(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】段付きドリル
(51)【国際特許分類】
B23B 51/00 20060101AFI20220914BHJP
【FI】
B23B51/00 H
B23B51/00 L
(21)【出願番号】P 2019500859
(86)(22)【出願日】2017-07-12
(86)【国際出願番号】 EP2017067635
(87)【国際公開番号】W WO2018011314
(87)【国際公開日】2018-01-18
【審査請求日】2020-01-29
(31)【優先権主張番号】102016212910.4
(32)【優先日】2016-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102016214386.7
(32)【優先日】2016-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597099025
【氏名又は名称】マパル ファブリック フュール プラツィジョンズベルクゼウグ ドクトル.クレス カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クレンツァー,ウルリヒ
(72)【発明者】
【氏名】トパル,セルカン
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/118684(WO,A1)
【文献】特開昭61-100307(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0053438(US,A1)
【文献】米国特許第02389909(US,A)
【文献】特表2015-511543(JP,A)
【文献】国際公開第2014/191216(WO,A1)
【文献】米国特許第01747117(US,A)
【文献】米国特許第00805170(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00 - 51/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 遠位端(3)と、反対側の近位端(5)と、
- 段付きドリル(1)の遠位端(3)に、複数の幾何学的に画定され
た切刃(17、19)を備え、
かつ前記段付きドリルの縦軸(15)上にある先端部(9)を有する
、ドリル先端部(7)であって、前記切刃(17、19)にそれぞれ刃溝(21、22)が割り当てられ、前記切刃(17、19)が、前記段付きドリル(1)の
前記縦軸(15)を中心とした、第一の半径を有する仮想の第一の円周上に位置するドリル先端部(7)と、
- 少なくとも一つの、前記遠位端(3)に対して距離を置いて配置されたドリル段差部(11)であって、複数の幾何学的に画定された切刃(23、25)を備えた端面(13)を有し、前記切刃(23、25)にそれぞれ刃溝(27、29)が割り当てられ、前記切刃(23、25)が、前記段付きドリル(1)の
前記縦軸(15)を中心として延びる、第二の半径を有する仮想の第二の円周上に位置するドリル段差部(11)とを備え、
- 前記第一の半径は前記第二の半径より小さい段付きドリルであって、
- 前記ドリル先端部(7)の前記刃溝(21、22)と、前記ドリル段差部(11)の前記刃溝(27、29)とは、前記ドリル段差部(11)の前記端面(13)よりも、前記遠位端(3)に対して大きい距離を置いて配置されている領域において合流し、個別の刃溝を形成し、
- 前記ドリル段差部(11)に割り当てられた前記刃溝(27、29)のコアはテーパがついており、
前記コア
の直径は、前記ドリル段差部(11)の前記端面(13)から、前記段付きドリル(1)の前記近位端(5)の方向に向かって小さくなることを特徴とする段付きドリル。
【請求項2】
前記ドリル段差部(11)に割り当てられた前記刃溝(27、29)の旋回ピッチは、前記ドリル先端部(7)に割り当てられた前記刃溝(21、22)の前記旋回ピッチよりも大きいことを特徴とする、請求項1に記載の段付きドリル。
【請求項3】
前記ドリル先端部(7)に割り当てられた前記刃溝(21、22)のコアは、前記近位端(5)の方向に向かって大きくなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の段付きドリル。
【請求項4】
前記ドリル先端部(7)に割り当てられた前記刃溝(21、22)の前記コアは、前記ドリル段差部(11)の前記端面(13)よりも、前記段付きドリル(1)の前記遠位端(3)に対して大きい距離を有する領域において大きくなることを特徴とする、請求項3に記載の段付きドリル。
【請求項5】
前記刃溝の前記遠位端(3)の反対側の端部において、前記ドリル先端部(7)に割り当てられた刃溝(21、22)のコア直径が、前記ドリル段差部(11)に割り当てられた刃溝(27、29)のコア直径に近似し、又はこれに一致することを特徴とする、請求項3又は4に記載の段付きドリル。
【請求項6】
前記ドリル段差部(11)の前記刃溝(27、29)間にスタッド(31、33)が形成され、その幅が、前記ドリル段差部(11)の前記端面(13)から前記段付きドリル(1)の前記近位端(5)の方向に向かって増大することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の段付きドリル。
【請求項7】
前記ドリル先端部(7)の前記刃溝(21、22)と、前記ドリル段差部(11)の前記刃溝(27、29)とは、前記ドリル段差部(11)の仮想の第二の円周に対する、前記段付きドリル(1)の前記縦軸(15)の方向に測定された距離を置いて合流し、前記距離は、少なくとも第二の半径の3倍から、多くとも第二の半径の10倍であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の段付きドリル。
【請求項8】
前記距離は、少なくとも第二の半径の4倍から、多くとも第二の半径の8倍、であることを特徴とする、請求項7に記載の段付きドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念にかかる段付きドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
ここに述べるような段付きドリルは公知である。これらは、特に、複数の幾何学的に画定された切刃を有するドリル先端部と、同様に複数の切刃を含む、ドリル先端部よりも大きい外径を有する、少なくとも一つのドリル段差部(Aufbohrstufe)とを有する。ドリル先端部の切刃、及びドリル段差部の切刃の両方に対して、段付きドリルの使用時、即ち、ワークの加工時に発生する、ドリル先端部の切刃、又はドリル段差部の切刃によって除去された切削屑を排出するための刃溝が割り当てられている。切削屑を安全に低摩擦で排出することは、段付きドリルが安全に機能するための前提条件である。ここで述べたような段付きドリルでは、個々の段差部のすくい角が異なるため、切削屑の制御及び排出が非常に困難であることが判明している。また、ドリル先端部の切刃と、少なくとも一つのドリル段差部の切刃の切削速度は、部分的に大きく相違する。よって、全ての切刃に対して、切削屑を安全に排出するために必要な切削屑の形成がなされるように、切削条件、即ち切削速度及び送りを選択することは、非常に困難であることが多い。
【0003】
段付きドリルは、様々な実施形態において実現される。
【0004】
簡単な段付きドリルは、ドリル先端部の切刃と同じ数の、つまり通常は二つの刃溝を有する。この実施例は、製造が比較的安価であり、工具の良好な安定性を提供する。ワークを加工する際、ドリル先端部によって除去された切削屑、及びドリル段差部によって除去された切削屑の両方が、同じ刃溝で排出される。ドリル段差部によって除去された切削屑は、ドリル先端部によって除去された切削屑に到達し、刃溝内でこれらと混合する。よって、可延性のある、切削屑の長いワーク材料を穿孔する際には、ドリル段差部において、ドリル先端部によって除去された切削屑と、ドリル段差部によって除去された切削屑とが衝突する。多くの場合、これはドリル先端部からの切削屑の排出を妨げ、ドリル先端部が壊れることもあり得る。
【0005】
いわゆる複溝段付きドリル、即ちドリル先端部の切刃、及びドリル段差部の切刃の両方が個別の刃溝を有する段付きドリルは、ドリル刃(Aufbohrschneiden)用の追加の刃溝によって、上述のような切削屑の衝突が回避されるため、ここで著しい改善を提供する。ドリル先端部とドリル刃の切削屑は、ここでは別々の刃溝の中を流れ、互いを妨害しない。しかしながら、この種の複溝段付きドリルの幾何学形状の大きな欠点は、刃溝が追加されると、ドリルが著しく弱体化することである。このようなドリルは、上述のような簡単な段付きドリルと比べて、安定性が著しく低い。複溝段付きドリルの他の欠点はまた、ドリル刃の切削屑を、大きな深さから、即ち大きな穴あけ深さから排出することが難しいことである。比較的小さい追加の刃溝、即ちドリル刃の刃溝は、ここでは真の問題となり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、この欠点を回避する段付きドリルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために、請求項1に記載される特徴を有する段付きドリルが提案されている。その段付きドリルは、遠位端と近位端とを備えており、また、遠位端に、複数の幾何学的に画定された切刃を有するドリル先端部を備えている。ここでは、幾何学的に画定された切刃は、例えば研削プロセスによって、二つの隣接する表面が形成されることから生じる切刃について述べており、表面の切断線は切刃を形成する。従って、そのような切刃は、例えば、切刃として機能する個々の研削体を含む研削工具に備えられているものとは異なる。ドリル先端部の切刃にはまた、主溝と呼ばれる刃溝が充てられ、それを通じて、切刃によって除去された切削屑が排出される。切刃は、段付きドリルの中心軸を中心とする、仮想の第一の円周上に位置する切刃隅部によって画定される。第一の円周は、第一の切削円とも呼ばれる。これは第一の半径を有する。また、ドリルは、段付きドリルの遠位端から間隔を置いて配置される少なくとも一つのドリル段差部を含み、ドリル段差部は、刃溝が割り当てられる、複数の幾何学的に画定された切刃を有する遠位端の方向を向いた端面を有する。よって、ここに複溝段付きドリルが存在する。ドリル刃の刃溝は、追加溝とも呼ばれる。ドリル段差部の切刃隅部は、第二の半径を有する段付きドリルの中心軸を中心とする仮想の第二の円周上に位置し、段付きドリルを実現するために、第一の半径は第二の半径よりも小さい。第二の円周は第二の切削円とも呼ばれる。第一の切削円は第一の直径を有し、第二の切削円は第二の直径を有し、通常、直径はそれぞれ対応する半径の2倍であり、第二の直径は第一の直径より大きい。
【0008】
段付きドリルは、ドリル先端部の刃溝と、ドリル段差部の刃溝とが一つの領域に合流し、段付きドリルの遠位端に対し、ドリル段差部の端面よりも大きい距離を置いて配置された、一つの共通の刃溝を形成することを特徴とする。
【0009】
この構成により、ワーク加工時に発生した、ドリル先端部の切刃から除去された切削屑と、ドリル段差部から除去された切削屑とを、まず、ワークを有する段付きドリルが挿入されている領域から別々に排出することが可能である。追加溝の領域では、除去された切削屑は成形され、ドリル段差部の加工領域から排出される。多少整理された切削屑流が追加溝で形成された後に、これらの切削屑は、主溝を通して排出されるドリル先端部の切削屑と統合される。よって、ドリル段差部の領域で除去された切削屑は、ワークから除去された直後には主溝を走る切削屑流に到達しない。主溝及び追加溝内に排出された切削屑の統合は、ドリル段差部の端面までの距離、即ち、段付きドリルの遠位端までのドリル段差部の端面の距離よりも大きい遠位端までの距離を置いて行われる。ドリル先端部とドリル段差部の切削屑は、最初に別々の経路を流れるため、相互に妨害し得ない。ドリル先端部の刃溝と、ドリル段差部の刃溝とが併合して一つの共通の刃溝を形成するため、段付きドリルは、その全長にわたって二つの別々の主溝及び追加溝が形成される場合と比べて弱くならない。
【発明の効果】
【0010】
従って、ここで提案された段付きドリルは、従来の複溝段付きドリルよりも著しく高い安定性を有する。更に、段付きドリルの遠位端からより大きな距離を置いて、二つの溝が併合して一つの刃溝となるため、より深い穴あけ深さを形成する際に、ここで述べられる段付きドリルによって、切削屑の除去が確実に保証される。
【0011】
段付きドリル先端部の好ましい実施例では、ドリル段差部に割り当てられた刃溝の旋回ピッチが、ドリル先端部に割り当てられた刃溝の旋回ピッチよりも大きい。段付きドリルのこの構成は、ドリル先端部の刃溝と、ドリル段差部の刃溝との合流を容易にもたらす。ドリル先端部によって除去された切削屑と、ドリル段差部によって除去された切削屑に割り当てられた刃溝とが合流することによって、刃溝は、切削屑の排出に関する欠点を懸念する必要なく、段付きドリルの弱体化を減少させる。むしろ、そのことによって、併合した刃溝を通して深い孔からの切削屑を最適に排出できることも達成される。
【0012】
他の好ましい実施例は、ドリル段差部に割り当てられた刃溝のコアがテーパがついており、コア直径が、ドリル段差部の端面から段付きドリルの近位端の方向に向かって小さくなることを特徴とする。この構成は、段付きドリルによって除去された切削屑が、効果的に排出されるように、より大きなスペースを有することをもたらす。
【0013】
更に好ましい実施例では、ドリル先端部に割り当てられた刃溝のコアが拡大する。これにより、段付きドリルの安定性も向上する。
【0014】
特に好ましいのは、段付きドリルの遠位端に対して、ドリル段差部の端面よりも大きい距離を置いて配置された領域において、ドリル先端部に割り当てられた刃溝のコアが拡大することを特徴とする段付きドリルの実施例である。従って、このコアの拡大は、ドリル段差部の刃溝に割り当てられたコア直径が小さくなる領域で行われる。一方では、これにより、ドリル先端部の切削屑及びドリル段差部の切削屑の両方を排出することができるスペースが拡大し、他方では、段付きドリルの安定性が増大する。ドリル先端部の刃溝に割り当てられたコアの拡大、及び/又はドリル段差部の刃溝に割り当てられたコアのテーパは、好ましくは連続的に行われるため、ワークの加工時における段付きドリルの負荷ピークが回避される。
【0015】
更に、遠位端とは反対側の刃溝の端部において、ドリル先端部に割り当てられた刃溝のコア直径が、ドリル段差部に割り当てられた刃溝のコア直径に近似し、好ましくはこれに一致することを特徴とする段付きドリルの実施例が好ましい。言い換えれば、近位方向でドリル段差部の端面に隣接する領域では、ドリル段差部の刃溝に割り当てられたコアは、ドリル先端部の刃溝に割り当てられたコア直径よりも大きい、好ましくは略大きい直径を備える。本発明にかかる段付きドリルでは、ドリル先端部に割り当てられた刃溝のコア直径は、ドリル段差部に割り当てられた刃溝の領域の直径よりも小さい。ここでは、コア直径は、ドリル先端部の領域における段付きドリルの外径、特に第一の切削円の第一の直径と、ドリル段差部の領域における段付きドリルの外径、特に第二の切削円の第二の直径との差によって選択される。外径の差が小さい場合、ドリル段差部のコア直径は、ドリル先端部のコア直径よりも係数>1.0~1.5だけ大きい。外径の差が大きい場合、係数は2.0~2.5である。外径の差が非常に大きい場合、刃溝に割り当てられたコアは、ドリル先端部に割り当てられた刃溝の直径よりも3倍大きい直径を有することができる。
【0016】
ドリル段差部の端面からの距離が増えるにつれて、ドリル先端部のコアのコア直径は大きくなる一方で、ドリル段差部のコア直径は減少する。結局、二つのコアのコア直径は同じ大きさであるため、ドリル先端部の刃溝と、ドリル段差部の刃溝とは完全に合流する。
【0017】
段付きドリルの、ドリル段差部に割り当てられた刃溝間にスタッドが形成され、その幅が、(ドリル段差部の端面から段付きドリルの近位端の方向に向かって)増大することを特徴とする実施例も好ましい。この構成により、ドリル段差部の端面から段付きドリルの近位端の方向に向かって、段付きドリルの安定性が増大することが達成される。
【0018】
本発明の変形形態によれば、段付きドリルの中心軸或いは縦軸に沿って測定された、少なくとも第二の切削円の第二の直径の1.5倍から、多くとも第二の直径の5倍である第二の切削円からの距離で、主溝及び追加溝は合流する。好ましくは、この距離は、少なくとも第二の直径の2倍から、多くとも第二の直径の4倍までであり、好ましくは第二の直径の3倍である。
【0019】
総じて、ここで作製された段付きドリルの安定性は、ドリル先端部及びドリル段差部に割り当てられた刃溝の併合と、ドリル段差部の端面から段付きドリルの近位端の方向に向かうスタッドの特別な構成との両方によって増加する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明を、以下に図面を参照して詳述する。
【
図2】
図1に示された段付きドリルの、
図1に対して縦軸を中心に90°回転された側面図。
【
図3】ドリル段差部の端面付近の段付きドリルの縦軸に垂直な第一の断面図。
【
図4】
図3よりもドリル段差部の端面までの距離が大きい、段付きドリルの第二の断面図。
【
図5】
図4よりもドリル段差部の端面までの距離が大きい、段付きドリルの別の断面図。
【
図6】
図2にかかる段付きドリルの前部の拡大側面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、遠位端3と、反対側の近位端5と、更に遠位端3に先端部9を有するドリル先端部7と、遠位端3に面する端面13を含む、遠位端7に対して距離を置いて配置されたドリル段差部11とを備える段付きドリル1を示す。
【0022】
ドリル先端部7の先端部9には、幾何学的に画定された複数の切刃が設けられている。ここに示す実施例では、
図1では段付きドリル1の縦軸15の上方に第一の切刃17が見られ、更に、反対側に第二の切刃19が見られる。各切刃には刃溝が割り当てられている。
図1では、第一の切刃17に割り当てられた刃溝21が見られ、これは、第一の切刃17から除去された切削屑を排除するためのものである。同図は、第二の切刃に割り当てられた刃溝22も示す。
【0023】
ドリル段差部11の端面13の領域にも同様に複数の切刃が設けられており、ここに示されている実施例は、縦軸15の上方に位置する第一の切刃23、及び反対側に位置する第二の切刃25を有する。二つの切刃23、25には個々の刃溝が割り当てられているが、これらは、ドリル先端部7の第一及び第二の切刃17、19に割り当てられた刃溝と一致しない、即ちそれらとは別々に形成されている。
図1は、第一の切刃23に割り当てられた刃溝27と、第二の切刃25に割り当てられた刃溝29とを示す。
【0024】
ドリル先端部7の第一及び第二の切刃17、19は、段付きドリル1の縦軸15が垂直である平面内に実質的に存在し、第一の半径を有する、ここでは図示されない仮想の第一の円周上に配置される。それに対応して、ドリル段差部11の第一及び第二の切刃23、25は、縦軸15が垂直である平面内に実質的に存在し、第二の半径を有する、ここでは図示されない仮想の第二の円周上に配置される。ここでは単に例として、二つの仮想円周が、それぞれ段付きドリル1の縦軸15が垂直である平面内に実質的に存在すると仮定する。これは、(段付きドリル1の縦軸15の方向から見た)、ドリル先端部7の二つの切刃17、19と、ドリル段差部の二つの切刃23、25が同じ高さに位置する場合に仮定することができる。基本的に、ドリル先端部7又はドリル段差部11の二つの切刃を軸方向に移動させることも可能である。
【0025】
第一の円周の第一の半径は、第二の円周の第二の半径よりも小さいため、ドリル先端部7の第一の切削円の第一の直径は、ドリル段差部11の第二の切削円の第二の直径よりも小さい。ここで示される段付きドリル1はこのようにして実現される。
【0026】
ドリル先端部7の切刃17、19と、ドリル段差部11の切刃23、25にそれぞれ個別の刃溝が割り当てられているため、段付きドリル1は、いわゆる複溝段付きドリルとして構成されている。即ち、ここに示されている、ドリル先端部7を除いてドリル段差部11のみを有しているドリル1の一実施例では、全部で四つの刃溝が設けられている。
【0027】
近位端5の方向を見て、ここで示されたドリル段差部11の端面13に対して距離を置いて、他のドリル段差部が設けられることは完全に可能である。
【0028】
図1は、ドリル段差部11の第一の切刃23に割り当てられた刃溝27と、ドリル段差部11の第二の切刃25に割り当てられた刃溝29との間に第一のスタッド(stollen)31が形成されていることを示している。それに対応して、刃溝29と刃溝27との間に第二のスタッドが形成される。
【0029】
ここに記載される二つのスタッド31、33を備える段付きドリル1の構成は、ドリル段差部11が二つの切刃を有することによって生じる。三つの切刃が設けられている場合、それに応じて三つのスタッドが生じる。これらの関連性は公知であるため、ここでは詳細に立ち入らない。
【0030】
二つのスタッド31、33は、ドリル段差部11の端面13に近い領域において第一の幅B1を有する。これは、スタッドの更なる経過において、段付きドリル1の近位端5の方向に増大し、端面13に対して距離を置いて第二の幅B2を有する。段付ドリル1を使用する際の力のピークを回避するために、スタッド幅は連続的に増加することが好ましい。
【0031】
段付きドリル1の
図1に示す実施例は、その右側の遠位端3に、ドリル先端部7の先端部9を有する。段付きドリル1は、反対側の近位端5の領域において、段付きドリル1を駆動装置、例えばドリルマシンのスピンドルと連結するために使用される領域を備えている。ここでは、例えばその領域は円筒状のシャフト35によって形成されている。シャフト35の周面37には、ここには図示されていない平坦部を設けることができ、その領域には、シャフト35をドリルマシンの主軸に不動に、所定の回転位置で締結するために、取付けねじを係合させることができる。ドリルの取付け領域、及び段付きドリルの取付け領域の構成については公知であるので、ここでは詳細に説明しない。
【0032】
シャフト35の周面37は、ここでは斜角面として形成された段部39を越えてドリル段差部11へ移行する。この段部は、ここに示されている実施例では例として備えられている。ただし、これを容易に省略することも可能である。
【0033】
図2は、
図1に示す段付きドリル1の側面図を示している。しかしながら、ここでは段付きドリルは、
図1の図に対して
図2では90°回転しているため、例えば、ドリル段差部11の第一の切刃23は、
図2の観察者の方を向いている。同一の要素、及び機能的に同一の要素には、同一の参照番号が付されているため、先の説明を参照されたい。
図2から、ドリル先端部7が、ここでも同様に
図2の観察者の方を向いている第一の切刃17を含む先端部9を有することが分かる。ドリル先端部7の第一の切刃17に割り当てられた、同様に観察者の方を向いている第一の切刃17が明確に認識できる。付随する刃溝21は、段付きドリル1の遠位端に設けられた先端部9から、段付きドリル1の近位端の方向に向かって左へ延びる。それに対応して、ドリル段差部11の第一の切刃23に割り当てられた刃溝27が、同様に、ドリル段差部11の端面13から近位端5の方向に向かって左へ延びる。
【0034】
図2では、
図1を参照して説明されたスタッド33、31が見られる。
【0035】
図2では、数字III、IV及びVを有する三つの垂直の破線が記載されており、これらは、段付きドリル1の縦軸15が垂直である切断面を示している。
【0036】
図3は、
図2の線III-IIIに沿って延びる段付きドリル1を通る断面図を示す。
図3の外側の円周は、シャフト35の周面37を示し、内側の円周41は、周面37に通じる段部39へのドリル段差部11の移行部を示す。なお、同一の部材には同一の参照番号を付しているため、先の説明を参照されたい。
【0037】
図3の断面図では、上部にドリル段差部11の第一の切刃23が位置し、下部にドリル段差部11の第二の切刃25が位置する。また、第一の切刃23に割り当てられた刃溝27と、第二の切刃25に割り当てられた刃溝29とが明確に認識できる。ドリル先端部7の第一の切刃17に割り当てられた刃溝21と、ドリル先端部7の第二の切刃19に割り当てられた刃22も明確に認識できる。
【0038】
図3からは、ドリル先端部7とドリル段差部11とに割り当てられた刃溝21、22又は27、29が、突起43、45によって分離され、その際、突起43が刃溝27を刃溝22から分離しており、対応して、突起45が刃溝29を刃溝21から分離していることが明確に認識できる。即ち、切刃17、19から除去された切削屑は、これらの切刃に割り当てられたドリル先端部7の刃溝21、22内を通る。ドリル段差部11の切刃23、25から除去された切削屑は、付随する刃溝27、29内を通り、ドリル先端部7に割り当てられた刃溝21、22の切削屑と混合しない。
【0039】
段付きドリル1には、冷却剤/潤滑剤チャネル47、49を設けることができ、これは、ここでは破線で示す垂直の直径線上に配置することができる。ここで述べる段付きドリル1のようなドリルに冷却剤/潤滑剤を供給することも知られているため、ここでは詳細に説明しない。冷却チャネル47、49は、好ましくは、段付きドリル1の遠位端3における先端部9の領域に連通することのみが示されており、それにより、冷却剤/潤滑剤のための出口開口が実現される。
【0040】
また、
図3にも、スタッド31、33が示されている。
【0041】
中心軸15の周りを延びる第一の円51によって、ドリル段差部11の刃溝27、29に割り当てられたコアが示唆される。中心軸15の周りを延びる別の円53によって、ドリル先端部7の刃溝21、22に割り当てられたコアが示される。円53によって示されるドリル先端部のコアは、円51によって示されるドリル段差部11のコアよりも小さいことが明確に認識できる。ここでは、例として、円51の直径は、円53の直径の3倍である。
【0042】
正確な大小関係は、ここでは重要でない。円51で示されたコアが、円53で示されたコアよりも略厚いことが重要である。
【0043】
図4もまた、段付きドリル1の断面図を示しており、ここでの断面は、
図2に描写される線IV-IVに沿って延びている断面である。同一の要素、及び機能的に同一の要素には、同一の参照番号が付されているため、先の説明を参照されたい。
【0044】
図4にかかる断面図では、刃溝27と刃溝22との間の突起43が、
図3の場合よりも小さいことが認識できる。更に、突起43は円51上を時計回りに移動している。対応して、刃溝29と刃溝21との間の突起45も同様に小さくなり、円51上を時計回りに移動している。刃溝27、22及び刃溝29、21の間の分離が、あまり決定的に設計されていないことが重要である。従って、刃溝27、22又は29、21内を排出された切削屑の第一の混合を行うことができる。
【0045】
また、ドリル段差部11の刃溝27、29に割り当てられた、円51で示唆されるコアが小さくなった一方で、ドリル先端部7の刃溝21、22に割り当てられた、円53で示唆されるコアが大きくなったことも分かる。
【0046】
これに加え、スタッド31、33の幅は、
図3の断面図に比べて大きくなったことが分かる。
【0047】
図5は、
図2に描写される線V-Vに沿った段付きドリル1の断面図を示す。同一の要素、及び機能的に同一の要素には同一の参照番号が付されているため、先の説明を参照されたい。
【0048】
切断線III-III及びIV-IVが位置する領域よりも、ドリル段差部11の端面13に対して大きい距離を置いて位置する領域では、
図3及び
図4にはまだ見られる突起43、45が、
図5による断面の領域では完全に消えていることが明確となる。従って、ここでは刃溝27、22及び29、21は、それらはもはや突起43、45によって分離されておらず、互いに合流しているため、単一の刃溝を形成する。
【0049】
図5は更に、
図4及び
図4に示す二つの円51及び53が統合して円55となることを示している。これは、先の
図3及び
図4にかかる断面図が示すように、円51で示されたドリル段差部11のコアの直径が、端面13から始まって左へ、即ち、段付きドリル1の近位端5の方向に向かって小さくなった一方で、ドリル先端部7のコアの直径は、右から左へ、即ち、ドリル段差部11の端面13から近位端5の方向に向かって大きくなったことによる。
図5に描写された断面の領域では、コア直径が近似し、好ましくは等しい大きさに形成されている。
【0050】
同様に、
図5からは、スタッド31及び33の幅が増大し続けていることが明確である。
【0051】
図6は、
図2に描写される位置における段付きドリル1の前部を拡大して示す。シャフト35は、ここでは欠けた状態で示されている。同一の要素及び機能的に同一の要素には同一の参照番号が付されているため、先の説明を参照されたい。
【0052】
図6において、補助線S1によって、ドリル先端部7に割り当てられた刃溝21の旋回ピッチの半分が示唆されている。第二の補助線S2によって、ドリル段差部11に割り当てられた刃溝27の旋回ピッチの半分が示唆されている。
【0053】
切刃21、23に割り当てられた刃溝21、22は同じ旋回ピッチを有する。対応して、切刃23、25の刃溝27、29に割り当てられた旋回ピッチは同一である。
【0054】
ドリル段差部11に割り当てられた刃溝27、29の旋回ピッチは、ドリル先端部7に割り当てられた刃溝21、22の旋回ピッチよりも大きいことが分かる。この構成は、刃溝27、22、又は29、21の合流が実現されるように選択され、これは、
図3から
図5の断面図から見て取れる。
【0055】
先の説明からは、本発明にかかる段付きドリルが複溝段付きドリルとして構成され、ドリル先端部7に割り当てられた二つの刃溝21、22が、そこから分離した、ドリル段差部11に割り当てられた刃溝27、29を有することが明らかである。基本的には、四つの刃溝を有する段付きドリルは弱体化するため、状況によっては破損が生じる可能性があることが分かっている。しかしながら、ドリル先端部7の刃溝21、22に割り当てられたコアの直径が、ドリル段差部11の端面13の領域において、段付きドリル1の近位端5の方向に向かって増大するコア直径を有することが、説明から、特に
図3~
図5にかかる断面図から明らかである。同時に、ドリル段差部11の刃溝27、29に割り当てられたコアのコア直径は、この領域で減少する。同時に、スタッド31、33の幅は、ドリル段差部11の端面13から、段付きドリル1の遠位端5の方向に向かって増大する。これにより、ドリル先端部7の切削スペースと、ドリル段差部11の切削スペースとが合流し、公知の複溝段付きドリルよりも総じてスペースの必要性が少なくなることが達成される。更に、スタッド31及び33の幅が増大するため、段付きドリル1の安定性は、ドリル段差部11の端面13から段付きドリル1の遠位端5の方向に向かって増大する。
【0056】
図3~
図5にかかる断面を比較すると、段付きドリル1の切断された、ここでは網掛け表示された領域は、ドリル段差部11の端面13から段付きドリル1の近位端5の方向に向かって更に大きくなることが分かる。言い換えれば、段付ドリル1の基体は、ドリル段差部11の端面13から段付ドリル1の近位端5の方向に向かって更に厚くなり、安定する。これによって、段付ドリル1の安定性の向上が実現する。それにもかかわらず、刃溝27、22又は29、21が合流することにより、ドリル先端部7の切刃17、19及びドリル段差部11の切刃23、25によって除去された切削屑に提供される空間が十分に大きく、(穴あけ深さが深い場合でも)、問題のない切削屑排出が保証されることが達成される。
【0057】
ドリル先端部7の刃溝21、22、即ち主溝、及びドリル段差部11の刃溝27、29、即ち追加溝は、好ましくは、ドリル段差部11の仮想の第二の円周に対する、ひいては第二の切削円に対する、段付きドリル1の縦軸15の方向に測定した距離を置いて合流し、この距離は、少なくとも第二の半径の3倍から、多くとも第二の半径の10倍である。距離は、好ましくは少なくとも第二の半径の4倍から、多くとも第二の半径の8倍、好ましくは第二の半径の6倍である。