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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-13
(45)【発行日】2022-09-22
(54)【発明の名称】動物モデルおよび治療用分子
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220914BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20220914BHJP
   C12N 15/90 20060101ALI20220914BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220914BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20220914BHJP
   C12N 5/0781 20100101ALI20220914BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALI20220914BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20220914BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20220914BHJP
   A61P 37/00 20060101ALN20220914BHJP
   A61K 39/395 20060101ALN20220914BHJP
【FI】
C12N15/13
A01K67/027
C12N15/90 Z
C12N5/10
C12N5/0735
C12N5/0781
C12N5/0789
C12N15/90 104Z
C07K16/46
C12N15/85 Z
A61P37/00
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K39/395 J
A61K39/395 B
【請求項の数】 42
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020102977
(22)【出願日】2020-06-15
(62)【分割の表示】P 2019197622の分割
【原出願日】2010-07-07
(65)【公開番号】P2020150951
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2020-07-15
(31)【優先権主張番号】0911846.4
(32)【優先日】2009-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】61/223,960
(32)【優先日】2009-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】0913102.0
(32)【優先日】2009-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】61/355,666
(32)【優先日】2010-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512006066
【氏名又は名称】カイマブ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】アラン・ブラドリー
(72)【発明者】
【氏名】イー-チアン・リー
(72)【発明者】
【氏名】キ・リアン
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ・ワン
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-532598(JP,A)
【文献】特表2004-524841(JP,A)
【文献】特開2007-332152(JP,A)
【文献】特表2007-537704(JP,A)
【文献】特表2006-501303(JP,A)
【文献】特表2008-538912(JP,A)
【文献】特表2008-517600(JP,A)
【文献】特表2004-533826(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0236418(US,A1)
【文献】国際公開第2008/076379(WO,A2)
【文献】国際公開第2007/117410(WO,A2)
【文献】Biol. Chem.,2000年,Vol.381,pp.801-813
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A01K
A61K
C07K
C12P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノムが、げっ歯動物定常領域の上流に、複数のヒト重鎖可変(V)遺伝子セグメント、1つまたは複数のヒト重鎖D遺伝子セグメント、および、1つまたは複数のヒト重鎖J遺伝子
セグメントを含む、げっ歯動物であって、
前記げっ歯動物が、げっ歯動物定常領域とヒト可変領域を有する、キメラ抗体または重鎖のレパートリーを生成することができ、
げっ歯動物VDJ領域の、全体でなく部分が、リコンビナーゼ媒介型切除によって切除され
ており、
ゲノムが、重鎖遺伝子座についてホモ接合型であり、ならびに
前記ヒト重鎖V遺伝子セグメント、ヒト重鎖D遺伝子セグメント、およびヒト重鎖J遺伝子セグメントが近接したヒト挿入を形成し、介在配列なしで直接一緒になって連結している、
げっ歯動物。
【請求項2】
ゲノムが、げっ歯動物定常領域の上流に複数のヒト重鎖可変(V)遺伝子セグメント、1つまたは複数のヒトD遺伝子セグメント、および、1つまたは複数のヒト重鎖J遺伝子セグメ
ントを含み、
ヒトDNAが、ヒトセグメントとげっ歯動物定常領域との間で機能性のキメラ抗体が生成さ
れるようげっ歯動物定常領域と機能的配置をとり、
げっ歯動物のゲノムの、全体でなく部分が、リコンビナーゼ媒介型切除によって切除されており、
ゲノムが、重鎖遺伝子座についてホモ接合型であり、ならびに
前記ヒト重鎖V遺伝子セグメント、ヒト重鎖D遺伝子セグメント、およびヒト重鎖J遺伝子セグメントが近接したヒト挿入を形成し、介在配列なしで直接一緒になって連結している、
げっ歯動物細胞。
【請求項3】
複数のヒト重鎖V遺伝子セグメントが、少なくとも50%のヒト重鎖V遺伝子セグメントを
含む、請求項1に記載のげっ歯動物、または、請求項2に記載の細胞。
【請求項4】
複数のヒト重鎖V遺伝子セグメントが、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または、少なくとも90%のヒト重鎖V遺伝子セグメントを含む、請求項3に記載のげっ歯
動物または細胞。
【請求項5】
ゲノムが、少なくとも50%のヒト重鎖D遺伝子セグメント、任意選択で、少なくとも60%
、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または、全ての、ヒト重鎖D遺伝子セグメントを含む、請求項1、3、および、4のいずれか一項に記載のげっ歯動物、または、
請求項2-4のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項6】
ゲノムが、少なくとも50%のヒト重鎖J遺伝子セグメント、任意選択で、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または、全ての、ヒト重鎖J遺伝子
セグメントを含む、請求項1、および、3-5のいずれか一項に記載のげっ歯動物、または、請求項2-5のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項7】
定常領域が、野生型遺伝子座に位置するげっ歯動物野生型定常領域である、請求項1、
および3-6のいずれか一項に記載のげっ歯動物、または、請求項2-6のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項8】
ゲノムが、げっ歯動物カッパ定常領域の上流に1つまたは複数のヒトカッパV遺伝子セ
グメントおよび1つまたは複数のヒトカッパJ遺伝子セグメントを追加的に含み、
前記げっ歯動物が、げっ歯動物定常領域とヒト可変領域を有するキメラカッパ軽鎖のレパートリーを生成することができる、請求項1および3-7のいずれか一項に記載のげっ歯動物。
【請求項9】
ゲノムが、げっ歯動物カッパ定常領域の上流に1つまたは複数のヒトカッパV遺伝子セグメントおよび1つまたは複数のヒトカッパJ遺伝子セグメントを追加的に含み、
ヒトDNAが、ヒトセグメントとげっ歯動物定常領域との間で機能性のキメラ抗体が生成さ
れるようげっ歯動物定常領域と機能的配置をとる、請求項2-7のいずれか一項に記載の細
胞。
【請求項10】
ヒトカッパDNAが、
(i)少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、もしくは、少なく
とも90%のヒトカッパV遺伝子セグメント、または、
(ii)ヒトカッパV遺伝子セグメントおよびヒトカッパJ遺伝子セグメントの唯一の近位の
クラスター
を含む、請求項8に記載のげっ歯動物、または、請求項9に記載の細胞。
【請求項11】
(i)ヒトDNAが、全てのヒトカッパV遺伝子セグメントを含む、
請求項8に記載のげっ歯動物または細胞。
【請求項12】
1つまたは複数のヒトカッパJ遺伝子セグメントが、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または全てのヒトカッパJ遺伝子セグメントを含む、請求項8、10、および11に記載のげっ歯動物、または、請求項9-11のいずれか一項に記載の細
胞。
【請求項13】
ゲノムが、カッパ鎖遺伝子座についてホモ接合型である、請求項8および10-12のいずれか一項に記載のげっ歯動物、または、請求項9-12のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項14】
ゲノムが、げっ歯動物ラムダ定常領域の上流に1つまたは複数のヒトラムダV遺伝子セグメント、および、1つまたは複数のヒトラムダJ遺伝子セグメントを追加的に含み、
げっ歯動物が、げっ歯動物定常領域とヒト可変領域を有するキメラカッパ軽鎖のレパートリーを生成することができる、
請求項1、3-8および10-12のいずれか一項に記載のげっ歯動物。
【請求項15】
ゲノムが、げっ歯動物ラムダ定常領域の上流に1つまたは複数のヒトラムダV遺伝子セグメントおよび1つまたは複数のヒトラムダJ遺伝子セグメントを追加的に含み、
ヒトDNAが、ヒトセグメントとげっ歯動物定常領域との間で機能性のキメラ抗体が生成さ
れるようげっ歯動物定常領域と機能的な配置をとる、
請求項2-7および9-13のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項16】
1つまたは複数のヒトラムダV遺伝子セグメントが、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または、少なくとも90%のヒトラムダV遺伝子セグメントを含む、請求項14
に記載のげっ歯動物、または、請求項15に記載の細胞。
【請求項17】
ヒトDNAが、全てのヒトラムダV遺伝子セグメントを含む、請求項16に記載のげっ歯動物、または、細胞。
【請求項18】
1つまたは複数のヒトラムダJ遺伝子セグメントが、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または全ての、ヒトラムダJ遺伝子セグメントを含む、請
求項14、16、および、17のいずれか一項に記載のげっ歯動物、または請求項15-17のいず
れか一項に記載の細胞。
【請求項19】
ゲノムが、ラムダ鎖遺伝子座についてホモ接合型である、請求項13-16のいずれか一項
に記載のげっ歯動物または細胞。
【請求項20】
ゲノムが、重鎖遺伝子座および1つの軽鎖遺伝子座において、V遺伝子セグメント、D遺
伝子セグメント(重鎖のみ)および、J遺伝子セグメントを含むが、両方の軽鎖遺伝子座
においては含まない、請求項1に記載のげっ歯動物、または、請求項2に記載の細胞。
【請求項21】
カッパ鎖定常領域が、野生型遺伝子座に位置する内在性宿主野生型カッパ定常領域である、請求項8、10-14、および、16-20のいずれか一項に記載のげっ歯動物、または、請求
項9-13、および、15-20のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項22】
ラムダ鎖定常領域が、野生型遺伝子座に位置する内在性宿主野生型ラムダ定常領域である、請求項14、および、16-21のいずれか一項に記載のげっ歯動物、または、請求項15-21のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項23】
マウスまたはマウス細胞である、請求項1から22のいずれか一項に記載のげっ歯動物、
または、細胞。
【請求項24】
ヒトDNAが、近接したヒトDNA配列である、請求項1、3-8、10-14、および、6-23のいず
れか一項に記載のげっ歯動物、または、請求項2-7、9-13、および、15-23のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項25】
ES細胞である、請求項2-7、9-13、および、15-24のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項26】
C57BL/6N系統、C57BL/6J系統、129S5系統または129Sv系統のマウスの細胞である、請求項25に記載のES細胞。
【請求項27】
C57BL/6N系統、C57BL/6J系統、129S5系統および129Sv系統から選択されるマウスである
、請求項1、3-8、10-14、および、16-24のいずれか一項に記載のげっ歯動物。
【請求項28】
請求項26に記載の細胞からげっ歯動物に発生する工程を含む、げっ歯動物を生成する方法。
【請求項29】
請求項1、3-8、10-14、16-24、および27のいずれか一項に記載のげっ歯動物を抗原で免疫化する工程、または、請求項28に記載の方法によってげっ歯動物を生成する工程および抗原で免疫化する工程、ならびに、抗体または抗体鎖を回収する工程を含む、所望の抗原に特異的なキメラ抗体または抗体鎖を生成するための方法。
【請求項30】
キメラ抗体または抗体鎖を操作して、抗体様の特性または構造を有する分子を生成する請求項29に記載の方法であって、
前記抗体様の特性または構造を有する分子が、
ドメイン抗体、または、
同じもしくは異なる種由来の重鎖もしくは軽鎖のいずれかに由来する任意の定常領域を有するヒト可変領域、または、
任意のその他の融合パートナーと一緒になったヒト可変領域
から選択される、
方法。
【請求項31】
キメラ抗体または抗体鎖がDNAレベルで操作される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
完全にヒト化した抗体を生成するための方法であって、請求項1、3-8、10-14、16-24、および27のいずれか一項に記載のげっ歯動物を抗原で免疫化する工程、または、請求項28に記載の方法によってげっ歯動物を生成する工程および抗原で免疫化する工程、ならびに、その後、抗原に特異的に反応するキメラ抗体のげっ歯動物定常領域をヒト定常領域で置換する工程、を含む、方法。
【請求項33】
抗原に特異的に反応するキメラ抗体のげっ歯動物定常領域をヒト定常領域で置換する工程が、抗体またはキメラ抗体鎖をコードする核酸を操作することによって行われる、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記抗体を薬学的に許容される担体または他の賦形剤を組み合わせて組成物を生成することによって、医薬組成物を調製する工程をさらに含む、請求項32または33に記載の方法。
【請求項35】
抗体が、モノクローナル抗体である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
完全にヒト化した抗体が細胞株において発現される、請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
請求項1、3-8、10-14、16-24、および27のいずれか一項に記載のげっ歯動物を生成する工程、または、請求項28に記載の方法によってげっ歯動物を生成する工程を含み、および、さらに、げっ歯動物の細胞から、抗体を生成する細胞または細胞株を増大する、または、派生する工程を含む、抗体を生成する細胞、または、細胞株を生成する方法。
【請求項38】
請求項1、3-8、10-14、16-24、および27のいずれか一項に記載のげっ歯動物を生成する工程、または、請求項28に記載の方法によってげっ歯動物を生成する工程を含み、ならびに、さらにげっ歯動物を免疫化する工程、ならびに、その後、免疫化したげっ歯動物の細胞から抗体を生成する細胞若しくは細胞株を増大する、もしくは、派生する工程を含む、抗体を生成する細胞、または、細胞株を生成する方法。
【請求項39】
抗体を生成する細胞または細胞株が、B細胞である細胞から増大するまたは派生する、
請求項37または38に記載の方法。
【請求項40】
抗体を生成する細胞株が、不死化した細胞株である、請求項37-39のいずれか一項に記
載の方法。
【請求項41】
不死化した細胞株が、腫瘍細胞と融合することによって生成される、抗体を生成する細胞または細胞株を提供する不死化した細胞株である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
げっ歯動物が、請求項1、5-9、11-16、18-24、および27のいずれか一項に記載のげっ歯動物である、請求項32-41のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はとりわけ、外来性DNA、例として、ヒト免疫グロブリン遺伝子のDNAを含有するように工学的に作製した非ヒトの動物および細胞、医学および疾患の研究におけるそれらの使用、非ヒト動物および細胞を生成するための方法、さらに、そのような動物により生成された抗体および抗体鎖ならびにそれらの誘導体にも関する。
【背景技術】
【0002】
抗体をヒト化する際の問題を回避するために、いくつかの会社が、ヒト免疫系を有するマウスの生成に着手した。使用された戦略は、ES細胞中の重鎖および軽鎖の遺伝子座をノックアウトし、これらの遺伝子の損傷を、ヒトの重鎖および軽鎖の遺伝子を発現するように設計した導入遺伝子で補足することであった。これらのモデルは、完全にヒトの抗体を生成することができたが、以下に示す、いくつかの大きな欠点を有する。
(i)重鎖および軽鎖の遺伝子座のサイズ(それぞれ、数Mb)のために、遺伝子座全体をこれらのモデルに導入することが不可能であった。結果として、回収された遺伝子導入系は、V領域の非常に限定的なレパートリーしか有さず、定常領域のうちのほとんどが欠落し、重要な遠位エンハンサー領域は、導入遺伝子中に含まれなかった。
(ii)大きな挿入遺伝子導入系の生成の非常に低い効率、ならびにこれらのそれぞれを重鎖および軽鎖のノックアウト系統中に交雑させ、それらを再びホモ接合型とするのに必要な複雑性および時間のために、最適な発現について解析することができる遺伝子導入系の数が制限された。
(iii)個々の抗体の親和性が、未改変(非トランスジェニック)動物から得ることができる親和性にまれにしか達しなかった。
【0003】
WO2007117410が、キメラ抗体を発現させるためのキメラのコンストラクトを開示している。
【0004】
WO2010039900が、キメラ抗体をコードするゲノムを有するノックイン細胞およびノックイン哺乳動物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2007117410
【文献】WO2010039900
【文献】US 5,859,307
【文献】WO9929837
【文献】WO0104288
【非特許文献】
【0006】
【文献】JanewayおよびTravers、Immunobiology、3版
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【文献】www.komp.org
【文献】www.eucomm.org
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【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はとりわけ、非ヒト哺乳動物中でヒトIg可変領域を含む抗体を生成するための方法を提供し、さらに、そのような抗体を生成するための非ヒト動物モデルも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、本発明は、ゲノムが、
(a)宿主非ヒト哺乳動物定常領域の上流の複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域、さらに、
(b)場合により、宿主非ヒト哺乳動物カッパ定常領域の上流の1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または宿主非ヒト哺乳動物ラムダ定常領域の上流の1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域
を含む非ヒト哺乳動物に関し、
非ヒト哺乳動物は、非ヒト哺乳動物定常領域およびヒト可変領域を有するキメラ抗体またはキメラ軽鎖もしくは重鎖のレパートリーを生成することができる。
【0009】
一態様では、本発明は、ゲノムが、
(a)宿主非ヒト哺乳動物カッパ定常領域の上流の複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または宿主非ヒト哺乳動物ラムダ定常領域の上流の複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域、さらに、
(b)場合により、宿主非ヒト哺乳動物定常領域の上流の1つまたは複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域
を含む非ヒト哺乳動物に関し、
非ヒト哺乳動物は、非ヒト哺乳動物定常領域およびヒト可変領域を有するキメラ抗体またはキメラ軽鎖もしくは重鎖のレパートリーを生成することができる。
【0010】
一態様では、本発明は、ゲノムが、
(a)宿主非ヒト哺乳動物定常領域の上流の複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域、さらに、
(b)場合により、宿主非ヒト哺乳動物カッパ定常領域の上流の1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または宿主非ヒト哺乳動物ラムダ定常領域の上流の1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域
を含む非ヒト哺乳動物細胞に関する。
【0011】
一態様では、本発明は、ゲノムが、
(a)宿主非ヒト哺乳動物カッパ定常領域の上流の複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または宿主非ヒト哺乳動物ラムダ定常領域の上流の複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域、さらに、
(b)場合により、宿主非ヒト哺乳動物定常領域の上流の1つまたは複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域
を含む非ヒト哺乳動物細胞に関する。
【0012】
さらなる態様では、本発明は、非ヒト細胞または哺乳動物を生成するための方法に関し、この方法は、
(a)宿主非ヒト哺乳動物定常領域の上流の複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域、さらに、
(b)場合により、宿主非ヒト哺乳動物カッパ定常領域の上流の1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または宿主非ヒト哺乳動物ラムダ定常領域の上流の1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域
をそれぞれ、
非ヒト哺乳動物細胞のゲノム、例として、ES細胞のゲノム中に挿入するステップを含み、
挿入の結果、非ヒト細胞または哺乳動物が、非ヒト哺乳動物定常領域およびヒト可変領域を有するキメラ抗体のレパートリーを生成することができるようになり、ステップ(a)およびステップ(b)を、いずれの順番でも実施することができ、ステップ(a)およびステップ(b)のそれぞれを、段階的にまたは単一ステップとして実施することができる。
【0013】
挿入は、相同組換えによってであり得る。
【0014】
さらなる態様では、本発明は、所望の抗原に特異的な抗体または抗体鎖を生成するための方法に関し、この方法は、本明細書に開示するトランスジェニックな非ヒト哺乳動物を、所望の抗原を用いて免疫化するステップと、抗体または抗体鎖を回収するステップとを含む。
【0015】
さらなる態様では、本発明は、完全ヒト化抗体を生成するための方法に関し、この方法は、本明細書に開示するトランスジェニックな非ヒト哺乳動物を、所望の抗原を用いて免疫化するステップと、抗体または抗体を生成する細胞を回収するステップと、次いで、非ヒト哺乳動物定常領域を、ヒト定常領域で、例えば、タンパク質またはDNAを工学的に作製することによって置き換えるステップとを含む。
【0016】
さらなる態様では、本発明は、本発明により生成した、キメラ(例えば、マウス-ヒトの)形態および完全ヒト化形態の両方のヒト化抗体およびヒト化抗体鎖、さらに、前記抗体および抗体鎖の断片および誘導体、ならびに前記抗体、抗体鎖および抗体断片の、診断を含めた、医学における使用に関する。
【0017】
さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載する非ヒト哺乳動物の、薬物およびワクチンを試験するためのモデルとしての使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一連のヒトBACをマウスIg遺伝子座中に挿入するための反復プロセスを示す図である。
図2】一連のヒトBACをマウスIg遺伝子座中に挿入するための反復プロセスを示す図である。
図3】一連のヒトBACをマウスIg遺伝子座中に挿入するための反復プロセスを示す図である。
図4】一連のヒトBACをマウスIg遺伝子座中に挿入するための反復プロセスを示す図である。
図5】一連のヒトBACをマウスIg遺伝子座中に挿入するための反復プロセスを示す図である。
図6】一連のヒトBACをマウスIg遺伝子座中に挿入するための反復プロセスを示す図である。
図7】一連のヒトBACをマウスIg遺伝子座中に挿入するための反復プロセスを示す図である。
図8】一連のヒトBACをマウスIg遺伝子座中に挿入するための反復プロセスを示す図である。
図9図1~8のプロセスを、IgH遺伝子座およびカッパ遺伝子座についてより詳細に示す図である。
図10図1~8のプロセスを、IgH遺伝子座およびカッパ遺伝子座についてより詳細に示す図である。
図11図1~8のプロセスを、IgH遺伝子座およびカッパ遺伝子座についてより詳細に示す図である。
図12図1~8のプロセスを、IgH遺伝子座およびカッパ遺伝子座についてより詳細に示す図である。
図13図1~8のプロセスを、IgH遺伝子座およびカッパ遺伝子座についてより詳細に示す図である。
図14図1~8のプロセスを、IgH遺伝子座およびカッパ遺伝子座についてより詳細に示す図である。
図15図1~8のプロセスを、IgH遺伝子座およびカッパ遺伝子座についてより詳細に示す図である。
図16図1~8のプロセスを、IgH遺伝子座およびカッパ遺伝子座についてより詳細に示す図である。
図17図1~8のプロセスを、IgH遺伝子座およびカッパ遺伝子座についてより詳細に示す図である。
図18図1~8のプロセスを、IgH遺伝子座およびカッパ遺伝子座についてより詳細に示す図である。
図19】キメラマウスにおける抗体生成の背後の原理を示す図である。
図20】キメラマウスにおける抗体生成の背後の原理を示す図である。
図21】マウス染色体中のヒトDNAについての可能な挿入部位を示す図である。
図22】一連のヒトBACをマウスIg遺伝子座中に挿入するための代替の反復プロセスを開示する図である。
図23】一連のヒトBACをマウスIg遺伝子座中に挿入するための代替の反復プロセスを開示する図である。
図24】一連のヒトBACをマウスIg遺伝子座中に挿入するための代替の反復プロセスを開示する図である。
図25】一連のヒトBACをマウスIg遺伝子座中に挿入するための代替の反復プロセスを開示する図である。
図26】一連のヒトBACをマウスIg遺伝子座中に挿入するための代替の反復プロセスを開示する図である。
図27】宿主VDJ領域の反転の機構を示す図である。
図28】宿主VDJ領域の反転の機構を示す図である。
図29】宿主VDJ領域の反転の機構を示す図である。
図30】RMCEアプローチを使用するプラスミドの挿入についての原理の証明を示す図である。
図31】順次的なRMCEのランディングパッド(Landing Pad)中への組込みを示す図である。
図32】ランディングパッド中への挿入の成功の確認を示す図である。
図33】3'末端の修正(Curing)の、PCRによる確認を示す図である。
図34】BAC1番の挿入およびPCR診断学を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
マウスについてのヌクレオチド座標は全て、マウスC57BL/6J系統についてのNCBI m37、2007年4月、ENSEMBL Release 55.37hに由来する。ヒトヌクレオチドは、GRCh37、2009年2月、ENSEMBL Release 55.37に由来し、ラットは、RGSC 3.4、2004年12月、ENSEMBL release 55.34wに由来する。
【0020】
本発明において、我々は、キメラのヒトの重鎖および軽鎖の遺伝子座を、非ヒト哺乳動物、例えば、マウス中で構築するための方法を開示する。マウスが非ヒト哺乳動物として好ましいが、マウスにおける研究への言及は本明細書では例示のために過ぎず、マウスへの言及は、そうでないことが本開示から明らかでない限り、全ての非ヒト哺乳動物への言及を含むものとする。
【0021】
一態様では、本発明は、ゲノムが、
(a)宿主非ヒト哺乳動物定常領域の上流の複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域、さらに、
(b)場合により、宿主非ヒト哺乳動物カッパ定常領域の上流の1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または宿主非ヒト哺乳動物ラムダ定常領域の上流の1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域
を含む非ヒト哺乳動物に関し、
非ヒト哺乳動物は、非ヒト哺乳動物定常領域およびヒト可変領域を有するキメラ抗体または抗体鎖のレパートリーを生成することができる。
【0022】
さらなる態様では、本発明は、ゲノムが、
(a)宿主非ヒト哺乳動物カッパ定常領域の上流の複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または宿主非ヒト哺乳動物ラムダ定常領域の上流の複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域、さらに、
(b)場合により、宿主非ヒト哺乳動物定常領域の上流の1つまたは複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域
を含む非ヒト哺乳動物に関し、
非ヒト哺乳動物は、非ヒト哺乳動物定常領域およびヒト可変領域を有するキメラ抗体のレパートリーを生成することができる。
【0023】
場合により、非ヒト哺乳動物のゲノムを、完全宿主種特異的抗体(fully host-species specific antibody)の発現を阻止するように改変する。
【0024】
挿入ヒトDNAは、一態様では、ヒト重鎖可変(V)遺伝子(variable (V) gene)の少なくとも50%、例として、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%を含み、一態様では、ヒトV遺伝子の全てを含む。
【0025】
挿入ヒトDNAは、一態様では、ヒト重鎖多様性(D)遺伝子(diversity (D) gene)の少なくとも50%、例として、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%を含み、一態様では、ヒトD遺伝子の全てを含む。
【0026】
挿入ヒトDNAは、一態様では、ヒト重鎖連結(J)遺伝子の少なくとも50%、例として、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%を含み、一態様では、ヒトJ遺伝子の全てを含む。
【0027】
挿入ヒトDNAは、一態様では、ヒト軽鎖可変(V)遺伝子の少なくとも50%、例として、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%を含み、一態様では、ヒト軽鎖V遺伝子の全てを含む。
【0028】
挿入ヒトDNAは、一態様では、ヒト軽鎖連結(J)遺伝子の少なくとも50%、例として、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%を含み、一態様では、ヒト軽鎖J遺伝子の全てを含む。
【0029】
挿入ヒト遺伝子は、同じ個人もしくは異なる個人から誘導してもよく、または合成であってもよく、またはヒトコンセンサス配列を示してもよい。
【0030】
V領域、D領域およびJ領域の数は、ヒト個人間で変動するが、一態様では、重鎖上には、51個のヒトV遺伝子、27個のD遺伝子および6個のJ遺伝子があり、カッパ軽鎖上には、40個のヒトV遺伝子および5個のJ遺伝子があり、ラムダ軽鎖上には、29個のヒトV遺伝子および4個のJ遺伝子があるとみなす(JanewayおよびTravers、Immunobiology、3版)
【0031】
一態様では、非ヒト哺乳動物中に挿入するヒト重鎖遺伝子座は、ヒトのV領域、D領域およびJ領域の完全なレパートリーを含有し、この挿入は、ゲノム中で、非ヒト哺乳動物定常領域と機能性の配置をとり、したがって、機能性のキメラ抗体を、ヒト可変領域と非ヒト哺乳動物定常領域との間で生成することができる。この挿入ヒト重鎖遺伝子材料の全体が、本明細書では、ヒトIgH VDJ領域と呼ばれ、ヒトのV部分、D部分およびJ部分をコードするエクソン全てをコードし、また、適切には、関連のイントロンもコードする、ヒトゲノムに由来するDNAを含む。同様に、ヒトIg軽鎖カッパのV領域およびJ領域という場合、本明細書では、ヒトゲノムのV領域およびJ領域をコードするエクソン全てを含み、また、適切には、関連のイントロンも含むヒトDNAを指す。ヒトIg軽鎖ラムダのV領域およびJ領域という場合、本明細書では、ヒトゲノムのV領域およびJ領域をコードするエクソン全てを含み、また、適切には、関連のイントロンも含むヒトDNAを指す。
【0032】
ヒト可変領域は、適切には、非ヒト哺乳動物定常領域の上流に挿入し、後者は、完全な定常領域、または抗原を特異的に認識することが可能である有効なキメラ抗体の形成を可能にするのに十分な定常領域の部分をコードするのに必要なDNAの全てを含む。
【0033】
一態様では、キメラ抗体または抗体鎖は、宿主哺乳動物中に天然に存在する抗体において見られる1つまたは複数のエフェクター機能、例えば、抗体がFc受容体と相互作用することおよび/または補体に結合することを可能にするエフェクター機能をもたらすのに十分な宿主定常領域の一部を有する。
【0034】
したがって、宿主非ヒト哺乳動物定常領域を有するキメラ抗体または抗体鎖という場合、本明細書では、完全な定常領域に限定されず、また、宿主定常領域の全てまたは1つもしくは複数のエフェクター機能をもたらすのに十分なその一部を有するキメラ抗体または抗体鎖も含む。このことはまた、本発明の非ヒト哺乳動物および細胞ならびに方法にも適用され、本発明においては、ヒト可変領域DNAを、宿主ゲノム中に挿入することができ、したがって、宿主定常領域の全部または一部を有するキメラ抗体鎖が形成される。一態様では、宿主定常領域の全体を、ヒト可変領域DNAに作動可能に連結する。
【0035】
宿主非ヒト哺乳動物定常領域は、本明細書では、好ましくは、重鎖または軽鎖の必要に応じて、野生型遺伝子座に位置する内在性の宿主野生型定常領域である。例えば、ヒト重鎖DNAを、適切には、マウス12番染色体上に、適切には、マウス重鎖定常領域に隣接させて挿入する。
【0036】
一態様では、ヒトDNA、例として、ヒトVDJ領域の挿入の標的を、マウスゲノムのIgH遺伝子座中のJ4エクソンとCμ遺伝子座との間の領域とし、一態様では、座標114,667,090と座標114,665,190との間、適切には、座標114,667,091に挿入する。一態様では、ヒトDNA、例として、ヒト軽鎖カッパVJの挿入の標的を、マウス6番染色体中の、座標70,673,899と座標70,675,515との間、適切には、位置70,674,734とし、または16番染色体上のラムダマウス遺伝子座中の同等の位置を標的とする。
【0037】
一態様では、キメラ抗体を形成するための宿主非ヒト哺乳動物定常領域は、異なる(非内在性の)染色体遺伝子座においてであり得る。したがって、この場合には、挿入ヒトDNA、例として、ヒトの可変VDJ領域または可変VJ領域を、非ヒトゲノム中に、天然に存在する重鎖または軽鎖の定常領域の部位とは明確に異なる部位において挿入することができる。自然のままの定常領域がヒト可変領域と機能性の配置をとるような自然のままの位置とは異なる染色体遺伝子座において、自然のままの定常領域を、ゲノム中に挿入するかまたはゲノム内で重複させることができ、したがって、本発明のキメラ抗体を依然として生成することができる。
【0038】
一態様では、ヒトDNAを、宿主定常領域と宿主VDJ領域との間の野生型遺伝子座に位置する内在性の宿主野生型定常領域において挿入する。
【0039】
非ヒト哺乳動物定常領域の上流の可変領域の場所という場合、可変領域および定常領域により、in vivoにおいて哺乳動物中でキメラ抗体または抗体鎖を形成することを可能にするのに適した、2つの抗体部分、すなわち、可変部分および定常部分の相対的な場所があることを意味する。したがって、挿入ヒトDNAと宿主定常領域とは、相互に機能性の配置をとって、抗体または抗体鎖を生成する。
【0040】
一態様では、挿入ヒトDNAは、異なる宿主定常領域を用いて、アイソタイプスイッチ(isotype switching)を通して発現させることが可能である。一態様では、アイソタイプスイッチには、トランススイッチ(trans switching)を必要とすることもなく、それが関与することもない。ヒト可変領域DNAを、関連の宿主定常領域と同じ染色体上に挿入することは、アイソタイプスイッチを生成させるためのトランススイッチの必要性がないことを意味する。
【0041】
上記で説明したように、先行技術のモデルのために使用されたトランスジェニックな遺伝子座は、ヒト起源であり、したがって、マウスが、完全にヒトの抗体を生成するB細胞を生成するように、導入遺伝子がマウス遺伝子座を補足することができた場合であっても、個々の抗体の親和性は、未変化の(非トランスジェニックな)動物から得ることができる親和性にはまれにしか達しなかった。(上記のレパートリーおよび発現レベルに加えて)このことについての主要な理由は、遺伝子座の調節エレメントがヒトであるという事実である。したがって、シグナル伝達構成成分、例えば、高頻度突然変異および高い親和性の抗体の選択を活性化するための構成成分が損なわれる。
【0042】
対照的に、本発明では、宿主非ヒト哺乳動物定常領域を維持し、少なくとも1つの非ヒト哺乳動物のエンハンサーまたはその他の制御配列、例として、スイッチ領域を、非ヒト哺乳動物定常領域と機能性の配置に維持し、したがって、宿主哺乳動物において見られる、エンハンサーまたはその他の制御配列の効果の全部または一部が、トランスジェニック動物において発揮されることが好ましい。
【0043】
上記のこのアプローチは、十分に多様なヒト遺伝子座を収集することが可能になり、非ヒト哺乳動物の制御配列、例として、エンハンサーにより達成されるであろう同じ高い発現レベルが可能になるように設計され、したがって、B細胞におけるシグナル伝達、例えば、スイッチ組換え部位を使用するアイソタイプスイッチが、非ヒト哺乳動物の配列を依然として使用するであろう。
【0044】
そのようなゲノムを有する哺乳動物は、ヒト可変領域および非ヒト哺乳動物定常領域を有するキメラ抗体を生成するが、これらの抗体は、例えば、クローニングのステップにおいて容易にヒト化することができるであろう。さらに、これらのキメラ抗体のin vivoにおける有効性を、これらの同じ動物中で評価することもできるであろう。
【0045】
一態様では、挿入ヒトIgH VDJ領域は、生殖系列配置中に、ヒト由来のV領域、D領域およびJ領域ならびに介在配列の全てを含む。
【0046】
一態様では、800~1000kbのヒトIgH VDJ領域を、非ヒト哺乳動物のIgH遺伝子座中に挿入し、一態様では、940、950または960kbの断片を挿入する。適切には、これは、ヒト14番染色体由来の塩基105,400,051~106,368,585を含む(全ての座標が、ヒトゲノム、ENSEMBL Release 54については、NCBI36、およびマウス系統C57BL/6Jに関連するマウスゲノムについては、NCBIM37を指す)。
【0047】
一態様では、挿入IgHヒト断片は、14番染色体由来の塩基105,400,051~106,368,585からなる。一態様では、挿入ヒト重鎖DNA、例として、14番染色体由来の塩基105,400,051~106,368,585からなるDNAを、マウス12番染色体中に、マウスJ4領域の終点とEμ領域との間、適切には、座標114,667,091と座標114,665,190との間、適切には、座標114,667,091に挿入する。
【0048】
一態様では、挿入ヒトカッパVJ領域は、生殖系列配置中に、ヒト由来のV領域およびJ領域ならびに介在配列の全てを含む。
【0049】
適切には、これは、ヒト2番染色体由来の塩基88,940,356~89,857,000を含み、適切には、およそ917kbである。さらなる態様では、軽鎖VJ挿入部は、VセグメントおよびJセグメントの近位クラスターのみを含むことができる。そのような挿入部は、およそ473kbであろう。
【0050】
一態様では、ヒト軽鎖カッパDNA、例として、ヒト2番染色体由来の塩基88,940,356~89,857,000のヒトIgK断片を、マウス6番染色体中に、座標70,673,899と座標70,675,515との間、適切には、位置70,674,734に適切に挿入する。
【0051】
一態様では、ヒトラムダVJ領域は、生殖系列配置中に、ヒト由来のV領域およびJ領域ならびに介在配列の全てを含む。
【0052】
適切には、これは、ヒト2番染色体由来の、カッパ断片について選択された塩基に類似する塩基を含む。
【0053】
上記の特異的なヒト断片は全て、長さが変化し得、例えば、500塩基、1KB、2K、3K、4K、5KB、10KB、20KB、30KB、40KBまたは50KB以上等、上記の定義よりも長くてもまたは短くてもよく、これらは、適切には、ヒトV(D)J領域の全部または一部を含み、かつ好ましくは、最終的な挿入部についての要件を保持して、上記したように、必要に応じて、完全な重鎖領域および軽鎖領域をコードするヒト遺伝子材料を含む。
【0054】
一態様では、上記のヒト挿入部の5'末端の長さを増加させる。挿入部を段階的に生成する場合には、長さの増加は一般に、上流(5')クローンについてである。
【0055】
一態様では、最後に挿入するヒト遺伝子、一般に、挿入すべき最後のヒトJ遺伝子の3'末端は、ヒト-マウスの連結領域から、2kb未満、好ましくは、1KB未満である。
【0056】
一態様では、非ヒト哺乳動物は、本明細書に開示するヒト軽鎖カッパVJ領域のいくつかまたは全てを含むが、ヒト軽鎖ラムダVJ領域は含まない。
【0057】
さらなる態様では、ゲノムは、本明細書に記載するV、D(重鎖のみ)およびJの遺伝子の挿入を、重鎖遺伝子座および1つの軽鎖遺伝子座において、または重鎖遺伝子座および両方の軽鎖遺伝子座において含む。好ましくは、ゲノムは、1つまたは両方または3つ全部の遺伝子座においてホモ接合型である。
【0058】
別の態様では、ゲノムは、遺伝子座のうちの1つまたは複数においてヘテロ接合型である、例として、キメラ抗体鎖および自然のまま(宿主細胞)の抗体鎖をコードするDNAについてヘテロ接合型であることができる。一態様では、ゲノムは、本発明の2つの異なる抗体鎖、例えば、2つの異なるキメラ重鎖または2つの異なるキメラ軽鎖を含む抗体鎖をコードすることが可能であるDNAについてヘテロ接合型であり得る。
【0059】
一態様では、本発明は、本明細書に記載する非ヒト哺乳動物または細胞、および前記哺乳動物または細胞を生成するための方法に関し、挿入ヒトDNA、例として、ヒトのIgH VDJ領域および/または軽鎖V、J領域が、哺乳動物または細胞において、1つの対立遺伝子上にのみ見出され、両方の対立遺伝子上には見出されない。この態様では、哺乳動物または細胞は、内在性の宿主抗体重鎖または軽鎖およびキメラ重鎖または軽鎖の両方を発現する可能性がある。
【0060】
本発明のさらなる態様では、ヒトのVDJ領域または軽鎖VJ領域は、その全体を使用しないが、その他の種に由来する、エクソン等のヒトのVDJ領域またはVJ領域に同等な部分、例として、その他の種に由来する1つもしくは複数のV、DもしくはJのエクソン、またはその他の種に由来する調節配列を使用することができる。一態様では、ヒト配列の代わりに使用する配列は、ヒトでもマウスでもない。一態様では、使用する配列は、げっ歯類、または霊長類、例として、チンパンジーに由来し得る。例えば、ヒト以外の霊長類に由来するJ領域の1、2、3もしくは4つ以上または全てを使用して、本発明の細胞および動物のVDJ/VJ領域中のヒトJエクソンの1、2、3もしくは4つ以上または全てを置き換えることができる。
【0061】
さらなる態様では、挿入ヒトDNA、例として、ヒトのIgH VDJ領域および/または軽鎖VJ領域を、それらが、ゲノム中で、非ヒト、非マウスの種、例として、げっ歯類または霊長類の配列、例として、ラット配列に由来するミュー定常領域と作動可能に連結するように挿入することができる。
【0062】
DNAエレメントを本発明において使用することができるその他の非ヒト、非マウスの種として、ウサギ、ラマ、ヒトコブラクダ、アルパカ、ラクダおよびサメが挙げられる。
【0063】
一態様では、挿入ヒトDNA、例として、ヒトのVDJ領域またはVJ領域を、内在性宿主ミュー配列ではなく、むしろ非宿主ミュー配列に作動可能に連結する。
【0064】
作動可能な連結は、適切には、ヒト可変領域を含む抗体重鎖または軽鎖の生成を可能にする。
【0065】
一態様では、挿入ヒトDNA、例として、ヒトのIgH VDJ領域(および/または軽鎖VJ領域)を、宿主染色体中に、宿主ミュー定常領域核酸ではなく、好ましくは、非マウス、非ヒト種に由来するミュー定常領域であるミュー定常領域核酸と一緒に挿入することができる。適切には、挿入ヒトDNA、例として、ヒトのVDJ領域(および/または軽鎖VJ領域)は、非ヒト、非マウスのミューに作動可能に連結され、キメラ抗体重鎖または軽鎖を形成することができる。別の態様では、非マウス、非ヒトミューを、宿主染色体中に、ヒト可変領域エレメントとは別個の遺伝子エレメント上にか、またはゲノム中の異なる場所において、適切には、可変領域に作動可能に連結して挿入することができ、したがって、キメラ抗体の重鎖または軽鎖を形成することができる。
【0066】
一態様では、本発明は、ゲノムが、ヒトカッパ定常領域の全部または一部の上流の1つまたは複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つまたは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域を含む、細胞または非ヒト哺乳動物に関する。
【0067】
別の態様では、本発明は、ゲノムが、ヒトラムダ定常領域の全部または一部の上流の1つまたは複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つまたは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域を含む、細胞または非ヒト哺乳動物に関する。
【0068】
適切には、軽鎖のVJ領域およびC領域は、抗原と特異的に反応することが可能である抗体鎖をin vivoにおいて形成することができる。
【0069】
本発明の一態様では、挿入軽鎖領域中には、非ヒトコード配列がない。
【0070】
そのような態様では、ヒトのカッパ領域および/またはラムダ領域を、ゲノム中に、重鎖VDJ領域またはその一部の挿入と組み合わせて、本明細書に開示する宿主重鎖定常領域の上流に挿入する。
【0071】
したがって、本発明の細胞または非ヒト哺乳動物は、
(a)宿主非ヒト哺乳動物定常領域の上流の複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域、ならびに
(b)非ヒトカッパ定常領域の全部または一部の上流の1つまたは複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つまたは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域
を含むことができ、
非ヒト哺乳動物は、非ヒト哺乳動物定常領域およびヒト可変領域を含む抗体鎖を有する抗体のレパートリーを生成することができる。
【0072】
本発明の細胞または非ヒト哺乳動物は、
(a)宿主非ヒト哺乳動物定常領域の上流の複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域、ならびに
宿主非ヒト哺乳動物ラムダ定常領域の上流の1つまたは複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つまたは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域
を含むことができ、
非ヒト哺乳動物は、非ヒト哺乳動物定常領域およびヒト可変領域を含む抗体鎖を有する抗体のレパートリーを生成することができる。
【0073】
適切には、上記に開示したヒトVJC軽鎖DNAまたはその一部の挿入を、同等のマウス遺伝子座において行う。一態様では、ヒト軽鎖カッパVJCのDNAまたはその一部を、マウスカッパVJC領域の上流または下流に間を置かず挿入する。一態様では、ヒト軽鎖ラムダVJC領域またはその一部を、マウスラムダVJC領域の上流または下流に間を置かず挿入する。一態様では、ヒトカッパVJC遺伝子座のみを挿入する。挿入を、本明細書に開示する技法を使用して行うことができ、適切には、宿主配列をゲノムから除去しない。一態様では、非ヒト哺乳動物宿主VJC配列を、何らかの方法で、突然変異もしくは反転により、またはヒト可変領域DNAの挿入により、または任意のその他の手段により不活性化することができる。一態様では、本発明の細胞または非ヒト哺乳動物は、完全なVJCヒト領域の挿入を含むことができる。
【0074】
ヒトカッパ可変領域DNAを、ゲノム中に、ラムダ定常領域と機能性の配置で挿入すること、例えば、ラムダ定常領域の上流に挿入することができるであろう。あるいは、ヒトラムダ可変領域DNAを、カッパ定常領域と機能性の配置で挿入すること、例えば、カッパ定常領域の上流に挿入することもできるであろう。
【0075】
一態様では、1つまたは複数の非ヒト哺乳動物の制御配列、例として、エンハンサー配列を、非ヒト哺乳動物のミュー定常領域の上流に、適切には、定常領域からの距離に関してその自然のままの位置に維持する。
【0076】
一態様では、1つまたは複数の非ヒト哺乳動物の制御配列、例として、エンハンサー配列を、非ヒト哺乳動物のミュー定常領域の下流に、適切には、定常領域からの距離に関してその自然のままの位置に維持する。
【0077】
一態様では、非ヒト哺乳動物のスイッチ配列、適切には、内在性のスイッチ配列を、非ヒト哺乳動物のミュー定常領域の上流に、適切には、定常領域からの距離に関してその自然のままの位置に維持する。
【0078】
そのような場所では、宿主エンハンサー配列またはスイッチ配列は、in vivoにおいて、宿主定常領域配列と共に作動する。
【0079】
一態様では、スイッチ配列は、非ヒト哺乳動物中で、ヒトでも自然のままでもなく、例えば、一態様では、非ヒト哺乳動物のスイッチ配列は、マウスのスイッチ配列でもヒトのスイッチ配列でもない。スイッチ配列は、例えば、げっ歯類もしくは霊長類の配列であってもよく、または合成の配列であってもよい。特に、非ヒト哺乳動物がマウスである場合には、スイッチ配列は、ラットの配列であってよい。例示の目的で、マウスまたはヒトの定常ミュー配列を、適切には、アイソタイプスイッチのin vivoにおける発生を可能にすることができるラットもしくはチンパンジー由来のスイッチ配列またはその他のスイッチ配列の制御下に置くことができる。
【0080】
したがって、本発明の細胞または哺乳動物は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物のスイッチ配列およびヒトまたは非ヒト哺乳動物のエンハンサー領域を、1つまたは複数含むことができる。それらは、ヒトまたは非ヒト哺乳動物定常領域の上流にあってよい。好ましくは、制御配列は、発現を導くか、または別の場合には、制御配列が関連する定常領域を含む抗体の生成を制御することができる。想定される1つの組合せが、マウス細胞中における、ラットのスイッチ配列と、マウスのエンハンサー配列およびマウス定常領域との組合せである。
【0081】
一態様では、本発明は、3つ以上の種に由来するDNAを有する、免疫グロブリンの重鎖または軽鎖の遺伝子座を含む細胞、好ましくは、非ヒト細胞、または非ヒト哺乳動物に関する。例えば、細胞または動物は、宿主細胞の定常領域DNA、1つまたは複数のヒトのV、DまたはJのコード配列、および免疫グロブリン遺伝子座の領域を制御することができる1つまたは複数の非ヒト、非宿主DNA領域、例として、スイッチ配列、プロモーターまたはエンハンサーを含むことができ、これらのDNA領域は、in vivoにおいて、Ig DNAの発現またはアイソタイプスイッチを制御することができる。一態様では、細胞または動物はマウスであり、さらに、ヒトIg遺伝子座に由来するヒトDNA、およびさらに、マウスまたはヒトのDNAを調節することが可能である非マウスDNA配列、例として、ラットDNA配列も含む。
【0082】
別の態様では、本発明は、2つ以上の異なるヒトゲノムに由来するDNAを有する、免疫グロブリンの重鎖または軽鎖の遺伝子座を含む細胞、好ましくは、非ヒト細胞、または非ヒト哺乳動物に関する。例えば、こうした細胞または動物は、重鎖もしくは軽鎖内に2つ以上のヒトゲノムに由来する重鎖V(D)J配列を、または1つのゲノムに由来する重鎖VDJのDNAおよび異なるゲノムに由来する軽鎖VJ配列を含むことができるであろう。
【0083】
一態様では、本発明は、2つ以上の種に由来するDNAを有する、免疫グロブリンの重鎖もしくは軽鎖の遺伝子座またはその一部を含むDNA断片または細胞または非ヒト哺乳動物に関し、1つの種が、非コード領域、例として、調節領域に寄与し、その他の種は、コード領域、例として、V領域、D領域、J領域または定常領域に寄与する。
【0084】
一態様では、ヒトのプロモーターおよび/または異なるヒトのV領域、D領域またはJ領域と関連があるその他の制御エレメントを、マウスゲノム中に維持する。
【0085】
さらなる態様では、ヒト領域、例として、ヒトV領域のプロモーターエレメントまたはその他の制御エレメントのうちの1つまたは複数を、非ヒト哺乳動物の転写機構と相互作用するように最適化する。
【0086】
適切には、ヒトコード配列を、適切な非ヒト哺乳動物プロモーターの制御下に置くことができ、こうすることにより、ヒトDNAを適切な非ヒト動物細胞中で効率的に転写することが可能になる。一態様では、ヒト領域は、ヒトV領域のコード配列であり、ヒトV領域を、非ヒト哺乳動物プロモーターの制御下に置く。
【0087】
工学的に組み換えること(recombineering)またはその他の組換えDNA技術の使用により、ヒトのプロモーターまたはその他の制御領域を、非ヒト哺乳動物のプロモーターまたは制御領域で機能性に置き換えて、ヒトIg領域の一部(例として、ヒトV領域)を、非ヒトIg領域を含有するベクター(例として、BAC)中に挿入することができる。工学的に組み換えること/組換え技法により、適切には、非ヒト(例えば、マウス)のDNAの一部を、ヒトIg領域で置き換え、したがって、ヒトIg領域を、非ヒト哺乳動物のプロモーターまたはその他の制御領域の制御下に置く。適切には、ヒトV領域のヒトコード領域により、マウスV領域のコード配列が置き換えられる。適切には、ヒトD領域のヒトコード領域により、マウスD領域のコード配列が置き換えられる。適切には、ヒトJ領域のヒトコード領域により、マウスJ領域のコード配列が置き換えられる。このように、ヒトのV領域、D領域またはJ領域を、非ヒト哺乳動物プロモーター、例として、マウスプロモーターの制御下に置くことができる。
【0088】
一態様では、非ヒト哺乳動物細胞または哺乳動物中に挿入された唯一のヒトDNAは、Vコード領域、Dコード領域またはJコード領域であり、これらは、宿主調節配列またはその他の(非ヒト、非宿主)配列の制御下に置かれる。ヒトコード領域という場合、一態様では、ヒトのイントロンおよびエクソンの両方を含み、または別の態様では、単にエクソンを含むに過ぎず、イントロンは含まない。イントロンおよびエクソンは、cDNAの形態をとることができる。
【0089】
あるいは、工学的に組み換えることまたはその他の組換えDNA技術を使用して、非ヒト哺乳動物(例えば、マウス)のプロモーターまたはその他の制御領域、例として、V領域についてのプロモーターを、ヒトIg領域を含有するBAC中に挿入することも可能である。次いで、工学的に組み換えるステップにより、ヒトDNAの部分を、マウスプロモーターまたはその他の制御領域の制御下に置く。
【0090】
また、本明細書に記載するアプローチを使用して、ヒト重鎖に由来するV領域、D領域およびJ領域のいくつかまたは全てを、重鎖定常領域の上流ではなく、軽鎖定常領域の上流に挿入することもできる。同様に、ヒト軽鎖のV領域およびJ領域のいくつかまたは全てを、重鎖定常領域の上流に挿入することもできる。挿入は、内在性の定常領域の遺伝子座において、例えば、内在性の定常領域と内在性のJ領域との間であり得、V遺伝子、D遺伝子またはJ遺伝子のいくつかまたは全てのみを挿入し、プロモーター配列およびエンハンサー配列は挿入しなくてもよく、あるいはV遺伝子、D遺伝子またはJ遺伝子のいくつかまたは全てと、1つもしくは複数または全てのそれぞれのプロモーター配列またはエンハンサー配列とを挿入してもよい。一態様では、生殖系列に方向付けたV断片、D断片またはJ断片の完全なレパートリーを、上流に、かつ宿主定常領域と機能性の配置で挿入することができる。
【0091】
したがって、本発明により、ヒトまたは任意の種に由来するV領域および/またはD領域および/またはJ領域を、異なる種に由来する、定常領域を含む細胞の染色体中に挿入することが可能となり、キメラ抗体鎖を発現させることが可能になる。
【0092】
一態様では、本発明には、いくつかのヒト可変領域DNAを、抗体鎖を生成することができるように、非ヒト哺乳動物のゲノム中に、内在性の重鎖定常領域の遺伝子座の領域において、ヒト重鎖定常領域のいくつかのまたは全てと作動可能な配置で挿入することのみが必要となる。本発明およびヒト軽鎖DNAをさらに挿入する場合のこの態様では、軽鎖DNAの挿入は、ヒト可変領域のDNAおよびヒト定常領域のDNAの両方を有する完全にヒトのコンストラクトの形態をとってもよく、またはヒト可変領域DNAおよび非ヒト、非宿主種に由来する定常領域DNAを有してもよい。また、その他の変更形態、例として、軽鎖ヒト可変領域および宿主ゲノム定常領域の両方の挿入も可能である。さらに、前記軽鎖導入遺伝子の挿入は、同等の内在性の遺伝子座においてである必要はないが、ゲノム中のどこかであればよい。そのようなシナリオでは、細胞または哺乳動物は、(ヒト可変領域DNAおよびマウス定常領域DNAを含む)キメラ重鎖、ならびにヒト可変領域DNAおよびヒト定常領域DNAを含む軽鎖を生成することができる。したがって、本発明の一態様では、ラムダおよび/またはカッパのヒト可変領域DNAを、内在性の遺伝子座の上流もしくは下流に、または実際には、異なる染色体上で、内在性の遺伝子座に挿入することができ、定常領域DNAがあってもまたはなくても挿入することができる。
【0093】
ヒト軽鎖DNAを、宿主非ヒト哺乳動物定常領域の上流に挿入する場合に加えて、本発明のさらなる態様は、一方または両方の軽鎖ヒト可変領域の、内在性の遺伝子座の定常領域の下流またはゲノム中の他の箇所への挿入にも関する。
【0094】
一般に、ヒト可変領域DNAを、受容ゲノム中の同等の内在性の遺伝子座においてまたはそこの近くに、例えば、宿主免疫グロブリン遺伝子座の境界(上流または下流)から1、2、3、4、5、6、7、8、9または10kb以内に挿入することが好ましい。
【0095】
したがって、一態様では、本発明は、ゲノムが、
(a)宿主非ヒト哺乳動物定常領域の上流の複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域、さらに、
(b)1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域
を含む、細胞または非ヒト哺乳動物に関し得、
非ヒト哺乳動物は、非ヒト哺乳動物定常領域およびヒト可変領域を有するキメラ抗体またはキメラ軽鎖もしくは重鎖のレパートリーを生成することができる。
【0096】
1つの特定の態様では、細胞または非ヒト哺乳動物のゲノムは、
宿主非ヒト哺乳動物定常領域の上流の複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域、
宿主非ヒト哺乳動物カッパ定常領域の上流の1つまたは複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つまたは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに
宿主非ヒト哺乳動物ラムダ定常領域の下流の1つまたは複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つまたは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域
を含み、
場合により、ヒトラムダ可変領域を、内在性の宿主ラムダ遺伝子座の下流に、ヒトラムダ定常領域と作動可能に連結させて挿入することができ、したがって、非ヒト哺乳動物または細胞は、完全にヒトの抗体の軽鎖およびキメラ重鎖を生成することができる。
【0097】
本発明のさらなる、異なる態様では、本発明の方法を使用することによって、遺伝子座を、順次に挿入することによって段階的に築き上げることが可能になり、したがって、ヒト可変DNAを、ヒトまたは非ヒト定常領域DNAと一緒に、非ヒト宿主細胞のゲノム中の任意の適切な場所に挿入することが可能になる。例えば、本発明の方法を使用して、ヒト免疫グロブリン可変領域DNAを、宿主ゲノムに由来する定常領域DNAと一緒に、非ヒト宿主細胞のゲノム中のどこかに挿入することができ、これにより、キメラ抗体鎖を内在性の重鎖領域以外の部位から生成することが可能になる。上記で企図した任意のヒトの重鎖または軽鎖のDNAコンストラクトを、非ヒト宿主細胞のゲノム中の任意の所望の位置に、本明細書に記載する技法を使用して挿入することができる。したがってまた、本発明は、そのような挿入を含むゲノムを有する細胞および哺乳動物にも関する。
【0098】
また、本発明は、ヒトのV領域、D領域またはJ領域を、非ヒト哺乳動物のプロモーターまたはその他の制御配列と機能性の配置をとって含み、したがって、ヒトのV領域、D領域またはJ領域の発現が、非ヒト哺乳動物の細胞、例として、ES細胞中の、非ヒト哺乳動物プロモーター、特に、その細胞のゲノム中にすでに挿入されている非ヒト哺乳動物プロモーターの制御下にあるベクター、例として、BACに関する。
【0099】
また本発明は、細胞および前記細胞を含有する非ヒト哺乳動物にも関し、そうした細胞または哺乳動物は、ヒトのV領域、D領域またはJ領域を、非ヒト哺乳動物のプロモーターまたはその他の制御配列と機能性の配置をとって有し、したがって、ヒトのV領域、D領域またはJ領域の発現が、細胞または哺乳動物中の非ヒト哺乳動物プロモーターの制御下にある。
【0100】
したがって一般に、本発明の一態様は、ヒトのVコード配列、Dコード配列またはJコード配列を、宿主プロモーターまたは制御領域の制御下で発現することが可能である非ヒト哺乳動物の宿主細胞に関し、この発現により、ヒト可変ドメインおよび非ヒト哺乳動物定常領域を有するヒト化抗体を生成することが可能である。
【0101】
一態様では、本発明は、ゲノムが、
a)宿主非ヒト哺乳動物定常領域の上流の複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域、さらに、
(b)場合により、宿主非ヒト哺乳動物カッパ定常領域の上流の1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または宿主非ヒト哺乳動物ラムダ定常領域の上流の1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域
を含む細胞、例として、非哺乳動物細胞、例として、ES細胞に関する。
【0102】
別の態様では、本発明は、ゲノムが、
(a)宿主非ヒト哺乳動物カッパ定常領域の上流の複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または宿主非ヒト哺乳動物ラムダ定常領域の上流の複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域、さらに、
(b)場合により、宿主非ヒト哺乳動物定常領域の上流の1つまたは複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域
を含む細胞、例として、非ヒト哺乳動物細胞、例として、ES細胞に関する。
【0103】
一態様では、細胞は、キメラである抗体のレパートリー生成することができる非ヒト哺乳動物に発生することが可能であるES細胞であり、前記キメラ抗体は、非ヒト哺乳動物定常領域およびヒト可変領域を有する。場合により、細胞のゲノムを、完全宿主種特異的抗体の発現を阻止するように改変する。
【0104】
一態様では、細胞は、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)(iPS細胞)である。
【0105】
一態様では、細胞は、単離非ヒト哺乳動物細胞である。
【0106】
一態様では、本明細書に開示する細胞は、好ましくは、非ヒト哺乳動物細胞である。
【0107】
また、本発明は、本明細書に記載する細胞から増殖するか、または別の場合には、不死化細胞系を含めた、本明細書に記載する細胞から誘導する細胞系にも関する。細胞系は、本明細書に記載する挿入したヒトのV遺伝子、D遺伝子またはJ遺伝子を、生殖系列配置中またはin vivoにおける成熟に続く再構成の後のいずれかに含むことができる。細胞を、腫瘍細胞への融合により不死化して、抗体を生成する細胞および細胞系をもたらすこと、または直接的な細胞の不死化により作製することができる。
【0108】
また、本発明は、本発明において使用するためのベクターにも関する。一態様では、そのようなベクターは、BAC(バクテリア人工染色体)である。その他のクローニングベクターを、本発明において使用することができ、したがって、BACという場合、本明細書では、一般に、任意の適切なベクターを指すものとすることができることが理解されるであろう。
【0109】
一態様では、挿入すべきヒトDNA、例として、VDJ領域またはVJ領域の生成のために使用するBACは、刈り込まれ、したがって、非ヒト哺乳動物中の最終的なヒトのVDJ領域もしくはVJ領域またはその一部においては、配列が、元々のヒトゲノム配列と比較した場合、重複することも、失われることもない。
【0110】
一態様では、本発明は、挿入部を含むベクター、好ましくは、ヒトのVDJ遺伝子座またはVJ遺伝子座のうちのいくつかに由来するヒトDNAの領域を含むベクターに関し、こうした挿入部には、その遺伝子座に由来しないDNAが隣接する。隣接DNAは、1つもしくは複数の選択マーカーまたは1つもしくは複数の部位特異的組換え部位を含むことができる。一態様では、ベクターは、2つ以上の、例として、3つの異種特異的なかつ不和合性の(incompatible)部位特異的組換え部位を含む。一態様では、部位特異的組換え部位は、loxP部位もしくはそれらの変異体、またはFRT部位もしくはそれらの変異体であり得る。一態様では、ベクターは、1つまたは複数のトランスポゾンITR配列(逆位末端配列)を含む。
【0111】
一態様では、本発明の非ヒト動物は、適切には、いずれの完全ヒト化抗体も生成しない。一態様では、これは、ヒト定常領域に由来するDNAが挿入されないからである。あるいは、例えば、任意のヒト定常領域DNA内の突然変異、または任意の定常領域ヒトDNAおよびヒト可変領域DNAからの距離に起因して、挿入ヒト可変領域DNA構成成分と協力して抗体を形成することが可能であるヒト定常領域DNAが、ゲノム中にはない。
【0112】
一態様では、ヒト軽鎖定常領域DNAを、細胞のゲノム中に含めることができ、したがって、完全にヒトのラムダまたはカッパのヒト抗体鎖を生成することはできるであろうが、この態様は、キメラ重鎖を有する抗体を形成することができるに過ぎず、ヒトの可変領域および定常領域を有する完全にヒトの抗体は生成しないであろう。
【0113】
一態様では、非ヒト哺乳動物のゲノムを、完全宿主種特異的抗体の発現を阻止するように改変する。完全宿主種特異的抗体は、宿主生物体由来の可変領域および定常領域の両方を有する抗体である。この文脈において、用語「特異的な」は、本発明の細胞または動物が生成する抗体の結合性にではなく、むしろ、それらの抗体をコードするDNAの起源に関するものとする。
【0114】
一態様では、非ヒト哺乳動物のゲノムを、哺乳動物中で自然のまま(完全に宿主種に特異的な)抗体が発現するのを、宿主非ヒト哺乳動物Ig遺伝子座の全部または一部を不活性化することによって阻止するように改変する。一態様では、この改変を、非ヒト哺乳動物のVDJ領域またはVJ領域の全部または一部を反転させることにより、場合により、1つもしくは複数の部位特異的リコンビナーゼ部位を、ゲノム中に挿入し、次いで、これらの部位をリコンビナーゼ媒介型切除において使用することによってか、または非ヒト哺乳動物のIg遺伝子座の全部もしくは一部を反転させることにより達成する。一態様では、二重の反転を利用することができ、すなわち、最初に、V(D)Jを内在性の遺伝子座から動かして離し、次いで、それらを正しい位置付けに戻すより局所の反転を行う。一態様では、単一のloxP部位を使用して、非ヒト哺乳動物のVDJ領域を、セントロメア遺伝子座またはテロメア遺伝子座に反転させる。
【0115】
一態様では、ヒトDNAを挿入する非ヒト哺乳動物ゲノムは、内在性のV、(D)およびJの領域を含み、内在性配列は、欠失していない。
【0116】
本発明は、複数のDNA断片をDNA標的中に挿入して、適切には、近接した挿入を形成するための方法を含み、挿入断片は、介在配列なしで、一緒になって直接連結している。この方法はとりわけ、大きなDNA断片の、宿主染色体への挿入に適用でき、段階的に実施することができる。
【0117】
一態様では、この方法は、第1のDNA配列であって、DNAベクターの部分および第1の目的の配列(X1)を有する配列を、標的中に挿入するステップと、第2のDNA配列であって、第2の目的の配列(X2)および第2のベクターの部分を有する配列を、第1の配列のベクターの部分中に挿入するステップと、次いで、X1とX2とを分離する任意のベクター配列のDNAを切除して、近接したX1X2配列またはX2X1配列を、標的内にもたらすステップとを含む。場合により、さらなる1つまたは複数のDNA配列であって、それぞれが、さらなる目的の配列(X3、...)およびさらなるベクターの部分を有するDNA配列を、先行するDNA配列のベクターの部分中に挿入して、近接したDNA断片を、標的中に築き上げるステップがある。
【0118】
第1のDNA配列を挿入するためのDNA標的は、特定の細胞のゲノム中の特異的な部位または任意の点であり得る。
【0119】
一般的な方法を、ヒトVDJ領域のエレメントの挿入に関して本明細書に記載するが、この方法は、任意の生物体に由来する任意のDNA領域の挿入、特に、>100kB、例として、100~250kbの大きなDNA断片、またはさらにより大きな、例として、TCRもしくはHLAの断片の挿入に適用できる。VDJの挿入について本明細書に記載する特徴およびアプローチは、開示する方法のうちのいずれにも等しく適用することができる。
【0120】
一態様では、挿入DNAは、ヒトDNA、例として、ヒトのVDJ領域もしくはVJ領域であり、細胞、例として、ES細胞のゲノム中に、それぞれの重鎖領域または軽鎖領域について、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15または20個以上の別個の挿入を使用して段階的に築き上げる。断片は、適切には、同じまたは実質的に同じ細胞の遺伝子座、例えば、ES細胞の遺伝子座に、次々に挿入して、完全なVDJ領域もしくはVJ領域またはその一部を形成する。また、本発明は、ゲノムが部分的なVDJ領域のみ、例として、ヒト可変領域DNAのみを含むことができる、プロセス中の中間体を含む細胞および非ヒト動物にも関する。
【0121】
さらなる態様では、トランスジェニックな非ヒト哺乳動物を生成するための方法は、ヒトのVDJ領域またはVJ領域を、宿主非ヒト哺乳動物定常領域の上流に、複数の断片を相同組換えにより段階的に挿入することによって、好ましくは、反復プロセスを使用して挿入するステップを含む。本明細書に開示するように、適切には、ヒトのVDJ遺伝子座およびVJ遺伝子座に由来するおよそ100KBの断片を挿入して、適切には、挿入プロセスの最終的な反復の後に部分的または完全なVDJ領域またはVJ領域を形成する。
【0122】
一態様では、挿入プロセスを、開始カセットが細胞、例として、ES細胞のゲノム中に挿入されている部位において開始して、独特の標的領域をもたらす。一態様では、開始カセットを、非ヒト哺乳動物の重鎖遺伝子座中に挿入して、ヒト重鎖DNAの挿入において使用する。同様に、開始カセットを、非ヒト哺乳動物の軽鎖遺伝子座中に挿入して、ヒト軽鎖VJのDNAの挿入において使用する。開始カセットは、適切には、ヒトDNA断片を同じ骨格配列中に有するベクターと組み換えて、ヒトDNAを、細胞(例えば、ES細胞)のゲノム中に挿入することができるベクター骨格配列、および適切には、選択マーカー、例として、陰性の選択マーカーを含む。適切には、ベクター骨格配列は、BACライブラリーの配列であって、BACをES細胞および哺乳動物の構築において使用することを可能にする。しかし、ベクター骨格配列は、相同配列を、例えば、相同組換えおよびRMCEにより挿入することができる標的部位として働く任意の配列であってよく、好ましくは、VDJ領域および定常領域のうちのいずれをもコードするDNAではない。
【0123】
一態様では、第1のDNA断片を、開始カセット中に挿入し、続いて、第2のDNA断片を、第1のDNA断片の一部、適切には、第1のDNA断片のベクター骨格の部分の中に挿入する。一態様では、挿入DNA断片は、ヒトVDJ領域に由来しない5'配列および/または3'配列が隣接するヒトVDJ領域の部分を含む。一態様では、5'隣接配列および/または3'隣接配列はそれぞれ、1つもしくは複数の選択マーカーを含有し得るか、またはゲノム中に挿入されて直ちに選択系を生み出すことが可能であり得る。一態様では、一方または両方の隣接配列を、挿入に続いて、in vitroまたはin vivoにおいて、ゲノムから除去することができる。一態様では、この方法は、DNA断片を挿入するステップと、続いて、ヒトVDJのDNAに隣接する挿入断片の5'末端および3'末端の両方を選択するステップとを含む。一態様では、反復挿入を、DNA断片をこれまでに挿入した断片の5'末端において挿入することによって行うことができ、この態様では、挿入ヒトDNA配列を分離するベクターのDNAをin vivoにおいて欠失させて、近接したヒトDNA配列をもたらすことができる。
【0124】
一態様では、ヒトVDJのDNAの、ゲノム中への挿入を、いずれの隣接DNAもゲノム中に残すことなく、例えば、トランスポゼース媒介型DNA切除(transposase mediated DNA excision)により達成することができる。1つの適切なトランスポゼースが、ピギーバック(Piggybac)トランスポゼースである。
【0125】
一態様では、第1のヒト可変領域断片を、相同組換えにより、開始カセットの骨格配列に挿入し、次いで、任意の陰性の選択マーカーのDNAを挿入し、それに続いて、開始カセットを、リコンビナーゼ標的配列間の組換え、例として、本実施例で使用するFRT、すなわち、FLPase発現により除去する。一般に、(例えば、BACの)骨格の開始配列における繰り返し標的挿入およびそれに続くリコンビナーゼ標的配列間における再構成による除去を繰り返して、ヒトVDJ領域全体を、宿主非哺乳動物の定常領域の上流に築き上げる。
【0126】
一態様では、選択マーカーまたは選択系を、この方法において使用することができる。マーカーを、DNA断片のゲノム中への挿入時に生成すること、例えば、選択マーカーを、ゲノム中にすでに存在するDNAエレメントと併せて形成することができる。
【0127】
一態様では、細胞(例えば、ES細胞)のゲノムは、プロセスの間に、2つの同一の選択マーカーを同時には含有しない。本明細書の実施例に開示するように、挿入および選択の反復プロセスを、2つの異なる選択マーカーのみを使用して実施することができると見ることができ、例えば、第3のベクター断片の挿入の時期までに、第1のベクター断片および第1のマーカーは除去されてしまうので、第3の選択マーカーは、第1のマーカーと同一であり得る。
【0128】
一態様では、正しい挿入事象を、任意の多段階式クローニングプロセスの次のステップに移る前に、例えば、BACの構造を、ES細胞をスクリーニングして、未変化のBAC挿入を有する細胞を同定するための高密度ゲノムアレイを使用して確認すること、配列決定、およびPCRによる検証により確認する。
【0129】
一態様では、この方法は、部位特異的組換えを使用して、1つまたは複数のベクターを、細胞、例として、ES細胞のゲノム中に挿入する。部位特異的リコンビナーゼ系は、当技術分野で周知であり、Cre-loxおよびFLP/FRTまたはそれらの組合せを含むことができ、これらの系では、組換えが、配列相同性を有する2つの部位間において発生する。
【0130】
適切なBACが、Sanger centreから入手可能であり、「A genome-wide, end-sequenced 129Sv BAC library resource for targeting vector construction」、Adams DJ、Quail MA、Cox T、van der Weyden L、Gorick BD、Su Q、Chan WI、Davies R、Bonfield JK、Law F、Humphray S、Plumb B、Liu P、Rogers J、Bradley A、Genomics、2005年12月;86(6):753~8頁;Epub、2005年10月27日、The Wellcome Trust Sanger Institute、Hinxton、Cambridgeshire CB10 1SA、UKを参照されたい。また、ヒトDNAを含有するBACも、例えば、Invitrogenから入手可能である。適切なライブラリーが、Osoegawa Kら、Genome Research、2001年、11:483~496頁に記載されている。
【0131】
一態様では、本発明の方法は、具体的には、
(1)第1のDNA断片を、非ヒトES細胞中に挿入するステップであって、前記断片が、ヒトのVDJ領域またはVJ領域のDNAの第1の部分、および第1の選択マーカーを含有する第1のベクターの部分を含有するステップと、
(2)場合により、第1のベクターの部分の一部を欠失させるステップと、
(3)第2のDNA断片を、第1のDNA断片を含有する非ヒトES細胞中に挿入するステップであって、前記挿入が、第1のベクターの部分の内部において発生し、第2のDNA断片が、ヒトのVDJ領域またはVJ領域の第2の部分、および第2の選択マーカーを含有する第2のベクターの部分を含有するステップと、
(4)第1の選択マーカーおよび第1のベクターの部分を、好ましくは、リコンビナーゼ酵素の作用により欠失させるステップと、
(5)第3のDNA断片を、第2のDNA断片を含有する非ヒトES細胞中に挿入するステップであって、前記挿入が、第2のベクターの部分の内部において発生し、第3のDNA断片が、ヒトのVDJ領域またはVJ領域の第3の部分、および第3の選択マーカーを含有する第3のベクターの部分を含有するステップと、
(6)第2の選択マーカーおよび第2のベクターの部分を欠失させるステップと、
(7)必要に応じて、ヒトVDJ領域またはVJヒト領域の第4のおよびさらなる断片について挿入および欠失のステップを反復して、必要に応じて、本明細書の開示に従って挿入したヒトのVDJ領域またはVJ領域の一部または全部を有するES細胞を生成し、適切には、ES細胞のゲノムの内部の全てのベクターの部分を除去するステップと
を含む。
【0132】
別の態様では、本発明は、
1 開始カセットを形成するDNAを、細胞のゲノム中に挿入するステップと、
2 第1のDNA断片を、開始カセット中に挿入するステップであって、第1のDNA断片が、ヒトDNAの第1の部分、および第1の選択マーカーを含有するかまたは挿入時に選択マーカーを生成する第1のベクターの部分を含むステップと、
3 場合により、ベクターのDNAの一部を除去するステップと、
4 第2のDNA断片を、第1のDNA断片のベクターの部分中に挿入するステップであって、第2のDNA断片が、ヒトDNAの第2の部分および第2のベクターの部分を含有し、第2のベクターの部分が、第2の選択マーカーを含有するかまたは挿入時に第2の選択マーカー生成するステップと、
5 場合により、任意のベクターのDNAを除去して、第1および第2のヒトDNA断片が近接した配列を形成することを可能にするステップと、
6 必要に応じて、ヒトVDJのDNAの挿入およびベクターのDNAの除去のステップを反復して、宿主定常領域と協力して、キメラ抗体を生成することを可能にするのに十分な、ヒトのVDJ領域またはVJ領域の全部または一部を有する細胞を生成するステップと
を含み、
DNA断片の1つもしくは複数または全ての挿入が、部位特異的組換えを使用する。
【0133】
一態様では、非ヒト哺乳動物は、多様な、少なくとも1×106個の異なる機能性のキメラの免疫グロブリン配列の組合せを生成することができる。
【0134】
一態様では、ターゲッティングを、マウスのC57BL/6N系統、C57BL/6J系統、129S5系統または129Sv系統に由来するES細胞において実施する。
【0135】
一態様では、非ヒト動物、例として、マウスを、RAG-1欠損背景またはその他の適切な遺伝的背景において生成し、こうした背景は、成熟した宿主Bリンパ球およびTリンパ球の生成を阻止する。
【0136】
一態様では、非ヒト哺乳動物は、げっ歯類、適切には、マウスであり、本発明の細胞は、げっ歯類の細胞またはES細胞、適切には、マウスES細胞である。
【0137】
当技術分野で周知の技法を使用して動物を生成するために、本発明のES細胞を使用することができる。それらの技法は、ES細胞を胚盤胞中に注射し、続いて、キメラの胚盤胞を雌中に移植して、子孫を生成し、それらの子孫を、繁殖させ、必要な挿入を有するホモ接合型の組換え体について選択することを含む。一態様では、本発明は、ES細胞由来の組織および宿主胚由来の組織からなるキメラ動物に関する。一態様では、本発明は、遺伝子的に変化した次世代の動物に関し、これらの動物は、VDJ領域および/またはVJ領域についてホモ接合型の組換え体を有する動物を含む。
【0138】
さらなる態様では、本発明は、所望の抗原に特異的な抗体を生成するための方法に関し、この方法は、上記のトランスジェニックな非ヒト哺乳動物を、所望の抗原を用いて免疫化するステップと、抗体を回収するステップとを含む(例えば、Harlow, E.およびLane, D. 1998年、5版、Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Lab. Press、Plainview、NY;ならびにPasqualiniおよびArap、Proceedings of the National Academy of Sciences (2004) 101:257~259頁を参照されたい)。適切には、免疫原性量の抗原を送達する。また、本発明は、標的抗原を検出するための方法にも関し、この方法は、上記に従って生成した抗体を、その抗体の部分を認識する二次的な検出薬剤を用いて検出するステップを含む。
【0139】
さらなる態様では、本発明は、完全ヒト化抗体を生成するための方法に関し、この方法は、上記のトランスジェニックな非ヒト哺乳動物を、所望の抗原を用いて免疫化するステップと、抗体または抗体を発現する細胞を回収するステップと、次いで、非ヒト哺乳動物定常領域を、ヒト定常領域で置き換えるステップとを含む。このことは、非ヒト哺乳動物定常領域を、適切なヒト定常領域のDNA配列で置き換えるために、DNAレベルにおける標準的なクローニング技法により行うことができる。例えば、Sambrook, JおよびRussell, D. (2001、3版)、Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Lab. Press、Plainview、NY)を参照されたい。
【0140】
さらなる態様では、本発明は、本発明により生成した、キメラ形態および完全ヒト化形態の両方のヒト化抗体およびヒト化抗体鎖、ならびに前記抗体の医学における使用に関する。また、本発明は、そのような抗体、および薬学的に許容できる担体またはその他の賦形剤を含む医薬組成物にも関する。
【0141】
ヒト配列を含有する抗体鎖、例として、ヒト-非ヒトキメラ抗体鎖を、本明細書では、ヒトタンパク質をコードする領域の存在によってヒト化されているとみなす。完全ヒト化抗体は、本発明のキメラ抗体鎖をコードするDNAから出発して、標準的な技法を使用して生成することができる。
【0142】
モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体の両方を生成するための方法は、当技術分野で周知であり、本発明は、本発明の非ヒト哺乳動物中で抗原攻撃に応答して生成されたキメラ抗体または完全ヒト化抗体のポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方に関する。
【0143】
その上さらなる態様では、本発明において生成したキメラ抗体または抗体鎖を、適切には、DNAレベルで操作して、抗体様の特性または構造を有する分子、例として、定常領域が存在しない、重鎖または軽鎖由来のヒト可変領域、例えば、ドメイン抗体、または同じもしくは異なる種由来の重鎖または軽鎖のいずれかに由来する任意の定常領域を有するヒト可変領域、または非天然の定常領域を有するヒト可変領域、または任意のその他の融合パートナーと一緒になったヒト可変領域を生成することができる。本発明は、本発明により同定したキメラ抗体から誘導した全てのそのようなキメラ抗体の誘導体に関する。
【0144】
さらなる態様では、本発明は、本発明の動物の、準ヒト(quasi-human)抗体のレパートリーの状況での薬物およびワクチンの起こり得る作用の解析における使用に関する。
【0145】
また本発明は、薬物またはワクチンの同定または妥当性確認のための方法にも関し、この方法は、ワクチンまたは薬物を、本発明の哺乳動物に送達するステップと、免疫応答、安全性プロファイル、疾患に対する作用のうちの1つまたは複数をモニターするステップとを含む。
【0146】
また本発明は、本明細書に開示する抗体または抗体の誘導体、およびそのような抗体を使用するための指示または適切な実験室試薬、例として、緩衝剤、抗体検出試薬のいずれかを含むキットにも関する。
【0147】
特定の態様では、本発明は、以下に関する。
ゲノムが、
(a)宿主非ヒト哺乳動物定常領域の上流のヒトのIgH VDJ領域、さらに、
(b)宿主非ヒト哺乳動物カッパ定常領域の上流のヒトIg軽鎖カッパのV領域およびJ領域、ならびに/または宿主非ヒト哺乳動物ラムダ定常領域の上流のヒトIg軽鎖ラムダのV領域およびJ領域
を含む非ヒト哺乳動物であって、
非ヒト哺乳動物は、非ヒト哺乳動物定常領域およびヒト可変領域を有するキメラ抗体のレパートリーを生成することができ、
場合により、非ヒト哺乳動物のゲノムは、完全宿主種特異的抗体の発現を阻止するように改変される非ヒト哺乳動物。
【0148】
ゲノムが、
(a)非ヒト哺乳動物定常領域の上流のヒトIgH V領域、D領域およびJ領域、さらに、
(b)宿主非ヒト哺乳動物カッパ定常領域の上流のヒトIg遺伝子座の軽鎖カッパのV領域およびJ領域、ならびに/または宿主非ヒト哺乳動物ラムダ定常領域の上流のヒトIg遺伝子座の軽鎖ラムダのV領域およびJ領域
を含む非ヒト哺乳動物のES細胞であって、
キメラである抗体のレパートリーを生成することができ、非ヒト哺乳動物定常領域およびヒト可変領域を有する非ヒト哺乳動物に発生することが可能である
ES細胞。
【0149】
キメラ抗体のレパートリーを生成することができるトランスジェニックな非ヒト哺乳動物を生成するための方法であって、前記抗体が、非ヒト哺乳動物定常領域およびヒト可変領域を有し、前記方法が、
(a)宿主非ヒト哺乳動物重鎖定常領域の上流のヒトのIgH VDJ領域、および
(b)宿主非ヒト哺乳動物ラムダ鎖またはカッパ鎖の定常領域の上流のラムダ鎖またはカッパ鎖それぞれについてのヒトIgL VJ領域
を、非ヒト哺乳動物が非ヒト哺乳動物定常領域およびヒト可変領域を有するキメラ抗体のレパートリーを生成することができるように、非ヒト哺乳動物ES細胞のゲノム中に、相同組換えにより挿入するステップを含み、
ステップ(a)およびステップ(b)を、いずれの順番でも実施することができ、ステップ(a)およびステップ(b)のそれぞれを、段階的にまたは単一ステップとして実施することができる方法。
【0150】
一態様では、ヒトのVDJ領域またはVJ領域を、宿主非ヒト哺乳動物定常領域の上流に挿入することを、複数の断片を相同組換えにより段階的に挿入することによって達成する。
【0151】
一態様では、段階的な挿入を、開始カセットがES細胞のゲノム中に挿入されており、BAC骨格配列および陰性の選択マーカーからなる独特の標的領域をもたらす部位において開始する。
【0152】
一態様では、第1のヒト可変領域断片を、開始カセットのBAC骨格配列において、相同組換えにより挿入し、それに続いて、前記陰性の選択マーカーおよび開始カセットを、リコンビナーゼ標的配列間の組換えにより除去する。
【0153】
一態様では、BAC骨格の開始配列における繰り返しの標的挿入、およびそれに続く、骨格の、リコンビナーゼ標的配列間における再構成による除去を繰り返して、ヒトVDJ領域全体を、宿主非哺乳動物の定常領域の上流に築き上げる。
【0154】
その他の態様として、以下を含む:
所望の抗原に特異的な抗体を生成するための方法であって、本明細書に開示する非ヒト哺乳動物を、所望の抗原を用いて免疫化するステップと、抗体または抗体を生成する細胞を回収するステップとを含む方法。
【0155】
完全ヒト化抗体を生成するための方法であって、非ヒト哺乳動物を、本明細書の開示に従って免疫化するステップと、次いで、抗原に特異的な反応性を示す抗体の非ヒト哺乳動物定常領域を、ヒト定常領域で、適切には、抗体をコードする核酸を工学的に作製することによって置き換えるステップとを含む方法。
【0156】
ヒトコード領域のDNA配列が、DNAの転写が非ヒト哺乳動物の制御配列により制御されるように、非ヒト哺乳動物の制御配列と機能性の配置をとる、本明細書に開示する方法、細胞または哺乳動物。一態様では、ヒトコード領域のV領域、D領域またはJ領域が、マウスプロモーター配列と機能性の配置をとる。
【0157】
また本発明は、本明細書に開示する任意の方法に従って生成したヒト化抗体、およびそのように生成したヒト化抗体の医学における使用にも関する。
【0158】
本明細書に記載する特定の実施形態は、例証の目的で示すのであって、本発明を制限するものではないことが理解されるであろう。本発明の主要な特徴を、本発明の範囲から逸脱することなく、種々の実施形態において利用することができる。当業者であれば、本明細書に記載する特定の手順に対する多数の均等物を認識するか、またはそれらを日常的な研究を使用するだけで究明することができるであろう。そのような均等物は、本発明の範囲に属するとみなされ、特許請求の範囲により網羅される。本明細書で言及する刊行物および特許出願は全て、本発明が関係する当業者の技能のレベルを示す。刊行物および特許出願は全て、それぞれ個々の刊行物または特許出願が、参照により組み込まれていることを具体的かつ個々に示すのと同じ程度に、参照により本明細書に組み込まれている。単語「ある(a)」または「ある(an)」の使用は、用語「含む(comprising)」と併せて使用する場合、特許請求の範囲および/または本明細書においては、「1つ(one)」を意味することができるが、またこれは、「1つまたは複数の」、「少なくとも1つの」および「1つまたは2つ以上」の意味とも一致する。特許請求の範囲における用語「または(or)」の使用は、選択肢のみを指すかまたは選択肢が相いれないことが明確に示されない限り、「および/また(and/or)」を意味するために使用するが、本開示は、選択肢のみおよび「および/または」を指す定義を支持する。本出願全体を通して、用語「約(about)」は、値が、装置、値を決定するために利用した方法について内在する誤差の変動、または研究対象の間に存在する変動を含むことを示すために使用する。
【0159】
本明細書および請求項において使用する場合、単語「含む(comprising)」(およびcomprisingの任意の形態、例として、「comprise」および「comprises」)、「有する(having)」(およびhavingの任意の形態、例として、「have」および「has」)、「含む(including)」(およびincludingの任意の形態、例として、「includes」および「include」)、または「含有する(containing)」(および、containingの任意の形態、例として、「contains」および「contain」)は、包括的または無制限であり、追加の、記載されていない要素および方法のステップを除外しない。
【0160】
用語「またはそれらの組合せ(or combinations thereof)」は、本明細書で使用する場合、この用語に先行する列挙項目の置換形態および組合せを全て指す。例えば、「A、B、C、またはそれらの組合せ」は、A、B、C、AB、AC、BCまたはABCのうちの少なくとも1つを含み、特定の文脈において、順番が重要である場合にはまた、BA、CA、CB、CBA、BCA、ACB、BACまたはCABも含むことを意図する。この例に続き、1つまたは複数の項または用語の繰り返し、例として、BB、AAA、MB、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、CABABB等を含有する組合せも明確に含む。当業者であれば、典型的には、文脈からそうでないことが明らかでない限り、任意の組合せにおける項目または用語の数には制限がないことを理解するであろう。
【0161】
文脈からそうでないことが明らかでない限り、本開示の任意の部分を、本開示の任意のその他の部分と組み合わせて読み取ることができる。
【0162】
本明細書において開示および請求する組成物および/または方法は全て、本開示に照らして、過度の実験をせずとも作製および遂行することができる。本発明の組成物および方法を、好ましい実施形態の観点から記載してきたが、変更形態を、本発明の概念、精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載する組成物および/または方法にかつ方法のステップまたは一連のステップにおいて適用することができることが当業者には明らかであろう。当業者に明らかな、そのような類似の置換形態および改変形態は全て、添付の特許請求の範囲により定義する本発明の精神、範囲および概念に属するとみなす。
【0163】
本発明を、以下の非制限的な実施例において、より詳細に記載する。実施例3は、得られている、本発明の特定の態様の概念実証を支持する実験データを開示する。一方、実施例1および2は、請求する発明を当業者が実施する際の詳細な手引きを提供する。
【実施例
【0164】
実施例1
全体的な戦略
本発明のマウスモデルは、約960kbの、V領域、D領域およびJ領域全てを含有するヒト重鎖遺伝子座を、マウス定常領域の上流に、かつ473kbのヒトカッパ領域を、マウス定常領域の上流に挿入することによって達成することができる。代わってまたは並行して、ヒトラムダ領域を、マウス定常領域の上流に挿入する。この挿入を、ES細胞中における標的遺伝子組換え(gene targeting)により、当技術分野で周知の技法を使用して達成する。
【0165】
未変化のV-D-J領域を、それらの自然のまま(野生型)の配置で各遺伝子座中に高忠実度で挿入することを、適切には、ヒトバクテリア人工染色体(BAC)を、遺伝子座中に挿入することによって達成する。適切には、最終的な遺伝子座において、配列が、元々の配列と比較して、重複することも、失われることもないように、BACをトリミングする。そのようなトリミングを、工学的に組み換えることによって実施することができる。
【0166】
これらの遺伝子座を網羅して適切にトリミングされた関連のヒトBACサイズは、平均して90kbである。
【0167】
1つのアプローチでは、ヒトのDエレメントおよびJエレメントの完全な相補体、ならびに7または8つのヒトV領域が、以下に記載する実験的挿入スキームにおいて挿入しようとする第1のBACにより網羅される。IgH遺伝子座およびIgK遺伝子座中に挿入しようとする第1のBACは、以下のV領域を含有することができる。IgH:V6-1、VII-1-1、V1-2、VIII-2-1、V1-3、V4-4、V2-5、およびIgK:V4-1、V5-2、V7-3、V2-4、V1-5、V1-6、V3-7、V1-8。
【0168】
適切には、各遺伝子座の性能を、第1のBACの挿入の後に、キメラマウスを使用して評価し、また、それに続くBACの追加それぞれの後にも評価する。この性能試験の詳細な説明については、以下を参照されたい。
【0169】
それぞれ0.96Mbおよび0.473MbのIgH遺伝子座およびIgK遺伝子座全てを網羅するヒトV領域の完全な相補体をもたらすためには、IgH遺伝子座については9回の追加のBAC挿入が、IgKについては5回が必要である。
【0170】
全てのBACが、ES細胞のゲノム中に挿入された場合、それらの野生型配置を保持するとは限らない。したがって、我々は、ES細胞をスクリーニングするための高密度ゲノムアレイを展開して、未変化のBAC挿入を有するES細胞を同定する(Barrett, M.T.、Scheffer, A.、Ben-Dor, A.、Sampas, N.、Lipson, D.、Kincaid, R.、Tsang, P.、Curry, B.、Baird, K.、Meltzer, P.S.ら、(2004)、Comparative genomic hybridization using oligonucleotide microarrays and total genomic DNA、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 101、17765~17770頁)。また、このスクリーニングにより、ES細胞のゲノムが損なわれており、したがって、キメラ動物の生殖系列を生育することができないESクローンを同定し、選択して除くことも可能になる。この評価を促進するためのその他の適切なゲノムのツールとして、配列決定およびPCRによる検証が挙げられる。
【0171】
したがって、一態様では、正しいBACの構造を、次のステップに移る前に確認する。
【0172】
上記の記載から、90kbのBACを用いて、遺伝子座を完全に工学的に作製するためには最低限、IgHについての10回のターゲッティングステップおよびIgKについての5回のステップを実施することが必要であることが暗示される。IgL遺伝子座を有するマウスも、IgK遺伝子座に類似する様式で生成することができる。追加のステップも、標的遺伝子組換えを支持するのに必要な選択マーカーを除去するために必要である。これらの操作を、ES細胞中で段階的に実施するので、一態様では、生殖系列の伝達能力が、このプロセス全体を通して保持される。
【0173】
ES細胞系の生殖系列の可能性をステップ毎に試験することを必要とせずに、ES細胞クローンの性能を、複数回の操作を通して維持することは、本発明においては重要なことであり得る。KOMPおよびEUCOMMのグローバルノックアウトプロジェクト(global knockout project)のために現時点で使用される細胞系は、このプロジェクトのためにそれらを使用する前に2回改変されており、それらの生殖系列の伝達率は、親細胞から変化しない(これらの細胞系は、公的に入手可能である。www.komp.orgおよびwww.eucomm.orgを参照されたい)。この細胞系は、JM8と呼ばれ、100%ES細胞由来のマウスを公開されている培養条件下で生成することができる(Pettitt, S.J.、Liang, Q.、Rairdan, X.Y.、Moran, J.L.、Prosser, H.M.、Beier, D.R.、Lloyd, K.C.、Bradley, A.およびSkarnes, W.C.、(2009)、Agouti C57BL/6N embryonic stem cells for mouse genetic resources、Nature Methods)。これらの細胞は、標準的なマウスES細胞の培養条件を使用して、キメラ動物の体細胞および生殖系列の組織に再現性よく寄与する能力を実証している。この能力は、標準的なフィーダー細胞系(SNL)上で培養した細胞に関しても、フィーダーを含有しない、ゼラチンでコーティングされているのみの組織培養プレート上で増殖させた細胞に関してさえも見出すことができる。1つの特定の亜系統JM8A3は、キメラ生殖系列を生育する能力を、連続数回のサブクローニングの後に維持した。本発明の場合が該当するであろうが、広範な遺伝子の、例えば、相同組換えを介する操作によって、細胞の多能性を傷付けることはできない。そのような高いパーセントのES細胞由来の組織を有するキメラを生成する能力には、その他の利点がある。第1に、高いレベルのキメラ現象は、生殖系列の伝達の可能性と相関し、生殖系列の伝達についての、5~6週を要するに過ぎない代理のアッセイを提供する。第2に、これらのマウスは、100%ES細胞由来であることから、工学的に作製した遺伝子座を、直接試験して、繁殖により引き起こされる遅延をなくすことができる。宿主胚が、次のセクションで記載するように、RAG-1遺伝子についての突然変異体である動物に由来することから、新しいIg遺伝子座の統合性を、キメラにおいて試験することが可能である。
【0174】
使用することができる別の細胞系が、HPRT-ve細胞系、例として、AB2.1であり、これは、「Chromosome engineering in mice」、Ramirez-Solis R、Liu PおよびBradley A、Nature、1995年;378;6558;720~4頁に開示されている。
【0175】
RAG-1の補完
多くのクローンが、100%ESに由来するマウスを生成するが、そうでないものもある。したがって、ステップ毎に、マウスを、RAG-1欠損背景で生成する。こうすることによって、免疫化および抗体生成のために直接使用することができる、100%ESに由来するB細胞およびT細胞を有するマウスが得られる。RAG-2欠損背景もしくはRAG-1欠損/RAG-2欠損を組み合わせた背景、または同等の突然変異を有する細胞を使用することができ、この場合、マウスは、ES細胞に由来するB細胞および/またはT細胞のみを生成する。
【0176】
ヒト-マウスのIgH遺伝子座またはIgK遺伝子座のみがこれらのマウスにおいて活性を示すために、IgH遺伝子座またはIgK遺伝子座の1つの対立遺伝子がすでに不活性化されている細胞系において、ヒト-マウスのIgH遺伝子座およびIgK遺伝子座を工学的に作製することができる。あるいは、宿主Ig遺伝子座、例として、IgH遺伝子座またはIgK遺伝子座の不活性化を、挿入後に実施してもよいであろう。
【0177】
RAG-1遺伝子が突然変異しているマウス系統は、成熟したBリンパ球およびTリンパ球を有さないので、免疫不全である(US5,859,307)。Tリンパ球およびBリンパ球は、適切なV(D)J組換えが発生した場合のみに分化する。RAG-1は、この組換えのために重大な酵素であることから、RAG-1を欠くマウスは、免疫不全である。宿主胚が、遺伝子的にRAG-1のホモ接合型の突然変異体である場合、そのような胚を注射することによって生成したキメラは、動物のリンパ球組織が宿主胚に由来するならば、抗体を生成することができない。しかし、JM8細胞およびAB2.1細胞は、例えば、一般に、キメラ動物の体細胞組織の80%超に寄与し、したがって、通常、リンパ球組織を生育するであろう。JM8細胞は、野生型RAG-1活性を有し、したがって、キメラ動物中で生成される抗体は、工学的に作製したJM8のES細胞のゲノムのみによりコードされるであろう。したがって、キメラ動物を、抗原を用いて免疫化により攻撃し、それに続いて、その抗原に対する抗体を生成させることができる。このことにより、当業者が、本発明に記載する工学的に作製したヒト/マウスのIgH遺伝子座およびIgK遺伝子座の性能を試験することが可能になる。図19および20を参照されたい。
【0178】
当業者は、キメラ動物を記載に従って使用して、抗体の多様性の程度を決定するであろう(例えば、Harlow, E.およびLane, D.、1998、5版、Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Lab. Press、Plainview、NYを参照されたい)。例えば、キメラ動物の血清中の特定の抗体エピトープの存在を、特異的抗イディオタイプ抗血清に対する結合性により、例えば、ELISAアッセイにおいて、究明することができるであろう。また、当業者は、キメラ動物に由来するB細胞クローンのゲノムを配列決定し、前記配列と野生型配列とを比較して、高頻度突然変異のレベルを究明することもできるであろう。そのような高頻度突然変異は、正常な抗体の成熟を示す。
【0179】
また、当業者は、前記キメラ動物を使用して、抗体の機能も調べるであろう。前記抗体は、工学的に作製したIg遺伝子座からコードされる(例えば、Harlow, E.およびLane, D.、1998年、5版、Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Lab. Press、Plainview、NYを参照されたい)。例えば、抗血清を、抗原への結合性について、前記抗原を、キメラ動物を免疫化するために使用して、試験することができるであろう。そのような測定は、ELISAアッセイにより行うことができるであろう。あるいは、当業者は、抗原の中和についても、適切に免疫化したキメラ動物から収集した抗血清を添加することによって試験することができるであろう。
【0180】
これらの試験のうちのいずれかについての陽性の成果が、本発明の主題である工学的に作製したIg遺伝子座の、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する抗体をコードする能力を実証することは当業者に周知であり、前記抗体は、野生型抗体の様式で機能することが可能である。
【0181】
実験的技法
ES細胞における相同組換えにおいて使用するためのベクターを生成するために工学的に組み換えることは、例えば、WO9929837およびWO0104288に開示されており、これらの技法は、当技術分野で周知である。一態様では、ヒトDNAを工学的に組み換えることは、BACを前記ヒトDNAの供給源として使用して行う。ヒトBACのDNAを、Qiagen BAC精製キットを使用して単離する。それぞれのヒトBACの骨格を、マウスIgH領域中にすでに挿入されているBACと正確に同じかまたはそれに類似する配置に工学的に組み換えることを使用して改変する。それぞれのヒトBACゲノムの挿入部を、工学的に組み換えることを使用してトリミングし、したがって、BACが挿入されると、ヒトV(D)Jゲノム領域のシームレスな近接した部分が、マウスのIgH遺伝子座またはIgK遺伝子座において形成される。BACのDNAの電気穿孔によるトランスフェクションおよびジェノタイピングを、標準的なプロトコールに従って実施する(Prosser, H.M.、Rzadzinska, A.K.、Steel, K.P.およびBradley, A.、(2008)、Mosaic complementation demonstrates a regulatory role for myosin Vlla in actin dynamics of stereocilia、Molecular and Cellular Biology 28、1702~1712頁;Ramirez-Solis, R.、Davis,A.C.およびBradley, A.、(1993)、Gene targeting in embryonic stem cells、Methods in Enzymology、225、855~878頁)。工学的に組み換えることは、Pentao Liuの実験室およびDon Courtの実験室により開発された手順および試薬を使用して実施する(Chan, W.、Costantino, N.、Li, R.、Lee, S.C.、Su, Q.、Melvin, D.、Court, D.L.およびLiu, P.、(2007)、A recombineering based approach for high-throughput conditional knockout targeting vector construction、Nucleic Acids Research 35、e64)。
【0182】
非ヒト哺乳動物ゲノム、例として、マウス中への標的遺伝子組換えおよびBAC由来染色体断片の組換えのためのこれらおよびその他の技法が、例えば、http://www.eucomm.org/information/targeting/、およびhttp://www.eucomm.org/information/publicationsに開示されている。
【0183】
C57BL/6N由来の細胞系、例として、JM8雄のES細胞の細胞培養は、標準的な技法に従う。JM8のES細胞は、体細胞組織および生殖系列に広範に寄与する点でコンピテントであることが示されるに至っており、Sanger Instituteにおける大規模マウス変異誘発プログラム、例として、EUCOMMおよびKOMPのために使用されている(Pettitt, S.J.、Liang, Q.、Rairdan, X.Y.、Moran, J.L.、Prosser, H.M.、Beier, D.R.、Lloyd, K.C.、Bradley, A.およびSkarnes, W.C.、(2009)、Agouti C57BL/6N embryonic stem cells for mouse genetic resources、Nature Methods)。JM8のES細胞(1.0×107個)を、10μgのl-Scel直線化ヒトBAC DNAと共に電気穿孔する(500μF、230V; BioRad)。トランスフェクタントを、ピューロマイシン(3μg/ml)またはG418(150μg/ml)のいずれかを用いて選択する。選択は、電気穿孔の24時間後(G418の場合)または48時間後(ピューロマイシンの場合)のいずれかに始め、5日間進める。10μgの直線化ヒトBAC DNAからは、最大500個のピューロマイシンまたはG418に耐性のES細胞コロニーを得ることができる。抗生物質に耐性のES細胞コロニーを、ジェノタイピングのために96ウエル細胞培養プレート中に拾って、ターゲッティングされたクローンを同定する。
【0184】
ターゲッティングされたマウスES細胞クローンを同定したら、それらを、全ゲノムの統合性について、アレイによる比較ゲノムハイブリダイゼーション(Comparative Genomic Hybridization (CGH))により解析する(Chung, Y.J.、Jonkers, J.、Kitson, H.、Fiegler, H.、Humphray, S.、Scott, C.、Hunt, S.、Yu, Y.、Nishijima, I.、Velds, A.ら、(2004)、A whole-genome mouse BAC microarray with 1-Mb resolution for analysis of DNA copy number changes by array comparative genomic hybridization、Genome research 14、188~196頁、およびLiang, Q.、Conte, N.、Skarnes, W.C.およびBradley, A.、(2008)、Extensive genomic copy number variation in embryonic stem cells、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 105、17453~17456頁)。異常なゲノムを有するES細胞は、キメラマウスの生殖系列に効率的には寄与しない。BACの統合性を、BAC中の公知の機能性V遺伝子それぞれをPCRにより増幅することによって調べる。例えば、1つのアプローチでは、IgH遺伝子座について選ばれた第1のヒトBACは、6つの機能性V遺伝子を有する。このBACの統合性を、これら6つのIGH V遺伝子の存在について確認するためには、少なくとも14対のPCRプライマーを、設計し、使用して、ターゲッティングされたES細胞由来のゲノムDNAをPCRにより増幅する。これらの断片のヒト野生型のサイズおよび配列から、挿入BACが再構されていないことが確実になる。
【0185】
また、より詳細なCGHによっても、挿入BACの統合性が確認される。例えば、当業者は、Agilent Technologies, Inc.が開発したオリゴaCGHプラットフォームを使用することができるであろう。このプラットフォームにより、ゲノム全域にわたるDNAコピー数の変動を高い分解能で研究することが可能になるのみならず(Barrett, M.T.、Scheffer, A.、Ben-Dor, A.、Sampas, N.、Lipson, D.、Kincaid, R.、Tsang, P.、Curry, B.、Baird, K.、Meltzer, P.S.ら、(2004)、Comparative genomic hybridization using oligonucleotide microarrays and total genomic DNA、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 101、17765~17770頁)、特異的なゲノム領域を、特別注文の設計されたアレイを使用して検査することも可能になる。cDNAプローブまたは全BACプローブに依存する伝統的なaCGH技法と比較して、60merのオリゴヌクレオチドプローブは、我々が作製するに至った工学的に作製した染色体の変化を検出するために必要である特異的なハイブリダイゼーションならびに高い感受性および精度を確実にすることができる。例えば、挿入BACの全長に沿って規則的な間隔でハイブリダイズするように設計したオリゴであれば、きわめて短い欠失、挿入またはその他の再構成さえも検出するであろう。また、このプラットフォームは、特別注文のマイクロアレイの設計にも、最も大きな柔軟性をもたらす。ターゲッティングされたES細胞ゲノムDNAおよび正常なヒト個人のゲノムDNAを、色素を用いて別個に標識し、アレイにハイブリダイズさせる。アレイのスライドを、Aglient TechnologiesのDNAマイクロアレイスキャナーを使用してスキャンする。各アレイ画像上の色素Cy5および色素Cy3の蛍光強度の逆数、ならびにlog2比の値を、Bluefuseソフトウエア(Bluegnome)を使用することによって抽出する。一貫性のない(「信頼性」<0.29または「質」=0)蛍光パターンを有するスポットを除外してから、log2比の値全てを正規化する。実験内では、任意のオリゴプローブからのシグナルについての-0.29と+0.29との間のlog2比を、コピー数変化がないとみなす。「重複」についてのlog2比の閾値は通常、>0.29999であり、欠失については、<0.29999である。
【0186】
第1のヒトBACをマウスIgH遺伝子座中に挿入し、それが、未変化の、自然のまま配置中にあることを確認したら、FRTが隣接するBAC骨格を、Flp部位特異的リコンビナーゼを使用することによって切除する。通常のFlpが触媒するFRT組換えが十分には高くない場合、Flpoリコンビナーゼの改善されたバージョンであるFloを使用することができる。Floは、特定の試験では、ES細胞中で、元々のFlpよりも3~4倍効率的である。BAC骨格を切除すると、ES細胞は、ピューロマイシン(またはG418)に対して感受性となり、FIAUに対して耐性となる(TKカセットの喪失のため)。切除事象を、ヒトゲノムDNAプライマーを使用する、接合部断片のPCRによる増幅によってさらに特徴付ける。これらのFRTが隣接する、BAC骨格を含有しないES細胞を、次回のヒトBACの挿入のため、および胚盤胞への注射のために使用する。
【0187】
トランスジェニックマウスを生成するためのES細胞のゲノムのターゲッティングは、添付の図1~18を参照することによって説明するプロトコールを使用して実施することができる。
【0188】
図1は、3つの基本的な骨格ベクター、すなわち、開始カセットならびに2つの大きな挿入ベクター1および2をそれぞれ示す。開始カセットは、マウスゲノム中に挿入する所望の部位と相同な配列を含み、それらの部位は、選択マーカー、およびBACの正しい挿入を確認するためのPCRに基づいたジェノタイピングのためのスタッファープライマー(stuffer primer)配列に隣接する。スタッファー-プライマー配列は、BACの追加の各ステップのジェノタイピングための基礎を提供する。この配列は、PCRプライマーに、ロバストな十分に妥当性確認が行われた配列鋳型を提供するとみなし、lScel部位に、理想的には、BAC挿入部から約1kbにおいて位置することができる。
【0189】
大きな挿入ベクターは、プラスミド上にヒトDNAを含み、選択マーカーおよびプラスミドの直線化のための独特の制限部位を有して、ES細胞のゲノム中への相同組換えを援助する。
【0190】
図2は、マウスJ4エクソンとCアルファエクソンとの間における、開始カセットのマウスゲノム中への相同組換えによる挿入を示す。ピューロマイシンによる選択により、カセットが挿入されたES細胞の同定が可能になる。pu(Delta)tkは、ピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ(Puro)と、単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼの切断されたバージョン(DeltaTk)との間の二機能性融合タンパク質である。pu(Delta)tkをトランスフェクトしたマウス胚性幹(ES)細胞は、ピューロマイシンに対して耐性、かつ1-(-2-デオキシ-2-フルオロ-1-ベータ-D-アラビノ-フラノシル)-5-ヨードウラシル(FIAU)に対して感受性となる。その他のHSV1 tk導入遺伝子とは異なり、puDeltatkは、雄の生殖系列を通して容易に伝達される。したがって、pu(Delta)tkは、多くのES細胞の適用例において広く使用することができる好都合な陽性/陰性の選択マーカーである。
【0191】
図3は、大きな挿入ベクター1の、マウスES細胞ゲノムに対するターゲッティングを示す。ベクターの直線化を、スタッファープライマー配列と同じ位置で行い、こうすることにより、当技術分野で周知のギャップ修復ジェノタイピング戦略を可能にする。Zhengら、NAR、1999年、Vol 27、11、2354~2360頁を参照されたい。基本的に、ターゲッティングベクターのゲノム中へのランダムな挿入は、ギャップを「修復」しないが、一方、相同組換え事象は、ギャップを修復する。適切なPCRプライマー配列の並置により、コロニーを適切な挿入を示す陽性のPCR断片について個々にスクリーニングすることが可能になる。G418を使用する陽性の選択により、neo選択マーカーを含有するマウスES細胞の同定が可能になる。PCRによる検証を、重要な意味をもつV領域、D領域およびJ領域全てについて行うことができる。アレイによる比較ゲノムハイブリダイゼーションを使用して、BACの構造の妥当性確認を行うことができる。
【0192】
図4は、puro-delta-tkカセットを示し、BACプラスミド骨格を、Flpeを使用して欠失させ、FIAUにおいて選択する。Flpeは、マウスES細胞中では非効率的に働く(一過性のFlpe発現を用いて5%の欠失)ことから、ほとんどの場合、組換えは、BAC骨格に隣接する2つのFRT部位間で発生することが予想される。また、Flpoを試験して、10kb離れている2つのFRT部位間の組換え効率を見出すこともできる。
【0193】
FRT欠失のステップが選択可能であることを考えると、FIAU耐性クローンをプールし、クローン解析と平行して、次のステップに直ちに進むことが可能である。あるいは、短範囲PCR(short range PCR)により、示す(Huプライマー1およびMo-プライマー)ように、ヒト配列がここではマウス配列に隣接することを示すことが望ましい場合もある。
【0194】
この段階では、200kbのヒト遺伝子座が挿入されている。
【0195】
図5は、ES細胞染色体中にターゲッティングした第2の大きな挿入ベクターを示す。ヒトBACを、同じ開始カセットの挿入を使用して、マウスIgH遺伝子座にターゲッティングし、続いて、lSce1によるBACの直線化、BACの開始カセットに対するターゲッティング、およびギャップ修復ジェノタイピング戦略を行う。BACの挿入の検証を、以前と同様に実施する。
【0196】
図6は、大きな挿入ベクター2の、FRTYが隣接するBAC骨格を示し、neoマーカーを、Flpoを介して欠失させる。これは選択可能ではなく、したがって、この時点でクローン解析が必要になることに留意されたい。このことにより、ヒト2の挿入部とヒト1の挿入部との並置、およびその他の妥当性確認の努力の確認が可能になる。
【0197】
この段階では、約200kbのヒト遺伝子座が挿入されている。
【0198】
図7は、マウスIgH遺伝子座にターゲッティングした次の大きな挿入ベクターを示す。次いで、図4と同様に、pu-delta TKカセットを除去する。このプロセスを繰り返して、その他のBACを組み込むことができる。
【0199】
図8は、最終的な、予測されるES細胞コンストラクトを示す。
【0200】
図9~18は、このプロセスの詳細のさらなるレベルを提供する。
【0201】
実施例2
また、本発明のさらなる方法では、部位特異的組換えを利用することもできる。部位特異的組換え(SSR)は、この20年間、導入遺伝子の、定義された染色体遺伝子座中への組込みのために広く使用されている。SSRには、相同なDNA配列間の組換えが関与する。
【0202】
第一世代のSSRに基づいた染色体ターゲッティングには、(ii)これまでの組込みによりもたらされた染色体のRT部位がトランスフェクトされているプラスミド中の(i)単一の組換え標的部位(RT)、例として、loxPまたはFRTの間における組換えが関与した。このアプローチを用いる主要な問題は、切除が、挿入よりも常に効率的であることから、挿入事象がまれである点である。RMCE(リコンビナーゼを介したカセット交換(recombinase-mediated cassette exchange))と呼ばれている第二世代のSSRが、1994年にSchlakeおよびBodeにより紹介された(Schlake, T.;J. Bode、(1994)、「Use of mutated FLP-recognition-target-(FRT-)sites for the exchange of expression cassettes at defined chromosomal loci」、Biochemistry 33:12746~12751頁)。彼らの方法は、トランスフェクトされたプラスミド中の2つの異種特異的なかつ不和合性のRTを使用することに基づき、この場合、染色体上の適合性のRT部位と組み換えることができ、結果として、DNAの1つの小片と別の小片とのスワップ、またはカセット交換が生じる。このアプローチは、50kb超のBAC挿入部の組込みを含めた、多様な効率的な染色体ターゲッティングにおいて、首尾よく活用されている(Wallace, H.A.C.ら、(2007)、「Manipulating the mouse genome to engineering precise functional syntenic replacements with human sequence」、Cell 128:197~209頁; Prosser, H.M.ら、(2008)、「Mosaic complementation demonstrates a regulatory role for myosin Vlla in actin dynamics of Stereocilia」、Mol. Cell. Biol. 28:1702~12頁)。
【0203】
BACの最も大きな挿入部のサイズは、約300kbであり、したがって、このことが、RMCEのためのカセットのサイズに関する上限を定める。
【0204】
本発明において我々は、順次的RMCE(sequential RMCE)(SRMCE)と呼ぶ、新しいSSRに基づいた技法を活用し、この技法により、BAC挿入部の、同じ遺伝子座中への連続的な挿入が可能になる。
【0205】
この方法は、
1 開始カセットを形成するDNA(本明細書ではまた、ランディングパッドとも呼ぶ)を、細胞のゲノム中に挿入するステップと、
2 第1のDNA断片を、挿入部位中に挿入するステップであって、第1のDNA断片が、ヒトDNAの第1の部分、および第1の選択マーカーを含有するかまたは挿入時に選択マーカーを生成する第1のベクターの部分を含むステップと、
3 ベクターのDNAの一部を除去するステップと、
4 第2のDNA断片を、第1のDNA断片のベクターの部分中に挿入するステップであって、第2のDNA断片が、ヒトDNAの第2の部分および第2のベクターの部分を含有し、第2のベクターの部分が、第2の選択マーカーを含有するかまたは挿入時に第2の選択マーカーを生成するステップと、
5 任意のベクターのDNAを除去して、第1および第2のヒトDNA断片が近接した配列を形成することを可能にするステップと、
6 必要に応じて、ヒトV(D)JのDNAの一部の挿入およびベクターのDNAの除去のステップを反復して、宿主定常領域と協力して、キメラ抗体を生成することを可能にするのに十分な、ヒトのVDJ領域またはVJ領域の全部または一部を有する細胞を生成するステップと
を含み、
少なくとも1つのDNA断片の挿入が、部位特異的組換えを使用する。
【0206】
1つの特定の態様では、このアプローチは、3つの異種特異的なかつ不和合性のloxP部位を活用する。この方法は、以下に示すステップからなり、この方法を、図22~26に示す。
1.ランディングパッドの、定義された遺伝子座中へのターゲッティングステップ。反転させた ピギーバック(PB)ITRが隣接するHPRTミニ遺伝子を含有するエントリーベクターを、定義された領域(例えば、IGHJとEμとの間の領域、またはIGKJとEkとの間の領域、またはIGLC1とEλ3-1との間の領域)中にターゲッティングして、BACターゲッティングのためのランディングパッドとして働かせる。HPRTミニ遺伝子は、2つの合成エクソンおよび関連のイントロンからなる。5'HPRTエクソンには、2つの異種特異的なかつ不和合性のloxP部位(一方は野生型であり、他方は突然変異部位lox5171である)が、相互に反転した位置付けで隣接する(図22)。これらの2つのloxP部位が、RMCEによるBACの挿入のための組換え部位を提供する。
2.第1の改変BACの、ターゲッティングされたランディングパッド中への挿入。第1のBACは、工学的に作製した改変が隣接する、ゲノム中に挿入しようとするDNAの長さを有する。5'改変(loxP-neo遺伝子-lox2272-PGKプロモーター-PB5'LTR)、および3'改変(PB3'LTR-puroΔTK遺伝子-lox5171)を、図23に、lox部位およびPB LTRの相対的な位置付けと併せて描写する。同時に電気穿孔したベクターからの一過性のCRE発現を用いれば、DNA配列が、RMCEにより、定義された遺伝子座中に挿入されるであろう。正しい挿入が発生している細胞を、以下に従って選択することができる:(i)ピューロマイシン耐性(puroΔTK遺伝子が、ランディングパッドから、プロモーター-「PGK」-を獲得している)、(ii)6TG耐性(HPRTミニ遺伝子が破壊されている)、および(iii)G418耐性(5'領域のPGK-neoの配置を介する任意の挿入について選択する)。これらの選択形態の任意の組合せを使用することができる。G418耐性および6TG耐性は、5'末端上の正しい事象について選択し、一方、puro耐性は、3'末端上の正しい事象について選択する。
3.第1の挿入の3'改変の修正(除去)のステップ。第1のBACが適切に挿入されると、その結果、反転させたPB LTRが隣接するpuroΔTK遺伝子を有する3'末端(図24)、すなわち、本質的に適切なトランスポゾン構造が生じる。次いで、このトランスポゾンを、(電気穿孔したベクターからの)ピギーバックトランスポゼース一過性の発現により除去することができる。正しい切除事象が生じた細胞を、FIAU耐性により、すなわち、puroΔTK遺伝子からのチミジンキナーゼ活性がないことにより選択することができる。これにより、3'改変が完全に除去され、微量のヌクレオチドも残らない。
4.第2の改変BACの、第1の挿入の5'末端中への挿入。第2のBACは、工学的に作製した改変が隣接する、ゲノム中に挿入しようとするDNA(通常、第1のBACが挿入されたDNAに近接しているものとする)の長さを有する。5'改変(loxP-HPRTミニ遺伝子の5'部分-lox5171-PGKプロモーター-PB5'LTR)、および3'改変(PB3'LTR-puroΔTK-lox2272)を、図25に、lox部位およびPB LTRの相対的な位置付けと併せて描写する。同時に電気穿孔したベクターからの一過性のCRE発現を用いれば、DNA配列が、RMCEにより、定義された遺伝子座中に挿入されるであろう。正しい挿入が発生している細胞を、以下に従って選択することができる:(i)HAT耐性(HPRTミニ遺伝子が、正しい挿入事象により再構成されている、すなわち、5'および3'のエクソン構造が一緒に生じている)、ならびに(ii)ピューロマイシン耐性(puroΔTK遺伝子が、ランディングパッドから、プロモーター-「PGK」-を獲得している)。
5.第2の挿入の3'改変の修正(除去)のステップ。第2のBACが適切に挿入されると、その結果、反転させたPB LTRが隣接するpuroΔTK遺伝子を有する3'末端(図26)、すなわち、成功した第1のBACの挿入の結果にまさしく類似する、本質的に適切なトランスポゾン構造が生じる。したがって、このトランスポゾンも同様に、(電気穿孔したベクターからの)ピギーバックトランスポゼースの一過性の発現により除去することができる。正しい切除事象が生じた細胞を、FIAU耐性により、すなわち、puroΔTK遺伝子からのチミジンキナーゼ活性がないことにより選択することができる。これにより、3'改変が完全に除去され、微量のヌクレオチドも残らない。
6.第2のBACの挿入の3'改変の修正の後では、ランディングパッドは、元々のものと同一になる。このプロセス全体、すなわち、ステップ2から5を複数回繰り返して、ゲノム中に大きな挿入を築き上げることができる。完了時には、所望の挿入以外に残余のヌクレオチドは残らない。
【0207】
奇数のBACをIg遺伝子座中に挿入する場合には、内在性のVDJ配列またはVJ配列を、以下に従って、染色体の工学的作製を介して、反転により不活性化することができる(図27~29を参照されたい)。
1.「フリップオーバー(flip-over)」カセットの、内在性のVDJまたはVJから10~40メガベース離れた5'領域中へのターゲッティング。
フリップオーバーベクター(PB3'LTR-PGKプロモーター-HPRTミニ遺伝子の5'部分-loxP-puroΔTK-CAGGSプロモーター-PB3'LTR)を、図27に、lox部位およびPB LTRの相対的な位置付けと併せて描写する。
2.一過性のCRE発現により、「フリップオーバー」カセット中のloxP部位と、5'改変中のloxP部位との間において組換えが生じる。この5'改変は、上記のステップ2および3に記載するように、本質的に、3'改変が修正された後の奇数のBACの挿入により生じた改変である。loxP部位を相互に反転させ、したがって、記載の組換え事象の結果、図28に描写するような反転が生じる。正しい反転が生じた細胞は、HPRTミニ遺伝子が、正しい反転により再構成されることから、HAT耐性である。
3.また、正しい反転は、「フリップオーバー」カセットおよび5'改変に隣接する2つのトランスポゾン構造も残す。両方のトランスポゾン構造を、一過性のピギーバックトランスポゼースの発現を用いて切除することができ、いずれの改変の残余物も残らない(図29)。正しい切除が生じた細胞を、以下に従って選択することができる:(i)6TG耐性(HPRTミニ遺伝子が欠失している)、および(ii)FIAU耐性(puroΔTK遺伝子が欠失している)。Ig遺伝子座における、記載するような反転は、内在性のIGH-VDJ領域またはIGK-VJ領域を、Eμエンハンサー領域またはEkエンハンサー領域それぞれから引き離し、内在性のIGH-VDJ領域またはIGK-VJ領域の不活性化を起こすであろう。
【0208】
本発明の挿入方法は、適切には、
5'末端および3'末端の両方における、挿入DNA断片の選択、
3'改変の、好ましくは、トランスポゼース媒介型DNA切除による効率的な修正、
内在性のIGH活性またはIGK活性の、反転による不活性化、および
染色体中に残存するヌクレオチドの痕跡を残さない、改変の切除
のうちの1つまたは複数をもたらす。
【0209】
実施例3
このアプローチの概念実証を、図30に開示する。図30では、図22に示したランディングパッドを、マウスのゲノム中に相同組換えにより挿入し、続いて、R21プラスミドのランディングパッド中への、cre媒介型部位特異的組換えを介する挿入を行った。挿入事象により、いくつかの全般的な挿入事象、すなわち、360個のG418耐性コロニーが生成し、これらのうち、約220個が所望の遺伝子座中に挿入され、これは、HRPTミニ遺伝子座の破壊により実証された。
【0210】
R21ベクターは、第1のBACの挿入ベクターを、5'末端および3'末端において模倣し、選択エレメントおよびリコンビナーゼ標的部位全てを含む。BAC配列の代わりに、小さな「スタッファー」配列がある。スタッファーにわたるPCRが実行可能であり、したがって、挿入の両方の末端を容易に試験することが可能になることから、このベクターは、本発明において設計した主要なもの全てを試験し、かつ結果の容易な試験を可能にする。R21を、cre発現ベクターと共に、IGH遺伝子座中にランディングパッドを有するES細胞中に同時に電気穿孔した。4つのセットの形質転換した細胞を、平行してトランスフェクトし、次いで、図30に示す異なる選択形態下に置いた。G418による選択(neo遺伝子発現)の結果、特異的なランディングパッドの組込みの必要がないことに起因して、最も多数のコロニーが生じた。R21のゲノム中への組込みはいずれも、G418耐性に至るneo発現をもたらす。Puroによる選択の結果、Puro+6TGまたはG418+6TGに類似するコロニー数が生じ、このことは、Puroによる選択の厳密度が、ベクター中のプロモーターを欠くPuroΔTKに起因することを示唆した。Puro発現は、組込みがプロモーターエレメント付近で発生した場合にのみ獲得され、この状態は、この設計では、ランディングパッド中で特異的に起こる可能性が最も高い。これらの結論は、図31に示す接合部のPCRからの結果により支持されている。
【0211】
本発明の次のステップは、組み込まれたBACベクターの3'末端を「修正」して、挿入と隣接するゲノムとの間にシームレスな移行を残すステップである。我々は、この修正を、上記からの個々のクローン(ランディングパッド中に挿入されたR21)を拡大増殖し、このクローン中のピギーバックリコンビナーゼを、発現プラスミドのトランスフェクションを介して発現させることによって実証した。FIAUを使用して、すなわち、ピギーバック末端リピート間の「PGK-puroΔTK」エレメントの喪失を通して、3'改変が切除されたコロニーを選択した。50個のそのようなクローンが、106個の細胞のトランスフェクションから得られ、これらのうち、我々は、6つを予想されるゲノム構造について試験した。成功した修正の結果、図32中で「3」とラベルしたプライマーセット間で陽性のPCRが生じた。6つのクローンのうち、4つに正しい切除が生じ、1つのクローンは、元々の配置を維持し、最後の1つには欠失が生じた。
【0212】
これらのデータは、上記に概要を述べたアプローチを使用した、DNAの、ランディングパッド中への定義されたゲノムの遺伝子座における反復挿入を実証している。
【0213】
実施例4
実施例3は、請求する発明の設計により、試験ベクターの、ゲノム中への定義された場所における挿入、この場合には、R21ベクターの、マウスIGH遺伝子座中への挿入をもたらすことが可能であることを実証した。適切な選択培地の使用およびcreリコンビナーゼの発現の結果、予測される構造を有するゲノムの変化が生じた。
【0214】
本発明に記載する同じ設計エレメントを、BAC挿入部の5'末端および3'末端中に築いた。前記挿入部は、IGH遺伝子座からのヒト配列を含み、およそ166kbであった。この工学的に作製したBACを、cre発現プラスミドのDNAと併せて、マウスIGH遺伝子座にランディングパッドを有するマウスES細胞中に電気穿孔した。トランスフェクトした細胞集団を、puroを含有する培地中で増殖し、適切な挿入事象について選択した。
【0215】
7つの結果として生じたクローンを単離し、さらに解析した。予想される組換え事象および結果として生じた構造を、図33に描写する。実施例3に概要を述べたR21の実験からのデータに基づき、トランスフェクトした集団を、puroを含有する培地中で選択する場合には、正しいクローンについての厳密な選択が予想された。これは、puroコード領域が、プロモーターエレメントを必要とし、これは、組換え後にランディングパッドにより、優先的に供給されるからである。したがって、7つの単離したクローンの大半は、ゲノム中にランディングパッドにおいて正しく挿入されており、このことは、診断的PCRにより決定された。正しい挿入を診断するためのプライマーを、図33に描写する。610bpの断片が、プライマー「A」とプライマー「X」との間で増幅され、478bpの断片が、プライマー「Y」とプライマー「B」との間で増幅された場合には、正しい接合部が、ゲノム中に存在する(図33および34)。「A」プライマーと「1」プライマーとの間および「2」プライマーと「B」プライマーとの間で増幅された断片があり、親ゲノム(すなわち、ランディングパッド単独)の存在を示すことに留意されたい。これらの断片は、puroによる選択下で細胞コロニー中に内部的に存在する親細胞の結果生じ、コロニーの幾何学的形状に起因して選択を回避する。コロニーを、puroを含有する培地を通して継代すると、これら親の接合部断片は姿を消し、このことは、親細胞が集団から除去されていることを示す。さらに、クローンは全て、HPRT遺伝子が正しい挿入事象により不活性化されている場合に予想されるように、6-TGに対して耐性であることも示された。
【0216】
これらのデータは、ヒトIG遺伝子座の大きな部分をマウスゲノム中の定義された位置に挿入するための開示する戦略により、記載するように、マウス定常領域の上流にヒトIG領域の可変領域を複数有するマウスの構築が可能になることを示している。
図1
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