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特許7141361カルシウムアルミノシリケート、及び、水硬性組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】カルシウムアルミノシリケート、及び、水硬性組成物
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/26 20060101AFI20220914BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20220914BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20220914BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
C01B33/26
C04B22/08 Z
C04B22/14 B
C04B28/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019078284
(22)【出願日】2019-04-17
(65)【公開番号】P2020176025
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】島崎 大樹
(72)【発明者】
【氏名】森 泰一郎
(72)【発明者】
【氏名】荒木 昭俊
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0084882(US,A1)
【文献】特開2004-099430(JP,A)
【文献】国際公開第2004/018361(WO,A1)
【文献】特開2013-023400(JP,A)
【文献】特開2014-105151(JP,A)
【文献】特開2018-111619(JP,A)
【文献】国際公開第2013/077216(WO,A1)
【文献】特表2021-506708(JP,A)
【文献】特開2020-066543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20-39/54
C04B 22/08
C04B 22/14
C04B 28/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムを含む酸化物、アルミニウムを含む酸化物、及び、珪素を含む酸化物を含むカルシウムアルミノシリケートであって、
ラマンスペクトルにおいて、ラマンシフトが500cm-1以上600cm-1以下の領域に現れるピークXと、ラマンシフトが700cm-1以上900cm-1以下の領域に現れるピークYとを有し、ピークXとピークYの強度比X/Yが0.8以上、1.3以下である、カルシウムアルミノシリケート。
【請求項2】
前記ラマンシフトが500cm-1以上600cm-1以下の領域に現れるピークXの半値幅が40cm-1より大きい、請求項1に記載のカルシウムアルミノシリケート。
【請求項3】
前記カルシウムアルミノシリケートを100質量%としたとき、前記カルシウムアルミノシリケート中のCaO含有量が30質量%以上53質量%以下、Al含有量が30質量%以上50質量%以下、SiO含有量が1質量%以上18質量%以下である、請求項1または2記載の、カルシウムアルミノシリケート。
【請求項4】
さらに、マグネシウムを含有する酸化物、鉄を含有する酸化物、チタンを含有する酸化物、ナトリウムを含有する酸化物、カリウムを含有する酸化物から選ばれる1種又は2種以上を含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の、カルシウムアルミノシリケート。
【請求項5】
セッコウ及び/又はセメントと、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のカルシウムアルミノシリケートを含有する、水硬性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウムアルミノシリケート、及び、水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント等の水硬性物質に急硬性等を与える目的で、カルシウムアルミネートを加える技術が知られている。カルシウムアルミネートはCaOとAlを化学成分として含み、一般にCaO源となる原料とAl源となる原料を、所定の配合比で混合した原料粉末を高温加熱して製造される。
【0003】
例えば、特許文献1には、鉄の総含有量が0.5~2質量%且つ3価の鉄含有量が0.5質量%以下であり、ガラス化率53%以下のカルシウムアルミネートを有効成分とするカルシウムアルミネート速硬混和剤が開示されている。
また、特許文献2には、CaOとAlの含有モル比が1~1.5の結晶質カルシウムアルミネート(A)と、CaOとAlの含有モル比が1.3~1.7の非晶質カルシウムアルミネート(B)からなる混合カルシウムアルミネートであって、(A)のCaOとAlの含有モル比が(B)のCaOとAlの含有モル比よりも0.1以上低い混合カルシウムアルミネートを有効成分とするカルシウムアルミネート系超速硬剤が開示されている。
また、特許文献3には、化学成分としてAlとCaOとSiOとTiOを合計で95質量%以上含有するあるミン酸カルシウムシリケートであって、AlとCaOの含有モル比(SiOとTiOの含有モル比を特定した、速硬材に係る発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-124119号公報
【文献】特開2014-129203号公報
【文献】特開2014-105151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、従来のカルシウムアルミネートによっては、セメント等の水硬性物質に添加した際に十分な反応率を付与することができない、すなわち、セメント等の水硬性物質に添加した際に十分な急硬性を付与することができない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものである。本発明者らは鋭意検討の結果、カルシウムを含む酸化物、アルミニウムを含む酸化物、及び、珪素を含む酸化物を含むカルシウムアルミノシリケートにおいて、該カルシウムアルミノシリケートに係るラマンスペクトルにおける、特定の領域に現れるピークXの強度と、特定の領域に現れるピークYの強度との強度比X/Yの大きさを規定することで、十分に強熱減量が大きくなり、セメント等の水硬性物質に添加した場合、十分な急硬性を付与することができるカルシウムアルミノシリケートとなることを知見し、本願発明を成し得たものである。
すなわち、本発明によれば、以下に示すカルシウムアルミノシリケート、及び、水硬性組成物が提供される。
【0007】
本発明によれば、カルシウムを含む酸化物、アルミニウムを含む酸化物、及び、珪素を含む酸化物を含むカルシウムアルミノシリケートであって、
ラマンスペクトルにおいて、ラマンシフトが500cm-1以上600cm-1以下の領域に現れるピークXと、ラマンシフトが700cm-1以上900cm-1以下の領域に現れるピークYとを有し、ピークXとピークYの強度比X/Yが0.8以上、1.3以下である、カルシウムアルミノシリケートが提供される。
【0008】
また、本発明によれば、セッコウ及び/又はセメントと、上記のカルシウムアルミノシリケートを含有する、水硬性組成物が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、十分に強熱減量が大きく、セメント等の水硬性物質に添加した場合、十分な急硬性を付与することができるカルシウムアルミノシリケート、及び、該カルシウムアルミノシリケートを含有する水硬性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」の意である。
【0011】
本実施形態に係るカルシウムアルミノシリケートは、カルシウムを含む酸化物、アルミニウムを含む酸化物、及び、珪素を含む酸化物を含む。すなわち、本実施形態に係るカルシウムアルミノシリケートは、化学組成として、CaO、Al、SiOを含む。
また、本実施形態に係るカルシウムアルミノシリケートは、ラマンスペクトルにおいて、ラマンシフトが500cm-1以上600cm-1以下の領域に現れるピークXと、ラマンシフトが700cm-1以上900cm-1以下の領域に現れるピークYとを有し、ピークXとピークYの強度比X/Yが0.8以上、1.3以下である。ピークXとピークYの強度比X/Yは、0.9以上、1.2以下であることが好ましく、1.0以上、1.1以下であることが特に好ましい。
【0012】
本発明によれば、カルシウムアルミノシリケートにおいて、特定の領域に現れるピークXの強度と、特定の領域に現れるピークYの強度との強度比X/Yの大きさを規定することで、十分に強熱減量が大きく、セメント等の水硬性物質に添加した場合、十分な急硬性を付与することができるカルシウムアルミノシリケートとすることができる。
ここで、ラマンシフトが500cm-1以上600cm-1以下の領域に現れるピークXと、ラマンシフトが700cm-1以上900cm-1以下の領域に現れるピークYは共にAl-O-Al結合に起因するピークであり、ガラス骨格であるAlO四面体の結合状態に関係するピークであると考えられる。
このうち、500cm-1以上600cm-1以下の領域に現れるピークXは、AlO四面体のうち、4つの頂点全てが他の四面体と共有している構造(≡Al-O-Al≡)の量に関係すると考えられる。ここでピークXの強度が強いことは結晶成分の量が多く、ガラス成分の量が少ないことを示すものと考えられる。
また、700cm-1以上900cm-1以下の領域に現れるピークYはAlO四面体のうち、Caの導入によって、AlO四面体結合の一部が切断され、3つの頂点を他の四面体と共有している構造、または、2つの頂点を他の四面体と共有している構造(≡Al-O-Al≡ + CaO → ≡Al-O-Ca Ca-O-Al≡)の量と関連していると考えられる。ここで、Caの導入によって、AlO四面体結合の一部が切断した構造は、水と接触した際、Caが容易に溶出するため、反応を促進すると考えられるが、ピークYの強度が強いことは、ガラス構造が維持しにくいことを示すものと考えられる。
本実施形態によれば、特定の領域に現れるピークXの強度と、特定の領域に現れるピークYの強度との強度比であるX/Yの大きさを規定し、ガラス構造の量とその維持のしやすさをバランスよく保つことによって、十分に強熱減量が大きく、セメント等の水硬性物質に添加した場合、十分な急硬性を付与することができるカルシウムアルミノシリケートとすることができるものと推測される。
なお、本発明は上記推測メカニズムに限定されるものではない。
【0013】
上記ラマンスペクトルにおいて、ラマンシフトが500cm-1以上600cm-1以下の領域に現れるピークXの半値幅は、40cm-1より大きいことが好ましい。半値幅の上限は特に制限されないが、例えば、200cm-1以下とすることができる。
ピークXの半値幅を上記範囲内とすることで、より十分に強熱減量が大きく、セメント等の水硬性物質に添加した場合、十分な急硬性を付与することができるカルシウムアルミノシリケートとなるものと推測される。
【0014】
なお、本実施形態において、カルシウムアルミノシリケートのラマンスペクトルは、市販のラマン分光分析法を用いて測定することができる。測定条件は実施例に記載の通りである。
また、ピークXとピークYの強度比X/Y、及び、ピークXの半値幅は、カルシウムアルミノシリケートの原料の種類及び量、並びに、製造方法を調整することによって、制御することができる。
【0015】
本実施形態に係るカルシウムアルミノシリケートは、上記カルシウムアルミノシリケートを100質量%としたとき、カルシウムアルミノシリケート中のCaO含有量が30質量%以上53質量%以下、Al含有量が30質量%以上50質量%以下、SiO含有量が1質量%以上18質量%以下であることが好ましく、カルシウムアルミノシリケート中のCaO含有量が40質量%以上53質量%以下、Al含有量が35質量%以上45質量%以下、SiO含有量が1質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。
CaO、Al、SiOの含有量上記数値範囲内とすることによって、流動性、可使時間の確保、温度依存性、強度、耐久性、および、美観の観点からも信頼性の高い水硬性組成物を調製することが可能な、カルシウムアルミノシリケートとなる。
【0016】
本実施形態に係るカルシウムアルミノシリケートは、CaO、Al、SiO以外の成分を含むことができ、マグネシウムを含有する酸化物、鉄を含有する酸化物、チタンを含有する酸化物、ナトリウムを含有する酸化物、カリウムを含有する酸化物から選ばれる1種又は2種以上を含むことが好ましい。より具体的には、本実施形態に係るカルシウムアルミノシリケートは、MgO、Fe、TiO、KO、NaOから選ばれる1種又は2種以上を含むことが好ましい。
本実施形態に係るカルシウムアルミノシリケートは、少なくとも鉄を含有する酸化物を含むことがより好ましい。
本実施形態に係るカルシウムアルミノシリケートは、カルシウムアルミノシリケートを100質量%としたとき、CaO、Al、SiOの以外の成分の合計含有量が0.1質量%以上、5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上、3質量%以下であることがより好ましい。
上記のCaO、Al、SiO以外の成分を含むことによって、カルシウムアルミノシリケートの結晶性を調整することができ、より容易にガラス化可能となるものと推測される。
【0017】
本実施形態に係るカルシウムアルミノシリケートは、ブレーン比表面積が、4000cm/g以上、9000cm/g以下、より好ましくは4500cm/g以上、8000cm/g以下であることが好ましい。
カルシウムアルミノシリケートのブレーン比表面積は、JIS R5201(セメントの物理試験方法)に基づき測定することができる。
【0018】
本実施形態に係るカルシウムアルミノシリケートは、体積基準粒度分布における粒子径1.0μm未満の粒子の含有率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。また、本実施形態に係るカルシウムアルミノシリケートは、体積基準粒度分布における30μm超の粒子の含有率は10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
カルシウムアルミノシリケートの体積基準粒度分布は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBA製、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920など)を用いて求めることができる。
【0019】
ブレーン比表面積、粒度分布を上記態様に調整することによって、より短時間での強度発現性、及び、低温での強度発現性に優れた水硬性組成物とすることができるカルシウムアルミノシリケートとなる。
なお、ブレーン比表面積、粒度分布等の紛体形状は、粉砕及び/又は分級工程により調整することができる。粉砕方法は特に限定されるものではなく、市販のものが使用可能であり、ボールミルやローラーミルが使用可能である。また分級方法も特に限定されるものではないが、コアンダ効果を利用した気流分級機でクリンカーの粒度を制御することができる。
【0020】
本実施形態に係るカルシウムアルミノシリケートは、下記条件で求められる水和開始から5分経過後の強熱減量が、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることが特に好ましい。
ここで、水和開始から5分経過後の強熱減量は具体的には以下の方法で求めることができる。すなわち、本実施形態に係るカルシウムアルミノシリケートをブレーン比表面積が4500cm/gになるように粉砕し、20度の室内で、カルシウムアルミノシリケートのクリンカー粉砕物1質量部と水4質量部を10秒間練混ぜた後、5分経過後に多量のアセトンを添加することによって水和を停止させ、減圧ろ過によって得られた固体を、恒量になるまで減圧乾燥する。得られた試料について、1000℃の強熱減量を測定する。
また、本実施形態に係るカルシウムアルミノシリケートは、下記条件で求められる水和開始から5分経過後の強熱減量が、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることが好ましく、22質量%以上であることが特に好ましい。
ここで、水和開始から30分経過後の強熱減量は具体的には以下の方法で求めることができる。すなわち、本実施形態に係るカルシウムアルミノシリケートをブレーン比表面積が4500cm/gになるように粉砕し、20度の室内で、カルシウムアルミノシリケートのクリンカー粉砕物1質量部と水4質量部を10秒間練混ぜた後、30分経過後に多量のアセトンを添加することによって水和を停止させ、減圧ろ過によって得られた固体を、恒量になるまで減圧乾燥する。得られた試料について、1000℃の強熱減量を測定する。
強熱減量は反応率の指標となるものであり、本実施形態に係るカルシウムアルミノシリケートは、強熱減量が上記数値範囲内であることによって、セメント等の水硬性物質に添加した場合、十分な急硬性を付与することができる。
【0021】
本実施形態に係るカルシウムアルミノシリケートは、例えば、カルシウムを含む原料、アルミニウムを含む原料、及び、珪素を含む原料を混合し、所望の配合となるよう調合・混合し、混合原料を焼成することによって得ることができる。
カルシウムを含む原料としては、生石灰、石灰石、消石灰などが挙げられる。
アルミニウムを含む原料としては、ボーキサイトやアルミ残灰などが挙げられる。
珪素を含む原料としては珪石などが挙げられる。
これらの原料を、所望の組成となるよう調合し、混合し混合原料とする。
【0022】
得られた混合原料を加熱する。ここで、本実施形態に係るカルシウムアルミノシリケートを得るためには、温度プロファイル及び雰囲気を適切に調整することが重要である。
加熱温度は、1600℃以上2000℃以下とすることが好ましく、1650℃以上2000℃以下とすることがより好ましい。
加熱時間は、15分以上90分以下とすることが好ましく、20分以上80分以下とすることがより好ましく、30分以上70分以下とすることが特に好ましい。従来の製造方法においては、加熱時の最高到達温度等に着目し、その温度での保持時間について詳細な検討がなされていなかったが、本発明に係る、ラマンスペクトルにおけるピークXとピークYの強度比X/Yが特定の数値範囲となるカルシウムアルミノシリケートを得るためには、加熱温度、後述の冷却速度、及び、焼成雰囲気を適切な範囲・態様に調整するとともに、特に加熱時間を上記数値範囲内に制御することが好ましい。
また、冷却速度は、1000K/S以上、100000K/S以下とすることが好ましく、3000K/S以上、10000K/S以下とすることがより好ましい。
熱処理する際の雰囲気は、還元雰囲気であることが好ましい。ここで、還元雰囲気とは、窒素雰囲気中で炉内に一酸化炭素が発生し、かつ、酸欠状態のことである。
熱処理する際の雰囲気は、例えば、電気炉内に設置したカルシウムアルミノシリケート製造用混合原料の上方で赤外線方式のガス分析装置によって、計測することができる。
本実施形態においては、酸素濃度を1体積%以上、15体積%以下とすることが好ましく、1体積%以上、10体積%以下とすることがより好ましく、1体積%以上、5体積%以下とすることが特に好ましい。
また、本実施形態においては、一酸化酸素濃度を1体積%以上、10体積%以下とすることが好ましく、1体積%以上、5体積%以下とすることがより好ましく、1体積%以上、3体積%以下とすることが特に好ましい。
本実施形態に係るカルシウムアルミノシリケートのラマンスペクトルにおけるピークXとピークYの強度比X/Y、及び、ピークXの半値幅は、原料の種類及び量、並びに、製造方法において、特に、冷却速度、焼成雰囲気、高温での保持時間を調整することによって、制御することができる。
【0023】
本実施形態に係る水硬性組成物は、セッコウ及び/又はセメントと、本実施形態に係るカルシウムアルミノシリケートを含有することが好ましい。
【0024】
セッコウとしては、強度発現性の観点から、無水石膏が好ましく、II型無水石膏及び/又は天然無水石膏が好ましい。
強度発現性の観点から、セッコウは、ブレーン比表面積で4000cm/g以上であること好ましく、5000m/g以上、7000cm/g以下であることがより好ましい。
本実施形態に係る水硬性組成物は、カルシウムアルミノシリケート100質量部に対して、セッコウを25質量部以上、200質量部以下含むことが好ましく、50質量部以上、150質量部以下含むことがより好ましく、75質量部以上、125質量部以下含むことが最も好ましい。上記範囲内とすることで、より安定的に強度が発現する。
【0025】
セメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ、又は石灰石微粉等を混合した各種混合セメント、さらに、廃棄物利用型セメント、いわゆるエコセメント等が挙げられる。これらの中では、練り混ぜ性及び強度発現性の点で、普通ポルトランドセメント又は早強ポルトランドセメントが好ましい。
【0026】
本実施形態に係る水硬性組成物は、セメントと、カルシウムアルミノシリケートの合計を100質量部とした場合、セッコウを、10質量部以上、35質量部以下含むことが好ましく、15質量部以上、30質量部以下含むことがより好ましく、20質量部以上、25質量部以下が含むことが特に好ましい。
上記数値範囲内にすることによって、初期強度発現性と長期強度のバランスを最適化することができる。
【0027】
本実施形態に係る水硬性組成物は、減水剤、凝結調整剤、ガス発泡物質、細骨材を併用できる。細骨材としては、適度な施工性及び強度発現性が得られれば、特に限定されるものではない。これらの中では、珪砂が好ましい。細骨材は、乾燥砂が好ましい。乾燥砂としては、絶乾状態の砂が好ましい。
【0028】
細骨材の使用量は、本実施形態に係る水硬性組成物にふくまれる結合剤100質量部に対して、30質量部以上、200質量部以下が好ましく、100質量部以上、190質量部以下がより好ましく、130質量部以上、170質量部以下が最も好ましい。細骨材の使用量を上記数値範囲内とすることによって、施工性と強度のバランスを取ることができる。
なお、本発明で云う結合材とは、例えば、セメント、カルシウムアルミノシリケートを含む超速硬性クリンカー、セッコウ、凝結調整剤、及び必要に応じて含有する減水剤をいう。
【0029】
本実施形態に係る水硬性組成物で使用する練り混ぜ水量は、特に限定されるものではないが、通常、水/結合材比で25~70質量%が好ましく、30~50質量%がより好ましい。これらの範囲外では施工性が大きく低下したり、強度が低下したりする場合がある
【0030】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例
【0031】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0032】
[実施例1]
CaCO、Al、SiO源となる市販粉末試薬を、得られるカルシウムアルミノシリケートが表1に表す化学組成となるよう分取し、ミキサーを用いて混合し、混合原料を調製した。
得られた混合原料を表1に示す雰囲気下で、1700℃で、表に示す時間保持し、焼成した。その後、1400℃から1000℃にかけて、表1に示す冷却速度で冷却しカルシウムアルミノシリケートを得た。
【0033】
[実施例2~11、比較例1~4]
得られるカルシウムアルミノシリケートの化学組成を表1~3に記載の通りとなるようにした点、及び、得られた混合原料の製造条件を表1~3に記載の通りとした点以外は実施例1と同様に、カルシウムアルミノシリケートを得た。
【0034】
[評価方法]
(カルシウムアルミノシリケートの化学組成)
カルシウムアルミノシリケートの化学組成は、蛍光X線分析により確認した。結果を表1~3に示す。なお、実施例1のカルシウムアルミノシリケートはその他の成分としてマグネシウムを含有する酸化物、鉄を含有する酸化物、チタンを含有する酸化物、ナトリウムを含有する酸化物、カリウムを含有する酸化物から選ばれる1種又は2種以上を含むことを確認した。
【0035】
(カルシウムアルミノシリケートのラマン分光測定)
得られたカルシウムアルミノシリケートのラマン分光測定を行った。装置はサーモ社製NicoletAlmegaXR型ラマン分光装置を用いた。測定条件は以下とした。
・レーザー 532nm(出力100%)
・アパーチャー 50μmピンホール
・露光時間 2秒
・露光回数 64回
【0036】
次に、測定したラマンスペクトルにおける、ラマンシフトが500cm-1以上600cm-1以下の領域に現れるピークXと、ラマンシフトが700cm-1以上900cm-1以下の領域に現れるピークYの強度を求め、ピークXとピークYの強度比X/Yを算出した。
なお、ここで、500cm-1以上600cm-1以下の領域に現れるピークXの強度とは、500cm-1以上600cm-1以下の領域に現れるピークのうち、高さが最も高いピークの強度を意味し、ラマンシフトが700cm-1以上900cm-1以下の領域に現れるピークYの強度とは、ラマンシフトが700cm-1以上900cm-1以下の領域に現れるピークのうち、高さが最も高いピークの強度を意味する。
また、ラマンシフトが500cm-1以上600cm-1以下の領域に現れるピークの半値幅を求めた。なお、半値幅はガウス関数でフィッティングすることによって算出した。
結果を表1~3に示す。
【0037】
(強熱減量)
得られたカルシウムアルミノシリケートをブレーン比表面積が4500cm/gになるように粉砕し20度の室内で、クリンカー粉砕物1質量部と水4質量部を10秒間練混ぜた後、所定の時間経過後に多量のアセトンで水和を停止させ、減圧ろ過によって得られた固体を、恒量になるまで減圧乾燥した。これらについて、1000℃の強熱減量を測定した。なお、強熱減量は反応率の指標となるものである。結果を表1~3に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
表1~3に示されるように、ラマンシフトが500cm-1以上600cm-1以下の領域に現れるピークXと、ラマンシフトが700cm-1以上900cm-1以下の領域に現れるピークYとを有し、ピークXとピークYの強度比X/Yが0.8以上、1.3以下であるカルシウムアルミノシリケートは、カルシウムアルミノシリケートの化学組成を適切に調整するとともに、カルシウムアルミノシリケートを製造する際の焼成雰囲気、高温での保持温度・時間、冷却速度を適切に制御することによって得ることができるものであり、ピークXとピークYの強度比X/Yを本願発明で規定する範囲に調整したカルシウムアルミノシリケートは優れた強熱減量を有し、セメント等の水硬性物質に添加した場合、十分な急硬性を付与することができる。