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特許7141381部材位置関係推定装置、部材位置関係推定方法、及び部材位置関係推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】部材位置関係推定装置、部材位置関係推定方法、及び部材位置関係推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/10 20200101AFI20220914BHJP
   B23K 9/127 20060101ALI20220914BHJP
   G05B 19/4097 20060101ALI20220914BHJP
   G06T 19/00 20110101ALI20220914BHJP
【FI】
G06F30/10
B23K9/127 501A
G05B19/4097 C
G06T19/00 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019191469
(22)【出願日】2019-10-18
(65)【公開番号】P2021068058
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2021-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】515086908
【氏名又は名称】株式会社トヨタプロダクションエンジニアリング
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】特許業務法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】向井 裕人
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-273675(JP,A)
【文献】特開2000-190264(JP,A)
【文献】特開2004-1226(JP,A)
【文献】特開2010-184278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/10
B23K 9/127
G05B 19/4097
G06T 19/00
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも溶接する2つの部材を含む3次元形状データ及び前記2つの部材において溶接個所を示す溶接線のデータとを受信する受信部と、
前記3次元形状データをワイヤーフレームに変換する変換部と、
前記溶接線上に、複数のチェック用部材を配置する配置部と、
前記複数のチェック用部材各々と、前記2つの部材のワイヤーフレームとの干渉を判定する判定部と、
前記複数のチェック用部材の前記2つの部材との干渉の態様に基づいて、前記2つの部材の位置関係を特定する特定部と、
を備える部材位置関係推定装置。
【請求項2】
前記特定部は、前記干渉の態様として、前記チェック用部材が前記2つの部材のワイヤーフレームそれぞれと干渉する干渉数に基づいて、前記2つの部材の位置関係を特定することを特徴とする請求項1に記載の部材位置関係推定装置。
【請求項3】
前記特定部は、前記チェック用部材が前記部材のワイヤーフレームとの干渉数が多い方が溶接における上板であり、干渉数が少ない方が溶接における下板であると特定することを特徴とする請求項2に記載の部材位置関係推定装置。
【請求項4】
前記特定部は、前記干渉の態様として、前記溶接線上に配置されたチェック用部材が、前記部材の面に干渉するか、前記部材のワイヤーフレームに干渉するか、干渉しないかに応じて、前記2つの部材の位置関係として前記溶接における2つの部材の継手構造を特定することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の部材位置関係推定装置。
【請求項5】
前記受信部が受信する前記溶接線のデータは、ルート部となる部材のエッジを示すルート部エッジと、溶接トーチのトーチが進入する側の部材のエッジを示すトーチ部進入エッジと、前記トーチ部進入エッジがある一方の部材から他方の部材に対して投影した場合の投影エッジと、のうちのいずれかを示し、
前記特定部は、前記溶接線が示すエッジと、前記溶接線が示すエッジ以外の前記ルート部エッジと、前記トーチ部進入エッジと、前記投影エッジとのうちの少なくともいずれかを用いて、前記2つの部材の位置関係を特定する
ことを特徴とする請求項4に記載の部材位置関係推定装置。
【請求項6】
前記特定部は、
前記ルート部エッジと前記トーチ部進入エッジとが共に前記2つの部材のうちの一方の部材の面に干渉し、
前記ルート部エッジと前記トーチ部進入エッジとが共に、前記2つの部材のうちの他方の部材のワイヤーフレームに干渉する場合に、
前記2つの部材は、T字型に接続されていると特定する
ことを特徴とする請求項5に記載の部材位置関係推定装置。
【請求項7】
前記特定部は、
前記ルート部エッジと前記トーチ部進入エッジとのうちのいずれか一方が前記2つの部材のうちのいずれか一方の面に干渉し、
前記投影エッジが、前記2つの部材のうちの他方の部材に干渉しない場合に、
前記2つの部材は、他方が一方に対して斜めに接続されていると特定することを特徴とする請求項5に記載の部材位置関係推定装置。
【請求項8】
前記特定部は、
前記ルート部エッジが、前記2つの部材双方のワイヤーフレームに干渉し、
前記トーチ部進入エッジが、前記2つの部材双方のワイヤーフレームに干渉する場合に、
前記2つの部材は、共にその端部が互いに突き合わせられた態様で接続されていると特定することを特徴とする請求項5に記載の部材位置関係推定装置。
【請求項9】
前記特定部は、
前記ルート部エッジが、前記2つの部材のうちのいずれか一方の面に干渉し、他方のワイヤーフレームに干渉し、
前記トーチ部進入エッジが、前記一方の部材に対して干渉せず、前記他方の部材のワイヤーフレームに干渉する場合に、
前記2つの部材は互いに重ね合わせる態様で接続されていると特定することを特徴とする請求項5に記載の部材位置関係推定装置。
【請求項10】
コンピュータが、
少なくとも溶接する2つの部材を含む3次元形状データ及び前記2つの部材において溶接個所を示す溶接線のデータとを受信する受信ステップと、
前記3次元形状データをワイヤーフレームに変換する変換ステップと、
前記溶接線上に、複数のチェック用部材を配置する配置ステップと、
前記複数のチェック用部材各々と、前記2つの部材のワイヤーフレームとの干渉を判定する判定ステップと、
前記複数のチェック用部材の前記2つの部材との干渉の態様に基づいて、前記2つの部材の位置関係を特定する特定ステップと、
を含む部材位置関係推定方法。
【請求項11】
コンピュータに、
溶接する2つの部材の3次元形状データ及び前記2つの部材において溶接個所を示す溶接線のデータとを受信する受信機能と、
前記3次元形状データをワイヤーフレームに変換する変換機能と、
前記溶接線上に、複数のチェック用部材を配置する配置機能と、
前記複数のチェック用部材各々と、前記2つの部材のワイヤーフレームとの干渉を判定する判定機能と、
前記複数のチェック用部材の前記2つの部材との干渉の態様に基づいて、前記2つの部材の位置関係を特定する特定機能と、
を実現させる部材位置関係推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接における部材の位置関係を推定することができる部材位置関係推定装置、部材位置関係推定方法及び部材位置関係推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
溶接において、設計者から、設計データとして3次元形状を表すCADデータとして、ソリッドデータ、またはサーフェスデータ、またはポリゴンデータのうち少なくともいずれか一つとともに、そのソリッドデータに対して、溶接を行う箇所を示す溶接線を示すデータを受け付けて、溶接を行う。この溶接線は、アーク溶接においてはアーク線と呼称されることがある。自動溶接を行うにあたっては、溶接ロボットに対して、ロボット教示用のタグ設定や継手構造の認識が必要となり、溶接を行う部材間の位置関係の把握が必要となる。特許文献1には、2以上の立体が空間内に相対的に移動する場合に互いが干渉するか否かを判別する技術が開示されている。また、特許文献2には、ロボットと、ロボットの作業対象であるワークが互いに干渉するかをチェックする技術が開示されている。また、特許文献3には、溶接ロボットの教示用データを作成する溶接プログラム作成装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平1-48107号公報
【文献】特開平5-324041号公報
【文献】特開2016-62477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の溶接線の指定の仕方は、設計者によってワーク形状に対して溶接の有無は指定するものの、具体的な溶接位置の指定はなされないのが実情である。そのため、部材の位置関係の把握や、実際にティーチすべき溶接線の位置が認識できないことがあり、設計データを受け付けて溶接を自動的に行う障害となっているという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、設計データに対する溶接線がどのような態様であっても、溶接を行う部材間の位置関係を特定できる部材位置関係推定装置、部材位置関係推定方法、及び、部材位置関係推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る部材位置関係推定装置は、少なくとも溶接する2つの部材を含む3次元形状データ及び2つの部材において溶接個所を示す溶接線のデータとを受信する受信部と、3次元形状データをワイヤーフレームに変換する変換部と、溶接線上に、複数のチェック用部材を配置する配置部と、複数のチェック用部材各々と、2つの部材のワイヤーフレームとの干渉を判定する判定部と、複数のチェック用部材の2つの部材との干渉の態様に基づいて、2つの部材の位置関係を特定する特定部と、を備える。
【0007】
また、本発明の一態様に係る部材位置関係推定方法は、コンピュータが、少なくとも溶接する2つの部材を含む3次元形状データ及び2つの部材において溶接個所を示す溶接線のデータとを受信する受信ステップと、3次元形状データをワイヤーフレームに変換する変換ステップと、溶接線上に、複数のチェック用部材を配置する配置ステップと、複数のチェック用部材各々と、2つの部材のワイヤーフレームとの干渉を判定する判定ステップと、複数のチェック用部材の2つの部材との干渉の態様に基づいて、2つの部材の位置関係を特定する特定ステップと、を含む。
【0008】
また、本発明の一態様に係る部材位置関係推定プログラムは、コンピュータに、少なくとも溶接する2つの部材を含む3次元形状データ及び2つの部材において溶接個所を示す溶接線のデータとを受信する受信機能と、3次元形状データをワイヤーフレームに変換する変換機能と、溶接線上に、複数のチェック用部材を配置する配置機能と、複数のチェック用部材各々と、2つの部材のワイヤーフレームとの干渉を判定する判定機能と、複数のチェック用部材の2つの部材との干渉の態様に基づいて、2つの部材の位置関係を特定する特定機能と、を実現させる。
【0009】
また、上記部材位置関係推定装置において、特定部は、干渉の態様として、チェック用部材が2つの部材のワイヤーフレームそれぞれと干渉する干渉数に基づいて、2つの部材の位置関係を特定することとしてもよい。
【0010】
また、上記部材位置関係推定装置において、特定部は、チェック用部材が部材のワイヤーフレームとの干渉数が多い方が溶接における上板であり、干渉数が少ない方が溶接における下板であると特定することとしてもよい。
【0011】
また、上記部材位置関係推定装置において、特定部は、干渉の態様として、溶接線上に配置されたチェック用部材が、部材の面に干渉するか、部材のワイヤーフレームに干渉するか、干渉しないかに応じて、2つの部材の位置関係として溶接における2つの部材の継手構造を特定することとしてもよい。
【0012】
また、上記部材位置関係推定装置において、受信部が受信する溶接線のデータは、ルート部となる部材のエッジを示すルート部エッジと、溶接トーチのトーチが進入する側の部材のエッジを示すトーチ部進入エッジと、トーチ部進入エッジがある一方の部材から他方の部材に対して投影した場合の投影エッジと、のうちのいずれかを示し、特定部は、溶接線が示すエッジと、溶接線が示すエッジ以外のルート部エッジと、トーチ部進入エッジと、投影エッジとのうちの少なくともいずれかを用いて、2つの部材の位置関係を特定することとしてもよい。
【0013】
また、上記部材位置関係推定装置において、特定部は、ルート部エッジとトーチ部進入エッジとが共に2つの部材のうちの一方の部材の面に干渉し、ルート部エッジとトーチ部進入エッジとが共に、2つの部材のうちの他方の部材のワイヤーフレームに干渉する場合に、2つの部材は、T字型に接続されていると特定することとしてもよい。
【0014】
また、上記部材位置関係推定装置において、特定部は、ルート部エッジとトーチ部進入エッジとのうちのいずれか一方が2つの部材のうちのいずれか一方の面に干渉し、投影エッジが、2つの部材のうちの他方の部材に干渉しない場合に、2つの部材は、他方が一方に対して斜めに接続されていると特定することとしてもよい。
【0015】
また、上記部材位置関係推定装置において、特定部は、ルート部エッジが、2つの部材双方のワイヤーフレームに干渉し、トーチ部進入エッジが、2つの部材双方のワイヤーフレームに干渉する場合に、2つの部材は、共にその端部が互いに突き合わせられた態様で接続されていると特定することとしてもよい。
【0016】
また、上記部材位置関係推定装置において、特定部は、ルート部エッジが、2つの部材のうちのいずれか一方の面に干渉し、他方のワイヤーフレームに干渉し、トーチ部進入エッジが、一方の部材に対して干渉せず、他方の部材のワイヤーフレームに干渉する場合に、2つの部材は互いに重ね合わせる態様で接続されていると特定することとしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
部材位置関係推定装置は、溶接線上に仮想的なチェック用部材を設けて、そのチェック用部材が、溶接する2つの部材それぞれに対してどのように干渉するかを特定することで、2つの部材の位置関係を特定することができる。よって、部材位置関係推定装置は、溶接する2つの部材の位置関係を自動的に特定することで、例えば、設計データを受け付けて溶接を行う、その自動化の一端に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】部材位置関係推定装置の構成例を示すブロック図である。
図2】溶接する2つの部材と、溶接に関連するエッジについて説明する図であり、(a)は、2つの部材の側面図であり、(b)は、2つの部材の斜視図である。
図3】(a)は、溶接する2つの部材の平面図であり、(b)は、チェック用部材を配置した2つの部材の平面図である。
図4】(a)は、T字型に2つの部材を溶接する場合の2つの部材の側面図であり、(b)は、図4(a)の斜視図であり、(c)は、チェック用部材と部材との干渉関係を示す表である。
図5】(a)は、斜めに2つの部材を溶接する場合の2つの部材の側面図であり、(b)は、図5(a)の斜視図であり、(c)は、チェック用部材と部材との干渉関係を示す表である。
図6】(a)は、2つの部材を突き合わせて溶接する場合の2つの部材の側面図であり、(b)は、図6(a)の斜視図であり、(c)は、チェック用部材と部材との干渉関係を示す表である。
図7】(a)は、2つの部材を重ね合わせて溶接する場合の2つの部材の側面図であり、(b)は、図7(a)の斜視図であり、(c)は、チェック用部材と部材との干渉関係を示す表である。
図8】部材位置関係推定装置による2つの部材の上下関係の推定処理を示すフローチャートである。
図9】部材位置関係推定装置による2つの部材の継手構造の推定処理を示すフローチャートである。
図10】部材位置関係推定装置の他の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施態様に係る部材位置関係推定装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
<実施形態1>
<構成>
図1に示す部材位置関係推定装置100は、アーク溶接に係る設計データの入力を受け付けて、溶接する2つの部材の位置関係を推定する装置である。即ち、部材位置関係推定装置100は、溶接する2つの部材のうち、いずれが上板であり、いずれが下板であるかを推定したり、継手構造の態様を、その情報が設計データに含まれていなくても、推定したりすることができる装置である。部材位置関係推定装置100は、タブレット端末、パーソナルコンピュータ、サーバ装置等の情報処理装置(コンピュータ)により実現される。
【0021】
ここで、本実施例におけるアーク溶接に係る設計データにおいて溶接を行う箇所を示す溶接線(アーク線と呼称されることもある)、及び、溶接する2つの部材の上下関係を推定する手法について説明する。
【0022】
図2は、設計データの一例であり、(a)は、溶接対象となる2つの部材の側面図であり、(b)は、その斜視図である。図2(a)、(b)には、第2部材20に対して第1部材10を斜めに溶接する場合の一例を示している。図2(a)、(b)において、実際に溶接を行う箇所は、線分31で示される位置を溶接する。このような溶接を行う際には、設計データにおいては、線分30、31、32のいずれかが溶接線として指定される。ここで、破線で示される線分31は、溶接トーチのルート部が接近する側のエッジということで、ルート部エッジと呼称する。また、実線で示す線分30は、溶接トーチのトーチ部が接近する側のエッジということで、トーチ部進入エッジと呼称する。そして、トーチ部進入エッジ30から、第2部材20に対して垂直に下した一点鎖線で示す線分32を投影エッジと呼称する。溶接ロボットに対して、溶接位置として実際にティーチする位置は、投影エッジとなる。なお、これは、図2に示すように斜めに溶接する場合のティーチ位置であり、2つの部材を溶接する際の継手構造によって、ティーチするエッジは異なる。詳細については、図4図7を用いて後述する。
【0023】
次に、図3を用いて部材の上下関係の判別手法について説明する。図3は、溶接する2つの部材の平面図である。図3(a)に示されるように、第1部材10と第2部材20とを溶接するものとして、溶接線30が設計データで指定されているとする。本実施例に係る部材位置関係推定装置100は、設計データに示される第1部材10と第2部材20とのワイヤーフレームを作成するとともに、溶接線30の上に、複数の仮想的なチェック用部材30a~30eを配置する。部材位置関係推定装置100は、各チェック用部材30a~30eと、第1部材10及び第2部材20とのワイヤーフレームと干渉するかどうかを判定する。そして、部材位置関係推定装置100は、チェック用部材がより多く干渉した部材の方が溶接における上板であると推定する。図3(b)の例でいえば、第1部材10のワイヤーフレームは、全てのチェック用部材30a~30eと干渉する。これに対して、第2部材20のワイヤーフレームは、チェック要部材30aと30eに干渉する。結果、この場合には、部材位置関係推定装置100は、第1部材10の方が溶接における上板であると推定する。以下詳細に説明する。
【0024】
図1に示すように、本発明に係る部材位置関係推定装置100は、通信部110と、記憶部120と、制御部130と、出力部140とを備える。部材位置関係推定装置100の各部は、バス160を介して互いに通信可能に構成されてよい。
【0025】
通信部110は、設計者の端末から、ネットワーク回線を介して、溶接の設計データを受信する機能を有する。ここでいう設計データは、少なくともアーク溶接を行う少なくとも2つの部材を含み、形状と、溶接線と、の3次元形状データを含む。3次元形状データは、ソリッドデータと、サーフェスデータと、ポリゴンデータのうちのいずれかを示す情報(いずれかの形式で定義されたCADデータ)であり、これらのうちの複数を含むものであってもよい。ソリッドデータとは、CAD(Computer Aided Design)における内部構造まで定義された設計対象の情報を示すデータのことである。サーフェスデータとは、ソリッドデータとは異なり部材の表面のみを定義したデータのことである。また、ポリゴンデータとは、部材形状を多角形の面により表現したデータのことである。設計データは、ワイヤーフレームで転送されてきてもよい。通信部110は、溶接に関する設計データを受信すると、受信した設計データを制御部130に伝達する。なお、ここでは、アーク溶接を例に説明しているが、本実施形態に示す部材の位置関係の推定方法および継手構造の推定方法は、アーク溶接によるものに限定するものではない。材料の加工方法により加工する(した)部材間の位置関係を推定できればよく、シーラー塗布加工、ヘム(ヘミング)加工、アドヒーシブ加工、ロウ付け加工、レーザー溶接加工、超音波溶接加工など、またそれらの組み合わせに対する加工物に対しても適用可能である。
【0026】
記憶部120は、部材位置関係推定装置100が動作上必要とする各種プログラム及び各種データを記憶する機能を有する。記憶部120は、各種の記録媒体により実現され、例えば、HDD(Hard Disc Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリなどにより実現できる。記憶部120は、溶接する2つの部材間の位置関係を推定するための部材位置関係推定プログラムを記憶している。また、記憶部120は、制御部130からの指示に従って、設計データを記憶してもよい。
【0027】
制御部130は、部材位置関係推定装置100の各部を制御する機能を有する。制御部130は、記憶部120に記憶されている部材位置関係推定プログラムを読み出して実行することにより、部材位置関係推定装置100としての機能を実行するプロセッサとして実現することができる。
【0028】
制御部130は、部材位置関係推定装置100が果たすべき機能として、変換部131、配置部132、判定部133及び特定部134として機能する。
【0029】
変換部131は、通信部110から伝達された設計データに示されるソリッドデータをワイヤーフレームに変換する。これは、例えば、ソリッドデータのエッジ解析等により実現することができるが、これに限定するものではない。また、ソリッドデータそのものにワイヤーフレームの構造データが含まれている場合には、この構造データを抽出することで、変換することとしてよい。
【0030】
配置部132は、通信部110から伝達された設計データに示される溶接対象の2つの部材に対して設定されている溶接線を特定する。そして、特定した溶接線に対して、溶接対象の2つの部材の位置関係を特定するための仮想的なチェック用部材を配する。チェック用部材は、2つの部材それぞれとの干渉や干渉の仕方を特定できる部材であればよく、ここでは、球体の仮想物体を溶接線上に複数配置する。また、配置部132は、設計データで指定されている溶接線の他、その溶接線から導出可能な、他の溶接線上にもチェック用部材を配置することができる。即ち、配置部132は、上述したルート部エッジと、トーチ部進入エッジと、投影エッジとのうち、溶接線が指定していないエッジに対してもチェック用部材を配置することができる。
【0031】
判定部133は、配置部132が配置した各チェック用部材が、溶接対象の2つの部材(10、20)のワイヤーフレームと干渉するかを判別する。また、判定部133は、配置部132が配置した各チェック用部材が、溶接対象の2つの部材(10、20)を構成する面と干渉するかを判別する。干渉とは、設計データにおける座標空間に対して、チェック用部材として設定された領域に、ワイヤーフレーム又は部材の面の少なくとも一部が接触(重複)することをいう。
【0032】
特定部134は、判定部133による各チェック用部材と、部材との干渉の判定に基づいて、溶接する2つの部材の溶接における上下関係(いずれが上板でいずれが下板か)を特定する。特定部134は、チェック用部材が、溶接する2つの部材である第1部材10のワイヤーフレームと干渉した個数と、第2部材20のワイヤーフレームと干渉した個数と、を計数する。そして、特定部134は、チェック用部材が、第1部材10のワイヤーフレームと干渉した個数が、第2部材20のワイヤーフレームと干渉した個数よりも多い場合に、第1部材10の方が溶接における上板であると特定する。また、特定部134は、チェック用部材が、第2部材20のワイヤーフレームと干渉した個数が、第1部材10のワイヤーフレームと干渉した個数よりも多い場合に、第2部材20の方が溶接における上板であると特定する。
【0033】
また、特定部134は、ルート部エッジに配置したチェック用部材が、どのような態様で第1部材10及び第2部材20に対して干渉するか(あるいは干渉しないか)、トーチ部進入エッジに配置したチェック用部材が、どのような態様で第1部材10及び第2部材20に対して干渉するか(あるいは干渉しないか)、そして、存在する場合に投影エッジに配置したチェック用部材が、どのような態様で第1部材10及び第2部材20に対して干渉するか(あるいは干渉しないか)によって、第1部材10と第2部材20との溶接における継手構造を特定する。なお、継手構造の特定の詳細については、図4図7を用いて後述する。
【0034】
出力部140は、制御部130から指定された情報を出力する機能を有する。出力部140は、例えば、制御部130により判定された2つの部材の位置関係に関する情報を出力する。部材位置関係推定装置100は、スピーカやモニタ等の機器と接続されてよく、2つの部材の位置関係に関する情報を音声により出力することとしてもよいし、モニタに文章や図表などを表示することにより出力することとしてもよい。また、あるいは、出力部140は、通信部110を介して外部の装置に、2つの部材の位置関係に関する情報を送信する態様で出力することとしてもよい。2つの部材の位置関係に関する情報には、アーク溶接における2つの部材において、いずれが上板でいずれが下板となるか、あるいは、アーク溶接における継手構造がどのようになっているかに関する情報を含む。
【0035】
以上が部材位置関係推定装置100の構成である。なお、ここでは、設計データを通信部110が受信することとしているが、設計データは、例えば、設計者から直接入力を受け付けて設計された設計データが記憶部120に記憶されたものを使用してもよいし、フラッシュメモリ等の記憶媒体に記憶された設計データが部材位置関係推定装置100に接続され、そのフラッシュメモリに記憶されているものを使用することとしてもよい。
【0036】
<部材位置関係と判定方法>
図4は、第1部材10と第2部材20とをT字型の継手構造に溶接する場合の溶接線と、チェック用部材との関係を示す図である。
【0037】
図4(a)は、第1部材10と第2部材20とをT字型に溶接する(した)場合の側面図を示し、(b)は、その斜視図を示している。また、図4(c)は、図4(b)の場合に、各チェック用部材が各部材と、どのような態様で干渉するかをまとめたグラフである。
【0038】
図4(a)においては、ルート部エッジ31と、トーチ部進入エッジ30と、のいずれかが溶接線として指定される。このとき、配置部132は、溶接線としてルート部エッジ31が指定された場合には、ルート部エッジ31上に、チェック用部材を複数配置するとともに、トーチ部進入エッジ30上にもチェック用部材を複数配置する。図4(b)に示す例では、ルート部エッジ31上に5つのチェック用部材31a~31eを配置するとともに、トーチ部進入エッジ30上に5つのチェック用部材30a~30eを配置した例を示している。判定部133は、これらのチェック用部材30a~30e、31a~31eそれぞれの、第1部材10、第2部材20との干渉の態様を判定することになる。
【0039】
図4(c)は、各チェック用部材が、第1部材10と第2部材20とのそれぞれに対しての干渉の態様を示すテーブルであり、判定部133による干渉の態様の判定結果を示す情報である。このテーブルにおいて、チェック用部材が、対象の部材のワイヤーフレームと干渉する場合には、「線」と記載し、対象の部材の面、即ち、ソリッド又はサーフェス又はポリゴンから成る面に干渉する場合には、「面」と記載し、干渉しない場合には、「×」と記載する。
【0040】
図4(c)に示すように、例えば、チェック用部材30aは、第1部材10のワイヤーフレームに干渉するとともに、第2部材20のワイヤーフレームとも干渉している。これは、図4(b)からも明らかである。また、同様に、チェック用部材30bは、第1部材10のワイヤーフレームに干渉するとともに、第2部材20の面と干渉している。このように、図4(b)に示す態様から、各チェック用部材の干渉の態様から、図4(c)に示すテーブルを作成することができる。
【0041】
ところで、チェック用部材30a~30eは、トーチ部進入エッジ30に配置したものであるから、これらのチェック用部材の干渉状態から、トーチ部進入エッジ30自体が、それぞれの部材とどのように干渉しているかを特定することができる。即ち、図4(c)に示すようにトーチ部進入エッジ30上のチェック用部材30a~30eは、第1部材10に対して、干渉の態様が「線」となっており、第1部材10のワイヤーフレームに干渉することが理解できる。換言すれば、図4のトーチ部進入エッジ30は、第1部材10のワイヤーフレームと干渉していることが理解できる。一方で、チェック用部材30a~30eのうち、2つのチェック用部材が、第2部材20のワイヤーフレームと干渉しているのに対し、3つのチェック用部材が、第2部材20の面と干渉していることが理解できる。このことから、トーチ部進入エッジ30は、第2部材20の面と干渉するといえる。
【0042】
同様に、ルート部エッジ31は、第1部材10のワイヤーフレームに干渉し、第2部材20の面に干渉する。このような場合には、図4(a)に示すように、第1部材10と第2部材20は、T字型に溶接する(している)と特定することができる。
【0043】
図5は、第1部材10と第2部材20とを斜めの継手構造に溶接する場合の溶接線と、チェック用部材との関係を示す図である。
【0044】
図5(a)は、第1部材10と第2部材20とを斜めに溶接する(した)場合の側面図を示し、(b)は、その斜視図を示している。また、図5(c)は、図5(b)の場合に、各チェック用部材が各部材と、どのような態様で干渉するかをまとめたグラフである。
【0045】
図5(a)において、溶接線としては、前述の通り、ルート部エッジ31と、トーチ部進入エッジ30と、投影エッジ32のうちのいずれかが設計データにおいて指定される。配置部132は、このとき、設計データで指定されていない箇所の溶接線を特定する。即ち、仮に、設計データにおいて指定されている溶接線が、トーチ部進入エッジ30であった場合に配置部132は、他のエッジの、ルート部エッジ31と、投影エッジ32とを特定する。そして、配置部132は、設計データで指定されているエッジの他、特定した全てのエッジ上に、複数のチェック用部材を配置する。図5(b)の例でいえば、トーチ部進入エッジ30には、チェック用部材30a~30eが、ルート部エッジ31には、チェック用部材31~31e(ただし、図面の見やすさを考慮して、チェック用部材31b~31eについては、図5(b)には図示していない)が、そして、投影エッジ32には、チェック用部材32a~32eが配置されている。そして、これらのチェック用部材と、第1部材10及び第2部材との干渉の態様は、図5(c)に示す態様となっている。
【0046】
図5(c)から理解できるように、トーチ部進入エッジ30上に配置されたチェック用部材が一方の部材(第1部材10)のワイヤーフレームに干渉し、他方の部材(第2部材20)には干渉せず、ルート部エッジ31上に配置されたチェック用部材が一方の部材(第1部材10)のワイヤーフレームに干渉し、他方の部材(第2部材20)の面に干渉し、投影エッジ32上に配置されたチェック用部材が一方の部材(第1部材10)とは干渉せず、他方の部材(第2部材20)の面と干渉する場合には、図5(a)に示すように、第1部材10と第2部材20とを斜めに溶接する継手構造となる。
【0047】
図6は、第1部材10と第2部材20とを突き合わせの継手構造に溶接する場合の溶接線と、チェック用部材との関係を示す図である。
【0048】
図6(a)は、第1部材10と第2部材20とを突き合わせて溶接する(した)場合の側面図を示し、(b)は、その斜視図を示している。また、図6(c)は、図6(b)の場合に、各チェック用部材が各部材と、どのような態様で干渉するかをまとめたグラフである。
【0049】
図6(c)から理解できるように、トーチ部進入エッジ30と、ルート部エッジ31とに配置されたチェック用部材が、共に、2つの部材双方のワイヤーフレームと干渉すると特定できた場合には、2つの部材は、図6(b)に示すように、溶接の継手構造が突き合わせ構造になると特定することができる。
【0050】
図7は、第1部材10と第2部材20とを重ね合わせの継手構造に溶接する場合の溶接線と、チェック用部材との関係を示す図である。
【0051】
図7(a)は、第1部材10と第2部材20とを重ね合わせて溶接する(した)場合の側面図を示し、(b)は、その斜視図を示している。また、図7(c)は、図7(b)の場合に、各チェック用部材が各部材と、どのような態様で干渉するかをまとめたグラフである。
【0052】
図7(c)から理解できるように、トーチ部進入エッジ30上に配置されたチェック用部材が、一方の部材(第1部材10)と干渉せず、他方の部材(第2部材20)のワイヤーフレームに干渉するとともに、ルート部エッジ31上に配置されたチェック用部材が、一方の部材(第1部材10)のワイヤーフレームに干渉するとともに、他方の部材(第2部材20)と干渉しないことが特定できた場合に、図7(b)に示すように、2つの部材の継手構造が互いに重ね合わせた構造になると特定することができる。
【0053】
図4図7に示すテーブルの差異によって、部材位置関係推定装置100は、第1部材10と第2部材20との継手構造を推定することができる。
【0054】
<動作>
図8は、部材位置関係推定装置100による動作素片の作成処理を示すフローチャートである。以下、図8を用いて、部材位置関係推定装置100の動作素片を作成する処理を説明する。
【0055】
(ステップS801)
ステップS801において、部材位置関係推定装置100の通信部110は、溶接線を含むソリッドデータを受信する(ステップS801)。通信部110は、受信したソリッドデータを、制御部130に伝達し、ステップS802の処理に移行する。
【0056】
(ステップS802)
ステップS802において、制御部130の変換部131は、伝達されたソリッドデータを、ワイヤーフレームに変換する。ソリッドデータのワイヤーフレームへの変換は、既存の技術を利用して実現することができる。また、伝達された設計データが元からワイヤーフレーム構造であれば、本処理は省略することができる。ワイヤーフレームに変換した後、ステップS803の処理に移行する。
【0057】
(ステップS803)
ステップS803において、制御部130の配置部132は、設計データで示される溶接線上に仮想的な複数のチェック用部材を配置する。このときに配置部132が配置するチェック用部材は、例えば球状の物体であって、所定の半径を有する物体であってよい。なお、チェック用部材は、ここでは球体としているが、球体に限らず、ワイヤーフレームやソリッドデータ又はサーフェスデータ又はポリゴンデータの面との干渉が特定できれば他の形状であってもよく、例えば、直方体や立方体など他の任意の形状であってもよい。また、配置部132が配置するチェック用部材の個数は複数であればいくつあってもよいが、多ければ多いほど、部材の位置関係や継手構造の推定の精度が向上する。チェック用部材を配置した後に、部材位置関係推定装置100は、ステップS804の処理に移行する。
【0058】
(ステップS804)
ステップS804において、制御部130の判定部133は、配置部132が配置したチェック用部材各々について、溶接する2つの部材(第1部材10、第2部材20)それぞれと干渉するかどうかを確認する。そして、ステップS805の処理に移行する。
【0059】
(ステップS805)
ステップS805において、制御部130の特定部134は、判定部133が判定した各チェック用部材と、溶接する2つの部材(第1部材10、第2部材20)のワイヤーフレームとの干渉数を比較する。即ち、特定部134は、チェック用部材の第1部材のワイヤーフレームとの干渉数が、第2部材のワイヤーフレームの干渉数よりも多いかを判定する。特定部134が、チェック用部材の第1部材のワイヤーフレームとの干渉数が、第2部材のワイヤーフレームとの干渉数よりも多いと特定した場合(YES)に、ステップS806の処理に移行し、チェック用部材の第1部材のワイヤーフレームとの干渉数が、第2部材のワイヤーフレームとの干渉数よりも多くない(少ない)と特定した場合(NO)に、ステップS807の処理に移行する。
【0060】
(ステップS806)
ステップS806において、特定部134は、第1部材10が溶接における上板である(第2部材20が溶接における下板)と特定して、処理を終了する。
【0061】
(ステップS807)
ステップS807において、特定部134は、第1部材10が溶接における下板である(第2部材20が溶接における上板)と特定して、処理を終了する。
【0062】
なお、図8には示していないが、ステップS806、S807の後で、出力部140は、特定部134が特定した溶接する2つの部材の位置関係、即ち、溶接における上板であるか、下であるかを示す情報を出力してよい。図8に示す処理を実行することにより、部材位置関係推定装置100は、溶接する2つの部材の溶接における上下関係を推定することができる。
【0063】
次に、図9を用いて、部材位置関係推定装置100による溶接する2つの部材の継手構造を特定する処理について説明する。
【0064】
(ステップS901)
ステップS901において、特定部134は、各チェック用部材について、各部材(溶接対象の2つの部材)と、面で干渉するか、線で干渉するか、干渉しないか、を特定する。面で干渉するとは、上述の通り、チェック用部材が、溶接対象の部材を構成する面と干渉することを意味する。また、線で干渉するとは、チェック用部材が、溶接対象の部材のワイヤーフレームと重なるように干渉することを意味する。チェック用部材について、溶接する2つの部材それぞれとの干渉の態様を特定すると、ステップS902の処理に移行する。
【0065】
(ステップS902)
ステップS902において、特定部134は、トーチ部進入エッジ30、ルート部エッジ31が共に、第1部材10と第2部材20双方に対して線で干渉するかを特定する。即ち、トーチ部進入エッジ30上に配置されたチェック用部材が、第1部材10と第2部材20双方のワイヤーフレームに線状に干渉するかを特定する。特定部134が、トーチ部進入エッジ30、ルート部エッジが共に、第1部材10と第2部材20双方のワイヤーフレームに対して干渉すると判定した場合(YES)にはステップS903の処理に移行し、そうでない場合(NO)には、ステップS904の処理に移行する。
【0066】
(ステップS903)
ステップS903において、特定部134は、第1部材10と第2部材20との溶接の継手構造が、突き合わせ構造であると判定して処理を終了する。このとき、出力部140は、継手構造の情報を出力することとしてもよい。
【0067】
(ステップS904)
ステップS904において、特定部134は、トーチ部進入エッジ30と、ルート部エッジ31とのうちの一方が、第1部材10及び第2部材20双方に対して、線で干渉し、他方が面で干渉するかを特定する。即ち、トーチ部進入エッジ30とルート部エッジ31とのいずれか一方の上に配置されたチェック用部材が第1部材10と第2部材20とのワイヤーフレームと干渉し、他方の上に配置されたチェック用部材が第1部材10と第2部材20との面に干渉すると特定した場合(YES)には、ステップS905の処理に移行し、そうでない場合(NO)には、ステップS906の処理に移行する。
【0068】
(ステップS905)
ステップS905において、特定部134は、第1部材10と第2部材20との溶接の継手構造が、T字構造であると判定して処理を終了する。このとき、出力部140は、継手構造の情報を出力することとしてもよい。
【0069】
(ステップS906)
ステップS906において、特定部134は、進入エッジの一方が、第1部材10と第2部材20との双方のワイヤーフレームに干渉し、進入エッジの他方が、第1部材10と第2部材20との面に干渉する若しくは干渉せず、投影エッジが一方の部材のワイヤーフレームと干渉するかを特定する。即ち、特定部134は、トーチ部進入エッジ30とルート部エッジ31とのうちのいずれか一方の上に配置されたチェック用部材が、第1部材10と第2部材20双方のワイヤーフレームに干渉し、トーチ部進入エッジ30とルート部エッジ31とのうちのいずれか他方の上に配置されたチェック用部材が、第1部材10と第2部材20との面に干渉するもしくは干渉せず、投影エッジ32上に配置されたチェック用部材が、第1部材10及び第2部材20のいずれかのワイヤーフレームと干渉すると特定した場合(YES)には、ステップS907の処理に移行し、そうでない場合(NO)には、ステップS908の処理に移行する。
【0070】
(ステップS907)
ステップS907において、特定部134は、第1部材10と第2部材20との溶接の継手構造が、重ね合わせ構造であると判定して処理を終了する。このとき、出力部140は、継手構造の情報を出力することとしてもよい。
【0071】
(ステップS908)
ステップS908において、特定部134は、進入エッジの一方が、第1部材10と第2部材20との双方のワイヤーフレームに干渉し、進入エッジの他方が、第1部材10と第2部材20との面に干渉する若しくは干渉せず、投影エッジが一方の部材と干渉しないかを特定する。即ち、特定部134は、トーチ部進入エッジ30とルート部エッジ31とのうちのいずれか一方の上に配置されたチェック用部材が、第1部材10と第2部材20双方のワイヤーフレームに干渉し、トーチ部進入エッジ30とルート部エッジ31とのうちのいずれか他方の上に配置されたチェック用部材が、第1部材10と第2部材20との面に干渉するもしくは干渉せず、投影エッジ32上に配置されたチェック用部材が、第1部材10及び第2部材20のいずれかと干渉しないと特定した場合(YES)には、ステップS909の処理に移行し、そうでない場合(NO)には、処理を終了する。
【0072】
(ステップS909)
ステップS909において、特定部134は、第1部材10と第2部材20との溶接の継手構造が、斜め構造、又は、斜め角落とし構造であると判定して処理を終了する。このとき、出力部140は、継手構造の情報を出力することとしてもよい。
【0073】
以上が、部材位置関係推定装置100による溶接の継手構造の推定手法である。
【0074】
<まとめ>
上記実施の形態に係る部材位置関係推定装置100によれば、設計データに含まれる溶接線に対して、仮想的なチェック用部材を複数配置し、各チェック用部材と、溶接をする2つの部材の外枠となるワイヤーフレームとの干渉があるかどうかによって、溶接をする2つの部材のうちのいずれが溶接における上板となるか(下板となるか)を特定することができる。即ち、比較的簡易な構成によって、2つの部材の相対位置関係を特定することができる。
【0075】
また、同様に、チェック用部材の2つの部材に対する干渉の態様によって、溶接における継手構造がどのようになっているかを特定することができる。
【0076】
したがって、部材位置関係推定装置100は、溶接におけるロボットに対するティーチングにおいて、溶接プログラムの自動作成に寄与することができる。一例として、部材位置関係推定装置100による部材の位置関係の推定結果を用いて、設計者による溶接線からロボットで溶接すべき正しい教示点を自動的に生成したり、溶接条件(部材の位置関係によって定まる電流量や溶接速度など)の決定を自動的に行ったりすることができるようになる。
【0077】
<補足>
上記実施形態に係る部材位置関係推定装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、他の手法により実現されてもよいことは言うまでもない。以下、各種変形例について説明する。
【0078】
(1)上記実施形態においては、部材位置関係推定装置100を機能するプロセッサが部材位置関係推定プログラム等を実行することにより、新動作プログラムの可否を判定することとしているが、これは装置に集積回路(IC(Integrated Circuit)チップ、LSI(Large Scale Integration))等に形成された論理回路(ハードウェア)や専用回路によって実現してもよい。また、これらの回路は、1または複数の集積回路により実現されてよく、上記実施形態に示した複数の機能部の機能を1つの集積回路により実現されることとしてもよい。LSIは、集積度の違いにより、VLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIなどと呼称されることもある。すなわち、図10に示すように、部材位置関係推定装置100を構成する各機能部は、物理的な回路により実現されてもよい。図10に示すように、部材位置関係推定装置100は、通信回路110aと、記憶回路120aと、制御回路130a(変換回路131a、配置回路132a、判定回路133a、特定回路134a)と、出力回路140aとを備え、各回路は、上述の同名の機能部と同様の機能を有する。
【0079】
また、上記部材位置関係推定プログラムは、プロセッサが読み取り可能な記録媒体に記録されていてよく、記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記部材位置関係推定プログラムは、当該部材位置関係推定プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記プロセッサに供給されてもよい。本発明は、上記部材位置関係推定プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0080】
なお、上記部材位置関係推定プログラムは、例えば、C言語、C++言語、Basic言語等のプログラミング言語の他、ActionScript、JavaScript(登録商標)などのスクリプト言語、Objective-C、Java(登録商標)などのオブジェクト指向プログラミング言語、HTML5などのマークアップ言語などを用いて実装できる。
【0081】
(2)上記実施形態及び各補足に示した構成は、適宜組み合わせることとしてもよい。
【符号の説明】
【0082】
10 第1部材
20 第2部材
30 トーチ部進入エッジ
31 ルート部エッジ
32 投影エッジ
30a~30e、31a~31e、32a~32e チェック用部材
100 部材位置関係推定装置
110 通信部
120 記憶部
130 制御部
131 変換部
132 配置部
133 判定部
134 特定部
140 出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10