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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】窒化物半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/32 20100101AFI20220914BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20220914BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20220914BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20220914BHJP
【FI】
H01L33/32
H01S5/343 610
H01L21/205
C23C16/34
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020079137
(22)【出願日】2020-04-28
(62)【分割の表示】P 2019144676の分割
【原出願日】2019-08-06
(65)【公開番号】P2021027324
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松倉 勇介
(72)【発明者】
【氏名】稲津 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】ペルノ シリル
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0103509(US,A1)
【文献】特開2018-125429(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103915534(CN,A)
【文献】特表2018-532265(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057149(WO,A1)
【文献】特開2016-149544(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0111596(US,A1)
【文献】特開2018-049949(JP,A)
【文献】特開2011-187591(JP,A)
【文献】国際公開第2017/013729(WO,A1)
【文献】特開2016-171127(JP,A)
【文献】特開2020-077874(JP,A)
【文献】特開2013-080925(JP,A)
【文献】特開2016-111235(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181044(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 - 33/64
H01S 5/00 - 5/50
H01L 21/205
C23C 16/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlGaN系の障壁層及び前記障壁層のAl組成比よりも小さいAl組成比を有する井戸層を含む活性層と、
前記活性層の上側に位置するp型コンタクト層と、
前記活性層及び前記p型コンタクト層の間に位置する電子ブロック積層体と、
前記活性層の下側に位置するn型クラッド層と、
を備え、
前記電子ブロック積層体は、
前記活性層側に位置し、前記障壁層のAl組成比よりも大きく、前記活性層側の一端から前記p型コンタクト層側の他端に亘って一定値であるAl組成比を有する第1の電子ブロック層と、
前記p型コンタクト層側に位置し、前記障壁層のAl組成比よりも小さく、前記第1の電子ブロック層側の一端から前記p型コンタクト層側の他端に亘って一定値であるAl組成比を有する第2の電子ブロック層と、
を備え、
前記第2の電子ブロック層及び前記p型コンタクト層の間に、前記第2の電子ブロック層のAl組成比よりも小さく、前記井戸層のAl組成比よりも大きいAl組成比を有するp型のAlGaNにより形成されたp型クラッド層をさらに備え、
前記電子ブロック積層体の上側に位置する各半導体層のAl組成比は、前記第2の電子ブロック層のAl組成比よりも小さく、
前記第2の電子ブロック層のAl組成比は、前記n型クラッド層のAl組成比よりも大きい、
窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記p型クラッド層のAl組成比は、前記n型クラッド層のAl組成比よりも小さい、
請求項1に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記第2の電子ブロック層のAl組成比と前記p型クラッド層のAl組成比との差は、前記p型クラッド層のAl組成比と前記井戸層のAl組成比との差よりも大きい、
請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記第2の電子ブロック層は、前記第1の電子ブロック層の膜厚よりも大きい膜厚を有する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記第2の電子ブロック層は、前記第1の電子ブロック層の膜厚の5倍以上20倍以下の膜厚を有する、
請求項4に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項6】
前記p型クラッド層は、膜厚の方向において傾斜するAl組成比を有する
請求項1に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項7】
前記第1の電子ブロック層のAl組成比は、80%以上であり、
前記第2の電子ブロック層のAl組成比は、40%以上90%以下である、
請求項1から6のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紫外光を出力する発光ダイオードやレーザダイオード等の窒化物半導体発光素子が実用化されており、発光出力の向上を可能とする窒化物半導体発光素子の開発が進められている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の発光素子は、III族窒化物単結晶上に形成され、障壁層と井戸層とからなる多重量子井戸層を備え、当該障壁層のうちp型のIII族窒化物層側に位置するファイナルバリア層の厚さを2nmから10nmとし、当該井戸層の厚さをそれぞれ2nm以下とするように調整されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5641173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発光素子のように、ファイナルバリア層及び井戸層の膜厚を最適化するような施策を施してもなお、十分な発光強度を得られない場合があり、発光強度の向上について更なる改良の余地が残されている。
【0006】
そこで、本発明は、発光出力を向上させることができる窒化物半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、AlGaN系の障壁層及び前記障壁層のAl組成比よりも小さいAl組成比を有する井戸層を含む活性層と、前記活性層の上側に位置するp型コンタクト層と、前記活性層及び前記p型コンタクト層の間に位置する電子ブロック積層体と、前記活性層の下側に位置するn型クラッド層と、を備え、前記電子ブロック積層体は、前記活性層側に位置し、前記障壁層のAl組成比よりも大きく、前記活性層側の一端から前記p型コンタクト層側の他端に亘って一定値であるAl組成比を有する第1の電子ブロック層と、前記p型コンタクト層側に位置し、前記障壁層のAl組成比よりも小さく、前記第1の電子ブロック層側の一端から前記p型コンタクト層側の他端に亘って一定値であるAl組成比を有する第2の電子ブロック層と、を備え、前記第2の電子ブロック層及び前記p型コンタクト層の間に、前記第2の電子ブロック層のAl組成比よりも小さく、前記井戸層のAl組成比よりも大きいAl組成比を有するp型のAlGaNにより形成されたp型クラッド層をさらに備え、前記電子ブロック積層体の上側に位置する各半導体層のAl組成比は、前記第2の電子ブロック層のAl組成比よりも小さく、前記第2の電子ブロック層のAl組成比は、前記n型クラッド層のAl組成比よりも大きい、窒化物半導体発光素子を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発光出力を向上させることができる窒化物半導体発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る窒化物半導体発光素子の構成の一例を概略的に示す断面図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係る窒化物半導体発光素子を構成する半導体層のAl組成比の一例を模式的に示す図である。
図3】本発明の第2の実施の形態に係る窒化物半導体発光素子の構成の一例を概略的に示す断面図である。
図4】本発明の第2の実施の形態に係る窒化物半導体発光素子を構成する半導体層のAl組成比の一例を模式的に示す図である。
図5】本発明の第3の実施の形態に係る窒化物半導体発光素子を構成する半導体層のAl組成比の一例を模式的に示す図である。
図6】本発明の実施の形態に係る発光素子の発光出力の測定結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。また、図1及び図3に示す各構成要素の寸法比は、必ずしも実際の窒化物半導体発光素子の寸法比と一致するものではない。
【0011】
[第1の実施の形態]
(窒化物半導体発光素子の構成)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る窒化物半導体発光素子の構成の一例を概略的に示す断面図である。図2は、図1に示す窒化物半導体発光素子を構成する半導体層のAl組成比(「AlNモル分率」ともいう)の一例を模式的に示す図である。この窒化物半導体発光素子1(以下、単に「発光素子1」ともいう)には、例えば、レーザダイオードや発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)が含まれる。本実施の形態では、発光素子1として、中心波長が250nm~360nmの紫外光を発する発光ダイオード(LED)を例に挙げて説明する。
【0012】
図1に示すように、発光素子1は、基板11と、バッファ層12と、n型クラッド層30と、活性層50と、複数の電子ブロック層が積層された電子ブロック積層体60と、p型コンタクト層80と、n側電極90と、p側電極92と、を含んで構成されている。
【0013】
活性層50は、n型クラッド層30側に位置する障壁層52aを含む3つの障壁層52a,52b,52cと、電子ブロック積層体60に位置する井戸層54cを含む3つの井戸層54a,54b,54cと、を備えている。電子ブロック積層体60は、第1の電子ブロック層61と、第2の電子ブロック層62と、順に積層した構造を含んでいる。なお、以下の説明において、3つの障壁層52a,52b,52cを総称する場合は、「障壁層52」ともいい、3つの井戸層54a,54b,54cを総称する場合は、「井戸層54」ともいう。
【0014】
発光素子1を構成する半導体には、例えば、AlGaIn1-r-sN(0≦r≦1、0≦s≦1、0≦r+s≦1)にて表される2元系、3元系若しくは4元系のIII族窒化物半導体を用いることができる。また、これらのIII族元素の一部は、ホウ素(B)、タリウム(Tl)等で置き換えても良く、また、Nの一部をリン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、又はビスマス(Bi)等で置き換えても良い。以下、各構成要素について説明する。
【0015】
(1)基板11
基板11は、発光素子1が発する紫外光に対して透光性を有する基板である。基板11には、例えば、サファイア(Al)により形成されたサファイア基板が用いられる。なお、基板11は、窒化アルミニウム(AlN)により形成されたAlN単結晶基板でもよい。
【0016】
(2)バッファ層12
バッファ層12は、基板11上に形成されている。バッファ層12は、AlNにより形成されたAlN層である。バッファ層12は、1.0μmから4.5μm程度の膜厚を有する。バッファ層12の構造は、単層でも多層構造でもよい。なお、基板11がAlN単結晶基板の場合、バッファ層12は、必ずしも設けなくてもよい。バッファ層12上にAlGaNにより形成されたアンドープのAlGaN層を設けてもよい。
【0017】
(3)n型クラッド層30
n型クラッド層30は、バッファ層12上に形成されている。n型クラッド層30は、n型AlGaNにより形成された層であり、例えば、n型の不純物としてシリコン(Si)がドープされたAlGaN層である。なお、n型の不純物としては、ゲルマニウム(Ge)、セレン(Se)、又はテルル(Te)等を用いてよい。n型クラッド層30は、1μmから4μm程度の膜厚を有し、例えば、2μmから3μm程度の膜厚を有している。
【0018】
また、n型クラッド層30を形成するn型AlGaNのAl組成比は、井戸層を形成するAlGaNのAl組成比よりも大きい。発光素子がフリップチップタイプで実装された構成、つまり活性層50から出射された光をn型クラッド層30側から取り出す構成の場合に、該出射された光がn型クラッド層30で吸収されて光の取り出し効率が低下してしまうことを抑制するためである。なお、n型クラッド層30の構造は、単層でもよく、多層構造でもよい。
【0019】
(4)活性層50
活性層50は、n型クラッド層30上に形成されている。本実施の形態では、活性層50は、3層の障壁層52a,52b,52c、及び3層の井戸層54a,54b,54cを交互に積層した量子井戸構造を有している。
【0020】
障壁層52は、例えば、3nmから50nm程度の範囲の膜厚を有する。また、井戸層54は、例えば、1nmから5nm程度の範囲の膜厚を有する。障壁層52及び井戸層54の数は3つに限定されるものではなく、障壁層52及び井戸層54はそれぞれ1つずつ設けてもよく、2ずつ設けてもよく、4つ以上設けてもよい。ここで、障壁層52及び井戸層54がそれぞれ1つずつ設けられた構成を、単一量子井戸構造(SQW:Single Quantum Well)ともいい、複数設けられた構成を、多重量子井戸構造(MQW:Multi Quantum Well)ともいう。
【0021】
図2に示すように、障壁層52aは、AlGa1-xNを含んで形成され、井戸層54は、AlGa1-aNを含んで形成されている(0≦x≦1、0≦a≦1、a<x)。ここで、xは、障壁層52を形成するAlGaNのAl組成比(以下、「障壁層52のAl組成比」ともいう)であり、aは、井戸層54を形成するAlGaNのAl組成比(以下、「井戸層54のAl組成比」ともいう)である。
【0022】
また、障壁層52のAl組成比x及び井戸層54のAl組成比aはそれぞれ、活性層50が波長360nm以下の紫外光を出力できるようにするために活性層50内のバンドギャップが3.4eV以上となるように適宜調整される。
【0023】
(5)電子ブロック積層体60
電子ブロック積層体60は、活性層50上に形成されている。電子ブロック積層体60は、p型コンタクト層80側への電子の流出を抑制する役割を担う層である。電子ブロック積層体60は、活性層50側に位置する第1の電子ブロック層61と、この第1の電子ブロック層61上に位置する第2の電子ブロック層62と、を積層した構造を含んでいる。
【0024】
第1の電子ブロック層61及び第2の電子ブロック層62はともに、p型AlGaNにより形成された層であり、例えば、p型の不純物としてマグネシウム(Mg)がドープされたAlGaN層である。なお、p型の不純物としては、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、又は炭素(C)等を用いてもよい。なお、電子ブロック層61は、アンドープでもよい。
【0025】
具体的には、第1の電子ブロック層61は、AlGa1-bNを含んで構成され、第2の電子ブロック層62は、AlGa1-yNを含んで構成されている(0≦b≦1、0≦y≦1)。ここで、bは、第1の電子ブロック層61を形成するp型AlGaNのAl組成比(以下、「第1の電子ブロック層61のAl組成比」ともいう)であり、yは、第2の電子ブロック層62を形成するp型AlGaNのAl組成比(以下、「第2の電子ブロック層62のAl組成比」ともいう)である。Al組成比が低い第2の電子ブロック層62を第1の電子ブロック層61よりも活性層50側に配置にした場合、Al組成比が高い第1の電子ブロック層61の位置までオーバーフローする電子の存在確率が向上することになる。そのため、井戸層54中の電子の存在確率が減ることとなり、その分発光効率が低下する。よって、井戸層54での電子の存在確率を向上させ発光効率を高めるために、Al組成比が高い第1の電子ブロック層61が活性層50側に設けられる。
【0026】
図2に示すように、第2の電子ブロック層62のAl組成比yは、第1の電子ブロック層61のAl組成比bよりも小さい(y<b)。電子ブロック積層体60を第1の電子ブロック層61と第2の電子ブロック層62とを含む複数の層で構成し、第1の電子ブロック層61のAl組成比bを第2の電子ブロック層62よりも高くすることにより上述した電子ブロック積層体60の機能、すなわちp型コンタクト層80側への電子の流出を抑制する機能を向上させることができる。
【0027】
また、第2の電子ブロック層62のAl組成比yを第1の電子ブロック層61よりも低くすることにより、電子ブロック積層体60全体としてAl組成比を高くすることによって生じ得る抵抗の増加を抑制することができる。すなわち、電子ブロック積層体60をAl組成比の異なる2層で構成し、その組成比及び層厚を調整することにより、電子の流出を抑制することと抵抗の増加を抑制することとを両立させることができる。
【0028】
また、上述のように第2の電子ブロック層62のAl組成比yを一定の値(一例として、第1の電子ブロック層61のAl組成比b)よりも小さくすることによって、Al組成比が高い場合にMg等の不純物がドープされにくくなることによって生じ得る発光効率の低下を抑制することができる。
【0029】
また、図2に示すように、第1の電子ブロック層61のAl組成比bは、障壁層52のAl組成比xよりも大きい(すなわち、x<b)。第2の電子ブロック層62のAl組成比yは、障壁層52のAl組成比xよりも小さく(すなわち、y<x)、井戸層54のAl組成比aよりも大きい(すなわち、a<y)。以上をまとめると、各Al組成比a,b,x,yは、a<y<x<bの関係を満たしている。以下の表1に各Al組成比a,b,x,yの具体例をまとめる。
【0030】
【表1】
【0031】
第2の電子ブロック層62の膜厚は、第1の電子ブロック層61の膜厚よりも厚い。第2の電子ブロック層62は、例えば、第1の電子ブロック層61の膜厚の5倍以上20倍以下の膜厚を有している。一例として、第1の電子ブロック層61は、1nm以上10nm以下の膜厚を有し、第2の電子ブロック層62は、5nm以上100nm以下の膜厚を有する。
【0032】
電子ブロック層は、Al組成比が高ければ高いほど、あるいは、膜厚が厚いほど電子の流出する機能を向上させることができるが、Al組成比が高い層の膜厚を厚くすると、発光素子1の電気抵抗が大きくなる虞がある。しかしながら、上述のように、Al組成比が低い第2の電子ブロック層62の膜厚を、Al組成比が高い第1の電子ブロック層61の膜厚よりも厚くすれば、Al組成比が高い第1の電子ブロック層61を薄く積層させつつ、電子ブロック積層体60全体の膜厚を一定以上に保つことができる。したがって、第2の電子ブロック層62の膜厚を第1の電子ブロック層61の膜厚よりも厚くすれば、電子ブロック積層体60の電気抵抗の上昇を抑えつつ、電子の流出を抑制する機能を向上させることができる。
【0033】
(6)p型コンタクト層80
p型コンタクト層80は、電子ブロック積層体60上、具体的には第2の電子ブロック層62上に形成されている。p型コンタクト層80は、例えば、Mg等の不純物が高濃度にドープされた、例えば、10%以下のAl組成比を有するp型AlGaNにより形成された層である。好ましくは、p型コンタクト層80は、p型のGaNにより形成されたp型GaN層である。
【0034】
(7)n側電極90
n側電極90は、n型クラッド層30の一部の領域上に形成されている。n側電極90は、例えば、n型クラッド層30上に順にチタン(Ti)/アルミニウム(Al)/Ti/金(Au)が順に積層された多層膜で形成される。
【0035】
(8)p側電極92
p側電極92は、p型コンタクト層80上に形成されている。p側電極92は、例えば、p型コンタクト層80上に順に積層されるニッケル(Ni)/金(Au)の多層膜で形成される。
【0036】
(発光素子1の製造方法)
次に、発光素子1の製造方法について説明する。まず、基板11上にバッファ層12を高温成長させる。次に、このバッファ層12上にn型クラッド層30、活性層50、電子ブロック積層体60及びp型コンタクト層80を順に積層して、所定の直径(例えば、50mm程度)を有する円板状の窒化物半導体積層体(「ウエハ」又は「ウェハ」ともいう)を形成する。
【0037】
これらn型クラッド層30、活性層50、電子ブロック積層体60及びp型コンタクト層80は、有機金属化学気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)、分子線エピタキシ法(Molecular Beam Epitaxy:MBE)、ハライド気相エピタキシ法(Hydride Vapor Phase Epitaxy:HVPE)等の周知のエピタキシャル成長法を用いて形成してよい。
【0038】
次に、p型コンタクト層80上にマスクを形成し、活性層50、電子ブロック積層体60及びp型コンタクト層80においてマスクが形成されていないぞれぞれの露出領域を除去する。活性層50、電子ブロック積層体60及びp型コンタクト層80の除去は、例えば、プラズマエッチングにより行ってよい。
【0039】
n型クラッド層30の露出面30a(図1参照)上にn側電極90を形成し、マスクを除去したp型コンタクト層80上にp側電極92を形成する。n側電極90及びp側電極92は、例えば、電子ビーム蒸着法やスパッタリング法などの周知の方法により形成してよい。このウエハを所定の寸法に切り分けることにより、図1に示す発光素子1が形成される。
【0040】
[第2の実施の形態]
図3は、本発明の第2の実施の形態に係る発光素子1の構成の一例を概略的に示す断面図である。図4は、図3に示す発光素子1を構成する半導体層のAl組成比の一例を模式的に示す図である。第2の実施の形態に係る発光素子1は、p型クラッド層70を有する点で第1の実施の形態の発光素子1と相違する。以下、第1の実施の形態と異なる点を中心に説明する。
【0041】
本実施の形態に係る発光素子1は、上述した第1の実施の形態に係る発光素子1の構成に加えて、電子ブロック積層体60とp型コンタクト層80との間に位置するp型クラッド層70をさらに備えている。p型クラッド層70は、10nm~1000nm程度の膜厚を有し、例えば、20nm~800nm程度の膜厚を有する。p型クラッド層70は、p型AlGaNにより形成された層である。
【0042】
具体的には、p型クラッド層70は、AlGa1-zNを含んで構成されている(0≦z≦1)。ここで、zは、p型クラッド層70を形成するp型AlGaNのAl組成比(以下、「p型クラッド層70のAl組成比」ともいう)である。
【0043】
図4に示すように、p型クラッド層70のAl組成比zは、第2の電子ブロック層62のAl組成比y以下であり(すなわち、z≦y)、かつ、井戸層54のAl組成比aよりも大きい(すなわち、a<z)。以上をまとめると、各Al組成比a,b,x,y,zは、a<z≦y<x<bの関係を満たしている。なお、一例として、p型クラッド層70のAl組成比zは、0%以上70%以下である。
【0044】
第2の電子ブロック層62のAl組成比yよりも小さいAl組成比zを有するp型クラッド層70をさらに設けることにより、Al組成比を高くすることによって生じ得る抵抗の増加を抑制する機能をさらに高めることができる。
【0045】
[第3の実施の形態]
図5は、第3の実施の形態に係る発光素子1を構成する半導体層のAl組成比の一例を模式的に示す図である。第3の実施の形態に係る発光素子1は、Al組成比が膜厚の方向において傾斜するp型クラッド層70を有する点で第1の実施の形態の発光素子1と相違する。以下、第1の実施の形態と異なる点を中心に説明する。なお、第3の実施の形態に係る発光素子1の構成は、図3に示した第2の実施の形態に係る発光素子1と実質的に同一であるため、その詳細な説明は省略する。
【0046】
本実施の形態に係る発光素子1は、上述した第1の実施の形態に係る発光素子1の構成に加えて、電子ブロック積層体60とp型コンタクト層80との間に位置するp型クラッド層70をさらに備えている。p型クラッド層70のAl組成比zは、p型コンタクト層80に向かうに連れて減少する。Al組成比zの傾斜率(p型コンタクト層80側に向かう方向における減少率)は、0.025/nm以上0.20/nm以下(すなわち、2.5%/nm以上20%/nm以下)である。
【0047】
なお、p型クラッド層70のAl組成比zは、必ずしも図5に示すように、直線的に減少しなくてもよく、例えば、階段状に段階的に減少してもよく、あるいは、曲線(例えば、二次関数的な曲線や指数関数的な曲線等)状に減少してもよい。p型クラッド層70のAl組成比zが曲線状に減少する場合、p型コンタクト層80のAl組成比と滑らかに接続するように、p型コンタクト層80に向かうに連れてAl組成比の減少率が小さくなるようにすることが好ましい。
【0048】
また、Al組成比が傾斜している場合、上述したAl組成比に係る関係式(すなわち、a<z≦y<x<b)は、p型クラッド層70のAl組成比zの最大値に対して成立する。ここで、p型クラッド層70のAl組成比zの最大値とは、p型クラッド層70の第2の電子ブロック層62側のAl組成比をいう。換言すれば、p型クラッド層70のAl組成比の最小値(つまり、p型クラッド層70のお型コンタクト層80側のAl組成比)は、井戸層のAl組成比aよりも小さくてもよい。なお、pクラッド層70と第2の電子ブロック層62との間でAl組成比zが不連続であってもよい(z<y)。
【0049】
以上のようにp型クラッド層70のAl組成比zを厚さ方向において傾斜させることにより、p型コンタクト層80のAl組成比とp型クラッド層70のAl組成比との間の段差が低減されるため、Al組成比が不連続となる箇所で格子不整合により生じる転位の発生を抑制することがさらにできると考えられる。
【0050】
(発光出力)
図6は、上述した実施の形態に係る発光素子1の発光出力の測定結果の一例を示す図である。横軸の「実施例1」は、第1の実施の形態に係る発光素子1の測定結果を示し、「実施例2」は、第2の実施の形態に係る発光素子1の測定結果を示し、「実施例3」は、第3の実施の形態に係る発光素子1の測定結果を示している。発光出力は、種々の公知の方法で測定することが可能であるが、本実施例では、一例として、上述したn側電極90及びp側電極92の間に一定の電流(例えば、100mA)を流し、発光素子1の下側に設置した光検出器により測定した。
【0051】
図6に示すように、実施例1では、中心波長279nmでの光出力が7.2x10μWであった。また、実施例2では、中心波長275nmでの光出力が7.6x10μWであった。さらに、実施例3では、中心波長282nmでの光出力が8.6x10μWであった。この測定結果により、第2の電子ブロック層62のAl組成比yよりも小さいAl組成比zを有するp型クラッド層70や、傾斜するAl組成比zを有するp型クラッド層70を設けることにより、発光出力がさらに向上することが確認された。
【0052】
(実施形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0053】
[1]AlGaN系の障壁層(52)を含む活性層(50)と、前記活性層(50)の上側に位置するp型コンタクト層(80)と、前記活性層(50)及び前記p型コンタクト層(80)の間に位置する電子ブロック積層体(60)と、を備え、前記電子ブロック積層体(60)は、前記活性層(50)側に位置し、前記障壁層(52)のAl組成比よりも大きく、前記活性層側の一端から前記p型コンタクト層側の他端に亘って一定値であるAl組成比を有する第1の電子ブロック層(61)と、前記p型コンタクト層(80)側に位置し、前記障壁層(52)のAl組成比よりも小さく、前記第1の電子ブロック層側の一端から前記p型コンタクト層側の他端に亘って一定値であるAl組成比を有する第2の電子ブロック層(62)と、を備える、窒化物半導体発光素子(1)。
[2]前記活性層(50)は、前記障壁層(52)のAl組成比よりも小さいAl組成比を有する井戸層(54)をさらに備え、前記第2の電子ブロック層(62)のAl組成比は、前記井戸層(54)のAl組成比よりも大きい、前記[1]に記載の窒化物半導体発光素子(1)。
[3]前記第2の電子ブロック層(62)は、前記第1の電子ブロック層(61)の膜厚よりも大きい膜厚を有する、前記[1]又は[2]に記載の窒化物半導体発光素子(1)。
[4]前記第2の電子ブロック層(62)及び前記p型コンタクト層(80)の間に、前記第2の電子ブロック層(62)のAl組成比よりも小さく、前記井戸層(54)のAl組成比よりも大きいAl組成比を有するp型のAlGaNにより形成されたp型クラッド層(70)をさらに備える、前記[1]から[3]のいずれか1つに記載の窒化物半導体発光素子(1)。
[5]前記p型クラッド層(70)は、膜厚の方向において傾斜するAl組成比を有する、前記[4]に記載の窒化物半導体発光素子(1)。
[6]前記第1の電子ブロック層(61)のAl組成比は、80%以上であり、前記第2の電子ブロック層(62)のAl組成比は、40%以上90%以下である、前記[1]から[5]のいずれか1つに記載の窒化物半導体発光素子(1)。
【符号の説明】
【0054】
1…窒化物半導体発光素子(発光素子)
11…基板
12…バッファ層
30…n型クラッド層
30a…露出面
50…活性層
52,52a,52b,52c…障壁層
54,54a,54b,54c…井戸層
60…電子ブロック積層体
61…第1の電子ブロック層
62…第2の電子ブロック層
70…p型クラッド層
80…p型コンタクト層
90…n側電極
92…p側電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6