側に確保した地点までに対向列車103を停止させるようにする。その上で、自列車203の運転方向に向かって停止限界点が遠方に更新された時は、最新の停止限界点を最長の自列車停止限界点204に更新して保持する。
さらに、
図6で、地上制御装置20が先行列車100の運転方向転換を検知した場合に、自列車203の支障位置を対向列車103の最
長停止限界点としたが、運転方向によらず常時、列車の支障位置を列車の最
長停止限界点としてもよい。
【0026】
上記した停止点作成方法により、
図7に示すように、仮に、対向列車103が列車防護400を過走したとしても、自列車停止限界点204の短縮は発生しない。
また、対向列車103が運転方向を順方向(自列車203と同じ運転方向)に戻した場合、
図8に示すように、保持していた自列車支障位置206を解除(リセット)して、対向列車103の最後尾にセットする。つまり、自列車203及び対向列車103が同一方向に走行する際の初期状態(初期値)に戻す。また、自列車停止限界点204を、先行列車100となった対向列車103の最後尾から安全余裕拒理300を自列車203側に確保した地点まで延長する。自列車支障位置206の保持を解除(リセット)する条件は、列車走行経路が変更となった場合、または、対向列車103が過走して最長の対向列車停止限界点104を超えた場合、にも成立する。
【0027】
さらに、対向列車103が停止した場合、それまで保持していた対向列車103の最長の対向列車停止限界点104を一旦解除(リセット)するが、列車が対向して走行する限りは、対向列車103の最長の対向列車停止限界点104に安全余裕距離300を自列車203側に確保した地点を再度演算して、自列車停止限界点204に反映する。
以上の説明では、先行する列車を対向列車、後続の列車を自列車として説明したが、先行する列車を自列車、後続の列車を対向列車に読み替えることもできる。
【0028】
地上制御装置20は、
図1や
図2に示すように、ある列車に対して停止限界点を演算する場合に、その列車自身の進路上において、前方に存在する他列車の後端位置を確認する機能を持つ。ここで、上述した列車対向時における間隔制御を実現するに当たって、地上制御装置20は、
図9に示す演算フロー(フローチャート)を実行する演算論理を有する。すなわち、いずれかの列車に対する停止限界点情報を生成する場合には、各列車に対して設定された最
長停止限界点同士の関係を考慮する。
【0029】
図3~
図8に示す列車の間隔制御を実現するに当たって、地上制御装置20は、例えば予め定められた周期に基づき、
図9に示す演算フロー(フローチャート)を実行する。
本実施例は、車上制御装置10が、周期的に位置情報30を送信し、一方、地上制御装置20が、管理範囲に存在する列車から受け取った情報に基づき、制御情報を生成し列車に対して送信するシステムを構成している。
【0030】
また、本発明は、この構成に限定されるものでなく、例えば、列車間に位置情報を相互に通信し、制御情報をそれぞれの列車が独立して生成する構成であっても、停止限界点に関する制御情報生成の論理を共通して適用することが可能である。その場合は、各列車に搭載された車上制御装置10が、本実施例の地上制御装置20と同様の動作を実行するものとなる。
【0031】
次に、
図9に示す演算フロー(フローチャート)について説明する。
地上制御装置20は、ある周期においてこの演算フロー(フローチャート)を実行する場合、初めに自身が管理する列車の集団を特定する。なお、以下に説明する演算処理の実行主体は地上制御装置20であるが、以下の各ステップでは主体の記載を省略する。
【0032】
ステップ11(S11)で、間隔制御を実行すべき対象となる列車nを特定する情報IDn(n=1,2・・・m)を読み込む。
ここで、列車nの特定情報としては、例えば、演算周期ごとに地上無線機21を介して通知された列車の位置情報や列車の固有番号等を、所定時間枠内に記録するなどして取得する。または、管理する距離範囲を定め、通知された位置情報が当該距離範囲内に含まれる列車を対象としてもよい。さらに、列車IDとしては、任意のものを採用してよいが、一例として、1以上の整数を割り当て、n=1~mに対応する列車が存在するものとしている。変数nは、各列車IDに対して重複なく割り当てられかつ連続する値とする。
【0033】
ステップ12(S12)で、各列車IDについて以降の処理を実行するために、変数nに対して初期値の1を割り当てる。
ステップ13(S13)~ステップ16(S16)までの処理は、ループ処理となり、m番目の列車IDに対する演算を完了するまで繰り返し実行する。
【0034】
ステップ14(S14)で、現在の演算対象である列車nについて、停止限界点情報の生成および最長停止限界点を演算する。
ステップ15(S15)で、停止限界点を列車nに対して送信する。
【0035】
ステップ16(S16)で、nに1を加えて演算対象とする列車IDを更新する。
すべての列車IDについて、ステップ14(S14)およびステップ15(S15)の演算を実行すると、当該ループ処理の演算は終了と判断され(ステップ13(S13)の判定がYES)、次回の演算処理へ推移する。
また、地上制御装置20の管理範囲から抜けた列車については、列車IDが存在しなくなるため、次回の演算処理においては、当該列車に対する演算は実行されない。
【0036】
次に、ステップ14(S14)について詳細に説明する。
図10は、
図9のステップ14(S14)を構成する演算処理(停止限界点情報の生成および最長停止限界点の演算処理)のフローチャートを示す図である。演算処理の実行主体は地上制御装置20であるが、以下の各ステップでは主体の記載を省略する。
【0037】
ステップ21(S21)で、演算対象である列車n(以降、「対象列車」と呼ぶこともある)に関して、現在位置、進行方向、線区の始点および終点を含む進路情報、現在の最長停止限界点情報を読み込む。ここで、現在位置に関しては、対象列車から無線通信により通知された走行キロ程、線路等に設けられた列車検知装置により推定された列車位置、進路を所定間隔で区切り対象列車が在線する区間を列車位置として利用するなどの種々の方法を用いることが可能である。
【0038】
ステップ22(S22)で、先のステップ21(S21)で取得した列車の現在位置を含めた各情報から、対象列車の進行方向上で現在位置から進路の終点までに存在する支障位置を探索する。
【0039】
ステップ23(S23)で、探索の結果得られたそれぞれの支障位置に関して、停止限界点を生成する。これにより、後述する支障の種別によって異なる安全余裕距離を設定し運用することが可能となる。生成された停止限界点(以降では、「停止限界点候補」と呼ぶこともある)の中から、対象列車の進行方向において最も対象列車の現在位置に近いものを、停止限界点として決定する。すなわち、決定した停止限界点が、実際に対象列車に対して与えられる(すなわち、車上制御装置10に対して送信する)制御情報の一部となり、他の停止限界点候補は破棄される。
【0040】
ステップ24(S24)で、先のステップ21(S21)で読み込んだ対象列車に対する最新の最長停止限界点と、ステップ23(S23)で決定した停止限界点とを、現在位置を基準とし現在位置からの距離として両者を比較する。
【0041】
現在位置をゼロとしたときに、停止限界点>最長停止限界点である場合(YES)、ステップ25(S25)で、最長停止限界点を今回の演算周期で得られた停止限界点に更新する。すなわち、ステップ25(S25)の演算が実行されると、次の演算周期が回ってくるまでは、最長停止限界点と停止限界点とは一致した状態が続くことになる。
【0042】
一方で、停止限界点が最長停止限界点以下である場合(NO)、停止限界点を対象列車に対して送信するが最長停止限界点は更新されない。したがって、次回の演算周期が始まるまでは、今回の演算周期よりも以前に取得された最長停止限界点が保持され、かつ、対象列車に関しては停止限界点で停止できるように走行する。
【0043】
続いて、ステップ22(S22)が実行する演算内容、すなわち対象列車の支障位置を探索する処理について、詳細に説明する。
図11は、
図10のステップ22(S22)を構成する演算処理(支障位置を探索する演算処理)のフローチャートを示す図である。演算処理の実行主体は地上制御装置20であるが、以下の各ステップでは主体の記載を省略する。
【0044】
ステップ100(S100)で、対象列車の現在位置から進路の終端までに存在する支障候補P(j)を抽出する。なお、支障候補P(j)とは、支障位置が設定される候補となる位置を示す情報である。例えば、列車n(n=1~m)の最長停止限界点、在線範囲(列車の先頭位置から後端位置)、運行管理システムから指示された進入禁止区間(防護区間)、その他任意の手段によって列車の走行を停止させる(停止現示)べき位置、またはシステム上設定可能な最大値の情報が含まれる。
【0045】
ステップ101(S101)で、抽出された支障候補P(j)の有無が判定される。ここで、支障候補P(j)が無い(確認されない)場合、すなわちj=0である場合(YES)の処理については後述する。
【0046】
支障候補P(j)が存在する(j>0である)場合(NO)を以下に説明する。なお、地上制御装置20が、予め進路の終端位置を支障候補として取り込むように構成されている場合には、ステップ101(S101)および後述するステップ108(S108)は省略してよい。
【0047】
ステップ101(S101)で、支障候補P(j)が存在すると、すべての支障候補P(j:j=1~k)について支障位置として確定させるか否かの判定処理(ステップ102(S102)~ステップ107(S107))を実行する。支障位置の確定処理としては、それぞれの支障候補の特性に合わせて異なる判断ロジックを採用してよい。
図11に示す判断ロジックは、最長停止限界点に関する判断ロジックの一例であり、他の支障候補に関する判断ロジックについては記載を省略している。また、支障候補の中には判断ロジックを考慮せずに、支障位置として確定させてよいものが含まれても構わない。
【0048】
最長停止限界点に関する判断ロジックは、ステップ104(S104)として、支障候補P(j)に紐づけられた方向情報と対象列車の進行方向とが一致するか否かを判断する方法が挙げられる。
最長停止限界点は、列車nのいずれかに対応して取得される情報であって、原則として、その最長停止限界点を持つ列車の進行方向に関する情報(方向情報)が存在する。したがって、最長停止限界点に紐づけられた方向情報を見ることで、その最長停止限界点を生成した列車(以下、「他列車」と呼ぶ)の進行方向が判断できる。例えば、対象列車の進行方向と他列車の方向情報とが一致する場合は、
図1に示すように、他列車の後端位置が支障位置として取得される必要がある。
そこで、ステップ104(S104)の判定処理で、対象列車の進行方向と他列車の方向情報とが一致する(支障位置としての条件を満たさない)場合(NO)は、ステップ105(S105)で、当該支障候補P(j)を削除する。次いで、ステップ107(S107)へ移行し、次の支障候補についての判定に進む。
【0049】
一方で、対象列車の進行方向と他列車の方向情報とが相違する場合は、他列車の最長停止限界点を支障位置として取得する必要がある(支障位置としての条件を満たす)。そのため、ステップ104(S104)の判定処理で、両者の比較結果が相違する(支障位置としての条件を満たす)場合(YES)は、ステップ106(S106)で、当該支障候補P(j)を維持する。次いで、ステップ107(S107)へ移行して、次の支障候補についての判定に進む。
【0050】
以上のようにして、各支障候補についてのフィルタリングが実行され、すべての支障候補P(j)について確認を実行する。
この確認が終了する(ステップ103(S103)でYESと判定される)と、ステップ109(S109)で、支障位置として扱うべきとされた支障候補P(h)を支障位置Q(h)として設定する。換言すると、ステップ100(S100)からステップ108(S108)までの処理を通じて、支障候補P(j)から支障位置Q(h)のリストを生成することになる。
【0051】
また、ステップ101(S101)で支障候補が無い(確認されない)場合(YES)、進路終端を支障候補P(x)として設定し、ステップ109(S109)に移行する。
以上で説明したステップ22(S22)の演算処理によって、地上制御装置20は、対象列車に関する支障位置を決定する。
【0052】
次に、決定した支障位置Q(h)から停止限界点の生成し停止限界点を決定するステップ23(S23)の演算処理について詳細に説明する。
図12は、
図10のステップ23(S23)を構成する演算処理のフローチャートを示す図である。演算処理の実行主体は地上制御装置20であるが、以下の各ステップでは主体の記載を省略する。
【0053】
ステップ200(S200)で、全ての支障位置Q(h)を抽出する。
ステップ201(S201)で、変数hに1を代入する。
ステップ203(S203)~ステップ206(S206)で、変数hがiに至るまでループ処理を繰り返し実行する。
【0054】
ステップ204(S204)で、支障位置Q(h)を一つずつ読み出し、それぞれの支障の種類に応じた安全余裕距離L(h)を読み出す。ここで、
図13に、支障の種別と安全余裕距離との関係の一例を示す。図示されるように、支障の種別によって確保されるべき安全余裕距離は異なるものとした方がよいケースがある。例えば、支障が最長停止限界点であれば、これは対向列車103を意味するため、安全余裕距離は大きな値を設定するとよい。一方で、列車の後端が支障として検知される場合は、走行方向が一致しているか否かに依らず、より短い距離を設定することが可能である(この場合、もし前方の列車が対向していると最長停止限界点が支障として観測されるので、安全性は担保される)。その他、進路終端(例えば、駅)は停止することが前提となるため、安全余裕距離は極小とすることも想定される。
【0055】
ステップ205(S205)で、支障の種別に応じて読み出した安全余裕距離L(h)を、それぞれの支障位置Q(h)から差し引いて、各支障位置Q(h)に関する停止限界点候補S(h)を算出する。
ステップ206(S206)で、変数hに1を加えてステップ203(S203)に戻し、ループ処理を続行する。
【0056】
すべての支障位置Q(h)に対して停止限界点候補S(h)が生成されると、ステップ207(S207)で、停止限界点候補S(h)の中から、対象列車の現在位置を基準として最も近い停止限界点候補(Min(S(h))を選び、これを制御情報に反映する停止限界点とする。すなわち、少なくとも1つ以上の支障位置Q(h)に関して、それぞれに停止限界点候補S(h)を求め、最も対象列車に対して近い停止限界点Min(S(h)を選択し制御に利用する。これにより、対象列車は安全な走行を実現できることになる。
【0057】
図12に示すステップ23(S23)で決定された停止限界点が制御情報に反映され、以後順に、ステップ24(S24)、ステップ25(S25)の演算処理(
図10)が実行される。
【0058】
ステップ21(S21)~ステップ25(S25)で構成されるステップ14(S14)により取得した最長停止限界点は、対象列車に関して安全を確保できる最遠方の位置が常に保持されるものとなる。
【0059】
以上のとおり、停止限界点の演算処理によると、特に単線で列車が双方向に運転可能な状況において、安全性の確保と列車走行制御の安定化を図ることが可能となる。すなわち、地上制御装置20は、各列車に関する停止限界点を各列車の進行方向に安全を確保できる最遠方の点として演算する。
【0060】
また、地上制御装置20は、いずれの列車においても、停止限界点を求めると、その列車に関する最長停止限界点との比較を実行する。その結果、地上制御装置20は、最長停止限界点を延伸可能と判定するとそれを新たな最長停止限界点として採用し、延伸できない場合は既存の最長停止限界点を維持するように動作する。
【0061】
したがって、各列車に関する最長停止限界点は、延伸することはあっても原則として引き戻しが発生しない。その結果、
図5に示すような、他列車の停止限界点の延伸およびそれに続く引き戻しの影響による自列車203の停止限界点の唐突な引き戻しの発生が起こらないため、列車をより安全性高く運用することが可能となる。
【0062】
なお、以上で説明した例では、安全余裕距離を支障の種類に応じて任意に設定可能な場合を説明したが、安全余裕距離を一律に設定する場合も想定される。そのような場合には、
図11および
図12に示すステップ22(S22)およびステップ23(S23)の演算処理に代わって、
図14に示す演算フロー(フローチャート)を採用することもできる。すなわち、安全余裕距離は同じ(一律)であるため、停止限界点の位置は支障候補の位置にのみ依存することになる。
【0063】
図14に示すように、ステップ301(S301)で、支障候補P(j)を対象列車の現在位置に近い順から読み出す。
ステップ302(S302)~ステップ305(S305)によりループ処理を実行する中で、ステップ304(S304)で、逐次判断ロジックを実行する。
【0064】
ステップ304(S304)で、支障位置として確定させるべき支障候補P(j)が見つかった(支障候補P(j)の方向情報と他列車の進行方向とが一致しない)場合は(NO)、ステップ307(S307)で、当該支障位置Pxに対して停止限界点を生成する。
もし、支障位置として確定されるべき支障候補が確認されなかった(当該ループ処理で、支障候補が見つからなかった)場合は、進路終端を支障位置として設定し(ステップ306(S306)、停止限界点を生成する。
【0065】
以上のように、対象列車に近い順に支障候補を読み出して、初めに発見された支障位置に対して停止限界点を生成する制御であれば、支障候補を全て判断するケースを削減でき、また、一つの支障位置があれば制御情報に反映させる停止限界点を決定できるため、演算負荷を抑えることができ、有用である。
【0066】
なお、以上の実施例1では、車上~地上間のデータ送受信に無線通信を利用した列車制御システムについて説明したが、従来のデジタルATCのように軌道回路により地上装置から車上装置に列車制御指示を送信するシステムにおいても、列車対向時に自列車停止限界点を対向列車103の最長停止限界点から作成する技術思想を適用することが可能である。
【実施例2】
【0067】
図1および
図2に示す実施例1に係るシステムでは、サイバーテロ、通信障害または装置の故障を含む、何らかの原因に起因して、地上制御装置20で停止限界点の演算不良や無線通信の異常が発生する可能性を否定できない。その際に、不正な列車位置検知や停止限界点作成を防ぐために、地上制御装置20が異常状態を検知する場合、以下に示す実施例2に係るシステムを採用することが望ましい。
【0068】
上記の異常状態を検知する方法として、地上制御装置20が受け取る自列車203の位置情報30および地上制御装置20が演算する自列車最長停止限界点207に対して、地上制御装置20が受け取る対向列車103の位置情報30または地上制御装置20が演算する対向列車最長停止限界点107との重複を判定する方法が挙げられる。
【0069】
図15は、自列車203と対向列車103それぞれに関し、停止限界点(最長も含む)、停止パターン、支障位置および列車占有エリアの関係を示す図である。また、
図16は、自列車203の自列車最長停止限界点207と対向列車103の在線範囲が重複した場合の例を示す図である。
図16の例の場合には、地上制御装置20は、この事象を異常として検知する。ここで、在線範囲とは、列車の先頭位置から、後尾位置と位置情報誤差(これらを含めて「後端位置」と呼ぶ)までを加えた範囲とする。
【0070】
また、地上制御装置20は、自列車最長停止限界点207と対向列車103の最長停止限界点107の位置が前後した場合にも、この事象を異常として検知することが望ましい。
【0071】
以下に、上記の異常事象を検知する処理について説明する。
図17は、実施例2で地上制御装置20が異常事象を検知する処理のフローチャートを示す図である。
図17に示すフローチャートによる処理手順は、実施例1における
図9に示すフローチャートによる処理手順と概ね同様であるので、以下では、相違する部分に着目して説明する。処理の実行主体は地上制御装置20であるが、以下の各ステップでは主体の記載を省略する。
【0072】
ステップ51(S51)~ステップ54(S54)において、実施例1と同様に(
図9のステップ11(S11)~ステップ14(S14))、各列車(列車n)から現在の位置情報等により列車の特定情報を読み込し、停止限界点情報を生成しかつ最長停止限界点を決定する。
【0073】
続いて、ステップ55(S55)で、受け取った位置情報を基に各列車(列車n)の在線範囲を決定しかつ占有範囲を設定する。すなわち、各列車(列車n)について、現在位置と後端位置とを設定して各列車(列車n)の在線範囲とし、また、各列車(列車n)の現在位置から最長停止限界点までを占有範囲として設定する。
【0074】
ステップ56(S56)で、複数の列車間での列車在線範囲、最長停止限界点の重複を判定して異常(エラー)を検知する。異常(エラー)を検知すると(YES)、ステップ59(S59)で異常検知の警報を出力する。異常(エラー)がなければ(NO)、ステップ57(S57)で、実施例1と同様に、各列車(列車n)に停止限界点を送信する。
以降は、停止限界点および最長停止限界点の作成・更新を周期的に実施する。
【0075】
次に、自列車203に対する停止限界点および最長停止限界点の作成処理については、実施例1と同様に、
図10に示すステップ14(S14)のフローチャートでよい。このフローチャートの説明は、先のとおりであるので省略する。
【0076】
さらに、
図16に示す、自列車203と自列車最長停止限界点207の中間に対向列車103が存在する場合にも、地上制御装置20は異常を検知する。
図18は、
図16に示す列車配置の場合に異常出力する処理のフローチャートを示す図である。処理の実行主体は地上制御装置20であるが、以下の各ステップでは主体の記載を省略する。
【0077】
図17と同じステップ55(S55)で、自列車203の後端位置から自列車最長停止限界点までを占有範囲として設定する。この占有範囲の設定処理は、
図17に示すフローチャートと同様に、周期的に実行するため、管理するすべての列車について占有範囲が設定される。
【0078】
ステップ502(S502)で、管理化にある全列車に関して全占有範囲の情報を取得する。
ステップ503(S503)で、取得した占有範囲において重複が発生していないかを判定する。重複状態を判定(発見)すると(YES)、ステップ59(S59)で、演算において何らかの異常が生じたと検知し警報を発する。また、この警報に伴い、地上制御装置20の管理下にある全列車に対して、緊急停止の指令を出力する処置を講じてもよい。
【0079】
ここで、ステップ503(S503)で、管理下にある全列車に関して占有範囲の重複状態を判定するが、これに代わって、対象列車の占有範囲において、他列車の在線範囲の設定有無、他列車に関する最長停止限界点の設定有無を検査するように構成してもよい。対象列車は順次切り替わるため、結果的に、地上制御装置20の管理下にある全列車について占有範囲の重複検査は実行され、同様に異常を検知することが可能である。
【0080】
続いて、ステップ504(S504)で、他列車が対象列車と対象列車の最長停止限界点との間に存在するか否か(
図16に示すケースに該当するか否か)の判定を実行する。存在すると判定すると(YES)、ステップ59(S59)による異常検知により警報出力をする。また、この判定は、対象列車の占有範囲内において、他列車に関する在線範囲の設定有無を検査することによっても可能である。対象列車の占有範囲内に在線範囲の設定が検出された場合は、異常検知により警報出力をする。さらに、この警報に伴い、地上制御装置20の管理下にある全列車に対して、緊急停止の指令を出力する処置を講じてもよい。
【0081】
以上のとおり、実施例2によれば、サイバーテロ、通信障害または装置の故障を含む、何らかの原因に起因して、地上制御装置20で停止限界点の演算不良や無線通信の異常が発生した際に、不正な列車位置検知や停止限界点作成を防ぐことが可能となる。これにより、列車運行の安全性をより向上させることができる。
【0082】
また、ステップ55(S55)における占有範囲の設定に際しては、対象列車の後端位置から最長停止限界点までを結合させたものを採用してもよい。この場合には、ステップ504(S504)の処理を省略し、ステップ503(S503)の処理によって、同様の異常検知を実現することができる。
【0083】
さらに、ステップ502(S502)における他列車の占有範囲の読み込み(取得)に代わって、他列車の後端位置から他列車の最長停止限界点までを在線範囲として検出する処理を導入してもよい。この場合には、ステップ503(S503)の処理を省略し、ステップ504(S504)の処理によって、異常検知を実現することができる。その際の他列車の在線範囲は、実際の在線範囲よりも大きくなるため、ステップ504(S504)の処理においてのみ用いる仮想的な在線範囲を設定し、終了後は直ちに当該設定情報を削除することが望ましい。
【0084】
そしてまた、ステップ55(S55)における占有範囲の設定に際しては、各列車について設定される度に、情報を地上制御装置20が最新情報として保持する。あるいは、これに替えて、占有範囲の検査を実行する際に演算し、検査終了後は当該情報を消去するように構成してもよい。すなわち、地上制御装置20は、ステップ55(S55)に続いて、対象列車の占有範囲において、進行方向が対向する他列車の最長停止限界点を探索する。この処理により地上制御装置20において、占有範囲を記録するための設定やメモリ等が不要となり、より簡便ながら高い安全性を持つシステムを実現することができる。
【0085】
ここで、ステップ55(S55)およびステップ56(S56)による占有範囲の設定およびエラーチェック処理については、各列車に関する停止限界点、最長停止限界点を演算する処理がすべて終了した後に実行する構成としてもよい。すなわち、ステップ55(S55)、ステップ56(S56)およびステップ59(S59)の各処理を、ステップ53(S53)で地上制御装置20の管理下にある全列車に関して停止限界点を通知するステップ57(S57)の処理が終了したことをもって実行することもできる。これにより、演算負荷を下げつつ安全性の高いシステムを構築することができる。
【0086】
なお、本発明は、上記した実施例1および2に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例1および2は、本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0087】
また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えること、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えること、各実施例の構成の一部について他の構成の追加・削除・置換をすること、も可能である。さらに、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよく、また、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報を、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体、に置くことができる。
【符号の説明】
【0088】
10:車上制御装置 11:車上無線機 20:地上制御装置 21:地上無線機
30:位置情報 40:制御情報 100:先行列車 103:対向列車
104:対向列車停止限界点 105:対向列車停止パターン
106:対向列車支障位置 107:対向列車最長停止限界点
108:対向列車占有エリア 203:自列車(後続列車) 204:自列車停止限界点
205:自列車停止パターン 206:自列車支障位置 207:自列車最長停止限界点
208:自列車占有エリア 300:安全余裕距離 400:列車防護