(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】ヒトFKRPタンパク質をコードする新規ポリヌクレオチド
(51)【国際特許分類】
C12N 15/54 20060101AFI20220914BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220914BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20220914BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220914BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220914BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220914BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220914BHJP
A01K 67/027 20060101ALI20220914BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20220914BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220914BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220914BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20220914BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220914BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220914BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20220914BHJP
【FI】
C12N15/54 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/864 100Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A01K67/027
A61K31/7088
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/12
A61P21/00
A61P27/02
C12N9/10
(21)【出願番号】P 2019572563
(86)(22)【出願日】2018-07-06
(86)【国際出願番号】 EP2018068420
(87)【国際公開番号】W WO2019008157
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-05-07
(32)【優先日】2017-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(73)【特許権者】
【識別番号】519365919
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリー-ヴァル-デソンヌ
【氏名又は名称原語表記】Universite d’Evry-Val-d’Essonne
(73)【特許権者】
【識別番号】591049848
【氏名又は名称】アンセルム
【氏名又は名称原語表記】INSERM
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】イザベル・リシャール
(72)【発明者】
【氏名】エヴリーヌ・ジケル-ズイダ
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・ロスタル
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/138387(WO,A1)
【文献】特表2017-513501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00-9/99
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3、配列番号4または配列番号6の配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項2】
配列番号3、配列番号4または配列番号6の配列からなる、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項4】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、好ましくは血清型2、8または9のAAVベクターである、請求項
3に記載のベクター。
【請求項5】
前記AAVベクターが、血清型9のもの、好ましくは血清型2/9のものである、請求項
4に記載のベクター。
【請求項6】
配列番号10、配列番号11、配列番号21の配列、またはそれとの同一性が少なくとも90%である配列を含む、請求項
3~
5のいずれかに記載のベクター。
【請求項7】
請求項1
または2に記載のポリヌクレオチド、または請求項
3~
6のいずれかに記載のベクターを含む細胞。
【請求項8】
請求項1
または2に記載のポリヌクレオチド、または請求項
3~
6のいずれかに記載のベクター、または請求項
7に記載の細胞を含む非ヒト・トランスジェニック動物。
【請求項9】
医薬としての使用のための、請求項1
または2に記載のポリヌクレオチド、または請求項
3~
6のいずれかに記載のベクター、または請求項
7に記載の細胞を含む組成物。
【請求項10】
請求項1
または2に記載のポリヌクレオチド、または請求項
3~
6のいずれかに記載のベクター、または請求項
7に記載の細胞を含む医薬組成物。
【請求項11】
FKRP欠損に関連付けられるか、またはα-ジストログリカン(α-DG)のグリコシル化異常により誘導される病態の処置における使用のための、請求項
10に記載の組成物。
【請求項12】
前記病態が、肢帯型筋ジストロフィー2I型(LGMD2I)、先天性筋ジストロフィー1C型(MDC1C)、ウォーカー-ワールブルグ症候群(WWS)および筋-眼-脳病(MEB)からなる群から選択され、好ましくはLGMD2Iである、請求項
11に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α-ジストログリカン(α-DG)のグリコシル化異常により誘導される病態を処置するために有効な遺伝子治療プロダクトを提供する。本発明は、ヒトフクチン関連タンパク質(fukutin-related protein;FKRP)をコードし、フレームシフト開始コドンから生じる追加の転写を回避する変異を含むポリヌクレオチドに関する。該ポリヌクレオチドによって、より高いレベルのFKRP発現が観察されるので、肢帯型筋ジストロフィー2I型(LGMD2I)のような、FKRP欠損に関連付けられるさまざまな疾患の処置のための貴重な処置ツールが提供される。
【背景技術】
【0002】
「ジストログリカノパチー」とは、二次的にα-ジストログリカン(αDG)のグリコシル化異常をもたらす、異なる遺伝子病理の総称である。このタンパク質は、骨格筋、心臓、眼および脳組織中に多く存在する、高度にグリコシル化された膜タンパク質であり、グリコシル化プロセスによって、その重量は70kDaから、筋肉において156kDaとなる。これは、細胞骨格を細胞外マトリックス(ECM)に繋ぎ止めるジストロフィン-糖タンパク質複合体の一部である。その高いグリコシル化レベルにより、αDGは、いくつかのECMタンパク質、例えば心筋および骨格筋中のラミニン、神経筋接合部のアグリンおよびパールカン、脳内のニューレキシン、および網膜中のピカチュリンの、ラミニンGドメイン(globular domain)への結合に向かうことができる。αDGのグリコシル化は複雑なプロセスであり、未だ十分に解明されていない。多くの遺伝子が実際に、αDGグリコシル化に関与するものとして同定されている。このような発見は、近年、αDGグリコシル化異常を示す患者における変異の検出に、ハイスループットシーケンシング法が利用できることから、加速している。そのようなタンパク質の1つは、フクチン関連タンパク質(FKRP)である。これは最初は、推定のαDGグリコシルトランスフェラーゼとして分類されたが、これは、その配列中に、多くのグリコシルトランスフェラーゼに共通するDxDモチーフを含むこと、およびFKRP遺伝子に変異のある患者における低αDGグリコシル化の証拠があること、のためであった(Breton et al., 1999; Brockington et al., 2001)。FKRPおよびそのホモログであるフクチンは最近、リガンド結合部位の付加に必要なジ-Rbo5Pリンカーを生成するリビトール-5-ホスフェート(Rbo5P)トランスフェラーゼとして同定された(Kanagawa et al., 2016)。
【0003】
FKRP遺伝子における変異は、肢帯型筋ジストロフィー2I型(LGMD2I; Muller et al., 2005)、先天性筋ジストロフィー1C型(MDC1C; Brockington et al., 2001)から、ウォーカー-ワールブルグ症候群(Walker-Warburg Syndrome;WWS)および筋-眼-脳病(Muscle-Eye-Brain disease;MEB; Beltran-Valero de Bernabe et al., 2004)に至る、αDGグリコシル化異常によって引き起こされるすべての範囲の病態をもたらしうる。疾患の重篤度と患者の数との間には逆相関が見られ、重篤度が高いほど患者の数は少ない(www.orphanet.frに示される有病率:WWS(すべての遺伝子):1~9/1000000、およびLGMD2I:1~9/100000)。病態の型は、少なくとも部分的に、FKRP変異の性質に関連するようである。特に、該タンパク質の276位のロイシンがイソロイシンに置換されたホモ接合性のL276I変異は、LGMD2Iに常に関連する(Mercuri et al., 2003)。LGMD2Iは、常染色体劣性遺伝の筋ジストロフィーであり、一様ではないが優先的に、肩および腰帯の筋肉を冒す。これは、特にL276I変異が北ヨーロッパで多く見られることから、ヨーロッパにおいて最も高頻度のLGMD2の1つである(Sveen et al., 2006)。病態の重篤度はさまざまである。筋肉症状が最初の10年間から30年間の間に現れ得、デュシェンヌ様疾患から比較的良性の経過のものまで、さまざまでありうる。心臓も冒され得、重度の心不全および死亡といった結果が招かれうる(Muller et al., 2005)。心臓の磁気共鳴画像撮影による研究により、非常に高い割合のLGMD2I患者(60~80%)が、駆出分画の低下のような心筋機能不全を呈しうることが示されている(Wahbi et al., 2008)。興味深いことに、心臓異常の重篤度は骨格筋状態に相関しない。
【0004】
Gicquelら(Hum Mol Genet, 2017 Mar 3. doi: 10.1093/hmg/ddx066)の報告によると、FKRPL276Iマウスモデルが作製され、デスミンプロモーター、およびβ-ヘモグロビン(HBB2)遺伝子のポリアデニル化(ポリA)シグナルの制御下に置かれたマウスFkrp遺伝子の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV2/9)導入が評価された。筋肉内または静脈内投与によって、筋肉病態の改善が見られた。mRNAおよびタンパク質のレベルでFKRPの高発現が得られ、ジストロフィーの組織学的および機能的回復をもたらす、αDGの正しいグリコシル化の回復およびラミニン結合の増加が示された。
【0005】
WO2016/138387においては、FKRP発現を高めるために、FKRPをコードする野生型ヌクレオチド配列のGC含量を約5%~約10%低下することが提案され、野生型配列と比較してGC含量が9.99%低下された配列番号1と称される合成ポリヌクレオチドが提供されている。
【0006】
したがって、FKRP遺伝子に基づく遺伝子置換療法は、FKRP欠損により引き起こされる病態に対する有望な処置方法であると考えられる。しかしながら、改善された処置方法が依然必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、フクチン関連タンパク質(FKRP)欠損に関連付けられる悲惨な病態、例えば肢帯型筋ジストロフィー2I型(LGMD2I)を、より高いレベルでのFKRP発現を可能にする改変された導入遺伝子によりコードされる天然ヒトFKRPタンパク質を提供することによって、軽減または治癒することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、FKRP最適化配列に基づく有用な遺伝子治療プロダクトを提供する。本願は、AAV9ベクター中にカプシド封入された本発明のポリヌクレオチドをマウスに筋肉内注射した場合に、FKRPレベルが、天然のコード配列によるものと比較して高いことを報告する。
【0009】
定義
別の定義をしない限り、本書に使用する技術用語および科学用語はいずれも、当業者に通常理解されるのと同じ意味を有する。本書に使用する用語は、単に特定の態様を説明することを目的とするものであり、限定が意図されるものではない。
【0010】
本書において、単数形は、文法的な対象である事物が1つまたは1つよりも多い(すなわち少なくとも1つである)ことを意味する。例えば、単数形の「要素」は、1つの要素または1つよりも多い要素を意味する。
【0011】
本書に使用する「約」または「およそ」は、量、時間の長さ等のような測定可能な値に関して用いられるとき、記載される値の±20%または±10%、より好ましくは±5%、より一層好ましくは±1%、さらに好ましくは±0.1%の範囲を、開示される方法の実施に該範囲が適当であるので、包含することが意図される。
【0012】
範囲:本開示を通して、本発明のさまざまな側面が、範囲の記載を以て示されうる。範囲の記載は、単に便宜および簡潔のためであって、本発明の範囲に対する変更できない限定として解釈すべきではない。したがって、範囲の記載は、すべての可能なより狭い範囲、および範囲内に含まれる個々の数値を明確に開示しているものとして、解釈すべきである。例えば、1~6という範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等といったより狭い範囲、ならびに該範囲に含まれる個々の数値、例えば1、2、2.7、3、4、5、5.3および6を明確に開示しているものと解釈すべきである。この定義は、範囲の広さに関係なく適用される。
【0013】
「単離された」とは、天然の状態から変えられた、または取り出されたことを意味する。例えば、生きている動物中に天然に存在する核酸またはペプチドは「単離された」ものではないが、同じ核酸またはペプチドでも、その天然の状態で共存する物質から部分的にまたは完全に分離されたものは、「単離された」ものである。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に純粋な形態で存在することができ、または、非天然の環境中、例えば宿主細胞中に存在することができる。
【0014】
本発明において、一般に存在する核酸塩基の下記略号を使用する:「A」はアデノシンを、「C」はシトシンを、「G」はグアノシンを、「T」はチミジンを、「U」はウリジンをさす。
【0015】
「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、同じアミノ酸配列をコードする、互いに縮重バージョンであるヌクレオチド配列すべてを包含する。タンパク質をコードするヌクレオチド配列またはRNAもしくはcDNAは、イントロンを含んでもよいので、タンパク質をコードするヌクレオシド配列はいずれかのバージョンにおいてイントロンを含みうる。
【0016】
「コードする」とは、限定されたヌクレオチド配列(すなわちrRNA、tRNAおよびmRNA)、または限定されたアミノ酸配列およびそれによりもたらされる生物学的性質を有する、生物学的プロセスにおける他のポリマーおよび巨大分子の合成のための鋳型として役立つという、ポリヌクレオチド、例えば遺伝子、cDNAまたはmRNAにおける特定のヌクレオチド配列の固有の性質をいう。したがって、細胞または他の生物学的系において、ある遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳がタンパク質を生じるならば、該遺伝子はタンパク質をコードする。コーディング鎖(そのヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり、通常、配列表に挙げられる)、およびノンコーディング鎖(遺伝子の転写またはcDNAの鋳型として用いられる)のいずれも、タンパク質、または当該遺伝子もしくはcDNAの他の産物をコードするものと言うことができる。
【0017】
用語「開始コドン」は、リボソームにより翻訳されるメッセンジャーRNA(mRNA)転写の最初のコドンをいう。真核生物において、開始コドンは常にメチオニンをコードする。最も一般的な開始コドンはAUGである。したがって、DNAのコーディング鎖(またはセンス鎖または鋳型でない鎖)において、開始コドンの配列はATGである。ノンコーディング鎖(またはアンチセンス鎖またはアンチコーディング鎖または鋳型鎖または転写された鎖)上の対応するアンチコドンは、CATである。本書の他の部分では、用語「開始コドン」はDNAに関しても使用する。
【0018】
本書において、用語「ポリヌクレオチド」は、一本鎖(ss)または二本鎖(ds)でありうるヌクレオチドの鎖として定義される。さらに、核酸は、ヌクレオチドのポリマーである。したがって、用語「核酸」と「ポリヌクレオチド」とは、本書において互換的に用いられる。当業者は、核酸はポリヌクレオチドで、加水分解により単量体の「ヌクレオチド」となりうるという、一般的知識を有する。単量体ヌクレオチドは、加水分解によりヌクレオシドとなりうる。本書において、ポリヌクレオチドは、当分野において利用可能な任意の手段(組換え手段、すなわち、組換えライブラリーまたは細胞ゲノムからの核酸配列の、常套のクローニング技術およびPCR等によるクローニングを包含するが、それに限定されない)、および合成手段によって得られる核酸配列すべてを包含するが、それに限定されない。
【0019】
本書において、用語「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」は互換的に用いられ、ペプチド結合により共有結合したアミノ酸残基から構成される化合物をさす。タンパク質またはペプチドは、少なくとも2個のアミノ酸を含まなければならず、タンパク質またはペプチドの配列を構成しうるアミノ酸の最大数に制限はない。ポリペプチドは、ペプチド結合で連結された2個またはそれ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質を包含する。本書において、該用語は、短鎖(当分野において一般的に、例えばペプチド、オリゴペプチドおよびオリゴマーとも称される)と、より長い鎖(当分野において一般的にタンパク質(これには多くの種類がある)と称される)との両方をさす。「ポリペプチド」は、例えば、生物学的に活性な断片、実質的に相同のポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドのバリアント、改変ポリペプチド、誘導体、アナログ、融合タンパク質等を包含する。ポリペプチドは、天然のペプチド、組換えペプチド、合成ペプチド、またはそれらの組み合わせを包含する。
【0020】
タンパク質は「改変される」ことがあり、サイレントな変化をもたらし機能的等価物をもたらすアミノ酸残基の欠失、挿入または置換を含みうる。生物学的活性を維持するように、アミノ酸残基の極性、荷電性、溶解性、疎水性、親水性および/または両親媒性における類似性に基づいて、意図的なアミノ酸置換を行いうる。例えば、負に荷電したアミノ酸は、アスパラギン酸およびグルタミン酸を包含し得;正に荷電したアミノ酸は、リジンおよびアルギニンを包含し得;荷電していない極性基を有する、親水性の値が同等であるアミノ酸は、ロイシン、イソロイシンおよびバリン、グリシンおよびアラニン、アスパラギンおよびグルタミン、セリンおよびスレオニン、ならびにフェニルアラニンおよびチロシンを包含しうる。
【0021】
本書において、「バリアント」とは、1つまたはそれ以上のアミノ酸が改変されたアミノ酸配列をさす。バリアントは、構造的または化学的性質が類似するアミノ酸の置換、例えばロイシンのイソロイシンによる置換がなされた、「保存的」変化を有しうる。バリアントは、「非保存的」変化、例えばグリシンのトリプトファンによる置換を有することもできる。同様の小変化はまた、アミノ酸の欠失もしくは挿入またはその両方を包含しうる。生物学的または免疫学的活性を失わせずに、どのアミノ酸残基を置換、挿入または欠失しうるかの決定のガイダンスは、当分野で知られるコンピュータープログラムを用いて見出すことができる。
【0022】
「同一」または「相同」とは、2つのポリペプチド間、または2つの核酸分子間の、配列の同一性または配列の類似性をいう。比較される2つの配列の両方において、ある位置が同じ塩基またはアミノ酸単量体サブユニットによって占められる場合、例えば2つのDNA分子のそれぞれにおいて、ある位置がアデニンによって占められる場合、該分子は該位置において相同または同一である。2つの配列間の相同性/同一性のパーセントは、2つの配列間でマッチする位置の数を、比較される位置の数で除したものを100倍した関数である。例えば、2つの配列において10のうち6の位置がマッチする場合、該2つの配列は60%同一である。通常、比較の際、2つの配列は、相同性/同一性が最大となるようにアラインされる。
【0023】
「ベクター」とは、単離された核酸を含み、該単離された核酸を細胞の内部に送達するために使用することのできる構成物である。線状ポリヌクレオチド、イオン性または両親媒性化合物と会合したポリヌクレオチド、プラスミド、およびウイルスを包含するがそれに限定されない、多くのベクターが当分野において知られている。したがって、用語「ベクター」は、自己複製プラスミド、またはウイルスを包含する。この用語は、細胞内への核酸の導入を促進する、プラスミドでもウイルスでもない化合物、例えばポリリジン化合物、リポソーム等をも包含すると解釈すべきである。ウイルスベクターの例は、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター等を包含するが、それに限定されない。
【0024】
「発現ベクター」とは、発現されるべきヌクレオチド配列に作動可能に連結された発現調節配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターをさす。発現ベクターは、発現のために十分なシスエレメントを含む;発現のための他のエレメントは、宿主細胞によって、またはインビトロ発現系において、供給されうる。発現ベクターは、当分野で知られるものすべてを包含し、その例には、組換えポリヌクレオチドを組み込んだ、コスミド、プラスミド(例えば、そのままであるか、またはリポソームに封入される)、およびウイルス(例えばレンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)がある。
【0025】
本書において、用語「プロモーター」は、ポリヌクレオチド配列の特定の転写の開始に必要な、細胞の合成機構または導入された合成機構によって認識されるDNA配列として定義される。
【0026】
本書において、用語「プロモーター/調節配列」とは、該プロモーター/調節配列に作動可能に連結された遺伝子プロダクトの発現のために必要な核酸配列を意味する。いくつかの例において、該配列は遺伝子プロダクトの発現に必要なコアプロモーター配列であり得、他のいくつかの例においては、該配列は遺伝子プロダクトの発現に必要なエンハンサー配列および他の調節エレメントをも含みうる。プロモーター/調節配列は、例えば、遺伝子プロダクトを組織特異的な様式で発現させるものでありうる。
【0027】
「構成型」プロモーターとは、遺伝子プロダクトをコードするかまたは規定するポリヌクレオチドに作動可能に連結されたとき、細胞中で、細胞の大抵のまたはすべての生理学的条件において該遺伝子プロダクトの産生を引き起こすヌクレオチド配列である。
【0028】
「誘導型」プロモーターとは、遺伝子プロダクトをコードするかまたは規定するポリヌクレオチドに作動可能に連結されたとき、細胞中で、実質的に、該プロモーターに対応するインデューサーが存在するときに限り、該遺伝子プロダクトの産生を引き起こすヌクレオチド配列である。
【0029】
「組織特異的」プロモーターとは、遺伝子をコードするかまたは遺伝子で規定されるポリヌクレオチドに作動可能に連結されたとき、細胞中で、該細胞が該プロモーターに対応する種類の組織の細胞である場合に優先的に、該遺伝子プロダクトの産生を引き起こすヌクレオチド配列である。
【0030】
用語「異常」とは、生物体、組織、細胞またはそれらの成分に関して用いられるとき、生物体、組織、細胞またはそれらの成分が、少なくとも1つの観察可能または検出可能な特徴(例えば、寿命、処理、時刻等)において、対応する「正常」な(期待される)特徴を示す生物体、組織、細胞またはそれらの成分と異なることをいう。ある1つの種類の細胞または組織にとって正常な、または期待される特徴は、異なる種類の細胞または組織にとって異常でありうる。
【0031】
本書において、用語「患者」、「対象」、「個体」等は、互換的に用いられ、本書に記載される方法に付されうる任意の動物またはin vitroもしくはin situのその細胞をさす。対象は、哺乳動物、例えばヒト、イヌ、マウス、ラットまたは非ヒト霊長類でありうる。限定するものではないが、いくつかの態様において、患者、対象または個体はヒトである。
【0032】
「疾患」または「病態」とは、ホメオスタシスを維持することができていない対象の健康状態であり、疾患が改善されない場合、対象の健康状態の悪化は続く。これに対し、対象の「障害」は、対象がホメオスタシスを維持できているが、障害がない場合と比べて好ましさの劣る健康状態である。障害は、処置されない場合に、対象の健康状態のさらなる悪化を必ずしももたらさない。
【0033】
疾患または障害は、疾患もしは障害の症状の重篤度またはそのような症状を患者が経験する頻度、またはその両方が低下される場合、「軽減」または「改善」される。これは、疾患または障害の進行の阻止を包含する。疾患または障害は、疾患もしは障害の症状の重篤度またはそのような症状を患者が経験する頻度、またはその両方が解消される場合、「治癒」される。
【0034】
「治療的」処置は、病態の徴候を示す対象に該徴候を軽減または解消する目的で適用される処置である。「予防的」処置は、病態の徴候を示していないか、またはまだ病態の診断がなされていない対象に、該徴候が起きるのを防止または遅延する目的で適用される処置である。
【0035】
本書において、「疾患または障害を処置する」とは、対象が経験する疾患または障害の少なくとも1つの徴候または症状の頻度または重篤度を軽減することを意味する。処置に関して、「疾患」および「障害」は互換的に用いられる。
【0036】
化合物の「有効量」とは、該化合物が投与される対象に有益な効果を提供するのに十分な化合物の量である。本書において、「処置有効量」とは、疾患または状態を防ぐかまたは処置する(疾患または状態の発症を遅延するかまたは防ぐ、疾患または状態の進行を防ぐ、疾患または状態を抑制、軽減または回復する)(疾患の症状を軽減することを包含する)のに十分であるかまたは有効である量をいう。デリバリービヒクルの「有効量」とは、有効に化合物を結合またはデリバーするのに十分な量である。
【0037】
発明の詳細な説明
本発明は、フクチン関連タンパク質(FKRP)コード領域に含まれる追加のフレームシフト開始コドンの禁止によって、FKRP発現が増加するという知見に基づく。
【0038】
したがって、本発明は一側面において、フレームシフト開始コドンから生じる追加の転写を回避する変異を少なくとも含む、ヒトFKRPをコードする合成ポリヌクレオチドを提供する。
【0039】
本発明において、前記合成ポリヌクレオチドは、機能性ヒトFKRPをコードする核酸配列を含むか、該核酸配列からなる。
【0040】
一態様において、ヒトFKRPをコードするポリヌクレオチド(「オープンリーディングフレーム」(ORF)とも称される)は、cDNAである。しかしながら、例えば一本鎖または二本鎖のDNAまたはRNAを用いることもできる。
【0041】
本発明の範囲において、ヒトFKRPタンパク質は、配列番号1(495アミノ酸のタンパク質に対応する)の配列からなるか、または該配列を含むタンパク質である。
【0042】
いくつかの特定の態様において、機能性ヒトFKRPは、配列番号1によりコードされる天然のヒトFKRPと同じ機能、特に、α-ジストログリカン(αDG)をグリコシル化する、および/またはFKRP欠損に関連する1つもしくはそれ以上の症状(特に前記のようなLGMD2I表現型)を少なくとも部分的に緩和する能力を持つタンパク質である。その断片および/または誘導体であってもよい。一態様において、前記FKRP配列は、配列番号1の配列との同一性が、60%、70%、80%、90%、95%もしくは99%またはそれ以上である。
【0043】
当分野で知られるように、配列番号1のヒトFKRPタンパク質をコードする天然のヒト配列は、配列番号2の配列を有する。
【0044】
本発明は、天然の配列である配列番号2を除外するものであり、配列番号1をコードするが配列番号2とは異なる配列に関するものである。より正確には、天然のポリヌクレオチド(配列番号2)が、改変または最適化されている:遺伝子コードの縮重に基づき、アミノ酸配列(配列番号1)を変化することなく、天然配列(配列番号2)の1つまたはそれ以上の塩基が、他の塩基で置換されている。言い換えると、本発明は、合成ポリヌクレオチド、すなわち天然に存在するものではない、好都合に最適化されたポリヌクレオチドを提供する。
【0045】
他の特定の態様において、本発明の合成ポリヌクレオチドは、配列番号20の配列またはそれとの同一性が少なくとも90%である配列からなるものではないか、該配列を含むものではない。
【0046】
好ましくは、ヒトFKRPをコードする合成ポリヌクレオチドは、機能性ヒトFKRP(好ましくは配列番号1のもの)をコードする単離された核酸のヌクレオチド配列、特に配列番号2の配列との相動性/同一性が、約60%、より好ましくは約65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、88%、89%または約90%、91%、92%、93%、94%、より一層好ましくは約95%、さらに好ましくは約96%、97%、98%または99%である。上述のとおり、前記ポリヌクレオチドは、配列番号2の配列を含むものではないか、または該配列からなるものではない。
【0047】
当分野で知られるように、コード配列は、センスまたはアンチセンス方向でフレームシフト開始コドンを含み得、それによって別のまたは追加の転写産物が生じうる。例えば、コード配列は、センス開始コドンの場合にさらなるATGを、またはアンチセンス開始コドンの場合にさらなるCATを含みうる。特定の態様において、そのような開始コドンはフレームシフトであり、すなわち、ヒトFKRPコード配列とインフェーズ/フレーム(in phase/frame)ではなく1ヌクレオチド分(「フェーズ/フレーム+1」)または2ヌクレオチド分(「フェーズ/フレーム+2」)シフトした別のオープンリーディングフレーム(ORF)を生じる。言い換えると、いわゆる「フレームシフト」開始コドンは、FKRPコード配列の別のフレームの1つに存する。
【0048】
配列番号2の場合:
メインのORFは、メチオニン(MまたはMet)をコードするATG(配列番号2のヌクレオチド1~3)によって位置1で始まる。当該ORFは1488の塩基またはヌクレオチドからなり、495アミノ酸のタンパク質をコードし、終止コドンTGAで終わる。インフェーズ、すなわちインフレームであるさらなるORFは、メチオニン(MまたはMet)をコードするATGによって、位置430(配列番号2のヌクレオチド430~432)および位置1279(配列番号2のヌクレオチド1279~1281)で始まる。しかしながら、それを変更することは、ATG以外に古典的にメチオニンをコードするコドンがないゆえに、不可能である。
【0049】
インフェーズ+1の場合、追加の転写を生じうる4つの開始コドンが存在する:
・位置429(配列番号2のヌクレオチド429~431)、位置819(配列番号2のヌクレオチド819~821)、および位置1431(配列番号2のヌクレオチド1431~1433)における、アンチセンス方向のATGに対応するCAT;
・位置545(配列番号2のヌクレオチド545~547)における、センス方向のATG。
【0050】
インフェーズ/フレーム+2の場合、開始コドン(センスまたはアンチセンス)となるものはない。
【0051】
本発明において、コードされるアミノ酸を変えることなく開始コドンを変異させるために、少なくとも1つの塩基の変化を導入する。
【0052】
一態様において、ポリヌクレオチドは、1つの変異した開始コドンを有し、該開始コドンは、配列番号2の位置429(「429~431」)、または位置545(「545~547」)、または位置819(「819~821」)、または位置1431(「1431~1433」)に存在する。
【0053】
好ましい一態様において、ポリヌクレオチドは、少なくとも1つの変異した開始コドンを有し、該開始コドンは、配列番号2の位置819(「819~821」)に存在する。
【0054】
他の一態様において、ポリヌクレオチドは、少なくとも2つの変異した開始コドンを有し、該開始コドンは、配列番号2の位置429と545、または位置429と819、または位置429と1431、または位置545と819、または位置545と1431、または位置819と1431に存在する。好ましくは、変異した開始コドンは、配列番号2の位置429と819、位置545と819、または位置819と1431に存在する。
【0055】
他の一態様において、ポリヌクレオチドは、少なくとも3つの変異した開始コドンを有し、該開始コドンは、配列番号2の位置429と545と819、または位置429と545と1431、または位置429と819と1431、または位置545と819と1431、好ましくは配列番号2の位置429と819と1431に存在する。より好ましくは、ポリヌクレオチドは、配列番号4または配列番号7または配列番号8の配列からなるか、またはそれを含む。
【0056】
さらに別の一態様において、ポリヌクレオチドは、少なくとも4つの変異した開始コドンを有し、該開始コドンは、配列番号2の位置429と545と819と1431に存在する。より好ましくは、ポリヌクレオチドは、配列番号3または配列番号5または配列番号6の配列からなるか、またはそれを含む。
【0057】
開始コドンの改変は、該コドンにおける1つ、2つまたは3つの変異の結果でありうる。上述のとおり、該変異は、コードされる配列を変化しないものとする。
【0058】
位置429(「429~431」)のアンチセンス開始コドンの禁止は、例えば、位置429のC塩基の、GまたはAへの変更の結果でありうる。これによって「CAT」(アンチセンス方向でATG)が「GAT」(アンチセンス方向でATC)または「AAT」(アンチセンス方向でATT)に変えられ、これはもはやアンチセンス方向で開始コドンに相当しないが、対応するアミノ酸配列を変更するものではない。
【0059】
位置545(「545~547」)のセンス開始コドンの禁止は、例えば、位置546のT塩基の、Cへの変更の結果でありうる。これによって「ATG」が「ACG」に変えられ、これはもはやセンス方向で開始コドンに相当しないが、対応するアミノ酸配列を変更するものではない。
【0060】
位置819(「819~821」)のアンチセンス開始コドンの禁止は、例えば、位置819のC塩基の、GまたはAへの変更の結果でありうる。これによって「CAT」(アンチセンス方向でATG)が「GAT」(アンチセンス方向でATC)または「AAT」(アンチセンス方向でATT)に変えられ、これはもはやアンチセンス方向で開始コドンに相当しないが、対応するアミノ酸配列を変更するものではない。
【0061】
位置1431(「1431-1433」)のアンチセンス開始コドンの禁止は、例えば、位置1431のC塩基の、Gへの変更の結果でありうる。これによって「CAT」(アンチセンス方向でATG)が「GAT」(アンチセンス方向でATC)に変えられ、これはもはやアンチセンス方向で開始コドンに相当しないが、対応するアミノ酸配列を変更するものではない。
【0062】
本発明のポリヌクレオチドは、次のようにさらに最適化されうる:
一態様において、GC含量が変更され、好ましくは低下される。好ましくは、本発明のポリヌクレオチドのGC含量は、配列番号2のGC含量に対して5%未満、または配列番号2のGC含量に対して10%を超えて低下される。GおよびC塩基のAまたはTによる置換によって、アミノ酸配列は保存されるべきであり、好ましくはさらなる開始コドンの導入はなされない。
【0063】
他の一態様において、CGモチーフが、CpGアイランドの形成を回避するように置換され、ここでも好ましくは前記と同じ注意(アミノ酸配列は保存され、さらなる開始コドンの導入はなされない)が払われる。
【0064】
他の一態様において、配列は、ヒトにおけるトランスファーRNA頻度に基づいて、例えばSharp et al. (1988)に開示されるコドン頻度表にしたがって、最適化され、ここでも好ましくは前記と同じ注意が払われる。
【0065】
他の一態様において、本発明のポリヌクレオチドは、ステムループに対応する配列番号2の位置553~559の領域(GCCCCCG)における変異を少なくともさらに有しうる。好ましくは、該ステムループ構造は、該変異によって改変または破壊される。例えば、配列番号2の位置558のヌクレオチドCがTに変更される。
【0066】
特定の態様において、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7および配列番号8から選択される配列、またはそれとの相同性/同一性が約60%、より好ましくは約65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、88%、89%もしくは約90%、91%、92%、93%、94%、より一層好ましくは約95%、さらに好ましくは約96%、97%、98%もしくは99%である配列からなるか、またはそれを含む。
【0067】
好ましい態様において、前記の相同配列は、同じ変異した開始コドンを有する。
【0068】
したがって、例えば、本発明は、配列番号4との同一性が約60%、より好ましくは約65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、88%、89%または約90%、91%、92%、93%、94%、より一層好ましくは約95%、さらに好ましくは約96%、97%、98%または99%であり、配列番号2の位置429、819および1431における3つの変異された開始コドンを有する配列にも関する。特定の態様において、該配列は、配列番号7または配列番号8である。
【0069】
別の一例として、本発明は、配列番号6との同一性が約60%、より好ましくは約65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、88%、89%または約90%、91%、92%、93%、94%、より一層好ましくは約95%、さらに好ましくは約96%、97%、98%または99%であり、配列番号2の位置429、545、819および1431における4つの変異された開始コドンを有する配列にも関する。特定の態様において、該配列は、配列番号5または配列番号3である。
【0070】
特定の態様において、単離されたポリヌクレオチドはベクターに挿入される。簡潔に述べると、天然または合成の核酸の発現は、典型的には、核酸またはその一部がプロモーターに作動可能に連結され、該コンストラクトが発現ベクターに組み込まれることによって達成される。使用されるベクターは、複製、および場合により、真核生物細胞における組み込みに適当なものである。典型的なベクターは、転写および翻訳の終結配列、開始配列、ならびに所望の核酸配列の発現の調節に有用なプロモーターを含む。
【0071】
一態様において、ベクターは、発現ベクター、好ましくはウイルスベクターである。
【0072】
一態様において、ウイルスベクターは、バキュロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、およびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターからなる群から選択される。
【0073】
本発明の特定の態様において、本発明のポリヌクレオチドを含むウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。
【0074】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、さまざまな疾患の処置のための遺伝子送達ツールとして、有用性が高まってきている。AAVベクターは、病原性がないこと、免疫原性が低いこと、有糸分裂後の細胞および組織に安定かつ効果的に形質導入できること、を包含する、遺伝子治療に好適な特徴を数多く有する。AAVベクター中の特定の遺伝子の発現は、AAVの血清型、プロモーター、および送達方法の組み合わせを適切に選択することによって、1つまたはそれ以上のタイプの細胞に対して、特異的に標的化することができる。
【0075】
一態様において、コード配列がAAVベクターに含められる。100を超える天然の血清型のAAVが知られている。AAVカプシドの天然のバリアントが多数存在するので、ジストロフィーの病態に特に適する性質を有するAAVを同定し使用することが可能である。AAVウイルスは、従来の分子生物学の技術を用いて組換えることができるので、該粒子を、核酸配列を細胞特異的に送達するため、免疫原性を最小限にするため、安定性および粒子寿命を調節するため、効果的な分解のため、核への正確な送達のために、最適化することが可能である。
【0076】
上述のとおり、AAVベクターの使用は、比較的無毒性であり、効率的な遺伝子導入を提供し、特定の目的のために容易に最適化可能であるゆえに、外来DNA送達の一般的な様式である。ヒトまたは非ヒト霊長類(NHP)からから単離され十分に特徴付けられたAAV血清型のなかで、ヒト血清型2は、遺伝子導入ベクターとして最初に開発されたAAVである。現在用いられている他のAAV血清型には、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAV11およびAAV12が含まれる。さらに、非天然の組換えバリアントおよびキメラAAV血清型も有用でありうる。
【0077】
ベクターを構成する好ましいAAVフラグメントには、vp1、vp2、vp3および超可変領域を包含するcapタンパク質、rep78、rep68、rep52およびrep40を包含するrepタンパク質、およびこれらタンパク質をコードする配列が包含される。これらフラグメントは、さまざまなベクター系および宿主細胞において容易に利用される。
【0078】
そのようなフラグメントは、単独で、他のAAV血清型の配列もしくはフラグメントとの組み合わせとして、または他のAAVもしくは非AAVウイルス配列由来のエレメントとの組み合わせとして用いられうる。本書において、人工AAV血清型とは、非天然のカプシドタンパク質を有するAAVを包含するが、それに限定されない。そのような人工カプシドは、選択されたAAV配列(例えば、vp1カプシドタンパク質フラグメント)を、異なる選択されたAAV血清型から、同じAAV血清型の隣接していない部分から、AAVウイルス以外のソースから、またはウイルス以外のソースから得られうる異種の配列と組み合わせて用いて、任意の適当な技術によって作製されうる。人工AAV血清型は、キメラAAVカプシド、組換えAAVカプシド、または「ヒト化」AAVカプシドでありうるが、それに限定されない。したがって、AAVまたは人工AAVの例は、AAV2/8(米国特許第7282199号)、AAV2/5(the National Institutes of Healthから入手可能)、AAV2/9(国際特許出願公開第2005/033321号)、AAV2/6(米国特許第6156303号)、およびAAVrh10(国際特許出願公開第2003/042397号)等を包含する。一態様において、本発明の組成物および方法において有用なベクターは、少なくとも、選択されたAAV血清型カプシド、例えばAAV8カプシド、またはそのフラグメントをコードする配列を含む。他の一態様において、有用なベクターは、少なくとも、選択されたAAV血清型repタンパク質、例えばAAV8repタンパク質、またはその断片をコードする配列を含む。そのようなベクターは場合により、AAVcapタンパク質およびrepタンパク質の両方を含みうる。AAVrepおよびcapの両方を含ませたベクターにおいて、AAVrep配列およびAAVcap配列は、同じ1つの血清型、例えばAAV8に由来するものでありうる。あるいは、あるAAV血清型に由来するrep配列と、それとは別のAAV血清型に由来するcap配列とを有するベクターを用いることもできる。一態様において、rep配列およびcap配列は、個別のソース(例えば個別のベクター、または宿主細胞とベクター)に由来する。他の一態様において、rep配列が、異なるAAV血清型のcap配列にインフレームで融合されて、キメラAAVベクター、例えばAAV2/8(米国特許第7282199号)を形成する。
【0079】
一態様において、本発明の組成物は、血清型2、5、8または9のAAVを含む。好ましくは、本発明のベクターは、AAV8またはAAV9ベクター、とりわけAAV2/8
またはAAV2/9ベクターである。より好ましくは、本発明のベクターは、AAV9ベクターまたはAAV2/9ベクターである。
【0080】
本発明において用いられるAAVベクターにおいて、AAVゲノムは一本鎖(ss)核酸または二本鎖(ds)/自己相補的(sc)核酸分子でありうる。
【0081】
好ましくは、ヒトFKRPをコードするポリヌクレオチドは、AAVベクターのITR配列(「末端逆位反復配列」)間に挿入される。典型的なITR配列は、配列番号12(5’ITR配列)および配列番号16(3’ITR配列)に対応する。
【0082】
組換えウイルス粒子は、当業者に知られた任意の方法によって、例えば293HEK細胞の同時トランスフェクションによって、単純ヘルペスウイルス系によって、およびバキュロウイルス系によって得ることができる。ベクターの力価は通常、1mL当たりのウイルスゲノム(vg/mL)として表される。
【0083】
一態様において、ベクターは、調節配列、とりわけプロモーター配列を含む。そのようなプロモーターは、誘導型または構成型の、天然または合成(人工)のプロモーターでありうる。
【0084】
一態様において、プロモーターはユビキタスプロモーターであるか、または低い組織特異性を有する。例えば、発現ベクターは、ホスホグリセレートキナーゼ1(PGK)、EF1、β-アクチン、CMVプロモーターを含むことができる。
【0085】
好ましい態様において、プロモーター配列は、その制御下に置かれる核酸配列の発現を、発現レベルに関して、また組織特異性に関して、十分に制御するように選択される。一態様において、発現ベクターは、筋肉に特異的なプロモーターを含む。そのようなプロモーターは、骨格筋および場合により心筋(心臓)における強い発現を可能にする。当業者に知られる適当なプロモーターの例としては、例えばデスミンプロモーター、筋クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター、CK6プロモーター、Synプロモーター、ACTA1プロモーター、または合成プロモーターC5-12(spC5-12)が挙げられる。配列番号13に示されるようなヒトデスミンプロモーターが好ましい。
【0086】
FKRPプロモーターを用いることもできる。
【0087】
使用しうる他の調節配列は以下に挙げるものであるが、これに限定されるものではない:
・転写安定化のための配列、例えばヘモグロビン(HBB2)のイントロン1。配列番号14に示されるように、該HBB2イントロンは好ましくは、翻訳開始を改善するように、mRNAにおいてAUG開始コドンの前に含まれるコンセンサスKozak配列につなげられる;
・ポリアデニル化シグナル、例えば関心の遺伝子のポリA、SV40またはβ-ヘモグロビン(HBB2)のポリAで、好ましくはヒトFKRPをコードする配列の3’にあるもの。好ましい例として、HBB2のポリAを配列番号15に開示する;
・エンハンサー配列;
・ヒトFKRPコード配列の発現が望ましくない(例えばそれが毒性でありうる)、標的でない組織において、該配列の発現を抑制することのできる、miRNA標的配列。好ましくは、対応するmiRNAは骨格筋には存在せず、場合により心臓には存在しない。
【0088】
典型的には、本発明のベクターは、以下のものを含む:
・配列番号10または11のヌクレオチド494~638に相当する5’ITR配列(配列番号12);それに続く、
・配列番号10または11のヌクレオチド639~1699に相当するヒトデスミンプロモーター(配列番号13);それに続く、
・配列番号10または11のヌクレオチド1700~2151に相当する、HBB2イントロンとそれに続くコンセンサスKozak配列(配列番号14);それに続く、
・ヒトFKRPをコードするポリヌクレオチド、例えば配列番号3または4または5または6または7または8;ここで、配列番号3または4の場合、これは配列番号10または11のヌクレオチド2152~3639に相当する;それに続く、
・配列番号10または11のヌクレオチド3640~4405に相当する、HBB2ポリA配列(配列番号15);それに続く、
・配列番号10または11のヌクレオチド4406~4550に相当する、3’ITR配列(配列番号16)。
【0089】
配列番号3、配列番号4および配列番号6の配列を有するポリヌクレオチドに関し、本発明のベクターは、配列番号10、配列番号11および配列番号21の配列をそれぞれ含む。
【0090】
一態様において、本発明は、ベクター、好ましくは発現ベクター、より好ましくは配列番号10、配列番号11または配列番号21の配列を含むAAVベクターに関する。前述のとおり、本発明は、配列番号10、配列番号11または配列番号21の配列と相同の配列、すなわち同一性が約60%、より好ましくは約70%、より一層好ましくは約80%、さらに好ましくは約90%、さらに好ましくは約95%、さらに好ましくは約97%、98%または99%である配列をも包含する。
【0091】
本発明のさらなる側面は、下記のものに関する:
・上記に開示した本発明のポリヌクレオチドまたは前記ポリヌクレオチドを含むベクターを含む、細胞。
該細胞は、任意のタイプの細胞、すなわち原核生物または真核生物の細胞でありうる。該細胞は、該ベクターの増殖のために使用することができるか、またはさらに宿主もしくは対象に導入(例えば移植)することができる。該ポリヌクレオチドまたはベクターは、細胞に、当分野で知られる任意の方法で、例えばトランスフォーメーション、エレクトロポレーションまたはトランスフェクションによって導入することができる。細胞から誘導された小胞を用いることもできる。
・上記に開示した本発明のポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、または前記ポリヌクレオチドもしくは前記ベクターを含む細胞を含む、トランスジェニック動物、好ましくは非ヒト・トランスジェニック動物。
【0092】
本発明の他の一側面は、上記に開示したポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞を含む、医薬として使用するための組成物に関する。
【0093】
一態様において、該組成物は、少なくとも前記の遺伝子治療プロダクト(前記ポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞)を含み、場合により、同じ疾患または別の疾患の処置のための他の活性分子(他の遺伝子治療プロダクト、化合物分子、ペプチド、タンパク質等)を含む。
【0094】
したがって、本発明は、本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞を含む医薬組成物を提供する。そのような組成物は、処置有効量の該処置有効成分(本発明のポリヌクレオチドまたはベクターまたは細胞)、および薬学的に許容しうる担体を含む。ある特定の態様において、「薬学的に許容しうる」とは、動物およびヒトにおける使用のために、連邦政府もしくは州政府の規制機関により承認されているか、または米国もしくは欧州の薬局方または一般に認識される他の薬局方に掲載されていることを意味する。用語「担体」とは、それを伴って処置有効成分が投与される、希釈剤、佐剤、賦形剤またはビヒクルをさす。そのような医薬担体は、無菌の液体、例えば水および油であって、石油、動物、植物もしくは合成物に由来するもの、例えばピーナツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油等を包含する。医薬組成物を静脈内投与する場合、水は好ましい担体である。食塩液ならびにデキストロースおよびグリセロールの水溶液も、特に注射用溶液用に、液体担体として使用することができる。適当な医薬賦形剤は、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール等を包含する。
【0095】
前記組成物は、必要なら、少量の湿潤剤もしくは乳化剤またはpH緩衝剤をも含みうる。該組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、徐放性製剤等の形態でありうる。適当な医薬担体の例は、E. W. Martinによる“Remington's Pharmaceutical Sciences”に記載されている。前記のような組成物は、処置有効量の処置有効成分、好ましくは純粋な形態の処置有効成分を、対象への適切な投与のための形態を提供するように、適当な量の担体と共に含みうる。
【0096】
好ましい一態様において、前記組成物は、ルーチンな方法にしたがって、ヒトへの静脈内投与に適した医薬組成物として製剤化される。典型的には、静脈内投与用組成物は、無菌の等張水性緩衝液中の溶液である。要すれば、組成物は、可溶化剤、および注射部位の痛みを緩和するための局所麻酔剤、例えばリドカインをも含みうる。
【0097】
一態様において、本発明の組成物は、ヒトにおける投与に適する。該組成物は、好ましくは液体形態、より好ましくは食塩液組成物、より一層好ましくはリン酸緩衝食塩液(PBS)組成物またはリンガー-ラクテート溶液である。
【0098】
標的疾患の処置に有効な本発明の処置有効成分(すなわち、核酸またはベクターまたは細胞)の量は、標準的な臨床的手法によって決定することができる。さらに、場合により、インビボおよび/またはインビトロのアッセイを至適用量範囲の予測に役立てることができる。製剤中に用いるべき正確な用量は、投与経路、体重および疾患重篤度によっても変わり得、各患者の状況に応じて医師の判断にしたがって決定されるべきである。
【0099】
適当な投与は、標的組織、特に骨格筋および場合により心臓への、処置有効量の遺伝子治療プロダクトの送達を可能にするものであるべきである。本発明において、遺伝子治療プロダクトがヒトFKRPをコードするポリヌクレオチドを含むウイルスベクターである場合には、処置用量は、患者体重1キログラム(kg)当たりで投与される、FKRP配列を含むウイルス粒子の量(ウイルスゲノム;vg)として定義される。
【0100】
利用可能な投与経路は、局所(局所的)、経腸(全身的作用で、送達が消化(GI)管を介するもの)、非経腸(全身的作用で、送達がGI管以外の経路によるもの)である。本発明の組成物の好ましい投与経路は、筋肉内投与(すなわち、筋肉内への投与)および全身的投与(すなわち、循環系への投与)を包含する、非経腸の投与経路である。ここで、用語「注射」(または「灌流」または「注入」)は、血管内、特に静脈内(IV)、筋肉内(IM)、眼内または脳内投与を包含する。注射は通常、シリンジまたはカテーテルを使用して行われる。
【0101】
一態様において、組成物の全身的投与は、組成物を、局所の処置部位の近くに、すなわち麻痺した筋肉の近くの静脈または動脈に投与することを含む。いくつかの態様において、本発明は、全身的効果をもたらす、組成物の局所投与を含む。このような投与経路は通常、「区域(局所区域)注入(regional (loco-regional) infusion)」、「分離式肢灌流(isolated limb perfusion)による投与」または「高圧経静脈肢灌流(high-pressure transvenous limb perfusion)」と称されるもので、筋ジストロフィーにおける遺伝子送達方法として効果的に用いられている(Fan et al., 2012)。
【0102】
一側面において、本発明の組成物は、分離式で肢(局所区域)に、注入または灌流により投与される。言い換えると、本発明は、圧力を加えての経血管経路の投与、すなわち静脈(経静脈)または動脈への投与による、脚および/または腕における組成物の区域的投与を含む。これは通常、例えばToromanoff et al. (2008)に開示されるように、止血帯を用いて血液循環を一時的に遮断し、その間に、注入した製剤を区域的に拡散させることによって達成される。
【0103】
一態様において、組成物は対象の肢に注射される。対象がヒトである場合、肢は腕または脚であってよい。一態様において、組成物は対象の身体の下方の部分、例えば膝より下に、または対象の身体の上方の部分、例えば肘より先に投与される。
【0104】
一態様において、組成物は末梢静脈、例えば頭部の静脈に投与される。注入される組成物の体積は、肢体積の約5~40%の間の範囲にありうる。典型的な用量は、5~30ml/kg体重の間にありうる。一態様において、適用される圧力(止血帯による圧力または最大ライン圧力)は、100000Pa未満、好ましくは50000Pa未満である。好ましい態様において、適用圧力はおよそ300torr(40000Pa)である。
【0105】
一態様において、肢の血液循環が、数分間ないし1時間以上、典型的には約1~80分間、例えば約30分間、止血帯を締めることによって遮断される。好ましい態様において、止血帯を、投与前、投与中および投与後に、例えば、注入の約10分前、注入中の約20分の間、および注入の約15分後に適用した。さらに通常、圧力は、何分間かの間、典型的には約1~80分間、例えば約30分間適用される。好ましい態様において、圧力が、投与前、投与中および投与後に、例えば、注入の約10分前、注入中の約20分の間、および注入の約15分後に適用される。
【0106】
一態様において、平均流速は、5~15ml/分の間、好ましくは5~80ml/分の間、例えば10ml/分である。当然、流速に応じて、血液循環を遮断する、および圧力を適用する時間も決まる。
【0107】
局所区域投与において、注射の用量は、1012~1014vg/kg体重の間、好ましくは1012~1013vg/kg体重の間でありうる。
【0108】
本発明による好ましい投与方法は、全身的投与である。全身的注入は、身体全体の注入によって、心臓および横隔膜を含む対象身体の全筋肉に到達し、全身的な未だ治療が可能でない疾患の真の処置を達成するための道を切り開く。いくつかの態様において、全身的投与は、組成物を、対象の身体全体にわたって利用可能となるように送達することを含む。
【0109】
好ましい一態様において、全身的投与は、血管内への組成物の注射、すなわち血管内(静脈内または動脈内)投与によってなされる。一態様において、組成物は、末梢静脈からの静脈内注射によって投与される。
【0110】
全身的投与は典型的には、以下の条件で行われる:
・流速1~10mL/分、好ましくは1~5mL/分、例えば3mL/分;
・総注射体積は、対象の体重1kg当たりベクター製剤1~20mLの間、好ましくは5mLでありうる。注射体積は、全血液体積の10%を超えるべきではなく、好ましくは約6%である。
【0111】
全身的に投与される場合、組成物は、好ましくは1015vg/kgもしくは1014vg/kgまたはそれ以下、より好ましくは1012vg/kg~1014vg/kgの間、より一層好ましくは5・1012vg/kg~1014vg/kgの間、例えば1、2、3、4、5、6、7、8または9・1013vg/kgの用量で投与される。可能性のある毒性および/または免疫反応を回避するために、より低い用量、例えば1、2、3、4、5、6、7、8または9・1012vg/kgとすることも考えられる。当業者に知られるように、効果に関して満足できる結果をもたらす、可能な限り低い用量が好ましい。
【0112】
ある特定の態様において、処置は、組成物の単回投与を含む。
【0113】
「ジストログリカノパチー」とは、α-ジストログリカン(αDG)のグリコシル化異常に関連付けられる疾患または病態を意味する。この異常はFKRP欠損によるものでありうる。ある特定の態様において、該病態は、肢帯型筋ジストロフィー2I型(LGMD2I)、先天性筋ジストロフィー1C型(MDC1C)、ウォーカー-ワールブルグ症候群(WWS)および筋-眼-脳病(MEB)からなる群から選択され、好ましくはLGMD2Iである。
【0114】
本発明の組成物が有益でありうる対象は、そのような疾患を有するか、またはそれを発症するリスクがあると診断された全ての患者を包含する。したがって、処置すべき患者は、当業者に知られた任意の方法、例えばFKRP遺伝子のシーケンシングを包含する任意の方法による、FKRP遺伝子における変異または欠失の同定に基づいて、および/または当業者に知られた任意の方法による、FKRPの発現もしくは活性レベルの評価によって、選択することができる。したがって、前記対象は、そのような疾患の症状をすでに示している対象、およびそのような疾患を発症するリスクのある対象の両方を包含する。一態様において、前記対象は、そのような疾患の症状をすでに示している対象を包含する。他の一態様において、前記対象は、歩行が可能な患者、および初期歩行不能患者である。
【0115】
前記組成物はとりわけ、遺伝子治療、特に肢帯型筋ジストロフィー2I型(LGMD2I)、先天性筋ジストロフィー1C型(MDC1C)、ウォーカー-ワールブルグ症候群(WWS)および筋-眼-脳病(MEB)、好ましくはLGMD2Iの処置のために用いることが意図される。
【0116】
一態様において、本発明は、前記の遺伝子治療プロダクト(ポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞)を対象に投与することを含む、ジストログリカノパチーの処置方法に関する。
【0117】
好ましくは、該ジストログリカノパチーは、α-ジストログリカン(αDG)のグリコシル化異常、および/またはFKRP欠損に関連付けられる病態である。該病態はとりわけ、肢帯型筋ジストロフィー2I型(LGMD2I)、先天性筋ジストロフィー1C型(MDC1C)、ウォーカー-ワールブルグ症候群(WWS)または筋-眼-脳病(MEB)である。
【0118】
本発明は、さらなる側面において、細胞におけるα-ジストログリカン(αDG)のグリコシル化を増加する方法を提供し、該方法は、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターを該細胞に送達することを含み、ここで、該細胞において該合成ポリヌクレオチドが発現され、それによってFKRPが産生されαDGグリコシル化が増加する。
【0119】
本発明の実施において、別の指定をしない限り、当業者の能力の範囲に含まれる従来の分子生物学(組換え技術を包含する)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の従来の技術を利用する。そのような技術は、文献、例えば“Molecular Cloning: A Laboratory Manual”, fourth edition (Sambrook, 2012); “Oligonucleotide Synthesis” (Gait, 1984); “Culture of Animal Cells” (Freshney, 2010); “Methods in Enzymology” “Handbook of Experimental Immunology” (Weir, 1997); “Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells” (Miller and Calos, 1987); “Short Protocols in Molecular Biology” (Ausubel, 2002); “Polymerase Chain Reaction: Principles, Applications and Troubleshooting”, (Babar, 2011); “Current Protocols in Immunology” (Coligan, 2002) に詳しく記載されている。このような技術を、本発明のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの製造に適用可能であり、したがって、本発明をなし、実施する際に考慮しうる。特定の態様に特に有用な技術を、後述のセクションにおいて説明する。
【0120】
本書に引用するすべての特許、特許出願および刊行物のそれぞれの開示は、その全体を、引用により本書の一部とする。
【0121】
さらなる説明をなさなくても、当業者は、上記の説明、および説明のための下記実施例を参照して、本発明の化合物を製造および利用することができ、本発明の方法を実施することができるはずである。
【0122】
実験例
下記実験例によって、本発明をさらに説明する。実験例は、単に説明を目的とするものであり、限定を意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【
図1】本研究に使用したプラスミドを示す図。
図1AはpAAV-hDesmin-hFKRPwt;
図1BはpAAV-hDesmin-hFKRP-OPTmin;
図1CはpAAV-hDesmin-hFKRP-OPTcompを示す。
【
図2】AAV9なし(PBS)の、またはAAV9の2つの異なる用量(3E9vg/TAおよび1.5E10vg/TA)での、C57BI6マウスへの注射。ここで、AAV9は、異なる形態のヒトFKRP(hFKRP)導入遺伝子:hFKRP-wt(コード配列:配列番号2)、hFKRP-OPTmin(コード配列:配列番号3)、およびhFKRP-OPTcomp(コード配列:配列番号4)を含んだ。
図2Aは、ウエスタンブロッティングによるFKRP発現の評価を示す。
図2Bは、GADPHで正規化したFKRPタンパク質の定量を示す。
図2Cは、FKRP wt(配列番号2)、FKRP-OPTcomp(配列番号4)、FKRP-06(配列番号20)、FKRP-OPT-07(配列番号5)、FKRP-OPT-08(配列番号6)、FKRP-OPT-10(配列番号7)、およびFKRP-OPT-11(配列番号8)を3E9vg/TAの用量で投与した場合の、GADPHで正規化したFKRPタンパク質の定量を示す。
【
図3】HSA-FKRPdelマウス(FKRP欠損マウスモデル)に2つの異なる用量(3E9vg/TAおよび1.5E10vg/TA)で投与したFKRP-OPTcomp(配列番号4)のインビボ評価。
図3Aは、TA筋における中心核形成(Centronucleation)指数を示す。
図3Bはin situのTAの力を示す。
図3Cは、エスケープ(Escape)試験の結果を示す。
【実施例】
【0124】
材料および方法
新規なヒトFKRP配列の設計
ヒトFKRPコード配列である配列番号2を、下記ルールにしたがって改変した:
・コード領域中に存在するセンスおよびアンチセンスフレームシフトATGを禁止する変異を、位置429(アンチセンス;フェーズ+1)、位置546(センス;フェーズ+1)、位置819(アンチセンス;フェーズ+1)および/または位置1431(アンチセンス;フェーズ+1)において導入する;
・場合により、例えばSharp et al. (1988)に開示されるような、コドン頻度表にしたがう;
・新たなオープンリーディングフレーム(ORF)の形成を伴わない;
・場合により、CpGアイランドの形成を回避するためにCGモチーフを置換する;
・場合により、GC%を低下させる;
・場合により、配列番号2の位置553~559に存在するステムループを改変する。
【0125】
そのように設計された配列(下記表1に示す配列番号3~8)はいずれも、天然のヒトFKRP配列に対応する配列番号1の配列を有するFKRPタンパク質をコードする。
【0126】
プラスミドおよびAAVベクター
ヒトFkrp遺伝子のコード配列(配列番号2)を、古典的な遺伝子合成サービス法を用いて合成し、AAV2のITR、ヒトデスミンプロモーター、HBB2イントロンとそれに続くKozak配列、およびHBB2ポリA(ヘモグロビンサブユニットβ2ポリアデニル化シグナル)を含むプラスミド(pUC57)に導入した。
【0127】
得られたプラスミド(
図1Aに示す)を、pAAV-hDesmin-hFKRPwtと称する。そのITR配列を含むインサートの配列を、配列番号9に示す。
【0128】
天然のヒトFKRPタンパク質のコード配列(配列番号2)の代わりに、改変された配列である配列番号3および4を用いることにより、プラスミドpAAV-hDesmin-hFKRP-OPTmin(
図1B)およびpAAV-hDesmin-hFKRP-OPTcomp(
図1C)をそれぞれ得た(それらのインサート配列を配列番号10および11にそれぞれ示す)。配列番号2の代わりに配列番号20、配列番号5、配列番号6、配列番号7および配列番号8を用いることにより、同様の方法で他のプラスミドFKRP-06、FKRP-OPT-07、FKRP-OPT-08、FKRP-OPT-10、FKRP-OPT-11をそれぞれ得た。
【0129】
文献記載の3プラスミドトランスフェクションプロトコル(Bartoli et al., 2006)を用いてAAV2-ITR組換えゲノムをAAV9カプシド内にパッケージングすることにより、アデノウイルスフリーのrAAV2/9ウイルス調製物を作製した。すなわち、HEK293細胞に、pAAV-hDesmin-hFKRPwt(またはpAAV-hDesmin-hFKRP-OPTminまたはpAAV-hDesmin-hFKRP-OPTcomp)、RepCapプラスミド(pAAV2.9, Dr J. Wilson, UPenn)およびアデノウイルスヘルパープラスミド(pXX6; Apparailly et al., 2005)を1:1:2の比で同時トランスフェクトした。トランスフェクションの60時間後に、粗ウイルス溶解物を採り、凍結および解凍のサイクルを繰り返すことによって溶解した。ウイルス溶解物を、CsCl超遠心分離した後透析するサイクルを2回繰り返して精製した。ウイルスのゲノムを、該AAVベクターのゲノムのHBB2ポリAに対応するプライマーおよびプローブを用いてTaqManリアルタイムPCRアッセイによって定量した。下記のプライマー対およびTaqManプローブを増幅のために使用した:
フォワード:CCAGGCGAGGAGAAACCA(配列番号17);
リバース:CTTGACTCCACTCAGTTCTCTTGCT(配列番号18);および
プローブ:CTCGCCGTAAAACATGGAAGGAACACTTC(配列番号19)
【0130】
ウエスタンブロッティング
細胞ペレットおよび筋組織を、EDTA不含有のCompleteプロテアーゼインヒビターカクテル(Roche, Bale, Switzerland)を補充したRIPA溶解バッファー(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA)中で、機械的にホモジナイズした。サンプルに含まれた核酸を、ベンゾナーゼ(Sigma, St. Louis, MO, USA)を用いて37℃で15分間インキュベートすることにより分解した。
【0131】
タンパク質を、予め成形されたポリアクリルアミドゲル(4~15%、BioRad, Hercules, CA, USA)を用いて分離し、次いでニトロセルロース膜に転写した。
【0132】
FKRPに対するウサギポリクローナル抗体が文献に記載されている(Gicquel et al., 2017)。ニトロセルロース膜を、FKRPに対する抗体(1:100)および正規化のためのGAPDHに対する抗体(Santa Cruz Biotechnologies, Dallas, TX, USA、1:200)によって、室温で2時間プローブした。
【0133】
最後に、Odyssey赤外スキャナ(LI-COR Biosciences, Lincoln, NE, USA)による検出のために、膜をIRDye(登録商標)と共にインキュベートした。
【0134】
動物および注射
1箇月齢のマウスを用いた。本試験のすべての動物の扱いは、動物実験の人道的管理と使用のための欧州のガイドラインに従い、動物に対するすべての手順は、Genopoleの倫理委員会により承認された。
【0135】
遺伝子導入の効率を評価するために、雄C57B16マウスのTA(前脛骨筋)に、2つの異なる用量3E9vg/TAおよび1.5E10vg/TAを25μLの体積で筋肉内注射した。陰性対照として、AAV調製物に使用したバッファー、すなわちPBSをマウスに注射した。1箇月後にマウスを安楽死させ、注射した筋肉を切り出して、液体窒素中で冷却したイソペンタン中で凍結した。
【0136】
インビボ機能試験のために、FKRP欠損マウスモデルであるHSA-FKRPdelマウスに、FKRP-OPTcomp配列(配列番号4)を含むAAV9-FKRPを2つの用量2.5E12vg/kgおよび1E3vg/kgで、静脈内注射により投与した。3箇月後に動物をいくつかの異なる機能試験に付した。
【0137】
インビボ評価
エスケープ試験:
エスケープ試験(Carlson and Makiejus, 1990)では、マウスの全身的な強さが評価される。すなわち、マウスを、長さ30cmの管の入り口に面したプラットフォーム上に置く。尾に巻いたカフを、固定した力変換器に連結し、尾を軽くつまむことによって、マウスを力変換器とは逆方向の管内に逃れるように誘導する。この前方への逃避によって短時間の力のピークが誘導され、5つの最も高い力ピークの平均を体重で正規化して解析する。
【0138】
使用機器:
力変換器ADInstrument MLT1030 serial 810
ソフトウェアADinstrument Labchart7
【0139】
in situのTAの力:
文献(Vignaud et al., 2005)に記載されるように、in situ筋収縮の測定により、骨格筋機能が評価される。動物をケタミン(100mg/kg)およびキシラジン(10mg/kg)の腹腔内注射によって麻酔し、深い麻酔を維持するために必要に応じて追加の用量を投与する。膝および脚を鉗子およびステンレススチール製ピンで固定する。TA筋を露出し、遠位の健を切断して力変換器(Aurora Scientific, Dublin, Ireland)につなぐ。座骨神経を近位で圧迫し、遠位で、バイポーラー銀電極で長さ0.1msの最大上の方形波パルスにより刺激する。絶対最大力を、至適長さ(最大テタニー張力が観測される長さ)において測定する。総筋力を筋肉重量で正規化することによって、比最大力を計算する。
【0140】
使用機器:
装置Aurora Scientific
センサー305C 5N Cambridge Technology Model 6650 n°X11271243Y
ソフトウェアASI 610A Dynamic muscle Control
【0141】
中心核形成指数:
注射したマウスを、機能試験の直後に殺した。骨格筋のサンプルを採り、冷却イソペンタン中で凍結した。横断凍結切片をヘマトキシリン-フロキシン-サフラン(HPS)で染色し、中心核を有する線維の計数に使用した。中心核を有する線維の数を切片面積に対して記録して、中心核形成指数を得た。
【0142】
結果:
I.新規なヒトFKRP配列の設計
FKRPコード配列における改変の効果を評価するために、配列番号2の配列から誘導した、配列番号1のヒトFKRPタンパク質をコードする一連の配列を設計し合成した。それら配列の主な特徴を表1にまとめる:
【表1】
【0143】
II.コンストラクトのインビボ評価
遺伝子導入後のFKRP発現のウエスタンブロットにより得られた結果を
図2Aに示す。異なるコンストラクト(wtおよび最適化)から発現されたFKRPタンパク質は、予想された大きさ(58kDa)を有する。さらに、改変FKRP導入遺伝子は、野生型配列と比較して、FKRPタンパク質の発現を増加させる。得られたバンドの強度を定量化し、GAPDH標準に対して正規化した。定量化データは、FKRPwtと比較してhFKRP-OPTcompが5倍の増加をもたらしたことを示している(
図2B)。
【0144】
WO2016/138387に開示される配列(該文献における配列番号1;本願における配列番号20)を含む、表1に挙げた異なるFKRP配列を用いて、同じ実験を行った。
図2Cに示されるように、WO2016/138387に開示される配列(FKRP-06と称する)による導入遺伝子発現レベルは、本発明のコンストラクトを用いて観察されたレベルに及ばない。新たに試験された配列のうち、FKRP-08が最も有望であるが、それら配列は全般に、天然配列によるものを上回る導入遺伝子発現レベルをもたらした。
【0145】
III.コンストラクトの機能性評価
最有望の配列、すなわちFKRP-OPTcomp(配列番号4)について、インビボ効果を、FKRP欠損マウスモデルにおいて試験した。
【0146】
図3Aのデータは、処置された動物において中心核形成が減少したことを示している。さらに、前脛骨筋(TA)の力のin situ測定(
図3B)、およびエスケープ試験による全身的な強さの測定(
図3C)の結果は、処置された動物において筋肉の機能が改善されたことを示している。
【0147】
結論:
本研究は、ヒトFKRP導入遺伝子の配列最適化によって、マウスにおいて、該導入遺伝子を含むAAVベクターの筋肉内注射後のFKRP発現レベルを改善できることを示している。この発現レベル向上は、処置効率を改善し、および/または治療プロダクトの注射用量の低減を可能にするから、処置および臨床上興味深い。
【0148】
【配列表】